説明

海中投下型センサと、これを用いた海中通信システム

【課題】深海撮影に好適なカメラを備えた海中投下型センサと、これを用いた海中通信システムを提供する。
【解決手段】海中に投下され、海中の情報を収集する海中投下型センサは、海中を撮影するカメラ52kと、海中の水圧を計測する水圧センサ素子と、上記カメラ52kを包み水圧から保護する耐圧ゲル52kと、カメラ52fの焦点を制御する焦点制御手段525とを含み、焦点制御手段525は、上記水圧センサ素子で計測した現在の水圧データから光の屈折率を取得し、取得した屈折率を基にカメラ52fの焦点を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深海撮影に好適なカメラを備えた海中投下型センサと、これを用いた海中通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海洋調査のために開発されたシステムとしては、例えば、特許文献1に記載の水中投下型センサシステムが知られている。このシステムでは、船上に配置された計測用コンピュータ部(1)と海中に投下される水中投下型センサ(5)とを水中通信ケーブル(6)などで接続している。そして、海中に投下され落下する水中投下型センサ(5)の各センサ素子(52a〜52d)が水温、水圧などを計測し、この計測データが海中の水中投下型センサ(5)から海中通信ケーブル(6)を介して船上の計測用コンピュータ部(1)へ送信されるようにしている。
【0003】
特許文献1では、上記のような水中投下型センサ(5)にカメラを搭載することが可能であることを示唆している(同文献1の段落0030の記載を参照)。しかしながら、水中投下型センサ(5)にカメラを搭載した場合、そのカメラには水圧が作用する。水圧は水深に比例するので、水深が深くなるほど水圧も高くなり、水深1000mのような深海では水圧によって当該カメラが破損するおそれがある。
【0004】
水圧からカメラを保護する手段としては、例えば当該カメラを耐圧ゲルでコートする方法が考えられる。しかしながら、この方法によると、深海では水圧によって耐圧ゲルが圧縮されその屈折率が大きく変化するため、カメラの焦点がずれ、鮮明な画像を得ることができない。
【0005】
【特許文献1】特許第3936386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、深海撮影に好適なカメラを備えた海中投下型センサと、これを用いた海中通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る海中投下型センサは、海中に投下され、海中の情報を収集する海中投下型センサであって、上記海中投下型センサは、海中を撮影するカメラと、海中の水圧を計測する水圧センサ素子と、上記カメラを包み水圧から保護する耐圧ゲルと、上記カメラの焦点を制御する焦点制御手段と、を含み、上記焦点制御手段は、上記水圧センサ素子で計測した現在の水圧データから光の屈折率を取得し、取得した屈折率を基に上記カメラの焦点を制御することを特徴とする。
【0008】
上記光の屈折率は、上記カメラの外から上記耐圧ゲルを通過して当該カメラの固体撮像素子の方向に向かう光の屈折率であるものとする。
【0009】
上記本発明に係る海中投下型センサでは、耐圧ゲルによってカメラが水圧から保護される。また水圧で耐圧ゲルが圧縮されその屈折率が変化した時は、屈折率の変化に応じて当該カメラの焦点が制御されるので、深海でも焦点の合った鮮明な画像が得られる。
【0010】
上記本発明の海中投下型センサにおいて、上記光の屈折率を取得する方式は、上記水圧センサ素子で計測した現在の水圧データから上記耐圧ゲルの屈折率を算出する方式、または、水圧と光の屈折率とを対応させて格納した対応テーブルを用い、上記水圧センサ素子で計測した現在の水圧データに対応する光の屈折率を当該対応テーブルから得る方式であるものとしてよい。
【0011】
上記本発明の海中投下型センサは、センサ筺体と、このセンサ筺体の頭部に設けたヘッドウエイトと、上記センサ筺体の尾部側に位置する姿勢安定用フィンの近傍に設けたバランスウエイトとを有し、上記カメラは、上記ヘッドウエイトの前端面に固定支持され、上記ヘッドウエイトは、上記海中投下型センサを速く落下させる役割と、その海中投下型センサの重心をセンサトップ側に偏らせることで海中投下型センサ全体の重心の安定性を高める役割と、水圧に晒される上記カメラを圧力から保護し定位置に固定する役割とを果たし、上記バランスウエイトは、上記センサ筺体の尻振れや回転を抑制して、上記カメラの撮影ブレを低減する役割を果たすものとしてもよい。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る海中通信システムは、海中に投下される海中投下型センサと、海上に位置する計測処理装置と、上記海中投下型センサと上記計測処理装置とを接続する海中通信ケーブルと、上記海中投下型センサと上記計測処理装置との間で上記海中通信ケーブルを介して信号を送受信する通信処理手段とを備え、上記海中投下型センサは、海中を撮影するカメラと、海中の水圧を計測する水圧センサ素子と、上記カメラを包み水圧から保護する耐圧ゲルと、上記カメラの焦点を制御する焦点制御手段と、を含み、上記焦点制御手段は、上記水圧センサ素子で計測した現在の水圧データから上記耐圧ゲルの屈折率を取得し、取得した屈折率を基に上記カメラの焦点を制御し、上記通信処理手段は、海中の通信外乱をキャンセルし、上記海中通信ケーブルを介して上記海中投下型センサから上記計測処理装置へ上記カメラの映像信号を送信することを特徴とする。
【0013】
上記海中の通信外乱のキャンセルは、劣化したデジタル信号のパルス波形を復元補正することであって、上記復元補正は、鈍化したデジタル信号のパルス波形の立ち上がりを矩形波のように鋭角に補正すること、および、低下したデジタル信号の電圧レベルを規定電圧レベルに戻すことを含むものであってもよい。
【0014】
ところで、特にカラーのカメラで撮影される動画のデータ容量は大きいので、海中や海底の状況をコマ落ちのないスムーズなカラー画像でリアルタイムに監視しようとしたならば、海中投下型センサから海中通信ケーブルを通じて計測処理装置へ、カメラの画像データを高速で送信する必要がある。
【0015】
しかしながら、高電解質である海水は電磁波を吸収する特性を持っており、この海水の電磁波吸収特性が、海中通信の外乱(海中の通信外乱)となって、海中におけるxDSLなどの高速データ通信の障害になっている。さらに、海中通信ケーブルは海中投下型センサに接続されていて、海中投下型センサの海中落下に追従するので、海中通信ケーブルも所定の速度で海中を移動する。その際、海中通信ケーブル周囲の水温、塩分濃度、電解質濃度の差から海中通信ケーブル周囲に局所的な発電現象が生じ、起電力が発生する。このような海中の起電力(外乱起電力)は、海中通信の外乱(海中の通信外乱)となって、海中通信ケーブルの両端で電圧降下をもたらし、海中におけるxDSLなどの高速データ通信の障害になっている。
【0016】
このような状況下において、本発明に係る海中通信システムによると、海中通信ケーブルを介して海中投下型センサから計測処理装置へ信号を送信するときに、通信処理手段が海中の通信外乱をキャンセルする構成を採用したため、海中におけるxDSLなどの高速データ通信を行うことが可能となり、海中や海底の状況をコマ落ちのないスムーズなカラー画像でリアルタイムに監視するのに好適である。ダイバーや潜水艇が近づけない海域でも安心してリアルタイムなカラー映像で可視化でき、海洋における人類の活動領域を数倍拡張できる。
【0017】
上記本発明の海中通信システムにおいて、上記通信処理手段は、上記計測処理装置側に設けた海上通信トランシーバIC部と、上記海中投下型センサ側に設けた海中通信トランシーバIC部とからなり、上記復元補正のうち、低下したデジタル信号の電圧レベルを規定電圧レベルに戻す復元補正は、以下(A)〜(D)に示す処理を行うように構成することができる。
【0018】
(A)ポンプアップ補正を行う。このポンプアップ補正は、海上通信トランシーバIC部から海中通信トランシーバIC部に到達するデータ信号の電圧レベルをモニターし、モニターによって取得した現在のデータ信号の電圧レベルを当該海上通信トランシーバIC部の設定電圧レベルまで引き上げるものとする。
【0019】
(B)変動電圧を求め記録する。この変動電圧は、海上通信トランシーバIC部から海中通信トランシーバIC部までの間に生じた電圧降下をモニターし、モニターによって取得した現在の電圧降下値から事前に想定される電圧降下値を差し引いた差分とする。
【0020】
(C)上記変動電圧から1kHz〜直流の低周波成分を抽出し、上記ポンプアップ補正後の電圧レベルに重畳させる。
【0021】
(D)上記重畳後の電圧レベルでデータ信号を海上通信トランシーバIC部へ送信する。
【0022】
上記海上通信トランシーバIC部は、受信電圧レベルの設定値を有し、上記重畳後の電圧レベルで送信されてきたデータ信号を受信するとともに、そのデータ信号の受信電圧レベルをモニターし、モニターによって取得した現在の受信電圧レベルとその上記設定値とを比較し、比較結果に応じて以下の処理を行うように構成してもよい。
【0023】
<現在の受信電圧レベルの方が低い場合>
この場合は、上記(C)における重畳量が少なすぎるので、重畳量を増やすため、現在の受信電圧レベルと設定値との差分データを調整用パケットに格納して上記海中通信トランシーバIC部へ送信する。
【0024】
<現在の受信電圧レベルの方が高い場合>
この場合は、上記(C)における重畳量が多すぎるので、重畳量を減らすために、現在の受信電圧レベルと設定値との差分データを調整用パケットに格納して上記海中通信トランシーバIC部へ送信する。
【0025】
<現在の受信電圧レベルが設定値とほぼ等しい場合>
この場合は、受信電圧レベルが適正で、上記(C)での重畳量に過不足はないから、何もしない。
【0026】
上記調整用パケットを受信した海中通信トランシーバIC部は、上記調整用パケットに格納されている差分データを基に上記(C)における重畳量を調整し、この海中通信トランシーバIC部から上記海上通信トランシーバIC部に到達するデータ信号の受信電圧レベルが上記海上通信トランシーバIC部の設定電圧レベルと等しくなるようにすることができる。
【0027】
上記海中通信ケーブルは、2組のツイストペアケーブルを撚り合わせた構成になっているものとしてもよい。
【0028】
上記本発明の海中通信システムについては、上記計測処理装置と上記海中投下型センサとを一組のセンサシステムと観念し、このセンサシステムがルータのLAN側に複数接続されるとともに、同ルータのLAN側に接続されたデータ収集表示用コンピュータ部から上記ルータを介して各センサシステムにアクセスし、それぞれのセンサシステムを構成する海中投下型センサからデータを取得するように構成することもできる。
【発明の効果】
【0029】
本発明にあっては、カメラを耐圧ゲルで包み水圧から保護する構成と、現在の水圧データから光の屈折率を取得し、取得した屈折率を基に当該カメラの焦点を制御する構成を採用した。このため、当該カメラが水圧によって破損するといった不具合を効果的に防止することができるとともに、深海1000mのように大きな水圧で耐圧ゲルが圧縮されその屈折率が変化しても、屈折率の変化に応じて当該カメラの焦点が制御されることによって、焦点の合った鮮明な画像が得られ、深海撮影に好適なカメラを備えた海中投下型センサとこれを用いた海中通信システムを提供しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明を適用した海洋調査システムの機器模式図である。
【0032】
図1において、1は、海上、たとえば船舶2上に設置された汎用パソコン等からなるデータ収集表示用コンピュータ部であり、3は、船舶2上に置かれた防水通信ケーブル、4は、船舶2上の海面を見渡せる適宜位置の船縁に配備されたセンサ投下用アタッチメント・ガン(以下、ガンという)である。5は、海中投下型センサ、6は、海中通信ケーブルである。
【0033】
[データ収集表示用コンピュータ部とガンとの接続構成]
データ収集表示用コンピュータ部1とガン4とは、防水通信ケーブル3等により、直接または間接的に接続される。
【0034】
図2(a)、(b)、(c)および(d)は、データ収集表示用コンピュータ部1とガン4との種々の接続例の説明図、図3は、図2(d)の接続例の詳細図である。
【0035】
図2(a)は、防水通信ケーブル3を介してデータ収集表示用コンピュータ部1とガン4とを有線接続したものを示し、図2(b)は、無線通信手段による直接接続を示し、図2(c)は、リムーヴァブル・メモリを用いた間接的接続を示す。図2(d)は、ルータ3dを介してデータ収集表示用コンピュータ部1とガン4とを接続した例を示し、図1の接続例がこの接続例に該当する。有線接続の場合には、データ収集表示用コンピュータ部1からガン4へ電力供給ができるが、無線接続やリムーヴァブル・メモリを用いる場合、及びルータ3dを介する接続の場合には、ガン4にも独立の電源を持たせる。
【0036】
図2(a)の接続例の場合には、防水通信ケーブル3は、データ収集表示用コンピュータ部1にインタフェースユニット7、USBケーブル8を介して接続されて、データ収集表示用コンピュータ部1とガン4との間の信号の伝送と、データ収集表示用コンピュータ部1からガン4への電力供給を行なうようになっている。防水通信ケーブル3は、本実施形態では海洋上で使われるので、防水・防塩構造になっている。
【0037】
図2(b)の接続例では、データ収集表示用コンピュータ部1とガン4の双方に無線通信装置3aを備えて、その両者1、4間で相互に信号を伝送する。
【0038】
図2(c)の接続例では、データ収集表示用コンピュータ部1とガン4の双方にリムーヴァブル・メモリ取付け手段3bを備えて、このリムーヴァブル・メモリ取付け手段にUSBメモリのようなリムーヴァブル・メモリ3cを着脱することにより、その両者1、4間で間接的に信号を伝送する。
【0039】
図2(d)、図3の接続例では、データ収集表示用コンピュータ1とガン4の双方がLANケーブル3e、3fを介してルータ3dに接続され、該ルータ3dを介して両者1、4間で相互に信号を伝送する。ガン4とルータ3dとを接続するLANケーブル3eは、船舶の甲板上に置かれるので、防水通信ケーブル3と同じく防水・防塩構造になっている。ルータ3dとデータ収集表示用コンピュータ1は船舶の監視室等に配置されることから、これらを接続するLANケーブル3fは、陸上で使用する一般的な構造のものを使用してもよい。
【0040】
以下、ルータ3dを介してデータ収集表示用コンピュータ部1とガン4とを接続した図1の海洋調査システムについて、説明を続ける。
【0041】
[海中通信ケーブルの概要]
海中通信ケーブル6は、海中投下型センサ5とガン4とを接続し、その両者5、4間で信号を送受信するための信号伝送路として使用される。この海中通信ケーブル6は、ガン4によって海中投下型センサ5が海中に投下されて海中を落下していく時に、船上(本実施形態ではガン4に取り付けられたセンサーカートリッジ9のケーブル・ボビン9a)から、順次繰り出されていく。海中通信ケーブル6の導線の絶縁被覆は生分解性材料で形成されている。
【0042】
[海中通信ケーブルの詳細]
図4(a)(b)は、海中通信ケーブルの説明図である。
【0043】
本海中通信ケーブル6は、図4(b)に示すように、銅の芯線を絶縁被覆してなる2組のツイストペアケーブルCA1、CA2を撚り合わせた構成になっている。なお、本海中通信ケーブル6は、海中投下型センサ5投下時のボビンからの高速巻き戻しをスムーズにするため、陸上用ケーブルに通常用いられるシース等の絶縁被覆で包んではいないし、絶縁被覆は薄くしてある。
【0044】
図4(a)および(b)では、海中通信ケーブル6の撚りを一部ほぐして2本のツイスト線61、62と2本のツイスト線63、64に分解して、模式的に示している。一組のツイストペアケーブルCA1は、2本のツイスト線61、62からなり、別組のツイストペアケーブルCA2は、2本のツイスト線63、64からなる。
【0045】
2本のツイスト線61、62と2本のツイスト線63、64とは、図4(a)に示すように、それぞれ同じ向きに硬撚りされている。この硬撚りされたツイスト線61、62とツイスト線63、64とが、図4(b)に示すようにピッチp=20〜30mmで反対向きにソフト撚りされて、海中通信ケーブル6が形成されている。
【0046】
本実施形態においては、個々のツイストペアケーブルCA1、CA2に独立した直流給電を行い、その各直流電圧にデータ信号を重畳させる。ただし、一のツイストペアケーブルCA1又はCA2には当該データ信号を逆相変換したものが重畳される。つまり、一方のツイストペアケーブルCA1に重畳するデータ信号が+1のデータであるなら、他方のツイストペアケーブルCA2に重畳するデータ信号は−1のデータになる。
【0047】
一般にコイル状に巻かれた同軸ケーブルに直流を通すと、同軸ケーブルのコイル部を流れる直流成分によって同軸ケーブル周囲に磁気が発生する。本海中通信ケーブル6も後述の通り、コイル状に巻かれた状態で収納されるが、本海中通信ケーブル6によると、かかる磁気は上記のようなツイスト構造により効果的にキャンセルされる。したがって、本海中通信ケーブル6によって伝送されるデータ信号中に上記磁気によるノイズが入るおそれは殆どなく、xDSL通信などの高速データ通信の実現に好適である。
【0048】
上記ツイスト線61〜64は、それぞれ生分解性のエマルジョン化したセルロース・タンパク混合型ウレタン樹脂の絶縁被覆で銅芯を被覆したもので、銅芯断面積約0.0225m2 、被覆厚0.7〜1μmである。海中投棄後の生分解を促進するために、このウレタン被覆の表面には起伏を付けて表面積を大きくしてある。
【0049】
ツイスト線61〜64の被覆厚を0.7〜1μmと非常に薄くした理由は、海中通信ケーブル6をしなやかにして海中投下型センサ5投下時のボビンからのスムーズな高速巻き戻しを可能とするほか、使用後に海中に投棄した海中通信ケーブル6の絶縁被覆がすみやかに生分解して消滅することを可能とするためである。
【0050】
[ガンの概要]
ガン4の役割は(1)海中投下型センサ5を海中に向けて落下させること、(2)落下された海中投下型センサ5の海中落下状況、計測状況をオペレータに知らせること、(3)海中通信ケーブル6を信号の送受信路として使用し、海中投下型センサ5との間でxDSL通信など、高速データ通信を行うこと、(4)計測終了後、海中投下型センサ5を、海中通信ケーブル6、後述するセンサ収納シェル9bおよびケーブル・ボビン9aとともに、海中に投棄すること、である。
【0051】
[ガンの詳細]
図5(a)(b)は、ガンにセンサーカートリッジを組み付けた状態の説明図、(c)は(a)中のB−B矢視図である。この図5(a)(b)において、9はセンサーカートリッジ、9aおよび9bは、このセンサーカートリッジ9を構成するケーブル・ボビンおよびセンサ収納シェルであり、センサ収納シェル9bはケーブル・ボビン9aの前部に固定されている。ケーブル・ボビン9aとセンサ収納シェル9bは、いずれも生分解性材料を用いた再生厚紙製である。
【0052】
ガン4は、ベースアーム部4aとスライドアーム部4bのフック4cとでケーブル・ボビン9aを挟み込んで、センサーカートリッジ9を着脱自在に取り付けている。より詳細に説明すると、スライドアーム部4bは、ベースアーム部4aの図示しない摺動案内に沿って図5(a)の左右方向に摺動可能となっている。図4(a)のように、スライドアーム部4bがベースアーム部4a側に最も寄ったとき、このスライドアーム部4bは、図示しないロック手段によりロックされて、その摺動が禁止され、ベースアーム部4aと一体になる。この状態で、ベースアーム部4aとスライドアーム部4bとがケーブル・ボビン9aを挟み込んで、ケーブル・ボビン9aとセンサ収納シェル9bをガン4に係止する。
【0053】
一方、上記ロックを解除してスライドアーム部4bを図4(a)の矢印R方向に摺動させて、ベースアーム部4aから離すと、後述する計測処理装置側端子(ガン側端子)45と海中通信ケーブル端子6bとが離れて導通を絶ち、図4(b)のように、スライドアーム部4bがヒンジ4dを旋回軸として重力により下方に曲がり、それよりも更に曲がると、センサーカートリッジ9は、スライドアーム部4bのフック4cから外れて、ガン4から開放される。
【0054】
ベースアーム部4aの上部側は精密電子機器の収納ボックス41になっており、この収納ボックス41の内部には、通信トランシーバIC部40Aを搭載した計測処理装置40が収納されている。また、この収納ボックス41の上部には、GPS(自位置経緯度測位システム)42、データ表示装置43、データ設定ボタン44が備えられている。
【0055】
通信トランシーバIC部40A(以下、海上通信トランシーバIC部40Aという)は主として(1)海中投下型センサ5側に設けた後述の通信トランシーバIC部53Aとの間で、海中通信ケーブル6を介してデータ信号を送受信する処理や、(2)計測処理装置40とデータ収集表示用コンピュータとの間で、ルータ3dを介してデータ信号を送受信する処理などを行う。なお、この海上通信トランシーバIC部40Aの機能については更に詳細に後述する。
【0056】
計測処理装置40は、汎用パソコン等から構成され、海中投下型センサ5の投下作業手順やその投下状態や、GPS42により計測される投下位置を、データ表示装置43に表示させる。
【0057】
データ表示装置43は、図示は省略するが、海中投下型センサ5の投下作業手順と投下状態を表示するLEDドットパネル式表示器と、GPS42により計測される投下位置を表示する液晶式表示器とからなっている。
【0058】
データ設定ボタン44は、データ表示装置43を監視しながらオペレータがこれを操作して、海中投下型センサ5の投下指示、データ保存操作、計測終了指示、海中投下型センサ5の投棄指示等を行なうためのものである。
【0059】
[センサーカートリッジの詳細]
図5(a)において、センサ収納シェル9bの内筒内には、投下前の海中投下型センサ5が収納され、その胴部に紙製のセンサ固定バンド11を巻き付けてセンサ収納シェル9bの内筒に固定している。これにより、海中投下型センサ5は落下しないように係止される。センサ固定バンド11にはリリースピン12が取り付けられていて、このリリースピン12を矢印Pの方向に引くと紙製のセンサ固定バンド11がちぎれて係止が解除され、海中投下型センサ5は海中に向けて落下するようになっている。
【0060】
ケーブル・ボビン9aの内筒ボビン部9cは、センサ収納シェル9bに向けて拡がるテーパ状をなし、ここに海中通信ケーブル6を巻いた円錐台形の中空コイル6aが収納されている。この中空コイル6aの大径側内周に位置する海中通信ケーブル6の一端は、中空コイル6aから引き出されて海中投下型センサ5に接続され、中空コイル6aの小径側外周に位置する海中通信ケーブル6の他端は、ケーブル・ボビン9aの後端面に設けた海中通信ケーブル端子6bに接続されている。海中通信ケーブル6は、図4(b)に示すようにツイスト線61〜64を撚り合わせた構成になっており、これらの各ツイスト線61〜64を分岐させて対応する海中通信ケーブル端子6bに接続してある(図5(c)参照)。
【0061】
海中投下型センサ5がセンサ収納シェル9bから離れて投下されると、海中投下型センサ5につながった海中通信ケーブル6は、ケーブル・ボビン9aから引き出され、中空コイル6aの内側から巻き戻されていく。つまり、海中通信ケーブル6を巻き置いた中空コイル6aの内側から巻き戻されるように、海中通信ケーブル6がケーブル・ボビン9aに内巻きにして巻き置かれている。
【0062】
上記海中通信ケーブル端子6bはアルミ箔、センサ固定バンド11は紙、リリースピン12はアルミニウムを用いて構成され、これらは、海中に投棄されても海洋環境を汚染するおそれがないようにしている。
【0063】
ケーブル・ボビン9aをテーパ状として、これにより、そこに巻き付ける中空コイル6aをテーパ状とすることは、海中投下型センサ5投下時のボビンからの高速巻き戻しをスムーズにするために極めて有効である。
【0064】
上記海中通信ケーブル端子6bに対向して、ガン4の収納ボックス41外端面には計測処理装置側端子(ガン側端子)45が設けられており、計測処理装置側端子45は、収納ボックス41内の計測処理装置40に接続され、信号を伝送するようになっている。また計測処理装置側端子45は板ばね状となっていて、スライドアーム部4bがベースアーム部4a側に摺動してロックされたとき、その板ばね状の計測処理装置側端子45が弾性変形して海中通信ケーブル端子6bと当接して通電状態になる。これにより、海中通信ケーブル6の各電線が収納ボックス41内の計測処理装置40に着脱自在に接続される。
【0065】
[海中投下型センサの概要]
海中投下型センサ5は、ガン4により海中に投下され、海中を落下中にリアルタイムで水温、水圧、落下の加速度、方位などを計測したり、海中や海底の様子を撮影したりするなど、センサ5近辺の海中情報を収集するものである。また、本実施形態の海中投下型センサ5は、後に詳述するように、生分解性材料と環境汚染を起こさない金属材料で構成されている。
【0066】
[海中投下型センサの詳細]
図6(a)は海中投下型センサの縦断面図、図6(b)は同図(a)のB矢視図、図6(c)は同図6(a)のC矢視図である。
【0067】
海中投下型センサ5は、センサ筐体51、絶対圧式の水圧センサ素子52a、水温センサ素子52b、電気伝導度センサ素子52c、濁度センサ素子52d、加速度センサ素子52e、電子カメラ52f、照明52g、電子回路基板からなる計測プラットフォーム53およびヘッドウエイト54A、バランスウエイト54Bを有している。
【0068】
<センサ筺体について>
センサ筐体51は、ホタテ内蔵抽出高分子蛋白質(高濃度ゼラチン)とアガロースを主成分とする海藻残渣物との混合物によりホタテ貝殻微細粉体を結着させた生分解性材料で生成されている。また、このセンサ筐体51は、計測プラットフォーム53やウエイト54A、54B等を内部に組み込むために、縦に二つ割りになっていて、組み込み後、接着するようになっているが、その接着剤も、トウモロコシから抽出された高分子タンパク繊維でなる生分解性材料製である。
【0069】
ここで、生分解性材料を用いたセンサ筐体51の製造工程を概略説明する。本実施形態の生分解性材料は海産生物由来の材料で、先ずホタテ貝殻を天火または200℃以下で低温加熱して脱水処理し、これをボールミル方式で粉砕処理して粒径10〜50μmの微細球状粉体に加工する。上記脱水処理によれば貝殻中のカルシウム分のアルカリ湧出を起こさない。次に、このホタテ貝殻微細球状粉体に、ホタテ内蔵抽出高分子蛋白質(高濃度ゼラチン)とアガロースを主成分とする海藻残渣物との混合物を加え、混練して所望の形状に成形し、微細球状粉体を結着する。形成された材料は、微細球状粉体が互いによく密着し、これらの微細隙間にホタテ内蔵抽出高分子蛋白質と海藻内蔵抽出多糖類とがその優れた圧力浸透性をもって浸透して強力に結着している。
【0070】
本発明者は、上記混合物とホタテ貝殻微細粉体とからなる本生分解性材料の全重量を100%とした場合に、上記アガロースを主成分とする海藻残渣物を3〜8%とし、ゼラチンを0.5〜3%として、本生分解性材料の生分解性能試験を行ったところ、本生分解性材料は、海水中において3日から10日で生分解されることが確認された。また、本生分解性材料は、3次元ルータなどによる精密加工と量産の両立が可能である。
【0071】
この海産生物由来の本生分解性材料は、海洋中に投棄しても海洋環境に悪い影響を与えることがなく、上記のように3日〜10日と極めて短期間に生分解され海中に溶解し、その過程で海中に散った微細粒は甲殻類の良い餌にもなる。
【0072】
上記生分解性材料が3日〜10日で生分解する理由は、生分解性材料を水に浸すと、その材料中のホタテ貝殻微細粉体を結着しているアガロース成分が水分を含みやすく、水分を含んで膨潤することにより、ホタテ貝殻微細粉体の結着力が弱まりやすいためであると考えられる。
【0073】
前記混合重量比において、アガロースを主成分とする海藻残渣物が3%未満であると、上述した3日〜10日という短期間の生分解効果は得られず、また、このアガロースを主成分とする海藻残渣物が8%よりも多いと、3日未満で生分解が生じてしまい、実用的ではないことから、アガロースを主成分とする海藻残渣物は、上述の通り3〜8%とするのが最適である。
【0074】
センサ筺体51の外形は、その頭部(海底を向いて落下する部位)側から中央付近より少し手前の位置までが流線形になっていて、この流線形の終端から中央付近までの範囲はフラットな円筒面に形成され、更に、その円筒面の終端から後方の尾部までは円錐面になっている。
【0075】
また、このセンサ筐体51は、その尾部に、高速落下中の姿勢を安定させる複数(本実施形態では等間隔に4箇所)の姿勢安定用フィン55、55を備え、その内部に収納された上記センサ素子52a、52b、52c、52e、計測プラットフォーム53、およびウエイト54A、54Bを覆っている。
【0076】
姿勢安定用フィン55は、スルメイカが摂餌行動時に展開する頭部外套膜と同等の流体効果を有するエンペラ形状になっていて、高速鉛直落下の際、横方向からの水の動きに対してセンサ筺体51の姿勢が崩れないようにする。
【0077】
本海中投下型センサ5はセンサ筺体51の頭部を下に向けて海中を落下するので、センサ筺体51の頭部外周には海水との衝突による乱流が発生する。この初期乱流はセンサ筺体51のフラットな円筒面によって落ち着いて安定な水流となる。しかし、この安定な水流はフラットな円筒面と円錐面との境でセンサ筺体51から剥離するため、再び乱流が発生する。この再発乱流は円錐面の中央付近から落ち着いて再び安定な水流になる。したがって、上記のように再び安定な水流になる円錐面の中央付近から後方にかけて上記姿勢安定用フィン55を配置しておけば、その姿勢安定用フィン55の効果を有効に発揮することができる。
【0078】
センサ筐体51の外周には、落下方向(長手方向)に溝状の複数(本実施形態では、等間隔に4箇所)のセンサ導水路56が設けられている。このセンサ導水路56と姿勢安定用フィン55とは、一線上に配置され、センサ導水路56の海水流が姿勢安定用フィン55の背中に沿って流れるようになっていて、海中投下型センサ5の姿勢保持に有効に作用している。
【0079】
センサ筺体51の長手方向中心軸線付近には、第1のケーブル孔59Aと第2のケーブル孔59Bが設けられている。第1のケーブル孔59Aは、ヘッドウエイト54Aの長手方向中心軸を貫通し、センサ筺体51の頭部から中央部にかけて穿たれている。第2のケーブル孔59Bは、バランスウエイト54Bの長手方向中心軸を貫通し、センサ筺体51の尾部から中央部に向かって穿たれており、これら両ケーブル孔59A、59Bの中央部側は、計測プラットフォーム53や加速度センサ素子52eなどを包んでいる圧力緩衝ゲル58の表面に開口している。
【0080】
上記第1のケーブル孔59Aは、電子カメラ52fの配線ケーブル52Cabを通す孔であり、撮像手段52fの配線ケーブル52Cabは、この第1のケーブル孔59Aを経由して計測プラットフォーム53の入力端子に接続されていて、電子カメラ52fで撮影する海中の映像信号を計測プラットフォーム53へ伝送するようになっている。第2のケーブル孔59Bは、海中通信ケーブル6を通す孔であり、海中通信ケーブル6は、この第2のケーブル孔59Bを経由して計測プラットフォーム53の入出力端子に接続されている。
【0081】
<各センサ素子について>
シリコン膜式の水圧センサ素子52aは、上記圧力緩衝ゲル58表面に近い第2のケーブル孔59Bの内壁に形成されていて、第1のケーブル孔59Aに侵入している海水の静水圧を検知するようになっている。水圧センサ素子52aをケーブル孔59A内に配置する理由は、海中投下型センサ5の高速落下により発生する気泡や水流の圧力感知面への接触によって検出圧力が変化することを防止し、正確な静水圧を計測できるようにするためである。
【0082】
水温センサ素子52b、電気伝導度センサ素子52c、濁度センサ素子52dは、それぞれセンサ導水路56の各中央付近底部に面して配置固定されている。海中投下型センサ5の落下の際、センサ導水路56内に生じる海水流と各センサ素子52b、52c、52dとが接することによって、水温、電気伝導度および濁度が検知される。海中投下型センサ5の海中落下速度が速くても、落下速度に応じてセンサ導水路56内の水流速度が速まるから、センサ導水路56に接したセンサ素子52b、52c、52dによる海中情報の検出にタイムラグが生じることはほとんどない。
【0083】
センサ導水路56内での上記各センサ素子52b、52c、52dの配置は、適宜選択してよく、たとえば、検出値のバランスが取れるように対称形にしたり、ひとつのセンサ導水路56に複数種のセンサ素子を並べたりしてもよい。また、センサ素子の種類も必要に応じて適宜選択することができる。
【0084】
加速度センサ素子52eは、圧力緩衝ゲル58で覆われていて、海中投下型センサ5が海中を落下する時の三軸(3次元空間座標を構成するX軸、Y軸、Z軸)方向の加速度を検出したり、海中投下型センサ5が海底に衝突したときの衝撃による加速度(これも同様に三軸方向の加速度)を検出したりする。
【0085】
<電子カメラについて>
電子カメラ52fは、ヘッドウエイト54Aの前端面に固定支持され、センサ筺体51の頭部前面に位置して、海中や海底を撮影する。この電子カメラ52fは高透明度の耐圧ゲルでコーティングされている。これは水深1000m付近の水圧に十分耐えうるようにするためである。なお、それに耐えうる耐圧ゲルのコーティング厚は、研究室レベルでは10mm程度とされている。
【0086】
本電子カメラ52fは海中の特性を考慮した仕様になっている。すなわち、海中では光の透過有効範囲が極めて狭い(200W照明で10m先の標準目視指標が何とか認識できる程度)という特徴がある。これとの関係から、本電子カメラ52fは、センサ5の先端より2〜3m先の目視指標を認識し、それ以外の所は反射影(光)として識別する仕様になっている。また、オペレータは計測処理装置40のデータ設定ボタン44で撮影時間間隔を設定することができ、電子カメラ52fはその設定された撮影時間間隔で水面から海底直情まで連続撮影を行なうことができる。
【0087】
図7は、図6(a)の海中投下型センサに搭載されている電子カメラの断面の模式図であり、この図を用いて本電子カメラ52fを更に詳細に説明する。
【0088】
電子カメラ52fは、カメラ素子としての固体撮像素子521と、レンズ522と、焦点合わせのためにモータを使ってレンズ522を光軸方向に動かすレンズ駆動手段523と、これらのカメラ構成部品を格納する格納ケース524とにより構成され、その格納ケース524全体を耐圧ゲル52kで包んだ構造になっている。
【0089】
固体撮像素子521としてはCMOS型やCCD型が知られているが、本電子カメラ52fではCMOS型の固体撮像素子521を採用した。実験の結果、CMOS型の方が水圧に強いことが判明したためである。
【0090】
また、本電子カメラ52fには焦点制御手段525(オートフォーカス機能)が設けられている。焦点制御手段525は、水圧センサ素子52aで計測した現在の水圧データから後述する光の屈折率を取得し、取得した光の屈折率を基に電子カメラ52fの焦点を制御するものである。なお、現在の水圧データは後述する計測プラットフォーム53から取得する。
【0091】
<光の屈折率の定義>
上記「光の屈折率」とは、本電子カメラ52fの外から耐圧ゲル52kを通過して固体撮像素子521の方向に向かう光の屈折率をいう。この光の屈折の様子は、耐圧ゲル52kの水圧による圧縮特性のほか、電子カメラ52fの格納ケース524の形状や、格納ケース524内の固体撮像素子521の位置にも影響を受けるので、上記「光の屈折率」は水圧による耐圧ゲル52kの圧縮特性を考慮するのみでは足りず、それ以外の上記他の影響も考慮して決定する必要がある。
【0092】
<光の屈折率の取得方式について>
光の屈折率を取得する方式としては、光の屈折率をリアルタイムで算出する下記第1の方式と、図9の対応テーブルCtを用いる下記第2の方式とが考えられる。
【0093】
なお、第1の方式では、説明の便宜上、水圧による耐圧ゲル52kの圧縮変形のみに着目し、光の屈折率の変化は耐圧ゲル52kの屈折率の変化に等しいものと考え、その耐圧ゲル52kの水圧による圧縮特性から当該耐圧ゲル52kの屈折率(=光の屈折率)を算出するものとした。カメラ構成部品の格納ケース524も水圧で変形するのが現実であるが、第1の方式では格納ケース524は水圧によって変形しない剛体と考える。
【0094】
[第1の方式]
第1の方式では、水圧センサ素子52aで計測した現在の水圧データから、耐圧ゲル52kの屈折率(=光の屈折率)をリアルタイムで算出する。その算出の考え方は、以下の通りである。
【0095】
電子カメラ52fを包んでいる耐圧ゲル52kは海中に晒され水圧(p)が作用している。この水圧(p)により耐圧ゲル52kは圧縮されるので、耐圧ゲル52kの弾性変形領域内では、耐圧ゲル52kの密度(δ)は水圧(p)に比例して高くなる(δ∝p)。また、物質の屈折率(α)は物質密度(δ)に比例(α∝δ)するので、耐圧ゲル52kの密度(δ)が高くなれば、それに比例して耐圧ゲル52kの屈折率(α)は大きくなる(δ∝α)。したがって、水圧(p)と密度(δ)と屈折率(α)はp∝δ∝αの関係になるから、耐圧ゲル52kの屈折率(α)は、α∝pの関係を使って、現在の水圧(p)データからリアルタイムで算出することができる。なお、この屈折率(α)の算出は、後述する計測プラットフォーム53のCPU53Bが行なう。
【0096】
[第2の方式]
第2の方式は、電子カメラ52fを水中に沈めたときの水圧と光の屈折率との関係を予め実験で求め、その水圧と光の屈折率(実測値)とを一対一で対応させて記憶した図9の対応テーブルCtを作成し、水圧センサ素子52aで計測した現在の水圧データに対応する光の屈折率を当該対応テーブルCtから得るものである。
【0097】
以上説明した第1と第2のいずれの方式を採用してもよいが、第1の方式では屈折率の算出に時間がかかる場合も想定されるので、リアルタイムで電子カメラ52fの焦点を制御しようとするなら、現在の水圧に対応する光の屈折率を対応テーブルCtから読み出すだけの第2の方式が好ましい。
【0098】
<焦点の制御について>
図8は、図7の電子カメラ52fにおける焦点制御の説明図であり、同図(a)は、電子カメラ52fの耐圧ゲル52kに水圧が作用しないときの焦点をXとし、焦点距離をLとして示したものである。また、同図(b)は、所定の水圧が電子カメラ52fの耐圧ゲル52kに作用したときの焦点をXとし、焦点距離をLとして示したものである。同図(c)は、(b)よりも高い水圧が電子カメラ52fの耐圧ゲル52kに作用したときの焦点をXとし、焦点距離をLとして示したものである。
【0099】
以下この図8(a)(b)(c)を基に焦点の変位と制御を説明するが、以下の説明における焦点の変位の基本的な考え方は、耐圧ゲル52kとレンズ522を一つの合成レンズRLと考え、この合成レンズRLの焦点をX、X、Xとする。そして、合成レンズRLは耐圧ゲル52kとレンズ522からなるので、合成レンズRL中の耐圧ゲル52kの屈折率が大きくなれば、それに応じて合成レンズRL全体の屈折率も大きくなるというものである。
【0100】
図8(a)の場合は、焦点Xのところに固定撮像素子521が位置するので、電子カメラ52fの焦点は合っており、いわゆるピンボケのない鮮明な画像が得られる。この状態から電子カメラ52fの耐圧ゲル52kに所定の水圧が作用すると、その水圧による耐圧ゲル52kの圧縮などのため、光の屈折率は大きくなり、同図(a)に示す焦点Xは同図(b)に示すXまで変位し、同図(a)に示す焦点距離Lは同図(b)に示すLのように短くなる。そして、電子カメラ52fの耐圧ゲル52kに作用する水圧が更に高まると、光の屈折率がより一層大きくなることによって、同図(b)に示す焦点Xは同図(c)に示すXまで変位し、同図(b)に示す焦点距離Lは同図(c)のLのように更に短くなる。
【0101】
上記焦点距離の変化量(L→L→L)は光の屈折率の変化量に比例する。したがって、電子カメラ52fの焦点制御手段525では、最初に、光の屈折率の変化量から焦点距離の変化量を算出する。次に、その焦点距離の変化量に相当する距離だけレンズ522を固定撮像素子521側へ移動させることで、焦点の位置を固定撮像素子521に一致させる。これにより、電子カメラ52fの耐圧ゲル52kに所定の水圧が作用する環境下でも、電子カメラ52fの焦点は合い、鮮明な画像が得られるようになる。
【0102】
上記のような焦点合わせのためのレンズ522の移動は、具体的には焦点制御手段525がレンズ駆動手段523へ移動指令を出力することにより行なわれる。この出力される移動指令の中にはレンズ522の移動方向と移動量に関する情報が含まれており、この情報に基づいてレンズ駆動手段523が当該レンズ522を移動させる。レンズ522を移動させる代りに固定撮像素子521を移動させてもよい。また、当該レンズ522に変えて市販の液体レンズを使用すれば、レンズの移動を行なうことなく、焦点の制御を行なうことができる。
【0103】
<照明について>
照明52gは、電子カメラ52fと同様に、ヘッドウエイト54Aの前端面に固定支持され、センサ筺体51の頭部前面に位置して、電子カメラ52fの撮影範囲を照らすようにしてある。水深1000m付近は太陽光がほとんど届かない暗黒世界なので、この種の照明52gとしては、例えば高輝度発光ダイオード(LED)が用いられる。高輝度発光ダイオードが水深1000m付近の水圧に耐えることができないなら、この高輝度発光ダイオードも高透明度の耐圧ゲルでコーティングされる。
【0104】
照明52gは、常時つけっぱなしではなく、計測プラットフォーム53の照明制御部(図示省略)によって、電子カメラ52fの撮影タイミングと撮影時間に同期して間欠的に撮影範囲を照光するように制御される。
【0105】
図10は、電子カメラ52fの撮影と照明52gの照光との関係を示したタイムチャート図である。
【0106】
本電子カメラ52fによる連続撮影は、その開始から終了までの間、図10(b)のように事前に設定された撮影間隔T1でCMOS型固定撮像素子521による所定時間の撮影動作POを繰り返し実行するものである。そして、その1回の撮影動作POが完了するたびに、本電子カメラ52fは、撮影データPDの送信(図10(c)参照)と同時に同期信号SS(図10(d)参照)を出力するようになっている。
【0107】
本実施形態では、上記同期信号SSとCMOS型固定撮像素子521の受像時間(撮影に必要な時間)とから、照明52gの照光時間とそのタイミングを予め逆算し、それに基づいて照明52gを制御することによって、照明52gの間欠的な照光は、図10(e)のように、電子カメラ52fの撮影タイミングと撮影時間に同期する。
【0108】
以上のような照明52gの制御により、この照明52gは常につけっぱなしでなく、撮影に必要なときに必要な時間だけ点灯するので、非常に少ない消費電力で照光・撮影をすることができる。
【0109】
<計測プラットフォームについて>
計測プラットフォーム53は、各センサ素子52a、52b、52c、52d、52eの検出値(水圧、水温、電気伝導度、濁度)を各々の計測データに演算処理して海上の計測処理装置40へ送信したり、電子カメラ52fが撮影する海中の映像データを補正処理して同様に送信したりする等、海中投下型センサ5が収集した海中情報データ(計測データおよび撮影データ)を海上の計測処理装置40へ送信する。さらに、計測プラットフォーム53は、水圧センサ素子52aの検出値、すなわち現在の水圧データを電子カメラ52fの焦点制御手段525へ出力する。なお、データ収集表示用コンピュータ部1も、後述のネットワークを経由して海中投下型センサ5からの海中情報の送信を受けることができる。
【0110】
上記計測データの演算処理や映像データの補正処理は、この計測プラットフォーム53に搭載されているCPU53Bによって行われる。また、上記計測データや映像データの送信は、2つの通信トランシーバIC部間、すなわち、この計測プラットフォーム53に搭載されている通信トランシーバIC部53A(以下、海中通信トランシーバIC部53Aという)と、海上通信トランシーバIC部40Aとの間で、海中通信ケーブル6を介して行われる。
【0111】
電気伝導度センサ素子52cと濁度センサ素子52dの検出値は、温度と圧力の影響を受けて若干変動する。このため、計測プラットフォーム53では、水温センサ素子52b、水圧センサ素子52aによって得られる温度検出値と圧力検出値を用いて電気伝導度検出値と濁度検出値を較正している。他のセンサ素子についても、そのセンサ素子が温度や圧力の影響を受けるものであれば、同様の較正処理を行う。この較正処理を海中投下型センサ5内の計測プラットフォーム53で行なって、校正されたデータを計測処理装置に送る理由は、高速落下中に検出するセンサ素子の温度検出値、圧力検出値と他の検出値との較正処理のタイムラグをなくし、リアルタイムの計測が正確にできるようにするためである。
【0112】
計測プラットフォーム53の基板は、ジャガイモセルロース繊維を用いた生分解性材料製であり、その銅箔(プリント回路)に電子部品を実装後、ゼイン・タンパク質をベースとした撥水性の蛋白質を塗布して絶縁被膜を形成している。実装部品を基板上に偏りなく配置すると、基板に加わる外力による基板、銅箔、電子部品間の剥離などの応力破壊を防止できる。電子部品などを含む計測プラットフォーム53は、生分解性材料のほかに銅、金、銀、錫などが少量使われており、センサ素子にも白金等が使われているが、これらは海洋に放置しても特に海洋環境を汚染するものではない。
【0113】
基板、銅箔、実装電子部品上に絶縁被膜を塗布された計測プラットフォーム53は、高弾性材料製の球形状の圧力緩衝ゲル58に包み込まれて、センサ導水路56、ケーブル孔59Aから加わる高い水圧に耐えられるようになっている。水温センサ素子52b、電気伝導度センサ素子52c、濁度センサ素子52dは、いずれも圧力緩衝ゲル58の外面に保持されて、上記センサ導水路56に面している。
【0114】
<圧力緩衝ゲルについて>
圧力緩衝ゲル58の高弾性材料としては、海洋生物由来で高生分解性のコラーゲンまたはゼラチンの高分子蛋白質が用いられる。
【0115】
<ヘッドウエイト、バランスウエイトについて>
ヘッドウエイト54Aとバランスウエイト54Bは、いずれも銑鉄製で、センサ筺体51の長手方向中心軸線付近に内蔵され、センサ筺体51によって覆われている。
【0116】
特に、ヘッドウエイト54Aは、センサ筐体51の頭部側に位置し、海中投下型センサ5を速く落下させる役割と、海中投下型センサ5の重心をトップ側(落下する側)に偏らせることで、海中投下型センサ5全体の重心の安定性を高める役割と、水圧に晒される電子カメラ52fを圧力から保護し、定位置に固定する役割を果たしている。
【0117】
バランスウエイト54Bは、センサ筺体51の尾部側に位置する姿勢安定用フィン55の近傍に固定され、センサ筺体51の尻振れや回転を抑制して、電子カメラ52fの撮影ブレを低減する役割を果たしている。
【0118】
<海中投下型センサの海中落下速度について>
以上のように構成された海中投下型センサ5は、センサ筐体51が比較的密度の小さい生分解性樹脂などの生分解性材料製であるにもかかわらず、その雨滴型形状とヘッドウエイト54A、バランスウエイト54Bと姿勢安定用フィン55とにより、海中を2〜4m/sec.の速度で安定して落下していき、水深500mまでなら約2〜4分程、2000mなら8〜17分程で各種の海中情報をほぼ連続的に、あるいは、ほぼ等間隔の水深において計測していくことができる。なお、上記2〜4m/sec.の落下速度は海中通信ケーブル6の非常に軽くスムーズな繰り出しが寄与して実現されるものである。
【0119】
<海中通信の特性について>
図11は、海中通信の一の特性(海中通信におけるデジタル信号の電圧レベルの変化)を調査する実験の結果を示した説明図である。
【0120】
本実験では、大型の海流水槽に海中投下型センサ5を投下し、投下した海中投下型センサと計測処理装置40との間で海中通信ケーブル6を介してデジタル信号の送受信を行った。海中通信ケーブル6の長さは100mとした。
【0121】
本実験によると、計測処理装置40から海中投下型センサ5への送信(往路)では、計測処理装置40から送信したオリジナルのデジタル信号DS1の電圧レベルは、海中投下型センサ5での受信時に、デジタル信号DS1´の電圧レベルのように変化することが判明した。
【0122】
また、海中投下型センサ5から計測処理装置40への送信(復路)では、デジタル信号DS1と同じ電圧レベルまで昇圧したデジタル信号DS2をオリジナルとし、このオリジナルのデジタル信号DS海中投下型センサ5から計測処理装置40へ送信したとき、オリジナルのデジタル信号DS2の電圧レベルは、計測処理装置40での受信時に、デジタル信号DS2´の電圧レベルのように変化することが判明した。
【0123】
図12(a)(b)(c)は、海中通信の別の特性(海中通信におけるデジタル信号の波形の変化)を調査する実験の結果を示した説明図である。
【0124】
本実験では、図12(a)に示すデジタル信号DS3の原パルス波形が海中でどのように変化するかを調べるために、先の実験でも使用した海流水槽内に静水または流水(1.2m/s)の環境を作り、それぞれの環境下で実験を行った。これ以外の実験条件は先に説明した実験条件と同じである。
【0125】
本実験によると、海中投下型センサ5を静水環境に投下した場合、デジタル信号DS3の原パルス波形は、図12(b)に示すデジタル信号DS3´のパルス波形になった。つまり、デジタル信号DS3の原パルス波形はその1パルスの立ち上がりが右曲がりの曲線になる鈍いパルス波形に変化すること、および、デジタル信号DS3の電圧レベルは全体的に低下することが判明した。パルス波形の鈍化は海中通信ケーブル6のインダクタンスと海水の電磁波吸収特性とによるものと考えられる。また、電圧レベルの全体的な低下は海中通信ケーブル6の導通抵抗によるものと考えられる。
【0126】
また、海中投下型センサ5を流水(1.2m/s)環境に投下した場合、デジタル信号DS3の原パルス波形は、図12(c)に示すようなデジタル信号DS3´´のパルス波形になった。つまり、デジタル信号DS3の原パルス波形は、ノコギリ波に近い波形のように、その1パルスの立ち上がりが更に鈍いパルス波形に変化することが判明した。デジタル信号DS3の電圧レベルが全体的に低下することは静水の場合と同様である。
【0127】
尚、図12(c)において、パルス波形中の細かいノイズは海中投下型センサ5の振動によるノイズと考えられる。
【0128】
<海中の通信外乱について>
[通信外乱(その1)〜海水の電磁波吸収特性〜]
海中通信ケーブル6を使って通信を行う際、海中通信ケーブル6の周囲にはデータ信号の伝送に伴う電磁波が発生する。海水はかかる電磁波も吸収する性質を持っており、海水がその電磁波を吸収することによって、海中通信ケーブル6を介して伝送されるデータ信号のパルス波形の立ち上がりエッジが鈍くなる(先の説明<海中通信の特性>を参照)など、海水による電磁波の吸収も、海中での通信外乱になって、海中におけるxDSL通信などの高速データ通信を妨げる。
【0129】
[通信外乱(その2)〜海中通信ケーブルの導通抵抗〜]
海中通信ケーブル6は固有の導通抵抗を持っており、その導通抵抗によって、海中通信ケーブル6を介して伝送されるデータ信号の電圧レベルが低下するなど、海中通信ケーブル6の導通抵抗も、海中での通信外乱になって、海中におけるxDSL通信などの高速データ通信を妨げる。
【0130】
[通信外乱(その3)〜海中通信ケーブルの移動による海中の起電力〜]
海中通信ケーブル6は海中投下型センサ5に接続されていて、海中投下型センサ5の海中落下に追従するので、この海中通信ケーブル6も1〜3m/sec.の速度で海中を移動する。その際、海中通信ケーブル6周囲の水温、塩分濃度、電解質濃度の差から海中通信ケーブル6周囲に局所的な発電現象が生じ、起電力が発生する。この海中の起電力は海中通信ケーブル6の両端で電圧降下をもたらすなど、海中での通信外乱になって、海中におけるxDSL通信などの高速データ通信を妨げる。
【0131】
<上記通信外乱のキャンセル>
上記通信外乱のキャンセルとは、上記通信外乱によって劣化したデジタル信号のパルス波形を復元補正することであって、この復元補正には、鈍化したデジタル信号のパルス波形の立ち上がりを矩形波のように鋭角に補正すること、低下したデジタル信号の電圧レベルを規定電圧レベルに戻すこと、デジタル信号のパルス波形中の細かいノイズを除去することを含む。
【0132】
図13(a)(b)は、デジタルIC回路での“0”と“1”の認識の説明図である。一般にデジタルIC回路での“0”と“1”の認識は、低〜中速のデジタルIC回路では同図(a)のようにデジタル信号のパルス(P1)波形が規定電圧レベル(V)に到達すると“1”であると認識する。それに対し、高速のデジタルIC回路の場合は同図(b)のようにパルス(P)波形の立ち上がりから規定時間(t)内に一定の電圧レベルに達すると“1”であると認識する。
【0133】
そのため、高速のデジタルIC回路では“1”の認識に要する時間(t)が短いほどデジタル信号を高速に処理することができる。その反面、デジタル信号のパルス(P1)波形の立ち上がりが鈍いと“1”であると認識できない。そのデジタル信号の電圧レベルが全体的に規定値を下回っている場合も同様である。このようなデジタル信号のパルス波形の鈍化やその電圧レベルの全体的な低下等、デジタル信号の劣化は、先に説明した海中の通信外乱によって生じる。
【0134】
本実施形態の通信処理手段TE(図14参照)は、先に説明した海上通信トランシーバIC部40Aと海中通信トランシーバIC部53Aとからなり、各トランシーバIC部40A、53Aにおいて、デジタル信号を受信したら、その受信デジタル信号のパルス波形を復元補正する。この復元補正は、具体的には、図15(a)に示す受信デジタル信号のパルス波形(このパルス波形は海中の通信外乱によって劣化している)を図15(b)→図16(a)→図16(b)のように順に補正するものである。
【0135】
図15(b)では、受信デジタル信号のパルス波形中に含まれている細かいノイズをフィルタ等で除去している。
【0136】
図16(a)では、送信デジタル信号のグランド(GND)レベルに合わせて受信デジタル信号のグランド(GND)レベルを調整することによって、受信デジタル信号の電圧レベルを規定電圧レベルに戻している。
【0137】
図16(b)では、波形のクリッピング(矩形化)により、受信デジタル信号のパルス波形の立ち上がりを矩形波のように鋭角に補正している。この際、受信デジタル信号の増幅率は水深・水温で定義される補正テーブルから決定される。補正テーブルは海洋実験から算定される。
【0138】
先に説明した海中の通信外乱のキャンセルのうち、「低下したデジタル信号の電圧レベルを規定電圧レベルに戻す」方法については、下記の電圧レベル復元方式を採用することができる。
【0139】
[電圧レベルの復元方式]
図14において、海上通信トランシーバIC部40Aと海中通信トランシーバIC部53Aには、通信距離と電圧降下値が予め設定される。通信距離とは、この海洋調査システムで使用する海中通信ケーブル6の全長であり、電圧降下値とは、その長さの海中通信ケーブル6の導通抵抗から想定されるものである。
【0140】
本海洋調査システムでは、計測処理装置40から海中通信ケーブル6を通じて海中投下型センサ5へ安定した直流電力を供給する。そして、海上通信トランシーバIC部40Aが、その直流電圧にデジタルデータ信号を重畳させて海中投下型センサ5へ送信し、海中投下型センサ5の海中通信トランシーバIC部53Aが、そのデジタルデータ信号を受信する。
【0141】
海中通信トランシーバIC部53Aでは以下の(A)〜(D)に示す処理を行う。
【0142】
(A)ポンプアップ補正を行う。ポンプアップ補正は、海上通信トランシーバIC部40Aから海中通信トランシーバIC部53Aに到達するデジタルデータ信号の電圧レベルを常時モニターし、モニターによって取得した現在のデジタルデータ信号の電圧レベルを当該海上通信トランシーバIC部40Aの設定電圧レベルまで引き上げるものとする。
【0143】
上記「海上通信トランシーバIC部40Aの設定電圧レベル」とは、海上通信トランシーバIC部40Aから海中通信トランシーバIC部53Aへデータ信号を送信する時の、予め設定された信号電圧レベルである。
【0144】
(B)変動電圧を求め記録する。この変動電圧は、海上通信トランシーバIC部40Aから海中通信トランシーバIC部53Aまでの間に生じる電圧降下を常時モニターし、モニターによって取得した現在の電圧降下値から事前に想定した電圧降下値(前述の設定された電圧降下値)を差し引いた差分とする。
【0145】
本海洋調査システムで使用する海中通信ケーブル6を陸上で使用した場合には、海中通信ケーブル6の導通抵抗による電圧降下しか生じないから、モニターにより取得される現在の電圧降下値は、事前に想定した電圧降下値(設定された上記電圧降下値)とほぼ等しい。この一方、かかる海中通信ケーブル6を海中で使用した場合、モニターにより取得される現在の電圧降下値は(海中通信ケーブル6の導通抵抗による電圧降下値)+(海中の起電力による電圧降下値)であるから、上記(2)で算出される変動電圧は上記海中の通信外乱、特に、海中通信ケーブル6の移動による海中の起電力(外乱起電力)に相当するものである。
【0146】
(C)上記変動電圧から1kHz〜直流の低周波成分(本実施形態ではxDSLで用いる周波数帯域の2オクターブ下)を抽出し、上記ポンプアップ補正後の電圧レベルに重畳させることで、海中の通信外乱(外乱起電力)をキャンセルする。
【0147】
以上説明した海中の通信外乱(外乱起電力)のキャンセル処理を簡単に説明すると、このキャンセル処理は、海中投下型センサ5に到達した給電電圧が設定された電圧降下値より0.1Vだけ低かったら、データ信号の送信時に、上記(A)で説明したポンプアップ補正量を0.1Vだけ引き上げる(海上通信トランシーバIC部40Aの設定電圧レベルに0.1Vを追加)というものである。
【0148】
(D)上記重畳後の電圧レベルでデータ信号を海上通信トランシーバIC部40Aへ送信する。各センサ素子52a〜52eによって計測された計測データや電子カメラ52fによって撮影された画像データの信号は、いずれも、この重畳後の電圧レベルで送信される。
【0149】
この一方、海上通信トランシーバIC部40Aは、受信電圧レベルの設定値を有し、以下の(E)〜(F)に示す処理を行う。
【0150】
(E)海中通信ケーブル6を構成する2組のツイストペアケーブルCA1、CA2からデータ信号を受信し、これらのデータ信号に対して差動データ処理(双方のデータ信号を加算すると必ず“1”になる)を行い、差動データ処理済みのデータ信号を計測処理装置40へ送信する。
【0151】
(F)上記重畳後の電圧レベルで送信されてきたデータ信号を受信するとともに、そのデータ信号の受信電圧レベルを常時モニターする。そして、モニターによって取得した現在の受信電圧レベルとその上記設定値とを比較し、比較結果に応じて以下の処理を行う。
【0152】
<現在の受信電圧レベルの方が低い場合>
この場合は、上記(C)における重畳量が少なすぎるので、重畳量を増やすため、現在の受信電圧レベルと設定値との差分データを調整用パケットに格納して海中通信トランシーバIC部53Aへ送信する。
【0153】
<現在の受信電圧レベルの方が高い場合>
この場合は、上記(C)における重畳量が多すぎるので、重畳量を減らすために、現在の受信電圧レベルと設定値との差分データを調整用パケットに格納して海中通信トランシーバIC部53Aへ送信する。
【0154】
<現在の受信電圧レベルが設定値とほぼ等しい場合>
この場合は、受信電圧レベルが適正で、上記(C)での重畳量に過不足はないから、何もしない。
【0155】
上記調整用パケットを受信した海中通信トランシーバIC部53Aでは、調整用パケットに格納されている差分データを基に上記(C)における重畳量を調整し、この海中通信トランシーバIC部53Aは海上通信トランシーバIC部40Aに到達するデータ信号の受信電圧レベルが上記海上通信トランシーバIC部40Aの設定電圧レベルと等しくなるようにする。
【0156】
[海中計測]
本海洋調査システムにおける海中計測操作を以下に説明する。
【0157】
図5(a)において、オペレータは、ガン4のデータ表示装置43が示すGPS42の経緯度計測値がデータ設定ボタン44で予め設定した予定の値であることを確かめて、海中投下型センサ5を海中に投下する。投下はリリースピン12を矢印P方向に引いてセンサ固定バンド11を引きちぎればよい。これにより、海中投下型センサ5は、尾部に海中通信ケーブル6をつなげた状態で、自重で落下する。なお、使用状況により自重での落下が困難ならば、海中投下型センサ発射装置を設けてもよい。
【0158】
当該海中投下型センサ5が海面に着水すると、加速度センサ素子52eから大きい加速度値が検出され、データ表示装置43に着水した旨の表示がされる。次いで、図1(a)に示すように海中投下型センサ5が海中を落下していくと、各センサ素子の検出値が計測プラットフォーム53で較正され、較正されたデータが海中通信ケーブル6を経由して、ガン4の計測処理装置40に送られてくる。データは海中投下型センサ5の落下中、リアルタイムで順次計測され送られてくる。ガン4のデータ表示装置43には、これらのデータが表示され、オペレータがこれを見て計測が進行していることを確認できる。
【0159】
海中投下型センサ5の落下が始まると、これにつながった海中通信ケーブル6は、ケーブル・ボビン9aの中空コイル6aの内側から巻き戻されていく。海中通信ケーブル6のしなやかさ、中空コイル6aのテーパ形状の故に、ボビン9aからの巻き戻しは非常に軽く抵抗なくスムーズに行なわれる。
【0160】
海中計測は、データ設定ボタン44で予め設定された水深に海中投下型センサ5が到達するまで行なって終了するか、オペレータが計測状況を判断して終了するか、あるいは、できるだけ深いところまで計測する場合には、海中通信ケーブル6がボビン9aから巻き戻し終わったとき、または、海中投下型センサ5が海底に衝突して、加速度センサ素子52eが再び大きい加速度を検出したときに終了する。
【0161】
[センサ投棄]
計測終了を確認すると、オペレータは海中投下型センサ5の投棄操作を行なう。オペレータのデータ設定ボタン44操作によりケーブル・ボビン9aのロックを解除すると、自重でスライドアーム部4bが図5(a)矢印R方向にスライドして、計測処理装置側端子45と海中通信ケーブル端子6bとが離れて導通が絶たれる。更に、図5(b)に示すように、スライドアーム部4bがヒンジ4d回りに旋回していくと、センサーカートリッジ9がガン4から離脱し海中に落下して、センサーカートリッジ9、海中通信ケーブル6および海中投下型センサ5が、海中に投棄される。この投棄操作は非常に簡単、安全で、海中通信ケーブル6を手作業で切断する作業を必要としない。
【0162】
図1(b)のように、海中に沈んだセンサーカートリッジ9、海中通信ケーブル6および海中投下型センサ5は、時間の経過とともに、生分解が進んで生分解性材料が消滅し、無害な金属部分が残る。よって、海洋環境の汚染を起こすおそれがない。
【0163】
[海洋調査]
本海洋調査システムでは、例えば、以下の内容の海洋調査を行うことができる。
【0164】
<水面から海底までの海洋構造の調査>
本海洋調査システムでは、海中投下型センサ5が海中を落下する時に、海中投下型センサ5からリアルタイムで水温・水圧・落下加速度などの計測データが海上の計測処理装置40や後述の通りデータ収集表示用コンピュータ部1へ送信されてくるから、これらの計測データやGPS42で計測される投下位置(経緯度計測値)に基づいて、水面から海底落下ポイントまでの海洋構造(温度変化や潮流)を調査することができる。
【0165】
<海底の土質調査>
本海洋調査システムによると、海中投下型センサ5が海底に衝突した際、加速度センサ素子52eで検出した衝突時の加速度値から海底の土質を調査することができる。
【0166】
<熱水鉱床など、ダイバーや潜水艇が近づけない海域の可視化による調査>
熱水鉱床の周辺海水温度は200〜400℃に達するため、ダイバーや潜水艇が熱水鉱床に接近することは困難である。しかしながら、本海洋調査システムによると、海中投下型センサ5が熱水鉱床の近傍まで接近し、その映像データをxDSL通信で海上の計測処理装置40や後述の通りデータ収集表示用コンピュータ部1へ送信してくるので、熱水鉱床の状態変化をコマ落ちのないリアルな映像でリアルタイムに監視することができる。本海洋調査システムを使用すれば、ダイバーや潜水艇が近づけない海域でも安心してリアルタイムな映像で可視化でき、海洋における人類の活動領域を数倍拡張できる。
【0167】
図17は、本海洋調査システムをネットワークに組み込んだ例を示す。
【0168】
図17の例では、計測処理装置40とこれに海中通信ケーブル6を介して接続された海中投下型センサ5とを一組のセンサシステムSと観念し、かかるセンサシステムSが一つのルータ3dのLAN側に複数接続されるものとした。また、ルータ3dのLAN側にはデータ収集表示用コンピュータ部1も接続してある。ルータ3dはネットワーク上のパケットの経路制御を行う。
【0169】
各組の計測処理装置40はそれぞれDHCPサーバ機能を備えている。このDHCPサーバ機能によって、センサシステムS1、S2…ごとに、それぞれの海中投下型センサ5を構成するセンサ素子52a、52b、52c、52d、52e、電子カメラ52fおよびCPU52hなどのデバイスに対して、上記とは別の同一ネットワークに属するユニークなIPアドレス(172.16.101.11とか172.16.101.12など)が割り当てられる。
【0170】
計測プラットフォーム53(図6参照)は、各センサ素子52a、52b、52c、52d、52eおよび電子カメラ52f等のデバイスごとに、計測データや撮影データ等のデータを提供するデータ提供サービスプログラムを備えている。
【0171】
例えば、水圧センサ素子52aについては、それに対応して設けたデータ提供サービスプログラムによって、水圧データを提供するデータ提供サービスが行われる。
【0172】
また、加速度センサ素子52eについては、前述のように3軸(X軸、Y軸、Z軸)方向の加速度を検出するので、それぞれの軸方向の加速度データごとにデータ提供プログラムを備え、それらによって各軸方向の加速度データを個別に出力するデータ提供サービスが行われる。
【0173】
さらに、加速センサ素子52eのように、一つのデバイスが複数のデータを出力する場合は、それぞれのデータのデータ提供サービスプログラムごとにポート番号を付与し、このポート番号によってデータ提供サービスを特定するようになっている。
【0174】
次に、ネットワーク上のデータ収集表示用コンピュータ部1から一のセンサシステムS1にアクセスし、そのセンサシステムS1を構成する海中投下型センサ5から撮影データを取得する方法について説明する。
【0175】
データ収集表示用コンピュータ部1は、ルータ3d経由で計測処理装置40−1へパケットPを送信する。このパケットPはデータの送信を要求するものであり、パケットPのフレームヘッダ部に含まれている宛先IPアドレスは172.16.101.250である。
【0176】
上記パケットPが計測処理装置40−1に到達すると、計測処理装置40−1では、パケットPのフレームヘッダ部に含まれている宛先IPアドレス(172.16.101.250)によって特定されるデータ提供サービスプログラムは電子カメラ52fのデータ提供サービスプログラムであるので、計測処理装置40−1は、その電子カメラ52fのデータ提供サービスプログラムに対して、当該パケットPを転送する。
【0177】
パケットPを受け取った電子カメラ52fのデータ提供サービスプログラムは、電子カメラ52fで撮影される現在の画像データをパケット送信元へ、すなわちデータ収集表示用コンピュータ部1へパケット送信で送り返す。これにより、データ収集表示用コンピュータ部1は、現在の海中の画像データを取得することができる。
【0178】
本海洋調査システムでは、上述した通り、海上通信トランシーバIC部40Aと海中通信トランシーバIC部53Aとからなる通信処理手段TEによって、海中におけるxDSL通信など、海中での高速データ通信が可能であるから、画像データから得られる海中映像にコマ落ちはなく、スムーズな海中映像をリアルタイムに取得することができる。
【0179】
なお、センサシステムS1から水温センサ素子52bによる測定データを取得したい場合は、データ送信を要求する上記パケットP中の宛先IPアドレスを172.16.101.12とすればよい。そのようにすれば、172.16.101.12によって特定されるデータ提供サービスプログラムは水温センサ素子52bのデータ提供サービスプログラムであるので、水温センサ素子52bの測定データを取得することができる。他のセンサ素子による測定データを取得したい場合も同様である。
【0180】
別のセンサシステムS2から電子カメラ52fの画像データを取得したい場合には、上記パケットP中の宛先IPアドレスを172.16.51.250とすればよく、また、当該別のセンサシステムS2から水温センサ素子52bによる測定データを取得したい場合には、その宛先IPアドレスを172.16.51.12とすればよい。他のセンサシステムSnのデータを取得したい場合も同様である。
【0181】
上記のようなネットワーク構成によると、ルータ3dのWAN側は図示しない衛星通信装置を介してインターネットなどの広域IP網に接続されるので、広域IP網に接続された陸上の端末(図示省略)からセンサシステムS1、S2…にアクセスし、そのセンサシステムS1、S2…を構成する海中投下型センサ5から計測データや撮影データを取得することもでき、海洋上のみならず陸上からでもリアルタイムの海洋調査・観測が可能である。
【0182】
上記のようなネットワーク構成によると、計測処理装置40のDHCPサーバ機能によって海中投下型センサ5のセンサ素子52a〜52eと電子カメラ52fとに個別のIPアドレスを付与しているので、計測処理装置40からは、その各センサ素子52a〜52eや電子カメラ52fが、それぞれ計測処理装置40のDHCPで接続された独立のデバイスに見え、独立して動作しているように認識される。また、ルータ3dのDHCPサーバ機能によって計測処理装置40やデータ収集表示用コンピュータ部1に個別のIPアドレスを付与しているので、データ収集表示用コンピュータ部1からは、計測処理装置40が同じLAN内ネットワークのローカル端末の一つに見える。従って、海中投下型センサ5を多数同時に投下しても、計測が極めて容易である。
【0183】
上記のようなネットワーク構成によると、ルータ3dのWAN側は図示しない衛星通信装置を介してインターネットなどの広域IP網に接続されるので、広域IP網に接続された陸上の端末(図示省略)からセンサシステムS1、S2…にアクセスし、そのセンサシステムS1、S2…を構成する海中投下型センサ5から計測データや撮影データを取得することもでき、海洋上のみならず陸上からでもリアルタイムの海洋調査・観測が可能である。
【0184】
上記のようなネットワーク構成によると、計測処理装置40のDHCPサーバ機能によって海中投下型センサ5のセンサ素子52a〜52eと電子カメラ52fとに個別のIPアドレスを付与しているので、計測処理装置40からは、その各センサ素子52a〜52eや電子カメラ52fが、それぞれ計測処理装置40のDHCPで接続された独立のデバイスに見え、独立して動作しているように認識される。また、ルータ3dのDHCPサーバ機能によって計測処理装置40やデータ収集表示用コンピュータ部1に個別のIPアドレスを付与しているので、データ収集表示用コンピュータ部1からは、計測処理装置40が同じLAN内ネットワークのローカル端末の一つに見える。従って、海中投下型センサ5を多数同時に投下しても、計測が極めて容易である。
【0185】
以上の実施形態では、本発明の生分解性材料を海中投下型センサのセンサ筺体の構成材料として利用した例を説明したが、本発明の生分解性材料はその利用例に限定されることはなく、何らかの目的を持って海洋で使用され、その目的達成後に海洋に放棄される、いわゆる使い捨ての計測機器その他の物に対して広く一般に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】図1は、本発明を適用した海洋調査システムの機器模式図で、図中(a)は海中投下型センサが海中に投下され水中を落下中に計測している状態を、(b)は計測終了後切り離された海中投下型センサが海底に沈み、生分解進行前の状態をそれぞれ示す。
【図2】図2(a)、(b)、(c)および(d)は、データ収集表示用コンピュータ部とガンとの種々の接続例の説明図。
【図3】図3は、図2(d)の接続例の詳細図である。
【図4】図4(a)(b)は、海中通信ケーブルの説明図である。
【図5】図5(a)(b)は、ガンにセンサーカートリッジを組み付けた状態の説明図、同図(c)は、(a)中のB−B矢視図である。
【図6】図6(a)は、海中投下型センサの縦断面図、図6(b)は、同図(a)のB矢視図、図6(c)は、同図6(a)のC矢視図である。
【図7】図7は、図6(a)の海中投下型センサに搭載された電子カメラの断面の模式図である。
【図8】図8は図7の電子カメラにおける焦点制御の説明図であり、同図(a)は電子カメラの耐圧ゲルに水圧が作用しないときの焦点をXとし、焦点距離をLとして示したもの、同図(b)は所定の水圧が電子カメラの耐圧ゲルに作用したときの焦点をXとし、焦点距離をLとして示したもの、同図(c)は(b)よりも高い水圧が電子カメラの耐圧ゲルに作用したときの焦点をXとし、焦点距離をLとして示したものである。
【図9】図9は、水圧と水圧に応じた耐圧ゲルの屈折率との関係を記憶した対応テーブルの説明図である。
【図10】図10は、電子カメラの撮影と照明の照光との関係を示したタイムチャート図である。
【図11】図11は、海中通信の一の特性(海中通信におけるデジタル信号の電圧レベルの変化)を調査する実験の結果を示した説明図である。
【図12】図12(a)(b)(c)は、海中通信の別の特性(海中通信におけるデジタル信号の波形の変化)を調査する実験の結果を示した説明図である。
【図13】図13(a)(b)は、デジタルIC回路での“0”と“1”の認識の説明図である。
【図14】図14は、通信処理手段の説明図である。
【図15】図15(a)は、海中の通信外乱によって劣化した受信デジタル信号のパルス波形の説明図、同図(b)は、図14の通信処理手段において、海中の通信外乱によって劣化したデジタル信号のパルス波形を復元補正する方法の説明図である。
【図16】図16(a)(b)は、図14の通信処理手段において、海中の通信外乱によって劣化したデジタル信号のパルス波形を復元補正する方法の説明図である。
【図17】図17は、本海洋調査システムをネットワークに組み込んだ例の説明図である。
【符号の説明】
【0187】
1 データ収集表示用コンピュータ部
2 船舶
3 防水通信ケーブル
3a 無線通信装置
3b リムーヴァブル・メモリ取付け手段
3c リムーヴァブル・メモリ
3d ルータ
3e、3f LANケーブル
4 センサ投下用アタッチメント・ガン
4a ベースアーム部
4b スライドアーム部
4c フック
4d ヒンジ
5 海中投下型センサ
6 海中通信ケーブル
6a 中空コイル
6b 海中通信ケーブル端子
7 インタフェースユニット
8 USBケーブル
9 センサーカートリッジ
9a ケーブル・ボビン
9b センサ収納シェル
11 センサ固定バンド
12 リリースピン
31 絶縁電線
32 クッションシース
33 内部シース
34 外皮シース
40 計測処理装置
40A 海上通信トランシーバIC部
41 収納ボックス
42 GPSセンサ(自位置経緯度測位センサ)
43 データ表示装置
44 データ設定ボタン
45 計測処理装置側端子
46 カートリッジガイド溝
51 センサ筐体
52a 水圧センサ素子
52b 水温センサ素子
52c 電気伝導度センサ素子
52d 濁度センサ素子
52e 加速度センサ素子
52f 電子カメラ
521 固定撮像素子
522 レンズ
523 レンズ駆動手段
524 格納ケース
525 焦点制御手段
52g 照明
52Cab 配線ケーブル
53 計測プラットフォーム
53A 海中通信トランシーバIC部
54A ヘッドウエイト
54B バランスウエイト
55 姿勢安定用フィン
56 センサ導水路
58 圧力緩衝ゲル
59A 第1のケーブル孔
59B 第2のケーブル孔
61、62、63、64 ツイスト線
CA1、CA2 ツイストペアケーブル
Ct 対応テーブル
TE 通信処理手段
RL 合成レンズ
焦点距離
焦点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中に投下され、海中の情報を収集する海中投下型センサであって、
上記海中投下型センサは、
海中を撮影するカメラと、
海中の水圧を計測する水圧センサ素子と、
上記カメラを包み水圧から保護する耐圧ゲルと、
上記カメラの焦点を制御する焦点制御手段とを含み、
上記焦点制御手段は、
上記水圧センサ素子で計測した現在の水圧データから光の屈折率を取得し、取得した屈折率を基に上記カメラの焦点を制御すること
を特徴とする海中投下型センサ。
【請求項2】
上記光の屈折率は、上記カメラの外から上記耐圧ゲルを通過して当該カメラの固体撮像素子の方向に向かう光の屈折率であること
を特徴とする請求項1に記載の海中投下型センサ。
【請求項3】
上記光の屈折率を取得する方式は、上記水圧センサ素子で計測した現在の水圧データから上記耐圧ゲルの屈折率を算出する方式、または、水圧と光の屈折率とを対応させて格納した対応テーブルを用い、上記水圧センサ素子で計測した現在の水圧データに対応する光の屈折率を当該対応テーブルから得る方式であること
を特徴とする請求項1に記載の海中投下型センサ。
【請求項4】
上記海中投下型センサは、センサ筺体と、このセンサ筺体の頭部に設けたヘッドウエイトと、上記センサ筺体の尾部側に位置する姿勢安定用フィンの近傍に設けたバランスウエイトとを有し、
上記カメラは、上記ヘッドウエイトの前端面に固定支持され、
上記ヘッドウエイトは、上記海中投下型センサを速く落下させる役割と、その海中投下型センサの重心をセンサトップ側に偏らせることで海中投下型センサ全体の重心の安定性を高める役割と、水圧に晒される上記カメラを圧力から保護し定位置に固定する役割とを果たし、
上記バランスウエイトは、上記センサ筺体の尻振れや回転を抑制して、上記カメラの撮影ブレを低減する役割を果たすこと
を特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の海中投下型センサ。
【請求項5】
海中に投下される海中投下型センサと、
海上に位置する計測処理装置と、
上記海中投下型センサと上記計測処理装置とを接続する海中通信ケーブルと、
上記海中投下型センサと上記計測処理装置との間で上記海中通信ケーブルを介して信号を送受信する通信処理手段とを備え、
上記海中投下型センサは、
海中を撮影するカメラと、
海中の水圧を計測する水圧センサ素子と、
上記カメラを包み水圧から保護する耐圧ゲルと、
上記カメラの焦点を制御する焦点制御手段とを含み、
上記焦点制御手段は、
上記水圧センサ素子で計測した現在の水圧データから上記耐圧ゲルの屈折率を取得し、取得した屈折率を基に上記カメラの焦点を制御し、
上記通信処理手段は、
海中の通信外乱をキャンセルし、上記海中通信ケーブルを介して上記海中投下型センサから上記計測処理装置へ上記カメラの映像信号を送信する
ことを特徴とする海中通信システム。
【請求項6】
上記海中の通信外乱のキャンセルは、劣化したデジタル信号のパルス波形を復元補正することであって、
上記復元補正は、鈍化したデジタル信号のパルス波形の立ち上がりを矩形波のように鋭角に補正すること、および、低下したデジタル信号の電圧レベルを規定電圧レベルに戻すことを含むこと
を特徴とする請求項5に記載の海中通信システム。
【請求項7】
上記通信処理手段は、上記計測処理装置側に設けた海上通信トランシーバIC部と、上記海中投下型センサ側に設けた海中通信トランシーバIC部とからなり、
上記復元補正のうち、低下したデジタル信号の電圧レベルを規定電圧レベルに戻す復元補正は、以下(A)〜(D)に示す処理を行うものであること
を特徴とする請求項6に記載の海中通信システム。
(A)ポンプアップ補正を行う。このポンプアップ補正は、海上通信トランシーバIC部から海中通信トランシーバIC部に到達するデータ信号の電圧レベルをモニターし、モニターによって取得した現在のデータ信号の電圧レベルを当該海上通信トランシーバIC部の設定電圧レベルまで引き上げるものとする。
(B)変動電圧を求め記録する。この変動電圧は、海上通信トランシーバIC部から海中通信トランシーバIC部までの間に生じた電圧降下をモニターし、モニターによって取得した現在の電圧降下値から事前に想定される電圧降下値を差し引いた差分とする。
(C)上記変動電圧から1kHz〜直流の低周波成分を抽出し、上記ポンプアップ補正後の電圧レベルに重畳させる。
(D)上記重畳後の電圧レベルでデータ信号を海上通信トランシーバIC部へ送信する。
【請求項8】
上記海上通信トランシーバIC部は、受信電圧レベルの設定値を有し、上記重畳後の電圧レベルで送信されてきたデータ信号を受信するとともに、そのデータ信号の受信電圧レベルをモニターし、モニターによって取得した現在の受信電圧レベルとその上記設定値とを比較し、比較結果に応じて以下の処理を行うこと
特徴とする請求項7に記載の海中通信システム。
<現在の受信電圧レベルの方が低い場合>
この場合は、上記(C)における重畳量が少なすぎるので、重畳量を増やすため、現在の受信電圧レベルと設定値との差分データを調整用パケットに格納して上記海中通信トランシーバIC部へ送信する。
<現在の受信電圧レベルの方が高い場合>
この場合は、上記(C)における重畳量が多すぎるので、重畳量を減らすために、現在の受信電圧レベルと設定値との差分データを調整用パケットに格納して上記海中通信トランシーバIC部へ送信する。
<現在の受信電圧レベルが設定値とほぼ等しい場合>
この場合は、受信電圧レベルが適正で、上記(C)での重畳量に過不足はないから、何もしない。
【請求項9】
上記調整用パケットを受信した海中通信トランシーバIC部は、上記調整用パケットに格納されている差分データを基に上記(C)における重畳量を調整し、この海中通信トランシーバIC部から上記海上通信トランシーバIC部に到達するデータ信号の受信電圧レベルが上記海上通信トランシーバIC部の設定電圧レベルと等しくなるようにすること
を特徴とする請求項8に記載の海中通信システム。
【請求項10】
上記海中通信ケーブルは、2組のツイストペアケーブルを撚り合わせた構成になっていること
を特徴とする請求項5に記載の海中通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−244554(P2009−244554A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90385(P2008−90385)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【特許番号】特許第4221510号(P4221510)
【特許公報発行日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(399121553)株式会社エスイーシー (4)
【Fターム(参考)】