説明

海藻の抽出物を有効成分として含有する抗炎症組成物

【課題】安全性の高い海藻由来の抗炎症組成物の提供。
【解決手段】ハネモ属、イワズタ属及びミル属より選ばれた緑藻類、並びに紅藻類から選ばれた少なくとも1種類の海藻の抽出物を有効成分として含有する抗炎症組成物。該海藻としては、イワズタ、ミル、テングサ、ツノマタであることが好ましい。該抽出物は、熱水による抽出であることが好ましい。該組成物は、液体又は軟膏の剤型であることが好ましい。該抽出物は、リポキシゲナーゼ活性阻害作用を有し、食品又は化粧品へ適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハネモ属、イワズタ属及びミル属より選ばれた緑藻類、並びに紅藻類から選ばれた少なくとも1種類の海藻の抽出物を有効成分として含有する抗炎症組成物等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アラキドン酸代謝産物はアレルギー性疾患や炎症などに大きく係わっていることが知られている。アラキドン酸代謝経路は、プロスタグランジン類やトロンボキサン類を産生するシクロオキシゲナーゼ系と、HETE(ヒドロキシエイコサテトラエン酸) を経てロイコトリエン類を産生するリポキシゲナーゼ系の2つに大別される。細胞が刺激されると、それに応答して細胞内カルシウム濃度が上昇して細胞膜リン脂質よりアラキドン酸が遊離される。遊離されたアラキドン酸はシクロオキシゲナーゼ及びリポキシゲナーゼによる代謝も受ける。
【0003】
リポキシゲナーゼは血小板、白血球、マクロファージ、好酸球、皮膚、毛根、角膜、肺、前立腺などに発現している酵素であり、酸素添加するアラキドン酸の位置に応じて、5−リポキシゲナーゼ、12−リポキシゲナーゼ及び15−リポキシゲナーゼの3種類のリポキシゲナーゼが哺乳類では知られている。
【0004】
白血球で発現する5−リポキシゲナーゼは強力な病態生理作用をもつロイコトリエン類の生合成の初発酵素であり、ロイコトリエン類が産生される。ロイコトリエン類は気道平滑筋収縮作用、気道粘膜分泌作用、血管透過性作用等があり、気管支喘息や炎症の強力なメディエーターであり、急性炎症を引き起こす。一方、12−リポキシゲナーゼ及び15−リポキシゲナーゼはヘポキシリン及びリポキシンの生合成に関与している。
【0005】
近年の研究ではリポキシゲナーゼがLow density lipoprotein(LDL)のエステル化された多価不飽和脂肪酸を酸化することができることにより、動脈硬化の進展に関与していることが提唱されており、リポキシゲナーゼ代謝系は、急性炎症のみならず、慢性炎症に進展する疾患まで広く関与していると考えられている。
【0006】
これまでに、上記のような疾患に対する薬効を示す物質を探索すべく、アラキドン酸代謝経路にある酵素を阻害する作用を有する天然物由来の物質の同定が行われてきた。例えば、特許文献1には、褐藻類に属する海藻由来のシクロオキシゲナーゼ−2阻害物質等が開示されており、該物質がナチュラルキラー細胞の活性化腫瘍細胞の増殖抑制を示すことが記載されている。又、特許文献2には、マスト細胞からの脱顆粒抑制効果を有する抗アレルギー性物質の海藻からの製造方法が開示されている。
【0007】
更に、非特許文献1には、アラキドン酸代謝酵素を阻害する農産物に関する研究結果が記載されており、5−リポキシゲナーゼ阻害作用を有する物質として、グリンピース、シシトウ、オリーブ、オクラ、シロミソ、ヒジキ、ワカメ、及びコンブ等から、メタノール抽出後の水と2−ブタノールで分配し、更にブタノール抽出した後のジエチルエーテル可溶画分とジエチルエーテル不溶画分物として得られたものが具体的に挙げられている。
【0008】
又、非特許文献2には、緑藻の酢酸エチル抽出物から同定された、リポキシゲナーゼ阻害活性を有する化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−120738号公報
【特許文献2】特開2007−84518号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Bull. Shikoku Natl. Agric. Exp. Stn. No.61, March 1997, p.31-36
【非特許文献2】Fisheries Science 64 (2), 346-347 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、さまざまな疾患にかかわるリポキシゲナーゼ酵素活性を強力に阻害することができる、天然物由来で安全性が高い物質が求められている。
【0012】
本発明の目的は、上記課題を解決し、人体に対する優れた抗炎症効果が実証された、安全性の高い天然由来の成分等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、ハネモ属、イワズタ属、及びミル属等の緑藻類、並びに、テングサ及びツノマタ等の紅藻類に属する海藻由来の抽出成分が優れた抗炎症効果を有することを臨床的に確認し、本発明を完成した。
【0014】
即ち、本発明は、ハネモ属、イワズタ属及びミル属より選ばれた緑藻類、並びに紅藻類から選ばれた少なくとも1種類の海藻の抽出物を有効成分として含有する抗炎症組成物等に係る。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、ネモ属、イワズタ属、及びミル属等の緑藻類、並びに、テングサ及びツノマタ等の紅藻類に属する海藻由来の抽出物を有効成分とする、優れた抗炎症効果を有する組成物を提供することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明組成物であるクビレヅタ軟膏の接触性皮膚炎モデルに対する作用を示す。
【図2】本発明組成物であるクビレヅタ軟膏のUVB照射モデルおける皮膚障害に対する作用を示す。
【図3】本発明組成物であるクビレヅタ軟膏のUVB照射モデルおける皮膚障害に対する作用を示す。
【図4】本発明組成物であるクビレヅタ軟膏のUVB照射モデルおける皮膚障害に対する作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明組成物に含まれる有効成分は、ハネモ属、イワズタ属及びミル属より選ばれた緑藻類、並びに紅藻類から選ばれた少なくとも1種類の海藻の抽出物である。従って、数種類の海藻から抽出物を適宜混合しても良い。このような海藻の代表的な例として、緑藻類であるイワズタ(Caulerpa lentilifera)及びミル、並びに、紅藻類であるテングサ(テングサ科)及びツノマタ(スギノリ科)を挙げることが出来る。
【0018】
有効成分の抗炎症活性が損なわれない限り、海藻からの有効成分の抽出方法に特に制約はなく、例えば、食用として利用されている海藻を生の状態で真水にて洗い、手で絞ったりミキサー等を用いた機械的作用を利用した水抽出法、又は、85℃等の熱水をかけるなどして細胞壁を破解し、圧搾して出る抽出液、又はこれを遠心分離にかけて上清を取って抽出原液とする。特にイワズタ属、ミル属では貯留液ができるので、このような簡単な抽出方法で多くの液体を回収できる。更に、こうして得られた抽出原液を適当に薄めて使用したり、乾燥粉末やペースト状にしてもよい。又、通常の有機溶剤を使用して抽出することも出来る。
【0019】
本願発明の抗炎症組成物は、有効成分であるこのような海藻からの抽出物それ自体、又は、精製水等で適当な倍率で希釈したものから構成されていても良い。更に、該組成物は製剤用担体又は補助剤として当業者に公知の任意の薬理学上受容可能な物質を含むことが出来る。
【0020】
このような製剤用担体又は補助剤の具体的としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、でん粉、ショ糖、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軟質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ろう、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコール、水等が挙げられる。
【0021】
例えば、本発明の組成物には、その使用目的、有効成分の種類・量、形態等の諸条件を考慮して、投与対象において抗炎症効果を有意に奏功するに十分な量の海藻の抽出物を薬理学上の有効量として含有させることが出来る。例えば、該組成物重量当たり、数〜数十重量%、好ましくは、10〜20重量%程度の割合で含有させることができる。
【0022】
本発明の抗炎症組成物は、当業者に公知の任意の投与経路、例えば、経口投与、皮膚外用剤等の非経口投与、及び直腸内投与等で投与することが出来る。
【0023】
本発明の組成物は投与経路、患者の症状、年齢等に応じて、任意の剤型をとることが可能である。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒、内服液、散剤、シロップ剤、及び、坐剤等の内服剤;軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、スプレー剤、及び、ローション剤等の皮膚外用剤;液体製剤、懸濁剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製することが出来る。なお、液体製剤にあっては、適用に際して、水又は他の適当な溶媒に溶解又は懸濁する形であってもよい。また錠剤、顆粒剤を、周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、上記の抽出物を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水あるいはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。
【0024】
本発明の抗炎症組成物に含まれる有効成分の含有量は、投与方法、患者の症状、年齢等に応じて当業者が適宜決めることが出来るが、対象がヒトの場合、通常0.001%から30重量%で配合する。又、抗炎症組成物を経口投与する際には、通常、体重当たり1回0.01〜30mg/kg、好ましくは、1〜10mg/kgを1日当たり1回 〜複数回である。皮膚外用剤等の非経口投与の場合には、適用箇所に必要に応じて、適宜、塗布等することが出来る。
【0025】
本発明の抗炎症組成物の抗炎症作用としては、一般的に、ロイコトリエン類が有する気道平滑筋収縮作用、気道粘膜分泌作用、及び、血管透過性作用等を阻害・抑制する作用であり、例えば、本願明細書の実施例に具体的に示されているような、表皮毛細血管の収縮による皮膚の蒼白化、耳介浮腫の抑制、又は、UVB(波長280nm〜320nm の紫外線)照射による傷害の抑制を挙げることが出来る。
【0026】
更に、本願明細書の実施例に具体的に示されているように、本願発明組成物に有効成分として含まれる海藻の抽出物は、リポキシゲナーゼ活性阻害作用を有することが確認されている。
【0027】
又、本願発明組成物に有効成分として含まれる海藻の抽出物は、抽出液や乾燥粉末として、公知の各種食品(麺、パン、ゼリー、ケーキなど)又は化粧品等に添加してもよい。このようにして得られる食品はリポキシゲナーゼ活性阻害成分を含有した高機能性食品となる。
【0028】
以下に、本発明ついて、実施例を示して具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の理解を助けるためのものであって、本発明の技術的範囲はこれらにより限定されるものではない。従って、本発明の技術的特徴を備える限り、適当な改変・修飾等がなされた技術も本発明の技術的範囲に属する。
【実施例1】
【0029】
乾燥抽出物の製造例
生のクビレヅタに85℃の熱湯をかけた後、圧搾して出た抽出液を3000〜5000rpm、5〜10分間、遠心分離機にかけ、その上清を抽出原液とした。
【0030】
リポキシゲナーゼ阻害活性試験
上記の抽出原液についてリポキシゲナーゼ(LOX)inhibitor screening assay キット(Cayman社、 アメリカ合衆国)を用いて5−,12−及び15−LOXに対する阻害活性を測定した。測定方法は、同社の分析操作方法に基づいて行った。すなわち、クビレヅタ抽出原液を5分間100℃で熱して抽出液中のリポキシゲナーゼ活性を死活させ、冷ました後、3倍及び6倍に希釈してLOX阻害剤として所定の緩衝液に溶解して、系に指定の量を添加して反応後、500nmの吸光度を分光度計で測定し、それぞれの希釈液での阻害活性率を求めた。尚、阻害率の計算式は以下の通りである。
【0031】
【数1】

【0032】
その結果、阻害活性率が3倍希釈した抽出液では23.5%、6倍希釈した抽出液では12.0%であり、希釈液が倍になると阻害活性率が半分になっていることがわかり、クビレヅタ抽出原液がリポキシゲナーゼ阻害活性を有することが明らかになった。
【実施例2】
【0033】
薬理試験1(皮膚蒼白化試験)
健常成人10名のクビレヅタ抽出液塗布後の蒼白化を目視で確認した。即ち、前述クビレヅダ抽出原液を精製水で10倍に薄めて本発明の組成物を調製した。これを健常成人の前腕あるいは手背に塗布した。その結果、被検者全員が5分以内に塗布部の蒼白化を認めた。経皮吸収されたクビレヅタ抽出液は速効的に表皮の毛細血管を収縮させ、健常人の皮膚を蒼白化する効果があることがわかった。
【実施例3】
【0034】
薬理作用2(ステロイド)
ステロイド未使用の成人のアトピー性皮膚炎罹患者及び敏感肌の紅斑部に、実施例2と同じ10%クビレヅタ抽出液を塗布して、皮膚の変化を目視で評価した。
【0035】
評価の方法
紅斑、浮腫に対して、著しく強い場合を3+、非常に強い場合を2+、強い場合を1+、軽度に変化を認める場合を±、まったく変化がなく性状の場合を−とした。その結果を以下の表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
確認結果及び評価
健常成人と同様に皮膚炎患者でも速効的に表皮の毛細血管を収縮させ、紅斑、浮腫が改善し、クビレヅタ抽出液が非常に顕著な抗炎症効果を有することがわかった。またケース3では1次的にしか紅斑が改善しなかったが、連続使用すると浮腫が消失して紅斑の程度が改善し、皮膚肥厚も改善することが確認できた。
【実施例4】
【0038】
更に、実施例1と同様の方法でテングサ及びツノマタ及びミルからの抽出物に関してリポキシゲナーゼ阻害活性試験を行った。
【0039】
テングサは真空凍結乾燥せずに、ツノマタは真空凍結乾燥した後、超遠心粉砕機を用いてサンプルをパウダー状にし、以下の処理にかけた。一方、ミルはそのまま以下の処理にかけた。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
測定結果
それぞれの阻害率[%]は以下の表4の通りである。更に、4倍希釈したものの阻害率[%]に、各々4を掛けて、希釈していないものの阻害率[%]と比較した(表5)。その結果それぞれ2つの値に大きな差がないので、試験したいずれの抽出物は阻害活性を有していると考えられた。

【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【実施例5】
【0045】
クビレヅタ軟膏の接触性皮膚炎モデルに対する作用
目的
クビレヅタエキス含有軟膏の抗炎症活性を評価するため、接触性皮膚炎(IV型アレルギー)モデルとして知られる、塩化ピクリルをもちいたマウスの耳介浮腫モデルを用いてその作用を調べた。
【0046】
試薬
インドメタシン
親水軟膏:局方親水軟膏「ホエイ」(ニプロファーマ製)
Control軟膏:蒸留水を4倍量の親水軟膏に加え、乳鉢等でよく攪拌した。
クビレヅタ軟膏:20%クビレヅタ軟膏(通常の親水軟膏に実施例1で得たクビレヅタエキスを20%配合したもの)。
1%インドメタシン軟膏(Positive Control):インドメタシンを5%になるように蒸留水に溶解し、4倍量の親水軟膏に加え、乳鉢等でよく攪拌した。
【0047】
方法
1. Sentitization
1)HOS:HR-1ヘアレスマウスを18頭用意した((日本エスエルシー、Control群, Positive Control群, クビレヅタ群)。
2)5%塩化ピクリル アセトン/オリーブ油(1:1)溶液を50μL腹部に2日間連続して塗布した。
2. Challenge
1)塗布後3日後にすべてのマウスにウレタンを腹腔に投与して麻酔した(1.25g/kg)。
2)1%塩化ピクリル アセトン/オリーブ油(1:1)溶液をマウスの右耳介両面に10μLずつ塗布した。
3)30分後にControl軟膏、インドメタシン軟膏、クビレヅタ軟膏を右耳介両面に10mg塗布した。
4)6時間後に耳介厚を尾崎製作所製モデルG-1Aゲージで測定した。右の耳介厚から左の耳介厚を差し引いた値を浮腫として評価した。
【0048】
結果
クビレヅタ軟膏は耳介の浮腫を有意に抑制した。抑制の程度はポジティブコントロールとして用いた1%インドメタシンと同等かやや弱い程度であった(図1)。
【実施例6】
【0049】
クビレヅタ軟膏のUVB照射モデルに対する効果
目的
クビレヅタエキスの皮膚障害に対する作用を調べるため、UVB照射したヘアレスマウスの皮膚の色調(赤さ)および浮腫に対するクビレヅタ軟膏の作用を調べた。
【0050】
試薬
親水軟膏:局方親水軟膏「ホエイ」(ニプロファーマ製)
Control軟膏:蒸留水を4倍量の親水軟膏に加え、乳鉢等でよく攪拌した。
クビレヅタ軟膏:20%クビレヅタ軟膏(実施例5と同じ)。
市販サンスクリーン製品(Positive Control):SPF25, PA++の乳液。
【0051】
方法
1)ヘアレスマウスHOS:HR-1♀8週齢(日本エスエルシー)を18頭用意した。
2)背部皮膚の色調を分光測色計(コニカミノルタCR-400)で測定し、a*値(赤色度)が均一になるように3群(Control群, Positive control群, クビレヅタ群)に分けた。
3)各群背部にそれぞれControl軟膏、市販サンスクリーン製品、クビレヅタ軟膏を塗布した(約10mg/マウス)。
4)UVB(三共電機GL-20SE x 4本をSCHOTT WG295相当のガラスフィルタ(5mm)で低波長成分をカットしたもの)を200mJ/cm2照射した(6分40秒)。
5)照射直後に再度軟膏を塗布した。
6)照射48, 72時間後にマイクロメーターで皮膚厚を測り、浮腫の指標とした。
7)照射72時間後に分光測色計で背部皮膚3カ所の色調を測定し、a*値を算出した。
8)クビレヅタエキスを水で10倍希釈し、UV吸収スペクトルを得て、クビレヅタエキスがUVBを吸収するか調べた。
【0052】
結果
得られた結果を図2〜4に示す。皮膚厚(浮腫)、色調(赤さ)のいずれもクビレヅタエキスは有意にUVBによる傷害を押さえていた。一方、クビレヅタエキス自身はほとんどUVB領域(280〜320nm)の吸収を示さなかった。このことから、クビレヅタエキスはUVを吸収するサンスクリーン作用ではなく、抗炎症作用によってUVBによる傷害を抑制したものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の抗炎症組成物は古くから食用などに用いられる海藻類から抽出されるものであるので、人体への安全性はきわめて高い。更に、該組成物非常に優れた抗炎症効果を有することが人体及びマウスの皮膚で実際に確認できたことから、該組成物を人体へ適用することが直ちに可能である。
【0054】
本発明の組成物に含まれる有効成分は海藻からの抽出物をとしている為に副作用の心配なく、該有効成分に基づき、アレルギー、動脈硬化、中枢神経疾患、育毛、及び美白剤等のリポキシゲナーゼが係わると考えられる様々な疾患の予防・治療を図る医薬品を開発することができる。
【0055】
例えば、成人病、抗炎症、抗腫瘍、心臓病、腎臓病、肝臓病、動脈硬化、婦人病、皮膚疾患、糖尿病、アルツハイマー、リウマチ、高血圧、抗アレルギー、中枢神経疾患、角膜疾患、網膜疾患、胃腸疾患、呼吸器疾患、前立腺疾患、発毛、美白、体脂肪減少、高脂血症などの予防、治療、病状の維持に有効であると考えられる。
【0056】
更に、医薬品級の機能性を有する皮膚用材等の化粧品の開発、食品・食品添加物等への応用等の広範囲な産業分野において、本発明組成物の利用可能性を見出すことが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハネモ属、イワズタ属及びミル属より選ばれた緑藻類、並びに紅藻類から選ばれた少なくとも1種類の海藻の抽出物を有効成分として含有する抗炎症組成物。
【請求項2】
イワズタ、ミル、テングサ、及び/又はツノマタの抽出物を有効成分として含有する抗炎症組成物。
【請求項3】
イワズタの抽出物を有効成分として含有する抗炎症組成物。
【請求項4】
熱水による抽出物を有効成分として含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗炎症組成物。
【請求項5】
表皮毛細血管の収縮による皮膚の蒼白化、耳介浮腫の抑制、又は、UVB照射による傷害の抑制で示される抗炎症作用を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗炎症組成物。
【請求項6】
海藻の抽出物がリポキシゲナーゼ活性阻害作用を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗炎症組成物。
【請求項7】
液体又は軟膏の剤型である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗炎症組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗炎症組成物を含む、食品又は化粧品。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−12052(P2011−12052A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118916(P2010−118916)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(509173661)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【Fターム(参考)】