説明

浸漬処理装置のワーク浸漬装置および浸漬処理装置

【課題】ワーク浸漬時のワークおよびワーク処理槽の環境を一定にし、ムラ無く適切に表面処理を行うことができる浸漬処理装置のワーク浸漬装置および浸漬処理装置を提供する。
【解決手段】ワークWに表面処理を行うワーク処理槽5の処理溶液に、ワークWを浸漬するための浸漬処理装置1の浸漬移動機構17であって、ワークWを吊り下げる吊下げ機構51と、吊下げ機構51を昇降自在に支持すると共に、吊下げ機構51を介してワークWをワーク処理槽5に浸漬する昇降機構52と、を備え、吊下げ機構51を支持する昇降機構52の出力端であるリードねじ79が、吊下げ機構51およびこれに吊り下げられたワークWの重心位置に配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに表面処理を行うワーク処理槽の処理溶液に、前記ワークを浸漬するための浸漬処理装置のワーク浸漬装置および浸漬処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の浸漬処理装置のワーク浸漬装置として、処理液を貯留した液槽に、ケーシング(ワークマガジン)に収容した複数個のワークをケーシングと共に浸漬するものが知られている(特許文献1参照)。このワーク浸漬装置は、支持バーを介して、ケーシングの上端に片寄って取り付けた棒状の係止具と、先端を係止具と離間してケーシングに取り付けた一対のワイヤから成る吊り具と、吊り具を引張る手段と、を備えている。係止具を液槽の上端に係止し、吊り具を送り込むことで、ケーシングが回動して液槽に浸漬され、この状態から吊り具をひくことで、ケーシングが逆方向に回動して液槽から引き上げられる。
【特許文献1】特開平7−268693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような、従来のワーク浸漬装置では、係止具を中心に、ワークを収容したケーシングを回動させることにより、ワークの処理液への浸漬が行われる。このため、各ワークの浸漬条件が異なることになると共に、液槽内に波立ちが生じ易くなり、ワークの引き上げ時に波立ちが影響する処理では、適切な浸漬処理が不可能となる問題があった。
【0004】
本発明は、処理ムラを生ずることなく、ワークを適切に表面処理することができる浸漬処理装置のワーク浸漬装置および浸漬処理装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の浸漬処理装置のワーク浸漬装置は、ワークに表面処理を行うワーク処理槽の処理溶液に、ワークを浸漬するための浸漬処理装置のワーク浸漬装置であって、ワークを吊り下げる吊下げ機構と、吊下げ機構を昇降自在に支持すると共に、吊下げ機構を介してワークをワーク処理槽に浸漬する昇降機構と、を備え、吊下げ機構を支持する昇降機構の出力端が、吊下げ機構およびこれに吊り下げられたワークの重心位置に配設されていることを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、吊下げ機構を支持する昇降機構の出力端が、吊下げ機構およびこれに吊り下げられたワークの重心位置に配設されているため、昇降機構の駆動によるワークの浸漬動作において、ワークを、その姿勢を維持したまま安定に昇降させることができる。特に、ワークを処理溶液に浸漬してゆくとき或いは引き上げてゆくときに、昇降機構が受ける荷重が変化するが、その際、吊下げ機構やワークが傾くことがない。したがって、処理溶液の波立ちが抑制され、ワークを適切に表面処理することができる。なお、ワークの引き上げは、ワーク投入時の波立ちが収まるのを待って行うことが、好ましい。
【0007】
この場合、吊下げ機構は、ワークの浸漬に連動してワーク処理槽を閉蓋する処理時開閉蓋を、有していることが好ましい。
【0008】
この構成によれば、ワークの浸漬中において、処理時開閉蓋によりワーク処理槽が閉塞される。このため、周辺気流による処理溶液の波立ちや塵埃等の異物の混入が防止されると共に、揮発性の高い処理溶液にあっては、その蒸散を抑制することができる。
【0009】
この場合、昇降機構は、ロータの軸心に形成した雌ねじにリードねじを螺合した特殊モータを有し、リードねじの下端が昇降機構の出力端を構成していることが、好ましい。
【0010】
この場合、リードねじおよび雌ねじが、ボールねじで構成されていることが、好ましい。
【0011】
この構成によれば、装置構成を単純化することができると共に、リードねじ自身は回転しないため(雌ねじ(ロータ)が回転)、昇降に際し出力端を介して吊下げ機構に回転力が作用することがない。したがって、ワークを、その姿勢を維持したまま極めて安定に昇降させることができる。
【0012】
この場合、特殊モータが、ステッピングモータで構成されていることが、好ましい。
【0013】
この構成によれば、特殊モータの回転制御を精密に行うことができるため、昇降速度を所望の一定速度で精度良く行うことができ、ワークを、極めて安定に昇降させることができる。
【0014】
この場合、ワークの複数個がワークマガジンにセットされた状態で、ワークマガジンと共にワーク処理槽に浸漬され、吊下げ機構は、前記ワークマガジンを吊り下げるための、丸棒を折り曲げて形成した一対のフックを有していることが、好ましい。
【0015】
この構成によれば、1回の浸漬処理で複数個のワークを表面処理することができるため、作業効率が大幅に向上し、またワークマガジンにセットされた複数のワークを、同一条件で浸漬処理することができる。さらに、各フックが、丸棒を折り曲げて形成されているため、この部分の水切り性を良好なものとすることができる。
【0016】
この場合、吊下げ機構は、一対のフックを、ワークマガジンに対する吊下げ位置と吊下げ解除位置との間で同時に移動させるアクチュエータを、更に有していることが、好ましい。
【0017】
この構成によれば、ワークマガジンにセットした複数のワークを浸漬処理した後に昇降させ、吊下げ機構のフックからワークマガジンを取り外し、新たなワークマガジンを装着させることができる。したがって、ワークマガジンを入れ替えるだけで、新たなワークの浸漬処理も同じ環境で、効率良く実施することができる。
【0018】
これらの場合、昇降機構を支持すると共に、昇降機構および吊下げ機構を介して吊り下げたワークマガジンを、ワークマガジンの徐給材位置とワーク処理槽の直上位置との間で移動させる横移動機構を、更に備えることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、ワーク処理槽から離れた位置に徐給材されるワークマガジン(ワーク)を、ワーク処理槽の直上位置との間で円滑に搬送することができる。
【0020】
この場合、横移動機構は、昇降機構を片持ちで支持していることが、好ましい。
【0021】
この構成によれば、横移動機構による昇降機構の移動軌跡を含め、全体として省スペース化を図ることができる。
【0022】
本発明の浸漬処理装置は、上記した浸漬処理装置のワーク浸漬装置と、ワーク処理槽と、を備えたことを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、処理ムラを生ずることなく、ワークを適切に表面処理することができ、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付した図面を参照して、本発明の一実施形態に係る浸漬処理装置について説明する。この浸漬処理装置は、処理溶液にワークを浸漬してコーティング等の表面処理を行う、いわゆるDipコータである。
【0025】
図1または図2に示すように、浸漬処理装置1は、下部のタンクキャビネット2と、タンクキャビネット2の上面に配設した機台3と、機台3上に設置され、ワーク処理槽5を有する処理装置本体4と、処理装置本体4を収容し、機台3の上部空間を覆うようにして設けられた装置カバー6と、を備えている。タンクキャビネット2および装置カバー6は、図外の排気設備に連通しており、内部雰囲気が適宜換気されるようになっている。また、浸漬処理装置1には、装置カバー6の背面側に設けた電装ボックス7と、装置カバー6の正面(前面)に設けた制御装置本体8とから成る制御装置9が組み込まれている。
【0026】
処理対象物であるワークWは、方形の金属板であり、その複数枚(20枚)を単位としてワークマガジン11に収容して、浸漬処理装置1に対し徐給材される。より具体的には、複数枚のワークWを並べて収容した2個のワークマガジン11,11が、マガジントレイ12に搭載され、マガジントレイ12と共に2個のワークマガジン11,11が一括して、浸漬処理装置1に対し徐給材される。そして、複数枚のワークWは、ワークマガジン11と共にワーク処理槽5に浸漬され、表面処理される。なお、本実施形態の表面処理において処理ムラが生じないようにするためには、ワークマガジン11を処理溶液から定速でゆっくり引き上げること、およびその際に処理溶液に波立ちが生じていないこと、が重要となる。
【0027】
処理装置本体4は、ワークを浸漬処理するワーク処理槽5と、ワーク処理槽5の上端開放部を開閉する開閉蓋14と、ワーク処理槽5に隣接するワーク給材部15に配設したマガジンセット機構16と、複数枚のワークWをワークマガジン11と共に、ワーク給材部15とワーク処理槽5との間で浸漬移動させる浸漬移動機構(ワーク浸漬装置)17と、ワーク処理槽5に対し開閉蓋14を開閉移動させる蓋移動機構18と、を備えている。ワーク処理槽5とマガジンセット機構16とは、機台3の前部に配設され、浸漬移動機構17と蓋移動機構18とは、上下に重なった状態で機台3の後部に配設されている。
【0028】
浸漬移動機構17は、ワークマガジン11をフッキングしてワーク処理槽5の直上部まで移動させ、蓋移動機構18が開閉蓋14を開放するのを待って、ワークマガジン11をワーク処理槽5に浸漬する。この浸漬処理では、浸漬移動機構17は、ワークマガジン11を処理溶液にゆっくり沈めてゆき、液面の波立ちが静まるのを待ってゆっくり引き上げてゆく。これにより、ワークマガジン11内の複数枚のワークWに表面処理が適切に行われる。後述するように、処理溶液は揮発性の高い溶媒を含んでおり、このワークマガジン11の引き上げ中に、ワークマガジン11やワークWに付着した処理溶液(溶媒)は、急速に気化してゆく(乾燥)。ワークマガジン11の引き上げが完了すると、直ちに蓋移動機構18が開閉蓋14を閉塞する。一方、引き上げられたワークマガジン11は、ワーク給材部15のマガジントレイ12に戻される。以上の動作を2回行って、2個のワークマガジン(ワークW)11,11の浸漬処理が終了したら、ワークマガジン11をマガジントレイ12と共に徐材し、新たなワークマガジン(未処理のワークW)11を給材する。
【0029】
一方、タンクキャビネット2内には、ワーク処理槽5に処理溶液を供給する給液タンク21と、使用済みの処理溶液をワーク処理槽5から回収する廃液タンク22と、フィルタリングのためにワーク処理槽5から処理溶液を抜き取って回収するバッファタンク23と、が収容されている。給液タンク21および廃液タンク22は手前側に配設され、バッファタンク23は奥側に配設されている。さらに、タンクキャビネット2内には、これらタンク21,22,23に併設するように、各種のポンプおよびバルブが各種配管と共に収容されている。
【0030】
処理溶液は、表面処理の主成分となる溶剤と、溶剤を溶かし込む溶媒とから成り、溶媒は給液タンク21からワーク処理槽5に供給され、溶剤はワーク処理槽5の供給した溶媒に直接投入され混合される。また、溶媒には、揮発性の高いものが用いられている。このため、ワーク処理槽5は、浸漬処理を実施するとき以外は、上記の開閉蓋14で気密に閉塞され、また浸漬処理時にワーク処理槽5から蒸散した気化溶媒は、装置カバー6内の雰囲気と共に排気ダクト25を介して、上記の排気設備(排気処理設備)に排気される。
【0031】
ここで、図3および図4を参照して、ワークマガジン11およびワーク処理槽5について簡単に説明すると共に、図5ないし図8を参照して、浸漬移動機構17および蓋移動機構18について詳細に説明する。上述のように、ワークマガジン11は、マガジントレイ12に搭載した状態で、機台3の前部に配設されたマガジンセット機構16にセットされ、またワーク処理槽5は、マガジンセット機構16の右隣に配設したドレンパン27上に設置されている。一方、浸漬移動機構17と蓋移動機構18とは、上下に重なった状態で、機台3の後部に立設した左右一対の支柱28,28により支持されている。
【0032】
図3に示すように、ワークマガジン11は、複数枚のワークWを鉛直姿勢で相互に平行にセットするためのワークセット部31を構成する一対のワーク支持板32,32、および一対のワーク支持板32,32を両端部で連結する一対の連結板33,33から成る矩形枠状に組んだマガジン本体30と、ワークセット部31の上部と各連結板33側とを仕切るように配設した一対の連結隔板34,34と、一対の連結板33,33の下端部間に渡した一対の支持ロッド35,35と、で構成されている。各連結板33には、上側の打抜き開口37により連結板33の上部にハンドリング部38が構成され、このハンドリング部38には、浸漬移動機構17によりフッキングされる2つの小切欠き部39,39が形成されている。
【0033】
図4に示すように、ワーク処理槽5は、ドレンパン27上に設置され、ステンレス等で略方形に形成されている。また、ワーク処理槽5は、内部を隔板42により処理槽部5Aと補充槽部5Bとに画成した処理槽本体41と、処理槽本体41をドレンパン27上に支持する4つの脚片43と、処理槽本体41の上端部に設けられ上記の開閉蓋14を受ける蓋載置部44と、で構成されている。蓋載置部44には、開閉蓋14および後述する処理時開閉蓋67との間隙をシールする蓋シール45が上向きに埋め込まれている。複数枚のワークWを収容したワークマガジン11は、処理槽部5Aに浸漬されて表面処理され、その際の処理槽部5Aの処理溶液の目減り分は、補充槽部5Bの処理溶液が隔板42からオーバーフローさせるようにして補充される。
【0034】
一方、図5および図6に示すように、浸漬移動機構17は、ワークマガジン(ワーク)11をフッキングして吊り下げる吊下げ機構51と、吊下げ機構51を昇降自在に支持すると共に、吊下げ機構51を介してワークマガジン11をワーク処理槽5に浸漬する昇降機構52と、昇降機構52および吊下げ機構51を介して吊り下げたワークマガジン11を、ワーク給材部(徐給材位置)15とワーク処理槽5との間で水平に移動させる横移動機構53と、を備えている。
【0035】
ワーク給材部15には、マガジンセット機構(マガジントレイ)16にセットしてワークマガジン11が給材され、横移動機構53は、昇降機構52と共に吊下げ機構51をワークマガジン11の直上部に移動させる。ここで、昇降機構52により吊下げ機構51を下降させ、吊下げ機構51を駆動して、ワークマガジン11をフッキングする。続いて、昇降機構52により吊下げ機構51と共にワークマガジン11を上昇させる。次に、横移動機構53により、ワークマガジン11をワーク処理槽5の直上部に移動させる。ここで、再度昇降機構52を駆動し、ワークマガジン11をワーク処理槽(処理槽部5A)5に浸漬する。そして、ワーク処理槽5による浸漬処理が終了したら、上記と逆の手順で、ワークマガジン11をマガジンセット機構16上のマガジントレイ12に戻す。
【0036】
図6および図7に示すように、吊下げ機構51は、ワークマガジン11を吊り下げる前後一対のフック61,61と、一対のフック61,61を吊下げ位置と吊下げ解除位置との間で水平移動させるフックエアーシリンダ(アクチュエータ)62と、中心部の下面にフックエアーシリンダ62を固定した水平姿勢の板状フレーム63と、を備えている。板状フレーム63の中心部上面には連結ブロック65が固定されており、この連結ブロック65を介して、後述する昇降機構52の出力端が上側から連結されている。また、板状フレーム63の上面には、連結ブロック65を中心に180°点対称位置に配設され、板状フレーム63から鉛直方向上方に延在する前後一対のガイドバー66,66が立設されている。さらに、吊下げ機構51は、板状フレーム63に平行に配設され、ワークマガジン11の浸漬時にワーク処理槽5を閉塞する処理時開閉蓋67を備えている。
【0037】
板状フレーム63は、前後方向に長い矩形に形成されており、中心部上面に設けた連結ブロック65には、昇降機構52のリードねじ79の下端部(出力端が)が固定されている。前後一対のガイドバー66,66は、後述する昇降機構52の一対の筒状ガイド77,77に上下方向スライド自在に係合しており、昇降機構52による吊下げ機構51の昇降を案内する。そして、一対のガイドバー66,66の上端は、両ガイドバー66,66の相互の平行状態を維持すべく、板状の連結片68で連結されている。なお、各ガイドバー66と各筒状ガイド77とのスライド面は、ボールスプラインが構成されていることが、好ましい。
【0038】
各フック61は、左右一対の棒状フック69,69と、一対の棒状フック69,69の上端部を固定したフック取付けブロック70と、で構成されており、各棒状フック69は、丸棒を「J」字状に折り曲げて形成され且つ外向きに配設されている。この場合、一対のフック61,61は、ワークマガジン11に形成した一対のハンドリング部38,38に対応しており、各ハンドリング部38の一対の小切欠き部39,39に一対の棒状フック69,69が、フッキングされるようになっている。
【0039】
フックエアーシリンダ62は、ワークマガジン11に対し、一対のフック61,61を吊下げ位置と吊下げ解除位置との間で同時に平行移動させるミラー動作型のシリンダで構成されている。フックエアーシリンダ62の前後一対のプランジャ部72,72には、それぞれフック取付けブロック70を介して一対の棒状フック69,69がそれぞれ連結されている。昇降機構52により、一対のフック61,61を、上記ワークマガジン11の各連結板33と各連結隔板34との間に挿入するように下降させ(吊下げ解除位置)、次いで、フックエアーシリンダ62を駆動して、両フック61,61をハンドリング部38の直下までそれぞれ外側に向って移動させ(吊下げ位置)、ここで、一対のフック61,61を上昇させることにより、ワークマガジン11のフッキングが行われる。また、逆の動作でフッキング解除が行われる。
【0040】
処理時開閉蓋67は、4本のスペーサ支柱73を介して、板状フレーム63に平行に垂設されている。この場合、処理時開閉蓋67は、上記の開閉蓋14と異なり、浸漬移動機構17によりワークマガジン11がワーク処理槽5に浸漬されている状態で、ワーク処理槽5を閉蓋(閉塞)するものであり、矩形の外観形状を有している。また、ワークマガジン11は、ワーク処理槽5の処理槽部5Aに浸漬されるが、処理時開閉蓋67は、ワーク処理槽5全体(処理槽本体41)を開閉するため、処理時開閉蓋67は片寄った位置で、板状フレーム63に垂設されている。
【0041】
さらに、処理時開閉蓋67には、前後一対の大きな開口部74,74が形成されており、この各開口部74に、フックエアーシリンダ62の各プランジャ部72および各フック61が臨んでいる。昇降機構52により、ワークマガジン11がワーク処理槽5に完全に浸漬されると、同時に処理時開閉蓋67が下降して、ワーク処理槽5の蓋載置部44に密接して、ワーク処理槽5を閉塞する(図8および図9参照)。上述のように、ワーク処理槽5に貯留されている処理溶液は、揮発性が高く気化し易いが、浸漬処理時にあっても、ワーク処理槽5を閉塞するようにしているため、処理溶液の気化が抑制される。
【0042】
図6に示すように、昇降機構52は、後述する横移動機構53のL字ブラケット83に搭載されており、L字ブラケット83の略中心位置に配設され、吊下げ機構51を昇降自在に支持する特殊モータ76と、特殊モータ76を中心に180°点対称に位置して、L字ブラケット83上に配設された前後一対の筒状ガイド77,77と、上記の両ガイドバー66,66および連結片68と共に、特殊モータ76および一対の筒状ガイド77,77を覆う昇降部集塵ボックス78と、を備えている。この場合、昇降部集塵ボックス78は、その下部でL字ブラケット83を覆っており、この状態でL字ブラケット83の側面に固定されている。そして、昇降部集塵ボックス78は、上記の排気設備に接続されている。また、各筒状ガイド77には、各ガイドバー66がスライド自在に挿通しており、この一対の筒状ガイド77,77により、吊下げ機構51の昇降が回転ブレ等を生ずることなく安定にガイドされるようになっている。
【0043】
特殊モータ76は、ステッピングモータの一種であり、ロータの軸心に形成した雌ねじにリードねじ79を螺合して、構成されている。リードねじ79および雌ねじは、ボールねじで構成されており、ロータの正逆回転(雌ねじの正逆回転)に伴ってリードねじ79が昇降(上下動)する。リードねじ79の下端は、昇降機構52の出力端になっており、上記の連結ブロック65を介して板状フレーム63に固定されている。この場合、連結ブロック65は、処理時開閉蓋67を含む吊下げ機構52、およびこれに吊り下げられた複数枚のワークWを含むワークマガジン11の重心位置に配設されている。すなわち、リードねじ79は、これが吊り下げる機構や部品、ワークW等をこれらの重心位置で支持している。なお、回転する雌ねじ(ロータ)との摩擦によりリードねじ79も小さな回転力が作用するが、この回転力は、一対のガイドバー66,66および一対の筒状ガイド77,77により抑えられる。
【0044】
横移動機構53は、上記の一対の支柱28に支持されたモータ駆動の移動テーブル81と、移動テーブル81のスライダ82に固定したL字ブラケット83と、移動テーブル81の上側に併設したケーブルベア(商標:ケーブル担持体)84と、ケーブルベア84を覆う横移動部集塵ボックス85と、を有している。そして、このL字ブラケット83に上記の昇降機構52が搭載されている。すなわち、昇降機構52および吊下げ機構51は、L字ブラケット83を介して横移動機構53に片持ちで支持されている。
【0045】
横移動部集塵ボックス85および移動テーブル81は、上下に位置し且つ左右方向に水平に延在している。移動テーブル81は、スライダ82と、スライダ82を左右方向にスライド自在に支持するスライドガイド86を有し、リードねじ機構とモータとで構成された駆動部(いずれも図示省略)により、昇降機構52および吊下げ機構51を、ワーク給材部15の直上部とワーク処理槽5の直上部との間で水平に移動させる。また、横移動部集塵ボックス85は、上記の排気設備に接続されており、ケーブルベア84の摺動部分から発生した塵埃を排気する。
【0046】
一方、図5および図10に示すように、蓋移動機構18は、開閉蓋14を片持ちで保持し、これをワーク処理槽5に対し開閉動作させる鉛直移動機構91と、鉛直移動機構91を介して開閉蓋14を、ワーク処理槽5の直上部位置とマガジンセット機構16の直上位置との間で水平に移動させる水平移動機構92と、水平移動機構92に併設したケーブルベア(商標:ケーブル担持体)93と、ケーブルベア93を覆う蓋移動部集塵ボックス94と、を備えている。水平移動機構92は、左右方向に水平に延在し、ケーブルベア93および蓋移動部集塵ボックス94は、水平移動機構92の下側に位置して、水平移動機構92と平行に延在している。
【0047】
開閉蓋14は、ワーク処理槽5の蓋載置部44に密接して、ワーク処理槽5を閉塞する矩形の蓋本体96と、蓋本体96の後端中間部から後方に延在し、鉛直移動機構91に取り付けられた取付け片部97と、で板状に一体に形成されている。鉛直移動機構91は、復動の昇降シリンダ(エアーシリンダ)98と、昇降シリンダ98を支持する鉛直支持プレート99とで構成されており、開閉蓋14は、昇降シリンダ98のプランジャブロック100の下端面に取り付けられている。昇降シリンダ98は、僅かな距離上下動するようになっており、開閉蓋14を、ワーク処理槽5に対する開放位置と閉塞位置との間で、開閉動作させる。
【0048】
水平移動機構92は、上記一対の支柱28に支持された厚板状の横長フレーム102と、横長フレーム102の前面に設けた水平ガイド板103と、水平ガイド板103にスライド自在に取り付けたスライドブロック104と、横長フレーム102の背面に固定され、そのプランジャ106をスライドブロック104に連結した復動の水平シリンダ(エアーシリンダ)105と、を有している。横長フレーム102の前面には、スライドブロック104に当接する左右一対の度当りストッパ107,107が取り付けられており、鉛直移動機構91の左右の移動端位置をワーク処理槽5の直上部位置とマガジンセット機構16の直上位置との間で、位置規制している。
【0049】
ここで、図11および図12を参照して、制御装置9により関連付けて制御される浸漬移動機構17および蓋移動機構18の制御動作について、説明する。装置の起動開始時において、複数枚のワークWを収容した2個のワークマガジン11,11が、マガジントレイ12を介してマガジンセット機構16上にセットされている。すなわち、2個のワークマガジン11,11は、ワーク給材部15にセットされている。また、浸漬移動機構17は、その吊下げ機構51が左側のワークマガジン11の直上部の上昇端位置にあって、駆動待機している。同様に、蓋移動機構18は、開閉蓋14がワーク処理槽5を閉塞する閉塞位置にあって、ワーク処理槽5を閉蓋している。
【0050】
この状態から、装置の起動を開始すると、先ず浸漬移動機構17の昇降機構52が駆動し、吊下げ機構51をフッキング位置に下降させると共に吊下げ機構51を駆動する(図11(a)参照)。吊下げ機構51により一対のフック61,61を吊下げ位置に移動したら再度昇降機構52を駆動し、左側のワークマガジン11を吊り上げた状態で吊下げ機構51を元の上昇端位置に上昇させる(図11(b)参照)。続いて、横移動機構53が駆動し、吊り上げたワークマガジン11をワーク処理槽5の直上部位置まで移動させる(図11(c)参照)。
【0051】
ここで、蓋移動機構18の鉛直移動機構91が駆動し、開閉蓋14を開放位置に上動させ(図11(d)参照)、更に水平移動機構92が駆動し、開放位置にある開閉蓋14を右側のワークマガジン11の直上部の開放待機位置に移動させる(図11(e)参照)。続いて、浸漬移動機構17の昇降機構52が駆動し、吊り上げたワークマガジン11を吊下げ機構51と共に下降させ、ワークマガジン11をワーク処理槽5に浸漬する(図11(f)参照)。この浸漬ための下降動作では、ワークマガジン11を、処理溶液にゆっくり且つ定速で沈めてゆく。ワークマガジン(ワークW)11が処理溶液に完全に没する(浸漬位置)と、昇降機構52が停止し、同時に処理時開閉蓋67がワーク処理槽5を閉塞する。
【0052】
ここで、液面の波立ちが静まるのを待って(所定時間)、再度昇降機構52が駆動し、ワークマガジン11をワーク処理槽5から引き上げる(図12(a)参照)。この引き上げのための上昇動作では、処理溶液に波立ちが生じないように、ワークマガジン11をゆっくり且つ定速で引き上げる。これにより、ワークWにムラの無い表面処理が行われる。吊下げ機構51(ワークマガジン11)が上昇端位置に達したら、続いて蓋移動機構18の水平移動機構92が駆動し、開放待機位置の開閉蓋14をワーク処理槽5の直上部の開放位置に移動させ(図12(b)参照)、更に鉛直移動機構91が駆動し、開閉蓋14を閉塞位置に移動させる(図12(c)参照)。
【0053】
以降、上記と逆の手順で、横移動機構53が駆動し、吊り上げたワークマガジン11をワーク給材部15に戻し(図12(d)参照)、マガジントレイ12上にセットする(図12(e)参照)。これにより、左側のワークマガジン11(ワークW)の一連の浸漬処理を終了する。続いて、右側のワークマガジン11(ワークW)を上記と同様の動作で行い、2個のワークマガジン(ワークW)11,11の浸漬処理を完了する。そして、2個のワークマガジン11,11をマガジントレイ12と共に徐材する。
【0054】
以上のように、本実施形態では、ワークマガジン11(ワークW)をワーク処理槽5に浸漬させる昇降機構52のリードねじ(特殊モータ76)79の下端が、これにより支持される吊下げ機構51およびワークマガジン11の重心位置に連結されているため、ワークWは揺れや回転等を生ずることなく、ワーク処理槽5に浸漬され且つ引き上げられる。また、その際、処理溶液の液面の波立ちを極力抑えることができる。したがって、複数のワークWに同一条件で、且つムラ無く適切に表面処理を行うことができる。
【0055】
なお、本実施形態では、ワークWを、隣接するワーク除給材部15からワーク処理槽5に持ち込むようにしているが、横移動機構53を省略し、ワークマガジン11を昇降機構52および吊下げ機構51に直接セットする構成としてもよい。また、ワークマガジン11を用いることなく、ワークWを直接把持して浸漬する構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】第1実施形態に係る浸漬処理装置の正面側から見た外観斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る浸漬処理装置の背面側から見た外観斜視図である。
【図3】ワークマガジンの斜視図である。
【図4】ワーク処理槽廻りの斜視図である。
【図5】処理装置本体の拡大斜視図である。
【図6】浸漬移動機構の斜視図である。
【図7】吊下げ機構廻り拡大斜視図である。
【図8】浸漬動作前後の吊下げ機構廻りの側面図である。
【図9】浸漬動作中の吊下げ機構廻りの側面図である。
【図10】蓋移動機構の斜視図である。
【図11】浸漬移動機構および蓋移動機構の動作を表した模式図(1)である。
【図12】浸漬移動機構および蓋移動機構の動作を表した模式図(2)である。
【符号の説明】
【0057】
1 浸漬処理装置、4 処理装置本体、5 ワーク処理槽、5A 処理槽部、5B 補充槽部、9 制御装置、11 ワークマガジン、15 ワーク給材部、16 マガジンセット機構、17 浸漬移動機構、51 吊下げ機構、52 昇降機構、53 横移動機構、61 フック、62 フックエアーシリンダ、63 板状フレーム、67 処理時開閉蓋、76 特殊モータ、79 リードねじ、81 移動テーブル、82 スライダ、83 L字ブラケット、W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに表面処理を行うワーク処理槽の処理溶液に、前記ワークを浸漬するための浸漬処理装置のワーク浸漬装置であって、
前記ワークを吊り下げる吊下げ機構と、
前記吊下げ機構を昇降自在に支持すると共に、前記吊下げ機構を介して前記ワークを前記ワーク処理槽に浸漬する昇降機構と、を備え、
前記吊下げ機構を支持する前記昇降機構の出力端が、前記吊下げ機構およびこれに吊り下げられたワークの重心位置に配設されていることを特徴とする浸漬処理装置のワーク浸漬装置。
【請求項2】
前記吊下げ機構は、前記ワークの浸漬に連動して前記ワーク処理槽を閉蓋する処理時開閉蓋を、有していることを特徴とする請求項1に記載の浸漬処理装置のワーク浸漬装置。
【請求項3】
前記昇降機構は、ロータの軸心に形成した雌ねじにリードねじを螺合した特殊モータを有し、
前記リードねじの下端が前記昇降機構の出力端を構成していることを特徴とする請求項1または2に記載の浸漬処理装置のワーク浸漬装置。
【請求項4】
前記特殊モータが、ステッピングモータで構成されていることを特徴とする請求項3に記載の浸漬処理装置のワーク浸漬装置。
【請求項5】
前記リードねじおよび前記雌ねじが、ボールねじで構成されていることを特徴とする請求項3または4に記載の浸漬処理装置のワーク浸漬装置。
【請求項6】
前記ワークの複数個がワークマガジンにセットされた状態で、前記ワークマガジンと共に前記ワーク処理槽に浸漬され、
前記吊下げ機構は、前記ワークマガジンを吊り下げるための、丸棒を折り曲げて形成した一対のフックを有していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の浸漬処理装置のワーク浸漬装置。
【請求項7】
前記吊下げ機構は、前記一対のフックを、前記ワークマガジンに対する吊下げ位置と吊下げ解除位置との間で同時に移動させるアクチュエータを、更に有していることを特徴とする請求項6に記載の浸漬処理装置のワーク浸漬装置。
【請求項8】
前記昇降機構を支持すると共に、前記昇降機構および前記吊下げ機構を介して吊り下げた前記ワークマガジンを、前記ワークマガジンの徐給材位置と前記ワーク処理槽の直上位置との間で移動させる横移動機構を、更に備えたことを特徴とする請求項6または7に記載の浸漬処理装置のワーク浸漬装置。
【請求項9】
前記横移動機構は、前記昇降機構を片持ちで支持していることを特徴とする請求項8に記載の浸漬処理装置のワーク浸漬装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の浸漬処理装置のワーク浸漬装置と、
前記ワーク処理槽と、を備えたことを特徴とする浸漬処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−195876(P2009−195876A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42760(P2008−42760)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】