説明

液体光学素子アレイおよび立体像表示装置

【課題】長期安定性に優れた液体光学素子アレイを提供する。
【解決手段】対向配置された平面基板21,22と、平面基板21の面21Sに立設され、平面基板21上の領域を複数のセル領域に分割する隔壁24と、隔壁24の壁面に、互いに対向して配置された第1および第2の電極26A,26Bと、平面基板22の面22Sに設けられた第3の電極26Cと、セル領域において平面基板21に立設する突起部25と、平面基板21と第3の電極26Cとの間に封入され、互いに異なる屈折率を有すると共に分離された状態を保つ極性液体28および無極性液体29とを備える。液体光学素子アレイの姿勢に関わらず、極性液体28および無極性液体29は突起部25により安定して保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロウェッティング現象を利用した液体光学素子アレイ、およびそれを備えた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレクトロウェッティング現象(電気毛管現象)により光学作用を発揮する液体光学素子が開発されている。エレクトロウェッティング現象とは、電極と導電性を有する液体との間に電圧を印加した場合に、その電極の表面と液体との界面エネルギーが変化し、液体の表面形状が変化する現象をいう。
【0003】
エレクトロウェッティング現象を利用した液体光学素子としては、例えば特許文献1,2に記載された液体のシリンドリカルレンズが挙げられる。また、例えば特許文献3には、液体のレンチキュラーレンズが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−162507号公報
【特許文献2】特開2009−251339号公報
【特許文献3】特表2007−534013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1〜3に開示されたような液体レンズでは、一般に、互いに分離し、かつ屈折率の異なる2種の液体の界面形状を電極への印加電圧を制御することにより変化させ、所望の焦点距離を得るようにしている。また、2種の液体における比重をほぼ同一とすることで、液体レンズの姿勢を様々に変化させても重力による偏りが生じにくくなっている。
【0006】
しかしながら、異なる成分の液体同士では、環境温度に対する比重の相違が生じる。すなわち、初期の環境温度(例えば20℃)において2種の液体の比重が同一であったとしても、その環境温度が変化すれば、それに応じて各々の液体の比重が変化してしまう可能性がある。このため、例えば特許文献1,2に記載のシリンドリカルレンズでは、一対の対向基板の間の所定のセル領域に充填された2種の液体が初期位置から大きく移動してしまうおそれがある。すなわち、そのシリンドリカルレンズの軸方向を鉛直方向として使用する場合、その長さによっては比重の比較的小さな液体がセル領域の上方に移動すると共に比重の比較的大きな液体がセル領域の下方に移動してしまう。そうすると、電圧を印加していない状態では、本来、2種の液体の界面が一対の対向基板の面と平行であるべきところ、図10に示したように、界面130が一対の対向基板の面に対して傾斜してしまう。なお、図10に示した液体光学素子アレイは、対向配置された一対の平面基板121,122と、これらの平面基板121,122の外縁に沿って立設し、平面基板121,122を支持する側壁123とを備えている。それら平面基板121,122および側壁123によって密閉された空間には、極性液体128および無極性液体129が封入されており、上記の界面130を形成している。こうした場合、電極への印加電圧を変化させてもエレクトロウェッティング現象が発生せず、あるいは、界面形状の正確な制御が困難となってしまう。したがって、屈折率の異なる2種の液体の界面を、長期に亘って安定して維持することが望まれる。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、長期に亘って安定したエレクトロウェッティング現象を発現可能に維持し、良好な光学作用を安定してもたらすことのできる液体光学素子アレイ、およびそれを備えた立体像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体光学素子アレイは、以下の(A1)から(A6)の各構成要件を備えるものである。
(A1)対向配置された第1および第2の基板。
(A2)第1の基板の、第2の基板と対向する面に立設され、この第1の基板上の領域を複数のセル領域に分割し、かつ各々のセル領域を取り囲む隔壁。
(A3)隔壁の壁面に、互いに対向して配置された第1および第2の電極。
(A4)第2の基板の、第1の基板と対向する面に設けられた第3の電極。
(A5)セル領域において第1の基板または第2の基板に立設する突起部。
(A6)第1の基板と第3の電極との間に封入され、互いに異なる屈折率を有する極性液体および無極性液体。
【0009】
本発明の立体像表示装置は、表示手段と、上記した本発明の液体光学素子アレイとを備える。表示手段は、例えば、複数の画素を有し、映像信号に応じた2次元表示画像を生成するディスプレイである。
【0010】
本発明の液体光学素子アレイおよび立体像表示装置では、隔壁によって区画されたセル領域における第1の基板または第2の基板に突起部を立設させるようにした。これにより、セル領域が鉛直方向に延びる姿勢であっても、屈折率および比重の異なる2種の液体が、毛管現象によって突起部および隔壁などの周囲の部材に安定して保持される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液体光学素子アレイによれば、その姿勢による重力の影響を受けることなく、内包する2種の液体の界面を長期に亘って安定して保持し、所望の光学作用を安定して発揮することができる。このため、この液体光学素子アレイを備えた本発明の立体像表示装置によれば、所定の映像信号に対応した正確な画像表示を実現することが長期に亘って可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る立体像表示装置の構成を表す概略図である。
【図2】図1に示した波面変換偏向部の要部構成を表す断面図である。
【図3】図1に示した波面変換偏向部の要部構成を表す他の断面図である。
【図4】図3に示した液体光学素子の動作を説明するための概念図である。
【図5】図3に示した液体光学素子の動作を説明するための他の概念図である。
【図6】変形例1としての波面変換偏向部の概略構成を表す断面図である。
【図7】変形例2としての波面変換偏向部の概略構成を表す斜視図である。
【図8】変形例3としての波面変換偏向部の概略構成を表す斜視図である。
【図9】図1に示した波面変換偏向部の他の使用例を説明するための断面図である。
【図10】従来の液体光学素子の一構成例を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態という。)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
<立体像表示装置の構成>
まず、図1を参照して、本発明における一実施の形態としての液体光学素子アレイを用いた立体像表示装置について説明する。図1は、本実施の形態の立体像表示装置の、水平面内における一構成例を表す概略図である。
【0015】
図1に示したように、この立体像表示装置は、光源(図示せず)の側から、画素11を複数有する表示部1と、液体光学素子アレイとしての波面変換偏向部2とを順に備えている。ここでは、光源からの光の進行方向をZ軸方向とし、水平方向をX軸方向とし、鉛直方向をY軸方向としている。
【0016】
表示部1は、映像信号に応じた2次元表示画像を生成するものであり、例えばバックライトBLが照射されることにより表示画像光を射出するカラー液晶ディスプレイである。表示部1は、光源の側からガラス基板11と、それぞれ画素電極および液晶層を含む複数の画素12(12L,12R)と、ガラス基板13とが順に積層された構造を有している。ガラス基板11およびガラス基板13は透明であり、いずれか一方には例えば赤(R),緑(G),青(B)の着色層を有するカラーフィルタが設けられている。このため、画素12は、赤色を表示する画素R−12と緑色を表示する画素G−12と青色を表示する画素B−12とに分類される。この表示部1では、X軸方向においては画素R−12と、画素G−12と、画素B−12とが順に繰り返し配置される一方、Y軸方向においては同色の画素12が揃うように配置されている。さらに、画素12は、左眼用の画像を形成する表示画像光を射出するものと、右眼用の画像を形成する表示画像光を射出するものとに分類され、それらはX軸方向において交互に配置されている。図1では、左眼用の表示画像光を射出する画素12を画素12Lと表し、右眼用の表示画像光を射出する画素12を画素12Rと表す。
【0017】
波面変換偏向部2は、例えばX軸方向に隣り合う1組の画素12L,12Rに対応して設けられた1つの液体光学素子20が、X軸方向に複数配列されたアレイ状をなすものである。波面変換偏向部2は、表示部1から射出された表示画像光に対し、波面変換処理および偏向処理を行う。具体的には、波面変換偏向部2では、各画素12に対応する各液体光学素子21がシリンドリカルレンズとして機能する。すなわち、波面変換偏向部2は、全体としてレンチキュラーレンズとして機能する。これによって各画素12L,12Rからの表示画像光の波面が、鉛直方向(Y軸方向)に並ぶ一群の画素12を一単位として所定の曲率を有する波面に一括して変換される。波面変換偏向部2では、併せて、必要に応じてそれらの表示画像光を水平面内(XZ平面内)において一括して偏向することも可能となっている。
【0018】
図2および図3を参照して、波面変換偏向部2の具体的な構成について説明する。
【0019】
図2は、表示画像光の進行方向と直交するXY平面に平行な波面変換偏向部2の要部拡大断面図である。また、図3(A),3(B)は、それぞれ、図2に示したIII(A)−III(A)線およびIII(B)−III(B)線に沿った矢視方向の断面図である。なお、図2は、図3(A),3(B)に示したII−II線に沿った矢視方向の断面に相当する。
【0020】
図2、図3(A)および図3(B)に示したように、波面変換偏向部2は、対向配置された一対の平面基板21,22と、これらの平面基板21,22の外縁に沿って立設し、平面基板21,22を支持する側壁23とを有している。平面基板21,22および側壁23によって取り囲まれた空間領域には、Y軸方向に延在する複数の液体光学素子20がX軸方向へ並んでいる。平面基板21,22は、例えばガラスや透明なプラスチックなど、可視光を透過する透明な絶縁材料によって構成される。
【0021】
平面基板21の、平面基板22と対向する面21Sには、この平面基板21上の空間領域を複数のセル領域20Zに分割する複数の隔壁24が立設している。ここでは、複数の隔壁24がそれぞれY軸方向に延在しており、Y軸方向に並ぶ一群の画素12に対応した矩形状の平面形状を有するセル領域20Zを、側壁23と共に複数形成している。隔壁24によって区画されたセル領域20Zには、無極性液体29(後出)が保持されている。すなわち、無極性液体29は、隔壁24によって隣り合う他のセル領域20Zへ移動(流出)しないようになっている。隔壁24は、極性液体28および無極性液体29に溶解等しない材料、例えば、エポキシ系樹脂やアクリル系樹脂などによって構成されることが望ましい。
【0022】
各隔壁24の壁面には、互いに対向して配置された銅(Cu)やITOなどの導電性材料からなる第1および第2の電極26A,26Bが設けられている。第1および第2の電極26A,26Bは、それぞれ、平面基板21に埋設された信号線と制御部とを介して外部電源(いずれも図示せず)と接続されている。第1および第2の電極26A,26Bは、上述の制御部によってそれぞれ所定の大きさの電位に設定できるようになっている。これらの第1および第2の電極26A,26Bは、疎水性絶縁膜27によって密に覆われていることが望ましい。この疎水性絶縁膜27は、極性液体28(後出)に対して疎水性(撥水性)を示す(より厳密には無電界下において無極性液体29(後出)に親和性を示す)と共に、電気的絶縁性に優れた性質を有する材料からなるものである。具体的には、フッ素系の高分子であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。但し、第1の電極26Aと第2の電極26Bとの電気的絶縁性をより高めることを目的として、第1および第2の電極26A,26Bと疎水性絶縁膜27との間に例えばスピン・オン・グラス(SOG)などからなる他の絶縁膜を設けるようにしてもよい。なお、隔壁24の上端もしくはそれを覆う疎水性絶縁膜27は、平面基板22および第3の電極26Cと離間していることが望ましい。
【0023】
各セル領域20Zには、平面基板21に立設するように、1または2以上の突起部25が設けられている。突起部25を複数設ける場合には、Y軸方向に沿って等間隔で並ぶようにするとよい。この突起部25は、例えば隔壁24と同種の材料からなり、隔壁24ならびに第1および第2の電極26A,26Bと離間して配置されている。さらに、突起部25は、平面基板22および第3の電極26Cと離間していることが望ましい。なお、突起部25は、図2ではY軸方向に沿って複数配置される場合を例示したが、その数は任意に選択可能である。
【0024】
平面基板22の、平面基板21と対向する面22Sには、第3の電極26Cが設けられている。第3の電極26Cは、例えば酸化インジウム錫(ITO:Indium Tin Oxide)や酸化亜鉛(ZnO)などの透明な導電材料によって構成されており、接地電極として機能する。
【0025】
一対の平面基板21,22と側壁23とによって完全に密閉された空間領域には、極性液体28および無極性液体29が密封されている。極性液体28および無極性液体29は、その閉空間において互いに溶解せずに分離して存在し、界面IFを形成している。
【0026】
無極性液体29は、ほとんど極性を有さず、かつ、電気絶縁性を示す液体材料であり、例えばデカン、ドデカン、ヘキサデカンもしくはウンデカンなどの炭化水素系材料のほか、シリコンオイルなどが好適である。無極性液体29は、第1の電極26Aと第2の電極26Bとの間に電圧を印加しない場合において、平面基板21の表面を全て覆う程度に十分な容量を有していることが望ましい。
【0027】
一方、極性液体28は、極性を有する液体材料であり、例えば水のほか、塩化カリウムや塩化ナトリウムなどの電解質を溶解させた水溶液が好適である。極性液体28に電圧を印加すると、内表面27A,27Bに対する濡れ性(極性液体28と内表面27A,27Bとの接触角)が無極性液体29と比べて大きく変化する。極性液体28は、接地電極としての第3の電極26Cと接している。
【0028】
なお、極性液体28および無極性液体29は、室温(例えば20℃)において互いにほぼ同等の比重を有するように調整されており、極性液体28と無極性液体29との位置関係は封入する順序で決定される。極性液体28および無極性液体29は透明であることから、界面IFを透過する光は、その入射角と、極性液体28および無極性液体29の屈折率とに応じて屈折する。
【0029】
また、極性液体28および無極性液体29は、突起部25の存在により、安定して初期位置(図3に示した位置)に保持される。これは、極性液体28および無極性液体29が突起部25と接することにより、その接触界面における界面張力が作用するからである。特に、同一のセル領域20Zに配置された突起部25同士の間隔L1(図2参照)は、以下の条件式(1)で表される毛管長K-1以下の長さであるとよい。ここでいう毛管長K-1 とは、極性液体28と無極性液体29との界面に生じる界面張力に対して重力の影響を全く無視できる最大の長さをいう。したがって、間隔L1が条件式(1)を満足する場合には、極性液体28および無極性液体29は、波面変換部2(および偏向部3)の姿勢の影響を受けずに極めて安定して初期位置(図3に示した位置)に保持される。
【0030】
Κ-1 ={Δγ/(Δρ×g)}0.5 ……(1)
但し、
Κ-1:毛管長(mm)
Δγ:極性液体と無極性液体との界面張力(mN/m)
Δρ:極性液体と無極性液体との密度差(g/cm3
g:重力加速度(m/s2
【0031】
さらに本実施の形態では、上記と同様の理由により、複数の突起部25のうちY軸方向において両端に位置するものは、Y軸方向における側壁23からの最短の距離L2(図2)が上記の条件式(1)で表される毛管長K-1以下の長さであるとよい。
【0032】
上記のように、毛管長K-1 は、界面を構成する2つの媒体の種類によって異なる。例えば極性液体28が水であり無極性液体29が油である場合、条件式(1)の界面張力Δγは29.5mN/mであり密度差Δρは0.129g/cm3 であるから、毛管長K-1 は15.2mmとなる。したがって、密度差Δρを0.129g/cm3 以下とすることで、間隔L1および距離L2を最大15.2mmとすることが可能である。
【0033】
液体光学素子20では、第1および第2の電極26A,26Bの間に電圧が印加されていない状態(電極26A,26Bの電位がいずれも零である状態)では、図3(A)に示したように、界面IFは、極性液体28の側から無極性液体29へ向けて凸の曲面をなしている。このときの界面IFの曲率はY軸方向において一定であり、各液体光学素子20は1つのシリンドリカルレンズとして機能する。また、界面IFの曲率はこの状態(第1および第2の電極26A,26Bの間に電圧を印加しない状態)が最大となる。内表面27Aに対する無極性液体29の接触角θ1、および内表面27Bに対する無極性液体29の接触角θ2は、例えば疎水性絶縁膜27の材料種を選択することによって調整することができる。ここで、無極性液体29が極性液体28よりも大きな屈折率を有していれば、液体光学素子20は負の屈折力を発揮する。これに対し、無極性液体29が極性液体28よりも小さな屈折率を有していれば、液体光学素子20は正の屈折力を発揮する。例えば、無極性液体29が炭化水素系材料またはシリコンオイルであり、極性液体28が水または電解質水溶液であれば、液体光学素子20が負の屈折力を発揮することとなる。
【0034】
第1および第2の電極26A,26Bの間に電圧が印加されると界面IFの曲率が小さくなり、ある一定以上の電圧を印加すると例えば図4(A),4(B)に表したように平面となる。なお、図4(A)は、第1の電極26Aの電位(V1とする)と第2の電極26Bの電位(V2とする)とが互いに等しい(V1=V2)場合を示している。この場合、接触角θ1,θ2がいずれも直角(90°)となる。このとき、液体光学素子20へ入射して界面IFを通過した入射光は、界面IFにおいて収束、発散もしくは偏向などの光学作用を受けることなく、そのまま液体光学素子20から射出する。
【0035】
電位V1と電位V2とが異なる場合(V1≠V2)には、例えば図4(B),4(C)に表したように、X軸およびZ軸に対して傾斜した平面(Y軸に対しては平行な面)となる(θ1≠θ2)。具体的には、電位V1が電位V2よりも大きい場合(V1>V2)、図4(B)に示したように接触角θ1が接触角θ2よりも大きくなる(θ1>θ2)。反対に、電位V1よりも電位V2が大きいと(V1<V2)、図4(C)に示したように、接触角θ1よりも接触角θ2が大きくなる(θ1<θ2)。これらの場合(V1≠V2)、例えば第1の電極26A,26Bと平行に進行して液体光学素子20へ入射した入射光は、界面IFにおいてXZ平面内で屈折し、偏向される。したがって、電位V1および電位V2の大きさを調整することで、入射光をXZ平面内の所定の向きへ偏向可能となる。
【0036】
なお、上記の現象(電圧の印加による接触角θ1,θ2の変化)は以下のように生じるものと推察される。すなわち、電圧印加により、内表面27A,27Bに電荷が蓄積され、その電荷のクーロン力によって、極性を有する極性液体28が疎水性絶縁膜27へ引き寄せられる。すると、極性液体28が内表面27A,27Bと接触する面積を拡大する一方、無極性液体29が内表面27A,27Bと接触する部分から極性液体28によって排除されるように移動(変形)し、結果として界面IFが平面に近づくこととなる。
【0037】
また、電位V1および電位V2の大きさの調整により界面IFの曲率が変わるようになっている。例えば、電位V1,V2(V1=V2とする)を、界面IFが水平面となる場合の電位Vmaxよりも低い値とすれば、例えば図5(A)に表したように、電位V1,V2が零の場合の界面IF0(破線で表示)よりも曲率の小さな界面IF1(実線で表示)が得られる。このため、界面IFを透過する光に対して発揮する屈折力は、電位V1および電位V2の大きさを変えることで調整可能である。すなわち、液体光学素子20は、可変焦点レンズとして機能する。さらに、その状態で電位V1と電位V2とが互いに異なる大きさ(V1≠V2)となれば、界面IFは適度な曲率を有しつつ、傾斜した状態となる。例えば電位V1のほうが大きい(V1>V2)場合には、図5(B)において実線で表した界面IFaが形成される。一方、電位V2のほうが大きい(V1<V2)場合には、図5(B)において破線で表した界面IFbが形成される。したがって、電位V1および電位V2の大きさを調整することで、液体光学素子20は、入射光に対して適度な屈折力を発揮しつつ、その入射光を所定の向きへ偏向することが可能である。なお、図5(A),5(B)では、無極性液体29が極性液体28よりも大きな屈折率を有しており、液体光学素子20が負の屈折力を発揮する場合に、界面IF1,IFaを形成したときの入射光の変化を表している。
【0038】
<立体像表示装置の動作>
この立体像表示装置では、表示部1に映像信号が入力されると、画素12Lから左眼用の表示画像光ILが射出されると共に画素12Rから右眼用の表示画像光IRが射出される。表示画像光IL,IRは、いずれも液体光学素子20に入射する。液体光学素子20では、その焦点距離が、例えば画素12L,12Rと界面IFとの間の屈折率を空気換算した距離となるように、適切な値の電圧を第1および第2の電極26A,26Bに印加する。なお、観察者の位置に応じて、液体光学素子20の焦点距離を前後させるようにしてもよい。液体光学素子20における極性液体28と無極性液体29との界面IFが形成するシリンドリカルレンズの作用により、表示部1の各画素12L,12Rから射出された表示画像光IL,IRの射出角度が選択される。そのため、図1に示したように、表示画像光ILは観察者の左眼に入射し、表示画像光IRは観察者の右眼に入射する。これにより、観察者は立体映像を観察することができる。
【0039】
また、液体光学素子20において界面IFを平坦面(図4(A)参照)とし、表示画像光IL,IRに対する波面変換を行わないことにより、高解像度な二次元画像の表示も可能となる。
【0040】
このように、本実施の形態の波面変換偏向部2では、隔壁24によって区画されたセル領域20Zにおける平面基板21に突起部25を立設させるようにした。これにより、セル領域20Zが鉛直方向に延びる姿勢となるように波面変換偏向部2(液体光学素子20)が配置された場合であっても、屈折率および比重の異なる2種の液体(極性液体28および無極性液体29)が、毛管現象によって突起部25および隔壁24などの周囲の部材に安定して保持される。すなわち、液体光学素子20が自らの姿勢による重力の影響を受けることなく、界面IFを長期に亘って安定して維持し、所望の光学作用を安定して発揮することができる。このため、この液体光学素子20を備えた立体表示装置によれば、所定の映像信号に対応した正確な画像表示を実現することが長期に亘って可能となる。
【0041】
また、本実施の形態では、平面基板21に立設する突起部25を、疎水性絶縁膜27に覆われた隔壁24、平面基板22および第3の電極26Cのそれぞれと離間して配置するようにした。このため、同一のセル領域20Zにおける界面IFの位置のばらつきを回避し、Y軸方向にならぶ複数の画素12L(または12R)からの表示画像光IL(またはIR)に対して、安定した光学作用を付与することができる。また、突起部25をその両隣の隔壁24と接続するように設けた場合には、突起部25および隔壁24によって複数の閉じた領域が形成される。この場合、製造段階において、それら複数の閉領域に対し、極性液体28および無極性液体29を個別に充填する必要が生じ、効率性の面で不利であり、充填量のばらつきも懸念される。これに対し、本実施の形態では、突起部25を隔壁24から離間させるようにしたので、そのような問題点は解消される。
【0042】
<変形例1>
図6に、本実施の形態の第1の変形例(変形例1)としての波面変換偏向部2Aを示す。図6は、波面変換偏向部2Aの断面構成を表すものであり、上記実施の形態の図3(B)に対応している。上記実施の形態では、突起部25を平面基板21に隔壁24と共に立設させるようにしたが、本変形例は、突起部25を平面基板22に立設させるようにした。こうすることにより、波面変換偏向部2Aを組み立てる際、平面基板21に立設する隔壁24と平面基板22に立設する突起部25とを嵌合させることにより、平面基板21と平面基板22との位置あわせが容易となる。なお、この変形例においても、突起部25は、平面基板22、隔壁24、第1〜第3の電極26A〜26Cの各々と離間して配置されているとよい。
【0043】
<変形例2>
図7に、本実施の形態の第2の変形例(変形例2)としての波面変換偏向部2Bを示す。図7は、波面変換偏向部2Bの概略構成を表す斜視図である。上記実施の形態では突起部25の側方端部を隔壁24と離間させるようにしたが、本変形例は、突起部25の側方端部と隔壁24の側面とを接続するようにしたものである。こうすることにより、構造上の安定性の向上が期待できる。
【0044】
<変形例3>
図8に、本実施の形態の第3の変形例(変形例3)としての波面変換偏向部2Cを示す。上記変形例2では、突起部25の上端位置を隔壁24の上端位置とほぼ同等の高さとしたが、本変形例は、突起部25の上端位置を、隔壁24の上端位置よりも低くするようにした。こうすることにより、変形例2と比較して、隔壁24の側面に形成される第1および第2の電極26A,26Bの、突起部25を跨ぐ部分での抵抗増大を低減することができる。
【0045】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、波面変換偏向部2における液体光学素子20により、集光もしくは発散作用と、偏向作用との双方を発揮させるようにした。しかしながら、波面変換部と偏向部とを個別に設け、集光もしくは発散作用と、偏向作用とを別々のデバイスによって表示画像光に付与するようにしてもよい。
【0046】
また、図9に示したように、1組の画素12L,12Rについて複数の液体光学素子20を対応させ、それら複数の液体光学素子20を組み合わせて1つのシリンドリカルレンズとして機能させるようにしてもよい。なお、図9では、液体光学素子20A,20B,20Cにより、1つのシリンドリカルレンズを構成する例を示している。
【0047】
また、上記実施の形態では、第3の電極26Cを、複数のセル領域20Zの全てと対応するように平面基板22の面22Sにおいて延在させた。しかしながら、第3の電極26Cは、極性液体28と僅かでも接触した状態が常に維持されるのであれば、その大きさ(形成面積)は任意に選択可能である。
【0048】
また、上記実施の形態では、2次元画像生成手段(表示部)としてバックライトを使用するカラー液晶ディスプレイを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば有機EL素子を用いたディスプレイやプラズマディスプレイであってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…表示部、11,13…ガラス基板、12(12L,12R)…画素、2…波面変換偏向部、20,30…液体光学素子、21,22…平面基板、23…側壁、24…隔壁、25…突起部、26(26A〜26C)…第1〜第3の電極、27…疎水性絶縁膜、28…極性液体、29…無極性液体、IF…界面、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された第1および第2の基板と、
前記第1の基板の、前記第2の基板と対向する面に立設され、この第1の基板上の領域を複数のセル領域に分割する隔壁と、
前記隔壁の壁面に、互いに対向して配置された第1および第2の電極と、
前記第2の基板の、前記第1の基板と対向する面に設けられた第3の電極と、
前記セル領域において前記第1の基板または第2の基板に立設する突起部と、
前記第1の基板と前記第3の電極との間に封入され、互いに異なる屈折率を有する極性液体および無極性液体と
を備えた液体光学素子アレイ。
【請求項2】
前記第1の基板に立設する前記突起部は、前記第2の基板および第3の電極と離間して配置され、
前記第2の基板に立設する前記突起部は、前記第1の基板と離間して配置されている
請求項1記載の液体光学素子アレイ。
【請求項3】
前記隔壁は、前記第2の基板および第3の電極と離間して配置されている請求項1または請求項2に記載の液体光学素子アレイ。
【請求項4】
前記突起部は、前記隔壁ならびに前記第1および第2の電極と離間して配置されている請求項1または請求項2に記載の液体光学素子アレイ。
【請求項5】
前記複数のセル領域は、第1の方向に並ぶと共にそれぞれ前記第1の方向と直交する第2の方向を長手方向とする矩形状を有し、
前記突起部は、前記第2の方向に沿って複数配置されている
請求項1記載の液体光学素子アレイ。
【請求項6】
前記第1および第2の電極は、前記極性液体に対して疎水性を呈する疎水性絶縁膜によって覆われている請求項1記載の液体光学素子アレイ。
【請求項7】
同一の前記セル領域に配置された前記突起部同士の間隔は、以下の条件式(1)で表される毛管長以下の長さである
請求項1記載の液体光学素子アレイ。
Κ-1 ={Δγ/(Δρ×g)}0.5 ……(1)
但し、
Κ-1:毛管長(mm)
Δγ:極性液体と無極性液体との界面張力(mN/m)
Δρ:極性液体と無極性液体との密度差(g/cm3
g:重力加速度(m/s2
とする。
【請求項8】
表示手段と、液体光学素子アレイとを備え、
前記液体光学素子アレイは、
対向配置された第1および第2の基板と、
前記第1の基板の、前記第2の基板と対向する面に立設され、この第1の基板上の領域を複数のセル領域に分割し、かつ各々の前記セル領域を取り囲む隔壁と、
前記隔壁の壁面に、互いに対向して配置された第1および第2の電極と、
前記第2の基板の、前記第1の基板と対向する面に設けられた第3の電極と、
前記セル領域において前記第1の基板または第2の基板に立設する突起部と、
前記第1の基板と前記第3の電極との間に封入され、互いに異なる屈折率を有する極性液体および無極性液体と
を備えたものである
立体像表示装置。
【請求項9】
前記液体光学素子アレイは、前記表示手段からの表示画像光を水平方向に偏向する機能を有するものである
請求項8記載の立体像表示装置。
【請求項10】
前記液体光学素子アレイは、前記表示手段からの表示画像光における波面の曲率を変換する波面変換手段としても機能するものである
請求項9記載の立体像表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−42758(P2012−42758A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184363(P2010−184363)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】