説明

液体分注装置

【課題】 液体の吐出に必要な構成部材とは別に、複雑な液体残量検出専用の構造部材を装備させなくとも、正確に液体の残量を検出する。
【解決手段】 液体を保持するための上部が閉鎖状の液体貯蔵槽と、液体を圧送するための圧力発生装置及びこれと液体貯蔵槽の内部上方との間を接続し圧力を伝達するための管路を含む配管系等を有し、液体供給部から吐出部にかけて接続された液体供給吐出管路を通じて液体供給部から液体を圧送して吐出部に導く液体分注装置であって、前記配管系の圧力を検出するための圧力センサと、予め液体の使用限界量の容積を液体貯蔵槽に供給して算出した圧力到達時間を閾値として保持する制御・演算手段を設け、加圧開始から液体が吐出される圧力に到達するまでの圧力到達時間に基づいて液体貯蔵槽内の液体の残量を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体貯蔵槽内の液体残量を検知する手段を備えた液体分注装置、及び液体残量検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子生物学や生化学分野等で行われる試験や分析においては、液状の試料や検体をマイクロプレートのウェル内に分注する操作が行われるが、この分注操作は、例えば図1に示すような、試料容器内の液体を吸入・吐出するノズルを備えたマルチ分注ヘッド1bと、当該マルチ分注ヘッドをX及び/又はY座標軸及びZ座標軸方向に移動するための駆動手段(1a、1b、1c)を備えた自動分注装置により行われている。
【0003】
図1の自動分注装置は、磁気反応部1j・1kと、試薬冷却装置1mを備えていて、それぞれに例えば、96穴マイクロプレート1i・1l・1nを一枚ずつ保持することが出来る。1gは廃液層、1hは使い捨てチップの廃棄スペースである。マルチ分注ヘッド1bにはテーブル1f上空をX及び/又はY座標軸及びZ座標軸方向に自在に移動することが出来る駆動手段(1a、1b、1c)が備えられている。マルチ分注ヘッド1bは96chの使い捨てチップ1eを装着することが可能であり、マイクロプレート1i・1l・1n間で液体の吸引吐出が可能である。吐出分注ヘッド1dはマルチ分注ヘッド1b後方部に取り付けられており、吐出分注ヘッド1dはマルチ分注ヘッド1bに対し、独自の駆動源(図示せず)により上下方向に稼動することが可能である。吐出分注ヘッド1dはノズルを一直線状に備えており、1i・1lに対して洗浄液及び、蛍光検出用の希釈液を吐出することができる。
このような分注装置の液体供給部においては、液体貯蔵槽内の液体の残量を検知して補給のタイミングを把握するための液体残量検知装置が備えられている。
【0004】
図2及び図3は、従来の液体残量検知手段の構成例を示す。
【0005】
図2の吐出するための液体が収容された試薬容器2a内の試薬には、それぞれ試薬を吸引するための吸引チューブ2bが浸漬されている。この吸引チューブ2bの先端には、点線で示すようなそれぞれ2本の電極線2cが設けられている。液面検知器2dは、各々の試薬容器2aにおける2本の電極線2cに電流を流し、両者が導通するか否かにより液面レベルを検知する。ここで吸引チューブ2bの吸引口2eは、電極線2cの下端の接点2fから適宜な距離をもって、接点2fよりも下方に位置している。従って、2本の電極線2cが非導通になった時点では、試薬容器2a内には試薬が未だ残存していて、試薬容器2a内の試薬が所定の液面レベルに達したことを検出できる。
【0006】
また、図3は、試薬が収容された試薬容器内から吐出チューブ3cを介して反応容器へ試薬を分注する一方、試薬容器内に挿入されたセンサ部3aにより検出される試薬の液面高さに応じた静電容量変化に基づいて試薬の残量をモニタするようにしている。このセンサ部3aは静電容量検出用の所要の長さの一対の電極3bと、この一対の電極3bを試薬容器の深さ方向に内包して支持し、且つ液密構造に形成した電極支持体3dとを備えている。
【0007】
しかしながら、図2及び図3に示す液体残量検知手段は、液体の吐出に必要な構成部材とは別に、液体残量検出専用の構造部材を必要としていた。また、図2における、電極を液体に浸漬させて通電の有無を検出する方法は、液体の水位を確実に検出するメリットはあるものの、電極を薬液に接触させるため、金属表面の保守の問題や、純水などの絶縁物質の場合に検出が困難になるなどの問題がある。図3の静電容量変化により水位を検知する手段においても、電極を直接薬液に浸漬させることはないが、検出に必要な構造部材を新たに薬液ボトルの蓋部分に付加する必要があるため装置が複雑で、コストがかかるという問題がある。
【特許文献1】特開2001−116758号公報
【特許文献2】特開平08−146011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、液体の吐出に必要な構成部材とは別に、複雑な液体残量検出専用の構造部材を装備させなくとも、正確に液体の残量を検出することのできる液体分注装置及び液体残量の検知方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、液体を保持するための上部が閉鎖上の液体貯蔵槽と、液体を圧送するための圧力発生装置及びこれと液体貯蔵槽の内部上方との間を接続し圧力を伝達するための管路を含む配管系と、該配管系内の気圧を任意の圧力に調整するための圧力調節手段と、該配管系の途中にあって系内の圧力を加圧又は排気制御可能な圧力制御弁と、前記液体貯蔵槽の下方に向けて開口する液体供給吐出管路と、該管路の途中にあって液体の流通を制御する液体流通制御手段を有し、液体供給部から吐出部にかけて接続された液体供給吐出管路を通じて液体供給部から液体を圧送して吐出部に導く液体分注装置であって、前記配管系の圧力を検出するための圧力センサと、予め液体の使用限界量の容積を液体貯蔵槽に供給して算出した圧力到達時間を閾値として保持する制御・演算手段を設け、加圧開始から液体が吐出される圧力に到達するまでの圧力到達時間に基づいて液体貯蔵槽内の液体の残量を検知するようにしたことを特徴とする液体分注装置を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、圧力到達時間の代わりに、吐出時の圧力値から加圧手段による加圧を止め、配管系内の圧力が一定圧に低下するまでの排気時間を測定するものである請求項1〜3のいずれか1項記載の液体分注装置を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、液体を保持するための上部が閉鎖上の液体貯蔵槽と、液体を圧送するための圧力発生装置及びこれと液体貯蔵槽の内部上方との間を接続し圧力を伝達するための管路を含む配管系と、該配管系内の気圧を任意の圧力に調整するための圧力調節手段を有し、液体供給部から吐出部にかけて接続された液体供給吐出管路を通じて液体供給部から液体を圧送して吐出部に導く液体分注装置において、前記配管系の圧力を検出するための圧力センサと、予め液体の使用限界量の容積を液体貯蔵槽に供給して算出した圧力到達時間を閾値として保持する制御・演算手段により、加圧開始から液体が吐出される圧力に到達するまでの圧力到達時間に基づいて液体貯蔵槽内の液体の残量を検知することを特徴とする液体残量検知方法を提供するものである。
【0012】
さらに、本発明は、圧力到達時間の代わりに、吐出時の圧力値から加圧手段による加圧を止め、配管系内の圧力が一定圧に低下するまでの排気時間を測定することにより、液体貯蔵槽内の液体の残量を検知することを特徴とする液体残量検知方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電極を直接薬液に浸漬させることはなく、また液体の吐出に必要な構成部材とは別に、複雑な液体残量検出専用の構造部材を装備させる必要がないので、液体の種類を問わず、簡便に且つコストを抑えて、正確に液体残量を検知しつつ、試料の分注が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面に示す実施例に基づき、本発明の実施形態を説明する。
【0015】
図4は本発明の液体分注装置の構成図である。
図4において、56はエアポンプ、55は精密減圧弁、54a・54b・54c・54d・54e・54fは三方弁、53a・53b・53c・53d・53e・53fは液体貯蔵槽、52a・52b・52c・52d・52e・52fは逆止弁、46は液体用電磁弁、45はマニホールド、47はノズル、57は圧力センサ、50は制御・演算手段である。なお、液体貯蔵槽は任意に複数設置することができ、53a・53b・53c・53d・53e・53fにはそれぞれ異なる液体を入れることができる。
【0016】
圧力センサ57は液体貯蔵槽内の液体を圧送するための空圧圧力を測定する圧力センサである。圧力が、精密減圧弁55が制御可能な圧力調整ばらつきを基準とした一定の閾値の幅、例えば制御圧力の±1%から外れると、警告信号を制御・演算手段50に出力することが出来る。従って、この圧力センサは、吐出時に正確な吐出量を制御する際、一定圧力であることを確認する為に必須の検出手段である。
【0017】
圧力発生装置56により加圧された空気は圧力調節手段55により、所望の圧力に制御される。
圧力発生装置は、例えばエアポンプ、制御可能な3方弁を付加したシリンジ等が用いられる。
圧力調節手段は、気体の圧力を任意の圧力に調整するための手段であり、例えば精密減圧弁、電空レギュレーター、背圧弁、差圧弁等が用いられる。電空レギュレーターは、電気信号によって圧力を制御可能とするもので、電空レギュレータを用いることで、通常の分注時の吐出圧力よりも大きい圧力値に設定する事が簡易に可能となり、低い圧力値に比較して同じ残量でも圧力到達時間が長くなることから、制御手段の測定可能な時間分解能が同等であった場合、測定精度をさらに向上させることが可能となる。
【0018】
圧力調節手段55で制御された加圧空気は、管路58a・58b・58c・58d・58e・58fを通り三方弁54a・54b・54c・54d・54e・54fに到達する。この三方弁54a・54b・54c・54d・54e・54fのいずれか1つを選択し弁を開くことにより、液体貯蔵槽53a・53b・53c・53d・53e・53f内の液体を選択、圧送することが出来る。ここでは圧力制御弁として三方弁を示したが、管路内の圧力を加圧又は排気制御可能な手段であればいずれも用いることができ、圧力制御弁の種類は問わない。例えば圧力制御可能な制御弁と排気制御可能なリリーフ弁等を使用することができる。
液体貯蔵槽は上部が閉鎖状態にあり、液体貯蔵槽の内部上方で管路58と接続している。
【0019】
選択された液体は、液体貯蔵槽の内部下方より伸びる液体供給管路59a・59b・59c・59d・59e・59fを通り、さらにこの液体供給管59a・59b・59c・59d・59e・59fにつながる液体吐出管60を通って、46の液体用電磁弁に到達し、この弁を開くことにより、マニホールド45内の流路51に液体が流入、流路51に接続されたノズル47より液体が吐出される。
【0020】
液体供給吐出管路には、途中に液体の流通を制御する手段が設けられ、例えば液体の吐出を制御する二方弁と液体を吐出方向にのみ送液可能とするチェックバルブ、逆止弁等が用いられる。
図4には、逆止弁52a・52b・52c・52d・52e・52fが設けられていて、液体は液体供給管59からこの逆止弁に到達し、圧がかかった経路のみの逆止弁52a・52b・52c・52d・52e・52fを通過することができる。他の逆止弁は末端側の圧が高くなり、逆止弁の作用により、逆流を防ぐ事が出来る。
【0021】
このように液体が吐出されることにより、選択された液体貯蔵槽内の液体はその容積を吐出された分だけ減らし、液体貯蔵槽内に最初に供給された量を使用すると吐出に必要な液体が無くなってしまうことになる。
そこで、本発明においては、液体貯蔵槽から液体を圧送するための圧力を発生させる加圧手段(図4ではエアポンプ56)における加圧開始から液体の吐出に必要な圧力に到達するまでの時間(圧力到達時間)を圧力センサ57と制御・演算手段50により計測する。
【0022】
液体貯蔵槽内の液体が減ることにより、その分気体体積が増大する為、圧力到達時間は変動する。従って、予め液体の使用限界量の容積を液体貯蔵槽内に供給した時の圧力到達時間を測定しておくことにより、この時間を閾値として、この時間より圧力到達時間が短い場合は、その液体貯蔵槽内に液体が残量し、他方長い場合にはその液体貯蔵槽内の液体残量が無くなったことを検出することができる。
【0023】
図5に、液体貯蔵槽の残液容積と圧力到達時間の関係を示す。この図からも明らかなように残液容積と圧力到達時間の関係は比例関係となる。つまり、
【0024】
(数1)
圧力到達時間(ms)=残液容積(ml)×(−α)−β
【0025】
の関係が成立する。αは管路径と管路内を流れる空気の流速によって決まる比例定数であり、βは液体貯蔵槽が空の時の圧力到達時間を表わす。
従って、圧量到達時間から残液容積を算出することができ、その値を閾値として設定することが容易に可能となる。
【0026】
また、本発明においては、圧力到達時間を測定する代わりに、吐出時の圧力値から、圧力発生装置による加圧を止め、圧力調節手段、例えば減圧弁のリリーフ弁から排気されて、管路内の圧力が一定圧まで低下するまでの排気時間を測定しても同様の効果が得られる。更に、減圧弁での排気の代わりに、減圧弁と圧力計の管路の間に、例えば三方弁を設置し、排気経路のオリフィスを絞ることによって加圧経路に影響を及ぼすことなく、排気時間を適当な時間に任意に設定可能となり、より精密な残量を検出することが可能となる。図6に排気時間と残液容積の一例を示す。この図からも明らかなように残液容積と排気時間の関係は比例関係となる。
【0027】
排気時間も圧力到達時間と同様に、液体貯蔵槽から液体を圧送するための圧力を発生させる加圧手段(図4ではエアポンプ56)における減圧開始から一定圧、例えば大気圧に減圧到達するまでの時間(排気時間)を圧力センサ57と制御・演算手段50により計測する。予め液体の使用限界量の容積を液体貯蔵槽内に供給した時の排気時間を測定しておくことにより、この時間を閾値として液体貯蔵槽内の液体残量を検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、自動分注装置を示す図である。
【図2】図2は、電流導通検知による液体残量の検知方法を示す図である。
【図3】図3は、静電容量検知による液体残量の検知方法を示す図である。
【図4】図4は、液体分注装置の構成図を示す図である。
【図5】図5は、残量容積と圧力到達時間の関係を示す図である。
【図6】図6は、残量容積と排気時間の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1a Xビーム
1b マルチ分注ヘッド
1c Yビーム
1d 吐出分注ヘッド
1e チップ
1f テーブル
1g 廃液層
1h チップの廃棄スペース
1i・l・n マイクロプレート
1m 試薬冷却装置
1j・k 磁気反応部
2a 試薬容器
2b 吸引チューブ
2c 電極線
2d 液面検知器
2e 吸引口
2f 電極線の下端
3a センサ部
3b 電極
3c 吐出チューブ
3d 電極支持体
45 マニホールド
46 液体用電磁弁
47 ノズル
50 制御・演算手段
51 流路
52 52a・b・c・d・e・f 逆止弁
53 53a・b・c・d・e・f 液体貯蔵槽
54 54a・b・c・d・e・f 三方弁
55 精密減圧弁
56 エアポンプ
57 圧力センサ
58 58a・b・c・d・e・f 管路
59 59a・b・c・d・e・f 液体供給管
60 液体吐出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を保持するための上部が閉鎖上の液体貯蔵槽と、液体を圧送するための圧力発生装置及びこれと液体貯蔵槽の内部上方との間を接続し圧力を伝達するための管路を含む配管系と、該配管系内の気圧を任意の圧力に調整するための圧力調節手段と、該配管系の途中にあって系内の圧力を加圧又は排気制御可能な圧力制御弁と、前記液体貯蔵槽の下方に向けて開口する液体供給吐出管路と、該管路の途中にあって液体の流通を制御する液体流通制御手段を有し、液体供給部から吐出部にかけて接続された液体供給吐出管路を通じて液体供給部から液体を圧送して吐出部に導く液体分注装置であって、前記配管系の圧力を検出するための圧力センサと、予め液体の使用限界量の容積を液体貯蔵槽に供給して算出した圧力到達時間を閾値として保持する制御・演算手段を設け、加圧開始から液体が吐出される圧力に到達するまでの圧力到達時間に基づいて液体貯蔵槽内の液体の残量を検知するようにしたことを特徴とする液体分注装置。
【請求項2】
圧力調節手段が電空レギュレーターである請求項1記載の液体分注装置。
【請求項3】
液体貯蔵槽が複数設けられた請求項1又は2記載の液体分注装置。
【請求項4】
圧力到達時間の代わりに、吐出時の圧力値から加圧手段による加圧を止め、配管系内の圧力が一定圧に低下するまでの排気時間を測定するものである請求項1〜3のいずれか1項記載の液体分注装置。
【請求項5】
液体を保持するための上部が閉鎖上の液体貯蔵槽と、液体を圧送するための圧力発生装置及びこれと液体貯蔵槽の内部上方との間を接続し圧力を伝達するための管路を含む配管系と、該配管系内の気圧を任意の圧力に調整するための圧力調節手段を有し、液体供給部から吐出部にかけて接続された液体供給吐出管路を通じて液体供給部から液体を圧送して吐出部に導く液体分注装置において、前記配管系の圧力を検出するための圧力センサと、予め液体の使用限界量の容積を液体貯蔵槽に供給して算出した圧力到達時間を閾値として保持する制御・演算手段により、加圧開始から液体が吐出される圧力に到達するまでの圧力到達時間に基づいて液体貯蔵槽内の液体の残量を検知することを特徴とする液体残量検知方法。
【請求項6】
圧力到達時間の代わりに、吐出時の圧力値から加圧手段による加圧を止め、配管系内の圧力が一定圧に低下するまでの排気時間を測定するものである請求項5記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−258743(P2006−258743A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−79820(P2005−79820)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(801000072)農工大ティー・エル・オー株式会社 (83)
【Fターム(参考)】