説明

液体吐出装置

【課題】キャッピングされた状態においてノズル内の液体の乾燥を好適に抑制可能な液体吐出装置を提供すること。
【解決手段】描画動作の開始終了時や、その最中において周期的に予備吐出を行う液体吐出装置において、予備吐出の履歴が履歴パラメータによって管理される。履歴パラメータが所定値に達すると、液体吐出装置は補充吐出(ステップS12)によってキャップ内にインクを補充し、続くキャップ内吸引(ステップS13)によって、補充したインクと共にキャップ内に蓄積されていた古いインクを効率的に排出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置、ディスプレー製造装置、電極形成装置、バイオチップ製造装置など、ノズルから液体を吐出して描画等を行う液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体吐出装置として、紙への印刷に適したインクジェットプリンタ(以下、プリンタとする)が知られており、一般的には、液体(インク)を吐出するための微細なノズルを備えるヘッドを、紙に対向した状態で移動可能に配した構成となっている。
【0003】
このようなプリンタでは、ノズル内のインクが乾燥すると正常な吐出が行えなくなるため、このような乾燥を抑え、あるいは乾燥した状態からの回復を図るための技術が重要となる。もとより、プリンタにはノズルの開口を封止(キャッピング)するためのキャップが設けられており、非動作時にはキャッピングを行うことで、ノズル内のインクの乾燥を抑えることができるようになっている。
【0004】
また、描画動作の前後やその最中において紙面外にインクの吐出を行うことにより、ノズル内において乾燥の進行した古いインクを新しいインクに置換し、吐出性能の回復、維持を図るようにしたプリンタも広く知られている。このようなノズルメンテナンスのための吐出は予備吐出と呼ばれ、キャップに対して吐出されることが多い。
【0005】
従来、キャップ内にはインクを保持するための吸収体が設けられていて、吸収体中に保持されるインクの水分により、キャッピングされた封止空間内が高湿に保たれるようにされていた。しかしながら、上述のような予備吐出を伴うプリンタにあっては、予備吐出されたインクが、キャッピング時におけるノズル内の乾燥を却って促進させてしまう場合がある。これは、予備吐出の履歴が進むと共に、インクの保湿成分(グリセリン等)がその保持水分を失った状態で吸収体に蓄積されてゆき、キャッピングされた時にノズル内のインクから積極的に水分を奪うように作用するためである。
【0006】
このことに鑑みて、本願出願人は先に、内部にインクが残留しないようなキャップの構造に係る発明について、出願を行っている(特許文献1)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−251828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に係るキャップでは、上述したインク中の保湿成分による弊害を抑えることはできるが、水分の保持機能も失われてしまい、長期間の放置下においてノズル内の乾燥を十分に抑えることはできない。
【0009】
また、吸収体を残したままのキャップの構成で、キャップに連通する吸引手段を用いて予備吐出されたインクの強制排出を試みるとしても、当該インクは既に水分を多く失って高粘度化しているためほとんど排出させることができない。
【0010】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、キャッピングされた状態においてノズル内の液体の乾燥を好適に抑制可能な液体吐出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の液体吐出装置は、液体をノズルから吐出する吐出ヘッドと、前記ノズルの開口を封止可能なキャップと、前記キャップ内に配設される吸収体と、前記キャップに対して前記ノズルのメンテナンスのための予備吐出を実行させる予備吐出手段と、前記キャップから前記液体の吸引を行う吸引手段と、前記吸引に先立って、前記キャップに対して前記液体を当該キャップ内に補充するための補充吐出を実行させる補充吐出手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この発明の液体吐出装置によれば、新規の液体を吸収体に補充(補充吐出)した上で吸引を行うようになっているため、予備吐出によって吸収体内に蓄積された古い(湿潤成分の失われた)液体を、新規の液体で洗い流して好適に排出させることができる。また、吸収体には、補充した液体の一部が保持される。かくして、ノズルの開口がキャッピングされた状態において、予備吐出された古い液体がノズル内の乾燥を促すことがなく、また、吸収体中に保持される液体の湿潤成分によって、ノズル内の乾燥が好適に抑えられる。
尚、液体の湿潤成分とは主溶媒成分のことを、液体の保湿成分とは当該湿潤成分を保持する性質を有する添加成分のことを表している。
【0013】
本発明は、液体をノズルから吐出する吐出ヘッドと、前記ノズルの開口を封止可能なキャップと、前記キャップ内に配設される吸収体と、前記キャップに対して前記ノズルのメンテナンスのための予備吐出を実行させる予備吐出手段と、前記キャップから前記液体の吸引を行う吸引手段と、を備える液体吐出装置であって、前記吸引に先立って、前記キャップに対して前記液体を当該キャップ内に補充するための補充吐出を実行させる補充吐出手段と、前記予備吐出のうち保湿成分に関する累積吐出量に係る情報を管理する履歴管理手段と、を備え、前記補充吐出手段は、前記情報に基づいた条件で、前記補充吐出を実行させることを特徴とする。
【0014】
この発明の液体吐出装置によれば、新規の液体を吸収体に補充(補充吐出)した上で吸引を行うようになっているため、予備吐出によって吸収体内に蓄積された古い(湿潤成分の失われた)液体を、新規の液体で洗い流して好適に排出させることができる。また、吸収体には、補充した液体の一部が保持される。かくして、ノズルの開口がキャッピングされた状態において、予備吐出された古い液体がノズル内の乾燥を促すことがなく、また、吸収体中に保持される液体の湿潤成分によって、ノズル内の乾燥が好適に抑えられる。
また、予備吐出の履歴が進むと、吸収体には古い保湿成分が多く含まれることになり、キャッピング時のノズル内の乾燥の促進を招いたり、当該保湿成分を洗い流すことが困難になったりするが、この発明の液体吐出装置によれば、予備吐出の累積吐出量に係る情報に基づいて好適な条件で保湿成分を排出させることができる。
尚、液体の湿潤成分とは主溶媒成分のことを、液体の保湿成分とは当該湿潤成分を保持する性質を有する添加成分のことを表している。
【0015】
また好ましくは、複数の液体種に対応して、前記ノズルおよび前記キャップがそれぞれ設けられた前記液体吐出装置において、前記補充吐出手段は、対応する液体種ごとに前記補充吐出の保湿成分に関する吐出量を設定することを特徴とする。
この発明の液体吐出装置によれば、対応する液体種ごとに適量の液体を補充して、吸収体中の保湿成分を効率的に洗い流すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。また、以下の説明で参照する図では、図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺を実際のものとは異なるように表す場合がある。
【0017】
(液体吐出装置の構成)
まずは、図1、図2、図3を参照して液体吐出装置の構成について説明する。
図1は、液体吐出装置の全体構成を示す概略斜視図である。図2は、キャップの周辺構成を示す一部破断の側面図である。図3は、液体吐出装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0018】
図1において、液体吐出装置としてのプリンタ1は、スチール板等で形成されたガイドフレーム3と、用紙2を搬送する搬送ローラ4と、微小なノズルが並設されたノズル面10aを有する吐出ヘッド10と、吐出ヘッド10のノズルメンテナンスを行うためのメンテナンスユニット5と、を備えている。吐出ヘッド10は、キャリッジ6に搭載されて、ガイドロッド8に沿って往復動(走査)されるようになっている。ガイドフレーム3は、その剛性と重量によって装置全体の土台をなすと共に、電気的なアースとしての機能も果たしている。
【0019】
キャリッジ6には、液体としての4色の着色インク(インク)をそれぞれ収容するインクカートリッジ7a〜7dが搭載されており、吐出ヘッド10にはこれら各色の着色インクがそれぞれ供給される。そして、キャリッジ6の走査および用紙2の搬送に同期して吐出ヘッド10のノズル毎の吐出制御が行われ、液滴化されたインクによって用紙2上に画像等が形成される。
【0020】
メンテナンスユニット5は、吐出ヘッド10のノズル面10aに密着してノズルの開口を封止(キャッピング)可能なキャップ11と、ゴム等で形成された板状部材であるワイパブレード12とを備えている。キャップ11は、ノズルを粉塵や乾燥などから保護する役割を果たすほか、後述するノズルメンテナンス動作の際にも用いられる。また、ワイパブレード12は、ノズル面10aに付着したインクを払拭するのに用いられる。
【0021】
図2において、吐出ヘッド10は、対応するインク種ごとにノズル面10aにライン状に並設されたノズル21と、各ノズル21と連通する圧力発生室22とを備えている。圧力発生室22の壁面の一部は圧電素子等により変形するようになっており、当該圧電素子の駆動により圧力発生室22に圧力を発生させることで、インクの吐出が行われる。
【0022】
キャップ11は、吐出ヘッド10と対向する側に開口を有する箱型の部材である。キャップ11は、その開口縁部11aにおいて弾性を有しており、当該開口縁部11aをノズル面10aに密着させることでノズル21の開口を封止(キャッピング)することができる。また、キャップ11内には、スポンジや不織布などで形成された吸収体13が配設されている。これは、吸収体13の持つインクの保持機能により、キャッピングの状態においてキャップ11内を高湿に保つためのものである。
【0023】
キャップ11は、図示しないスライダー機構によって保持されており、吐出ヘッド10の走査方向への移動に連動して上下方向(ノズル面10aに対する遠近方向)に移動する。かくして、吐出ヘッド10の走査制御により、キャッピングおよびその解除を自在に行うことができる。
【0024】
キャップ11の底部には連通管11bが形成されており、連通管11bは連通チューブ14の一端と接続されている。連通チューブ14は、キャップ11がスライダー機構によって移動可能に構成されることに鑑みて、適度な可撓性を有していることが好ましい。また、キャッピングされた状態において、キャップ11内の封止空間と連通される空間を形成することに鑑みて、壁面からの蒸気透過が起こりにくい材質であることが好ましい。
【0025】
連通チューブ14の他端は、吸引手段としての吸引ポンプ15(模式化して図示)と接続されている。吸引ポンプ15には、小型で効率の良いチューブポンプなどが好適に用いられる。吸引ポンプ15は、キャッピング状態でノズル21内からインクを吸引する(ノズル内吸引)ほか、キャッピングしない状態でキャップ11内に溜まったインクを吸引する(キャップ内吸引)ことができる。吸引されたインクは、吸引ポンプ15の排出口と連通する廃液チューブ16を通って、廃液タンク17内に収容される。
【0026】
ノズル内吸引は、ノズル21内のインクが乾燥して、固化もしくは吐出がほとんど不能なほどに高粘度化した場合に、乾燥したインクを強制的に排出して吐出性能の回復を図る目的で実行される。また、キャップ内吸引は、ノズル内吸引によりキャップ11内に排出されたインクを回収したり、予備吐出(詳しくは後述する)により吐出されたインクを回収したりする目的で実行される。
【0027】
図3において、プリンタ1は、動作に係る各種制御を行う制御部120を備えている。制御部120は、外部インターフェース(I/F)121を介してホストコンピュータ119と接続されている。また、内部I/F122を介して、吐出ヘッド10の吐出駆動回路131、キャリッジ6(図1参照)の走査駆動を行うための走査モータ104、搬送ローラ4(図1参照)駆動用の搬送モータ105、吸引ポンプ15(図2参照)駆動用のポンプモータ106と接続されている。
【0028】
制御部120は、CPU123と、CPU123のワークメモリや吐出制御に係るデータのバッファメモリとして機能するRAM124と、各種制御情報を記憶するROM125と、クロック信号(CK)を生成する発信回路126と、駆動信号(COM)を生成する駆動信号生成回路127と、を備えている。尚、ROM125は、EEPROMのような書き換え可能なものとすることもできる。
【0029】
吐出駆動回路131は、シフトレジスタ132からなるシフトレジスタ回路と、ラッチ回路133と、レベルシフタ134と、スイッチ135とを備え、圧電素子136の個々に選択的に駆動信号(COM)を印加できるように構成されている。尚、駆動信号(COM)は、充放電のパルスの組み合わせにより構成されている。
【0030】
印刷動作は、用紙2(図1参照)におけるインク滴の配置を表したいわゆるビットマップ形式の描画パターンデータを、ホストコンピュータ119から制御部120に伝送することで実行される。このとき制御部120は、描画パターンデータをデコードしてノズル毎のON/OFF情報であるノズルデータを生成する。
【0031】
ノズルデータをシリアル信号化したノズルデータ信号(SI)は、クロック信号(CK)に同期してシフトレジスタ回路に伝送され、各ノズル毎のON/OFF情報がそれぞれシフトレジスタ132に記憶される。そして、ラッチ信号(LAT)によりラッチ回路133でラッチされた「ON」情報に係るノズルデータは、レベルシフタ134で所定の電圧信号に変換されてスイッチ135に供給される。
【0032】
かくして、「ON」に対応する圧電素子136に駆動信号(COM)が印加され、ノズルからインクが吐出される。このような描画パターンデータに基づく吐出制御(描画制御)は、吐出ヘッド10の走査位置に同期して周期的に行われる。
【0033】
制御部120は、描画制御の処理に割り込ませるかたちで、対応するノズルデータ信号(SI)や駆動信号(COM)等を発生させて、予備吐出や補充吐出を実行させることもできる。すなわち、制御部120は、本発明の予備吐出手段および補充吐出手段としての機能を有している。
【0034】
ここで、予備吐出とは、ノズルメンテナンスを目的として描画動作の前後やその最中にキャップ11に対して行われる吐出のことであり、ノズル内の古いインクを新しいインクに置換して吐出性能の回復、維持を図ったり、吸収体13(図2参照)に水分を与えてキャッピング時の保湿性を向上させる目的で実行される。
【0035】
また、補充吐出とは、キャップ内吸引に先立って吸収体13(図2参照)にインクを補充するために実行される吐出のことである。補充吐出は、予備吐出と同様、キャップ11(図2参照)に対して行われる吐出であるが、常にキャップ内吸引と共に実行されるものであり、また一動作あたりの吐出量は予備吐出の数倍ないし数十倍程度となっている。
【0036】
(液体吐出装置のノズルメンテナンス)
次に、図2、図3を参照しながら、図4、図5のフローチャートに沿って液体吐出装置のノズルメンテナンスについて説明する。
図4は、描画動作に係る処理を示すフローチャートである。図5は、主電源のオフ時のノズルメンテナンスに係る処理を示すフローチャートである。
【0037】
プリンタ1は、非動作時において、ノズル21の開口がキャッピングされた状態(キャッピング状態)となっている。そして、ホストコンピュータ119から描画命令を受けると、プリンタ1は、図4に示すフローチャートに沿って処理を実行する。
【0038】
制御部120は、まず走査モータ104の駆動によりキャッピングを解除し(ステップS1)、次いでキャップ11に対する予備吐出を実行させると共に(ステップS2)、履歴パラメータの更新(ステップS3)、および周期タイマの初期化(ステップS4)を行う。
【0039】
ステップS2における予備吐出動作は、キャッピング状態の間に乾燥が進行したインクをノズル21内から排出し、吐出性能の回復を図る目的で実行されるものである。尚、インクの種類によってはこのような予備吐出を行わないようにすることもできるし、直近の描画動作からの経過時間を参照して、予備吐出の実行の要否を判断するようにすることもできる。
【0040】
ステップS3における履歴パラメータとは、予備吐出の履歴をパラメータ化したものであり、具体的には、各予備吐出動作毎の吐出量のうち保湿成分量を積算した累積保湿成分量を表している。この履歴パラメータは保湿成分量をカウントしてもよいが、同じインクであれば吐出するインク量における保湿成分量は一定なので、吐出したインク滴の数、消費したインク量に相当する値とすることができるほか、予備吐出の回数(吐出駆動回数、動作回数)に対応する値とすることもできる。またこの場合において、1ノズル単位、1インク種単位、全ノズル単位のいずれに相当する値としてもよい。このように、制御部120は、履歴パラメータによって予備吐出の履歴を管理する履歴管理手段としての機能を有している。なお、保湿成分量はインクの色毎に異なるので、それぞれの色毎に積算して管理するのが望ましい。
【0041】
ステップS4における周期タイマは、描画動作中に定期的に実行する予備吐出動作(ステップS9)の実行タイミングを規定するためのタイマである。図4のフローチャートが示すように、周期タイマは予備吐出(ステップS2およびステップS9)の直後を起算時としてカウントされる。
【0042】
ステップS4の後、制御部120は、一走査分の描画制御を行い(ステップS5)、次いで未処理の描画パターンデータが残っているか否かの判断を行う(ステップS6)。
【0043】
ステップS6において描画パターンデータが残っていないと判断される場合は、制御部120は、描画動作の終了のためのノズルメンテナンス処理(ステップS15〜S17)を行う。すなわち、キャップ11内への予備吐出(ステップS15)、および履歴パラメータの更新(ステップS16)がなされた後、キャッピング(ステップS17)によってノズル21の保護が図られる。
【0044】
ステップS15における予備吐出は、キャップ11内の吸収体13を保湿させる目的で実行されるものである。これにより、キャッピング状態において封止空間内は高湿状態に保たれ、ノズル21内のインクの乾燥が好適に抑えられる。
【0045】
ステップS6において描画パターンデータが残っていると判断される場合は、制御部120は、周期タイマの値が所定値以上であるか否かの判断を行う(ステップS7)。
【0046】
ステップS7において周期タイマの値が所定値未満と判断される場合は、上述のステップS5の処理に戻って上述の処理が繰り返される。すなわち、走査単位での描画制御(ステップS5)は、周期タイマの値が所定値に達するまで複数回繰り返される。
【0047】
ステップS7において周期タイマの値が所定値以上と判断される場合には、制御部120は、履歴パラメータが所定値未満であるか否かの判断を行う(ステップS8)。キャップ内のインクは時間が経過すると蒸発するが、蒸発するのはインク中の水分であり、保湿成分(グリセリン等)は蒸発しない。保湿成分は水分を蓄える性質を持つが、周囲の水分量が不足するとその周囲からさらに水分を吸湿しようとする。そのためノズル内のインクから水分を奪うように作用する。ここで判断する履歴パラメータの所定値は、インクの水分が蒸発したときに累積保湿成分量がノズル内のインクの水分を奪い、インクが増粘して吐出不良にいたるような累積保湿成分量である。インク内の水分量が蒸発してない状態においては、保湿成分はノズル内のインク内の水分を奪おうとはしないが、非印刷時においてキャッピングをしていてもインク内の水分は蒸発する。つまり、いつ保湿成分がノズル内のインクの水分を奪い始めるかは予測できない。そこで、水分が蒸発してるか否かによらず、将来的に吐出不良にいたるような累積保湿成分量を閾値として、キャップ内の保湿成分量を洗い流す。
【0048】
ステップS8において履歴パラメータが所定値未満であると判断される場合は、制御部120は、描画動作中における吐出性能維持のためのノズルメンテナンス処理(ステップS9〜S11)を行う。すなわち、キャップ11内への予備吐出(ステップS9)と共に、周期タイマの初期化(ステップS10)および履歴パラメータ更新(ステップS11)が行われる。
【0049】
ステップS9における予備吐出は、描画動作中に乾燥の進行したノズル21内の古いインクを新しいインクに強制置換する目的で実行させるものである。これにより、描画パターンデータに基づいた吐出の有無に関わらず最低限度のインクの吐出が確保され、描画動作中における吐出性能が好適に維持される。
【0050】
ステップS11の後は、再びステップS5の処理に戻って上述の処理が繰り返される。このように、予備吐出(ステップS9)は、描画動作中において周期的なタイミングで間欠的に行われる。
【0051】
ステップS8において履歴パラメータが所定値以上と判断された場合は、制御部120は、吸収体13に蓄積されたインクを強制排出するための処理を行う。すなわち、キャップ11内への補充吐出(ステップS12)とキャップ内吸引(ステップS13)とが連続して行われる。
【0052】
予備吐出(ステップS2,S9,S15)が間欠的に実行され、履歴パラメータの値が上昇した状態にあっては、予備吐出によって吸収体13に含まれることになったインクは水分を失って高粘度化した状態の場合がある。ステップS13のキャップ内吸引は、吐出不良に悪影響を及ぼす古いインクを強制的に排出させる目的で行われるものである。
【0053】
高粘度化した古いインクは流動性の低下により排出が困難であるが、本実施形態では、補充吐出(ステップS12)によって吸収体13に相当量のインクを補充した上でキャップ内吸引(ステップS13)を行うことにより、当該古いインクの排出性を高めている。吸収体13に蓄積された古いインクは、補充吐出した新しいインクによって洗い流されることで、好適に排出されるからである。また、補充された新しいインクは、キャップ内吸引(ステップS13)後、その一部が吸収体13に保持されて、キャッピングされた封止空間内を高湿状態に維持する役割を果たす。
【0054】
補充吐出(ステップS12)によるインクの吐出量は、吸収体13に蓄積されているインク中の保湿成分量よりも多い量とすることが好ましく、より好ましくは、当該保湿成分量の2〜3倍(重量比)程度の吐出量である。尚、本実施形態では、保湿成分を10〜20重量%含むインク(インク種によって含有比率が異なる)が用いられており、キャップ11内に予備吐出されたインク総量の50%相当のインクが補充吐出(ステップS12)されるようになっている。
【0055】
補充吐出(ステップS12)、キャップ内吸引(ステップS13)により、吸収体13内に蓄積されていた古いインクのほとんどは排出されるため、履歴パラメータは続くステップS14において初期化される。履歴パラメータは、予備吐出によって吸収体13内に蓄積されてゆくインク量の指標となるものだからである。また、同様の理由から、履歴パラメータの初期化は、ノズル21内方の固化インクや気泡の除去のためにノズル吸引動作が実行された場合にも行われる。
【0056】
ステップS14の後は、再びステップS5に戻って上述の処理が繰り返される。すなわち、予備吐出されたインクのキャップ11からの強制排出(ステップS12,S13)は、履歴パラメータが所定値に到達したタイミングで、定期的に実行される。
【0057】
古いインクの強制排出(ステップS12,S13)を履歴パラメータを参照して定期的に行うようにしたのは、当該古いインクの排出の効率化を図るためである。すなわち、吸収体13に古いインクがあまりにも多く蓄積されてしまうと、このインクを排出させるために著しく多量のインクの補充が必要になったり、また、十分な排出ができなくなってしまったりするからである。
【0058】
描画動作を終えたプリンタ1は、非動作状態のままホストコンピュータ119等からの命令を待ち、再び新たな描画命令を受けた場合には、上述のステップS1〜S17の処理が行われる。この場合において、履歴パラメータは、前回の描画動作が終了した時点の値が引き続き使用される。
【0059】
一方、プリンタ1の主電源スイッチをオフする操作が、図示しないハードウェアスイッチによって行われた場合には、プリンタ1は、図5に示すフローチャートに沿って処理を実行する。
【0060】
制御部120は、まず走査モータ104の駆動によりキャッピングを解除する(ステップS21)。次いで履歴パラメータを取得して(ステップS22)、取得した履歴パラメータに基づいて次に行う補充吐出の吐出量の設定を行う(ステップS23)。そして、設定した吐出量の下で補充吐出(ステップS24)とそれに続くキャップ内吸引(ステップS25)を実行させ、履歴パラメータを初期化して(ステップS26)、キャッピングを行う(ステップS27)。
【0061】
このように、主電源がオフされる際には、その時点での履歴パラメータの値に関係無く、補充吐出(ステップS24)とキャップ内吸引(ステップS25)とを組み合わせたインクの排出動作が実行される。主電源がオフされる場合は、その後においてプリンタ1が長期にわたって動作しないケースが想定されるため、吸収体13内に蓄積された古いインクを排出させて、ノズル21内の好適な乾燥防止を図ろうとするものである。
【0062】
また、ステップS24における補充吐出は、履歴パラメータを参照して設定された吐出量に基づいて実行される。これは、吸収体13に蓄積されている古いインクの量に応じて、当該古いインクの洗い流しに必要十分なインクを補充するようにすることで、補充吐出(ステップS24)で無用のインクが浪費されないように配慮したものである。
【0063】
(変形例1)
次に、変形例1について、図6のフローチャートに沿って、先の実施形態との相違点を中心に説明する。
図6は、変形例1における描画動作に係る処理を示すフローチャートである。
【0064】
変形例1における予備吐出に係る処理(ステップS33,S34,S37,S39,S40,S44)や描画処理(ステップS35)、描画動作の終了判断の処理(ステップS36)については、先の実施形態と同様なので説明を省略する。
【0065】
変形例1では、補充吐出(ステップS41)およびキャップ内吸引(ステップS42)の実行判断(ステップS38)は、履歴タイマに基づいて行われるようになっている。履歴タイマは、描画動作の累積時間を計上するタイマであり、描画動作に係る予備吐出(ステップS33,S39,S44)が概ね周期的に実行されることから、予備吐出に係る履歴を間接的に管理する手段としてカウントされるものである。この変形例1のように、予備吐出に係る履歴は、関連する時間等によって間接的に管理することも可能である。
【0066】
履歴タイマは、具体的には、キャッピング解除(ステップS31)直後にカウントを開始し(ステップS32)、キャッピング(ステップS46)直前にカウントを終了する(ステップS45)。また、履歴タイマは、一の描画動作が終了した後においても維持されるが、キャップ内吸引(ステップS42)が行われた際(ステップS43)や、ノズル吸引動作が行われた際に初期化される。
【0067】
(変形例2)
次に、変形例2について、先の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0068】
この変形例2においては、各インク種ごとに対応してノズルをキャッピングするキャップが独立または分割して設けられており、各インク種ごとに予備吐出や補充吐出、キャップ内吸引を行うようになっている。この場合において、補充吐出における吐出量は、対応するインク種ごとに設定される。これは、対応するインク種によって含まれる保湿成分量等が異なり、吸収体からの洗い流しに要する補充インクの適正量に差が生じるため、その適正化を図ることで補充吐出における無用なインクの消費を抑えるようにしたものである。尚、この場合において、予備吐出の履歴を示す履歴パラメータはインク種ごとにカウントするようにしてもよい。
【0069】
本発明は上述の実施形態に限定されない。
例えば、本発明は予備吐出の履歴があることが前提となるが、予備吐出の実行に係る態様は上述の実施形態に限定されるものではなく、ノズルメンテナンスの目的を有する限りにおいて様々な条件の変更および付加が可能である。
また、補充吐出とキャップ内吸引の実行タイミングや、その判断条件などについても、本発明の趣旨を変えない範囲で自由な変更が可能である。
また、本発明は工業用途で使用される描画装置にも適用することができ、この場合において、液体の湿潤成分には水だけでなく有機溶媒を含むこともできる。
また、各実施形態の各構成はこれらを適宜組み合わせたり、省略したり、図示しない他の構成と組み合わせたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】液体吐出装置の全体構成を示す概略斜視図。
【図2】キャップの周辺構成を示す一部破断の側面図。
【図3】液体吐出装置の電気的構成を示すブロック図。
【図4】描画動作に係る処理を示すフローチャート。
【図5】主電源のオフ時のノズルメンテナンスに係る処理を示すフローチャート。
【図6】変形例1における描画動作に係る処理を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0071】
1…液体吐出装置としてのプリンタ、5…メンテナンスユニット、10…吐出ヘッド、10a…ノズル面、11…キャップ、12…ワイパブレード、13…吸収体、14…連通チューブ、15…吸引手段としての吸引ポンプ、16…廃液チューブ、17…廃液タンク、21…ノズル、22…圧力発生室、119…ホストコンピュータ、106…ポンプモータ、120…予備吐出手段および補充吐出手段および履歴管理手段としての制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体をノズルから吐出する吐出ヘッドと、前記ノズルの開口を封止可能なキャップと、前記キャップ内に配設される吸収体と、前記キャップに対して前記ノズルのメンテナンスのための予備吐出を実行させる予備吐出手段と、前記キャップから前記液体の吸引を行う吸引手段と、を備える液体吐出装置であって、
前記吸引に先立って、前記キャップに対して前記液体を当該キャップ内に補充するための補充吐出を実行させる補充吐出手段と、
前記予備吐出のうち保湿成分に関する累積吐出量に係る情報を管理する履歴管理手段と、を備え、
前記補充吐出手段は、前記情報に基づいた条件で、前記補充吐出を実行させることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
複数の液体種に対応して、前記ノズルおよび前記キャップがそれぞれ設けられた請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記補充吐出手段は、対応する液体種ごとに前記補充吐出の保湿成分に関する吐出量を設定することを特徴とする液体吐出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−216499(P2007−216499A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39308(P2006−39308)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】