説明

液体噴射ヘッド、液体噴射装置、液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】所望のばらつきの少ない液体噴射特性を有することが確認された液体噴射ヘッド及び液体噴射装置、及び製造工程において所望のばらつきの少ない液体吐出特性を有するか否かを簡易にかつ高精度に検査することができる製造方法を提供する。
【解決手段】液体噴射ヘッドは、液体を噴射する複数のノズル開口21にそれぞれ連通する圧力発生室12と、各圧力発生室に圧力変化を生じさせる複数の圧電素子300と、複数の圧電素子からなる圧電素子群の圧電素子の並設方向の両外側に設けられた一対の検査用圧電素子とを具備し、検査用圧電素子の圧電体層が、その飽和分極の変動幅が5%以内であり、残留分極の変動幅が15%以内であり、かつ、抗電界強度の変動幅が15%以内である。液体噴射装置は、これを備える。液体噴射ヘッドの製造方法は、検査用圧電素子300Aを用いて圧電特性を測定する測定工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッド、液体噴射装置、液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドであるインクジェット式記録ヘッドとしては、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させる圧電素子の撓み振動モードのアクチュエーター装置を使用したものがある。
【0003】
このようなインクジェット式記録ヘッドの印刷物の画質ムラを示す指標として、ライン幅傾きがある。ここで、ライン幅傾きは、一本の直線を描画した場合にその線幅のばらつきを示すものである。ライン幅傾きが大きいほど線幅のばらつきが大きく印字品質が落ち、特に、ライン幅傾きが6%を超えると、肉眼で見ても視認性が低下する。このようなライン幅傾きを低下させる原因としては、インク滴スピード及びインク滴重量のばらつきが挙げられる。
【0004】
従来は、インクの固有振動周期測定により、各インクジェット式記録ヘッドが設計値通りの固有振動周期を有するのかを把握し、インク滴スピード及びインク滴重量を予測することにより、ばらつきがあればその後の工程にフィードバックをかける等してインクジェット式記録ヘッド毎の画質ばらつきを抑制している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−154212号公報(請求項1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記固有振動周期測定はインクジェット式記録ヘッド完成品に対して行うものであるため、不良品が発生した場合にコストが高くなってしまい、また製造工程へのフィードバックが遅れてしまうという問題がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、所望のばらつきの少ない液体噴射特性を有することが確認された液体噴射ヘッド及び液体噴射装置、及び製造工程において所望のばらつきの少ない液体吐出特性を有するか否かを簡易にかつ高精度に検査することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体噴射ヘッドは、液体を噴射する複数のノズル開口にそれぞれ連通し、並設された圧力発生室と、該各圧力発生室に圧力変化を生じさせる複数の圧電素子と、複数の前記圧電素子からなる圧電素子群の前記圧電素子の並設方向の両外側に設けられた一対の検査用圧電素子とを具備し、前記一対の検査用圧電素子の圧電体層が、その飽和分極の変動幅が5%以内であり、残留分極の変動幅が15%以内であり、かつ、抗電界強度の変動幅が15%以内であることを特徴とする。本発明の液体噴射ヘッドでは、一の前記圧電素子の圧電体層を基準として、他の前記圧電素子の圧電体層が、その飽和分極の変動幅が5%以内であり、残留分極の変動幅が15%以内であり、かつ、抗電界強度の変動幅が15%以内であることにより、両外側の検査用圧電素子間に配置される圧力発生室から液体を吐出させる複数の圧電素子のライン幅傾きが6%以内となるので、所望のばらつきの少ない液体噴射特性を有することができる。なお、これらの飽和分極、残留分極及び抗電界については、圧電素子のヒステリシス特性を示す図8に詳細に規定している。
【0009】
具体的には、前記一対の検査用圧電素子の圧電体層が、飽和分極の差が1.2μC/cm以内であり、残留分極の差が2.5μC/cm以内であり、かつ、抗電界強度の差が7.69kV/cm以内であることが好ましい。変動幅、即ち検査用圧電素子の各特性の差を導出し、この差が上記範囲に収まっていれば、上記変動幅の範囲に収まることになりライン幅傾きが6%以内となり、液体噴射ヘッドは、所望のばらつきの少ない液体噴射特性を有することができる。
【0010】
本発明の液体噴射装置は、上記いずれかの液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする。ばらつきの少ない液体噴射特性を備えた液体噴射ヘッドを有することで、本発明の液体噴射装置はばらつきの少ない液体噴射特性を備える。
【0011】
本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、液滴を噴射するノズルに連通する複数の圧力発生室を含む液体流路が形成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられて前記各圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子と、複数の圧電素子からなる圧電素子群の圧電素子の並設方向の両外側に設けられた一対の検査用圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板の一方面側に、第1電極、圧電体層及び第2電極を積層形成しパターニングすることで、複数の圧電素子を形成すると共に、複数の圧電素子からなる圧電素子群の圧電素子の並設方向の両外側に、それぞれ前記第1電極、圧電体層及び第2電極で構成される一対の前記検査用圧電素子を形成する工程をさらに備え、前記一対の検査用圧電素子の圧電特性を測定する測定工程と、前記圧電特性から、前記検査用圧電素子の飽和分極、残留分極及び抗電界強度の変動幅を算出し、その飽和分極の変動幅が5%以内であり、残留分極の変動幅が15%以内であり、かつ、抗電界強度の変動幅が15%以内であるかどうかを判定する判定工程とを備えたことを特徴とする。検査用圧電素子を備えて、この圧電素子から変動幅を導出し判定を行うことで、より簡易に、かつ高精度に圧電特性のばらつきを検査することができ、所望のばらつきの少ない液体噴射特性を有する液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0012】
前記判定工程では、前記飽和分極の差が1.2μC/cm以内であり、前記残留分極の差が2.5μC/cm以内であり、かつ、前記抗電界強度の差が7.69kV/cm以内であるかどうかを判定することが好ましい。変動幅としての差を導出し、この差に基づいて判定を行うことで、より簡易に所望のばらつきの少ない液体噴射特性を有するかどうかを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図8】実施形態1に係る測定結果であるヒステリシス曲線を示すグラフである。
【図9】実施形態1に係る駆動波形の一例を示す図である。
【図10】本発明の実施例の結果を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例の結果を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例の結果を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例の結果を示すグラフである。
【図14】本発明の実施形態に係る記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図である。
【0015】
図示するように、流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0016】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12が隔壁11により区画されてその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバーの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0017】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えばガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0018】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。絶縁体膜55としては、本実施形態においては、酸化ジルコニウムを用いている。さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、駆動により変位が生じる圧電素子300をアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0019】
圧電体層70は、第1電極60上に形成され、電気機械変換作用を示す圧電材料からなる。圧電体層70は、ペロブスカイト構造の結晶膜である圧電体膜を積層してなるものであり、Pb、Ti及びZrを少なくとも含むものである。圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電性材料(強誘電性材料)や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適であり、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等も用いることができる。本実施形態では、圧電体層70は、チタン酸ジルコン酸鉛を用いており、(100)面に優先配向している。圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度(0.5〜5μm)に厚く形成する。
【0020】
また、図2(a)及び図3に示すように、圧電素子300が並設された各列の両外側(並設された圧電素子300の並設方向における外側)には、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80からなる検査用圧電素子300A、300Bが設けられている。
【0021】
この検査用圧電素子300A、300Bは、詳しくは後述するが、検査工程において圧電素子300の圧電特性(ヒステリシス特性)を測定する際に用いられるものであり、圧電素子300を形成する際に同時に形成される。検査用圧電素子300A、300Bは、圧電素子300と同じ膜構成、製造条件で形成されるため、当該検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を測定すると、圧電素子300とほぼ同等の圧電特性を備えているといえる。ここで、検査用圧電素子300Aに最も近い圧電素子300と、検査用圧電素子300Bに最も近い圧電素子300とでは、製造の際などによって生じる膜厚みなどの微細な構成ばらつきによって圧電特性に違いが生じる。しかしながら、検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性の傾きよりも検査用圧電素子300Aに最も近い圧電素子300と検査用圧電素子300Bに最も近い圧電素子300間の圧電特性の傾きの方が小さいので、検査用圧電素子300A、300B間の圧電特性の傾きが所定の範囲内にあることを確認できれば、圧電素子300も圧電特性の傾きが所定の範囲内にあるといえ、ヘッドが製品として使用可能であると判断できる。本実施形態では、これらの検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を測定し、これらの変動幅を導出することによって液体噴射ヘッド内の圧電素子300の圧電特性の傾きを得て、変動幅が所定値を超えればばらつきがあると判定し、変動幅が所定値を超えなければばらつきがないと判定する。即ち、検査用圧電素子300A、300Bを両端に設けたのは、圧電素子300は並設方向において圧電特性に傾き(ばらつき)が生じることがあるので、ばらつきが生じた場合には最もそのばらつきが大きくなる両端に検査用圧電素子300A、300Bを設け、この検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を調べることで、複数の圧電素子300のばらつきを得ることができるようにしている。
【0022】
この検査用圧電素子300A、300Bの測定結果から得られる本実施形態の圧電素子300の圧電特性は、圧電素子300の並設方向における一端側と他端側の検査用圧電素子の圧電特性の変動幅、即ち飽和分極の変動幅が5%以下であり、残留分極の変動幅が15%以下であり、抗電界強度の変動幅が15%以下である。このような範囲に入るためには、例えば、検査用圧電素子300Aと検査用圧電素子300Bとの飽和分極の差が1.2μC/cm以下であり、残留分極の差が2.5μC/cm以下であり、抗電界強度の差が7.69kV/cm以下である。
【0023】
また、圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0024】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、弾性膜50及びリード電極90上には、リザーバー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバー部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバー部31のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバー100と各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0025】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0026】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0027】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0028】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路200が固定されている。この駆動回路200としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路200とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線210を介して電気的に接続されている。
【0029】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、ステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバー100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0030】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路200からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0031】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法及び検査方法について、図4〜図7を参照して説明する。なお、図4〜図7は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの製造方法及び検査方法を示す圧力発生室の幅方向の断面図である。
【0032】
まず、図4(a)に示すように、シリコンウエハーである流路形成基板用ウエハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)からなる二酸化シリコン膜51を形成する。次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。次いで、図4(c)に示すように、絶縁体膜55上の全面に第1電極60を形成すると共に、所定形状にパターニングする。この第1電極60の材料は、特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、第1電極60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。
【0033】
次に、図5(a)に示すように、第1電極60上に圧電体層70及び第2電極80を順次積層形成する。ここで、本実施形態では、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法、スパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法等を用いてもよい。また、第2電極80は、導電性の高い金属、例えば、イリジウム(Ir)等を用いることができる。
【0034】
次に、図5(b)に示すように、圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングすることで、圧電素子300及び検査用圧電素子300A、300Bを形成する。具体的には、圧電体層70及び第2電極80をパターニングすることで、流路形成基板用ウエハー110の各圧力発生室12が形成される領域に相対向する領域に圧電素子300を形成し、圧電素子300の圧電素子300が並設された方向における両外側に検査用圧電素子300A、300Bを形成する。すなわち、検査用圧電素子300A、300Bは、圧電素子300と同時に形成される。
【0035】
また、本実施形態では、図5(b)及び図3に示すように、検査用圧電素子300A、300Bを、並設された両端部の圧電素子300からの距離が、互いに隣接する圧電素子300の間隔と同一になるように設けている。これは、検査用圧電素子300A、300Bを互いに隣接する圧電素子300と同じ間隔で設けることで、検査用圧電素子300A、300Bが隣接した圧電素子から受ける引っ張り、圧縮等の応力を、圧電素子300間で生じる応力と同一とすることができるからである。
【0036】
また、検査用圧電素子300A、300Bは、本実施形態では、保護基板30が接合される領域に設けられている。これにより流路形成基板10の面積が広くなるのを防止して、インクジェット式記録ヘッドIが大型化するのを防止することができる。勿論、検査用圧電素子300A、300Bを流路形成基板10と保護基板30とが接合されない領域、例えば、圧電素子保持部32内又は保護基板30の外側に設けるようにしてもよい。これにより、流路形成基板10に保護基板30を接合した後であっても、検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を測定することができる。
【0037】
このように圧電素子300と共に検査用圧電素子300A、300Bを形成した後、検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を測定する(測定工程)。本実施形態では、圧電素子を数億パルス駆動させる中で安定して変位条件を測定することができるように、印加電圧強度:150〜300kV/cm、印加周波数:10〜100000Hzの測定条件において、検査用圧電素子300Aの分極(P)−電界(E)でのヒステリシス測定を行って飽和分極、残留分極及び抗電界強度を導出した。なお、測定条件はこの範囲に限定されるものではない。検査用圧電素子300Aの測定結果であるヒステリシス曲線の一例を図8に示す。
【0038】
そして、これらの検査用圧電素子300A、300Bの測定結果の差、即ち変動幅を求め、飽和分極の変動幅が5%以下であり、残留分極の変動幅が15%以下であり、かつ抗電界強度の変動幅が15%以下であるかどうかを導出し、変動幅が所定値以下であるかどうかを検査する(検査工程)。この場合に、変動幅を求めずにより簡易に検査するために、単に検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性の差を求め、この差が上述した変動幅に相当する所定値に含まれるかどうか検査してもよい。即ち、図9に示す三角波である駆動波形(条件:周期66Hz、印加電圧±35V、駆動波形間0.1秒)を用いて検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を測定し、検査用圧電素子300A、300Bの飽和分極の差が1.2μC/cm以下であり、残留分極の差が2.5μC/cm以下であり、抗電界強度の差が7.69kV/cm以下であるかどうかを検査する。そして、圧電特性がこの変動幅範囲であれば、インクの吐出特性にばらつきが少ないので、ライン幅傾きが6%であり、画質ムラが抑制されているインクジェット式記録ヘッドとすることができる。
【0039】
すなわち、本実施形態では、2つの検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を測定して、2つの検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性の差を導出することで、これらの値に基づいて検査用圧電素子300A、300Bの並設方向の傾きが規定の傾き以下か検査して、並設方向の圧電素子300のばらつきのないインクジェット式記録ヘッドかどうかを判別することができる。即ち、インク吐出特性が均一化(略均一化)され、ライン幅傾きが6%以内となった結果、視認性のよいインクジェット式記録ヘッドかどうかを判別することができる。
【0040】
本実施形態では、流路形成基板10(流路形成基板用ウエハー110)に圧力発生室12を形成する前に、検査用圧電素子300A、300B(圧電素子300)の圧電特性を測定するようにしたため、圧電素子300(検査用圧電素子300A、300B)の成膜工程、焼成工程及びリソグラフィー法等の製造工程における不具合を直ちに検知して、圧電素子300の製造工程にフィードバックをかけることができ、圧電素子300の製造工程の不具合による不良製品の発生を減少させることができる。また、圧力発生室12を形成する前に圧電素子300の検査を行って、良否判定をすることで、その後の保護基板30を接合する工程や、圧力発生室12を形成する工程等が無駄になることがない。
【0041】
また、本実施形態においては検査用圧電素子300A、300Bに電圧を印加して圧電特性を測定することで、実際にインクの吐出に用いられる圧電素子300に電圧を印加して検査することがなく、圧電素子300の分極方向が一部固定される、いわゆる疲労現象が発生することがない。すなわち、実際にインクの吐出に用いる圧電素子300で圧電特性の測定を行うと、測定のために電圧を印加した圧電素子300が、電圧を印加していない圧電素子300に比べて圧電特性が劣化し、より圧電特性にばらつきが生じる可能性があるので、これを抑制しているのである。
【0042】
このように検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性(即ち、圧電素子300の圧電特性)を検査した後は、リード電極90を形成する。具体的には、図5(c)に示すように、流路形成基板用ウエハー110の全面に亘ってリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングすることで形成される。
【0043】
なお、本実施形態では、リード電極90を形成する前に検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性の測定を行うようにしたため、検査用圧電素子300A、300Bにはリード電極90を形成していないが、検査用圧電素子300A、300Bにリード電極90を形成してもよい。これにより、例えば、検査用圧電素子300A、300Bを接合領域以外、すなわち圧電素子保持部32内に設けた場合には、流路形成基板用ウエハー110(流路形成基板10)に保護基板用ウエハー130(保護基板30)を接合した後で検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性の測定を行うことができる。勿論、検査用圧電素子300A、300Bにリード電極90を設けた場合であっても、設けていない場合であっても、圧電素子300にリード電極90を形成した後で、検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性の測定を行うようにしてもよい。
【0044】
次に、図6(a)に示すように、流路形成基板用ウエハー110の圧電素子300側に、シリコンウエハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウエハー130を接着剤35を介して接合する。
【0045】
次に、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウエハー110を所定の厚みに薄くする。次いで、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウエハー110にマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0046】
そして、図7に示すように、流路形成基板用ウエハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12等を形成する。
【0047】
なお、本実施形態では、検査用圧電素子300A、300Bは、圧力発生室12が形成されない領域に設けるようにした。これにより、流路形成基板10の剛性が低下して流路形成基板10に亀裂等の破壊が発生することや、流路形成基板10と保護基板30とが熱により膨張・収縮した際の反りにより、基板に亀裂等の破壊が発生するのを確実に防止することができる。勿論、検査用圧電素子300A、300Bに相対向する領域に圧力発生室12を形成するようにしてもよい。ちなみに、圧力発生室12を形成した後に検査用圧電素子300A、300Bを測定する場合には、検査用圧電素子300A、300Bを流路形成基板10と保護基板30とが接着されない領域、例えば、圧電素子保持部32内や保護基板30の外側などに設ける必要がある。
【0048】
その後は、流路形成基板用ウエハー110及び保護基板用ウエハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウエハー110の保護基板用ウエハー130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウエハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウエハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0049】
以下、実施例を用いて測定工程及び検査工程を説明する。複数の図5(b)に示す状態の各流路形成基板用ウエハー110(分割されると流路形成基板10が38枚形成される)の各検査用圧電素子300A、300Bに対して、図9に示す三角波を駆動波形として入力して、それぞれ検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を測定した。測定結果を図10〜図12に示す。図10〜図12は、実施例の結果を示すグラフであり、それぞれ縦軸が飽和分極、残留分極差、抗電界強度差を示し、横軸が各流路形成基板用ウエハーを示す。例えば、図10は、各流路形成基板用ウエハー110における各流路形成基板10(1〜38)のそれぞれの飽和分極の差を示している。図10〜図12に示すように、各流路形成基板用ウエハー110の全てのチップにおいて、全ての飽和分極の差が1.2μC/cm以下であり、残留分極の差が2.5μC/cm以下であり、抗電界強度の差が7.69kV/cm以下であった。また、これらのうち二つの流路形成基板用ウエハーのチップに対して後述する方法により液体噴射ヘッドとして作製した後にライン幅の傾きを調べた。結果を図13に示す。図13に示すように、ライン幅は全て5%以内に収まった。従って、上述したように変動幅が所定の値以下であれば、ライン幅の傾きが6%以内に収まることが分かった。
【0050】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。本実施形態では検査工程は、流路形成基板用ウエハー110の圧電素子300側に、保護基板用ウエハー130を接合する前に行ったが、圧電素子300の形成後であればどの段階で行ってもよい。例えば、各検査用圧電素子300A、300Bにそれぞれリード電極90を設ける構成とし、チップサイズの流路形成基板10等に分割することにより本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとした後に検査工程を行ってもよい。
【0051】
また、本実施形態においては検査用圧電素子300A、300Bを形成し検査工程を行ったが、並設された圧電素子300のうち、並設方向両端の圧電素子300を用いて検査工程を行ってもよい。
【0052】
上述した実施形態1では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、結晶面方位が(100)面のシリコン単結晶基板を用いるようにしてもよく、また、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0053】
なお、上述した実施形態1では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0054】
図14に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0055】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0056】
また、上述したインクジェット式記録装置IIでは、インクジェット式記録ヘッドI(ヘッドユニット1A、1B)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIが固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバー部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 リザーバー、 200 駆動回路、 210 接続配線、 300 圧電素子、 300A、300B 検査用圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する複数のノズル開口にそれぞれ連通し、並設された圧力発生室と、該各圧力発生室に圧力変化を生じさせる複数の圧電素子と、複数の前記圧電素子からなる圧電素子群の前記圧電素子の並設方向の両外側に設けられた一対の検査用圧電素子とを具備し、
前記一対の検査用圧電素子の圧電体層が、その飽和分極の変動幅が5%以内であり、残留分極の変動幅が15%以内であり、かつ、抗電界強度の変動幅が15%以内であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記一対の検査用圧電素子の圧電体層が、飽和分極の差が1.2μC/cm以内であり、残留分極の差が2.5μC/cm以内であり、かつ、抗電界強度の差が7.69kV/cm以内であることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
液滴を噴射するノズルに連通する複数の圧力発生室を含む液体流路が形成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられて前記各圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子と、複数の圧電素子からなる圧電素子群の圧電素子の並設方向の両外側に設けられた一対の検査用圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板の一方面側に、第1電極、圧電体層及び第2電極を積層形成しパターニングすることで、複数の圧電素子を形成すると共に、複数の圧電素子からなる圧電素子群の圧電素子の並設方向の両外側に、それぞれ前記第1電極、圧電体層及び第2電極で構成される一対の前記検査用圧電素子を形成する工程をさらに備え、
前記一対の検査用圧電素子の圧電特性を測定する測定工程と、
前記圧電特性から、前記検査用圧電素子の飽和分極、残留分極及び抗電界強度の変動幅を算出し、その飽和分極の変動幅が5%以内であり、残留分極の変動幅が15%以内であり、かつ、抗電界強度の変動幅が15%以内であるかどうかを判定する判定工程とを備えたことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記判定工程では、前記飽和分極の差が1.2μC/cm以内であり、前記残留分極の差が2.5μC/cm以内であり、かつ、前記抗電界強度の差が7.69kV/cm以内であるかどうかを判定することを特徴とする請求項4記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図14】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−73356(P2011−73356A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228648(P2009−228648)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】