液体噴射ヘッドの製造方法、液体噴射装置の製造方法及び圧電素子の製造方法
【課題】 変位量の向上した圧電素子とすることができる液体噴射ヘッドの製造方法、液体噴射装置の製造方法及び圧電素子の製造方法を提供する。
【解決手段】第1電極を形成する工程と、前記第1電極の上方に、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム及びチタンを含む前駆体溶液を塗布して塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を175℃以上185℃以下の温度で乾燥する第1乾燥工程と、前記第1乾燥工程の後、230℃以上270℃以下の温度で乾燥する第2乾燥工程と、前記第2乾燥工程の後、第2乾燥工程の温度以上の温度で加熱して脱脂する工程と、前記脱脂する工程の後、脱脂した塗布膜を加熱して結晶化させる工程と、を具備する。
【解決手段】第1電極を形成する工程と、前記第1電極の上方に、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム及びチタンを含む前駆体溶液を塗布して塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を175℃以上185℃以下の温度で乾燥する第1乾燥工程と、前記第1乾燥工程の後、230℃以上270℃以下の温度で乾燥する第2乾燥工程と、前記第2乾燥工程の後、第2乾燥工程の温度以上の温度で加熱して脱脂する工程と、前記脱脂する工程の後、脱脂した塗布膜を加熱して結晶化させる工程と、を具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法、液体噴射装置の製造方法及び圧電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。インクジェット式記録ヘッドに用いられる圧電素子としては、電気的機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、圧電セラミックスからなる圧電体層を、2つの電極で挟んで構成されたものがある。このような圧電素子は、撓み振動モードのアクチュエーターとして液体噴射ヘッドに搭載される。
【0003】
圧電セラミックスとして、高い変位特性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた液体噴射ヘッドが知られている。しかしながら、チタン酸ジルコン酸鉛には鉛が含まれており、環境問題の観点から、鉛を含有しない圧電材料が求められている。
【0004】
そこで、鉛を含有しないでPZTに匹敵する高い圧電特性を有する圧電材料が開発され、例えば、ビスマス及び鉄を含む鉄酸ビスマス系(BiFeO3系)のペロブスカイト型構造を有する圧電材料が提案されている。具体例としては、Bi(Fe,Mn)O3等の鉄酸マンガン酸ビスマス(BFM系複合酸化物)とBaTiO3等のチタン酸バリウムとの混晶として表される複合酸化物がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−252789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鉛を含有しない圧電材料として、BFM系複合酸化物とチタン酸バリウムとの混晶として表される複合酸化物がPZTの代替材料として有望であるが、実際の圧電アクチュエーターとしての変位量はPZTと比較すると小さいので、変位量の向上が求められている。
【0007】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドに限定されず、液体噴射ヘッド共通の問題である。また、液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子だけではなく、例えば超音波デバイス等他のデバイスに用いられる圧電素子に共通の問題である。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑み、変位量の向上した圧電素子とすることができる液体噴射ヘッドの製造方法、液体噴射装置の製造方法及び圧電素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の態様は、第1電極を形成する工程と、前記第1電極の上方に、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム及びチタンを含む前駆体溶液を塗布して塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を175℃以上185℃以下の温度で乾燥する第1乾燥工程と、前記第1乾燥工程の後、230℃以上270℃以下の温度で乾燥する第2乾燥工程と、前記第2乾燥工程の後、第2乾燥工程の温度以上の温度で加熱して脱脂する工程と、前記脱脂する工程の後、脱脂した塗布膜を加熱して結晶化させる工程と、を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、主に溶媒を蒸発させる第1乾燥工程の後、脱脂工程より少し低い温度での第2乾燥工程を行い、続いて脱脂を行うことで、配位子を徐々に脱離させながら乾燥して脱脂工程につなげることで、圧電体層の強誘電体特性を向上させ、圧電素子の変位量を向上させた液体噴射ヘッドを提供することができる。
【0010】
また、他の態様は、前記態様の液体噴射ヘッドの製造方法により液体噴射ヘッドを製造する工程を有することを特徴とする液体噴射装置の製造方法にある。
かかる態様では、圧電体層の強誘電体特性を向上させ、圧電素子の変位量を向上させた液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置が実現できる。
【0011】
また、本発明の他の態様は、第1電極の上方に、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム及びチタンを含む前駆体溶液を塗布して塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を175℃以上185℃以下の温度で乾燥する第1乾燥工程と、前記第1乾燥工程の後、230℃以上270℃以下の温度で乾燥する第2乾燥工程と、前記第2乾燥工程の後、第2乾燥工程の温度以上の温度で加熱して脱脂する工程と、前記脱脂する工程の後、脱脂した塗布膜を加熱して結晶化させる工程と、を具備することを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる態様では、主に溶媒を蒸発させる第1乾燥工程の後、脱脂工程より少し低い温度での第2乾燥工程を行い、続いて脱脂を行うことで、配位子を徐々に脱離させながら乾燥して脱脂工程につなげることで、圧電体層の強誘電体特性を向上させ、圧電素子の変位量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図及びその拡大図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図8】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図9】実施例のSEM観察写真である。
【図10】比較例のSEM観察写真である。
【図11】実施例1のP−Vの関係及びS−Vの関係を示す図である。
【図12】比較例1のP−Vの関係及びS−Vの関係を示す図である。
【図13】実施例1及び比較例1のPr/Pmと印加電圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図であり、図3は図2のA−A′線断面図及びその要部拡大図である。図1〜図3に示すように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0014】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12が並設されている。この方向を並設方向又は第1の方向という。また、流路形成基板10の圧力発生室12の前記並設方向とは交差する方向である第2の方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のマニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールドの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
【0015】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0016】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成されている。弾性膜50としては、例えば二酸化シリコン膜が挙げられる。この弾性膜50上には、厚さが100〜400nmの酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55が形成されている。また、絶縁体膜55上には、厚さが10〜20nmの密着層56が形成されている。
【0017】
さらに密着層56上には、第1電極60と、第1電極60の上方に設けられて厚さが2μm以下、好ましくは1〜0.3μmの薄膜である圧電体層70と、圧電体層70の上方に設けられた第2電極80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している。なお、ここで言う上方とは、直上も、間に他の部材が介在した状態も含むものである。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55、密着層56及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50や密着層56を設けなくてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0018】
密着層56は、詳しくは後述するが、酸化チタン層からなる。酸化チタン層は、反応性スパッタリング法などにより成膜するか、スパッタリング法などにより成膜したチタン層を熱酸化することにより形成できる。酸化チタンからなる密着層56を設けることで、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55と第1電極60との密着性を向上することができ、また、密着層56からの圧電体層70へのTiの拡散を防止できる。
【0019】
第1電極60は、白金(Pt)及びイリジウム(Ir)から選択される少なくとも一種の材料からなる。また、第1電極60は、上述した少なくとも2つの材料からなる層が積層されたものを用いることもできる。
【0020】
第1電極60上に形成される圧電体層70は、鉛を含有せず、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム及びチタンを含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる圧電セラミックスである。具体的には、鉄酸マンガン酸ビスマス(Bi(Fe,Mn)O3、以下BFMOと称す)あるいはこれらに各種元素が添加されたものとチタン酸バリウム(例えば、BaTiO3、以下BTと称す)との混晶などを挙げることができる。
【0021】
このような圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0022】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、絶縁体膜55及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にマニホールド100と各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0023】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0024】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0025】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0026】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0027】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0028】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、密着層56、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0029】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図4〜図8を参照して説明する。なお、図4〜図8は、圧力発生室の第2の方向の断面図である。
【0030】
まず、図4(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)等からなる二酸化シリコン膜51を熱酸化等で形成する。
【0031】
次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。絶縁体膜55は、ジルコニウムをスパッタリング法等により形成後、加熱することで熱酸化して形成してもよく、酸化ジルコニウムを反応性スパッタリング法により形成するようにしてもよい。
【0032】
次に、図5(a)に示すように、絶縁体膜55上に、本実施形態では、DCスパッタ法でTiからなる膜を20nmの厚さで形成し、700℃の熱酸化処理にて厚さ40nmのTiOx膜からなる密着層56を作製した。
【0033】
次いで、図5(b)に示すように、密着層56上に白金(Pt)からなる第1電極60を形成する。第1電極60は、スパッタリング法や蒸着法により形成することができる。
【0034】
次に、図5(c)に示すように、第1電極60上に所定形状のレジスト(図示無し)をマスクとして例えば第1電極60及び密着層56を同時にパターニングする。
【0035】
次いで、第1電極60上に、ビスマスを含有する複合酸化物からなるビスマス系圧電セラミックスとして、本実施形態では、鉄酸マンガン酸ビスマス(Bi(Fe,Mn)O3)とチタン酸バリウム(BaTiO3)との混晶である圧電体層70を形成する。本実施形態では、圧電体層70の製造方法は、例えば、ゾル−ゲル法、MOD(Metal-Organic Decomposition)法などの化学溶液法やスパッタリング法等が挙げられる。本実施形態ではMOD法を用いて圧電体層70を形成している。
【0036】
具体的な方法について以下説明する。図6(a)に示すように、第1電極60が形成された流路形成基板10上に鉄酸マンガン酸ビスマス(BFMO)とチタン酸バリウム(BT)とを含む塗布溶液を塗布し、圧電体前駆体膜71をスピンコートにより形成する(塗布工程)。
【0037】
次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(第1乾燥工程)。例えば、実施形態では、175〜185℃で2〜10分間、好ましくは、2〜5分間保持することで乾燥させる。続いて、第1乾燥工程より高いが、次の脱脂工程より低い温度で一定時間乾燥させる(第2乾燥工程)。本実施形態では、230℃以上270℃以下の温度で2〜10分間、好ましくは、2〜5分間保持することで乾燥する。
【0038】
このように、乾燥工程を二段階で行うことで、圧電体層70の強誘電特性の向上を図ることができ、圧電素子の変位量を向上させることができる。さらに詳言すると、第1乾燥工程を溶媒の沸点より50〜60℃高い温度、すなわち、従来よりは比較的高温で行って溶媒を除去した後、さらに、第2乾燥工程を第1乾燥工程の温度より高いが次の脱脂工程よりは低い温度で行うことで、第2乾燥工程で金属の配位子を徐々に脱離させて次工程の脱脂をスムーズに行うことができるようになると推測される。このため、結晶化した後の圧電体層70の強誘電特性が優れたものとなる。なお、乾燥時間は、特に、第2乾燥工程での時間が長すぎると、結晶核が形成されて下からの結晶成長が阻害され易くなり、好ましくない。
【0039】
次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜71を300〜450℃程度の温度に加熱して約2〜10分保持することで脱脂した。なお、ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として脱離させることである。
【0040】
次に、図6(b)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度、例えば、600〜800℃程度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜72を形成する(焼成工程)。この焼成工程においても、雰囲気は限定されず、大気中でも不活性ガス中でもよい。
【0041】
なお、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置やホットプレート等が挙げられる。
【0042】
次いで、上述した塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程や、塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を所望の膜厚等に応じて複数回繰り返して複数の圧電体膜72からなる圧電体層70を形成することで、図6(c)に示すように複数層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。例えば、塗布溶液の1回あたりの膜厚が0.1μm程度の場合には、例えば、10層の圧電体膜72からなる圧電体層70全体の膜厚は約1.1μm程度となる。なお、本実施形態では、圧電体膜72を積層して設けたが、1層のみでもよい。
【0043】
このように圧電体層70を形成した後は、図7(a)に示すように、圧電体層70上に白金等からなる第2電極80をスパッタリング法等で形成し、各圧力発生室12に対向する領域に圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングして、第1電極60と圧電体層70と第2電極80からなる圧電素子300を形成する。なお、圧電体層70と第2電極80とのパターニングでは、所定形状に形成したレジスト(図示なし)を介してドライエッチングすることにより一括して行うことができる。第2電極80を形成する前後で、必要に応じて、600℃〜750℃の温度域でポストアニールを行ってもよい。これにより、圧電体層70と第1電極60や第2電極80との良好な界面を形成することができ、かつ、圧電体層70の結晶性を改善することができる。
【0044】
次に、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングする。
【0045】
次に、図7(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合した後に、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。
【0046】
次に、図8(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、マスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0047】
そして、図8(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0048】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面のマスク膜52を除去した後にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
【0049】
(実施例1)
面方位(110)の単結晶シリコン基板を熱酸化して二酸化シリコンからなる弾性膜50を厚さ1300nmで形成した。次いで、弾性膜50上にジルコニウム(Zr)をスパッタリング法により形成した後、ジルコニウムを約900℃で加熱することで熱酸化して厚さが400nmの酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成した。
【0050】
次に、上記の絶縁体膜55上に、DCスパッタ法でTi膜を20nm形成し、700℃の熱酸化処理にて合計40nmのTiOx膜からなる密着層56を形成した。さらに、その上にDCスパッタ法で130nmのPtからなる第1電極60を成膜した。
【0051】
次に圧電体層70を作製した。本実施例では、圧電体層はX=Bi(Fe,Mn)O3(BFMO)−Y=BaTiO3(BT)(以下、BFMO−BT膜と記述する。)とし、組成比はX:Y=75:25とした。すなわち、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム及びチタンを上記組成比で含有し、溶媒がオクタンである塗布溶液を、スピンコート法で成膜した。
【0052】
所定の膜厚のサンプルを作製するため、最初は500rpmで5sec、2500rpmで20secのスピンコートを行った(塗布工程)。その後、180℃(工程制御上、±5℃程度の誤差がある。以下同様である)で2分間乾燥を行った後(第1乾燥工程)、更に250℃で2分間乾燥を行い(第2乾燥工程)、その後、350℃で3分間脱脂を行った(脱脂工程)。
【0053】
塗布、第1乾燥、第2乾燥及び脱脂の各工程を3回繰り返し行った。その後、炉内を100ccmの酸素でフローしたRapid Thermal Annealing(RTA)で750℃、5分間焼成を行って結晶化させた(結晶化工程)。
【0054】
さらに、塗布、第1乾燥、第2乾燥、脱脂及び結晶化の各工程を4回繰り返し、BFMO−BT膜を作製した。
【0055】
(実施例2)
第2乾燥工程も温度を230℃とした以外は実施例1と同様に実施した。
すなわち、実施例1と同様な組成の圧電体層70を以下のように成膜した。
【0056】
所定の膜厚のサンプルを作製するため、最初は500rpmで5sec、2500rpmで20secのスピンコートを行った(塗布工程)。その後、180℃で2分間乾燥を行った後(第1乾燥工程)、更に230℃で2分間乾燥を行い(第2乾燥工程)、その後、350℃で3分間脱脂を行った(脱脂工程)。
【0057】
塗布、第1乾燥、第2乾燥及び脱脂の各工程を3回繰り返し行った。その後、炉内を100ccmの酸素でフローしたRapid Thermal Annealing(RTA)で750℃、5分間焼成を行って結晶化させた(結晶化工程)。
【0058】
さらに、塗布、第1乾燥、第2乾燥、脱脂及び結晶化の各工程を4回繰り返し、BFMO−BT膜を作製した。
【0059】
(実施例3)
第2乾燥工程も温度を270℃とした以外は実施例1と同様に実施した。
すなわち、実施例1と同様な組成の圧電体層70を以下のように成膜した。
【0060】
所定の膜厚のサンプルを作製するため、最初は500rpmで5sec、2500rpmで20secのスピンコートを行った(塗布工程)。その後、180℃で2分間乾燥を行った後(第1乾燥工程)、更に270℃で2分間乾燥を行い(第2乾燥工程)、その後、350℃で3分間脱脂を行った(脱脂工程)。
【0061】
塗布、第1乾燥、第2乾燥及び脱脂の各工程を3回繰り返し行った。その後、炉内を100ccmの酸素でフローしたRapid Thermal Annealing(RTA)で750℃、5分間焼成を行って結晶化させた(結晶化工程)。
【0062】
さらに、塗布、第1乾燥、第2乾燥、脱脂及び結晶化の各工程を4回繰り返し、BFMO−BT膜を作製した。
【0063】
(比較例1)
第2乾燥工程を省いて圧電体層を成膜した以外は、実施例1と同様に実施した。
すなわち、実施例1と同様に第1電極まで成膜した後、実施例1と同じ組成の圧電体層を成膜した。所定の膜厚のサンプルを作製するため、最初は500rpmで5sec、2500rpmで20secのスピンコートを行った。その後、180℃で2分間乾燥を行った後、350℃で2分間脱脂を行った。塗布、乾燥及び脱脂の各工程を3回繰り返し行った。その後、炉内を100ccmの酸素でフローしたRapid Thermal Annealing(RTA)で750℃、5分間焼成を行って結晶化させた(結晶化工程)。塗布、乾燥、脱脂及び結晶化の各工程を4回繰り返し、BFMO−BT薄膜を作製した。
【0064】
(比較例2)
第1乾燥工程の温度を実施例1より低い温度として圧電体層を成膜した以外は、実施例1と同様に実施した。
すなわち、実施例1と同様に第1電極まで成膜した後、実施例1と同じ組成の圧電体層を成膜した。所定の膜厚のサンプルを作製するため、最初は500rpmで5sec、2500rpmで20secのスピンコートを行った。その後、140℃で2分間乾燥を行った後(第1乾燥工程)、さらに180℃で2分間乾燥を行い(第2乾燥工程)、350℃で3分間脱脂を行った(脱脂工程)。塗布、第1乾燥、第2乾燥及び脱脂の各工程を3回繰り返し行った。その後、炉内を100ccmの酸素でフローしたRapid Thermal Annealing(RTA)で750℃、5分間焼成を行って結晶化させた(結晶化工程)。塗布、第1乾燥、第2乾燥、脱脂及び結晶化の各工程を4回繰り返し、BFMO−BT薄膜を作製した。
【0065】
(比較例3)
乾燥工程を行わない以外は実施例1と同様に実施した。
すなわち、実施例1と同様に第1電極まで成膜した後、実施例1と同じ組成の圧電体層を成膜した。所定の膜厚のサンプルを作製するため、最初は500rpmで5sec、2500rpmで20secのスピンコートを行った。その後、乾燥を行わないで、350℃で3分間脱脂を行った(脱脂工程)。塗布及び脱脂の各工程を3回繰り返し行った。その後、炉内を100ccmの酸素でフローしたRapid Thermal Annealing(RTA)で750℃、5分間焼成を行って結晶化させた(結晶化工程)。塗布、脱脂及び結晶化の各工程を4回繰り返し、BFMO−BT薄膜を作製した。
【0066】
(表面モフォロジー)
各実施例及び各比較例の圧電体層の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)を図9及び図10に示す。
【0067】
この結果、実施例1〜3の圧電体層では、比較的粒径が小さな圧電体層となるが、比較例1〜3では、表面モフォロジーが大きいことがわかった。特に、第1乾燥工程を省いて、いきなり高温で乾燥した比較例3では表面モフォロジーがかなり大きいものであった。
【0068】
なお、第1乾燥工程を150℃とした以外は実施例1と同様に実施して圧電体層を作製したが、膜がくもって正常な圧電体層が形成できなかったことから、第1乾燥工程の温度範囲が非常に狭いこともわかった。
【0069】
(ヒステリシス、バタフライ)
実施例1及び比較例1の圧電素子について、東陽テクニカ社製「FCE−1A」で、φ=400μmの電極パターンを使用し、室温で周波数1kHzの三角波を印加して、P(分極量)−V(電圧)の関係、S(電界誘起歪(変位量))−V(電圧)の関係を求めた。結果を図11及び図12に示す。
【0070】
また、最大分極(Pm)に対する残留分極量(Pr)の比、Pr/Pmと印加電圧との関係を図13に示す。
【0071】
この結果、実施例1の圧電素子は、比較例1と比較してヒステリシスカーブの角型性が向上し、比較例1の0.44に対して実施例1では0.53であった。
【0072】
(変位量測定)
実施例1及び比較例1の圧電素子について、アグザクト社製の変位測定装置(DBLI)を用い室温で、φ=500μmの電極パターンを使用し、周波数1kHzの電圧を印加して、S(電界誘起歪(変位量))−V(電圧)の関係を求めた。印加電圧が30VのときのDBLI変位量(d33)を比較すると、実施例1の変位量は、比較例1に対し、約13%向上していることがわかった。
【0073】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0074】
また、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0075】
さらに、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載される圧電素子に限られず、超音波発信機等の超音波デバイス、超音波モーター、圧力センサー、焦電センサー等他の装置に搭載される圧電素子にも適用することができる。また、本発明は強誘電体メモリー等の強誘電体素子にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 マニホールド部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 56 密着層、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 マニホールド、 120 駆動回路、 300 圧電素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法、液体噴射装置の製造方法及び圧電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。インクジェット式記録ヘッドに用いられる圧電素子としては、電気的機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、圧電セラミックスからなる圧電体層を、2つの電極で挟んで構成されたものがある。このような圧電素子は、撓み振動モードのアクチュエーターとして液体噴射ヘッドに搭載される。
【0003】
圧電セラミックスとして、高い変位特性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた液体噴射ヘッドが知られている。しかしながら、チタン酸ジルコン酸鉛には鉛が含まれており、環境問題の観点から、鉛を含有しない圧電材料が求められている。
【0004】
そこで、鉛を含有しないでPZTに匹敵する高い圧電特性を有する圧電材料が開発され、例えば、ビスマス及び鉄を含む鉄酸ビスマス系(BiFeO3系)のペロブスカイト型構造を有する圧電材料が提案されている。具体例としては、Bi(Fe,Mn)O3等の鉄酸マンガン酸ビスマス(BFM系複合酸化物)とBaTiO3等のチタン酸バリウムとの混晶として表される複合酸化物がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−252789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鉛を含有しない圧電材料として、BFM系複合酸化物とチタン酸バリウムとの混晶として表される複合酸化物がPZTの代替材料として有望であるが、実際の圧電アクチュエーターとしての変位量はPZTと比較すると小さいので、変位量の向上が求められている。
【0007】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドに限定されず、液体噴射ヘッド共通の問題である。また、液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子だけではなく、例えば超音波デバイス等他のデバイスに用いられる圧電素子に共通の問題である。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑み、変位量の向上した圧電素子とすることができる液体噴射ヘッドの製造方法、液体噴射装置の製造方法及び圧電素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の態様は、第1電極を形成する工程と、前記第1電極の上方に、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム及びチタンを含む前駆体溶液を塗布して塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を175℃以上185℃以下の温度で乾燥する第1乾燥工程と、前記第1乾燥工程の後、230℃以上270℃以下の温度で乾燥する第2乾燥工程と、前記第2乾燥工程の後、第2乾燥工程の温度以上の温度で加熱して脱脂する工程と、前記脱脂する工程の後、脱脂した塗布膜を加熱して結晶化させる工程と、を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、主に溶媒を蒸発させる第1乾燥工程の後、脱脂工程より少し低い温度での第2乾燥工程を行い、続いて脱脂を行うことで、配位子を徐々に脱離させながら乾燥して脱脂工程につなげることで、圧電体層の強誘電体特性を向上させ、圧電素子の変位量を向上させた液体噴射ヘッドを提供することができる。
【0010】
また、他の態様は、前記態様の液体噴射ヘッドの製造方法により液体噴射ヘッドを製造する工程を有することを特徴とする液体噴射装置の製造方法にある。
かかる態様では、圧電体層の強誘電体特性を向上させ、圧電素子の変位量を向上させた液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置が実現できる。
【0011】
また、本発明の他の態様は、第1電極の上方に、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム及びチタンを含む前駆体溶液を塗布して塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を175℃以上185℃以下の温度で乾燥する第1乾燥工程と、前記第1乾燥工程の後、230℃以上270℃以下の温度で乾燥する第2乾燥工程と、前記第2乾燥工程の後、第2乾燥工程の温度以上の温度で加熱して脱脂する工程と、前記脱脂する工程の後、脱脂した塗布膜を加熱して結晶化させる工程と、を具備することを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる態様では、主に溶媒を蒸発させる第1乾燥工程の後、脱脂工程より少し低い温度での第2乾燥工程を行い、続いて脱脂を行うことで、配位子を徐々に脱離させながら乾燥して脱脂工程につなげることで、圧電体層の強誘電体特性を向上させ、圧電素子の変位量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図及びその拡大図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図8】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図9】実施例のSEM観察写真である。
【図10】比較例のSEM観察写真である。
【図11】実施例1のP−Vの関係及びS−Vの関係を示す図である。
【図12】比較例1のP−Vの関係及びS−Vの関係を示す図である。
【図13】実施例1及び比較例1のPr/Pmと印加電圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図であり、図3は図2のA−A′線断面図及びその要部拡大図である。図1〜図3に示すように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0014】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12が並設されている。この方向を並設方向又は第1の方向という。また、流路形成基板10の圧力発生室12の前記並設方向とは交差する方向である第2の方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のマニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールドの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
【0015】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0016】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成されている。弾性膜50としては、例えば二酸化シリコン膜が挙げられる。この弾性膜50上には、厚さが100〜400nmの酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55が形成されている。また、絶縁体膜55上には、厚さが10〜20nmの密着層56が形成されている。
【0017】
さらに密着層56上には、第1電極60と、第1電極60の上方に設けられて厚さが2μm以下、好ましくは1〜0.3μmの薄膜である圧電体層70と、圧電体層70の上方に設けられた第2電極80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している。なお、ここで言う上方とは、直上も、間に他の部材が介在した状態も含むものである。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55、密着層56及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50や密着層56を設けなくてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0018】
密着層56は、詳しくは後述するが、酸化チタン層からなる。酸化チタン層は、反応性スパッタリング法などにより成膜するか、スパッタリング法などにより成膜したチタン層を熱酸化することにより形成できる。酸化チタンからなる密着層56を設けることで、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55と第1電極60との密着性を向上することができ、また、密着層56からの圧電体層70へのTiの拡散を防止できる。
【0019】
第1電極60は、白金(Pt)及びイリジウム(Ir)から選択される少なくとも一種の材料からなる。また、第1電極60は、上述した少なくとも2つの材料からなる層が積層されたものを用いることもできる。
【0020】
第1電極60上に形成される圧電体層70は、鉛を含有せず、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム及びチタンを含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる圧電セラミックスである。具体的には、鉄酸マンガン酸ビスマス(Bi(Fe,Mn)O3、以下BFMOと称す)あるいはこれらに各種元素が添加されたものとチタン酸バリウム(例えば、BaTiO3、以下BTと称す)との混晶などを挙げることができる。
【0021】
このような圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0022】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、絶縁体膜55及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にマニホールド100と各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0023】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0024】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0025】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0026】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0027】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0028】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、密着層56、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0029】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図4〜図8を参照して説明する。なお、図4〜図8は、圧力発生室の第2の方向の断面図である。
【0030】
まず、図4(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)等からなる二酸化シリコン膜51を熱酸化等で形成する。
【0031】
次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。絶縁体膜55は、ジルコニウムをスパッタリング法等により形成後、加熱することで熱酸化して形成してもよく、酸化ジルコニウムを反応性スパッタリング法により形成するようにしてもよい。
【0032】
次に、図5(a)に示すように、絶縁体膜55上に、本実施形態では、DCスパッタ法でTiからなる膜を20nmの厚さで形成し、700℃の熱酸化処理にて厚さ40nmのTiOx膜からなる密着層56を作製した。
【0033】
次いで、図5(b)に示すように、密着層56上に白金(Pt)からなる第1電極60を形成する。第1電極60は、スパッタリング法や蒸着法により形成することができる。
【0034】
次に、図5(c)に示すように、第1電極60上に所定形状のレジスト(図示無し)をマスクとして例えば第1電極60及び密着層56を同時にパターニングする。
【0035】
次いで、第1電極60上に、ビスマスを含有する複合酸化物からなるビスマス系圧電セラミックスとして、本実施形態では、鉄酸マンガン酸ビスマス(Bi(Fe,Mn)O3)とチタン酸バリウム(BaTiO3)との混晶である圧電体層70を形成する。本実施形態では、圧電体層70の製造方法は、例えば、ゾル−ゲル法、MOD(Metal-Organic Decomposition)法などの化学溶液法やスパッタリング法等が挙げられる。本実施形態ではMOD法を用いて圧電体層70を形成している。
【0036】
具体的な方法について以下説明する。図6(a)に示すように、第1電極60が形成された流路形成基板10上に鉄酸マンガン酸ビスマス(BFMO)とチタン酸バリウム(BT)とを含む塗布溶液を塗布し、圧電体前駆体膜71をスピンコートにより形成する(塗布工程)。
【0037】
次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(第1乾燥工程)。例えば、実施形態では、175〜185℃で2〜10分間、好ましくは、2〜5分間保持することで乾燥させる。続いて、第1乾燥工程より高いが、次の脱脂工程より低い温度で一定時間乾燥させる(第2乾燥工程)。本実施形態では、230℃以上270℃以下の温度で2〜10分間、好ましくは、2〜5分間保持することで乾燥する。
【0038】
このように、乾燥工程を二段階で行うことで、圧電体層70の強誘電特性の向上を図ることができ、圧電素子の変位量を向上させることができる。さらに詳言すると、第1乾燥工程を溶媒の沸点より50〜60℃高い温度、すなわち、従来よりは比較的高温で行って溶媒を除去した後、さらに、第2乾燥工程を第1乾燥工程の温度より高いが次の脱脂工程よりは低い温度で行うことで、第2乾燥工程で金属の配位子を徐々に脱離させて次工程の脱脂をスムーズに行うことができるようになると推測される。このため、結晶化した後の圧電体層70の強誘電特性が優れたものとなる。なお、乾燥時間は、特に、第2乾燥工程での時間が長すぎると、結晶核が形成されて下からの結晶成長が阻害され易くなり、好ましくない。
【0039】
次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜71を300〜450℃程度の温度に加熱して約2〜10分保持することで脱脂した。なお、ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として脱離させることである。
【0040】
次に、図6(b)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度、例えば、600〜800℃程度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜72を形成する(焼成工程)。この焼成工程においても、雰囲気は限定されず、大気中でも不活性ガス中でもよい。
【0041】
なお、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置やホットプレート等が挙げられる。
【0042】
次いで、上述した塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程や、塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を所望の膜厚等に応じて複数回繰り返して複数の圧電体膜72からなる圧電体層70を形成することで、図6(c)に示すように複数層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。例えば、塗布溶液の1回あたりの膜厚が0.1μm程度の場合には、例えば、10層の圧電体膜72からなる圧電体層70全体の膜厚は約1.1μm程度となる。なお、本実施形態では、圧電体膜72を積層して設けたが、1層のみでもよい。
【0043】
このように圧電体層70を形成した後は、図7(a)に示すように、圧電体層70上に白金等からなる第2電極80をスパッタリング法等で形成し、各圧力発生室12に対向する領域に圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングして、第1電極60と圧電体層70と第2電極80からなる圧電素子300を形成する。なお、圧電体層70と第2電極80とのパターニングでは、所定形状に形成したレジスト(図示なし)を介してドライエッチングすることにより一括して行うことができる。第2電極80を形成する前後で、必要に応じて、600℃〜750℃の温度域でポストアニールを行ってもよい。これにより、圧電体層70と第1電極60や第2電極80との良好な界面を形成することができ、かつ、圧電体層70の結晶性を改善することができる。
【0044】
次に、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングする。
【0045】
次に、図7(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合した後に、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。
【0046】
次に、図8(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、マスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0047】
そして、図8(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0048】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面のマスク膜52を除去した後にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
【0049】
(実施例1)
面方位(110)の単結晶シリコン基板を熱酸化して二酸化シリコンからなる弾性膜50を厚さ1300nmで形成した。次いで、弾性膜50上にジルコニウム(Zr)をスパッタリング法により形成した後、ジルコニウムを約900℃で加熱することで熱酸化して厚さが400nmの酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成した。
【0050】
次に、上記の絶縁体膜55上に、DCスパッタ法でTi膜を20nm形成し、700℃の熱酸化処理にて合計40nmのTiOx膜からなる密着層56を形成した。さらに、その上にDCスパッタ法で130nmのPtからなる第1電極60を成膜した。
【0051】
次に圧電体層70を作製した。本実施例では、圧電体層はX=Bi(Fe,Mn)O3(BFMO)−Y=BaTiO3(BT)(以下、BFMO−BT膜と記述する。)とし、組成比はX:Y=75:25とした。すなわち、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム及びチタンを上記組成比で含有し、溶媒がオクタンである塗布溶液を、スピンコート法で成膜した。
【0052】
所定の膜厚のサンプルを作製するため、最初は500rpmで5sec、2500rpmで20secのスピンコートを行った(塗布工程)。その後、180℃(工程制御上、±5℃程度の誤差がある。以下同様である)で2分間乾燥を行った後(第1乾燥工程)、更に250℃で2分間乾燥を行い(第2乾燥工程)、その後、350℃で3分間脱脂を行った(脱脂工程)。
【0053】
塗布、第1乾燥、第2乾燥及び脱脂の各工程を3回繰り返し行った。その後、炉内を100ccmの酸素でフローしたRapid Thermal Annealing(RTA)で750℃、5分間焼成を行って結晶化させた(結晶化工程)。
【0054】
さらに、塗布、第1乾燥、第2乾燥、脱脂及び結晶化の各工程を4回繰り返し、BFMO−BT膜を作製した。
【0055】
(実施例2)
第2乾燥工程も温度を230℃とした以外は実施例1と同様に実施した。
すなわち、実施例1と同様な組成の圧電体層70を以下のように成膜した。
【0056】
所定の膜厚のサンプルを作製するため、最初は500rpmで5sec、2500rpmで20secのスピンコートを行った(塗布工程)。その後、180℃で2分間乾燥を行った後(第1乾燥工程)、更に230℃で2分間乾燥を行い(第2乾燥工程)、その後、350℃で3分間脱脂を行った(脱脂工程)。
【0057】
塗布、第1乾燥、第2乾燥及び脱脂の各工程を3回繰り返し行った。その後、炉内を100ccmの酸素でフローしたRapid Thermal Annealing(RTA)で750℃、5分間焼成を行って結晶化させた(結晶化工程)。
【0058】
さらに、塗布、第1乾燥、第2乾燥、脱脂及び結晶化の各工程を4回繰り返し、BFMO−BT膜を作製した。
【0059】
(実施例3)
第2乾燥工程も温度を270℃とした以外は実施例1と同様に実施した。
すなわち、実施例1と同様な組成の圧電体層70を以下のように成膜した。
【0060】
所定の膜厚のサンプルを作製するため、最初は500rpmで5sec、2500rpmで20secのスピンコートを行った(塗布工程)。その後、180℃で2分間乾燥を行った後(第1乾燥工程)、更に270℃で2分間乾燥を行い(第2乾燥工程)、その後、350℃で3分間脱脂を行った(脱脂工程)。
【0061】
塗布、第1乾燥、第2乾燥及び脱脂の各工程を3回繰り返し行った。その後、炉内を100ccmの酸素でフローしたRapid Thermal Annealing(RTA)で750℃、5分間焼成を行って結晶化させた(結晶化工程)。
【0062】
さらに、塗布、第1乾燥、第2乾燥、脱脂及び結晶化の各工程を4回繰り返し、BFMO−BT膜を作製した。
【0063】
(比較例1)
第2乾燥工程を省いて圧電体層を成膜した以外は、実施例1と同様に実施した。
すなわち、実施例1と同様に第1電極まで成膜した後、実施例1と同じ組成の圧電体層を成膜した。所定の膜厚のサンプルを作製するため、最初は500rpmで5sec、2500rpmで20secのスピンコートを行った。その後、180℃で2分間乾燥を行った後、350℃で2分間脱脂を行った。塗布、乾燥及び脱脂の各工程を3回繰り返し行った。その後、炉内を100ccmの酸素でフローしたRapid Thermal Annealing(RTA)で750℃、5分間焼成を行って結晶化させた(結晶化工程)。塗布、乾燥、脱脂及び結晶化の各工程を4回繰り返し、BFMO−BT薄膜を作製した。
【0064】
(比較例2)
第1乾燥工程の温度を実施例1より低い温度として圧電体層を成膜した以外は、実施例1と同様に実施した。
すなわち、実施例1と同様に第1電極まで成膜した後、実施例1と同じ組成の圧電体層を成膜した。所定の膜厚のサンプルを作製するため、最初は500rpmで5sec、2500rpmで20secのスピンコートを行った。その後、140℃で2分間乾燥を行った後(第1乾燥工程)、さらに180℃で2分間乾燥を行い(第2乾燥工程)、350℃で3分間脱脂を行った(脱脂工程)。塗布、第1乾燥、第2乾燥及び脱脂の各工程を3回繰り返し行った。その後、炉内を100ccmの酸素でフローしたRapid Thermal Annealing(RTA)で750℃、5分間焼成を行って結晶化させた(結晶化工程)。塗布、第1乾燥、第2乾燥、脱脂及び結晶化の各工程を4回繰り返し、BFMO−BT薄膜を作製した。
【0065】
(比較例3)
乾燥工程を行わない以外は実施例1と同様に実施した。
すなわち、実施例1と同様に第1電極まで成膜した後、実施例1と同じ組成の圧電体層を成膜した。所定の膜厚のサンプルを作製するため、最初は500rpmで5sec、2500rpmで20secのスピンコートを行った。その後、乾燥を行わないで、350℃で3分間脱脂を行った(脱脂工程)。塗布及び脱脂の各工程を3回繰り返し行った。その後、炉内を100ccmの酸素でフローしたRapid Thermal Annealing(RTA)で750℃、5分間焼成を行って結晶化させた(結晶化工程)。塗布、脱脂及び結晶化の各工程を4回繰り返し、BFMO−BT薄膜を作製した。
【0066】
(表面モフォロジー)
各実施例及び各比較例の圧電体層の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)を図9及び図10に示す。
【0067】
この結果、実施例1〜3の圧電体層では、比較的粒径が小さな圧電体層となるが、比較例1〜3では、表面モフォロジーが大きいことがわかった。特に、第1乾燥工程を省いて、いきなり高温で乾燥した比較例3では表面モフォロジーがかなり大きいものであった。
【0068】
なお、第1乾燥工程を150℃とした以外は実施例1と同様に実施して圧電体層を作製したが、膜がくもって正常な圧電体層が形成できなかったことから、第1乾燥工程の温度範囲が非常に狭いこともわかった。
【0069】
(ヒステリシス、バタフライ)
実施例1及び比較例1の圧電素子について、東陽テクニカ社製「FCE−1A」で、φ=400μmの電極パターンを使用し、室温で周波数1kHzの三角波を印加して、P(分極量)−V(電圧)の関係、S(電界誘起歪(変位量))−V(電圧)の関係を求めた。結果を図11及び図12に示す。
【0070】
また、最大分極(Pm)に対する残留分極量(Pr)の比、Pr/Pmと印加電圧との関係を図13に示す。
【0071】
この結果、実施例1の圧電素子は、比較例1と比較してヒステリシスカーブの角型性が向上し、比較例1の0.44に対して実施例1では0.53であった。
【0072】
(変位量測定)
実施例1及び比較例1の圧電素子について、アグザクト社製の変位測定装置(DBLI)を用い室温で、φ=500μmの電極パターンを使用し、周波数1kHzの電圧を印加して、S(電界誘起歪(変位量))−V(電圧)の関係を求めた。印加電圧が30VのときのDBLI変位量(d33)を比較すると、実施例1の変位量は、比較例1に対し、約13%向上していることがわかった。
【0073】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0074】
また、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0075】
さらに、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載される圧電素子に限られず、超音波発信機等の超音波デバイス、超音波モーター、圧力センサー、焦電センサー等他の装置に搭載される圧電素子にも適用することができる。また、本発明は強誘電体メモリー等の強誘電体素子にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 マニホールド部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 56 密着層、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 マニホールド、 120 駆動回路、 300 圧電素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極を形成する工程と、
前記第1電極の上方に、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム及びチタンを含む前駆体溶液を塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を175℃以上185℃以下の温度で乾燥する第1乾燥工程と、
前記第1乾燥工程の後、230℃以上270℃以下の温度で乾燥する第2乾燥工程と、 前記第2乾燥工程の後、第2乾燥工程の温度以上の温度で加熱して脱脂する工程と、
前記脱脂する工程の後、脱脂した塗布膜を加熱して結晶化させる工程と、
を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法により液体噴射ヘッドを製造する工程を有することを特徴とする液体噴射装置の製造方法。
【請求項3】
第1電極の上方に、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム及びチタンを含む前駆体溶液を塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を175℃以上185℃以下の温度で乾燥する第1乾燥工程と、
前記第1乾燥工程の後、230℃以上270℃以下の温度で乾燥する第2乾燥工程と、 前記第2乾燥工程の後、第2乾燥工程の温度以上の温度で加熱して脱脂する工程と、
前記脱脂する工程の後、脱脂した塗布膜を加熱して結晶化させる工程と、
を具備することを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項1】
第1電極を形成する工程と、
前記第1電極の上方に、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム及びチタンを含む前駆体溶液を塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を175℃以上185℃以下の温度で乾燥する第1乾燥工程と、
前記第1乾燥工程の後、230℃以上270℃以下の温度で乾燥する第2乾燥工程と、 前記第2乾燥工程の後、第2乾燥工程の温度以上の温度で加熱して脱脂する工程と、
前記脱脂する工程の後、脱脂した塗布膜を加熱して結晶化させる工程と、
を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法により液体噴射ヘッドを製造する工程を有することを特徴とする液体噴射装置の製造方法。
【請求項3】
第1電極の上方に、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム及びチタンを含む前駆体溶液を塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を175℃以上185℃以下の温度で乾燥する第1乾燥工程と、
前記第1乾燥工程の後、230℃以上270℃以下の温度で乾燥する第2乾燥工程と、 前記第2乾燥工程の後、第2乾燥工程の温度以上の温度で加熱して脱脂する工程と、
前記脱脂する工程の後、脱脂した塗布膜を加熱して結晶化させる工程と、
を具備することを特徴とする圧電素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図9】
【図10】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図9】
【図10】
【図13】
【公開番号】特開2012−227248(P2012−227248A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91807(P2011−91807)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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