説明

液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッド並びに液体噴射装置

【課題】製造工程を簡略化してコストを低減した液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッド並びに液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体を噴射するノズル開口21に連通する圧力発生室12が形成される金属からなる流路形成基板10を屈曲する工程と、該流路形成基板10を酸化することにより、その表面に前記屈曲により形成された屈曲部51を有する振動板50を形成する工程と、該振動板50上に圧力発生素子300を形成する工程と、前記流路形成基板10をエッチングすることにより、前記圧力発生室12を形成する工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッド並びに液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドであるインクジェット式記録ヘッドとしては、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させる撓み振動モードの圧電素子を有するアクチュエータ装置を使用したものが知られている。
【0003】
このようなインクジェット式記録ヘッドとしては、ノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、流路形成基板の圧力発生室に相対向する領域に振動板となる絶縁膜を介して下電極膜、圧電体層及び上電極膜を積層形成した圧電素子とで構成されている。
【0004】
また、振動板の圧力発生室に相対向する領域に屈曲部を設け、この屈曲部によって圧電素子の撓み変形量を向上したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−144594号公報(第9〜10頁、第11〜15図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように、屈曲された振動板を形成するのは困難であると共に、屈曲された振動板を作成するには、製造工程が増えてしまいコストが増大してしまうという問題がある。
【0007】
なお、このような問題はインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0008】
また、このような問題は、振動板を振動させる駆動部として撓み振動モードの圧電素子を用いたものに限定されるものではなく、撓み振動モードの圧電素子以外の圧力発生素子によって振動板を振動させる液体噴射ヘッドであっても同様に存在する。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑み、製造工程を簡略化してコストを低減した液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッド並びに液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される金属からなる流路形成基板を屈曲する工程と、該流路形成基板を酸化することにより、その表面に前記屈曲により形成された屈曲部を有する振動板を形成する工程と、該振動板上に圧力発生素子を形成する工程と、前記流路形成基板をエッチングすることにより、前記圧力発生室を形成する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、金属からなる流路形成基板を屈曲し、これを酸化して振動板を形成することで、屈曲された振動板を容易に且つ低コストで形成することができる。また、振動板に屈曲部を形成することで、振動板及び圧力発生素子の変位特性を向上することができる。
【0011】
ここで、前記振動板の前記屈曲部が、前記圧力発生素子の幅方向両側に設けられていることが好ましい。これによれば、振動板の変位特性を向上して液体噴射特性を向上することができる。
【0012】
また、前記振動板が、前記流路形成基板の表面に沿って設けられた平坦部と、前記圧力発生室に相対向する領域に該平坦部に対して前記流路形成基板とは反対側に向かって傾斜して設けられた傾斜部と、前記平坦部と同一方向に設けられると共に前記圧力発生素子が設けられた圧力発生素子戴置部とが連続して設けられたものであると共に、前記屈曲部が、前記平坦部と前記傾斜部との間に設けられた第1の屈曲部と、前記傾斜部と圧力発生素子戴置部との間に設けられた第2の屈曲部とで構成されていることが好ましい。これによれば、圧力発生室の容積を向上して、且つ振動板の変位特性を向上して液体噴射特性を向上することができる。
【0013】
また、前記流路形成基板の前記圧力発生室の内面に耐液体性を有する保護膜を形成する工程をさらに具備することが好ましい。これによれば、液体に応じて保護膜を設けることによって、金属からなる流路形成基板が、液体により侵食されるのを確実に防止することができる。
【0014】
また、前記流路形成基板を屈曲する工程では、プレス加工により行うことが好ましい。これによれば、屈曲された流路形成基板を容易に且つ低コストで形成することができる。
【0015】
さらに本発明の他の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた金属からなる流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられた振動板と、該振動板上に設けられた圧力発生素子とを具備し、前記振動板が、前記流路形成基板の一部を酸化することで形成されていると共に、当該振動板には、前記流路形成基板を屈曲することにより形成された屈曲部が、前記圧力発生素子の幅方向両側に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、振動板及び圧力発生素子の変位特性を向上して液体噴射特性を向上すると共に、コストを低減した液体噴射ヘッドを実現できる。
【0016】
また、本発明の他の態様では、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、コストを低減した液体噴射装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの平面図及びそのA−A′断面図であり、図2は、図1(b)のB−B′断面図である。
【0018】
図示するように、流路形成基板10は、酸化可能な金属材料からなる。ここで、流路形成基板10の材料としては、例えば、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。本実施形態では、ジルコニウム(Zr)を用いた。
【0019】
また、流路形成基板10の一方の面には、流路形成基板10を酸化することにより形成された金属酸化物からなる振動板50が設けられている。すなわち、流路形成基板10は、振動板50を酸化して形成するために酸化可能な金属材料である必要がある。本実施形態では、流路形成基板10としてジルコニウムを用いたため、振動板50は、酸化ジルコニウム(ZrO)からなる。なお、例えば、流路形成基板10としてタンタルを用いた場合には、振動板50は酸化タンタル(TaO)で形成され、アルミニウムを用いた場合には酸化アルミニウム(Al)で形成される。
【0020】
流路形成基板10には、他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に並設されている。また、各列の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。すなわち、本実施形態では、流路形成基板10に液体流路として、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15が形成されている。
【0021】
連通部13は、後述する保護基板30のリザーバ部31と連通して圧力発生室12の列毎に共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。本実施形態では、インク供給路14は、圧力発生室12及び連通路15の一方の幅を狭めることで形成されているが、特にこれに限定されず、例えば圧力発生室12及び連通路15の両側の幅を狭めることでインク供給路14を形成するようにしてもよく、厚さ方向に絞ることでインク供給路14を形成してもよい。
【0022】
また、このような流路形成基板10の液体流路の内面には、耐インク性を有する材料、例えば、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化アルミニウム等の酸化膜や窒化膜からなる保護膜16が設けられている。なお、ここで言う耐インク性とは、アルカリ性のインクに対する耐エッチング性のことである。また、保護膜16の材料は、上述したものに限定されず、使用するインク(液体)のpH値によっては、他の材料を用いてもよい。ただし、酸性の液体を用いる場合には、もちろん耐酸性の保護膜を用いることになる。
【0023】
また、流路形成基板10の圧力発生室12が開口する面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0024】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側の面には、上述したように、振動板50が形成され、この振動板50上には、下電極膜60と圧電体層70と上電極膜80とが後述するプロセスで積層形成されて圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、下電極膜60を複数の圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を各圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室12毎に圧電体能動部320が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300を所定の基板上(流路形成基板10上)に設け、当該圧電素子300を駆動させた装置をアクチュエータ装置と称する。
【0025】
また、本実施形態では、下電極膜60は、複数の圧電素子300に亘って設けられているが、当該下電極膜60の圧力発生室12の長手方向に相当する方向を長手方向とし、圧力発生室12の幅方向に相当する方向を下電極膜60の短手方向(幅方向)とする。そして、下電極膜60の長手方向の端部を圧力発生室12に相対向する領域に設けることで、圧電素子300の実質的な駆動部となる圧電体能動部320の長手方向の端部(長さ)を規定している。また、圧電素子300の短手方向である上電極膜80の短手方向の端部を圧力発生室12に相対向する領域内に設けることで、圧電体能動部320の短手方向の端部(幅)を規定している。すなわち、圧電体能動部320は、パターニングされた下電極膜60及び上電極膜80によって、圧力発生室12に相対向する領域にのみ設けられていることになる。さらに、圧電体層70及び上電極膜80は、圧電素子300の長手方向で、下電極膜60の両端部の外側まで延設されている。このような圧電素子300は、幅方向に撓み変形することによって圧力発生室12の容積を変化させて圧力発生室12内に圧力変化を生じさせてノズル開口21からインクを吐出させる。
【0026】
なお、本実施形態では、圧電体層70及び上電極膜80は、図2に示すように、上電極膜80側の幅が狭くなるようにパターニングされ、その側面は傾斜面となっている。
【0027】
また、上述した例では、振動板50のみを設けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、流路形成基板10の一部を酸化することにより形成した振動板50上に、他の膜を形成するようにしてもよい。すなわち、所望の弾性率や耐久性に応じて、振動板50の厚さや、その構成を適宜変更してもよい。
【0028】
ここで、振動板50は、図2に示すように、圧力発生室12の幅方向両側に屈曲部51を有する。なお、上述のように圧力発生室12の幅方向とは、複数の圧力発生室12が並設された方向(短手方向)のことを言う。また、本実施形態では、屈曲部51は、圧電素子300の幅方向両側の圧力発生室12に相対向する領域に設けられている。もちろん、圧電素子300の実質的な駆動部である圧電体能動部320の一部が、屈曲部51上に形成されていてもよく、また、圧電素子300の一部(例えば、下電極膜60や圧電体層70の一部)が、屈曲部51上に形成されていてもよい。
【0029】
具体的には、振動板50は、圧電素子300の幅方向両側のそれぞれに、流路形成基板10の表面に設けられた平坦部52と、平坦部52から連続して圧力発生室12に相対向する領域に流路形成基板10とは反対側に向かって傾斜して設けられた傾斜部53と、傾斜部53に連続して平坦部52の面方向と同じ方向に設けられた圧電素子戴置部(圧力発生素子載置部)54とを具備し、平坦部52と傾斜部53との間に屈曲された第1の屈曲部55が設けられ、傾斜部53と圧電素子戴置部54との間に屈曲された第2の屈曲部56が設けられている。すなわち、本実施形態では、屈曲部51として、第1の屈曲部55と第2の屈曲部56との2つが設けられ、これにより、振動板50は、流路形成基板10の圧力発生室12とは反対側に向かって凸形状となっている。
【0030】
このように、振動板50の圧力発生室12に相対向する領域の圧電素子300の幅方向両側に屈曲部51を設けることで、圧電素子300を駆動して撓み変形させた際に、振動板50の傾斜部53を傾斜させるように変形させて振動板50の変位量を向上することができる。
【0031】
すなわち、例えば、振動板を平板状に形成した場合、圧電素子300の変位に対して振動板が抗する力が強く、圧電素子300の変位量が小さくなってしまうが、振動板50に屈曲部51を設けることで、圧電素子300の変位に対して振動板50が抗する力を小さくして圧電素子300の変位量を大きくすることができる。
【0032】
なお、本実施形態では、振動板50の圧電素子300の長手方向両側の圧力発生室12に相対向する領域にも屈曲部が設けられていることになる。
【0033】
また、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、振動板50上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0034】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、下電極膜60、振動板50及びリード電極90上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
【0035】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0036】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0037】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、貫通孔33を挿通させたボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0038】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましいが、保護基板30は、リード電極90上に接着剤35を介して接着されると共にその表面に駆動回路120に接続される配線(図示なし)が形成されるため、絶縁材料又は表面に絶縁膜を設けたものを用いるのが好ましい。
【0039】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する有機絶縁材料からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0040】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、振動板50、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を撓み変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0041】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図5を参照して説明する。なお、図3〜図5は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す圧力発生室の短手方向の断面図である。
【0042】
まず、図3(a)に示すように、複数の流路形成基板10が一体的に形成される平板状の金属板110を屈曲することにより、屈曲部151を形成する。ここで、金属板110は、上述のように酸化可能な金属材料からなる。また、金属板110の屈曲は、例えば、プレス加工により行うことができる。そして、金属板110を屈曲することにより形成した屈曲部151は、後の工程で、金属板110を酸化して振動板50を形成した際に、振動板50の屈曲部51となる。したがって、金属板110は、振動板50の屈曲部51の屈曲量に応じて適宜屈曲すればよい。
【0043】
次に、図3(b)に示すように、金属板110の表面に、金属板110の一部を酸化することにより金属酸化物からなる金属酸化膜150を形成する。金属板110の一方面に設けられた金属酸化膜150が本実施形態の振動板50となる。ここで、金属板110の酸化は、例えば、熱酸化であってもよく、また、陽極酸化であってもよい。このように、振動板50を流路形成基板10(金属板110)の一部を酸化することにより形成することで、流路形成基板10と振動板50との剥離を確実に防止することができると共に、後の工程で、流路形成基板10に圧力発生室12等をエッチングにより形成した際に、振動板50をエッチングストップ層として機能させることができる。
【0044】
また、本実施形態では、流路形成基板10となる金属板110を屈曲し、この屈曲された金属板110(流路形成基板10)の一部を酸化することにより振動板50を形成したため、振動板50に屈曲部51(第1の屈曲部55、第2の屈曲部56)、すなわち、平坦部52、傾斜部53及び圧電素子戴置部54を有する振動板50を容易に形成することができる。すなわち、流路形成基板10として、屈曲することができない材料を用いた場合、流路形成基板10の表面に凹凸をエッチングにより形成して、この凹凸に沿って振動板を形成するしかなく、製造工程が増えてコストが増大してしまうが、本実施形態のように流路形成基板10を屈曲して屈曲された振動板50を形成することで、製造工程を簡略化してコストを低減することができると共に、所望の形状の振動板50を容易に形成することができる。
【0045】
次に、図3(c)に示すように、例えば、白金とイリジウムとを振動板50上に積層することにより下電極膜60を形成した後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。なお、下電極膜60は、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とを積層したものに限定されず、これらを合金化させたものを用いるようにしてもよい。また、下電極膜60として、白金(Pt)とイリジウム(Ir)の何れか一方の単層として用いるようにしてもよく、さらに、これらの材料以外の金属又は金属酸化物等を用いるようにしてもよい。
【0046】
次に、図3(d)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる上電極膜80とを流路形成基板10の全面に形成後、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。圧電素子300を構成する圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。また、圧電体層70の形成方法は、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成した。なお、圧電体層70の形成方法は、特に限定されず、例えば、MOD法やスパッタリング法等を用いるようにしてもよい。また、圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。例えば、本実施形態では、圧電体層70を1〜2μm前後の厚さで形成した。さらに、圧電体層70及び上電極膜80のパターニングは、特に限定されないが、例えば、本実施形態では、ドライエッチングにより、その側面を傾斜させて形成できる。
【0047】
次に、図4(a)に示すように、金属板110の一方面の全面に亘って金(Au)からなるリード電極90を形成後、各圧電素子300毎にパターニングする。
【0048】
次に、図4(b)に示すように、保護基板30が複数一体的に形成された保護基板形成部材130を、金属板110上に接着剤35を介して接着する。ここで、保護基板形成部材130の保護基板30となる領域には、リザーバ部31及び圧電素子保持部32等が予め形成されたものである。
【0049】
次いで、図4(c)に示すように、金属板110の圧電素子300とは反対側の金属酸化膜150を所定形状にパターニングすることで開口部152を形成する。そして、図5(a)に示すように、金属板110を金属酸化膜150をマスクとしてエッチングすることにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12を形成する。このとき、金属板110を屈曲することにより形成された凹部は除去されて、振動板50は、圧力発生室12の圧電素子300側の開口を塞ぐように設けられる。
【0050】
なお、金属板110のエッチングは、ドライエッチングであってもウェットエッチングであってもよい。本実施形態では、金属酸化膜150のパターニングと金属板110のエッチングの両方を異なるガスを用いたドライエッチングにより行った。また、金属板110をドライエッチングすると、振動板50がエッチングストップ層として機能する。
【0051】
また、本実施形態では、金属板110(流路形成基板10)を酸化して形成した金属酸化膜150を、流路形成基板10をエッチングする際のマスクとして利用したが、特にこれに限定されず、新たにマスクを形成するようにしてもよい。
【0052】
次に、金属板110表面のマスクとして利用した金属酸化膜150を除去し、図5(b)に示すように、液体流路の内面、すなわち、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15の内面に保護膜16を形成する。
【0053】
なお、保護膜16は、上述したように、例えば、酸化物又は窒化物等の耐液体性(耐インク性)を有する材料からなる。保護膜16として、酸化ジルコニウムを用いる場合には、スパッタリング法やCVD法により形成することができる。また、流路形成基板10(金属板110)として、アルミニウム、マンガン、チタン等を用いた場合には、流路形成基板10を陽極酸化することにより酸化アルミニウム、酸化マンガン、酸化チタンからなる保護膜16を形成することができる。ちなみに、流路形成基板10を加熱して熱酸化させることにより保護膜16を形成することも考えられるが、この加熱により圧電素子300(特に圧電体層70)に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0054】
その後は、金属板110及び保護基板形成部材130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、金属板110の保護基板形成部材130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板形成部材130にコンプライアンス基板40を接合し、金属板110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
【0055】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1では、振動板50を流路形成基板10とは反対側に凸となるように形成したが、本発明の振動板50の形状は、特にこれに限定されるものではない。ここで、振動板50の他の例を図6に示す。
【0056】
図6(a)に示すように、振動板50Aには、圧電素子300の幅方向両側の圧力発生室12に相対向する領域に屈曲部51Aが設けられている。具体的には、振動板50Aは、流路形成基板10の表面に設けられた平坦部52と、平坦部52から連続すると共に圧力発生室12に相対向する領域に流路形成基板10側に向かって傾斜した傾斜部53Aと、傾斜部53Aに連続して平坦部52の面方向と同じ方向に設けられた圧電素子戴置部54とを具備し、平坦部52と傾斜部53Aとの間に屈曲された第1の屈曲部55Aが設けられ、傾斜部53Aと圧電素子戴置部54との間に屈曲された第2の屈曲部56Aが設けられている。すなわち、本実施形態では、振動板50が屈曲部51Aによって圧力発生室12側に凸となるように、第1の屈曲部55Aと第2の屈曲部56Aとからなる屈曲部51Aが設けられている。
【0057】
このような構成としても、振動板50Aの屈曲部51Aに応力が集中して振動板50Aにクラック等の破壊が発生するのを防止することができる。
【0058】
また、図6(b)に示すように、振動板50Bには、圧電素子300の幅方向両側の圧力発生室12に相対向する領域に屈曲部51Bが設けられている。具体的には、振動板50Bは、流路形成基板10の表面に設けられた平坦部52と、平坦部52から連続すると共に圧力発生室12に相対向する領域に流路形成基板10側に向かって傾斜した第1の傾斜部57と、第1の傾斜部57から連続して第1の傾斜部57に対して流路形成基板10とは反対側に向かって傾斜して設けられた第2の傾斜部58と、第2の傾斜部58に連続すると共に平坦部52の面方向と同じ方向に設けられた圧電素子戴置部54とを具備する。そして、平坦部52と第1の傾斜部57との間に屈曲された第1の屈曲部55Bが設けられ、第1の傾斜部57と第2の傾斜部58との間に屈曲された第2の屈曲部56Bが設けられ、第2の傾斜部58と圧電素子戴置部54との間に屈曲された第3の屈曲部59が設けられている。すなわち、本実施形態では、屈曲部51Bとして、第1の屈曲部55Bと第2の屈曲部56Bと第3の屈曲部59との3つが設けられていることになる。
【0059】
このような構成としても、振動板50Bの屈曲部51Bに応力が集中して振動板50Bにクラック等の破壊が発生するのを防止することができる。
【0060】
そして、何れの振動板50、50A、50Bであっても、金属からなる流路形成基板10を例えば、プレス加工等により屈曲し、その表面を酸化させることで容易に形成することができる。
【0061】
さらに、上述した例では、振動板50〜50Bを振動させる圧力発生素子として、薄膜型(撓み振動型)の圧電素子300(圧電体能動部320)を例示したが、振動板50〜50Bを振動させる圧力発生素子としては、特にこれに限定されるものではない。圧力発生素子の他の例としては、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電素子(圧電体能動部)や、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子や、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を振動させるいわゆる静電式アクチュエータなどが挙げられる。
【0062】
なお、このようなインクジェット式記録ヘッドIは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置IIに搭載される。図7は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図7に示すように、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0063】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0064】
なお、上述した実施形態1〜3では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの要部断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る記録ヘッドを示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る記録装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0066】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 15 連通路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバ部、 32 圧電素子保持部、 33 貫通孔、 40 コンプライアンス基板、 50、50A、50B 振動板、 51、51A、51B 屈曲部、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバ、 120 駆動回路、 121 接続配線、 300 圧電素子(圧力発生素子)、 320 圧電体能動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される金属からなる流路形成基板を屈曲する工程と、
該流路形成基板を酸化することにより、その表面に前記屈曲により形成された屈曲部を有する振動板を形成する工程と、
該振動板上に圧力発生素子を形成する工程と、
前記流路形成基板をエッチングすることにより、前記圧力発生室を形成する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記振動板の前記屈曲部が、前記圧力発生素子の幅方向両側に設けられていることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記振動板が、前記流路形成基板の表面に沿って設けられた平坦部と、前記圧力発生室に相対向する領域に該平坦部に対して前記流路形成基板とは反対側に向かって傾斜して設けられた傾斜部と、前記平坦部と同一方向に設けられると共に前記圧力発生素子が設けられた圧力発生素子戴置部とが連続して設けられたものであると共に、前記屈曲部が、前記平坦部と前記傾斜部との間に設けられた第1の屈曲部と、前記傾斜部と圧力発生素子戴置部との間に設けられた第2の屈曲部とで構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記流路形成基板の前記圧力発生室の内面に耐液体性を有する保護膜を形成する工程をさらに具備することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記流路形成基板を屈曲する工程では、プレス加工により行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた金属からなる流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられた振動板と、該振動板上に設けられた圧力発生素子とを具備し、
前記振動板が、前記流路形成基板の一部を酸化することで形成されていると共に、当該振動板には、前記流路形成基板を屈曲することにより形成された屈曲部が、前記圧力発生素子の幅方向両側に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項7】
請求項6に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−160841(P2009−160841A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1269(P2008−1269)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】