液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置
【課題】圧電素子の破壊を長期間に亘って確実に防止することができ液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供する。さらには、圧電素子の駆動による振動板の変位量の低下を有効に防止することができる液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室12が形成される流路形成基板10と、流路形成基板10の一方面側に振動板を介して設けられる下電極60、圧電体層70及び上電極80からなる圧電素子300とを具備し、少なくとも圧電素子300を構成する各層のパターン領域が、無機絶縁材料からなる絶縁膜100によって覆われているようにする。
【解決手段】液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室12が形成される流路形成基板10と、流路形成基板10の一方面側に振動板を介して設けられる下電極60、圧電体層70及び上電極80からなる圧電素子300とを具備し、少なくとも圧電素子300を構成する各層のパターン領域が、無機絶縁材料からなる絶縁膜100によって覆われているようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置に関し、特に、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電素子を形成して、圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0005】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものがある。また、このような圧電素子は、例えば、湿気等の外部環境に起因して破壊され易いという問題がある。この問題を解決するために、圧力発生室が形成される流路形成基板に、圧電素子保持部を有する封止基板(リザーバ形成基板)を接合し、この圧電素子保持部内に圧電素子を密封するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、このように圧電素子を密封しても、例えば、封止基板と流路形成基板との接着部分から圧電素子保持部内に水分が入り込むこと等により、圧電素子保持部内の湿気が徐々に上昇し、最終的にはこの湿気により圧電素子が破壊されてしまうという問題がある。
【0007】
また、外部環境に起因して圧電素子が破壊され易いという問題を解決するために、圧電素子を構成する上電極の上面の少なくとも周縁及び圧電体層の側面を覆うように、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、有機材料、好ましくは感光性ポリイミドからなる薄い絶縁体層を設け、この絶縁体層上に、導電パターン(リード電極)が形成されたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
このような構成とすることで、圧電素子への水分の浸透は、ある程度は防止することはできるかもしれないが、例えば、導電パターンが露出されているため、導電パターンと上電極との接続部である窓から水分が透過してしまう虞があり、圧電素子の水分に起因する破壊を完全に防止できないという問題がある。
【0009】
さらに、外部環境に起因して圧電素子が破壊され易いという問題を解決するために、圧電素子全体を圧電体層のヤング率より小さい有機材料、例えば、ポリイミド等からなる保護膜で覆ったものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この構造によれば、圧電素子の破壊を防止することはできるが、上記材料からなる保護膜の応力は、通常、引張り応力となるため、このような保護膜で圧電素子を覆った構造においては、圧電素子(圧電体層)に対して圧縮方向の力が作用し、圧電素子の駆動による振動板の変位量が低下してしまうという問題がある。また、有機材料からなる保護膜はかなりの厚みを有しないと水分透過を防ぐことができないが、厚みを有するということは圧電素子の駆動を阻害する大きな原因となる虞がある。
【0010】
なお、このような何れの問題も、インク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、勿論、インク以外の液滴を吐出する他の液体噴射ヘッドにおいても、同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−136734号公報(第1図、第2図、第5頁)
【特許文献2】特開平10−226071号公報(第2図、段落[0015])
【特許文献3】特開2003−110160号公報(特許請求の範囲、第5図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような事情に鑑み、圧電素子の破壊を長期間に亘って確実に防止することができ液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供することを課題とする。さらには、圧電素子の駆動による振動板の変位量の低下を有効に防止することができる液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備し、少なくとも前記圧電素子を構成する各層のパターン領域が、無機絶縁材料からなる絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0014】
かかる第1の態様では、水分透過率の低い無機絶縁材料からなる絶縁膜によって圧電体層が覆われるため、圧電素子の駆動に多大な支障をきたすことなく、水分(湿気)等の外部環境に起因する圧電体層(圧電素子)の劣化(破壊)が長期に亘って確実に防止される。
【0015】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記絶縁膜がアモルファス材料からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0016】
かかる第2の態様では、水分透過率が低い絶縁膜を形成でき、絶縁膜を比較的薄く形成しても水分等の外部環境に起因する圧電素子の破壊を確実に防止できる。
【0017】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記アモルファス材料が、酸化アルミニウム(Al2O3)であることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0018】
かかる第3の態様では、無機絶縁材料の中でも特に水分透過率の極めて低いAl2O3からなる絶縁膜によって圧電素子が覆われるため、圧電素子の駆動に多大な支障をきたすことなく、水分等の外部環境に起因する圧電素子の破壊が確実に防止される。
【0019】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記絶縁膜の膜厚が30〜150[nm]であることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0020】
かかる第4の態様では、圧電素子の変位を確保しつつ、水分等の外部環境に起因する圧電素子の破壊を確実に防止することができる。
【0021】
本発明の第5の態様は、第3又は4の態様において、前記絶縁膜の膜密度が、3.08〜3.25[g/cm3]であることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0022】
かかる第5の態様では、絶縁膜の密着性を向上して水分等の外部環境に起因する圧電素子の破壊を確実に防止することができ、且つ圧電素子の変位も確保することができる。
【0023】
本発明の第6の態様は、第3〜5の何れかの態様において、前記絶縁膜のヤング率が170〜200[GPa]であることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0024】
かかる第6の態様では、水分等の外部環境に起因する圧電素子の破壊を防止でき、且つ圧電素子の変位も確保できる。
【0025】
本発明の第7の態様は、第3〜6の何れかの態様において、前記第上電極用リード電極が、アルミニウムを主成分とする材料からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0026】
かかる第7の態様では、リード電極と絶縁膜との密着性が向上し、圧電体層への水分透過率を更に低下させることができ、例えば、リード電極の断線、あるいは駆動配線との接続不良等の発生を防止できる。
【0027】
本発明の第8の態様は、第1〜7の何れかの態様において、前記絶縁膜の応力と前記上電極の応力との和が圧縮応力となっていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0028】
かかる第8の態様では、圧電素子が絶縁膜によって覆われているため、水分(湿気)等の外部環境に起因する圧電体層(圧電素子)の劣化(破壊)が長期に渡って確実に防止される。また、絶縁膜及び上電極の応力の和が圧縮応力であるため、振動板の撓み量が低減され、振動板の変位量の低下が有効に防止される。
【0029】
本発明の第9の態様は、第8の態様において、前記絶縁膜及び前記上電極のそれぞれの応力が圧縮応力となっていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0030】
かかる第9の態様では、絶縁膜及び上電極の応力の和を比較的容易に圧縮応力とすることができる。
【0031】
本発明の第10の態様は、第9の態様において、前記上電極は、少なくともIrからなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0032】
かかる第10の態様では、上電極の材料に少なくともIrを用いることにより、上電極の応力が圧縮応力となる。
【0033】
本発明の第11の態様は、第8の態様において、前記絶縁膜の応力が圧縮応力となっており、且つ前記上電極の応力が引張り応力となっていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0034】
かかる第11の態様では、絶縁膜及び上電極の応力の和が圧縮応力であるため、振動板の撓み量が低減され、振動板の変位量の低下が有効に防止される。
【0035】
本発明の第12の態様は、第11の態様において、前記上電極は、少なくともPtからなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0036】
かかる第12の態様では、上電極の材料に少なくともPtを用いることにより、上電極の応力が引張り応力となる。
【0037】
本発明の第13の態様は、第11又は12の態様において、前記上電極及び前記絶縁膜の応力σがヤング率Y、歪ε、膜厚mの積(ε×Y×m)で表され、前記上電極の応力σ1と前記絶縁膜の応力σ2との関係が|σ1|<|σ2|の条件を満たしていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0038】
かかる第13の態様では、絶縁膜及び上電極の応力の和が圧縮応力であるため、振動板の撓み量が低減され、振動板の変位量の低下が有効に防止される。
【0039】
本発明の第14の態様は、第1〜13の何れかの態様において、前記上電極から引き出される上電極用リード電極をさらに有し、少なくとも前記圧電素子を構成する各層及び前記上電極用リード電極のパターン領域が、前記下電極及び前記上電極用リード電極の接続配線との接続部に対向する領域を除いて、前記絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0040】
かかる第14の態様では、水分透過率の低い無機絶縁材料からなる絶縁膜によって圧電素子と共に上電極リード電極のパターン領域が覆われるため、水分(湿気)に起因する圧電体層(圧電素子)の劣化(破壊)がより長期に渡って防止することができる。
【0041】
本発明の第15の態様は、第14の態様において、前記下電極から引き出される下電極用リード電極を具備して該下電極用リード電極を介して前記下電極が前記接続配線と接続され、前記下電極用リード電極を含む前記パターン領域が、前記上電極用リード電極及び前記下電極用リード電極の前記接続配線に対向する領域を除いて、前記絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0042】
かかる第15の態様では、下電極用リード電極が無機絶縁材料からなる絶縁膜で覆われるため、圧電素子への水分透過がより確実に防止される。
【0043】
本発明の第16の態様は、第14又は15の態様において、前記上電極と前記上電極用リード電極とが別材料からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0044】
かかる第16の態様では、上電極と上電極用リード電極とが別プロセスで形成されるため、上電極の膜厚を容易に薄くすることができる。また、上電極の膜厚を薄くすることで、圧電体層の変位量が増加する。
【0045】
本発明の第17の態様は、第1〜16の何れの態様において、前記圧電素子を構成する前記圧電体層及び前記上電極が前記圧力発生室に対向する領域からその外側まで延設されて圧電体非能動部が形成され、前記上電極用リード電極の前記上電極側の端部が、前記圧電体非能動部上で且つ前記圧力発生室の外側に位置していることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0046】
かかる第17の態様では、圧電素子を駆動した際、圧力発生室の端部に対向する領域に不連続な応力が発生することにより、圧電素子にクラック等が発生するのを防止できる。
【0047】
本発明の第18の態様は、第1〜17の何れかの態様において、前記接続配線が接続された状態で、前記接続部が有機絶縁材料からなる封止材によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0048】
かかる第18の態様では、露出部からの水分の浸透が防止されるため、圧電体層の破壊がさらに確実に防止される。
【0049】
本発明の第19の態様は、第14〜18の何れかの態様において、前記絶縁膜が、第1の絶縁膜と第2の絶縁膜とを含み、前記圧電素子が前記上電極用リード電極との接続部を除いて前記第1の絶縁膜によって覆われ、且つ前記上電極用リード電極が前記第1の絶縁膜上に延設されると共に少なくとも前記圧電素子を構成する各層及び前記上電極用リード電極のパターン領域が、前記接続部に対向する領域を除いて前記第2の絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0050】
かかる第19の態様では、第1及び第2の絶縁膜によって圧電体層への水分の浸透が確実に防止され、水分(湿気)に起因する圧電体層(圧電素子)の劣化(破壊)が長期に亘って防止される。
【0051】
本発明の第20の態様は、第14〜19の何れかの態様において、前記接続配線が、前記上電極用リード電極から引き出される第2の上電極用リード電極を含み、該第2の上電極用リード電極が前記絶縁膜上に延設されて前記接続部で前記上電極用リード電極に接続されると共に当該第2の上電極用リード電極の先端部側に駆動配線が接続される端子部を有することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0052】
かかる第20の態様では、水分透過率の低い無機絶縁材料からなる絶縁膜によって圧電体層が覆われ、且つ絶縁膜が端子部の下側まで連続的に設けられているため、絶縁膜の下側に水分(湿気)が侵入しても、水分が圧電体層と接触するのをより確実に防止することができる。したがって、水分に起因する圧電体層(圧電素子)の劣化(破壊)を長期に亘って確実に防止することができる。
【0053】
本発明の第21の態様は、第14〜20の何れかの態様において、前記圧電素子を構成する前記圧電体層及び前記上電極が前記圧力発生室に対向する領域からその外側まで延設されて圧電体非能動部が形成され、前記上電極に接続される前記上電極用リード電極の当該上電極側の端部が、前記圧電体非能動部上で且つ前記圧力発生室の外側に位置していることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0054】
かかる第21の態様では、圧電素子を駆動した際、圧力発生室の端部に対向する領域の圧電素子に不連続な応力が発生することによって、圧電素子にクラック等が発生するのを防止できる。
【0055】
本発明の第22の態様は、第14〜21の何れかの態様において、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面には、当該圧電素子を保護する空間である圧電素子保持部を有する保護基板が接合され、前記上電極用リード電極の前記接続部が、前記圧電素子保持部の外側に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0056】
かかる第22の態様では、圧電素子保持部の外側に接続部を設けて保護基板を絶縁膜上に接着することで、保護基板の接着強度が向上する。
【0057】
本発明の第23の態様は、第1〜22の何れかの態様において、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面には、当該圧電素子を保護する空間である圧電素子保持部を有する保護基板が接合され、該保護基板が前記圧力発生室に供給される液体の流路を具備して前記圧電素子保持部の前記流路側の前記接着層が前記流路内に露出されており、前記圧電素子保持部の前記流路側以外の領域に当該圧電素子保持部内の水分を透過する透湿部が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0058】
かかる第23の態様では、流路から接着層を介して圧電素子保持部内に侵入した水分(湿気)が透湿部を介して外部に排出されるため、圧電素子保持部内は少なくとも外気と同程度の湿度に維持される。そして、圧電素子は絶縁膜によって覆われているため、圧電素子保持部内が外気と同程度の湿度に維持されていれば、水分(湿気)に起因する圧電素子の破壊は防止される。
【0059】
本発明の第24の態様は、第23の態様において、前記透湿部が、有機材料からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0060】
かかる第24の態様では、水分の透過性の高い材料である有機材料で透湿部を形成することで、圧電素子保持部内の水分が良好に排出される。
【0061】
本発明の第25の態様は、第23又は24の態様において、前記透湿部が前記保護基板の前記流路形成基板との接合面の一部に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0062】
かかる第25の態様では、透湿部を比較的容易に形成することができる。
【0063】
本発明の第26の態様は、第23又は24の態様において、前記透湿部が、前記保護基板の上面に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0064】
かかる第26の態様では、透湿部を比較的容易に形成することができる。
【0065】
本発明の第27の態様は、第25又は26の態様において、前記透湿部が、前記接着層を構成する接着剤よりも水分の透過性の高い接着剤からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0066】
かかる第27の態様では、流路形成基板と保護基板とが接着層と共に透湿部によって接着され、接合強度が向上する。
【0067】
本発明の第28の態様は、第23〜26の何れかの態様において、前記透湿部が、ポッティング材からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0068】
かかる第28の態様では、透湿部を容易に形成することができ、且つ水分の透過性の高い透湿部が形成される。
【0069】
本発明の第29の態様は、第23〜28の何れかの態様において、前記透湿部が、前記圧電素子保持部の前記流路とは反対側の領域に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0070】
かかる第29の態様では、流路内の水分が透湿部を介して侵入することがなく、圧電素子保持部内の水分が透湿部を介して良好に排出される。
【0071】
本発明の第30の態様は、第23又は24の態様において、前記透湿部が、前記圧力発生室の列の両端部外側に対応する領域の前記保護基板に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0072】
かかる第30の態様では、水分に起因する圧電素子の破壊を長期に亘って防止することができる。
【0073】
本発明の第31の態様は、第1〜30の何れかの態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【0074】
かかる第31の態様では、耐久性及び信頼性を向上した液体噴射装置が実現される。
【0075】
本発明の第32の態様は、液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室が形成される流路形成基板の一方面側に振動板を介して下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子を形成する工程と、当該圧電素子の前記上電極から引き出される上電極用リード電極を形成する工程と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の全面に無機絶縁材料からなる絶縁膜を形成する工程と、少なくとも前記下電極及び前記上電極用リード電極の接続配線との接続部を露出させ且つ該接続部を除く前記圧電素子を構成する各層及び前記上電極用リード電極のパターン領域の前記絶縁膜を残すように当該絶縁膜をパターニングする工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0076】
かかる第32の態様では、圧電素子及び上電極用リード電極のパターン領域に、接続部を除いて絶縁膜を良好に形成できる。
【0077】
本発明の第33の態様は、第32の態様において、前記絶縁膜をパターニングする工程では、所定領域の前記絶縁膜をイオンミリングによって除去することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0078】
かかる第33の態様では、絶縁膜を寸法精度よく、良好に除去することができる。
【0079】
本発明の第34の態様は、第32又は33の態様において、前記絶縁膜をパターニングする工程の後に、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に当該圧電素子を保護する圧電素子保持部及び前記圧力発生室に供給される液体の流路を有する保護基板を接合する工程をさらに有し、且つ該保護基板を接合する工程では、前記圧電素子保持部周縁の前記流路側を除く領域の一部に空間部を残して前記保護基板に接着剤を塗布して当該保護基板と前記流路形成基板とを接合すると共に、前記空間部を前記接着剤よりも水分の透過率の高い材料で封止して前記圧電素子保持部内の水分を透過する透湿部を形成することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0080】
かかる第34の態様では、製造工程を煩雑化することなく、透湿部を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの要部を示す平面図及び断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの変形例を示す平面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】実施形態2に係る記録ヘッドの概略斜視図である。
【図8】実施形態2に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図9】実施形態2に係る記録ヘッドの要部を示す平面図である。
【図10】実施形態2に係る記録ヘッドの要部を示す平面図である。
【図11】実施形態2に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図12】実施形態3に係る記録ヘッドの概略斜視図である。
【図13】実施形態3に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図14】実施形態3に係る記録ヘッドの要部を示す平面図である。
【図15】実施形態3に係る記録ヘッドの変形例を示す平面図である。
【図16】実施形態3に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図17】実施形態3に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図18】実施形態4に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図19】実施形態5に係る記録ヘッドの概略斜視図である。
【図20】実施形態5に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図21】実施形態5に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図22】実施形態6に係る記録ヘッドの側面図である。
【図23】一実施形態に係る記録装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0082】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0083】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及び断面図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。なお、連通部13は、後述する保護基板のリザーバ部と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0084】
また、流路形成基板10の開口面側には、圧力発生室12を形成する際のマスクとして用いられた絶縁膜51を介して、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.01〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0085】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、厚さが例えば約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、厚さが例えば、約0.4μmの絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1.0μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
【0086】
例えば、本実施形態では、図2及び図3に示すように、下電極膜60は、圧力発生室12の長手方向では圧力発生室12に対向する領域内に形成され、複数の圧力発生室12に対応する領域に連続的に設けられている。また、下電極膜60は、圧力発生室12の列の外側、及び列設された圧電素子300の間から連通部13近傍まで延設され、それらの先端部は、後述する駆動配線130が接続される接続部60aとなっている。圧電体層70及び上電極膜80は、基本的には圧力発生室12に対向する領域内に設けられているが、圧力発生室12の長手方向では、下電極膜60の端部よりも外側まで延設されており、下電極膜60の端面は圧電体層70によって覆われている。そして、圧力発生室12の長手方向端部近傍には、圧電体層を有するが実質的に駆動されない圧電体非能動部330が形成されている。また、上電極膜80の一端部近傍には上電極用リード電極90が接続されている。この上電極用リード電極90は、本実施形態では、圧力発生室12の外側の圧電体非能動部330上から連通部13近傍まで延設されており、その先端部は、下電極膜60と同様に、駆動配線130が接続される接続部90aとなっている。
【0087】
そして、本発明では、少なくとも圧電素子300を構成する各層のパターン領域が、無機絶縁材料からなる絶縁膜100によって覆われている。本実施形態では、圧電素子300を構成する各層及び上電極用リード電極90のパターン領域が、下電極膜60の接続部60a及び上電極用リード電極90の接続部90aに対向する領域を除いて、絶縁膜100によって覆われている。すなわち、パターン領域の下電極膜60、圧電体層70、上電極膜80及び上電極用リード電極90の表面(上面及び端面)が、無機絶縁材料からなる絶縁膜100によって覆われている。
【0088】
このような無機絶縁材料からなる絶縁膜100は、薄膜でも水分の透過性が極めて低いため、少なくとも下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80の表面、本実施形態では、さらに上電極用リード電極90の表面をこの絶縁膜100にで覆うことにより、圧電体層70の水分(湿気)に起因する破壊を防止することができる。また、接続部60a,90aを除いて、圧電素子300を構成する各層及び上電極用リード電極90の表面を覆うようにすることで、これらの層と絶縁膜100との間から水分が侵入した場合でも、圧電体層70まで水分が達するのを防ぐことができ、圧電体層70の水分に起因する破壊をより確実に防止することができる。
【0089】
絶縁膜100の材料としては、無機絶縁材料であれば、特に限定されず、例えば、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化タンタル(TaOx)等が挙げられるが、特に、無機アモルファス材料である、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)を用いるのが好ましい。
【0090】
また、酸化アルミニウムからなる絶縁膜100を形成した場合、絶縁膜100の厚さは30〜150[nm]程度であることが好ましく、好適には100[nm]程度である。このように絶縁膜100の材料として、酸化アルミニウムを用いた場合、絶縁膜100が100[nm]程度の薄膜で形成されていても、高湿度環境下での水分透過を十分に防ぐことができる。なお、絶縁膜の材料として、例えば、樹脂等の有機絶縁材料を用いる場合、上記無機絶縁材料からなる絶縁膜と同程度の薄さでは、水分透過を十分に防ぐことができない。また、水分透過を防ぐために絶縁膜の膜厚を厚くすると、圧電素子の変位を妨げるという事態を招く虞がある。
【0091】
また、酸化アルミニウムからなる絶縁膜100の膜密度は3.08〜3.25[g/cm3]であることが好ましい。さらに、絶縁膜100のヤング率は170〜200[GPa]であることが好ましい。このような特性を有する絶縁膜100で圧電素子300等を覆うようにすることで、圧電素子300の変位を妨げることなく、高湿度環境下での水分透過をより確実に防止することができる。なお、絶縁膜100は、例えば、CVD法等によって形成される。そして、絶縁膜100を形成する際に、例えば、温度、ガス流量等の各種条件を適宜調整することで、所望の特性、例えば、膜密度、ヤング率等を有する絶縁膜100を比較的容易に形成することができる。
【0092】
また、このような絶縁膜100の応力と上電極膜80の応力との和、すなわち、上電極膜80とこの上電極膜80の面上に形成される絶縁膜100との応力の和は、圧縮応力となっていることが好ましい。なお、絶縁膜100及び上電極膜80の応力とは、膜の内部応力(膜応力)のことであり、上電極膜80及び絶縁膜100の応力σは、ヤング率Y、歪ε、膜厚mの積(ε×Y×m)で表される。
【0093】
ここで、圧力発生室12に対向する領域に位置する圧電素子300は、後述する製造プロセスにおいて、圧力発生室12を形成する前後で内部応力が変化する。具体的には、圧電素子300を形成した後に、圧電素子300の下方に圧力発生室12を形成すると、その際、圧電体層70の引張り方向の内部応力が緩和されて、振動板が圧力発生室側に撓む方向(圧縮方向)に力が作用する。しかしながら、無機絶縁材料からなる絶縁膜100によって圧電素子300を覆うと共に、絶縁膜100の応力と上電極膜80の応力との和が圧縮応力となるようにすることにより、圧力発生室12を形成した後は、絶縁膜100及び上電極膜80の応力(圧縮応力)が解放されて、圧電素子300(圧電体層70)には引張り方向の力が作用することになる。これにより、水分等の外部環境に起因する圧電体層70の破壊を確実に防止しつつ、圧電素子300の駆動による振動板の変位量の低下を有効に防止することができる。
【0094】
また、このような絶縁膜100の応力と上電極膜80の応力とは、例えば、絶縁膜100及び上電極膜80のそれぞれの応力が圧縮応力となっていてもよい。また、絶縁膜100の応力が圧縮応力となっており且つ上電極膜80の応力が引張り応力となっていてもよく、この場合には、上電極膜80の応力σ1と絶縁膜100の応力σ2との関係が|σ1|<|σ2|の条件を満たす。
【0095】
なお、本実施形態では、連通部13近傍まで延設された下電極膜60の先端部が駆動配線130との接続部60aとなっているが、例えば、図4に示すように、下電極膜60に電気的に接続される下電極用リード電極95を、列設された圧電素子300の外側、及び圧電素子300同士の間から連通部13近傍まで延設し、この下電極用リード電極95の先端部を駆動配線130との接続部95aとしてもよい。そして、この場合には、上電極用リード電極90の接続部90a及び下電極用リード電極95の接続部95aに対向する領域を除くパターン領域を無機絶縁材料からなる絶縁膜100で覆うようにする。
【0096】
また、流路形成基板10上の圧電素子300側の面には、圧電素子300に対向する領域にその運動を阻害しない程度の空間を確保可能な圧電素子保持部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。圧電素子300は、この圧電素子保持部31内に形成されているため、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。さらに、保護基板30には、流路形成基板10の連通部13に対応する領域にリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の並設方向に沿って設けられており、上述したように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ110を構成している。
【0097】
また、保護基板30の圧電素子保持部31とリザーバ部32との間の領域には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられ、この貫通孔33内に上述した下電極膜60の接続部60a及び上電極用リード電極90の接続部90aが露出されている。そして、これら下電極膜60の接続部60a及び上電極用リード電極90の接続部90aに、保護基板30上に実装された駆動IC120と圧電素子300とを電気的に接続するための接続配線を構成する駆動配線130が接続されている。例えば、本実施形態では、この駆動配線130は、ボンディングワイヤからなり、貫通孔33内に延設されて下電極膜60の接続部60a及び上電極用リード電極90の接続部90aと駆動IC120とを電気的に接続している。なお、駆動配線130が延設された貫通孔33には、有機絶縁材料、例えば、本実施形態では、ポッティング材である封止材140が充填されており、下電極膜60の接続部60a及び上電極用リード電極90の接続部90aと駆動配線130とは、この封止材140によって完全に覆われている。
【0098】
保護基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0099】
また、保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ110に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ110の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0100】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ110からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動IC120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0101】
ここで、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図5及び図6を参照して説明する。なお、図5及び図6は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。まず、図5(a)に示すように、シリコン単結晶基板である流路形成基板10を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、流路形成基板10の表面に弾性膜50及びマスク膜51を構成する二酸化シリコン膜52を形成する。次いで、図5(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜52)上に、ジルコニウム(Zr)層を形成後、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化して酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55を形成する。次いで、図5(c)に示すように、例えば、白金とイリジウムとを絶縁体膜55上に積層することにより下電極膜60を形成後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。
【0102】
次に、図5(d)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる上電極膜80とを流路形成基板10の全面に形成する。次いで、図6(a)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。
【0103】
なお、圧電素子300を構成する圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料の他に、例えば、強誘電性圧電性材料にニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。その組成は、圧電素子300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO3(PT)、PbZrO3(PZ)、Pb(ZrxTi1-x)O3(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PIN−PT)、Pb(Sc1/3Ta1/2)O3−PbTiO3(PST−PT)、Pb(Sc1/3Nb1/2)O3−PbTiO3(PSN−PT)、BiScO3−PbTiO3(BS−PT)、BiYbO3−PbTiO3(BY−PT)等が挙げられる。
【0104】
次に、上電極用リード電極90を形成する。具体的には、図6(b)に示すように、流路形成基板10の全面に亘って、例えば、チタンタングステン(TiW)からなる密着層91を形成し、この密着層91上の全面に、例えば、金(Au)等からなる金属層92を形成する。その後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して金属層92を各圧電素子300毎にパターニングし、さらに密着層91をエッチングによりパターニングすることで上電極用リード電極90が形成される。なお、密着層91は、その端面が金属層92の端面と同じ若しくはそれよりも外側に位置するようにエッチングするのが好ましい。
【0105】
次に、図6(c)に示すように、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)からなる絶縁膜100を形成すると共に所定形状にパターニングする。すなわち、絶縁膜100を流路形成基板10の全面に形成し、その後、下電極膜60の接続部60a及び上電極用リード電極90の接続部90aに対向する領域の絶縁膜100を除去する。なお、本実施形態では、接続部60a,90aに対向する領域と共に、圧電素子300を構成する各層及び上電極用リード電極90のパターン領域以外も除去するようにしている。勿論、絶縁膜100は、接続部60a,90aに対向する領域のみが除去されていてもよい。何れにしても、絶縁膜100は、下電極膜60の接続部60a及び上電極用リード電極90の接続部90aを除いて、圧電素子300を構成する各層及び上電極用リード電極90のパターン領域を覆うように形成されていればよい。また、絶縁膜100の除去方法は、特に限定されないが、例えば、イオンミリング等のドライエッチングを用いることが好ましい。これにより、絶縁膜100を寸法精度良く、良好に除去することができる。
【0106】
次いで、図6(d)に示すように、流路形成基板10の圧電素子300側に保護基板30を接着剤35によって接合し、所定形状にパターニングしたマスク膜51を介して流路形成基板10を異方性エッチングすることにより圧力発生室12等を形成する。そして、弾性膜50及び絶縁体膜55を、例えば、機械的に除去して連通部13とリザーバ部32とを連通させる。
【0107】
なお、実際には、上述した一連の膜形成及び異方性エッチングによって一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、第1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割する。その後は、流路形成基板10にマスク膜51を介してノズルプレート20を接合し、保護基板30上に駆動IC120を実装すると共にコンプライアンス基板40を接合する。さらに、ワイヤボンディングすることによって、駆動IC120と下電極膜60及び上電極用リード電極90の接続部60a,90aとの間に駆動配線130を形成し、この接続部60a,90aと駆動配線130とを封止材140で覆うことにより本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとなる。
【0108】
(試験例1)
ここで、下記実施例1〜3及び比較例1〜3のインクジェット式記録ヘッドを作製し、圧電素子へのDC通電試験を行った。この試験条件及び試験結果を、下記表1に示す。
【実施例1】
【0109】
下電極膜及び上電極用リード電極の接続部を除いて、圧電素子を構成する各層及び上電極用リード電極のパターン領域を覆うように、無機絶縁材料である酸化アルミニウムからなる絶縁膜を厚さ約50nmで形成したものを実施例1のインクジェット式記録ヘッドとした。
【実施例2】
【0110】
絶縁膜の厚さを約100nmとした以外は、実施例1と同様の構成としたものを実施例2のインクジェット式記録ヘッドとした。
【実施例3】
【0111】
絶縁膜の材料として、酸化アルミニウムの代わりに酸化タンタルを用い、その厚さを約200nmとした以外は、実施例1と同様の構成としたものを実施例3のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0112】
(比較例1)
絶縁膜の材料として、シリコーンオイル(ダイキン工業社製)を用い、この絶縁膜を下電極膜及び上電極用リード電極の接続部を除いて、圧電素子及び上電極用リード電極の表面が完全に覆われるように塗布した以外は、実施例1と同様の構成としたものを比較例1のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0113】
(比較例2)
絶縁膜の材料として、ウレタン系防湿剤(日立化成工業社製)を用いた以外は、比較例1と同様の構成としたものを比較例2のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0114】
(比較例3)
絶縁膜を形成していない以外は、実施例1と同様の構成としたものを比較例3のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0115】
【表1】
【0116】
上記表1に示すように、実施例1〜3の無機絶縁材料からなる絶縁膜を有するインクジェット式記録ヘッドでは、湿度40%Rhの環境下で150時間以上経過しても、破壊されたセグメント(圧電素子)はなく、歩留まりは100%であった。特に、実施例2の酸化アルミニウムを用いた場合は、湿度85%Rhという極めて厳しい条件であるにもかかわらず、250時間経過しても破壊されるセグメント(圧電素子)はなかった。これに対し、無機絶縁材料以外の材料からなる絶縁膜を有する若しくは絶縁膜が形成されていない比較例1〜3のインクジェット式記録ヘッドでは、湿度40%Rhの環境下で、4時間が経過した時点で既に一部のセグメントが破壊されてしまっており、上記無機絶縁材料からなる絶縁膜に比べ、水分を透過しやすいことが実験から分かった。
【0117】
よって、無機絶縁材料以外の材料からなる絶縁膜を用いるとなると、上記無機絶縁材料からなる絶縁膜程度の薄膜状態では、水分透過を十分に防ぐことができない。また、水分透過を防ぐために十分な膜厚を要するとなると圧電素子300の駆動を妨げるという事態を招く虞があるので、圧電素子300の駆動を十分に確保するためには、圧電素子300を比較的大きくすることが求められてインクジェット式記録ヘッドが大型化してしまう。
【0118】
この結果からも明らかなように、本発明の構成によれば、ヘッドの大型化を招来せずに、湿度(水分)に起因する圧電素子の破壊を確実に防止することができ、ヘッドの耐久性を著しく向上することができる。
【0119】
(試験例2)
以下に示す実施例4〜6及び比較例4のインクジェット式記録ヘッドを作製し、振動板の変位量を比較する試験を行った。また、下記表2には、実施例4〜6及び比較例4のインクジェット式記録ヘッドの上電極膜及び絶縁膜の材料、膜厚、膜応力を示す。また、下記表3には、上電極膜及び絶縁膜を形成する材料の物性データ(ヤング率、応力)を示す。なお、表2及び表3では、圧縮応力の値をマイナス(−)、引張り応力の値をプラス(+)として示した。
【実施例4】
【0120】
下記表2に示すように、イリジウムからなる厚さ約50nmの上電極膜を形成し、その上電極膜を有する圧電素子を覆うように、酸化アルミニウムからなる絶縁膜を厚さ約100nmで形成したものを実施例4のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0121】
ここで、下記表2及び表3に示すように、イリジウムからなる膜は圧縮応力となり、酸化アルミニウムからなる膜は圧縮応力となる。このため、実施例4のインクジェット式記録ヘッドでは、上電極膜の応力及び絶縁膜の応力は圧縮応力となっており、両者の和も圧縮応力となっている。
【実施例5】
【0122】
上電極膜の材料に白金を用いた以外は、実施例4と同様の構成としたものを実施例5のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0123】
ここで、下記表2及び表3に示すように、白金からなる膜は引張り応力となり、酸化アルミニウムからなる膜は圧縮応力となる。このため、実施例5のインクジェット式記録ヘッドでは、絶縁膜の応力が圧縮応力となり、上電極膜の応力の引張り応力となるが、上電極膜の応力σ1と絶縁膜の応力σ2との関係が|σ1|<|σ2|を満たしているため、上電極膜の応力と絶縁膜の応力との和は圧縮応力となっている。
【実施例6】
【0124】
上電極膜を厚さ約100nmで形成した以外は、実施例5と同様の構成としたものを実施例6のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0125】
ここで、実施例6のインクジェット式記録ヘッドでは、実施例5と同様に、絶縁膜の応力が圧縮応力となり、上電極膜の応力が引張り応力となるが、上電極膜の応力と絶縁膜の応力との和は圧縮応力となっている。
【0126】
(比較例4)
絶縁膜を形成しない以外は、実施例6と同様の構成としたものを比較例4のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0127】
ここで、下記表2及び表3に示すように、白金からなる膜は引張り応力となる。このため、比較例4のインクジェット式記録ヘッドでは、上電極膜の応力が引張り応力となり、絶縁膜の応力をニュートラルと考えると、上電極膜の応力と絶縁膜の応力との和が引張り応力となっている。
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
上記表2の結果から分かるように、絶縁膜の応力と上電極膜の応力との和が圧縮応力となっている実施例4〜6の各インクジェット式記録ヘッドは、絶縁膜の応力と上電極膜の応力との和が引張り応力となっている比較例4のインクジェット式記録ヘッドと比べて、圧電素子の駆動による振動板の変位量は大きかった。この結果から明らかなように、絶縁膜の応力と上電極膜の応力との和を圧縮応力とすることにより、圧電素子の駆動による振動板の変位量の低下を防止することができる。
【0131】
また、実施例4のインクジェット式記録ヘッドは、実施例5のインクジェット式記録ヘッドと比べて、絶縁膜の応力と上電極膜の応力との和の圧縮応力が大きくなっているが、実施例5のインクジェット式記録ヘッドは、実施例4のインクジェット式記録ヘッドと比べて、圧電素子(振動板)の変位量は大きかった。これは、実施例5の上電極膜は、上記表2及び表3に示すように白金からなり、実施例4のイリジウムからなる上電極膜よりもヤング率(硬度)が小さいためと考えられる。このように、絶縁膜の応力と上電極膜の応力との和が圧縮応力となっていれば、振動板の撓み量を低減でき、圧電素子の駆動による振動板の変位量を増加させることができる。この結果からも明らかなように、絶縁膜の応力と上電極膜の応力との和を圧縮応力とすることにより、圧電素子の駆動による振動板の変位量の低下をより確実に防止することができる。
【0132】
(実施形態2)
図7は、実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの概略斜視図であり、図8は、その平面図及び断面図である。また、図9は、インクジェット式記録ヘッドの要部を示す平面図であり、図10は、図9の要部断面図である。なお、以下、同一部材には同一符号を付して説明し、重複する説明は省略する。
【0133】
本実施形態は、第1の絶縁膜101と第2の絶縁膜102とを含む絶縁膜100Aによって、少なくとも圧電素子300を構成する各層を覆うようにした例である。すなわち、図7〜図10に示すように、下電極膜60は、圧力発生室12の長手方向では圧力発生室12に対向する領域内に形成され、複数の圧力発生室12に対応する領域に連続的に設けられている。圧電体層70及び上電極膜80は、基本的には圧力発生室12に対向する領域内に設けられているが、圧力発生室12の長手方向では、下電極膜60の端部よりも外側まで延設されており、下電極膜60の端面は圧電体層70によって覆われている。なお、圧力発生室12の長手方向端部近傍には、圧電体層を有するが実質的に駆動されない圧電体非能動部330が形成されている(図8(a)参照)。
【0134】
そして、本実施形態では、このような圧電素子300を構成する各層の表面が、上電極用リード電極90Aとの接続部90a及び下電極用リード電極95Aの接続部95aを除いて、耐湿性を有する材料からなる絶縁膜100Aによって覆われている。具体的には、図9及び図10に示すように、第1の絶縁膜101は、圧電素子300を構成する各層のパターン領域に設けられ、上電極膜80の長手方向端部近傍に対向する領域に、上電極用リード電極90Aと上電極膜80とを接続するための接続孔101aが形成され、並設された圧電素子300の外側には、下電極用リード電極95Aと下電極膜60とを接続するための接続孔101bが設けられている。すなわち、少なくとも圧電素子300を構成する各層のパターン領域は、この接続孔101a,101bを除いて、第1の絶縁膜101によって完全に覆われている。
【0135】
そして、この第1の絶縁膜101上には、接続孔101a,101bを介して各圧電素子300の上電極膜80に接続される上電極用リード電極90Aと、下電極膜60に接続される下電極用リード電極95Aとが設けられている。上電極用リード電極90Aは、各上電極膜80の長手方向一端部近傍、本実施形態では、圧電体非能動部330に相当する部分から流路形成基板10の端部近傍まで延設されている。また、下電極用リード電極95Aは、圧電素子300の列の外側の下電極膜60の端部近傍から流路形成基板10の端部近傍まで延設されている。そして、これら上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aの先端部は、駆動配線130が接続される接続部90a,95aとなっている。
【0136】
さらに、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95A並びに第1の絶縁膜101上には、第2の絶縁膜102が設けられている。すなわち、上電極用リード電極90A、下電極用リード電極95A及び圧電素子300を構成する各層のパターン領域は、上電極用リード電極90Aの接続部90a及び下電極用リード電極95Aの接続部95aに対向する領域を除いて、この第2の絶縁膜102によって覆われている。
【0137】
このような構成では、第1及び第2の絶縁膜101,102によって、圧電体層70の水分(湿気)に起因する破壊をさらに確実に防止することができる。また、第2の絶縁膜102によって、上電極用リード電極90Aの接続部90a及び下電極用リード電極95Aの接続部95aを除いて、圧電素子300を構成する各層及び上電極用リード電極90A並びに下電極用リード電極95Aの表面を覆うようにすることで、第2の絶縁膜102の端部側から水分が侵入した場合でも、圧電体層70まで水分が達するのを防ぐことができ、圧電体層70の水分に起因する破壊を確実に防止することができる。
【0138】
また、第1の絶縁膜101上に上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aが形成されているため、これら上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aを形成する際に、ウェットエッチングを用いても電食が発生することがない。このため、例えば、電食によるエッチング速度の異常等が発生することがなく、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aを高精度に形成することができる。また、例えば、上電極膜80の剥離等、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aのエッチング時に発生する圧電素子300の破壊を防止することができ、歩留まりが著しく向上する。
【0139】
ここで、このような絶縁膜100Aを構成する第1及び第2の保護膜101,102の材料としては、上述したように、例えば、酸化アルミニウム(AlOx)を用いるのが好ましい。また、例えば、第1の絶縁膜101を酸化シリコンで形成し、第2の絶縁膜102を酸化アルミニウムで形成する等、第1及び第2の絶縁膜101,102の材料は、それぞれ異なっていてもよいが、第1又は第2の絶縁膜101,102の何れか一方が酸化アルミニウムで形成されているのが好ましい。また、少なくとも第2の絶縁膜101が、酸化アルミニウムで形成されているのが好ましく、特に、第1及び第2の絶縁膜101,102のそれぞれが、酸化アルミニウムで形成されているのが望ましい。このように第1及び第2の絶縁膜101,102の何れか一方あるいは両方の材料として酸化アルミニウムを用いることで、これら第1及び第2の絶縁膜101,102の膜厚が比較的薄く形成されていても、高湿度環境下での水分透過を十分に防ぐことができる。例えば、第1及び第2の絶縁膜101,102のそれぞれが酸化アルミニウムで形成されている場合には、それぞれの膜厚が50nm程度であっても、水分の透過を十分に防ぐことができる。
【0140】
また、このように第1及び第2の絶縁膜101,102の何れか一方又は両方の材料として、酸化アルミニウムを用いる場合には、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aが、アルミニウム(Al)を主成分とする材料で形成されていることが好ましい。例えば、本実施形態では、第1及び第2の絶縁膜101,102のそれぞれが、酸化アルミニウムからなり、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aは、アルミニウム(Al)99.5wt%、銅(Cu)0.5wt%の合金からなる。
【0141】
これにより、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aと第1の絶縁膜101又は第2の絶縁膜102との密着性が向上する。また、第1及び第2の絶縁膜101,102が酸化アルミニウムからなる場合には、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aと第1及び第2の絶縁膜101,102との密着性と共に、第1の絶縁膜101と第2の絶縁膜102との密着性も向上する。したがって、水分の透過をさらに確実に防止することができ、圧電素子300の水分に起因する破壊を長期に亘って確実に防止することができる。さらに、第1及び第2の絶縁膜101,102の膜厚を比較的薄くしても水分の透過を確実に防止することができて圧電素子300の駆動を妨げることがないため、インク吐出特性を良好に維持することができる。
【0142】
なお、流路形成基板10上の圧電素子300側の面には、実施形態1と同様に保護基板及びコンプライアンス基板が接合されているが、本実施形態の保護基板30Aには、貫通部が形成されていない点で実施形態1の保護基板とは相違する。そして、上述したように、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aは、流路形成基板10の端部近傍まで、すなわち、圧電素子保持部31の外側まで延設され、これら上電極用リード電極90Aの接続部90a及び下電極用リード電極95Aの接続部95aに、保護基板30上に実装された駆動IC120から延設される駆動配線130の一端が接続されている。
【0143】
以下、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。なお、図11は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。まず、実施形態1において説明したように、流路形成基板10上に、弾性膜50及び絶縁体膜55形成し、この絶縁体膜55上に下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80からなる圧電素子300を形成する(図5(a)〜図6(a)参照)。
【0144】
次いで、図11(a)に示すように、酸化アルミニウムからなる第1の絶縁膜101を形成すると共に所定形状にパターニングする。すなわち、第1の絶縁膜101を流路形成基板10の全面に形成し、所定のマスクを介してエッチングすることにより、各上電極膜80に対向する領域、及び並設された圧電素子300の外側の下電極膜60に対向する領域にそれぞれ接続孔101a,101bを形成する。
【0145】
次に、図11(b)に示すように、上電極用リード電極90Aを形成する。すなわち、流路形成基板10の全面に亘って、例えば、アルミニウム(Al)を主成分とする材料からなる金属層92Aを形成し、その後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して金属層92Aを各圧電素子300毎にパターニングすることで上電極用リード電極90Aが形成される。また、図示しないが、このとき下電極用リード電極95Aも同時に形成する。
【0146】
なお、金属層92Aの材料として、アルミニウムを主成分とする材料を用いることで、第1又は第2の絶縁膜101,102との密着性が向上し、圧電体層への水分透過率が更に低下するので好ましい。また、勿論、金属層として、例えば、金(Au)等を用いるようにしてもよいが、その場合、には、金属層の下側に、例えば、チタンタングステン(TiW)からなる密着層を設けておくことが望ましい。勿論、金属層がアルミニウムの場合でも、チタンタングステンからなる密着層を設けても良いことは言うまでもない。
【0147】
次に、図11(c)に示すように、例えば、酸化アルミニウムからなる第2の絶縁膜102を形成すると共に所定形状にパターニングする。すなわち、第2の絶縁膜102を流路形成基板10の全面に形成し、その後、上電極用リード電極90Aの接続部90a及び下電極用リード電極95Aの接続部95aに対向する領域の第2の絶縁膜102を除去する。なお、本実施形態では、第2の絶縁膜102も第1の絶縁膜101とほぼ同じ領域、すなわち、圧電素子300を構成する各層、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aのパターン領域のみに設けるようにした。勿論、第2の絶縁膜102は、上電極用リード電極90Aの接続部90a及び下電極用リード電極95Aの接続部95aに対向する領域以外の全ての領域に設けられていてもよい。何れにしても、第2の絶縁膜102は、上電極用リード電極90Aの接続部90a及び下電極用リード電極95Aの接続部95aを除いて、圧電素子300を構成する各層、上電極用リード電極90A及び下電極用リード95Aのパターン領域を覆うように形成されていればよい。
【0148】
次いで、第11(d)に示すように、流路形成基板10の圧電素子300側に保護基板30を接着剤35によって接合した後、所定形状にパターニングしたマスク膜51を介して流路形成基板10を異方性エッチングすることにより圧力発生室12等を形成する。
【0149】
(実施形態3)
図12は、実施形態3に係るインクジェット式記録ヘッドの概略斜視図であり、図13は、その平面図及び断面図である。また、図14は、インクジェット式記録ヘッドの要部を示す平面図である。
【0150】
本実施形態では、接続配線の一部を構成する第2の上電極用リード電極96をさらに設けるようにした例である。図12〜図14に示すように、下電極膜60は、圧力発生室12の長手方向では圧力発生室12に対向する領域内に形成され、複数の圧力発生室12に対応する領域に連続的に設けられている。また、下電極膜60は、圧力発生室12の列の外側で流路形成基板10の端部近傍まで延設され、それらの先端部は、後述する駆動IC120から延設された接続配線130が接続される接続部60aとなっている。圧電体層70及び上電極膜80は、基本的には圧力発生室12に対向する領域内に設けられているが、圧力発生室12の長手方向では、下電極膜60の端部よりも外側まで延設されており、下電極膜60の端面は圧電体層70によって覆われている。そして、圧力発生室12の長手方向端部近傍には、圧電体層70を有するが実質的に駆動されない圧電体非能動部330が形成されている。また、各圧電素子300を構成する上電極膜80の一端部近傍には、例えば、アルミニウムを主成分とする材料からなる上電極用リード電極90Aがそれぞれ接続されている。これらの上電極用リード電極90Aは、本実施形態では、圧力発生室12の外側の圧電体非能動部330上から絶縁体膜55上に延設されている。
【0151】
また、上電極用リード電極90Aには、無機絶縁材料からなる絶縁膜100を介して第2の上電極用リード電極96がそれぞれ接続されている。この第2の上電極用リード電極96は、流路形成基板10の端部近傍まで延設され、その先端部近傍は、下電極膜60の接続部60aと同様に、駆動配線130が接続される端子部96aとなっている。
【0152】
ここで、絶縁膜100は、圧電素子300を構成する各層、上電極用リード電極90A及び第2の上電極用リード電極96のパターン領域に設けられている。そして、少なくとも圧電素子300及び上電極用リード電極90Aは、上電極用リード電極90の接続部90aを除いてこの絶縁膜100によって覆われている。例えば、本実施形態では、絶縁膜100が、圧電素子300の列の外側の下電極膜60上まで連続的に設けられており、圧電素子300及び上電極用リード電極90Aと共に下電極膜60も、接続部60aを除いて絶縁膜100によって覆われている。
【0153】
また上述したように、絶縁膜100は第2の上電極用リード電極96のパターン領域まで連続的に設けられている。すなわち、絶縁膜100は、流路形成基板10の端部近傍まで連続的に設けられており、第2の上電極用リード電極96の端子部96aもこの絶縁膜100上に位置している。
【0154】
以上説明したように、絶縁膜100によって圧電素子300及び上電極用リード電極90Aの表面を覆うと共に、絶縁膜100上に設けられた第2の上電極用リード電極96に駆動配線130が接続される端子部96aを設けるようにすることで、圧電体層70の水分(湿気)に起因する破壊を確実に防止することができる。すなわち、圧電素子300及び上電極用リード電極90Aは、接続部90aを除いて第2の上電極用リード電極96のパターン領域まで連続する絶縁膜100によって覆われている。また上電極用リード電極90Aの接続部90aは、第2の上電極用リード電極96によって塞がれている。したがって、水分は、絶縁膜100の端部からしか侵入することはなく、仮に侵入した場合でも、圧電体層70まで水分が達するのを実質的に防止することができ、圧電体層70の水分に起因する破壊をより確実に防止することができる。
【0155】
さらに、第2の上電極用リード電極96の駆動配線130が接続される端子部96aの下側にも絶縁膜100が設けられていることで、第2の上電極用リード電極96の密着性が高まるという効果もある。これにより、例えば、ワイヤボンディング等により駆動配線130を第2の上電極用リード電極96に接続する際等に、第2の上電極用リード電極96の剥がれ等の不良が発生するのを防止することもできる。
【0156】
なお、本実施形態では、連通部13近傍まで延設された下電極膜60の先端部が接続配線130との接続部60aとなっているが、例えば、図15に示すように、下電極膜60に電気的に接続される下電極用リード電極95Aを、列設された圧電素子300の外側で圧電素子300の長手方向外側の領域まで延設すると共に、第2の下電極用リード電極99を流路形成基板10の端部近傍まで延設し、その先端部を駆動配線130が接続される端子部99aとしてもよい。そして、この場合には、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aの接続部90a,95aを除いて、圧電素子300を構成する各層、上電極用リード電極90A、下電極用リード電極95A及び第2の上電極用リード電極96、第2の下電極用リード電極99のパターン領域を絶縁膜100で覆うようにする。
【0157】
以下、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。なお、図16及び図17は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。また、上述したように、インクジェット式記録ヘッドは、一枚のシリコンウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、第1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割され、本実施形態では、実際にシリコンウェハからなる流路形成基板用ウェハ150を用いた製造方法として説明する。
【0158】
まず、図16(a)に示すように、厚さが約625μmと比較的厚く剛性の高いシリコンウェハからなる流路形成基板用ウェハ150(流路形成基板10)上に、弾性膜50及び絶縁体膜55を形成し、絶縁体膜55上に下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80からなる圧電素子300を形成する。なお、これら弾性膜50、絶縁体膜55及び圧電素子300の製造方法は、実施形態1と同様である(図5(a)〜図5(d)参照)。
【0159】
次に、図16(b)に示すように、上電極用リード電極90Aを形成する。具体的には、流路形成基板用ウェハ150上に、所定の金属材料、例えば、本実施形態では、アルミニウム(Al)からなる金属層92Aを全面に形成する。そして、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して金属層92Aを圧電素子300毎にパターニングすることにより上電極用リード電極90Aが形成される。
【0160】
次に、図16(c)に示すように、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)からなる絶縁膜100を形成すると共に所定形状にパターニングする。すなわち、絶縁膜100を流路形成基板用ウェハ150の全面に形成し、その後、下電極膜60の接続部60aに対向する領域の絶縁膜100を除去すると共に、上電極用リード電極90Aの接続部90aに対向する領域の絶縁膜100を除去して開口100aを形成する。なお、本実施形態では、接続部60a及び接続部90aに対向する領域と共に、圧電素子300を構成する各層及び上電極用リード電極90A、並びに後述する工程で形成される第2の上電極用リード電極96のパターン領域以外も除去するようにしている。勿論、絶縁膜100は、接続部60a及び端子部90aに対向する領域のみが除去されていてもよい。
【0161】
次に、第2の上電極用リード電極96を形成する。例えば、本実施形態では、図16(d)に示すように、流路形成基板用ウェハ150の全面に亘って、例えば、チタンタングステン(TiW)からなる密着層97を形成し、この密着層97上の全面に、例えば、金(Au)等からなる金属層98を形成する。その後、マスクパターン(図示なし)を介して金属層98を各圧電素子300毎にパターニングし、さらに密着層97をエッチングによりパターニングすることによって第2の上電極用リード電極96が形成される。
【0162】
次いで、図17(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ150の圧電素子300側に、シリコンウェハであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハ160を接合する。なお、この保護基板用ウェハ160は、例えば、625μm程度の厚さを有するため、流路形成基板用ウェハ150の剛性は、保護基板用ウェハ160を接合することによって著しく向上することになる。
【0163】
次いで、図17(b)に示すように、本実施形態では、流路形成基板用ウェハ150をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ酸と硝酸の混合水溶液によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ150を所定の厚みにする。例えば、本実施形態では、約70μm厚になるように流路形成基板用ウェハ150をエッチング加工した。
【0164】
次いで、図17(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ150上に、例えば、窒化シリコンからなるマスク膜52Aを新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、このマスク膜52Aを介して流路形成基板用ウェハ150を異方性エッチングすることにより、流路形成基板用ウェハ150に圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。
【0165】
なお、その後は、流路形成基板用ウェハ150及び保護基板用ウェハ160の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ150の保護基板用ウェハ160とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ160にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ150等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとなる。
【0166】
(実施形態4)
図18は、実施形態4に係るインクジェット式記録ヘッドの断面図である。本実施形態は、実施形態3の構造において、実施形態2と同様、圧電素子300が第1の絶縁膜101と第2の絶縁膜101とからなる絶縁膜100Aによって覆われるようにした例である。すなわち、本実施形態では、図18に示すように、上電極用リード電極90Aは、第1の絶縁膜101上に延設され、第1の絶縁膜101の接続孔101aを介して上電極膜80と接続されている。また、上電極用リード電極90A及び圧電素子300を構成する各層のパターン領域は、上電極用リード電極90Aの接続部90aに対向する領域を除いて、第2の絶縁膜102によって覆われている。そして、この第1の絶縁膜101上にさらに第2の絶縁膜102が形成されて、圧電素子300がこれら第1の絶縁膜101及び第2の絶縁膜102によって覆われるようにした。また、第2の上電極用リード電極96は、この第2の絶縁膜102上に形成され、第2の絶縁膜101の開口部102aを介して第1の上電極用リード電極90Aと接続されている。
【0167】
このような構成では、圧電素子300が、第1の絶縁膜101及び第2の絶縁膜102の2層によって覆われ、圧電体層70の水分(湿気)との接触が防止されているため、圧電体層70の水分(湿気)に起因する破壊をさらに確実に防止することができる。
【0168】
(実施形態5)
図19は、実施形態5に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図20は、その平面図及び断面図である。
【0169】
本実施形態は、保護基板の流路形成基板との接合面側の一部に、圧電素子保持部内の水分を透過可能な材料からなる透湿部を設けた例である。そして、上電極用リード電極を流路形成基板の端部近傍まで延設して保護基板の外側で上電極用リード電極と駆動配線とを接続するようにし、保護基板には貫通部が設けられていない以外は、実施形態1と同様の構成である。
【0170】
詳細には、図19及び図20に示すように、保護基板30の流路形成基板10との接合面側の一部、具体的には、圧電素子保持部31周縁のリザーバ110側以外の領域の一部に、圧電素子保持部31内の水分を透過可能な材料からなる透湿部170が設けられている。例えば、この透湿部170は、接着層35を構成する接着剤よりも水分の透過性の高い接着剤からなる接着層36によって構成され、図20に示すように、本実施形態では、圧電素子保持部31のリザーバ110とは反対側の領域に設けられている。なお、この透湿部170(接着層36)は、保護基板30と流路形成基板10とを接合する役割も果たしている。
【0171】
このような透湿部170を設けることにより、圧電素子保持部31内に侵入した水分(湿気)は、この透湿部170を介して外部に排出される。したがって、圧電素子保持部31内が比較的低湿度に維持されるため、水分に起因する圧電素子300の破壊を防止することができる。具体的には、圧電素子保持部31内に隣接してリザーバ110が設けられているため、リザーバ110に貯留されているインクの水分が、圧電素子保持部31のリザーバ110側の領域の接着層35を介して圧電素子保持部31内に侵入してしまう。このため、圧電素子保持部31内の湿度が徐々に上昇し、圧電素子保持部31内の湿度は、85%程度まで上昇してしまう場合がある。接着層35を構成する接着剤として水分の浸透性の低いものを用いたとしても、このようなインクの水分の圧電素子保持部31内への侵入を完全に防ぐのは難しい。
【0172】
しかしながら、透湿部170を設けることにより、圧電素子保持部31のリザーバ110側の領域の接着層35を介して圧電素子保持部31内に水分が侵入した場合でも、圧電素子保持部31内が外部よりも高湿度になっていれば、圧電素子保持部31内の水分は透湿部170を介して外部に排出される。したがって、圧電素子保持部31内の湿度は常に外気の湿度以下に抑えられる。
【0173】
そして、圧電素子保持部31内に封止されている圧電素子300を構成する各層及び上電極用リード電極90の表面は、無機絶縁材料からなる絶縁膜100によって覆われているため、圧電素子保持部31内の湿度が外気の湿度程度に抑えられていれば、圧電素子が圧電素子保持部31内の水分(湿気)によって破壊されることはない。よって、圧電素子300の耐久性を著しく向上したインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
【0174】
以下、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。なお、図21は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。まず、実施形態1で説明したように、流路形成基板10上に、弾性膜50及び絶縁体膜55を形成し、この絶縁体膜55上に下電極60、圧電体層70及び上電極膜80からなる圧電素子300を形成する(図5(a)〜図6(a)参照)。
【0175】
次に、図21(a)に示すように、密着層91及び金属層92を順次積層し、これら密着層91及び金属層92をパターニングすることにより上電極用リード電極90を形成する。次いで、図21(b)に示すように、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)からなる絶縁膜100を形成する。
【0176】
次に、図21(c)に示すように、流路形成基板10の圧電素子300側に保護基板30を、接着層35を介して接合すると共に、透湿部170を形成する。すなわち、保護基板30の圧電素子保持部31周縁のリザーバ部32とは反対側の領域を除いて接着層35を形成すると共に、リザーバ部32とは反対側の領域に、接着層35よりも水分の透過性の高い接着層36を形成する。そして、これら接着層35,36を介して保護基板30と流路形成基板10とを接合する。これにより、圧電素子保持部31のリザーバ110とは反対側の領域には、同時に、接着層36からなる透湿部170が形成される。
【0177】
そして、図21(d)に示すように、所定形状にパターニングしたマスク膜51を介して流路形成基板10を異方性エッチングすることにより圧力発生室12等を形成する。
【0178】
(実施形態6)
図22は、実施形態6に係るインクジェット式記録ヘッドの側面図である。本実施形態は、圧力発生室12の列の両端部外側に対応する領域の保護基板30に透湿部170Aを設けるようにした例である。すなわち、本実施形態では、第22図に示すように、圧力発生室12の列の両端部外側に対応する領域の保護基板30には、保護基板30の一部をハーフエッチングにより除去した凹部34が形成されている。そして、この凹部34をポッティング材で封止することによって透湿部170Aが形成されている。
【0179】
このような構成としても、実施形態5と同様に、圧電素子保持部31内の水分が透湿部170Aを介して外部に排出され、圧電素子保持部31内の湿度は、外部の湿度と同程度に維持される。したがって、水分に起因する圧電素子300の破壊を長期に渡って防止することができる。
【0180】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1〜4では、圧電素子が保護基板の圧電素子保持部内に形成されているが、これに限定されず、勿論、圧電素子は露出されていてもよい。この場合でも、圧電素子及び上電極用リード電極等の表面は、無機絶縁材料からなる絶縁膜によって覆われているため、水分(湿気)に起因する圧電体層の破壊は、確実に防止される。また、例えば、実施形態5又は6では、透湿部170を保護基板30の流路形成基板10との接合面に設けるようにしたが、これに限定されず、例えば、保護基板30の上面等に圧電素子保持部31に連通する連通孔を設け、この連通孔を、水分の透過性の高い接着剤等の有機材料で封止することによって透湿部を形成するようにしてもよい。
【0181】
また、上述した実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図23は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図23に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0182】
また、上述した実施形態においては、本発明の液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを説明したが、液体噴射ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。本発明は、広く液体噴射ヘッドの全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射するものにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録へッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0183】
10 流路形成基板、12 圧力発生室、20 ノズルプレート、21 ノズル開口、30 保護基板、31 圧電素子保持部、32 リザーバ部、33 貫通孔、35 接着剤、40 コンプライアンス基板、50 弾性膜、55 絶縁体膜、60 下電極膜、70 圧電体層、80 上電極膜、90,90A 上電極用リード電極、90a 接続部、100 絶縁膜、110 リザーバ、120 駆動IC、130 接続配線、140 封止材、300 圧電素子、330 圧電体非能動部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置に関し、特に、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電素子を形成して、圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0005】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものがある。また、このような圧電素子は、例えば、湿気等の外部環境に起因して破壊され易いという問題がある。この問題を解決するために、圧力発生室が形成される流路形成基板に、圧電素子保持部を有する封止基板(リザーバ形成基板)を接合し、この圧電素子保持部内に圧電素子を密封するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、このように圧電素子を密封しても、例えば、封止基板と流路形成基板との接着部分から圧電素子保持部内に水分が入り込むこと等により、圧電素子保持部内の湿気が徐々に上昇し、最終的にはこの湿気により圧電素子が破壊されてしまうという問題がある。
【0007】
また、外部環境に起因して圧電素子が破壊され易いという問題を解決するために、圧電素子を構成する上電極の上面の少なくとも周縁及び圧電体層の側面を覆うように、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、有機材料、好ましくは感光性ポリイミドからなる薄い絶縁体層を設け、この絶縁体層上に、導電パターン(リード電極)が形成されたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
このような構成とすることで、圧電素子への水分の浸透は、ある程度は防止することはできるかもしれないが、例えば、導電パターンが露出されているため、導電パターンと上電極との接続部である窓から水分が透過してしまう虞があり、圧電素子の水分に起因する破壊を完全に防止できないという問題がある。
【0009】
さらに、外部環境に起因して圧電素子が破壊され易いという問題を解決するために、圧電素子全体を圧電体層のヤング率より小さい有機材料、例えば、ポリイミド等からなる保護膜で覆ったものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この構造によれば、圧電素子の破壊を防止することはできるが、上記材料からなる保護膜の応力は、通常、引張り応力となるため、このような保護膜で圧電素子を覆った構造においては、圧電素子(圧電体層)に対して圧縮方向の力が作用し、圧電素子の駆動による振動板の変位量が低下してしまうという問題がある。また、有機材料からなる保護膜はかなりの厚みを有しないと水分透過を防ぐことができないが、厚みを有するということは圧電素子の駆動を阻害する大きな原因となる虞がある。
【0010】
なお、このような何れの問題も、インク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、勿論、インク以外の液滴を吐出する他の液体噴射ヘッドにおいても、同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−136734号公報(第1図、第2図、第5頁)
【特許文献2】特開平10−226071号公報(第2図、段落[0015])
【特許文献3】特開2003−110160号公報(特許請求の範囲、第5図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような事情に鑑み、圧電素子の破壊を長期間に亘って確実に防止することができ液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供することを課題とする。さらには、圧電素子の駆動による振動板の変位量の低下を有効に防止することができる液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備し、少なくとも前記圧電素子を構成する各層のパターン領域が、無機絶縁材料からなる絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0014】
かかる第1の態様では、水分透過率の低い無機絶縁材料からなる絶縁膜によって圧電体層が覆われるため、圧電素子の駆動に多大な支障をきたすことなく、水分(湿気)等の外部環境に起因する圧電体層(圧電素子)の劣化(破壊)が長期に亘って確実に防止される。
【0015】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記絶縁膜がアモルファス材料からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0016】
かかる第2の態様では、水分透過率が低い絶縁膜を形成でき、絶縁膜を比較的薄く形成しても水分等の外部環境に起因する圧電素子の破壊を確実に防止できる。
【0017】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記アモルファス材料が、酸化アルミニウム(Al2O3)であることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0018】
かかる第3の態様では、無機絶縁材料の中でも特に水分透過率の極めて低いAl2O3からなる絶縁膜によって圧電素子が覆われるため、圧電素子の駆動に多大な支障をきたすことなく、水分等の外部環境に起因する圧電素子の破壊が確実に防止される。
【0019】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記絶縁膜の膜厚が30〜150[nm]であることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0020】
かかる第4の態様では、圧電素子の変位を確保しつつ、水分等の外部環境に起因する圧電素子の破壊を確実に防止することができる。
【0021】
本発明の第5の態様は、第3又は4の態様において、前記絶縁膜の膜密度が、3.08〜3.25[g/cm3]であることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0022】
かかる第5の態様では、絶縁膜の密着性を向上して水分等の外部環境に起因する圧電素子の破壊を確実に防止することができ、且つ圧電素子の変位も確保することができる。
【0023】
本発明の第6の態様は、第3〜5の何れかの態様において、前記絶縁膜のヤング率が170〜200[GPa]であることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0024】
かかる第6の態様では、水分等の外部環境に起因する圧電素子の破壊を防止でき、且つ圧電素子の変位も確保できる。
【0025】
本発明の第7の態様は、第3〜6の何れかの態様において、前記第上電極用リード電極が、アルミニウムを主成分とする材料からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0026】
かかる第7の態様では、リード電極と絶縁膜との密着性が向上し、圧電体層への水分透過率を更に低下させることができ、例えば、リード電極の断線、あるいは駆動配線との接続不良等の発生を防止できる。
【0027】
本発明の第8の態様は、第1〜7の何れかの態様において、前記絶縁膜の応力と前記上電極の応力との和が圧縮応力となっていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0028】
かかる第8の態様では、圧電素子が絶縁膜によって覆われているため、水分(湿気)等の外部環境に起因する圧電体層(圧電素子)の劣化(破壊)が長期に渡って確実に防止される。また、絶縁膜及び上電極の応力の和が圧縮応力であるため、振動板の撓み量が低減され、振動板の変位量の低下が有効に防止される。
【0029】
本発明の第9の態様は、第8の態様において、前記絶縁膜及び前記上電極のそれぞれの応力が圧縮応力となっていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0030】
かかる第9の態様では、絶縁膜及び上電極の応力の和を比較的容易に圧縮応力とすることができる。
【0031】
本発明の第10の態様は、第9の態様において、前記上電極は、少なくともIrからなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0032】
かかる第10の態様では、上電極の材料に少なくともIrを用いることにより、上電極の応力が圧縮応力となる。
【0033】
本発明の第11の態様は、第8の態様において、前記絶縁膜の応力が圧縮応力となっており、且つ前記上電極の応力が引張り応力となっていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0034】
かかる第11の態様では、絶縁膜及び上電極の応力の和が圧縮応力であるため、振動板の撓み量が低減され、振動板の変位量の低下が有効に防止される。
【0035】
本発明の第12の態様は、第11の態様において、前記上電極は、少なくともPtからなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0036】
かかる第12の態様では、上電極の材料に少なくともPtを用いることにより、上電極の応力が引張り応力となる。
【0037】
本発明の第13の態様は、第11又は12の態様において、前記上電極及び前記絶縁膜の応力σがヤング率Y、歪ε、膜厚mの積(ε×Y×m)で表され、前記上電極の応力σ1と前記絶縁膜の応力σ2との関係が|σ1|<|σ2|の条件を満たしていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0038】
かかる第13の態様では、絶縁膜及び上電極の応力の和が圧縮応力であるため、振動板の撓み量が低減され、振動板の変位量の低下が有効に防止される。
【0039】
本発明の第14の態様は、第1〜13の何れかの態様において、前記上電極から引き出される上電極用リード電極をさらに有し、少なくとも前記圧電素子を構成する各層及び前記上電極用リード電極のパターン領域が、前記下電極及び前記上電極用リード電極の接続配線との接続部に対向する領域を除いて、前記絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0040】
かかる第14の態様では、水分透過率の低い無機絶縁材料からなる絶縁膜によって圧電素子と共に上電極リード電極のパターン領域が覆われるため、水分(湿気)に起因する圧電体層(圧電素子)の劣化(破壊)がより長期に渡って防止することができる。
【0041】
本発明の第15の態様は、第14の態様において、前記下電極から引き出される下電極用リード電極を具備して該下電極用リード電極を介して前記下電極が前記接続配線と接続され、前記下電極用リード電極を含む前記パターン領域が、前記上電極用リード電極及び前記下電極用リード電極の前記接続配線に対向する領域を除いて、前記絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0042】
かかる第15の態様では、下電極用リード電極が無機絶縁材料からなる絶縁膜で覆われるため、圧電素子への水分透過がより確実に防止される。
【0043】
本発明の第16の態様は、第14又は15の態様において、前記上電極と前記上電極用リード電極とが別材料からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0044】
かかる第16の態様では、上電極と上電極用リード電極とが別プロセスで形成されるため、上電極の膜厚を容易に薄くすることができる。また、上電極の膜厚を薄くすることで、圧電体層の変位量が増加する。
【0045】
本発明の第17の態様は、第1〜16の何れの態様において、前記圧電素子を構成する前記圧電体層及び前記上電極が前記圧力発生室に対向する領域からその外側まで延設されて圧電体非能動部が形成され、前記上電極用リード電極の前記上電極側の端部が、前記圧電体非能動部上で且つ前記圧力発生室の外側に位置していることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0046】
かかる第17の態様では、圧電素子を駆動した際、圧力発生室の端部に対向する領域に不連続な応力が発生することにより、圧電素子にクラック等が発生するのを防止できる。
【0047】
本発明の第18の態様は、第1〜17の何れかの態様において、前記接続配線が接続された状態で、前記接続部が有機絶縁材料からなる封止材によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0048】
かかる第18の態様では、露出部からの水分の浸透が防止されるため、圧電体層の破壊がさらに確実に防止される。
【0049】
本発明の第19の態様は、第14〜18の何れかの態様において、前記絶縁膜が、第1の絶縁膜と第2の絶縁膜とを含み、前記圧電素子が前記上電極用リード電極との接続部を除いて前記第1の絶縁膜によって覆われ、且つ前記上電極用リード電極が前記第1の絶縁膜上に延設されると共に少なくとも前記圧電素子を構成する各層及び前記上電極用リード電極のパターン領域が、前記接続部に対向する領域を除いて前記第2の絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0050】
かかる第19の態様では、第1及び第2の絶縁膜によって圧電体層への水分の浸透が確実に防止され、水分(湿気)に起因する圧電体層(圧電素子)の劣化(破壊)が長期に亘って防止される。
【0051】
本発明の第20の態様は、第14〜19の何れかの態様において、前記接続配線が、前記上電極用リード電極から引き出される第2の上電極用リード電極を含み、該第2の上電極用リード電極が前記絶縁膜上に延設されて前記接続部で前記上電極用リード電極に接続されると共に当該第2の上電極用リード電極の先端部側に駆動配線が接続される端子部を有することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0052】
かかる第20の態様では、水分透過率の低い無機絶縁材料からなる絶縁膜によって圧電体層が覆われ、且つ絶縁膜が端子部の下側まで連続的に設けられているため、絶縁膜の下側に水分(湿気)が侵入しても、水分が圧電体層と接触するのをより確実に防止することができる。したがって、水分に起因する圧電体層(圧電素子)の劣化(破壊)を長期に亘って確実に防止することができる。
【0053】
本発明の第21の態様は、第14〜20の何れかの態様において、前記圧電素子を構成する前記圧電体層及び前記上電極が前記圧力発生室に対向する領域からその外側まで延設されて圧電体非能動部が形成され、前記上電極に接続される前記上電極用リード電極の当該上電極側の端部が、前記圧電体非能動部上で且つ前記圧力発生室の外側に位置していることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0054】
かかる第21の態様では、圧電素子を駆動した際、圧力発生室の端部に対向する領域の圧電素子に不連続な応力が発生することによって、圧電素子にクラック等が発生するのを防止できる。
【0055】
本発明の第22の態様は、第14〜21の何れかの態様において、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面には、当該圧電素子を保護する空間である圧電素子保持部を有する保護基板が接合され、前記上電極用リード電極の前記接続部が、前記圧電素子保持部の外側に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0056】
かかる第22の態様では、圧電素子保持部の外側に接続部を設けて保護基板を絶縁膜上に接着することで、保護基板の接着強度が向上する。
【0057】
本発明の第23の態様は、第1〜22の何れかの態様において、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面には、当該圧電素子を保護する空間である圧電素子保持部を有する保護基板が接合され、該保護基板が前記圧力発生室に供給される液体の流路を具備して前記圧電素子保持部の前記流路側の前記接着層が前記流路内に露出されており、前記圧電素子保持部の前記流路側以外の領域に当該圧電素子保持部内の水分を透過する透湿部が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0058】
かかる第23の態様では、流路から接着層を介して圧電素子保持部内に侵入した水分(湿気)が透湿部を介して外部に排出されるため、圧電素子保持部内は少なくとも外気と同程度の湿度に維持される。そして、圧電素子は絶縁膜によって覆われているため、圧電素子保持部内が外気と同程度の湿度に維持されていれば、水分(湿気)に起因する圧電素子の破壊は防止される。
【0059】
本発明の第24の態様は、第23の態様において、前記透湿部が、有機材料からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0060】
かかる第24の態様では、水分の透過性の高い材料である有機材料で透湿部を形成することで、圧電素子保持部内の水分が良好に排出される。
【0061】
本発明の第25の態様は、第23又は24の態様において、前記透湿部が前記保護基板の前記流路形成基板との接合面の一部に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0062】
かかる第25の態様では、透湿部を比較的容易に形成することができる。
【0063】
本発明の第26の態様は、第23又は24の態様において、前記透湿部が、前記保護基板の上面に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0064】
かかる第26の態様では、透湿部を比較的容易に形成することができる。
【0065】
本発明の第27の態様は、第25又は26の態様において、前記透湿部が、前記接着層を構成する接着剤よりも水分の透過性の高い接着剤からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0066】
かかる第27の態様では、流路形成基板と保護基板とが接着層と共に透湿部によって接着され、接合強度が向上する。
【0067】
本発明の第28の態様は、第23〜26の何れかの態様において、前記透湿部が、ポッティング材からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0068】
かかる第28の態様では、透湿部を容易に形成することができ、且つ水分の透過性の高い透湿部が形成される。
【0069】
本発明の第29の態様は、第23〜28の何れかの態様において、前記透湿部が、前記圧電素子保持部の前記流路とは反対側の領域に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0070】
かかる第29の態様では、流路内の水分が透湿部を介して侵入することがなく、圧電素子保持部内の水分が透湿部を介して良好に排出される。
【0071】
本発明の第30の態様は、第23又は24の態様において、前記透湿部が、前記圧力発生室の列の両端部外側に対応する領域の前記保護基板に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0072】
かかる第30の態様では、水分に起因する圧電素子の破壊を長期に亘って防止することができる。
【0073】
本発明の第31の態様は、第1〜30の何れかの態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【0074】
かかる第31の態様では、耐久性及び信頼性を向上した液体噴射装置が実現される。
【0075】
本発明の第32の態様は、液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室が形成される流路形成基板の一方面側に振動板を介して下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子を形成する工程と、当該圧電素子の前記上電極から引き出される上電極用リード電極を形成する工程と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の全面に無機絶縁材料からなる絶縁膜を形成する工程と、少なくとも前記下電極及び前記上電極用リード電極の接続配線との接続部を露出させ且つ該接続部を除く前記圧電素子を構成する各層及び前記上電極用リード電極のパターン領域の前記絶縁膜を残すように当該絶縁膜をパターニングする工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0076】
かかる第32の態様では、圧電素子及び上電極用リード電極のパターン領域に、接続部を除いて絶縁膜を良好に形成できる。
【0077】
本発明の第33の態様は、第32の態様において、前記絶縁膜をパターニングする工程では、所定領域の前記絶縁膜をイオンミリングによって除去することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0078】
かかる第33の態様では、絶縁膜を寸法精度よく、良好に除去することができる。
【0079】
本発明の第34の態様は、第32又は33の態様において、前記絶縁膜をパターニングする工程の後に、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に当該圧電素子を保護する圧電素子保持部及び前記圧力発生室に供給される液体の流路を有する保護基板を接合する工程をさらに有し、且つ該保護基板を接合する工程では、前記圧電素子保持部周縁の前記流路側を除く領域の一部に空間部を残して前記保護基板に接着剤を塗布して当該保護基板と前記流路形成基板とを接合すると共に、前記空間部を前記接着剤よりも水分の透過率の高い材料で封止して前記圧電素子保持部内の水分を透過する透湿部を形成することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0080】
かかる第34の態様では、製造工程を煩雑化することなく、透湿部を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの要部を示す平面図及び断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの変形例を示す平面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】実施形態2に係る記録ヘッドの概略斜視図である。
【図8】実施形態2に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図9】実施形態2に係る記録ヘッドの要部を示す平面図である。
【図10】実施形態2に係る記録ヘッドの要部を示す平面図である。
【図11】実施形態2に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図12】実施形態3に係る記録ヘッドの概略斜視図である。
【図13】実施形態3に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図14】実施形態3に係る記録ヘッドの要部を示す平面図である。
【図15】実施形態3に係る記録ヘッドの変形例を示す平面図である。
【図16】実施形態3に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図17】実施形態3に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図18】実施形態4に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図19】実施形態5に係る記録ヘッドの概略斜視図である。
【図20】実施形態5に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図21】実施形態5に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図22】実施形態6に係る記録ヘッドの側面図である。
【図23】一実施形態に係る記録装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0082】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0083】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及び断面図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。なお、連通部13は、後述する保護基板のリザーバ部と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0084】
また、流路形成基板10の開口面側には、圧力発生室12を形成する際のマスクとして用いられた絶縁膜51を介して、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.01〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0085】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、厚さが例えば約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、厚さが例えば、約0.4μmの絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1.0μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
【0086】
例えば、本実施形態では、図2及び図3に示すように、下電極膜60は、圧力発生室12の長手方向では圧力発生室12に対向する領域内に形成され、複数の圧力発生室12に対応する領域に連続的に設けられている。また、下電極膜60は、圧力発生室12の列の外側、及び列設された圧電素子300の間から連通部13近傍まで延設され、それらの先端部は、後述する駆動配線130が接続される接続部60aとなっている。圧電体層70及び上電極膜80は、基本的には圧力発生室12に対向する領域内に設けられているが、圧力発生室12の長手方向では、下電極膜60の端部よりも外側まで延設されており、下電極膜60の端面は圧電体層70によって覆われている。そして、圧力発生室12の長手方向端部近傍には、圧電体層を有するが実質的に駆動されない圧電体非能動部330が形成されている。また、上電極膜80の一端部近傍には上電極用リード電極90が接続されている。この上電極用リード電極90は、本実施形態では、圧力発生室12の外側の圧電体非能動部330上から連通部13近傍まで延設されており、その先端部は、下電極膜60と同様に、駆動配線130が接続される接続部90aとなっている。
【0087】
そして、本発明では、少なくとも圧電素子300を構成する各層のパターン領域が、無機絶縁材料からなる絶縁膜100によって覆われている。本実施形態では、圧電素子300を構成する各層及び上電極用リード電極90のパターン領域が、下電極膜60の接続部60a及び上電極用リード電極90の接続部90aに対向する領域を除いて、絶縁膜100によって覆われている。すなわち、パターン領域の下電極膜60、圧電体層70、上電極膜80及び上電極用リード電極90の表面(上面及び端面)が、無機絶縁材料からなる絶縁膜100によって覆われている。
【0088】
このような無機絶縁材料からなる絶縁膜100は、薄膜でも水分の透過性が極めて低いため、少なくとも下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80の表面、本実施形態では、さらに上電極用リード電極90の表面をこの絶縁膜100にで覆うことにより、圧電体層70の水分(湿気)に起因する破壊を防止することができる。また、接続部60a,90aを除いて、圧電素子300を構成する各層及び上電極用リード電極90の表面を覆うようにすることで、これらの層と絶縁膜100との間から水分が侵入した場合でも、圧電体層70まで水分が達するのを防ぐことができ、圧電体層70の水分に起因する破壊をより確実に防止することができる。
【0089】
絶縁膜100の材料としては、無機絶縁材料であれば、特に限定されず、例えば、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化タンタル(TaOx)等が挙げられるが、特に、無機アモルファス材料である、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)を用いるのが好ましい。
【0090】
また、酸化アルミニウムからなる絶縁膜100を形成した場合、絶縁膜100の厚さは30〜150[nm]程度であることが好ましく、好適には100[nm]程度である。このように絶縁膜100の材料として、酸化アルミニウムを用いた場合、絶縁膜100が100[nm]程度の薄膜で形成されていても、高湿度環境下での水分透過を十分に防ぐことができる。なお、絶縁膜の材料として、例えば、樹脂等の有機絶縁材料を用いる場合、上記無機絶縁材料からなる絶縁膜と同程度の薄さでは、水分透過を十分に防ぐことができない。また、水分透過を防ぐために絶縁膜の膜厚を厚くすると、圧電素子の変位を妨げるという事態を招く虞がある。
【0091】
また、酸化アルミニウムからなる絶縁膜100の膜密度は3.08〜3.25[g/cm3]であることが好ましい。さらに、絶縁膜100のヤング率は170〜200[GPa]であることが好ましい。このような特性を有する絶縁膜100で圧電素子300等を覆うようにすることで、圧電素子300の変位を妨げることなく、高湿度環境下での水分透過をより確実に防止することができる。なお、絶縁膜100は、例えば、CVD法等によって形成される。そして、絶縁膜100を形成する際に、例えば、温度、ガス流量等の各種条件を適宜調整することで、所望の特性、例えば、膜密度、ヤング率等を有する絶縁膜100を比較的容易に形成することができる。
【0092】
また、このような絶縁膜100の応力と上電極膜80の応力との和、すなわち、上電極膜80とこの上電極膜80の面上に形成される絶縁膜100との応力の和は、圧縮応力となっていることが好ましい。なお、絶縁膜100及び上電極膜80の応力とは、膜の内部応力(膜応力)のことであり、上電極膜80及び絶縁膜100の応力σは、ヤング率Y、歪ε、膜厚mの積(ε×Y×m)で表される。
【0093】
ここで、圧力発生室12に対向する領域に位置する圧電素子300は、後述する製造プロセスにおいて、圧力発生室12を形成する前後で内部応力が変化する。具体的には、圧電素子300を形成した後に、圧電素子300の下方に圧力発生室12を形成すると、その際、圧電体層70の引張り方向の内部応力が緩和されて、振動板が圧力発生室側に撓む方向(圧縮方向)に力が作用する。しかしながら、無機絶縁材料からなる絶縁膜100によって圧電素子300を覆うと共に、絶縁膜100の応力と上電極膜80の応力との和が圧縮応力となるようにすることにより、圧力発生室12を形成した後は、絶縁膜100及び上電極膜80の応力(圧縮応力)が解放されて、圧電素子300(圧電体層70)には引張り方向の力が作用することになる。これにより、水分等の外部環境に起因する圧電体層70の破壊を確実に防止しつつ、圧電素子300の駆動による振動板の変位量の低下を有効に防止することができる。
【0094】
また、このような絶縁膜100の応力と上電極膜80の応力とは、例えば、絶縁膜100及び上電極膜80のそれぞれの応力が圧縮応力となっていてもよい。また、絶縁膜100の応力が圧縮応力となっており且つ上電極膜80の応力が引張り応力となっていてもよく、この場合には、上電極膜80の応力σ1と絶縁膜100の応力σ2との関係が|σ1|<|σ2|の条件を満たす。
【0095】
なお、本実施形態では、連通部13近傍まで延設された下電極膜60の先端部が駆動配線130との接続部60aとなっているが、例えば、図4に示すように、下電極膜60に電気的に接続される下電極用リード電極95を、列設された圧電素子300の外側、及び圧電素子300同士の間から連通部13近傍まで延設し、この下電極用リード電極95の先端部を駆動配線130との接続部95aとしてもよい。そして、この場合には、上電極用リード電極90の接続部90a及び下電極用リード電極95の接続部95aに対向する領域を除くパターン領域を無機絶縁材料からなる絶縁膜100で覆うようにする。
【0096】
また、流路形成基板10上の圧電素子300側の面には、圧電素子300に対向する領域にその運動を阻害しない程度の空間を確保可能な圧電素子保持部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。圧電素子300は、この圧電素子保持部31内に形成されているため、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。さらに、保護基板30には、流路形成基板10の連通部13に対応する領域にリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の並設方向に沿って設けられており、上述したように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ110を構成している。
【0097】
また、保護基板30の圧電素子保持部31とリザーバ部32との間の領域には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられ、この貫通孔33内に上述した下電極膜60の接続部60a及び上電極用リード電極90の接続部90aが露出されている。そして、これら下電極膜60の接続部60a及び上電極用リード電極90の接続部90aに、保護基板30上に実装された駆動IC120と圧電素子300とを電気的に接続するための接続配線を構成する駆動配線130が接続されている。例えば、本実施形態では、この駆動配線130は、ボンディングワイヤからなり、貫通孔33内に延設されて下電極膜60の接続部60a及び上電極用リード電極90の接続部90aと駆動IC120とを電気的に接続している。なお、駆動配線130が延設された貫通孔33には、有機絶縁材料、例えば、本実施形態では、ポッティング材である封止材140が充填されており、下電極膜60の接続部60a及び上電極用リード電極90の接続部90aと駆動配線130とは、この封止材140によって完全に覆われている。
【0098】
保護基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0099】
また、保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ110に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ110の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0100】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ110からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動IC120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0101】
ここで、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図5及び図6を参照して説明する。なお、図5及び図6は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。まず、図5(a)に示すように、シリコン単結晶基板である流路形成基板10を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、流路形成基板10の表面に弾性膜50及びマスク膜51を構成する二酸化シリコン膜52を形成する。次いで、図5(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜52)上に、ジルコニウム(Zr)層を形成後、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化して酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55を形成する。次いで、図5(c)に示すように、例えば、白金とイリジウムとを絶縁体膜55上に積層することにより下電極膜60を形成後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。
【0102】
次に、図5(d)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる上電極膜80とを流路形成基板10の全面に形成する。次いで、図6(a)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。
【0103】
なお、圧電素子300を構成する圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料の他に、例えば、強誘電性圧電性材料にニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。その組成は、圧電素子300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO3(PT)、PbZrO3(PZ)、Pb(ZrxTi1-x)O3(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PIN−PT)、Pb(Sc1/3Ta1/2)O3−PbTiO3(PST−PT)、Pb(Sc1/3Nb1/2)O3−PbTiO3(PSN−PT)、BiScO3−PbTiO3(BS−PT)、BiYbO3−PbTiO3(BY−PT)等が挙げられる。
【0104】
次に、上電極用リード電極90を形成する。具体的には、図6(b)に示すように、流路形成基板10の全面に亘って、例えば、チタンタングステン(TiW)からなる密着層91を形成し、この密着層91上の全面に、例えば、金(Au)等からなる金属層92を形成する。その後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して金属層92を各圧電素子300毎にパターニングし、さらに密着層91をエッチングによりパターニングすることで上電極用リード電極90が形成される。なお、密着層91は、その端面が金属層92の端面と同じ若しくはそれよりも外側に位置するようにエッチングするのが好ましい。
【0105】
次に、図6(c)に示すように、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)からなる絶縁膜100を形成すると共に所定形状にパターニングする。すなわち、絶縁膜100を流路形成基板10の全面に形成し、その後、下電極膜60の接続部60a及び上電極用リード電極90の接続部90aに対向する領域の絶縁膜100を除去する。なお、本実施形態では、接続部60a,90aに対向する領域と共に、圧電素子300を構成する各層及び上電極用リード電極90のパターン領域以外も除去するようにしている。勿論、絶縁膜100は、接続部60a,90aに対向する領域のみが除去されていてもよい。何れにしても、絶縁膜100は、下電極膜60の接続部60a及び上電極用リード電極90の接続部90aを除いて、圧電素子300を構成する各層及び上電極用リード電極90のパターン領域を覆うように形成されていればよい。また、絶縁膜100の除去方法は、特に限定されないが、例えば、イオンミリング等のドライエッチングを用いることが好ましい。これにより、絶縁膜100を寸法精度良く、良好に除去することができる。
【0106】
次いで、図6(d)に示すように、流路形成基板10の圧電素子300側に保護基板30を接着剤35によって接合し、所定形状にパターニングしたマスク膜51を介して流路形成基板10を異方性エッチングすることにより圧力発生室12等を形成する。そして、弾性膜50及び絶縁体膜55を、例えば、機械的に除去して連通部13とリザーバ部32とを連通させる。
【0107】
なお、実際には、上述した一連の膜形成及び異方性エッチングによって一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、第1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割する。その後は、流路形成基板10にマスク膜51を介してノズルプレート20を接合し、保護基板30上に駆動IC120を実装すると共にコンプライアンス基板40を接合する。さらに、ワイヤボンディングすることによって、駆動IC120と下電極膜60及び上電極用リード電極90の接続部60a,90aとの間に駆動配線130を形成し、この接続部60a,90aと駆動配線130とを封止材140で覆うことにより本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとなる。
【0108】
(試験例1)
ここで、下記実施例1〜3及び比較例1〜3のインクジェット式記録ヘッドを作製し、圧電素子へのDC通電試験を行った。この試験条件及び試験結果を、下記表1に示す。
【実施例1】
【0109】
下電極膜及び上電極用リード電極の接続部を除いて、圧電素子を構成する各層及び上電極用リード電極のパターン領域を覆うように、無機絶縁材料である酸化アルミニウムからなる絶縁膜を厚さ約50nmで形成したものを実施例1のインクジェット式記録ヘッドとした。
【実施例2】
【0110】
絶縁膜の厚さを約100nmとした以外は、実施例1と同様の構成としたものを実施例2のインクジェット式記録ヘッドとした。
【実施例3】
【0111】
絶縁膜の材料として、酸化アルミニウムの代わりに酸化タンタルを用い、その厚さを約200nmとした以外は、実施例1と同様の構成としたものを実施例3のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0112】
(比較例1)
絶縁膜の材料として、シリコーンオイル(ダイキン工業社製)を用い、この絶縁膜を下電極膜及び上電極用リード電極の接続部を除いて、圧電素子及び上電極用リード電極の表面が完全に覆われるように塗布した以外は、実施例1と同様の構成としたものを比較例1のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0113】
(比較例2)
絶縁膜の材料として、ウレタン系防湿剤(日立化成工業社製)を用いた以外は、比較例1と同様の構成としたものを比較例2のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0114】
(比較例3)
絶縁膜を形成していない以外は、実施例1と同様の構成としたものを比較例3のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0115】
【表1】
【0116】
上記表1に示すように、実施例1〜3の無機絶縁材料からなる絶縁膜を有するインクジェット式記録ヘッドでは、湿度40%Rhの環境下で150時間以上経過しても、破壊されたセグメント(圧電素子)はなく、歩留まりは100%であった。特に、実施例2の酸化アルミニウムを用いた場合は、湿度85%Rhという極めて厳しい条件であるにもかかわらず、250時間経過しても破壊されるセグメント(圧電素子)はなかった。これに対し、無機絶縁材料以外の材料からなる絶縁膜を有する若しくは絶縁膜が形成されていない比較例1〜3のインクジェット式記録ヘッドでは、湿度40%Rhの環境下で、4時間が経過した時点で既に一部のセグメントが破壊されてしまっており、上記無機絶縁材料からなる絶縁膜に比べ、水分を透過しやすいことが実験から分かった。
【0117】
よって、無機絶縁材料以外の材料からなる絶縁膜を用いるとなると、上記無機絶縁材料からなる絶縁膜程度の薄膜状態では、水分透過を十分に防ぐことができない。また、水分透過を防ぐために十分な膜厚を要するとなると圧電素子300の駆動を妨げるという事態を招く虞があるので、圧電素子300の駆動を十分に確保するためには、圧電素子300を比較的大きくすることが求められてインクジェット式記録ヘッドが大型化してしまう。
【0118】
この結果からも明らかなように、本発明の構成によれば、ヘッドの大型化を招来せずに、湿度(水分)に起因する圧電素子の破壊を確実に防止することができ、ヘッドの耐久性を著しく向上することができる。
【0119】
(試験例2)
以下に示す実施例4〜6及び比較例4のインクジェット式記録ヘッドを作製し、振動板の変位量を比較する試験を行った。また、下記表2には、実施例4〜6及び比較例4のインクジェット式記録ヘッドの上電極膜及び絶縁膜の材料、膜厚、膜応力を示す。また、下記表3には、上電極膜及び絶縁膜を形成する材料の物性データ(ヤング率、応力)を示す。なお、表2及び表3では、圧縮応力の値をマイナス(−)、引張り応力の値をプラス(+)として示した。
【実施例4】
【0120】
下記表2に示すように、イリジウムからなる厚さ約50nmの上電極膜を形成し、その上電極膜を有する圧電素子を覆うように、酸化アルミニウムからなる絶縁膜を厚さ約100nmで形成したものを実施例4のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0121】
ここで、下記表2及び表3に示すように、イリジウムからなる膜は圧縮応力となり、酸化アルミニウムからなる膜は圧縮応力となる。このため、実施例4のインクジェット式記録ヘッドでは、上電極膜の応力及び絶縁膜の応力は圧縮応力となっており、両者の和も圧縮応力となっている。
【実施例5】
【0122】
上電極膜の材料に白金を用いた以外は、実施例4と同様の構成としたものを実施例5のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0123】
ここで、下記表2及び表3に示すように、白金からなる膜は引張り応力となり、酸化アルミニウムからなる膜は圧縮応力となる。このため、実施例5のインクジェット式記録ヘッドでは、絶縁膜の応力が圧縮応力となり、上電極膜の応力の引張り応力となるが、上電極膜の応力σ1と絶縁膜の応力σ2との関係が|σ1|<|σ2|を満たしているため、上電極膜の応力と絶縁膜の応力との和は圧縮応力となっている。
【実施例6】
【0124】
上電極膜を厚さ約100nmで形成した以外は、実施例5と同様の構成としたものを実施例6のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0125】
ここで、実施例6のインクジェット式記録ヘッドでは、実施例5と同様に、絶縁膜の応力が圧縮応力となり、上電極膜の応力が引張り応力となるが、上電極膜の応力と絶縁膜の応力との和は圧縮応力となっている。
【0126】
(比較例4)
絶縁膜を形成しない以外は、実施例6と同様の構成としたものを比較例4のインクジェット式記録ヘッドとした。
【0127】
ここで、下記表2及び表3に示すように、白金からなる膜は引張り応力となる。このため、比較例4のインクジェット式記録ヘッドでは、上電極膜の応力が引張り応力となり、絶縁膜の応力をニュートラルと考えると、上電極膜の応力と絶縁膜の応力との和が引張り応力となっている。
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
上記表2の結果から分かるように、絶縁膜の応力と上電極膜の応力との和が圧縮応力となっている実施例4〜6の各インクジェット式記録ヘッドは、絶縁膜の応力と上電極膜の応力との和が引張り応力となっている比較例4のインクジェット式記録ヘッドと比べて、圧電素子の駆動による振動板の変位量は大きかった。この結果から明らかなように、絶縁膜の応力と上電極膜の応力との和を圧縮応力とすることにより、圧電素子の駆動による振動板の変位量の低下を防止することができる。
【0131】
また、実施例4のインクジェット式記録ヘッドは、実施例5のインクジェット式記録ヘッドと比べて、絶縁膜の応力と上電極膜の応力との和の圧縮応力が大きくなっているが、実施例5のインクジェット式記録ヘッドは、実施例4のインクジェット式記録ヘッドと比べて、圧電素子(振動板)の変位量は大きかった。これは、実施例5の上電極膜は、上記表2及び表3に示すように白金からなり、実施例4のイリジウムからなる上電極膜よりもヤング率(硬度)が小さいためと考えられる。このように、絶縁膜の応力と上電極膜の応力との和が圧縮応力となっていれば、振動板の撓み量を低減でき、圧電素子の駆動による振動板の変位量を増加させることができる。この結果からも明らかなように、絶縁膜の応力と上電極膜の応力との和を圧縮応力とすることにより、圧電素子の駆動による振動板の変位量の低下をより確実に防止することができる。
【0132】
(実施形態2)
図7は、実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの概略斜視図であり、図8は、その平面図及び断面図である。また、図9は、インクジェット式記録ヘッドの要部を示す平面図であり、図10は、図9の要部断面図である。なお、以下、同一部材には同一符号を付して説明し、重複する説明は省略する。
【0133】
本実施形態は、第1の絶縁膜101と第2の絶縁膜102とを含む絶縁膜100Aによって、少なくとも圧電素子300を構成する各層を覆うようにした例である。すなわち、図7〜図10に示すように、下電極膜60は、圧力発生室12の長手方向では圧力発生室12に対向する領域内に形成され、複数の圧力発生室12に対応する領域に連続的に設けられている。圧電体層70及び上電極膜80は、基本的には圧力発生室12に対向する領域内に設けられているが、圧力発生室12の長手方向では、下電極膜60の端部よりも外側まで延設されており、下電極膜60の端面は圧電体層70によって覆われている。なお、圧力発生室12の長手方向端部近傍には、圧電体層を有するが実質的に駆動されない圧電体非能動部330が形成されている(図8(a)参照)。
【0134】
そして、本実施形態では、このような圧電素子300を構成する各層の表面が、上電極用リード電極90Aとの接続部90a及び下電極用リード電極95Aの接続部95aを除いて、耐湿性を有する材料からなる絶縁膜100Aによって覆われている。具体的には、図9及び図10に示すように、第1の絶縁膜101は、圧電素子300を構成する各層のパターン領域に設けられ、上電極膜80の長手方向端部近傍に対向する領域に、上電極用リード電極90Aと上電極膜80とを接続するための接続孔101aが形成され、並設された圧電素子300の外側には、下電極用リード電極95Aと下電極膜60とを接続するための接続孔101bが設けられている。すなわち、少なくとも圧電素子300を構成する各層のパターン領域は、この接続孔101a,101bを除いて、第1の絶縁膜101によって完全に覆われている。
【0135】
そして、この第1の絶縁膜101上には、接続孔101a,101bを介して各圧電素子300の上電極膜80に接続される上電極用リード電極90Aと、下電極膜60に接続される下電極用リード電極95Aとが設けられている。上電極用リード電極90Aは、各上電極膜80の長手方向一端部近傍、本実施形態では、圧電体非能動部330に相当する部分から流路形成基板10の端部近傍まで延設されている。また、下電極用リード電極95Aは、圧電素子300の列の外側の下電極膜60の端部近傍から流路形成基板10の端部近傍まで延設されている。そして、これら上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aの先端部は、駆動配線130が接続される接続部90a,95aとなっている。
【0136】
さらに、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95A並びに第1の絶縁膜101上には、第2の絶縁膜102が設けられている。すなわち、上電極用リード電極90A、下電極用リード電極95A及び圧電素子300を構成する各層のパターン領域は、上電極用リード電極90Aの接続部90a及び下電極用リード電極95Aの接続部95aに対向する領域を除いて、この第2の絶縁膜102によって覆われている。
【0137】
このような構成では、第1及び第2の絶縁膜101,102によって、圧電体層70の水分(湿気)に起因する破壊をさらに確実に防止することができる。また、第2の絶縁膜102によって、上電極用リード電極90Aの接続部90a及び下電極用リード電極95Aの接続部95aを除いて、圧電素子300を構成する各層及び上電極用リード電極90A並びに下電極用リード電極95Aの表面を覆うようにすることで、第2の絶縁膜102の端部側から水分が侵入した場合でも、圧電体層70まで水分が達するのを防ぐことができ、圧電体層70の水分に起因する破壊を確実に防止することができる。
【0138】
また、第1の絶縁膜101上に上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aが形成されているため、これら上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aを形成する際に、ウェットエッチングを用いても電食が発生することがない。このため、例えば、電食によるエッチング速度の異常等が発生することがなく、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aを高精度に形成することができる。また、例えば、上電極膜80の剥離等、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aのエッチング時に発生する圧電素子300の破壊を防止することができ、歩留まりが著しく向上する。
【0139】
ここで、このような絶縁膜100Aを構成する第1及び第2の保護膜101,102の材料としては、上述したように、例えば、酸化アルミニウム(AlOx)を用いるのが好ましい。また、例えば、第1の絶縁膜101を酸化シリコンで形成し、第2の絶縁膜102を酸化アルミニウムで形成する等、第1及び第2の絶縁膜101,102の材料は、それぞれ異なっていてもよいが、第1又は第2の絶縁膜101,102の何れか一方が酸化アルミニウムで形成されているのが好ましい。また、少なくとも第2の絶縁膜101が、酸化アルミニウムで形成されているのが好ましく、特に、第1及び第2の絶縁膜101,102のそれぞれが、酸化アルミニウムで形成されているのが望ましい。このように第1及び第2の絶縁膜101,102の何れか一方あるいは両方の材料として酸化アルミニウムを用いることで、これら第1及び第2の絶縁膜101,102の膜厚が比較的薄く形成されていても、高湿度環境下での水分透過を十分に防ぐことができる。例えば、第1及び第2の絶縁膜101,102のそれぞれが酸化アルミニウムで形成されている場合には、それぞれの膜厚が50nm程度であっても、水分の透過を十分に防ぐことができる。
【0140】
また、このように第1及び第2の絶縁膜101,102の何れか一方又は両方の材料として、酸化アルミニウムを用いる場合には、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aが、アルミニウム(Al)を主成分とする材料で形成されていることが好ましい。例えば、本実施形態では、第1及び第2の絶縁膜101,102のそれぞれが、酸化アルミニウムからなり、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aは、アルミニウム(Al)99.5wt%、銅(Cu)0.5wt%の合金からなる。
【0141】
これにより、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aと第1の絶縁膜101又は第2の絶縁膜102との密着性が向上する。また、第1及び第2の絶縁膜101,102が酸化アルミニウムからなる場合には、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aと第1及び第2の絶縁膜101,102との密着性と共に、第1の絶縁膜101と第2の絶縁膜102との密着性も向上する。したがって、水分の透過をさらに確実に防止することができ、圧電素子300の水分に起因する破壊を長期に亘って確実に防止することができる。さらに、第1及び第2の絶縁膜101,102の膜厚を比較的薄くしても水分の透過を確実に防止することができて圧電素子300の駆動を妨げることがないため、インク吐出特性を良好に維持することができる。
【0142】
なお、流路形成基板10上の圧電素子300側の面には、実施形態1と同様に保護基板及びコンプライアンス基板が接合されているが、本実施形態の保護基板30Aには、貫通部が形成されていない点で実施形態1の保護基板とは相違する。そして、上述したように、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aは、流路形成基板10の端部近傍まで、すなわち、圧電素子保持部31の外側まで延設され、これら上電極用リード電極90Aの接続部90a及び下電極用リード電極95Aの接続部95aに、保護基板30上に実装された駆動IC120から延設される駆動配線130の一端が接続されている。
【0143】
以下、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。なお、図11は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。まず、実施形態1において説明したように、流路形成基板10上に、弾性膜50及び絶縁体膜55形成し、この絶縁体膜55上に下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80からなる圧電素子300を形成する(図5(a)〜図6(a)参照)。
【0144】
次いで、図11(a)に示すように、酸化アルミニウムからなる第1の絶縁膜101を形成すると共に所定形状にパターニングする。すなわち、第1の絶縁膜101を流路形成基板10の全面に形成し、所定のマスクを介してエッチングすることにより、各上電極膜80に対向する領域、及び並設された圧電素子300の外側の下電極膜60に対向する領域にそれぞれ接続孔101a,101bを形成する。
【0145】
次に、図11(b)に示すように、上電極用リード電極90Aを形成する。すなわち、流路形成基板10の全面に亘って、例えば、アルミニウム(Al)を主成分とする材料からなる金属層92Aを形成し、その後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して金属層92Aを各圧電素子300毎にパターニングすることで上電極用リード電極90Aが形成される。また、図示しないが、このとき下電極用リード電極95Aも同時に形成する。
【0146】
なお、金属層92Aの材料として、アルミニウムを主成分とする材料を用いることで、第1又は第2の絶縁膜101,102との密着性が向上し、圧電体層への水分透過率が更に低下するので好ましい。また、勿論、金属層として、例えば、金(Au)等を用いるようにしてもよいが、その場合、には、金属層の下側に、例えば、チタンタングステン(TiW)からなる密着層を設けておくことが望ましい。勿論、金属層がアルミニウムの場合でも、チタンタングステンからなる密着層を設けても良いことは言うまでもない。
【0147】
次に、図11(c)に示すように、例えば、酸化アルミニウムからなる第2の絶縁膜102を形成すると共に所定形状にパターニングする。すなわち、第2の絶縁膜102を流路形成基板10の全面に形成し、その後、上電極用リード電極90Aの接続部90a及び下電極用リード電極95Aの接続部95aに対向する領域の第2の絶縁膜102を除去する。なお、本実施形態では、第2の絶縁膜102も第1の絶縁膜101とほぼ同じ領域、すなわち、圧電素子300を構成する各層、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aのパターン領域のみに設けるようにした。勿論、第2の絶縁膜102は、上電極用リード電極90Aの接続部90a及び下電極用リード電極95Aの接続部95aに対向する領域以外の全ての領域に設けられていてもよい。何れにしても、第2の絶縁膜102は、上電極用リード電極90Aの接続部90a及び下電極用リード電極95Aの接続部95aを除いて、圧電素子300を構成する各層、上電極用リード電極90A及び下電極用リード95Aのパターン領域を覆うように形成されていればよい。
【0148】
次いで、第11(d)に示すように、流路形成基板10の圧電素子300側に保護基板30を接着剤35によって接合した後、所定形状にパターニングしたマスク膜51を介して流路形成基板10を異方性エッチングすることにより圧力発生室12等を形成する。
【0149】
(実施形態3)
図12は、実施形態3に係るインクジェット式記録ヘッドの概略斜視図であり、図13は、その平面図及び断面図である。また、図14は、インクジェット式記録ヘッドの要部を示す平面図である。
【0150】
本実施形態では、接続配線の一部を構成する第2の上電極用リード電極96をさらに設けるようにした例である。図12〜図14に示すように、下電極膜60は、圧力発生室12の長手方向では圧力発生室12に対向する領域内に形成され、複数の圧力発生室12に対応する領域に連続的に設けられている。また、下電極膜60は、圧力発生室12の列の外側で流路形成基板10の端部近傍まで延設され、それらの先端部は、後述する駆動IC120から延設された接続配線130が接続される接続部60aとなっている。圧電体層70及び上電極膜80は、基本的には圧力発生室12に対向する領域内に設けられているが、圧力発生室12の長手方向では、下電極膜60の端部よりも外側まで延設されており、下電極膜60の端面は圧電体層70によって覆われている。そして、圧力発生室12の長手方向端部近傍には、圧電体層70を有するが実質的に駆動されない圧電体非能動部330が形成されている。また、各圧電素子300を構成する上電極膜80の一端部近傍には、例えば、アルミニウムを主成分とする材料からなる上電極用リード電極90Aがそれぞれ接続されている。これらの上電極用リード電極90Aは、本実施形態では、圧力発生室12の外側の圧電体非能動部330上から絶縁体膜55上に延設されている。
【0151】
また、上電極用リード電極90Aには、無機絶縁材料からなる絶縁膜100を介して第2の上電極用リード電極96がそれぞれ接続されている。この第2の上電極用リード電極96は、流路形成基板10の端部近傍まで延設され、その先端部近傍は、下電極膜60の接続部60aと同様に、駆動配線130が接続される端子部96aとなっている。
【0152】
ここで、絶縁膜100は、圧電素子300を構成する各層、上電極用リード電極90A及び第2の上電極用リード電極96のパターン領域に設けられている。そして、少なくとも圧電素子300及び上電極用リード電極90Aは、上電極用リード電極90の接続部90aを除いてこの絶縁膜100によって覆われている。例えば、本実施形態では、絶縁膜100が、圧電素子300の列の外側の下電極膜60上まで連続的に設けられており、圧電素子300及び上電極用リード電極90Aと共に下電極膜60も、接続部60aを除いて絶縁膜100によって覆われている。
【0153】
また上述したように、絶縁膜100は第2の上電極用リード電極96のパターン領域まで連続的に設けられている。すなわち、絶縁膜100は、流路形成基板10の端部近傍まで連続的に設けられており、第2の上電極用リード電極96の端子部96aもこの絶縁膜100上に位置している。
【0154】
以上説明したように、絶縁膜100によって圧電素子300及び上電極用リード電極90Aの表面を覆うと共に、絶縁膜100上に設けられた第2の上電極用リード電極96に駆動配線130が接続される端子部96aを設けるようにすることで、圧電体層70の水分(湿気)に起因する破壊を確実に防止することができる。すなわち、圧電素子300及び上電極用リード電極90Aは、接続部90aを除いて第2の上電極用リード電極96のパターン領域まで連続する絶縁膜100によって覆われている。また上電極用リード電極90Aの接続部90aは、第2の上電極用リード電極96によって塞がれている。したがって、水分は、絶縁膜100の端部からしか侵入することはなく、仮に侵入した場合でも、圧電体層70まで水分が達するのを実質的に防止することができ、圧電体層70の水分に起因する破壊をより確実に防止することができる。
【0155】
さらに、第2の上電極用リード電極96の駆動配線130が接続される端子部96aの下側にも絶縁膜100が設けられていることで、第2の上電極用リード電極96の密着性が高まるという効果もある。これにより、例えば、ワイヤボンディング等により駆動配線130を第2の上電極用リード電極96に接続する際等に、第2の上電極用リード電極96の剥がれ等の不良が発生するのを防止することもできる。
【0156】
なお、本実施形態では、連通部13近傍まで延設された下電極膜60の先端部が接続配線130との接続部60aとなっているが、例えば、図15に示すように、下電極膜60に電気的に接続される下電極用リード電極95Aを、列設された圧電素子300の外側で圧電素子300の長手方向外側の領域まで延設すると共に、第2の下電極用リード電極99を流路形成基板10の端部近傍まで延設し、その先端部を駆動配線130が接続される端子部99aとしてもよい。そして、この場合には、上電極用リード電極90A及び下電極用リード電極95Aの接続部90a,95aを除いて、圧電素子300を構成する各層、上電極用リード電極90A、下電極用リード電極95A及び第2の上電極用リード電極96、第2の下電極用リード電極99のパターン領域を絶縁膜100で覆うようにする。
【0157】
以下、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。なお、図16及び図17は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。また、上述したように、インクジェット式記録ヘッドは、一枚のシリコンウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、第1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割され、本実施形態では、実際にシリコンウェハからなる流路形成基板用ウェハ150を用いた製造方法として説明する。
【0158】
まず、図16(a)に示すように、厚さが約625μmと比較的厚く剛性の高いシリコンウェハからなる流路形成基板用ウェハ150(流路形成基板10)上に、弾性膜50及び絶縁体膜55を形成し、絶縁体膜55上に下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80からなる圧電素子300を形成する。なお、これら弾性膜50、絶縁体膜55及び圧電素子300の製造方法は、実施形態1と同様である(図5(a)〜図5(d)参照)。
【0159】
次に、図16(b)に示すように、上電極用リード電極90Aを形成する。具体的には、流路形成基板用ウェハ150上に、所定の金属材料、例えば、本実施形態では、アルミニウム(Al)からなる金属層92Aを全面に形成する。そして、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して金属層92Aを圧電素子300毎にパターニングすることにより上電極用リード電極90Aが形成される。
【0160】
次に、図16(c)に示すように、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)からなる絶縁膜100を形成すると共に所定形状にパターニングする。すなわち、絶縁膜100を流路形成基板用ウェハ150の全面に形成し、その後、下電極膜60の接続部60aに対向する領域の絶縁膜100を除去すると共に、上電極用リード電極90Aの接続部90aに対向する領域の絶縁膜100を除去して開口100aを形成する。なお、本実施形態では、接続部60a及び接続部90aに対向する領域と共に、圧電素子300を構成する各層及び上電極用リード電極90A、並びに後述する工程で形成される第2の上電極用リード電極96のパターン領域以外も除去するようにしている。勿論、絶縁膜100は、接続部60a及び端子部90aに対向する領域のみが除去されていてもよい。
【0161】
次に、第2の上電極用リード電極96を形成する。例えば、本実施形態では、図16(d)に示すように、流路形成基板用ウェハ150の全面に亘って、例えば、チタンタングステン(TiW)からなる密着層97を形成し、この密着層97上の全面に、例えば、金(Au)等からなる金属層98を形成する。その後、マスクパターン(図示なし)を介して金属層98を各圧電素子300毎にパターニングし、さらに密着層97をエッチングによりパターニングすることによって第2の上電極用リード電極96が形成される。
【0162】
次いで、図17(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ150の圧電素子300側に、シリコンウェハであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハ160を接合する。なお、この保護基板用ウェハ160は、例えば、625μm程度の厚さを有するため、流路形成基板用ウェハ150の剛性は、保護基板用ウェハ160を接合することによって著しく向上することになる。
【0163】
次いで、図17(b)に示すように、本実施形態では、流路形成基板用ウェハ150をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ酸と硝酸の混合水溶液によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ150を所定の厚みにする。例えば、本実施形態では、約70μm厚になるように流路形成基板用ウェハ150をエッチング加工した。
【0164】
次いで、図17(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ150上に、例えば、窒化シリコンからなるマスク膜52Aを新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、このマスク膜52Aを介して流路形成基板用ウェハ150を異方性エッチングすることにより、流路形成基板用ウェハ150に圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。
【0165】
なお、その後は、流路形成基板用ウェハ150及び保護基板用ウェハ160の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ150の保護基板用ウェハ160とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ160にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ150等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとなる。
【0166】
(実施形態4)
図18は、実施形態4に係るインクジェット式記録ヘッドの断面図である。本実施形態は、実施形態3の構造において、実施形態2と同様、圧電素子300が第1の絶縁膜101と第2の絶縁膜101とからなる絶縁膜100Aによって覆われるようにした例である。すなわち、本実施形態では、図18に示すように、上電極用リード電極90Aは、第1の絶縁膜101上に延設され、第1の絶縁膜101の接続孔101aを介して上電極膜80と接続されている。また、上電極用リード電極90A及び圧電素子300を構成する各層のパターン領域は、上電極用リード電極90Aの接続部90aに対向する領域を除いて、第2の絶縁膜102によって覆われている。そして、この第1の絶縁膜101上にさらに第2の絶縁膜102が形成されて、圧電素子300がこれら第1の絶縁膜101及び第2の絶縁膜102によって覆われるようにした。また、第2の上電極用リード電極96は、この第2の絶縁膜102上に形成され、第2の絶縁膜101の開口部102aを介して第1の上電極用リード電極90Aと接続されている。
【0167】
このような構成では、圧電素子300が、第1の絶縁膜101及び第2の絶縁膜102の2層によって覆われ、圧電体層70の水分(湿気)との接触が防止されているため、圧電体層70の水分(湿気)に起因する破壊をさらに確実に防止することができる。
【0168】
(実施形態5)
図19は、実施形態5に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図20は、その平面図及び断面図である。
【0169】
本実施形態は、保護基板の流路形成基板との接合面側の一部に、圧電素子保持部内の水分を透過可能な材料からなる透湿部を設けた例である。そして、上電極用リード電極を流路形成基板の端部近傍まで延設して保護基板の外側で上電極用リード電極と駆動配線とを接続するようにし、保護基板には貫通部が設けられていない以外は、実施形態1と同様の構成である。
【0170】
詳細には、図19及び図20に示すように、保護基板30の流路形成基板10との接合面側の一部、具体的には、圧電素子保持部31周縁のリザーバ110側以外の領域の一部に、圧電素子保持部31内の水分を透過可能な材料からなる透湿部170が設けられている。例えば、この透湿部170は、接着層35を構成する接着剤よりも水分の透過性の高い接着剤からなる接着層36によって構成され、図20に示すように、本実施形態では、圧電素子保持部31のリザーバ110とは反対側の領域に設けられている。なお、この透湿部170(接着層36)は、保護基板30と流路形成基板10とを接合する役割も果たしている。
【0171】
このような透湿部170を設けることにより、圧電素子保持部31内に侵入した水分(湿気)は、この透湿部170を介して外部に排出される。したがって、圧電素子保持部31内が比較的低湿度に維持されるため、水分に起因する圧電素子300の破壊を防止することができる。具体的には、圧電素子保持部31内に隣接してリザーバ110が設けられているため、リザーバ110に貯留されているインクの水分が、圧電素子保持部31のリザーバ110側の領域の接着層35を介して圧電素子保持部31内に侵入してしまう。このため、圧電素子保持部31内の湿度が徐々に上昇し、圧電素子保持部31内の湿度は、85%程度まで上昇してしまう場合がある。接着層35を構成する接着剤として水分の浸透性の低いものを用いたとしても、このようなインクの水分の圧電素子保持部31内への侵入を完全に防ぐのは難しい。
【0172】
しかしながら、透湿部170を設けることにより、圧電素子保持部31のリザーバ110側の領域の接着層35を介して圧電素子保持部31内に水分が侵入した場合でも、圧電素子保持部31内が外部よりも高湿度になっていれば、圧電素子保持部31内の水分は透湿部170を介して外部に排出される。したがって、圧電素子保持部31内の湿度は常に外気の湿度以下に抑えられる。
【0173】
そして、圧電素子保持部31内に封止されている圧電素子300を構成する各層及び上電極用リード電極90の表面は、無機絶縁材料からなる絶縁膜100によって覆われているため、圧電素子保持部31内の湿度が外気の湿度程度に抑えられていれば、圧電素子が圧電素子保持部31内の水分(湿気)によって破壊されることはない。よって、圧電素子300の耐久性を著しく向上したインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
【0174】
以下、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。なお、図21は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。まず、実施形態1で説明したように、流路形成基板10上に、弾性膜50及び絶縁体膜55を形成し、この絶縁体膜55上に下電極60、圧電体層70及び上電極膜80からなる圧電素子300を形成する(図5(a)〜図6(a)参照)。
【0175】
次に、図21(a)に示すように、密着層91及び金属層92を順次積層し、これら密着層91及び金属層92をパターニングすることにより上電極用リード電極90を形成する。次いで、図21(b)に示すように、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)からなる絶縁膜100を形成する。
【0176】
次に、図21(c)に示すように、流路形成基板10の圧電素子300側に保護基板30を、接着層35を介して接合すると共に、透湿部170を形成する。すなわち、保護基板30の圧電素子保持部31周縁のリザーバ部32とは反対側の領域を除いて接着層35を形成すると共に、リザーバ部32とは反対側の領域に、接着層35よりも水分の透過性の高い接着層36を形成する。そして、これら接着層35,36を介して保護基板30と流路形成基板10とを接合する。これにより、圧電素子保持部31のリザーバ110とは反対側の領域には、同時に、接着層36からなる透湿部170が形成される。
【0177】
そして、図21(d)に示すように、所定形状にパターニングしたマスク膜51を介して流路形成基板10を異方性エッチングすることにより圧力発生室12等を形成する。
【0178】
(実施形態6)
図22は、実施形態6に係るインクジェット式記録ヘッドの側面図である。本実施形態は、圧力発生室12の列の両端部外側に対応する領域の保護基板30に透湿部170Aを設けるようにした例である。すなわち、本実施形態では、第22図に示すように、圧力発生室12の列の両端部外側に対応する領域の保護基板30には、保護基板30の一部をハーフエッチングにより除去した凹部34が形成されている。そして、この凹部34をポッティング材で封止することによって透湿部170Aが形成されている。
【0179】
このような構成としても、実施形態5と同様に、圧電素子保持部31内の水分が透湿部170Aを介して外部に排出され、圧電素子保持部31内の湿度は、外部の湿度と同程度に維持される。したがって、水分に起因する圧電素子300の破壊を長期に渡って防止することができる。
【0180】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1〜4では、圧電素子が保護基板の圧電素子保持部内に形成されているが、これに限定されず、勿論、圧電素子は露出されていてもよい。この場合でも、圧電素子及び上電極用リード電極等の表面は、無機絶縁材料からなる絶縁膜によって覆われているため、水分(湿気)に起因する圧電体層の破壊は、確実に防止される。また、例えば、実施形態5又は6では、透湿部170を保護基板30の流路形成基板10との接合面に設けるようにしたが、これに限定されず、例えば、保護基板30の上面等に圧電素子保持部31に連通する連通孔を設け、この連通孔を、水分の透過性の高い接着剤等の有機材料で封止することによって透湿部を形成するようにしてもよい。
【0181】
また、上述した実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図23は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図23に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0182】
また、上述した実施形態においては、本発明の液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを説明したが、液体噴射ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。本発明は、広く液体噴射ヘッドの全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射するものにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録へッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0183】
10 流路形成基板、12 圧力発生室、20 ノズルプレート、21 ノズル開口、30 保護基板、31 圧電素子保持部、32 リザーバ部、33 貫通孔、35 接着剤、40 コンプライアンス基板、50 弾性膜、55 絶縁体膜、60 下電極膜、70 圧電体層、80 上電極膜、90,90A 上電極用リード電極、90a 接続部、100 絶縁膜、110 リザーバ、120 駆動IC、130 接続配線、140 封止材、300 圧電素子、330 圧電体非能動部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備し、少なくとも前記圧電素子を構成する各層のパターン領域が、無機アモルファス材料からなる絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求の範囲1において、前記アモルファス材料が、酸化アルミニウム(Al2O3)であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求の範囲2において、前記絶縁膜の膜厚が30〜150[nm]であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求の範囲2又は3において、前記絶縁膜の膜密度が、3.08〜3.25[g/cm3]であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求の範囲2〜4の何れかにおいて、前記絶縁膜のヤング率が170〜200[GPa]であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求の範囲1〜5の何れかにおいて、前記絶縁膜の応力と前記上電極の応力との和が圧縮応力となっていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項7】
請求の範囲6において、前記絶縁膜及び前記上電極のそれぞれの応力が圧縮応力となっていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求の範囲7において、前記上電極は、少なくともPtからなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求の範囲6において、前記絶縁膜の応力が圧縮応力となっており、且つ前記上電極の応力が引張り応力となっていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項10】
請求の範囲9において、前記上電極は、少なくともIrからなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項11】
請求の範囲9又は10において、前記上電極及び前記絶縁膜の応力σがヤング率Y、歪ε、膜厚mの積(ε×Y×m)で表され、前記上電極の応力σ1と前記絶縁膜の応力σ2との関係が|σ1|<|σ2|の条件を満たしていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項12】
請求の範囲1〜11の何れかにおいて、前記上電極から引き出される上電極用リード電極をさらに有し、少なくとも前記圧電素子を構成する各層及び前記上電極用リード電極のパターン領域が、前記下電極及び前記上電極用リード電極の接続配線との接続部に対向する領域を除いて、前記絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項13】
請求の範囲12において、前記上電極用リード電極が、アルミニウムを主成分とする材料からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項14】
請求の範囲12又は13において、前記下電極から引き出される下電極用リード電極を具備して該下電極用リード電極を介して前記下電極が前記接続配線と接続され、前記下電極用リード電極を含む前記パターン領域が、前記上電極用リード電極及び前記下電極用リード電極の前記接続配線に対向する領域を除いて、前記絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項15】
請求の範囲12〜14の何れかにおいて、前記上電極と前記上電極用リード電極とが別材料からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項16】
請求の範囲12〜15の何れかにおいて、前記圧電素子を構成する前記圧電体層及び前記上電極が前記圧力発生室に対向する領域からその外側まで延設されて圧電体非能動部が形成され、前記上電極用リード電極の前記上電極側の端部が、前記圧電体非能動部上で且つ前記圧力発生室の外側に位置していることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項17】
請求の範囲12〜16の何れかにおいて、前記接続配線が接続された状態で、前記接続部が有機絶縁材料からなる封止材によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項18】
請求の範囲12〜17の何れかにおいて、前記絶縁膜が、第1の絶縁膜と第2の絶縁膜とを含み、前記圧電素子が前記上電極用リード電極との接続部を除いて前記第1の絶縁膜によって覆われ、且つ前記上電極用リード電極が前記第1の絶縁膜上に延設されると共に少なくとも前記圧電素子を構成する各層及び前記上電極用リード電極のパターン領域が、前記接続部に対向する領域を除いて前記第2の絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項19】
請求の範囲12〜18の何れかにおいて、前記接続配線が、前記上電極用リード電極から引き出される第2の上電極用リード電極を含み、該第2の上電極用リード電極が前記絶縁膜上に延設されて前記接続部で前記上電極用リード電極に接続されると共に当該第2の上電極用リード電極の先端部側に駆動配線が接続される端子部を有することを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項20】
請求の範囲12〜19の何れかにおいて、前記圧電素子を構成する前記圧電体層及び前記上電極が前記圧力発生室に対向する領域からその外側まで延設されて圧電体非能動部が形成され、前記上電極に接続される前記上電極用リード電極の当該上電極側の端部が、前記圧電体非能動部上で且つ前記圧力発生室の外側に位置していることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項21】
請求の範囲12〜20の何れかにおいて、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面には、当該圧電素子を保護する空間である圧電素子保持部を有する保護基板が接合され、前記上電極用リード電極の前記接続部が、前記圧電素子保持部の外側に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項22】
請求の範囲1〜21の何れかにおいて、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面には、当該圧電素子を保護する空間である圧電素子保持部を有する保護基板が接着層を介して接合され、該保護基板が前記圧力発生室に供給される液体の流路を具備して前記圧電素子保持部の前記流路側の前記接着層が前記流路内に露出されており、前記圧電素子保持部の前記流路側以外の領域に当該圧電素子保持部内の水分を透過する透湿部が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項23】
請求の範囲22において、前記透湿部が、有機材料からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項24】
請求の範囲22又は23において、前記透湿部が前記保護基板の前記流路形成基板との接合面の一部に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項25】
請求の範囲22又は23において、前記透湿部が、前記保護基板の上面に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項26】
請求の範囲24又は25において、前記透湿部が、前記接着層を構成する接着剤よりも水分の透過性の高い接着剤からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項27】
請求の範囲22〜25の何れかにおいて、前記透湿部が、ポッティング材からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項28】
請求の範囲22〜27の何れかにおいて、前記透湿部が、前記圧電素子保持部の前記流路とは反対側の領域に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項29】
請求の範囲22又は23において、前記透湿部が、前記圧力発生室の列の両端部外側に対応する領域の前記保護基板に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項30】
請求の範囲1〜29の何れかの液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項31】
液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室が形成される流路形成基板の一方面側に振動板を介して下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子を形成する工程と、当該圧電素子の前記上電極から引き出される上電極用リード電極を形成する工程と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の全面に無機アモルファス材料からなる絶縁膜を形成する工程と、少なくとも前記下電極及び前記上電極用リード電極の接続配線との接続部を露出させ且つ該接続部を除く前記圧電素子を構成する各層及び前記上電極用リード電極のパターン領域の前記絶縁膜を残すように当該絶縁膜をパターニングする工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項32】
請求の範囲31において、前記絶縁膜をパターニングする工程では、所定領域の前記絶縁膜をイオンミリングによって除去することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項33】
請求の範囲31又は32において、前記絶縁膜をパターニングする工程の後に、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に当該圧電素子を保護する圧電素子保持部及び前記圧力発生室に供給される液体の流路を有する保護基板を接合する工程をさらに有し、且つ該保護基板を接合する工程では、前記圧電素子保持部周縁の前記流路側を除く領域の一部に空間部を残して前記保護基板に接着剤を塗布して当該保護基板と前記流路形成基板とを接合すると共に、前記空間部を前記接着剤よりも水分の透過率の高い材料で封止して前記圧電素子保持部内の水分を透過する透湿部を形成することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項1】
液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備し、少なくとも前記圧電素子を構成する各層のパターン領域が、無機アモルファス材料からなる絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求の範囲1において、前記アモルファス材料が、酸化アルミニウム(Al2O3)であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求の範囲2において、前記絶縁膜の膜厚が30〜150[nm]であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求の範囲2又は3において、前記絶縁膜の膜密度が、3.08〜3.25[g/cm3]であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求の範囲2〜4の何れかにおいて、前記絶縁膜のヤング率が170〜200[GPa]であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求の範囲1〜5の何れかにおいて、前記絶縁膜の応力と前記上電極の応力との和が圧縮応力となっていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項7】
請求の範囲6において、前記絶縁膜及び前記上電極のそれぞれの応力が圧縮応力となっていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求の範囲7において、前記上電極は、少なくともPtからなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求の範囲6において、前記絶縁膜の応力が圧縮応力となっており、且つ前記上電極の応力が引張り応力となっていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項10】
請求の範囲9において、前記上電極は、少なくともIrからなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項11】
請求の範囲9又は10において、前記上電極及び前記絶縁膜の応力σがヤング率Y、歪ε、膜厚mの積(ε×Y×m)で表され、前記上電極の応力σ1と前記絶縁膜の応力σ2との関係が|σ1|<|σ2|の条件を満たしていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項12】
請求の範囲1〜11の何れかにおいて、前記上電極から引き出される上電極用リード電極をさらに有し、少なくとも前記圧電素子を構成する各層及び前記上電極用リード電極のパターン領域が、前記下電極及び前記上電極用リード電極の接続配線との接続部に対向する領域を除いて、前記絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項13】
請求の範囲12において、前記上電極用リード電極が、アルミニウムを主成分とする材料からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項14】
請求の範囲12又は13において、前記下電極から引き出される下電極用リード電極を具備して該下電極用リード電極を介して前記下電極が前記接続配線と接続され、前記下電極用リード電極を含む前記パターン領域が、前記上電極用リード電極及び前記下電極用リード電極の前記接続配線に対向する領域を除いて、前記絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項15】
請求の範囲12〜14の何れかにおいて、前記上電極と前記上電極用リード電極とが別材料からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項16】
請求の範囲12〜15の何れかにおいて、前記圧電素子を構成する前記圧電体層及び前記上電極が前記圧力発生室に対向する領域からその外側まで延設されて圧電体非能動部が形成され、前記上電極用リード電極の前記上電極側の端部が、前記圧電体非能動部上で且つ前記圧力発生室の外側に位置していることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項17】
請求の範囲12〜16の何れかにおいて、前記接続配線が接続された状態で、前記接続部が有機絶縁材料からなる封止材によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項18】
請求の範囲12〜17の何れかにおいて、前記絶縁膜が、第1の絶縁膜と第2の絶縁膜とを含み、前記圧電素子が前記上電極用リード電極との接続部を除いて前記第1の絶縁膜によって覆われ、且つ前記上電極用リード電極が前記第1の絶縁膜上に延設されると共に少なくとも前記圧電素子を構成する各層及び前記上電極用リード電極のパターン領域が、前記接続部に対向する領域を除いて前記第2の絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項19】
請求の範囲12〜18の何れかにおいて、前記接続配線が、前記上電極用リード電極から引き出される第2の上電極用リード電極を含み、該第2の上電極用リード電極が前記絶縁膜上に延設されて前記接続部で前記上電極用リード電極に接続されると共に当該第2の上電極用リード電極の先端部側に駆動配線が接続される端子部を有することを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項20】
請求の範囲12〜19の何れかにおいて、前記圧電素子を構成する前記圧電体層及び前記上電極が前記圧力発生室に対向する領域からその外側まで延設されて圧電体非能動部が形成され、前記上電極に接続される前記上電極用リード電極の当該上電極側の端部が、前記圧電体非能動部上で且つ前記圧力発生室の外側に位置していることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項21】
請求の範囲12〜20の何れかにおいて、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面には、当該圧電素子を保護する空間である圧電素子保持部を有する保護基板が接合され、前記上電極用リード電極の前記接続部が、前記圧電素子保持部の外側に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項22】
請求の範囲1〜21の何れかにおいて、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面には、当該圧電素子を保護する空間である圧電素子保持部を有する保護基板が接着層を介して接合され、該保護基板が前記圧力発生室に供給される液体の流路を具備して前記圧電素子保持部の前記流路側の前記接着層が前記流路内に露出されており、前記圧電素子保持部の前記流路側以外の領域に当該圧電素子保持部内の水分を透過する透湿部が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項23】
請求の範囲22において、前記透湿部が、有機材料からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項24】
請求の範囲22又は23において、前記透湿部が前記保護基板の前記流路形成基板との接合面の一部に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項25】
請求の範囲22又は23において、前記透湿部が、前記保護基板の上面に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項26】
請求の範囲24又は25において、前記透湿部が、前記接着層を構成する接着剤よりも水分の透過性の高い接着剤からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項27】
請求の範囲22〜25の何れかにおいて、前記透湿部が、ポッティング材からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項28】
請求の範囲22〜27の何れかにおいて、前記透湿部が、前記圧電素子保持部の前記流路とは反対側の領域に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項29】
請求の範囲22又は23において、前記透湿部が、前記圧力発生室の列の両端部外側に対応する領域の前記保護基板に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項30】
請求の範囲1〜29の何れかの液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項31】
液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室が形成される流路形成基板の一方面側に振動板を介して下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子を形成する工程と、当該圧電素子の前記上電極から引き出される上電極用リード電極を形成する工程と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の全面に無機アモルファス材料からなる絶縁膜を形成する工程と、少なくとも前記下電極及び前記上電極用リード電極の接続配線との接続部を露出させ且つ該接続部を除く前記圧電素子を構成する各層及び前記上電極用リード電極のパターン領域の前記絶縁膜を残すように当該絶縁膜をパターニングする工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項32】
請求の範囲31において、前記絶縁膜をパターニングする工程では、所定領域の前記絶縁膜をイオンミリングによって除去することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項33】
請求の範囲31又は32において、前記絶縁膜をパターニングする工程の後に、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に当該圧電素子を保護する圧電素子保持部及び前記圧力発生室に供給される液体の流路を有する保護基板を接合する工程をさらに有し、且つ該保護基板を接合する工程では、前記圧電素子保持部周縁の前記流路側を除く領域の一部に空間部を残して前記保護基板に接着剤を塗布して当該保護基板と前記流路形成基板とを接合すると共に、前記空間部を前記接着剤よりも水分の透過率の高い材料で封止して前記圧電素子保持部内の水分を透過する透湿部を形成することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2010−42683(P2010−42683A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261574(P2009−261574)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【分割の表示】特願2005−514116(P2005−514116)の分割
【原出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【分割の表示】特願2005−514116(P2005−514116)の分割
【原出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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