説明

液体噴射装置および印刷装置

【課題】トランジスタの冷却用放熱板などを必要とせず、合わせて駆動信号の電圧値の変動を抑制防止可能な液体噴射装置および印刷装置を提供する。
【解決手段】アクチュエータ駆動制御のためのアナログ駆動波形信号WCOMを変調回路24で変調して変調信号とし、この変調信号をデジタル電力増幅器25で電力増幅し、この電力増幅された電力増幅変調信号を平滑フィルタ26で平滑化してアクチュエータへの駆動信号COMとする。デジタル電力増幅器25内のMOSFETはスイッチング素子として使用されるので電力損失が少なく、冷却用放熱板が不要となる。また、電源電圧VDDに応じて駆動波形信号WCOMや三角波信号WTRIの振幅を補正することにより変調信号を補正して駆動信号COMの電圧値の変動を抑制防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な液体を複数のノズルから噴射してその微粒子(ドット)を印刷媒体上に形成することにより、所定の文字や画像等を印刷するようにした印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような印刷装置の一つであるインクジェットプリンタは、一般に安価で且つ高品質のカラー印刷物が容易に得られることから、パーソナルコンピュータやデジタルカメラなどの普及に伴い、オフィスのみならず一般ユーザにも広く普及してきている。
さらに、最近のインクジェットプリンタでは、高階調での印刷が要求されている。階調とは、液体ドットで表される画素に含まれる各色の濃度の状態であり、各画素の色の濃度に応じた液体ドットの大きさを階調度といい、液体ドットで表現できる階調度の数を階調数と呼ぶ。高階調とは、階調数が大きいことを意味する。階調度を変えるには、液体噴射ヘッドに設けられたアクチュエータへの駆動パルスを変える必要がある。アクチュエータが圧電素子である場合には、圧電素子に印加される電圧値が大きくなると圧電素子(正確には振動板)の変位量(歪み)が大きくなるので、これを用いて液体ドットの階調度を変えることができる。
【0003】
そこで、以下に挙げる特許文献1では、電圧波高値が異なる複数の駆動パルスを組み合わせて連結して駆動信号を生成し、これを液体噴射ヘッドに設けられた同じ色のノズルの圧電素子に共通して出力しておき、その中から、形成すべき液体ドットの階調度に応じた駆動パルスをノズルごとに選択し、その選択された駆動パルスを該当するノズルの圧電素子に供給して重量の異なる液体を噴射するようにすることで、要求される液体ドットの階調度を達成するようにしている。
【0004】
駆動信号(或いは駆動パルス)の生成方法は、下記特許文献2の図2に記載されている。即ち、駆動信号のデータが記憶されているメモリからデータを読出し、それをD/A変換器でアナログデータに変換し、電圧増幅器、電流増幅器を通して液体噴射ヘッドに駆動信号を供給する。電流増幅器の回路構成は、同図3に示すように、プッシュプル接続されたトランジスタで構成され、いわゆるリニア駆動によって駆動信号を増幅している。しかしながら、このような構成の電流増幅器では、トランジスタのリニア駆動そのものが低効率であり、トランジスタ自体の発熱対策として大型トランジスタを使用する必要がある上、トランジスタの冷却用放熱板が必要となるなど、回路規模が大きくなるという欠点があり、特に冷却用放熱板の大きさは、レイアウト上、大きな障害となる。
【0005】
この欠点を克服するため、駆動信号の増幅出力にデジタル電力増幅器いわゆるD級アンプを用いることが考えられる。デジタル電力増幅器は、アナログ電力増幅器に比べて電力増幅効率に優れているために電力損失が少なく、また駆動信号の早い立ち上がりや立ち下がりにも十分に対応することが可能である。しかしながら、デジタル電力増幅器を用いて駆動信号の増幅を行う場合、電源電圧の変動により出力される駆動信号の電圧値も変動してしまう。そこで、下記特許文献3に記載されるインクジェットプリンタでは、出力された駆動信号を帰還いわゆるフィードバックをかけて補正するようにしている。
【特許文献1】特開平10−81013号公報
【特許文献2】特開2004−306434号公報
【特許文献3】特開2005−329710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、駆動信号を帰還する方法では、帰還された駆動信号と比較するためのアナログ信号を生成するD/Aコンバータや帰還回路などの部品が必要となり、部品点数やコストの増加が生じるという問題がある。また、パルス変調器、デジタル電力増幅器、平滑フィルタを介して生成された駆動信号を帰還するため、電源電圧の短時間な変動に対して補正が間に合わないという問題もある。また、駆動させるアクチュエータ数によって駆動信号の位相も変化するため、単一な位相特性のフィルタでは、帰還される駆動信号の位相変化に対応しきれないという問題もある。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、部品点数やコストの増大を抑制防止しながら電源電圧の変動に起因する駆動信号の電圧値の変動を抑制防止可能な液体噴射装置および印刷装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の液体噴射装置は、液体噴射ヘッドに設けられた複数のノズルと、前記ノズルに対応して設けられたアクチュエータと、前記アクチュエータに駆動信号を印加する駆動手段とを備えた液体噴射装置であって、前記駆動手段は、前記アクチュエータの駆動を制御する信号の基準となる駆動波形信号を生成する駆動波形信号発生手段と、前記駆動波形信号発生手段で生成された駆動波形信号をパルス変調する変調手段と、前記変調手段でパルス変調された変調信号を電力増幅するデジタル電力増幅器と、前記デジタル電力増幅器で電力増幅された電力増幅変調信号を平滑化して前記アクチュエータに駆動信号として供給する平滑フィルタと、前記デジタル電力増幅器への電源電圧に応じて前記変調信号を補正する変調信号補正手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0008】
上記発明の液体噴射装置によれば、平滑フィルタのフィルタ特性を電力増幅変調信号成分のみ十分に平滑化できるものとすることでアクチュエータへの駆動信号の早い立ち上がり、立ち下がりを可能としながら、電力損失の少ないデジタル電力増幅器によって駆動信号を効率よく電力増幅できるので、冷却用放熱板などの冷却手段が不要となる。
また、デジタル電力増幅器への電源電圧に応じて変調信号を補正する構成としたため、部品点数やコストの増大を抑制防止しながらデジタル電力増幅器への電源電圧の変動による駆動信号の電圧値の変動を抑制防止することができる。
【0009】
さらに、前記変調信号補正手段は、前記デジタル電力増幅器への電源電圧を検出する電源電圧検出手段と、前記電源電圧検出手段で検出された前記電源電圧に基づいて前記駆動波形信号発生手段で生成された前記駆動波形信号を補正する駆動波形信号補正手段とを備えることが望ましい。
また、前記変調信号補正手段は、前記デジタル電力増幅器への電源電圧を検出する電源電圧検出手段と、前記電源電圧検出手段で検出された前記電源電圧に基づいて前記パルス変調のための三角波信号の振幅を補正する三角波信号補正手段とを備えることが望ましい。
【0010】
上記発明の液体噴射装置によれば、デジタル電力増幅器への電源電圧の変動による駆動信号の電圧値の変動を確実に抑制防止することができる。
さらに、前記変調信号補正手段は、駆動させるアクチュエータの数から前記デジタル電力増幅器への変動電源電圧を算出する変動電源電圧算出手段と、前記変動電源電圧算出手段で算出された変動電源電圧に基づいて前記駆動波形信号発生手段で生成された駆動波形信号を補正する駆動波形信号補正手段とを備えることが望ましい。
【0011】
また、前記変調信号補正手段は、駆動させるアクチュエータの数から前記デジタル電力増幅器への変動電源電圧を算出する変動電源電圧算出手段と、前記変動電源電圧算出手段で算出された変動電源電圧基づいて前記パルス変調のための三角波信号の振幅を補正する三角波信号補正手段とを備えることが望ましい。
上記発明の液体噴射装置によれば、デジタル電力増幅器への電源電圧の短時間な変動による駆動信号の電圧値の変動を確実に抑制防止することができる。
【0012】
また、本発明の印刷装置は、前述の液体噴射装置を備えた印刷装置であることが望ましい。
上記発明の印刷装置によれば、平滑フィルタのフィルタ特性を電力増幅変調信号成分のみ十分に平滑化できるものとすることでアクチュエータへの駆動信号の早い立ち上がり、立下がりを可能としながら、電力損失の少ないデジタル電力増幅器によって駆動信号を効率よく電力増幅できるので、冷却用放熱板などの冷却手段が不要となり、電力損失を低減して省電力化が可能となるとともに、複数の液体噴射ヘッドを効率よく配置することができ、これにより印刷装置の小型化が可能となる。
また、デジタル電力増幅器への電源電圧に応じて変調信号を補正する構成としたため、部品点数やコストの増大を抑制防止しながらデジタル電力増幅器への電源電圧の変動による駆動信号の電圧値の変動を抑制防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態の印刷装置の概略構成図であり、図1aは、その平面図、図1bは正面図である。図1において、印刷媒体1は、図の右方から左方に向けて図の矢印方向に搬送され、その搬送途中の印字領域で印字される、ラインヘッド型印刷装置である。但し、第1実施形態の液体噴射ヘッドは一カ所だけでなく、二カ所に分けて配設されている。
【0014】
図中の符号2は、印刷媒体1の搬送方向上流側に設けられた第1液体噴射ヘッド、符号3は、同じく下流側に設けられた第2液体噴射ヘッドであり、第1液体噴射ヘッド2の下方には印刷媒体1を搬送するための第1搬送部4が設けられ、第2液体噴射ヘッド3の下方には第2搬送部5が設けられている。第1搬送部4は、印刷媒体1の搬送方向と交差する方向(以下、ノズル列方向とも称す)に所定の間隔をあけて配設された4本の第1搬送ベルト6で構成され、第2搬送部5は、同じく印刷媒体1の搬送方向と交差する方向(ノズル列方向)に所定の間隔をあけて配設された4本の第2搬送ベルト7で構成される。
【0015】
4本の第1搬送ベルト6と同じく4本の第2搬送ベルト7とは、互いに交互に隣り合うように配設されている。第1実施形態では、これらの搬送ベルト6,7のうち、ノズル列方向右側2本の第1搬送ベルト6及び第2搬送ベルト7と、ノズル列方向左側2本の第1搬送ベルト6及び第2搬送ベルト7とを区分する。即ち、ノズル列方向右側2本の第1搬送ベルト6及び第2搬送ベルト7の重合部に右側駆動ローラ8Rが配設され、ノズル列方向左側2本の第1搬送ベルト6及び第2搬送ベルト7の重合部に左側駆動ローラ8Lが配設され、それより上流側に右側第1従動ローラ9R及び左側第1従動ローラ9Lが配設され、下流側に右側第2従動ローラ10R及び左側第2従動ローラ10Lが配設されている。これらのローラは、一連のように見られるが、実質的には図1aの中央部分で分断されている。そして、ノズル列方向右側2本の第1搬送ベルト6は右側駆動ローラ8R及び右側第1従動ローラ9Rに巻回され、ノズル列方向左側2本の第1搬送ベルト6は左側駆動ローラ8L及び左側第1従動ローラ9Lに巻回され、ノズル列方向右側2本の第2搬送ベルト7は右側駆動ローラ8R及び右側第2従動ローラ10Rに巻回され、ノズル列方向左側2本の第2搬送ベルト7は左側駆動ローラ8L及び左側第2従動ローラ10Lに巻回されており、右側駆動ローラ8Rには右側電動モータ11Rが接続され、左側駆動ローラ8Lには左側電動モータ11Lが接続されている。従って、右側電動モータ11Rによって右側駆動ローラ8Rを回転駆動すると、ノズル列方向右側2本の第1搬送ベルト6で構成される第1搬送部4及び同じくノズル列方向右側2本の第2搬送ベルト7で構成される第2搬送部5は、互いに同期し且つ同じ速度で移動し、左側電動モータ11Lによって左側駆動ローラ8Lを回転駆動すると、ノズル列方向左側2本の第1搬送ベルト6で構成される第1搬送部4及び同じくノズル列方向左側2本の第2搬送ベルト7で構成される第2搬送部5は、互いに同期し且つ同じ速度で移動する。但し、右側電動モータ11Rと左側電動モータ11Lの回転速度を異なるものとすると、ノズル列方向左右の搬送速度を変えることができ、具体的には右側電動モータ11Rの回転速度を左側電動モータ11Lの回転速度よりも大きくすると、ノズル列方向右側の搬送速度を左側よりも大きくすることができ、左側電動モータ11Lの回転速度を右側電動モータ11Rの回転速度よりも大きくすると、ノズル列方向左側の搬送速度を右側よりも大きくすることができる。
【0016】
第1液体噴射ヘッド2及び第2液体噴射ヘッド3は、例えばイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の色単位に、印刷媒体1の搬送方向にずらして配設されている。各液体噴射ヘッド2,3には、図示しない各色の液体タンクから液体供給チューブを介して液体が供給される。各液体噴射ヘッド2,3には、印刷媒体1の搬送方向と交差する方向に、複数のノズルが形成されており(即ちノズル列方向)、それらのノズルから同時に必要箇所に必要量の液体を噴射することにより、印刷媒体1上に微小な液体ドットを形成する。これを色単位に行うことにより、第1搬送部4及び第2搬送部5で搬送される印刷媒体1を一度通過させるだけで、1パスによる印刷を行うことができる。即ち、これらの液体噴射ヘッド2,3の配設領域が印字領域に相当する。
【0017】
液体噴射ヘッドの各ノズルから液体を噴射する方法としては、静電方式、ピエゾ方式、膜沸騰ジェット方式などがある。静電方式は、アクチュエータである静電ギャップに駆動信号を与えると、キャビティ内の振動板が変位してキャビティ内に圧力変化を生じ、その圧力変化によって液体がノズルから噴射されるというものである。ピエゾ方式は、アクチュエータであるピエゾ素子に駆動信号を与えると、キャビティ内の振動板が変位してキャビティ内に圧力変化を生じ、その圧力変化によって液体がノズルから噴射されるというものである。膜沸騰ジェット方式は、キャビティ内に微小ヒータがあり、瞬間的に300℃以上に加熱されて液体が膜沸騰状態となって気泡が生成し、その圧力変化によって液体がノズルから噴射されるというものである。本発明は、いずれの液体噴射方法も適用可能であるが、駆動信号の波高値や電圧増減傾きを調整することで液体の噴射量を調整可能なピエゾ素子に特に好適である。
【0018】
第1液体噴射ヘッド2の液体噴射用ノズルは第1搬送部4の4本の第1搬送ベルト6の間にだけ形成されており、第2液体噴射ヘッド3の液体噴射用ノズルは第2搬送部5の4本の第2搬送ベルト7の間にだけ形成されている。これは、後述するクリーニング部によって各液体噴射ヘッド2,3をクリーニングするためであるが、このようにすると、どちらか一方の液体噴射ヘッドだけでは、1パスによる全面印刷を行うことができない。そのため、互いに印字できない部分を補うために第1液体噴射ヘッド2と第2液体噴射ヘッド3とを印刷媒体1の搬送方向にずらして配設しているのである。
【0019】
第1液体噴射ヘッド2の下方に配設されているのが当該第1液体噴射ヘッド2をクリーニングする第1クリーニングキャップ12、第2液体噴射ヘッド3の下方に配設されているのが当該第2液体噴射ヘッド3をクリーニングする第2クリーニングキャップ13である。各クリーニングキャップ12,13は、いずれも第1搬送部4の4本の第1搬送ベルト6の間、及び第2搬送部5の4本の第2搬送ベルト7の間を通過できる大きさに形成してある。これらのクリーニングキャップ12,13は、例えば液体噴射ヘッド2,3の下面、即ちノズル面に形成されているノズルを覆い且つ当該ノズル面に密着可能な方形有底のキャップ体と、その底部に配設された液体吸収体と、キャップ体の底部に接続されたチューブポンプと、キャップ体を昇降する昇降装置とで構成されている。そこで、昇降装置によってキャップ体を上昇して液体噴射ヘッド2,3のノズル面に密着する。その状態で、チューブポンプによってキャップ体内を負圧にすると、液体噴射ヘッド2,3のノズル面に開設されているノズルから液体や気泡が吸い出され、液体噴射ヘッド2,3をクリーニングすることができる。クリーニングが終了したら、クリーニングキャップ12,13を下降する。
【0020】
第1従動ローラ9R,9Lの上流側には、給紙部15から供給される印刷媒体1の給紙タイミングを調整すると共に当該印刷媒体1のスキューを補正する、二個一対のゲートローラ14が設けられている。スキューとは、搬送方向に対する印刷媒体1の捻れである。また、給紙部15の上方には、印刷媒体1を供給するためのピックアップローラ16が設けられている。なお、図中の符号17は、ゲートローラ14を駆動するゲートローラモータである。
【0021】
駆動ローラ8R,8Lの下方にはベルト帯電装置19が配設されている。このベルト帯電装置19は、駆動ローラ8R,8Lを挟んで第1搬送ベルト6及び第2搬送ベルト7に当接する帯電ローラ20と、帯電ローラ20を第1搬送ベルト6及び第2搬送ベルト7に押し付けるスプリング21と、帯電ローラ20に電荷を付与する電源18とで構成されており、帯電ローラ20から第1搬送ベルト6及び第2搬送ベルト7に電荷を付与してそれらを帯電する。一般に、これらのベルト類は、中・高抵抗体又は絶縁体で構成されているので、ベルト帯電装置19によって帯電すると、その表面に印加された電荷が、同じく高抵抗体又は絶縁体で構成される印刷媒体1に誘電分極を生じせしめ、その誘電分極によって発生する電荷とベルト表面の電荷との間に生じる静電気力でベルトに印刷媒体1を吸着することができる。なお、ベルト帯電装置19としては、電荷を降らせるコロトロンなどでもよい。
【0022】
従って、この印刷装置によれば、ベルト帯電装置19で第1搬送ベルト6及び第2搬送ベルト7の表面を帯電し、その状態でゲートローラ14から印刷媒体1を給紙し、図示しない拍車やローラで構成される紙押えローラで印刷媒体1を第1搬送ベルト6に押し付けると、前述した誘電分極の作用によって印刷媒体1は第1搬送ベルト6の表面に吸着される。この状態で、電動モータ11R,11Lによって駆動ローラ8R,8Lを回転駆動すると、その回転駆動力が第1搬送ベルト6を介して第1従動ローラ9R,9Lに伝達される。
【0023】
このようにして印刷媒体1を吸着した状態で第1搬送ベルト6を搬送方向下流側に移動し、印刷媒体1を第1液体噴射ヘッド2の下方に移動し、当該第1液体噴射ヘッド2に形成されているノズルから液体を噴射して印字を行う。この第1液体噴射ヘッド2による印字が終了したら、印刷媒体1を搬送方向下流側に移動して第2搬送部5の第2搬送ベルト7に乗り移らせる。前述したように、第2搬送ベルト7もベルト帯電装置19によって表面が帯電しているので、前述した誘電分極の作用によって印刷媒体1は第2搬送ベルト7の表面に吸着される。
【0024】
この状態で、第2搬送ベルト7を搬送方向下流側に移動し、印刷媒体1を第2液体噴射ヘッド3の下方に移動し、当該第2液体噴射ヘッドに形成されているノズルから液体を噴射して印字を行う。この第2液体噴射ヘッドによる印字が終了したら、印刷媒体1をさらに搬送方向下流側に移動し、図示しない分離装置で印刷媒体1を第2搬送ベルト7の表面から分離しながら排紙部に排紙する。
【0025】
また、第1及び第2液体噴射ヘッド2,3のクリーニングが必要なときには、前述したように第1及び第2クリーニングキャップ12,13を上昇して第1及び第2液体噴射ヘッド2,3のノズル面にキャップ体を密着し、その状態でキャップ体内を負圧にすることで第1及び第2液体噴射ヘッド2,3のノズルから液体や気泡を吸い出してクリーニングし、その後、第1及び第2クリーニングキャップ12,13を下降する。
【0026】
前記印刷装置内には、自身を制御するための制御装置が設けられている。この制御装置は、図2に示すように、パーソナルコンピュータ、デジタルカメラ等のホストコンピュータ60から入力された印刷データに基づいて、印刷装置や給紙装置等を制御することにより印刷媒体に印刷処理を行うものである。そして、ホストコンピュータ60から入力された印刷データを受取る入力インタフェース部61と、この入力インタフェース部61から入力された印刷データに基づいて印刷処理を実行するマイクロコンピュータで構成される制御部62と、ゲートローラモータ17を駆動制御するゲートローラモータドライバ63と、ピックアップローラ16を駆動するためのピックアップローラモータ51を駆動制御するピックアップローラモータドライバ64と、液体噴射ヘッド2、3を駆動制御するヘッドドライバ65と、右側電動モータ11Rを駆動制御する右側電動モータドライバ66Rと、左側電動モータ11Lを駆動制御する左側電動モータドライバ66Lと、各ドライバ63〜65、66R、66Lの出力信号を外部のゲートローラモータ17、ピックアップローラモータ51、液体噴射ヘッド2、3、右側電動モータ11R、左側電動モータ11Lで使用する駆動信号に変換して出力するインタフェース67とを備えて構成される。
【0027】
制御部62は、印刷処理等の各種処理を実行するCPU(Central Processing Unit)62aと、入力インタフェース61を介して入力された印刷データ或いは当該印刷データ印刷処理等を実行する際の各種データを一時的に格納し、或いは印刷処理等のアプリケーションプログラムを一時的に展開するRAM(Random Access Memory)62cと、CPU62aで実行する制御プログラム等を格納する不揮発性半導体メモリで構成されるROM(Read-Only Memory)62dを備えている。この制御部62は、インタフェース部61を介してホストコンピュータ60から印刷データ(画像データ)を入手すると、CPU62aが、この印刷データに所定の処理を実行して、いずれのノズルから液体を噴射するか或いはどの程度のインク滴を吐出するかという印字データ(駆動パルス選択データSI&SP)を出力し、この印字データ及び各種センサからの入力データに基づいて、各ドライバ63〜65、66R、66Lに制御信号を出力する。各ドライバ63〜65、66R、66Lから制御信号が出力されると、これらがインタフェース部67で駆動信号に変換されて液体噴射ヘッドの複数のノズルに対応するアクチュエータ、ゲートローラモータ17、ピックアップローラモータ51、右側電動モータ11R、左側電動モータ11Lがそれぞれ作動して、印刷媒体1の給紙及び搬送、印刷媒体1の姿勢制御、並びに印刷媒体1への印刷処理が実行される。なお、制御部62内の各構成要素は、図示しないバスを介して電気的に接続されている。
【0028】
また、制御部62は、後述する駆動信号を形成するための波形形成用データDATAを後述する波形メモリ701に書込むために、書込みイネーブル信号DENと、書込みクロック信号WCLKと、書込みアドレスデータA0〜A3とを出力して、16ビットの波形形成用データDATAを波形メモリ701に書込むと共に、この波形メモリ701に記憶された波形形成用データDATAを読出すための読出しアドレスデータA0〜A3、波形メモリ701から読出した波形形成用データDATAをラッチするタイミングを設定する第1のクロック信号ACLK、ラッチした波形データを加算するためのタイミングを設定する第2のクロック信号BCLK及びラッチデータをクリアするクリア信号CLERをヘッドドライバ65に出力する。
【0029】
ヘッドドライバ65は、駆動波形信号WCOMを形成する駆動波形信号発生回路70と、クロック信号SCKを出力する発振回路71とを備えている。駆動波形信号発生回路70は、図3に示すように、制御部62から入力される駆動波形信号生成のための波形形成用データDATAを所定のアドレスに対応する記憶素子に記憶する波形メモリ701と、この波形メモリ701から読出された波形形成用データDATAを前述した第1のクロック信号ACLKによってラッチするラッチ回路702と、ラッチ回路702の出力と後述するラッチ回路704から出力される波形生成データWDATAとを加算する加算器703と、この加算器703の加算出力を前述した第2のクロック信号BCLKによってラッチするラッチ回路704と、このラッチ回路704から出力される波形生成データWDATAをアナログ信号に変換するD/A変換器705とを備えている。ここで、ラッチ回路702、704には制御部62から出力されるクリア信号CLERが入力され、このクリア信号CLERがオフ状態となったときに、ラッチデータがクリアされる。
【0030】
波形メモリ701は、図4に示すように、指示したアドレスにそれぞれ数ビットずつのメモリ素子が配列され、アドレスA0〜A3と共に波形データDATAが記憶される。具体的には、制御部62から指示したアドレスA0〜A3に対して、クロック信号WCLKと共に波形データDATAが入力され、書込みイネーブル信号DENの入力のよってメモリ素子に波形データDATAが記憶される。
【0031】
次に、この駆動波形信号発生回路70による駆動波形信号生成の原理について説明する。まず、前述したアドレスA0には単位時間当たりの電圧変化量として0となる波形データが書込まれている。同様に、アドレスA1には+ΔV1、アドレスA2には−ΔV2、アドレスA3には+ΔV3の波形データが書込まれている。また、クリア信号CLERによってラッチ回路702、704の保存データがクリアされる。また、駆動波形信号WCOMは、波形データによって中間電位(オフセット)まで立ち上げられている。
【0032】
この状態から、例えば図5に示すようにアドレスA1の波形データが読込まれ且つ第1クロック信号ACLKが入力されるとラッチ回路702に+ΔV1のデジタルデータが保存される。保存された+ΔV1のデジタルデータは加算器703を経てラッチ回路704に入力され、このラッチ回路704では、第2クロック信号BCLKの立ち上がりに同期して加算器703の出力を保存する。加算器703には、ラッチ回路704の出力も入力されるので、ラッチ回路704の出力、即ち駆動信号COMは、第2クロック信号BCLKの立ち上がりのタイミングで+ΔV1ずつ加算される。この例では、時間幅T1の間、アドレスA1の波形データが読込まれ、その結果、+ΔV1のデジタルデータが3倍になるまで加算されている。
【0033】
次いで、アドレスA0の波形データが読込まれ且つ第1クロック信号ACLKが入力されるとラッチ回路702に保存されるデジタルデータは0に切替わる。この0のデジタルデータは、前述と同様に、加算器703を経て、第2クロック信号BCLKの立ち上がりのタイミングで加算されるが、デジタルデータが0であるので、実質的には、それ以前の値が保持される。この例では、時間幅T0の間、駆動信号COMが一定値に保持されている。
【0034】
次いで、アドレスA2の波形データが読込まれ且つ第1クロック信号ACLKが入力されるとラッチ回路702に保存されるデジタルデータは−ΔV2に切替わる。この−ΔV2のデジタルデータは、前述と同様に、加算器703を経て、第2クロック信号BCLKの立ち上がりのタイミングで加算されるが、デジタルデータが−ΔV2であるので、実質的には第2クロック信号に合わせて駆動信号COMは−ΔV2ずつ減算される。この例では、時間幅T2の間、−ΔV2のデジタルデータが6倍になるまで減算されている。
【0035】
このようにして生成されたデジタル信号をD/A変換器705でアナログ変換すると、図6に示すような駆動波形信号WCOMが得られる。これを図7に示す駆動信号出力回路で電力増幅して液体噴射ヘッド2、3に駆動信号COMとして供給することで、各ノズルに設けられているアクチュエータを駆動することが可能となり、各ノズルから液体を噴射することができる。この駆動信号出力回路は、駆動波形信号発生回路70で生成された駆動波形信号WCOMをパルス変調する変調回路24と、変調回路24でパルス変調された変調(PWM)信号を電力増幅するデジタル電力増幅器25と、デジタル電力増幅器25で電力増幅された変調(PWM)信号を平滑化する平滑フィルタ26とを備えて構成される。
【0036】
この駆動信号COMの立ち上がり部分がノズルに連通するキャビティ(圧力室)の容積を拡大して液体を引込む(液体の噴射面を考えればメニスカスを引き込むとも言える)段階であり、駆動信号COMの立ち下がり部分がキャビティの容積を縮小して液体を押出す(液体の噴射面を考えればメニスカスを押出すとも言える)段階であり、液体を押出した結果、液体がノズルから噴射される。この液体を引込んでから、必要に応じて液体を押出す一連の波形信号を駆動パルスとし、駆動信号COMは、複数の駆動パルスが連結されたものとする。ちなみに、駆動信号COM又は駆動波形信号WCOMの波形は、前述からも容易に推察されるように、アドレスA0〜A3に書込まれる波形データ0、+ΔV1、−ΔV2、+ΔV3、第1クロック信号ACLK、第2クロック信号BCLKによって調整可能である。また、便宜上、第1クロック信号ACLKをクロック信号と呼んでいるが、実質的には、後述する演算処理によって、信号の出力タイミングを自在に調整することができる。
【0037】
この電圧台形波からなる一つの駆動信号COMを駆動パルスPCOMとし、各駆動パルスPCOMの電圧増減傾きや波高値を種々に変更することにより、液体の引込量や引込速度、液体の押出量や押出速度を変化させることができ、これにより液体の噴射量を変化させて異なる液体ドットの大きさを得ることができる。従って、図6に示すように、複数の駆動パルスPCOMを時系列的に連結させて駆動信号COMを生成し、そのうちから単独の駆動パルスPCOMを選択してアクチュエータに供給し、液体を噴射したり、複数の駆動パルスPCOMを選択してアクチュエータに供給し、液体を複数回噴射したりすることで種々の液体ドットの大きさを得ることができる。即ち、液体が乾かないうちに複数の液体を同じ位置に着弾すると、実質的に大きな液体を噴射するのと同じことになり、液体ドットの大きさを大きくすることできるのである。このような技術の組み合わせによって多階調化を図ることが可能となる。なお、図6の左端の駆動パルスPCOM1は、液体を引込むだけで押出していない。これは、微振動と呼ばれ、液体を噴射せずに、ノズルの乾燥を抑制防止したりするのに用いられる。
【0038】
これらの結果、液体噴射ヘッド2、3には、駆動信号出力回路で生成された駆動信号COM、印刷データに基づいて噴射するノズルを選択すると共にアクチュエータの駆動信号COMへの接続タイミングを決定する駆動パルス選択データSI&SP、全ノズルにノズル選択データが入力された後、駆動パルス選択データSI&SPに基づいて駆動信号COMと液体噴射ヘッド2、3のアクチュエータとを接続させるラッチ信号LAT及びチャンネル信号CH、駆動パルス選択データSI&SPをシリアル信号として液体噴射ヘッド2、3に送信するためのクロック信号SCKが入力されている。なお、これ以後、複数の駆動信号COMを時系列的に連結して出力する場合、単独の駆動信号COMを駆動パルスPCOMとし、駆動パルスPCOMが時系列的に連結された信号全体を駆動信号COMと記す。
【0039】
次に、前記駆動信号出力回路から出力される駆動信号COMとアクチュエータとを接続する構成について説明する。図8は、駆動信号COMとピエゾ素子などのアクチュエータ22とを接続する選択部のブロック図である。この選択部は、液体を噴射させるべきノズルに対応したピエゾ素子などのアクチュエータ22を指定するための駆動パルス選択データSI&SPを保存するシフトレジスタ211と、シフトレジスタ211のデータを一時的に保存するラッチ回路212と、ラッチ回路212の出力をレベル変換するレベルシフタ213と、レベルシフタの出力に応じて駆動信号COMをアクチュエータ22に接続する選択スイッチ201によって構成されている。
【0040】
シフトレジスタ211には、駆動パルス選択データSI&SPが順次入力されると共に、クロック信号SCKの入力パルスに応じて記憶領域が初段から順次後段にシフトする。ラッチ回路212は、ノズル数分の駆動パルス選択データSI&SPがシフトレジスタ211に格納された後、入力されるラッチ信号LATによってシフトレジスタ211の各出力信号をラッチする。ラッチ回路212に保存された信号は、レベルシフタ213によって次段の選択スイッチ201をオンオフできる電圧レベルに変換される。これは、駆動信号COMが、ラッチ回路212の出力電圧に比べて高い電圧であり、これに合わせて選択スイッチ201の動作電圧範囲も高く設定されているためである。従って、レベルシフタ213によって選択スイッチ201が閉じられるアクチュエータ22は駆動パルス選択データSI&SPの接続タイミングで駆動信号COMに接続される。また、シフトレジスタ211の駆動パルス選択データSI&SPがラッチ回路212に保存された後、次の駆動パルス選択データSI&SPをシフトレジスタ211に入力し、液体の噴射タイミングに合わせてラッチ回路212の保存データを順次更新する。なお、図中の符号HGNDは、アクチュエータ22のグランド端である。また、この選択スイッチ201によれば、アクチュエータ22を駆動信号COMから切り離した後も、当該アクチュエータ22の入力電圧は、切り離す直前の電圧に維持される。
【0041】
図9には、前述した駆動信号出力回路の変調回路24から平滑フィルタ26までの具体的な構成を示す。駆動波形信号WCOMをパルス変調する変調回路24には、一般的なパルス幅変調(PWM)回路を用いた。この変調回路24は、周知の三角波信号発振器32と、この三角波信号発振器32から出力される三角波信号と駆動波形信号WCOMとを比較する比較器31とを備えて構成される(実際の回路には、後述するように演算回路や乗算器などを備えている)。この変調回路24によれば、図10に示すように、駆動波形信号WCOMが三角波信号以上であるときにHi、駆動波形信号WCOMが三角波信号未満であるときにLoとなる変調(PWM)信号が出力される。なお、第1実施形態では、変調回路にパルス幅変調回路を用いたが、これに代えてパルス密度変調(PDM)回路を用いてもよい。
【0042】
デジタル電力増幅器25は、実質的に電力を増幅するための二つのMOSFETTrP、TrNからなるハーフブリッジドライバ段33と、変調回路24からの変調(PWM)信号に基づいて、それらのMOSFETTrP、TrNのゲート−ソース間信号GP、GNを調整するためのゲートドライブ回路34とを備えて構成され、ハーフブリッジドライバ段33は、ハイサイド側MOSFETTrPとローサイド側MOSFETTrNをプッシュプル型に組み合わせたものである。このうち、ハイサイド側MOSFETTrPのゲート−ソース間信号をGP、ローサイド側MOSFETTrNのゲート−ソース間信号をGN、ハーフブリッジドライバ段33の出力をVaとしたとき、それらが変調(PWM)信号に応じてどのように変化するかを図11に示す。なお、各MOSFETTrP、TrNのゲート−ソース間信号GP、GNの電圧値Vgsは、それらのMOSFETTrP、TrNをONするのに十分な電圧値とする。
【0043】
変調(PWM)信号がHiレベルであるとき、ハイサイド側MOSFETTrPのゲート−ソース間信号GPはHiレベルとなり、ローサイド側MOSFETTrNのゲート−ソース間信号GNはLoレベルとなるので、ハイサイド側MOSFETTrPはON状態となり、ローサイド側MOSFETTrNはOFF状態となり、その結果、ハーフブリッジドライバ段33の出力Vaは、電源電圧VDDとなる。一方、変調(PWM)信号がLoレベルであるとき、ハイサイド側MOSFETTrPのゲート−ソース間信号GPはLoレベルとなり、ローサイド側MOSFETTrNのゲート−ソース間信号GNはHiレベルとなるので、ハイサイド側MOSFETTrPはOFF状態となり、ローサイド側MOSFETTrNはON状態となり、その結果、ハーフブリッジドライバ段33の出力Vaは0となる。
【0044】
このデジタル電力増幅回路25のハーフブリッジドライバ段33の出力Vaが平滑フィルタ26を介して選択スイッチ201に駆動信号COMとして供給される。平滑フィルタ26は、一つの抵抗Rと一つのコンデンサCの組み合わせからなる一次RCローパス(低域通過)フィルタで構成される。このローパスフィルタからなる平滑フィルタ26は、デジタル電力増幅回路25のハーフブリッジドライバ段33の出力Vaの高周波成分、即ち電力増幅変調(PWM)のキャリア信号成分を十分に減衰し且つ駆動信号成分COM(若しくは駆動波形信号成分WCOM)を減衰しないように設計される。また、必要に応じて、ノズルやアクチュエータ22の個体差によるインク滴液体の重量ばらつきを低減するように、ローパスフィルタの特性を設定してもよい。
【0045】
前述のようにデジタル電力増幅器25のMOSFETTrP、TrNが、デジタル駆動される場合には、MOSFETがスイッチ素子として作用するため、ON状態のMOSFETに電流が流れるが、ドレイン−ソース間の抵抗値は非常に小さく、電力損失は殆ど発生しない。また、OFF状態のMOSFETには電流が流れないので電力損失は発生しない。従って、このデジタル電力増幅器25の電力損失は極めて小さく、小型のMOSFETを使用することができ、冷却用放熱板などの冷却手段も不要である。ちなみに、トランジスタをリニア駆動するときの効率が30%程度であるのに対し、デジタル電力増幅器の効率は90%以上である。また、トランジスタの冷却用放熱板は、トランジスタ一つに対して60mm角程度の大きさが必要になるので、こうした冷却用放熱板が不要になると、実際のレイアウト面で圧倒的に有利である。
【0046】
次に、第1実施形態の変調回路24の実際の構成について説明する。まず、前述の説明からも推察されるように、デジタル電力増幅器25では、電源電圧VDDが変動すると、駆動信号COMの電圧値も変化する。電源電圧VDDが定格値であるときの駆動信号COMの電圧値が図12に実線で示すものであるとしたとき、電源電圧VDDが低下すると駆動信号COMの電圧値も図12に破線で示すように低下してしまう。駆動信号COMの電圧値の変動は、そのままアクチュエータ22の動作量の変動として表れるので、噴射される液体の重量が変化し、結果的に所望する印刷画質が得られない。また、このような電源電圧VDDの変動は、少なくとも商用電源を使用する限り、回避することができない。
【0047】
そこで、第1実施形態では、図13に示すように、変調回路24の比較器31の入力側に乗算器27を介装すると共に、コンピュータシステムで構成される演算回路28を設け、この演算回路28で電源電圧VDDを読込み、乗算器27のゲイン(係数)を調整する。ゲインは、設計上の所定電源電圧VDDstdを検出された電源電圧VDDで除した値VDDstd/VDDとする。図14aには、補正前の駆動波形信号WCOMとそれにゲインVDDstd/VDDが乗じられて補正された補正済駆動波形信号WCOMcrctと三角波信号発生器32から出力された三角波信号WTRIの電圧値を、図14bには、補正済駆動波形信号WCOMcrctと三角波信号WTRIによる変調(PWM)信号を示す。同図から明らかなように、駆動波形WCOMを実際の電源電圧VDDで補正することにより、本来の駆動信号COMを発生するための変調信号が出力され、結果として駆動信号COMの電圧値を所定値に維持して液体の噴射重量を確保することができる。
【0048】
このように、第1実施形態によれば、駆動波形信号発生回路70でアクチュエータ22の駆動を制御する信号の基準となる駆動波形信号WCOMを生成し、この生成された駆動波形信号WCOMを変調回路24でパルス変調し、このパルス変調された変調信号をデジタル電力増幅器25で電力増幅し、この電力増幅された電力増幅変調信号を平滑フィルタ26で平滑化してアクチュエータ22に駆動信号COMとして供給することとしたため、平滑フィルタ26のフィルタ特性を電力増幅変調信号成分のみ十分に平滑化できるものとすることでアクチュエータ22への駆動信号COMの早い立ち上がり、立ち下がりを可能としながら、電力損失の少ないデジタル電力増幅器25によって駆動信号COMを効率よく電力増幅できるので、冷却用放熱板などの冷却手段が不要となることで複数の液体噴射ヘッドを効率よく配置することができ、これにより印刷装置の小型化が可能となる。
【0049】
また、デジタル電力増幅器25への電源電圧VDDに応じて変調信号を補正することとしたため、部品点数やコストの増大を抑制防止しながらデジタル電力増幅器25への電源電圧VDDの変動による駆動信号COMの電圧値の変動を抑制防止することができる。
また、デジタル電力増幅器25への電源電圧VDDを検出し、その検出された電源電圧VDDに基づいて駆動波形信号発生回路70で生成された駆動波形信号WCOMを補正することとしたため、デジタル電力増幅器25への電源電圧VDDの変動による駆動信号COMの電圧値の変動を確実に抑制防止することができる。
また、駆動波形信号発生回路70から変調回路24まではデジタル化、即ち演算処理によって構築することができ、そのようにすれば構造、コスト、レイアウト、消費電力、Sデータ伝送速度、発熱量などの種々の面で有効である。
【0050】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図15には、第2実施形態の変調回路24のブロック図を示す。第2実施形態では、第1実施形態の乗算器が除去され、演算回路28で電源電圧VDDを読込み、三角波信号発生器32から出力される三角波信号WTRIの波高値、つまり振幅を調整する。振幅は、設計上の所定振幅に対し、検出された電源電圧VDDを設計上の所定電源電圧VDDstdで除した補正係数VDD/VDDstdを乗じた値とする。三角波信号WTRIをデジタルに構成する場合には、三角波信号WTRIに補正係数VDD/VDDstdを乗じた値が補正済三角波信号WTRIcrctとなる。図16aには、補正前の三角波信号WTRIとそれに補正係数VDD/VDDstdが乗じられて補正された補正済三角波信号WTRIcrctと駆動波形信号WCOMの電圧値を、図16bには、駆動波形信号WCOMと補正済三角波信号WTRIcrctによる変調信号(PWM信号)を示す。同図から明らかなように、三角波信号WTRIの振幅を実際の電源電圧VDDで補正することにより、本来の駆動信号COMを発生するための変調信号が出力され、結果として駆動信号COMの電圧値を所定値に維持して液体の噴射重量を確保することができる。
【0051】
このように、第2実施形態によれば、前記第1実施形態の効果に加えて、デジタル電力増幅器25への電源電圧VDDを検出し、その検出された電源電圧VDDに基づいてパルス変調のための三角波信号WTRIの振幅を補正することとしたため、デジタル電力増幅器25への電源電圧VDDの変動による駆動信号COMの電圧値の変動を確実に抑制防止することができる。
【0052】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図17には、第3実施形態の変調回路24のブロック図を示す。第3実施形態の変調回路24の構成は、第1実施形態の図13のものと同様であるが、演算回路28では駆動パルス選択データSI&SP及びラッチ信号LATを読込み、それに基づいて乗算器27のゲインを調整する。図18には、駆動させるノズルの数、換言すれば駆動させるアクチュエータの数に応じた駆動信号COMの総電流値ICOM及び電源電圧VDDの変化の様子を示す。駆動させるアクチュエータの数が増大すれば、全駆動アクチュエータで消費される総電流値が増大する。この総電流値が増大すれば、一時的ではあっても電源電圧VDDが低下する。この駆動アクチュエータによって発生する電源電圧VDDの低下は、前記第1実施形態及び第2実施形態のように、単に電源電圧VDDを検出して変調信号を補正する方法では対応できない。
【0053】
そこで、第3実施形態では、演算回路28中で、図19に示す演算処理を行って変動電源電圧VDDACTを算出し、この変動電源電圧VDDACTを用いて変調信号を補正する。この演算処理では、まずステップS1で駆動パルス選択データSI&SP及びラッチ信号LATを読込む。
次にステップS2に移行して、ステップS1で読込まれた駆動パルス選択データSI&SP及びラッチ信号LATから駆動させるアクチュエータの数を算出する。
【0054】
次にステップS3に移行して、ステップS2で算出された駆動させるアクチュエータの数から変動電源電圧VDDACTを算出する。
次にステップS4に移行して、ステップS3で算出された変動電源電圧VDDACTに応じたゲインを乗算器27に出力してからメインプログラムに復帰する。なお、ゲインの設定方法は、前記第1実施形態と同様である。
【0055】
この演算処理によれば、駆動パルス選択データSI&SP及びラッチ信号LATから駆動させるアクチュエータの数を算出し、算出されたアクチュエータの数から変動電源電圧VDDACTを算出し、算出された変動電源電圧VDDACTに応じたゲインを乗算器27に出力して駆動波形信号WCOM、ひいては変調信号を補正することにより、駆動させるアクチュエータの数に応じた電源電圧VDDを見込んだ駆動信号COMの電圧値を所定値に維持して液体の噴射重量を確保することができる。
【0056】
このように、第3実施形態によれば、前記第1及び第2実施形態の効果に加えて、駆動させるアクチュエータ22の数からデジタル電力増幅器25への変動電源電圧VDDACTを算出し、その算出された変動電源電圧VDDACTに基づいて駆動波形信号発生回路70で生成された駆動波形信号WCOMを補正することとしたため、デジタル電力増幅器25への電源電圧VDDの短時間な変動による駆動信号COMの電圧値の変動を確実に抑制防止することができる。
【0057】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。図20には、第4実施形態の変調回路24のブロック図を示す。第4実施形態の変調回路24の構成は、第2実施形態の図15のものと同様であるが、演算回路28では駆動パルス選択データSI&SP及びラッチ信号LATを読込み、それに基づいて三角波信号WTRIの振幅を調整する。具体的には、前記第3実施形態の図19の演算処理のステップS4で、変動電源電圧VDDACTに応じた三角波信号振幅を出力する。三角波信号振幅の算出方法は第2実施形態と同様である。
【0058】
この演算処理によれば、駆動パルス選択データSI&SP及びラッチ信号LATから駆動させるアクチュエータの数を算出し、算出されたアクチュエータの数から変動電源電圧VDDACTを算出し、算出された変動電源電圧VDDACTに応じた三角波信号振幅を三角波信号発生器32に出力して変調信号を補正することにより、駆動させるアクチュエータの数に応じた電源電圧VDDを見込んだ駆動信号COMの電圧値を所定値に維持して液体の噴射重量を確保することができる。
【0059】
このように、第4実施形態によれば、前記第1乃至第3実施形態の効果に加えて、駆動させるアクチュエータ22の数からデジタル電力増幅器25への変動電源電圧VDDACTを算出し、その算出された変動電源電圧VDDACTに基づいてパルス変調のための三角波信号WTRIの振幅を補正することとしたため、デジタル電力増幅器25への電源電圧VDDの短時間な変動による駆動信号COMの電圧値の変動を確実に抑制防止することができる。
【0060】
なお、前記実施形態ではラインヘッド型印刷装置を対象として本発明を適用した例についてのみ詳述したが、本発明の液体噴射装置および印刷装置は、マルチパス型印刷装置を始めとして、液体を噴射して印刷媒体に文字や画像等を印刷するあらゆるタイプの印刷装置を対象として適用可能である。また、本発明の液体噴射装置あるいは印刷装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置き換えてもよいし、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
【0061】
また、本発明の液体噴射装置から噴射する液体としては、特に限定されず、例えば以下のような各種の材料を含む液体(サスペンション、エマルジョン等の分散液を含む)とすることができる。すなわち、カラーフィルタのフィルタ材料を含むインク、有機EL(Electro Luminescence)装置におけるEL発光層を形成するための発光材料、電子放出装置における電極上に蛍光体を形成するための蛍光材料、PDP(Plasma Display Panel)装置における蛍光体を形成するための蛍光材料、電気泳動表示装置における泳動体を形成する泳動体材料、基板の表面にバンクを形成するためのバンク材料、各種コーティング材料、電極を形成するための液状電極材料、2枚の基板間に微小なセルギャップを構成するためのスペーサを構成する粒子材料、金属配線を形成するための液状金属材料、マイクロレンズを形成するためのレンズ材料、レジスト材料、光拡散体を形成するための光拡散材料などである。
また、本発明では、液体を噴射する対象となる印刷媒体は、記録用紙のような紙に限らず、フィルム、織布、不織布等の他のメディアや、ガラス基板、シリコン基板等の各種基板のようなワークであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の液体噴射装置を適用したラインヘッド型印刷装置の一実施形態を示す概略構成図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図2】図1の印刷装置の制御装置のブロック構成図である。
【図3】図2の駆動波形信号発生回路のブロック構成図である。
【図4】図3の波形メモリの説明図である。
【図5】駆動波形信号生成の説明図である。
【図6】時系列的に連結された駆動波形信号又は駆動信号の説明図である。
【図7】駆動信号出力回路のブロック構成図である。
【図8】駆動信号をアクチュエータに接続する選択部のブロック図である。
【図9】図7の駆動信号出力回路の変調回路、デジタル電力増幅器、平滑フィルタの詳細を示すブロック図である。
【図10】図9の変調回路の作用の説明図である。
【図11】図9のデジタル電力増幅器の作用の説明図である。
【図12】電源電圧の変動による駆動信号の電圧値変動の説明図である。
【図13】第1実施形態の変調回路を示すブロック図である。
【図14】図13の変調回路による駆動波形信号、三角波信号、変調信号の説明図である。
【図15】第2実施形態の変調回路を示すブロック図である。
【図16】図15の変調回路による駆動波形信号、三角波信号、変調信号の説明図である。
【図17】第3実施形態の変調回路を示すブロック図である。
【図18】駆動アクチュエータ数の変動による変動電源電圧の説明図である。
【図19】演算回路で行われる演算処理の一例を示すフローチャートである。
【図20】第4実施形態の変調回路を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0063】
1は印刷媒体、2は第1液体噴射ヘッド、3は第2液体噴射ヘッド、4は第1搬送部、5は第2搬送部、6は第1搬送ベルト、7は第2搬送ベルト、8R,8Lは駆動ローラ、9R,9Lは第1従動ローラ、10R,10Lは第2従動ローラ、11R,11Lは電動モータ、22はアクチュエータ、24は変調回路、25はデジタル電力増幅器、26は平滑フィルタ、27は乗算器、28は演算回路、31は比較器、32は三角波信号発振器、33はハーフブリッジドライバ段、34はゲートドライブ回路、70は駆動波形信号発生回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射ヘッドに設けられた複数のノズルと、
前記ノズルに対応して設けられたアクチュエータと、
前記アクチュエータに駆動信号を印加する駆動手段と
を備えた液体噴射装置であって、
前記駆動手段は、
前記アクチュエータの駆動を制御する信号の基準となる駆動波形信号を生成する駆動波形信号発生手段と、
前記駆動波形信号発生手段で生成された駆動波形信号をパルス変調する変調手段と、
前記変調手段でパルス変調された変調信号を電力増幅するデジタル電力増幅器と、
前記デジタル電力増幅器で電力増幅された電力増幅変調信号を平滑化して前記アクチュエータに駆動信号として供給する平滑フィルタと、
前記デジタル電力増幅器への電源電圧に応じて前記変調信号を補正する変調信号補正手段と、
を備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記変調信号補正手段は、前記デジタル電力増幅器への電源電圧を検出する電源電圧検出手段と、
前記電源電圧検出手段で検出された前記電源電圧に基づいて前記駆動波形信号発生手段で生成された前記駆動波形信号を補正する駆動波形信号補正手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記変調信号補正手段は、前記デジタル電力増幅器への電源電圧を検出する電源電圧検出手段と、
前記電源電圧検出手段で検出された前記電源電圧に基づいて前記パルス変調のための三角波信号の振幅を補正する三角波信号補正手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記変調信号補正手段は、駆動させるアクチュエータの数から前記デジタル電力増幅器への変動電源電圧を算出する変動電源電圧算出手段と、
前記変動電源電圧算出手段で算出された変動電源電圧に基づいて前記駆動波形信号発生手段で生成された駆動波形信号を補正する駆動波形信号補正手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記変調信号補正手段は、駆動させるアクチュエータの数から前記デジタル電力増幅器への変動電源電圧を算出する変動電源電圧算出手段と、
前記変動電源電圧算出手段で算出された変動電源電圧基づいて前記パルス変調のための三角波信号の振幅を補正する三角波信号補正手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液体噴射装置を備えた印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−132765(P2008−132765A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266241(P2007−266241)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】