説明

液体噴射装置

【課題】チューブポンプによる液体吸引操作における吸引量のバラツキをなくす。
【解決手段】本装置は、液体噴射ヘッドのノズル形成面を封止したキャッピング手段の内
部の流体を排出するチューブポンプであって、チューブ部材の湾曲部を押圧変形させなが
ら湾曲部の内周を転動するローラ部材を有し、リークポイントが存在するチューブポンプ
と、ローラ部材の公転動作の位相を検出する位相検出手段と、チューブポンプの動作を制
御する制御手段とを備える。制御手段は、位相検出手段により検出されたローラ部材の公
転動作の位相に関する情報に基づいて、ローラ部材を所定の位置に停止させる機能を有す
る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液滴を吐出する液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置に関す
る。
【背景技術】
【0002】
従来の液体噴射装置の代表例としては、画像記録用のインクジェット式記録ヘッドを備
えたインクジェット式記録装置がある。その他の液体噴射装置としては、例えば液晶ディ
スプレイ等のカラーフィルタ製造に用いられる色材噴射ヘッドを備えた装置、有機ELデ
ィスプレイ、面発光ディスプレイ(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペー
スト)噴射ヘッドを備えた装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドを
備えた装置、精密ピペットとしての試料噴射ヘッドを備えた装置等が挙げられる。
【0003】
液体噴射装置の代表例であるインクジェット式記録装置は、印刷時の騒音が比較的小さ
く、しかも小さなドットを高い密度で形成できるため、昨今においてはカラー印刷を含め
た多くの印刷に使用されている。
【0004】
このようなインクジェット式記録装置は、一般に、キャリッジに搭載されて記録紙等の
記録媒体の幅方向(ヘッド走査方向)に往復移動するインクジェット式記録ヘッド(液体
噴射ヘッド)と、記録媒体をヘッド走査方向と直交する方向(媒体送り方向)に移動させ
る媒体送り手段と、を備えている。
【0005】
インクジェット式記録装置においては、印刷データに対応して記録ヘッドより記録媒体
に対してインク滴(液滴)を吐出させることで印刷が行われる。そして、キャリッジ上に
搭載される記録ヘッドを、例えばブラック、イエロー、シアン、マゼンタの各色のインク
の吐出が可能なものとすることにより、ブラックインクによるテキスト印刷ばかりでなく
、各インクの吐出割合を変えることによりフルカラー印刷を可能としている。
【0006】
インクジェット式記録装置においては、使用開始時において記録ヘッド内のインク流路
にインクを充填するために、或いはインク溶媒の揮散によるノズル開口の目詰まりを防止
するために、記録ヘッドのノズル開口からインクを強制的に吸引排出させるインク吸引機
能を備えている。記録ヘッドの目詰まりを解消するために、或いは記録ヘッド内の残留気
泡を排出するために実施されるインクの強制的な排出処理は、クリーニング操作と呼ばれ
る。そして、このクリーニング操作は、記録装置における長時間の休止後に印刷を再開す
る場合や、ユーザが印字かすれ等の印字品質不良を認識し、クリーニングスイッチを操作
した場合等に実行される。
クリーニング操作においては、記録ヘッドのノズル形成面をキャッピング手段により封
止し、キャッピング手段内に負圧を作用させることで、記録ヘッドのノズル開口よりイン
クを排出させるとともに、キャッピング手段内に排出されたインクを吸引して廃インクタ
ンクに送り出す。その後、ゴムなどの弾性板からなるワイピング手段により、記録ヘッド
のノズルプレートのノズル形成面を払拭(ワイピング)するシーケンスが実行される。
キャッピング手段内に負圧を与えるための手段としては、比較的構造が簡単で小形化が
図りやすく、しかもインクを吸引および排出する機構部分で汚染を生じさせない、いわゆ
るチューブポンプが一般に用いられている。このチューブポンプは、図15に示したよう
に、一部を円環状に湾曲させてポンプフレーム(図示せず)でその外周を支持した可撓性
チューブ50と、紙送りモータ等の動力を利用して可撓性チューブ50の円環状部の内周
を転動させるローラ部材51とを備えている。
【0007】
そして、このチューブポンプにおいては、ローラ部材51が可撓性チューブ50の円環
状部を順次押し潰しながら回転し、これにより、可撓性チューブ50内に圧力を発生させ
てキャッピング手段に負圧を与える。このようにして記録ヘッドから負圧により強制的に
インクを排出させるとともに、さらにキャッピング手段内に排出されたインクを吸引して
廃インクタンクに送り出す。
また、チューブポンプの構造としては、図15に示したような、円環状に湾曲させたチ
ューブ50同士を互いに逆方向に引き出して交差させる構造に代えて、図16に示したよ
うに、円環状に湾曲させた可撓性チューブ50の両端を同方向に引き出して同一平面内で
束ねる構成が提案されている。この構成によれば、図15に示したチューブポンプのよう
なチューブ交差部が存在しないので、チューブポンプ全体としての厚みが薄くなり、例え
ばポンプ容量を増やすために2本のチューブ50を並置したような場合でも、その厚みは
チューブ径の2倍に収まる。
【0008】
【特許文献1】特開平7−253082号公報
【特許文献2】特開2003−239872号公報
【特許文献3】特開2002−130153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来のインクジェット式記録装置においては、停止状態にあるチューブポンプ
を始動させる際、ローラ部材51の始動位置を制御することなく、任意の位置からローラ
部材51が回転を始めるようにしていた。
【0010】
ところが、図15又は図16に示したチューブポンプは、その構造上、ローラ部材51
の始動位置によって吸引量が変化してしまう。このため、特に吸引量(回転量)の設定値
が小さい場合、ローラ部材51の始動位置が変わることによって実際の吸引量にバラツキ
が生じてしまうという問題があった。
【0011】
この問題について詳述すると、図15又は図16に示したチューブポンプにおいては、
その構造上、可撓性チューブ50をローラ部材51によって押しつぶすことができない位
置、即ちリークポイントが存在し、このリークポイントにローラ部材51が停止した場合
には、チューブポンプにおいて流体の漏洩が生じ得る。具体的には、図15に示したチュ
ーブポンプにおいては可撓性チューブ50同士が交差している部分Xがリークポイントと
なり、図16に示したチューブポンプにおいては可撓性チューブ50同士を束ねた部分X
がリークポイントとなる。
【0012】
そして、吸引操作の開始時において、図17(a)に示したようにリークポイントXか
ら遠い位置からローラ部材51が始動した場合には、始動開始位置からリークポイントX
までの距離が長いので、それに応じて吸引量が増大する。一方、図17(b)に示したよ
うにリークポイントXに近い位置からローラ部材51が始動した場合には、回転開始後に
少し負圧が生じた時点でリークポイントXに達し、そこでのリークによって負圧の大きさ
が減少し、それに応じて吸引量が減少してしまう。
【0013】
図17(c)は、ポンプ回転時間[秒]と負圧の大きさ[−Pa]との関係を示したグ
ラフであり、同グラフ中の符号Aは図17(a)の状態から吸引操作を開始した場合の負
圧曲線を示し、符号Bは図17(b)の状態から吸引操作を開始した場合の負圧曲線を示
している。さらに、図17(c)のグラフでは、リークポイントを持たないポンプにおけ
る負圧曲線を比較のために示している。
【0014】
図17(c)から分かるように、ケースA及びケースBのいずれにおいても、ローラ部
材51がリークポイントXに達した時点で負圧の大きさが減少してしまうので、リークポ
イントを持たないポンプに比べると吸引量が低下している。そして、リークポイントXで
のリークに伴う吸引量の低下の度合いが、ケースA(図17(a))の場合よりもケース
B(図17(b))の場合の方が大きい。
【0015】
このように、リークポイントXを有するチューブポンプにおいては、ローラ部材51の
始動位置が変わることによって実際の吸引量にバラツキが生じてしまい、吸引量の設定値
が小量の場合には±30%程度のバラツキが発生し、吸引量の設定値が中量の場合には±
10%程度のバラツキが発生する。なお、吸引量の設定値が大量の場合には±5%程度の
バラツキとなり、この程度のバラツキは許容範囲と考えられるので、大量吸引の場合には
ローラ部材51の始動位置は問題とならない。
【0016】
また、吸引操作の終了時にチューブポンプを停止させた際、ローラ部材51がリークポ
イントXの位置で停止すると、チューブポンプによって一旦、吸引したインクが、負圧状
態にあるキャッピング手段側に逆流してしまう。このようなインクの逆流が生じると、キ
ャッピング手段の内部の負圧解除が正常に行われず、混色や不吐出等の印刷不良を引き起
こす原因となる。
【0017】
さらに、従来のポンプチューブの中には、U字状に湾曲させた可撓性チューブに一対の
ローラ部材を押圧する型式のものがある。この種のポンプチューブにおいては、ローラ部
材の公転動作に伴って、一対のローラ部材のうちの一つだけでチューブを押圧している状
態と、両方のローラ部材でチューブを押圧している状態とが発生する。そして、両方のロ
ーラ部材がチューブに押圧されている状態では、一つのローラ部材がチューブに押圧され
ている状態に比べて、チューブポンプの駆動源であるモータに対する負荷が2倍になって
しまう。
【0018】
そして、両方のローラ部材による押圧状態がローラ部材の公転開始の直後に発生すると
、ローラ部材の公転速度が設定値に達する前にポンプのモータに高負荷が加えられること
になる。ローラ部材の公転速度が小さい状態においてはローラ部材の慣性力も小さいので
、ポンプのモータに高負荷が加えられるとモータが脱調してしまう可能性がある。
【0019】
このモータの脱調の問題は、図17(a)、(b)に示した円環状チューブを有するチ
ューブポンプのリークポイントXの位置においても起こり得る。
【0020】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたものであって、その目的とするところは、
チューブポンプによる液体吸引操作における吸引量のバラツキをなくすことができる液体
噴射装置を提供することにある。
【0021】
また、本発明は、吸引終了時におけるチューブポンプのリークを防止することができる
液体噴射装置を提供することを目的とする。
【0022】
さらに、本発明は、チューブポンプの駆動源の動作不良を防止することができる液体噴
射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、本発明の液体噴射装置は、液滴が吐出されるノズル開口を
有する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドのノズル形成面を封止して密閉空間を形成
し得るキャッピング手段と、前記ノズル形成面を封止した前記キャッピング手段の内部の
流体を排出するチューブポンプであって、湾曲部を有する可撓性のチューブ部材と、前記
チューブ部材を押圧して変形させながら前記湾曲部の内周を転動するローラ部材と、を有
し、前記ローラ部材による前記湾曲部の押圧変形量が不十分となるリークポイントが存在
するチューブポンプと、前記湾曲部の内周に沿った前記ローラ部材の公転動作の位相を検
出する位相検出手段と、前記チューブポンプの動作を制御する制御手段であって、前記位
相検出手段により検出された前記ローラ部材の公転動作の位相に関する情報に基づいて、
前記ローラ部材を所定の位置に停止させる機能を有する制御手段と、を備えたことを特徴
とする。
【0024】
また、好ましくは、前記所定の位置は、前記リークポイントを外した位置である。
【0025】
また、好ましくは、前記所定の位置は、前記湾曲部において前記リークポイントに対向
する位置である。
【0026】
また、好ましくは、前記制御手段は、吸引操作の終了時に前記チューブポンプを停止さ
せる際に前記ローラ部材を前記所定の位置に停止させる機能を有する。
【0027】
また、好ましくは、前記チューブポンプは、前記ローラ部材を逆転させることにより前
記チューブ部材に対する前記ローラ部材の押圧状態が解除されるように構成されており、
前記制御手段は、吸引操作の終了時に前記ローラ部材を停止させた後、前記ローラ部材を
逆転させて前記所定の位置に停止させる機能を有する。
【0028】
上記課題を解決するために、本発明の液体噴射装置は、液滴が吐出されるノズル開口を
有する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドのノズル形成面を封止して密閉空間を形成
し得るキャッピング手段と、前記ノズル形成面を封止した前記キャッピング手段の内部の
流体を排出するチューブポンプであって、湾曲部を有する可撓性のチューブ部材と、前記
チューブ部材を押圧して変形させながら前記湾曲部の内周を転動するローラ部材と、を有
するチューブポンプと、前記湾曲部の内周に沿った前記ローラ部材の公転動作の位相を検
出する位相検出手段と、前記位相検出手段により検出された前記ローラ部材の公転動作の
位相に関する情報に基づいて前記チューブポンプの前記ローラ部材の公転動作を制御する
制御手段であって、液体吸引に必要な負圧を発生し得ない低速回転にて前記ローラ部材を
所定の位置に移動させた後、液体吸引に必要な負圧を発生し得る高速回転にて前記ローラ
部材を公転させる機能を有する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0029】
また、好ましくは、前記制御手段は、前記ローラ部材の公転動作を停止させることなく
前記低速回転から前記高速回転に切り換える。
【0030】
また、好ましくは、前記制御手段は、前記低速回転にて前記ローラ部材を前記所定の位
置に移動させた後、前記ローラ部材の公転動作を一旦、停止させ、しかる後に前記高速回
転を開始する。
【0031】
上述の第1及び第2の特徴による本発明において、好ましくは、前記チューブ部材の前
記湾曲部は円環状を成している。
【0032】
また、好ましくは、前記位相検出手段は、前記ローラ部材の公転動作に同期して回転す
る回転体と、前記回転体の回転動作の位相を検出する検出器と、を有する。
【0033】
また、好ましくは、前記回転体は切り欠き部を有し、前記検出器は前記切り欠き部にお
ける検出信号の変化に基づいて前記回転体の回転動作の位相を検出する。
【0034】
また、好ましくは、前記検出器は、前記回転体に向けて光を放射する発光部と、前記発
光部から放射された光を受ける受光部と、を有する。
【0035】
以上述べたように本発明によれば、位相検出手段により検出されたローラ部材の公転動
作の位相に関する情報に基づいて、制御手段がローラ部材を所定の位置にて停止させるこ
とができるので、リークポイントが存在するチューブポンプにおいても、チューブポンプ
の始動時におけるローラー部材の始動位置を常に一定にすることが可能であり、これによ
り、例えば吸引量が少ない吸引操作を実施する場合でも、実際の吸引量にバラツキが生じ
ることを防止することができる。
【0036】
しかも、上述した所定の位置をチューブポンプのリークポイントから外れた位置に設定
すると共に、制御手段によって、吸引操作終了時におけるローラ部材の停止位置を、リー
クポイントから外れた所定の位置とすることによって、吸引操作終了時におけるチューブ
ポンプでのリークを防止してインクの逆流を阻止することができる。
【0037】
また、本発明によれば、位相検出手段により検出されたローラ部材の公転動作の位相に
関する情報に基づいて、制御手段が、液体吸引に必要な負圧を発生し得ない低速回転にて
ローラ部材を所定の位置に移動させた後、液体吸引に必要な負圧を発生し得る高速回転に
てローラ部材を公転させることができるので、ポンプ駆動源への負荷が高くなるポイント
が存在するチューブポンプにおいても、当該高負荷ポイントに対する上述の所定の位置の
関係を最適化することによって、チューブポンプの駆動源の動作不良を防止することがで
きる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明による液体噴射装置の一実施形態としてのインクジェット式記録装置につ
いて図面を参照して説明する。
【0039】
本実施形態によるインクジェット式記録装置は、複数のノズル開口のそれぞれに連通す
る各圧力室に対応して設けられた各圧力発生素子により、各圧力室内のインクに圧力変動
を生じさせて各ノズル開口からインク滴(液滴)を吐出させるインクジェット式記録ヘッ
ド(液体噴射ヘッドの一例)を備えている。圧力発生素子としては、例えば圧電振動子を
用いることができる。
【0040】
図1は、本実施形態によるインクジェット式記録装置の概略構成を示した斜視図である
。図1中符号1はキャリッジであり、このキャリッジ1はキャリッジモータ2により駆動
されるタイミングベルト3を介して、ガイド部材4に案内されてプラテン5の軸方向に往
復移動されるように構成されている。プラテン5は、記録紙6(記録媒体の一例)をその
裏面から支持して記録ヘッド12に対する記録紙6の位置を規定する。
【0041】
記録ヘッド12は、キャリッジ1の記録紙6に対向する側に搭載されている。また、キ
ャリッジ1には、記録ヘッド12にインクを供給するインクカートリッジ7が着脱可能に
装着されている。
【0042】
図2に示したように記録ヘッド12には複数のノズル開口14及びこれらに連通する複
数の圧力室15が形成されており、圧力室15内のインクに圧力変動を生じさせてノズル
開口14からインク滴を吐出させることができる。
【0043】
図1に示したように、インクジェット式記録装置の非印刷領域であるホームポジション
(図1中、右側)にはキャッピング手段13が配置されている。このキャッピング手段1
3は、キャリッジ1に搭載された記録ヘッド12がホームポジションに移動した時に、図
2に示した位置から上昇して記録ヘッド12のノズル形成面に押し当てられ、ノズル形成
面との間に密閉空間を形成するように構成されている。そして、キャッピング手段13の
下方には、キャッピング手段13により形成された密閉空間に負圧を与えてインクを吸引
するためのチューブポンプ10が配置されている。
【0044】
キャッピング手段13の印刷領域側の近傍には、ゴムなどの弾性板を備えたワイピング
手段11が記録ヘッド12の移動軌跡に対して例えば水平方向に進退できるように配置さ
れている。このワイピング手段11は、キャリッジ1がキャッピング手段13上を移動す
るに際して、必要に応じて記録ヘッド12のノズル形成面を払拭することができるように
構成されている。
【0045】
このインクジェット式記録装置は、さらに、記録ヘッド12により印刷(記録)が行わ
れる記録紙6をヘッド走査方向に対して直交する紙送り方向に間欠的に搬送する紙送り機
構を備えている。
【0046】
図3はチューブポンプ10の内部構造を示し、図3に示したようにこのチューブポンプ
10は、円環状に湾曲させた可撓性チューブの両端を同方向に引き出して同一平面内で束
ねる形式のものである。チューブポンプ10は、円環状部20aを含むチューブ部材20
と、チューブ部材20の円環状部20aの内周を転動するローラ部材21と、このローラ
部材21を回転可能に支持すると共に回転軸25a周りに回転する回転板25と、回転板
25を回転させることによりローラ部材21を公転させて、チューブ部材20の円環状部
20aの内周に沿ってローラ部材21を転動させるモータ(駆動源)22と、有する。こ
のモータ22は、紙送り機構のモータ等で兼用することができる。このチューブポンプ1
0は、ローラ部材21による押圧変形量が不十分となるリークポイントXを含んでいる。
【0047】
なお、チューブポンプの構成としては、図3に示したような円環状に湾曲させた可撓性
チューブの両端を同方向に引き出して同一平面内で束ねる形式に代えて、円環状に湾曲さ
せたチューブ同士を互いに逆方向に引き出して交差させる構成(図15参照)を採用する
こともできる。
【0048】
図4は、本実施形態におけるチューブポンプ10の概観を示した斜視図であり、図4中
の符号24はポンプフレームを示し、このポンプフレーム24の内部に、図3に示したチ
ューブ部材20の円環状部20aが収納されている。即ち、ポンプフレーム24の内面に
、可撓性のチューブ部材20の外形を円環状に規制する支持面が形成されている。
【0049】
図4に示したように、ポンプフレーム24の一側面から、ローラ部材21の公転動作に
伴って回転する回転板25の回転軸25a(図3)と一体に回転する検出用回転軸26が
突出している。この検出用回転軸26の先端には回転円板(回転体)27が取り付けられ
ており、この回転円板27には切り欠き部27aが形成されている。
【0050】
また、回転円板27の近傍には、回転円板27の回転動作の位相を検出するための光セ
ンサ28が、その発光部28a及び受光部28bによって回転円板27を非接触にて挟み
込むようにして配置されている。この光センサ28は、回転円板27の切り欠き部27a
における検出信号の変化に基づいて回転円板27の回転動作の位相を検出する。上述した
検出用回転軸26、回転円板27及び光センサ28は、ローラ部材21の公転動作の位相
を検出するための位相検出手段29を構成している。
【0051】
図5は、本実施形態によるインクジェット式記録装置におけるクリーニング操作(吸引
操作)を制御する制御回路等を示したブロック図である。図5に示したようにチューブポ
ンプ10を構成するチューブ部材20の一端はキャッピング手段13に連通しており、他
端は廃液タンク23に連通している。これにより、キャッピング手段13の内部空間に排
出されたインク廃液は、チューブポンプ10を介して廃液タンク23に廃棄することがで
きる。
【0052】
図5中の符号30はホストコンピュータであり、このホストコンピュータ30にはプリ
ンタドライバ31が搭載されている。そして、プリンタドライバ31のユーティリティ上
で、入力装置およびディスプレイを利用して、既知の用紙サイズ、印刷モードの選択、フ
ォント等のデータおよび印刷指令等が入力されるように構成されている。
【0053】
そして、プリンタドライバ31から印刷制御手段32に対して印刷データが送出され、
印刷制御手段32は受け取った印刷データに基づいてビットマップデータを生成し、この
ビットマップデータに基づいてヘッド駆動手段33により駆動信号を発生させて、記録ヘ
ッド12からインクを吐出させるように構成されている。
【0054】
ヘッド駆動手段33は、印刷データに基づく駆動信号の他に、クリーニング制御手段3
4の一部を構成するフラッシング制御手段35からのフラッシング指令信号を受けてフラ
ッシングのための駆動信号を記録ヘッド12に出力するようにも構成されている。
【0055】
クリーニング制御手段34は、さらに、インク吸引制御手段36を有しており、このイ
ンク吸引制御手段36は、クリーニング操作としてインク吸引を実施する際にチューブポ
ンプ10の駆動を制御する。また、クリーニング制御手段34は、キャッピング手段13
による記録ヘッド12のノズル形成面の封止状態/非封止状態を切換操作する。
【0056】
また、キャリッジ駆動制御手段37は、印刷制御手段32及びクリーニング制御手段3
4からの駆動信号に基づいて、キャリッジ1を所定のポジションに移動させる。
【0057】
以下、インク吸引制御手段36による制御内容について説明する。
【0058】
インク吸引制御手段36は、位相検出手段29により検出されたローラ部材21の公転
動作の位相に関する情報に基づいて、ローラ部材21を所定の待機位置に停止させる機能
を有している。ここで、所定の待機位置とは、図3に示したリークポイントXを外した位
置であり、好ましくは、チューブ部材20の円環状部20aにおいてリークポイントXに
対向する位置P(図3に波線で示した位置)である。
【0059】
そして、インク吸引制御手段36は、吸引操作終了時にチューブポンプ10を停止させ
る際に、位相検出手段29からの信号に基づいて、ローラ部材21を所定の待機位置Pに
停止させる。なお、このリークポイントXに対向する所定の待機位置Pは、チューブ部材
20の円環状部20a全体の中で最も押しつぶしやすい位置であり、この位置でローラ部
材21を停止させることにより、チューブポンプ10のリークを確実に防止することがで
きる。
【0060】
図6は、インク吸引制御手段36における制御シーケンスの一例を示しており、前回の
吸引操作が終了して、キャリッジ1の移動と共にキャッピング手段13が開放されたら(
ステップ1)、光センサ28の検出信号がオンかオフかを判定する(ステップ2)。ここ
で、光センサ28の検出信号がオンになるのは、回転円板27の切り欠き部27aが光セ
ンサ28の位置に来て、発光部28aから放射された光が切り欠き部28aを通過して受
光部28bに到達する場合である。一方、光センサ28の検出信号がオフになるのは、回
転円板27の切り欠き部27a以外の部分が光センサ28の位置に来て、発光部28aか
ら放射された光が回転円板27で遮断されて受光部28bに到達しない場合である。
【0061】
そして、ステップ2において光センサ28がオフであると判定された場合には、モータ
22を正転させ、光センサ28がオンになるまでローラ部材21を回転させる(ステップ
3)。一方、ステップ2において光センサ28がオンであると判定された場合には、ステ
ップ3を飛ばしてステップ4に進む。
【0062】
ステップ4においては、モータ22を正転させて、光センサ28がオンからオフに変化
するまでローラ部材21を公転させる。そして、光センサ28がオンからオフに変化した
時点から、所定の回転量だけモータ22を正転させ、これによりローラ部材21を所定の
回転量だけ公転させる(ステップ5)。このステップ5によって、ローラ部材21は、図
3に示した所定の待機位置Pに配置される。
【0063】
このようにしてローラ部材21を所定の待機位置Pに配置した状態で、キャリッジ1を
移動させてキャッピング手段13により記録ヘッド12のノズル形成面を封止する(ステ
ップ6)。そして、この状態でモータ22を正転させてローラ部材21を公転させ、キャ
ッピング手段13の内部を排気して記録ヘッド12のノズル開口からインクを吸引する(
ステップ7)。
【0064】
このステップ7においてインク吸引操作を開始する際には、ローラ部材21は常に所定
の待機位置Pから始動するので、例えば吸引量が少ない吸引操作を実施する場合でも、実
際の吸引量にバラツキが生じることがない。
【0065】
以上述べたように本実施形態によれば、インク吸引制御手段36は、位相検出手段29
により検出されたローラ部材21の公転動作の位相に関する情報に基づいて、少なくとも
次回の吸引動作を実施する前に、ローラ部材21を所定の待機位置Pにて停止させるよう
にしたので、チューブポンプ10の始動時におけるローラー部材21の始動位置が常に一
定となる。このため、例えば吸引量が少ない吸引操作を実施する場合でも、実際の吸引量
にバラツキが生じることを防止することができる。
【0066】
しかも、本実施形態においては、上述した所定の待機位置Pを、チューブポンプ10の
リークポイントXから外れた位置に設定すると共に、インク吸引制御手段36によって、
吸引操作の終了時におけるローラ部材21の停止位置が所定の待機位置Pになるようにし
たので、吸引操作終了時におけるチューブポンプ10でのリークを防止してインクの逆流
を阻止することができる。
【0067】
また、吸引操作が終了してチューブポンプ10を停止させた後は、キャッピング手段1
3内の負圧と記録ヘッド12内の負圧とが均衡状態となるのを待ってキャッピング手段1
3を開放するが、キャップ内負圧とヘッド内負圧とが均衡状態に移行する間にもインクは
流れ続ける。従って、前記の如く吸引操作後のポンプ停止時におけるチューブポンプ10
のリークを防止することにより、インク吸引量の減少を防止することができる。
【0068】
なお、上述の実施形態においては、図3に示したように単一のローラ部材21を有する
チューブポンプ10を例にとって説明したが、本発明が適用される液体噴射装置における
チューブポンプは単一のローラ部材を有するタイプには限られず、例えば、図7(a)、
(b)に示したような、一対のローラ部材21をチューブ部材20のU字状部20bに押
圧するタイプのチューブポンプ10Aに適用することもできる。この種のチューブポンプ
10Aにおいては、ローラ部材21がU字状のチューブ部材20を押圧変形させる区間を
180度とすることによって、リークポイントをなくすことができる。
【0069】
また、図7(a)、(b)に示したチューブポンプ10Aにおいては、回転板25に形
成された屈曲した案内孔25bの中にローラ部材21の回転軸21aが挿入されており、
回転板25の回転方向が切り替わることにより、ローラ部材21の回転軸21aが案内溝
25bの端部間を移動する。図7(a)は、吸引操作時において回転板25が正転してい
る状態を示しており、図7(b)は回転板25が逆転している状態を示している。
【0070】
図7(b)から分かるように、回転板25の逆転時にローラ部材21の回転軸21aが
位置している案内溝25bの端部は、案内溝25bの他方の端部よりも回転板25の半径
方向内側に位置している。このため、このタイプのチューブポンプ10Aにおいては、回
転板25を逆転させることにより、チューブ部材20に対するローラ部材21の押圧を解
除することができる。
【0071】
図8は、クリーニング制御手段34によって実行される吸引操作の他の制御シーケンス
を示しており、ここでは、図7(a)、(b)に示したチューブポンプ10Aを使用して
いる。
【0072】
まず、キャリッジ1を移動させ、キャッピング手段13は開放状態とする(ステップ1
0)。この状態でチューブポンプ10のローラ部材21を低速にて正転方向に約1回転さ
せ、ローラ部材21とチューブ部材21とを噛み合わせる(ステップ11)。次に、キャ
リッジ1を移動させ、キャッピング手段13によって記録ヘッド12のノズル形成面を密
閉する(ステップ12)。
【0073】
そして、キャッピング手段13を閉鎖状態としてローラ部材21の低速回転を継続する
(ステップ13)。このときのローラ部材21の公転速度は、インク吸引に必要な大きさ
の負圧が発生しない程度の低速である。ローラ部材21を低速回転させながら、光センサ
28の検出信号がオンになったか否かを判定する(ステップ14)。
【0074】
光センサ28の検出信号がオンとなったら、低速回転状態にあるローラ部材21を、そ
の回転動作を停止させることなく、インク吸引に必要な大きさの負圧を発生させる高速回
転に切り換える(ステップ15)。ここで、光センサ28の検出信号のオフからオンへの
切り替わりは、ローラ部材21の公転動作の1回転以内に行われるので、ローラ部材21
の低速回転時におけるインクの吸引がより一層確実に防止される。
【0075】
そして、インク吸引ステップ(ステップ15)では、必要吸引量の大小に応じた所定の
回数だけローラ部材21が公転される。
【0076】
インク吸引ステップが終了したら、負圧が解除されるまで約3秒間待った後(ステップ
16)、キャリッジ1を移動してキャッピング手段13を開放状態とする(ステップ17
)。この状態でローラ部材21を高速にて約5回転正転させて、キャッピング手段13内
のインクを吸引排出する(ステップ18)。
【0077】
次に、ワイピング手段11によって記録ヘッド12のノズル形成面を払拭する(ステッ
プ19)。
【0078】
最後に、ローラ部材21を高速にて約2回転逆転させて、チューブ部材20に対するロ
ーラ部材21の押圧状態を解除する(ステップ20)。
【0079】
図8に示した上述の吸引操作シーケンスによれば、低速回転によるローラ部材21の位
置合わせ操作から連続して高速回転による吸引操作を実施するようにしたので、吸引操作
シーケンスの所要時間を短縮することができる。
【0080】
また、図8に示した上述の吸引操作シーケンスは、吸引操作シーケンス中のチューブポ
ンプ10Aのモータ22の負荷変動による脱調を防止する上でも有効であり、この点につ
いて図9(a)乃至(c)を参照して説明する。
【0081】
図9(a)に示した一対のローラ部材21の両方がチューブ部材20のU字状部20b
に押圧されている状態においては、図9(b)に示した一方のローラ部材21のみがチュ
ーブ部材20のU字状部20bに押圧されている状態に比べて、図9(c)に示したよう
にチューブポンプ10のモータ22に対する負荷が約2倍になる。
【0082】
そこで、図8に示した上述の吸引操作シーケンスにおいて、ステップ13における低速
回転中にローラ部材21を図9(a)に示した最大負荷位置を通過させ、その直後にステ
ップ15においてローラ部材21の公転動作を高速回転に切り換えるように、ローラ部材
21の公転動作を制御する。このようにすれば、モータ22の大きなトルクが得られる低
速回転中に最大負荷位置を通過させることによりモータ22の脱調が防止され、しかも、
ローラ部材21が再び最大負荷位置に到達した時点ではローラ部材21が十分に速い公転
速度となっているので、ローラ部材21はその慣性力によって最大負荷位置を確実に通過
し、ここでもまたモータ22の脱調を防止することができる。
【0083】
図10は、クリーニング制御手段34によって実行される吸引操作の他の制御シーケン
スを示している。
【0084】
まず、キャリッジ1を移動させ、キャッピング手段13は開放状態とする(ステップ3
0)。この状態でチューブポンプ10のローラ部材21を低速にて正転方向に約1回転さ
せ、ローラ部材21とチューブ部材21とを噛み合わせる(ステップ31)。
【0085】
ローラ部材21の低速回転を継続させながら、光センサ28の検出信号がオンになった
か否かを判定する(ステップ32)。このときのローラ部材21の公転速度は、インク吸
引に必要な大きさの負圧が発生しない程度の低速である。
【0086】
光センサ28の検出信号がオンとなったら、ローラ部材21の低速回転を継続させなが
ら、キャリッジ1を移動させ、キャッピング手段13によって記録ヘッド12のノズル形
成面を密閉する(ステップ33)。
【0087】
続いて、ローラ部材21の回転速度を、インク吸引に必要な大きさの負圧を発生させる
高速回転に切り換える(ステップ34)。そして、このインク吸引ステップでは、必要吸
引量の大小に応じた所定の回数だけローラ部材21が公転される。
【0088】
インク吸引ステップが終了したら、負圧が解除されるまで約3秒間待った後(ステップ
35)、キャリッジ1を移動してキャッピング手段13を開放状態とする(ステップ36
)。この状態でローラ部材21を高速にて約5回転正転させて、キャッピング手段13内
のインクを吸引排出する(ステップ37)。
【0089】
次に、ワイピング手段11によって記録ヘッド12のノズル形成面を払拭する(ステッ
プ38)。
【0090】
最後に、ローラ部材21を高速にて約2回転逆転させて、チューブ部材20に対するロ
ーラ部材21の押圧状態を解除する(ステップ39)。
【0091】
図10に示した上述の吸引操作シーケンスによれば、低速回転によるローラ部材21の
位置合わせ操作から連続して高速回転による吸引操作を実施するようにしたので、吸引操
作シーケンスの所要時間を短縮することができると共に、チューブポンプ10Aのモータ
22の負荷変動による脱調を防止することができる。
【0092】
図11は、クリーニング制御手段34によって実行される吸引操作の他の制御シーケン
スを示している。
【0093】
まず、キャリッジ1を移動させ、キャッピング手段13は開放状態とする(ステップ4
0)。この状態でチューブポンプ10のローラ部材21を低速にて正転方向に約1回転さ
せ、ローラ部材21とチューブ部材21とを噛み合わせる(ステップ41)。
【0094】
ローラ部材21の低速回転を継続し(ステップ42)、光センサ28の検出信号がオン
になったか否かを判定する(ステップ43)。光センサ28の検出信号がオンとなったら
、ローラ部材21の回転を停止する(ステップ44)。
【0095】
続いて、キャリッジ1を移動させ、キャッピング手段13によって記録ヘッド12のノ
ズル形成面を密閉する(ステップ45)。そして、インク吸引に必要な大きさの負圧を発
生させる高速回転にてローラ部材21を公転させる(ステップ46)。このインク吸引ス
テップでは、必要吸引量の大小に応じた所定の回数だけローラ部材21が公転される。
【0096】
インク吸引ステップにおいて所定の回数だけローラ部材21を公転させたら、光センサ
28の検出信号がオンになったか否かを判定し、(ステップ47)、光センサ28の検出
信号がオンになったら、ローラ部材21の公転動作を停止する(ステップ48)。このと
きのローラ部材21の停止位置は、レリースポイント以外の特定の位置である。
【0097】
続いて、負圧が解除されるまで約3秒間待った後(ステップ49)、キャリッジ1を移
動してキャッピング手段13を開放状態とする(ステップ50)。この状態でローラ部材
21を高速にて約5回転正転させて、キャッピング手段13内のインクを吸引排出する(
ステップ51)。
【0098】
次に、ワイピング手段11によって記録ヘッド12のノズル形成面を払拭する(ステッ
プ52)。
【0099】
最後に、ローラ部材21を高速にて約2回転逆転させて、チューブ部材20に対するロ
ーラ部材21の押圧状態を解除する(ステップ53)。
【0100】
図11に示した上述の吸引操作シーケンスによれば、インク吸引操作終了時におけるロ
ーラ部材21の正転停止の位置を所定位置に制御するようにしたので、今回のインク吸引
操作シーケンスにおけるローラ部材21の正転停止時から、次回のインク吸引操作シーケ
ンスにおける高速回転開始時(インク吸引開始時)までのローラ部材21の公転回数を一
定とすることにより、インク吸引開始時におけるローラ部材21の位置を一定とすること
ができる。
【0101】
図12は、クリーニング制御手段34によって実行される吸引操作の他の制御シーケン
スを示している。
【0102】
まず、キャリッジ1を移動させ、キャッピング手段13は開放状態とする(ステップ6
0)。この状態でチューブポンプ10のローラ部材21を低速にて正転方向に約1回転さ
せ、ローラ部材21とチューブ部材21とを噛み合わせる(ステップ61)。
【0103】
次に、キャリッジ1を移動させ、キャッピング手段13によって記録ヘッド12のノズ
ル形成面を密閉する(ステップ62)。続いて、ローラ部材21の回転速度を、インク吸
引に必要な大きさの負圧を発生させる高速回転に切り換える(ステップ63)。このイン
ク吸引ステップでは、必要吸引量の大小に応じた所定の回数だけローラ部材21が公転さ
れる。
【0104】
インク吸引ステップが終了したら、負圧が解除されるまで約3秒間待った後(ステップ
64)、キャリッジ1を移動してキャッピング手段13を開放状態とする(ステップ65
)。この状態でローラ部材21を高速にて約5回転正転させて、キャッピング手段13内
のインクを吸引排出する(ステップ66)。
【0105】
次に、ワイピング手段11によって記録ヘッド12のノズル形成面を払拭する(ステッ
プ67)。
【0106】
そして、ローラ部材21を高速にて約2回転逆転させて、チューブ部材20に対するロ
ーラ部材21の押圧状態を解除する(ステップ68)。
【0107】
続いて、ローラ部材21の回転速度を低速に切り換えて低速回転を継続させながら(ス
テップ69)、光センサ28の検出信号がオンになったか否かを判定する(ステップ70
)。光センサ28の検出信号がオンとなったら、ローラ部材21の公転動作を停止する(
ステップ71)。
【0108】
図12に示した上述の吸引操作シーケンスによれば、インク吸引操作シーケンス終了時
におけるローラ部材21の逆転停止時の位置を所定位置に制御するようにしたので、今回
の吸引操作シーケンスにおけるローラ部材21の逆転停止時から、次回のインク吸引操作
シーケンスにおける高速回転開始時(インク吸引開始時)までのローラ部材21の公転回
数を一定とすることにより、インク吸引開始時におけるローラ部材21の位置を一定とす
ることができる。
【0109】
以上、図8、図10、図11及び図12を参照して各種の吸引操作シーケンスについて
説明したが、これらの説明から明らかなように、光センサ28によるローラ部材21の位
置検出は、キャップ開状態、キャップ閉状態、及びキャップ開からキャップ閉への移行状
態のいずれの状態において実施しても有効である。このように本発明は、各種の吸引操作
シーケンスに幅広く適用することができる。
また、図8、図10、図11及び図12に示した各種の吸引操作シーケンスを適宜組み
合わせて実施することも可能であり、この場合でも、位相検出後のローラ部材21の公転
回数を制御することにより、単一の光センサ28を用いてそれぞれの停止位置を個別に設
定することができる。
【0110】
また、本発明は、図13(a)に示したような、一対のローラ部材21をU字状のチュ
ーブ部材20に押圧する型式で且つリークポイントの存在するチューブポンプ10Bに適
用することもできる。このチューブポンプ10Bにおいては、ローラ部材21がチューブ
部材20のU字状部20cを押圧変形させる区間が180度よりも小さく、例えば170
度である。このため、図13(a)で破線で示した位置にローラ部材21が来たときには
、いずれのローラ部材21もチューブ部材20を押し潰しておらず、チューブポンプ10
Bがリーク状態となる。
【0111】
なお、図13(a)に示したチューブポンプ10Bの負荷曲線は図13(b)のように
なる。上述の図9(c)に示した負荷曲線との比較から明らかなように、図13(a)に
示した170度押圧型のチューブポンプ10Bは、図7(a),(b)に示した180度
押圧型のチューブポンプ10Aに比べて最大負荷が小さい。
【0112】
そして、図13(a)に示したチューブポンプ10Bに対して上述した各種吸引操作シ
ーケンスを適用することにより、モータ22の脱調を防止できることに加えて、吸引量の
バラツキを防止することができ、しかも、ポンプ停止時のポンプリークによるインクの逆
流も防止することができる。
【0113】
また、図3に示したチューブポンプ10においても、図14(a)乃至(c)に示した
ようにリークポイントXの部分でポンプ負荷が変動するが、上述した各種吸引操作シーケ
ンスを適用することによって、図3に示したチューブポンプ10においてもモータ22の
脱調を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明による液体噴射装置の一実施形態としてのインクジェット式記録装置の概略構成を示した斜視図。
【図2】図1に示したインクジェット式記録装置の記録ヘッド、キャリッジ、インクカートリッジ、及びキャッピング手段の部分を拡大して示した図。
【図3】図1に示したインクジェット式記録装置のチューブポンプの内部構造を拡大して示した図。
【図4】図1に示したインクジェット式記録装置のチューブポンプの概観を示した斜視図。
【図5】図1に示したインクジェット式記録装置における記録ヘッドのクリーニング操作(吸引操作)を制御する制御回路等を示したブロック図。
【図6】図1に示したインクジェット式記録装置のインク吸引制御手段における制御シーケンスの一例を示した図。
【図7】本発明が適用されたインクジェット式記録装置の他のチューブポンプの内部構造を拡大して示した図であり、(a)は正転時の状態を示し、(b)は逆転時の状態を示している。
【図8】本発明が適用されたインクジェット式記録装置における他の吸引操作シーケンスを示したフローチャート。
【図9】図7に示したチューブポンプの特性を説明するための図であり、(a)は一対のローラ部材の公転角度が90度又は270度の状態を示し、(b)は同公転角度が0度又は180度の状態を示し、(c)は同チューブポンプの負荷特性を示している。
【図10】本発明が適用されたインクジェット式記録装置における他の吸引操作シーケンスを示したフローチャート。
【図11】本発明が適用されたインクジェット式記録装置における他の吸引操作シーケンスを示したフローチャート。
【図12】本発明が適用されたインクジェット式記録装置における他の吸引操作シーケンスを示したフローチャート。
【図13】本発明が適用されたインクジェット式記録装置の他のチューブポンプを説明するための図であり、(a)は同チューブポンプの概略構造を示し、(b)は同チューブポンプの負荷特性を示している。
【図14】図3に示したチューブポンプの特性を説明するための図であり、(a)はローラ部材の公転角度が0度の状態を示し、(b)は同公転角度が180度の状態を示し、(c)は同チューブポンプの負荷特性を示している。
【図15】従来のインクジェット式記録装置におけるチューブポンプの一例を示した図。
【図16】従来のインクジェット式記録装置におけるチューブポンプの他の例を示した図。
【図17】従来のインクジェット式記録装置におけるチューブポンプの特性を説明するための図であり、(a)はリークポイントから正転方向に少し進んだ位置からローラ部材が始動する様子を示し、(b)はリークポイントから少し手前の位置からローラ部材が始動する様子を示し、(c)はポンプ回転時間と負圧の大きさを示したグラフである。
【符号の説明】
【0115】
10,10A,10B…チューブポンプ、12…インクジェット式記録ヘッド(液体噴
射ヘッド)、13…キャッピング手段、14…ノズル開口、15…圧力室、20…チュー
ブ部材、20a…チューブ部材の円環状部、20b…チューブ部材のU字状部、21…ロ
ーラ部材、22…モータ(駆動源)、24…ポンプフレーム、25…回転板、25a…回
転板の回転軸(ローラ部材の公転軸)、25b…案内溝、26…検出用回転軸、27…回
転円板(回転体)、28…光センサ、28a…光センサの発光部、28b…光センサの受
光部、29…位相検出手段、30…ホストコンピュータ、31…プリンタドライバ、32
…印刷制御手段、33…ヘッド駆動手段、34…クリーニング制御手段、35…フラッシ
ング制御手段、36…インク吸引制御手段、37…キャリッジ駆動制御手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴が吐出されるノズル開口を有する液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドのノズル形成面を封止して密閉空間を形成し得るキャッピング手段
と、
前記ノズル形成面を封止した前記キャッピング手段の内部の流体を排出するチューブポ
ンプであって、湾曲部を有する可撓性のチューブ部材と、前記チューブ部材を押圧して変
形させながら前記湾曲部の内周を転動するローラ部材と、を有するチューブポンプと、
前記湾曲部の内周に沿った前記ローラ部材の公転動作の位相を検出する位相検出手段と

前記位相検出手段により検出された前記ローラ部材の公転動作の位相に関する情報に基
づいて前記チューブポンプの前記ローラ部材の公転動作を制御する制御手段であって、液
体吸引に必要な負圧を発生し得ない低速回転にて前記ローラ部材を所定の位置に移動させ
た後、液体吸引に必要な負圧を発生し得る高速回転にて前記ローラ部材を公転させる機能
を有する制御手段と、を備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ローラ部材の公転動作を停止させることなく前記低速回転から前
記高速回転に切り換える請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記低速回転にて前記ローラ部材を前記所定の位置に移動させた後、
前記ローラ部材の公転動作を一旦、停止させ、しかる後に前記高速回転を開始する請求項
1に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記チューブ部材の前記湾曲部は円環状を成している請求項1乃至請求項3のいずれか
一項に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記位相検出手段は、前記ローラ部材の公転動作に同期して回転する回転体と、前記回
転体の回転動作の位相を検出する検出器と、を有する請求項1乃至請求項4のいずれか一
項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記回転体は切り欠き部を有し、前記検出器は前記切り欠き部における検出信号の変化
に基づいて前記回転体の回転動作の位相を検出する請求項5に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記検出器は、前記回転体に向けて光を放射する発光部と、前記発光部から放射された
光を受ける受光部と、を有する請求項6に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−51226(P2009−51226A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315343(P2008−315343)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【分割の表示】特願2004−99691(P2004−99691)の分割
【原出願日】平成16年3月30日(2004.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】