説明

液体封入式防振装置

【課題】連結金具に取り付けられた傘状部材を備えた液体封入式防振装置において、傘状部材の共振周波数よりも高い周波数域における動ばね定数を低減する。
【解決手段】パワープラント側に連結される連結金具3と、車体フレーム側に連結される支持金具5と、両金具3,5を連結するゴム弾性体7と、液室11を受圧室21と平衡室31とに仕切るオリフィス盤9と、受圧室21と平衡室31とを連通するオリフィス通路39と、受圧室21をパワープラント側の第1受圧室21aと車体フレーム側の第2受圧室21bとに仕切り、且つ、ゴム弾性体7との間に狭窄通路21cを形成するように連結金具3に取り付けられた傘状部材15と、を備えたエンジンマウント1である。第1受圧室21aに設けられ、ゴム弾性体7の変形に伴って、第1受圧室21aから第2受圧室21bへの作動液の流れを生じさせる略逆皿状の可動部材25をさらに備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体封入式防振装置に関し、特に、高周波数域での動ばね定数を低減することができる液体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、所定周波数域のエンジン振動を効果的に吸収して減衰させるエンジンマウント等の防振装置として、被支持体側に連結される連結金具と、支持体側に連結される支持金具と、これら両金具を連結し、弾性変形により当該両金具を相対変位させるゴム弾性体と、当該ゴム弾性体の変形に伴い容積が変化するように形成された液室と、当該液室の内部を主液室と副液室とに仕切る仕切部材と、当該主液室と当該副液室とを連通するオリフィス通路とを備えた液体封入式防振装置が知られている。
【0003】
この種の液体封入式防振装置では、低周波数域から高周波数域において効果的な防振作用が得られるように、主液室と副液室とを連通するオリフィス通路のみならず、複数の共振系を設けることが多い。
【0004】
例えば、特許文献1には、第1の支持金具に固定的に取り付けられた傘金具(傘状部材)の外周面と受圧室の内周面との間に形成された狭窄部を流動する流体の共振作用に基づいて、所定の高周波数域の入力振動に対して低動ばね効果が発揮されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平7−16126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のものでは、傘状部材の共振周波数よりも高い周波数域の振動が入力すると、ゴム弾性体と傘状部材との間の作動液がロックされる(目詰まりを生じる)おそれがある。このように、作動液がロックされて当該作動液の流動が実質的に生じない状態になると、ゴム弾性体の拡張ばね作用が小さくなることから、傘状部材を設けていないものに比して、高い周波数域での動ばね定数が高くなるという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ゴム弾性体との間に狭窄通路を形成するように連結金具に取り付けられた傘状部材を備えた液体封入式防振装置において、傘状部材の共振周波数よりも高い周波数域における動ばね定数を低減する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明では、ゴム弾性体と傘状部材とで形成される空間に、ゴム弾性体の変形に伴って作動液の流れを生じさせる流れ生成手段を設けることによって、作動液の流れを強制的に生じさせて当該空間内の作動液がロックされるのを回避するようにしている。
【0009】
第1の発明は、被支持体側に連結される連結金具と、支持体側に連結される支持金具と、これら両金具を連結し、弾性変形により当該両金具を少なくとも当該両金具を結ぶ軸方向に相対変位させるゴム弾性体と、当該ゴム弾性体の変形に伴い容積が変化するように上記連結金具と上記支持金具との間に形成された液室と、当該液室の内部を主液室と副液室とに仕切る仕切部材と、当該主液室と当該副液室とを連通するオリフィス通路と、上記主液室の内部を被支持体側の第1主液室と支持体側の第2主液室とに仕切り、且つ、当該主液室内で上記ゴム弾性体との間に狭窄通路を形成するように上記連結金具に取り付けられた傘状部材と、を備え、上記液室に作動液を封入した液体封入式防振装置であって、上記第1主液室に設けられ、上記ゴム弾性体の変形に伴って、当該第1主液室から上記第2主液室への作動液の流れを生じさせる流れ生成手段をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0010】
第1の発明では、主液室の内部を被支持体側の第1主液室と支持体側の第2主液室とに仕切り、且つ、主液室内でゴム弾性体との間に狭窄通路を形成するように、傘状部材を連結金具に取り付けることによって、当該狭窄通路がオリフィスとなり、当該狭窄通路を流動する作動液と第1主液室を構成するゴム弾性体とによって共振系が形成される。これにより、オリフィス通路での液体の流動による液柱共振作用によって吸収、減衰される入力振動の周波数よりも高い周波数域の入力振動に対する低動ばね効果が得られる。
【0011】
また、ゴム弾性体の変形に伴って、第1主液室から第2主液室への作動液の流れを生じさせる流れ生成手段が第1主液室に設けられているので、振動入力時にゴム弾性体が弾性変形すると、この流れ生成手段が第1主液室から第2主液室への作動液の流れを強制的に生じさせる。これにより、傘状部材を設けることで形成された共振系の共振周波数よりも高い周波数域の振動が入力した場合にも、作動液のロック(作動液の流動が実質的に生じない状態)が回避されるので、傘状部材の共振周波数よりも高い周波数域における動ばね定数を低減することが可能となる。
【0012】
なお、本発明において流れ生成手段は、ゴム弾性体の変形に伴って、換言するとゴム弾性体の変形によって、第1主液室から第2主液室への作動液の流れを生じさせるものであり、電力等の外部動力源を用いて駆動するものは含まない。
【0013】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記流れ生成手段は、上記第1主液室内で、上記連結金具に弾性部材を介して取り付けられる略逆皿状の可動部材であり、上記可動部材は、上記傘状部材に対して相対的に揺動することで、上記作動液の流れを生じさせることを特徴とするものである。
【0014】
第2の発明では、振動入力時にゴム弾性体が弾性変形すると、換言すると、連結金具が軸方向に変位すると、当該連結金具に取り付けられた傘状部材も軸方向に変位するのに対し、略逆皿状の可動部材は、連結金具に弾性部材を介して取り付けられているので、慣性で静止しようとすることから、傘状部材に対して相対的に揺動する。このように、略逆皿状の可動部材が傘状部材に対して相対的に揺動することで、ゴム弾性体と傘状部材とで形成される第1主液室内に作動液の流れが強制的に生じ、第1主液室から第2主液室へ作動液が流れる。これにより、簡単な構造で、作動液のロックを回避させて、傘状部材の共振周波数よりも高い周波数域における動ばね定数を低減することが可能となる。
【0015】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記第2主液室に設けられ、上記作動液の液圧を受けることにより軸方向に動く受圧板をさらに備え、上記受圧板は、連結部材を介して上記可動部材と連結されていることを特徴とするものである。
【0016】
第3の発明では、第2主液室に設けられた受圧板は、振動入力時にゴム弾性体が弾性変形すると、作動液の液圧を受けることで軸方向に確実に動くようになっている。そうして、この受圧板は連結部材を介して可動部材と連結されているので、当該受圧板が軸方向に動くことによって、可動部材を連結金具への取付部を支点として軸方向に確実に揺動させることができる。これにより、第1主液室から第2主液室への作動液の流れをより確実に生じさせることができる。
【0017】
第4の発明は、上記第2の発明において、上記ゴム弾性体には、上記第1主液室に突出し、上記ゴム弾性体の変形に伴って、上記可動部材に軸方向に当接する突起部が形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
第4の発明によれば、振動入力時にゴム弾性体が弾性変形すると、慣性で静止している可動部材に突起部が軸方向に当接するので、連結金具に弾性部材を介して取り付けられた可動部材を、連結金具への取付部を支点として軸方向に確実に揺動させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る液体封入式防振装置によれば、振動入力時にゴム弾性体が弾性変形すると、流れ生成手段が第1主液室から第2主液室への作動液の流れを強制的に生じさせるので、傘状部材を設けることで形成された共振系の共振周波数よりも高い周波数域の振動が入力した場合にも、作動液の流動が実質的に生じない状態が回避される。これにより、傘状部材の共振周波数よりも高い周波数域における動ばね定数を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る液体封入式防振装置の一実施形態である自動車用エンジンマウントを示し、同図(a)は縦断面図であり、同図(b)は同図(a)のIb−Ib線の矢視断面図である。
【図2】図1に示す、傘状部材及び可動部材の拡大図である。
【図3】エンジンマウントによる動ばね定数の低減効果を示すグラフである。
【図4】実施形態2に係るエンジンマウントを示し、同図(a)は縦断面図であり、同図(b)は同図(a)のIVb−IVb線の矢視断面図である。
【図5】傘状部材、可動部材及び受圧板を示し、同図(a)は斜め上方から見た斜視図であり、同図(b)は斜め下方から見た斜視図であり、同図(c)は上面図であり、同図(d)は側面図であり、同図(e)は底面図である。
【図6】傘状部材及び可動部材の取付方法を模式的に説明する図である。
【図7】実施形態3に係るエンジンマウントを示し、同図(a)は縦断面図であり、同図(b)は同図(a)のVIIb−VIIb線の矢視断面図である。
【図8】傘状部材、可動部材及び受圧板を示し、同図(a)は斜め上方から見た斜視図であり、同図(b)は斜め下方から見た斜視図であり、同図(c)は上面図であり、同図(d)は側面図であり、同図(e)は底面図である。
【図9】実施形態4に係るエンジンマウントを示し、同図(a)は縦断面図であり、同図(b)は同図(a)のIXb−IXb線の矢視断面図である。
【図10】突起部が可動部材に当接した状態を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
(実施形態1)
−マウントの全体構成−
図1は、本発明に係る液体封入式防振装置の一実施形態である自動車用エンジンマウントを示す。このエンジンマウント1は、図示しない自動車のエンジン及び変速機(以下、両者をまとめてパワープラントという)と車体との間に介在されて、そのパワープラントの静荷重を支持するとともに、当該パワープラントからの振動を吸収し或いは減衰させて、車体への振動の伝達を抑制する機能を有している。なお、以下の説明では、図1の上側を軸線Z方向上側(以下、上側という)とし、図1の下側を軸線Z方向下側(以下、下側という)とする。
【0023】
エンジンマウント1は、図示しないブラケット等を介して被支持体であるパワープラントに取り付けられる概略円柱状の連結金具3と、支持体である車体フレームに取り付けられる円筒状の支持金具5と、これら両金具3,5を連結し、弾性変形により両金具3,5を少なくとも当該両金具3,5を結ぶ軸線Z方向に相対変位させるゴム弾性体7とを備えており、この支持金具5の下側外周にそれぞれ溶接された不図示の脚部によって、車体フレームに固定されるようになっている。この支持金具5は、その上端に外向きに形成されたフランジ部5aに載置される不図示のストッパ金具とともに、エンジンマウント1のケースとしても機能する。
【0024】
連結金具3は、軸線Z方向の中間部に鍔部23を有しており、この鍔部23の下側には下方に向かって窄んだテーパ部33が、また鍔部23の上側には軸部13が、それぞれ形成されている。軸部13の上端にはパワープラント側のブラケットが取り付けられて、図示しないボルトがボルト穴13aに螺入される。鍔部23は軸線Zを中心とする円環状であり、その上面及び外周面に各々環状のストッパゴム37,47が設けられている。このストッパゴム47とストッパ金具とが当接することによって連結金具3の前後方向の相対変位が規制されるようになっている。なお、テーパ部33の下端には、当該テーパ部33の下端の外径よりも小径の先端円筒部33cが設けられており(図6(a)及び(b)参照)、これにより、図2に示すように、環状の段差部33bが形成されているとともに、この先端円筒部33cの先端部を径方向外側に折り曲げることでフランジ部33cが形成されている。
【0025】
さらに、連結金具3の内部には、ボルト穴13aの下端から下方に延びてテーパ部33の先端に開口するように通路33aが形成されている。この通路33aは、ボルト穴13aよりも小径で、上広がりのテーパ部を介してボルト穴13aに連通していて、液室11に作動液を供給する経路となる。
【0026】
上記ゴム弾性体7は、その上部が連結金具3の下側のテーパ部33を覆って加硫接着され、そこからテーパ部33を覆いながらさらに下方に延びる薄膜部57と、そこから放射状に拡がりながら斜め下に向かって延びる厚肉の傘状部17と、この傘状部17の下端に連続して下方に延びる円筒部27とを有しており、この円筒部27が支持金具5の内周に固定されている。支持金具5は、ゴム弾性体7の円筒部27に埋め込まれて一体化されている。
【0027】
また、ゴム弾性体7の円筒部27には、下側で内径を拡大することによって環状の段差部が形成されており、この段差部を受け部として下方からオリフィス盤(仕切部材)9が嵌挿されるとともに、このオリフィス盤9を下方から覆うようにしてゴム製のダイヤフラム59が配設されている。ダイヤフラム59は、全体としては上方に開口する碗状であり、その開口縁を周回するように厚肉部59aが形成されるとともに、この厚肉部59aに金属製の補強部材59bが埋め込まれている。こうして補強された厚肉部59aは、オリフィス盤9の下面に液密に重ね合わされて、支持金具5の下端に内向きに形成されたフランジ部5bによって下方からかしめられている。このダイヤフラム59は、上凸の環状部と下凸の環状部とが上下に反転することによって、容積が大幅に変化するようになっている。
【0028】
そのように容積の変化するダイヤフラム59によって円筒部27の下端が閉じられ、ゴム弾性体7の内部(連結金具3と支持金具5との間)には、液体が封入され且つ当該ゴム弾性体7の変形に伴い容積が変化する液室11が形成されている。この液室11は、オリフィス盤9によって上下に仕切られていて、その上側が受圧室(主液室)21になり、下側、即ちオリフィス盤9及びダイヤフラム59によって区画される部分が、平衡室(副液室)31になる。パワープラントからの振動が入力してゴム弾性体7が変形すると、主に受圧室21の容積が変化し、液体が、受圧室21と平衡室31とを連通するオリフィス通路39を介して、受圧室21と平衡室31との間を流通する。この液体の流出入に伴い前記のようにダイヤフラム59が変形して、平衡室31の容積が変化する。
【0029】
オリフィス盤9は、樹脂製の蓋部19と本体部29とが組合わされて、全体としては比較的厚肉の円盤状をなし、その内部には、可動板41を収容するための収容室49と、当該収容室49を囲むように上記オリフィス通路39とが形成されている。
【0030】
蓋部19には、収容室49を受圧室21に連通させるように、複数の連通孔19a,19a,…が形成されている一方、本体部29には、収容室49を平衡室31に連通させるように、複数の連通孔29a,29a,…が形成されている。収容室49に収容されている可動板41は、ゴム製であり、比較的周波数が高く振幅の小さなエンジン振動が入力したときに、この振動に同期して振動することで受圧室21の液圧変動を吸収する。
【0031】
オリフィス通路39は、その一端が蓋部19上面の開口部(図示せず)にて受圧室21に臨み、他端が本体部29下面に開口する開口部(図示せず)から平衡室31に臨んでいる。このオリフィス通路39は、比較的低周波で振幅の大きな振動にチューニングされている。
【0032】
−傘状部材及び可動部材の構造−
本実施形態に係るエンジンマウント1では、オリフィス通路39での作動液の流動による液柱共振作用によって吸収、減衰される入力振動の周波数よりも高い周波数域の入力振動に対する低動ばね効果を得るために、図2に拡大して示すように、連結金具3の下端部に取り付けられた傘状部材15と、当該傘状部材15の上側で連結金具3に取り付けられた可動部材25とをさらに備えている。
【0033】
傘状部材15は、金属板をプレス加工することで形成されており、リングプレート状の頂壁部15bと、当該頂壁部15bの外径よりも大きな内径を有するリングプレート状の底壁部15dと、頂壁部15bの外周縁と底壁部15dの内周縁とを繋ぐ、下方に向かうほど拡径する逆テーパ状の傾斜壁部15cとを有している。換言すると、傘状部材15は、頂部に貫通孔15aを有する略ハット状に形成されている。この傘状部材15は、貫通孔15aを区画する頂壁部15bの周縁部がフランジ部33cによって下方からかしめられることで、貫通孔15aの中心が軸線Z上に位置するように、連結金具3の下端部に取り付けられている。
【0034】
このように連結金具3の下端部に取り付けられた傘状部材15は、受圧室21の内部を上側(パワープラント側)の第1受圧室(第1主液室)21aと下側(車体フレーム側)の第2受圧室(第2主液室)21bとに仕切っている。また、傘状部材15の底壁部15dの外周縁はゴム弾性体7の傘状部17の内面近傍まで延びており、これにより、傘状部材15は、受圧室21内においてゴム弾性体7との間に、作動液が流動する狭窄通路21cを形成している。
【0035】
これにより、この狭窄通路21cがオリフィスとなり、当該狭窄通路21cを流動する作動液と第1受圧室21aを構成するゴム弾性体7とによって共振系が形成されるようになり、オリフィス通路39での作動液の流動による液柱共振作用によって吸収、減衰される入力振動の周波数よりも高い周波数域の入力振動に対する動ばね定数が低減されることになる。
【0036】
可動部材25は、金属板をプレス加工することで形成されており、リングプレート状の頂壁部25bと、当該頂壁部25bの外周縁から下方に向かうほど拡径するテーパ状の傾斜壁部25cとを有している。換言すると、可動部材25は、頂部に貫通孔25aを有する略逆皿状に形成されている。この可動部材25は、その貫通孔25aの中心が軸線Z上に位置するように、傘状部材15の上側に配置されているとともに、その頂壁部25bの下面が、円環状のゴム弾性片(弾性部材)57aを介して、傘状部材15の頂壁部15bの上面と連結されている。
【0037】
そうして、傘状部材15を連結金具3の下端部に取り付けると、可動部材25は、その貫通孔25aに連結金具3の下端部が挿通され、且つ、貫通孔25aを区画する頂壁部25bの周縁部が薄膜部57の下端部57bとゴム弾性片57aとによって上下から挟まれた状態で、連結金具3の下端部に取り付けられる。このように、可動部材25は、薄膜部57の下端部57bとゴム弾性片57aとを介して、すなわち弾性部材を介して、連結金具3に取り付けられることで、連結金具3及び傘状部材15に対して相対的に揺動可能となっている。
【0038】
そして、ゴム弾性体7が変形すると、換言すると、連結金具3が軸方向に変位すると、当該連結金具3に取り付けられた傘状部材15が軸方向に変位するのに対し、略逆皿状の可動部材25は、連結金具3に弾性部材を介して取り付けられているので、慣性で静止しようとすることから、傘状部材15に対して相対的に揺動する。このような動きを繰り返すことで、加振された可動部材25は、第1受圧室21a内で連結金具3への取付部(貫通孔25aを区画する頂壁部25bの周縁部)を支点として軸方向に揺動して、第1受圧室21aから第2受圧室21bへの作動液の流れを生じさせる。これにより、可動部材25は、第1受圧室21aに設けられ、ゴム弾性体7の変形に伴って、当該第1受圧室21aから第2受圧室21bへの作動液の流れを生じさせる本発明の流れ生成手段を構成することになる。
【0039】
なお、可動部材25の共振点は、薄膜部57の下端部57b及びゴム弾性片57aの肉厚や可動部材25の重量等を調整することにより、チューニングできるようになっており、傘状部材15の反共振作用に起因して動ばね定数が著しく上昇する周波数に合わせてチューニングされている。
【0040】
以上の如く構成された本実施形態のエンジンマウント1では、エンジンから発生する高周波数域の振動は、ゴム弾性体7の弾性変形により吸収される。このとき、エンジンシェイクなどの低周波領域の大振幅振動は、オリフィス通路39での液体の流動による液柱共振作用によって吸収、減衰されるようになっている。さらに、アイドル振動などの比較的周波数が高く振幅の小さなエンジン振動については、可動板41がこの振動に同期して振動することで受圧室21の液圧変動が吸収される。
【0041】
また、オリフィス通路39での液柱共振作用によって吸収、減衰される振動の周波数よりも高い周波数域(例えば200〜450Hz付近)の入力振動は、傘状部材15を連結金具3に取り付けることによって形成される狭窄通路21cがオリフィスとなり、当該狭窄通路21cを流動する作動液と第1受圧室21aを構成するゴム弾性体7とで形成される共振系によって、吸収、減衰されるようになっている。
【0042】
ここで、傘状部材15による低減領域を超えると、換言すると、傘状部材15の共振周波数よりも高い周波数域の振動が入力すると、ゴム弾性体7と傘状部材15との間の作動液がロックされ(目詰まりを生じ)、第1受圧室21a内で作動液の流動が実質的に生じない状態になるおそれがある。そうして、連結金具に単に傘状部材を取り付けたような従来のエンジンマウント(従来例)では、作動液が実質的に流れなくなると、ゴム弾性体の拡張ばね作用が小さくなり、図3に示すように、450Hz以上の高い周波数域において、動ばね定数が著しく高くなる場合がある。
【0043】
これに対し、本実施形態のエンジンマウント1では、入力振動によりゴム弾性体7が変形すると、薄膜部57の下端部57bとゴム弾性片57aとを介して連結金具3に取り付けられた可動部材25が、第1受圧室21a内で連結金具3への取付部を支点として、傘状部材15に対し相対的に揺動することから、第1受圧室21aから第2受圧室21bへの作動液の流れが生じる。これにより、第1受圧室21a内で作動液の流動が実質的に生じない状態の発生が回避されるので、第1受圧室21aを構成するゴム弾性体7の拡張ばね作用が確保され、図3に示すように、傘状部材15の共振周波数よりも高い周波数域(450Hz以上)における動ばね定数を低減することが可能となる。
【0044】
なお、図3に示す動ばね特性はあくまでも例示であり、要求される動ばね値や周波数域によって適宜変更可能であって、何等限定されるものではない。
【0045】
−効果−
本実施形態によれば、振動入力時に可動部材25が傘状部材15に対して相対的に揺動することで、第1受圧室21aから第2受圧室21bへの作動液の流れが強制的に生じるので、ゴム弾性体7の拡張ばね作用が確保されて、傘状部材15の共振周波数よりも高い周波数域における動ばね定数を低減することが可能となる。
【0046】
また、このように、簡単な構造で、且つ、振動入力時のゴム弾性体7の変形を利用して、作動液の流動を強制的に生じさせるので、例えば、電力等の外部動力源を用いて可動部材を駆動させるようなものに比して、製造コスト及び燃料コストを抑えることができる。
【0047】
(実施形態2)
本実施形態は、受圧板35を備えている点が実施形態1と異なるものである。以下、実施形態1と異なる点について説明する。
【0048】
本実施形態に係るエンジンマウント1では、図4及び図5に示すように、傘状部材15及び可動部材25に加えて受圧板35をさらに備えている。また、傘状部材15には、底壁部15dに後述する連結ピン55,55,55,55を挿通するための挿通孔15e,15e,15e,15eが周方向に等間隔で4つ形成されている一方、可動部材25には、傾斜壁部25cに連結ピン55,55,…を挿通するための挿通孔25d,25d,25d,25dが周方向に等間隔で4つ形成されている。
【0049】
受圧板35は、円盤状の金属板であり、連結ピン55,55,…を挿通するための挿通孔35a,35a,35a,35aが周方向に等間隔で4つ形成されている。この受圧板35は、その中心が軸線Zを通るように、傘状部材15の下側、すなわち、第2受圧室21b内に配置されている。
【0050】
この受圧板35は、連結ピン(連結部材)55を介して可動部材25と連結されている。より詳しくは、各連結ピン55は、上から可動部材25の挿通孔25d、傘状部材15の挿通孔15e、受圧板35の挿通孔35aの順に挿通されているとともに、その上端部が可動部材25の傾斜壁部25cに、その下端部が受圧板35にそれぞれリベット止めされており、これにより、受圧板35と可動部材25とが傘状部材15を間に挟んだ状態で連結されている。
【0051】
傘状部材15の挿通孔15eは、連結ピン55が摺動可能な大きさに形成されており、これにより、傘状部材15が連結金具3に固定されているにも拘わらず、受圧板35が作動液の液圧を受けることにより第2受圧室21b内で軸方向に動くとともに、当該受圧板35の動きに連動して可動部材25が第1受圧室21a内で連結金具3への取付部を支点として揺動するようになっている。
【0052】
このように受圧板35を設けることにより、可動部材25の共振点は、受圧板35の重量や面積等を調整することにより、チューニングできるようになっている。このため、広い範囲の周波数域において、可動部材25を作動液の液圧により自由に揺動させることが可能となることから、実施形態1とは異なり、薄膜部57の下端部57b及びゴム弾性片57aの共振域に制限されることなく、広い範囲の周波数域において動ばね定数の低減効果が得られることになる。
【0053】
なお、傘状部材15、可動部材25及び受圧板35を連結金具3に取り付ける際は、図6(a)に示すように、傘状部材15及び可動部材25を連結金具3に下方から近づけ、図6(b)に示すように、連結金具3の先端円筒部33cを傘状部材15の貫通孔15a及び可動部材25の貫通孔25aに挿通する。そうして、傘状部材15を段差部33bに(可動部材25を薄膜部57の下端に)当てた後、図6(c)に示すように、先端円筒部33cを径方向外側に折り曲げることで形成されたフランジ部33cによって、貫通孔15aを区画する頂壁部15bの周縁部を下方からかしめる。このようにして、可動部材25及び受圧板35を連結金具3に取り付けた後、連結ピン55,55,…を受圧板35の挿通孔35a,35a,…に挿通し、連結ピン55,55,…の下端部を受圧板35にリベット止めすることにより、受圧板35を取り付ける。
【0054】
−効果−
第2受圧室21bに設けられた受圧板35は、作動液の液圧を受けることにより軸方向に動くとともに、連結部材55,55,…を介して可動部材25と連結されているので、振動入力時にゴム弾性体7が弾性変形した際、可動部材25を、連結金具3への取付部を支点として軸方向に確実に揺動させることができる。これにより、受圧板35が設けられていないものに比して、第1受圧室21aから第2受圧室21bへの作動液の流れをより確実に生じさせることができる。
【0055】
また、可動部材25の共振点は、受圧板35の重量や面積等を調整することにより、チューニングできることから、薄膜部57の下端部57b及びゴム弾性片57aの共振域に制限されることなく、広い範囲の周波数域において動ばね定数の低減効果が得られる。
【0056】
(実施形態3)
本実施形態は、受圧板45の形状が実施形態2の受圧板35と異なるものである。以下、実施形態2と異なる点について説明する。
【0057】
本実施形態に係るエンジンマウント1では、図7及び図8に示すように、受圧板45は、貫通孔45aが形成された円環状の金属板であり、連結ピン55,55,…を挿通するための挿通孔45b,45b,45b,45bが周方向に等間隔で4つ形成されている。この受圧板45は、その中心が軸線Zを通るように、傘状部材15の下側、すなわち、第2受圧室21b内に配置されている。また、可動部材25の共振点は、受圧板45の重量や面積等を調整することにより、チューニングできるようになっている。
【0058】
このように円環状の受圧板45を設けることにより、貫通孔45aに工具等を挿入することが可能となるとともに、図6(a)〜(c)で説明した傘状部材15及び可動部材25の取付作業を受圧板45の下側から行うことが可能となる。これにより、受圧板45を取り付けたままフランジ部33cによって傘状部材15の頂壁部15bをかしめることが可能となる。したがって、図8に示すように、傘状部材15、可動部材25及び受圧板45を組み付けた状態で、連結金具3に取り付けることが可能となる。
【0059】
−効果−
本実施形態によれば、受圧板45を設けることにより、作動液の液圧によって、可動部材25を軸方向に確実に揺動させることができるとともに、傘状部材15、可動部材25及び受圧板45を組み付けた状態で連結金具3に取り付けられるので、エンジンマウント1の製造が容易となる。
【0060】
(実施形態4)
本実施形態は、ゴム弾性体7の内面に突起部7aが形成されている点が実施形態1と異なるものである。以下、実施形態1と異なる点について説明する。
【0061】
本実施形態に係るエンジンマウント1では、図9に示すように、ゴム弾性体7の内面に、第1受圧室21aに突出し、ゴム弾性体7の変形に伴って、可動部材25に軸方向に当接する舌状の突起部7a,7aが2つ形成されている。
【0062】
これら2つの突起部7a,7aは、軸線Zを中心として中心角略90度をなす位置に形成されている。このため、可動部材25の外周縁部が突起部7aに上側から当接すると、可動部材25の図9(b)における左下の部分が上がるとともに右上の部分が下がり、これとは逆に、可動部材25の外周縁部が突起部7aに下側から当接すると、可動部材25の図9(b)における左下の部分が下がるとともに右上の部分が上がるようになっている。
【0063】
このように突起部7a,7aを形成することにより、振動入力時に連結金具3が下方に変位すると、図10に示すように、可動部材25の外周縁部が突起部7aに上側から当接する一方、連結金具3が上方に変位すると、可動部材25の外周縁部が突起部7aに下側から当接し、これにより、可動部材25が第1受圧室21a内で連結金具3への取付部を支点として揺動する。
【0064】
−効果−
本実施形態によれば、簡単な構造で、ゴム弾性体7の変形に伴って、第1受圧室21aから第2受圧室21bへの作動液の流れを確実に生じさせることができる。
【0065】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0066】
上記各実施形態では、可動部材25を、連結金具3に弾性部材(薄膜部57の下端部57b及びゴム弾性片57a)を介して取り付けられる略逆皿状の部材したが、傘状部材15に対して相対的に揺動することで作動液の流れを生じさせるのであれば、異なる態様で連結金具3に取り付けてもよく、また、例えば円盤状に形成してもよい。
【0067】
また、上記各実施形態では、金属製の可動部材25を用いたが、ある程度の剛性を確保できる部材であれば、例えば樹脂製の可動部材を用いてもよい。
【0068】
さらに、上記実施形態2及び3では、等間隔に配置された4つの連結ピン55,55,…で可動部材25と受圧板35(45)とを連結したが、受圧板35の動きに連動して可動部材25が揺動するのであれば、連結ピン55,55,…の本数や配置を適宜変更してもよい。
【0069】
また、上記実施形態4では、軸線Zを中心として中心角略90度をなす位置に2つの突起部7a,7aを形成したが、可動部材25に軸方向に当接することで可動部材25を揺動させるのであれば、突起部7a,7aの個数や配置を適宜変更してもよい。
【0070】
さらに、上記実施形態では、本発明の液体封入式防振装置をいわゆる縦置きのエンジンマウント1に適用しているが、これに限らず、横置きのエンジンマウントにも適用することができるし、エンジンマウントに限らずサスペンションブッシュ等にも適用できる。さらに、自動車用途に限定されることもない。
【0071】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明は、ゴム弾性体との間に狭窄通路を形成するように連結金具に取り付けられた傘状部材を備えた液体封入式防振装置等について有用である。
【符号の説明】
【0073】
1 エンジンマウント(液体封入式防振装置)
3 連結金具
5 支持金具
7 ゴム弾性体
7a 突起部
9 オリフィス盤(仕切部材)
11 液室
15 傘状部材
21 受圧室(主液室)
21a 第1受圧室(第1主液室)
21b 第2受圧室(第2主液室)
21c 狭窄通路
25 可動部材(流れ生成手段)
31 平衡室(副液室)
35 受圧板
39 オリフィス通路
45 受圧板
55 連結ピン(連結部材)
57a ゴム弾性片(弾性部材)
57b 薄膜部の下端部(弾性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被支持体側に連結される連結金具と、支持体側に連結される支持金具と、これら両金具を連結し、弾性変形により当該両金具を少なくとも当該両金具を結ぶ軸方向に相対変位させるゴム弾性体と、当該ゴム弾性体の変形に伴い容積が変化するように上記連結金具と上記支持金具との間に形成された液室と、当該液室の内部を主液室と副液室とに仕切る仕切部材と、当該主液室と当該副液室とを連通するオリフィス通路と、上記主液室の内部を被支持体側の第1主液室と支持体側の第2主液室とに仕切り、且つ、当該主液室内で上記ゴム弾性体との間に狭窄通路を形成するように上記連結金具に取り付けられた傘状部材と、を備え、上記液室に作動液を封入した液体封入式防振装置であって、
上記第1主液室に設けられ、上記ゴム弾性体の変形に伴って、当該第1主液室から上記第2主液室への作動液の流れを生じさせる流れ生成手段をさらに備えていることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項2】
請求項1記載の液体封入式防振装置において、
上記流れ生成手段は、上記第1主液室内で、上記連結金具に弾性部材を介して取り付けられる略逆皿状の可動部材であり、
上記可動部材は、上記傘状部材に対して相対的に揺動することで、上記作動液の流れを生じさせることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項3】
請求項2記載の液体封入式防振装置において、
上記第2主液室に設けられ、上記作動液の液圧を受けることにより軸方向に動く受圧板をさらに備え、
上記受圧板は、連結部材を介して上記可動部材と連結されていることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項4】
請求項2記載の液体封入式防振装置において、
上記ゴム弾性体には、上記第1主液室に突出し、上記ゴム弾性体の変形に伴って、上記可動部材に軸方向に当接する突起部が形成されていることを特徴とする液体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−149448(P2011−149448A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8959(P2010−8959)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】