説明

液体組成物のpHおよび標的イオンレベルの制御方法

液体組成物のpHおよび標的イオンレベルを制御する方法、より具体的には、反応器において生じる低分子荷電種を抽出するための逆電気強化透析(REED)の使用。より一層具体的には、本発明は、バイオリアクタにおけるpH制御方法および阻害物質制御方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体組成物のpHおよび標的イオンレベル(または濃度)の制御方法に関する。より特には、本発明は、反応器において発生する低分子の荷電種を抽出するための逆電気強化(または増強)透析(Reverse Electro−Enhanced Dialysis、REED)の使用に関する。より一層特には、本発明は、バイオリアクタにおけるpH制御方法および阻害物質の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体組成物のpHおよび/または標的イオンレベルの制御は、金属精錬および発酵液からの有機物の精製のような幅広い技術分野において用いられる重要な工業プロセスである。
【0003】
液体組成物のpHおよび/または標的イオンレベルを制御するために、多数の方法が導入されてきた。前記方法として、精密ろ過および限外ろ過法、イオン交換法、ならびに電気透析法が挙げられる。
【0004】
例えば、バイオリアクタは、様々な有機化合物、医薬用タンパク質、アミノ酸、種菌(またはスターター培養物、starter culture)、バイオ燃料等を製造するために、または生分解の目的のために、産業において幅広く使用されている。バイオリアクタは多くの場合、最適な機能性を保持するのに特定のpHレベルを必要とする微生物を含んでいる。
【0005】
バイオリアクタにおけるpH調節の標準的手段として、バイオリアクタ中にアルカリ性または酸性中和剤で直接滴定し、それにより、微生物が生成した酸性またはアルカリ性の代謝産物を中和することが挙げられる。しかし、これらの代謝産物の塩は特定の濃度に達するとしばしば成長を阻害する。
【0006】
生物学的反応に対する阻害物質等のいくつかの塩および代謝産物の増加によって、正常な回分操作におけるバイオリアクタの生産性に制限が設けられる。阻害を最小限にするための可能な解決策として潅流システムが挙げられ、この潅流システムにおいて、阻害物質を含む発酵培養液がフィルタープロセス(例えば限外ろ過または精密ろ過)によって連続的に抽出され、その一方で微生物が保持され且つ新たな基質溶液が発酵槽に加えられる。潅流システムにおいては、中和剤滴定によるバイオリアクタのpH調節が未だ必要であり、有用な基質成分が透過物と共に失われる。
【0007】
電気透析およびいわゆるドナン(Donnan)透析法で利用される場合、イオン交換膜の使用は、限外ろ過および精密ろ過で通常用いられる膜と比較して、小さい荷電種(または荷電スピーシーズ)をより選択的に抽出し得る。しかし、常套的な電気透析は、バイオリアクタと直接組み合わせると膜の汚染を免れず、また、pH制御のために中和剤滴定が未だ必要である。
【0008】
欧州特許第1237823号は、カチオン交換膜またはアニオン交換膜のいずれかを有する電気強化透析セルにおいて、イオン種を第1溶液から第2溶液へ移動させる装置および方法を開示している。
【0009】
米国特許第5,114,554号はカソード電着浴から酸を除去する方法を開示しており、その方法において、導電性基板をカチオン樹脂でコーティングし、コーティング浴の少なくとも一部を限外ろ過に供し、限外ろ過液の少なくとも一部を、直流電流で操作されるアニオン交換膜を有する電気透析セルにおいて、特定の電気透析処理に供する。
【発明の概要】
【0010】
液体組成物のpHと標的イオンレベル(または濃度)の両方を制御する方法が必要であり、この方法によって、化合物を直接加えることのないより正確なpH制御が可能となり、この方法によって、所望のpH設定値とは独立して標的イオンレベルを制御することが可能となる。
【0011】
従って、第1の要旨において、本発明は、液体組成物のpHおよび標的イオンレベルを制御する方法に関し、この方法は、下記の工程を任意の順番で含む:
a)少なくとも1つの逆電気強化(または増強)透析(REED)膜スタックに前記液体を通す少なくとも1つの工程であって、前記少なくとも1つのREED膜スタックは、
i) その間に第1液体のための第1チャンバーを規定する、少なくとも2つのイオン交換膜;
ii) 第2液体のための少なくとも2つの別のチャンバーであって、当該別の各チャンバーは、少なくとも1つの第1チャンバーに近接して配置される、チャンバー;
iii)一組の端部膜;および
iv) 少なくとも2つの電極によって膜に電場をかける手段
を有する工程、ならびに
b)前記液体において標的イオンレベルを制御する少なくとも1つの工程。
【0012】
本発明の第2の要旨は、
a)少なくとも1つのアニオン交換逆電気強化透析(AX−REED)膜スタックであって、
i) その間に第1液体のための第1チャンバーを規定する、少なくとも2つのアニオン交換膜;
ii) 第2液体のための少なくとも2つの別のチャンバーであって、当該別の各チャンバーは、少なくとも1つの第1チャンバーに近接して配置される、チャンバー;
iii) 一組の端部膜;および
iv) 少なくとも2つの電極によって膜に電場をかける手段
を有するAX−REED膜スタック、ならびに
b)少なくとも1つのカチオン交換逆電気強化透析(CX−REED)膜スタックであって、
v) その間に第3液体のための第3チャンバーを規定する、少なくとも2つのカチオン交換膜;
vi) 第4液体のための少なくとも2つの別のチャンバーであって、当該別の各チャンバーは、少なくとも1つの第3チャンバーに近接して配置される、チャンバー;
vii) 一組の端部膜;および
viii)少なくとも2つの電極によって膜に電場をかける手段
を有するCX−REED膜スタック
を含むシステムであって、
前記少なくとも1つのアニオン交換逆電気強化透析(AX−REED)膜スタックおよび前記少なくとも1つのカチオン交換逆電気強化透析(CX−REED)膜スタックは直列または並列接続されている、システムである。
【0013】
本発明の第3の要旨は、液体組成物のpHおよび標的イオンレベルを制御するための本発明のシステムの使用である。
【0014】
本発明の他の要旨は、以下の詳細な説明および実施例から当業者に明らかとなるであろう。
【0015】
[定義]
本発明において、用語「(1または複数の)標的イオン」は、不要なイオン(例えば発酵プロセスにおける阻害物質)、および液体組成物から取り出される所望の生成物を構成するイオンの両方を包含することが意図される。標的イオンの限定的でない例として、乳酸イオンを挙げることができる。乳酸は乳酸菌(LAB)培養に対する、従って生来ているLAB培養物を有するバイオリアクタに対する公知の阻害物質であり、乳酸イオンはREED法に対する標的イオンであり得る。用語「標的イオン」は水素イオンを包含しない。
【0016】
本発明において、用語「逆電気強化透析」または「REED」はAX−REEDおよびCX−REEDの両方を含む。
【0017】
本発明において、用語「AX−REED」は、アニオン交換膜がフィード溶液と透析液との間の障壁として用いられ、2つの液体間のアニオン交換が促進されるREED配置を意味する。
【0018】
本発明において、用語「CX−REED」は、カチオン交換膜がフィード溶液と透析液との間の障壁として用いられ、2つの液体間のカチオン交換が促進されるREED配置を意味する。
【0019】
本発明において、用語「スタック」は、少なくとも2つのイオン交換膜の組み合わせの1つ又はそれより多くの繰り返しの組、一組の端部膜、および前記膜を囲む少なくとも2つの電極を含むREEDシステムの単位を意味する。
【0020】
本発明において、用語「複数のREED膜スタック」は、膜およびスペーサーの2つまたはそれより多くのスタックを意味し、各スタックは電極対の間に配置される。
【0021】
本発明において、用語「電場の逆転」または「電流逆転」は、REED電極の極性の変更を意味し、それは直流電流の方向の逆転をもたらし、それによってイオン交換膜を通るイオンの移動が促進される。
【0022】
本発明において、用語「制御」または「制御すること」は、REEDおよび/または滴定および/または水の添加を用いて、手動で又は自動的に所望のパラメータ、例えば標的イオン濃度を調節する能力を意味する。
【0023】
図面を参照して本発明を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、バイオリアクタに並列接続したAX−REEDおよびCX−REEDを組み合わせたプロセス配置を示す。
【図2】図2は、AX−およびCX−REEDの組み合わせを用いたpHおよび乳酸イオン濃度の制御を示す。
【図3】図3は、実施例3の結果を示す。
【図4】図4は、実施例4の試験結果を示す。
【図5】図5は、実施例5の試験結果を示す。
【図6】図6は、実施例6のREEDで制御された発酵の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[REED原理]
逆電気強化透析(REED)法は、いわゆるドナン(Donnan)透析配置に類似したプレートアンドフレーム(または平板形;plate−and−frame)膜配置においてイオン交換膜を利用し、前者は化学ポテンシャルの差によってもたらされる拡散を推進力として利用している。尤も、REED法においては、イオン交換は、膜配置を通る直流電流によって促進され且つ調節される。REED法は、大きすぎて膜を通過し得ない成分(例えばタンパク質)を伴うプロセス溶液における使用が意図され、前記成分はイオン交換膜表面に集まる傾向にある;この作用は膜汚染(または付着)として知られている。REED法の対称配置を利用することにより、分離プロセスを著しく妨げることなく電流の方向を一定間隔で逆転させることができる。
【0026】
通常、プロセス溶液(フィード溶液)はREEDシステムを通って流れ、そのREEDシステムにおいて、負に帯電したイオン(アニオン)が他のアニオンと交換され(従ってアニオン交換REED配置(または構成)(AX−REED)と呼ばれる)、または正に帯電したイオン(カチオン)がカチオン交換REED配置(または構成)(CX−REED)において他のカチオンと交換される。透析液溶液はイオンを輸送し、そのイオンはフィード溶液中のイオンと交換される。プレートアンドフレーム配置において、いくつかの膜が積層され、フィード溶液および透析液溶液の各々を交互に容易に促進するフロースペーサーで隔てられている。
【0027】
本発明の一の態様において、前記少なくとも2つの電極の極性を、間隔をおいて変更する。
【0028】
分離の間、各フィードスペーサー区画を囲む2つの膜は、フィード溶液からのイオン移動を促進し、または透析液からフィード溶液中へのイオン移動を促進する。
【0029】
各フィード区画を囲む2つの膜が機能を交換するので、電場/電流の方向の各々の逆転は、その影響を受ける、膜を通るイオンの分極プロファイルの短時間での再構築をもたらす。それまでに除去されたイオンは膜プロファイルが再構築されるまでフィード溶液へと押し戻されるので、このことは分離プロセスの短時間の逆転をもたらす。各々の逆転は短時間の分離の中断を引き起こし且つ僅かなプロセス不安定性を引き起こすので、電流逆転の間隔を、汚染(または付着)の増加が許容する限り長く保つことが好都合である。
【0030】
本発明の一の態様において、複数のREEDスタックを並列に操作する。そのような配置により、バイオリアクタ外部の保持時間および設定値からのpHのずれが直列操作と比較して減少するので、例えばバイオリアクタ内の微生物への影響が最小限となる。
【0031】
本発明のもう1つの態様において、複数のREEDスタックを、直列またはカスケード式で操作する。そのような配置は、通過毎のより高度なイオン除去を可能にし、連続的な下流操作により適している。
【0032】
REED法は、細胞増殖(連続的発酵)の生産性および寿命を向上させるため並びに/又は代謝産物(例えば組み換えタンパク質)の生成を調節するために、バイオリアクタ/生発酵プロセスからの有機酸イオン等の阻害物質を抽出するのに使用してよい。REED法は、例えば、生物学的システム、生物変換システムまたは触媒システムにおけるpH制御に使用してよく、それらのシステムにおいて、小さい(または少量の)酸性またはアルカリ性成分が連続的に生成する(例えば乳酸塩、酢酸塩、アンモニア、硝酸塩)。生成した有機酸イオンをアルカリ透析液溶液からの水酸化物イオンと交換することにより(それはその後、付随する水素イオンを中和する)、全体的な結果は、一定のpHおよび有意に減少した有機酸レベルの蓄積である。アルカリ生成システムの場合も同様であり、そのアルカリ生成システムにおいて、アルカリイオンは酸性透析液からの水素イオンと交換され、その水素イオンがフィード溶液における水酸化物イオンを中和する。生成した酸またはアルカリが成長阻害物質としてはたらく生物学的システムにおいて、REEDシステムのpH制御は、生物学的システム中での直接的な標準的pH滴定制御よりも好ましく、その標準的pH滴定制御はpHレベルを保持するのみであり、それ自体は中和された酸性またはアルカリ性代謝産物の増加(または蓄積)を抑制することができない。
【0033】
本発明の一の態様において、複数のAX−REEDまたはCX−REED膜スタックの場合、任意の一のREEDスタック内の電場を、他の全てのREED膜スタックに対して非同期的に(または非同時的に;asynchronically)変更する。
【0034】
各々の電流逆転に続く上述の短時間の影響は、膜のイオンプロファイルが再構築されるまでに短時間の悪影響を導入することにより、REEDシステムのpH制御に影響を及ぼす。AX−REEDの場合において、酸性イオンは、各フィード区画において一のアニオン交換膜を通って抽出され、一方、水酸化物イオンは対向するアニオン交換膜を通って入る。電流の方向が逆転すると、最初に言及した膜の内側の抽出された酸性イオンは、水酸化物イオンがフィード溶液に入り始める前に、フィード溶液の中に押し戻される。従って、それまでは酸性イオンを抽出するのに用いられた膜によって水酸化物プロファイルが再構築されるまでの短時間に、pH制御は観察されない。各々の電流逆転の後、pH制御が再生されるまでの時相の長さは、種々のプロセス条件および膜特性に依存する;通常、プロセスが再び完全なpH制御で操作されるまで10〜90秒かかる。このことはpHの突然の変化として記録され、これはその後、調節して所望の設定値に戻さなければならない。1つより多くの膜スタックを有するシステムにおいて、不安定性の影響を分散させるため及び電流逆転の全体の影響を減少させるために、各々の独立したスタックにおいて非同期的に電流逆転を実施することが好都合である。非同期的な電流逆転の使用は、出願人の同日の同時係属の特許出願(発明の名称「Method and system for improved process parameter control of a liquid composition in a reverse electro−enhanced dialysis (REED) system」により詳細に開示されており、この特許出願は引用することにより本明細書に組み込まれる。
【0035】
スタックに対する電流逆転の間隔の長さは通常、膜汚染の蓄積に関連して選択される。通常、任意の一のREEDスタック内の前記間隔は5〜6000秒、好ましくは8〜3000秒、より好ましくは10〜2000秒、より一層好ましくは100〜1500秒の範囲であってよい。
【0036】
本発明の方法の一の態様において、前記少なくとも1つのREED工程は、アニオン交換逆電気強化透析(AX−REED)工程を含み、前記標的イオンレベルを制御する少なくとも1つの工程は、カチオン交換逆電気強化透析(CX−REED)工程を含む。
【0037】
本発明の方法のもう1つの態様において、前記逆電気強化透析(REED)膜スタックは、カチオン交換逆電気強化透析(CX−REED)スタックであり、前記標的イオンレベルを制御する少なくとも1つの工程は、前記液体組成物がアニオン交換逆電気強化透析(AX−REED)膜スタックを通過することを含む。
【0038】
本発明は、pHおよび標的イオンレベルの制御を改良するためにAX−REEDシステムとCX−REEDシステムとを組み合わせる場合に利点を提供する。pHを制御するため、および標的イオンを低分子の荷電阻害物質(例えば有機酸または塩基)の形態で生成するバイオプロセスにおける阻害物質の低いレベルを保持するためにREED法を利用し得る方法を先に説明した。いくつかのシステムにおいて、REEDシステムのpH制御によって達成される標的イオンレベル制御と比較して改良された標的イオンレベル制御が必要である。
【0039】
標的イオンを生成する反応器において安定なpHを保持するために、pH制御に使用されるREEDシステム(以下、「一次REEDシステム」と記す)を調節して、反応器で生成した量の酸または塩基イオンを中和する。このことを確保するために、反応器における対応する量の負の電荷を帯びたイオンまたは正の電荷を帯びたイオンを、水酸化物イオンまたは水素イオンで各々交換する。この一次REEDシステムによって交換されるイオンは、件の反応器に存在する負の電荷を帯びた又は正の電荷を帯びた低分子イオンの別の表現であり、これには標的イオンが含まれる。分配はイオンの輸率によって決まり、その輸率は分子の電荷、イオン移動度および濃度に依存する。標的イオン濃度がかなりのものである反応器においてREEDのpH制御を通常どおり操作する場合、pH制御工程の一部として抽出および置換されるイオンの大部分は通常、標的イオンを構成し、従って、阻害レベルより低い安定な標的イオンレベルを保持するのに役立つ。電荷および寸法に関して標的イオンに似ている他のイオン(例えば無機イオン、アミノ酸)が高含有量である反応器システムにおいてREEDをpH制御に利用する場合、pH制御を保持するために置換されるイオンのごく一部が標的イオンを構成する。このことは、pHが制御された反応器において中和された標的イオンの正味の蓄積を引き起こす。
【0040】
本発明の一の態様において、「二次REEDシステム」は、一次REEDシステムと比較して反対の電荷を有するイオンを交換し、従って、標的イオンレベルの制御を改良するために導入される。酸生成プロセスにおいて、pH制御のための一次REEDシステムとしてAX−REEDを使用し、それによって酸性標的イオンを中和する。CX−REEDを二次REEDシステムとして加えることにより、並列または直列モードにおいて反応器からのカチオンを水素イオンと交換することができ、これは、より多くの酸性分子を加えることなく反応器の酸性化の役割を果たす。pHを調節するAX−REEDは、反応器のアニオンの水酸化物イオンとの交換を増加させることによって、従って酸性標的イオンの抽出を増加させて、さもなければ起こり得るそれらの蓄積に打ち勝つことによって、酸性化の増大へと反応するであろう。それにより、反応器のpH安定性を乱すことなく標的イオン濃度を低下させることが可能である。
【0041】
アルカリ生成プロセスに関して原理は同様であり、pH制御のための一次REEDシステムとしてCX−REEDを使用し、標的イオンレベルを制御するための二次REEDシステムとしてAX−REEDを使用する。
【0042】
他のプロセス効果は反応器全体の濃度レベルに影響を与える。水もまた、REEDシステムにおけるイオン交換膜を通過する浸透および電気浸透によって交換される。通常の場合のように、透析液のイオン活量が反応器のイオン活量より大きい場合、浸透により水分子は反応器からREEDにおける透析液へと拡散する。標的イオンを置換する水酸化物イオンまたは水素イオンの移動度と比較してより小さいイオン移動度を有する標的イオンを交換する場合、反応器から透析液中への水分子の電気浸透フラックスが通常観察される。全体として、REEDシステムは通常、反応器から水を抽出する。
【0043】
本発明の一の態様において、前記逆電気強化透析(REED)膜スタックはアニオン交換逆電気強化透析(AX−REED)スタックであり、前記標的イオンレベルを制御する少なくとも1つの工程は、酸による前記液体の滴定を含む。
【0044】
本発明の別の態様において、前記逆電気強化透析(REED)膜スタックはカチオン交換逆電気強化透析(CX−REED)スタックであり、前記標的イオンレベルを制御する少なくとも1つの工程は、アルカリによる前記液体の滴定を含む。
【0045】
非阻害(または阻害的でない)酸または塩基を反応器に加えることにより、一次REEDシステムは阻害イオン濃度の低下を引き起こすイオン交換を増大させ、一方、非阻害イオン濃度は増加するであろう。2種類のイオン間の濃度比は、阻害イオンの生成および添加速度の比に依存する平衡値に近付くであろう。特定の態様において、バイオリアクタにおける乳酸イオン濃度をオンラインで測定し、乳酸イオン濃度が所定の設定値を超えて増加すると、リン酸等の強酸による滴定量を増加させる。
【0046】
本発明の別の態様において、前記標的イオンレベルを制御する少なくとも1つの工程は、反応器に水を加えることを含む。大量の例えば滅菌水またはより希釈されたフィード成分の添加は標的イオンの蓄積に対抗するであろうが、その添加は反応器の寸法によって制限され、または過剰体積分のパージを必要とする。特定の態様において、バイオリアクタにおける導電率をオンラインで測定し、導電率が所定の設定値を超えて増加すると、水の添加量を増加させる。
【0047】
本発明の一の態様において、前記標的イオンレベルを制御する少なくとも1つの工程は、ろ過工程、好ましくは精密ろ過または限外ろ過工程を含む。従って、圧力駆動膜プロセスによってバイオリアクタの酵素(ferment)を濾取する潅流システム、および連続的に供給される新たな基質溶液の使用により、例えばオンライン濃度測定または導電率測定による阻害物質レベルの正確な制御が可能となる。
【0048】
本発明の一の態様において、かけられる電場の強度を、前記液体組成物のpH、標的イオン濃度または導電率に応じて調節する。電場の強度を増加させることによって、REEDシステムにおいてイオン交換が増大し、逆もまた同様である。調節されたプロセスパラメータのオンライン測定値、半オンライン(例えば時間遅延)測定値、または二次的(例えば、標的イオン濃度を推定するのにオンラインの導電率または濁度測定値を用いる)測定値を、制御調節機構、例えばPID制御ソフトウェアに入力し、これが今度はREED電極に対する電力供給源の出力を調節する。
【0049】
本発明の一の態様において、前記液体組成物は、固定化された若しくは懸濁した微生物培養物を含有する発酵混合物であり、または酵素含有混合物である。
【0050】
本発明の一の態様において、前記微生物培養物(または培養菌)は、バクテリア、酵母、菌類もしくは哺乳類細胞の増殖培養物または休止(もしくは静止;resting)培養物を含む。
【0051】
本発明のもう1つの態様は:
a)以下のものを有する少なくとも1つのアニオン交換逆電気強化透析(AX−REED)膜スタック:
i. その間に第1液体のための第1チャンバーを規定する、少なくとも2つのアニオン交換膜;
ii. 第2液体のための少なくとも2つの別のチャンバーであって、当該別の各チャンバーは、少なくとも1つの第1チャンバーに近接して配置される、チャンバー;
iii. 一組の端部膜;および
iv. 少なくとも2つの電極によって膜に電場をかけるための手段;ならびに
b)以下のものを有する少なくとも1つのカチオン交換逆電気強化透析(CX−REED)膜スタック
v. その間に第3液体のための第3チャンバーを規定する、少なくとも2つのカチオン交換膜;
vi. 第4液体のための少なくとも2つの別のチャンバーであって、当該別の各チャンバーが、少なくとも1つの第3チャンバーに近接して配置される、チャンバー;
vii. 1組の端部膜;および
viii. 少なくとも2つの電極によって膜に電場をかけるための手段;
を含むシステムであって、前記少なくとも1つのアニオン交換逆電気強化透析(AX−REED)膜スタックおよび前記少なくとも1つのカチオン交換逆電気強化透析(CX−REED)膜スタックは、直列または並列接続である、システムである。
【0052】
有機酸に阻害される細胞株によって発酵するバイオリアクタに関して、アニオン交換REED(AX−REED)は、生成した有機酸を水酸化物イオンで置換するはたらきをし、従って、酸の生成によるpHの低下に対抗する。AX−REEDの調節により、水酸化物イオンの交換は、中和剤の添加を必要とすることなくバイオリアクタのpHを保持し得る。AX−REEDを、バイオリアクタにおけるカチオンを例えば水素イオンに交換するカチオン交換REED(CX−REED)システムと組み合わせることにより、有機酸阻害物質のレベルおよびバイオリアクタのpHを調節することが可能である。
【0053】
組み合わされたAX−REED、およびCX−REEDは、バイオリアクタ制御が増大し、同時に中和剤を加える必要性が低下する可能性を提示する。その結果、細胞成長がもはや酸の妨害によって制限されないので、塩レベルが高度に減少し、生産性がかなり増大したバイオリアクタ製品が得られる。
【0054】
一次および二次REEDシステムを並行モードで操作することによって、バイオリアクタの外部で酵素が費やす時間を最小限にし得る。最適な成長条件がバイオリアクタ内に存在するので、酵素ができるだけ短時間で外部のREEDシステムを流れることが好ましい。
【0055】
最適な反応器制御のために、透析液の濃度および流量(または流れ)ならびに操作温度および操作モードを制御することが必要である。REEDにおけるイオン交換速度は電流と受動拡散との組み合わせに依存する。拡散速度は、透析液から反応器に輸送されるべきイオン濃度に依存する。透析液が高濃度のpH調節イオン(例えば、AX−REEDが一次システムである場合、水酸化物イオン)を有する場合、電流に関わらず、反応器回路中への水酸化物イオンの実質的な拡散が存在するであろう。従って、拡散速度が反応器における生成速度を決して上回らないように、透析液濃度を制御できるようにすることが重要である。これは、透析液の濃度および/または流速を、REEDスタックに出力される電流と関連付けることによって行われ、その結果、電流の増加によって透析液濃度が増加するであろう。透析液濃度の制御は、例えば、透析液ストリームがREEDに入る前の、透析液ストリーム中への水および高濃度透析液溶液の添加を調節することによって実施可能である。透析液流量の制御は、例えば、透析液流量ポンプを調節することによって、または流量調節バルブを用いることによって、実施可能である。
【0056】
直列モードにおいて、酵素が酸性またはアルカリ性になりすぎるのを回避することが可能であり、このことは、pH不安定性を示す要素が存在する場合に対処されなければならない。REEDシステムの種類に応じて、REEDシステムを出る酵素は酸性化され又はよりアルカリ性になり、その後、バイオリアクタ中に再混合する場合、正常なpHに戻される。pHの不安定性が問題となっている場合、直列設定において、バイオリアクタの外部の循環ループ(または閉回路)に第1工程として適切なREEDシステムを配置することにより、発酵のpHを上昇させることによって開始するか、または低下させることによって開始するかを選択することが可能である。
【0057】
バイオリアクタにおける生成速度に応じて、シングルパスモード、回分モードまたはそれらの組み合わせにて透析液流(または流量)を操作することが可能である。例えば細胞密度が低い発酵プロセスの初めにおいて、低容量が必要とされる場合、タンクに透析液を循環させることが好都合である。バイオリアクタの生産性が増大するにつれて、REEDスタックを出る透析液が廃棄される割合が増加する。プロセスを全能力(またはフル稼働)で運転する場合、全ての透析液はスタックを通るシングルパスの後に廃棄され、新たな透析液がスタックの中にポンプで送られる。複数のスタックを使用する場合、並列または直列で、スタックの間のブースターポンプによって、またはブースターポンプを用いずに透析液の流量を設定することが可能である。
【0058】
ここで、以下の限定的でない特定の実施例において本発明を更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0059】
特定の医薬品有効成分(API)を発現させるために、AX−REEDおよびCX−REEDの両方を図1に示す配置で接続した100Lバイオリアクタにおいて、栄養を多く含む培地を用いて乳酸生成乳酸連鎖球菌株を培養した。培養液は、バイオリアクタに戻す前に、バイオリアクタ(1)から相互接続パイプ(2)を通してAX−REEDおよびCX−REEDの両方の酵素区画(7)へとポンプで送った。AX−REEDの透析液区画(6)にNaOH溶液をポンプで送り、CX−REEDの透析液区画(8)にHNO溶液をポンプで送った。電極区画(5)に0.5MNaOH溶液をポンプで送ることによって電極を洗浄した。AX−REEDは、活性な膜の総面積が5.6mである50個のセル対を備えた2つの膜スタックを有した。ループに接続した1つのCX−REEDスタックは、総膜面積が1.1mである20個のセル対を備えていた。取り付けられた膜は、ASMアニオン交換膜(10)およびCMXsbカチオン交換膜(9)であり、その両方はASTOM(日本)製である。特定のグルコースレベルを保持するため及び必須成長成分を供給するために、高濃度基質溶液を、ポートを通じて発酵槽に連続的に加えた(11)。バイオマスの湿重量を測定し、発酵槽に滅菌水(12)を加えることによって調節し、APIを含有する過剰体積分を、発酵槽の頂部付近に設けられたパイプ(13)を通じて採取した。
【0060】
バイオマスは比較的低い乳酸イオン濃度において最も良く生じるが、APIの発現は、250mM付近の乳酸イオン濃度において最適である。結果として、発酵の間中乳酸イオンレベルの制御を保持し得ることが重要である。AX−およびCX−REEDの両方は、発酵槽の植菌の8時間後に約90mMの乳酸イオン濃度で開始した(図2を参照のこと)。2つのAX−REEDスタックにおける電流を制御して、pH設定値の6に保持した。プロセスを制御するためのpHプローブが、ループにおいて発酵槽ではなくREEDパイロット装置に設けられているので、設定値からの僅かなずれを観察することができる。図2に示すpHは発酵槽のpHである。CX−REEDスタックにおける電流を制御して所定の導電率を保持し、その導電率は乳酸イオン濃度に関連した。24時間後、バイオマス濃度は所望のレベルに達し、API発現システムの誘導を徐々に開始させた。これは、CX−REEDを止めることによって行い、これにより、30時間後にCX−REEDを再び開始させる前に乳酸イオン濃度を250mMに増加させた。52時間後、発酵を終了し、約200Lの培養液(パージ体積分を含む)を更なる精製のために収集した。
【0061】
所定の乳酸イオンレベルで発酵を実施できることにより、API濃度は標準的な回分発酵の10倍に増加した。
【実施例2】
【0062】
実施例1の配置と同様の配置を使用したが、発酵槽に水を加えることによって使用した。発酵槽に水を加えると、CX−REEDスタックにおける電流の必要性が低下することが観察された。水の添加を適切に制御することにより、CX−REEDを省くことができた。
【実施例3】
【0063】
この実施例は、模擬流加発酵プロセスにおいて、一のプロセスパラメータを制御するのに用いられるREEDスタックを、二次的なプロセスパラメータを同時に制御するための水の添加と組み合わせ得る方法を説明する。
【0064】
各々915cmの10個のセル対を有するAX−REEDおよび各々915cmの2個のセル対を有するCX−REEDの並列の組み合わせを、図1に示す配置で20リットルの発酵槽に接続した。AX−REEDおよびCX−REEDにNeosepta AMSアニオン交換膜(10)およびNafion N117カチオン交換膜(9)を取り付けた。膜をJS−9スタック(Jurag Separation、デンマーク)に取り付けた。バイオリアクタ/発酵槽(1)を準備して、pH6.5においてリン酸緩衝液(60mM)および乳酸ナトリウム(85mM)からなる20Lのモデル溶液による流加発酵を模擬した。一定速度で標的イオンを生成する微生物の存在を模擬するために、90%(w/w)の乳酸を75ml/hの速度で加え(11)、一定の酸性化をもたらした。栄養成分の添加および競合イオンの存在を模擬するために、5M塩化ナトリウム溶液を75ml/hの速度で連続的に加え(11)、塩分濃度および発酵槽の導電率において一定の増加をもたらした。発酵槽温度を25℃に保持した。
【0065】
発酵槽中のモデル溶液を、並列したAX−REEDおよびCX−REEDに循環させて(2)、発酵槽に戻した。AX−REEDユニットにおいて、0.2M水酸化ナトリウムの透析液溶液(3)10Lを、0.5M水酸化ナトリウムの電極洗浄溶液(5)と一緒に循環させた。この実施例においてCX−REEDはアクティブでなく(または機能せず)、このユニットにおける透析液(4)として脱イオン水のみを使用した。図3はこの実施例の結果を示している。
【0066】
AX−REEDは、電場を調節することによって発酵槽におけるpHをpH6.5の設定値に調節するのに使用され、AX−透析液への新たな水酸化ナトリウムの添加は、発酵槽におけるpHセンサーに従ってプログラマブルロジックコントローラ(PLC)によって制御された。AX−REEDは乳酸の添加による酸性化を打ち消したが、発酵槽において導電率および標的イオン(乳酸イオン)濃度が未だ増加した様子が観察された。
【0067】
ある時間(0.5時間)において、脱イオン水を48ml/hの速度で発酵槽に加え(12)、これにより発酵槽を希釈した。希釈によって、発酵槽の導電率を一定値に制御し、発酵槽における標的イオン(乳酸イオン)の蓄積が減少したが、一方、AX−REEDは未だ発酵槽のpHを制御した。1リットルの水を発酵槽に加えた後に水の添加を止めると、導電率および標的イオンの新たな増加が観察された。発酵槽体積は予測通り20Lから21Lへと増加した。
【実施例4】
【0068】
この実施例は、模擬流加発酵プロセスにおいて、一のプロセスパラメータを制御するのに用いられるREEDスタックを、二次的なプロセスパラメータを同時に制御するための反対の電荷選択性を有するREEDスタックと組み合わせ得る方法を説明する。
【0069】
図1で示し且つ実施例3に記載した配置とちょうど同じである、AX−REEDとCX−REEDとを組み合わせた配置を使用した。
実施例3に記載したのと同じプロセスパラメータおよび溶液を用いた。唯一の有意な差異は、CX−REEDがこの試験の一部においてアクティブであったことであった。
【0070】
実施例3と同様に、発酵槽は、85mM乳酸ナトリウムを含有する60mMリン酸緩衝溶液20リットルを用いて、90%(w/w)乳酸(75ml/h)および5M塩化ナトリウム(75ml/h)の添加と共に開始した。並列したAX−REEDおよびCX−REEDユニットに溶液を循環させた。図4はこの試験の結果を示している。
【0071】
実施例3に記載のAX−REEDによって発酵槽におけるpHを制御し、一方、導電率および標的イオン(乳酸イオン)濃度は増加した。試験中のある時間(2.1時間)において、5リットルの0.05M硝酸からなる透析液溶液をCX−REEDに循環させた(4)。CX−REEDにおける電場の調節によって、およびプログラマブルロジックコントローラ(PLC)で制御されるCX−透析液への新たな0.05M硝酸の添加によって、CX−REEDは発酵槽の導電率を固定された設定値に制御し、一方、AX−REEDは未だpHパラメータを制御した。プロセスのある時間(2.7時間)において導電率の設定値を低下させることにより、CX−REEDは、新たなより低い導電率の設定値に従って発酵槽の導電率を減少させることも可能であり、一方、pHは保持された。
【0072】
2.9時間の処理時間の後、CX−REEDの電場を更に増大させ、そこで、蓄積を減少させ且つ標的イオン(乳酸イオン)レベルを保持することが可能であることが観察され、一方、AX−REEDは未だ安定な発酵槽pHに調節された。
【実施例5】
【0073】
この実施例は、一のプロセスパラメータを制御するのに用いられるREEDスタックを、模擬流加発酵プロセスにおいて二次的なプロセスパラメータを同時に制御するための酸の添加と組み合わせ得る方法を説明する。
【0074】
図1で示し且つ実施例3に記載した配置とちょうど同じである、AX−REEDとCX−REEDとを組み合わせた配置を使用した。
実施例3に記載したものと同じプロセスパラメータおよび溶液を用いた。
【0075】
実施例3と同様に、発酵槽は、85mM乳酸ナトリウムを含有する60mMリン酸緩衝溶液20リットルを用いて、90%(w/w)乳酸(75ml/h)および5M塩化ナトリウム(75ml/h)の添加と共に開始した。並列したAX−REEDおよびCX−REEDユニットに溶液を循環させた。図5はこの試験の結果を示している。
【0076】
この実施例においてCX−REEDはアクティブでなく、このユニットにおける透析液(4)として脱イオン水のみを使用した。発酵槽におけるpHは、実施例3に記載のAX−REEDによって制御され、一方、導電率および標的イオン(乳酸イオン)濃度は増加した。
【0077】
5時間の処理時間の後、速度120ml/hでの7.5Mリン酸の添加を開始した(12)。乳酸の添加とリン酸の添加との組み合わせの影響を受けた、発酵槽のpHを連続的に制御するためのAX−REEDに関して、AX−REEDは、水酸化物イオンと発酵槽からの乳酸イオンおよび他のアニオンとの交換の増加によって自動的に反応した。従って、標的イオンの蓄積が減少することがわかった。5.2時間の処理時間において、酸の添加速度を300ml/hに増加させ、それにより、標的イオン(乳酸イオン)濃度がかなり減少し、一方、AX−REEDは、2つの酸性化の影響を中和するための機能によって、未だ発酵槽のpHを制御した。
【実施例6】
【0078】
150Lの流加発酵タンクを、全てが並列配置である5つのAX−REEDスタックおよび1つのCX−REEDスタックを備えた装置に、チューブおよびポンプを介して接続した。各REEDスタックはJS−9スタック(Jurag Separation、デンマーク)であった。5つのAX−REEDスタックは各々54個のセル対を保持し、一方、CX−REEDスタックは20個のセル対を保持していた;各セル対は915cmの活性な膜面積を有する。
【0079】
図6はREEDで制御された発酵の結果を示している。
150Lの発酵培地を発酵槽に移し、乳酸生成細胞株を植菌した。発酵槽におけるpH制御に用いられる標準的アルカリ滴定を伴う3時間の処理時間の後、乳酸イオン濃度は所定のレベルに達した。その後、酵素は、発酵槽とREEDスタックとの間で循環を開始した。pH制御をAX−REEDスタックに移し、一方、標的イオン(乳酸イオン)調節の制御にCX−REEDを使用した。4.5時間の処理時間の後、pH設定値を5.6に低下させた。9.5時間の処理時間の後、CX−REED制御が低下し、それにより、残りの発酵の間、乳酸イオンの蓄積が増加した。
発酵槽においてpHおよびOD(光学密度)をプローブによってオンラインで測定し、一方、乳酸イオン濃度を2分毎にサンプリングした。
【0080】
図6は、5つのAX−REEDスタックが発酵槽のpHを保持し、一方、最大容量付近で操作されたCX−REEDが乳酸イオンの蓄積を最小限に保持した様子を示している。図6のOD(光学密度)曲線は、プロセスの間、微生物が成長を維持した様子を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体組成物のpHおよび標的イオンレベルを制御する方法であって、以下の工程:
a)少なくとも1つの逆電気強化透析(REED)膜スタックに前記液体を通す少なくとも1つの工程であって、前記少なくとも1つのREED膜スタックが、
i) その間に第1液体のための第1チャンバーを規定する、少なくとも2つのイオン交換膜;
ii) 第2液体のための少なくとも2つの別のチャンバーであって、当該別の各チャンバーは、少なくとも1つの第1チャンバーに近接して配置される、チャンバー;
iii)一組の端部膜;および
iv) 少なくとも2つの電極によって膜に電場をかける手段
を有する工程、ならびに
b)前記液体組成物において標的イオンレベルを制御する少なくとも1つの工程
を任意の順番で含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも2つの電極の極性を、間隔をおいて変更する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数のREED膜スタックを並列に操作する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
複数のREED膜スタックを直列に操作する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記逆電気強化透析(REED)膜スタックがアニオン交換逆電気強化透析(AX−REED)スタックであり、前記標的イオンレベルを制御する少なくとも1つの工程が、カチオン交換逆電気強化透析(CX−REED)膜スタックに前記液体組成物を通すことを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記逆電気強化透析(REED)膜スタックがカチオン交換逆電気強化透析(CX−REED)スタックであり、前記標的イオンレベルを制御する少なくとも1つの工程が、アニオン交換逆電気強化透析(AX−REED)膜スタックに前記液体組成物を通すことを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記逆電気強化透析(REED)膜スタックがアニオン交換逆電気強化透析(AX−REED)スタックであり、前記標的イオンレベルを制御する少なくとも1つの工程が、酸による前記液体組成物の滴定を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記逆電気強化透析(REED)膜スタックがカチオン交換逆電気強化透析(AX−REED)スタックであり、前記標的イオンレベルを制御する少なくとも1つの工程が、アルカリによる前記液体組成物の滴定を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記標的イオンレベルを制御する少なくとも1つの工程が、前記液体組成物に水を加えることを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記標的イオンレベルを制御する少なくとも1つの工程が、ろ過工程、好ましくは精密ろ過または限外ろ過工程を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
かけられる電場の強度を、前記液体組成物のpH、標的イオン濃度または導電率に応じて調節する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記液体組成物が、固定化された若しくは懸濁した微生物培養物を含有する発酵混合物、または酵素含有混合物である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記微生物培養物が、バクテリア、酵母、菌類もしくは哺乳類細胞の増殖培養物または休止培養物を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
a)少なくとも1つのアニオン交換逆電気強化透析(AX−REED)膜スタックであって、
i) その間に第1液体のための第1チャンバーを規定する、少なくとも2つのアニオン交換膜;
ii) 第2液体のための少なくとも2つの別のチャンバーであって、当該別の各チャンバーは、少なくとも1つの第1チャンバーに近接して配置される、チャンバー;
iii) 一組の端部膜;および
iv) 少なくとも2つの電極によって膜に電場をかける手段
を有するAX−REED膜スタック、ならびに
b)少なくとも1つのカチオン交換逆電気強化透析(CX−REED)膜スタックであって、
v) その間に第3液体のための第3チャンバーを規定する、少なくとも2つのカチオン交換膜;
vi) 第4液体のための少なくとも2つの別のチャンバーであって、当該別の各チャンバーは、少なくとも1つの第3チャンバーに近接して配置される、チャンバー;
vii) 一組の端部膜;および
viii)少なくとも2つの電極によって膜に電場をかける手段
を有するCX−REED膜スタック
を含むシステムであって、
前記少なくとも1つのアニオン交換逆電気強化透析(AX−REED)膜スタックおよび前記少なくとも1つのカチオン交換逆電気強化透析(CX−REED)膜スタックは直列または並列接続されている、システム。
【請求項15】
液体組成物のpHおよび標的イオンレベルを制御するための、請求項14に記載のシステムの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−501633(P2012−501633A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525468(P2011−525468)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006440
【国際公開番号】WO2010/025935
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(503214243)ユラク セパレーション アクティーゼルスカブ (2)
【Fターム(参考)】