説明

液体試料の処理用器具及びその使用方法

【課題】 液体試料を容器に収容する際に、液体試料を濾過精製したり、他の試料と反応させたりすることができるようにする。
【解決手段】 横断面円形の収容部101を複数配列したマルチウェルプレート100と、マルチウェルプレート100の各収容部101に挿入可能なチューブ状の挿入部202を複数配列し、各挿入部202の内径部を介してマルチウェルプレート100の収容部101に液体試料を注入する注入部材200と、注入部材200の挿入部202の内径部に保持された濾過材又は試料保持材として機能する紙材206とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料を濾過精製したり、他の試料と混合或いは反応させたりするのに利用して好適な液体試料の処理用器具及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体から採取した血液の検査等を行う医療分野、DNAの分析等を行うバイオテクノロジー分野等においては各種容器類が用いられている。例えば、複数のウェルが規則正しく配置されたマルチウェルプレートが知られており(例えば特許文献1を参照)、所謂96穴ウェルプレート等が多く使用されている。この種のマルチウェルプレートを用いることにより、1枚のプレートで多くのサンプルを取扱うことができる。
【0003】
【特許文献1】特開2002−199874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、液体試料をマルチウェルプレート等の容器に収容する際に、その液体試料を濾過精製したり、他の試料と混合或いは反応させたりする必要がある場合、それらの処理を液体試料を収容する前段階で別処理として行っていた。
【0005】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、単に液体試料を収容するだけでなく、液体試料を容器に収容する際に、液体試料を濾過精製したり、他の試料と混合或いは反応させたりすることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による液体試料の処理用器具は、収容部を有する容器と、前記容器の収容部に挿入可能なチューブ状の挿入部を有し、前記挿入部の内部を介して前記容器の収容部に液体試料を注入する注入部材と、前記挿入部の内部に保持された濾過材又は試料保持材とを具備する点に特徴を有する。
また、本発明による液体試料の処理用器具の他の特徴とするところは、前記挿入部の内部は、大径部と、前記大径部より先端側に位置する小径部とを有し、前記小径部に前記濾過材又は前記試料保持材が保持される点にある。
また、本発明による液体試料の処理用器具の他の特徴とするところは、前記挿入部は、前記容器の収容部を塞ぐように該収容部に挿入可能となっている点にある。
また、本発明による液体試料の処理用器具の他の特徴とするところは、前記注入部材の挿入部を前記容器の収容部に挿入した状態で、前記挿入部の内部とは別に、該収容部を外部に開放する貫通穴を有する点にある。
また、本発明による液体試料の処理用器具の他の特徴とするところは、前記貫通穴は、前記注入部材の挿入部に形成されている点にある。
また、本発明による液体試料の処理用器具の他の特徴とするところは、前記貫通穴は、前記挿入部の外部と内部とを貫通するように形成されている点にある。
また、本発明による液体試料の処理用器具の他の特徴とするところは、前記容器は、前記収容部を複数配列したマルチウェルプレートである点にある。
また、本発明による液体試料の処理用器具の他の特徴とするところは、前記注入部材は、プレートに前記挿入部を複数配列して一体形成したものであり、前記各挿入部を前記マルチウェルプレートの各収容部に挿入して前記マルチウェルプレート上に重ねることができる点にある。
本発明による液体試料の処理用器具の使用方法は、本発明による液体試料の処理用器具の使用方法であって、前記注入部材の挿入部を前記容器の収容部に挿入した状態で、液体試料が収容されたピペットチップを前記挿入部内に挿入し、前記ピペットチップから液体試料を吐出し、前記濾過材又は試料保持材を通過させて、前記容器の収容部に注入するようにした点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、注入部材の挿入部を容器の収容部に挿入可能にするとともに、その挿入部の内部に濾過材又は試料保持材を保持するようにしたので、液体試料を容器に収容する際に、液体試料を濾過精製したり、他の試料と混合或いは反応させたりすることができ、作業の効率化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明による液体試料の処理用器具及びその使用方法の実施形態について説明する。図1は本実施形態の液体試料の処理用器具を構成するマルチウェルプレートを示す斜視図であり、図2は本実施形態の液体試料の処理用器具を構成する注入部材を示す斜視図である。また、図3はマルチウェルプレート上に注入部材を重ねた状態を示す斜視図であり、図4は図3の状態における一部断面図である。
【0009】
図1に示すように、マルチウェルプレート100は収容部101を複数配列したものであり、図示例のものは所謂96穴ウェルプレートである。各収容部101は、例えば図4に示すように円柱及び円錐を組み合わせた形状を有し、横断面円形となっている。
【0010】
図2に示すように、注入部材200は、プレート201に挿入部202を複数(図示例のものはマルチウェルプレート100に合わせて96個)配列して一体形成したものである。各挿入部202は、図4に示すように、マルチウェルプレート100の収容部101を塞ぐように該収容部101に挿入可能なチューブ状となっている。
【0011】
より詳細には、図4に示すように、挿入部202の外径部は、マルチウェルプレート100の収容部101に挿入したときに該収容部101の内壁に接する大径部203aと、大径部203aより先端側に位置する小径部203bとを有し、これら大径部203aと小径部203bとをなだらかにつなぐ段部203cが形成されている。また、挿入部202の内径部は、大径部204aと、大径部204aより先端側に位置する小径部204bとを有し、これら大径部204aと小径部204bとをなだらかにつなぐ段部204cが形成されている。なお、段部203c、204cは、後述するようにセンタリング機能を発揮することから、図4に示すように曲面状に形成するのが好適である。
【0012】
また、外径部の段部203cと内径部の段部204cとを貫通するように貫通穴205が形成されている。
【0013】
ここで、内径部の小径部204bには濾紙や吸着紙等の紙材206が保持されている。紙材206は、小径部204bに後から挿設するようにしてもよいし、注入部材200を成形する際にフープ成形により一体的に複合させるようにしてもよい。この紙材206が、詳しくは後述するが、本発明でいう濾過材又は試料保持材として機能するものである。なお、本実施形態では紙材206としたが、用途等に応じて他の材質を用いてもかまわない。
【0014】
このようにしたマルチウェルプレート100の収容部101と注入部材200の挿入部202とは互いに同配列とされており、図3、4に示すように、注入部材200の各挿入部202をマルチウェルプレート100の各収容部101に挿入して、注入部材200をマルチウェルプレート100上に重ねることができるようになっている。
【0015】
次に、液体試料の処理用器具の使用方法について説明する。まず、図3、4に示すように、注入部材200の各挿入部202をマルチウェルプレート100の各収容部101に挿入して、注入部材200をマルチウェルプレート100上に重ねる。挿入部202を収容部101に挿入するときに、挿入部202の軸線と収容部101の軸線とがずれていても、挿入部202の外径部の段部203cが収容部101の開口端に当接した後は、この段部203cにガイドされてセンタリングされることになる。
【0016】
そして、図5に示すように、液体試料300が収容されたピペットチップ400を挿入部202内に挿入する。ピペットチップ400は、その先端が内径部の大径部204aより細く、小径部204bより太いものを使用する。ピペットチップ400を挿入部202内に挿入するときに、ピペットチップ400の軸線と挿入部202の軸線とがずれていても、ピペットチップ400の先端が段部204cに当接した後は、この段部204cにガイドされてセンタリングされることになる。
【0017】
図5に示す状態で、ピペットチップ400内を加圧することにより液体試料300を吐出し、紙材206を通過させて、マルチウェルプレート100の収容部101に注入する(図注矢印X)。この場合に、貫通穴205をエア抜き穴として利用して、収容部101内の空気を抜くことができ(図注矢印Y)、液体試料の注入をスムーズに行うことができる。
【0018】
なお、ここでは、ピペットチップ400を使用して液体試料を収容部101に注入する例を説明したが、図6に示すように、挿入部202内に液体試料300を直接入れ、自重により収容部101へと垂らしたり、遠心力を作用させて収容部101へと移動させたりしてもよい。
【0019】
特に自重により収容部101へと液体試料を垂らす場合は、エア抜き穴が必要不可欠である。この場合、挿入部202内に入れる液体試料300の液量を確保するために、図6に示すように、貫通穴205を挿入部202の上部へと貫通させるようにしてもよい。
【0020】
ただし、上述したようにピペットチップ400を使用するのであれば、貫通穴205は、図4、5に示すように挿入部202の外径部と内径部とを貫通するように形成するのが望ましい。図6に示すように長穴を形成するのに比べて加工が容易であることは言うまでもないが、例えば収容部101に液体試料を収容した後に、注入部材の挿入部202を挿入した状態のまま保存したい場合、図4、5に示す場合であれば、挿入部202の開口を蓋(不図示)で塞ぐだけで収容部101を完全に密封することができるからである。それに対して、図6に示す場合には、挿入部202の開口だけでなく貫通穴205までを閉塞するだけのサイズの蓋が必要となってしまう。
【0021】
また、エア抜き穴としての貫通穴は、挿入部202でなく、マルチウェルプレート100の各収容部101に形成してもよい。
【0022】
また、貫通穴205をエア抜き穴として利用するのではなく、貫通穴205を介して吸引することにより収容部101内を減圧し、それにより挿入部202から液体試料を収容部101へと吸い入れるようにしてもよい。
【0023】
以上述べたように、液体試料をウェルプレート100の各収容部101に分注する際に、その分注工程で、液体試料を濾過精製したり、紙材206に保持させておいた他の試料と混合或いは反応させたりすることができ、作業の効率化を図ることができる。
【0024】
本発明による液体試料の処理用器具の用途としては、液体試料を紙材206により濾過したり、紙材206による吸着、分子ふるい等の効果により精製したりして、その濾過精製後の液体試料を収容部101に収容することが挙げられる。すなわち、紙材206を濾過材として利用するものである。
【0025】
また、紙材206になんらかの試料(試薬、検体等)を予め保持させておき、紙材206を通過する液体試料を試料と混合或いは反応させて、その混合或いは反応後の液体試料を収容部101に収容することが挙げられる。すなわち、紙材206を試料保持材として利用するものである。
【0026】
一例を挙げれば、DNAを増幅するためのPCR法では、テンプレートDNAに特異的にハイブリダイゼーションするプライマーを反応させることが行われる。本発明による液体試料の処理用器具を用いれば、DNAを含む液体試料を、プライマーを予め吸着させておいた紙材206を通過させ、その反応後の液体試料を収容部101に収容することが可能となる。
【0027】
また、近年では、紙材にDNAを染み込ませ、常温で保存できるようにした技術も開発されている。本発明による液体試料の処理用器具を用いれば、紙材206にDNAを染み込ませておき、展開溶液を紙材206を通過させ、DNAを溶解させた液体試料(展開溶液)を収容部101に収容することも可能である。
【0028】
以上、本発明を実施形態と共に説明したが、本発明は実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明でいう容器としてマルチウェルプレート100を例にしたが、ウェル単体構成や所謂サンプルチューブのようなものであってもかまわない。
【0029】
また、上記実施形態では、マルチウェルプレート100の収容部101を横断面円形としたが、横断面形状は、三角形や四角形等の多角形、楕円径、直線と曲線を含む形等適宜選択することができる。この場合、注入部材200の挿入部202の外部形状を収容部101の横断面形状と同形にし、挿入部202が収容部101を塞ぐように該収容部101に挿入可能となるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態の液体試料の処理用器具を構成するマルチウェルプレートを示す斜視図である。
【図2】本実施形態の液体試料の処理用器具を構成する注入部材を示す斜視図である。
【図3】マルチウェルプレート上に注入部材を重ねた状態を示す斜視図である。
【図4】図3の状態における一部断面図である。
【図5】本実施形態の液体試料の処理用器具の使用方法を説明するための一部断面図である。
【図6】貫通穴の位置を変更した例を示す一部断面図である。
【符号の説明】
【0031】
100 マルチウェルプレート
101 収容部
200 注入部材
201 プレート
202 挿入部
203a 外径部の大径部
203b 外径部の小径部
203c 外径部の段部
204a 内径部の大径部
204b 内径部の小径部
204c 内径部の段部
205 貫通穴
206 紙材
300 液体試料
400 ピペットチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容部を有する容器と、
前記容器の収容部に挿入可能なチューブ状の挿入部を有し、前記挿入部の内部を介して前記容器の収容部に液体試料を注入する注入部材と、
前記挿入部の内部に保持された濾過材又は試料保持材とを具備することを特徴とする液体試料の処理用器具。
【請求項2】
前記挿入部の内部は、大径部と、前記大径部より先端側に位置する小径部とを有し、前記小径部に前記濾過材又は前記試料保持材が保持されることを特徴とする請求項1に記載の液体試料の処理用器具。
【請求項3】
前記挿入部は、前記容器の収容部を塞ぐように該収容部に挿入可能となっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体試料の処理用器具。
【請求項4】
前記注入部材の挿入部を前記容器の収容部に挿入した状態で、前記挿入部の内部とは別に、該収容部を外部に開放する貫通穴を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体試料の処理用器具。
【請求項5】
前記貫通穴は、前記注入部材の挿入部に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の液体試料の処理用器具。
【請求項6】
前記貫通穴は、前記挿入部の外部と内部とを貫通するように形成されていることを特徴とする請求項5に記載の液体試料の処理用器具。
【請求項7】
前記容器は、前記収容部を複数配列したマルチウェルプレートであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体試料の処理用器具。
【請求項8】
前記注入部材は、プレートに前記挿入部を複数配列して一体形成したものであり、前記各挿入部を前記マルチウェルプレートの各収容部に挿入して前記マルチウェルプレート上に重ねることができることを特徴とする請求項7に記載の液体試料の処理用器具。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の液体試料の処理用器具の使用方法であって、
前記注入部材の挿入部を前記容器の収容部に挿入した状態で、液体試料が収容されたピペットチップを前記挿入部内に挿入し、前記ピペットチップから液体試料を吐出し、前記濾過材又は試料保持材を通過させて、前記容器の収容部に注入するようにしたことを特徴とする液体試料の処理用器具の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−231166(P2006−231166A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47683(P2005−47683)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(390026413)深江化成株式会社 (12)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】