説明

液体試料の分析方法及び分析装置

それぞれ異なる反応温度で特定の標的物質と反応する複数の反応物質が表面に固定された固体支持体を用いて液体試料の分析を行う際に、全ての反応物質がそれぞれ特定の標的物質と反応できる温度環境を形成することができるとともに、反応から検出に至る一連の操作を自動化することができる液体試料の分析方法及び分析装置を提供することを目的とし、この目的を達成するために、本発明の液体試料の分析方法及び分析装置においては、反応室外にある液体試料を、反応物質のいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱する工程(a)と、反応室外にある液体試料を反応室に流入させる工程(b)と、反応室内にある液体試料を反応室から流出させる工程(c)と、液体試料の温度が反応物質のいずれの反応温度をも通過するように、反応室内にある液体試料及び/又は反応室外にある液体試料を冷却する工程(d)と、反応物質のそれぞれの反応温度に冷却された液体試料を反応室に保持する工程(e)とを行うことにより、液体試料を分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、液体試料の分析方法及び分析装置に関する。
【背景技術】
標的物質(例えば、核酸、タンパク質)の検出、同定等を行う際、プローブ(例えば、標的核酸と相補的な塩基配列からなる核酸、標的タンパク質と結合できるタンパク質)が固定された固体支持体が使用される。例えば、プローブが固定された固体支持体と標的物質を含む液体試料とを接触させ、プローブと標的物質とを結合させた後、洗浄等によって標的物質以外の物質を除去することによって、標的物質の検出、同定等が行われる。プローブを固定した固体支持体の一例として、スライドガラス等の固体支持体の表面上に複数種類のプローブを配列して固定したDNAアレイ(DNAチップ)、タンパク質アレイ(タンパク質チップ)がある。このようなDNAアレイ、タンパク質アレイは、遺伝子の発現、変異、多型性等の解析やプロテオーム解析を並列して行う際に非常に有用である。
【発明の開示】
固体支持体に固定された複数種類のプローブは、それぞれ異なる反応温度(例えばハイブリダイゼーション温度)で特定の標的物質と反応する。したがって、複数種類のプローブが固定された固体支持体と液体試料とを接触させる際、液体試料の温度を単一の温度に保持したのでは、全てのプローブがそれぞれ特定の標的物質と反応できる温度環境を形成することはできない。一方、液体試料の温度を各プローブの反応温度に変化させるために、固体支持体と液体試料とをインキュベーター内で接触させる方法を採用することもできるが、固体支持体をインキュベーター内に設置する操作及びインキュベーター内から取り出す操作が必要となるため、反応から検出に至る一連の操作を自動化することが困難となる。
そこで、本発明は、それぞれ異なる反応温度で特定の標的物質(例えば標的核酸)と反応する複数の反応物質(例えば核酸プローブ)が表面に固定された固体支持体を用いて液体試料の分析を行う際に、全ての反応物質がそれぞれ特定の標的物質と反応できる温度環境を形成することができるとともに、反応から検出に至る一連の操作を自動化することができる液体試料の分析方法及び分析装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は、液体を収容できる反応室を有する反応容器と、前記反応室に収容され、それぞれ異なる反応温度で特定の標的物質と反応する複数の反応物質が表面に固定された固体支持体とを用いた液体試料の分析方法であって、前記反応室外にある前記液体試料を、前記反応物質のいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱する工程(a)と、前記反応室外にある前記液体試料を前記反応室に流入させる工程(b)と、前記反応室内にある前記液体試料を前記反応室から流出させる工程(c)と、前記液体試料の温度が前記反応物質のいずれの反応温度をも通過するように、前記反応室内にある前記液体試料及び/又は前記反応室外にある前記液体試料を冷却する工程(d)と、前記反応物質のそれぞれの反応温度に冷却された前記液体試料を前記反応室に保持する工程(e)とを含む前記分析方法を提供する。
「液体試料」は、1種類以上の標的物質を含有する又はその可能性がある液体であり、液体試料の分析としては、例えば、標的物質の有無の検出、標的物質の種類の同定、標的物質の定量等が挙げられる。標的物質が核酸である場合、液体試料の分析には、標的核酸の変異検出、標的核酸の多型解析(SNPs解析)、遺伝子発現プロファイル解析等が含まれ、液体試料としては、例えば、被験者の組織や細胞から抽出したmRNAを逆転写することにより得られたDNAを含有する液体試料を使用することができる。
「標的物質」は、検出、同定等の対象となる物質であり、その種類は特に限定されるものではなく、構造、機能等が公知の物質又は未知の物質のいずれであってもよい。標的物質としては、例えば、核酸、タンパク質、抗原、抗体、酵素、糖鎖等の生体関連物質が挙げられる。核酸には、DNA及びRNAの他、これらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエートDNA等)が含まれる。核酸の塩基長は特に限定されるものではなく、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドのいずれであってもよい。核酸は一本鎖及び二本鎖のいずれの状態であってもよく、これらの混合状態であってもよい。
「反応物質」は、特定の標的物質と反応する物質であり、構造、機能等が公知の物質及び未知の物質のいずれであってもよいが、反応物質が特定の標的物質と反応する反応温度が判明している必要がある。但し、必ずしも正確な反応温度が判明している必要はなく、反応温度が属する温度域が判明していればよい。反応物質が有する標的物質との反応性はいかなる反応性であってもよく、例えば、共有結合、イオン結合、ファンデルワールス力、水素結合、配位結合、化学的吸着、物理的吸着等の結合様式によって標的物質と結合する性質が挙げられる。標的物質と反応物質との組み合わせとしては、例えば、核酸/相補的核酸、受容体タンパク質/リガンド、酵素/基質、抗体/抗原等が挙げられる。
固体支持体の表面には、複数種類の反応物質が固定されている限り、同一種類の反応物質が固定されていてもよい。反応物質の固体支持体上の固定位置は、反応物質の種類と対応付けておくことが好ましい。これにより、反応物質の固体支持体上の固定位置に基づいて反応物質の種類を識別することができ、標的物質がいずれの反応物質と反応したかを容易に同定することができる。
「反応温度」とは、反応物質が特定の標的物質と反応できる温度又は温度域を意味するが、好ましくは、反応物質が特定の標的物質と最も効率よく反応する温度(反応最適温度)を意味する。反応温度は、通常、反応物質の種類に応じて異なる。
「固体支持体」は、反応物質を一次元、二次元又は三次元に固定できる構造体であり、その形状、サイズ等は反応室に収容可能である限り特に限定されるものではない。固体支持体の材質は、液体試料に対して不溶性の材質であり、液体試料の溶媒の種類等に応じて適宜選択することができる。固体支持体の材質の一般的な具体例としては、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリビニリデンジフルオライド等)、金属(例えば、鉄、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、シリコン等)、ガラス、セラミックス、これらの複合材料等が挙げられる。固体支持体は非膨潤性であることが好ましいが、膨潤性であってもよい。固体支持体の表面は多孔質であっても無孔質であってもよいが、多孔質である場合には無孔質である場合よりも多くの反応物質を固体支持体の表面に固定することができる。
反応物質を一次元に固定できる固体支持体としては、例えば、糸状部材、紐状部材、棒状部材等が挙げられる。反応物質を二次元に固定できる固体支持体としては、例えば、プレート状部材、シート状部材等が挙げられる。反応物質を三次元に固定できる固体支持体としては、例えば、可撓性を有する細長形状部材を螺旋状に成形した螺旋状部材、粒子等が挙げられる。細長形状の具体例としては、糸状、紐状、棒状、テープ状等の形状が挙げられる。細長形状部材が金属等のように形態保持性を有する材質からなる場合には、細長形状部材自体を螺旋状に成形することができる。また、細長形状部材がそのような形態保持性を有しない場合には軸部材に巻装することにより螺旋状に成形することができる。軸部材は巻装中心となり得る限り、その形状や構造は特に限定されるものではなく、例えば、棒状部材、円柱状部材、円筒状部材、角柱状部材、角筒状部材等を軸部材として使用することができる。粒子の形状、粒径等は特に限定されるものではないが、粒子は例えば球形であり、粒径は例えば約10μm〜約1000μmである。
「固体支持体の表面」は、液体試料と接触し得る面であり、固体支持体の外面(外部表面)はもちろんのこと、液体試料が浸潤し得る固体支持体の内面(内部表面)(例えば、固体支持体が有する細孔の内部表面)も含まれる。
固体支持体への反応物質の固定は、種々の結合様式によって行うことができる。結合様式の具体例としては、ストレプトアビジン又はアビジンとビオチンとの特異的相互作用、疎水性相互作用、磁性相互作用、極性相互作用、共有結合(例えば、アミド結合、ジスルフィド結合、チオエーテル結合等)の形成、架橋剤による架橋等が挙げられる。これらの結合様式による固定が可能となるように、公知の技術を用いて、固体支持体表面又は反応物質に適当な化学修飾を施すことができる。
ストレプトアビジン又はアビジンとビオチンとの特異的相互作用以外にも、マルトース結合タンパク質/マルトース、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルやコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、カルモジュリン/カルモジュリン結合ペプチド、ATP結合タンパク質/ATP、核酸/相補的核酸、受容体タンパク質/リガンド、酵素/基質、抗体/抗原、IgG/プロテインA等の特異的相互作用を利用して、固体支持体への反応物質の固定を行うこともできる。
固体支持体と反応物質との結合様式は、固体支持体と反応物質とが容易に離脱しない結合様式であることが好ましい。このような結合様式としては、例えば、アビジン又はストレプトアビジンとビオチンとの相互作用、共有結合の形成、架橋剤による架橋等が挙げられる。
アビジン又はストレプトアビジンとビオチンとの相互作用を利用する場合には、例えば、ビオチンを導入した反応物質(例えば、5’末端をビオチン化したプライマーを用いてPCRを行うことにより得られたビオチン化核酸)を、アビジン又はストレプトアビジンでコーティングされた固体支持体に結合させることができる。
共有結合の形成を利用する場合には、固体支持体表面又は反応物質に存在する官能基を利用して共有結合を形成させることができる。共有結合を形成し得る官能基の具体例として、カルボキシル基、アミノ基、水酸基等が挙げられる。例えば、固体支持体の表面にカルボキシル基が存在する場合には、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)等のカルボジイミド類でカルボキシル基を活性化させた後、反応物質が有するアミノ基と反応させることにより、固体支持体と反応物質とをアミド結合させることができる。また、固体支持体の表面にアミノ基が存在する場合には、無水コハク酸等の環状酸無水物を用いてアミノ基をカルボキシル基に変換した後、反応物質が有するアミノ基と反応させることにより、固体支持体と反応物質とをアミド結合させることができる。反応物質が核酸である場合、核酸の反応性(相補的核酸とのハイブリダイズ性)を損なわないように、核酸の5’末端又は3’末端に導入したリンカー配列を介して核酸を固体支持体に結合させることが好ましい。
架橋剤による架橋を利用する場合には、架橋対象物質が有する官能基と反応し得る種々の架橋剤を使用することができる。架橋剤の具体例としては、二官能性試薬、三官能性試薬等の多官能性試薬が挙げられる。このような多官能性試薬の具体例としては、N−スクシンイミジル(4−イオードアセチル)アミノベンゾエート(N−succinimidyl(4−iodoacetyl)aminobenzoate)(SIAB)、ジマレイミド(dimaleimide)、ジチオ−ビス−ニトロ安息香酸(dithio−bis−nitrobenzoic acid)(DTNB)、N−スクシンイミジル−S−アセチル−チオアセテート(N−succinimidyl−S−acetyl−thioacetate)(SATA)、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(N−succinimidyl−3−(2−pyridyldithio)propionate)(SPDP)、スクシンイミジル 4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(succinimidyl 4−(N−maleimidomethyl)cyclohexane−1−carboxylate)(SMCC)、6−ヒドラジノニコチミド(6−hydrazinonicotimide)(HYNIC)等が挙げられる。
反応容器の構造は、反応室を有する限り特に限定されるものではないが、反応室に通じる液体流入出口を有することが好ましい(請求項9参照)。これにより、液体試料、洗浄液等の各種液体の反応室への流入及び反応室からの流出を、液体流入出口を通じて容易に行うことができる。液体流入出口の個数は、1個であってもよいし、2個以上であってもよい。
反応容器には、液体流入出口を通じて反応室に液体を吸引できるとともに、液体流入出口を通じて反応室から液体を吐出できる吸引吐出装置が装着されていることが好ましい(請求項9参照)。これにより、液体試料、洗浄液等の各種液体の反応室への流入及び反応室からの流出の自動化を図ることができる。この場合、吸引吐出装置が有するノズル部に脱着可能に装着されるチップを反応容器として使用することができる(請求項10参照)。
反応容器は光透過性材料で構成されていることが好ましい(請求項12参照)。反応容器が光透過性材料で構成されている場合には、反応物質と反応した標的物質から発せられる光(例えば蛍光や化学発光)を反応容器の外部で検出できるので、固体支持体を反応室に収容した状態のまま、標的物質の検出、標的物質の同定等を行うことができる。光透過性材料の種類は特に限定されるものではなく、透明又は半透明であって反応容器に必要とされる強度を有する材料であればいかなるものを使用してもよい。光透過性材料の具体例としては、プラスチック、ガラス等が挙げられる。また、反応容器は薄板によって構成されていることが好ましい。これにより、反応室内への光の照射及び反応室内から発せられる光の検出を行う際の照射条件や受光条件の設定が容易となる。
「反応室」は、反応物質と標的物質との反応が生じる空間である。反応室の形状、大きさ等は、液体試料及び固体支持体を収容できる限り特に限定されるものではない。反応室の個数は特に限定されるものでなく、1個であってもよいし、2個以上であってもよい。
工程(a)
工程(a)は、反応室外にある液体試料を、反応物質のいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱する工程である。工程(a)は、本発明の液体試料の分析方法において最初に行う工程である。
液体試料の加熱温度は、固体支持体に固定された反応物質のいずれの反応温度よりも高温である限り特に限定されるものではなく、液体試料の加熱方法も特に限定されるものではない。液体試料の加熱は、例えばヒーター等を使用して行うことができる。液体試料の加熱は、最も高い反応温度よりも遥かに高温になるまで行う必要はなく、最も高い反応温度よりも若干(例えば0.5〜5℃)高温になるまで行えばよい。また、液体試料の加熱は、最も高い反応温度と略同一の温度になるまで行ってもよい。過度の加熱は液体試料に含有される標的物質の破壊を招くおそれがあるので注意が必要である。最も高い反応温度について、その正確な値が判明していなくても、最も高い反応温度が属する温度域の上限以上まで加熱を行えばよい。
液体試料の加熱は反応室外で行われるので、反応容器をインキュベーター内に設置する必要がない。したがって、反応後に反応容器をインキュベーター内から取り出す操作が必要とならず、反応後にそのまま検出工程を行うことができる。また、反応容器に加熱装置を装着する必要もないので、固体支持体を反応室に収容した状態のまま、反応物質と標的物質との反応の有無を反応容器の外部から検出する際に、反応容器に装着された加熱装置が障害になることもない。
工程(b)
工程(b)は、反応室外にある液体試料を反応室に流入させる工程である。工程(b)は、少なくとも工程(a)の後に行われるが、その後にさらに行われる場合がある。すなわち、工程(b)は、本発明の液体試料の分析方法に複数工程含まれる場合がある。
反応室に流入させる液体試料は、反応室外にある液体試料であり、例えば、反応室外で反応物質のいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱された液体試料、反応室から液体試料冷却用容器に流出させた後に液体試料冷却用容器内で冷却した液体試料等が挙げられる。液体試料の反応室への流入は、例えば、反応容器に装着された吸引吐出装置を用いて行うことができる。
工程(a)で加熱した液体試料を反応室に流入させる前に、反応容器を反応物質のいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱しておくことが好ましい(請求項2参照)。加熱した液体試料を反応室に流入させたときに、液体試料の温度が最も高い反応温度よりも低温になることを防止するためである。反応容器の加熱は、例えば、反応物質のいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱した反応容器加温液を反応室に流入させ、反応室に保持した後、反応室から流出させることにより行うことができる(請求項3参照)。したがって、この場合にも反応容器に加熱装置を装着する必要や反応容器をインキュベーター内に設置する必要はない。反応容器加温液の組成は反応容器を腐食しない限り特に限定されるものではない。反応室における反応容器加温液の保持は、反応容器が反応物質のいずれの反応温度よりも高温になるまで行う。
工程(c)
工程(c)は、反応室内にある液体試料を反応室から流出させる工程である。工程(c)は、少なくとも工程(b)の後に行われるが、その後にさらに行われる場合がある。すなわち、工程(c)は、本発明の液体試料の分析方法に複数工程含まれる場合がある。
反応室から流出させる液体試料は、反応室内にある液体であり、例えば、反応室外で反応物質のいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱された後に反応室に流入させた液体試料、液体試料冷却用容器内で冷却した後に液体試料冷却用容器から反応室に流入させた液体試料等が挙げられる。液体試料の反応室からの流出は、例えば、反応容器に装着された吸引吐出装置を用いて行うことができる。
工程(d)
工程(d)は、液体試料の温度が反応物質のいずれの反応温度をも通過するように、反応室内にある液体試料及び/又は反応室外にある液体試料を冷却する工程である。
冷却する液体試料は、反応室内にある液体試料及び/又は反応室外にある液体試料である。反応室内にある液体試料としては、例えば、反応室外で反応物質のいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱された後に反応室に流入させた液体試料、液体試料冷却用容器内で冷却した後に液体試料冷却用容器から反応室に流入させた液体試料等が挙げられる。反応室外にある液体試料としては、反応室から液体試料冷却用容器に流出させた液体試料等が挙げられる。
液体試料の冷却は、反応室内のみで行ってもよいし、反応室外のみで行ってもよいし、反応室内及び反応室外の両方で行ってもよい。例えば、反応室内で冷却した液体試料を反応室から液体試料冷却用容器に流出させ、液体試料冷却用容器内で冷却することもできるし、液体試料冷却用容器内で冷却した液体試料を液体試料冷却用容器から反応室に流入させ、反応室内で冷却することもできる。ここで、「液体試料冷却用容器」は、液体試料を収容でき、収容した液体試料を冷却できる限り、その形状、構造等は特に限定されるものではない。液体試料冷却用容器としては、例えば、アルミニウム、銅、鉄等の熱伝導性金属ブロックを介してペルチェ素子等の冷却装置が装着された容器を使用することができる。
液体試料の一部が反応室内にあり、残部が反応室外にある場合(例えば、反応室内にある液体試料の一部を液体試料冷却用容器に流出させた場合、液体試料冷却用容器内にある液体試料の一部を反応室に流入させた場合等)には、反応室内にある液体試料及び反応室外にある液体試料のいずれか一方を冷却することもできるし、両者を冷却することもできる。
液体試料の冷却は、液体試料の温度が反応物質のいずれの反応温度をも通過する限り、液体試料の温度が漸次低下するように行ってもよいし、液体試料の温度が昇降を繰り返しながら低下するように行ってもよい。すなわち、液体試料の冷却は、液体試料の温度が最終的に低下すればよく、その過程で液体試料の温度が上昇したとしても構わない。
反応室内にある液体試料の冷却は、例えば、反応室内にある液体試料の熱を反応容器の外気へ放出させることにより行うことができる(請求項4参照)。この際、反応容器の外気の温度を制御することにより、反応室内にある液体試料の冷却速度を調節することができる。
また、反応室内にある液体試料の熱を反応容器の外気へ放出させる際、反応容器を温度制御された気体又熱伝導性金属ブロックと接触させることにより、反応室内にある液体試料の冷却速度を調節することができる。この場合、反応容器の外気の温度のみに依存することなく、反応室内にある液体試料の冷却速度を調節することができる。反応容器と温度制御された気体との接触は、例えば、冷却された熱伝導性金属ブロックの凹部に反応容器を挿入し、凹部の内部空間に反応容器を保持することにより行うことができる。反応容器と温度制御された熱伝導性金属ブロックとの接触は、例えば、冷却された熱伝導性金属ブロックの凹部に反応容器を挿入し、凹部の内壁面に反応容器を接触させることにより行うことができる。
また、反応室内にある液体試料の熱を反応容器の外気へ放出させる際、反応容器を加熱することより、反応室内にある液体試料の冷却速度を調節することができる(請求項5参照)。これにより、反応容器の外気の温度のみに依存することなく、反応室内にある液体試料の冷却速度を調節することができるとともに、液体試料の温度を所望の温度に維持することができる。反応容器の加熱方式は特に限定されるものではなく、例えば、発熱体(例えば、鉄−クロム−アルミ系金属発熱体、ニッケル−クロム系金属発熱体、炭化珪素、モリブデン−シリサイト等の非金属発熱体等)を利用した加熱、誘電加熱、マイクロ波加熱、光加熱(赤外線加熱)等が挙げられるが、光加熱(赤外線加熱)が好ましい(請求項6参照)。光加熱は、公知の光加熱装置(集光加熱装置、ランプヒーター)を利用して行うことができる。光加熱の際、反応容器を回転させることにより、光加熱装置から発生する光(赤外線)が照射される面を変化させ、反応容器の全体を加熱することができる。吸引吐出装置が有するノズル部に脱着可能に装着されるチップを反応容器として使用する場合(請求項10参照)、ノズル部を回転させることにより反応容器を回転させることができる。
反応室外にある液体試料の冷却は、例えば、液体試料冷却用容器内で行うことができる(請求項7参照)。反応室外にある液体試料を冷却することにより、液体試料を反応容器から分離した状態で冷却することができるので、反応容器自体の冷却は必要とならず、反応容器をインキュベーター内に設置する必要もない。この際、液体試料冷却用容器の温度を制御することにより、液体試料冷却用容器内にある液体試料の冷却速度を調節することができる。
反応室から液体試料冷却用容器への液体試料の流出、液体試料冷却用容器内での冷却及び液体試料冷却用容器から反応室への液体試料の流入を順次繰り返すことにより(請求項8参照)、反応室内での冷却時間及び液体試料冷却用容器内での冷却時間を調節することができ、これによって液体試料を所望の冷却速度で冷却することができる。また、液体試料の流入及び流出を繰り返すことにより液体試料の温度を速やかに均一化することができる。さらに、液体試料の流入及び流出を繰り返すことにより液体試料が攪拌されるので、反応物質と標的物質との反応効率を向上させることができる。
工程(e)
工程(e)は、反応物質のそれぞれの反応温度に冷却された液体試料を反応室に保持する工程である。
液体試料は、反応物質のそれぞれの反応温度に冷却された時点で反応室に保持されていればよく、それ以外の温度のときには反応室内にあっても反応室外にあってもよい。例えば、液体試料が反応室内で冷却され、ある反応温度に達したときには、そのまま反応室に保持すればよいし、液体試料が反応室外で冷却され、ある反応温度に達したときには、液体試料を反応室に流入させ、反応室に保持すればよい。反応物質のそれぞれの反応温度に冷却された液体試料は、反応物質が特定の標的物質と反応するために必要な時間、反応室に保持する。
反応物質のそれぞれの反応温度に冷却された液体試料を反応室に保持することにより、全ての反応物質がそれぞれ特定の標的物質と反応できる温度環境を形成することができるので、標的物質の検出、同定等の精度が向上する。
本発明の液体試料の分析方法は、工程(d)の後に、固体支持体を反応室に収容した状態のまま、反応物質と標的物質との反応の有無を反応容器の外部から検出する工程(f)をさらに含むことができる(請求項11参照)。固体支持体を反応室に収容した状態のまま、反応物質と標的物質との反応の有無を反応容器の外部から検出することにより、反応物質と標的物質との反応から標的物質の検出・同定に至る一連の操作を自動化することができる。
反応物質と標的物質との反応の有無は、標的物質に標識物質を結合させておくことにより容易に検出することができる。標識物質としては、例えば、蛍光色素(例えば、Marine Blue,Cascade Blue,Cascade Yellow,Fluorescein,Rhodamine,Phycoerythrin,CyChrome,PerCP,Texas Red,Allophycocyanin,PharRed等の他、Cy2,Cy3,Cy3.5,Cy5,Cy7等のCy系色素、Alexa−488,Alexa−532,Alexa−546,Alexa−633,Alexa−680等のAlexa系色素、BODIPY FL,BODIPY TR−等のBODIPY系色素)等の蛍光性物質、放射性同位元素(例えば、H、14C、32P、33P、35S、125I)等の放射性物質等が挙げられる。標的物質は、蛍光性物質で蛍光標識されていることが好ましい(請求項12参照)。
蛍光色素による標識化は、例えば、予めアミノ基を導入しておいた標的物質に活性エステルを有する蛍光色素を反応させることにより、あるいは、予めカルボキシル基又はアミノ基を導入しておいた標的物質に、カルボキシル基との結合反応が可能な官能基(例えばアミノ基)を有する蛍光色素又はアミノ基との結合反応が可能な官能基(例えばカルボキシル基)を有する蛍光色素を、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)等のカルボジイミド類の存在下で反応させることにより行うことができる。
反応容器が光透過性材料で構成されており、標的物質が蛍光標識されている場合には、反応物質と反応した標的物質から発せられる蛍光を反応容器の外部で検出することができる(請求項12参照)。
反応物質と標的物質との反応の有無を検出する際には、液体試料を反応室から流出させた後、反応室内を洗浄液で洗浄することにより、反応物質と反応することなく反応室内に残存する標的物質を除去することが好ましい。
上記課題を解決するために、本発明は、液体を収容できる反応室及び前記反応室に通じる液体流入出口を有する反応容器と、前記反応室に収容され、それぞれ異なる反応温度で特定の標的物質と反応する複数の反応物質が表面に固定された固体支持体と、前記液体流入出口を通じて前記反応室に液体を吸引できるとともに、前記液体流入出口を通じて前記反応室から液体を吐出できる吸引吐出部と、液体を収容できる液体収容部と、前記液体収容部に収容された液体を加熱及び冷却できる加熱冷却部とを備えた液体試料の分析装置であって、前記加熱冷却部により、前記液体収容部に収容された液体試料を前記反応物質のいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱するステップ(g)と、前記吸引吐出部により、前記液体収容部に収容された液体試料を、前記液体流入出口を通じて前記反応室に吸引するステップ(h)と、前記吸引吐出部により、前記反応室に保持された前記液体試料を、前記液体流入出口を通じて前記液体収容部に吐出するステップ(i)と、前記反応室に保持された前記液体試料の熱を前記反応容器の外気へ放出させることにより前記液体試料を第一の冷却に供するステップ(j)と、前記加熱冷却部により、前記液体収容部に収容された前記液体試料を第二の冷却に供するステップ(k)と、前記液体試料の温度が前記反応物質のいずれの反応温度をも通過するように、前記第一の冷却及び/又は前記第二の冷却を行うステップ(l)と、前記反応物質のそれぞれの反応温度に冷却された前記液体試料を前記反応室に保持するステップ(m)とを実行する実行部を備えた前記分析装置を提供する。
本発明の液体試料の分析装置は、本発明の液体試料の分析方法を実施することができる装置であり、本発明の液体試料の分析装置が実行するステップ(g)は、本発明の液体試料の分析方法の工程(a)に相当し、ステップ(h)は工程(b)に相当し、ステップ(i)は工程(c)に相当し、ステップ(j)、(k)及び(l)は工程(d)に相当し、ステップ(m)は工程(e)に相当する。
本発明の液体試料の分析装置において、前記実行部が、ステップ(j)、(i)、(k)及び(h)を順次繰り返し実行することが好ましい(請求項14参照)。これにより、反応室内での冷却時間及び液体試料冷却用容器内での冷却時間を調節することができ、液体試料を所望の冷却速度で冷却することができる。また、液体試料の流入及び流出を繰り返すことにより液体試料の温度を速やかに均一化することができる。さらに、液体試料の流入及び流出を繰り返すことにより液体試料が攪拌されるので、反応物質と標的物質との反応効率を向上させることができる。
本発明の液体試料の分析装置は、反応容器の外気の温度を制御する温度制御部を備えていてもよい。反応容器の外気の温度を制御することにより、反応室内にある液体試料を所望の冷却速度で冷却することができる。なお、液体収容部に収容された液体試料の冷却速度は、加熱冷却部により調節することができる。
本発明の液体試料の分析装置は、反応容器を加熱する加熱部を備え、ステップ(j)において、液体試料の熱を反応容器の外気へ放出させる際、反応容器を加熱し、液体試料の冷却速度を調節することが好ましい(請求項15参照)。これにより、反応容器の外気の温度のみに依存することなく、反応室内にある液体試料の冷却速度を調節することができるとともに、液体試料の温度を所望の温度に維持することができる。加熱部による反応容器の加熱方式は特に限定されるものではないが、光加熱であることが好ましい(請求項16参照)。反応容器の加熱方式が光加熱である場合、加熱部は、赤外線(例えば近赤外線)を発生するランプ(光源)と該ランプから発生する光を反射して焦点に集光する反射鏡とを備える公知の光加熱装置(集光加熱装置、ランプヒーター)と同様の構成とすることができる。光源は例えばハロゲンランプ、キノセンランプ等であり、反射鏡は例えば凹面鏡等であり、反射鏡には赤外線の反射効率を向上させるために金メッキ層を設けることができる。
本発明の液体試料の分析装置は、反応室に励起光を照射する光源と、反応室から発せられる蛍光を検出する蛍光検出器とを備えることが好ましい(請求項17参照)。これにより、固体支持体を反応室に収容した状態のまま、反応物質と標的物質との反応の有無を反応容器の外部から検出することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の液体試料分析装置の一実施形態を示す一部断面図である。
図2は、同実施形態に係る液体試料分析装置が備える固体支持体の斜視図である。
図3は、同実施形態に係る液体試料分析装置の動作を示すフローチャートである。
図4は、同実施形態に係る液体試料分析装置の動作を示すフローチャート(図3の続き)である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の液体試料分析装置の一実施形態を示す一部断面図である。
図1に示すように、液体試料分析装置1は、反応室21及び反応室21に通じる液体流入出口22を有する反応容器2と、反応室21に収容された固体支持体3と、反応室21に液体流入出口22を通じて液体を吸引し、反応室21から液体流入出口22を通じて液体を吐出する吸引吐出部4と、液体収容部5と、液体収容部5に収容された液体を加熱又は冷却する加熱冷却部6と、反応容器2を保持する保持部7と、保持部7を上下左右に移動させる駆動部8と、反応容器2に赤外線を照射して反応容器2を加熱する光加熱部11と、吸引吐出部4、加熱冷却部6、駆動部8及び光加熱部11の動作を制御する制御部9と、反応室21に励起光を照射し、反応室21内からの蛍光を受光する検出部10とを備える。
図1に示すように、反応容器2は、径の異なる円筒部211、212及び213から構成されており、円筒部211の下端部と円筒部212の上端部とが連続しており、円筒部212の下端部と円筒部213の上端部とが連続している。径の大きさは、円筒部211が最も大きく、円筒部213が最も小さい。反応容器2の内部には反応室21が形成されており、反応室21には液体を収容できるようになっている。円筒部213の下端部には、反応室21に通じる液体流入出口22が形成されており、液体流入出口22を通じて反応室21への液体の流入及び反応室21からの液体の流出を行うことができるようになっている。反応容器2は光透過性材料で構成されており、反応容器2の外部から反応室21内に光を照射できるとともに、反応室21内から発せられる光を反応容器2の外部で受光できるようになっている。また、反応容器2は薄板によって構成されており、反応室21内への光の照射及び反応室21内から発せられる光の検出を行う際の照射条件や受光条件の設定を容易に行うことができるようになっている。反応容器2には温度センサが装着されており、反応室21に収容された液体の温度を測定できるようになっている。
図1及び図2に示すように、固体支持体3は、円柱状の軸部材31と、軸部材31に巻装された紐状部材32とから構成されている。紐状部材32の表面には複数の異なる反応物質R、R、R、・・・・・・R(nは任意の自然数)が固定されている。反応物質の固体支持体上の固定位置は、反応物質の種類と対応付けられており、反応物質の固体支持体上の位置に基づいて、その位置に固定されている反応物質の種類を識別できるようになっている。紐状部材32は、軸部材31に巻装されることによって螺旋状に成形されており、反応物質R〜Rは、螺旋状に成形された紐状部材32の表面に固定されることによって、反応室21内に三次元に配列している。反応物質R〜Rは、それぞれ異なる反応温度で特定の標的物質と反応する。反応物質R、R、R・・・Rの反応温度はそれぞれT、T、T・・・Tであり、反応物質Rの反応温度Tが最も高く、T、T・・・と順次低い温度となっていき、反応物質Rの反応温度Tが最も低くなっている。
図1に示すように、吸引吐出部4は、反応容器21の円筒部211の上端開口部にO−リング40を介して装着されたノズル部41と、ノズル部41にパイプ34を介して連通するポンプ部42とを有する。吸引吐出部4は、反応室21内を減圧又は加圧することによって、液体流入出口22を通じて反応室21に液体を吸引できるとともに、液体流入出口22を通じて反応室21から液体を吐出できるようになっている。吸引吐出部4は、ノズル部41を回転させるモーター等の駆動機構を有しており、ノズル部41を回転させることができるようになっている。そして、ノズル部41に装着された反応容器2は、ノズル部41の回転に伴って回転できるようになっている。
図1に示すように、液体収容部5は、反応容器加温液510を収容する容器51と、液体試料520を収容する容器52と、洗浄液530を収容する容器53とを有し、容器51及び52には、それぞれ熱伝導性金属ブロック511及び521を介して加熱冷却部6が装着されている。加熱冷却部6は、ヒーター、ペルチェ素子等の加熱冷却装置を有しており、容器51及び52に収容された液体を所望の温度まで加熱又は冷却できるようになっている。液体収容部5の容器51及び52には温度センサが装着されており、容器51及び52に収容された液体の温度を測定できるようになっている。
駆動部8は、保持部7を上下に移動させるモーター等の駆動機構と保持部7を左右に移動させるモーター等の駆動機構とを有しており、保持部7を上下左右に移動させることができるようになっている。そして、保持部7に保持された反応容器2は、保持部7の移動に伴って上下左右に移動できるようになっている。
光加熱部11は、赤外線(例えば近赤外線)を発生するランプ(光源)と該ランプから発生する光を反射して焦点に集光する反射鏡とを備えており、赤外線を反応容器2に照射して反応容器2を加熱できるようになっている。光源は例えばハロゲンランプ、キノセンランプ等であり、反射鏡は例えば凹面鏡等であり、反射鏡には赤外線の反射効率を向上させるために金メッキ層を設けられている。
図1に示すように、制御部9は、吸引吐出部4のポンプ部42、加熱冷却部6、駆動部8及び光加熱部11に接続されており、これらの動作を制御できるようになっている。これにより、液体試料分析装置1は、加熱冷却部6を作動させて、液体収容部5の容器51に収容された反応容器加温液510を反応物質R〜Rのいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱するステップ;吸引吐出部4及び駆動部8を作動させて、液体収容部5の容器51、52又は53に収容された反応容器加温液510、液体試料520又は洗浄液530を、液体流入出口22を通じて反応室21に吸引するステップ;吸引吐出部4及び駆動部8を作動させて、反応室21に保持された反応容器加温液510、液体試料520又は洗浄液530を、液体流入出口22を通じて反応室21から吐出するステップ;反応室21に保持された液体試料520の熱を反応容器2の外気へ放出させることにより液体試料520を第一の冷却に供するステップ;液体試料520の熱を反応容器2の外気へ放出させる際、光加熱部11を作動させて、反応容器2を加熱し、液体試料520の冷却速度を調節するステップ;加熱冷却部6を作動させて、液体収容部5の容器52に収容された液体試料520を第二の冷却に供するステップ;液体試料520の温度が反応物質R〜Rのいずれの反応温度をも通過するように、第一及び/又は第二の冷却を行うステップ;反応物質R〜Rのそれぞれの反応温度に冷却された液体試料520を反応室21に保持するステップを実行できるようになっている。
第一の冷却の冷却速度よりも第二の冷却速度の方が大きくなるように、反応容器2の外気の温度及び液体収容部5の容器52の温度が調節されている。液体試料分析装置1は、反応容器2の外気の温度を調節する温度制御部を備えていないので、反応容器2の外気の温度は室温となっている。
検出部10は、励起光を照射する光源と受光素子とに接続された複数の光ファイバーを有しており、複数の光ファイバーを通じて反応室21に励起光を照射できるとともに、反応室21内から発せられる蛍光を受光できるようになっている。複数の光ファイバーの先端部は、ライン状に並べられて支持部材に取り付けられており、光ファイバーの他端は、ラインセンサ又はCCD素子に接続されている。検出部10は上下方向に移動して走査できるとともに、反応容器2の周囲を360度回転して走査でき、これにより反応室21の全体に対して励起光の照射及び蛍光の検出を行うことができるようになっている。
液体収容部5の容器52に収容された液体試料520には、蛍光標識された標的物質が含有されているので、反応室21の全体に対して励起光の照射及び蛍光の検出を行うことにより、反応物質R〜Rのすべてについて標的物質との反応の有無を検出することができる。また、反応物質の固体支持体上の固定位置は、反応物質の種類と対応付けられているので、標的物質が反応した反応物質の固体支持体上の位置を識別することにより標的物質の種類を同定することができる。
液体試料分析装置1の動作を図3及び図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
まず、液体試料分析装置1は、加熱冷却部6を作動させて、液体収容部5の容器51に収容された反応容器加温液510を反応物質R〜Rのいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱するステップS1を実行する。反応容器加温液510は、例えば、反応物質R〜Rの反応温度T〜Tのうち、最も高い反応温度Tよりも0.5〜5℃高くなるまで加熱される。
次に、液体試料分析装置1は、吸引吐出部4及び駆動部8を作動させて、液体収容部5の容器51に収容された反応容器加温液510を、液体流入出口22を通じて反応室21に吸引するステップS2を実行する。駆動部8は容器51内に液体流入出口22を進入させ、吸引吐出部4は液体流入出口22を通じて容器51内の反応容器加温液510を吸引する。反応室21に吸引された反応容器加温液510は、反応室21に所定時間保持される。保持時間は、反応容器2が反応物質R〜Rのいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱されるのに必要な時間であり、通常1〜2分間である。
次に、液体試料分析装置1は、吸引吐出部4を作動させて、反応室21に保持された反応容器加温液510を、液体流入出口22を通じて反応室21から吐出するステップS3を実行する。反応容器加温液510は、液体収容部5の容器51に吐出される。
次に、液体試料分析装置1は、加熱冷却部6を作動させて、液体収容部5の容器52に収容された液体試料520を反応物質R〜Rのいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱するステップS4を実行する。液体試料520は、例えば、反応温度Tよりも0.5〜5℃高くなるまで加熱される。
次に、液体試料分析装置1は、吸引吐出部4及び駆動部8を作動させて、液体収容部5の容器52に収容された液体試料520を、液体流入出口22を通じて反応室21に吸引するステップS5を実行する。駆動部8は容器52内に液体流入出口22を進入させ、吸引吐出部4は液体流入出口22を通じて容器52内の液体試料520を吸引する。反応室21に吸引された液体試料520は、そのまま反応室21に保持される。
次に、液体試料分析装置1は、反応室21に保持された液体試料520の熱を反応容器2の外気へ放出させることにより、液体試料520の温度を反応温度Tまで低下させるステップS6を実行する。液体試料520が反応温度Tまで冷却されると、反応物質Rが特定の標的物質と反応できる条件下に置かれる。液体試料分析装置1は、液体試料520の熱を反応容器2の外気へ放出させる際、光加熱部11を作動させて反応容器2を加熱し、液体試料520の冷却速度を調節する。これにより、反応容器2の外気の温度のみに依存することなく、反応室21に保持された液体試料520の冷却速度を調節することができるとともに、液体試料520の温度を所望の温度(反応温度T)に維持することができる。液体試料分析装置1は、光加熱部11を作動させて反応容器2を加熱する際、ノズル部41を回転させて反応容器2を回転させることにより、光加熱部11から発生する光(赤外線)が照射される面を変化させ、反応容器2の全体を加熱する。
次に、液体試料分析装置1は、液体試料520を反応温度T(k=1、2、3、・・・・、n−1)の次に高い反応温度Tk+1まで冷却するために、液体試料520の冷却速度を増加させる必要があるか否かを判断するステップS7を実行する。液体試料520の冷却速度を増加させる必要があるか否かは、反応温度Tと反応温度Tk+1との温度差に基づいて決定される。反応温度Tと反応温度Tk+1との温度差が大きい場合(例えば、温度差が3℃以上である場合)、液体試料520をそのまま反応室21に保持したのでは冷却に長時間を要するので、液体試料520の冷却速度を増加させる必要があると判断する。一方、反応温度Tと反応温度Tk+1との温度差が小さい場合(例えば、温度差が3℃未満である場合)、液体試料520をそのまま反応室21に保持しても冷却に長時間を要しないので、液体試料520の冷却速度を増加させる必要がないと判断する。
液体試料520の冷却速度を増加させる必要がないと判断した場合、液体試料分析装置1は、液体試料520をそのまま反応室21に保持するステップS8を実行する。反応室21に保持された液体試料520の熱が反応容器2の外気へ放出され、液体試料520が反応温度Tk+1まで冷却されると、反応物質Rk+1が特定の標的物質と反応できる条件下に置かれる。液体試料分析装置1は、液体試料520の熱を反応容器2の外気へ放出させる際、光加熱部11を作動させて反応容器2を加熱し、液体試料520の冷却速度を調節する。これにより、反応容器2の外気の温度のみに依存することなく、反応室21に保持された液体試料520の冷却速度を調節することができるとともに、液体試料520の温度を所望の温度(反応温度Tk+1)に維持することができる。液体試料分析装置1は、光加熱部11を作動させて反応容器2を加熱する際、ノズル部41を回転させて反応容器2を回転させることにより、光加熱部11から発生する光(赤外線)が照射される面を変化させ、反応容器2の全体を加熱する。液体試料分析装置1は、ステップS8を実行した後、後述するステップ13を実行する。
液体試料520の冷却速度を増加させる必要があると判断した場合、液体試料分析装置1は、吸引吐出部4を作動させて、反応室21に保持された液体試料520を、液体流入出口22を通じて液体収容部5の容器52に吐出するステップS9を実行する。
次に、液体試料分析装置1は、加熱冷却部6を作動させて、液体収容部5の容器52に収容された液体試料520を冷却し、液体試料520の温度を反応温度Tk+1まで低下させるステップS10を実行する。加熱冷却部6は液体収容部5の容器52に収容された液体試料520を所定の冷却速度で冷却する。
次に、液体試料分析装置1は、吸引吐出部4を作動させて、液体収容部5の容器52に収容された液体試料520を、液体流入出口22を通じて反応室21に吸引するステップS11を実行する。
次に、液体試料分析装置1は、液体試料520を反応室21に保持するステップS12を実行する。反応温度Tk+1まで冷却された液体試料520が反応室21に保持されることにより、反応物質Rk+1が特定の標的物質と反応できる条件下に置かれる。このとき、液体試料分析装置1は、光加熱部11を作動させて反応容器2を加熱し、液体試料520の温度を所望の温度(反応温度Tk+1)に維持する。液体試料分析装置1は、光加熱部11を作動させて反応容器2を加熱する際、ノズル部41を回転させて反応容器2を回転させることにより、光加熱部11から発生する光(赤外線)が照射される面を変化させ、反応容器2の全体を加熱する。
次に、液体試料分析装置1は、反応室21に保持された液体試料520の温度が反応温度T〜Tのうち、最も低い反応温度Tよりも低温であるか否かを判断するステップS13を実行する。液体試料520の温度がTよりも低温でないと判断した場合には、上述したステップS7を再度実行する。
液体試料520の温度がTよりも低温であると判断した場合には、反応物質R〜Rのすべてが特定の標的物質と反応できる条件下に置かれたことになるので、吸引吐出部4を作動させて、液体試料520を反応室21から液体収容部5の容器52に吐出するステップS14を実行する。
次に、液体試料分析装置1は、吸引吐出部4及び駆動部8を作動させて、液体収容部5の容器53に収容された洗浄液530を、液体流入出口22を通じて反応室21に吸引するとともに、反応室21から液体収容部5の容器53に吐出するステップS15を実行する。駆動部8は容器53内に液体流入出口22を進入させ、吸引吐出部4は液体流入出口22を通じて容器53内の洗浄液530を吸引するとともに吐出する。洗浄液530の吸引及び吐出は必要に応じて繰り返される。洗浄液530が反応室21から吐出されることにより、反応物質R〜Rと反応することなく反応室21内に残存していた標的物質が除去される。
次に、液体試料分析装置1は、検出部10を作動させて、反応物質R〜Rと標的物質との反応の有無を検出するステップS16を実行する。検出部10は、反応室21内に励起光を照射するとともに、反応室21内から発せられる蛍光(すなわち、反応物質R〜Rのいずれかと反応した標的物質が発する蛍光)を検出する。蛍光が発せられる位置を特定し、その位置に固定された反応物質の種類を識別することにより、反応物質と反応した標的物質の種類を同定することができる。
液体試料分析装置1は、上述した動作以外の動作を行うこともできる。例えば、液体試料分析装置1は、ステップ1〜ステップS5を実行した後、反応室21に保持された液体試料520の熱を反応容器2の外気へ放出させることにより液体試料520を冷却するステップと、吸引吐出部4を作動させて、反応室21に保持された液体試料520を、液体流入出口22を通じて液体収容部5の容器52に吐出するステップと、加熱冷却部6を作動させて、液体収容部5の容器52に収容された液体試料520を冷却するステップと、吸引吐出部4を作動させて、液体収容部5の容器52に収容された液体試料520を、液体流入出口22を通じて反応室21に吸引するステップとを順次繰り返し実行することができる。液体試料分析装置1は、これらのステップを、液体試料520の温度が反応温度T〜Tのうち、最も低い反応温度Tよりも低温となるまで繰り返し実行した後、ステップS14〜S16を順次実行する。液体試料分析装置1は、液体試料520の吸引及び吐出を所定の間隔で実行することにより、反応室21内での冷却時間及び容器52内での冷却時間を調節し、液体試料520を所望の冷却速度で冷却する。また、液体試料分析装置1が液体試料520の吸引及び吐出を繰り返し実行することにより、液体試料520の温度は速やかに均一化される。さらに、液体試料分析装置1が液体試料520の吸引及び吐出を繰り返し実行することにより、液体試料520が攪拌され、反応物質と標的物質との反応効率が向上する。
【産業上の利用の可能性】
本発明により、それぞれ異なる反応温度で特定の標的物質(例えば標的核酸)と反応する複数の反応物質(例えば核酸プローブ)が表面に固定された固体支持体を用いて液体試料の分析を行う際に、全ての反応物質がそれぞれ特定の標的物質と反応できる温度環境を形成することができるとともに、反応から検出に至る一連の操作を自動化することができる液体試料の分析方法及び分析装置が提供される。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容できる反応室を有する反応容器と、前記反応室に収容され、それぞれ異なる反応温度で特定の標的物質と反応する複数の反応物質が表面に固定された固体支持体とを用いた液体試料の分析方法であって、
前記反応室外にある前記液体試料を、前記反応物質のいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱する工程(a)と、前記反応室外にある前記液体試料を前記反応室に流入させる工程(b)と、前記反応室内にある前記液体試料を前記反応室から流出させる工程(c)と、前記液体試料の温度が前記反応物質のいずれの反応温度をも通過するように、前記反応室内にある前記液体試料及び/又は前記反応室外にある前記液体試料を冷却する工程(d)と、前記反応物質のそれぞれの反応温度に冷却された前記液体試料を前記反応室に保持する工程(e)とを含む前記分析方法。
【請求項2】
前記工程(a)で加熱した前記液体試料を前記反応室に流入させる前に、前記反応容器を前記反応物質のいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱しておく請求項1記載の分析方法。
【請求項3】
前記反応物質のいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱した反応容器加温液を前記反応室に流入させ、前記反応室に保持した後、前記反応室から流出させることにより前記反応容器を加熱する請求項2記載の分析方法。
【請求項4】
前記工程(d)において、前記反応室内にある前記液体試料の熱を前記反応容器の外気へ放出させることにより前記液体試料を冷却する請求項1〜3のいずれかに記載の分析方法。
【請求項5】
前記液体試料の熱を前記反応容器の外気へ放出させる際、前記反応容器を加熱し、前記液体試料の冷却速度を調節する請求項4記載の分析方法。
【請求項6】
前記反応容器を光加熱する請求項5記載の分析方法。
【請求項7】
前記工程(c)において、前記反応室内にある前記液体試料を前記反応室から液体試料冷却用容器に流出させ、前記工程(d)において、前記液体試料を前記液体試料冷却用容器内で冷却し、前記工程(b)において、前記液体試料冷却用容器内にある前記液体試料を前記液体試料冷却用容器から前記反応室に流入させる請求項1〜6のいずれかに記載の分析方法。
【請求項8】
前記反応室から前記液体試料冷却用容器への前記液体試料の流出、前記液体試料冷却用容器内での前記液体試料の冷却、及び前記液体試料冷却用容器から前記反応室への前記液体試料の流入を順次繰り返す請求項7記載の分析方法。
【請求項9】
前記反応容器が前記反応室に通じる液体流入出口を有しており、前記液体流入出口を通じて前記反応室に液体を吸引できるとともに、前記液体流入出口を通じて前記反応室から液体を吐出できる吸引吐出装置が前記反応容器に装着されており、前記吸引吐出装置を用いて、前記液体試料を前記反応室に流入させるとともに、前記液体試料を前記反応室から流出させる請求項1〜8のいずれかに記載の分析方法。
【請求項10】
前記反応容器が、前記吸引吐出装置が有するノズル部に脱着可能に装着されるチップである請求項9記載の分析方法。
【請求項11】
前記固体支持体を前記反応室に収容した状態のまま、前記反応物質と前記標的物質との反応の有無を前記反応容器の外部から検出する工程(f)をさらに含む請求項1〜10のいずれかに記載の分析方法。
【請求項12】
前記反応容器が光透過性材料で構成されており、前記標的物質が蛍光標識されており、前記反応物質と反応した前記標的物質から発せられる蛍光を前記反応容器の外部で検出する請求項11記載の分析方法。
【請求項13】
液体を収容できる反応室及び前記反応室に通じる液体流入出口を有する反応容器と、前記反応室に収容され、それぞれ異なる反応温度で特定の標的物質と反応する複数の反応物質が表面に固定された固体支持体と、前記液体流入出口を通じて前記反応室に液体を吸引できるとともに、前記液体流入出口を通じて前記反応室から液体を吐出できる吸引吐出部と、液体を収容できる液体収容部と、前記液体収容部に収容された液体を加熱及び冷却できる加熱冷却部とを備えた液体試料の分析装置であって、
前記加熱冷却部により、前記液体収容部に収容された液体試料を前記反応物質のいずれの反応温度よりも高温になるまで加熱するステップ(g)と、前記吸引吐出部により、前記液体収容部に収容された液体試料を、前記液体流入出口を通じて前記反応室に吸引するステップ(h)と、前記吸引吐出部により、前記反応室に保持された前記液体試料を、前記液体流入出口を通じて前記液体収容部に吐出するステップ(i)と、前記反応室に保持された前記液体試料の熱を前記反応容器の外気へ放出させることにより前記液体試料を第一の冷却に供するステップ(j)と、前記加熱冷却部により、前記液体収容部に収容された前記液体試料を第二の冷却に供するステップ(k)と、前記液体試料の温度が前記反応物質のいずれの反応温度をも通過するように、前記第一の冷却及び/又は前記第二の冷却を行うステップ(l)と、前記反応物質のそれぞれの反応温度に冷却された前記液体試料を前記反応室に保持するステップ(m)とを実行する実行部を備えた前記分析装置。
【請求項14】
前記実行部が、前記ステップ(j)、(i)、(k)及び(h)を順次繰り返し実行する請求項13記載の分析装置。
【請求項15】
前記反応容器を加熱する加熱部を備え、前記ステップ(j)において、前記液体試料の熱を前記反応容器の外気へ放出させる際、前記反応容器を加熱し、前記液体試料の冷却速度を調節する請求項13又は14記載の分析装置。
【請求項16】
前記加熱部が前記反応容器を光加熱する請求項15記載の分析装置。
【請求項17】
反応室に励起光を照射する光源と、前記反応室から発せられる蛍光を検出する蛍光検出器とを備えた請求項13〜16のいずれかに記載の分析装置。

【国際公開番号】WO2004/068144
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【発行日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504765(P2005−504765)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000904
【国際出願日】平成16年1月30日(2004.1.30)
【出願人】(502338292)ユニバーサル・バイオ・リサーチ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】