説明

液化水素コンテナの加圧方法

【課題】液化水素を用いるタイプの移動式ステーションにおいて、燃料電池車などへ水素を充填する際に充填準備期間を短縮し水素ガスのロスを減少させる。
【解決手段】液化水素貯蔵槽1から導出した液化水素を液化水素圧送ポンプ2、気化器5を経て、水素ガス受入容器7に供給する水素供給方法であって、液体水素圧送ポンプ2と気化器5とを連通接続する液化水素圧送路4から連出されているベントガス排出路11に気化器5からのバイパス路12を連通接続するとともに、前記ベントガス排出路11と液化水素貯蔵槽1に加圧用ガスを供給する加圧ガス供給路10とを連通接続する。水素供給の開始時に気化器5からの低温ガスをバイパス路12、ベントガス排出路11を介して液化水素貯蔵槽1に返送して、液化水素貯蔵槽1内を加圧するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液化水素コンテナの加圧方法に係り、特に、移動式液化水素コンテナでの加圧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素エネルギーの利用拡大を図るため、数十MPaという高圧ガスの形で水素を貯蔵する圧縮水素タイプと、液化水素の形で水素を貯蔵する液化水素タイプという2つの異なるタイプで移動式水素ステーションの開発が現在進められている。中でも、液体水素を用いるタイプは、圧縮水素を用いるタイプと比較して、1回当たりに移動できる水素量が多く、今後の移動式水素ステーションとしての期待度が高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
液化水素を用いるタイプの移動式水素ステーションは、前記したように1回当たりに移動させることの出来る水素量が多く、その点において効率が高いのであるが、燃料電池車等へ水素を充填する際には、配管や昇圧ポンプを予め冷却(プレクール)する必要があり充填準備時間が長くかかるうえ、その冷却時に発生する気化ガス(ベントガス)を大気に放出することから、水素の利用効率を下げてしまうという問題がある。
【0004】
本発明は、このような点に着目してなされたもので、液化水素を使用しての水素ガス充填作業時での充填準備時間を短縮するとともに、水素ガスのロスを減少させることの出来る液化水素コンテナの加圧方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような点に鑑み請求項1に記載の本発明は、液化水素圧送ポンプと気化器とを連通接続する液化水素圧送路から連出されているベントガス排出路に気化器からのバイパス路を連通接続するとともに、前記ベントガス排出路と液化水素貯蔵槽に加圧用ガスを供給する加圧ガス供給路とを連通接続し、液化水素貯蔵槽から液化水素導出路に対して液化水素の導出を開始した後に気化器からの低温ガスをバイパス路及びベントガス排出路を介して液化水素貯蔵槽に返送することにより、液化水素貯蔵槽内を加圧するように構成したことを特徴としている。
【0006】
また、請求項2に記載の本発明では、液化水素圧送ポンプを起動する前に、ベントガス排出路を流れるガスを液化水素貯蔵槽に返送することにより、液化水素貯蔵槽と液化水素圧送ポンプとの間を連通接続する液化水素導出路及び液化水素加圧ポンプを冷却し、次いで気化器からの低温ガスをバイパス路、ベントガス排出路を介して液化水素貯蔵槽に返送するように構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、液化水素圧送ポンプのプレクールに使用することにより気化した低温の水素ガスを液化水素貯蔵槽に返送することで、プレクールに使用したガスを有効に使用することができるうえ、液化水素圧送ポンプ及び液化水素圧送ポンプまでの液化水素導出路を短時間に低温にすることができ、プレクールの時間を短縮することができる。また、気化器で気化したガスを液化水素貯蔵槽に返送することで大量の気化ガスを液化水素貯蔵槽に供給することが出来るから、液化水素貯蔵槽を急速に加圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】液化水素コンテナ設備の一例を示す概略図である。
【図2】液化水素充填時の準備作業1の手順を示すフローチャートである。
【図3】液化水素充填時の準備作業2の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この液化水素コンテナ設備は、液化水素を貯蔵している液化水素貯蔵槽(1)と液化水素圧送ポンプ(2)の吸込口とを液化水素導出路(3)で連通接続し、液化水素圧送ポンプ(2)の吐出口から導出した液化水素圧送路(4)を気化器(5)に連通接続し、気化器(5)で気化した水素ガスを流量制御器(6)を介して燃料電池自動車等の水素ガス受入容器(7)に水素ガス供給路(8)で連通接続し、液化水素貯蔵槽(1)に蓄圧器(9)から導出した加圧用ガス供給路(10)が連通接続してある。
【0010】
そして、液化水素圧送路(4)から分岐導出したベントガス排出路(11)に気化器(5)から導出したバイパス路(12)を合流させ、この合流部分より下流側のベントガス排出路(11)と加圧用ガス供給路(10)とを連通路(13)で連通接続してある。
【0011】
加圧用ガス供給路(10)の連通路(13)との接続個所よりも蓄圧器(9)側には第1流路開閉弁(V1)が、連通路(13)に第2流路開閉弁(V2)が、連通路(13)との接続個所よりも下流側のベントガス排出路(11)に第3流路開閉弁(V3)が、連通路(13)との接続個所よりも上流側のベントガス排出路(11)に第4流路開閉弁(V4)が、バイパス路(12)に第5流路開閉弁(V5)がそれぞれ装着してある。
【0012】
これら各流路開閉弁(V1〜V5)は、液化水素貯蔵槽(1)での気化ガスを放出する初期状態と、液化水素導出路(3)及び液化水素圧送ポンプ(2)を冷却するプレクール段階、液化水素貯蔵槽(1)内を急速に加圧する急速加圧段階、実際に液体水素貯蔵槽(1)内の圧力を充填作業圧力まで加圧する追い加圧段階、実際に液化水素貯蔵槽(1)に貯蔵されている液化水素をガス化して水素ガス受入容器(7)に移送する充填状態、及び待機状態では以下に述べるように切換制御される。
【0013】
初期状態では、第2流路開閉弁(V2)と第3流路開閉弁(V3)とが開弁し、他の流路開閉弁(V1)(V4)(V5)は閉じている。したがって、液化水素貯蔵槽(1)の内部の気相部分がベントガス排出路(11)を介して外部に連通することから、液化水素貯蔵槽(1)の気化ガス(ボイルオフガス:BOG)は放出されている。
【0014】
プレクール段階では、第2流路開閉弁(V2)と第4流路開閉弁(V4)とが開弁し、他の流路開閉弁(V1)(V3)(V5)は閉じている。したがって、この状態では、液化水素導出路(3)及び液化水素圧送ポンプ(2)は液化水素によって冷却され、この液化水素導出路(3)及び液化水素圧送ポンプ(2)で気化したガスはベントガス排出路(11)、連通路(13)、加圧用ガス供給路(10)を通って液化水素貯蔵槽(1)に返送され、液化水素貯蔵槽(1)内を昇圧することになる。
【0015】
急速加圧段階では、第2流路開閉弁(V2)と第5流路開閉弁(V5)とが開弁し、他の流路開閉弁(V1)(V3)(V4)は閉じている。したがって、この状態では、気化器(5)で気化したガスは、バイパス路(12)、ベントガス排出路(11)、連通路(13)、加圧用ガス供給路(10)を通って液化水素貯蔵槽(1)に返送され、液化水素貯蔵槽(1)内を急速に加圧することになる。
【0016】
追い加圧段階では、第1流路開閉弁(V1)と第3流路開閉弁(V3)とが開弁し、他の流路開閉弁(V2)(V4)(V5)は閉じている。したがって、この状態では、蓄圧器(9)から水素ガスを液化水素貯蔵槽(1)に供給して、液化水素貯蔵槽(1)内をさらに昇圧させることになる。
【0017】
液化水素貯蔵槽(1)から液化水素圧送ポンプ(2)、気化器(5)、流量制御器(6)を介して水素ガス受入容器(7)に水素ガスを充填する充填時には、すべての流路開閉弁(V1〜V3)は閉じている。したがって、液化水素圧送ポンプ(2)により送出された液化水素は、気化器(5)で熱交換して気化し、流量制御器(6)で流量を制御されて水素ガス受入容器(7)に供給されることになる。
【0018】
また、待機時には、プレクール段階と同様、第2流路開閉弁(V2)と第4流路開閉弁(V4)とが開弁し、他の流路開閉弁(V1)(V3)(V5)は閉じている。したがって、この状態では、液化水素導出路(3)及び液化水素圧送ポンプ(2)は液化水素によって冷却され、低温状態を維持することになる。
【0019】
上記の各段階での各流路開閉弁(V1〜V5)の開閉状態を表1に示す。
【表1】

【0020】
次に、液化水素充填時の準備作業1の手順を図2を参照しながら説明する。
初期状態においては、液化水素貯蔵槽(1)の内圧(P)と、液化水素圧送ポンプ(2)の温度(T)を測定する(ステップS1)。
【0021】
プレクール段階では、第2流路開閉弁(V2)と第4流路開閉弁(V4)とを開弁するとともに、他の流路開閉弁(V1)(V3)(V5)を閉弁し(ステップS2)、液化水素圧送ポンプ(2)の温度(T)を測定し、検出した液化水素圧送ポンプ(2)の温度(T)が予め設定した温度(Ts)、例えば−100℃よりも低い温度となるまでその状態を維持する(ステップS3)。
【0022】
液化水素圧送ポンプ(2)の温度(T)が予め設定した温度(Ts)よりも低くなると、第4流路開閉弁(V4)を閉弁するとともに、第5流路開閉弁(V5)を開弁して(ステップS4)、急速加圧段階に入る。
【0023】
上記ではプレクール段階の終了時期を検出した温度(T)が設定温度(Ts)以下になるまでとしたが、より早く次の急速段階へ移行するために、設定温度(Ts)の温度設定を上げたり、プレクール段階の時間を設定(例えば3分間)したりするようにしてもよい。また、プレクール段階を経ずに直接急速加圧段階へ移行するようにしてもよい。
【0024】
急速加圧段階では、液化水素貯蔵槽(1)の内圧(P)を測定し、検出した液化水素貯蔵槽(1)の内圧(P)が予め設定した圧力(Ps)、例えば0.5MPa以上の圧力になるまでその状態を維持する(ステップS5)。
【0025】
液化水素貯蔵槽(1)の内圧(P)が予め設定した圧力(Ps)以上になると、第1流路開閉弁(V1)を開弁するとともに、第2流路開閉弁(V2)と第5流路開閉弁(V5)を閉弁して(ステップS6)、追い加圧段階に入る。追い加圧段階では、液化水素貯蔵槽(1)の内圧(P)を測定し、検出した液化水素貯蔵槽(1)の内圧(P)が予め設定した充填時設定圧力(Pe)、例えば0.6MPa以上の圧力になるまでその状態を維持する(ステップS7)。
【0026】
液化水素貯蔵槽(1)の内圧(P)が予め設定した圧力(Pe)以上になると、すべての流路開閉弁(V1〜V5)を閉弁して、充填状態に入る。
【0027】
加えて、液化水素コンテナ設備と同じくして、異なる液化水素充填時の準備作業2の手順について、図3を参照しながら説明する。
本作業手順2では、プレクール段階・追い加圧段階における各バルブの開閉は前述の作業手順1と同様であるが、急速加圧段階に留まる時間(t)を測定するステップ(ステップS8)が新たに設けられている。そして、急速加圧段階に留まる時間(t)があらかじめ設定した時間(ts)、例えば3分間以内の時間を越えた場合には、前述の作業手順1と同様に、液化水素貯蔵槽(1)の内圧(P)が予め設定した圧力(Pe)になるまでその状態を維持する(ステップS7)。
【0028】
なお、液化水素貯蔵槽(1)から水素ガス受入容器(7)に水素ガスを充填する充填作業が終わると、第2流路開閉弁(V2)と第4流路開閉弁(V4)を開弁したプレクール段階と同様の状態で待機姿勢に入る。この待機姿勢では、液化水素導出路(3)と液化水素圧送ポンプ(2)とを冷たい状態に維持しておくことができる。
【0029】
さらに、気化器(5)からの気化ガスを液化水素貯蔵槽(1)に返送した場合には、水素ガス受入容器(7)に水素ガスを充填することで低下する液化水素貯蔵槽(1)での内圧減少を補充するとともに、液化水素の供給系路の温度上昇を抑制することができ、充填準備時間の短縮を図ることができるうえ、水素ガスのロス(放出量)の減少を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、燃料電池自動車等の水素ガス受入容器への水素充填に使用する移動式液化水素コンテナの加圧に利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1…液化水素貯蔵槽、2…液化水素圧送ポンプ、3…液化水素導出路、4…液化水素圧送路、5…気化器、7…水素ガス受入容器、10…加圧ガス供給路、11…ベントガス排出路、12…バイパス路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化水素貯蔵槽(1)から導出した液化水素を液化水素圧送ポンプ(2)、気化器(5)を経て、水素ガス受入容器(7)に供給する水素供給方法において、
液化水素圧送ポンプ(2)と気化器(5)とを連通接続する液化水素圧送路(4)から連出されているベントガス排出路(11)に気化器(5)からのバイパス路(12)を連通接続するとともに、前記ベントガス排出路(11)と液化水素貯蔵槽(1)に加圧用ガスを供給する加圧ガス供給路(10)とを連通接続し、水素供給の開始時に気化器(5)からの低温ガスをバイパス路(12)、ベントガス排出路(11)を介して液化水素貯蔵槽(1)に返送することにより、液化水素貯蔵槽(1)内を加圧するように構成したことを特徴とする液化水素コンテナの加圧方法。
【請求項2】
液化水素圧送ポンプ(2)を起動する前に、ベントガス排出路(11)を流れるガスを液化水素貯蔵槽(1)に返送することにより、液化水素貯蔵槽(1)と液化水素圧送ポンプ(2)との間を連通接続する液化水素導出路(3)及び液化水素加圧ポンプ(2)を冷却し、次いで気化器(5)からの低温ガスをバイパス路(12)を介して液化体水素貯蔵槽(1)に返送するように構成した請求項1に記載の液化水素コンテナの加圧方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−144814(P2011−144814A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3580(P2010−3580)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】