説明

液化炭酸ガスの地中送り込み方法及びその地中送り込み装置

【課題】液化炭酸ガスを深部帯水層に効率よく浸透させ、また拡散させることができる地中送り込み方法及びその地中送り込み装置を提供する。
【解決手段】本発明による液化炭酸ガスの地中送り込み方法は、深部帯水層の地下水を揚水井から地上に汲み上げて注入水をつくる段階と、注入水に脈動水圧を加える段階と、脈動水圧が加えられた注入水を注入井から深部帯水層に送り込む段階と、液化炭酸ガスを貯蔵タンクから液化状態を保って注入井の液化状態を保てる深度まで送り込む段階と、注入井内において、液化炭酸ガスを注入水の中に微細液滴化して混合し二液混合流体を生成する段階と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化炭酸ガスを注入井内で微細液滴化して注入水に混合し、これを深部帯水層に効率よく注入する地中送り込み方法及び地中送り込み装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の地中貯留は、温室ガス削減の有力な手法として米国やEUでの取り組みが進んでいる。温室効果ガスには、二酸化炭素、メタン、代替フロンなどがあるが、一般には9割以上が二酸化炭素である。二酸化炭素を深部帯水層に気体や超臨界流体の状態で大量に注入すると、固まり状態(プリューム)になりやすく、浸透性や拡散性に問題がある。気体や超臨界流体の二酸化炭素は水より軽いから、地上側に漏れ出てくる心配がある。二酸化炭素の発生量は極めて大量なので、二酸化炭素を効率よく処理でき、地中での浸透性や拡散性がよく、一般の地質環境でも地中で安全確実に固定される処理方法が望まれている。
【0003】
特許文献1の「ガス液化沈降装置」には、高圧をかけて液化した二酸化炭素と海水を交互に圧送し深海に送り込むことが記載されている。特許文献2の「深層海水中への液体二酸化炭素送り込み方法」には、液化炭酸ガスが海水より重いことを利用して、液泡にして浅い海中に放出し、平衡状態を保って深海に送り込むことが記載されている。しかし、いずれも海中であり、地中貯留の場合に生じる浸透性や拡散性についての記載はない。
【特許文献1】特開2000−227085号公報
【特許文献2】特開平11−228122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、液化炭酸ガスを深部帯水層に効率よく浸透させ、また拡散させることができる液化炭酸ガスの地中送り込み方法及びその地中送り込み装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明による請求項1に記載の液化炭酸ガスの地中送り込み方法は、深部帯水層の地下水を揚水井から地上に汲み上げて注入水をつくる段階と、前記注入水に脈動水圧を加える段階と、脈動水圧が加えられた前記注入水を注入井から深部帯水層に送り込む段階と、液化炭酸ガスを貯蔵タンクから液化状態を保って前記注入井の液化状態を保てる深度まで送り込む段階と、前記注入井内において、前記液化炭酸ガスを注入水の中に微細液滴化して混合し二液混合流体を生成する段階と、を含むことを特徴とする。
【0006】
請求項2は、請求項1記載の発明であって、前記注入井に送り込む前記液化炭酸ガスに、低周波の脈動液圧を加える段階がさらに設けられることを特徴とする。
【0007】
請求項3は、請求項1記載の発明であって、前記注入水の水温を調整する段階が、さらに設けられることを特徴とする。
【0008】
本発明による請求項4に記載の液化炭酸ガスの地中送り込み装置は、深部帯水層の地下水を揚水井から地上に汲み上げる汲み上げ装置と、前記注入水を注入井から前記深部帯水層に送り込む注入水圧入装置と、前記注入水圧入装置と前記注入井の間に設けられ、前記注入水に脈動水圧を加える注入水用の低周波脈動発生装置と、液化炭酸ガスを貯蔵タンクから液化状態を保って前記注入井の液化状態を保てる深度まで送り込む液化炭酸ガス圧入装置と、前記注入井内に設けられ、前記注入井に送り込まれた液化炭酸ガスが微細液滴化され、前記注入水に混合されて二液混合流体を生成する微細液滴化装置と、を含むことを特徴とする。
【0009】
請求項5は、請求項4記載の発明であって、前記微細液滴化装置は、前記注入水が送り込まれるケーシング管と、前記ケーシング管に挿入され前記液化炭酸ガスが送り込まれる挿入管と、前記挿入管の下端に取り付けられ、側面に前記液化炭酸ガスを斜め下方に噴射する複数の噴射管を有する回転可能な筒体と、を含むことを特徴とする。
【0010】
請求項6は、請求項5記載の発明であって、前記筒体の内部に、前記液化炭酸ガスの吐出流で回転する回転翼が設けられることを特徴とする。
【0011】
請求項7は、請求項5記載の発明であって、前記筒体の下部に、前記筒体を回転させる水中モータが設けられることを特徴とする。
【0012】
請求項8は、請求項4記載の発明であって、前記液化炭酸ガス圧入装置と前記注入井の間に、前記液化炭酸ガスに脈動水圧を加える液化炭酸ガス用の低周波脈動発生装置がさらに設けられることを特徴とする。
【0013】
請求項9は、請求項4記載の発明であって、前記貯水タンクと前記注入水圧入装置との間に、注入水の水温を調整する温度調整装置が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明による請求項1の液化炭酸ガスの地中送り込み方法によれば、(1)深部帯水層から汲み上げた地下水に、液化炭酸ガスを微細液滴化して注入するので深部帯水層に広範囲に拡散できる。深部帯水層での圧力と温度の条件により液滴から気泡への相変化が起きても微細な気泡の浮力は小さく、地層内を上昇して大きな固まり(プリューム)状態にはならない。(2)また、二酸化炭素の微細液滴は、土粒子の隙間に入り込みやすいので容易に地中に固定することができる。(3)注入水に低周波の脈動を与えたので、注入井周辺の地層の隙間を規則的に振動させるとともに、注入水と微細液滴の併進運動が活発化され微細液滴の見かけ上の流動性が改善される。(4)二酸化炭素の液滴密度は気泡密度の数百倍も大きいので、つまり体積が小さいので、地層への微細液滴の注入は、微細気泡の注入に比べて貯留効率が良い。(5)液化炭酸ガスの微細液滴化を注入井の内部で行なうので、施設が大型化せず、注入井内の水深相当の自然の静水圧が利用できる。
【0015】
本発明の請求項2によれば、注入井に送り込む液化炭酸ガスに、低周波の脈動を加える段階を設けたので、流動性が与えられ液化炭酸ガスの噴射が容易となる。混入率(一定の体積に占める微細液滴の容積率)を大きくでき、微細液滴を効率よく生成できる。
【0016】
本発明の請求項3によれば、注入水の水温を調整する段階を設けたので、二酸化炭素の液化状態を保つ圧力を低くできる。すなわちポンプの負担を軽減することができる。なお、液化炭酸ガスは、液化炭酸ガス注入装置から液相のままで30℃以下および7MPa以上に保ち挿入管に送り込むことが望ましい。注入水は30℃以下の一定水温に調整した地下水を使用し、微細液滴化装置は7MPa以上となる水深位置に設置する。そのため挿入管の長さは700m以上となる。
【0017】
本発明による請求項4の液化炭酸ガスの地中送り込み装置によれば、請求項1の効果と同じ効果を得ることができる。
【0018】
本発明の請求項5によれば、挿入管の下端に微細液滴化装置を取り付けたから、圧入井内で、液化炭酸ガスの微細液滴と注入水を混合した二液混合流体を生成することができる。すなわち、液化炭酸ガスを回転する筒体の複数の噴射管から噴射して効率よく微細液滴を作ることができる。
【0019】
本発明の請求項6によれば、微細液滴化装置の筒体の内部に、液化炭酸ガスの吐出流で回転する回転翼を設けたので、液化炭酸ガスを筒体の内部で自力旋回させることができる。また、筒体は噴射管から液化炭酸ガスを噴出する反力で自力回転される。噴射管は注入水の流速が速い箇所にあるから、流速が速ければ圧力はその分低くなり、注入水の水圧と液化炭酸ガス圧入装置による液化炭酸ガスの液圧との圧力差が大きくなり液化炭酸ガスの噴射が促進される。これらにより、微細液滴を効率よく生成できる。
【0020】
本発明の請求項7によれば、微細液滴化装置の筒体の直下に水中モータを設けたので、筒体を高速回転させることができる。水中モータへの給電は地上側から行う。筒体を高速回転させて、噴射管から液化炭酸ガスを噴射するので、微細液滴をより多く生成できる。
【0021】
本発明の請求項8によれば、液化炭酸ガスに低周波脈動発生装置で脈動を加えたので、流動性が与えられ、液化炭酸ガスの噴射が容易となる。これにより微細液滴を効率よく生成できる。
【0022】
本発明の請求項9によれば、注入水の温度調整装置を設けたので請求項3の効果と同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明による液化炭酸ガスの地中貯留方法及びその地中貯留システムを説明する。
【実施例】
【0024】
図1は本発明による液化炭酸ガスの微細液滴化による地中貯留システムの構成図である。液化炭酸ガスの微細液滴化による地中送り込み装置100は、深部帯水層51に達する揚水井21から地下水53を汲み上げる汲み上げ装置1と、汲み上げた地下水53を20〜25℃範囲の一定温度に調整する温度調整装置2と、深部帯水層51に到る注入井22に、汲み上げた地下水53を注入水54として送り込む注入水圧入装置3と、注入水圧入装置3と注入井22の間に設けられ、注入水54に脈動を加える注入水用の低周波脈動圧発生装置4と、外部のプラント施設30の排気ガスや化学反応プロセスにおける成分分離工程のガスなどから分離回収した高純度の二酸化炭素を液化炭酸ガス55として注入井22に送り込む液化炭酸ガス圧入装置5と、注入井22内での注入水の静止水圧が7MPa以上となる水深位置に設けられ、液化炭酸ガス55を微細液滴化し、注入水54に混合して二液混合流体56を生成する微細液滴化装置6aあるいは6bと、を備える。
【0025】
深部帯水層51は、細かい砂層からなり水資源には向かない塩水で飽和された層のことである。液化炭酸ガスは、700〜1500mの深度を対象に注入する。液化炭酸ガス55は、密度がほぼ水と同じ液体であり、注入井22での注入水の深度700m以深において微細液滴化され一部は注入水54に溶け、その他の多くは解けずに液滴のまま二液混合流体56となり、深部帯水層51に注入される。プラント施設30としては、火力発電所、ごみ焼却施設、石油精製施設、セメント製造施設、化学プラント施設などがあげられる。なお、地表面52から深部帯水層51にいたるまでには多数の地層があるが、図示は省略している。
【0026】
一般的な深部帯水層51の圧力と温度のもとでは、水1m(重さ1000kg)に対して二酸化炭素40〜60kgを溶解させることができる。二酸化炭素は、液滴化せずに超臨界流体として注入する場合は、浮力の影響で上昇して固まり(プリュ−ム)となりやすいが、液化炭酸ガス55を微細液滴化して注入水54に混合すれば、固まりにならずに深部帯水層51に広く浸透、拡散させることができる。微細液滴34は、地下水53との接触面積が格段に大きいので、浸透拡散後に圧力と温度条件により気相に変化した微細気泡の二酸化炭素の溶解速度は、気体や超臨界流体の固まりとして地中に存在している場合より数100〜数1000倍も早い。加えて、微細液滴34が土粒子の隙間に入り込むことで、二酸化炭素が固定されるから、シール層や不透水層が上方に存在しない深部帯水層でも有効である。
【0027】
ここで二酸化炭素の固定は、つぎのようなプロセスでおきる。微細液滴状の二酸化炭素は、岩石鉱物の表面に吸着される場合や、毛細管効果により岩石中の残留液滴としてトラップされるが、圧力と温度の条件変化により微細気泡になった二酸化炭素は、周囲の地下水に溶解しやすい。溶解した二酸化炭素は地下水中に豊富に含まれる各種イオンや周囲の鉱物と反応し、例えば、2CO+3HO+CaSiO→Ca2++2HCO+HSiO (1)式のようにイオン化して、地下水中でより安定化する。さらに、Ca2++2HCO →CaCO+CO+HO (2)式という反応が起こり、COの半分は(1)式に戻るが、CaCOは炭酸塩化合物であるから、二酸化炭素はほぼ永久的に固定化される。
【0028】
汲み上げ装置1は内管7と外管8からなる二重管9の揚水井21、揚水ポンプ10、ジェット吸引部12、貯水タンク13などからなる。地下水53を汲み上げるため、揚水ポンプ10で加圧水60を内管7に送り込み、ジェット吸引部12で地下水53を汲み上げ、注入水54として貯水タンク13に蓄える。ジェット吸引部12は、加圧水60の流速を早めて負圧を作り出し、地下水53を吸い込むものである。揚水ポンプ10に投入する水は、貯水タンク13に蓄えられた地下水53を循環して利用するようにしてもよい。
【0029】
深部帯水層51から汲み上げた地下水53は、かん水と呼ばれ注入水として好ましい。かん水は電解質イオンを多く含み、海水の三分の一以上の塩分濃度があり、生活に利用できないので地域の理解を得やすい。かん水のある帯水層は新生代の第三〜四紀の堆積盆の地質構造に広く分布する。液化炭酸ガスの相互溶解度(液体が液体に溶解する場合の溶解度を相互溶解度という)は小さいが、かん水は電解質イオンがその濃度に比例して液化炭酸ガスの相互溶解度をさらに低下させる(Salting out現象)から、微細液滴34の逸散を防止して微細な液滴を高密度に生成できる。
【0030】
温度調整装置2は、貯水タンク13と注入水圧入装置3の間に設けられ、汲み上げた30℃以上の地下水53の水温を20〜25℃範囲の一定水温にする装置である。30℃以上の注入水54を注入井22に送り込むと、微細液滴化装置6aあるいは6bにより生成された微細液滴34は液相から気相に変化しやすく、注入水54の水温管理は重要である。温度調整装置2は、汲み上げた30℃以上の地下水の熱エネルギーを利用したヒートポンプにより地下水を冷却して20〜25℃範囲の一定水温の注入水をつくる。また、少なくとも温度調整装置2から注入井22までの注入水の配管については、夏季や冬季における配管温度の変化を抑えるための地中埋設や保温材付き等の対策を講ずることが好ましい。
【0031】
注入水圧入装置3は、注入井22に注入水54を送り込むための圧入ポンプ14、圧力流量調整弁15などからなる。圧力流量調整弁15は、圧入ポンプ14の注入水54の圧入の抵抗が一定値を超えるような場合に、弁を開いて注入水54を貯水タンク13に戻すものである。揚水井21と注入井22の間の距離は、通常500〜1km程度は離れているので、貯水タンク13とは別にパイプラインで結んだ貯水タンクを設け、注入水圧入装置2に組み入れてもよい。
【0032】
注入水用の低周波数脈動圧発生装置4は、駆動部16、脈動発生器17からなる。駆動部16は、脈動の周波数、圧力振幅を指定することができる。脈動は低周波を用い、具体的には0.5Hz〜30Haである。脈動は低周波なので注入井22の底部まで伝わる。脈動は、地層内における二液混合流体56の流動性を高める。静的な圧力だけで圧入する場合よりも注入効率がよい。
【0033】
プラント施設30は、一例として燃焼炉18の排気ガスに含まれる二酸化炭素の分離回収装置19を含む。化学吸収法によれば、二酸化炭素の濃度を99%以上に濃縮することができる。分離回収した二酸化炭素を液化炭酸ガスとして一時的に蓄えるタンクを設けてもよい。
【0034】
液化炭酸ガス圧入装置5は、液化炭酸ガス貯蔵タンク24及びコンプレッサ23などで構成される。なお、図示しないが、圧力調整弁、流量計、圧力計が取り付けられる。プラント施設30と注入井22が近い場合は、二酸化炭素をパイプラインで貯蔵タンク24に送ることが出来る。遠い場合は、タンクローリ20で輸送してもよい。タンクローリ20で二酸化炭素を運ぶ場合、高圧低温状態での液化炭酸ガスとして運搬される。
【0035】
液化炭酸ガス55の注入作業を開始する場合、液化炭酸ガス55が相変化を起こさないように、コンプレッサ23を介して7MPaを連続的に維持しながら、挿入管27に液化炭酸ガス55を送り出す作業を続ける必要がある。したがって、液化炭酸ガス55の注入作業の準備として、注入井22の挿入管27に液化炭酸ガス55を送る配管経路をバルブで遮断状態にし、別経路の注水配管により挿入管を注入水54で満たした後、注水配管を閉じ、挿入管27へのバルブを開き、所定の高圧で液化炭酸ガス55を送り込み、液化炭酸ガスの一時的な圧力低下を避ける対応をとる。挿入管27中の注入水54は、挿入管27の内径にもよるが、液化炭酸ガス55の液圧により数10分程度で注入水はすべて微細液滴化装置6aあるいは6bを通じて押し出された後に、所定の微細液滴化作業が開始できる。逆に、微細液滴化作業を長期間中断する際には、液化炭酸ガス55を送り込む配管経路のバブルを閉めた後、挿入管27中の液圧を大気圧まで下げながら別の配管経路で挿入管27の液化炭酸ガス55を気化させて二酸化炭素を回収する。
【0036】
液化炭酸ガス用の低周波脈動圧発生装置4aは、液化炭酸ガス55に脈動圧を与えるものであり、液化炭酸ガス圧入装置5と注入井22の間に設けられる。液化炭酸ガス55の脈動化により、微細液滴化装置6a(あるいは6b)からの液滴化が促進される。低周波脈動圧発生装置4aは、駆動部16、脈動発生器17からなる。駆動部16は、脈動の周期、圧力振幅を制御する。脈動は0.5Hz〜30Hzの低周波である。ここでの脈動は、液化炭酸ガス55の流動性を高め、微細液滴化装置6aあるいは6bからの噴射を促進する。
【0037】
微細液滴化装置6a、6bは、挿入管27の下端に取り付けられ、注入井22内での注入水の静水圧が7MPa以上となる水深位置に設けられる。ケーシング管26と挿入管27の間に注入水54が圧入され、挿入管27には液化炭酸ガス55が圧入される。微細液滴化装置6aにより液滴が生成され、二液混合流体となって、ケーシング管26の底部側面のスリット35から、深部帯水層51に送り込まれる。挿入管27には振れ止め材47が、ケーシング管には固定金具4が設けられる。
【0038】
構成例1の微細液滴化装置6aは、液化炭酸ガス55の吐出流が筒体40内壁に取り付けた回転翼43を回し、噴射管41から液化炭酸ガス55が噴射される噴射反力で筒体40を回転させる構造をもつ。微細液滴化装置6aの回転速度は、筒体40の側面に設ける噴射管数、噴射管口径、あるいは液化炭酸ガス55の液圧により異なるが、100〜1000rpm程度である。この回転速度のもとで生成される液滴の径分布は1mm〜0.01mmであり、若干大きめのミリ液滴が含まれる。しかしながら、700〜1500mの深部帯水層に液滴を注入する場合、ミリ液滴が圧力と温度の変化により気泡に変化しても、大きな気体の固まり状態となる挙動には至らず、深部帯水層51内で安全に二酸化炭素を固定化することができる。
【0039】
構成例2の微細液滴化装置6bは、水中モータ31により微細液滴化装置6bが高速回転させる構造をもつ。微細液滴化装置6bの回転速度は、1000〜3000rpm程度であり、高速回転により生成される液滴の径分布は0.05mm〜0.01mmになる。均一で微細な液滴が生成されるので、例えば深部帯水層51の水深が数十mしかない層でも有効である。
【0040】
図1に示すように、微細液滴34は、注入井22底部のスリット35に向かって移動する間に水圧が高くなり液滴内部の圧力も上昇する。深部帯水層51の注入深度付近の高い地熱の影響を受け、温度と圧力が、例えば注入井22内底部のスリット35付近において、温度31.1℃以上および7.382MPa以上になるとする。この場合、微細液滴34は微細な超臨界流体粒へと相変化する。本発明は、このような微細な超臨界流体粒への相変化を含むものである。注入井22の位置や注入深度は、深部帯水層51のサイト条件(地質構造、圧力、温度)を踏まえて、液滴34の相変化も考慮して決めることができる。
【0041】
図2は、揚水井の二重管の断面図である。ジェット吸引部12は、内管7からの加圧水60の流速を早めるため逆漏斗型としている。逆漏斗型の内部は負圧となるので地下水53が吸い込まれる。吸い込まれた地下水53は、内管7と外管8の間を上昇する。
【0042】
図3は、微細液滴化装置の断面図(構成例1)である。微細液滴化装置6aは、筒体40と、筒体40上部の内壁に設けられた回転翼43と、筒体40の側部に、斜め下方に向けて突出する複数の噴射管41を有する。筒体40は例えば角筒にすることができる。角筒の場合、円筒に比較してより強力な旋回流を注入水54に与えるので、液滴の一層の微細化を促すことができる。挿入管27からの液化炭酸ガス55は、三角錐42で筒体40の周囲に流し込まれ、流速により回転翼43が回転し液化炭酸ガス55を旋回させる。さらに、液化炭酸ガス55が噴射管41からケーシング管26の内壁の下方に向かって噴射されるので、噴射反力によって筒体40が回転する。噴射管41を出た液化炭酸ガス55は、液滴となって流速が速められた注入水54に混合され、二液混合流体56となる。なお、微細液滴化装置6aが回転する際に挿入管27の振れ変形を抑えるため、2か所において、振れ止め材47を挿入管27に取り付け、ケーシング管26の内壁に溶接で取り付けた固定金具48の穴に振れ止め材47を差し込み固定する。
【0043】
図4は、微細液滴化装置の断面図(構成例2)である。微細液滴化装置6bは、筒体40と、筒体40の側部に斜め下方に向けて突出する複数の噴射管41を有する。筒体40を角筒とすれば、注入水54に円筒に比較してより強力な旋回流を与え、液滴の一層の微細化を促すことができる。微細液滴化装置6bは、筒体40が直下に設置された水中モータ31により高速回転する。水中モータ31は地上側からの給電により駆動される。噴射管41を出た液化炭酸ガス55は、液滴となって流速が速められた注入水55に混合され、二液混合流体56となる。なお、挿入管27下端に取り付けられた微細液滴化装置6aが回転する際に挿入管27の振れ変形を抑えるために、最下端の挿入管ロッドに1断面に2本の振れ止め材47を取り付け、ケーシング管26の内壁に溶接で取り付けた固定金具48の穴に振れ止め材47のフックを差し込み固定する。
【0044】
二液混合流体56では、気液混合流体のような気泡による閉塞は発生しない。二液混合流体56の注入に用いる脈動化の目的は、送り込んだ地層の隙間空間を脈動させ、静的な注入の場合より広範囲に微細液滴34を送り込めるようにして注入の効率化を図るためである。
【0045】
図5は、低周波脈動発生装置3の構成図である。駆動部16は、例としてモータ57と油圧シリンダ58で構成される。モータ57が回転すると油圧シリンダ58のピストンが動き、グラフG1に示すような一定周期の油圧がかかる。この油圧で脈動発生器17のゴム管59の径を伸縮させる。油圧の大きさは油圧シリンダ58の出口に電磁弁を設けて圧力を逃がすことで制御できる。モータ57の回転を1200rpmとすれば、周期は1秒間に20回(20Hz)となる。グラフG2に示すように、圧入ポンプ12を出た注入水54の圧力は、脈動が加えられて、注入水54はグラフG3に示すような圧力となる。なお、低周波脈動発生装置3の上流側に、高負荷状態で圧力が伝達されないように逆止弁が設けられてもよい。脈動の振幅は、例として、注入水54の水圧をPαとすると、脈動後の水圧Pαdは、振幅の係数を0.5とし、(Pα−0.5Pα)<Pαd<(Pα+0.5Pα)とすることができる。Pαは、10kg/cm〜30kg/cmが望ましい。また、通常の脈動の周波数は0.5〜30Hzとされる。できるかぎり広範囲にまで脈動波の透過力を強くするために、本システムでの脈動の周波数は、脈動波の透過力が強い10Hz以下とした。
【0046】
図6は、注入井での注入水と液化炭酸ガスの圧力関係図である。微細気泡化装置6a、6bの深度L1は、注入井22に送られてきた液化炭酸ガス55が相変化せずに液滴化するために、注入水54の水圧が7MPa以上の深度に設ける。深度L1での注入水54の水圧をP1とする。また、注入井22の底部のスリット35までの深度をL0とする。さらに、深度をL0での水圧をP0とする。二液混合流体56の場合、気液混合流体のように微細気泡の影響による水圧減少分の加圧を考慮する必要がないので、注入水54の注入圧力はPαdである。この圧力から圧入ポンプ12の吐出圧が決められる。次に液化炭酸ガス55は、L1での注入水54の圧力がP1+Pαdとなるので、これより大きな値となるようP1+Pαd+Cとする。Cは約10〜30kg/cmとした。
【0047】
液化炭酸ガス55を高圧状態で圧力変動がある注入水54に微細液滴化装置6a、6bの噴射管41から効率よく液化炭酸ガス55を噴射させるために、液化炭酸ガス55を脈動化させ、噴射管41から噴射する液化炭酸ガス55の流動性を高める効果を狙う。
【0048】
液化炭酸ガス55の脈動化は、コンプレッサ23と注入井22の間に設けた液化炭酸ガス用の低周波脈動発生装置4aにて脈動の周期、大きさを制御する。液化炭酸ガス55の脈動化の圧力をCdとすれば、P1+Pαdmax+Cdであり、7MPa<P1+Pαdmax<P1+Pαdmax+Cdの関係式が成り立つようにする。Pαdmaxは注入水の脈動の最大圧であり、Pαdmax<Pα+0.5Pαになる。液化炭酸ガス55を噴射しやすくするために脈動の周波数を0.5Hz〜30Hzとし、脈動の大きさ(振幅)の上限値を0.5Pαと設定すれば、(Cd−0.5Cd)<Cd<(Cd+0.5Cd)になる。深度L1にもよるが、ここでCdは10〜30kg/cmとする。
【0049】
図7は、液化炭酸ガスの地中送り込み方法の処理手順を示すフローチャートである。S70は、深部帯水層の地下水を揚水井から地上の貯水タンクに汲み上げて注入水をつくる段階である。S71は、注入水に脈動水圧を加える段階である。S72は、脈動水圧が加えられた注入水を注入井から深部帯水層に送り込む段階である。S73は、液化炭酸ガスを貯蔵タンクから液体状態を保てる圧力で注入井に送り込む段階である。S74は、注入井内において、液化炭酸ガスを注入水の中に微細液滴化して混合し二液混合流体を生成する段階である。S75は、注入水の水温を調整する段階である。水温が高い場合水温が調整される。S76は、液化炭酸ガスに脈動を加える段階である。注入状況をセンサで観測し必要な場合は液化炭酸ガスに脈動が加えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明による液化炭酸ガスの地中送り込み方法及びその地中送り込み装置は、液化炭酸ガスを微細液滴化して注入水に混合するので、二酸化炭素の地中貯留に好適である。また、二酸化炭素を圧入して原油を取り出すEOR(原油増進回収法)や天然ガスを取り出すEGR(天然ガス増進回収法)にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】液化炭酸ガスの地中送り込み装置の構成図である。(実施例1)
【図2】揚水井の二重管の断面図である。(実施例1)
【図3】微細液滴化装置の断面図である。(実施例1の構成例1)
【図4】微細液滴化装置の断面図である。(実施例1の構成例2)
【図5】低周波脈動発生装置の構成図である(実施例1)
【図6】圧力井での圧力の関係図である。(実施例1)
【図7】液化炭酸ガスの地中送り込み方法の処理手順を示すフローチャートである。(実施例1)
【符号の説明】
【0052】
1 汲み上げ装置
2 温度調整装置
3 注入水圧入装置
4 注入水用の低周波脈動圧発生装置
4a 液化炭酸ガス用の低周波脈動圧発生装置
5 液化炭酸ガス圧入装置
6a 微細液滴化装置
6b 微細液滴化装置
7 内管
8 外管
9 二重管
10 揚水ポンプ
12 ジェット吸引部
13 貯水タンク
14 圧入ポンプ
15 圧力流量調整弁
16 駆動部
17 脈動発生器
18 燃焼炉
19 分離回収装置
20 タンクローリ
21 揚水井
22 注入井
23 コンプレッサ
24 液化炭酸ガス貯蔵タンク
26 ケーシング管
27 挿入管
30 プラント施設
31 水中モータ
34 微細液滴
35 スリット
40 筒体
41 噴射管
42 三角錐
43 回転翼
47 振れ止め材
48 固定金具
51 深部帯水層
52 地表面
53 地下水
54 注入水
55 液化炭酸ガス
56 二液混合流体
57 モータ
58 油圧シリンダ
59 ゴム管
60 加圧水
100 液化炭酸ガスの地中送り込み装置
S70〜S78 液化炭酸ガスの各処理段階
L0、L1 深度
P0 深度L0での水圧
P1 深度L1での水圧
Pα 注入水の水圧
Pαd 注入水の脈動後の水圧
Pαdmax 注入水の脈動の最大圧
C、Cd 定数(圧力)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
深部帯水層の地下水を揚水井から地上に汲み上げて注入水をつくる段階と、
前記注入水に脈動水圧を加える段階と、
脈動水圧が加えられた前記注入水を注入井から深部帯水層に送り込む段階と、
液化炭酸ガスを貯蔵タンクから液化状態を保って前記注入井の液化状態を保てる深度まで送り込む段階と、
前記注入井内において、前記液化炭酸ガスを注入水の中に微細液滴化して混合し二液混合流体を生成する段階と、を含むことを特徴とする液化炭酸ガスの地中送り込み方法。
【請求項2】
前記注入井に送り込む前記液化炭酸ガスに、低周波の脈動液圧を加える段階がさらに設けられることを特徴とする請求項1に記載の液化炭酸ガスの地中送り込み方法。
【請求項3】
前記注入水の水温を調整する段階が、さらに設けられることを特徴とする請求項1に記載の液化炭酸ガスの地中送り込み方法。
【請求項4】
深部帯水層の地下水を揚水井から地上に汲み上げる汲み上げ装置と、
前記注入水を注入井から前記深部帯水層に送り込む注入水圧入装置と、
前記注入水圧入装置と前記注入井の間に設けられ、前記注入水に脈動水圧を加える注入水用の低周波脈動発生装置と、
液化炭酸ガスを貯蔵タンクから液化状態を保って前記注入井の液化状態を保てる深度まで送り込む液化炭酸ガス圧入装置と、
前記注入井内に設けられ、前記注入井に送り込まれた液化炭酸ガスが微細液滴化され、前記注入水に混合されて二液混合流体を生成する微細液滴化装置と、を含むことを特徴とする液化炭酸ガスの地中送り込み装置。
【請求項5】
前記微細液滴化装置は、前記注入水が送り込まれるケーシング管と、前記ケーシング管に挿入され前記液化炭酸ガスが送り込まれる挿入管と、前記挿入管の下端に取り付けられ、側面に前記液化炭酸ガスを斜め下方に噴射する複数の噴射管を有する回転可能な筒体と、を含むことを特徴とする請求項4に記載の液化炭酸ガスの地中送り込み装置。
【請求項6】
前記筒体の内部に、前記液化炭酸ガスの吐出流で回転する回転翼が設けられることを特徴とする請求項5に記載の液化炭酸ガスの地中注入送り込み装置。
【請求項7】
前記筒体の下部に、前記筒体を回転させる水中モータが設けられることを特徴とする請求項5に記載の液化炭酸ガスの地中送り込み装置。
【請求項8】
前記液化炭酸ガス圧入装置と前記注入井の間に、前記液化炭酸ガスに脈動水圧を加える液化炭酸ガス用の低周波脈動発生装置がさらに設けられることを特徴とする請求項4に記載の液化炭酸ガスの地中送り込み装置。
【請求項9】
前記貯水タンクと前記注入水圧入装置との間に、注入水の水温を調整する温度調整装置が設けられることを特徴とする請求項4に記載の液化炭酸ガスの地中送り込み装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−11964(P2009−11964A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178331(P2007−178331)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(502152403)
【出願人】(592131906)みずほ情報総研株式会社 (187)
【Fターム(参考)】