説明

液封入式防振装置

【課題】第2オリフィス流路と第3オリフィス流路の開閉に必要なロータリバルブの作動回転角を小さくして、特性切り替えに要する時間を短くする。
【解決手段】主液室18Aと第1副液室18Bを低周波数域の第1オリフィス流路38と中周波数域の第2オリフィス流路40で連通させるとともに、第2ダイヤフラム30により主液室18Aから区画形成された第2副液室18Cと第1副液室18Bを高周波数域の第3オリフィス流路42で連通させる。主液室18Aと第1副液室18Bを仕切る仕切り部28にロータリバルブ44を設け、該ロータリバルブの直上に中間室80を設ける。該中間室に第2オリフィス流路40と第3オリフィス流路42を接続して両オリフィス流路を中間室に集合させ、一方向の流れとした上で、ロータリバルブ44の回転により両オリフィス流路40,42の開放状態と閉塞状態とを切り替え制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の振動源の振動を車体側に伝達しないように支承するエンジンマウント等の防振装置として、下記特許文献1には、次のような構成を持つものが開示されている。すなわち、第1取付具と第2取付具をゴム弾性体からなる防振基体で連結するとともに、仕切り部によって、防振基体が室壁の一部をなす主液室と、ダイヤフラムが室壁の一部をなす副液室とに仕切り構成したエンジンマウントにおいて、主液室と副液室の間を、シェイク振動用の第1オリフィス流路と、アイドル振動の低次成分側にチューニングされた第2オリフィス流路と、アイドル振動の高次成分側にチューニングされた第3オリフィス流路とで連通させ、第3オリフィス流路の主液室側の開口部に第2ダイヤフラムを設けて第2副液室を形成している。
【0003】
そして、仕切り部にロータリバルブを設けて、アイドル時の第2オリフィス流路及び第3オリフィス流路の開放状態と、走行時の第2オリフィス流路及び第3オリフィス流路の閉塞状態とを同時に切替制御し、これにより、アイドル振動に対する高度な防振効果を発揮するとともに、シェイク振動に対して有効な防振効果を発揮している。
【特許文献1】特開平9−21441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のエンジンマウントでは、ロータリバルブは第2オリフィス流路と第3オリフィス流路を直接開閉制御するようになっており、第3オリフィス流路は、ロータリバルブに対して仕切り部の軸方向上方から接続され、第2オリフィス流路は、第3オリフィス流路に直交する仕切り部の軸直角方向から接続されている。
【0005】
そのため、第2オリフィス流路と第3オリフィス流路の開放/閉塞に必要なロータリバルブの周方向の角度範囲が大きく、上記の例では、両オリフィス流路を同時に開放/閉塞するためにロータリバルブを180度回転させる必要があり、つまり、特性切り替えに必要となるロータリバルブの作動回転角が大きい。その結果、切り替えに要する時間が長くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、第2オリフィス流路と第3オリフィス流路の開閉に必要なロータリバルブの作動回転角を小さくして、特性切り替えに要する時間を短くすることができる液封入式防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液封入式防振装置は、振動源側と支持側の一方に取り付けられる第1取付具と、振動源側と支持側の他方に取り付けられる筒状の第2取付具と、前記第1取付具と第2取付具との間に介設されたゴム状弾性体からなる防振基体と、前記第2取付具に取り付けられて前記防振基体との間に液体が封入された液室を形成するゴム状弾性膜からなる第1ダイヤフラムと、前記第2取付具の周壁部の内側に設けられて、前記液室を、前記防振基体が室壁の一部をなす主液室と、前記第1ダイヤフラムが室壁の一部をなす第1副液室とに仕切る仕切り部と、前記仕切り部の主液室側部分に設けられてゴム状弾性膜からなる第2ダイヤフラムにより前記主液室から区画形成された第2副液室と、前記主液室と前記第1副液室を連通させる第1オリフィス流路と、前記第1オリフィス流路よりも高周波数域にチューニングされて前記主液室と前記第1副液室を連通させる第2オリフィス流路と、前記第2オリフィス流路よりも高周波数域にチューニングされて前記第1副液室と前記第2副液室を連通させる第3オリフィス流路と、前記第2オリフィス流路と前記第3オリフィス流路の開放状態と閉塞状態を切り替えるロータリバルブと、を備える。前記仕切り部には軸方向に延びて前記第1副液室側に開口する内腔部が設けられ、前記ロータリバルブが回転軸を前記仕切り部の軸直角方向に向けて前記内腔部に設けられ、前記内腔部の前記ロータリバルブよりも主液室側を中間室として、該中間室に前記第2オリフィス流路及び前記第3オリフィス流路の第1副液室側端部が接続され、前記ロータリバルブの回転により前記第1副液室に対する前記中間室の開放状態と閉塞状態とが切り替わるよう構成されている。
【0008】
このように第2オリフィス流路と第3オリフィス流路を中間室に集めて一方向の流れにした上で、ロータリバルブの回転により制御するようにしたので、ロータリバルブの切り替え作動回転角を90度に設定することができる。これにより、切り替え作動時間を短くすることができる。
【0009】
上記防振装置においては、前記中間室の断面積、即ち仕切り部の軸方向に垂直な断面での断面積が、第2オリフィス流路の断面積と第3オリフィス流路の断面積の和よりも大きく設定されていることが好ましい。これにより、中間室は絞り流路としては機能しなくなり、第2オリフィス流路と第3オリフィス流路の絞り流路としての流れが中間室に入るまでとなる。そのため、オリフィス流路の曲がり部を最小限に留めることが可能となるので、圧力損失を最小限に留めて、高い減衰性能を発揮することができる。これに対し、このような中間室がない場合、第2オリフィス流路と第3オリフィス流路をロータリバルブの直近にて軸方向に向かう一方向の流れとしても、オリフィス流路の流れに曲がり部が多くなる形状となり、曲がり部による圧力損失により減衰性能が低下するおそれがある。
【0010】
上記防振装置においては、前記中間室に、当該中間室内を前記第2オリフィス流路が接続された側の区画と前記第3オリフィス流路が接続された側の区画とに仕切る遮断壁が設けられてもよい。かかる遮断壁を設けると、第2オリフィス流路と第3オリフィス流路の連成が防止されるので、ロータリバルブが閉塞した状態において、第2オリフィス流路と第3オリフィス流路の連成による第1オリフィス流路の流動量の低下を防いで、減衰性能の低下を回避することができる。
【0011】
上記防振装置において、前記中間室から分岐して前記第1副液室に接続される微細流路が設けられ、前記ロータリバルブは、前記第2オリフィス流路が開放状態、前記第3オリフィス流路が開放状態、かつ前記微細流路が閉塞状態である第1の状態と、前記第2オリフィス流路が閉塞状態、前記第3オリフィス流路が閉塞状態、かつ前記微細流路が開放状態である第2の状態とに切替制御されると、次の作用効果が奏される。
【0012】
すなわち、上記第1の状態では、第2オリフィス流路と第3オリフィス流路が開放状態であるため、両オリフィス流路により優れた防振効果を発揮することができる。その際、微細流路は閉塞状態であるため、第2及び第3オリフィス流路本来の防振効果を発揮することができる。一方、上記第2の状態では、第2オリフィス流路と第3オリフィス流路が閉塞状態であるため、より低周波数域にチューニングされた第1オリフィス流路による減衰性能が発揮される。その際、第1副液室と第2副液室の間が微細流路を介して連通されているので、大振幅振動が入力して主液室内が負圧状態となったときに、該微細流路を通って第1副液室から第2副液室への液体の補充がなされる。そのため、第2ダイヤフラムが主液室側に撓み変形可能となり、これにより、主液室の負圧状態が緩和されて、キャビテーションを抑制することができる。
【0013】
この場合、前記ロータリバルブの軸方向一端部が前記内腔部に向けて開かれた嵌合凹部内に回動自在に嵌合保持され、前記ロータリバルブは、当該ロータリバルブの第1の軸直角方向に貫通して前記中間室を前記第1副液室に対して開放させる接続流路を備えるとともに、前記嵌合凹部内に保持された前記軸方向一端部において前記第1の軸直角方向に垂直な第2の軸直角方向に延びかつ前記嵌合凹部の内面との間で前記微細流路を形成する凹溝を備え、前記ロータリバルブの回転により前記第2オリフィス流路及び前記第3オリフィス流路と前記微細流路との開放状態と閉塞状態を交互に切り替え可能に構成されてもよい。このように、ロータリバルブに凹溝を設けるだけで微細流路を形成するので、仕切り部の加工が複雑にならず、低コスト化が図られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第2オリフィス流路と第3オリフィス流路の開閉に必要なロータリバルブの作動回転角を小さくして、特性切り替えに要する時間を短くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、第1の実施形態に係る液封入式防振装置10の縦断面図であり、図2は、同防振装置10の概略構造を示すモデル的に示す説明図である。この防振装置10は、自動車のエンジンを支承するエンジンマウントであり、振動源であるエンジン側に取り付けられる上側の第1取付具12と、支持側の車体に取り付けられる筒状をなす下側の第2取付具14と、これら両取付具12,14の間に介設されて両者を連結するゴム弾性体からなる防振基体16と、この防振基体16に対向して第2取付具14に取り付けられて防振基体16との間に液体の封入された液室18を形成する可撓性ゴム膜からなる第1ダイヤフラム20とを備えてなる。
【0017】
第1取付具12は、第2取付具14の軸芯部上方に配されたボス金具である。第2取付具14は、内側に上記液室18を形成する周壁部である筒状胴部22と、その下端部22Aにかしめ締結された有底筒状部24とからなる本体金具である。防振基体16は、略傘状に形成され、その上部に第1取付具12が埋設された状態に加硫接着され、下端外周部が筒状胴部22の上端開口部22Bに加硫接着されている。防振基体16の下端部には、筒状胴部22の内周面を覆うゴム層26が連なっている。第1ダイヤフラム20は、その外周部に環状の補強金具20Aが埋設一体化され、この補強金具20Aが筒状胴部22と有底筒状部24とのかしめ締結部に固定されている。
【0018】
液室18は、筒状胴部22の内側において、防振基体16の下面と第1ダイヤフラム20との間に形成されている。そして、筒状胴部22の内側に嵌着された仕切り部28によって、液室18は、防振基体16側、即ち防振基体16が室壁の一部をなす上側の主液室18Aと、第1ダイヤフラム20側、即ち第1ダイヤフラム20が室壁の一部をなす下側の第1副液室18Bとに仕切られている。また、仕切り部28の主液室18A側部分、即ち上部に、可撓性ゴム膜からなる第2ダイヤフラム30により主液室18Aから区画された第2副液室18Cが設けられている。
【0019】
仕切り部28は、厚肉円板状の仕切り部本体32と、中央部に第2ダイヤフラム30を備えて仕切り部本体32の上面を覆蓋する蓋板部34と、仕切り部本体32の下面を受ける受け板部36とからなる。そして、仕切り部28は、受け板部36を上記補強金具20Aとともに、筒状胴部22と有底筒状部24とのかしめ締結部に固定することにより、ゴム層26に設けられた段部26Aと受け板部36との間で軸方向(即ち、上下方向)Xに挟まれた状態に保持されている。ここで、仕切り板部本体32は、上下2分割式に構成されており、上側の薄肉の第1部材32Aと下側の厚肉の第2部材32Bとなる。また、蓋板部34は、リング状金属板の中央開口部を塞ぐように、当該開口縁に第2ダイヤフラム30を加硫接着することで形成されている。
【0020】
仕切り部28には、主液室18Aと第1副液室18Bを連通させる第1オリフィス流路38と、主液室18Aと第1副液室18Bを連通させる第2オリフィス流路40と、第1副液室18Bと第2副液室18Cを連通させる第3オリフィス流路42とが設けられるとともに、第2オリフィス流路40と第3オリフィス流路42の開放状態と閉塞状態を切り替えるロータリバルブ44が設けられている。
【0021】
第1オリフィス流路38は、車両走行時のシェイク振動を減衰するために、シェイク振動に対応した低周波数域(例えば、5〜15Hz程度)にチューニングされている。すなわち、第1オリフィス流路38を通じて流動する液体の共振作用に基づく減衰効果がシェイク振動の入力時に有効に発揮されるように、流路の断面積及び長さを調整することによってチューニングされている。
【0022】
第2オリフィス流路40は、第1オリフィス流路38よりも高周波数域でありかつ第3オリフィス流路42よりも低周波数域である中周波数域にチューニングされたオリフィス流路である。ここでは、アイドル時(車両停止時)のアイドル振動のうち、エンジンの回転成分そのもののような低周波数域の振動を低減するために、当該低周波数域のアイドル振動(例えば、10〜15Hz程度)にチューニングされている。すなわち、第2オリフィス流路40を通じて流動する液体の共振作用に基づく減衰効果が上記低周波数域のアイドル振動の入力時に有効に発揮されるように、流路の断面積及び長さを調整することによってチューニングされている。
【0023】
第3オリフィス流路42は、第2オリフィス流路40よりも高周波数域にチューニングされたオリフィス流路である。ここでは、アイドル振動のうち、エンジンの爆発1次成分のような高周波数域の振動を低減するために、当該高周波数域のアイドル振動(例えば、30〜50Hz程度)にチューニングされている。すなわち、第3オリフィス流路42を通じて流動する液体の共振作用に基づく低動ばね効果が上記高周波数域のアイドル振動の入力時に有効に発揮されるように、流路の断面積及び長さを調整することによってチューニングされている。
【0024】
詳細には、図3,5に示すように、仕切り部本体32の上面の外周部には周方向Cに延びる平面視円弧状の第1の溝46が設けられ、この第1の溝46の一端部は、仕切り部本体32を貫通して軸方向Xに延びる貫通孔48により第1副液室18Bに開口している。また、仕切り部本体32の上面における第1の溝46よりも内周側には周方向Cに延びる平面視円弧状の第2の溝50が設けられ、この第2の溝50の一端部には第1部材32Aを貫通する貫通孔52が設けられている。更に、仕切り部本体32の上面の中央部には、円形の凹所54が設けられ、この凹所54には上記第1部材32Aを貫通する貫通孔56が設けられている。
【0025】
図4に示すように、仕切り部本体32の上面に重ね合わされる蓋板部34には、第1の溝46の他端部に対応する位置に通孔58が設けられ、また、第2の溝50の他端部に対応する位置に通孔60が設けられている。
【0026】
仕切り部本体32における第1部材32Aの下面に重ね合わさせる第2部材32Bには、軸方向Xに貫通する内腔部62が形成されており、これにより、仕切り部28は、軸方向Xに延びて第1副液室18B側に開口する内腔部62を備える。内腔部62は、上記凹所54と軸方向Xで重なるように仕切り部28の中央部に設けられている。第2部材32Bには、また、上記第2の溝50から延びる貫通孔52の下端と内腔部62とを接続する軸直角方向Yに延びる第1の接続溝64が設けられるとともに、上記凹所54から延びる貫通孔56の下端と内腔部62とを接続する軸直角方向Yに延びる第2の接続溝66が設けられている。貫通孔52と貫通孔56は、仕切り部28の中心に位置する内腔部62を挟んで軸直角方向Yに対向する位置に設けられており、従って、第1の接続溝64と第2の接続溝66は、図3に示すように直線状に形成されている。
【0027】
第2部材32Bには、また、図5に示すように、軸直角方向Yに延びる断面円形のバルブ装着孔68が、内腔部62を横断するように設けられており、このバルブ装着孔68にロータリバルブ44が回動自在に装着されている。すなわち、ロータリバルブ44は、回転軸を仕切り部28の軸直角方向Yに向けて内腔部62に配されており、ロータリバルブ44の軸方向両端部44A,44Bが、内腔部62に向けて開かれた各嵌合凹部70,70内に回動自在に嵌合保持されている。
【0028】
詳細には、バルブ装着孔68は、軸直角方向Yの一方側に開口するロータリバルブ44を挿入するための挿入室68Aと、ロータリバルブ44が嵌合保持される保持室68Bと、ロータリバルブ44を回転駆動させるためのアクチュエータ72の駆動軸74が挿入される駆動室68Cとからなる。挿入室68Aから挿入されたロータリバルブ44は、円板状の係止部材76を圧入することにより抜脱不能に保持室68Bに保持され、係止部材76により形成される嵌合凹部70内に軸方向一端部44Aが保持されている。一方、軸方向他端部44Bには、ロータリバルブ44の軸方向Sに突出する被駆動軸44Cが突設され、該被駆動軸44Cが、保持室68Bと駆動室68Cを連通するシール室68Dに挿通されてOリング78によりシールされるとともに、駆動室68C側に突出して駆動軸74と連結されている。
【0029】
上記内腔部62におけるロータリバルブ44よりも主液室18A側の部分を中間室80としたとき、ロータリバルブ44には、当該ロータリバルブ44の第1の軸直角方向T1(図6(b)参照)に貫通して中間室80を第1副液室18Bに対して開放させる接続流路82が形成されている。そして、ロータリバルブ44の回転により、第1副液室18Bに対する中間室80の開放状態(図7(a)の状態)と閉塞状態(図7(b)の状態)とが切り替わるよう構成されている。
【0030】
以上のように構成された仕切り部28においては、蓋板部34を仕切り部本体32の上面に被せることで、上記通孔58と第1の溝46と貫通孔48とにより、常時開放の第1オリフィス流路38が形成されている。また、上記通孔60と第2の溝50と貫通孔52と第1の接続溝64とにより、第2オリフィス流路40が形成されている。更に、上記凹所54が蓋板部34の第2ダイヤフラム30に覆蓋されることで、第2副液室18Cが形成されるとともに、上記貫通孔56と第2の接続溝66とにより、第3オリフィス流路42が形成されている。このように、第2オリフィス流路40は、主液室18Aと中間室80の間で形成され、第3オリフィス流路42は、第2副液室18Cと中間室80の間で形成されており、両オリフィス流路40,42は、それぞれの第1副液室側端部40E,42Eが中間室80に接続されて、中間室80及び内腔部62を介して第1副液室18Bに連通されている。
【0031】
ここにおいて、仕切り部28の軸方向Xに垂直な断面での中間室80の断面積(A1)が、第2オリフィス流路40の断面積(A2)と第3オリフィス流路42の断面積(A3)の和よりも大きく設定されており(A1>A2+A3)、中間室80を絞り流路として効かせないようにしている。中間室80の断面積(A1)とは、図3に示される中間室80の平面視での面積である。第2オリフィス流路40及び第3オリフィス流路42の断面積(A2)(A3)とは、各オリフィス流路の流れ方向に垂直な断面での面積である。
【0032】
また、上記第3オリフィス流路42は、第2副液室18Cと中間室80間の主流路42Aと、該主流路42Aから分岐して設けられて第1副液室18Bに接続される副流路42Bとで構成されている。主流路42Aと副流路42Bは、ロータリバルブ44によって交互に開放状態と閉塞状態が切り替えられるように構成されている。
【0033】
主流路42Aは、上記した高周波数域のアイドル振動を低減するためにチューニングされた本来の流路である。一方、副流路42Bは、第3オリフィス流路42の圧力損失を調整するための圧力損失調整流路として機能するものであり、主流路42Aよりも断面積が十分に小さく設定されている。すなわち、副流路42Bを閉じて主流路42Aを開いている状態では、第3オリフィス流路42の圧力損失は小さく、そのため、第3オリフィス流路42を液体が流れやすいので、第3オリフィス流路42本来の防振効果が発揮される。逆に、副流路42Bを開いて主流路42Aを閉じた状態では、第3オリフィス流路42の圧力損失が大きく、そのため、第3オリフィス流路42を液体が流れにくくなっている。
【0034】
このように、副流路42Bを通しての第3オリフィス流路42の流動抵抗は、主流路42Aを通しての第3オリフィス流路42の流動抵抗よりも著しく大きく設定されている。また、副流路42Bは、第1オリフィス流路38及び第2オリフィス流路40よりも断面積が十分に小さく設定されており、副流路42Bを通しての第3オリフィス流路42の流動抵抗が、第1オリフィス流路38や第2オリフィス流路40の流動抵抗よりも大きく設定されている。
【0035】
副流路42Bは、仕切り部本体32の上記第2の接続溝66から軸方向Xに貫通して設けられている。そして、図1,5に示すように、嵌合凹部70内に保持されたロータリバルブ44の軸方向一端部44Aには、副流路42を連通させる連通孔86が設けられている。連通孔86は、図6に示すように、接続流路82の貫通方向である第1の軸直角方向T1に対して垂直な第2の軸直角方向T2に貫通するように設けられている。
【0036】
これにより、第2オリフィス流路40及び第3オリフィス流路42は、ロータリバルブ44の回転によって、
(1)第2オリフィス流路40が開放状態であり、第3オリフィス流路42の主流路42Aが開放状態かつ副流路42Bが閉塞状態である第1の状態(図1及び図7(a)の状態)と、
(2)第2オリフィス流路40が閉塞状態であり、第3オリフィス流路42の主流路42Aが閉塞状態かつ副流路42Bが開放状態である第2の状態(図5及び図7(b)の状態)と、
に切替制御される。なお、第1オリフィス流路38は常時開放状態である。
【0037】
以上よりなる本実施形態の防振装置10であると、停車したアイドル時には、ロータリバルブ44を回転させて上記第1の状態とする。このとき、第2オリフィス流路40と第3オリフィス流路42の主流路42Aが開放状態であるため、両オリフィス流路40,42を通じての液体の共振作用により、アイドル振動に対する優れた防振効果を発揮することができる。その際、第3オリフィス流路42の副流路42Bは閉塞状態であるため、主流路42Aでの流量低下を防止して、第3オリフィス流路42本来の防振効果を発揮することができる。また、第2オリフィス流路40と第3オリフィス流路42の主流路42Aを比較した場合、前者の方が低周波数側にチューニングされているため、一般的には流動抵抗が高く液体流動量が十分に確保されないおそれがあるが、上記のように第3オリフィス流路42を第2ダイヤフラム30を介して主液室18Aと区画形成された第2副液室18Cに接続しているので、双方のオリフィス流路40,42の機能を効果的に発揮させることができる。なお、この場合、第1オリフィス流路38も開放状態であるが、第1オリフィス流路38は更に低周波数側にチューニングされているため、液体の流動抵抗が大きく実質的に目詰まりした状態となる。
【0038】
一方、車両走行時には、ロータリバルブ44を回転させて上記第2の状態とする。これにより、第2オリフィス流路40と第3オリフィス流路42の主流路42Aが閉塞されるため、第1オリフィス流路38を流動する液体の共振作用に基づき、シェイク振動(通常は振幅0.5mm程度)に対して減衰性能が発揮される。なお、このとき、第3オリフィス流路42の副流路42Bも開放状態であるが、副流路42Bを通しての第3オリフィス流路42の液体の流動は、圧力損失が大きいことから起こりにくく、従って、走行時の減衰性能の低下を抑えることができる。
【0039】
また、かかる車両走行時において、大振幅振動(通常は振幅2mm程度)が入力して主液室18A内が負圧状態となったときには、第1副液室18Bと第2副液室18Cの間が第3オリフィス流路42の副流路42Bを介して連通されているので、該副流路42Bを通って第1副液室18Bから第2副液室18Cへの液体の補充がなされる。すなわち、副流路42Bは流れにくいものであるが、開放状態にあるため、主液室18Aの過大な負圧状態下では、液体の流動が生ずる。そのため、第2ダイヤフラム30が主液室18A側に撓み変形可能となり、これにより、主液室18Aの負圧状態が緩和されて、キャビテーションを抑制することができる。よって、走行時の減衰性能を確保しながら、キャビテーション対策を行うことができる。
【0040】
また、本実施形態であると、第2オリフィス流路40と第3オリフィス流路42をロータリバルブ44の直上に配置した中間室80に集合させ、一方向の流れにした上で、ロータリバルブ44の回転により両オリフィス流路40,42の開閉制御をするようにしたので、ロータリバルブ44の切り替え作動角が90度となり、そのため、切り替え作動時間を短くすることができる。
【0041】
更に、中間室80の断面積を大きくしたことで、第2オリフィス流路40としての共振作用を発揮する部分は、主液室18Aから中間室80に入るまでとされており、また、第3オリフィス流路42としての共振作用を発揮する部分は、第2副液室18Cから中間室80に入るまでとされている。このように第2オリフィス流路40と第3オリフィス流路42の絞り流路としての流れを中間室80に入るまでとしたことにより、オリフィス流路の曲がり部を最小限に留めることができ、圧力損失を最小限に留めて、高い減衰性能を発揮することができる。すなわち、かかる中間室80がない場合、水平方向に延びる両オリフィス流路40,42Aを流れを、上下方向の流れに変換する曲がり部が必要とするが、該曲がり部が不要となる。そのため、曲がり部における圧力損失を最小限に留め、高い防振性能を発揮することができる。
【0042】
図8は、第2の実施形態における仕切り部28の構成を示したものであり、図9は、同実施形態のロータリバルブ44の構成を示したものである。同実施形態は、第3オリフィス流路42の副流路42Bに代えて、中間室80から分岐して第1副液室18Bに接続される微細流路90を設けた点で、上記第1の実施形態とは異なる。
【0043】
この例では、ロータリバルブ44は、その第1の軸直角方向T1に貫通して中間室80を第1副液室18Bに対して開放させる接続流路82を備えるとともに、微細流路90を形成するための凹溝88をロータリバルブ44の外面に備える。凹溝88は、嵌合凹部70内に保持されたロータリバルブ44の軸方向一端部44Aにおいて、上記第1の軸直角方向T1に垂直な第2の軸直角方向T2に延び、かつ嵌合凹部70の内面との間で微細流路90を形成するものである。この微細流路90は、第1の実施形態の副流路42Bと同様に、第1〜3の各オリフィス流路38,40,42のいずれに対しても、断面積が十分に小さく設定されており、流動抵抗が大きく設定されている。
【0044】
より詳細には、凹溝88は、上記バルブ端部44Aにおいて、係止部材76に当接配置される軸方向端面44A1を上記第2の軸直角方向T2に沿って横断する溝部分88Aと、該溝部分88Aの両端部からバルブ44の外周面上を内腔部62に達するまで軸方向Sに延びる一対の溝部分88B,88Bとで構成されている。
【0045】
これにより、図8に示すように、ロータリバルブ44の回転により、第2オリフィス流路40と第3オリフィス流路42を閉塞した状態で、凹溝88の一端部が中間室80に接続されるとともに、凹溝88の他端部が第1副液室18B側の内腔部62に接続されて、中間室80から分岐した微細流路90が現れる。また、ロータリバルブ44の回転により、第2オリフィス流路40と第3オリフィス流路42を開放することで、該微細流路90が閉塞される。
【0046】
従って、ロータリバルブ44の回転により、第2オリフィス流路40及び第3オリフィス流路42と、微細流路90と、の開放状態と閉塞状態を交互に切り替えられる。すなわち、ロータリバルブ44は、
(1)第2オリフィス流路40が開放状態、第3オリフィス流路42が開放状態、かつ微細流路90が閉塞状態である第1の状態と、
(2)第2オリフィス流路40が閉塞状態、第3オリフィス流路42が閉塞状態、かつ微細流路90が開放状態である第2の状態(図8の状態)と、
に切替制御される。
【0047】
そのため、第1の実施形態と同様に、停車したアイドル時には、ロータリバルブ44を回転させて上記第1の状態とする。これにより、開放状態である第2オリフィス流路40と第3オリフィス流路42を通じての液体の共振作用により、アイドル振動に対する優れた防振効果を発揮することができる。その際、微細流路90は閉塞状態であるため、第2及び第3オリフィス流路40,42での流量低下を防止することができる。
【0048】
一方、車両走行時には、ロータリバルブ44を回転させて上記第2の状態とする。これにより、第2オリフィス流路40と第3オリフィス流路42が閉塞されるため、第1オリフィス流路38を流動する液体の共振作用に基づき、シェイク振動(通常は振幅0.5mm程度)に対して減衰性能が発揮される。なお、このとき、微細流路90も開放状態であるが、微細流路90での液体の流動は、圧力損失が大きいことから起こりにくく、従って、走行時の減衰性能の低下を抑えることができる。また、かかる車両走行時において、大振幅振動(通常は振幅2mm程度)が入力して主液室18A内が負圧状態となったときには、第1副液室18Bと第2副液室18Cの間が微細流路90を介して連通されているので、該微細流路90を通って第1副液室18Bから第2副液室18Cへの液体の補充がなされる。そのため、第1の実施形態と同様、第2ダイヤフラム30が主液室18A側に撓み変形可能となり、これにより、主液室18Aの負圧状態が緩和されて、キャビテーションを抑制することができる。
【0049】
また、第2の実施形態では、ロータリバルブ44に凹溝88を設けるだけで微細流路90を形成するので、仕切り部28の加工が複雑にならず、低コスト化が図られる。なお、第2の実施形態のその他の構成は第1の実施形態と同様であるため、説明は省略する。
【0050】
図10〜12は、第3の実施形態を示したものである。同実施形態は、中間室80の構成が上記第1の実施形態とは異なる。すなわち、この例では、中間室80には、その内部を、第2オリフィス流路40が接続された側の区画80Aと、第3オリフィス流路42が接続された側の区画80Bとに仕切る遮断壁84が軸方向Xに沿って設けられている。
【0051】
かかる遮断壁84を設けたことにより、車両走行時の上記第2の状態における第2オリフィス流路40と第3オリフィス流路42の連成による第1オリフィス流路38の流動量の低下を防ぐことができる。すなわち、第2の状態のときに、主液室18Aから第2副液室18Cへの液体の流動を防止することができる。そのため、第1オリフィス流路38による減衰性能の低下を回避することができる。その他の構成は上記第1の実施形態と同様であり、同様の作用効果が奏される。
【0052】
なお、上記実施形態では、シェイク振動とアイドル振動を対象としたが、これに限らず、周波数の異なる種々の振動に対して適用することができる。また、エンジンマウント以外にも、ボディマウント、デフマウントなど、種々の防振装置に適用可能である。その他、一々列挙しないが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第1の実施形態に係る液封入式防振装置の縦断面図
【図2】同防振装置の概略構造を示すモデル的に示す説明図
【図3】同防振装置の仕切り部を構成する仕切り部本体の平面図
【図4】同仕切り部の平面図
【図5】同仕切り部の縦断面図
【図6】同実施形態のロータリバルブを示す(a)平面図と(b)側面図
【図7】同仕切り部の要部拡大断面図であり(a)は中間室の開放状態、(b)は中間室の閉塞状態
【図8】第2の実施形態に係る液封入式防振装置の仕切り部の縦断面図
【図9】同実施形態のロータリバルブを示す(a)平面図と(b)側面図
【図10】第3の実施形態に係る液封入式防振装置の縦断面図
【図11】同防振装置の仕切り部を構成する仕切り部本体の平面図
【図12】同仕切り部の平面図
【符号の説明】
【0054】
10…液封入式防振装置
12…第1取付具
14…第2取付具
16…防振基体
18…液室、18A…主液室、18B…第1副液室、18C…第2副液室
20…第1ダイヤフラム
28…仕切り部
30…第2ダイヤフラム
38…第1オリフィス流路
40…第2オリフィス流路
42…第3オリフィス流路
44…ロータリバルブ、44A…軸方向一端部
62…内腔部
70…嵌合凹部
80…中間室、80A…第2オリフィス流路が接続された側の区画、80B…第3オリフィス流路が接続された側の区画
82…接続流路
84…遮断壁
88…凹溝
90…微細流路
X…仕切り部の軸方向
Y…仕切り部の軸直角方向
T1…ロータリバルブの第1の軸直角方向
T2…ロータリバルブの第2の軸直角方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動源側と支持側の一方に取り付けられる第1取付具と、
振動源側と支持側の他方に取り付けられる筒状の第2取付具と、
前記第1取付具と第2取付具との間に介設されたゴム状弾性体からなる防振基体と、
前記第2取付具に取り付けられて前記防振基体との間に液体が封入された液室を形成するゴム状弾性膜からなる第1ダイヤフラムと、
前記第2取付具の周壁部の内側に設けられて、前記液室を、前記防振基体が室壁の一部をなす主液室と、前記第1ダイヤフラムが室壁の一部をなす第1副液室とに仕切る仕切り部と、
前記仕切り部の主液室側部分に設けられてゴム状弾性膜からなる第2ダイヤフラムにより前記主液室から区画形成された第2副液室と、
前記主液室と前記第1副液室を連通させる第1オリフィス流路と、
前記第1オリフィス流路よりも高周波数域にチューニングされて前記主液室と前記第1副液室を連通させる第2オリフィス流路と、
前記第2オリフィス流路よりも高周波数域にチューニングされて前記第1副液室と前記第2副液室を連通させる第3オリフィス流路と、
前記第2オリフィス流路と前記第3オリフィス流路の開放状態と閉塞状態を切り替えるロータリバルブと、
を備え、
前記仕切り部には軸方向に延びて前記第1副液室側に開口する内腔部が設けられ、前記ロータリバルブが回転軸を前記仕切り部の軸直角方向に向けて前記内腔部に設けられ、前記内腔部の前記ロータリバルブよりも主液室側を中間室として、該中間室に前記第2オリフィス流路及び前記第3オリフィス流路の第1副液室側端部が接続され、前記ロータリバルブの回転により前記第1副液室に対する前記中間室の開放状態と閉塞状態とが切り替わるよう構成された、
液封入式防振装置。
【請求項2】
前記中間室の前記仕切り部の軸方向に垂直な断面での断面積が、前記第2オリフィス流路の断面積と前記第3オリフィス流路の断面積の和よりも大きく設定された、請求項1記載の液封入式防振装置。
【請求項3】
前記中間室に、当該中間室内を前記第2オリフィス流路が接続された側の区画と前記第3オリフィス流路が接続された側の区画とに仕切る遮断壁が設けられた、請求項1記載の液封入式防振装置。
【請求項4】
前記中間室から分岐して前記第1副液室に接続される微細流路が設けられ、
前記ロータリバルブは、前記第2オリフィス流路が開放状態、前記第3オリフィス流路が開放状態、かつ前記微細流路が閉塞状態である第1の状態と、前記第2オリフィス流路が閉塞状態、前記第3オリフィス流路が閉塞状態、かつ前記微細流路が開放状態である第2の状態とに切替制御される、
請求項1記載の液封入式防振装置。
【請求項5】
前記ロータリバルブの軸方向一端部が前記内腔部に向けて開かれた嵌合凹部内に回動自在に嵌合保持され、前記ロータリバルブは、当該ロータリバルブの第1の軸直角方向に貫通して前記中間室を前記第1副液室に対して開放させる接続流路を備えるとともに、前記嵌合凹部内に保持された前記軸方向一端部において前記第1の軸直角方向に垂直な第2の軸直角方向に延びかつ前記嵌合凹部の内面との間で前記微細流路を形成する凹溝を備え、前記ロータリバルブの回転により前記第2オリフィス流路及び前記第3オリフィス流路と前記微細流路との開放状態と閉塞状態を交互に切り替え可能に構成された、請求項4記載の液封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−133347(P2009−133347A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307979(P2007−307979)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】