説明

液晶ポリエステル液状組成物の熱処理方法

【課題】液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物の粘度を、液晶ポリエステルの分解を抑制しつつ、低減できる方法を提供する。
【解決手段】液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物を、下記式(1)〜(3)を満たす条件で熱処理する。
(1)A≦5
(2)50≦B
(3)A+0.065B≦10
(Aは、前記液状組成物の水分(質量%)を表す。Bは、熱処理温度(℃)を表す。)
溶媒としては、非プロトン性化合物を50質量%以上含む溶媒が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物を熱処理する方法に関する。
【0002】
液晶ポリエステルは、耐熱性や強度が高く、吸湿性や誘電損失が低いことから、プリント配線板の絶縁層の材料として検討されている。また、この絶縁層に用いられる液晶ポリエステルフィルムや液晶ポリエステル含浸繊維シートを製造する方法として、液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物を用いる方法が検討されている。例えば、特許文献1や特許文献2には、前記液状組成物を支持基板上に流延した後、溶媒を除去することにより、液晶ポリエステルフィルムを製造する方法が開示されている。また、特許文献3や特許文献4には、前記液状組成物を繊維シートに含浸した後、溶媒を除去することにより、液晶ポリエステル含浸繊維シートを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−315678号公報
【特許文献2】特開2005−342980号公報
【特許文献3】特開2006− 1959号公報
【特許文献4】特開2007−146139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜4に開示の如き液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物は、常温で保存すると、粘度が上昇し易く、保存が長期になるとゲル化することもある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者は、前記液状組成物の粘度を低減する方法について検討した結果、前記液状組成物を所定の条件で熱処理することにより、液晶ポリエステルの分解を抑制しつつ、前記液状組成物の粘度を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物を、下記式(1)〜(3)を満たす条件で熱処理する液状組成物の熱処理方法を提供する。
【0006】
(1)A≦5
(2)50≦B
(3)A+0.065B≦10
【0007】
(Aは、前記液状組成物の水分(質量%)を表す。Bは、熱処理温度(℃)を表す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物の粘度を、液晶ポリエステルの分解を抑制しつつ、低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0010】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0011】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0012】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0013】
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
【0014】
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0015】
(4)−Ar4−Z−Ar5
【0016】
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0017】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0018】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0019】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar1がp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びAr1が2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0020】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar2がp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2がm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2が2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)、及びAr2がジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0021】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar3がp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びAr3が4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0022】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、通常30モル%以上、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは30〜60モル%、さらに好ましくは30〜40モル%である。繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは20〜35モル%、さらに好ましくは30〜35モル%である。繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは20〜35モル%、さらに好ましくは30〜35モル%である。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0023】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0024】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0025】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位を有することが、溶媒に対する溶解性が優れるので、好ましく、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるもののみを有することが、より好ましい。
【0026】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0027】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、通常250℃以上、好ましくは250℃〜350℃、より好ましくは260℃〜330℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、液状組成物の粘度が高くなり易かったりする。
【0028】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0029】
本発明の液状組成物は、液晶ポリエステルと溶媒と無機充填材とを含むものであり、溶媒としては、用いる液晶ポリエステルが溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([液晶ポリエステル]/[液晶ポリエステル+溶媒])で溶解可能なものが、適宜選択して用いられる。
【0030】
溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p−クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド、テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;及びヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン化合物が挙げられ、それらの2種以上を用いてもよい。
【0031】
溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%である。また、前記非プロトン性化合物としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミドを用いることが好ましい。
【0032】
また、溶媒としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める双極子モーメントが3〜5である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%であり、前記非プロトン性化合物として、双極子モーメントが3〜5である化合物を用いることが好ましい。
【0033】
また、溶媒としては、除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を主成分とするとする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める1気圧における沸点が220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%であり、前記非プロトン性化合物として、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を用いることが好ましい。
【0034】
液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量は、液晶ポリエステル及び溶媒の合計量に対して、通常5〜60質量%、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜45質量%であり、所望の粘度の液状組成物が得られるように、適宜調整される。
【0035】
液状組成物は、充填材、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂等の他の成分を1種以上含んでもよい。
【0036】
充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の無機充填材;及び硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリル樹脂等の有機充填材が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常0〜100質量部である。
【0037】
添加剤の例としては、レべリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、染料及び顔料が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常0〜5質量部である。
【0038】
液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常0〜20質量部である。
【0039】
液状組成物は、液晶ポリエステル、溶媒及び必要に応じて用いられる他の成分を、一括で又は適当な順序で混合することにより調製することができるが、充填材を用いる場合は、液晶ポリエステルを溶媒に溶解させて、液晶ポリエステル溶液を得、この液晶ポリエステル溶液に充填材を分散させることにより調製することが好ましい。
【0040】
こうして得られる液状組成物は、常温で保存すると、粘度が上昇し易く、保存が長期になるとゲル化することもある。そこで、本発明では、液状組成物の粘度を低減すべく、液状組成物の熱処理を行い、その際、熱処理条件が下記式(1)〜3を満たすようにする。これにより、液晶ポリエステルの分解を抑制しつつ、液状組成物の粘度を低減できる。なお、液状組成物はゲル化したものであってもよい。
【0041】
(1)A≦5
(2)50≦B
(3)A+0.065B≦10
【0042】
(Aは、前記液状組成物の水分(質量%)を表す。Bは、熱処理温度(℃)を表す。)
【0043】
液状組成物の水分Aは、好ましくは0.05〜3質量%、より好ましくは0.1〜1.5質量%である。水分Aが少ないほど、式(3)を満たすための熱処理温度Bの上限が上がり、熱処理温度Bが高めでも液晶ポリエステルの分解を抑制でき、また、粘度低減に要する熱処理時間を短くできるが、液状組成物の調製に手間がかかったり、液状組成物の脱水操作が必要になったりする。
【0044】
熱処理温度Bは、好ましくは60〜140℃、より好ましくは70〜110℃である。熱処理温度Bが低いほど、式(3)を満たすための液状組成物の水分Aの上限が上がり、水分Aが高めでも液晶ポリエステルの分解を抑制できるが、粘度低減に要する熱処理時間が長くなる。なお、熱処理温度Bの上限は、式(3)により、154℃である(A=0のとき、B≦10/0.065≒154℃)。
【0045】
水分Aが少ない液状組成物を調製するには、低水分の液晶ポリエステルと低水分の溶媒とを、低水分のガス雰囲気下で混合することが好ましい。低水分の液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルを低水分の雰囲気下で乾燥することにより、得ることができる。また、低水分の溶媒としては、市販の有機合成用脱水溶媒を用いてもよいし、乾燥剤や蒸留により脱水した溶媒を用いてもよい。
【0046】
熱処理時間は、通常1〜20時間、好ましくは2〜10時間である。熱処理時間があまり長いと、液晶ポリエステルが分解し易くなり、あまり短いと、液状組成物の粘度を低減し難くなる。
【0047】
本発明の熱処理方法は、保存等により粘度が上昇した液状組成物、具体的には23℃での粘度が500cP以上に上昇した液状組成物に対して好適に適用され、この粘度を、好適には500cP以下に低減できる。
【0048】
こうして熱処理された液状組成物は、液晶ポリエステルフィルムや液晶ポリエステル含浸繊維シートの製造に用いることができる。
【実施例】
【0049】
〔液晶ポリエステルの流動開始温度の測定〕
フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000P)の粘度を示す温度を測定した。
【0050】
〔液状組成物の水分の測定〕
微量水分測定装置(平沼産業(株)の「AQ−2000」)を用いて、カールフィッシャー法により測定した。
【0051】
〔液状組成物の粘度の測定〕
B型粘度計(東機産業(株)の「TVL−20型」)を用いて、No.21のローターにより、回転数20rpmで測定した。
【0052】
〔液状組成物中の液晶ポリエステルの固有粘度の測定〕
液状組成物をN,N−ジメチルアセトアミドで希釈して、液晶ポリエステルの濃度を0.5g/dlとし、ウベローデ型粘土計を用いて、25℃で測定した。この固有粘度は、液状組成物中の液晶ポリエステルの分子量の指標となり、その低下度合いは、液晶ポリエステルの分解度合いの指標となる。
【0053】
〔液晶ポリエステルの製造〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)及び無水酢酸2374g(23.25モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で3時間還流させた。次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から300℃まで2時間50分かけて昇温し、300℃で1時間保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状のプレポリマーを得た。このプレポリマーの流動開始温度は、235℃であった。次いで、このプレポリマーを、窒素雰囲気下、室温から223℃まで6時間かけて昇温し、223℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、270℃であった。
【0054】
〔液状組成物の調製〕
液晶ポリエステル2200gを、通風オーブンにより120℃で2時間乾燥した後、N,N−ジメチルアセトアミド7800gに加え、窒素雰囲気下、100℃で2時間加熱した後、冷却して、液状組成物を溶液として得た。この液状組成物は、水分Aが0.2質量%であり、粘度(23℃)が225cPであった。また、この液状組成物中の液晶ポリエステルの固有粘度は、0.32であった。
【0055】
〔液状組成物の保存〕
得られた液状組成物を、密閉容器中、23℃で1週間保存した。保存後の液状組成物の粘度(23℃)は、850cPであった、
【0056】
実施例1〜4
保存後の液状組成物を、密閉容器中、通風オーブン(タバイエスペック(株)の「SPS−222型」)により表1に示す温度Bで4時間熱処理した後、冷却し、液状組成物中の液晶ポリエステルの固有粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
実施例5〜16、比較例1〜4
保存後の液状組成物に、表1に示す水分Aになるように、水を添加して攪拌脱泡機((株)シンキーの「AR−500」)で混合し、表1に示す温度Bで4時間熱処理した後、冷却し、液状組成物中の液晶ポリエステルの固有粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物を、下記式(1)〜(3)を満たす条件で熱処理する液状組成物の熱処理方法。
(1)A≦5
(2)50≦B
(3)A+0.065B≦10
(Aは、前記液状組成物の水分(質量%)を表す。Bは、熱処理温度(℃)を表す。)
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で示される繰返し単位とを有する液晶ポリエステルである請求項1に記載の液状組成物。
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar4−Z−Ar5
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項3】
前記液晶ポリエステルが、それを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30〜80モル%、前記式(2)で表される繰返し単位を10〜35モル%、前記式(3)で示される繰返し単位を10〜35モル%有する液晶ポリエステルである請求項2に記載の液状組成物。
【請求項4】
X及び/又はYがイミノ基である請求項2又は3に記載の液状組成物。
【請求項5】
前記溶媒が、非プロトン性化合物を50質量%以上含む溶媒である請求項1〜4のいずれかに記載の液状組成物。
【請求項6】
前記非プロトン性化合物が、ハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物である請求項5に記載の液状組成物。
【請求項7】
前記非プロトン性化合物がアミドである請求項5又は6に記載の液状組成物。
【請求項8】
前記液晶ポリエステルの含有量が、前記液晶ポリエステル及び前記溶媒の合計量に対して、10〜50質量%である請求項1〜7のいずれかに記載の液状組成物。

【公開番号】特開2012−97138(P2012−97138A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243455(P2010−243455)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】