説明

液晶ポリエステル組成物の製造方法

【課題】液晶ポリエステルと繊維状充填材と板状充填材と粒状状充填材とを含む液晶ポリエステル組成物を安定に生産性良く製造する。
【解決手段】シリンダーと、前記シリンダー内に配置されたスクリュウと、前記シリンダーに上流側から順に設けられた第1供給部、第2供給部及び第3供給部とを有する押出機を用い、前記スクリュウを回転させながら、前記シリンダー内に、液晶ポリエステルを前記第1供給部から供給し、繊維状充填材及び板状充填材を前記第2供給部から供給し、粒状充填材を前記第3供給部から供給し、前記液晶ポリエステル、前記繊維状充填材、前記板状充填材及び前記粒状充填材を溶融混練して押し出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルと繊維状充填材と板状充填材と粒状状充填材とを含む液晶ポリエステル組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、溶融流動性に優れ、耐熱性にも優れることから、電気・電子部品を製造するための射出成形材料として好適に用いられているが、成形体に膨張・収縮率や強度の異方性が生じ易いため、成形体に反りが生じ易く、また、成形体のウエルド強度が低くなり易いため、成形体にクラック(ウエルド割れ)が生じ易い。このような問題を解消すべく、液晶ポリエステルに繊維状充填材と板状充填材とを配合することが種々検討されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−294038号公報
【特許文献2】国際公開第2008/023839号
【特許文献3】特開2010−003661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3に開示の如き、液晶ポリエステルに繊維状充填材と板状充填材とを配合してなる従来の液晶ポリエステル組成物は、その成形体のウエルド強度が必ずしも十分でなく、これを向上させるべく、繊維状充填材の含有量を増やすと、溶融流動性が低下し、充填不良が生じ易くなる。本発明者は、この問題を解消すべく、検討を行った結果、液晶ポリエステルに、繊維状充填材及び板状充填材に加えて、さらに粒状充填材を配合することにより、溶融流動性に優れ、反りやクラックが生じ難い成形体を与える液晶ポリエステル組成物が得られることを見出した。そして、この液晶ポリエステルと繊維状充填材と板状充填材と粒状状充填材とを含む液晶ポリエステル組成物を量産化すべく、さらに検討を行った結果、シリンダーと、シリンダー内に配置されたスクリューと、シリンダーに設けられた複数の供給部とを有する押出機を用い、スクリューを回転させながら、液晶ポリエステル及び各充填材を、それぞれ所定の供給部からシリンダー内に供給し、溶融混練して押し出すことにより、吐出ムラやストランド切れを防止でき、前記液晶ポリエステル組成物を安定に生産性良く製造しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、シリンダーと、前記シリンダー内に配置されたスクリュウと、前記シリンダーに上流側から順に設けられた第1供給部、第2供給部及び第3供給部とを有する押出機を用い、前記スクリュウを回転させながら、前記シリンダー内に、液晶ポリエステルを前記第1供給部から供給し、繊維状充填材及び板状充填材を前記第2供給部から供給し、粒状充填材を前記第3供給部から供給し、前記液晶ポリエステル、前記繊維状充填材、前記板状充填材及び前記粒状充填材を溶融混練して押し出す液晶ポリエステル組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、液晶ポリエステルと繊維状充填材と板状充填材と粒状充填材とを含む液晶ポリエステル組成物を安定に生産性良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明で用いる押出機の例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0009】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0010】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0011】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0012】
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
【0013】
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0014】
(4)−Ar4−Z−Ar5
【0015】
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0016】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0017】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0018】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar1がp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びAr1が2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0019】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar2がp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2がm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、及びAr2が2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0020】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar3がp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びAr3が4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0021】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対し、通常30モル%以上、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは40〜70モル%、さらに好ましくは45〜65モル%である。繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対し、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対し、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0022】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0023】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対し、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0024】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが、溶融粘度が低くなり易いので、好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することが、より好ましい。
【0025】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(以下、「プレポリマー」ということがある。)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0026】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、通常270℃以上、好ましくは270〜400℃、より好ましくは280〜380℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、その成形に必要な温度が高くなり易い。
【0027】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0028】
本発明では、液晶ポリエステルに繊維状充填材と板状充填材と粒状充填材とを配合することにより、液晶ポリエステル組成物を製造する。この液晶ポリエステル組成物は、溶融流動性に優れ、反りやクラックが生じ難い成形体を与える。
【0029】
繊維状充填材は、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維;及びステンレス繊維等の金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。繊維状有機充填材の例としては、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が挙げられる。中でも、ガラス繊維が好ましく用いられる。繊維状充填材は、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0030】
繊維状充填材の数平均繊維径は、好ましくは5〜20μm、より好ましくは5〜15μmであり、繊維状充填材の数平均アスペクト比(数平均繊維長/数平均繊維径)は、好ましくは20〜500、より好ましくは100〜500である。繊維状充填材の数平均アスペクト比があまり小さいと、成形体のウエルド強度が不十分になり、あまり大きいと、液晶ポリエステル組成物の溶融流動性が不十分になる。繊維状充填材の数平均繊維径及び数平均繊維長は、電子顕微鏡で観察することにより測定できる。なお、前記の数平均アスペクト比は、液晶ポリエステルに配合される原料の繊維状充填材のものであり、液晶ポリエステルに配合された後の液晶ポリエステル組成物中の繊維状充填材は、溶融混練時の折損により、その数平均アスペクト比が10〜50になっていることが好ましく、20〜40になっていることがより好ましい。
【0031】
繊維状充填材の配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対し、好ましくは5〜80質量部、より好ましくは10〜50質量部である。繊維状充填材の配合量があまり少ないと、成形体のウエルド強度が不十分になり、あまり多いと、液晶ポリエステル組成物の溶融流動性が不十分になる。
【0032】
板状充填材としては、通常、無機充填材が用いられる。板状無機充填材の例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウム及び炭酸カルシウム等が挙げられる。中でも、タルク及びマイカが好ましく、タルクがより好ましい。板状充填材は、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0033】
板状充填材の体積平均粒径は、好ましくは10〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。板状充填材の体積平均粒径があまり小さいと、成形体に反りが生じ易くなり、あまり大きいと、液晶ポリエステル組成物の溶融流動性が不十分になる。板状充填材の体積平均粒径は、レーザー回折法により測定できる。
【0034】
板状状充填材の配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対し、好ましくは5〜80質量部、より好ましくは30〜70質量部である。板状充填材の配合量があまり少ないと、成形体に反りが生じ易くなり、あまり多いと、液晶ポリエステル組成物の溶融流動性が不十分になる。
【0035】
粒状充填材は、繊維状及び板状以外で、球状その他の形状を有する充填材である。粒状充填材としては、通常、無機充填材が用いられる。粒状無機充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスバルーン、窒化ホウ素、炭化ケイ素及び炭酸カルシウムが挙げられる。中でも、ガラスビーズが好ましい。粒状充填材は、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0036】
粒状充填材の体積平均粒径は、好ましくは10〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。粒状充填材の体積平均粒径があまり小さいと、成形体に反りが生じ易くなり、あまり大きいと、液晶ポリエステル組成物の溶融流動性が不十分になる。粒状充填材の体積平均粒径は、レーザー回折法により測定できる。
【0037】
粒状充填材の配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対し、好ましくは5〜80質量部、より好ましくは30〜70質量部である。粒状充填材の配合量があまり少ないと、成形体に反りが生じ易くなり、あまり多いと、液晶ポリエステル組成物の溶融流動性が不十分になる。
【0038】
本発明では、液晶ポリエステルと繊維状充填材と板状充填材と粒状充填材とを含む液晶ポリエステル組成物の製造を、シリンダーと、シリンダー内に配置されたスクリュウと、シリンダーに上流側から順に設けられた第1供給部、第2供給部及び第3供給部とを有する押出機を用いて行う。そして、スクリュウを回転させながら、シリンダーに、液晶ポリエステルを第1供給部から供給し、繊維状充填材及び板状充填材を第2供給部から供給し、粒状充填材を第3供給部から供給し、これらシリンダー内に供給された液晶ポリエステル、繊維状充填材、板状充填材及び粒状充填材を溶融混練して押し出す。これにより、液晶ポリエステル及び各充填材のスクリューへの噛み込みが安定し、組成のバラツキが防止され、吐出ムラやストランド切れが防止されるので、前記液晶ポリエステル組成物を安定に生産性良く製造することができる。
【0039】
ここで、各充填材を液晶ポリエステルが供給される第1供給部の下流側に位置する第2供給部又は第3供給部から供給するのは、第1供給部から供給され、混練されつつシリンダー内を前進する液晶ポリエステルが、第2供給部及び第3供給部の位置では溶融ないし半溶融状態にあり、ここに各充填材を供給することにより、混錬し易くなり、各充填材の液晶ポリエステルへの分散性が向上するからである。また、各充填材を同じ供給部から供給せず、第2供給部及び第3供給部の2箇所から供給するのは、繊維状充填材及び/又は板状充填材と粒状充填材とを同じ供給部から供給すると、繊維状充填材及び/又は板状充填材の噛み込み不良、特に板状充填材の噛み込み不良が生じ易く、組成のバラツキが生じ易くなるため、これを解消すべく、粒状充填材を繊維状充填材及び板状充填材とは別の供給部から供給することが有利であるからである。また、粒状充填材を繊維状充填材及び板状充填材が供給される第2供給部の下流側に位置する第3供給部から供給するのは、粒状充填材は、繊維状充填材や板状充填材より液晶ポリエステルに分散し易く、混錬される時間、すなわちシリンダー内での滞留時間が短くてよいからである。
【0040】
図1は、本発明で用いる押出機の例を模式的に示す断面図である。押出機は、スクリュウ6を1本有する短軸押出機であってもよいし、スクリュウ6を2本有する二軸押出機であってもよいが、二軸押出機が好ましい。二軸押出機では同方向回転の1条ネジのものから3条ネジのものまで使用可能であり、異方向回転の平行軸型、斜軸型又は不完全噛み合い型のものであってもよい。
【0041】
スクリュー6の径は、50mm以下であることが好ましく、45mm以下であることがより好ましい。また、シリンダー7の全幅(D)に対する全長(L)の割合(L/D)は、50以上であることが好ましく、60以上であることがより好ましい。スクリュー6の径が前記所定値以上であり、また、L/Dが前記所定値以上であることにより、混錬を十分に行うことができる。
【0042】
スクリューデザインを決定するスクリューエレメントは、通常、順フライトからなる搬送用エレメントと、可塑化部用エレメントと、混練部用エレメントとからなる。二軸押出機の場合、可塑化部や混練部には、逆フライト、シールリング、順ニーディングディスク、逆ニーディングディスク等のスクリューエレメントが組み合わされて構成されるのが一般的である。図1では、スクリュー6が、第1供給部の下流側で第2供給部の上流側にニーディングディスク4aを有し、第2供給部の下流側で第3供給部の上流側にニーディングディスク4bを有し、第3供給部の下流側にニーディングディスク4cを有しており、これにより、混錬を十分に行うことができる。
【0043】
モーター1は、変速機2を介して、スクリュー6に連結されている。これにより、モーター1でスクリュー6を回転駆動することができ、また、変速機2で回転速度を調整できる。
【0044】
シリンダー用ヒーター8は、シリンダー7の外側面を覆うように配置されており、シリンダー7の内部を加熱するために用いられる。シリンダー用ヒーター8としては、例えば、アルミ鋳込ヒーター、真鍮鋳込ヒーター、バンドヒーター及びスペースヒーターが挙げられる。また、シリンダー用ヒーター8を複数の加熱部品によって構成してもよい。
【0045】
第1供給部3aは、シリンダー7の上流側端部付近に設けられ、第2供給部3bは、第1供給部3aとシリンダー7の下流側端部との中央よりも上流側に設けられることが好ましく、第3供給部3cは、第1供給部3aとシリンダー7の下流側端部との中央よりも下流側に設けられることが好ましい。なお、これら供給部3a,3b,3cは、ホッパーとシリンダー7に通ずる供給口から構成されており、各原料をホッパーに定量的に供給するための定量フィーダーが設けられていてもよい。
【0046】
シリンダー7は、ベント部を有していてもよい。ベント部をを減圧にすることにより、シリンダー7内を減圧脱気することができる。また、ベント部は、単にシリンダー7内のガスを大気中に解放する目的で用いてもよい。図1では、シリンダー7が、ニーディングディスク4aの下流側で第2供給部3bの上流側にベント部5aを有しており、ニーディングディスク4bの下流側で第3供給部3cの上流側にベント部5bを有しており、ニーディングディスク4cの下流側にベント部5cを有しており、これにより、脱気を十分に行うことができる。
【0047】
ベント部の開口長さは、スクリュウー6の径の0.5〜5倍であることが好ましい。ベント部の開口長さがあまり小さいと、脱気効果が不十分であり、あまり大きいと、ベント部から異物が混入したり、ベントアップ(溶融樹脂がベント部より上昇すること)が起こったり、搬送混練能力が低下したりする恐れがある。
【0048】
ベント部の開口幅は、スクリュウー6の径の0.3〜1.5倍であることが好ましい。ベント部の開口幅があまり小さいと、脱気効果が不十分であり、あまり大きいと、ベント部から異物が混入したり、ベントアップ(溶融樹脂がベント部より上昇すること)が起こったり、搬送混練能力が低下したりする恐れがある。
【0049】
ベント部の減圧は、通常、ポンプを用いて行われ、その例としては、水封式ポンプ、ロータリーポンプ、油拡散ポンプ、ターボポンプが挙げられる。
【0050】
シリンダー7の下流側端部には、ダイス9が配置されており、このダイス9は、組成物を押し出すためのノズル11を有している。ダイス9は、ダイス用ヒータ10により加熱される。
【0051】
シリンダー7をシリンダー加熱用ヒーターで液晶ポリエステルの流動開始温度±50℃程度に加熱し、ダイス9をダイス加熱用ヒーター10で加熱し、モーター1を駆動させてスクリュウ6を回転させた状態で、シリンダー7に、第1供給部3aから液晶ポリエステルを供給し、第2供給部3bから繊維状充填材及び板状充填材を供給し、第3供給部から粒状充填材を供給し、シリンダー7内で溶融混練して、ダイス9のノズル11から組成物のストランドを押し出す。
【0052】
なお、必要に応じて、液晶ポリエステルの一部を第2供給部3b及び/又は第3供給部3cから供給したり、繊維状充填材の一部を第1供給部3a及び/又は第3供給部3cから供給したり、板状充填材の一部を第1供給部3a及び/又は第3供給部3cから供給したり、粒状充填材の一部を第1供給部3a及び/又は第2供給部3bから供給したりしてもよいが、液晶ポリエステルは、全供給量の80質量%以上を第1供給部3aから供給することが好ましく、繊維状充填材は、全供給量の80質量%以上を第2供給部3bから供給することが好ましく、板状充填材は、全供給量の80質量%以上を第2供給部3bから供給することが好ましく、粒状充填材は、全供給量の80質量%以上を第3供給部3cから供給することが好ましい。
【0053】
ノズル11から押し出された組成物のストランドは、切断されて、ペレット状の造粒物に加工される。ストランドの切断にあたっては、予めストランドを空冷又は水冷により固化させてもよい。切断に用いるカッターとしては、一般に、回転刃と固定刃とを組み合わせてなるカッターが用いられる。
【0054】
こうして得られる組成物の成形法としては、溶融成形法が好ましく、その例としては、射出成形法、Tダイ法やインフレーション法等の押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、真空成形法及びプレス成形が挙げられるが、本発明では、そのウエルド強度向上効果を活かすべく、射出成形法が有利に採用される。
【0055】
液晶ポリエステル組成物の成形体である製品・部品の例としては、光ピックアップボビン、トランスボビン等のボビン;リレーケース、リレーベース、リレースプルー、リレーアーマチャー等のリレー部品;RIMM、DDR、S/O、DIMM、Board to Boardコネクター、FPCコネクター、カードコネクター、CPUソケット等のコネクター;ランプリフレクター、LEDリフレクター等のリフレクター;ランプホルダー、ヒーターホルダー等のホルダー;スピーカー振動板等の振動板;コピー機用分離爪、プリンター用分離爪等の分離爪;カメラモジュール部品;スイッチ部品;モーター部品;センサー部品;ハードディスクドライブ部品;オーブンウェア等の食器;車両部品;航空機部品;及び半導体素子用封止部材、コイル用封止部材等の封止部材が挙げられる。
【実施例】
【0056】
〔液晶ポリエステルの流動開始温度の測定〕
フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0057】
〔液晶ポリエステル(1)の製造〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、1−メチルイミダゾール0.18gを加え、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃で30分還流させた。次いで、1−メチルイミダゾール2.4gを加え、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、295℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(1)を得た。この液晶ポリエステル(1)の流動開始温度は、327℃であった。
【0058】
〔液晶ポリエステル(2)の製造〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、テレフタル酸239.2g(1.44モル)、イソフタル酸159.5g(0.96モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、1−メチルイミダゾール0.18gを加え、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃で30分還流させた。次いで、1−メチルイミダゾール2.4gを加え、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、窒素雰囲気下、室温から220℃まで1時間かけて昇温し、220℃から240℃まで30分かけて昇温し、240℃で10時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(2)を得た。この液晶ポリエステル(2)の流動開始温度は、286℃であった。
【0059】
〔充填材〕
繊維状充填材として、ガラス繊維(オーウェンスコーニングジャパン(株)の「CS03JAPX−1」:数平均繊維径10μm、数平均繊維長3mm、数平均アスペクト比300)を用いた。板状充填材として、タルク(日本タルク(株)の「MS−KY」:体積平均粒径14.2μm)を用いた。粒状充填材として、ガラスビーズ(ポッターズ・バロティーニ(株)の「EGB731」:体積平均粒径18μm)を用いた。
【0060】
実施例1
押出機として、スクリュー径が41mmであり、シリンダーのL/Dが62である二軸押出機を用いた。シリンダーを15個のバレルで構成し、上流側から1個目のバレルに第1供給部を設け、上流側から6個目のバレルに第2供給部を設け、上流側から8個目のバレルにオープンベント部(大気圧開放)を設け、上流側から10個目のバレルに第3供給部を設け、上流側から14個目のバレルに減圧ベント部(ゲージ圧力−0.08MPa)を設けた。
【0061】
二軸押出機のシリンダー内に、液晶ポリエステル(1)55質量部及び液晶ポリエステル(2)45質量部を第1供給部から供給し、ガラス繊維37.5質量部及びタルク62.5質量部を第2供給部から供給し、ガラスビーズ50質量部を第3供給部から供給し、シリンダー温度340℃で溶融混錬して押し出すことにより、ストランド状の液晶ポリエステル組成物を製造した。その際、ストランドの太さのムラや切れは見られなかった。
【0062】
比較例1
ガラスビーズを第2供給部から供給し、ガラス繊維を第3供給部から供給したこと以外は、実施例1と同様の操作により、ストランド状の液晶ポリエステル組成物を製造した。その際、ストランドの太さのムラや切れが見られた。
【符号の説明】
【0063】
1・・・モーター、2・・・変速機、3a・・・第1供給部、3b・・・第2供給部、3c・・・第3供給部、4a,4b,4c・・・ニーディングディスク、5a,5b,5c・・・ベント部、6・・・スクリュウ、7・・・シリンダー、8・・・シリンダー用ヒーター、9・・・ダイス、10・・・ダイス用ヒーター、11・・・ノズル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダーと、前記シリンダー内に配置されたスクリュウと、前記シリンダーに上流側から順に設けられた第1供給部、第2供給部及び第3供給部とを有する押出機を用い、前記スクリュウを回転させながら、前記シリンダー内に、液晶ポリエステルを前記第1供給部から供給し、繊維状充填材及び板状充填材を前記第2供給部から供給し、粒状充填材を前記第3供給部から供給し、前記液晶ポリエステル、前記繊維状充填材、前記板状充填材及び前記粒状充填材を溶融混練して押し出す液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有する液晶ポリエステルである請求項1に記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar4−Z−Ar5
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項3】
Ar1がp−フェニレン基又は2,6−ナフチレン基であり、Ar2がp−フェニレン基、m−フェニレン基又は2,6−ナフタレンジイル基であり、Ar3がp−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基であり、X及びYが、それぞれ酸素原子である請求項2に記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルが、それを構成する全繰返し単位の合計量に対し、前記式(1)で表される繰返し単位を30〜80モル%、前記式(2)で表される繰返し単位を10〜35モル%、前記式(3)で示される繰返し単位を10〜35モル%有する液晶ポリエステルである請求項2又は3に記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項5】
前記繊維状充填材がガラス繊維である請求項1〜4のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項6】
前記繊維状充填材の数平均繊維径が5〜20μmであり、前記繊維状充填材の数平均アスペクト比が20〜500である請求項1〜5のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項7】
前記繊維状充填材の供給量が、前記液晶ポリエステル100質量部に対し、5〜80質量部である請求項1〜6のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項8】
前記板状充填材がタルク及び/又はマイカである請求項1〜7のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項9】
前記板状充填材の体積平均粒径が10〜100μmである請求項1〜8のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項10】
前記板状充填材の供給量が、前記液晶ポリエステル100質量部に対し、5〜80質量部である請求項1〜9のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項11】
前記粒状充填材がガラスビーズである請求項1〜10のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項12】
前記粒状充填材の体積平均粒径が10〜100μmである請求項1〜11のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項13】
前記粒状充填材の供給量が、前記液晶ポリエステル100質量部に対し、5〜80質量部である請求項1〜12のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−206296(P2012−206296A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71886(P2011−71886)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】