説明

液晶光減衰装置

【課題】ネマチック相化の液晶加熱の適切な制御性を高め、出射側の光の光減衰性を高精度に実現する液晶光減衰装置を提供する。
【解決手段】本発明の液晶光減衰装置は、温度制御ユニット22および電圧制御ユニット24は、入力光モニタ回路18で入射側の光強度をモニタし、かつ出力光モニタ回路19で出射側の光強度をモニタする。温度制御ユニット22は、前記モニタとともに発熱体で液晶14を加熱し、液晶14を加熱によりスメクチック相からネマチック相に変化させる。電圧制御ユニット24は、前記モニタとともに交流信号回路23から液晶14に出射側の光の強度が所定の値となるような振幅の交流信号を供給させ、交流信号を供給中に前記加熱を中止させ、かつ、加熱中止後、交流信号の供給を中止することにより、高精度に出射側の光を所望の光減衰量に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレーザビームなどの平行光の強度を加熱によりネマチック相に変化する液晶を用いて光減衰させる液晶光減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶は、携帯電話や電子時計などの表示装置をはじめ、液晶ディスプレイ装置(LCD)など、多くの分野で利用されている。近年、液晶としては、ネマチック液晶を使用したツイステッドネマチック型やスーパーツイステッドネマチック型などが実用化されている。しかし、ネマチック液晶を用いた装置では、連続的に信号電圧を印加し続ける必要があり、光減衰器に利用するには適当ではない。他方、強誘電性または反強誘電性の液晶材料にはメモリ性記録が可能ではあるが、これを実現するには膜厚(セルギャップ)の非常に薄いセルを均一に作製する必要があり、光減衰器としての実用化は困難である。また、両者とも光減衰器に適用する場合に重要な偏光依存性が過大となる大きな課題があった。この点を解決する従来例として、例えば、常温でスメクチック相の液晶を加熱して一旦液体状態とし、冷却中のネマチック相の間に信号電圧を印加して記録を行ない、室温のスメクチック相の状態で所望の透過光量を安定的に得る方法がある(例えば、特許文献1を参照)。この方法は記録が無電力で保持できる自己保持機能があり、かつ偏光依存性も小さいという大きな長所があるものの後述する課題が残っていた。
【0003】
この方法は、光減衰器ではないが、投射型液晶ディスプレイに広く利用されている。これについては多くの報告がある(例えば、非特許文献1〜5を参照。)。
【特許文献1】特開2007−139982号公報
【非特許文献1】Y.Mori、Y.Nagae、E.Kaneko、H.Kawakami、T.Hashimoto、H.Shiraishi著、雑誌Displays、51頁〜55頁(1988年)
【非特許文献2】Y.Nagae、E.Kaneko、Y.Mori、H.Kawakami著、雑誌Proc.SID、第28巻、第1号、 55頁〜58頁(1987年)
【非特許文献3】Y.Nagae、H.Kawakami、E.Kaneko著、雑誌IEEE Trans.Electron Devices、第ED−32巻、第4号、744頁〜748頁(1985年)
【非特許文献4】Y.Nagae、H.Kawakami、E.Kaneko著、雑誌SID 85 Digest、289頁〜292頁(1985年)
【非特許文献5】Y.Nagae、H.Kawakami、E.Kaneko著、雑誌Japan Display、490頁〜493頁(1983年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2007−139982号公報などに記載する従来法においては、温度がネマチック相を越えてアイソトロピック相(液相)にまで達すると、光が全透過の状態となって光減衰量が一時過剰に低下するという不必要な光量変化が生じるという課題があった。このような記録工程中の光量変化は光減衰器として利用する上で大きな問題となる。これを防止するために、たとえば液晶デフレクターや液晶レンズを後段に新たに付属して過剰な光量を相殺する複合的な素子も考えられるが、素子構造が複雑になり製造が困難となる。また、相変化を経ずにスメクチック相の状態で透過光量を変化させようとすると、常温で光減衰量が変化して自己保持機能が失われてしまうという課題があった。
【0005】
本発明は、従来の技術の課題を解決し、光減衰量を安定して自己保持することができ、かつ、光減衰量が過剰に低下してしまうことを防止できる液晶光減衰装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、加熱によりスメクチック相から変化する液晶と、前記液晶を備えるとともに、熱伝導性および光透過部分を有し、前記液晶を加熱し得る加熱ステージと、前記加熱ステージに備えられ、前記液晶を加熱する加熱手段と、前記液晶に透明電極を介して交流信号を供給する交流信号回路と、前記加熱手段に前記液晶を加熱させ、出射側の光の強度が所定の値となるような振幅の交流信号を前記透明電極に出力させ、前記交流信号を供給中または供給前に前記加熱手段に加熱を中止させ、加熱中止後、前記交流信号回路に前記交流信号の供給を中止させ、前記出射側の光を所望の光減衰量に制御する制御手段とを有し、前記制御手段は、前記液晶の光減衰量が所定の値に達する前の動作中に過剰に低下することを防止する過剰低下防止機能を有することを特徴とする液晶光減衰装置である。
【0007】
本発明によれば、前記液晶を加熱させてスメクチック相から変化させ、出力光モニタ手段のモニタする出力光の強度が所定値になるよう交流信号回路の供給する交流信号の振幅を制御し、所定値になった後、加熱手段に加熱を中止させて所望の光減衰量に固定することができる。また、液晶がスメクチック相から変化しても光減衰量が加熱により過剰に低下することを防止する過剰低下防止機能を有するため、不必要に大きい光量の光が透過してしまうことを防止できる。
【0008】
また、本発明は、前記液晶は、加熱によりスメクチック相からネマチック相に変化し、前記制御手段の過剰低下防止機能は、前記加熱手段に前記液晶を加熱させ、前記液晶がスメクチック相からネマチック相に変化した後、前記交流信号を供給中に上記加熱手段に加熱を中止させ、前記液晶がネマチック相からスメクチック相に変化した後、前記交流信号回路に前記交流信号の供給を中止させ、前記出射側の光を所望の光減衰量に制御することであることを特徴とする。
【0009】
液晶が、スメクチック相からネマチック相に変化した際に光減衰量を設定し、設定後は、ネマチック相からスメクチック相に変化して光減衰量を固定するため、安定かつ制御性よく光減衰量を制御することができる。また、加熱して液晶がアイソトロピック相にまで変化してしまうと、光減衰量が一気に低減してしまうところ、ネマチック相に留めているため、光減衰量が加熱により過剰に低下した状態を経ることなく、所望の光減衰量に設定することができる。
【0010】
また、本発明は、前記液晶の配置された光減衰領域の前記加熱ステージの一方の側に入射側の光を平行光にする光コリメータ手段と、前記液晶の配置された光減衰領域の前記加熱ステージの他方の側に出射側の光を集束させる光フォーカス手段と、前記液晶を通過した出射側の光の強度をモニタする出力光モニタ手段と、をさらに、備えることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、入射側からの光および出射側の光がばらつきなく適切な光径に調整することが容易であり、しかも、出力光をモニタしながら光減衰量を制御できるため、所望の光減衰量を精度よく正確に得ることができる。即ち、入力光の強度によらず、出力光の強度を決めることができる。
【0012】
また、本発明は、前記液晶を透過する前の前記入射側の光の強度をモニタする入力光モニタ手段をさらに備え、前記制御手段は、入力光モニタ手段がモニタする前記入射側の光の強度と前記出力光モニタ手段がモニタする前記光の強度との比が所定の値となるような振幅の交流信号を前記透明電極に供給させることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、前記液晶を透過する前の前記入射側の平行光の強度をモニタする入力光モニタ手段をさらに備え、前記制御手段は、入力光モニタ手段がモニタする前記平行光の強度と前記出力光モニタ手段がモニタする前記光の強度との比が所定の値となるような振幅の交流信号を前記透明電極に供給する。このため、入力光モニタ手段と出力光モニタ手段を備えれば、入力光の強度に関わらず入力光と出力光の比を制御手段に算出させることにより、所望の光減衰量とすることができる。即ち、入力光の強度がわかっていれば、光減衰量を推定することも可能ではあるが、その推定の煩わしさがなく、高精度に所望の光減衰量を得ることができる。
【0014】
また、本発明は、前記液晶に複数の光減衰領域を設け、適宜前記各光減衰領域に対し、前記光コリメータ手段、および、前記光フォーカス手段を設けたことを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、適宜前記各光減衰領域に対し、前記光コリメータ手段、および、前記光フォーカス手段を設けたため、前記制御手段が制御する前記複数の出射側の光の各光減衰量の高精度の制御性を得ることができ、その各光減衰制御の信頼性が向上する。
【0016】
また、本発明は、前記入射側の光の直径が25μm以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、前記入射側の光の直径が25μm以上であれば、偏波依存性を解消し、つまり、高消光比(配向と非配向状態の透過光量の比)、および低PDL(偏光特性の解消)を達成し、好ましい光減衰量を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光減衰量を自己保持することができ、かつ、光減衰量が過剰に低下してしまうことを防止できる液晶光減衰装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る自己保持型の液晶光減衰装置の一実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。図1は本実施の形態の液晶光減衰装置の構成を説明する説明図である。本例の液晶光減衰装置1は、図1に示すように、光入射側の光路11、光コリメータ手段としての光コリメータ回路12、加熱ステージ13、液晶14、および、ガラス板15を備える。
【0020】
光入射側の光路11は、ここでは光ファイバを例示する。しかし、光路11は、例えば図示しないが、所要の基板上に構成されたガラス層などの導波路であってもよい。光路11に入射する光には、例えば、レーザビームなどの他、任意の発光源からの任意の照射光を用いてよい。光コリメータ回路12は、光入射側の光路11からの出射光をコリメートレンズで平行光にして加熱ステージ13の光透過部分に照射する構成を有する。光透過部分については図示を省略する。なお、入射する平行光(レーザビームなど)の直径は25μmと50μmのデータ比較から25μm以上が望ましいことが確認されている。入射する平行光(レーザビームなど)の直径を25μm以上とすることにより偏波依存性が解消される。
【0021】
加熱ステージ13は、例えば一側面側のガラス板15との間に液晶14を備え、熱伝導性および光透過部分を有し、液晶14を効率よく加熱し得る構成を有する。加熱ステージ13の材質には、熱伝導性を有する観点からすれば、例えばアルミニウムやガラス等の材質が好ましいが、熱伝導性を有する限り他の任意の材質を用いてもよい。但し、加熱ステージ13は、ガラス板15との間に液晶14を備えるという構成に限定されるものではなく、一つには、例えば加熱ステージ13に両面に開放される開放口を形成し、この開放口に液晶14をガラス板で挟持した液晶セルを保持するという構成を用いてもよい。もしくは、加熱ステージ13は、例えば加熱ステージ13に両面に開放される開放口を形成し、この開放口にガラス板、液晶14、ガラス板を順次3層構造に積層して液晶セルを構成するという手法を用いてもよい。
【0022】
加熱ステージ13に液晶14を備える場合、本例では、液晶14は、図2に示すように、アレイ配列の複数のガラス板15の位置毎に構成される場合を例示する。各液晶14の詳細は後述する。加熱ステージ13に液晶14を備える場合、液晶14に入射光を入射させるべく、加熱ステージ13の入射光に対応する位置には、例えばガラス板またはガラス層からなる光透過部分が構成される。光透過部分は、加熱ステージ13の光入射側または光入射側および液晶14を挟む光出射側において、図2に示すアレイ配列の液晶14からアレイ配列の光フォーカス回路に通じる光路上の位置に対応する位置に形成される。透明電極は、詳しく図示しないが前記液晶14を保持する加熱ステージ13およびガラス板15に構成されている。液晶14には、透明電極を介して交流信号を供給することが可能である。
【0023】
一方、液晶14には、加熱によりスメクチック相からネマチック相に変化する液晶が用いられる。液晶14において、加熱によりスメクチック相からネマチック相に変化する領域は、入射光に基づく出射光の光強度を減衰させる光減衰領域を構成する。光減衰領域は、透明電極の形状や構成位置などに応じて任意の領域として構成することが可能であり、出射光の光強度は、液晶14に供給する交流信号で制御可能である。なお、液晶14はアレイ状に配列することが好ましいが、これは2次元配列にすると1次元要素をスタック型に配置することになるため、スタック方向の厚さが厚くなり、かつ制御系の配線が複雑になることへの配慮である。本発明に使用する液晶14には周知の多くの液晶組成物が使用され得る。特に、(1)少なくとも、スメクチックA相(SmA相)およびネマチック相(N相)のいずれの相も有すること、および、(2)室温付近(25℃)では、スメクチックA相を示すことの両者の特性を有する液晶組成物を用いる。N相にはキラルネマチック相(N*相)、即ちコレステリック相(Ch相)も含まれる。
【0024】
本液晶組成物には、前記SmA相、N相以外に他の相が出現する構成を用いることも可能である。例えば、スメクチックB相(SmB相)、スメクチックC相(SmC相)、キラルスメクチックC相(SmC*相)、スメクチックブルー相、スメクチックE相(SmE相)、スメクチックF相(SmF相)、スメクチックG相(SmG相)、スメクチックH相(SmH相)、スメクチックI相(SmI相)、ディスコティック相(D相)などのさまざまな液晶相があり得る。また、結晶相(C相)、SmA相、N相およびアイソトロピック相(I相)(液相)はこの順に高温になる相転移をすることが通常であるが、周知のモノトロピック性、もしくはリエントラント性により、SmA相、N相の温度領域の逆転を生じることも妨げとはならない。本液晶組成物の相転移温度については前記(2)項以外に特に制限はないが、本発明の目的とする自己保持型液晶光減衰器の記録温度保持性を考慮すると、SmA相よりN相への転移温度(TSN)およびN相よりアイソトロピック相(I相)への転移温度(TNI)は少なくとも60℃以上であることが望ましい。また結晶相(C相)よりSmA相への転移温度(TCS)は少なくとも5℃以下であることが望ましい。本発明の液晶組成物はSmA相およびN相を示す基本液晶化合物(化合物A)もしくはこれらの混合物に、他の液晶化合物もしくは液晶性を示さない化合物(化合物B)を適宜混合することにより得ることができる。本発明に使用される液晶組成物は周知の報告に記載されている液晶化合物を適宜選択して混合し作製することができる。
【0025】
これらの報告の例としては、例えば、日本学術振興会第142委員会編「液晶デバイスハンドブック」119頁、127頁、G.Sigaud他著、雑誌Molecular Crystals and Liquid Crystals、第69巻、81〜102頁(1981年)、D.Coates他著、雑誌Molecular Crystals and Liquid Crystals、第37巻、249〜262頁(1976年)、J.C.Dubois他著、雑誌Annalen der Phsik[Paris]、第3巻、131頁(1978年)などがある。また、他の報告の例として、米国特許(USP)3952046号公報、特開平9−40959号公報、特開平9−13035号公報、特開平9−217063号公報、特開平10−251643号公報、特開平11−246860号公報、特開2000−234090号公報、特開2002−69451号公報、特公平7−30041号公報、特公平7−35511号公報、特公平8−19410号公報、日本特許第2627628号公報、日本特許第2627629号公報、日本特許第2721831号公報などがある。
【0026】
但し本発明に使用される液晶組成物はこれらの報告に限定されるものではなく、基本液晶化合物Aとしては周知の多くのスメクチック液晶が使用できる。基本液晶化合物として、既製品化されている液晶組成物を使用し、さらに適宜他の化合物を混合して本発明の液晶組成物を作製することができる。基本液晶化合物として使用できる製品としては、例えばメルク社製S−1組成物、S−6組成物などがあるが、これらに限定されるものではない。下記の化1に、本発明に用いる液晶組成物の基本成分となる液晶化合物の例を示す。化1中でRはアルキル基、nはアルキル基の炭素数である。
【0027】
【化1】

【0028】
但し本発明に使用される基本液晶化合物はこれに限定されるものではない。下記の化2に本発明に用いる液晶組成物の基本成分となる液晶化合物の例を示す。化2中でもRはアルキル基、nはアルキル基の炭素数である。
【0029】
【化2】

【0030】
下記の化3に、本発明に用いる液晶組成物の基本成分となる液晶化合物の他の例を示す。化3中でもRはアルキル基、nはアルキル基の炭素数である。
【0031】
【化3】

【0032】
下記の化4に、本発明に用いる液晶組成物の基本成分となる液晶化合物のさらに他の例を示す。化4中でもRはアルキル基、nはアルキル基の炭素数である。
【0033】
【化4】

【0034】
一方、基本液晶化合物Aに混合する化合物(化合物B)としては、周知の多数の化合物が使用できる。これらには、表1中に示した液晶化合物の炭素数nの異なる(多くの場合は、より小さい)化合物がすべて含まれる。これらのうち多くは通常スメクチック相(SmA相)あるいはネマチック相(N相)を欠く液晶化合物となる。さらに下記の表2に示す化合物も混合して使用することができる。但し本発明の液晶組成物はこれらに限定されるものではない。混合化合物としてはその他に、各種の相、例えば、N相、SmA相、SmB相、SmC相、SmC*相、SmE相、SmF相、SmG相、SmH相、SmI相、Ch相、D相を示す液晶化合物、および液晶相を示さない化合物も使用し得る。なお、これらには、より消光比もしくは温度特性を向上するための2色性色素などを添加することもできる。
【0035】
一方、本発明の液晶光減衰装置1は、自己保持型の液晶光減衰の温度特性:状態保存特性、消光比特性、減衰特性、偏波依存損失(PDL)特性、記録再現性などの優れた特性を実現するために、液晶組成物の素材を適宜選択して、広いSmA温度範囲や、さらに液晶ディスプレイなどの電場記録で周知の高屈折率異方性および高誘電率異方性、低粘度性(低弾性定数)などを適当な値に実現することが必要である。
【0036】
なお、本発明の発明者は、特に、周知の液晶ディスプレイと異なる本発明の自己保持型の液晶光減衰装置1に特有な特性である消光比特性、減衰特性、偏波依存損失(PDL)特性を向上させるためには、本発明の特徴である熱電場記録方式に伴って、前述した転移温度に関する特性以外に、以下の事項が必要であることを実験的に見出した。即ち、(1)ネマチック相の温度範囲(△T)が狭いことが必要であることがわかった。△Tは、TNI温度とTSN温度の差である。△TNIとしては5℃以下、より好ましくは3℃以下が望ましい。(2)TNI温度における相転移エネルギー(△HNI)が小さいことが必要であることがわかった。△HNIとしては0.4cal/g以下、より好ましくは0.3cal/g以下が望ましい。
【0037】
これらの必要物性の起因については詳述しないが、加熱後の冷却中のネマチック相の通過時間が短く容易にスメクチック相に至り、電場印加時の液晶分子のホメオトロピック配向(加熱ステージに垂直配向)と、非電場印加時の液晶分子のランダム配向(フォーカルコニック配向)との対比でフォーカルコニック状態がより微細な凝集単位(スメクチック相のドメイン、スウォーム状態)となるため、高消光比(配向と非配向状態の透過光量の比)、低PDL(偏光特性の解消)が達せられるためであると考えられる。下記の化5に本発明に用いる液晶組成物の混合成分となる化合物の例を示す。なお化5中でもRはアルキル基、nはアルキル基の炭素数である。
【0038】
【化5】

【0039】
下記の化6に本発明に用いる液晶組成物の混合成分となる化合物の他の例を示す。なお、化6中でもRはアルキル基、nはアルキル基の炭素数である。
【0040】
【化6】

【0041】
下記の化7に、本発明に用いる液晶組成物の混合成分となる化合物のさらに他の例を示す。なお、化7中でもRはアルキル基、nはアルキル基の炭素数である。
【0042】
【化7】

【0043】
下記の化8に、本発明に用いる液晶組成物の混合成分となる化合物のさらに他の例を示す。なお、化8中でもRはアルキル基、nはアルキル基の炭素数である。
【0044】
【化8】

【0045】
一方、さらに、本例の液晶光減衰装置1は、図1に示すように、光出射側の光路16、光フォーカス手段としての光フォーカス回路17、入力光モニタ手段としての入力光モニタ回路18、および、出力光モニタ手段としての出力光モニタ回路19を備える。
【0046】
光出射側の光路16は、ここでも光ファイバを例示する。しかし、光路16は、例えば図示しないが、同じく、所要の基板上に構成されたガラス層などの導波路であってもよい。光路16に出射する光は、例えばレーザビームなどの他、任意の発光源からの任意の照射光を用いてよい。
【0047】
光フォーカス回路17は、ガラス板15と光路16との間に設けられ、液晶14が配設された加熱ステージ13の光減衰領域を透過した入射光を集束レンズにより光出射側の光路16に集束させる構成を有する。図1には図示していないが、光フォーカス回路17の前段もしくは光路16と光フォーカス回路17の間に、光路16に入射する光量を制御できる液晶デフレクターもしくは液晶レンズなどの素子を設けて過剰な光透過を防止する方法を採用する構成を採ることもできる。
【0048】
入力光モニタ回路18は、光コリメータ回路12の上流側の光入射側の光路11対し設けられており、光路11を通過する入射光の強度Aをモニタする構成を有する。入力光モニタ回路18には、光路11を通過する入射光の一部を分岐して取り込む光分岐回路の構成を有するか、もしくは光カプラなどを含む構成を有することも好ましい。
【0049】
出力光モニタ回路19は、光フォーカス回路17の下流側の光出射側の光路16に対し設けられており、光フォーカス回路17を通過する出射光の強度Bをモニタする構成を有する。出力光モニタ回路19も、光路16を通過する入射光の一部を分岐して取り込む光分岐回路の構成を有するか、もしくは光カプラなどを含む構成を有する。
【0050】
さらに、本例の液晶光減衰装置1は、図1に示すように、加熱手段の一部としての発熱体用電極21、加熱手段および制御手段の一部としての温度制御ユニット22、交流信号回路23、および、制御手段の一部としての電圧制御ユニット24を備える。発熱体用電極21は、例えば図1に示すように、加熱ステージ13の一側面または両側面に接触させて設けられており、加熱ステージ13に設けられ、加熱手段の一部としての発熱体(不図示)への電力の供給で発熱することにより、液晶14を加熱する。発熱体(不図示)には、電圧電流の制御で発熱量を制御し得るヒータなどの構成を用いるか、もしくは、電圧電流の制御で加熱および冷却を制御できるペルチェ素子などの構成を用いる。ペルチェ素子を用いる場合、例えば、発熱の中止後、余熱分などの冷却処理に利用することが可能である。この観点から加熱ステージ13または液晶14に対し温度センサを接触させて設けるという構成も好ましい。光減衰領域が透明である必要のため、発熱体には透明電極を利用したヒータが好ましい。
【0051】
温度制御ユニット22は、発熱体(不図示)に電力を供給して発熱体(不図示)に発熱を生じさせ液晶14を加熱する電源回路などを備える構成を有する。温度制御ユニット22は、例えば液晶光減衰装置1の電源入力時や駆動信号入力時などに電源回路などを駆動して発熱体(不図示)を発熱させる際、入力光モニタ回路18がモニタした入射光の光強度A、および、出力光モニタ回路19がモニタした出射光の光強度Bの関係に基づいて発熱体(不図示)の発熱量と発熱時間を制御する。発熱量の制御には、例えば、電力対発熱量などを含むテーブルを用いた電力選定、もしくは発熱量に対する電力演算などの算出処理を含めることも好ましい。
【0052】
液晶14の加熱温度は60℃以上90℃以下が望ましく、加熱時間は10msec以上30msec以下が望ましい。入射光(レーザビームなど)の直径は25μm以上が望ましい。この観点からも温度制御ユニット22には、加熱ステージ13または液晶14に設けた温度センサにより加熱ステージ13または液晶14の実温度を加熱中もしくは常時認識する構成を含めてもよい。
【0053】
なお、温度制御ユニット22は、入力光モニタ回路18がモニタした入射光の光強度Aを例えばフォトダイオードなどで電気信号化して処理し、出力光モニタ回路19がモニタした出射光の光強度Bについても例えばフォトダイオードなどで電気信号化して処理するという構成が一例として好ましい。
【0054】
交流信号回路23は、加熱ステージ13やガラス板15の液晶14制御用の透明電極に交流信号を供給する例えばアナログまたはデジタルの増幅回路、もしくは電圧制御回路などを備える構成を有する。
【0055】
電圧制御ユニット24は、交流信号回路23の増幅回路または電圧制御回路などを制御して前記透明電極に供給する交流信号の振幅、および、その供給時間を制御する構成を有する。電圧制御ユニット24は、例えば液晶光減衰装置1の電源入力時や駆動信号入力時などに液晶14をネマチック相に変化させる際、交流信号回路23を駆動して入力光モニタ回路18がモニタした入射光の光強度A、および、出力光モニタ回路19がモニタした出射光の光強度Bの関係に基づいて最適な振幅の交流信号を透明電極に供給する。交流信号の振幅の制御には、例えば、光強度対振幅の関係を含むテーブルを用いた振幅選定、もしくは光強度に対する振幅計算の算出処理を含めることも好ましい。なお、電圧制御ユニット24も、例えば、入力光モニタ回路18がモニタした入射光の光強度Aを例えばフォトダイオードなどで電気信号化して処理し、出力光モニタ回路19がモニタした出射光の光強度Bも例えばフォトダイオードなどで電気信号化して処理する。
【0056】
制御手段を構成する温度制御ユニット22は、発熱体(不図示)に液晶14を加熱させ、液晶14をスメクチック相からネマチック相に変化させた後、電圧制御ユニット24は、加熱前または加熱中に、交流信号回路23に出力光モニタ回路19がモニタする光の強度Bが所定の値となるような振幅の交流信号を透明電極に出力させ出射側の光を減衰させる制御を実行する。
【0057】
なお、電圧制御ユニット24には、温度制御ユニット22の前記制御の起動および停止を制御する構成を含めてもよい。即ち、電圧制御ユニット24は、交流信号を供給中に温度制御ユニット22を介して発熱体(不図示)の加熱を中止させ、液晶14がネマチック相からスメクチック相に変化した後、交流信号回路23に交流信号の供給を中止させることで、出射側の光を所望の光減衰量に固定する。また、電圧制御ユニット24は、入力光モニタ回路18がモニタする前記平行光の強度Aと出力光モニタ回路19がモニタする光の強度Bとの比が所定の値となるような振幅の交流信号を透明電極に供給し、出射側の光を所望の光減衰量に制御する。但し温度制御ユニット22に対し電圧制御ユニット24の前記の起動および停止を制御する構成を含めてもよい。
【0058】
なお、本例では、温度制御ユニット22および電圧制御ユニット24の構成を別々の構成として説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、温度制御ユニット22および電圧制御ユニット24は、例えばCPUやMPU、もしくは論理回路などを用いて上述の制御を実現するという一つの制御手段としての構成を用いてもよい。
【0059】
一方、図3は本液晶光減衰装置1の液晶記録方法の検討結果を示すグラフである。同グラフから明らかなように、本発明の液晶光減衰装置1の場合、液晶温度をアイソトロピック相(液相)まで加熱(図3a)することなく、ネマチック相までと低目に加熱(図3b)しても交流信号の振幅制御により、より高性能に光減衰量が得られることが確認された。交流信号は、加熱直後は大きな振幅で、加熱された後は小さい振幅とすることが好ましいことが明らかとなった(図3b)。加熱中は交流信号を供給し、加熱を中止した後に交流信号の供給を中止する。
【0060】
また、図4はビーム直径25μmのときの消光比とPDLとの関係を示すグラフであり、図5はビーム直径50μmのときの消光比とPDLとの関係を示すグラフである。ここに消光比とは、液晶の配向と非配向状態の透過光量の比(最大透過量と最小透過量の比)であり、PDLとは、偏波依存性(一方の偏波に対する他方の偏波の強度比:偏光特性の解消性)である。
【0061】
図4、図5の比較から明らかなように、PDLはビーム直径25μmより、ビーム直径50μm以上のときの方が小さいことから、ビーム直径は25μm以上が好ましいことが確認された。消光比については、ビーム直径による大きな差は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、自己保持型の光減衰回路や、光透過・遮断の光スイッチなどの分野に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態の液晶光減衰装置の構成を説明する説明図である。
【図2】本発明の実施の形態の液晶光減衰装置の加熱ステージを主とする各構成要素のアレイ配列構造の例を説明する斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態の液晶光減衰装置1の液晶記録方法の検討結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の液晶光減衰装置1のビーム直径25μmのときの消光比とPDLとの関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態の液晶光減衰装置1のビーム直径50μmのときの消光比とPDLとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0064】
1 液晶光減衰装置
11 光路
12 光コリメータ回路
13 加熱ステージ
14 液晶
15 ガラス板
16 光路
17 光フォーカス回路
18 入力光モニタ回路
19 出力光モニタ回路
21 発熱体用電極
22 温度制御ユニット
23 交流信号回路
24 電圧制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱によりスメクチック相から変化する液晶と、
前記液晶を備えるとともに、熱伝導性および光透過部分を有し、前記液晶を加熱し得る加熱ステージと、
前記加熱ステージに備えられ、前記液晶を加熱する加熱手段と、
前記液晶に透明電極を介して交流信号を供給する交流信号回路と、
前記加熱手段に前記液晶を加熱させ、出射側の光の強度が所定の値となるような振幅の交流信号を前記透明電極に出力させ、前記交流信号を供給中または供給前に前記加熱手段に加熱を中止させ、加熱中止後、前記交流信号回路に前記交流信号の供給を中止させ、前記出射側の光を所望の光減衰量に制御する制御手段と、
を有し、
前記制御手段は、前記液晶の光減衰量が所定の値に達する前の動作中に過剰に低下することを防止する過剰低下防止機能を有することを特徴とする液晶光減衰装置。
【請求項2】
前記液晶は、加熱によりスメクチック相からネマチック相に変化し、
前記制御手段の過剰低下防止機能は、前記加熱手段に前記液晶を加熱させ、前記液晶がスメクチック相からネマチック相に変化した後、前記交流信号を供給中に上記加熱手段に加熱を中止させ、前記液晶がネマチック相からスメクチック相に変化した後、前記交流信号回路に前記交流信号の供給を中止させ、前記出射側の光を所望の光減衰量に制御することであることを特徴とする請求項1に記載の液晶光減衰装置。
【請求項3】
前記液晶の配置された光減衰領域の前記加熱ステージの一方の側に入射側の光を平行光にする光コリメータ手段と、
前記液晶の配置された光減衰領域の前記加熱ステージの他方の側に出射側の光を集束させる光フォーカス手段と、
前記液晶を通過した出射側の光の強度をモニタする出力光モニタ手段と、
をさらに、備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶光減衰装置。
【請求項4】
前記液晶を透過する前の前記入射側の平行光の強度をモニタする入力光モニタ手段をさらに備え、
前記制御手段は、入力光モニタ手段がモニタする前記平行光の強度と前記出力光モニタ手段がモニタする前記光の強度との比が所定の値となるような振幅の交流信号を前記透明電極に供給させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液晶光減衰装置。
【請求項5】
前記液晶に複数の光減衰領域を設け、適宜前記各光減衰領域に対し、前記光コリメータ手段、および、前記光フォーカス手段を設けたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液晶光減衰装置。
【請求項6】
前記入射側の光の直径が25μm以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の液晶光減衰装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−169024(P2009−169024A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6139(P2008−6139)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(502191550)フォトニックサイエンステクノロジ株式会社 (24)
【Fターム(参考)】