説明

液晶材料及び液晶表示機能を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】キャリア輸送層及び/又は有機発光層に液晶層を組み込むことにより、層数の増加を招くことなく、液晶表示機能を有機EL素子に付与する。
【解決手段】少なくとも一方が透明な対向する電極間2,5に、例えば下記に示すような液晶材料からなる少なくとも1層のキャリア輸送層3と、少なくとも一層の有機発光層4を有し、電極2,5間の印加電圧が、有機発光層4の発光開始電圧より低い電圧では液晶素子として駆動し、発光開始電圧以上の電圧ではEL素子として駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイとしても働く有機エレクトロルミネッセンス素子及びその有機エレクトロルミネッセンス素子に適した液晶材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、透明基板上に透明電極(陽極),キャリア輸送層,有機発光層,背面電極(陰極)を順次積層した構造をもっている。複数の透明電極をX−X方向に、複数の背面電極をY−Y方向に配列することにより、XYマトリックスが形成される。透明電極及び背面電極を介してXYマトリックス上の所定位置に駆動電流を供給すると、陽極側からのホールと陰極側からの電子が有機発光層で再結合し、有機発光体分子が励起され面状に発光する。発光は、透明電極及び透明基板を通して外部に取り出される。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンスは、有機発光層自体が発光するため、液晶ディスプレイに比較して鮮明な映像が得られる。しかし、外光の反射を利用する受光型の液晶ディスプレイに比較すると、消費電力が大きなことが欠点である。他方、液晶ディスプレイでは、明るい条件下ではコントラストがよいため見やすい映像が得られるものの、暗所での見難さを解消するため照度不足をバックライトで補っている。そのため、バックライト点灯のための消費電力が大きくなりがちである。
【0004】
そこで、下記特許文献1では、エレクトロルミネッセンス素子を液晶表示素子に積層した液晶表示装置を紹介している。この液晶表示装置は、エレクトロルミネッセンス素子の面発光を利用しているため、暗所でも表示が視認できる。また、エレクトロルミネッセンス素子に液晶表示素子を積層しているので、液晶表示器の裏面にエレクトロルミネッセンス素子を配置したものに比較して薄型化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭59−181422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実開昭59−181422号公報で紹介されている液晶表示装置は、透明電極,配向膜,偏光板,スペーサ,液晶層からなる液晶表示器を一対のガラス基板の間に挟んだ後、一方のガラス基板にエレクトロルミネッセンス素子を形成している。液晶表示素子及びエレクトロルミネッセンス素子を単に積層した構成であることから、積層数が増加し製造工程が複雑化する。積層数の増加は、表示装置の厚み低減にも制約を加える。
【0007】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、キャリア輸送層及び/又は有機発光層に液晶機能をもたせ、昼間や明るい照明下で液晶ディスプレイとして駆動させ、夜間や照明のない暗所ではエレクトロルミネッセンスディスプレイとして駆動させることにより、消費電力を低減した有機エレクトロルミネッセンス素子及び電界発光性を呈する液晶材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、キャリア輸送層及び有機発光層の何れか一方又は双方に液晶機能を付与し、印加電圧に応じて液晶ディスプレイ又はエレクトロルミネッセンスディスプレイとして駆動させる。たとえば、現状の有機エレクトロルミネッセンス素子では駆動電圧が高いことから、発光開始電圧より低い電圧ではコントラストが変化する液晶ディスプレイとして、発光開始電圧以上ではエレクトロルミネッセンスディスプレイとして駆動させることにより消費電力の節減が図られる。有機エレクトロルミネッセンス素子の改良に伴って液晶よりも低い電圧で駆動可能になることも予想され、このような場合には映像の見易さに応じて表示形態を切り替える方式が採用される。
【0009】
有機発光層が液晶機能をもつ有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも一方が透明な対向する透明電極と背面電極との間に、少なくとも1層のキャリア輸送層と、少なくとも1層の液晶からなる有機発光層を有する。この場合、キャリア輸送層は、ポリマー又は低分子分散ポリマーで形成され、或いはポリマー及びモノマーの複層で構成される。他方、有機発光層がネマチック液晶層で形成される。
【0010】
有機発光層が液晶機能をもつ有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも一方が透明な対向する透明電極と背面電極との間に、少なくとも1層のキャリア輸送層と、少なくとも1層の液晶からなる有機発光層を有する。この場合、キャリア輸送層は、ポリマー又は低分子分散ポリマーで形成され、或いはポリマー及びモノマーの複層で構成される。他方、有機発光層がネマチック液晶層で形成される。
【0011】
キャリア輸送層及び有機発光層の双方に液晶機能を付与した有機エレクトロルミネッセンス素子では、液晶材料を混合した有機発光層及びキャリア輸送層が透明電極と背面電極との間に積層される。液晶層は、たとえば有機発光材料と液晶をブレンドする等、2種以上の異なる有機化合物を含むことができる。電界発光性のある液晶材料を使用すると、キャリア輸送層を省略して有機エレクトロルミネッセンス素子を作製することも可能である。なお、本件明細書でいう「電界発光性」とは、電界発光素子として機能するキャリア輸送性(キャリア注入性を含む)及び発光性を意味する。
【0012】
電界発光性のある液晶材料としては、化学構造を以下の一般式に掲げる化合物が使用される。化合物1には12-OKB,8-OKB,16-OKB等があり、化合物2には18-OXD,化合物3には8-OCu,化合物4には8-PNP-O12,化合物5にはTPD-8がある。
【0013】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【発明の効果】
【0014】
以上に説明したように、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、液晶機能をもつキャリア輸送材料及び/又は有機発光材料を積層し、液晶ディスプレイとしての駆動を可能にしている。そのため、鮮明な映像が観察できる昼間や照明下では液相ディスプレイとして、暗所ではエレクトロルミネッセンスディスプレイとして駆動させることにより、消費電力の節減が図られる。また、有機エレクトロルミネッセンス素子のキャリア輸送層及び/又は有機発光層自体に液晶層を組み込んでいるため、製造工程の複雑化を招くことなく、薄型の有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の切欠き拡大部分斜視図
【図2】有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動機構の説明図
【図3】偏光板を両面に貼り付けたセルの構造
【図4】実施例7で作製した有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成
【図5】実施例8で作製した有機エレクトロルミネッセンス素子の電圧−電流特性を示すグラフ
【図6】実施例8で作製した有機エレクトロルミネッセンス素子の電圧−発光特性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、図1に示すように、透明ガラス,透明樹脂シート等の透明基板1の上に、ITO等の透明電極2(陽極)を蒸着法等で形成した後、キャリア輸送層3,有機発光層4,及び背面電極5(陰極)を順次積層し、背面電極5側をガラス板,金属板等の保護層で封止している。透明電極2はX−X方向に延びる複数の線状に形成され、背面電極5は透明電極2に直交するY−Y方向に沿った複数の線状に形成される。有機発光層4と背面電極5との間に電子輸送層を設けた3層構造にすることもできる。
【0017】
透明電極2と背面電極5との間に駆動回路6から電圧が印加される。印加電圧を映像データ等の信号に応じて制御することにより、XYマトリックス上で所定位置の有機発光層4を発光させ,所定の映像が発現される。印加電圧としては、通常は正の直流電圧が印加されるが、有機発光層4の劣化を抑制するため逆方向電圧を重畳することも可能である。駆動方法は、単純マトリックス方式,アクティブマトリックス方式の何れでも良い。
【0018】
有機発光層4の有機発光材料としては、たとえば次のポリマーやコポリマーが単独で又は複合して使用される。ポリマー系の有機発光層は、溶液からのコーティングによって形成することができる。なお、本件明細書では、コポリマーを包含する意味でポリマーを使用する。
【0019】
【化6】

【0020】
【化7】

【化8】

【0021】
ポリビニルカルバゾール
【化9】

【0022】
ポリチオフェン系:
【化10】

【0023】
ポリシラン系:
【化11】

【0024】
【化12】

コポリマー:P(VK-co-OXD)(9-ビニリカルバゾールとオキサジアゾールビニルモノマーのランダム共重合体),PTDOXD(TPDとオキサジアゾールの交互配列ポリマー)
【0025】
ポリマーに低分子を分散させた低分子分散ポリマーを有機発光層の形成に使用することも可能である。ドーパントには、たとえば次に掲げる構造式をもつ有機化合物が使用される。なかでも、Ir(ppy)3は、低分子キャリア輸送材料や有機発光層の構成成分として有効な化合物である。Ir(ppy)3はイリジウム錯体であるが、Ir(ppy)3以外にも(ppy)2Ir(acac),Ir(BQ)3,(BQ)2Ir(acac),Ir(THP)3,(THP)2Ir(acac),Ir(BO)3,(BO)2(acac),Ir(BT)3,(BT)2Ir(acac),Ir(BTP)3,(BTP)2Ir(acac),PtOEP等の重金属イオンを中心に有し、燐光を示す有機金属錯体が使用可能である。
【0026】
【化13】

【0027】
【化14】

【0028】
【化15】

【0029】
【化16】

【0030】
【化17】

【0031】
【化18】

【0032】
【化19】

【0033】
【化20】

【0034】
【化21】

【0035】
【化22】

【0036】
【化23】

【0037】
【化24】

【化25】

【0038】
【化26】

【化27】

【化28】

【化29】

【化30】

【化31】

【化32】

【0039】
低分子分散ポリマーを使用すると、ドーパントの種類及び濃度に応じて発光色を容易に調整できる。たとえば、PVK(ポリビニリカルバゾール)をTPB(1,1,4,4,−テトラフェニル−1,3−ブタジエン),クマリン,DCMー1,ルブレン等の蛍光色素でドープすると青色,緑色,オレンジ色等の発色が得られる。また、低分子分散ポリマーを有機発光層に使用する場合、予め複数の色素でポリマーをドーピングしておき、特定波長の光照射で特定色素の蛍光性を消失させることにより、光照射部分の発光色を他の部分と異ならせることも可能である。このとき、フォトマスクを用いた部分照射で発光面をパターン化することもできる。
【0040】
有機発光層を複層構成にすることも可能である。たとえば、正孔輸送性のポリ(N−ビニルカルバゾール)を発光層とし、ホールブロック層として(1,2,4−トリアゾール誘導体/アルミ錯体)を積層すると、青色発色の発光層が形成される。また、ポリ(N−ビニルカルバゾール)層を蛍光色素でドーピングすることにより発光色が任意に調整される。
【0041】
液晶ディスプレイとしての機能は、有機エレクトロルミネッセンス材料として知られているキャリア輸送材料や有機発光材料にネマチック液晶層等の液晶層を積層又は混合することにより、キャリア輸送層や有機発光層に付与される。或いは、1分子で液晶及び有機エレクトロルミネッセンスの両機能を発現する材料でキャリア輸送層や有機発光層を形成することも可能である。液晶及び有機エレクトロルミネッセンスの両機能を発現する材料は、たとえば次のような方法で合成したネマチック液晶が使用される。
【0042】
〔キャリア輸送性液晶分子: 2-1,4-カルバゾール-4'‐n-オクチロキシビフェニル(8-OKB)の合成〕4-ブロモ-4'-ヒドロキシビフェニルをシクロヘキサノンに溶解し、炭酸カリウムと1-ヨードオクタンを加え、窒素雰囲気中で還流させながら反応させる。反応終了後に反応生成物をジエチルエーテルに溶解して濾過し、回収した濾液から溶媒を除去し、エタノールで精製して再結晶させることにより白色固体(8-OB)が得られる。
【0043】
【化33】

【0044】
8-OB,カルバゾール,酢酸パラジウム,ホスフィン,ナトリウム第三級ブチラート,o-キシレンを加え,窒素雰囲気中で還流させながら反応させる。反応終了後にクロロホルムで反応生成物を抽出し、蒸留水で洗浄し、カラムクロマトグラフィ法(クロロホルム:n-ヘキサン=1:2)で精製して再結晶させることにより白色固体(8-OKB)として得られる。
【0045】
【化34】

【0046】
〔キャリア輸送性液晶分子: 2-2,4-カルバゾール-4'-n-ドデカキシビフェニル(12-OKB)の合成〕4-ブロモ-4'-ヒドロキシビフェニルをシクロヘキサノンに溶解し、炭酸カリウムと1-ヨードデカンを加え、窒素雰囲気中で還流させながら反応させる。反応終了後に反応生成物をジエチルエーテルに溶解して濾過し、回収した濾液から溶媒を除去し、エタノールで精製して再結晶させることにより白色固体(12-OB)が得られる。
【0047】
【化35】

【0048】
12-OB,カルバゾール,酢酸パラジウム,ホスフィン,ナトリウム第三級ブチラート,o-キシレンを加え,窒素雰囲気中で還流させながら反応させる。反応終了後にクロロホルムで反応生成物を抽出し、蒸留水で洗浄し、カラムクロマトグラフィ法(クロロホルム:n-ヘキサン=1:2)で精製し、エタノールで再結晶させることにより白色固体(12-OKB)として得られる。
【0049】
【化36】

【0050】
〔2-1,2-(4-n-メチルオクタデシルアミノフェニル)-5-(4-シアノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(18-OXD)の合成〕
N-メチルオクタデシルアミン(Na)をシクロヘキサノンに溶解し、炭酸カリウム及び4-ボロモベンゾニトリルを加え、窒素雰囲気中で還流させながら反応させる。反応終了後にクロロホルムに反応生成物を溶解して濾過し、濾液を回収して溶媒を除去した後、未反応物を昇華させることにより黄色の固体(Nab)が得られる。
【0051】
【化37】

【0052】
得られた黄色の固体(Nab)と過剰のアジ化ナトリウム及び塩化アンモニウムをジメチルホルムアミド中で加熱還流させながら反応させた後、蒸留水及びクロロホルムで洗浄することにより、褐色の粘体(4NabN)が得られる。
【0053】
【化38】

【0054】
ピリジンに4NabNを溶解して窒素雰囲気中で加熱還流させ、ピリジンに溶解した4-シアノベンゾイルクロリドを滴下しながら反応させる。反応終了後に反応生成物からピリジンを留去した後、蒸留水及びクロロホルムで反応生成物を洗浄することにより褐色の粘体として得られる。更に、カラムクロマトグラフィ法(酢酸エチル:n-ヘキサン=3:2)で精製すると褐色の固体になり、メタノールを用いて再結晶させると黄白色の固体(18-OXD)となる。
【0055】
【化39】

【0056】
〔2-2,4-クマリン-4'-n-オクチル(8-OCu)の合成〕
4-クマリンをシクロヘキサノンに溶解し、炭酸カリウム及び1-ヨードオクタンを加え、窒素雰囲気中で還流させながら反応させる。反応終了後にテトラヒドロフランに反応生成物を溶解させて濾過し、回収した濾液から溶媒を除去した後、n-ヘキサンで再結晶させると、白色の固体(8-OCu)として得られる。
【0057】
【化40】

【0058】
〔2,3,4-カルバゾール-4'-n-ドデカヘキシルビフェニル(16-OKB)の合成〕
4-ブロモ-4'-ヒドロキシビフェニルをシクロヘキサノンに溶解し、炭酸カリウム及び1-ブロモドデカキシルを加え、窒素雰囲気中で還流させながら反応させる。反応終了後に反応生成物をジエチルエーテルに溶解して濾過し、濾液を回収して溶媒を除去し、エタノールで精製して再結晶させることにより白色の固体(16-OB)が得られる。
【0059】
【化41】

【0060】
16-OB,カルバゾール,酢酸パラジウム,ホスフィン,ナトリウム第三級ブチラート,o-キシレンを加え、窒素雰囲気中で還流させながら反応させる。反応終了後に反応生成物をクロロホルムで抽出し、蒸留水で洗浄し、カラムクロマトグラフィ法(クロロホルム:n-ヘキサノン=1:2)で精製し、エタノールで再結晶させることにより白色の固体(16-OKB)が得られる。
【0061】
【化42】

【0062】
〔キャリア輸送性液晶分子:N,N'-(4-オクチロキシフェニル)-1,1'-ビフェニル-4,4'-ジアミン(TDP-8)の合成〕
キャリア(ホール)輸送性液晶材料であるTPD-8は、オクチルヨードベンゼン(OIB)を経由して次の方法で合成される。先ず、p-ヨードフェノールをシクロヘキサンに溶解して、炭酸カリウム,1-ヨードオクタンを加え、窒素雰囲気下で還流しながら24時間反応させる。反応終了後、反応物を濾過して茶色の液体を得た後、n-ヘキサンを展開溶媒とするカラムクロマトグラフィ法で精製することにより淡黄色の液体が得られる。淡黄色の液体を60℃で8時間真空乾燥することによりOIBが回収される。
【0063】
OIB,N,N'-ジフェニルベンジン,酢酸パラジウム,トリ-tert-ブチルホスフィン,ナトリウム第三級ブチラート,o-キシレンを加え、窒素雰囲気下で24時間還流させ、反応終了後にクロロホルムで抽出し、水で洗浄することにより黒色の粘体が得られる。クロロホルム:n-ヘキサン=1:1のカラムクロマトグラフィ法で黒色粘体を精製することにより無色透明の粘体となる。次いで、無色透明の粘体を凍結乾燥し、2-プロパノールで再結晶させることにより白色の固体(TPD-8)が得られる。
【0064】
【化43】

【0065】
〔両キャリア輸送性液晶分子:2-4,2-(4'-オクチルフェニル)-6-ドデシルオキシナフタレン(8-PNP-O12)の合成〕
6-ブロモ-2-ナフトールをシクロヘキサノンに溶解し、炭酸カリウム及び1-ブロモドデカンを加え、窒素雰囲気中で還流させながら反応させ、反応終了後に反応生成物をジエタノールに溶解して濾過し、回収した濾液から溶媒を除去し、メタノールで精製して再結晶させることにより白色の固体(12NaB)が得られる。
【0066】
【化44】

【0067】
4-ブロモ-n-オクチルベンゼンをテトラヒドロフランに溶解し、窒素雰囲気中で氷点下まで冷却し、n-ブチルリチウムを加えて0℃で反応させた後、再び氷点下まで冷却し、2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキボランを加えて室温で反応させ、反応終了後に蒸留水を加えてクロロホルム及び食塩水で洗浄し、カラムクロマトグラフィ法(クロロホルム:n-ヘキサノン=1:2)で精製することにより、無色透明の液体(8BB)が得られる。
【0068】
【化45】

【0069】
12NaB及び8BBをテトラヒドロフランに溶解し、炭酸カリウム水溶液及びPd(PPh3)4を加えて温間で反応させ、反応終了後に蒸留水を加え、クロロホルム及び食塩水で洗浄した後、カラムクロマトグラフィ法(クロロホルム:n-ヘキサノン=1:2)で精製することにより、白色の固体(8-PNP-O12)が得られる。
【0070】
【化46】

【実施例1】
【0071】
ITO薄膜が形成されたガラス基板(透明基板1)を洗浄した後、ポジ型レジスト材料をスピンコート法で塗布し、100℃で50分間アニールすることによりレジスト膜を形成した。次いで、所定のパターンが形成されたフォトマスクを用いて10秒間紫外線照射し、現像後、可溶化したレジスト材料をイオン交換水で洗い流した。このガラス基板をエッチングした後、残っているレジストを剥離することにより所定のITOパターン(透明電極2)が形成された。
【0072】
ITOパターンが形成されたガラス基板に、膜厚100nmの有機発光材料MEH−PPV〔ポリ(2-メトキシ,5-(2'-エチル-へクソキシ)-1,4-フェニレンビニレン〕を成膜しラビングした。他方のガラス基板には、蒸着法でAl薄膜(背面電極5)を設けた後、MEH-PPVを100nm成膜しラビングした。ラビング後、2枚のガラス基板を重ね合わせ、液晶封入口を除いてエポキシ樹脂で接着した。なお,セルギャップは、900nmに調整した。
【0073】
電子輸送性発光材料として使用したMEH−PPVは、2-2-1,1-(2'-エチル-ヘキシロキシ)-4-メトキシベンゼン(EHMB),2-2-2,1,4-bis(クロロメチル)-2-(2'-エチル-ヘキシロキシ)-5-メトキシベンゼン(BCMB)を経由して次の方法で合成した。先ず、メトキシフェノール,水酸化カリウムをエタノールに溶解させた溶液に、エタノールに溶解させた3-ブロモメチルヘプタンを窒素気流中で滴下した。滴下終了後、オイルバス中80℃で24時間還流した。反応終了後、溶液を濾過し、濾液を回収してエバポレータで溶媒を除去した。残った溶液にクロロホルムを加え、1N希塩酸水溶液,1N水酸化ナトリウム水溶液,水の順で洗浄し、70℃で8時間真空乾燥させた後,淡黄色の液体(EHMB)を得た。EHMBは、1H−NMR,元素分析で同定した。このときの収率は82.3%であった。
【0074】
【化47】

【0075】
次いで、0℃に保冷したホルムアルデヒド溶液(37%)及び塩酸(37%)に、1,4-ジオキサンに溶解したEHMBを滴下した。滴下終了後、常温で18時間攪拌した。反応開始から10時間経過した時点でホルムアルデヒド溶液及び塩酸を更に加え、18時間後にオイルバス中で5時間還流した。反応終了後、クロロホルムで抽出し、1N水酸化ナトリウム水溶液,水の順で洗浄し、エバポレータで溶媒を除去した。更に、加温したメタノールを加えて常温に放置した後、冷凍庫に入れて白色の粗結晶を得た。粗結晶をメタノールで再結晶精製した後、冷メタノールで洗浄し、40℃で8時間真空乾燥させることによって白色の固体(BCMB)を得た。BCMBは、1H−NMR,元素分析で同定した。このときの収率は28.6%であった。
【0076】
【化48】

【0077】
BCMB,tert-ブチルベンジルクロリド(エンドキャップ剤)をTHFに溶解させた後、カリウムtert-ブトキシドを加え、窒素雰囲気下常温で30時間攪拌した。反応終了後、エバポレータでTHFを1/10程度まで減量し、貧溶媒のメタノールに注入して赤色の沈殿物を析出させた。濾過後、40℃で8時間真空乾燥することにより赤色のポリマー(MEH−PPV)を得た。クロロホルム(良溶媒),メタノール(貧溶媒)を用いた再沈殿精製法によりポリマーを3度精製した。得られたポリマーを、IRスペクトル,元素分析により同定した。このときの収率は31.9%で、重量平均分子量Mwが1,190,000,数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが2.7であった。
【0078】
【化49】

【0079】
有機発光材料としては、一般的に用いられている液晶材料である4-シアノ-4'-ペンチルビフェニル(5CB)に12-OKBを10質量%分散させた液晶を使用した。12-OKBは、5CBに取り込まれることにより室温付近で液晶相に転移し、濃度5質量%,10質量%,20質量%のときにシュリレーン構造が観察されるネマチック液晶であった。
【0080】
【化50】

【0081】
接着されたガラス基板(空セル)を室温で1時間乾燥した後、液晶を収容しているシャーレに空セルを入れてデシケータに納めた。真空ポンプを駆動させて真空状態に減圧し、シャーレにたまっている液晶に空セルの液晶封入口を漬け、デシケータから液晶を少量ずつリークさせて空セルに封入した。液晶が完全にセル7内に封入された後、液晶封入口を接着剤8(エポキシ樹脂)で接着し、1時間の乾燥でセルを作製した(図3)。
【0082】
セル7の各表面に偏光面が互いに平行になるようにそれぞれ偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態では暗であったが、15Vの電圧印加により明になった。他方、偏光面が互いに直交するように偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態では明であったが、15Vの電圧印加により暗になった。このことから、液晶表示装置として機能することが確認された。MEH−PPVに由来する発光は、35V以上の電圧印加によって視認され、131Vで最高0.175cd/m2の輝度が得られ、このときの外部量子効率は0.043%であった。このことから、12-OKBは、ホール輸送材料として機能することが確認された。
【実施例2】
【0083】
次式のPSS(ポリスチレンスルホン酸)をドープしたPEDOTをITOガラス基板側のMEH-PPVに代えて使用する以外は、実施例1と同様にセル7を作製した。
【0084】
【化51】

【0085】
得られたセル7の各表面に偏光面が互いに平行になるようにそれぞれ偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態では暗であったが、5Vの電圧印加により明になった。また、偏光面が互いに直交するように偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態で明であったが、5Vの電圧印加で暗になり、液晶表示装置として機能することが確認された。MEH-PPVに由来する発光は、セルに印加する電圧が15V以上になったときに視認され、90Vで最高1.04cd/m2の輝度が得られた。このときの外部量子効率は0.035%であった。
【実施例3】
【0086】
Al薄膜を形成しない以外は、実施例2と同様な方法によって液晶を封入し、透過型液晶表示装置として機能する有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。セル7の各表面に偏光面が互いに平行になるようにそれぞれ偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態では暗であったが、14Vの電圧印加により明になった。また、偏光面が互いに直交するように偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態で明であったが、14Vの電圧印加で暗になり、液晶表示装置として機能することが確認された。MEH-PPVに由来する発光は、印加電圧40V以上で視認され、155Vで最高0.7cd/m2の輝度が得られた。このときの外部量子効率は0.019%であった。
【実施例4】
【0087】
12-OKBに代えて8-OCuを使用した以外は、実施例2と同様にセルを作製した。得られたセル7の各表面に偏光面が互いに平行になるようにそれぞれ偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態では暗であったが、13Vの電圧印加により明になった。また、偏光面が互いに直交するように偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態で明であったが、13Vの電圧印加で暗になり、反射型液晶表示装置として機能することが確認された。8-OCuに由来する発光は、印加電圧60V以上で視認され、130Vで最高0.5cd/m2の輝度が得られた。
【実施例5】
【0088】
次の構造式をもつPVK(ポリビニリカルバゾール)及びクマリン6を12-OKBに代えて使用する以外は、実施例1と同様の方法でセルを作製した。
【0089】
【化52】

【0090】
セル7の各表面に偏光面が互いに平行になるように偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態では暗であったが、15Vの電圧印加により明になった。また、偏光面が互いに直交するように偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態で明であったが、15Vの電圧印加で暗になり、反射型液晶表示装置として機能することが確認された。クマリン6に由来する発光は、印加電圧70V以上で視認され、140Vで最高0.6cd/m2の輝度が得られた。比較のため、PVKを使用することなくセルを作製したところ、クマリン6に由来する発光の開始電圧が110Vと高くなった。このことから液晶に混合したPVKがキャリア輸送材料、クマリン6が発光材料として機能することが確認された。
【実施例6】
【0091】
次式のTPD(テトラフェニルジアミン)を12-OKBに代えて使用する以外は、実施例1と同様にセルを作製した。
【0092】
【化53】

【0093】
得られたセル7の各表面に偏光面が互いに平行になるようにそれぞれ偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態では暗であったが、13Vの電圧印加により明になった。また、偏光面が互いに直交するように偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態で明であったが、13Vの電圧印加で暗になり、反射型液晶表示装置として機能することが確認された。MEH−PPVに由来する発光は、印加電圧50V以上で視認され、120Vで最高1.2cd/m2の輝度が得られた。このことから、低分子キャリア輸送材料を分散させた液晶層は、キャリア輸送層として機能することが確認された。
【実施例7】
【0094】
実施例1と同様にしてITOパターンが形成されたガラス基板2枚を用意した。一方のガラス基板にPSS(ポリスチレンスルホン酸)をドープした膜厚100nmのPEDOTを成膜し、ラビングした。他方のガラス基板には、膜厚100nmのMEH−PPV(発光層)を成膜し、ラビングした。双方のラビング方向が直交するようにPEDOT薄膜とMEH−PPV薄膜とを対向させ、セルギャップ1μmで2枚のガラス基板を重ね合わせ、液晶封入口を除いてエポキシ樹脂で2枚のガラス基板を接着した。キャリア(ホール)輸送性液晶材料としては5CBにTPD-8を5質量%分散させた液を使用した。
【0095】
TPD-8は、ホットステージ上で昇温速度20℃/分,降温速度3℃/分,保定時間5分で昇降温させながら偏光顕微鏡で観察した場合、液晶性が検出されなかった。しかし、室温でも液晶性を呈する5CB中にTPD-8を5質量%分散させ、同様な条件下で偏光顕微鏡で観察することにより相転移温度を測定したところ、冷却過程で35℃の相転移温度が測定された。相転移温度は、5CBに対するTPD-8の分散濃度が高くなるに応じて低温側に移行した。すなわち、TPD-8は、5CBに取り込まれることによって室温近傍で液晶に転移し、濃度5質量%,10質量%,20質量%のときにシュリーレン構造が観察されるネマチック液晶であった。相転移は、TPD-8のトリフェニルアミン構造による立体障害やp位に付与したオクチロキシ基の回転角の大きさ等が5CBの配向状態を崩すことにより生じたものと考えられる。
【0096】
接着されたガラス基板(空セル)を室温で1時間乾燥した後、液晶を収容しているシャーレに空セルを入れてデシケータに納めた。真空ポンプを駆動させて真空状態に減圧し、シャーレにたまっている液晶に空セルの液晶封入口を漬け、デシケータから液晶を少量ずつリークさせて空セルに封入した。液晶が完全にセル7内に封入された後、液晶封入口を接着剤8(エポキシ樹脂)で接着し、1時間の乾燥でセルを作製した(図4)。
【0097】
セル7の各表面に偏光面が互いに平行になるようにそれぞれ偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態では暗であったが、18Vの電圧印加により明になった。他方、偏光面が互いに直交するように偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態では明であったが、18Vの電圧印加により暗になった。このことから、液晶表示装置として機能することが確認された。MEH−PPVに由来する発光は、28V以上の電圧印加によって視認され、47Vで最高2.5cd/m2の輝度が得られた。このことから、TPD-8は、ホール輸送材料として機能することが確認された。
【実施例8】
【0098】
MEH−PPVに代えてPSSをドープしたPEDOTを液晶への配向膜として、TPD-8に代えて10質量%の12-OKB及び0.3モル%のIr(ppy)3を5CBに加えて50℃に加温することにより溶解させた液晶性発光材料を有機発光層として使用する以外は、実施例7と同様にしてセル7を作製した。セル7の各表面に偏光面が互いに平行になるようにそれぞれ偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態では暗であったが、10Vの電圧印加により明になった。他方、偏光面が互いに直交するように偏光板9,10を配置すると、電源オフの状態では明であったが、10Vの電圧印加により暗になった。このことから、液晶表示装置として機能することが確認された。
【0099】
Ir(ppy)3に由来する発光は、57V以上の電圧印加によって視認され、92Vで最高17.8cd/m2の輝度が得られた。このことから、12-OKBを分散させた5CBはホール輸送材料として、Ir(ppy)3は発光材料として機能することが確認された。作製された有機エレクトロルミネッセンス素子の電圧−電流特性を図5に、電圧−発光強度を図6に示す。
【符号の説明】
【0100】
1:透明基板 ,2:透明電極,3:キャリア輸送層,4:有機発光層,
5:背面電極,6:駆動回路,7:セル,8:接着剤 ,9,10:偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式で表され電界発光性を呈する液晶材料

【請求項2】
次の一般式で表され電界発光性を呈する液晶材料

【請求項3】
次の一般式で表され電界発光性を呈する液晶材料

【請求項4】
次の一般式で表され電界発光性を呈する液晶材料

【請求項5】
次の一般式で表され電界発光性を呈する液晶材料

【請求項6】
少なくとも一方が透明な対向する電極間に、請求項1〜5のいずれかに記載された液晶材料からなる少なくとも1層のキャリア輸送層と、少なくとも一層の有機発光層を有し、前記電極間の印加電圧が、前記有機発光層の発光開始電圧より低い電圧では液晶素子として駆動し、前記発光開始電圧以上の電圧ではエレクトロルミネッセンス素子として駆動することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
少なくとも一方が透明な対向する電極間に、少なくとも1層のキャリア輸送層と、請求項1〜5のいずれかに記載された液晶材料からなる少なくとも1層の有機発光層を有し、前記電極間の印加電圧が、前記有機発光層の発光開始電圧より低い電圧では液晶素子として駆動し、前記発光開始電圧以上の電圧ではエレクトロルミネッセンス素子として駆動することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
少なくとも一方が透明な対向する電極間に、いずれか一方又は双方に請求項1〜5のいずれかに記載の液晶材料を混合した有機発光層及びキャリア輸送層が積層され、前記電極間の印加電圧が、前記有機発光層の発光開始電圧より低い電圧では液晶素子として駆動し、前記発光開始電圧以上の電圧ではエレクトロルミネッセンス素子として駆動することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
少なくとも一方が透明な対向する電極間に、少なくとも1層の請求項1〜5のいずれかに記載された液晶材料からなる有機発光層を有し、前記電極間の印加電圧が、前記有機発光層の発光開始電圧より低い電圧では液晶素子として駆動し、前記発光開始電圧以上の電圧ではエレクトロルミネッセンス素子として駆動することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−127128(P2011−127128A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22031(P2011−22031)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【分割の表示】特願2001−130527(P2001−130527)の分割
【原出願日】平成13年4月27日(2001.4.27)
【出願人】(000221926)東北パイオニア株式会社 (474)
【出願人】(501231510)
【Fターム(参考)】