説明

液晶表示装置及び投射型表示装置

【課題】黒表示の際の面内での明るさのバラツキを抑制し、コントラストを向上した液晶表示装置と、これを備えた投射型表示装置を提供する。
【解決手段】第1基81及び第2基板82と、これらの内面側に設けられた第1配向膜89と第2配向膜88と、誘電率異方性が負の液晶を有してなる液晶層83とを有し、第1配向膜89と第2配向膜89とに、互いに交差した配向規制方向が付与されてなる液晶パネル80と、液晶パネル80の有効画素領域を複数の領域に分割して複数の分割領域を設定するとともに、有効画素領域を最小階調で表示するときの最小階調電圧を、各分割領域毎にそれぞれ設定し、有効画素領域を最小階調で表示するときに、各分割領域に対してそれぞれ設定した最小階調電圧を印加させるようにした制御部61と、を備えた液晶表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置及び投射型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、正面から観察したときのコントラストに優れているとして、VA(Vertical Alignment)モードの液晶表示装置が注目されている。VAモードの液晶表示装置は、一対の基板間に液晶分子を略垂直に配向させた液晶層を備えたものである。
しかし、このようなVAモードの液晶表示装置でも、液晶分子にプレチルト角をもたせることにより、正面方向の位相差が発生するため、光学補償板によって位相差を補償する必要がある。
【0003】
これに対してツイストVAモードの液晶表示装置では、ツイストによって正面位相差が非常に小さくなるため、従来のVAモードの液晶表示装置に比べ、黒の明るさを低くすることができ、これによってコントラスト比を高めることができる。例えば、特許文献1では、ツイストVAモードの液晶パネルとして、一対の基板間でその配向膜の配向方向を非平行にし、液晶分子の配向方向をそれぞれの基板側で異ならせる技術が提案されている。
【0004】
このような液晶パネルでは、非常に高いコントラスト(コントラスト比)が得られ、さらに、光学補償板(位相差補償板)としてネガティブCプレート(負のCプレート)を用いることで、より黒表示時の明るさを小さくし、高いコントラストを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−212997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際の液晶パネル(液晶表示装置)では、製造上のバラツキなどによってパネル面内でツイスト角度やプレチルト角、セルギャプなどがわずかにばらついてしまう。また、光学補償板においても面内で位相差がわずかにばらつくことがある。すると、このような面内バラツキに起因して、液晶パネルでは黒表示時の明るさが面内でばらついてしまう。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、黒表示の際の面内での明るさのバラツキを抑制し、コントラストを向上した液晶表示装置と、これを備えた投射型表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため本発明の液晶表示装置は、第1基板及び第2基板と、前記第1基板の内面側に設けられた第1配向膜と、前記第2基板の内面側に設けられた第2配向膜と、前記第1配向膜と前記第2配向膜との間に挟持された、誘電率異方性が負の液晶を有してなる液晶層と、を有し、前記第1配向膜と前記第2配向膜とに、互いに交差した配向規制方向が付与されてなる液晶パネルと、
前記液晶パネルの有効画素領域を複数の領域に分割して複数の分割領域を設定するとともに、前記有効画素領域を最小階調で表示するときの最小階調電圧を、前記各分割領域毎にそれぞれ設定し、前記有効画素領域を最小階調で表示するときに、各分割領域に対してそれぞれ設定した最小階調電圧を印加させるようにした制御部と、を備えることを特徴としている。
【0009】
この液晶表示装置によれば、予め設定した分割領域毎に、黒表示を行う際の最小階調電圧をそれぞれ独立して設定し、有効画素領域を最小階調で表示して黒表示を行うときに、制御部により各分割領域に対してそれぞれ設定した最小階調電圧を印加させるようにしたので、製造上のバラツキなどによってツイスト角度やプレチルト角、セルギャプなどが液晶パネルの面内でばらついていても、各分割領域毎に黒表示のための最適な最小階調電圧を印加することが可能になるため、液晶パネルの面内で黒表示時の明るさがばらついてしまうのを抑制することができる。
【0010】
また、前記液晶表示装置においては、前記液晶パネルの光出射側の基板の外面側に、負のCプレートが設けられているのが好ましい。
このようにすれば、黒表示時の明るさをより小さく(弱く)し、高コントラスト化を図ることができる。
【0011】
本発明の投射型表示装置は、前記の液晶表示装置を光変調手段として備えたことを特徴としている。
この投射型表示装置によれば、前記したように面内で黒表示時の明るさがばらついてしまうのを抑制した液晶パネルを有する液晶表示装置を光変調手段として備えているので、この投射型表示装置自体も黒表示時の明るさのばらつき抑制されたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る液晶プロジェクターの概略構成を示す斜視図である。
【図2】画像形成系の概略構成を示す図である。
【図3】反射型光変調装置の概略構成を説明するための模式図である。
【図4】TFT基板の概略構成を示す斜視図である。
【図5】ツイスト角度を説明するための、液晶パネルを平面視した図である。
【図6】有効画素領域及び分割画素領域を説明するための模式図である。
【図7】制御部を説明するためのブロック図である。
【図8】(a)、(b)は印加電圧と明るさとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の液晶表示装置とこれを備えた投射型表示装置について説明する。図1は、本発明の液晶表示装置を光変調手段として備えた投射型表示装置の一例としての、液晶プロジェクター1の概略構成を示す模式図である。
【0014】
液晶プロジェクター1は、光源装置2、インテグレーター光学系3、色分離光学系4、3系統の画像形成系5、色合成素子6、投射光学系7を有している。3系統の画像形成系5として、第1の画像形成系5a、第2の画像形成系5b、および第3の画像形成系5cが設けられている。
【0015】
光源装置2から射出された光束は、インテグレーター光学系3に入射する。インテグレーター光学系3に入射した光束は、照度が均一化されるとともに偏光状態が揃えられる。インテグレーター光学系3から射出された光束は、色分離光学系4により複数の色光束に分離され、色光束ごとに異なる系統の画像形成系5に入射する。3系統の画像形成系5の各々に入射した色光束は、表示すべき画像の画像データに基づいて変調されて変調光束となる。3系統の画像形成系5から出射された3色の変調光束は、色合成素子6により合成されて多色光束となり、第1のレンズ部71及び第2のレンズ部72を含む投射光学系7に入射する。そして、スクリーン等の被投射面(図示略)に投射される。これにより、被投射面にフルカラーの画像が表示される。
【0016】
次に、プロジェクター1の構成要素について詳しく説明する。
光源装置2は、光源ランプ21および放物面リフレクター22を有している。光源ランプ21から放射された光は、放物面リフレクター22により一方向に反射されて略平行な光束となり、インテグレーター光学系3に入射する。光源ランプ21は、例えばメタルハライドランプ、キセノンランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ等によって構成されている。また、放物面リフレクター22の代わりに楕円リフレクター、球面リフレクター等によってリフレクターを構成してもよい。リフレクターの形状に応じて、リフレクターから射出された光を平行化する平行化レンズが用いられることもある。
【0017】
インテグレーター光学系3は、第1のレンズアレイ31、第2のレンズアレイ32、偏光変換素子34、および重畳レンズ35を有している。インテグレーター光学系3の光軸30は、光源2の光軸20と略一致しており、前記のインテグレーター光学系3の構成要素の各々は、中心位置がインテグレーター光学系3の光軸30上に並ぶように配置されている。
【0018】
第1のレンズアレイ31は、光源2の光軸20に略直交する面に配列された複数のレンズ要素311を有している。第2のレンズアレイ32は、レンズ要素311と同様に複数のレンズ要素321を有している。レンズ要素311、321は、例えばマトリックス状に配列されている。
【0019】
偏光変換素子34は、複数の偏光変換ユニット341を有している。偏光変換ユニット341は、その詳細な構造を図示しないが、偏光ビームスプリッター膜(以下、PBS膜という)、1/2位相板および反射ミラーを有して構成されている。
第1のレンズアレイ31のレンズ要素311は、第2のレンズアレイ32のレンズ要素321と1対1で対応しており、第2のレンズアレイ32のレンズ要素321は、偏光変換素子34の偏光変換ユニット341と1対1で対応している。互いに対応関係にあるレンズ要素311、321および偏光変換ユニット341は、光軸30と略平行な軸に沿って並んで配置されている。
【0020】
インテグレーター光学系3に入射した光束は、第1のレンズアレイ31の複数のレンズ要素311に空間的に分かれて入射し、レンズ要素311に入射した光束ごとに集光される。レンズ要素311により集光された光束は、レンズ要素311と対応するレンズ要素321に結像する。すなわち、第2のレンズアレイ32の複数のレンズ要素321の各々に二次光源像が形成される。レンズ要素321に形成された二次光源像からの光束は、このレンズ要素321に対応する偏光変換ユニット341に入射する。
【0021】
偏光変換ユニット341に入射した光束は、PBS膜に対するP偏光光束とS偏光光束とに分離される。分離された一方の偏光光束は、反射ミラーで反射した後に1/2位相板を通り、他方の偏光光束と偏光状態が揃えられる。ここでは、偏光変換ユニット341を通った光束の偏光状態が、P偏光光束に揃えられるようになっている。複数の偏光変換ユニット341の各々から出射された光束は、重畳レンズ35に入射して屈折し、反射型光変調装置(光変調手段)8の被照明領域に重畳される。
【0022】
このように第1のレンズアレイ31により空間的に分割された複数の光束の各々が、被照明領域の略全域を照明することにより、複数の光束で照度分布が平均化され、被照明領域での照度が均一化されるようになっている。
ここで、前記の反射型光変調装置8は本発明の液晶表示装置の一実施形態を構成するもので、液晶パネル80とこの液晶パネル80の前方に配置された位相差補償板(光学補償板)60(60a、60b、60c)とを備えて構成されている。なお、この反射型光変調装置8(液晶表示装置)については後に詳述する。
【0023】
色分離光学系4は、波長選択面を有する第1〜第3のダイクロイックミラー41〜43、および第1、第2の反射ミラー44、45を有して構成されている。第1のダイクロイックミラー41は、赤色光束を反射させるとともに、緑色光束および青色光束を透過させる特性を有している。第2のダイクロイックミラー42は、赤色光束を透過させるとともに、緑色光束および青色光束を反射させる特性を有している。第3のダイクロイックミラー43は、緑色光束を反射させるとともに、青色光束を透過させる特性を有している。第1、第2のダイクロイックミラー41、42は、各々の波長選択面を互いに略直交するように、かつ各々の波長選択面がインテグレーター光学系3の光軸30と略45°の角度をなすように配置されている。
【0024】
色分離光学系4に入射した光束に含まれる赤色光束L10、緑色光束L20および青色光束L30は、以下のようにして分離され、分離された色光束ごとに対応する画像形成系5に入射する。光束L10は、第2のダイクロイックミラー42を透過するとともに第1のダイクロイックミラー41で反射した後に、第1の反射ミラー44で反射して、第1の画像形成系5aに入射する。光束L20は、第1のダイクロイックミラー41を透過するとともに第2のダイクロイックミラー42で反射した後に、第2の反射ミラー45で反射し、次いで第3のダイクロイックミラー43で反射して、第2の画像形成系5bに入射する。光束L30は、第1のダイクロイックミラー41を透過するとともに第2のダイクロイックミラー42で反射した後に、第2の反射ミラー45で反射し、次いで第3のダイクロイックミラー43を透過して、第3の画像形成系5cに入射する。
【0025】
第1〜第3の画像形成系5a〜5cは、同様の構成になっている。ここでは、第1〜第3の画像形成系5a〜5cを代表して、第2の画像形成系5bの構成について説明する。
図2は、第2の画像形成系5bの概略構成を示す図である。図2に示すように第2の画像形成系5bは、入射側偏光板91b、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター(以下、WG−PBSと記す)93b、位相差補償板60b(60)、液晶パネル80b(80)、および出射側偏光板(偏光検光子)92bを有して構成されている。なお、位相差補償板60b(60)と液晶パネル80b(80)とによって反射型光変調装置8b(8)が形成されており、これによって本発明の液晶装置の一実施形態が構成されている。
【0026】
図1に示すように色分離光学系4から射出される光束の一部である緑色光束L20は、入射側偏光板91bに入射する。入射側偏光板91bは、直線偏光を通すものであり、WG−PBS93bの偏光分離面に対するP偏光光束を通すように、透過軸が設定されている。以下、WG−PBS93bの偏光分離面に対するP偏光光束を単にP偏光光束と称し、WG−PBS93bの偏光分離面に対するS偏光光束を単にS偏光光束と称する。前述のように、インテグレーター光学系3を通った光束は、偏光状態がP偏光光束に揃えられており、光束L20のほとんどが入射側偏光板91bを通り、WG−PBS93bの偏光分離面(図示せず)に入射する。
【0027】
WG−PBS93bの偏光分離面に入射した光L20のうちで、偏光方向が反射軸方向であるS偏光は偏光分離面で反射し、偏光方向が透過軸方向であるP偏光は偏光分離面を透過する。インテグレーター光学系3から出射された緑色の光束L20は、概ねP偏光になっており、偏光分離面を通って反射型変調装置8bに入射する。ここで、WG−PBS93bは、その透過軸が後述する液晶パネル80aの液晶層の遅相軸に対して交差するように、液晶パネル80bに対して配置されている。
反射型光変調装置8bに入射した光束L20は、位相差補償板60bを透過し、液晶パネル80bで変調された後、反射されて再度位相差補償板60bに入射する。
【0028】
位相差補償板60bに入射した光束L20(変調光)は、位相差補償板60bによって光学補償がなされた後、WG−PBS93bに再度入射する。そして、偏光状態が変更された光束L20はWG−PBS93bで反射され、出射側偏光板92bを選択的に透過して色合成素子6に入射する。同様にして、赤色光束L10、青色光束L30もそれぞれ光学補償等がなされた後、色合成素子6に入射する。
そして、色合成素子6に入射した光はここで合成されて多色光束となり、前述したように投射光学系7に入射し、さらにスクリーン等の被投射面(図示略)に投射される。
【0029】
次に、反射型光変調装置8(8a、8b、8c)を構成する液晶パネル80(80a、80b、80c)、および位相差補償板60(60a、60b、60c)について詳述する。
液晶パネル80は、図3の模式図に示すように互いに平行に配置された対向基板(第1基板)81とTFT基板(第2基板)82とが、シール材(図示せず)で貼り合わされ、これら基板81、82間に液晶層83が挟持・封入された反射型ツイストVAモードのパネルである。
【0030】
TFT基板82は、シリコン基板やガラス基板を基体として構成されている。シリコン基板を用いる場合には、いわゆるLCOS(Liquid crystal on silicon)になる。このTFT基板82は、図4に示すようにその内面側に複数のゲート線84、複数のソース線85、複数の薄膜トランジスター(以下、TFTという)86、および画素電極87を有している。
【0031】
複数のゲート線84は、互いに平行に延在しており、また、複数のソース線85も、互いに平行に延在している。ゲート線84の延在方向(X方向)は、ソース線85の延在方向と交差(ここでは直交)している。ゲート線84が、ソース線85と交差する部分ごとに、TFT86が設けられている。ゲート線84は、TFT86のゲート電極と電気的に接続されている。ソース線85は、TFT86のソース領域と電気的に接続されている。
【0032】
ゲート線84とソース線85とに囲まれる部分は、1つの変調要素になっている。本実施形態では、1つの変調要素が1つの画素Pになっている。これら画素Pは、1方向に等ピッチで配列されているとともに、これと直交する他の1方向にも等ピッチで配列されている。複数の画素Pには、画素Pごとに独立した島状の画素電極87が設けられている。本実施形態の画素電極87は、金属材料からなり、鏡面反射板を兼ねている。図4では、画素電極87を切欠いて、画素電極87の下地側を模式的に図示している。実際には、画素電極87は、平坦化層や絶縁層を介してゲート線84、ソース線85、TFT86を被覆しており、画素Pの開口率が高められている。画素電極87は、TFT基板82の内面側に形成されたもので、TFT87のドレイン領域と電気的に接続されている。画素電極87上には、図3に示すようにこれを覆って第2配向膜88が形成されている。
【0033】
図4に示したゲート線84は、TFT基板82に設けられたゲート線駆動回路(図示せず)に接続されており、ゲート線駆動回路から供給される走査信号を各画素Pに供給するようになっている。また、ソース線85は、TFT基板82に設けられたソース線駆動回路(図示せず)に接続されており、ソース線駆動回路から供給されるデータ信号を各画素Pに供給するようになっている。ここで、ソース駆動回路は、特に最小階調で表示するいわゆる黒表示のときには、データ信号を、液晶パネル80の有効画素領域を複数の領域に分割してなる分割領域毎に、予め設定された最小階調電圧を印加するようになっている。なお、このような制御を行う制御部ついては後述する。
【0034】
図3に示すように対向基板81には、ガラス基板の内面側にITOからなる共通電極(透明電極)(図示せず)が設けられており、さらに共通電極上に第1配向膜89が形成されている。
配向膜88、89は、本実施形態では真空蒸着法によってSiOが斜方蒸着されて形成されている。斜方蒸着については、例えば基板面から所定角度傾いた方向から蒸着を行うことにより、蒸着と同じ方位に所望の角度傾いた方向に、SiOのカラムを成長させ、これによって配向膜88、89に異方性を付与している。すなわち、配向膜88、89は、カラムを基板上に投影したときの傾き方向(カラムの傾き方向)に沿うように、配向規制力を有している。本実施形態では、対向基板81側の第1配向膜89とTFT基板82側の第2配向膜88とは、それぞれのカラムの傾き方向K1、K2が所定の角度で交差するよう、非平行に形成されている。したがって、これら第1配向膜88と第2配向膜89とは、互いに交差する方向に配向規制方向を有している。
【0035】
そして、これら対向基板81、TFT基板82が、本実施形態では2.2μmのセルギャップに保持されて貼り合わされ、その間に誘電率異方性が負の液晶(Δn=0.12)が注入されたことにより、液晶セルが形成されている。また、液晶層83を構成する液晶分子83aは、プレチルト角θp(極角からの角度)が6°となるように配向させられている。なお、ここでは、極角は対向基板81、TFT基板82の内面の法線方向とする。
【0036】
このような構成によって液晶分子83aは、図3に示したように配向膜88、89間において、これら配向膜88、89のカラムの傾き方向(チルト方向)K1、K2に対応してツイストして(捩れて)いる。この液晶分子のツイスト角度は、図5に示すように、対向基板(第1基板)81の第1配向膜89の蒸着方向V1と、TFT基板(第2基板)82の第2配向膜88の蒸着方向V2とによって決まる。ここで、カラムの傾き方向K2、と蒸着方向V1、カラムの傾き方向K1と蒸着方向V2とは、それぞれの直線の長さ方向について一致している。本実施形態では、液晶分子の特性上その回り易い(捩れやすい)方向が、図5においてTFT基板82側から対向基板81側に向かって、反時計回り方向となっている。したがって、液晶分子のツイスト角度は120°となっている。
【0037】
このように液晶分子83aがツイストしていることで、この液晶分子83aからなる液晶層83を有した液晶パネル80は、正面位相差が非常に小さくなっている。
そして、本実施形態では、図3に示すようにこの液晶パネル80の対向基板81の外側、すなわち光出射側に、ネガティブCプレート(負のCプレート、以下、単にCプレートと記す。)からなる位相差補償板60が、傾けられることなく平行に設けられている。この位相差補償板60は、例えばスパッタ法等によって基板上に高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層されて形成された多層膜からなる1軸性複屈折率体であり、位相差補償板60の表面に対して垂直な光学軸を有し、液晶パネル80から出射(反射)してきた斜めの光の位相差を補償するようになっている。
【0038】
すなわち、位相差補償板(Cプレート)60はその主屈折率が、nx=ny>nzであり、したがってこの位相差補償板60に対してその光学軸に平行に入射する光に対しては等方的であることから、位相差を補償することができない。一方、液晶パネル80から出射した光のうち、斜め成分の光については、その位相差を光学補償するようになっている。
【0039】
また、前記液晶パネル80には、これと一体に、あるいはこれに接続して、制御部61が設けられている。この制御部61は、前記のソース駆動回路を制御することにより、特に最小階調で表示する黒表示の際、前記画素Pに予め設定した最小階調電圧を印加させるようにしたものである。具体的には、この制御部61には、前記画素Pの複数の集合による、分離領域が記憶されており、この分離領域毎に、予め設定した最小階調電圧を印加させるようにしている。
【0040】
液晶パネル80は、図6の模式図に示すように、矩形状の有効画素領域62が予め複数の領域に分割され、それぞれ分割領域63とされている。分割する数については、特に限定されることなく、複数(2以上)であればよい。この分割数は、黒表示を行う際に、有効画素領域62全体で明るさのばらつきがなく、均一な黒表示が行える数に設定される。ただし、分割数を多くし過ぎると制御が複雑になるとため、十程度〜千程度とするのが好ましい。また、分割の仕方については、例えば矩形状の有効画素領域62を縦横でそれぞれに分割することにより、矩形状の分割領域63に設定する。なお、各分割領域63については、必ずしも構成する画素Pの数を全て同じにする必要はなく、各分割領域63毎に画素Pの数を変えてもよい。
【0041】
本実施形態では、図6に示したように縦横をそれぞれ3分割(それぞれ等分に分割)し、それぞれ同じ数の画素Pからなる分割領域63を、合計9個設定している。これら分割63は、それぞれを構成する画素Pとともに予め設定され、図7のブロック図に示すように、制御部61の分割領域記憶部64に記憶されている。
【0042】
また、制御部61には、各分割領域63にそれぞれ印加する最小階調電圧を記憶する、印加電圧記憶部65が備えられている。この印加電圧記憶部65に記憶される最小階調電圧は、以下のようにして設定される。
従来では、有効画素領域62全体について、同一の電圧(通常は0V)を印加することで最小階調である黒表示を行っていた。
【0043】
ところが、ツイストVAモードでは、製造上のバラツキなどによってパネル面内、すなわち有効画素領域62内でツイスト角度やプレチルト角、セルギャプなどがわずかにばらついてしまうことにより、黒表示時の明るさも面内でばらついてしまうことがある。このように黒表示時の明るさが面内でばらついてしまうと、黒表示時の有効画素領域62の表示は、十分な黒、すなわち十分な暗さにならず、部分的に僅かながら明るい領域が形成され、黒表示の均一性が得られなくなってしまう。また、最大階調となる白表示との間のコントラスト比も、十分な高さにならなくなってしまう。
【0044】
図8(a)は、図6に示した9個の分割領域63のうちの領域(1)、領域(5)、領域(9)について、印加電圧と明るさとの関係を求めた結果を示すグラフである。なお、この明るさは、図1における液晶パネル80bを反射し、位相差補償板60を透過し、さらにWG−PBS93aを反射して色合成素子6、投射光学系7に順次入射し、さらにスクリーン等の被投射面(図示略)に投射された際の明るさを、照度計や輝度計などによって測定した値である。
【0045】
図8(a)に示すように、いずれの領域でも、0Vから1.5V程度の範囲で、明るさがほぼ0であり、したがって黒表示時には、全ての分割領域について、同じ最小階調電圧(例えば0V)を印加すればよいように思われる。しかし、図8(a)において、印加電圧が低い領域を拡大した図8(b)のグラフを見ると、最も暗くなる電圧(最小階調電圧)は、各領域毎に僅かながら異なっている。したがって、黒表示時に全ての分割領域63へ同じ電圧(例えば0V)を印加すると、各分割領域63毎で、その明るさが異なってしまうことが分かる。
【0046】
そこで、本実施形態では、前記したように各分割領域63にそれぞれ印加する最小階調電圧を設定するべく、予め各分割領域63毎に最も明るさが低くなる(暗くなる)印加電圧を求める。例えば図8(b)から、領域(1)では0.4V付近が最も暗くなり、領域(5)では0.0V〜0.3Vの範囲で最も暗くなり、領域(9)では0.5V〜0.6Vの間で最も暗くなる。したがって、この結果から、例えば領域(1)では0.4Vを最小階調電圧とし、領域(5)では0.0Vを最小階調電圧とし、領域(9)では0.55Vを最小階調電圧として設定する。同様にして、残りの分割領域(2)〜(4)、(6)〜(8)についても、それぞれの最小階調電圧を設定しておく。そして、このように設定した最小階調電圧を、図7に示すように対応する分割領域63とともに、制御部61の印加電圧記憶部65に記憶させておく。
【0047】
また、制御部61には、前記したようにソース駆動回路に対し、黒表示を行う際に各分割領域63毎に、予め設定された最小階調電圧を印加するように信号を与える、回路制御部66が設けられている。この回路制御部66は、分割領域記憶部64に記憶した分割領域63と、印加電圧記憶部65に記憶した最小階調電圧とに基づき、有効画素領域62を最小階調で表示するとき、各分割領域63に対してそれぞれ設定した最小階調電圧を印加するように信号を与えるものである。
【0048】
ここで、従来の液晶パネルでは、黒表示のときの最小階調電圧については同一にしているものの、この最小階調より高い中間階調域や白表示のときの最大階調については、同じ階調を表示するときでも、予め設定した分割領域毎に異なる電圧を印加するようにしている。したがって、本実施形態では、回路制御部66として、従来の中間階調域や最大階調ついて分割領域毎に印加する電圧を変えるように制御する回路制御部と、同様のものを採用することができる。すなわち、従来の回路制御部において、特に黒表示を行う際に、有効画素領域61全体に同一の電圧を印加するのでなく、分割領域63毎に最適な最小階調電圧を印加するように構成することで、本実施形態の回路制御部66を形成することができる。
【0049】
このように本実施形態では、分割領域記憶部64と印加電圧記憶部65と回路制御部66とを備えた制御部61を有しているので、予め設定した分割領域63毎に、黒表示を行う際の最小階調電圧をそれぞれ独立して設定し、黒表示を行うときに、制御部61により各分割領域63に対してそれぞれ設定した黒表示のための最適な最小階調電圧を印加させることができる。したがって、液晶パネル80の面内で黒表示時の明るさがばらついてしまうのを抑制し、黒表示時において有効画素領域62全体で均一な黒表示を可能にし、最大階調となる白表示との間のコントラスト比も十分な高さにすることができる。
【0050】
(実験例1)
前記実施形態の液晶パネル80及び制御部61を備えてなる液晶表示装置(液晶プロジェクター1)について、黒表示を行わせた際の、各分割領域(1)〜(9)における黒照度(明るさ)と、コントラスト比とを求めた。得られた結果を表1に示す。なお、表1中において黒照度は、分割領域(5)における照度を1とし、他の分割領域(1)〜(4)、(6)〜(9)についても規格化した値を示している。また、表1中の周辺照度比は、分割領域(5)を除いた各分割領域(1)〜(4)、(6)〜(9)の照度の平均値を、分割領域(5)の照度で割ったものである。さらに、コントラスト比は、最大階調(白表示)での照度と最小階調(黒表示)での照度との比である。
【0051】
【表1】

【0052】
また、比較のため、制御部61による制御を行うことなく、従来のように黒表示を行わせた際に、全ての分割領域(1)〜(9)に同一の電圧(0V)を印加した場合の、各分割領域における黒照度(明るさ)とコントラスト比とを求めた。得られた結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表1、表2に示した結果より、制御部61による制御を行った本実施形態の液晶表示装置では、従来の液晶表示装置に比べ、各分割領域(1)〜(9)をほぼ均一な暗さにすることができることができ、また、コントラスト比についての、各分割領域間での最大(Max)と最小(Min)との差も、格段に小さくできることが確認された。
【0055】
なお、前記実施形態では、本発明に係る液晶パネルとして、反射型ツイストVAモードのパネルを用いた場合について説明したが、本発明の液晶表示装置は、透過型のツイストVAモードのパネルを用いることができる。その場合に、例えば図1に示した液晶プロジェクター1において、WG−PBS93を介することなくインテグレーター光学系3からの光を直接、透過型の液晶パネルに入射させるようにする。その際、液晶パネルの出射側に位相差補償板60を配置しておく。
【0056】
(実験例2)
このように構成した透過型の液晶パネル及び前記制御部61を備えてなる液晶表示装置(液晶プロジェクター)について、実験1と同様にして、黒表示を行わせた際の各分割領域(1)〜(9)における黒照度(明るさ)と、コントラスト比とを求めた。得られた結果を表3に示す。
また、比較のため、制御部61による制御を行うことなく、従来のように黒表示を行わせた際に、全ての分割領域(1)〜(9)に同一の電圧(0V)を印加した場合の、各分割領域における黒照度(明るさ)とコントラスト比とを求めた。得られた結果を表4に示す。
なお、透過型の液晶パネルとしては、セルギャップを3.8μmとし、誘電率異方性が負の液晶(Δn=0.12)を用い、液晶分子のツイスト角度を120°にするとともに、液晶分子のプレチルト角θp(極角からの角度)を6°となるように配向させたものを用いた。
【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
表3、表4に示した結果より、制御部61による制御を行った本実施形態の液晶表示装置では、従来の液晶表示装置に比べ、各分割領域(1)〜(9)をほぼ均一な暗さにすることができることができ、また、コントラスト比についての、各分割領域間での最大(Max)と最小(Min)との差も、格段に小さくできることが確認された。
【0060】
なお、以上では、第1〜第3の画像形成系5a〜5cを代表して第2の画像形成系5bについて説明しているが、第1の画像形成系5a、第3の画像形成系5cについても、制御部61によって同様の制御を行う。
【0061】
以上に説明したように、液晶パネル80と制御部61とを備えてなる本実施形態の液晶表示装置にあっては、液晶パネル80の面内で黒表示時の明るさがばらついてしまうのを抑制し、黒表示時において有効画素領域61全体で均一な黒表示を可能にし、最大階調となる白表示との間のコントラスト比も十分な高さにすることができる。
また、この液晶表示装置を光変調手段として備えた液晶プロジェクター1(投射型表示装置)にあっては、黒表示時の明るさのばらつき抑制され、したがって高コントラストでの表示が可能なものとなる。
【0062】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば前記実施形態では、液晶パネル80における各分割領域63の最小階調電圧を、図8(b)に示したようにスクリーン上またはその手前で実際に測定した照度に基づき、決定したが、液晶パネル80を経て、位相差補償板60、出射側偏光92を出射した直後の光の照度を測定し、これに基づいて各分割領域63の最小階調電圧を決定するようにしてもよい。
このような最小階調電圧の決定方法を採用することにより、液晶パネル80としては、携帯情報端末の表示画面や、テレビ、モニターなどの直視型のディスプレイにも適用可能となる。さらに、他の液晶表示装置として、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)やビューファインダ(EVF)に、本発明の液晶表示装置を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…液晶プロジェクター(投射型表示装置)、8(8a、8b、8c)…反射型光変調装置、60(60a、60b、60c)…位相差補償板、61…制御部、62…有効画素領域、63…分割領域、64…分割領域記憶部、65…印加電圧記憶部、66…回路制御部、80…液晶パネル、81…対向基板(第1基板)、82…TFT基板(第2基板)、83…液晶層、88…第2配向膜、89…第1配向膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板及び第2基板と、前記第1基板の内面側に設けられた第1配向膜と、前記第2基板の内面側に設けられた第2配向膜と、前記第1配向膜と前記第2配向膜との間に挟持された、誘電率異方性が負の液晶を有してなる液晶層と、を有し、前記第1配向膜と前記第2配向膜とに、互いに交差した配向規制方向が付与されてなる液晶パネルと、
前記液晶パネルの有効画素領域を複数の領域に分割して複数の分割領域を設定するとともに、前記有効画素領域を最小階調で表示するときの最小階調電圧を、前記各分割領域毎にそれぞれ設定し、前記有効画素領域を最小階調で表示するときに、各分割領域に対してそれぞれ設定した最小階調電圧を印加させるようにした制御部と、を備えることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記液晶パネルの光出射側の基板の外面側に、負のCプレートが設けられていることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液晶表示装置を光変調手段として備えたことを特徴とする投射型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−215450(P2011−215450A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84903(P2010−84903)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】