説明

液晶表示装置

【課題】支持板や回路基板からの応力が保護樹脂を介して液晶表示パネルに伝わり、ガラスのゆがみや液晶表示パネルのギャップの変動が生ずるのを防止し、それにより画像品質の低下を回避する。さらに、ワイヤーの断線を防止する。
【解決手段】対向配置した2枚の基板の間隙に液晶層を狭持しシール剤で液晶層を密封してなる液晶表示パネル8と、液晶表示パネル8とワイヤーボンディングにより電気的に接続された回路基板3と、液晶表示パネル8と回路基板3とを保持するベース部材4とからなる液晶表示装置において、ワイヤーボンディングにより形成されたワイヤー1を保護する保護樹脂2の硬度が針入度で0より大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクタ、プロジェクションTV等の基幹部品として利用される液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタ等に用いられる液晶表示装置は、透過型と反射型がある。透過型液晶表示装置は、画素電極を設けた2枚の透明基板間に液晶を挟みこむ構造である。電極に電圧をかけて液晶の配向状態を変化させて通過する光を制御し、画像パターンを表示する。
【0003】
一方、反射型液晶表示装置は、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)と呼ばれ、シリコン基板と対向する透明基板の間に液晶を挟みこむ構造である。シリコン基板側には反射画素電極を設け、透明基板と液晶層を通過した光は、反射画素電極で反射され画像パターンを表示する。透過型液晶表示装置では、透明基板内に液晶駆動回路が作られているため開口率に影響するが、反射型液晶表示装置では、画素電極下に回路が作られているため高い開口率を有する。
【0004】
従来の液晶表示装置において、外部回路基板への接続にワイヤーボンディングを使った封止技術が下記特許文献1に提案されている。
【0005】
図4は、同文献に開示された液晶表示装置の側面図である。
【0006】
この液晶表示装置は透過型であって、ベース部材である金属プレート20に接着樹脂層19を介して液晶表示電極端子などの配線部14を挟んで透明基板であるガラス基板13a,13bで構成された液晶表示パネルと回路基板18を配設する。さらに、回路基板18上には接着用樹脂16で固定された駆動用IC11と配線部17を設けている。また、ボンディングワイヤー15で、表示電極端子などの配線部14、駆動用IC11及び配線部17とを電気的に接続している。さらに、液晶表示電極端子などの配線部14、駆動用IC11、配線部17及びボンディングワイヤー15は、無溶剤系ウレタン樹脂である保護樹脂材12で被覆し、固化している。保護樹脂材12に溶剤が含有されておらず、これにより、従来の如く溶剤中に僅かに水分が混入するという不具合がなく、その結果、駆動用IC11や配線部14が腐食されなくなった。
【0007】
ここで、無溶剤系ウレタン樹脂は、硬化後の硬度がJIS−A(ショアA)で60〜100度のものを使用する。これに(−30℃にて30分保持)と(+70℃にて30分保持)という温度/時間を繰り返す熱衝撃試験を行っても、外的強度を加えても液晶表示に異常の発生はない。
【特許文献1】特開2003−36035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載された従来の液晶表示装置において、保護樹脂材としての無溶剤系ウレタン樹脂2の硬度がJIS−Aで60〜100度ということは、針入度(JIS−K−2207)では0に対応する。そこで、以下の問題点があった。
(1)液晶表示パネルが実装されるプロジェクタなどは液晶表示パネルや保護樹脂に100℃程度の熱がかかるものがある。
【0009】
このような100℃程度の高温下で、針入度が0の硬い保護樹脂を使用すると次のような事態が起こる。液晶表示パネルと回路基板や駆動用ICが保護樹脂によって固定されているため、ベース部材や回路基板からの応力が保護樹脂を介して液晶表示パネルに伝わりガラスのゆがみや液晶表示パネルのギャップが変動し、画像品質を劣化させる。
(2)また、強い温度サイクル試験では保護樹脂が膨張収縮し、硬い保護樹脂と液晶表示パネルや駆動用ICさらに回路基板との界面で接着剤剥離を起こしやすい。
(3)さらに、ワイヤーを保護する保護樹脂が硬いと熱応力でワイヤーが断線しやすい。
【0010】
そこで、本発明の目的は、ベース部材や回路基板からの応力が保護樹脂を介して液晶表示パネルに伝わり、ガラスのゆがみや液晶表示パネルのギャップの変動が生ずるを防止することであり、それにより画像品質の低下を回避することにある。さらに、ワイヤーが断線するのを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の液晶表示装置は、ワイヤーボンディングにより形成されたワイヤーを保護する保護樹脂の硬度に着目し、その針入度が0より大きい柔軟化されたものを使用している。
【0012】
本発明の液晶表示装置は、対向配置した2枚の基板の間隙に液晶層を狭持しシール剤で前記液晶層を密封してなる液晶表示パネルと、前記液晶表示パネルとワイヤーボンディングにより電気的に接続された回路基板と、前記液晶表示パネルと前記回路基板とを保持するベース部材とからなる液晶表示装置において、前記ワイヤーボンディングにより形成されたワイヤーを保護する保護樹脂の硬度が針入度で0より大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、回路基板やベース部材と液晶表示パネルを、保護樹脂を柔軟化することで応力分離し、回路基板やベース部材から液晶表示パネルにストレス伝達されることを回避し、画像品質を高レベルで維持する。同時に、ワイヤーに掛かるストレスを低減しワイヤー断線を防止する。
【0014】
また、保護樹脂が接する液晶表示パネルのギャップにも影響を与えないため画像品質が向上する。加えて、信頼性試験の温度サイクルテストで保護樹脂とそれに接する液晶表示パネルを含む部材間とのストレスが低減でき、保護樹脂の界面剥れが無くなり高信頼性の液晶表示装置が提供できる。
【0015】
さらに、液晶表示パネルの縦置き使用が可能となりプロジェクタ等への製品搭載が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下の実施形態では、反射型液晶表示装置について説明する。しかし、本発明は、液晶表示装置において、ワイヤー保護用の保護樹脂の硬度に着目し、その針入度が0より大きい柔軟化されたものを使用することを骨子としており、透過型液晶表示装置、反射型液晶表示装置のいずれの構造にも適用される。
【0017】
[実施形態1]
以下、本発明の実施形態1を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本実施形態1の反射型液晶表示装置の平面図で、図2は同側面図である。
【0019】
シリコン基板であるチップ8aと透明基板8bで構成される液晶表示パネル8は、緩衝性と放熱性のある20〜300μm厚程度のテープ材5を介してベース部材4に固定される。回路基板であるフレキシブルプリント基板(以下、FPC)3もベース部材4に接着固定している。FPC3はチップ8aに対してその周囲を囲む形状である。
【0020】
ここで、テープ材5の求められる特性は、液晶表示パネル8と板状のベース部材4を熱応力や機械的応力から樹脂の持つ柔軟性で分離すること、さらに液晶表示パネル8が受ける熱を放熱し液晶表示パネル8の熱変形を防止するためである。
【0021】
一方、透明基板8bに形成しているITO(図中省略)は、ここでは導電性樹脂6を介してFPC3に電気的に接続しているが特に限定されない。液晶表示パネル8とFPC3の電気的接続はワイヤーボンディング装置により形成したワイヤー1で行い、ワイヤー1の保護は針入度80の保護樹脂2で行っている。保護樹脂2の材料としてはエポキシ変性シリコーン(接着剤)、アクリル変性シリコーン(接着剤)等を用いる。針入度が0を超えるものであり、硬度計では0になる。
【0022】
図示したような形態で保護樹脂2の針入度が0を超える柔軟性があれば、透明基板8bがベース部材4やFPC3から力を受けて生じる熱応力や機械的応力で、透明基板8bを構成するガラス材料に複屈折を発生させることがない。それにより、表示画像の品質を高レベルで維持することができた。また、保護樹脂2に柔軟性があるため、熱応力や機械的応力でチップ8aと透明基板8b間のギャップ変動を起こすことがないので、画像品質が劣化しない。さらに、ワイヤー断線に対しても、樹脂が柔軟であるため、その応力吸収作用により、断線に対する懸念も払拭された。加えて、信頼性試験の温度サイクルテストにおける密着信頼性も確認できた。
【0023】
ワイヤー保護用の保護樹脂2の針入度を10から70の範囲内とすることでワイヤー接続の信頼性がさらに高まり、15μmΦ程度の細線ワイヤーの使用も可能となり、ピン数の多い液晶表示パネル8へ製品展開することができる。また、製造工程における作業性改善も達成することができる。さらに、ワイヤー保護用の保護樹脂2の針入度を20から60の範囲内とすることで液晶表示パネル8を縦置き使用しても保護樹脂2の流動を抑えることができる様になり、縦置きで使用されることの多いプロジェクタ等への製品展開が可能となる。同時に、製造工程における作業性改善も達成することができる。
【0024】
図3は、特に、パネルの縦置き使用時における保護樹脂の流れについて説明した図である。
【0025】
図3(b),(c)は、パネルを垂直に立てたときの状態で、平面図3(a)の→方向から見た図である。
【0026】
図3(b)は、針入度が60以内のため保護樹脂2が変形無く存在し、従ってワイヤー1にダメージを与えていな様子である。
【0027】
一方、図3(c)は、針入度が60以上程度のため樹脂が自重で図中の矢印方向に流れ、樹脂内でワイヤーが断線している様子を示したものである。断線ワイヤー1′、流れた状態の保護樹脂2′として示している。
【0028】
液晶表示パネル8とベース部材4間の固定については、テープ材5を樹脂接着層とし、好ましくは0.5W/m・K以上の熱伝導性に富んだ針入度が0より大きい柔軟な樹脂を用いるとよい。こうすることで、液晶表示パネル8とベース部材4を応力分離するとともに、液晶表示パネルが受ける熱を放熱することができ、さらに安定した特性を得ることができる。
【0029】
また、保護樹脂の粘性が低すぎる場合は、ワイヤーを封止した保護樹脂が流れやすくなってしまうため、保護樹脂周辺にチキソ性(thixotropy)を有する樹脂、即ちダム材7を形成することが信頼性上好ましい。
【0030】
本実施形態は実施形態の一例を示したもので、FPC5の替わりにガラエポ基板同等品を使用しても構わない。さらに、ITO導通は液晶表示パネル8内で、即ちITOとチップ8aの該当電極に導電粒子等を介在させる構造でも構わない。
【0031】
[実施形態2]
実施形態2は、実施形態1の反射型液晶表示装置の保護樹脂2を物性面の特性からシリコーンゲルとしたものである。
【0032】
ワイヤー保護用の保護樹脂2を針入度40のシリコーンゲルにした。こうすることで、信頼性試験の温度サイクルテストで保護樹脂の界面剥れが発生しても、シリコーンゲルは粘着性による界面接続のためテスト終了後に再度、界面接続されるため、信頼性が損なわれることはなくなる。さらに、剥れることで応力開放されるため、液晶表示パネルのゆがみが無くなり、さらなる画像品質の向上にもつながる。
【0033】
さらに、シリコーンゲルの粘度を、+22℃から+24℃の温度範囲において、500[Poise]以下の範囲内にした。こうすることで、ワイヤーをディスペンサー等を用いて封止する場合、ワイヤー倒れ、ワイヤー同士の接触などがなくなり、塗布の作業性が格段に上がり、工程歩留まりの高い液晶表示装置が提供できるようになる。ここでは、粘度が60[Poise]を有するGE東芝シリコーン製の付加反応型シリコーンゲルXE-C2305を用いた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施形態1の反射型液晶表示装置の平面図
【図2】実施形態1の反射型液晶表示装置の側面図
【図3】反射型液晶表示装置のパネルの縦置き使用時における保護樹脂の流れについて説明した図、(a)は平面図、(b),(c)はパネルを垂直に立てたときの状態を示す図
【図4】従来の液晶表示装置の側面図
【符号の説明】
【0035】
1…ワイヤー
1′…断線ワイヤー
2…保護樹脂
2′…流れた状態の保護樹脂
3…フレキシブルプリント基板(回路基板)
4…ベース部材
5…テープ材
6…導電性樹脂
7…ダム材
8…液晶表示パネル
8a…チップ
8b…透明基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置した2枚の基板の間隙に液晶層を狭持しシール剤で前記液晶層を密封してなる液晶表示パネルと、前記液晶表示パネルとワイヤーボンディングにより電気的に接続された回路基板と、前記液晶表示パネルと前記回路基板とを保持するベース部材とからなる液晶表示装置において、前記ワイヤーボンディングにより形成されたワイヤーを保護する保護樹脂の硬度が針入度で0より大きいことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記保護樹脂の硬度が針入度で10以上70以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記保護樹脂の硬度が針入度で20以上60以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記保護樹脂がシリコーンゲルであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記保護樹脂の粘度が、+22℃から+24℃の温度範囲において、500[Poise]以下の範囲内にあることを特徴とする請求項4に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記液晶表示パネルは、ベース部材と0.5W/m・K以上の熱伝導性を有し、針入度が0より大きい樹脂接着層で接着されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記保護樹脂の周囲にチキソ性を有する樹脂を配したことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項8】
請求項1に記載の液晶表示装置において、前記2枚の基板は一方が透明基板であり、他方がシリコン基板であることを特徴とする反射型液晶表示装置。
【請求項9】
請求項1に記載の液晶表示装置において、前記2枚の基板は透明基板であることを特徴とする透過型液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−58376(P2008−58376A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232025(P2006−232025)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】