説明

液晶表示装置

【課題】湿熱環境下に置かれた後でも液晶パネルの反りが小さく、表示ムラのない液晶表示装置を提供する。
【解決手段】2枚のセル基板11,12と、その間に挟持された液晶層15とを有する液晶セル10、その液晶セルの視認側に第一の粘着剤層40を介して積層された前面側偏光板20、上記液晶セルの視認側とは反対側に第二の粘着剤層50を介して積層された背面側偏光板30、及びその背面側偏光板30の外側に配置されたバックライトユニット70を備え、前面側偏光板20及び背面側偏光板30はそれぞれ、偏光フィルム21,31とその両面に配置された透明保護フィルム25,26;36、37とを有し、そして、前面側偏光板20の水分率W1と、背面偏光板30の水分率W2との比W1/W2が、1.0以上1.2以下の範囲にある液晶表示装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルの反りが低減された液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電力が低く、低電圧で動作し、軽量でかつ薄型という特長を生かして、携帯電話、携帯情報端末、コンピュータ用のモニター、テレビなど、情報用表示デバイスとして、液晶表示装置が急速に普及してきている。液晶技術の発展に伴い、さまざまなモードの液晶表示装置が提案され、応答速度やコントラスト、狭視野角といった液晶表示の問題点が解消されつつある。しかしながら、液晶表示装置には偏光板を使用するため、液晶パネルが湿熱環境下に置かれたときに、偏光板が吸水することに起因して液晶パネルに反りが生じ、表示ムラを発生することが問題となっている。
【0003】
特開 2007-292966号公報(特許文献1)には、液晶セルの両面に貼り合わせる偏光板の寸法変化率を調整することで、高温高湿下での液晶パネルの反りを改善することが提案されている。また、特開 2003-50313 号公報(特許文献2)には、特定のクリープ特性を示す粘着剤層が形成された偏光板を用いることで、湿熱環境下での液晶パネルの反りを改善することが提案されている。しかしながら、これらの改良では、偏光板に加熱処理などの前処理を施す必要があったり、湿熱環境下に置いた後の液晶パネルの反りによる表示ムラの改善が不十分であったりした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−292966号公報
【特許文献2】特開2003−050313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、湿熱環境下に置かれた後でも液晶パネルの反りが小さく、表示ムラのない液晶表示装置を提供することにある。本発明者らは、かかる目的を達成するべく鋭意研究を行った結果、前面側偏光板の水分率と、前記背面偏光板の水分率の比を調整することが、湿熱環境下に置かれた後の液晶パネルの反りを抑え、表示ムラを改善するのに有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明によれば、2枚のセル基板と、その間に挟持された液晶層とを有する液晶セル、その液晶セルの視認側に第一の粘着剤層を介して積層された前面側偏光板、上記液晶セルの視認側とは反対側に第二の粘着剤層を介して積層された背面側偏光板、及びその背面側偏光板の外側に配置されたバックライトユニットを備え、前面側偏光板及び背面側偏光板はそれぞれ、偏光フィルムとその両面に配置された透明保護フィルムとを有し、そして、前面側偏光板の水分率W1と、背面偏光板の水分率W2との比 W1/W2が、1.0以上1.2以下の範囲にある液晶表示装置が提供される。
【0007】
この液晶表示装置において、前面側偏光板及び背面側偏光板のそれぞれ液晶セル側に位置する透明保護フィルムは、その厚み方向レターデーションが−10〜10nmの範囲にあることが好ましい。また、液晶セル側に位置するこれらの透明保護フィルムは、セルロース系樹脂又はポリオレフィン系樹脂で構成することが好ましい。さらに、前面側偏光板及び背面側偏光板のそれぞれ液晶セルから遠い側に位置する透明保護フィルムは、その厚さが、液晶セル側に位置する透明保護フィルムとそこに貼着された粘着剤層の合計厚さより大きくなるようにすることが好ましい。
【0008】
これらの液晶表示装置において、前面側偏光板及び背面側偏光板のそれぞれ偏光フィルムとその両面に配置される透明保護フィルムは、一つの好ましい形態では、ポリビニルアルコール系樹脂及び水溶性エポキシ樹脂を含有する水系接着剤を介して貼合することができる。また別の好ましい形態では、活性エネルギー線の照射により硬化するエポキシ化合物を含有する硬化性接着剤組成物を介して貼合することができる。後者の形態において、活性エネルギー線の照射により硬化するエポキシ化合物は、脂環式環に結合したエポキシ基を分子内に少なくとも1個有するエポキシ化合物を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、湿熱環境下に置かれた後でも液晶パネルの反りが小さく、したがって表示ムラのない液晶表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る液晶表示装置の層構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照して、本発明の液晶表示装置は、液晶セル10、その液晶セルの視認側に第一の粘着剤層40を介して積層された前面側偏光板20、上記液晶セルの視認側とは反対側に第二の粘着剤層50を介して積層された背面側偏光板30、及びその背面側偏光板の外側(すなわち、液晶セル10とは反対側)に配置されたバックライトユニット70を備えるものである。液晶セル10と、液晶セルの視認側に第一の粘着剤層40を介して積層された前面側偏光板20と、液晶セルの反対側に第二の粘着剤層50を介して積層された背面側偏光板30とで、液晶パネル60を形成している。
【0012】
液晶セル10の視認側に配置される前面側偏光板20は、偏光フィルム21と、その両面に接着剤(図示せず)を介して積層された透明保護フィルム25,26を有している。液晶セル10の視認側とは反対側(すなわち、バックライトユニット70側)に配置される背面側偏光板30も同様に、偏光フィルム31と、その両面に接着剤(図示せず)を介して積層された透明保護フィルム35,36を有している。
【0013】
液晶パネル60とバックライトユニット70を組み合わせて、液晶表示装置が構成されるが、この液晶表示装置が湿熱環境下に置かれた場合、液晶パネル60に反りが発生し、液晶パネル60の一部がバックライトユニット70に異常に近づいたり、極端な場合には接触したりして、表示ムラを生じることがあった。また液晶パネル60は、視認側に倒れてこないよう筐体や金枠で固定されているところ、液晶表示装置が湿熱環境下に置かれた場合、液晶パネル60に反りが発生し、液晶パネル60の一部がそれを固定している筐体や金枠に接触し、表示ムラを生じることもあった。
【0014】
そこで本発明では、前面側偏光板20の水分率をW1 とし、背面側偏光板30の水分率をW2 として、両者の比 W1/W2 が1.0以上1.2以下の範囲となるようにする。上記した前面側偏光板20の水分率W1と背面側偏光板30の水分率W2との関係は、両者が下記式(a)を満たすことに相当する。
【0015】
1.0≦W1/W2≦1.2 (a)
【0016】
すなわち、前面側偏光板20の水分率W1が背面側偏光板30の水分率W2より大きくなるように構成することが肝要である。これにより、湿熱環境下に置かれた後でも、液晶パネル60の反りを抑制でき、表示ムラが認められず、表示品位に優れる液晶表示装置が得られることが見出された。
【0017】
また、前面側偏光板20及び背面側偏光板30のそれぞれについて、液晶セル10から遠い側に位置する透明保護フィルム25,35の厚さを、液晶セル10側に位置する透明保護フィルム26,36とそこに貼着される粘着剤層40,50の合計厚さより大きくするのが有効であることも併せて見出された。このように前面側偏光板20及び背面側偏光板30のそれぞれについて、液晶セル10から遠い側に位置する透明保護フィルム25,35の厚さを大きくすることで、液晶セル10側に位置する透明保護フィルム26,36を薄くしても、特に対角32インチ(約81cm)以上の大型サイズの偏光板を取り扱うときのハンドリング性を向上させることができるとともに、液晶パネル60の反り抑制に有効となる。
【0018】
以下、本発明の液晶表示装置を構成する各部材について、図1に付した符号を参照しながら順を追って詳細に説明する。
【0019】
[液晶セル]
液晶セル10は、2枚のセル基板11,12と、それら基板間に挟持された液晶層15とを有する。セル基板11,12は、一般にガラスで構成されることが多いが、プラスチック基板であってもよい。その他、本発明の液晶表示装置における液晶セル10自体は、この分野で採用されている各種のもので構成することができる。
【0020】
[偏光フィルム]
前面側偏光板20及び背面側偏光板30を構成する偏光フィルム21,31は、通常、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色することにより二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、及びホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て、製造される。
【0021】
ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより製造できる。ポリ酢酸ビニル系樹脂は、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとそれに共重合可能な他の単量体との共重合体であることもできる。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。
【0022】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85〜100モル%程度であり、好ましくは98モル%以上である。ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用可能である。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1,000〜10,000程度であり、好ましくは1,500〜5,000程度である。
【0023】
このようなポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光フィルムの原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は、特に限定されるものでなく、公知の方法で製膜することができる。ポリビニルアルコール系樹脂原反フィルムの膜厚は、例えば10〜150μm程度、好ましくは10〜100μm程度である。
【0024】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一軸延伸は、二色性色素による染色の前、染色と同時、又は染色の後に行うことができる。一軸延伸を染色の後で行う場合、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行ってもよいし、ホウ酸処理中に行ってもよい。もちろん、ここに示した複数の段階で一軸延伸を行うこともできる。一軸延伸には、周速の異なるロール間で一軸に延伸する方法や、熱ロールを用いて一軸に延伸する方法などが採用できる。また一軸延伸は、大気中で延伸を行う乾式延伸により行ってもよいし、水等の溶剤を用い、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させた状態で延伸を行う湿式延伸により行ってもよい。延伸倍率は、通常3〜8倍程度である。
【0025】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの二色性色素による染色は、例えば、二色性色素を含有する水溶液にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する方法により行うことができる。二色性色素として、具体的にはヨウ素や二色性有機染料が用いられる。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理の前に水に浸漬して膨潤させる処理を施しておくことが好ましい。
【0026】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、通常、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は、水100重量部あたり、通常 0.01〜1重量部程度であり、ヨウ化カリウムの含有量は、水100重量部あたり、通常 0.5〜20重量部程度である。染色に用いる水溶液の温度は、通常20〜40℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常20〜1,800秒程度である。
【0027】
一方、二色性色素として二色性の有機染料を用いる場合は、通常、水溶性の二色性有機染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性有機染料の含有量は、水100重量部あたり、通常1×10-4〜10重量部程度であり、好ましくは1×10-3〜1重量部である。この染料水溶液は、硫酸ナトリウムのような無機塩を染色助剤として含有していてもよい。染色に用いる二色性有機染料水溶液の温度は、通常20〜80℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常10〜1,800秒程度である。
【0028】
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸含有水溶液に浸漬する方法により、行うことができる。ホウ酸含有水溶液におけるホウ酸の含有量は、水100重量部あたり、通常2〜15重量部程度であり、好ましくは5〜12重量部である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合、このホウ酸含有水溶液はヨウ化カリウムを含有することが好ましい。ホウ酸含有水溶液におけるヨウ化カリウムの含有量は、水100重量部あたり、通常 0.1〜15重量部程度であり、好ましくは5〜12重量部である。ホウ酸含有水溶液への浸漬時間は、通常 60〜1,200秒程度であり、好ましくは150〜600秒、さらに好ましくは200〜400秒である。ホウ酸含有水溶液の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50〜85℃、さらに好ましくは60〜80℃である。
【0029】
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬する方法により、行うことができる。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃程度である。また浸漬時間は、通常1〜120秒程度である。
【0030】
水洗後は乾燥処理が施されて、偏光フィルムが得られる。乾燥処理は、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行うことができる。乾燥処理の温度は、通常30〜100℃程度であり、好ましくは50〜80℃である。乾燥処理の時間は、通常60〜600秒程度であり、好ましくは120〜600秒である。乾燥処理により、偏光フィルム中の水分率は実用程度にまで低減される。その水分率は、通常5〜20重量%程度であり、好ましくは8〜15重量%である。水分率が5重量%を下回ると、偏光フィルムの可撓性が失われ、乾燥後に損傷したり、破断したりすることがある。また水分率が20重量%を超えると、熱安定性が不足する傾向にある。
【0031】
以上のようにして、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向した偏光フィルムを製造することができる。得られる偏光フィルムは、その厚さを、例えば、5〜40μm 程度とすることができる。
【0032】
[液晶セルから遠い側に位置する透明保護フィルム]
前面側偏光板20及び背面側偏光板30のそれぞれにおいて、液晶セル10から遠い側に位置する透明保護フィルム25,35は、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性などに優れる材料からなることが好ましい。このような材料として、例えば、メタクリル酸メチル系樹脂を代表例とするアクリル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂を代表例とする鎖状ポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエチレンテフタレート系樹脂、ポリブチレンテフタレート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂などが挙げられる。
【0033】
これらの樹脂は、それぞれ単独で、又は2種類以上組み合わせて用いることができる。また、これらの樹脂に対して任意のポリマー変性を行った樹脂を透明保護フィルム用の材料とすることもできる。ポリマー変性としては、例えば、共重合、架橋、分子末端変性、立体規則性制御、異種ポリマー同士の反応を伴う場合を含む混合などが挙げられる。
【0034】
上記樹脂のなかでも、メタクリル酸メチル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、セルロース系樹脂、又はポリエチレンテレフタレート系樹脂が、液晶セル10から遠い側に位置する透明保護フィルム25,35の材料として、好ましく用いられる。
【0035】
メタクリル酸メチル系樹脂は、メタクリル酸メチル単位を50重量%以上含む重合体である。メタクリル酸メチル単位の含有量は、好ましくは70重量%以上であり、100重量%であってもよい。メタクリル酸メチル単位が100重量%の重合体は、メタクリル酸メチルを単独で重合させて得られるものである。
【0036】
メタクリル酸メチル系樹脂は、通常、メタクリル酸メチルを主成分とする単官能単量体を、ラジカル重合開始剤及び連鎖移動剤の共存下に重合させて得ることができる。単官能単量体にメタクリル酸メチルと共重合しうる成分を配合し、共重合させることもあり、また所望により、多官能単量体を少量共重合させることもある。
【0037】
メタクリル酸メチルと共重合しうる単官能単量体としては、例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、及びメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのようなメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、及びアクリル酸2−エチルヘキシルのようなアクリル酸エステル類;アクリル酸ヒドロキシメチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、及びアクリル酸2−ヒドロキシブチルのようなアクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類;メタクリル酸、及びアクリル酸のような不飽和酸類;クロロスチレン、及びブロモスチレンのようなハロゲン化スチレン類;ビニルトルエン、及びα−メチルスチレンのような置換スチレン類;アクリロニトリル、及びメタクリロニトリルのような不飽和ニトリル類;無水マレイン酸、及び無水シトラコン酸のような不飽和酸無水物類;フェニルマレイミド、及びシクロヘキシルマレイミドのような不飽和イミド類などを挙げることができる。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
メタクリル酸メチルと共重合しうる多官能単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートのような、エチレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;プロピレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、及びブタンジオールジ(メタ)アクリレートのような、2価アルコールの水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、又はこれらのハロゲン置換体の両末端水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;トリメチロールプロパン、及びペンタエリスリトールのような多価アルコールをアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;水酸基を2個以上有する化合物の末端水酸基にグリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートのエポキシ基を開環付加させたもの;コハク酸、アジピン酸、テレフタル酸、フタル酸、及びこれらのハロゲン置換体のような二塩基酸類、又はこれらのアルキレンオキサイド付加物に、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートのエポキシ基を開環付加させたもの;アリル(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼンのような芳香族ジビニル化合物などが挙げられる。多官能単量体を共重合させる場合は、これらのなかでも、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、及びネオペンチルグリコールジメタクリレートが好ましく用いられる。
【0039】
メタクリル酸メチル系樹脂が有する官能基間の反応を行い、変性された樹脂を用いることもできる。このような官能基間の反応としては、例えば、アクリル酸メチルのメチルエステル基と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの水酸基との高分子鎖内脱メタノール縮合反応、アクリル酸のカルボキシル基と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの水酸基との高分子鎖内脱水縮合反応などが挙げられる。
【0040】
メタクリル酸メチル系樹脂は、市販品を容易に入手することが可能である。市販品の例を挙げると、それぞれ商品名で、住友化学(株)から販売されている“スミペックス”、三菱レイヨン(株)から販売されている“アクリペット”、旭化成(株)から販売されている“デルペット”、(株)クラレから販売されている“パラペット”、(株)日本触媒から販売されている“アクリビュア”などがある。
【0041】
ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンを主成分とする鎖状オレフィンモノマーの重合体であり、通常は繰り返し単位の80重量%以上がプロピレンで構成される鎖状オレフィン系樹脂である。ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体であってもよいし、プロピレンを主体とし、それに共重合可能なコモノマーを1〜20重量%、好ましくは3〜10重量%の割合で共重合させた共重合体であってもよい。
【0042】
プロピレンを主成分とする共重合体にする場合、プロピレンと共重合可能なコモノマーとしては、エチレン、1−ブテン、又は1−ヘキセンが好ましい。なかでも、透明性に比較的優れるポリプロピレン系樹脂が得られることから、エチレンを1〜20重量%、好ましくは3〜10重量%の割合で共重合させたものが好ましい。エチレンの共重合割合を1重量%以上とすることで、透明性を上げる効果が現れる。一方、エチレンの共重合割合が20重量%を超えると、樹脂の融点が下がり、透明保護フィルムに要求される耐熱性が損なわれることがある。
【0043】
ポリプロピレン系樹脂は、20℃におけるキシレンに可溶な成分(CXS成分:CXSは cold xylene soluble の略)の含有量が1重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以下であることがより好ましい。ポリプロピレン系樹脂のなかでも、CXS成分が1重量%以下、さらに 0.5重量%以下であるプロピレンの単独重合体は、好適な例の一つである。
【0044】
ポリプロピレン系樹脂は、市販品を容易に入手することが可能である。市販品の例を挙げると、それぞれ商品名で、(株)プライムポリマーから販売されている“プライムポリプロ”、日本ポリプロ(株)から販売されている“ノバテック”及び“ウィンテック”、住友化学(株)から販売されている“住友ノーブレン”、サンアロマー(株)から販売されている“サンアロマー”などがある。
【0045】
セルロース系樹脂は、セルロースの水酸基における水素原子の一部又は全部が、アセチル基、プロピオニル基及び/又はブチリル基で置換された、セルロースの有機酸エステル又は混合有機酸エステルでありうる。例えば、セルロースの酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、それらの混合エステルなどからなるものが挙げられる。なかでも、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどが好ましい。
【0046】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、繰り返し単位の80モル%以上がエチレンテレフタレートで構成される樹脂であり、他のジカルボン酸成分及び/又は他のジオール成分を含んでいてもよい。他のジカルボン酸成分としては、例えば、イソフタル酸、4,4′−ジカルボキシジフェニール、4,4′−ジカルボキシベンゾフェノン、ビス(4−カルボキシフェニル)エタン、アジピン酸、セバシン酸、1,4−ジカルボキシシクロヘキサンなどが挙げられる。また他のジオール成分としては、例えば、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
【0047】
これら他のジカルボン酸成分や他のジオール成分は、必要により2種類以上を組み合わせて用いることもできる。p−ヒドロキシ安息香酸やp−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸のようなヒドロキシカルボン酸を併用することもできる。また他の共重合成分として、少量のアミド結合、ウレタン結合、エーテル結合、カーボネート結合などを含有するジカルボン酸成分又はジオール成分を用いることもできる。
【0048】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂の製造方法としては、テレフタル酸及びエチレングリコール(並びに必要に応じて他のジカルボン酸又は他のジオール)を直接重縮合させる方法、テレフタル酸のジアルキルエステル及びエチレングリコール(並びに必要に応じて他のジカルボン酸のジアルキルエステル又は他のジオール)をエステル交換反応させながら重縮合させる方法、テレフタル酸(及び必要に応じて他のジカルボン酸)のエチレングリコールエステル(及び必要に応じて他のジオールエステル)を触媒の存在下で重縮合させる方法などが採用される。さらに、必要に応じて追加の固相重合を行って、分子量を増加させたり、低分子量成分を低減させたりすることもできる。
【0049】
以上のような樹脂を偏光板用の透明保護フィルムに製膜する方法は、それぞれの樹脂に応じた方法を適宜選択すればよい。例えば、溶剤に溶解させた樹脂を、金属製のバンド又はドラムに流延し、溶剤を乾燥除去してフィルムを得る溶剤キャスト法、樹脂をその溶融温度以上に加熱し、混練してダイから押し出し、冷却することによりフィルムを得る溶融押出法などが使用できる。溶融押出法では、単層フィルムを押し出すこともできるし、多層フィルムを同時押出することもできる。
【0050】
これら樹脂のフィルムは、市販品を容易に入手することが可能である。市販されているフィルムの例を挙げると、メタクリル酸メチル系樹脂フィルムなら、それぞれ商品名で、住友化学(株)から販売されている“テクノロイ”、三菱レイヨン(株)から販売されている“アクリライト”及び“アクリプレン”、旭化成(株)から販売されている“デラグラス”、(株)クラレから販売されている“パラグラス”及び“コモグラス”、(株)日本触媒から販売されている“アクリビュア”などがある。ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムなら、それぞれ商品名で、三菱化学(株)から販売されている“ノバクリアー”、帝人化成(株)から販売されている“A-PET シート”などがある。ポリプロピレン系樹脂フィルムなら、それぞれ商品名で、FILMAX 社から販売されている“FILMAX CPP フィルム”、サン・トックス(株)から販売されている“サントックス”、東セロ(株)から販売されている“トーセロ”、東洋紡績(株)から販売されている“東洋紡パイレンフィルム”、東レフィルム加工(株)から販売されている“トレファン”、日本ポリエース(株)から販売されている“ニホンポリエース”、フタムラ化学(株)から販売されている“太閤FC”などがある。またセルロース系樹脂フィルムなら、それぞれ商品名で、富士フイルム(株)から販売されている“フジタック TD” 、コニカミノルタオプト(株)から販売されている“コニカミノルタ TAC フィルム KC”などがある。
【0051】
液晶セル10から遠い側に配置され、視認側となる透明保護フィルム25には、ヘイズを付与して防眩性を発現させることができる。ヘイズを付与する方法としては、例えば、透明保護フィルムを構成する原料樹脂中に無機微粒子又は有機微粒子を混合してフィルム化する方法、多層押出により、微粒子が混合された樹脂と、微粒子が混合されていない樹脂とから二層フィルム化するか、又は微粒子が混合された樹脂を外層にして三層フィルム化する方法、フィルムの片側に無機微粒子又は有機微粒子を硬化性バインダー樹脂に混合してなる塗布液をコートし、バインダー樹脂を硬化させて防眩層を設ける方法などが採用される。
【0052】
ヘイズを付与するために用いる無機微粒子としては、例えば、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、アルミノシリケート、アルミナ−シリカ複合酸化物、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなどが挙げられる。また、有機微粒子としては、例えば、架橋ポリアクリル酸粒子、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋ポリメチルメタクリレート粒子、シリコーン樹脂粒子、ポリイミド粒子などが挙げられる。
【0053】
透明保護フィルムにヘイズを付与する場合、そのヘイズ値は6〜45%の範囲内となるようにすることが好ましい。透明保護フィルムのヘイズ値が6%を下回ると、十分な防眩効果が現れないことがある。一方でヘイズ値が45%を超えると、その透明保護フィルムが配置された液晶表示装置の画面が白ちゃけ、画質の低下を招くことがある。ヘイズは、全光線透過率に対する拡散透過率の比として定義される値であり、 JIS K 7136 に準拠して、市販のヘイズメーターを用いて測定することができる。市販のヘイズメーターとしては、例えば、(株)村上色彩技術研究所から販売されている“HM-150”などがある。ヘイズ値の測定に際しては、フィルムの反りを防止するため、例えば、光学的に透明な粘着剤を用い、防眩面が表面となるようにフィルム面をガラス基板に貼合した測定サンプルを用いることが好ましい。
【0054】
液晶セルから遠い側に配置され、視認側となる透明保護フィルム25、及びバックライト側となる透明保護フィルム35のそれぞれ外側には、導電層、ハードコート層、低反射層などを包含する機能層を設けることができる。上記の防眩層を構成するバインダー樹脂を含む塗布液として、これらの機能が発現可能な樹脂組成物を選択することもできる。
【0055】
[液晶セル側に位置する透明保護フィルム]
図1に示した前面側偏光板20及び背面側偏光板30において、液晶セル10側に位置する透明保護フィルム26,36を構成する樹脂材料には、上で液晶セル10から遠い側に位置する透明保護フィルム25,35について述べたのと同様のものを用いることができる。なかでも、レターデーション値の制御が容易で、入手も容易であることから、セルロース系樹脂又は、鎖状ポリオレフィン系樹脂や環状ポリオレフィン系樹脂を包含するポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられる。
【0056】
ここでいう環状ポリオレフィン系樹脂は、例えば、ノルボルネン及び他のシクロペンタジエン誘導体のような環状オレフィンモノマーを、触媒の存在下に重合して得られるものである。このような環状ポリオレフィン系樹脂を用いると、後述する所定のレターデーション値を有する透明保護フィルムが得られやすい。
【0057】
環状ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、シクロペンタジエンとオレフィン類又は(メタ)アクリル酸若しくはそのエステル類とからディールス・アルダー反応によって得られるノルボルネン又はその誘導体をモノマーとして開環メタセシス重合を行い、それに続く水添によって得られる樹脂;ジシクロペンタジエンとオレフィン類又は(メタ)アクリル酸若しくはそのエステル類とからディールス・アルダー反応によって得られるテトラシクロドデセン又はその誘導体をモノマーとして開環メタセシス重合を行い、それに続く水添によって得られる樹脂;ノルボルネン、テトラシクロドデセン、それらの誘導体、及びその他の環状オレフィンモノマーから選ばれる少なくとも2種のモノマーを同様に開環メタセシス共重合し、それに続く水添によって得られる樹脂;ノルボルネン、テトラシクロドデセン、又はそれらの誘導体のような環状オレフィンに、鎖状オレフィン及び/又はビニル基を有する芳香族化合物を付加共重合させて得られる樹脂などが挙げられる。
【0058】
環状ポリオレフィン系樹脂は、市販品を容易に入手することが可能である。市販品の例を挙げると、それぞれ商品名で、 TOPAS ADVANCED POLYMERS GmbH にて生産され、日本ではポリプラスチックス(株)から販売されている“TOPAS” 、JSR(株)から販売されている“アートン”、日本ゼオン(株)から販売されている“ゼオノア”及び“ゼオネックス”、三井化学(株)から販売されている“アペル”などがある。
【0059】
鎖状ポリオレフィン系樹脂の典型的な例は、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂である。なかでも、プロピレンの単独重合体、又はプロピレンを主体とし、それに共重合可能なコモノマー、例えばエチレンを、1〜20重量%、好ましくは3〜10重量%の割合で共重合させた共重合体が好適に用いられる。
【0060】
セルロース系樹脂やポリオレフィン系樹脂などからフィルムに製膜する方法は、それぞれの樹脂に応じた方法を適宜選択すればよい。例えば、溶剤に溶解させた樹脂を、金属製のバンド又はドラムに流延し、溶剤を乾燥除去してフィルムを得る溶剤キャスト法、樹脂をその溶融温度以上に加熱し、混練してダイから押し出し、冷却ドラムによって冷却することによりフィルムを得る溶融押出法などが使用できる。なかでも、ポリオレフィン系樹脂に対しては、生産性の観点から溶融押出法が好ましく採用される。一方、セルロース系樹脂は溶剤キャスト法によって製膜されるのが一般的である。
【0061】
液晶セル10が横電解(IPS:In-Plane Switching)モードである場合、そのIPSモード液晶セルが本来有する広視野角特性を損なわないために、液晶セル10側に位置する透明保護フィルム26,36は、厚み方向のレターデーションRthが−10〜10nmの範囲にあることが好ましい。厚み方向のレターデーションRthは、面内の平均屈折率から厚み方向の屈折率を差し引いた値にフィルムの厚みを乗じて得られる値であって、下記式(b)で表される。また、面内のレターデーションReは、面内の屈折率差にフィルムの厚みを乗じて得られる値であって、下記式(c)で表される。
【0062】
Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (b)
Re=(nx−ny)×d (c)
【0063】
式中、nxはフィルム面内のx軸方向(面内遅相軸方向)の屈折率であり、nyはフィルム面内のy軸方向(面内進相軸方向であって、面内でx軸に直交する方向)の屈折率であり、nz はフィルム面に垂直なz軸方向(厚み方向)の屈折率であり、そしてdはフィルムの厚さである。
【0064】
ここで、レターデーション値は、可視光の中心付近である500〜650nm程度の範囲で任意の波長における値でありうるが、本明細書では波長590nmにおけるレターデーション値を標準とする。厚み方向のレターデーションRth及び面内のレターデーションReは、市販の各種位相差計を用いて測定することができる。
【0065】
樹脂フィルムの厚み方向のレターデーションRthを−10〜10nmの範囲内に制御する方法としては、フィルムを作製するときに、厚み方向に残留するゆがみを極力小さくする方法が挙げられる。例えば、上記溶剤キャスト法においては、その流延樹脂溶液を乾燥するときに生じる厚み方向の残留収縮歪みを、熱処理によって緩和させる方法などが採用できる。一方、上記溶融押出法においては、樹脂フィルムをダイから押し出し、冷却するまでの間に延伸されることを防ぐため、ダイから冷却ドラムまでの距離を極力縮めるとともに、押出し量と冷却ドラムの回転速度をフィルムが延伸されないよう制御する方法などが採用できる。また、溶剤キャスト法と同様に、得られたフィルムに残留する歪みを熱処理によって緩和させる方法も採用できる。
【0066】
[偏光フィルムと保護フィルムとの接着]
前面側偏光板20における偏光フィルム21と透明保護フィルム25,26との接合、また背面側偏光板30における偏光フィルム31と透明保護フィルム35,36との接合には、通常、接着剤が用いられる。偏光フィルムと透明保護フィルムを接合する接着剤層は、その厚さを0.01〜30μm程度とすることができ、好ましくは0.01〜10μm、さらに好ましくは0.05〜5μmである。接着剤層の厚さがこの範囲にあれば、積層される透明保護フィルムと偏光フィルムとの間に浮きや剥がれを生じず、実用上問題のない接着力が得られる。
【0067】
接着剤層の形成には、被着体の種類や目的に応じて、適宜、適切な接着剤を用いることができ、また必要に応じてアンカーコート剤を用いることもできる。接着剤として、例えば、溶剤型接着剤、エマルジョン型接着剤、感圧性接着剤、再湿性接着剤、重縮合型接着剤、無溶剤型接着剤、フィルム状接着剤、ホットメルト型接着剤などが挙げられる。
【0068】
好ましい接着剤の一つとして、水系接着剤、すなわち、接着剤成分が水に溶解又は分散しているものを挙げることができる。水に溶解可能な接着剤成分の例を挙げると、ポリビニルアルコール系樹脂がある。また、水に分散可能な接着剤成分の例を挙げると、親水基を有するウレタン系樹脂がある。水系接着剤は、このような接着剤成分を、必要に応じて配合される追加の添加剤とともに、水に混合して調製することができる。水系接着剤となりうる市販のポリビニルアルコール系樹脂の例を挙げると、(株)クラレから販売されているカルボキシル基変性ポリビニルアルコールである“KL-318”(商品名)などがある。
【0069】
水系接着剤は、必要に応じて架橋剤を含有することができる。架橋剤の例を挙げると、アミン化合物、アルデヒド化合物、メチロール化合物、水溶性エポキシ樹脂、イソシアネート化合物、多価金属塩などがある。ポリビニルアルコール系樹脂を接着剤成分とする場合は、グリオキザールをはじめとするアルデヒド化合物、メチロールメラミンをはじめとするメチロール化合物、水溶性エポキシ樹脂などが、架橋剤として好ましく用いられる。ここで水溶性エポキシ樹脂は、例えば、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミンのようなポリアルキレンポリアミンとアジピン酸のようなジカルボン酸との反応物であるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドエポキシ樹脂であることができる。水溶性エポキシ樹脂の市販品の例を挙げると、住化ケムテックス(株)から販売されている“スミレーズレジン 650(30)”(商品名)などがある。
【0070】
偏光フィルム及び/又は透明保護フィルムの接着面に水系接着剤を塗布し、両者を貼り合わせた後、乾燥処理を施すことにより、偏光板を得ることができる。接着に先立って、透明保護フィルムには、ケン化処理、コロナ放電処理、又はプラズマ処理のような易接着処理を施し、濡れ性を高めておくのも有効である。乾燥温度は、例えば60〜100℃程度とすることができる。乾燥処理後、室温よりもやや高い温度、例えば30〜50℃程度の温度で1〜10日間程度養生することは、接着力を一層高めるうえで好ましい。
【0071】
もう一つの好ましい接着剤として、活性エネルギー線の照射又は加熱により硬化するエポキシ化合物を含有する硬化性接着剤組成物が挙げられる。ここで硬化性のエポキシ化合物は、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有するものである。この場合、偏光フィルムと透明保護フィルムとの接着は、当該接着剤組成物の塗布層に対して、活性エネルギー線を照射するか、又は加熱し、接着剤に含有される硬化性のエポキシ化合物を硬化させる方法により行うことができる。エポキシ化合物の硬化は、一般に、エポキシ化合物のカチオン重合により行われる。また生産性の観点から、この硬化は活性エネルギー線の照射により行うことが好ましい。
【0072】
耐候性、屈折率、カチオン重合性などの観点から、硬化性接着剤組成物に含有されるエポキシ化合物は、分子内に芳香環を含まないものであることが好ましい。分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物として、水素化エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物などが例示できる。このような硬化性接着剤組成物に好適に用いられるエポキシ化合物は、例えば、特開 2004-245925号公報で詳細に説明されているが、ここでも概略を説明することとする。
【0073】
水素化エポキシ化合物は、芳香族エポキシ化合物の原料である芳香族ポリヒドロキシ化合物に触媒の存在下及び加圧下で選択的に核水素化反応を行うことにより得られる核水添ポリヒドロキシ化合物を、グリシジルエーテル化したものであることができる。芳香族エポキシ化合物の原料である芳香族ポリヒドロキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェールF、及びビスフェノールSのようなビスフェノール類;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、及びヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラック樹脂のようなノボラック型の樹脂;テトラヒドロキシジフェニルメタン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、及びポリビニルフェノールのような多官能型の化合物などが挙げられる。このような芳香族ポリヒドロキシ化合物に核水素化反応を行い、得られる核水添ポリヒドロキシ化合物にエピクロロヒドリンを反応させることにより、グリシジルエーテル化することができる。好適な水素化エポキシ化合物として、水素化されたビスフェノールAのグリシジルエーテルが挙げられる。
【0074】
脂環式エポキシ化合物は、脂環式環に結合したエポキシ基を分子内に少なくとも1個有する化合物である。「脂環式環に結合したエポキシ基」とは、次式に示される構造における橋かけの酸素原子−O−を意味し、この式中、mは2〜5の整数である。
【0075】
【化1】

【0076】
この式における (CH2)m 中の水素原子を1個又は複数個取り除いた形の基が他の化学構造に結合している化合物が、脂環式エポキシ化合物となりうる。また、脂環式環を形成する (CH2)m 中の1個又は複数個の水素原子は、メチル基やエチル基のような直鎖状アルキル基で適宜置換されていてもよい。脂環式エポキシ化合物のなかでも、オキサビシクロヘキサン環(上式においてm=3のもの)や、オキサビシクロヘプタン環(上式においてm=4のもの)を有するエポキシ化合物は、優れた接着性を示すことから好ましく用いられる。以下に、脂環式エポキシ化合物の具体的な例を掲げる。ここでは、まず化合物名を挙げ、その後、それぞれに対応する化学式を示すこととし、化合物名とそれに対応する化学式には同じ符号を付す。
【0077】
A:3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、
B:3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、
C:エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、
D:ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル) アジペート、
E:ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル) アジペート、
F:ジエチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、
G:エチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、
H:2,3,14,15−ジエポキシ−7,11,18,21−テトラオキサトリスピロ[5.2.2.5.2.2]ヘンイコサン、
I:3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−8,9−エポキシ−1,5−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、
J:4−ビニルシクロヘキセンジオキサイド、
K:リモネンジオキサイド、
L:ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、
M:ジシクロペンタジエンジオキサイドなど。
【0078】
【化2】

【0079】
脂肪族エポキシ化合物は、脂肪族多価アルコール又はそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルであることができる。より具体的には、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル;1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル;1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル;グリセリンのトリグリシジルエーテル;トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル;エチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンのような脂肪族多価アルコールにアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド)を付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル(例えばポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル)などが挙げられる。
【0080】
硬化性接着剤組成物において、エポキシ化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでもこのエポキシ化合物は、脂環式環に結合したエポキシ基を分子内に少なくとも1個有する脂環式エポキシ化合物を含むことが好ましい。
【0081】
硬化性接着剤組成物に用いられるエポキシ化合物は、通常 30〜3,000g/当量の範囲内のエポキシ当量を有し、このエポキシ当量は好ましくは 50〜1,500g/当量の範囲である。エポキシ当量が30g/当量を下回るエポキシ化合物を用いた場合には、硬化後の偏光板の可撓性が低下したり、接着強度が低下したりする可能性がある。一方、3,000g/当量 を超えるエポキシ当量を有する化合物では、接着剤組成物に含有される他の成分との相溶性が低下する可能性がある。
【0082】
反応性の観点から、エポキシ化合物の硬化反応としてカチオン重合が好ましく用いられる。そのためには、エポキシ化合物を含む硬化性接着剤組成物には、カチオン重合開始剤を配合するのが好ましい。カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、及び電子線のような活性エネルギー線の照射又は加熱によって、カチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させる。作業性の観点から、カチオン重合開始剤には潜在性が付与されていることが好ましい。以下、活性エネルギー線の照射によってカチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるカチオン重合開始剤を「光カチオン重合開始剤」といい、熱によってカチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるカチオン重合開始剤を「熱カチオン重合開始剤」という。
【0083】
光カチオン重合開始剤を用い、活性エネルギー線の照射により接着剤組成物の硬化を行う方法は、常温での硬化が可能となり、偏光フィルムの耐熱性又は膨張による歪を考慮する必要が減少し、透明保護フィルムと偏光フィルムとを良好に接着できる点において有利である。また、光カチオン重合開始剤は、光で触媒的に作用するため、エポキシ化合物に混合しても保存安定性や作業性に優れる。
【0084】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、芳香族ジアゾニウム塩;芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩のようなオニウム塩、鉄−アレン錯体などを挙げることができる。光カチオン重合開始剤の配合量は、エポキシ化合物100重量部に対し、通常 0.5〜20重量部であり、好ましくは1重量部以上、また好ましくは15重量部以下である。光カチオン重合開始剤の配合量が、エポキシ化合物100重量部に対して 0.5重量部を下回ると、硬化が不十分になり、硬化物の機械的強度や接着強度が低下する傾向にある。一方、光カチオン重合開始剤の配合量が、エポキシ化合物100重量部に対して20重量部を超えると、硬化物中のイオン性物質が増加することで硬化物の吸湿性が高くなり、耐久性能が低下する可能性がある。
【0085】
光カチオン重合開始剤を用いる場合、硬化性接着剤組成物は、必要に応じてさらに光増感剤を含有することができる。光増感剤を用いることで、カチオン重合の反応性を向上させ、硬化物の機械的強度や接着強度を向上させることができる。光増感剤としては、例えば、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられる。光増感剤を配合する場合、その量は、硬化性接着剤組成物100重量部に対し、 0.1〜20重量部の範囲内とすることが好ましい。
【0086】
一方、熱カチオン重合開始剤としては、ベンジルスルホニウム塩、チオフェニウム塩、チオラニウム塩、ベンジルアンモニウム、ピリジニウム塩、ヒドラジニウム塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、アミンイミドなどを挙げることができる。
【0087】
エポキシ化合物を含有する硬化性接着剤組成物は、先述のとおり光カチオン重合によって硬化させることが好ましいが、上記の熱カチオン重合開始剤を存在させ、熱カチオン重合によって硬化させることもできるし、光カチオン重合と熱カチオン重合を併用することもできる。光カチオン重合と熱カチオン重合を併用する場合、硬化性接着剤組成物には、光カチオン重合開始剤と熱カチオン重合開始剤の両方を含有させることが好ましい。
【0088】
また、硬化性接着剤組成物は、オキセタン化合物やポリオール化合物など、カチオン重合を促進させる化合物をさらに含有してもよい。オキセタン化合物は、分子内に4員環エーテルを有する化合物である。オキセタン化合物を配合する場合、その量は、硬化性接着剤組成物中に、通常5〜95重量%、好ましくは5〜50重量%である。またポリオール化合物は、エチレングリコールやヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコールなどを包含するアルキレングリコール又はそのオリゴマー、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオールなどでありうる。ポリオール化合物を配合する場合、その量は、硬化性接着剤組成物中に、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下である。
【0089】
さらに、硬化性接着剤組成物は、その接着性を損なわない限り、他の添加剤、例えば、イオントラップ剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、増感剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、可塑剤、消泡剤などを含有することができる。イオントラップ剤としては、例えば、粉末状のビスマス系、アンチモン系、マグネシウム系、アルミニウム系、カルシウム系、チタン系、これらの混合系などを包含する無機化合物が挙げられ、酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤などが挙げられる。
【0090】
エポキシ化合物を含有する硬化性接着剤組成物を、偏光フィルム又は透明保護フィルムの接着面、あるいはこれら双方の接着面に塗工した後、接着剤の塗工された面で貼合し、活性エネルギー線を照射するか又は加熱することにより未硬化の接着剤層を硬化させて、偏光フィルムと透明保護フィルムとを接着させることができる。接着剤の塗工方法としては、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が採用できる。
【0091】
この硬化性接着剤組成物は、基本的には、溶剤を実質的に含まない無溶剤型接着剤として用いることができるが、各塗工方式には各々最適な粘度範囲があるため、粘度調整のために溶剤を含有させてもよい。溶剤は、偏光フィルムの光学性能を低下させることなく、エポキシ化合物をはじめとする各成分を良好に溶解する有機溶剤であることが好ましく、例えば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類などを用いることができる。
【0092】
活性エネルギー線の照射により接着剤組成物の硬化を行う場合、活性エネルギー線としては先述した各種のものを用いることができるが、取扱いが容易で、照射光量などの制御もしやすいことから、紫外線が好ましく用いられる。活性エネルギー線、例えば紫外線の照射強度や照射量は、偏光フィルムの偏光度をはじめとする各種光学性能、及び透明保護フィルムの透明性や位相差特性をはじめとする各種光学性能に影響を及ぼさない範囲で、適度の生産性が保たれるように適宜決定される。
【0093】
熱により接着剤組成物の硬化を行う場合は、一般的に知られた方法で加熱することができる。通常は、硬化性接着剤組成物に配合された熱カチオン重合開始剤がカチオン種やルイス酸を発生する温度以上で加熱が行われ、具体的な加熱温度は、例えば50〜200℃程度である。
【0094】
[粘着剤層]
以上説明した前面側偏光板20の液晶セル側となる透明保護フィルム26上には、第一の粘着剤層40が積層され、また背面側偏光板30の液晶セル側となる透明保護フィルム36上には、第二の粘着剤層50が積層される。これらの粘着剤層40,50は、液晶セル10の両側にそれぞれ前面側偏光板20及び背面側偏光板30を貼合するために設けられる。
【0095】
それぞれの粘着剤層を形成する粘着剤は、光学的な透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性、接着性などを包含する粘着特性に優れるものであればよいが、さらに耐久性などに優れるものが好ましく用いられる。具体的には、粘着剤層を形成する粘着剤として、アクリル系樹脂を含有する粘着剤(アクリル系粘着剤)が好ましく用いられる。
【0096】
アクリル系粘着剤に含有されるアクリル系樹脂は、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソオクチル、及びアクリル酸2−エチルヘキシルのようなアクリル酸アルキルエステルを主要なモノマーとする樹脂である。このアクリル系樹脂には通常、極性モノマーが共重合されている。極性モノマーとは、重合性不飽和結合及び極性官能基を有する化合物であり、ここで重合性不飽和結合は、(メタ)アクリロイル基に由来するものとするのが一般的であり、また極性官能基は、カルボキシル基、水酸基、アミド基、アミノ基、エポキシ基などでありうる。極性モノマーの具体例を挙げると、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどがある。
【0097】
またアクリル系粘着剤には、通常、アクリル系樹脂とともに架橋剤が配合されている。架橋剤の代表例として、分子内に少なくとも2個のイソシアナト基(−NCO)を有するイソシアネート化合物を挙げることができる。
【0098】
粘着剤には、さらに各種の添加剤が配合されていてもよい。好適な添加剤として、シランカップリング剤や帯電防止剤などが挙げられる。シランカップリング剤は、ガラスとの接着力を高めるうえで有効である。帯電防止剤は、静電気の発生を低減又は防止するうえで有効である。一般に、粘着剤層を介して偏光板を液晶セルに貼る際には、それまで粘着剤層を覆って仮着保護していた表面保護フィルム(セパレータ)を剥がしてから液晶セルに貼り合わされるが、その表面保護フィルムを剥がすときに発生する静電気によって、液晶セル内の液晶の配向不良を生じ、この現象が液晶表示装置の表示不良をもたらすことがある。このような静電気の発生を低減又は防止する手段として、粘着剤への帯電防止剤の配合は有効である。
【0099】
粘着剤層40,50は、以上のような粘着剤成分が有機溶剤に溶解してなる粘着剤組成物を調製し、これを偏光板の透明保護フィルム26,36上に直接塗布し、溶剤を乾燥除去する直接塗工法によって、あるいは、離型処理が施された樹脂フィルムからなる基材フィルムの離型処理面に上記の粘着剤組成物を塗布し、溶剤を乾燥除去して粘着剤層とし、これを偏光板の透明保護フィルム26,36上に貼着する転写法によって、形成できる。前者の直接塗工法によって透明保護フィルム26,36上に粘着剤層40,50を形成した場合は、その表面に離型処理が施された樹脂フィルム(セパレータとも呼ばれる)を貼合し、使用時まで粘着剤層表面を仮着保護するのが通例である。有機溶剤溶液である粘着剤組成物の取扱い性の観点などから、後者の転写法が多く採用されており、この場合は、最初に粘着剤層の形成に用いる離型処理された基材フィルムが、偏光板に貼着した後そのままセパレータとなりうる点からも好都合である。
【0100】
[偏光板の水分率]
本発明では、図1を参照して、前面側偏光板20の水分率W1 と、背面側偏光板30の水分率W2 の比 W1/W2 を、1.0以上1.2以下の範囲にする。前面側偏光板20の水分率W1と背面側偏光板30の水分率W2との関係をこの範囲にすることで、点灯時にバックライトユニット70から供給される光に起因して液晶パネル60が急激に温度上昇し、偏光板20,30から水分が蒸発して収縮するときのバランスが良好となり、液晶パネル60の反りが抑制される。
【0101】
偏光板の水分率を調整する方法は特に制限されず、任意の方法が採用できる。例えば、水分率を下げる場合には、乾燥オーブンなどで偏光板を加熱処理する方法が好ましく採用される。また、水分率を上げる場合には、湿熱オーブンなどで偏光板を加湿処理する方法が好ましく採用される。これらの処理は、ロール状の偏光板で行ってもよいし、枚葉の偏光板で行ってもよく、またロール状の偏光板での処理と枚葉の偏光板での処理を組み合わせることもできる。
【0102】
[偏光板を構成する各部材の厚さ]
前面側偏光板20について、液晶セル10から遠い側に位置する透明保護フィルム25の厚さを、液晶セル10側に位置する透明保護フィルム26とそこに貼着される第一の粘着剤層40の合計厚さよりも大きくすること、そして背面側偏光板30についても、液晶セル10から遠い側に位置する透明保護フィルム35の厚さを、液晶セル10側に位置する透明保護フィルム36とそこに貼着される第二の粘着剤層50の合計厚さよりも大きくすることが好ましい。このように、前面側偏光板20及び背面側偏光板30のそれぞれについて、液晶セル10から遠い側に位置する透明保護フィルム25,35の厚さを大きくすることで、液晶セル10側に位置する透明保護フィルム26,36を薄くしても、特に対角32インチ(約81cm)以上の大型サイズの偏光板を取り扱うときのハンドリング性を向上させることができるとともに、液晶パネル60の反り抑制に一層効果的である。
【0103】
偏光板20,30の液晶セル10側に位置する透明保護フィルム26,36は、それぞれの厚さを20〜50μm 程度の範囲で設定するのが好ましい。そこに貼着される粘着剤層40,50は、それぞれの厚さを10〜30μm 程度の範囲で設定できる。そこで、偏光板20,30の液晶セル10から遠い側に位置する透明保護フィルム25,35は、それぞれの厚さが、液晶セル10側に位置する透明保護フィルム26,36の厚さに比べ、少なくとも10μmを超えて大きくなるように、好ましくは少なくとも30μm以上大きくなるようにすればよい。そのうえで上記したとおり、前面側偏光板20の液晶セルから遠い側に位置する透明保護フィルム25であれば、その厚さが、液晶セル側の透明保護フィルム26及びそこに貼着された第一の粘着剤層40の合計厚さより大きくなるように、また背面側偏光板30の液晶セルから遠い側に位置する透明保護フィルム35であれば、その厚さが、液晶セル側の透明保護フィルム36及びそこに貼着された第二の粘着剤層50の合計厚さよりも大きくなるように設定すればよい。液晶セル側に位置する透明保護フィルム26,36の厚さをそれぞれ約40μm とし、第一の粘着剤層40及び第二の粘着剤層50の厚さをそれぞれ約25μm とし、液晶セルから遠い側に位置する透明保護フィルム25,26の厚さをそれぞれ約80μm とすることは、一つの好ましい形態である。
【0104】
[バックライトユニット]
バックライトユニット70は、少なくとも、液晶セル10へ表示用の光を供給するための光源部材を含んで構成される。この光源部材は、導光板とその一側面又は対向する二側面に配置される光源とで構成するサイドライト型と呼ばれる形式や、複数の光源とその上(液晶セル10に向かう側)に配置される光拡散板とで構成する直下型と呼ばれる形式であることができる。いずれの形式であっても、通常は、光源部材の背面(液晶セル10から遠い側)に、光反射層がシート又は塗布層の形で設けられる。また光源部材の光出射側(液晶セル10に向かう側)には、さらに集光シートや拡散フィルムなどの光学部材が、1層又は複数層配置されることもある。バックライトユニット70自体は、ここで説明した各部材を有し、この分野で採用されている任意の構成とすることができる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す部及び%は、特記ないかぎり重量基準である。なお、以下の例における各物性の測定は、次の方法で行った。
【0106】
(1)厚さの測定:
(株)ニコン製のデジタルマイクロメーター“MH-15M”を用いて測定した。
【0107】
(2)面内レターデーション及び厚み方向レターデーションの測定:
王子計測機器(株)製の平行ニコル回転法を原理とする位相差計“KOBRA-21ADH” を用い、23℃の温度において、波長590nmでの面内レターデーション及び厚み方向レターデーションを測定した。
【0108】
(3)偏光板の水分率の測定:
150mm×150mmのサイズに切り出した偏光板(粘着剤層形成前)を、105±1℃に保たれた乾燥オーブンに60分間放置して、乾燥オーブンに入れる前の重量(乾燥前重量)と乾燥オーブンに放置後の重量(乾燥後重量)とから、次式によって算出した値を偏光板の水分率とした。
偏光板の水分率(%)=〔(乾燥前重量−乾燥後重量)/乾燥前重量〕×100
【0109】
[実施例1]
(水系接着剤の調製)
水100部に対して、(株)クラレから入手したカルボキシル基変性ポリビニルアルコールである“KL-318”(商品名)を3部溶解し、その水溶液に、住化ケムテックス(株)から入手した水溶性ポリアミドエポキシ樹脂である“スミレーズレジン 650(30)”(商品名、固形分濃度30%の水溶液)を1.5部添加して、水系接着剤を調製した。
【0110】
(偏光板の作製)
富士フイルム(株)から入手した厚さ80μm のトリアセチルセルロースフィルムである“TD80UL”(商品名)にケン化処理を施して、液晶セルから遠い側に配置される透明保護フィルム25,35とした。また、コニカミノルタオプト(株)から入手した厚さ40μm のトリアセチルセルロースフィルムである“KC4UEW”(商品名)は、面内のレターデーションが 0.7nm、厚み方向のレターデーションが−0.1nm であった。これにケン化処理を施して、液晶セル側に配置される透明保護フィルム26,36とした。
【0111】
ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素が吸着配向している厚さ約28μm の偏光フィルムの一方の面に、上で調製した水系接着剤を介して上記厚さ80μm の透明保護フィルムを貼合し、もう一方の面には、同じ水系接着剤を介して上記厚さ40μm の透明保護フィルムを貼合し、その後80℃で5分間乾燥して、偏光板を作製した。
【0112】
(粘着剤層付き偏光板の作製)
上で作製した偏光板を用い、厚さ40μm の透明保護フィルム面に厚さが25μm の粘着剤シートを貼合して、粘着剤層付き偏光板を作製した。この粘着剤層付き偏光板から、吸収軸を長手方向として、また吸収軸を短手方向として、それぞれ、ワイド32型サイズ〔対角32インチ(約81cm)で、幅約71cm×縦約40cm〕に裁断した。これらの偏光板は、取扱い時に良好なハンドリング性を示した。
【0113】
(液晶表示装置の作製と評価)
パナソニック(株)製でIPSモードのワイド32型〔対角32インチ(約81cm)で幅約71cm×縦約40cm〕液晶テレビ“VIERA”(型番:VIERA TH-L32X1) を分解して液晶セル上下の偏光板を剥がし、それらオリジナル偏光板の代わりに、上で作製した粘着剤層付き偏光板を液晶セルの前面側(視認側)及び背面側(バックライト側)に、クロスニコル状態となるようにそれぞれの粘着剤層側で貼合して、液晶パネル60を作製した。このとき、前面側偏光板20の吸収軸が、液晶セル10内液晶分子の電圧無印加(黒表示)時の配向方向と平行になるように配置した。また、前面側偏光板20には水分率の高いものを、背面側偏光板30には水分率の低いものをそれぞれ配置して、(前面側偏光板の水分率W1/背面側偏光板の水分率W2)の比が 1.05となるようにした。この液晶パネル60を、温度40℃、相対湿度95%の環境下に96時間放置した後、取り出して、温度22℃、相対湿度55%の環境下に1日放置した。この液晶パネルを用いてIPSモード液晶表示装置を再び組み立て、バックライトを点灯し、1時間後に観察したところ、表示ムラは見られなかった。
【0114】
[実施例2]
(偏光板の作製)
液晶セルから遠い側に配置される透明保護フィルム25,35を、コニカミノルタオプト(株)から入手した厚さ80μm のトリアセチルセルロースフィルムである“KC8UX” (商品名)に変更した以外は、実施例1と同様にして偏光板を作製した。
【0115】
(粘着剤層付き偏光板の作製)
上で作製した偏光板を用い、厚さ40μm の透明保護フィルム面に粘着剤シートを貼合して、粘着剤層付き偏光板を作製した。この粘着剤層付き偏光板から、吸収軸を長手方向として、また吸収軸を短手方向として、それぞれ、ワイド32型サイズ〔対角32インチ(約81cm)で、幅約71cm×縦約40cm〕に裁断した。これらの偏光板は、取扱い時に良好なハンドリング性を示した。
【0116】
(液晶表示装置の作製と評価)
ここで作製した粘着剤層付き偏光板を用いる以外は、実施例1と同様にして、液晶パネル60を作製した。このとき、前面側偏光板20には水分率の高いものを、背面側偏光板30には水分率の低いものをそれぞれ配置し、 (前面側偏光板の水分率W1/背面側偏光板の水分率W2)の比が1.10となるようにした。この液晶パネル60を、温度40℃、相対湿度95%の環境下に96時間放置した後取り出して、温度22℃、相対湿度55%の環境下に1日放置した。この液晶パネルを用いてIPSモード液晶表示装置を再び組み立て、バックライトを点灯し、1時間後に観察したところ、若干の表示ムラが見られたものの、視認上問題ないレベルであった。
【0117】
[比較例1]
実施例2と同様の粘着剤付偏光板を用い、前面側偏光板20には水分率の高いものを、背面側偏光板30には水分率の低いものをそれぞれ配置するが、(前面側偏光板の水分率W1/背面側偏光板の水分率W2)の比が 1.31となるようにして液晶パネル60を作製し、さらに液晶表示装置を組み立てて、同様に評価した。その結果、バックライトを点灯してから1時間後に観察したところ、表示ムラが見られた。
【0118】
以上の実施例及び比較例における偏光板の水分率比 W1/W2 、偏光板を構成する保護フィルム及び粘着剤層の厚さ、並びに評価結果を、表1にまとめた。
【0119】
【表1】

【符号の説明】
【0120】
10……液晶セル、
11,12……セル基板、
15……液晶層、
20……前面側偏光板、
21……偏光フィルム、
25,26……透明保護フィルム、
30……背面側偏光板、
31……偏光フィルム、
35,36……透明保護フィルム、
40……第一の粘着剤層、
50……第二の粘着剤層、
60……液晶パネル、
70……バックライトユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚のセル基板と、その間に挟持された液晶層とを有する液晶セル、
前記液晶セルの視認側に第一の粘着剤層を介して積層された前面側偏光板、
前記液晶セルの視認側とは反対側に第二の粘着剤層を介して積層された背面側偏光板、及び
前記背面側偏光板の外側に配置されたバックライトユニットを備え、
前記前面側偏光板及び前記背面側偏光板はそれぞれ、偏光フィルムとその両面に配置された透明保護フィルムとを有し、そして、
前記前面側偏光板の水分率W1と、前記背面側偏光板の水分率W2との比 W1/W2 が、1.0以上1.2以下の範囲にあることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記前面側偏光板及び前記背面側偏光板のそれぞれ液晶セル側に位置する透明保護フィルムは、その厚み方向レターデーションが−10〜10nmの範囲にある請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記前面側偏光板及び前記背面側偏光板のそれぞれ液晶セル側に位置する透明保護フィルムは、セルロース系樹脂又はポリオレフィン系樹脂からなる請求項1又は2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記前面側偏光板及び前記背面側偏光板のそれぞれ液晶セルから遠い側に位置する透明保護フィルムは、その厚さが、液晶セル側に位置する透明保護フィルムとそこに貼着された前記粘着剤層の合計厚さより大きい請求項1〜3のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記前面側偏光板及び前記背面側偏光板のそれぞれ偏光フィルムとその両面に配置される透明保護フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂及び水溶性エポキシ樹脂を含有する水系接着剤を介して貼合されている請求項1〜4のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記前面側偏光板及び前記背面側偏光板のそれぞれ偏光フィルムとその両面に配置される透明保護フィルムは、活性エネルギー線の照射により硬化するエポキシ化合物を含有する硬化性接着剤組成物を介して貼合されている請求項1〜5のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記エポキシ化合物は、脂環式環に結合したエポキシ基を分子内に少なくとも1個有するエポキシ化合物を含む請求項6に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−170234(P2011−170234A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35761(P2010−35761)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】