説明

液晶装置、液晶装置の製造方法、電子機器

【課題】光の干渉による色ムラや表示ムラが低減され、明るい表示品質が得られる液晶装置、液晶装置の製造方法、この液晶装置を備えた電子機器を提供すること。
【解決手段】液晶装置は、素子基板10と、素子基板10と対向配置された透光性の対向基板20と、素子基板10と対向基板20との間に挟持された液晶層50と、素子基板10の液晶層50側に形成された光反射性の複数の画素電極15と、対向基板20の液晶層50側に形成された導電性の第1透光性膜22aと、第1透光性膜22aの液晶層50側に形成され、第1透光性膜22aよりも屈折率が小さい絶縁性の第2透光性膜22bと、第2透光性膜22bの液晶層50側に形成され、第2透光性膜22bよりも屈折率が大きい導電性の第3透光性膜22cと、を備え、複数の画素電極15を有する画素領域における液晶層50の厚みdが、所定の値d0に対して±10%以内となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置、液晶装置の製造方法、液晶装置を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記液晶装置の製造方法として、半導体基板と透明基板との間に液晶が充填された反射型液晶表示素子の製造方法であって、透明基板に第1の屈折率を有する第1の透明膜を形成し、第1の透明膜上に第1の透明膜よりも小さい第2の屈折率を有する第2の透明膜を形成し、第2の透明膜上に第2の屈折率よりも大きい第3の屈折率を有する第3の透明膜を形成する方法が開示されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1の反射型液晶表示素子の製造方法では、第3の透明膜の形成に際して、酸素ガスとアルゴンガスの混合ガスに対する酸素ガスの流量比を0.8〜5%の範囲内としている。これにより、ITO膜を用いて形成された第1の透明膜における不足した酸素を供給して、第1〜第3の透明膜からなる透明電極層の光透過率を98%以上とすることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−178774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造方法を用いて、透明基板に多層構造の透明膜層を形成したとしても、半導体基板と該透明基板とを液晶を挟んで貼り合わせたときに、液晶層の厚みがばらつくと、液晶層を透過する光の位相にもばらつきが生ずるため、光の干渉による色ムラや表示ムラが生ずるおそれがあるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例の液晶装置は、第1基板と、前記第1基板と対向配置された透光性の第2基板と、前記第1基板と前記第2基板とを貼り合わせるシール材と、前記第1基板と前記第2基板との間に挟持された液晶層と、前記第1基板の前記液晶層側に形成された複数の画素電極と、前記第2基板の前記液晶層側に形成された導電性の第1透光性膜と、前記第1透光性膜の前記液晶層側に形成され、前記第1透光性膜よりも屈折率が小さい絶縁性の第2透光性膜と、前記第2透光性膜の前記液晶層側に形成され、前記第2透光性膜よりも屈折率が大きい導電性の第3透光性膜と、を備え、前記複数の画素電極を有する画素領域における前記液晶層の厚みが、所定の値に対して±20%以内となっていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、第2基板に互いに異なる屈折率を有する第1〜第3透光性膜が積層されているので、導電性の第1または第3透光性膜だけを備える場合に比べて、第2基板を透過する光の透過率を高めることができる。さらに、画素領域における液晶層の厚みが所定の値に対して±20%以内とされているので、液晶層の厚みばらつきにより液晶層を透過する光の位相がばらつくことが低減される。ゆえに、異なる屈折率を有する透光性膜の界面で反射した光の干渉による色ムラや表示ムラが抑制されると共に明るい表示が可能な液晶装置を提供することができる。
【0009】
[適用例2]上記適用例の液晶装置において、前記複数の画素電極は、光反射性を有しており、前記画素領域における前記液晶層の厚みが、所定の値に対して±10%以内となっていることが好ましい。
第2基板側から入射して液晶層を透過した光は、画素電極によって反射して再び液晶層を透過するので、光路長が少なくとも2倍となることから、液晶層の厚みばらつきによる光の位相ばらつきも大きくなる。
この構成によれば、液晶層の厚みを所定の値に対して±10%以内とすることで、光の干渉による色ムラや表示ムラが抑制されると共に明るい表示が可能な反射型の液晶装置を提供することができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例の液晶装置において、前記シール材は、前記第1基板と前記第2基板との間において、切れ目が無く額縁状に配置されていることが好ましい。
この構成によれば、額縁状のシール材の一部を切り欠いて液晶の注入口とする場合に比べて、注入口付近における液晶層の厚みむらを回避して、所望の液晶層の厚みを実現できる。
【0011】
[適用例4]上記適用例の液晶装置において、前記第1透光性膜と前記第3透光性膜は、膜厚がおよそ20nmのITO膜からなり、前記第2透光性膜は、膜厚がおよそ50nmの酸化シリコン膜からなることを特徴とする。
この構成によれば、可視光波長領域に亘って第2基板を透過する光の安定的な透過率を確保できる。
【0012】
[適用例5]上記適用例の液晶装置において、前記第3透光性膜の前記液晶層側に形成された酸化シリコンからなる無機配向膜を有することが好ましい。
この構成によれば、酸化シリコンからなる無機配向膜は、ITO膜からなる第3透光性膜よりも屈折率が小さく第3透光性膜との界面での光の反射を抑制することができる。
【0013】
[適用例6]本適用例の液晶装置の製造方法は、第1基板と透光性の第2基板との間に液晶層が挟持された液晶装置の製造方法であって、前記第1基板上に複数の画素電極を形成する画素電極形成工程と、前記第2基板上に導電性の第1透光性膜を形成する第1透光性膜形成工程と、前記第1透光性膜上に前記第1透光性膜よりも屈折率が小さい絶縁性の第2透光性膜を形成する第2透光性膜形成工程と、前記第2透光性膜上に前記第2透光性膜よりも屈折率が大きい導電性の第3透光性膜を形成する第3透光性膜形成工程と、前記第1基板の前記複数の画素電極を形成した側または前記第2基板の前記第3透光性膜を形成した側にシール材を額縁状に配置するシール材配置工程と、前記第1基板または前記第2基板に配置された前記シール材の内側に液晶を付与する液晶付与工程と、前記第1基板と前記第2基板とを、前記第1基板の前記複数の画素電極を形成した側と前記第2基板の前記第3透光性膜を形成した側とが対向するように、減圧下で前記シール材を介して貼り合わせる貼り合わせ工程と、を備え、前記貼り合わせ工程は、前記複数の画素電極を有する画素領域における前記液晶層の厚みを所定の値に対して±20%以内として前記シール材を硬化させることを特徴とする。
【0014】
この方法によれば、第2基板に互いに異なる屈折率を有する第1〜第3透光性膜が積層形成されるので、第2基板に導電性の第1または第3透光性膜だけを形成する場合に比べて、第2基板を透過する光の透過率を高めることができる。さらに、画素領域における液晶層の厚みが所定の値に対して±20%以内としてシール材を硬化させるので、液晶層の厚みばらつきにより液晶層を透過する光の位相がばらつくことが低減される。ゆえに、異なる屈折率を有する透光性膜の界面で反射した光の干渉による色ムラや表示ムラが抑制されると共に明るい表示が可能な液晶装置を製造することができる。
【0015】
[適用例7]上記適用例の液晶装置の製造方法において、前記画素電極形成工程は、光反射性を有する前記複数の画素電極を形成し、前記貼り合わせ工程は、前記画素領域における前記液晶層の厚みを所定の値に対して±10%以内として前記シール材を硬化させることが好ましい。
この方法によれば、液晶層の厚みを所定の値に対して±10%以内としてシール材を硬化させるので、光の干渉による色ムラや表示ムラが抑制されると共に明るい反射型の液晶装置を製造することができる。
【0016】
[適用例8]本適用例の電子機器は、上記適用例の液晶装置を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、異なる屈折率を有する透光性膜の界面で反射した光の干渉が低減され色ムラや表示ムラが抑制されると共に明るい表示が可能な電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は液晶装置の構成を示す概略平面図、(b)は(a)のH−H’線で切った概略断面図。
【図2】液晶装置の電気的な構成を示す等価回路図。
【図3】液晶装置における画素の詳細構造を示す概略断面図。
【図4】液晶装置の製造方法を示すフローチャート。
【図5】(a)〜(e)は液晶装置の製造方法を示す概略断面図。
【図6】(f)〜(h)は液晶装置の製造方法を示す概略断面図。
【図7】実施例および比較例の構成と評価結果を示す表。
【図8】実施例における対向基板の光の透過率を示すグラフ。
【図9】比較例1における対向基板の光の透過率を示すグラフ。
【図10】電子機器としての投射型表示装置の構成を示す概略図。
【図11】変形例の液晶装置の構造を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0019】
なお、以下の形態において、例えば「基板上に」と記載された場合、基板の上に接するように配置される場合、または基板の上に他の構成物を介して配置される場合、または基板の上に一部が接するように配置され、一部が他の構成物を介して配置される場合を表すものとする。
【0020】
(第1実施形態)
本実施形態では、薄膜トランジスターを画素のスイッチング素子として備えたアクティブマトリックス型の液晶装置を例に挙げて説明する。この液晶装置は、例えば後述する投射型表示装置(液晶プロジェクター)の光変調素子(液晶ライトバルブ)として好適に用いることができるものである。
【0021】
<液晶装置>
本実施形態の液晶装置について、図1〜図3を参照して説明する。図1(a)は液晶装置の構成を示す概略平面図、同図(b)は同図(a)のH−H’線で切った概略断面図、図2は液晶装置の電気的な構成を示す等価回路図である。図3は液晶装置における画素の詳細構造を示す概略断面図である。
【0022】
図1(a)および(b)に示すように、本実施形態の液晶装置100は、対向配置された第1基板としての素子基板10および第2基板としての対向基板20と、これら一対の基板によって挟持された液晶層50とを有する。
【0023】
素子基板10は、例えば透明な石英基板やガラス基板、あるいは不透明なシリコン基板などを用いることができ、対向基板20よりも一回り大きく、切れ目なく額縁状に配置されたシール材40を介して対向基板20と接合されている。シール材40によって囲まれた領域に負の誘電異方性を有する液晶が封入されて液晶層50を構成している。
本実施形態における一対の基板間への液晶の封入(充填)は、一対の基板のうちの一方の基板にシール材40を額縁状に配置し、配置されたシール材40を土手として、その内側に所定量の液晶を滴下する。そして、減圧下で一方の基板と他方の基板と貼り合わせるODF(One Drop Fill)方式が採用されている。
シール材40は、例えば熱硬化性または紫外線硬化性のエポキシ樹脂などの接着剤が採用されている。シール材40には、一対の基板の間隔を一定に保持するためのスペーサー(図示省略)が混入されている。
【0024】
額縁状に配置されたシール材40の内側には、同じく額縁状に見切り部21が設けられている。見切り部21は、例えば遮光性の金属あるいは金属酸化物などからなり、見切り部21の内側が画素領域Eとなっている。画素領域Eには、マトリックス状に画素Pが複数配置されている。画素領域Eは、表示に寄与する有効な複数の画素Pを囲むように配置された複数のダミー画素を含んでいるとしてもよい。なお、図1では図示省略したが、画素領域Eにおいても複数の画素Pを平面的に区分する遮光部(ブラックマトリックス;BM)が設けられている。
【0025】
素子基板10の1辺部に沿ったシール材40と該1辺部との間にデータ線駆動回路101が設けられている。また、該1辺部に対向する他の1辺部に沿ったシール材40の内側に検査回路103が設けられている。さらに、該1辺部と直交し互いに対向する他の2辺部に沿ったシール材40の内側に走査線駆動回路102が設けられている。該1辺部と対向する他の1辺部に沿ったシール材40の内側には、2つの走査線駆動回路102を繋ぐ複数の配線105が設けられている。これらデータ線駆動回路101、走査線駆動回路102に繋がる配線は、該1辺部に沿って配列した複数の外部接続用端子104に接続されている。
以降、該1辺部に沿った方向をX方向とし、該1辺部と直交し互いに対向する他の2辺部に沿った方向をY方向として説明する。
【0026】
図1(b)に示すように、素子基板10の液晶層50側の表面には、画素Pごとに設けられた光反射性を有する画素電極15およびスイッチング素子としての薄膜トランジスター(Thin Film Transistor;以降、TFTと呼称する)30と、信号配線と、複数の画素電極15を覆う配向膜18とが形成されている。画素電極15は、例えばAl(アルミニウム)などの光反射性を有する金属材料あるいはその合金を用いて形成することができる。
また、TFT30における半導体層に光が入射して光リーク電流が流れ、不適切なスイッチング動作となることを防ぐ遮光構造が採用されている。
なお、図1(b)では図示を省略したが、画素電極15と配向膜18との間に、画素電極15を覆う絶縁膜が形成されている。
【0027】
対向基板20は、透明な例えば石英基板やガラス基板などが用いられており、液晶層50側の表面には、見切り部21と、見切り部21を覆うように形成された共通電極層22と、少なくとも画素領域Eに亘って共通電極層22を覆うように設けられた絶縁膜23と、絶縁膜23を覆う配向膜24とが設けられている。
【0028】
見切り部21は、図1(a)に示すように平面的に走査線駆動回路102、検査回路103と重なる位置において額縁状に設けられている。これにより対向基板20側から入射する光を遮蔽して、これらの駆動回路を含む周辺回路の光による誤動作を防止する役目を果たしている。また、不必要な迷光が画素領域Eに入射しないように遮蔽して、画素領域Eの表示における高いコントラストを確保している。
【0029】
共通電極層22は、可視光波長範囲に亘って高い透過率(言い換えれば、低い反射率)で光が対向基板20を透過できるように、屈折率が異なる透光性膜が積層された構造が採用されており、詳しくは後述する。
共通電極層22は、図1(a)に示すように対向基板20の四隅に設けられた上下導通部106により素子基板10側の配線に電気的に接続している。
【0030】
絶縁膜23は、透光性を有しており、例えば酸化シリコンなどの無機材料を用いて形成されている。
【0031】
素子基板10側の配向膜18および対向基板20側の配向膜24は、液晶装置100の光学設計に基づいて設定されており、本実施形態では、SiOx(酸化シリコン)などの無機材料を気相成長法(斜め蒸着法や斜めスパッタ法)を用いて成膜して、負の誘電異方性を有する液晶分子が配向膜面に対して所定の方向にプレチルトを有して略垂直配向する無機配向膜が採用されている。
【0032】
図2に示すように、液晶装置100は、少なくとも画素領域Eにおいて互いに絶縁されて直交する信号線としての複数の走査線3aおよび複数のデータ線6aと、走査線3aに対して平行する容量線3bとを有する。
【0033】
走査線3aとデータ線6aとにより区分された領域に、画素電極15と、TFT30と、蓄積容量16とが設けられ、これらが画素Pの画素回路を構成している。
【0034】
走査線3aはTFT30のゲートに電気的に接続され、データ線6aはTFT30のソースに電気的に接続されている。画素電極15はTFT30のドレインに電気的に接続されている。
データ線6aはデータ線駆動回路101(図1参照)に接続されており、データ線駆動回路101から供給される画像信号D1,D2,…,Dnを画素Pに供給する。走査線3aは走査線駆動回路102(図1参照)に接続されており、走査線駆動回路102から供給される走査信号SC1,SC2,…,SCmを各画素Pに供給する。データ線駆動回路101からデータ線6aに供給される画像信号D1〜Dnは、この順に線順次で供給してもよく、互いに隣り合う複数のデータ線6a同士に対してグループごとに供給してもよい。走査線駆動回路102は、走査線3aに対して、走査信号SC1〜SCmを所定のタイミングでパルス的に線順次で供給する。
【0035】
液晶装置100は、スイッチング素子であるTFT30が走査信号SC1〜SCmの入力により一定期間だけオン状態とされることで、データ線6aから供給される画像信号D1〜Dnが所定のタイミングで画素電極15に書き込まれる構成となっている。そして、画素電極15を介して液晶層50に書き込まれた所定レベルの画像信号D1〜Dnは、画素電極15と液晶層50を介して対向配置された共通電極層22との間で一定期間保持される。
保持された画像信号D1〜Dnがリークするのを防止するため、画素電極15と共通電極層22との間に形成される液晶容量と並列に蓄積容量16が接続されている。蓄積容量16は、TFT30のドレインと容量線3bとの間に設けられている。
【0036】
なお、図1(a)に示した検査回路103には、データ線6aが接続されており、液晶装置100の製造過程において、上記画像信号を検出することで液晶装置100の動作欠陥などを確認できる構成となっているが、図2の等価回路では省略している。また、検査回路103は、上記画像信号をサンプリングしてデータ線6aに供給するサンプリング回路、データ線6aに所定電圧レベルのプリチャージ信号を画像信号に先行して供給するプリチャージ回路を含むものとしてもよい。
【0037】
このような液晶装置100は反射型であって、画素Pが非駆動時に暗表示となるノーマリーブラックモードや、非駆動時に明表示となるノーマリーホワイトモードの光学設計が採用される。光学設計に応じて、光の入射側(射出側でもある)に反射型偏光素子が配置されて用いられる。
【0038】
図3に示すように、素子基板10の液晶層50側には、複数の光反射性を有する画素電極15と、画素電極15を覆う絶縁膜17と、絶縁膜17を覆う配向膜18とが形成されている。画素電極15は前述したように、例えばAl(アルミニウム)などの光反射性を有する金属材料あるいはその合金を用いて形成することができる。絶縁膜17は、例えば透光性を有する酸化シリコンなどの無機絶縁材料を用いて形成することができる。絶縁膜17の厚みはおよそ100nm〜600nmである。配向膜18は、気相成長法を用いてSiOx(酸化シリコン)などの無機材料を成膜することにより形成することができる。配向膜18の厚みはおよそ750nmである。
【0039】
素子基板10に対向配置された対向基板20の液晶層50側には、順に第1透光性膜22a、第2透光性膜22b、第3透光性膜22c、絶縁膜23、配向膜24が形成されている。積層形成された第1透光性膜22aと第2透光性膜22bと第3透光性膜22cとによって共通電極層22が構成されている。
【0040】
第1透光性膜22aおよび第3透光性膜22cは、それぞれ導電性を有しており、例えばITO膜などを用いて形成することができる。第2透光性膜22bは絶縁性を有しており、例えば酸化シリコンなどの無機絶縁材料を用いて形成することができる。第1透光性膜22aと第3透光性膜22cは、第2透光性膜22bよりも屈折率が大きくなるように導電性を有する透光性膜の材料が選ばれる。
最も液晶層50に近い第3透光性膜22cが所謂共通電極として機能し、前述した上下導通部106に電気的に接続されている。なお、画素領域Eよりも外側において、絶縁性の第2透光性膜22bに例えばコンタクトホールを設けて導電性の第1透光性膜22aと第3透光性膜22cとを電気的に接続させ、共通電極として電気抵抗をさらに低下させてもよい。
【0041】
このような液晶装置100において、透明な対向基板20側から入射した光は、画素電極15によって反射する。また、異なる屈折率を有する対向基板20の基材と第1透光性膜22aとの界面や、同じく異なる屈折率を有する第2透光性膜22bと第3透光性膜22cとの界面で反射する。図3に示すように画素電極15で反射した反射光をL1とし、異なる屈折率を有する透光性膜の界面で反射した反射光をL2とすると、反射光L1と反射光L2とでは、液晶装置100に入射した後の光路の長さが異なることは明白である。ここで言うところの光路の長さ(以降、光路長と呼ぶ)とは、光が透過する物質の厚みと屈折率の積として求めることができる。
【0042】
長さが異なる光路を経由した反射光L1と反射光L2とが同一方向に射出したとき、光の位相が同じであれば、反射光L1の実際の光強度は入射光に対して著しく低下することはない。その一方で、入射光の波長をλとするとき、反射光L1と反射光L2の光の位相がλ/2ずれる、つまり光の位相が互いに逆転すると、反射光L1と反射光L2との干渉によって反射光L1の実際の光強度が著しく低下するおそれがある。
【0043】
それゆえに、本実施形態では、対向基板20の基材と第1透光性膜22aとの界面で反射した光と、第2透光性膜22bと第3透光性膜22cとの界面で反射した光との間で光の位相の差が生じないように、第1透光性膜22a、第2透光性膜22b、第3透光性膜22cのそれぞれの膜厚が設定されている。なお、第1透光性膜22aと第2透光性膜22bとの界面や、第3透光性膜22cと絶縁膜23との界面においても反射光が生ずるが、屈折率が高い層(第1透光性膜22aや第3透光性膜22c)から低い層(第2透光性膜22bや絶縁膜23)へ入射して低い層(第2透光性膜22bや絶縁膜23)の界面で反射した反射光の方が弱いので、この場合、絶縁膜23の光路長は無視できる。
【0044】
共通電極層22を備えた対向基板20を透過する光の透過率を最大化するためには、上記のように異なる透光性膜の界面で反射した光に位相の差が生じて互いに干渉し光強度が弱められないように、屈折率と膜厚とによって求められる各透光性膜の光路長を定める必要があり、以下の数式(1)および(2)を満足させることで実現することができる。
n1×d1+n2×d2=λ/4・・・・(1)
n2×d2+n3×d3=λ/4・・・・(2)
n1は第1透光性膜22aの屈折率、d1は第1透光性膜22aの膜厚、n2は第2透光性膜22bの屈折率、d2は第2透光性膜22bの膜厚、n3は第3透光性膜22cの屈折率、d3は第3透光性膜22cの膜厚である。
【0045】
各透光性膜の屈折率n1,n2,n3は、光の波長に依存する。例えば、入射光の波長λを550nmとすると、ITO膜を用いて第1、第3透光性膜22a,22cを形成すれば、屈折率n1,n3はおよそ2.0となる。同様に、酸化シリコンを用いて第2透光性膜22bを形成すれば、屈折率n2はおよそ1.46となる。ゆえに、上記数式(1)および(2)を満たすには、例えば第1透光性膜22aと第3透光性膜22cの膜厚をおよそ30nmとすると、第2透光性膜22bの膜厚はおよそ50nmとなる。なお、可視光波長領域(光の波長が400nm〜700nm)において万遍なく高い透過率を確保するには、短波長域での光の干渉による透過率の低下を考慮して、導電性の第1透光性膜22aと第3透光性膜22cの膜厚を30nmよりも薄くすることが望ましい。
【0046】
一方、対向基板20側から入射した入射光は画素電極15によって反射され液晶層50を往復する(少なくとも2回透過する)ことになるので、液晶層50の厚みdが画素領域E内においてばらつくと、反射光L1の光の位相も画素領域E内において場所によって変化する。反射光L1の位相のばらつきの程度によって、色ムラや表示ムラが生ずるおそれがある。また、反射光L1の光の位相のばらつきは、反射光L2との光の干渉にも影響し、色ムラや表示ムラに繋がるおそれがある。それゆえに、本実施形態では、液晶層50の厚みdを所定の値d0に対して±10%以内となるようにして、色ムラや表示ムラが生ずることを防いでいる。
ここで言うところの所定の値d0とは、光学設計上の液晶層50の厚みが好ましいが、個々の液晶装置100における例えば画素領域Eの中央部分の液晶層50の実際の厚みとしてもよい。
【0047】
<液晶装置の製造方法>
次に、本実施形態の液晶装置100の製造方法について、図4〜図6を参照して説明する。図4は液晶装置の製造方法を示すフローチャート、図5(a)〜(e)および図6(f)〜(h)は液晶装置の製造方法を示す概略断面図である。なお、図6(f)〜(h)では、図1(b)と同様に素子基板10において画素電極15を覆う絶縁膜17の図示を省略している。
【0048】
図4に示すように、本実施形態の液晶装置100の製造方法は、素子基板側において、素子基板10にTFT30や信号配線などを形成する素子形成工程(ステップS1)と、画素電極形成工程(ステップS2)と、絶縁膜形成工程(ステップS3)と、配向膜形成工程(ステップS4)と、シール材配置工程(ステップS5)とを有している。また、対向基板側において、第1透光性膜形成工程(ステップS6)と、第2透光性膜形成工程(ステップS7)と、第3透光性膜形成工程(ステップS8)と、絶縁膜形成工程(ステップS9)と、配向膜形成工程(ステップS10)とを有している。さらに、これらの工程を経た素子基板10と対向基板20とを用いた、液晶付与工程としての液晶滴下工程(ステップS11)と、貼り合わせ工程(ステップS12)とを有している。
なお、素子基板側のステップS1〜ステップS5は、公知の方法を採用できるので、詳細の説明は省略し、対向基板側のステップS6から説明してゆく。
【0049】
ステップS6の第1透光性膜形成工程では、図5(a)に示すように、見切り部21が形成された対向基板20に見切り部21を覆うように第1透光性膜22aを形成する。具体的には、ITO膜を用いて第1透光性膜22aを形成する。ITO膜の成膜方法としては、真空蒸着、スパッタなどの方法を採用できる。ITO膜の厚みは例えばおよそ20nmである。
【0050】
ステップS7の第2透光性膜形成工程では、図5(b)に示すように、第1透光性膜22aに第2透光性膜22bを積層形成する。具体的な第2透光性膜22bの形成方法としては、CVD法によりTEOS(Tetra・Ethyl・Ortho・Silicate)を用いて酸化シリコン膜(NSG(Non・dope・Silicate・Glass)膜)からなる第2透光性膜22bを形成する方法、あるいはスパッタ法により酸化シリコン膜からなる第2透光性膜22bを形成する方法を挙げることができる。第2透光性膜22bの厚みは例えばおよそ50nmである。なお、第2透光性膜22bは、第1透光性膜22aよりも屈折率が小さければよいので、酸化シリコン膜(NSG(Non・dope・Silicate・Glass)膜)に限らず、酸化シリコン膜にボロン(B)がドープされたBSG(Boro-Silicata・Glass)膜やボロン(B)とリン(P)とがドープされたBPSG(Boron Phosphor Silicate Glass)膜を採用することもできる。
【0051】
ステップS8の第3透光性膜形成工程では、図5(c)に示すように、第2透光性膜22bに第3透光性膜22cを積層形成する。具体的には、第1透光性膜22aと同様に、ITO膜を用いて第3透光性膜22cを形成する。第3透光性膜22cの厚みは第1透光性膜22aと同じでおよそ20nmである。これにより、第1透光性膜22a、第2透光性膜22b、第3透光性膜22cからなる共通電極層22が形成される。
【0052】
ステップS9の絶縁膜形成工程では、図5(d)に示すように、第3透光性膜22cに絶縁膜23を積層形成する。絶縁膜23の形成方法としては、第2透光性膜22bと同様にCVD法やスパッタ法により例えば酸化シリコン膜からなる絶縁膜23を形成する方法が挙げられる。絶縁膜23の厚みは例えばおよそ100nmである。
【0053】
ステップS10の配向膜形成工程では、図5(e)に示すように、絶縁膜23の表面に配向膜24を形成する。配向膜24の形成方法としては、例えば酸化シリコンを蒸着源として対向基板20の液晶層50側の面に斜め蒸着して成膜する方法が挙げられる。蒸着源から蒸発した酸化シリコンは対向基板20に到達すると、柱状の結晶体(カラムと呼ぶ)となって成長する。カラムは対向基板20と蒸着源とがなす蒸着角度による蒸着方向に沿った方向に成長してゆく。配向膜24はこのようなカラムの集合体であって、膜厚は例えばおよそ750nmである。なお、素子基板10における配向膜18の形成(ステップS4)も配向膜24と同じように形成される。配向膜18の膜厚は配向膜24と同じでおよそ750nmである。
【0054】
ステップS11の液晶滴下工程は、図6(f)に示すように、TFT30や画素電極15を含む画素回路と配向膜18が形成され、スペーサー41を含むシール材40が額縁状に配置された素子基板10に対して、シール材40の内側にノズル60から所定量の液晶50aを滴下する。液晶50aは、次の貼り合わせ工程(ステップS12)において素子基板10と対向基板20とを所定の間隔をおいて貼り合わせてなる液晶層50の体積を考慮して所定量が滴下される。なお、図6(f)では、シール材40の内側の部分に接する程度に液晶50aを行き渡らせているが、これに限定されるものではなく、シール材40で囲まれた領域のほぼ中央に所定量の液晶50aを滴下すればよい。
【0055】
ステップS12の貼り合わせ工程では、図6(g)に示すように、液晶50aが滴下された素子基板10と、対向基板20とを減圧下で対向配置させる。図6(h)に示すように、素子基板10と対向基板20とを貼り合わせ、シール材40を硬化させる。これにより、素子基板10と対向基板20とをスペーサー41によって規定される所定の間隔をおいて接着させる。所定の間隔つまり液晶層50の厚みdを計測する方法としては液晶層50のリタデーションを測定し、液晶の屈折率から厚みdを求める方法が挙げられる。
なお、液晶50aは一対の基板を貼り合わせる前に脱気しておくことが好ましい。また、シール材40の硬化は、本工程において完全に行う必要はない。本実施形態では、シール材40として紫外線と熱併用硬化型のエポキシ系接着剤を用い、貼り合わせ工程では減圧下で上記所定の間隔を保ちつつ紫外線を照射することによってシール材40を仮硬化させ、常圧下で熱と紫外線の両方を用いて本硬化させている。
【0056】
次に、具体的な実施例と比較例とを挙げて、本実施形態における作用・効果について図7〜図9を参照して説明する。図7は実施例および比較例の構成と評価結果を示す表、図8は実施例における対向基板の光の透過率を示すグラフ、図9は比較例1における対向基板の光の透過率を示すグラフである。
【0057】
図7に示すように、実施例、比較例1、比較例2における対向基板20の各薄膜の構成は、次のとおりである。比較例1は実施例に対して対向基板の構成と液晶層の厚みを異ならせたものであり、比較例2は実施例に対して液晶層の厚みを異ならせたものである。
(実施例)
第1透光性膜22a(ITO膜)、膜厚は20nm、屈折率はおよそ2.0、
第2透光性膜22b(SiO2膜)、膜厚は50nm、屈折率はおよそ1.46、
第3透光性膜22c(ITO膜)、膜厚は20nm、屈折率はおよそ2.0、
共通電極層22の光路長は、入射光の波長λが550nmのときにおよそ153nmとなる。
絶縁膜23(SiO2膜)、膜厚は100nm、
無機配向膜としての配向膜24(SiO2のカラム集合体)、膜厚は750nm、
液晶層50はODF方式で一対の基板間に封止されており、その厚みdは、2.1μm±0.2μmの範囲である。つまり、所定の値d0(2.1μm)に対して±10%以内となっている。
【0058】
(比較例1)
第1透光性膜(ITO膜)、膜厚は140nm、屈折率はおよそ2.0、
共通電極としての第1透光性膜の光路長は、入射光の波長λが550nmのときにおよそ280nmとなる。
第2透光性膜や第3透光性膜は形成されていない。
絶縁膜や無機配向膜は、実施例と同じである。
また、液晶層は、真空注入方式で注入口から一対の基板間に液晶を注入して封止されており、その厚みdは、2.1μm±0.3μmの範囲である。つまり、所定の値d0(2.1μm)に対して±15%以内となっている。
【0059】
(比較例2)
第1透光性膜(ITO膜)、膜厚は20nm、屈折率はおよそ2.0、
第2透光性膜(SiO2膜)、膜厚は50nm、屈折率はおよそ1.46、
第3透光性膜(ITO膜)、膜厚は20nm、屈折率はおよそ2.0、
絶縁膜や無機配向膜は、実施例と同じである。
また、液晶層は、真空注入方式で注入口から一対の基板間に液晶を注入して封止されており、その厚みdは、2.1μm±0.3μmの範囲である。つまり、所定の値d0(2.1μm)に対して±15%以内となっている。
【0060】
なお、比較例1、比較例2における素子基板の構成は、実施例の素子基板10と同じである。
【0061】
図8に示すように、実施例の対向基板20における光の透過率は、可視光波長領域(400nm〜700nm)において、97%以上の高い値を示している。また、青色光の波長領域(400nm〜500nm)、緑色光の波長領域(500nm〜600nm)、赤色光の波長領域(600nm〜700nm)のうち、緑色光と赤色光の波長領域では、99%以上でほぼフラットな透過率特性を示している。なお、比較例2においても、対向基板の構成は、実施例と同じであるため同様な透過率特性を示す。したがって、実施例と比較例2の対向基板の透過性の評価は○である。なお、各透光性膜の膜厚がねらい値に対して±10%程度ばらついたとしても、図8に示すような透過率特性をほぼ実現できる。
【0062】
また、実施例は、液晶層50の厚みdが2.1μm±0.2μmの範囲であるため、前述したように液晶層50を透過する光の位相ばらつきが抑えられ、例えば、後述する投射型表示装置の液晶ライトバルブとして用いた場合には、色ムラや表示ムラが目立つことなく明るい表示品質が実現されている。したがって、実施例の色ムラ、表示ムラの評価は○である。後述する投射型表示装置を用いた液晶ライトバルブ(液晶装置)の色ムラや表示ムラの具体的な評価方法としては、例えば、最も視感度が高い緑色の表示をさせて、その色ムラを評価したり、中間調の表示をさせて表示ムラを評価する方法が挙げられる。
【0063】
これに対して、図9に示すように、比較例1の対向基板における光の透過率は、緑色光の波長領域(500nm〜600nm)において99%以上の値を示すものの、青色光の波長領域(400nm〜500nm)では、光の波長が短くなるほど透過率が低下し、400nmでおよそ92%となっている。また、赤色光の波長領域(600nm〜700nm)では、光の波長が長くなるほど透過率が低下し、700nmでおよそ96%となっている。つまり、実施例に比べて、可視光波長範囲(400nm〜700nm)で透過率特性がフラットではなく、青色光と赤色光の波長領域で透過率が低下している。したがって、比較例1の対向基板の透過性の評価は×である。
【0064】
また、比較例1は、液晶層50の厚みが2.1μm±0.3μmの範囲であるため、前述したように液晶層50を透過する光における位相のばらつきが実施例に比べて大きくなり、例えば、後述する投射型表示装置の液晶ライトバルブとして用いた場合には、色ムラや表示ムラが目立つので評価は×である。とりわけ、注入口付近の液晶層の厚みばらつきが大きく、注入口付近での色ムラが実施例に比べて目立つ。
【0065】
比較例2の対向基板の透過性の評価は、対向基板の構成が実施例と同じであるため、○である。しかしながら、液晶層50の厚みばらつきは実施例よりも大きく、所定の値d0(2.1μm)に対して±15%以内となっている。対向基板の構成が実施例と同じであるため、光の干渉に与える影響は比較例1に比べて小さくなっているものの、注入口付近の液晶層50の厚みばらつきが完全には解消されていないので、色ムラや表示ムラの評価は△である。
【0066】
以上に述べた前記実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)液晶装置100は、対向基板20を透過する光が異なる屈折率を有する透光性膜の各界面で反射したときに生ずる位相のずれが打ち消されるように、共通電極層22を構成する第1透光性膜22a、第2透光性膜22b、第3透光性膜22cの屈折率(膜形成材料)と膜厚とが設定されている。加えて、液晶層50の厚みdが所定の値d0(2.1μm)に対して±10%以内となっているので、液晶層50を透過する光L1の位相ばらつきが抑えられ、例えば、後述する投射型表示装置の液晶ライトバルブとして用いた場合には、色ムラや表示ムラが目立つことなく明るい表示品質が得られる液晶装置100を提供することができる。
(2)液晶装置100の製造方法によれば、液晶層50はODF方式によって一対の基板間に封止されている。したがって、注入口から液晶を注入して封止する真空注入方式に比べて、注入口付近で厚みがばらつくような現象が発生せず、少なくとも画素領域Eに亘って厚みばらつきが抑制された液晶層50を構成することができる。つまり、液晶層50の厚みdを容易に所定の値d0(2.1μm)に対して±10%以内とすることができ、液晶層50の厚みばらつきが光の干渉に影響を及ぼすことが低減される。よって、例えば、後述する投射型表示装置の液晶ライトバルブとして用いた場合に、色ムラや表示ムラが目立つことなく明るい表示品質が得られる液晶装置100を製造することができる。
(3)液晶装置100の対向基板20における共通電極層22は、導電性の第1透光性膜22aと第3透光性膜22cがITO膜を用いて形成され、膜厚がそれぞれ20nmに設定されている。また、これらの間に第2透光性膜22bがITO膜よりも屈折率が小さい酸化シリコンを用いて形成され、膜厚が50nmに設定されている。さらに、第3透光性膜22cと液晶層50との間には、第3透光性膜22cよりも屈折率が小さい、酸化シリコンからなる絶縁膜23と配向膜24とが形成されている。したがって、対向基板20における各薄膜の界面における光の反射率が低減され、対向基板20の透過率特性が可視光波長領域(400nm〜700nm)に亘って97%以上でフラットになっている。よって、液晶装置100を、後述する投射型表示装置の液晶ライトバルブとして用いた場合には、赤色光(R)、緑色光(G)、青色光(B)の色光間でばらつくことなく安定した光の反射特性が得られる。
【0067】
(第2実施形態)
次に、本実施形態の電子機器について、図10を参照して説明する。図10は電子機器としての投射型表示装置の構成を示す概略図である。
【0068】
<投射型表示装置>
図10に示すように、本実施形態の電子機器としての投射型表示装置1000は、システム光軸Lに沿って配置された偏光照明装置1100と、3つのダイクロイックミラー1111,1112,1115と、2つの反射ミラー1113,1114と、3つの光変調素子としての反射型の液晶ライトバルブ1250,1260,1270と、クロスダイクロイックプリズム1206と、投射レンズ1207とを備えている。
【0069】
偏光照明装置1100は、ハロゲンランプなどの白色光源からなる光源としてのランプユニット1101と、インテグレーターレンズ1102と、偏光変換素子1103とから概略構成されている。
【0070】
偏光照明装置1100から射出された偏光光束は、互いに直交して配置されたダイクロイックミラー1111とダイクロイックミラー1112とに入射する。光分離素子としてのダイクロイックミラー1111は、入射した偏光光束のうち赤色光(R)を反射する。もう一方の光分離素子としてのダイクロイックミラー1112は、入射した偏光光束のうち緑色光(G)と青色光(B)とを反射する。
反射した赤色光(R)は反射ミラー1113により再び反射され、液晶ライトバルブ1250に入射する。一方、反射した緑色光(G)と青色光(B)とは反射ミラー1114により再び反射して光分離素子としてのダイクロイックミラー1115に入射する。ダイクロイックミラー1115は緑色光(G)を反射し、青色光(B)を透過する。反射した緑色光(G)は液晶ライトバルブ1260に入射する。透過した青色光(B)は液晶ライトバルブ1270に入射する。
【0071】
液晶ライトバルブ1250は、反射型の液晶パネル1251と、反射型偏光素子としてのワイヤーグリッド偏光板1253とを備えている。
液晶ライトバルブ1250は、ワイヤーグリッド偏光板1253によって反射した赤色光(R)がクロスダイクロイックプリズム1206の入射面に垂直に入射するように配置されている。また、ワイヤーグリッド偏光板1253の偏光度を補う補助偏光板1254が液晶ライトバルブ1250における赤色光(R)の入射側に配置され、もう1つの補助偏光板1255が赤色光(R)の射出側においてクロスダイクロイックプリズム1206の入射面に沿って配置されている。なお、反射型偏光素子として偏光ビームスプリッターを用いた場合には、一対の補助偏光板1254,1255を省略することも可能である。
このような反射型の液晶ライトバルブ1250の構成と各構成の配置は、他の反射型の液晶ライトバルブ1260,1270においても同じである。
【0072】
液晶ライトバルブ1250,1260,1270に入射した各色光は、画像情報に基づいて変調され、再びワイヤーグリッド偏光板1253,1263,1273を経由してクロスダイクロイックプリズム1206に入射する。クロスダイクロイックプリズム1206では、各色光が合成され、合成された光は投射レンズ1207によってスクリーン1300上に投射され、画像が拡大されて表示される。
【0073】
本実施形態では、液晶ライトバルブ1250,1260,1270における反射型の液晶パネル1251,1261,1271として上記第1実施形態における反射型の液晶装置100が適用されている。
【0074】
このような投射型表示装置1000によれば、反射型の液晶装置100を液晶ライトバルブ1250,1260,1270に用いているので、色ムラや表示ムラが低減され明るい画像を投射可能な反射型の投射型表示装置1000を提供できる。
【0075】
本発明は、上記した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う液晶装置100および該液晶装置100の製造方法ならびに該液晶装置100を適用する電子機器もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0076】
(変形例1)透光性膜の界面における光の反射が低減された共通電極層22を有する対向基板20を備えた液晶装置100は、画素電極15が光反射性を有する反射型に限定されない。素子基板10の基材を透明な石英基板やガラス基板とし、画素電極15を透光性のITO膜などを用いて構成した透過型の液晶装置にも適用することができる。なお、透過型の液晶装置の場合、反射型に比べて入射光が液晶層50を透過する回数が減少(基本的には1回)するので、液晶層50の厚みばらつきは反射型に比べて大きくても光の干渉に与える影響が小さい。したがって、液晶層50の厚みdを所定の値d0に対して±20%以内としても、光の干渉に起因する色ムラや表示ムラが低減された透過型の液晶装置を実現できる。
【0077】
(変形例2)共通電極層22を有する対向基板20を備えた液晶装置100の構造は、これに限定されない。図11は変形例の液晶装置の構造を示す概略断面図である。例えば、図11に示すように、変形例の液晶装置150は、対向基板20のシール材40と重なる部分に凹部20aが形成されている。共通電極層22は、複数の画素電極15に対応する対向基板20の面に形成されているだけでなく、上記凹部20aにも形成されている。このような対向基板20と素子基板10とをスペーサー41を含むシール材40を用いて貼り合わせ、その隙間に液晶を充填すると、液晶層の厚みd1は、上記実施形態の液晶装置100の液晶層50の厚みdよりも対向基板20に凹部20aを形成した分だけ薄く(小さく)なる。つまり、同じ径を有するスペーサー41を用いてより厚みが薄い(小さい)液晶層を構成することができる。液晶層の厚みd1と同じ径のスペーサーを用いる場合に比べて、スペーサーの径のばらつきによる液晶層の厚みばらつきを抑えることができる。
【0078】
(変形例3)対向基板20の共通電極層22の構成は、異なる屈折率の透光性膜が積層された3層構造に限定されない。例えば、該3層構造に、第3透光性膜22cよりも屈折率が小さい絶縁性の第4透光性膜と、第4透光性膜よりも屈折率が大きい導電性の第5透光性膜とを加えた構成としてもよい。より具体的には、ITO膜を用いて第3透光性膜22cを形成し、膜厚を40nmとする。酸化シリコンを用いて第4透光性膜を形成し、膜厚を50nmとする。さらに、ITO膜を用いて第5透光性膜を形成し、膜厚を20nmとすることで、可視光波長領域で透過率特性がフラットで高い透過率が得られる。
【0079】
(変形例4)本発明の共通電極層22が適用される液晶装置100の配向膜18,24は、無機配向膜に限定されない。例えば、ポリイミド樹脂からなる有機配向膜を用いてもよい。
【0080】
(変形例5)液晶装置100を適用可能な電子機器は、上記実施形態の投射型表示装置1000に限定されない。例えば、投射型のHUD(ヘッドアップディスプレイ)や直視型のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)、または電子ブック、パーソナルコンピューター、デジタルスチルカメラ、液晶テレビ、ビューファインダー型あるいはモニター直視型のビデオレコーダー、カーナビゲーションシステム、電子手帳、POSなどの情報端末機器の表示部として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0081】
10…第1基板としての素子基板、15…画素電極、20…第2基板としての対向基板、22…共通電極層、22a…第1透光性膜、22b…第2透光性膜、22c…第3透光性膜、24…無機配向膜としての配向膜、40…シール材、50…液晶層、50a…液晶、100,150…液晶装置、1000…電子機器としての投射型表示装置、E…画素領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と、
前記第1基板と対向配置された透光性の第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板とを貼り合わせるシール材と、
前記第1基板と前記第2基板との間に挟持された液晶層と、
前記第1基板の前記液晶層側に形成された複数の画素電極と、
前記第2基板の前記液晶層側に形成された導電性の第1透光性膜と、
前記第1透光性膜の前記液晶層側に形成され、前記第1透光性膜よりも屈折率が小さい絶縁性の第2透光性膜と、
前記第2透光性膜の前記液晶層側に形成され、前記第2透光性膜よりも屈折率が大きい導電性の第3透光性膜と、を備え、
前記複数の画素電極を有する画素領域における前記液晶層の厚みが、所定の値に対して±20%以内となっていることを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
前記複数の画素電極は、光反射性を有しており、
前記画素領域における前記液晶層の厚みが、所定の値に対して±10%以内となっていることを特徴とする請求項1に記載の液晶装置。
【請求項3】
前記シール材は、前記第1基板と前記第2基板との間において、切れ目が無く額縁状に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶装置。
【請求項4】
前記第1透光性膜と前記第3透光性膜は、膜厚がおよそ20nmのITO膜からなり、
前記第2透光性膜は、膜厚がおよそ50nmの酸化シリコン膜からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液晶装置。
【請求項5】
前記第3透光性膜の前記液晶層側に形成された酸化シリコンからなる無機配向膜を有することを特徴とする請求項4に記載の液晶装置。
【請求項6】
第1基板と透光性の第2基板との間に液晶層が挟持された液晶装置の製造方法であって、
前記第1基板上に複数の画素電極を形成する画素電極形成工程と、
前記第2基板上に導電性の第1透光性膜を形成する第1透光性膜形成工程と、
前記第1透光性膜上に前記第1透光性膜よりも屈折率が小さい絶縁性の第2透光性膜を形成する第2透光性膜形成工程と、
前記第2透光性膜上に前記第2透光性膜よりも屈折率が大きい導電性の第3透光性膜を形成する第3透光性膜形成工程と、
前記第1基板の前記複数の画素電極を形成した側または前記第2基板の前記第3透光性膜を形成した側にシール材を額縁状に配置するシール材配置工程と、
前記第1基板または前記第2基板に配置された前記シール材の内側に液晶を付与する液晶付与工程と、
前記第1基板と前記第2基板とを、前記第1基板の前記複数の画素電極を形成した側と前記第2基板の前記第3透光性膜を形成した側とが対向するように、減圧下で前記シール材を介して貼り合わせる貼り合わせ工程と、を備え、
前記貼り合わせ工程は、前記複数の画素電極を有する画素領域における前記液晶層の厚みを所定の値に対して±20%以内として前記シール材を硬化させることを特徴とする液晶装置の製造方法。
【請求項7】
前記画素電極形成工程は、光反射性を有する前記複数の画素電極を形成し、
前記貼り合わせ工程は、前記画素領域における前記液晶層の厚みを所定の値に対して±10%以内として前記シール材を硬化させることを特徴とする請求項6に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液晶装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−57783(P2013−57783A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195744(P2011−195744)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】