液晶装置、電子機器および投射型表示装置
【課題】部品点数を増やすことなく、光学的な視角補償を実現して広い視角特性と高い正面コントラスト比を有する小型な液晶装置、これを備えた電子機器および投射型表示装置を提供すること。
【解決手段】液晶装置100は、一対の基板としての素子基板10と対向基板20と間に液晶層50が挟持され、液晶層50の液晶分子LCが基板面に対して略垂直に初期配向しており、一対の基板の液晶層50側の基板面には無機配向膜としての配向膜18,29が形成され、配向膜18,29の表面において、基板面で所定の方位角方向のプレチルトが液晶分子LCに付与されている。配向膜18,29は、所定の方位角方向に対して略直交した遅相軸を有しており、配向膜18,29は光学補償層として液晶層50の位相差を光学的に補償している。
【解決手段】液晶装置100は、一対の基板としての素子基板10と対向基板20と間に液晶層50が挟持され、液晶層50の液晶分子LCが基板面に対して略垂直に初期配向しており、一対の基板の液晶層50側の基板面には無機配向膜としての配向膜18,29が形成され、配向膜18,29の表面において、基板面で所定の方位角方向のプレチルトが液晶分子LCに付与されている。配向膜18,29は、所定の方位角方向に対して略直交した遅相軸を有しており、配向膜18,29は光学補償層として液晶層50の位相差を光学的に補償している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置、これを備えた電子機器および投射型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記液晶装置として、液晶層に電圧が印加されていない状態のときに液晶分子が基板面に対して略垂直に配向するVAN(Vertical Alignment Nematic)液晶が用いられ、無機材料を斜方蒸着することによってつくられ、素子表面に対して傾斜する光学軸を有し、無機材料の蒸着方向を素子表面に正射影した方向と進相軸の方向とが一致し、液晶分子が基板面に対して傾斜していることによって生ずる位相差を補償する2軸性複屈折体を備えた反射型液晶表示素子が知られている(特許文献1)。
【0003】
上記特許文献1では、液晶層を透過した偏光が2軸性複屈折体を透過することによって生ずる位相差を補償する1軸性複屈折体を、2軸性複屈折体に重ねて配置することも開示されている。
このような2軸性複屈折体および1軸性複屈折体を設けることで反射型液晶表示素子における正面方向ならびに斜め方向におけるコントラストを改善できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−164754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の反射型液晶表示素子では、液晶層を垂直に透過する光と斜めに透過する光の両方の位相差を補償するには、2軸性複屈折体と1軸性複屈折体の両方が必要である。すなわち、部品点数が増え、構造的にも小型化が難しいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例の液晶装置は、一対の基板間に液晶層が挟持され、前記液晶層の液晶分子が基板面に対して略垂直に初期配向しており、前記一対の基板の前記液晶層側の基板面には無機配向膜が形成され、前記無機配向膜の表面において、前記基板面で所定の方位角方向のプレチルトが前記液晶分子に付与されている液晶装置であって、前記無機配向膜は、前記所定の方位角方向に対して略直交した遅相軸を有しており、前記無機配向膜は光学補償層として前記液晶層の位相差を光学的に補償していることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、一対の基板ごとに設けられた無機配向膜が液晶分子のプレチルトに起因する位相差を光学的に補償する光学補償層となっているので、新たに光学補償層を設ける必要がなく、高いコントラストが得られる小型な液晶装置を提供できる。
【0009】
[適用例2]上記適用例の液晶装置において、前記無機配向膜は、無機材料を前記基板面に対して斜方蒸着または斜方スパッタして得られたものであることを特徴とする。
この構成によれば、斜方蒸着または斜方スパッタによって得られた無機配向膜が採用されているので、光学補償層に必要な位相差を成膜時の膜厚を調整することにより確保できる。したがって、決められた位相差を有する光学補償層を備えた部材を予め調達する場合に比べて、液晶装置の製造の過程で、液晶層の位相差の設定に合わせて無機配向膜を成膜することにより、柔軟に光学補償層を設けることができる。
また、斜方蒸着や斜方スパッタによって得られる無機配向膜は、2軸性複屈折体として機能するので、基板面に対して垂直な方向に液晶層を透過する光に対する光学的な補償が効果的になされ、特に液晶装置の正面方向におけるコントラストが改善される。
【0010】
[適用例3]上記適用例の液晶装置において、前記一対の基板のうちの一方の基板の前記液晶層とは反対側に1軸性複屈折体がさらに設けられていることが望ましい。
この構成によれば、1軸性複屈折体を設けることにより、液晶層を斜めに透過する光に対しての光学的な補償がさらになされ、広い視野角に亘って高いコントラストが得られる液晶装置を提供できる。
【0011】
[適用例4]上記適用例の液晶装置において、前記1軸性複屈折体は、前記1軸性複屈折体の表面に対して略垂直な方向の光学軸を有し、前記光学軸が前記液晶分子の前記プレチルトの方向に対して略平行または略平行な状態に近づくように、前記一方の基板に対して傾斜して配置されていることが好ましい。
この構成によれば、液晶層を斜めに透過する光に対してより適正な光学的補償がなされる。すなわち、より広い視野角に亘って高いコントラストが得られる。
【0012】
[適用例5]上記適用例の液晶装置において、前記無機配向膜は、前記一対の基板ごとに前記無機配向膜の光学的な位相差が前記液晶層の位相差を補償する最適値の1/2の値よりも小さい値となるように膜厚が設定され、前記1軸性複屈折体は、前記最適値に対して不足する分の位相差を有することが好ましい。
基板面における無機配向膜の膜厚は、成膜時の条件などにより一定の膜厚とすることが難しいことがある。例えば、基板面における面内ばらつきで膜厚が部分的に所定の値よりも厚くなると、1軸性複屈折体を設けたとしても適性な光学補償ができないおそれがある。
この構成によれば、無機配向膜の膜厚が成膜時にばらついたとしても、元々の膜厚の設定が最適値の1/2の値よりも小さく設定されているので、膜厚ばらつきの影響を小さくできる。また、一方の基板に対する1軸性複屈折体の傾斜角度を調整すれば、光学的な補償が適正な状態となるように調整が可能である。
【0013】
[適用例6]上記適用例の液晶装置において、前記1軸性複屈折体は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された無機位相差板であることが好ましい。
この構成によれば、1軸性複屈折体として例えば樹脂材料からなる有機位相差板を採用する場合に比べて、高温高湿などの耐久性能が優れた液晶装置を提供することができる。
【0014】
[適用例7]上記適用例の液晶装置において、前記一対の基板のうち前記一方の基板の前記液晶層側に光透過性を有する共通電極が設けられ、前記一対の基板のうち他方の基板の前記液晶層側に光反射性を有する画素電極が設けられているとしてもよい。
この構成によれば、光反射性を有する画素電極を備えた所謂反射型の液晶装置は、もともと視角特性が液晶分子のプレチルトに依存し難い自己補償性を有しており、透過型の液晶装置に比べて、光学補償層を兼ねる無機配向膜や1軸複屈折体を設ける効果がより効果的に反映される。すなわち、すぐれた視角特性を有する反射型の液晶装置を提供することができる。
【0015】
[適用例8]本適用例の電子機器は、上記適用例の液晶装置を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、視角特性において高いコントラストが得られる液晶装置を備えているので、少なくとも正面方向から見たときに見栄えのよい電子機器を提供することができる。
【0016】
[適用例9]本適用例の投射型表示装置は、光源と、前記光源から射出された光を赤色光、緑色光、青色光に分離する光分離素子と、分離された色光ごとに設けられ、前記色光を画像情報に基づいて変調する光変調素子と、変調された前記色光を合成する光合成素子とを備え、前記光変調素子が上記適用例の液晶装置からなり、前記光変調素子の前記色光の入射側または射出側において、前記1軸性複屈折体は、前記一方の基板に対して傾斜して配置されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、液晶層における液晶分子のプレチルトに起因する位相差を光学的に補償する無機配向膜と、液晶装置の一対の基板のうち一方の基板に対して傾斜して配置された1軸性複屈折体とを有することにより、広い視野角に亘って高いコントラストが得られる投射型表示装置を提供することができる。
【0018】
[適用例10]上記適用例の投射型表示装置において、前記1軸性複屈折体は、前記一方の基板に対して前記色光ごとに異なる角度で傾斜して配置されていることが好ましい。
この構成によれば、赤、緑、青の色光ごとの波長依存性を考慮して適正な光学補償が実現された投射型表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態の液晶装置の構成を示す概略図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のH−H'線で切った断面図。
【図2】第1実施形態の液晶装置の電気的な構成を示す等価回路図。
【図3】第1実施形態の液晶装置の画素の構造を示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A’線で切った要部断面図。
【図4】第1実施形態の液晶装置における無機配向膜の形成状態と液晶分子の配向状態とを示す概略断面図。
【図5】斜方蒸着の蒸着角度と液晶分子のプレチルト角との関係を示すグラフ。
【図6】第1実施形態における液晶分子のプレチルト角と液晶層の正面位相差との関係を示すグラフ。
【図7】無機配向膜の膜厚と正面位相差との関係を示すグラフ。
【図8】(a)および(b)は第1実施形態の液晶装置の光学的な視角補償原理を説明する図。
【図9】液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線であり、(a)は比較例1の等コントラスト曲線、(b)は比較例2の等コントラスト曲線、(c)は第1実施形態の等コントラスト曲線。
【図10】第2実施形態の液晶装置の構成を示す概略断面図。
【図11】第2実施形態の液晶装置の光学的な視角補償原理を説明する図。
【図12】第2実施形態における1軸性複屈折体の傾斜角度と正面位相差との関係を示すグラフ。
【図13】(a)は第2実施形態の液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線、(b)は無機位相差板の傾斜角度を−2.0°としたときの等コントラスト曲線。
【図14】第3実施形態の電子機器としての投射型表示装置の一例である3板式の透過型液晶プロジェクターの構成を示す図。
【図15】第4実施形態の液晶装置の構造を示す概略断面図。
【図16】第4実施形態における液晶分子のプレチルト角と液晶層の正面位相差との関係を示すグラフ。
【図17】(a)は第4実施形態の液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線、(b)は比較例の反射型液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線。
【図18】第5実施形態の液晶装置の構造を示す概略断面図。
【図19】第5実施形態における1軸性複屈折体の傾斜角度と正面位相差との関係を示すグラフ。
【図20】第5実施形態の液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線。
【図21】第6実施形態の電子機器としての投射型表示装置の一例である3板式の反射型液晶プロジェクターの構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0021】
(第1実施形態)
本実施形態では、薄膜トランジスター(Thin Film Transistor;TFT)を画素のスイッチング素子として備えたアクティブマトリクス型の液晶装置を例に挙げて説明する。この液晶装置は、例えば後述する投射型表示装置(液晶プロジェクター)の光変調素子(液晶ライトバルブ)として好適に用いることができるものである。
【0022】
<液晶装置>
まず、本実施形態の液晶装置について図1〜図4を参照して説明する。図1は液晶装置の構成を示す概略図であり、同図(a)は正面図、同図(b)は同図(a)のH−H'線で切った断面図である。
【0023】
図1(a)および(b)に示すように、本実施形態の液晶装置100は、一対の基板としての素子基板10および対向基板20と、これら一対の基板によって挟持された液晶層50とを有する。
素子基板10は対向基板20よりも一回り大きく、両基板は、シール材52を介して接合され、その隙間に負の誘電異方性を有する液晶が封入されて液晶層50を構成している。
【0024】
同図(a)に示すように、素子基板10の1辺部に沿ってデータ線駆動回路101が設けられ、これに電気的に接続された複数の端子部102が配列している。該1辺部と直交し互いに対向する他の2辺部には、該2辺部に沿って走査線駆動回路104が設けられている。対向基板20を挟んで該1辺部と対向する他の1辺部には、2つの走査線駆動回路104を繋ぐ複数の配線105が設けられている。
【0025】
額縁状に配置されたシール材52の内側には、同じく額縁状に見切り部53が設けられている。見切り部53は、遮光性を有する金属材料あるいは樹脂材料からなり、見切り部53の内側が複数の画素を有する表示領域10aとなっている。
【0026】
同図(b)に示すように、素子基板10の液晶層50側の表面には、画素ごとに設けられた光透過性を有する画素電極15およびスイッチング素子としての薄膜トランジスター30と、信号配線と、これらを覆う配向膜18とが形成されている。
【0027】
対向基板20の液晶層50側の表面には、見切り部53と、これを覆うように成膜された共通電極23と、共通電極23を覆う配向膜29とが形成されている。
【0028】
これらの配向膜18および配向膜29は、無機材料からなる無機配向膜であって、無機材料としてのSiO2(酸化シリコン)を斜方蒸着して得られたものである。このような配向膜18,29により挟まれた液晶層50における液晶分子の配向状態については後述する。
【0029】
対向基板20に設けられた共通電極23は、同図(a)に示すように対向基板20の四隅に設けられた上下導通部106により素子基板10側の配線に電気的に接続している。
【0030】
図2は、液晶装置の電気的な構成を示す等価回路図である。図2に示すように、液晶装置100は、少なくとも表示領域10aにおいて互いに絶縁されて直交する信号線としての複数の走査線3aと複数のデータ線6aとを有する。また、走査線3aに対して一定の間隔を置いて平行するように配置された容量線3bを有する。
【0031】
走査線3aとデータ線6aならびに容量線3bにより格子状に区画された領域に、画素電極15と、画素電極15をスイッチング制御するスイッチング素子としてのTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスター)30と、保持容量16とが設けられ、これらが画素を構成している。すなわち、画素は、マトリクス状に配置されている。
【0032】
走査線3aはTFT30のゲートに電気的に接続され、データ線6aはTFT30のソースに電気的に接続されている。画素電極15はTFT30のドレインに電気的に接続されている。
データ線6aはデータ線駆動回路101(図1参照)に接続されており、データ線駆動回路101から供給される画像信号D1,D2,…,Dnを画素に供給する。走査線3aは走査線駆動回路104(図1参照)に接続されており、走査線駆動回路104から供給される走査信号SC1,SC2,…,SCmを各画素に供給する。データ線駆動回路101からデータ線6aに供給される画像信号D1〜Dnは、この順に線順次で供給してもよく、互いに隣接する複数のデータ線6a同士に対してグループごとに供給してもよい。走査線駆動回路104は、走査線3aに対して、走査信号SC1〜SCmを所定のタイミングでパルス的に線順次で供給する。
【0033】
液晶装置100は、スイッチング素子であるTFT30が走査信号SC1〜SCmの入力により一定期間だけオン状態とされることで、データ線6aから供給される画像信号D1〜Dnが所定のタイミングで画素電極15に書き込まれる構成となっている。そして、画素電極15を介して液晶層50に書き込まれた所定レベルの画像信号D1〜Dnは、画素電極15と液晶層50を介して対向配置された共通電極23との間で一定期間保持される。
保持された画像信号D1〜Dnがリークするのを防止するため、画素電極15と共通電極23との間に形成される液晶容量と並列に保持容量16が接続されている。保持容量16は、TFT30のドレインと容量線3bとの間に設けられている。
【0034】
図3は液晶装置の画素の構造を示す概略図であり、同図(a)は平面図、同図(b)は同図(a)のA−A’線で切った要部断面図である。
【0035】
図3(a)に示すように、液晶装置100の画素は、互いに交差(直交)する走査線3aとデータ線6aとにより区画された画素領域に略四角形の画素電極15を有している。画素電極15は、例えばITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜からなり光透過性を有している。
【0036】
TFT30は、走査線3aとデータ線6aとの交差点近傍における走査線3a上に設けられている。該走査線3a上に沿って半導体層30aが設けられ、半導体層30aのソース側と重なるように、データ線6aと一体的に形成されたソース電極30sが設けられている。また、半導体層30aのドレイン側と重なるようにドレイン電極30dが設けられている。
【0037】
ドレイン電極30dは画素領域内に延出され、延出された部分がコンタクトホール15aを介して画素電極15と電気的に接続されている。
【0038】
容量線3bは、走査線3aと平行して設けられており、画素領域内において、容量線3bと平面的に重なる領域にドレイン電極30dの延出部30eが設けられている。
【0039】
より具体的には、図3(b)に示すように、まず素子基板10上にアルミニウムなどの低抵抗配線材料を成膜してパターニングすることにより、走査線3aとこれに平行する容量線3bとを形成する。走査線3aと容量線3bとを覆って例えばシリコンの酸化物からなるゲート絶縁膜11を形成する。ゲート絶縁膜11上において走査線3aと重なる位置に半導体層30aを島状に形成する。半導体層30aを覆うように低抵抗配線材料を成膜してパターニングすることにより、データ線6a、ソース電極30s、ドレイン電極30dを形成する。また、ドレイン電極30dに繋がる延出部30eを容量線3bと重なる位置に形成する。
ゲート絶縁膜11を介して対向配置された容量線3bと延出部30eとによって保持容量16が構成されている。
これらのTFT30および保持容量16を覆うように例えばシリコンの酸化物や窒化物からなる層間絶縁膜12を形成し、層間絶縁膜12のドレイン電極30dと平面的に重なる位置にコンタクトホール15aを形成しておく。層間絶縁膜12を覆うように透明導電膜を成膜してパターニングすることにより、コンタクトホール15aを介してドレイン電極30dと電気的に接続された画素電極15を形成する。
【0040】
続いて、画素電極15を覆うように配向膜18を形成する。配向膜18は、前述したように無機材料としてのSiO2(酸化シリコン)を斜方蒸着して形成する。斜方蒸着の平面的な蒸着方向は、図3(a)において矢印で示した方向であり、走査線3aの延在方向に対してθaの角度を有し、画素領域の右上から左下に向かっている。この場合、蒸着方向の角度θaはおよそ45°である。また、紙面に垂直な方向つまり画素電極15の表面に対して垂直な方向における蒸着方向の角度もおよそ45°となっている(図4参照)。
【0041】
このような斜方蒸着によれば、図3(b)に示すように、無機材料としてのSiO2の結晶が基板面に対して斜め方向に成長した柱状体(カラム)18cが形成される。配向膜18は、このような柱状体(カラム)18cが基板面に林立した集合体からなる。
図3(a)および(b)では、素子基板10側の構成について説明したが、対向基板20における配向膜29についても同様に斜方蒸着を用いて共通電極23を覆うように形成され、その平面的な蒸着方向は、素子基板10における角度θaの蒸着方向に対して180°逆向きとなっている。
【0042】
図4は液晶装置における無機配向膜の形成状態と液晶分子の配向状態とを示す概略断面図である。詳しくは、図3(a)における斜方蒸着の蒸着方向に沿って切ったときの断面図である。
【0043】
図4に示すように、液晶層50に面した基板面に対する配向膜18,29における蒸着方向の角度θbはおよそ45°である。また、基板面に対するカラムの成長方向の角度θcはおよそ70°となっている。以降、角度θcをカラム角度θcと呼ぶ。
【0044】
このような配向膜18,29の表面において略垂直配向する液晶分子LCのプレチルト角θpはおよそ85°である。また、基板面の法線方向から見た液晶分子LCのプレチルトの方向すなわち方位角方向は、配向膜18,29における斜方蒸着の平面的な蒸着方向と同じである。
【0045】
本実施形態の液晶装置100は、カラムの集合体である各配向膜18,29の膜厚を特定の値に設定することで、配向膜18,29の表面における液晶分子LCのプレチルトに起因する位相差を光学的に補償した。また、素子基板10と対向基板20との間に挟持された液晶層50を含む液晶パネル110を透過する光の射出側に1軸性複屈折体としての無機位相差板42を配置して、液晶層50を斜めに透過する光の位相差を光学的に補償した。
【0046】
なお、液晶装置100は、液晶パネル110の光の入射側と射出側とにそれぞれ配置された偏光素子41,43を有し、無機位相差板42は光の射出側に配置された偏光素子43と液晶パネル110との間に配置されている。また、偏光素子41,43は、互いの吸収軸または透過軸が直交するように液晶パネル110に対して配置されている。より具体的には、一方の吸収軸または透過軸が走査線3aと平行し、他方の吸収軸または透過軸がデータ線6aとに平行するように配置されている(図3(a)参照)。
すなわち、偏光素子41,43の透過軸または吸収軸に対して液晶分子LCのプレチルトの方位角方向が45°で交差しており、画素電極15と共通電極23との間に駆動電圧を印加して液晶層50を駆動すると、液晶分子LCがプレチルトの方位角方向に倒れることにより、高い透過率が得られる光学的な配置となっている。
【0047】
次に配向膜18,29の成膜条件と液晶分子LCのプレチルト角θpならびに液晶層50の正面位相差について、図5〜図6を参照して説明する。図5は斜方蒸着の蒸着角度と液晶分子のプレチルト角との関係を示すグラフ、図6は液晶分子のプレチルト角と液晶層の正面位相差との関係を示すグラフである。
【0048】
真空蒸着装置を用いて実際に無機材料を基板面に対して斜方蒸着して配向膜18,29を形成する場合、基板の大きさや基板と蒸着源との相対的な位置関係などによって、蒸着方向における蒸着角度θbが変動するおそれがある。また、蒸着角度θbが変動すると液晶分子LCのプレチルト角θpも変動し、これに連動して液晶層50における位相差の値が変動するおそれがある。液晶層50の位相差を光学的に補償しようとするとき、これらのパラメーターの変動ができる限り小さい状態が望ましいことは言うまでもない。
本実施形態では、素子基板10と対向基板20とをおよそ2.5μmの間隔をおいて貼り合わせ、その間に負の誘電異方性を有すると共に複屈折率Δnがおよそ0.14の液晶を挟む構成を一例として、以降の説明を行う。
配向膜18,29の成膜条件としては、真空チャンバー内に配置された基板の温度をおよそ100℃とし、SiO2の蒸着開始時の真空度をおよそ5.0×10-3Paとして斜方蒸着を行っている。
【0049】
図5に示すように、基板面に対する斜方蒸着の蒸着角度θbを30°から60°の範囲で5°刻みに振って得られた配向膜18,29により液晶層50を挟んだときの液晶分子LCのプレチルト角θpは、およそ85°〜89°の間で変化している。その変化は極小点を有する2次関数的であって、蒸着角度θbがおよそ37.5°〜45°の間で斜方蒸着を行うと、プレチルト角θpが85°±1°以内となって安定しているのが分かる。言い換えれば、およそ85°のプレチルト角θpを安定的に得るには、蒸着角度θbが37.5°〜45°の間となるように、基板と蒸着源との相対的な位置関係などを調整することが好ましい。
【0050】
一方で液晶分子LCのプレチルト角θpと液晶層50の正面位相差との関係は、図6に示すように、ほぼ直線的に変化しており、プレチルト角θpが大きくなるほど正面位相差の値(nm)は小さくなる。また、液晶の複屈折率Δnと液晶層50の厚みに依存することは言うまでもない。
画素電極15と共通電極23との間に所定の駆動電圧を印加して液晶層50を駆動すると、液晶分子LCは画素電極15と共通電極23との間に生ずる電界方向に対して直交する方向(すなわち基板面に対して平行な方向)に倒れこむ。プレチルト角θpが90°に近づくと、液晶分子LCの倒れこむ方向が一様でなくなり、リバースチルトドメインなどが発生して光学特性が不安定になる。特に隣接する画素電極15との間隔が狭いときには、画素電極15間に発生する電界によってリバースチルトドメインが発生しやすくなる。そこで、安定した光学特性を得るために、プレチルト角θpをおよそ85°としている。プレチルト角θpが85°のときの正面位相差はおよそ2.4nmである。なお、プレチルト角度θpは85°に限定されるものではなく、液晶層50における配向の安定性と光学特性とを考慮して設定される。
【0051】
図7は無機配向膜の膜厚と正面位相差との関係を示すグラフである。なお、図7は、斜方蒸着における蒸着角度θbを45°として無機配向膜を成膜したときの正面位相差の値を示している。
図7に示すように、無機配向膜の膜厚が上昇するにつれて、ほぼ直線的に正面位相差の値が増加することが分かる。別な見方をすれば、膜厚が20nm程度ではほとんど正面位相差を生じない。一方で、膜厚が少なくとも20nm以上あれば液晶分子LCにほぼ安定したプレチルトを付与できることが分かっている。
【0052】
次に、液晶装置100における光学的な視角補償原理について、図8を参照して説明する。図8(a)および(b)は液晶装置の光学的な視角補償原理を説明する図である。
【0053】
図8(a)に示すように、液晶装置100を透過する光に対して位相差が生ずる各構成を屈折率楕円体として示した。座標軸であるX軸およびY軸は、基板面に対して平行な軸であって、Z軸は基板面に対して垂直な軸である。さらに詳しくは、X軸方向は走査線3aの延在方向であり、Y軸はデータ線6aの延在方向である。
【0054】
液晶層50の液晶分子LCは、前述したように基板面(配向膜面)に対してプレチルトが与えられプレチルトの方向を示す長軸がZ軸と交差するように傾斜している。該長軸に対して直交する方向で液晶分子LCを切ったときの面内における屈折率nx,nyと長軸方向(プレチルトの方向)の屈折率nzとの関係は、nx=ny<nzとなっている。すなわち、液晶層50における面内の屈折率nx,nyは厚み方向の屈折率nzよりも小さい。
【0055】
斜方蒸着によって得られた配向膜18,29は、カラムの成長方向の屈折率nx”がおよそ1.45であり、該成長方向に対して直交する面内の屈折率ny”がおよそ1.41、同じく屈折率nz”が1.40である。すなわち、これらの関係は、nx”>ny”>nz”となっており、2軸性複屈折体となっている。
【0056】
1軸性複屈折体としての無機位相差板42は、例えば透明なガラスなどの基板上に高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層されたものである。高屈折率層を構成する材料としては、TiO2、ZrO2などが挙げられる。低屈折率層を構成する材料としては、SiO2、MgF2などが挙げられる。
【0057】
無機位相差板42を透過する光が各層で反射して干渉することを防ぐために、各屈折率層の厚みは薄い方が望ましく、膜厚と屈折率との積が可視光の波長λよりも十分に小さくなるように形成する。例えば、λ/100〜λ/5が望ましい。
【0058】
このような無機位相差板42は、板面に対して垂直な方向に光学軸を有している。光学軸における屈折率nz’と、板面に対して平行な面内における屈折率nx’,ny’との関係は、nx’=ny’>nz’となっている。すなわち、面内の屈折率nx’,ny’は厚み方向の屈折率nz’よりも大きい。
【0059】
無機位相差板42は、板面に対して垂直に入射する光すなわち光学軸に平行な光に対して等方的(面内の屈折率nx’=屈折率ny’)であるため、光学軸に対して平行に入射する光の位相差を補償することはできない。一方、板面に対して斜めに透過する光に対しては、等方的でなく複屈折を生じさせ、液晶層50を斜めに透過する光の位相差を補償することができる。本実施形態の無機位相差板42の位相差は、(nx’−nz’)×複屈折体の層厚で与えられ、およそ350nmとなっている。すなわち、複屈折率Δn(0.14)と層厚(2.5μm)との積で与えられる液晶層50の位相差と同じ値となるように設定されている。
【0060】
前述したように液晶分子LCは基板面(配向膜面)に対して85°のプレチルト角θpが与えられている。そのときの正面位相差は、およそ2.4nmである(図6参照)。これに対して、本実施形態の配向膜18,29は、それぞれ厚みがおよそ270nmとなるように成膜されている。カラム角度θcは前述したように70°となっている(図4参照)。反射率nx”を示す軸は、このカラムと平行である。したがって、基板面の法線方向から見ると屈折率ny”を示す軸が遅相軸となって、配向膜18,29はそれぞれ−1.2nmの位相差を示す。合算すると−2.4nmとなる。
図8(b)に示すように基板面の法線方向から見ると、液晶分子LCのプレチルトの方向(長軸)が基板面に投影された方位角方向は、配向膜18,29のカラムの成長方向が基板面に投影された方位角方向に対して平行であり、配向膜18,29の遅相軸の方向と直交しているため、両者の位相差は相殺される。つまり、液晶層50の正面位相差が光学的に補償される。言い換えれば、配向膜18,29は、液晶層50の正面位相差を光学的に補償する光学補償層を兼ねている。
なお、透過型の液晶装置100において、無機位相差板42は光の射出側である対向基板20と偏光素子43との間において配置されることに限定されず、光の入射側すなわち素子基板10と偏光素子41との間に配置しても同様な効果が得られる(図4参照)。
【0061】
図9は液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線であり、同図(a)は比較例1の等コントラスト曲線、同図(b)は比較例2の等コントラスト曲線、同図(c)は本実施形態の等コントラスト曲線である。等コントラスト曲線は、拡散光を発するバックライトの上に液晶装置を配置し、全白と全黒を順に表示して、その輝度を視角方向を変化させながら測定した。図の中心が液晶装置の法線方向であり、法線から左右方向に±20°と上下方向に±20°傾いた視角方向の特性を示している。
【0062】
<比較例1>
比較例1では、液晶層50において液晶分子LCが85°のプレチルト角θpを有するように、斜方蒸着によって得られた配向膜18,29の膜厚を複屈折を生じない程度の例えば20nm程度とした。これによれば、図9(a)に示すように、液晶分子LCのプレチルトによる位相差(2.4nm)を視角補償できないので、最大コントラストが得られる方位角が基板面の法線方向すなわち正面(0°,0°)からX軸方向およびY軸方向にそれぞれおよそ5°ずれた方向となっている。ちなみにこの液晶装置をプロジェクターで投影したときのコントラスト比(Contrast Ratio;C,R)はおよそ1100であった。
【0063】
<比較例2>
比較例2では、液晶層50において液晶分子LCが85°のプレチルト角θpを有するように、斜方蒸着によって得られた配向膜18,29の膜厚を複屈折を生じない程度の例えば20nm程度とし、且つ350nmの位相差を有する無機位相差板42を備えた構成とした。これによれば、図9(b)に示すように、無機位相差板42を備えたことにより、液晶層50を斜めに透過する光の位相差が補償されることにより、等コントラスト曲線の形状が変化しているが、最大コントラストが得られる方位角は依然として正面の位置からずれている。すなわち、液晶分子LCのプレチルトに起因する位相差を十分には補償できていない。投影コントラスト比はおよそ1400であった。
【0064】
これに対して本実施形態では、図9(c)に示すように、液晶分子LCのプレチルトによる位相差(2.4nm)の視角補償がなされ、最大コントラストが得られる方位角が正面に位置している。投影コントラスト比はおよそ2200であり、比較例1,2に比べて改善された。すなわち、広い視角特性と高い正面コントラスト比を有する液晶装置100が実現された。
【0065】
なお、本実施形態から無機位相差板42を除いたとしても、斜方蒸着によって得られた配向膜18,29により液晶分子LCのプレチルトによる位相差(2.4nm)が補償されるので、正面コントラスト比がおよそ1300となり、比較例1に比べれば改善されることが分かっている。
【0066】
このような液晶装置100によれば、液晶分子LCのプレチルトによる液晶層50の正面位相差を光学的に視角補償する光学補償板を新たに設けなくても配向膜18,29がそれを兼ねている。すなわち、部品点数を増やすことなく、視角補償を実現して広い視角特性と高い正面コントラスト比を有する小型な液晶装置100を提供できる。
【0067】
(第2実施形態)
第2実施形態の液晶装置について、図10〜図12を参照して説明する。図10は第2実施形態の液晶装置の構成を示す概略断面図、図11は第2実施形態の液晶装置の光学的な視角補償原理を説明する図、図12は1軸性複屈折体の傾斜角度と正面位相差との関係を示すグラフである。
第2実施形態の液晶装置は、第1実施形態に対して無機配向膜の膜厚と、1軸性複屈折体の液晶パネル110に対する配置の仕方を見直したものである。したがって、第1実施形態と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0068】
図10に示すように、本実施形態の液晶装置150は、素子基板10と対向基板20との間に挟持された液晶層50とを備えた液晶パネル110を有する。素子基板10に設けられた画素電極15を覆う配向膜18および対向基板20に設けられた共通電極23を覆う配向膜29は、無機材料としてのSiO2を斜方蒸着して得られた無機配向膜である。
【0069】
基板面に対する斜方蒸着の蒸着角度θbは45°である。また、図示省略したが基板面に対する平面的な蒸着方向の角度θaは走査線3aの延在方向に対して45°である。そして、斜方蒸着によってSiO2の結晶が成長するカラム角度θcは、基板面に対して70°である。
【0070】
素子基板10と対向基板20とはおよそ2.5μmの間隔をおいて対向配置され、その間に負の誘電異方性を有する液晶(複屈折率Δnが0.14)が充填されて液晶層50を構成している。
【0071】
液晶分子LCは、配向膜18,29の配向膜面に対してプレチルトが与えられて初期配向しており、プレチルト角θpはおよそ85°である。
【0072】
液晶分子LCのプレチルトに起因する液晶層50の位相差(2.4nm)を光学的に補償する最適な配向膜18,29の膜厚は、第1実施形態で説明したようにおよそ270nmである。しかしながら、実際の斜方蒸着の工程では、膜厚を一定の値として均一に成膜することは難しい。例えば、基板と蒸着源との距離をできるだけ大きくしてゆっくり成膜する方法が考えられるが、それでは生産性が低下するという課題がある。
【0073】
また、膜厚ばらつきによって、配向膜18,29の膜厚が視角補償を可能とする最適値よりも厚くなってしまうと、1軸性複屈折体としての無機位相差板42を装備したとしても適切な状態からずれてしまう。
【0074】
そこで本実施形態では、配向膜18,29の膜厚を上記最適値より小さく設定し、無機位相差板42を液晶パネル110に対して傾斜させて配置することにより、不足する正面位相差を補う構成としたものである。図10に示すように液晶パネル110の対向基板20の光の射出側の表面に対する無機位相差板42の傾斜角度をθdと呼ぶ。
なお、図10は第1実施形態の図4に相当するものであり、液晶分子LCのプレチルトの方向、すなわち、平面的な斜方蒸着の蒸着方向に沿って液晶装置150を切断した概略断面図である。
【0075】
図11に示すように、無機位相差板42は屈折率nz’を示す光学軸が液晶分子LCのプレチルトの方向(長軸)に対して略平行な状態に近づくように、液晶パネル110すなわち液晶層50に対して傾斜して配置されている。
【0076】
図12に示すように、1軸性複屈折体としての無機位相差板42の傾斜角度θdを0°から9°まで変化させると、その正面位相差は0nmから3.8nmまで変化することが分かった。
【0077】
本実施形態では、液晶パネル110における配向膜18,29のそれぞれの厚みをおよそ240nmとした。このときの各配向膜18,29の正面位相差はおよそ1.1nmである(図7参照)。前述したように液晶分子LCのプレチルト角θpが85°の場合の液晶層50の正面位相差は2.4nmであるため、光学的に視角補償するために不足分する正面位相差は、2.4−2×1.1=0.2nmとなる。したがって、無機位相差板42の傾斜角度θdをおよそ2.0°とした。
【0078】
斜方蒸着による配向膜18,29の形成時の生産性と歩留まりとを考慮すれば、配向膜18,29の膜厚は正面位相差を生ずる範囲で240nmよりもさらに薄い方がよい。液晶分子LCのプレチルトによる液晶層50の正面位相差を視角補償するにあたって不足する分は、無機位相差板42の傾斜角度θdを2.0°よりも大きくすればよい。一方で無機位相差板42の傾斜角度θdが大きくなると、液晶装置150が占める空間が大きくなるので、これを適用する装置の小型化を考慮して傾斜角度θdを設定する必要がある。
なお、透過型の液晶装置150において、無機位相差板42は光の射出側である対向基板20と偏光素子43との間において配置されることに限定されず、光の入射側すなわち素子基板10と偏光素子41との間で傾斜させて配置しても同様な効果が得られる(図10参照)。
【0079】
図13(a)は第2実施形態の液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線である。図13(a)に示すように、本実施形態の液晶装置150は、最大コントラスト比を示す方位角が正面方向に位置していると共に、高いコントラスト比を得られる視角範囲が第1実施形態の液晶装置100に比べて広がっていることが分かる(図9(c)との比較)。
【0080】
液晶パネル110に対して無機位相差板42を傾斜させれば正面位相差が発生することを図12に示したが、例えば、無機位相差板42の傾斜角度θdを−2.0°とする。すなわち、図10において無機位相差板42を液晶パネル110に対して平行な状態から反時計回りに傾斜させても、正面位相差が生ずる。しかしながら、そのときの液晶装置150の視角特性は、図13(b)に示すようになり、最大コントラスト比を示す方位角が正面に位置しているも、高いコントラスト比が得られる視角範囲が第1実施形態に比べて狭まっていることが分かる。言い換えれば、無機位相差板42は、光学軸が液晶分子LCのプレチルトの方向(長軸)に対して略平行な状態に近づくように傾斜させることが重要である。
【0081】
また、光学的には無機位相差板42の光学軸が液晶分子LCのプレチルトの方向(長軸)に対して略平行となるように傾斜させることが理想的であるが、傾斜のさせ方が複雑になるので、本実施形態のように無機位相差板42を液晶パネル110に対して一定方向に傾斜させることが相対的な配置を容易にする観点で望ましい。
【0082】
このような液晶装置150によれば、斜方蒸着における配向膜18,29の膜厚を正面位相差が最適値(−1.2nm)となる270nmよりもおよそ1割程度小さい240nmに設定し、不足する正面位相差を無機位相差板42を傾斜させて補った。したがって、斜方蒸着によって配向膜18,29の膜厚が多少ばらついても、膜厚が270nmを超えないようにして、その影響を小さくし安定した視角補償を実現した。
【0083】
また、図12に示すように、無機位相差板42の傾斜角度θdをおよそ7°とすれば正面位相差をおよそ2.4nmとすることができる。すなわち、液晶分子LCのプレチルトによる液晶層50の正面位相差を無機位相差板42だけで光学的に補償可能である。しかしながら、無機位相差板42の傾斜角度θdが第2実施形態に比べて大きくなることで装置としての小型化が難しくなるという課題が生ずる。言い換えれば、第2実施形態はより小型な液晶装置150を提供できる。
【0084】
(第3実施形態)
<電子機器>
次に本実施形態の電子機器として、投射型表示装置を例に説明する。図14は第3実施形態の電子機器としての投射型表示装置の一例である3板式の透過型液晶プロジェクターの構成を示す図である。
【0085】
図14に示すように、本実施形態の液晶プロジェクター1000は、システム光軸Lに沿って配置された偏光照明装置1100と、光分離素子としての2つのダイクロイックミラー1104,1105と、3つの反射ミラー1106,1107,1108と、5つのリレーレンズ1201,1202,1203,1204,1205と、3つの光変調素子としての液晶ライトバルブ1210,1220,1230と、光合成素子としてのクロスダイクロイックプリズム1206と、投射レンズ1207とを備えている。
【0086】
偏光照明装置1100は、ハロゲンランプ等の白色光源からなる光源としてのランプユニット1101と、インテグレーターレンズ1102と、偏光変換素子1103とから概略構成されている。
【0087】
ダイクロイックミラー1104は、偏光照明装置1100から射出された偏光光束のうち、赤色光(R)を反射させ、緑色光(G)と青色光(B)とを透過させる。もう1つのダイクロイックミラー1105は、ダイクロイックミラー1104を透過した緑色光(G)を反射させ、青色光(B)を透過させる。
【0088】
ダイクロイックミラー1104で反射した赤色光(R)は、反射ミラー1106で反射した後にリレーレンズ1205を経由して液晶ライトバルブ1210に入射する。
ダイクロイックミラー1105で反射した緑色光(G)は、リレーレンズ1204を経由して液晶ライトバルブ1220に入射する。
ダイクロイックミラー1105を透過した青色光(B)は、3つのリレーレンズ1201,1202,1203と2つの反射ミラー1107,1108とからなる導光系を経由して液晶ライトバルブ1230に入射する。
【0089】
液晶ライトバルブ1210,1220,1230は、クロスダイクロイックプリズム1206の色光ごとの入射面に対してそれぞれ対向配置されている。液晶ライトバルブ1210,1220,1230に入射した色光は、画像情報に基づいて変調されクロスダイクロイックプリズム1206に向けて射出される。このプリズムは、4つの直角プリズムが貼り合わされ、その内面に赤色光を反射する誘電体多層膜と青色光を反射する誘電体多層膜とが十字状に形成されている。これらの誘電体多層膜によって3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が合成される。合成された光は、投射光学系である投射レンズ1207によってスクリーン1300上に投射され、画像が拡大されて表示される。
【0090】
液晶ライトバルブ1210は、上記第2実施形態の液晶装置150が適用されたものであって、色光の入射側と射出側とにおいてクロスニコルに配置された一対の偏光素子と、一対の偏光素子間に配置された液晶パネル1211と1軸性複屈折体としての無機位相差板1212とを有する。他の液晶ライトバルブ1220,1230も同様である。すなわち、液晶パネル1211,1221,1231は、基板面に対して負の誘電異方性を有する液晶分子がプレチルトを与えられた状態で略垂直配向している。プレチルト角θpはおよそ85°である。また、液晶層に面して斜方蒸着により形成された無機配向膜を有しており、無機配向膜の膜厚はおよそ240nmである。光学補償層を兼ねる無機配向膜によって、液晶分子のプレチルトによる液晶層の正面位相差が光学的に視角補償されている。
【0091】
無機位相差板1212,1222,1232は、それぞれ350nmの位相差を有するものであり、液晶パネル1211,1221,1231の色光の射出側の表面に傾斜して配置されている。液晶層の正面位相差は、液晶層を透過する色光の波長に依存するため、無機位相差板1212,1222,1232の傾斜角度θdは、緑色光(G)の波長(550nm)を基準に設定されており、本実施形態では緑色光(G)ではおよそ2°、緑色光(G)よりも波長が長い赤色光(R)ではおよそ2.1°、緑色光(G)よりも波長が短い青色光(B)では1.7°に設定されている。
【0092】
また、クロスダイクロイックプリズム1206に対して、液晶ライトバルブ1220にて変調された緑色光(G)は直進し、液晶ライトバルブ1210にて変調された赤色光(R)と、液晶ライトバルブ1230にて変調された青色光(B)とは誘電体多層膜によって画像の左右が反転して反射される。それゆえに、合成後の光において液晶ライトバルブ1210,1220,1230ごとの視角特性に起因する着色が生じないように光学的な条件が色光に対応して設定されている。具体的には、緑色光(G)の液晶パネル1221における液晶分子のプレチルトの方向に対して、他の赤色光(R)の液晶パネル1211と青色光(B)の液晶パネル1231における液晶分子のプレチルトの方向が反転するように斜方蒸着の平面的な蒸着方向を180°反転させて無機配向膜を形成している。
したがって、緑色光(G)に対応する液晶ライトバルブ1220の無機位相差板1222の液晶パネル1221に対する傾斜角度θdを2°とすると、見かけ上、赤色光(R)が透過する無機位相差板1212の傾斜角度θdは−2.1°、青色光(B)が透過する無機位相差板1232の傾斜角度θdは−1.7°となっている。
【0093】
このような液晶プロジェクター1000によれば、色光ごとに設けられた液晶ライトバルブ1210,1220,1230は、液晶分子のプレチルトによる液晶層の正面位相差が透過する色光の波長に対応して光学的に視角補償されているため、従来のものよりも広い視野角に亘って高いコントラストの画像表示が得られる。
【0094】
なお、本実施形態では無機位相差板1212,1222,1232をそれぞれ液晶パネル1211,1221,1231の色光の射出側において傾斜させて配置したが、これに限定されるものではない。液晶パネル1211,1221,1231の色光の入射側において傾斜させて配置しても同様な効果が得られ、入射光が不規則な角度で入射する迷光の影響を低減することもできる。
また、液晶プロジェクター1000の液晶ライトバルブ1210,1220,1230に適用される液晶装置は、上記第2実施形態の液晶装置150に限定されず、上記第1実施形態の液晶装置100を適用してもよい。これによれば、無機位相差板1212,1222,1232を傾斜させないので、より小型な液晶プロジェクター1000を実現できる。
【0095】
(第4実施形態)
本発明が適用される液晶装置は、第1実施形態や第2実施形態のような透過型に限定されない。本実施形態では、本発明を適用した反射型の液晶装置の例について図15〜図17を参照して説明する。
図15は第4実施形態の液晶装置の構造を示す概略断面図、図16は液晶分子のプレチルト角と液晶層の正面位相差との関係を示すグラフ、図17(a)は第4実施形態の液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線、同図(b)は比較例の反射型液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線である。なお、第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付して詳細の説明を省略する。
【0096】
<液晶装置>
図15に示すように、本実施形態の液晶装置200は、素子基板10と対向基板20との間に挟持された液晶層50とを備えた液晶パネル210を有する。液晶パネル210は反射型であって、素子基板10には光反射性を有する画素電極15Rが設けられている。
他の電気的な構成については、基本的に透過型の液晶パネル110と同じである。素子基板10に設けられた画素電極15Rを覆う配向膜18および対向基板20に設けられた共通電極23を覆う配向膜29は、無機材料としてのSiO2を斜方蒸着して得られた無機配向膜である。
画素電極15Rは、例えばアルミニウム(Al)や銀(Ag)などの高反射率の導電材料によって形成されている。該導電材料が液晶層50に与えるイオン成分の影響を考慮して、液晶層50に面する画素電極15Rの表面を絶縁膜で覆った後に配向膜18を形成してもよい。
【0097】
基板面に対する斜方蒸着の蒸着角度θbは45°である。また、図示省略したが基板面に対する平面的な蒸着方向の角度θaは走査線3aの延在方向に対して45°である。そして、斜方蒸着によってSiO2の結晶が成長するカラム角度θcは、基板面に対して70°である。
【0098】
素子基板10と対向基板20とはおよそ1.8μmの間隔をおいて対向配置され、その間に負の誘電異方性を有する液晶(複屈折率Δnが0.12)が充填されて液晶層50を構成している。
【0099】
液晶分子LCは、配向膜18,29の配向膜面に対してプレチルトが与えられて初期配向しており、プレチルト角θpはおよそ85°である。プレチルトの方位角方向は配向膜18,29の斜方蒸着における平面的な蒸着方向と同じであり、走査線3aに対して45°傾斜している。
【0100】
反射型の液晶パネル210の光の入射側および射出側には、1軸性複屈折体としての無機位相差板202と、反射型偏光素子としてのワイヤーグリッド偏光板203とが設けられている。無機位相差板202は対向基板20と平行して設けられている。ワイヤーグリッド偏光板203は、本実施形態の液晶装置200が適用される後述する液晶プロジェクター1500のシステム光軸Lに対して45°の角度で交差するように設けられている(図21参照)。なお、反射型偏光素子は偏光ビームスプリッターでもよい。
【0101】
図16に示すように、本実施形態の液晶装置200における液晶層50の正面位相差は、液晶層50の厚みと液晶の複屈折率とに基づき、液晶分子LCのプレチルト角θpが85°に設定されていることから、およそ1.5nmである。
【0102】
したがって、液晶層50の正面位相差を光学的に視角補償すべく、本実施形態では、配向膜18,29のそれぞれの膜厚をおよそ170nmとした。膜厚が170nmのときの配向膜18,29の正面位相差はそれぞれおよそ0.75nmとなる(図7参照)。すなわち、液晶層50の正面位相差の1/2の値となる。第1実施形態で述べたように、基板面の法線方向から見ると、液晶分子LCのプレチルトの方位角方向は、配向膜18,29のカラムの成長方向が基板面に投影された方位角方向に対して平行であり、配向膜18,29の遅相軸の方向と直交しているため、両者の位相差は相殺される。つまり、配向膜18,29は、液晶層50の正面位相差を光学的に補償する光学補償層を兼ねている。
【0103】
無機位相差板202の位相差は、(nx’−nz’)×厚みで与えられ、この場合、220nmとした。これにより、液晶層50を斜めに透過する光の位相差を補償した。
【0104】
図17(a)に示すように、液晶装置200は、最大コントラスト比が得られる領域が正面に位置していると共に、正面に対して上下左右にほぼ均等に広がっている。この液晶装置をプロジェクターで投影したときのコントラスト比(C,R)はおよそ14900となった。
これに対して、配向膜18,29の膜厚をおよそ20nmとして光学補償層を兼ねない構造とした比較例では、図17(b)に示すように、最大コントラスト比が得られる領域が正面に位置しておらず、その投影コントラスト比(C.R)はおよそ2300であった。
【0105】
反射型の液晶装置200は、プレチルトが与えられて略垂直配向した液晶分子LCに対して入射光と反射光とが係ることからそもそも視角特性上の自己補償構造を有している。したがって、上記第1実施形態の透過型の液晶装置100に比べて上記比較例でも高いコントラスト比が得られる視角範囲が広いが、本発明を適用することで広視野角に亘ってさらに高いコントラスト比が得られる。すなわち、反射型の液晶装置200に適用することが透過型の液晶装置100に適用するよりも効果的である。
【0106】
(第5実施形態)
次に、本実施形態の反射型の液晶装置の他の適用例について、図18〜図20を参照して説明する。図18は第5実施形態の液晶装置の構造を示す概略断面図、図19は1軸性複屈折体の傾斜角度と正面位相差との関係を示すグラフ、図20は第5実施形態の液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線である。
第5実施形態の液晶装置は、第4実施形態に対して無機配向膜の膜厚と1軸性複屈折体の配置を見直したものである。したがって、第4実施形態と同じ構成については同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0107】
図18に示すように、本実施形態の液晶装置250は、素子基板10と対向基板20との間に挟持された液晶層50とを備えた反射型の液晶パネル210を有する。素子基板10に設けられた光反射性を有する画素電極15Rを覆う配向膜18および対向基板20に設けられた共通電極23を覆う配向膜29は、無機材料としてのSiO2を斜方蒸着して得られた無機配向膜である。膜厚は、第4実施形態の170nmに比べておよそ1割程度薄く設定され、150nmとなっている。膜厚が150nmのときの配向膜18,29の正面位相差はそれぞれおよそ0.7nmとなる(図7参照)。すなわち、液晶層50の厚み1.8μm、複屈折率Δn=0.12、液晶分子LCのプレチルト角θp(およそ85°)に基づく、液晶層50の正面位相差である1.5nmに対して0.1nm不足している。
【0108】
反射型の液晶パネル210の光の入射側および射出側には、無機位相差板202と、ワイヤーグリッド偏光板203とが設けられている。
本実施形態では、1軸性複屈折体である無機位相差板202を液晶パネル210に対して傾斜させて配置することにより、光学的な視角補償において不足する正面位相差を補った。
【0109】
具体的には、図19に示すように、無機位相差板202の傾斜角度θdをおよそ2°とすることにより、正面位相差を0.1nmとすることができる。
【0110】
配向膜18,29のそれぞれの膜厚は、光学的な視角補償における最適値を示す膜厚の値(170nm)よりも小さい値の膜厚(150nm)に設定され、斜方蒸着による膜厚ばらつきの影響を受け難くした。具体的には、斜方蒸着時の膜厚が170nmを越えないようにした。
【0111】
このような液晶装置250によれば、図20に示すように、最大コントラスト比が得られる領域が正面に位置していると共に、正面に対して上下左右にほぼ均等に広がっている。投影コントラスト比(C,R)はおよそ14800となった。すなわち、第4実施形態と同等な作用・効果を奏し、配向膜18,29の膜厚ばらつきの影響を小さくして安定的な視角補償を実現している。
【0112】
なお、本実施形態の液晶装置250において、無機位相差板202の傾斜角度θdを−2°としても、図20に示したものとほぼ同等の等コントラスト曲線で、投影コントラスト比(C,R)14300が得られている。これも反射型の自己補償構造に由来するものと考えられる。
【0113】
(第6実施形態)
<電子機器>
次に、本実施形態の電子機器としての他の投射型表示装置の例について説明する。図21は第6実施形態の電子機器としての投射型表示装置の一例である3板式の反射型液晶プロジェクターの構成を示す図である。なお、第3実施形態と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0114】
図21に示すように、本実施形態の他の投射型表示装置である液晶プロジェクター1500は、システム光軸Lに沿って配置された偏光照明装置1100と、3つのダイクロイックミラー1111,1112,1115と、2つの反射ミラー1113,1114と、3つの光変調素子としての反射型の液晶ライトバルブ1250,1260,1270と、クロスダイクロイックプリズム1206と、投射レンズ1207とを備えている。
【0115】
偏光照明装置1100から射出された偏光光束は、互いに直交して配置されたダイクロイックミラー1111とダイクロイックミラー1112とに入射する。光分離素子としてのダイクロイックミラー1111は、入射した偏光光束のうち赤色光(R)を反射する。もう一方の光分離素子としてのダイクロイックミラー1112は、入射した偏光光束のうち緑色光(G)と青色光(B)とを反射する。
反射した赤色光(R)は反射ミラー1113により再び反射され、液晶ライトバルブ1250に入射する。一方、反射した緑色光(G)と青色光(B)とは反射ミラー1114により再び反射して光分離素子としてのダイクロイックミラー1115に入射する。ダイクロイックミラー1115は緑色光(G)を反射し、青色光(B)を透過する。反射した緑色光(G)は液晶ライトバルブ1260に入射する。透過した青色光(B)は液晶ライトバルブ1270に入射する。
【0116】
液晶ライトバルブ1250は、反射型の液晶パネル1251と、1軸性複屈折体としての無機位相差板1252と、反射型偏光素子としてのワイヤーグリッド偏光板1253とを備えている。
液晶ライトバルブ1250は、ワイヤーグリッド偏光板1253によって反射した赤色光(R)がクロスダイクロイックプリズム1206の入射面に垂直に入射するように配置されている。また、ワイヤーグリッド偏光板1253の偏光度を補う補助偏光板1254が液晶ライトバルブ1250における赤色光(R)の入射側に配置され、もう1つの補助偏光板1255が赤色光(R)の射出側においてクロスダイクロイックプリズム1206の入射面に沿って配置されている。なお、反射型偏光素子として偏光ビームスプリッターを用いた場合には、一対の補助偏光板1254,1255を省略することも可能である。
このような反射型の液晶ライトバルブ1250の構成と各構成の配置は、他の反射型の液晶ライトバルブ1260,1270においても同じである。
【0117】
液晶ライトバルブ1250,1260,1270に入射した各色光は、画像情報に基づいて変調され、再びワイヤーグリッド偏光板1253,1263,1273を経由してクロスダイクロイックプリズム1206に入射する。クロスダイクロイックプリズム1206では、各色光が合成され、合成された光は投射レンズ1207によってスクリーン1300上に投射され、画像が拡大されて表示される。
【0118】
本実施形態では、液晶ライトバルブ1250,1260,1270として上記第5実施形態の液晶装置250が適用されている。すなわち、液晶パネル1251,1261,1271は、基板面に対して負の誘電異方性を有する液晶分子がプレチルトを与えられた状態で略垂直配向している。プレチルト角θpはおよそ85°である。また、液晶層に面して斜方蒸着により形成された無機配向膜を有しており、無機配向膜の膜厚はおよそ150nmである。光学補償層を兼ねる無機配向膜により、液晶分子のプレチルトによる液晶層の正面位相差が光学的に視角補償されている。
【0119】
無機位相差板1252,1262,1272は、それぞれ220nmの位相差を有するものであり、液晶パネル1251,1261,1271の色光の入射側および射出側の表面に傾斜して配置されている。液晶層の正面位相差は、液晶層を透過する色光の波長に依存するため、無機位相差板1252,1262,1272の傾斜角度θdは、緑色光(G)の波長(550nm)を基準に設定されており、本実施形態では緑色光(G)ではおよそ2°、緑色光(G)よりも波長が長い赤色光(R)ではおよそ2.1°、緑色光(G)よりも波長が短い青色光(B)では1.7°に設定されている。
【0120】
また、クロスダイクロイックプリズム1206に対して、液晶ライトバルブ1260にて変調された緑色光(G)は直進し、液晶ライトバルブ1250にて変調された赤色光(R)と、液晶ライトバルブ1270にて変調された青色光(B)とは誘電体多層膜によって画像の左右が反転して反射される。それゆえに、合成後の光において液晶ライトバルブ1250,1260,1270ごとの視角特性に起因する着色が生じないように光学的な条件が色光に対応して設定されている。具体的には、緑色光(G)の液晶パネル1261における液晶分子のプレチルトの方向に対して、他の赤色光(R)の液晶パネル1251と青色光(B)の液晶パネル1271における液晶分子のプレチルトの方向が反転するように斜方蒸着の平面的な蒸着方向を180°反転させて無機配向膜を形成している。
したがって、緑色光(G)に対応する液晶ライトバルブ1260の無機位相差板1262の液晶パネル1261に対する傾斜角度θdを2°とすると、見かけ上、赤色光(R)が透過する無機位相差板1252の傾斜角度θdは−2.1°、青色光(B)が透過する無機位相差板1272の傾斜角度θdは−1.7°となっている。
【0121】
このような液晶プロジェクター1500によれば、色光ごとに設けられた反射型の液晶ライトバルブ1250,1260,1270は、液晶分子のプレチルトによる液晶層の正面位相差が透過する色光の波長に対応して光学的に視角補償されているため、従来のものよりも広い視野角に亘って高いコントラストの画像表示が得られる。先に説明した第3実施形態の透過型の液晶プロジェクター1000と比べても高いコントラストの画像表示が実現される。
【0122】
なお、液晶プロジェクター1500の液晶ライトバルブ1250,1260,1270に適用される液晶装置は、上記第5実施形態の液晶装置250に限定されず、上記第4実施形態の液晶装置200を適用してもよい。
【0123】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0124】
(変形例1)上記第1実施形態および第2実施形態ならびに第4実施形態および第5実施形態において、配向膜18,29を形成する方法は、斜方蒸着に限定されない。例えば、斜方スパッタにより形成しても負の誘電異方性を有する液晶分子LCに対してプレチルトを与えることができる。より具体的な斜方スパッタによる無機配向膜の形成方法の一例が、特開2004−170744号公報に開示されている。
【0125】
(変形例2)上記第3実施形態において、無機位相差板1212,1222,1232は、色光ごとに傾斜角度θdを異ならせることに限定されない。視感度がもっとも高い緑色光(G)を基準として無機位相差板1222の傾斜角度θdを設定し、他の無機位相差板1212,1232も同じ傾斜角度θdとしてもよい。これによれば、傾斜角度θdの調整が比較的に容易となる。上記第6実施形態においても同様に無機位相差板1252,1262,1272の傾斜角度θdを一定としてもよい。
【0126】
(変形例3)1軸性複屈折体は、高屈折率層と低屈折率層とが積層された無機位相差板に限定されない。例えば、ポリカーボネートやポリビニルアルコールなどの樹脂材料を用いて構成されたものでもよい。これによれば、無機位相差板に比べて安価な1軸性複屈折体としての有機位相差板を提供できる。
【0127】
(変形例4)上記液晶装置100および液晶装置150が適用される電子機器は、第3実施形態の液晶プロジェクター1000に限定されない。例えば、投射型のHUD(ヘッドアップディスプレイ)や直視型のHMD(ヘッドマウントディプレイ)、または電子ブック、パーソナルコンピューター、デジタルスチルカメラ、液晶テレビ、ビューファインダー型あるいはモニター直視型のビデオレコーダー、カーナビゲーションシステム、電子手帳、POSなどの情報端末機器の表示部として好適に用いることができる。なお、上記液晶装置200および液晶装置250の場合も同様である。
【符号の説明】
【0128】
10…一対の基板のうちの素子基板、15R…光反射性を有する画素電極、18,29…無機配向膜としての配向膜、20…一対の基板のうちの一方の基板としての対向基板、23…共通電極、42…1軸性複屈折体としての無機位相差板、50…液晶層、100,150,200,250…液晶装置、202…無機位相差板、1000,1500…投射型表示装置としての液晶プロジェクター、1101…光源としてのランプユニット、1104,1105,1111,1112,1115…光分離素子としてのダイクロイックミラー、1206…光合成素子としてのクロスダイクロイックプリズム、1210,1220,1230,1250,1260,1270…光変調素子としての液晶ライトバルブ、1212,1222,1232,1252,1262,1272…無機位相差板。
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置、これを備えた電子機器および投射型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記液晶装置として、液晶層に電圧が印加されていない状態のときに液晶分子が基板面に対して略垂直に配向するVAN(Vertical Alignment Nematic)液晶が用いられ、無機材料を斜方蒸着することによってつくられ、素子表面に対して傾斜する光学軸を有し、無機材料の蒸着方向を素子表面に正射影した方向と進相軸の方向とが一致し、液晶分子が基板面に対して傾斜していることによって生ずる位相差を補償する2軸性複屈折体を備えた反射型液晶表示素子が知られている(特許文献1)。
【0003】
上記特許文献1では、液晶層を透過した偏光が2軸性複屈折体を透過することによって生ずる位相差を補償する1軸性複屈折体を、2軸性複屈折体に重ねて配置することも開示されている。
このような2軸性複屈折体および1軸性複屈折体を設けることで反射型液晶表示素子における正面方向ならびに斜め方向におけるコントラストを改善できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−164754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の反射型液晶表示素子では、液晶層を垂直に透過する光と斜めに透過する光の両方の位相差を補償するには、2軸性複屈折体と1軸性複屈折体の両方が必要である。すなわち、部品点数が増え、構造的にも小型化が難しいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例の液晶装置は、一対の基板間に液晶層が挟持され、前記液晶層の液晶分子が基板面に対して略垂直に初期配向しており、前記一対の基板の前記液晶層側の基板面には無機配向膜が形成され、前記無機配向膜の表面において、前記基板面で所定の方位角方向のプレチルトが前記液晶分子に付与されている液晶装置であって、前記無機配向膜は、前記所定の方位角方向に対して略直交した遅相軸を有しており、前記無機配向膜は光学補償層として前記液晶層の位相差を光学的に補償していることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、一対の基板ごとに設けられた無機配向膜が液晶分子のプレチルトに起因する位相差を光学的に補償する光学補償層となっているので、新たに光学補償層を設ける必要がなく、高いコントラストが得られる小型な液晶装置を提供できる。
【0009】
[適用例2]上記適用例の液晶装置において、前記無機配向膜は、無機材料を前記基板面に対して斜方蒸着または斜方スパッタして得られたものであることを特徴とする。
この構成によれば、斜方蒸着または斜方スパッタによって得られた無機配向膜が採用されているので、光学補償層に必要な位相差を成膜時の膜厚を調整することにより確保できる。したがって、決められた位相差を有する光学補償層を備えた部材を予め調達する場合に比べて、液晶装置の製造の過程で、液晶層の位相差の設定に合わせて無機配向膜を成膜することにより、柔軟に光学補償層を設けることができる。
また、斜方蒸着や斜方スパッタによって得られる無機配向膜は、2軸性複屈折体として機能するので、基板面に対して垂直な方向に液晶層を透過する光に対する光学的な補償が効果的になされ、特に液晶装置の正面方向におけるコントラストが改善される。
【0010】
[適用例3]上記適用例の液晶装置において、前記一対の基板のうちの一方の基板の前記液晶層とは反対側に1軸性複屈折体がさらに設けられていることが望ましい。
この構成によれば、1軸性複屈折体を設けることにより、液晶層を斜めに透過する光に対しての光学的な補償がさらになされ、広い視野角に亘って高いコントラストが得られる液晶装置を提供できる。
【0011】
[適用例4]上記適用例の液晶装置において、前記1軸性複屈折体は、前記1軸性複屈折体の表面に対して略垂直な方向の光学軸を有し、前記光学軸が前記液晶分子の前記プレチルトの方向に対して略平行または略平行な状態に近づくように、前記一方の基板に対して傾斜して配置されていることが好ましい。
この構成によれば、液晶層を斜めに透過する光に対してより適正な光学的補償がなされる。すなわち、より広い視野角に亘って高いコントラストが得られる。
【0012】
[適用例5]上記適用例の液晶装置において、前記無機配向膜は、前記一対の基板ごとに前記無機配向膜の光学的な位相差が前記液晶層の位相差を補償する最適値の1/2の値よりも小さい値となるように膜厚が設定され、前記1軸性複屈折体は、前記最適値に対して不足する分の位相差を有することが好ましい。
基板面における無機配向膜の膜厚は、成膜時の条件などにより一定の膜厚とすることが難しいことがある。例えば、基板面における面内ばらつきで膜厚が部分的に所定の値よりも厚くなると、1軸性複屈折体を設けたとしても適性な光学補償ができないおそれがある。
この構成によれば、無機配向膜の膜厚が成膜時にばらついたとしても、元々の膜厚の設定が最適値の1/2の値よりも小さく設定されているので、膜厚ばらつきの影響を小さくできる。また、一方の基板に対する1軸性複屈折体の傾斜角度を調整すれば、光学的な補償が適正な状態となるように調整が可能である。
【0013】
[適用例6]上記適用例の液晶装置において、前記1軸性複屈折体は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された無機位相差板であることが好ましい。
この構成によれば、1軸性複屈折体として例えば樹脂材料からなる有機位相差板を採用する場合に比べて、高温高湿などの耐久性能が優れた液晶装置を提供することができる。
【0014】
[適用例7]上記適用例の液晶装置において、前記一対の基板のうち前記一方の基板の前記液晶層側に光透過性を有する共通電極が設けられ、前記一対の基板のうち他方の基板の前記液晶層側に光反射性を有する画素電極が設けられているとしてもよい。
この構成によれば、光反射性を有する画素電極を備えた所謂反射型の液晶装置は、もともと視角特性が液晶分子のプレチルトに依存し難い自己補償性を有しており、透過型の液晶装置に比べて、光学補償層を兼ねる無機配向膜や1軸複屈折体を設ける効果がより効果的に反映される。すなわち、すぐれた視角特性を有する反射型の液晶装置を提供することができる。
【0015】
[適用例8]本適用例の電子機器は、上記適用例の液晶装置を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、視角特性において高いコントラストが得られる液晶装置を備えているので、少なくとも正面方向から見たときに見栄えのよい電子機器を提供することができる。
【0016】
[適用例9]本適用例の投射型表示装置は、光源と、前記光源から射出された光を赤色光、緑色光、青色光に分離する光分離素子と、分離された色光ごとに設けられ、前記色光を画像情報に基づいて変調する光変調素子と、変調された前記色光を合成する光合成素子とを備え、前記光変調素子が上記適用例の液晶装置からなり、前記光変調素子の前記色光の入射側または射出側において、前記1軸性複屈折体は、前記一方の基板に対して傾斜して配置されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、液晶層における液晶分子のプレチルトに起因する位相差を光学的に補償する無機配向膜と、液晶装置の一対の基板のうち一方の基板に対して傾斜して配置された1軸性複屈折体とを有することにより、広い視野角に亘って高いコントラストが得られる投射型表示装置を提供することができる。
【0018】
[適用例10]上記適用例の投射型表示装置において、前記1軸性複屈折体は、前記一方の基板に対して前記色光ごとに異なる角度で傾斜して配置されていることが好ましい。
この構成によれば、赤、緑、青の色光ごとの波長依存性を考慮して適正な光学補償が実現された投射型表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態の液晶装置の構成を示す概略図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のH−H'線で切った断面図。
【図2】第1実施形態の液晶装置の電気的な構成を示す等価回路図。
【図3】第1実施形態の液晶装置の画素の構造を示す概略図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A’線で切った要部断面図。
【図4】第1実施形態の液晶装置における無機配向膜の形成状態と液晶分子の配向状態とを示す概略断面図。
【図5】斜方蒸着の蒸着角度と液晶分子のプレチルト角との関係を示すグラフ。
【図6】第1実施形態における液晶分子のプレチルト角と液晶層の正面位相差との関係を示すグラフ。
【図7】無機配向膜の膜厚と正面位相差との関係を示すグラフ。
【図8】(a)および(b)は第1実施形態の液晶装置の光学的な視角補償原理を説明する図。
【図9】液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線であり、(a)は比較例1の等コントラスト曲線、(b)は比較例2の等コントラスト曲線、(c)は第1実施形態の等コントラスト曲線。
【図10】第2実施形態の液晶装置の構成を示す概略断面図。
【図11】第2実施形態の液晶装置の光学的な視角補償原理を説明する図。
【図12】第2実施形態における1軸性複屈折体の傾斜角度と正面位相差との関係を示すグラフ。
【図13】(a)は第2実施形態の液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線、(b)は無機位相差板の傾斜角度を−2.0°としたときの等コントラスト曲線。
【図14】第3実施形態の電子機器としての投射型表示装置の一例である3板式の透過型液晶プロジェクターの構成を示す図。
【図15】第4実施形態の液晶装置の構造を示す概略断面図。
【図16】第4実施形態における液晶分子のプレチルト角と液晶層の正面位相差との関係を示すグラフ。
【図17】(a)は第4実施形態の液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線、(b)は比較例の反射型液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線。
【図18】第5実施形態の液晶装置の構造を示す概略断面図。
【図19】第5実施形態における1軸性複屈折体の傾斜角度と正面位相差との関係を示すグラフ。
【図20】第5実施形態の液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線。
【図21】第6実施形態の電子機器としての投射型表示装置の一例である3板式の反射型液晶プロジェクターの構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0021】
(第1実施形態)
本実施形態では、薄膜トランジスター(Thin Film Transistor;TFT)を画素のスイッチング素子として備えたアクティブマトリクス型の液晶装置を例に挙げて説明する。この液晶装置は、例えば後述する投射型表示装置(液晶プロジェクター)の光変調素子(液晶ライトバルブ)として好適に用いることができるものである。
【0022】
<液晶装置>
まず、本実施形態の液晶装置について図1〜図4を参照して説明する。図1は液晶装置の構成を示す概略図であり、同図(a)は正面図、同図(b)は同図(a)のH−H'線で切った断面図である。
【0023】
図1(a)および(b)に示すように、本実施形態の液晶装置100は、一対の基板としての素子基板10および対向基板20と、これら一対の基板によって挟持された液晶層50とを有する。
素子基板10は対向基板20よりも一回り大きく、両基板は、シール材52を介して接合され、その隙間に負の誘電異方性を有する液晶が封入されて液晶層50を構成している。
【0024】
同図(a)に示すように、素子基板10の1辺部に沿ってデータ線駆動回路101が設けられ、これに電気的に接続された複数の端子部102が配列している。該1辺部と直交し互いに対向する他の2辺部には、該2辺部に沿って走査線駆動回路104が設けられている。対向基板20を挟んで該1辺部と対向する他の1辺部には、2つの走査線駆動回路104を繋ぐ複数の配線105が設けられている。
【0025】
額縁状に配置されたシール材52の内側には、同じく額縁状に見切り部53が設けられている。見切り部53は、遮光性を有する金属材料あるいは樹脂材料からなり、見切り部53の内側が複数の画素を有する表示領域10aとなっている。
【0026】
同図(b)に示すように、素子基板10の液晶層50側の表面には、画素ごとに設けられた光透過性を有する画素電極15およびスイッチング素子としての薄膜トランジスター30と、信号配線と、これらを覆う配向膜18とが形成されている。
【0027】
対向基板20の液晶層50側の表面には、見切り部53と、これを覆うように成膜された共通電極23と、共通電極23を覆う配向膜29とが形成されている。
【0028】
これらの配向膜18および配向膜29は、無機材料からなる無機配向膜であって、無機材料としてのSiO2(酸化シリコン)を斜方蒸着して得られたものである。このような配向膜18,29により挟まれた液晶層50における液晶分子の配向状態については後述する。
【0029】
対向基板20に設けられた共通電極23は、同図(a)に示すように対向基板20の四隅に設けられた上下導通部106により素子基板10側の配線に電気的に接続している。
【0030】
図2は、液晶装置の電気的な構成を示す等価回路図である。図2に示すように、液晶装置100は、少なくとも表示領域10aにおいて互いに絶縁されて直交する信号線としての複数の走査線3aと複数のデータ線6aとを有する。また、走査線3aに対して一定の間隔を置いて平行するように配置された容量線3bを有する。
【0031】
走査線3aとデータ線6aならびに容量線3bにより格子状に区画された領域に、画素電極15と、画素電極15をスイッチング制御するスイッチング素子としてのTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスター)30と、保持容量16とが設けられ、これらが画素を構成している。すなわち、画素は、マトリクス状に配置されている。
【0032】
走査線3aはTFT30のゲートに電気的に接続され、データ線6aはTFT30のソースに電気的に接続されている。画素電極15はTFT30のドレインに電気的に接続されている。
データ線6aはデータ線駆動回路101(図1参照)に接続されており、データ線駆動回路101から供給される画像信号D1,D2,…,Dnを画素に供給する。走査線3aは走査線駆動回路104(図1参照)に接続されており、走査線駆動回路104から供給される走査信号SC1,SC2,…,SCmを各画素に供給する。データ線駆動回路101からデータ線6aに供給される画像信号D1〜Dnは、この順に線順次で供給してもよく、互いに隣接する複数のデータ線6a同士に対してグループごとに供給してもよい。走査線駆動回路104は、走査線3aに対して、走査信号SC1〜SCmを所定のタイミングでパルス的に線順次で供給する。
【0033】
液晶装置100は、スイッチング素子であるTFT30が走査信号SC1〜SCmの入力により一定期間だけオン状態とされることで、データ線6aから供給される画像信号D1〜Dnが所定のタイミングで画素電極15に書き込まれる構成となっている。そして、画素電極15を介して液晶層50に書き込まれた所定レベルの画像信号D1〜Dnは、画素電極15と液晶層50を介して対向配置された共通電極23との間で一定期間保持される。
保持された画像信号D1〜Dnがリークするのを防止するため、画素電極15と共通電極23との間に形成される液晶容量と並列に保持容量16が接続されている。保持容量16は、TFT30のドレインと容量線3bとの間に設けられている。
【0034】
図3は液晶装置の画素の構造を示す概略図であり、同図(a)は平面図、同図(b)は同図(a)のA−A’線で切った要部断面図である。
【0035】
図3(a)に示すように、液晶装置100の画素は、互いに交差(直交)する走査線3aとデータ線6aとにより区画された画素領域に略四角形の画素電極15を有している。画素電極15は、例えばITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜からなり光透過性を有している。
【0036】
TFT30は、走査線3aとデータ線6aとの交差点近傍における走査線3a上に設けられている。該走査線3a上に沿って半導体層30aが設けられ、半導体層30aのソース側と重なるように、データ線6aと一体的に形成されたソース電極30sが設けられている。また、半導体層30aのドレイン側と重なるようにドレイン電極30dが設けられている。
【0037】
ドレイン電極30dは画素領域内に延出され、延出された部分がコンタクトホール15aを介して画素電極15と電気的に接続されている。
【0038】
容量線3bは、走査線3aと平行して設けられており、画素領域内において、容量線3bと平面的に重なる領域にドレイン電極30dの延出部30eが設けられている。
【0039】
より具体的には、図3(b)に示すように、まず素子基板10上にアルミニウムなどの低抵抗配線材料を成膜してパターニングすることにより、走査線3aとこれに平行する容量線3bとを形成する。走査線3aと容量線3bとを覆って例えばシリコンの酸化物からなるゲート絶縁膜11を形成する。ゲート絶縁膜11上において走査線3aと重なる位置に半導体層30aを島状に形成する。半導体層30aを覆うように低抵抗配線材料を成膜してパターニングすることにより、データ線6a、ソース電極30s、ドレイン電極30dを形成する。また、ドレイン電極30dに繋がる延出部30eを容量線3bと重なる位置に形成する。
ゲート絶縁膜11を介して対向配置された容量線3bと延出部30eとによって保持容量16が構成されている。
これらのTFT30および保持容量16を覆うように例えばシリコンの酸化物や窒化物からなる層間絶縁膜12を形成し、層間絶縁膜12のドレイン電極30dと平面的に重なる位置にコンタクトホール15aを形成しておく。層間絶縁膜12を覆うように透明導電膜を成膜してパターニングすることにより、コンタクトホール15aを介してドレイン電極30dと電気的に接続された画素電極15を形成する。
【0040】
続いて、画素電極15を覆うように配向膜18を形成する。配向膜18は、前述したように無機材料としてのSiO2(酸化シリコン)を斜方蒸着して形成する。斜方蒸着の平面的な蒸着方向は、図3(a)において矢印で示した方向であり、走査線3aの延在方向に対してθaの角度を有し、画素領域の右上から左下に向かっている。この場合、蒸着方向の角度θaはおよそ45°である。また、紙面に垂直な方向つまり画素電極15の表面に対して垂直な方向における蒸着方向の角度もおよそ45°となっている(図4参照)。
【0041】
このような斜方蒸着によれば、図3(b)に示すように、無機材料としてのSiO2の結晶が基板面に対して斜め方向に成長した柱状体(カラム)18cが形成される。配向膜18は、このような柱状体(カラム)18cが基板面に林立した集合体からなる。
図3(a)および(b)では、素子基板10側の構成について説明したが、対向基板20における配向膜29についても同様に斜方蒸着を用いて共通電極23を覆うように形成され、その平面的な蒸着方向は、素子基板10における角度θaの蒸着方向に対して180°逆向きとなっている。
【0042】
図4は液晶装置における無機配向膜の形成状態と液晶分子の配向状態とを示す概略断面図である。詳しくは、図3(a)における斜方蒸着の蒸着方向に沿って切ったときの断面図である。
【0043】
図4に示すように、液晶層50に面した基板面に対する配向膜18,29における蒸着方向の角度θbはおよそ45°である。また、基板面に対するカラムの成長方向の角度θcはおよそ70°となっている。以降、角度θcをカラム角度θcと呼ぶ。
【0044】
このような配向膜18,29の表面において略垂直配向する液晶分子LCのプレチルト角θpはおよそ85°である。また、基板面の法線方向から見た液晶分子LCのプレチルトの方向すなわち方位角方向は、配向膜18,29における斜方蒸着の平面的な蒸着方向と同じである。
【0045】
本実施形態の液晶装置100は、カラムの集合体である各配向膜18,29の膜厚を特定の値に設定することで、配向膜18,29の表面における液晶分子LCのプレチルトに起因する位相差を光学的に補償した。また、素子基板10と対向基板20との間に挟持された液晶層50を含む液晶パネル110を透過する光の射出側に1軸性複屈折体としての無機位相差板42を配置して、液晶層50を斜めに透過する光の位相差を光学的に補償した。
【0046】
なお、液晶装置100は、液晶パネル110の光の入射側と射出側とにそれぞれ配置された偏光素子41,43を有し、無機位相差板42は光の射出側に配置された偏光素子43と液晶パネル110との間に配置されている。また、偏光素子41,43は、互いの吸収軸または透過軸が直交するように液晶パネル110に対して配置されている。より具体的には、一方の吸収軸または透過軸が走査線3aと平行し、他方の吸収軸または透過軸がデータ線6aとに平行するように配置されている(図3(a)参照)。
すなわち、偏光素子41,43の透過軸または吸収軸に対して液晶分子LCのプレチルトの方位角方向が45°で交差しており、画素電極15と共通電極23との間に駆動電圧を印加して液晶層50を駆動すると、液晶分子LCがプレチルトの方位角方向に倒れることにより、高い透過率が得られる光学的な配置となっている。
【0047】
次に配向膜18,29の成膜条件と液晶分子LCのプレチルト角θpならびに液晶層50の正面位相差について、図5〜図6を参照して説明する。図5は斜方蒸着の蒸着角度と液晶分子のプレチルト角との関係を示すグラフ、図6は液晶分子のプレチルト角と液晶層の正面位相差との関係を示すグラフである。
【0048】
真空蒸着装置を用いて実際に無機材料を基板面に対して斜方蒸着して配向膜18,29を形成する場合、基板の大きさや基板と蒸着源との相対的な位置関係などによって、蒸着方向における蒸着角度θbが変動するおそれがある。また、蒸着角度θbが変動すると液晶分子LCのプレチルト角θpも変動し、これに連動して液晶層50における位相差の値が変動するおそれがある。液晶層50の位相差を光学的に補償しようとするとき、これらのパラメーターの変動ができる限り小さい状態が望ましいことは言うまでもない。
本実施形態では、素子基板10と対向基板20とをおよそ2.5μmの間隔をおいて貼り合わせ、その間に負の誘電異方性を有すると共に複屈折率Δnがおよそ0.14の液晶を挟む構成を一例として、以降の説明を行う。
配向膜18,29の成膜条件としては、真空チャンバー内に配置された基板の温度をおよそ100℃とし、SiO2の蒸着開始時の真空度をおよそ5.0×10-3Paとして斜方蒸着を行っている。
【0049】
図5に示すように、基板面に対する斜方蒸着の蒸着角度θbを30°から60°の範囲で5°刻みに振って得られた配向膜18,29により液晶層50を挟んだときの液晶分子LCのプレチルト角θpは、およそ85°〜89°の間で変化している。その変化は極小点を有する2次関数的であって、蒸着角度θbがおよそ37.5°〜45°の間で斜方蒸着を行うと、プレチルト角θpが85°±1°以内となって安定しているのが分かる。言い換えれば、およそ85°のプレチルト角θpを安定的に得るには、蒸着角度θbが37.5°〜45°の間となるように、基板と蒸着源との相対的な位置関係などを調整することが好ましい。
【0050】
一方で液晶分子LCのプレチルト角θpと液晶層50の正面位相差との関係は、図6に示すように、ほぼ直線的に変化しており、プレチルト角θpが大きくなるほど正面位相差の値(nm)は小さくなる。また、液晶の複屈折率Δnと液晶層50の厚みに依存することは言うまでもない。
画素電極15と共通電極23との間に所定の駆動電圧を印加して液晶層50を駆動すると、液晶分子LCは画素電極15と共通電極23との間に生ずる電界方向に対して直交する方向(すなわち基板面に対して平行な方向)に倒れこむ。プレチルト角θpが90°に近づくと、液晶分子LCの倒れこむ方向が一様でなくなり、リバースチルトドメインなどが発生して光学特性が不安定になる。特に隣接する画素電極15との間隔が狭いときには、画素電極15間に発生する電界によってリバースチルトドメインが発生しやすくなる。そこで、安定した光学特性を得るために、プレチルト角θpをおよそ85°としている。プレチルト角θpが85°のときの正面位相差はおよそ2.4nmである。なお、プレチルト角度θpは85°に限定されるものではなく、液晶層50における配向の安定性と光学特性とを考慮して設定される。
【0051】
図7は無機配向膜の膜厚と正面位相差との関係を示すグラフである。なお、図7は、斜方蒸着における蒸着角度θbを45°として無機配向膜を成膜したときの正面位相差の値を示している。
図7に示すように、無機配向膜の膜厚が上昇するにつれて、ほぼ直線的に正面位相差の値が増加することが分かる。別な見方をすれば、膜厚が20nm程度ではほとんど正面位相差を生じない。一方で、膜厚が少なくとも20nm以上あれば液晶分子LCにほぼ安定したプレチルトを付与できることが分かっている。
【0052】
次に、液晶装置100における光学的な視角補償原理について、図8を参照して説明する。図8(a)および(b)は液晶装置の光学的な視角補償原理を説明する図である。
【0053】
図8(a)に示すように、液晶装置100を透過する光に対して位相差が生ずる各構成を屈折率楕円体として示した。座標軸であるX軸およびY軸は、基板面に対して平行な軸であって、Z軸は基板面に対して垂直な軸である。さらに詳しくは、X軸方向は走査線3aの延在方向であり、Y軸はデータ線6aの延在方向である。
【0054】
液晶層50の液晶分子LCは、前述したように基板面(配向膜面)に対してプレチルトが与えられプレチルトの方向を示す長軸がZ軸と交差するように傾斜している。該長軸に対して直交する方向で液晶分子LCを切ったときの面内における屈折率nx,nyと長軸方向(プレチルトの方向)の屈折率nzとの関係は、nx=ny<nzとなっている。すなわち、液晶層50における面内の屈折率nx,nyは厚み方向の屈折率nzよりも小さい。
【0055】
斜方蒸着によって得られた配向膜18,29は、カラムの成長方向の屈折率nx”がおよそ1.45であり、該成長方向に対して直交する面内の屈折率ny”がおよそ1.41、同じく屈折率nz”が1.40である。すなわち、これらの関係は、nx”>ny”>nz”となっており、2軸性複屈折体となっている。
【0056】
1軸性複屈折体としての無機位相差板42は、例えば透明なガラスなどの基板上に高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層されたものである。高屈折率層を構成する材料としては、TiO2、ZrO2などが挙げられる。低屈折率層を構成する材料としては、SiO2、MgF2などが挙げられる。
【0057】
無機位相差板42を透過する光が各層で反射して干渉することを防ぐために、各屈折率層の厚みは薄い方が望ましく、膜厚と屈折率との積が可視光の波長λよりも十分に小さくなるように形成する。例えば、λ/100〜λ/5が望ましい。
【0058】
このような無機位相差板42は、板面に対して垂直な方向に光学軸を有している。光学軸における屈折率nz’と、板面に対して平行な面内における屈折率nx’,ny’との関係は、nx’=ny’>nz’となっている。すなわち、面内の屈折率nx’,ny’は厚み方向の屈折率nz’よりも大きい。
【0059】
無機位相差板42は、板面に対して垂直に入射する光すなわち光学軸に平行な光に対して等方的(面内の屈折率nx’=屈折率ny’)であるため、光学軸に対して平行に入射する光の位相差を補償することはできない。一方、板面に対して斜めに透過する光に対しては、等方的でなく複屈折を生じさせ、液晶層50を斜めに透過する光の位相差を補償することができる。本実施形態の無機位相差板42の位相差は、(nx’−nz’)×複屈折体の層厚で与えられ、およそ350nmとなっている。すなわち、複屈折率Δn(0.14)と層厚(2.5μm)との積で与えられる液晶層50の位相差と同じ値となるように設定されている。
【0060】
前述したように液晶分子LCは基板面(配向膜面)に対して85°のプレチルト角θpが与えられている。そのときの正面位相差は、およそ2.4nmである(図6参照)。これに対して、本実施形態の配向膜18,29は、それぞれ厚みがおよそ270nmとなるように成膜されている。カラム角度θcは前述したように70°となっている(図4参照)。反射率nx”を示す軸は、このカラムと平行である。したがって、基板面の法線方向から見ると屈折率ny”を示す軸が遅相軸となって、配向膜18,29はそれぞれ−1.2nmの位相差を示す。合算すると−2.4nmとなる。
図8(b)に示すように基板面の法線方向から見ると、液晶分子LCのプレチルトの方向(長軸)が基板面に投影された方位角方向は、配向膜18,29のカラムの成長方向が基板面に投影された方位角方向に対して平行であり、配向膜18,29の遅相軸の方向と直交しているため、両者の位相差は相殺される。つまり、液晶層50の正面位相差が光学的に補償される。言い換えれば、配向膜18,29は、液晶層50の正面位相差を光学的に補償する光学補償層を兼ねている。
なお、透過型の液晶装置100において、無機位相差板42は光の射出側である対向基板20と偏光素子43との間において配置されることに限定されず、光の入射側すなわち素子基板10と偏光素子41との間に配置しても同様な効果が得られる(図4参照)。
【0061】
図9は液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線であり、同図(a)は比較例1の等コントラスト曲線、同図(b)は比較例2の等コントラスト曲線、同図(c)は本実施形態の等コントラスト曲線である。等コントラスト曲線は、拡散光を発するバックライトの上に液晶装置を配置し、全白と全黒を順に表示して、その輝度を視角方向を変化させながら測定した。図の中心が液晶装置の法線方向であり、法線から左右方向に±20°と上下方向に±20°傾いた視角方向の特性を示している。
【0062】
<比較例1>
比較例1では、液晶層50において液晶分子LCが85°のプレチルト角θpを有するように、斜方蒸着によって得られた配向膜18,29の膜厚を複屈折を生じない程度の例えば20nm程度とした。これによれば、図9(a)に示すように、液晶分子LCのプレチルトによる位相差(2.4nm)を視角補償できないので、最大コントラストが得られる方位角が基板面の法線方向すなわち正面(0°,0°)からX軸方向およびY軸方向にそれぞれおよそ5°ずれた方向となっている。ちなみにこの液晶装置をプロジェクターで投影したときのコントラスト比(Contrast Ratio;C,R)はおよそ1100であった。
【0063】
<比較例2>
比較例2では、液晶層50において液晶分子LCが85°のプレチルト角θpを有するように、斜方蒸着によって得られた配向膜18,29の膜厚を複屈折を生じない程度の例えば20nm程度とし、且つ350nmの位相差を有する無機位相差板42を備えた構成とした。これによれば、図9(b)に示すように、無機位相差板42を備えたことにより、液晶層50を斜めに透過する光の位相差が補償されることにより、等コントラスト曲線の形状が変化しているが、最大コントラストが得られる方位角は依然として正面の位置からずれている。すなわち、液晶分子LCのプレチルトに起因する位相差を十分には補償できていない。投影コントラスト比はおよそ1400であった。
【0064】
これに対して本実施形態では、図9(c)に示すように、液晶分子LCのプレチルトによる位相差(2.4nm)の視角補償がなされ、最大コントラストが得られる方位角が正面に位置している。投影コントラスト比はおよそ2200であり、比較例1,2に比べて改善された。すなわち、広い視角特性と高い正面コントラスト比を有する液晶装置100が実現された。
【0065】
なお、本実施形態から無機位相差板42を除いたとしても、斜方蒸着によって得られた配向膜18,29により液晶分子LCのプレチルトによる位相差(2.4nm)が補償されるので、正面コントラスト比がおよそ1300となり、比較例1に比べれば改善されることが分かっている。
【0066】
このような液晶装置100によれば、液晶分子LCのプレチルトによる液晶層50の正面位相差を光学的に視角補償する光学補償板を新たに設けなくても配向膜18,29がそれを兼ねている。すなわち、部品点数を増やすことなく、視角補償を実現して広い視角特性と高い正面コントラスト比を有する小型な液晶装置100を提供できる。
【0067】
(第2実施形態)
第2実施形態の液晶装置について、図10〜図12を参照して説明する。図10は第2実施形態の液晶装置の構成を示す概略断面図、図11は第2実施形態の液晶装置の光学的な視角補償原理を説明する図、図12は1軸性複屈折体の傾斜角度と正面位相差との関係を示すグラフである。
第2実施形態の液晶装置は、第1実施形態に対して無機配向膜の膜厚と、1軸性複屈折体の液晶パネル110に対する配置の仕方を見直したものである。したがって、第1実施形態と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0068】
図10に示すように、本実施形態の液晶装置150は、素子基板10と対向基板20との間に挟持された液晶層50とを備えた液晶パネル110を有する。素子基板10に設けられた画素電極15を覆う配向膜18および対向基板20に設けられた共通電極23を覆う配向膜29は、無機材料としてのSiO2を斜方蒸着して得られた無機配向膜である。
【0069】
基板面に対する斜方蒸着の蒸着角度θbは45°である。また、図示省略したが基板面に対する平面的な蒸着方向の角度θaは走査線3aの延在方向に対して45°である。そして、斜方蒸着によってSiO2の結晶が成長するカラム角度θcは、基板面に対して70°である。
【0070】
素子基板10と対向基板20とはおよそ2.5μmの間隔をおいて対向配置され、その間に負の誘電異方性を有する液晶(複屈折率Δnが0.14)が充填されて液晶層50を構成している。
【0071】
液晶分子LCは、配向膜18,29の配向膜面に対してプレチルトが与えられて初期配向しており、プレチルト角θpはおよそ85°である。
【0072】
液晶分子LCのプレチルトに起因する液晶層50の位相差(2.4nm)を光学的に補償する最適な配向膜18,29の膜厚は、第1実施形態で説明したようにおよそ270nmである。しかしながら、実際の斜方蒸着の工程では、膜厚を一定の値として均一に成膜することは難しい。例えば、基板と蒸着源との距離をできるだけ大きくしてゆっくり成膜する方法が考えられるが、それでは生産性が低下するという課題がある。
【0073】
また、膜厚ばらつきによって、配向膜18,29の膜厚が視角補償を可能とする最適値よりも厚くなってしまうと、1軸性複屈折体としての無機位相差板42を装備したとしても適切な状態からずれてしまう。
【0074】
そこで本実施形態では、配向膜18,29の膜厚を上記最適値より小さく設定し、無機位相差板42を液晶パネル110に対して傾斜させて配置することにより、不足する正面位相差を補う構成としたものである。図10に示すように液晶パネル110の対向基板20の光の射出側の表面に対する無機位相差板42の傾斜角度をθdと呼ぶ。
なお、図10は第1実施形態の図4に相当するものであり、液晶分子LCのプレチルトの方向、すなわち、平面的な斜方蒸着の蒸着方向に沿って液晶装置150を切断した概略断面図である。
【0075】
図11に示すように、無機位相差板42は屈折率nz’を示す光学軸が液晶分子LCのプレチルトの方向(長軸)に対して略平行な状態に近づくように、液晶パネル110すなわち液晶層50に対して傾斜して配置されている。
【0076】
図12に示すように、1軸性複屈折体としての無機位相差板42の傾斜角度θdを0°から9°まで変化させると、その正面位相差は0nmから3.8nmまで変化することが分かった。
【0077】
本実施形態では、液晶パネル110における配向膜18,29のそれぞれの厚みをおよそ240nmとした。このときの各配向膜18,29の正面位相差はおよそ1.1nmである(図7参照)。前述したように液晶分子LCのプレチルト角θpが85°の場合の液晶層50の正面位相差は2.4nmであるため、光学的に視角補償するために不足分する正面位相差は、2.4−2×1.1=0.2nmとなる。したがって、無機位相差板42の傾斜角度θdをおよそ2.0°とした。
【0078】
斜方蒸着による配向膜18,29の形成時の生産性と歩留まりとを考慮すれば、配向膜18,29の膜厚は正面位相差を生ずる範囲で240nmよりもさらに薄い方がよい。液晶分子LCのプレチルトによる液晶層50の正面位相差を視角補償するにあたって不足する分は、無機位相差板42の傾斜角度θdを2.0°よりも大きくすればよい。一方で無機位相差板42の傾斜角度θdが大きくなると、液晶装置150が占める空間が大きくなるので、これを適用する装置の小型化を考慮して傾斜角度θdを設定する必要がある。
なお、透過型の液晶装置150において、無機位相差板42は光の射出側である対向基板20と偏光素子43との間において配置されることに限定されず、光の入射側すなわち素子基板10と偏光素子41との間で傾斜させて配置しても同様な効果が得られる(図10参照)。
【0079】
図13(a)は第2実施形態の液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線である。図13(a)に示すように、本実施形態の液晶装置150は、最大コントラスト比を示す方位角が正面方向に位置していると共に、高いコントラスト比を得られる視角範囲が第1実施形態の液晶装置100に比べて広がっていることが分かる(図9(c)との比較)。
【0080】
液晶パネル110に対して無機位相差板42を傾斜させれば正面位相差が発生することを図12に示したが、例えば、無機位相差板42の傾斜角度θdを−2.0°とする。すなわち、図10において無機位相差板42を液晶パネル110に対して平行な状態から反時計回りに傾斜させても、正面位相差が生ずる。しかしながら、そのときの液晶装置150の視角特性は、図13(b)に示すようになり、最大コントラスト比を示す方位角が正面に位置しているも、高いコントラスト比が得られる視角範囲が第1実施形態に比べて狭まっていることが分かる。言い換えれば、無機位相差板42は、光学軸が液晶分子LCのプレチルトの方向(長軸)に対して略平行な状態に近づくように傾斜させることが重要である。
【0081】
また、光学的には無機位相差板42の光学軸が液晶分子LCのプレチルトの方向(長軸)に対して略平行となるように傾斜させることが理想的であるが、傾斜のさせ方が複雑になるので、本実施形態のように無機位相差板42を液晶パネル110に対して一定方向に傾斜させることが相対的な配置を容易にする観点で望ましい。
【0082】
このような液晶装置150によれば、斜方蒸着における配向膜18,29の膜厚を正面位相差が最適値(−1.2nm)となる270nmよりもおよそ1割程度小さい240nmに設定し、不足する正面位相差を無機位相差板42を傾斜させて補った。したがって、斜方蒸着によって配向膜18,29の膜厚が多少ばらついても、膜厚が270nmを超えないようにして、その影響を小さくし安定した視角補償を実現した。
【0083】
また、図12に示すように、無機位相差板42の傾斜角度θdをおよそ7°とすれば正面位相差をおよそ2.4nmとすることができる。すなわち、液晶分子LCのプレチルトによる液晶層50の正面位相差を無機位相差板42だけで光学的に補償可能である。しかしながら、無機位相差板42の傾斜角度θdが第2実施形態に比べて大きくなることで装置としての小型化が難しくなるという課題が生ずる。言い換えれば、第2実施形態はより小型な液晶装置150を提供できる。
【0084】
(第3実施形態)
<電子機器>
次に本実施形態の電子機器として、投射型表示装置を例に説明する。図14は第3実施形態の電子機器としての投射型表示装置の一例である3板式の透過型液晶プロジェクターの構成を示す図である。
【0085】
図14に示すように、本実施形態の液晶プロジェクター1000は、システム光軸Lに沿って配置された偏光照明装置1100と、光分離素子としての2つのダイクロイックミラー1104,1105と、3つの反射ミラー1106,1107,1108と、5つのリレーレンズ1201,1202,1203,1204,1205と、3つの光変調素子としての液晶ライトバルブ1210,1220,1230と、光合成素子としてのクロスダイクロイックプリズム1206と、投射レンズ1207とを備えている。
【0086】
偏光照明装置1100は、ハロゲンランプ等の白色光源からなる光源としてのランプユニット1101と、インテグレーターレンズ1102と、偏光変換素子1103とから概略構成されている。
【0087】
ダイクロイックミラー1104は、偏光照明装置1100から射出された偏光光束のうち、赤色光(R)を反射させ、緑色光(G)と青色光(B)とを透過させる。もう1つのダイクロイックミラー1105は、ダイクロイックミラー1104を透過した緑色光(G)を反射させ、青色光(B)を透過させる。
【0088】
ダイクロイックミラー1104で反射した赤色光(R)は、反射ミラー1106で反射した後にリレーレンズ1205を経由して液晶ライトバルブ1210に入射する。
ダイクロイックミラー1105で反射した緑色光(G)は、リレーレンズ1204を経由して液晶ライトバルブ1220に入射する。
ダイクロイックミラー1105を透過した青色光(B)は、3つのリレーレンズ1201,1202,1203と2つの反射ミラー1107,1108とからなる導光系を経由して液晶ライトバルブ1230に入射する。
【0089】
液晶ライトバルブ1210,1220,1230は、クロスダイクロイックプリズム1206の色光ごとの入射面に対してそれぞれ対向配置されている。液晶ライトバルブ1210,1220,1230に入射した色光は、画像情報に基づいて変調されクロスダイクロイックプリズム1206に向けて射出される。このプリズムは、4つの直角プリズムが貼り合わされ、その内面に赤色光を反射する誘電体多層膜と青色光を反射する誘電体多層膜とが十字状に形成されている。これらの誘電体多層膜によって3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が合成される。合成された光は、投射光学系である投射レンズ1207によってスクリーン1300上に投射され、画像が拡大されて表示される。
【0090】
液晶ライトバルブ1210は、上記第2実施形態の液晶装置150が適用されたものであって、色光の入射側と射出側とにおいてクロスニコルに配置された一対の偏光素子と、一対の偏光素子間に配置された液晶パネル1211と1軸性複屈折体としての無機位相差板1212とを有する。他の液晶ライトバルブ1220,1230も同様である。すなわち、液晶パネル1211,1221,1231は、基板面に対して負の誘電異方性を有する液晶分子がプレチルトを与えられた状態で略垂直配向している。プレチルト角θpはおよそ85°である。また、液晶層に面して斜方蒸着により形成された無機配向膜を有しており、無機配向膜の膜厚はおよそ240nmである。光学補償層を兼ねる無機配向膜によって、液晶分子のプレチルトによる液晶層の正面位相差が光学的に視角補償されている。
【0091】
無機位相差板1212,1222,1232は、それぞれ350nmの位相差を有するものであり、液晶パネル1211,1221,1231の色光の射出側の表面に傾斜して配置されている。液晶層の正面位相差は、液晶層を透過する色光の波長に依存するため、無機位相差板1212,1222,1232の傾斜角度θdは、緑色光(G)の波長(550nm)を基準に設定されており、本実施形態では緑色光(G)ではおよそ2°、緑色光(G)よりも波長が長い赤色光(R)ではおよそ2.1°、緑色光(G)よりも波長が短い青色光(B)では1.7°に設定されている。
【0092】
また、クロスダイクロイックプリズム1206に対して、液晶ライトバルブ1220にて変調された緑色光(G)は直進し、液晶ライトバルブ1210にて変調された赤色光(R)と、液晶ライトバルブ1230にて変調された青色光(B)とは誘電体多層膜によって画像の左右が反転して反射される。それゆえに、合成後の光において液晶ライトバルブ1210,1220,1230ごとの視角特性に起因する着色が生じないように光学的な条件が色光に対応して設定されている。具体的には、緑色光(G)の液晶パネル1221における液晶分子のプレチルトの方向に対して、他の赤色光(R)の液晶パネル1211と青色光(B)の液晶パネル1231における液晶分子のプレチルトの方向が反転するように斜方蒸着の平面的な蒸着方向を180°反転させて無機配向膜を形成している。
したがって、緑色光(G)に対応する液晶ライトバルブ1220の無機位相差板1222の液晶パネル1221に対する傾斜角度θdを2°とすると、見かけ上、赤色光(R)が透過する無機位相差板1212の傾斜角度θdは−2.1°、青色光(B)が透過する無機位相差板1232の傾斜角度θdは−1.7°となっている。
【0093】
このような液晶プロジェクター1000によれば、色光ごとに設けられた液晶ライトバルブ1210,1220,1230は、液晶分子のプレチルトによる液晶層の正面位相差が透過する色光の波長に対応して光学的に視角補償されているため、従来のものよりも広い視野角に亘って高いコントラストの画像表示が得られる。
【0094】
なお、本実施形態では無機位相差板1212,1222,1232をそれぞれ液晶パネル1211,1221,1231の色光の射出側において傾斜させて配置したが、これに限定されるものではない。液晶パネル1211,1221,1231の色光の入射側において傾斜させて配置しても同様な効果が得られ、入射光が不規則な角度で入射する迷光の影響を低減することもできる。
また、液晶プロジェクター1000の液晶ライトバルブ1210,1220,1230に適用される液晶装置は、上記第2実施形態の液晶装置150に限定されず、上記第1実施形態の液晶装置100を適用してもよい。これによれば、無機位相差板1212,1222,1232を傾斜させないので、より小型な液晶プロジェクター1000を実現できる。
【0095】
(第4実施形態)
本発明が適用される液晶装置は、第1実施形態や第2実施形態のような透過型に限定されない。本実施形態では、本発明を適用した反射型の液晶装置の例について図15〜図17を参照して説明する。
図15は第4実施形態の液晶装置の構造を示す概略断面図、図16は液晶分子のプレチルト角と液晶層の正面位相差との関係を示すグラフ、図17(a)は第4実施形態の液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線、同図(b)は比較例の反射型液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線である。なお、第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付して詳細の説明を省略する。
【0096】
<液晶装置>
図15に示すように、本実施形態の液晶装置200は、素子基板10と対向基板20との間に挟持された液晶層50とを備えた液晶パネル210を有する。液晶パネル210は反射型であって、素子基板10には光反射性を有する画素電極15Rが設けられている。
他の電気的な構成については、基本的に透過型の液晶パネル110と同じである。素子基板10に設けられた画素電極15Rを覆う配向膜18および対向基板20に設けられた共通電極23を覆う配向膜29は、無機材料としてのSiO2を斜方蒸着して得られた無機配向膜である。
画素電極15Rは、例えばアルミニウム(Al)や銀(Ag)などの高反射率の導電材料によって形成されている。該導電材料が液晶層50に与えるイオン成分の影響を考慮して、液晶層50に面する画素電極15Rの表面を絶縁膜で覆った後に配向膜18を形成してもよい。
【0097】
基板面に対する斜方蒸着の蒸着角度θbは45°である。また、図示省略したが基板面に対する平面的な蒸着方向の角度θaは走査線3aの延在方向に対して45°である。そして、斜方蒸着によってSiO2の結晶が成長するカラム角度θcは、基板面に対して70°である。
【0098】
素子基板10と対向基板20とはおよそ1.8μmの間隔をおいて対向配置され、その間に負の誘電異方性を有する液晶(複屈折率Δnが0.12)が充填されて液晶層50を構成している。
【0099】
液晶分子LCは、配向膜18,29の配向膜面に対してプレチルトが与えられて初期配向しており、プレチルト角θpはおよそ85°である。プレチルトの方位角方向は配向膜18,29の斜方蒸着における平面的な蒸着方向と同じであり、走査線3aに対して45°傾斜している。
【0100】
反射型の液晶パネル210の光の入射側および射出側には、1軸性複屈折体としての無機位相差板202と、反射型偏光素子としてのワイヤーグリッド偏光板203とが設けられている。無機位相差板202は対向基板20と平行して設けられている。ワイヤーグリッド偏光板203は、本実施形態の液晶装置200が適用される後述する液晶プロジェクター1500のシステム光軸Lに対して45°の角度で交差するように設けられている(図21参照)。なお、反射型偏光素子は偏光ビームスプリッターでもよい。
【0101】
図16に示すように、本実施形態の液晶装置200における液晶層50の正面位相差は、液晶層50の厚みと液晶の複屈折率とに基づき、液晶分子LCのプレチルト角θpが85°に設定されていることから、およそ1.5nmである。
【0102】
したがって、液晶層50の正面位相差を光学的に視角補償すべく、本実施形態では、配向膜18,29のそれぞれの膜厚をおよそ170nmとした。膜厚が170nmのときの配向膜18,29の正面位相差はそれぞれおよそ0.75nmとなる(図7参照)。すなわち、液晶層50の正面位相差の1/2の値となる。第1実施形態で述べたように、基板面の法線方向から見ると、液晶分子LCのプレチルトの方位角方向は、配向膜18,29のカラムの成長方向が基板面に投影された方位角方向に対して平行であり、配向膜18,29の遅相軸の方向と直交しているため、両者の位相差は相殺される。つまり、配向膜18,29は、液晶層50の正面位相差を光学的に補償する光学補償層を兼ねている。
【0103】
無機位相差板202の位相差は、(nx’−nz’)×厚みで与えられ、この場合、220nmとした。これにより、液晶層50を斜めに透過する光の位相差を補償した。
【0104】
図17(a)に示すように、液晶装置200は、最大コントラスト比が得られる領域が正面に位置していると共に、正面に対して上下左右にほぼ均等に広がっている。この液晶装置をプロジェクターで投影したときのコントラスト比(C,R)はおよそ14900となった。
これに対して、配向膜18,29の膜厚をおよそ20nmとして光学補償層を兼ねない構造とした比較例では、図17(b)に示すように、最大コントラスト比が得られる領域が正面に位置しておらず、その投影コントラスト比(C.R)はおよそ2300であった。
【0105】
反射型の液晶装置200は、プレチルトが与えられて略垂直配向した液晶分子LCに対して入射光と反射光とが係ることからそもそも視角特性上の自己補償構造を有している。したがって、上記第1実施形態の透過型の液晶装置100に比べて上記比較例でも高いコントラスト比が得られる視角範囲が広いが、本発明を適用することで広視野角に亘ってさらに高いコントラスト比が得られる。すなわち、反射型の液晶装置200に適用することが透過型の液晶装置100に適用するよりも効果的である。
【0106】
(第5実施形態)
次に、本実施形態の反射型の液晶装置の他の適用例について、図18〜図20を参照して説明する。図18は第5実施形態の液晶装置の構造を示す概略断面図、図19は1軸性複屈折体の傾斜角度と正面位相差との関係を示すグラフ、図20は第5実施形態の液晶装置の視角特性を示す等コントラスト曲線である。
第5実施形態の液晶装置は、第4実施形態に対して無機配向膜の膜厚と1軸性複屈折体の配置を見直したものである。したがって、第4実施形態と同じ構成については同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0107】
図18に示すように、本実施形態の液晶装置250は、素子基板10と対向基板20との間に挟持された液晶層50とを備えた反射型の液晶パネル210を有する。素子基板10に設けられた光反射性を有する画素電極15Rを覆う配向膜18および対向基板20に設けられた共通電極23を覆う配向膜29は、無機材料としてのSiO2を斜方蒸着して得られた無機配向膜である。膜厚は、第4実施形態の170nmに比べておよそ1割程度薄く設定され、150nmとなっている。膜厚が150nmのときの配向膜18,29の正面位相差はそれぞれおよそ0.7nmとなる(図7参照)。すなわち、液晶層50の厚み1.8μm、複屈折率Δn=0.12、液晶分子LCのプレチルト角θp(およそ85°)に基づく、液晶層50の正面位相差である1.5nmに対して0.1nm不足している。
【0108】
反射型の液晶パネル210の光の入射側および射出側には、無機位相差板202と、ワイヤーグリッド偏光板203とが設けられている。
本実施形態では、1軸性複屈折体である無機位相差板202を液晶パネル210に対して傾斜させて配置することにより、光学的な視角補償において不足する正面位相差を補った。
【0109】
具体的には、図19に示すように、無機位相差板202の傾斜角度θdをおよそ2°とすることにより、正面位相差を0.1nmとすることができる。
【0110】
配向膜18,29のそれぞれの膜厚は、光学的な視角補償における最適値を示す膜厚の値(170nm)よりも小さい値の膜厚(150nm)に設定され、斜方蒸着による膜厚ばらつきの影響を受け難くした。具体的には、斜方蒸着時の膜厚が170nmを越えないようにした。
【0111】
このような液晶装置250によれば、図20に示すように、最大コントラスト比が得られる領域が正面に位置していると共に、正面に対して上下左右にほぼ均等に広がっている。投影コントラスト比(C,R)はおよそ14800となった。すなわち、第4実施形態と同等な作用・効果を奏し、配向膜18,29の膜厚ばらつきの影響を小さくして安定的な視角補償を実現している。
【0112】
なお、本実施形態の液晶装置250において、無機位相差板202の傾斜角度θdを−2°としても、図20に示したものとほぼ同等の等コントラスト曲線で、投影コントラスト比(C,R)14300が得られている。これも反射型の自己補償構造に由来するものと考えられる。
【0113】
(第6実施形態)
<電子機器>
次に、本実施形態の電子機器としての他の投射型表示装置の例について説明する。図21は第6実施形態の電子機器としての投射型表示装置の一例である3板式の反射型液晶プロジェクターの構成を示す図である。なお、第3実施形態と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0114】
図21に示すように、本実施形態の他の投射型表示装置である液晶プロジェクター1500は、システム光軸Lに沿って配置された偏光照明装置1100と、3つのダイクロイックミラー1111,1112,1115と、2つの反射ミラー1113,1114と、3つの光変調素子としての反射型の液晶ライトバルブ1250,1260,1270と、クロスダイクロイックプリズム1206と、投射レンズ1207とを備えている。
【0115】
偏光照明装置1100から射出された偏光光束は、互いに直交して配置されたダイクロイックミラー1111とダイクロイックミラー1112とに入射する。光分離素子としてのダイクロイックミラー1111は、入射した偏光光束のうち赤色光(R)を反射する。もう一方の光分離素子としてのダイクロイックミラー1112は、入射した偏光光束のうち緑色光(G)と青色光(B)とを反射する。
反射した赤色光(R)は反射ミラー1113により再び反射され、液晶ライトバルブ1250に入射する。一方、反射した緑色光(G)と青色光(B)とは反射ミラー1114により再び反射して光分離素子としてのダイクロイックミラー1115に入射する。ダイクロイックミラー1115は緑色光(G)を反射し、青色光(B)を透過する。反射した緑色光(G)は液晶ライトバルブ1260に入射する。透過した青色光(B)は液晶ライトバルブ1270に入射する。
【0116】
液晶ライトバルブ1250は、反射型の液晶パネル1251と、1軸性複屈折体としての無機位相差板1252と、反射型偏光素子としてのワイヤーグリッド偏光板1253とを備えている。
液晶ライトバルブ1250は、ワイヤーグリッド偏光板1253によって反射した赤色光(R)がクロスダイクロイックプリズム1206の入射面に垂直に入射するように配置されている。また、ワイヤーグリッド偏光板1253の偏光度を補う補助偏光板1254が液晶ライトバルブ1250における赤色光(R)の入射側に配置され、もう1つの補助偏光板1255が赤色光(R)の射出側においてクロスダイクロイックプリズム1206の入射面に沿って配置されている。なお、反射型偏光素子として偏光ビームスプリッターを用いた場合には、一対の補助偏光板1254,1255を省略することも可能である。
このような反射型の液晶ライトバルブ1250の構成と各構成の配置は、他の反射型の液晶ライトバルブ1260,1270においても同じである。
【0117】
液晶ライトバルブ1250,1260,1270に入射した各色光は、画像情報に基づいて変調され、再びワイヤーグリッド偏光板1253,1263,1273を経由してクロスダイクロイックプリズム1206に入射する。クロスダイクロイックプリズム1206では、各色光が合成され、合成された光は投射レンズ1207によってスクリーン1300上に投射され、画像が拡大されて表示される。
【0118】
本実施形態では、液晶ライトバルブ1250,1260,1270として上記第5実施形態の液晶装置250が適用されている。すなわち、液晶パネル1251,1261,1271は、基板面に対して負の誘電異方性を有する液晶分子がプレチルトを与えられた状態で略垂直配向している。プレチルト角θpはおよそ85°である。また、液晶層に面して斜方蒸着により形成された無機配向膜を有しており、無機配向膜の膜厚はおよそ150nmである。光学補償層を兼ねる無機配向膜により、液晶分子のプレチルトによる液晶層の正面位相差が光学的に視角補償されている。
【0119】
無機位相差板1252,1262,1272は、それぞれ220nmの位相差を有するものであり、液晶パネル1251,1261,1271の色光の入射側および射出側の表面に傾斜して配置されている。液晶層の正面位相差は、液晶層を透過する色光の波長に依存するため、無機位相差板1252,1262,1272の傾斜角度θdは、緑色光(G)の波長(550nm)を基準に設定されており、本実施形態では緑色光(G)ではおよそ2°、緑色光(G)よりも波長が長い赤色光(R)ではおよそ2.1°、緑色光(G)よりも波長が短い青色光(B)では1.7°に設定されている。
【0120】
また、クロスダイクロイックプリズム1206に対して、液晶ライトバルブ1260にて変調された緑色光(G)は直進し、液晶ライトバルブ1250にて変調された赤色光(R)と、液晶ライトバルブ1270にて変調された青色光(B)とは誘電体多層膜によって画像の左右が反転して反射される。それゆえに、合成後の光において液晶ライトバルブ1250,1260,1270ごとの視角特性に起因する着色が生じないように光学的な条件が色光に対応して設定されている。具体的には、緑色光(G)の液晶パネル1261における液晶分子のプレチルトの方向に対して、他の赤色光(R)の液晶パネル1251と青色光(B)の液晶パネル1271における液晶分子のプレチルトの方向が反転するように斜方蒸着の平面的な蒸着方向を180°反転させて無機配向膜を形成している。
したがって、緑色光(G)に対応する液晶ライトバルブ1260の無機位相差板1262の液晶パネル1261に対する傾斜角度θdを2°とすると、見かけ上、赤色光(R)が透過する無機位相差板1252の傾斜角度θdは−2.1°、青色光(B)が透過する無機位相差板1272の傾斜角度θdは−1.7°となっている。
【0121】
このような液晶プロジェクター1500によれば、色光ごとに設けられた反射型の液晶ライトバルブ1250,1260,1270は、液晶分子のプレチルトによる液晶層の正面位相差が透過する色光の波長に対応して光学的に視角補償されているため、従来のものよりも広い視野角に亘って高いコントラストの画像表示が得られる。先に説明した第3実施形態の透過型の液晶プロジェクター1000と比べても高いコントラストの画像表示が実現される。
【0122】
なお、液晶プロジェクター1500の液晶ライトバルブ1250,1260,1270に適用される液晶装置は、上記第5実施形態の液晶装置250に限定されず、上記第4実施形態の液晶装置200を適用してもよい。
【0123】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0124】
(変形例1)上記第1実施形態および第2実施形態ならびに第4実施形態および第5実施形態において、配向膜18,29を形成する方法は、斜方蒸着に限定されない。例えば、斜方スパッタにより形成しても負の誘電異方性を有する液晶分子LCに対してプレチルトを与えることができる。より具体的な斜方スパッタによる無機配向膜の形成方法の一例が、特開2004−170744号公報に開示されている。
【0125】
(変形例2)上記第3実施形態において、無機位相差板1212,1222,1232は、色光ごとに傾斜角度θdを異ならせることに限定されない。視感度がもっとも高い緑色光(G)を基準として無機位相差板1222の傾斜角度θdを設定し、他の無機位相差板1212,1232も同じ傾斜角度θdとしてもよい。これによれば、傾斜角度θdの調整が比較的に容易となる。上記第6実施形態においても同様に無機位相差板1252,1262,1272の傾斜角度θdを一定としてもよい。
【0126】
(変形例3)1軸性複屈折体は、高屈折率層と低屈折率層とが積層された無機位相差板に限定されない。例えば、ポリカーボネートやポリビニルアルコールなどの樹脂材料を用いて構成されたものでもよい。これによれば、無機位相差板に比べて安価な1軸性複屈折体としての有機位相差板を提供できる。
【0127】
(変形例4)上記液晶装置100および液晶装置150が適用される電子機器は、第3実施形態の液晶プロジェクター1000に限定されない。例えば、投射型のHUD(ヘッドアップディスプレイ)や直視型のHMD(ヘッドマウントディプレイ)、または電子ブック、パーソナルコンピューター、デジタルスチルカメラ、液晶テレビ、ビューファインダー型あるいはモニター直視型のビデオレコーダー、カーナビゲーションシステム、電子手帳、POSなどの情報端末機器の表示部として好適に用いることができる。なお、上記液晶装置200および液晶装置250の場合も同様である。
【符号の説明】
【0128】
10…一対の基板のうちの素子基板、15R…光反射性を有する画素電極、18,29…無機配向膜としての配向膜、20…一対の基板のうちの一方の基板としての対向基板、23…共通電極、42…1軸性複屈折体としての無機位相差板、50…液晶層、100,150,200,250…液晶装置、202…無機位相差板、1000,1500…投射型表示装置としての液晶プロジェクター、1101…光源としてのランプユニット、1104,1105,1111,1112,1115…光分離素子としてのダイクロイックミラー、1206…光合成素子としてのクロスダイクロイックプリズム、1210,1220,1230,1250,1260,1270…光変調素子としての液晶ライトバルブ、1212,1222,1232,1252,1262,1272…無機位相差板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板間に液晶層が挟持され、前記液晶層の液晶分子が基板面に対して略垂直に初期配向しており、前記一対の基板の前記液晶層側の基板面には無機配向膜が形成され、前記無機配向膜の表面において、前記基板面で所定の方位角方向のプレチルトが前記液晶分子に付与されている液晶装置であって、
前記無機配向膜は、前記所定の方位角方向に対して略直交した遅相軸を有しており、前記無機配向膜は光学補償層として前記液晶層の位相差を光学的に補償していることを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
前記無機配向膜は、無機材料を前記基板面に対して斜方蒸着または斜方スパッタして得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の液晶装置。
【請求項3】
前記一対の基板のうちの一方の基板の前記液晶層とは反対側に1軸性複屈折体がさらに設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶装置。
【請求項4】
前記1軸性複屈折体は、前記1軸性複屈折体の表面に対して略垂直な方向の光学軸を有し、
前記光学軸が前記液晶分子の前記プレチルトの方向に対して略平行または略平行な状態に近づくように、前記一方の基板に対して傾斜して配置されていることを特徴とする請求項3に記載の液晶装置。
【請求項5】
前記無機配向膜は、前記一対の基板ごとに前記無機配向膜の光学的な位相差が前記液晶層の位相差を補償する最適値の1/2の値よりも小さい値となるように膜厚が設定され、
前記1軸性複屈折体は、前記最適値に対して不足する分の位相差を有することを特徴とする請求項4に記載の液晶装置。
【請求項6】
前記1軸性複屈折体は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された無機位相差板であることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一項に記載の液晶装置。
【請求項7】
前記一対の基板のうち前記一方の基板の前記液晶層側に光透過性を有する共通電極が設けられ、
前記一対の基板のうち他方の基板の前記液晶層側に光反射性を有する画素電極が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液晶装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の液晶装置を備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項9】
光源と、
前記光源から射出された光を赤色光、緑色光、青色光に分離する光分離素子と、
分離された色光ごとに設けられ、前記色光を画像情報に基づいて変調する光変調素子と、
変調された前記色光を合成する光合成素子とを備え、
前記光変調素子が請求項3乃至7のいずれか一項に記載の液晶装置からなり、
前記光変調素子の前記色光の入射側または射出側において、前記1軸性複屈折体は、前記一方の基板に対して傾斜して配置されていることを特徴とする投射型表示装置。
【請求項10】
前記1軸性複屈折体は、前記一方の基板に対して前記色光ごとに異なる角度で傾斜して配置されていることを特徴とする請求項9に記載の投射型表示装置。
【請求項1】
一対の基板間に液晶層が挟持され、前記液晶層の液晶分子が基板面に対して略垂直に初期配向しており、前記一対の基板の前記液晶層側の基板面には無機配向膜が形成され、前記無機配向膜の表面において、前記基板面で所定の方位角方向のプレチルトが前記液晶分子に付与されている液晶装置であって、
前記無機配向膜は、前記所定の方位角方向に対して略直交した遅相軸を有しており、前記無機配向膜は光学補償層として前記液晶層の位相差を光学的に補償していることを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
前記無機配向膜は、無機材料を前記基板面に対して斜方蒸着または斜方スパッタして得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の液晶装置。
【請求項3】
前記一対の基板のうちの一方の基板の前記液晶層とは反対側に1軸性複屈折体がさらに設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶装置。
【請求項4】
前記1軸性複屈折体は、前記1軸性複屈折体の表面に対して略垂直な方向の光学軸を有し、
前記光学軸が前記液晶分子の前記プレチルトの方向に対して略平行または略平行な状態に近づくように、前記一方の基板に対して傾斜して配置されていることを特徴とする請求項3に記載の液晶装置。
【請求項5】
前記無機配向膜は、前記一対の基板ごとに前記無機配向膜の光学的な位相差が前記液晶層の位相差を補償する最適値の1/2の値よりも小さい値となるように膜厚が設定され、
前記1軸性複屈折体は、前記最適値に対して不足する分の位相差を有することを特徴とする請求項4に記載の液晶装置。
【請求項6】
前記1軸性複屈折体は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された無機位相差板であることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一項に記載の液晶装置。
【請求項7】
前記一対の基板のうち前記一方の基板の前記液晶層側に光透過性を有する共通電極が設けられ、
前記一対の基板のうち他方の基板の前記液晶層側に光反射性を有する画素電極が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液晶装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の液晶装置を備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項9】
光源と、
前記光源から射出された光を赤色光、緑色光、青色光に分離する光分離素子と、
分離された色光ごとに設けられ、前記色光を画像情報に基づいて変調する光変調素子と、
変調された前記色光を合成する光合成素子とを備え、
前記光変調素子が請求項3乃至7のいずれか一項に記載の液晶装置からなり、
前記光変調素子の前記色光の入射側または射出側において、前記1軸性複屈折体は、前記一方の基板に対して傾斜して配置されていることを特徴とする投射型表示装置。
【請求項10】
前記1軸性複屈折体は、前記一方の基板に対して前記色光ごとに異なる角度で傾斜して配置されていることを特徴とする請求項9に記載の投射型表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−76030(P2011−76030A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230261(P2009−230261)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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