説明

液晶配向剤

【課題】安定したプレチルト角を有し、密着性に優れ、且つ残像問題を改善する液晶配向剤を提供する。
【解決手段】液晶配向剤は、ポリマー(A)およびポリマー(B)を含む。ポリマー(A)は、側鎖ジアミンを有するポリイミド−ポリアミック酸である。ポリマー(B)は、側鎖ジアミンを有するポリアミック酸である。ポリマー(A)と前記ポリマー(B)の重量比(A)/(B)が、5/95〜95/5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤に関するものであり、特に、側鎖ジアミンを有するポリイミド−ポリアミック酸および側鎖ジアミンを有するポリアミック酸を含む液晶配向剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(liquid crystal display, LCD)は、液晶の光電変化を利用したディスプレイであり、小型、軽量、低消費電力、優れた表示品質等の利点を有することから、近年、フラットパネルディスプレイの主流になっている。
【0003】
液晶ディスプレイは、画面サイズの拡大、色彩に対する高飽和度、高コントラストおよび反応速度の向上といった要求に伴い、ねじれネマティック(twisted nematic,TN)液晶ディスプレイや超ねじれネマティック(super twisted nematic,STN)液晶ディスプレイから、現在では、一つ一つの画素全てに薄膜トランジスタ(thin filmed transistor,TFT)を装着したTFT液晶ディスプレイに至るまで発展している。近年、TFT型液晶ディスプレイの駆動方式について継続的に改良が進められており、例えば、視角改善の方面では、垂直配向(vertical alignment,VA)方式や横電界スイッチング(in-plane switching,IPS)方式が開発されている。また、動画に対応する反応速度を改善することのできるOCB方式(optically compensated band)も開発されている。
【0004】
液晶ディスプレイの典型として、正の誘電異方性を有するネマティック液晶を使用したねじれネマティック(TN)電界効果型液晶ディスプレイがある。一般的に、液晶分子は、電極を有する一対の基板の間に配置され、これらの2つの基板の配向方向は互いに垂直であり、且つ電界を制御することによって液晶分子の配列方式を制御することができる。このタイプの液晶ディスプレイにとって重要なことは、液晶分子の長軸方向と基板表面が均一な傾斜角度に配向されていることである。液晶分子の配列を均一なプレチルト角(pre-tilt angle)で配向させることができる材料を、通常、配向膜(alignment film)と称している。
【0005】
現在、工業界には、典型的な配向膜調製方法が2種類ある。第1の方法は、蒸気沈積により無機物質を無機フィルムに生成する方法である。例えば、シリカを基板に傾斜蒸着して薄膜を形成すると、液晶分子が蒸着方向に配向される。しかしながら、この方法は、均一な配向を得ることができても、工業効果と利益をあまり生み出さない。第2の方法は、有機フィルムを基板の表面に塗布した後、綿、ナイロンまたはポリエステル等の柔らかい布を利用して摩擦を加え、有機フィルムの表面を定向することによって、液晶分子を摩擦方向に配向する方法である。この方法は、比較的単純で、且つ非常に容易に均一な配向を得ることができるため、工業規模で広く応用されている。有機薄膜を形成することができるポリマーは、例えば、ポリビニルアルコール(polyvinylalcohol,PVA)、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide,PEO)、ポリアミド(polyamide,PA)またはポリイミドであり、そのうちポリイミドは、化学安定性および熱安定性等の性質を有することから、配向膜材料として最もよく利用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、液晶ディスプレイに電圧を印加すると、生成されたイオン性電荷が液晶配向膜に吸着し、印加した電圧を解除しても、イオン性電荷を液晶配向膜から離脱させるのは非常に困難であるため、画面に残像が生じる問題が発生する。そのため、最近の配向膜材料の開発者は、残像問題を改善することを主要な課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、安定したプレチルト角を有し、密着性に優れ、且つ残像問題を改善できる液晶表示素子を得ることのできる液晶配向剤を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、ポリマー(A)およびポリマー(B)を含む液晶配向剤を提供する。ポリマー(A)は、下記の式(1)で表される側鎖ジアミンを有するポリイミド−ポリアミック酸である。ポリマー(B)は、下記の式(2)で表される側鎖ジアミンを有するポリアミック酸である。ポリマー(A)とポリマー(B)の重量比(A)/(B)は、例えば、5/95〜95/5である。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
式(1)および式(2)中、T1、T2およびT3は、それぞれテトラカルボン酸二無水物モノマーから得られた四価有機基を示し、n/(m+n)≦0.5であり、D1またはD2中の少なくとも一部は、式(3)または式(4)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基より選ばれ、D3中の少なくとも一部は、式(4)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基であり、且つD1、D2およびD3中のその他の部分は、ジアミン化合物から得られた二価有機基である。
【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
式(3)中、R1、R2、R3、R5およびR6は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜5のアルキル基を示し、R4は、炭素数4〜20のアルキル基、CO222、CONR22または(CH2pCF3を示し、pは、1〜5の整数であり、R22は、炭素数4〜20のアルキル基を示し、式(4)中、R7〜R11のうちいずれか2つは、1級アミノ基であり、その他は、それぞれ独立して、水素原子または1級アミノ基以外の一価有機基であり、R7〜R11は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、X1およびX2は、単結合またはエーテル、ケトン、エステル、アミドおよび2級アミンから成る群より選ばれた二価結合基を示し、X1およびX2は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、X3およびX4は、炭素数1〜3の直鎖状アルキレン基を示し、X3およびX4は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、R12は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜40の脂環式骨格を有する一価有機基、炭素数6〜51の芳香族骨格を有する一価有機基または複素環式骨格を有する一価有機基を示す。
【0015】
本発明の実施形態によれば、本発明の液晶配向剤のD1、D2およびD3中、式(3)または(4)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基より選ばれた部分を除いて、上述したD1、D2およびD3中のその他の部分は、式(5)〜式(12)から成る群より選んでもよい。
【0016】
【化5】

【0017】
そのうち、R13は、炭素数4〜40の脂環族一価有機基または炭素数8〜20の長鎖脂肪族一価有機基であり、R14は、ハロゲン原子または一価有機基であり、R15は、炭素数4〜40の脂環族二価有機基であり、R16は、二価脂環族、二価芳香族または炭素数1〜8の長鎖脂肪族二価有機基であり、XおよびYは、それぞれ-O-、-NH-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-から成る群より選ばれた二価基であり、Zは、-CF3、-CN、-COCH3、-COOH、-NO2、-SOCH3、-SO2CH3、-OCF3、-Fおよび-Clから成る群より選ばれた一価有機基である。
【0018】
本発明の実施形態によれば、ポリマー(A)において、式(3)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基の含有量は、ポリマー(A)が有する二価有機基D1およびD2の総量を0.1モル%〜50モル%とする。
【0019】
本発明の実施形態によれば、ポリマー(B)において、式(3)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基の含有量は、ポリマー(B)が有する二価有機基D3の総量を0.1モル%〜50モル%とする。
【0020】
本発明の実施形態によれば、ポリマー(A)において、式(4)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基の含有量は、ポリマー(A)が有する二価有機基D1およびD2の総量を5モル%〜50モル%とする。
【0021】
本発明の実施形態によれば、ポリマー(B)において、式(4)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基の含有量は、ポリマー(B)が有する二価有機基D3の総量を5モル%〜100モル%とする。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明は、液晶配向剤中に式(1)で表される側鎖ジアミンを有するポリイミド−ポリアミック酸および式(2)で表される側鎖ジアミンを有するポリアミック酸を含むことによって、この液晶配向剤により形成された液晶配向膜が安定したプレチルト角を有し、且つ液晶配向膜の密着性を向上させ、残像問題を改善することができるため、液晶表示素子の機能を増進させる目的を達成することができる。
【0023】
本発明の上記および他の目的、特徴、および利点をより分かり易くするため、図面と併せた幾つかの実施形態を以下に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本実施形態の液晶配向剤は、ポリマー(A)およびポリマー(B)を含む。ポリマー(A)は、下記の式(1)で表される側鎖ジアミンを有するポリイミド−ポリアミック酸である。ポリマー(B)は、下記の式(2)で表される側鎖ジアミンを有するポリアミック酸である。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
式(1)および式(2)中、T1、T2およびT3は、それぞれ四価の有機基を示し、n/(m+n)≦0.5であり、D1またはD2中の少なくとも一部は、式(3)または式(4)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基より選ばれ、D3中の少なくとも一部は、式(4)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基であり、且つD1、D2およびD3中のその他の部分は、ジアミン化合物から得られた二価有機基である。
【0028】
【化3】

【0029】
式(3)中、R1、R2、R3、R5およびR6は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜5のアルキル基を示し、R4は、炭素数4〜20のアルキル基、CO222、CONR22または(CH2pCF3を示し、pは、1〜5の整数であり、R22は、炭素数4〜20のアルキル基を示す。
【0030】
【化4】

【0031】
式(4)中、R7〜R11のうちいずれか2つは、1級アミノ基であり、その他は、それぞれ独立して、水素原子または1級アミノ基以外の一価有機基であり、R7〜R11は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、X1およびX2は、単結合またはエーテル、ケトン、エステル、アミドおよび2級アミンから成る群より選ばれた二価結合基を示し、X1およびX2は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、X3およびX4は、炭素数1〜3の直鎖状アルキレン基を示し、X3およびX4は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、R12は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜40の脂環式骨格を有する一価有機基、炭素数6〜51の芳香族骨格を有する一価有機基または複素環式骨格を有する一価有機基を示す。
【0032】
ポリマー(A)とポリマー(B)の重量比(A)/(B)は、例えば、5/95〜95/5である。
【0033】
また、本実施形態の液晶配向剤のD1、D2およびD3中、式(3)または式(4)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基より選ばれた部分を除いて、上述したD1、D2およびD3中のその他の部分は、式(5)〜式(12)から成る群より選んでもよい。
【0034】
【化5】

【0035】
そのうち、R13は、炭素数4〜40の脂環族一価有機基または炭素数8〜20の長鎖脂肪族一価有機基であり、R14は、ハロゲン原子または一価有機基であり、R15は、炭素数4〜40の脂環族二価有機基であり、R16は、二価脂環族、二価芳香族または炭素数1〜8の長鎖脂肪族二価有機基であり、XおよびYは、それぞれ-O-、-NH-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-から成る群より選ばれた二価基であり、Zは、-CF3、-CN、-COCH3、-COOH、-NO2、-SOCH3、-SO2CH3、-OCF3、-Fおよび-Clから成る群より選ばれた一価有機基である。
【0036】
本実施形態が合成するポリマー(A)の調製方法は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物を有機溶媒中で重合反応させ、脱水反応により部分的に閉環反応させることによって、側鎖ジアミンを有するポリイミド−ポリアミック酸生成物を得るものである。
【0037】
ポリマー(A)の合成に用いるテトラカルボン酸二無水物は、表1に示した化合物より選ぶことができる。ポリマー(A)の合成に用いるジアミン化合物は、表2に示した式(3)および式(4)で表されるジアミン化合物より選ぶことができ、また、表3に示した式(3)および式(4)で表されないジアミン化合物より選ぶこともできる。ポリマー(A)の合成に用いるジアミン化合物の少なくとも1つは、表2に示した化合物より選ばれる。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
また、本実施形態のポリマー(A)の合成に用いるテトラカルボン酸二無水物は、上記の表1に示した化合物の異性体であってもよく、また、これらの異性体の混合物であってもよい。本実施形態のポリマー(A)の合成に用いるジアミン化合物は、上記の表2または表3に示した化合物の異性体であってもよく、また、これらの異性体の混合物であってもよい。本実施形態は、上述した例のみに限定されず、使用するテトラカルボン酸二無水物およびジアミン化合物は、上述した化合物以外の化合物であってもよい。
【0042】
特に言及すべきこととして、液晶表示素子が高い電圧保持率を有するためには、表1中のNO.1-2、1-3、1-4、1-5、1-6等の脂環構造を有する化合物の中から少なくとも1種を選択することによって達成できる。
【0043】
また、本実施形態の液晶配向剤中の液晶のプレチルト角は、ポリイミド−ポリアミック酸上の側鎖の大きさを変える(例えば、ジアミン化合物上の側鎖基の大きさを変える)ことによって調整することができるため、表2中のNO.2-1から2-3に示したジアミン化合物の中から少なくとも1種を選択することによって、適切なプレチルト角を提供することができる。また、表2中のNO.2-4から2-7に示したジアミン化合物の中から少なくとも1種を選択することによって、密着性の優れた液晶配向剤を得ることができる。
【0044】
本実施形態が合成するポリマー(B)の調製方法は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物を有機溶媒中で重合反応させることによって、側鎖ジアミンを有するポリアミック酸生成物を得るものである。
【0045】
ポリマー(B)の合成に用いるテトラカルボン酸二無水物は、表1に示した化合物より選ぶことができる。ポリマー(B)の合成に用いるジアミン化合物は、表2に示した式(3)および式(4)で表されるジアミン化合物より選ぶことができ、また、表3に示した式(3)および式(4)で表されないジアミン化合物より選ぶこともできる。ポリマー(B)の合成に用いるジアミン化合物の少なくとも1つは、表2のNO.2-4から2-7に示した化合物より選ばれる。
【0046】
また、本実施形態のポリマー(B)の合成に用いるテトラカルボン酸二無水物は、上記の表1に示した化合物の異性体であってもよく、また、これらの異性体の混合物であってもよい。本実施形態のポリマー(B)の合成に用いるジアミン化合物は、上記の表2または表3に示した化合物の異性体であってもよく、また、これらの異性体の混合物であってもよい。本実施形態は、上述した例のみに限定されず、使用するテトラカルボン酸二無水物およびジアミン化合物は、上述した化合物以外の化合物であってもよい。
【0047】
式(3)で表される二価有機基は、安定したプレチルト角を有し、液晶表示素子に安定した配向効果を持たせる。ポリマー(A)において、式(3)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基の含有量は、ポリマー(A)が有する二価有機基D1およびD2の総量を0.1モル%〜50モル%とするのが好ましい。ポリマー(B)において、式(3)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基の含有量は、ポリマー(B)が有する二価有機基D3の総量を0.1モル%〜50モル%とするのが好ましい。
【0048】
式(4)で表される二価有機基は、安定したプレチルト角を有し、液晶表示素子に安定した配向効果を持たせる。ポリマー(A)において、(4)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基の含有量は、ポリマー(A)が有する二価有機基D1およびD2の総量を5モル%〜50モル%とするのが好ましい。ポリマー(B)において、式(4)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基の含有量は、ポリマー(B)が有する二価有機基D3の総量を5モル%〜100モル%とするのが好ましい。
【0049】
本実施形態のポリマー(A)の合成反応に用いるテトラカルボン二無水物とジアミン化合物の比率は、テトラカルボン二無水物の酸無水物基の含有量が1当量であり、且つジアミン化合物のアミノ基の含有量が0.5当量〜2当量であるのが好ましく、より好ましくは、ジアミン化合物のアミノ基の含有量が0.7当量〜1.5当量である。
【0050】
ポリマー(A)の合成は、いずれも有機溶媒中で反応が完了するが、使用する有機溶媒は、ポリイミド−ポリアミック酸に対する溶解度が比較的高い有機溶媒と、ポリイミド−ポリアミック酸に対する溶解度が比較的低い有機溶媒に分かれる。ポリイミド−ポリアミック酸に対する溶解度が比較的高い有機溶媒は、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、γ-ブチロラクトン、ピリジン等であり、上記の溶媒は、2種以上を混合して使用してもよい。
【0051】
ポリイミド−ポリアミック酸に対する溶解度が比較的低い有機溶媒は、上述したポリイミド−ポリアミック酸に対する溶解度が比較的高い有機溶媒と混合して使用してもよいが、ポリイミド−ポリアミック酸が分離されないことを使用の制限とする。溶解度が比較的低い溶媒には、メチロール、エタノール、イソプロポキシド、n-ブタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、1,2- ジクロロエタン、ベンゼン、エチルトルエン、ジエチルトルエン、ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等が含まれる。
【0052】
ポリマー(A)を形成するには、脱水閉環反応を行う必要がある。脱水閉環反応は、直接加熱脱水閉環するか、あるいは脱水剤および触媒を添加して行ってもよい。
【0053】
(1)直接加熱脱水閉環する:
反応温度は、例えば、50℃〜300℃の間であるが、好ましくは、100℃〜250℃の間である。反応温度が50℃よりも低い時、脱水閉環反応は進行しない。
【0054】
(2)脱水剤および触媒を添加する:
反応温度は、例えば、−20℃〜150℃の間であるが、好ましくは、0℃〜120℃の間である。脱水剤は、例えば、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物等の酸無水物を使用することができる。脱水剤の用量は、必要な閉環率をみて定めるが、1モルのポリイミド−ポリアミック酸の再現単位毎に0.01〜20モルの脱水剤を使用するのが好ましい。触媒は、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、ジメチルピリジン等の3級アミンを使用することができる。触媒の用量は、1モルの脱水剤の用量毎に0.01モル〜10モル使用するのが好ましい。
【0055】
ポリマー(A)の純化方法は、まず、ポリイミド−ポリアミック酸の反応溶媒を大量の溶解度が比較的低い溶媒の中に注入して、沈殿物を得る。それから、減圧した状態で乾燥させることによって、ポリイミド−ポリアミック酸を得ることができる。その後、ポリイミド−ポリアミック酸を有機溶媒の中で溶解して、溶解度が比較的低い溶媒により沈殿を行う。このステップを1回または複数回行って、ポリイミド−ポリアミック酸を純化することができる。最後に、溶解度が比較的高い溶媒で上述したステップを行った後のポリイミド−ポリアミック酸を溶解して、純化されたポリマー(A)を得る。
【0056】
本実施形態の液晶配向剤の粘度(ηln)は、数式(I)により得られる。
【0057】
【数1】

【0058】
本実施形態の液晶配向剤は、粘度と揮発性に基づいて選択した固体の含有量が、1重量%〜10重量%であるのが好ましい。
【0059】
本実施形態の液晶配向剤を基板の上に塗布して成膜することによって、液晶配向膜が形成される。液晶配向剤の固体の含有量が1重量%よりも低い時、塗布する配向膜の膜厚が過度に薄くなるため、液晶配向性を下げる。液晶配向剤の固体の含有量が10重量%よりも高い時は、塗布品質に影響を与えない。
【0060】
また、本実施形態の液晶配向剤を調製する温度は、0℃〜150℃であるのが好ましく、より好ましくは、20℃〜50℃である。
【0061】
本実施形態の液晶配向剤の有機溶媒には、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等が含まれ、且つ上述した溶媒は、2種以上を混合して使用してもよい。この他、上述した溶媒以外でも、ポリイミド−ポリアミック酸を溶解することのできる有機溶媒であれば、いずれも使用可能である。
【0062】
本実施形態の液晶配向剤は、また、例えば、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルメチルシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリトキシプロピルトリメトキシシラン、3-エポキシプロピルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-エポキシプロピルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-カルバミドプロピルトリメトキシシラン、3-カルバミドプロピルトリエトキシシラン、N-エトキシカルボニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-エトキシカルボニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-トリエトキシメチルシランプロピルトリエチレントリアミン、N-トリメトキシメチルシランプロピルトリエチレントリアミン、N-ビス(オキシエチレン)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビス(オキシエチレン)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン等の有機シロキサン化合物を含んでもよい。上述した有機シロキサン化合物が液晶配向剤中の含有量において液晶配向膜の要求する特性に影響を与えないという条件で、液晶配向膜の基板表面に対する密着性(adhesion)を改善することができる。液晶配向剤中の有機シロキサン化合物の含有量が多すぎると、形成される液晶配向膜は、容易に配向不良の現象を起こす。液晶配向剤中の有機シロキサン化合物の含有量が少なすぎると、形成される液晶配向膜は、摩擦不良(rubbing mura)や粉砕(particle)過多の現象を起こす。そのため、本実施形態の液晶配向剤が有機シロキサン化合物を含有する場合、有機シロキサン化合物の濃度は、液晶配向剤中のポリマーに対して、重量が0.01重量%〜5重量%であるのが好ましく、より好ましくは、0.1重量%〜3重量%である。
【0063】
さらに、本実施形態の液晶配向剤は、また、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、2,2-ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3,5,6-テトラグリシジル-2,4-ヘキサングリコール、N,N,N',N'-テトラグリシジル-m-フェニルキシレン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N',N'-テトラグリシジル-4,4-ジアミノジフェニルメチル、3-(N-アリル-N-グリシジル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(N,N-ジグリシジル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ化合物を含んでもよい。上述したエポキシ化合物が液晶配向剤中の含有量において液晶配向膜の要求する特性に影響を与えないという条件で、液晶配向膜の基板表面に対する密着性を改善することができる。液晶配向剤中のエポキシ化合物の含有量が多すぎると、形成される液晶配向膜は、容易に配向不良の現象を起こす。液晶配向剤中のエポキシ化合物の含有量が少なすぎると、形成される液晶配向膜は、摩擦不良や粉砕過多の現象を起こす。そのため、本実施形態の液晶配向剤がエポキシ化合物を含有する場合、エポキシ化合物の濃度は、液晶配向剤の総重量に対して、0.01重量%〜3重量%であるのが好ましく、より好ましくは、0.1重量%〜2重量%である。
【0064】
以下に、本実施形態の液晶配向剤を用いて製造した液晶表示パネルについて説明する。上記の液晶表示パネルは、以下のステップにより製造することができる。
【0065】
(1)本実施形態の液晶配向剤を、ローラーコーティング法、スピンコーティング法または印刷コーティング法で、ガラス基板の上に印加する。このガラス基板は、パターン化された透明導電膜を有する。液晶配向剤を塗布した後、加熱ベーキングを行って、液晶配向剤の中の有機溶媒を除去し、環化されなかったポリアミック酸を脱水/閉環反応するよう促進して、ポリイミド薄膜を形成する。上述した加熱ベーキングの温度は、80℃〜300℃の間であり、最も好ましくは、100℃〜240℃の間である。形成される薄膜の厚さは、0.005μm〜0.5μmであるのが最も好ましい。
【0066】
(2)形成された薄膜を、ナイロンまたは綿の織物を巻き込んだローラーで摩擦配向を行い、液晶分子に配向性を持たせる。
【0067】
(3)上述した液晶配向膜を有する基板の上に密封剤を塗布し、もう1つの上記液晶配向膜を有する基板の上に間隙物質を噴霧した後、2つの基板を互いの摩擦方向に垂直または平行に組み合わせ、且つ2つの基板の隙間に液晶を注入して注射孔を密封し、液晶表示パネルを形成する。
【0068】
液晶表示素子については、通常、以下の特性を評価指標として利用する:
【0069】
(1)プレチルト角
液晶を注入した液晶表示パネルを結晶回転法で測定する。
【0070】
(2)プレチルト角の変化度の測定
液晶ボックス内で9個の点を測定し、最大値と最小値の差異を変化度の評価とする。プレチルト角の変化度が小さければ小さいほど、安定性に優れていることを示す。
【0071】
(3)電圧保持率
90℃の環境温度で、3Vの直流電を液晶表示素子60Hz、パルス幅60μsecに印加して、液晶表示素子の電圧保持率を測定する。
【0072】
(4)残像現象の判定
まず、通電圧において、液晶表示素子の特定位置の透過度と電圧変化を測定する。そして、上記の液晶表示素子を直流電30Vで2時間充電した後、一定の時間放電する。その後、同じ位置で透過度と電圧変化量を測定する。透過度50%の電圧を基準として、基準電圧において透過度の前後の変化量を測定し、さらに、元の透過度で割って、百分率で表示する。透過度の前後の変化量が<5%である場合を優と判定し、>5%である場合を中と判定し、10%より大きい場合を劣と判定する。
【0073】
(4)環化率(イミド化率)
ポリマーまたは液晶配向剤を室温で減圧乾燥させてから、乾燥後の固体を重水素化したジメチルスルホキシドの中に溶かす。テトラメチルシランを参考物質として使用し、1H-NMRで測定して、数式(II)からイミド化率を得る。
【0074】
[数2]
イミド化率(%)=(1−A1/A2×α)×100 (II)
【0075】
1:NH基のプロトンに由来するピーク面積(10ppm)
2:その他のプロトンに由来するピーク面積
α:その他のプロトンがポリマー前駆体(ポリアミック酸)中のNH基の1つのプロトンに対する数量比
【0076】
(5)密着性
液晶配向剤をITO基板の上に塗布して、ITO基板を100℃で1時間水煮した後、3mの接着テープでクロスカット法(cross cut method)を行う。
【0077】
以下に、ポリマーA1〜A7、B1〜B6およびa1、b1〜b3の合成方法について説明する。
【0078】
ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を順番にN-メチル-2-ピロリドン中に添加し(比率は表4、表5に示した通り)、固体成分が25重量%の溶液を製造し、50℃〜60℃の温度で4時間〜5時間反応させて、ポリアミック酸を得た。ピリジンと酢酸無水物を添加して得たポリアミック酸中に(用量は必ずポリイミド化の比率をみて添加する)、100℃〜110℃で脱水/閉環反応を3〜4時間行った。得られた溶液にメタノールを使用して沈殿を行い、メタノールで純化を行った。最後に、収集して、減圧乾燥により、表4、表5に示した固有粘度(intrinsic viscosity)およびポリイミド化率を有するポリマーA1〜A7、B1〜B6およびa1、b1〜b3を得た。そのうち、a1およびb1〜b3は、式(3)および式(4)で表されるジアミン化合物を含まないものとする。
【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
[実施例と対照例の実験方法]
固定比率の固体ポリマー(A)と固体ポリマー(B)をγ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンの混合溶媒中に溶解して、固体成分が6重量%の溶液を製造し、直径1μmの濾過器で濾過した。収集された濾液が、本実施形態の液晶配向剤である。
【0082】
ローラー印刷機で本実施形態の液晶配向剤をガラス基板上に印加し、温度が200℃の加熱プレートで20分乾燥させて、厚さが0.08μmの薄膜を形成した。この薄膜をローラー回転速度1000(回転/分)、プレート移動速度60(mm/秒)、侵入度(penetration depth)0.4μmで配向摩擦を行った。
【0083】
基板上に密封剤を塗布し、もう1つの基板上に間隙物質を噴霧した。その後、2つの基板を互いの摩擦方向に垂直または平行に組み合わせ、且つ2つの基板の隙間に液晶(ZLI-4792)を注入して注射孔を密封し、液晶表示素子を形成した。
【0084】
得られた液晶表示素子に対し、プレチルト角、電圧保持率、残像特性および密着性の評価を行った。評価結果は、表6に示した通りである。
【0085】
【表6】

【0086】
以上のように、本実施形態は、液晶配向剤中に式(1)で表される側鎖ジアミンを有するポリイミド−ポリアミック酸および式(2)で表される側鎖ジアミンを有するポリアミック酸を含むことによって、この液晶配向剤により形成された液晶配向膜が安定したプレチルト角を有し、且つ液晶配向膜の密着性と摩擦性を向上させ、さらに、残像問題を改善することができるため、液晶表示素子の機能を増進させる目的を達成することができる。
【0087】
以上のごとく、この発明を実施形態により開示したが、もとより、この発明を限定するためのものではなく、当業者であれば容易に理解できるように、この発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲および、それと均一な領域を基準として定めなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される側鎖ジアミンを有するポリイミド−ポリアミック酸であるポリマー(A)と、
式(2)で表される側鎖ジアミンを有するポリアミック酸であるポリマー(B)と
を含み、前記ポリマー(A)と前記ポリマー(B)の重量比(A)/(B)が、5/95〜95/5である液晶配向剤であって、
【化1】

【化2】

式(1)および式(2)中、T1、T2およびT3が、それぞれ四価の有機基であり、n/(m+n)≦0.5であり、D1、D2およびD3が、二価有機基であり、D1またはD2中の少なくとも一部が、式(3)または式(4)で表されるジアミンモノマーから得られた二価有機基より選ばれ、D3中の少なくとも一部が、式(4)で表されるジアミンモノマーから得られた二価有機基であり、
【化3】

式(3)中、R1、R2、R3、R5およびR6が、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜5のアルキル基を示し、R4が、炭素数4〜20のアルキル基、CO222、CONR22または(CH2pCF3を示し、pが、1〜5の整数であり、R22が、炭素数4〜20のアルキル基を示し、
【化4】

式(4)中、R7〜R11のうちいずれか2つが、1級アミノ基であり、その他が、それぞれ独立して、水素原子または1級アミノ基以外の一価有機基であり、R7〜R11は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、X1およびX2が、単結合またはエーテル、ケトン、エステル、アミドおよび2級アミンから成る群より選ばれた二価結合基を示し、X1およびX2は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、X3およびX4が、炭素数1〜3の直鎖状アルキレン基を示し、X3およびX4は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、R12が、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜40の脂環式骨格を有する一価有機基、炭素数6〜51の芳香族骨格を有する一価有機基または複素環式骨格を有する一価有機基を示す液晶配向剤。
【請求項2】
前記D1及びD2中の、式(3)または式(4)で表されるジアミンモノマーから得られた二価有機基から選ばれなかった部分は、式(5)〜式(12)から成る群より選んだものであり、
前記D3中の、式(4)で表されるジアミンモノマーから得られた二価有機基から選ばれなかった部分は、式(5)〜式(12)から成る群より選んだものであり、
【化5】

そのうち、R13が、炭素数4〜40の脂環族一価有機基または炭素数8〜20の長鎖脂肪族一価有機基であり、R14が、ハロゲン原子または一価有機基であり、R15が、炭素数4〜40の脂環族二価有機基であり、R16が、二価脂環族、二価芳香族または炭素数1〜8の長鎖脂肪族二価有機基であり、XおよびYが、それぞれ、-O-、-NH-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-から成る群より選ばれた二価基であり、Zが、-CF3、-CN、COCH3、-COOH、-NO2、SOCH3、-SO2CH3、-OCF3、-Fおよび-Clから成る群より選ばれた一価有機基である請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記ポリマー(A)において、式(3)で表されるジアミンモノマーから得られた二価有機基の含有量が、前記ポリマー(A)が有する二価有機基D1およびD2の総量を0.1モル%〜50モル%とする請求項1または2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記ポリマー(B)において、式(3)で表されるジアミンモノマーから得られた二価有機基の含有量が、前記ポリマー(B)が有する二価有機基D3の総量を0.1モル%〜50モル%とする請求項1から3の何れか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記ポリマー(A)において、式(4)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基の含有量が、前記ポリマー(A)が有する二価有機基D1およびD2の総量を5モル%〜50モル%とする請求項1から4の何れか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記ポリマー(B)において、式(4)で表されるジアミン化合物から得られた二価有機基の含有量が、ポリマー(B)が有する二価有機基D3の総量を5モル%〜100モル%とする請求項1から5の何れか1項に記載の液晶配向剤。

【公開番号】特開2012−226293(P2012−226293A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155947(P2011−155947)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(508054404)達興材料股▲ふん▼有限公司 (8)
【Fターム(参考)】