説明

液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び液滴吐出ヘッドの製造方法

【課題】複雑な構造にすることなく、チップサイズの小型化及びノズル孔の多列化を容易に両立させることができる液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び液滴吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】液滴吐出ヘッド100は、振動板32と個別電極42とをガラス溝45に起因するエアギャップ41を介して対向させるとともに、キャビティ基板3の電極基板4との接合面の一部を貫通穴44を介して露出させ、キャビティ基板3の電極基板との接合面に、一端を個別電極42の表面に接続し、他端をガラス溝45の開放端部から貫通穴44形成部分にまで延設した個別電極リード36を形成し、貫通穴44を介してキャビティ基板3の露出面側から個別電極リード部36に駆動信号を印加可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクやその他の液体を吐出する液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び液滴吐出ヘッドの製造方法に関し、特にチップサイズの小型化及びノズル孔の多列化を容易に実現可能にした液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び液滴吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための装置として、たとえばインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドが知られている。一般に、このインクジェットヘッドは、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル孔に連通する吐出室や、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、吐出室に圧力を加えることによりインク滴を選択されたノズル孔より吐出するように構成されている。このようにインク滴を吐出させる方式としては、静電気力を利用する静電駆動方式や、圧電素子による圧電(PZT)方式、発熱素子を利用するバブルジェット(登録商標)方式等がある。
【0003】
このうち、静電駆動方式のインクジェットヘッドにおいては、吐出室の底部を振動板としたキャビティ基板と、この振動板に所定のギャップ(空隙)を介して対向する個別電極を形成した電極ガラス基板とを接合させた構成となっている。インク滴を吐出する際には、個別電極に駆動電圧を印加してプラスに帯電させ、対応する振動板に駆動電圧を印加してマイナスに帯電させる。そうすると、この時に生じる静電引力により振動板が個別電極側に弾性変形する。そして、この駆動電圧をオフにすると、振動板が復元する。このとき、吐出室の内部の圧力が急激に上昇し、吐出室内のインクの一部をインク滴としてノズル孔から吐出されることになる。
【0004】
このようなインクジェットヘッドでは、高解像度画像の高速印刷及び多色印刷(カラー化)を目的として、ノズル密度の高密度化及び多列化が進んでおり、それに伴って1列当たりのノズルの数及び吐出室の数が一段と増加している。それに加えて、インクジェットヘッドには、チップサイズの小型化(コンパクト化)も要求されている。そこで、ノズル密度の高密度化及び多列化を実現しつつ、チップサイズの小型化を図るようにした構造のインクジェットヘッドが種々提案されている。
【0005】
そのようなものとして、外部電源(駆動回路)から発信される駆動信号をFPC(Flexible Printed Circuit)を介して共通電極端子及び個別電極とに供給するようにしたインクジェット記録装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。このインクジェット記録装置では、外部電源の駆動信号を共通電極端子及び個別電極に供給するためのFPCとヘッドとを接続する面は、電極ガラス基板の個別電極が形成された面となっている。
【0006】
また、個別電極に駆動信号を供給するアクチュエータ制御用のドライバICをインクジェットヘッド内に埋め込むようにした構造のインクジェットヘッドが提案されている(たとえば、特許文献2参照)。このインクジェットヘッドは、ドライバICをインクジェットヘッド内に形成した収容部に設けることで、チップサイズの小型化を図るようにしている。また、このように構造のインクジェットヘッドにおいては、チップサイズの小型化に加え、ノズル等の多列化が可能となっている。
【0007】
さらに、個別電極を第1導電型の半導体基板からなる電極基板に形成して、基板サイズの小型化及び個別電極の高密度化を図るようにしたインクジェットヘッドが提案されている(たとえば、特許文献3参照)。このインクジェットヘッドでは、電極基板に形成した個別電極に外部から電位を与えるための電極取り出しパッドが電極基板の振動板側と反対の面に設けられ、個別電極と個別電極取り出しパッドとを電極基板中に形成された第2導電型の不純物拡散層で電気的に接続するようになっている。つまり、電極取り出しパッドによって、電極基板の裏面側に電極を取り出すことで、チップサイズの小型化を図るようにしている。
【0008】
【特許文献1】特開平8−1952号公報(第5頁及び第1−3図)
【特許文献2】特開2006−224564号公報(第8頁及び第2図)
【特許文献3】特開2000−177122号公報(第4頁及び第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のインクジェット記録装置は、外部電源の駆動信号を共通電極端子及び個別電極に供給するためのFPCとヘッドとを接続する面は、電極ガラス基板の個別電極が形成された面となっているため、ノズル等を多列化する場合には、ヘッドを複数列に積層させる等の工夫が必要となり、構造が複雑化してしまうという課題があった。また、構造が複雑化すると、ヘッドの製造に要する手間や、費用、工程数等が増加してしまうことにもなってしまう。
【0010】
特許文献2に記載のインクジェットヘッドは、ドライバICをインクジェットヘッド内に埋め込むようにしたものであり、ドライバICがキャビティ基板に形成する圧力室と平面的な位置関係に配置されることになる。そのため、ヘッドの更なる小型化を実現するためには、ドライバIC自体の小型化も必要になるという課題があった。つまり、インクジェットヘッドの構造を工夫するだけでは、チップサイズの小型化を実現できず、ドライバIC自体の構造も工夫することが必要になってくるのである。
【0011】
特許文献3に記載のインクジェットヘッドは、電極取り出しパッドを設けることによって、チップサイズの小型化を図るようにしたものであるが、第1導電型の半導体基板からなる電極基板に不純物拡散層を形成する工程が複雑であるという課題があった。また、特許文献3に記載の技術を、個別電極をガラス基板に形成するものにそのまま適用することができず、個別電極をガラス基板に形成するようなインクジェットヘッドの小型化を実現するためには、更なる工夫が必要になる。
【0012】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、複雑な構造にすることなく、チップサイズの小型化及びノズル孔の多列化を容易に両立させることができる液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、底壁が振動板となる圧力室が形成される第1の基板と、振動板を駆動する個別電極、個別電極を内部に具備する凹部、及び、凹部の一端を開放する貫通穴が形成された第2の基板と、を少なくとも備え、振動板と個別電極とを凹部に起因するギャップを介して対向させるとともに、第1の基板の第2の基板との対向面の一部を貫通穴を介して露出させ、一端を個別電極の表面に接続し、他端を凹部の開放端部から貫通穴形成部分にまで延設した個別電極リード部を第1の基板の第2の基板との対向面に形成し、第1の基板の露出面側から個別電極リード部を介して個別電極に対する駆動信号を印加可能にしたことを特徴とする。
【0014】
したがって、個別電極に駆動信号を印加する駆動回路を、第2の基板に形成した貫通穴を介して第1の基板の裏面側(第1の基板の第2の基板との接合面側)であってヘッドの外部に実装することができ、チップサイズの小型化を実現することができる。また、駆動回路をヘッドの外部に実装するので、チップサイズを小型化しても、ノズル孔の多列化が損なわれることがない。つまり、複雑な構造にすることなく、チップサイズの小型化及びノズル孔の多列化を容易に両立させることができる。さらに、第1の基板と第2の基板とを接合するだけで、個別電極と個別電極リード部とを接続でき、製造工程の簡素化を図ることもできる。
【0015】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、第1の基板の露出面に第1の基板に対する駆動信号を印加するための共通電極端子を形成したことを特徴とする。したがって、個別電極リード部だけでなく、共通電極端子も第1の基板の裏面側に形成することができ、個別電極リード部と共通電極端子とを同一面に形成しないものに比べてチップサイズを更に小型化することができる。また、共通電極端子も第1の基板の裏面側に形成するので、製造工程を複雑にすることがなく、製造に要する手間、コスト及び工程数を低減することができる。
【0016】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、貫通穴に、個別電極リード部及び共通電極端子に対する駆動信号を印加する駆動回路を実装したことを特徴とする。したがって、ヘッド内に駆動回路を実装しなくて済み、駆動回路の大きさに無関係で、チップサイズの小型を実現できる。つまり、どのような大きさの駆動回路を実装することになったとしても、その駆動回路の大きさを考慮することなく液滴吐出ヘッドを作製することができるので、チップサイズの小型化を効果的に実現できる。また、実装する駆動回路の選択の幅(たとえば駆動回路の大きさ等)を広くすることもできる。
【0017】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、個別電極の厚みと個別電極リード部の厚みとの和を、第2の基板の凹部の深さよりも厚くしたことを特徴とする。したがって、第1の基板と第2の基板とを接合させた状態において、個別電極と個別電極リード部とを確実に接続させることができることになり、接合不良を防止することができる。また、個別電極と個別電極リード部との接合工程を別個に設けなくて済み、製造に要する工程数を軽減することが可能になる。
【0018】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、第2の基板の凹部に複数個の個別電極を配置し、凹部を、凹部内において隣接する個別電極の両脇に、第1の基板が接合可能なスペースを有するように形成したことを特徴とする。したがって、第1の基板と第2の基板とを接合させた状態において、個別電極と個別電極リード部とを確実に接続させることができることになり、接合不良を防止することができる。また、個別電極の厚みと個別電極リード部の厚みとの和を、第2の基板の凹部の深さよりも厚くしたものと組み合わせれば、接続不良を更に防止できる。さらに、第2の基板に形成する凹部の個数を減少させることができ、製造に要する手間を低減することが可能となる。
【0019】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、個別電極及び個別電極リード部の接続表面を金属材料で構成したことを特徴とする。したがって、金属材料の特性を利用することができるので、個別電極及び個別電極リード部の接続部での共晶や拡散が促進され、接続信頼性が向上する。
【0020】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする。したがって、上述の液滴吐出ヘッドの効果をすべて有している。
【0021】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、個別電極及び個別電極を作製するための凹部を形成したガラス基板に凹部の一端を開放する貫通穴を形成し、ガラス基板に、一端を個別電極の表面に接続し、他端を凹部の開放端部から貫通穴形成部分にまで延設した個別電極リードが一方の面に設けられたシリコン基板を陽極接合して、振動板と個別電極との間に凹部に起因するギャップを形成するとともに、個別電極と個別電極リード部とを接続させ、貫通穴部分に延設された個別電極リード部の他端に、個別電極に対する駆動信号を印加する駆動回路を接続させたことを特徴とする。
【0022】
したがって、複雑な製造工程を経ることなく、個別電極に駆動信号を印加する駆動回路を第2の基板に形成した貫通穴を介して第1の基板の裏面側からヘッドの外部に実装することができ、チップサイズの小型化を実現することができる。また、陽極接合したときに、個別電極と個別電極リード部との接続を確保でき、製造工程数を軽減することができる。
【0023】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、シリコン基板のガラス基板との接合面に絶縁膜を形成し、貫通穴に対応する位置における絶縁膜の一部を除去し、その部分にシリコン基板に対する駆動信号を印加するための共通電極端子を形成したことを特徴とする。したがって、共通電極端子も第1の基板の裏面側に形成するので、製造工程を複雑にすることがなく、製造に要する手間、コスト及び工程数を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド100を分解した状態を示す分解斜視図である。図2は、液滴吐出ヘッド100が組み立てられた状態の縦断面図であり、図1におけるA−A断面を示している。図1及び図2に基づいて、液滴吐出ヘッド100の構成及び動作について説明する。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。また、図の上側を上とし、下側を下として説明する。ここで、ノズル孔11が並んでいる方向を長手方向とし、液体の流路が形成されている方向を短手方向として説明する。
【0025】
この液滴吐出ヘッド100は、静電駆動方式の静電アクチュエータの代表として、ノズル基板1の表面側に設けられたノズル孔11からインク等の液体を液滴として吐出するフェイスイジェクトタイプの液滴吐出ヘッドを表している。図1に示すように、この液滴吐出ヘッド100は、複数のノズル孔11が所定のピッチで形成されているノズル基板1と、各ノズル孔11から吐出する液滴を貯留するリザーバ(共通液体室)21が設けられたリザーバ基板2と、リザーバ21に連通し、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路(供給口22及び圧力室(キャビティ)31)が設けられたキャビティ基板3と、キャビティ基板3の圧力室31の底壁を形成する振動板32に対向して個別電極42が配設された電極基板4とが順に積層されて構成されている。
【0026】
つまり、液滴吐出ヘッド100は、リザーバ基板2の一方の面にはノズル基板1が、リザーバ基板2の他方の面にはキャビティ基板3が接合されており、キャビティ基板3のリザーバ基板2が接合された面の反対面には、電極基板4が接合されて構成されている。なお、この実施の形態1では、液滴吐出ヘッド100が4層構造となっている場合を一例として説明するが、これに限定するものではない。たとえば、キャビティ基板3や電極基板4にリザーバ21を形成して、リザーバ基板2を省略した3層構造にしてもよい。なお、ノズル基板1を上面、電極基板4を下面としている場合を図示しているが、実際に用いられる場合には、ノズル基板1の方が電極基板4よりも下面となることが多い。
【0027】
[ノズル基板1]
ノズル基板1は、たとえば厚さ50μm(マイクロメートル)のシリコン単結晶基板(以下、単にシリコン基板という)を主要な材料として構成されている。ノズル基板1には、所定のピッチでノズル孔11が複数形成されている。各ノズル孔11は、リザーバ基板2に形成された各ノズル連通穴24から移送されたインク等の液体を液滴5として外部に吐出する機能を有している。なお、ノズル孔11を複数段(たとえば、図2に示すような2段)で形成したり、テーパ形状で形成したりすると、液滴5を吐出する際の直進性の向上が期待できる。
【0028】
[リザーバ基板2]
リザーバ基板2は、たとえば厚さ180μmのシリコン基板を主要な材料として構成されている。このリザーバ基板2には、リザーバ基板2に垂直に貫通し、各ノズル孔11に独立して連通するノズル連通穴24が複数形成されている。このノズル連通穴24は、ノズル孔11の径よりも少し大きい径で形成するとよい。また、リザーバ基板2には、各圧力室31に液体を供給するためのリザーバ21が形成されている。
【0029】
また、リザーバ基板2の底面(キャビティ基板3との接合面)には、リザーバ21から圧力室31へ液体を移送するための供給口22が各圧力室31の位置に合わせて形成されている。すなわち、リザーバ21は、各供給口22を介して各圧力室31、各ノズル連通穴24及び各ノズル孔11と連通するようになっている。この供給口22は、圧力室31の個数と同数形成されている。また、各リザーバ21の底部には、キャビティ基板3に形成するインク取入孔33aと連通するインク取入孔33cが形成されている。
【0030】
[キャビティ基板3]
キャビティ基板3(第1の基板)は、たとえば厚さ約50μmのシリコン基板を主要な材料として構成されている。このシリコン基板にドライエッチングまたは異方性ウエットエッチングのいずれかあるいは双方を行い、底壁が可撓性を有する振動板32となる圧力室(液体圧力室や吐出室、キャビティ等とも称される)31が複数形成されている。この圧力室31は、個別電極42の電極列に対応して形成されており、液体が保持されて吐出圧が加えられるようになっている。また、圧力室31は、紙面手前側から奥側にかけて平行に並んで形成されているものとする。
【0031】
この振動板32は、高濃度のボロンドープ層で形成するようにしてもよい。KOH等のアルカリ溶液による単結晶シリコンのエッチングにおけるエッチングレートは、ドーパントがボロンの場合、約5×1019atoms/cm3 以上の高濃度の領域において、非常に小さくなる。このため、振動板32の部分を高濃度のボロンドープ層とし、アルカリ溶液による異方性エッチングによって圧力室31を形成する際に、ボロンドープ層が露出してエッチングレートが極端に小さくなる、いわゆるエッチングストップ技術を用いることにより、振動板32を所望の厚さに形成することができる。
【0032】
各圧力室31は、リザーバ基板2のノズル連通穴24それぞれに独立して連通するように形成されている。また、キャビティ基板3には、キャビティ基板3を垂直に貫通し、リザーバ基板2のリザーバ21(インク取入孔33c)と連通するインク取入孔33aが形成されている。さらに、キャビティ基板3の下面(電極基板4と対向する面)には、振動板32と個別電極42との間を電気的に絶縁するためのTEOS膜(ここでは、Tetraethyl orthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン(珪酸エチル)を用いてできるSiO2 膜をいう)である絶縁膜35をプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:TEOS−pCVDともいう)法を用いて、0.1μm形成するとよい。
【0033】
このような絶縁膜35を形成することで、振動板32の駆動時における絶縁破壊及びショートを防止できるとともに、液体によるキャビティ基板3のエッチングを防止できる。なお、絶縁膜35をTEOS膜に限定するものではなく、絶縁性能が向上する物質、たとえばAl23(酸化アルミニウム(アルミナ))等を用いてもよい。また、キャビティ基板3の上面には、図示省略の液体保護膜となるSiO2 膜(TEOS膜を含む)を、プラズマCVD法又はスパッタリング法により成膜するとよい。この液体保護膜を成膜することで、インク滴で流路が腐食されるのを防止できる。また、この液体保護膜の応力と絶縁膜35の応力とを相殺させ、振動板32の反りを小さくできるという効果もある。
【0034】
また、キャビティ基板3の下面(裏面)には、キャビティ基板3を構成するシリコン基板に電荷を供給するための共通電極端子27が、絶縁膜35を貫通するように形成されている。この共通電極端子27は、電力供給手段であるドライバIC50等の駆動制御回路からキャビティ基板3に電荷を供給する際の端子となるものである。つまり、キャビティ基板3には、共通電極端子27を介してドライバIC50から個別電極42に供給される電荷と反対の極性の電荷が振動板32に供給されるようになっているのである。なお、後に詳述するが、図2では、2つの共通電極端子27が、キャビティ基板3の長手方向における中心線を軸として対称位置に形成されている場合を例に示している。
【0035】
さらに、キャビティ基板3の下面には、電極基板4に形成する個別電極42の端子部と接続させるための個別電極リード部36が絶縁膜35上に形成されている。つまり、個別電極リード部36は、共通電極端子27とは別個に形成されており、ドライバIC50から個別電極42に電荷を供給する際の端子となるものである。なお、後に詳述するが、個別電極リード部36は、個別電極42の長手方向延長線上であって、キャビティ基板3の長手方向における中心線を軸として対称位置に形成されている場合を例に示している。つまり、個別電極リード部36は、貫通穴44に対応する位置における個別電極42の長手方向延長線上であって、個別電極42の個数に応じて形成されている。
【0036】
すなわち、個別電極リード部36及び共通電極端子27は、キャビティ基板3の下面であって電極基板4に形成される貫通穴44に対応した位置に形成するようになっている。したがって、ドライバIC50及びFPC51も含めた駆動制御回路(個別電極用信号及び共通電極用信号を供給する回路)をキャビティ基板3の裏面側よりフェイスダウン実装することができ、キャビティ基板3の裏面側から駆動制御回路から発信される各信号を各端子に印加することができる。
【0037】
[電極基板4]
電極基板4(第2の基板)は、たとえば、厚さ1[mm]のガラス材を主要な材料として形成するとよい。中でも、キャビティ基板3を構成するシリコン材と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスで形成するのが好ましい。この硼珪酸系の耐熱硬質ガラスで電極基板4を形成すれば、電極基板4とキャビティ基板3とを陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板4とキャビティ基板3との間に生じる応力を低減することができ、その結果、剥離等の問題を生じることなく、電極基板4とキャビティ基板3とを強固に接合することができる。
【0038】
図1に示すように、電極基板4の短手方向中間部には、電極基板4を上下に貫通する貫通穴44が形成されている。この貫通穴44は、ドライバIC50及びFPC51を含めた駆動制御回路の実装用穴として機能する。つまり、電極基板4とキャビティ基板3とが陽極接合された状態において、キャビティ基板3の短手方向中央部における下面側が貫通穴44を介して露出するようになっているのである。なお、図1では、1つの貫通穴44を電極基板4に形成している場合を例に示しているが、これに限定するものではない。たとえば、各圧力室31に応じた貫通穴を電極基板4に形成するようにしてもよい。また、所定個数の圧力室31を1組とするような貫通穴を電極基板4に形成するようにしてもよい。
【0039】
また、電極基板4の上面(キャビティ基板3との接合面)には、キャビティ基板3の各圧力室31の形状に応じたガラス溝(凹部)45が形成されている。このガラス溝45は、たとえばエッチングにより深さ0.3μm程度で形成するとよい。また、ガラス溝45は、貫通穴44に連通するように形成されている。つまり、電極基板4とキャビティ基板3とが陽極接合された状態において、ガラス溝45の一端(短手方向中央部側の一端)は、貫通穴44により開放されるようになっている。
【0040】
このガラス溝45の内部(特に底部)には、固定電極となる個別電極42が、一定の間隔を有してキャビティ基板3の各圧力室31の底面を形成する振動板32と対向するように作製されている。つまり、ガラス溝45は、その一部に個別電極42を装着できるように、これらの形状に類似したやや大きめの形状にパターン形成されている。個別電極42は、たとえばITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)を0.1μmの厚さでスパッタして作製することができる。このようにITOで個別電極42を作製すると、透明なので放電したかどうかの確認が行いやすいという利点がある。なお、個別電極42をITOで作製した場合を例に示したが、これに限定するものではない。
【0041】
また、個別電極42は、端子部(短手方向中央部側の一端)がガラス溝45から貫通穴44側に突出しないように作製されている。そして、個別電極42の端子部上面には、キャビティ基板3の下面に形成した個別電極リード部36が接続されるようになっている。個別電極リード部36には、FPC51(詳しくはFPC51と一体に設けられているリード部52)を介してドライバIC50が接続されており、この個別電極リード部36を介してドライバIC50から個別電極42に駆動信号(パルス電圧)が供給されるようになっている。
【0042】
以上のように構成された電極基板4とキャビティ基板3とを陽極接合により接合して積層体を形成すると、振動板32と個別電極42との間には、振動板32を撓ませる(変位させる)ことができる一定のエアギャップ(空隙)41が、電極基板4のガラス溝45により形成されるようになっている。ここでは、エアギャップ41が0.2μmとなっている。このエアギャップ41は、ガラス溝45の深さ、個別電極42及び振動板32の厚さにより決まることになる。このエアギャップ41は、液滴吐出ヘッド100の吐出特性に大きく影響するため、厳格な精度管理が要求される。
【0043】
また、このエアギャップ41の開放端部に、たとえばエポキシ接着剤等からなる封止部43を形成し、エアギャップ41内に異物や湿気等が侵入するのを防止するとよい。なお、封止部43に使用する材料を特に限定するものではなく、エアギャップ41を気密に封止できるものであればよい。たとえば、水分透過性の低い酸化シリコン(SiO2 )や、酸化アルミニウム(Al23)、酸窒化シリコン(SiON)、窒化シリコン(SiN)、ポリパラキシリレン等で封止部43を形成するとよい。
【0044】
なお、電極基板4には、図示省略の外部のインクタンクから供給される液体を取り入れ、この液体をリザーバ基板2に形成されているリザーバ21に供給する流路となるインク取入孔33b(キャビティ基板3に形成されているインク取入孔33a及びリザーバ基板2に形成されているインク取入孔33cと連通する)が電極基板4を貫通するように形成されている。つまり、キャビティ基板3のインク取入孔33a、電極基板4のインク取入孔33b及びリザーバ基板2のインク取入孔33cが連通することでインク取入孔33を構成し、リザーバ21に液体を供給可能になっているのである。
【0045】
そして、キャビティ基板3の電極基板4の接合面とは反対側の面にリザーバ基板2を接着剤を用いて直接接合し、リザーバ基板2のキャビティ基板3の接合面とは反対側の面にノズル基板1を接着剤を用いて直接接合することによって、液滴吐出ヘッド100が作製される。また、図2に示すように、個別電極42及び共通電極端子27にパルス電圧を供給するドライバIC50は、電極基板4の裏面側、すなわち電極基板4の貫通穴44からFPC51を介して液滴吐出ヘッド100とは別個独立にフェイスダウン実装することができる。したがって、液滴吐出ヘッド100は、ドライバIC50の設置スペースを確保しなくて済み、その分小型化を実現できる。
【0046】
なお、ここで示したガラス溝45の深さやエアギャップ41の長さ、個別電極42の厚さは一例であり、ここで示す値に限定するものではない。また、液滴吐出ヘッド100の短手方向の中心線を軸として左右対称位置に静電アクチュエータが形成されている場合を例に示しているが、これに限定するものではなく、たとえば静電アクチュエータを一方側のみに形成するようにしてもよい。さらに、個別電極42及び個別電極リード部36の接続表面は、ドライバIC50から個別電極42に電荷を導通できる金属材料で構成されていればよく、たとえば金や銅等を用いて構成するとよい。
【0047】
ここで、液滴吐出ヘッド100の動作について説明する。リザーバ基板2のリザーバ21には、インク取入孔33を介して外部から液体が供給されている。また、圧力室31には、供給口22を介してリザーバ21から液体が供給されている。圧力室31内の液体は、ノズル連通穴24を介してノズル孔11の先端まで満たされている。そして、各個別電極42と共通電極端子27との間にFPC51を介して接続されているドライバIC50によって選択された個別電極42には0[V]〜40[V]程度のパルス電圧が印加され、その個別電極42を正に帯電させる。
【0048】
このとき、対応するキャビティ基板3の振動板32には共通電極端子27を介して負の極性を有する駆動信号が印加され、正に帯電された個別電極42に対応する振動板32を相対的に負に帯電させる。そのため、選択された個別電極42と振動板32との間では静電気力(クーロン力)が発生することになる。そうすると、振動板32は、静電気力によって個別電極42側に引き寄せられて撓み、個別電極42に当接することになる。これによって圧力室31の容積が増大し、リザーバ21の内部に溜まっていた液体が圧力室31に流れ込む。
【0049】
その後、個別電極42への電荷の供給を止めると、振動板32と個別電極42との間の静電気力がなくなり、振動板32はその弾性力により元の状態に復元する。このとき、圧力室31の容積が急激に減少するため、圧力室31内部の圧力が急激に上昇する。これにより、圧力室31内の液体の一部が液滴5としてノズル孔11より吐出されることになる。この液滴5が、たとえば記録紙等のワークに着弾することによって印刷等が行われるようになっている。その後、液体がリザーバ21から供給口22を通じて圧力室31内に補給され、初期状態に戻る。このような方法は、引き打ちと呼ばれるものであるが、バネ等を用いて液滴を吐出する押し打ちと呼ばれる方法もある。
【0050】
図3は、個別電極42及び個別電極リード部36の接続部分の一例を説明するための説明図である。この図3では、図2におけるB−B断面の一部を拡大して示している。図3に基づいて、液滴吐出ヘッド100の特徴部分、つまり個別電極42及び個別電極リード部36の接続部分の一例について説明する。図3に示すように、キャビティ基板3の裏面に形成する個別電極リード部36の短手方向の幅は、電極基板4のガラス溝45の短手方向の幅よりも狭く、つまり個別電極42の短手方向の幅と同程度になっている。なお、個別電極42及び個別電極リード部36が積層された状態において、ガラス溝45の貫通穴44に開放される端部に封止部43を設け、エアギャップ41を封止するようになっている。
【0051】
そして、個別電極42と個別電極リード部36とが積層された状態において、個別電極42の厚みと個別電極リード部36の厚みとの和を、電極基板4のガラス溝45の深さよりも厚くしている。それは、個別電極42と個別電極リード部36とを確実に接続するためである。このように個別電極42の厚みと個別電極リード部36の厚みとの和が、電極基板4のガラス溝45の深さよりも厚くなったとしても、キャビティ基板3と電極基板4との陽極接合時に発生する静電吸引力(図3に示す矢印)により、キャビティ基板3と電極基板4(ガラス溝45の間のガラス隔壁を含む)とを接合することができる。
【0052】
したがって、個別電極42と個別電極リード部36との接続は、キャビティ基板3と電極基板4とを接合させる陽極接合で確保することができ、これらを接続するための工程が不要となり、製造に要する工程数及びコストを低減することができる。また、上述したように、個別電極42及び個別電極リード部36の接続表面は、金属材料で構成されているので、個別電極42及び個別電極リード部36の接続部での共晶や拡散が促進され、接続信頼性が向上する。
【0053】
図4は、個別電極42及び個別電極リード部36の接続部分の別の一例を説明するための説明図である。この図4では、図2におけるB−B断面の一部を拡大して示している。図4に基づいて、液滴吐出ヘッド100の特徴部分、つまり個別電極42及び個別電極リード部36の接続部分の別の一例について説明する。図4に示すように、電極基板4に形成するガラス溝45aには、2つの個別電極42が作製されている。そして、各個別電極42に、短手方向の幅を同程度とした個別電極リード部36が積層されている。
【0054】
また、ガラス溝45aは、その内部に作製されている隣接する個別電極42の両脇(隣接する個別電極42の間ではなく、隣接する個別電極42のそれぞれの外側)に、キャビティ基板3が接合可能な所定の大きさのスペース部分を含めて形成されている。このようにガラス溝45a内に複数の個別電極42を作製したとしても、キャビティ基板3と電極基板4との陽極接合時に発生する静電吸引力(図4に示す矢印)により、キャビティ基板3の一部がガラス溝45a内部に接合することなり、キャビティ基板3と電極基板4とを接合することができる。
【0055】
したがって、個別電極42と個別電極リード部36との接続は、キャビティ基板3と電極基板4とを接続させる陽極接合で確保することができ、これらを接続するための工程が不要となり、製造に要する工程数及びコストを低減することができる。また、個別電極42のそれぞれにガラス溝45aを形成しなくて済むために、製造に要する手間を更に軽減できる。また、図3で説明したものと同様に、個別電極42及び個別電極リード部36の接続部での共晶や拡散が促進され、接続信頼性が向上する。なお、ガラス溝45aに2つの個別電極42を作製した場合を例に説明したが、個別電極42の作製個数を限定するものではない。
【0056】
次に、液滴吐出ヘッド100の製造工程について説明する。
図5及び図6は、液滴吐出ヘッド100の製造工程の一例を示す縦断面図である。図5及び図6に基づいて、液滴吐出ヘッド100の製造工程についてその特徴事項を中心に説明する。なお、以下に示す基板の厚さやエッチング深さ、温度、圧力等の値はあくまでも一例であり、本発明はこれらの値によって限定されるものではない。なお、実際には、シリコンウエハから複数個分の液滴吐出ヘッドの部材を同時形成するのが一般的であるが、図5及び図6ではその一部分だけを簡略化して示している。
【0057】
まず、たとえば厚さが約1mmの両面鏡面のホウ珪酸系の耐熱硬質ガラスからなるガラス基板4’を用意し、上面に個別電極42を作製するためのガラス溝45をフッ化アンモニウム水溶液等を用いたエッチングで形成する。そして、ガラス基板4’の上面にITO膜を0.1μm程度形成し、ガラス溝45内部のみにITO膜が残るようにパターニングを施し、個別電極42を形成する(図5(a))。それから、ガラス基板4’にブラスト加工を施し、インク取入孔33b及び貫通穴44を形成する(図5(b))。このようにして電極基板4が作製される。
【0058】
次に、たとえば厚さが220μmである(110)を面方位とする酸素濃度の低いシリコン基板3’を用意し、下面に振動板32の厚みと同程度の高濃度ボロンドープ層(図示せず)を形成する。このボロンドープ層の表面には絶縁膜35を0.1μm程度形成する。それから、共通電極端子27を形成するために、絶縁膜35の所定の位置(たとえば、図2で示したようにキャビティ基板3となるシリコン基板3’の長手方向における中心線を軸として対称となる2つの位置)を除去する。そして、その部分にシリコン基板3’と接続するように共通電極端子27を形成する。
【0059】
また、絶縁膜35の所定の位置(たとえば、図2で示したように貫通穴44に対応した位置における個別電極42の長手方向延長線上にある位置)に個別電極リード部36を形成する(図5(c))。この個別電極リード部36は、たとえばスパッタリング法により、金属材料を成膜することで形成するとよい。このシリコン基板3’と電極基板4とを360℃に加熱した後、電極基板4に負極、シリコン基板3’に正極を接続して、800Vの電圧を印加して陽極接合する(図5(d))。この陽極接合過程において、個別電極42と個別電極リード部36との接続を確保することができるようになっている(図3及び図4参照)。
【0060】
陽極接合後、電極基板4に保護基板65を貼り付け、シリコン基板3’の厚みが約60μmになるまで研削加工を行ない、シリコン基板3’を薄板化する(図6(e))。保護基板65を貼り付けることで、電極基板4に形成した貫通穴44を介してエアギャップ41内に異物や湿気等が浸入するのを防止することができる。次に、シリコン基板3’の上面にパターニングを施し、たとえば水酸化カリウム水溶液等を用いてボロンドープ層までエッチングし、圧力室31及びインク取入孔33aを形成する(図6(f))。このようにすれば、ボロンドープ層で極端にエッチングレートが小さくなることを利用した、いわゆるエッチングストップ技術を用いて、振動板32の厚さ、圧力室31の容積を高精度で形成する。このようにしてキャビティ基板3が作製される。
【0061】
そして、保護基板65を取り外し、エアギャップ41を封止する(図6(g))。この工程は、電極基板4の貫通穴44を利用して、エアギャップ41の開放端部に封止部43を形成することで行なう。その後、キャビティ基板3の上面に、リザーバ21、供給口22、ノズル連通穴24及びインク取入孔33cが形成されたリザーバ基板2をエポキシ樹脂等の接着剤を用いて接合する。そして、このリザーバ基板2の上面に、ノズル孔11が形成されたノズル基板1をエポキシ樹脂等の接着剤を用いて接合する(図6(h))。最後に、電極基板4の貫通穴44にFPC51をフェイスダウン実装し、個別電極リード部36及び共通電極端子27にリード部52を接続させて、液滴吐出ヘッド100が完成する。
【0062】
したがって、ドライバIC50を液滴吐出ヘッド100の外部に実装することができるので、液滴吐出ヘッド100の小型化を実現できる。また、陽極接合工程で、個別電極42と個別電極リード部36との接続を確保できるので、接続させる工程を省略でき、製造工程を複雑にすることなく、製造に要する手間、コスト及び工程数を軽減できる。さらに、個別電極42及び個別電極リード部36の接続表面を金属材料で構成するので、個別電極42及び個別電極リード部36の接続部での共晶や拡散が促進され、接続信頼性が向上する。
【0063】
実施の形態2.
図7は、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド100を搭載した液滴吐出装置150の一例を示した斜視図である。また、図8は、液滴吐出装置150の主要な構成手段の一例を表す図である。図7及び図8に基づいて、実施の形態2に係る液滴吐出装置150について説明する。この液滴吐出装置150は、液滴吐出方式(インクジェット方式)による印刷を目的とする、いわゆる一般的なシリアル型のインクジェットプリンタである。搭載される液滴吐出ヘッド100は、上述したように小型化及び低コスト化を実現したものであるので、液滴吐出装置150も小型化及び低コスト化に優れたものとなる。
【0064】
液滴吐出装置150は、被印刷物であるプリント紙210が支持されるドラム201と、プリント紙210にインクを吐出し、記録を行う液滴吐出ヘッド100とで主に構成される。また、液滴吐出ヘッド100にインクを供給するための図示省略のインク供給手段がある。プリント紙210は、ドラム201の軸方向に平行に設けられた紙圧着ローラ203により、ドラム201に圧着して保持されるようになっている。このドラム201の軸方向に平行に設けられている送りネジ204によって液滴吐出ヘッド100が保持されるようになっている。
【0065】
そして、この送りネジ204が回転することによって液滴吐出ヘッド100がドラム201の軸方向に移動する。一方、ドラム201は、ベルト205等を介してモータ206により回転駆動されるようになっている。また、プリント制御手段207は、印画データ及び制御信号に基づいて送りネジ204及びモータ206を駆動させるようになっている。さらに、プリント制御手段207は、図示省略の発振駆動回路を駆動させて振動板32を制御しながらプリント紙210に印刷を行わせるようになっている。
【0066】
ここでは、液体をインクとしてプリント紙210に吐出するようにしている場合を例に説明したが、これに限定するものではなく、インク以外の液体を吐出する工業用途での液体吐出装置にも応用が可能である。たとえば、カラーフィルタとなる基板に吐出させる用途においては、カラーフィルタ用の顔料を含む液体であってもよい。また、有機化合物等の電界発光素子を用いた表示パネル(OLED等)の基板に吐出させる用途においては、発光素子となる化合物を含む液体であってもよい。さらに、基板上に配線する用途においては、導電性金属を含む液体であってもよい。
【0067】
一方、液滴吐出ヘッド100をディスペンサとし、生体分子のマイクロアレイとなる基板に吐出する用途に用いる場合では、DNA(Deoxyribo Nucleic Acids:デオキシリボ核酸)や、RNA(Ribo Nucleic Acid:リボ核酸)、PNA(Peptide Nucleic Acids:ペプチド核酸)等のタンパク質プローブを含む液体を吐出させるようにしてもよい。その他、布等の染料の吐出等にも利用することができる。また、液滴受容物としては、プリント紙210等の記録用紙の他、フィルムや織布、不織物等の他のメディア、ガラス基板、シリコン基板等の各種基板のようなワークであってもよい。
【0068】
本発明の実施の形態に係る液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び液滴吐出ヘッドの製造方法は、上述の実施の形態で説明した内容に限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において変更することができる。液滴吐出ヘッド100構成基板の積層数を3層や4層に限定するものではない。また、液滴吐出ヘッド100の製造工程においても、上述した製造工程に限定するものではない。さらに、個別電極42及び個別電極リード部36の接続表面を構成する金属材料を特に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解した状態を示す分解斜視図である。
【図2】液滴吐出ヘッドが組み立てられた状態の縦断面図である。
【図3】個別電極及び個別電極リード部の接続部分の一例を説明するための説明図である。
【図4】個別電極及び個別電極リード部の接続部分の別の一例を説明するための説明図である。
【図5】液滴吐出ヘッドの製造工程の一例を示す縦断面図である。
【図6】液滴吐出ヘッドの製造工程の一例を示す縦断面図である。
【図7】液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置の一例を示した斜視図である。
【図8】液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 ノズル基板、2 リザーバ基板、3 キャビティ基板、3’ シリコン基板、4 電極基板、4’ ガラス基板、5 液滴、11 ノズル孔、21 リザーバ、22 供給口、24 ノズル連通穴、27 共通電極端子、31 圧力室、32 振動板、33 インク取入孔、33a インク取入孔、33b インク取入孔、33c インク取入孔、35 絶縁膜、36 個別電極リード部、41 エアギャップ、42 個別電極、43 封止部、44 貫通穴、45 ガラス溝、45a ガラス溝、50 ドライバIC、51 FPC、52 リード部、65 保護基板、100 液滴吐出ヘッド、150 液滴吐出装置、201 ドラム、203 紙圧着ローラ、204 ネジ、205 ベルト、206 モータ、207 プリント制御手段、210 プリント紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁が振動板となる圧力室が形成される第1の基板と、
前記振動板を駆動する個別電極、前記個別電極を内部に具備する凹部、及び、前記凹部の一端を開放する貫通穴が形成された第2の基板と、を少なくとも備え、
前記振動板と前記個別電極とを前記凹部に起因するギャップを介して対向させるとともに、前記第1の基板の前記第2の基板との対向面の一部を前記貫通穴を介して露出させ、
一端を前記個別電極の表面に接続し、他端を前記凹部の開放端部から前記貫通穴形成部分にまで延設した個別電極リード部を前記第1の基板の前記第2の基板との対向面に形成し、
前記第1の基板の露出面側から前記個別電極リード部を介して前記個別電極に対する駆動信号を印加可能にした
ことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1の基板の露出面に前記第1の基板に対する駆動信号を印加するための共通電極端子を形成した
ことを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記貫通穴に、前記個別電極リード部及び前記共通電極端子に対する駆動信号を印加する駆動回路を実装した
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記個別電極の厚みと前記個別電極リード部の厚みとの和を、前記第2の基板の前記凹部の深さよりも厚くした
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第2の基板の前記凹部に複数個の前記個別電極を配置し、
前記凹部を、
前記凹部内において隣接する前記個別電極の両脇に、前記第1の基板が接合可能なスペースを有するように形成した
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記個別電極及び前記個別電極リード部の接続表面を金属材料で構成した
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドを搭載した
ことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項8】
個別電極及び前記個別電極を作製するための凹部を形成したガラス基板に前記凹部の一端を開放する貫通穴を形成し、
前記ガラス基板に、一端を前記個別電極の表面に接続し、他端を前記凹部の開放端部から前記貫通穴形成部分にまで延設した個別電極リード部が一方の面に設けられたシリコン基板を陽極接合して、前記振動板と前記個別電極との間に前記凹部に起因するギャップを形成するとともに、前記個別電極と前記個別電極リード部とを接続させ、
前記貫通穴部分に延設された前記個別電極リード部の他端に、前記個別電極に対する駆動信号を印加する駆動回路を接続させた
ことを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記シリコン基板の前記ガラス基板との接合面に絶縁膜を形成し、
前記貫通穴に対応する位置における前記絶縁膜の一部を除去し、その部分に前記シリコン基板に対する駆動信号を印加するための共通電極端子を形成してから、前記シリコン基板と前記ガラス基板とを陽極接合させる
ことを特徴とする請求項8に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−285984(P2009−285984A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140794(P2008−140794)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】