説明

液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置並びに液滴吐出ヘッドの製造方法

【課題】電極基板とキャビティ基板の接合不良や吐出能力の低下を防止でき、材料コスト及び製造コストの増加を抑え、小型化が可能な液滴吐出ヘッドを得る。
【解決手段】電極基板10の個別電極12が形成された面に形成され、吐出室21に液体を供給するリザーバとなるリザーバ凹部16と、電極基板10の個別電極12が形成された面の反対面に形成され、静電アクチュエータを制御するドライバIC40を実装する実装用凹部13と、実装用凹部13の底部において電極基板10を貫通し、ドライバIC40と個別電極12とを接続する埋め込み配線26と、キャビティ基板に形成され、リザーバ凹部16と吐出室21を連通させる貫通穴24と、キャビティ基板20の個別電極12と埋め込み配線14との接続部と対向する位置に形成され、この接続部とキャビティ基板20との接触を防止する接触防止用凹部26とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴吐出ヘッド、及びその液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置、並びにその液滴吐出ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドが知られている。インクジェットヘッドは、一般に、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する吐出室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、駆動部により吐出室に圧力を加えることによりインク滴を選択されたノズル孔より吐出するように構成されている。駆動手段としては、静電気力を利用する方式や、圧電素子による圧電方式、発熱素子を利用するバブルジェット(登録商標)方式等がある。
【0003】
近年、インクジェットヘッドに対して、印字、画質等の高品位化の要求が一段と強まっている。そのため、サイズが小さく、ノズルや吐出室等を高密度化、多列化することが可能で、また吐出性能及び耐久性に優れたインクジェットヘッドが望まれている。
【0004】
このような要望を実現するために、例えば、ノズルが形成されたノズル基板と、ノズルに連通する吐出室及び振動板が形成されたキャビティ基板と、振動板とギャップを有して対向配置され、振動板と共に静電アクチュエータを構成する個別電極が形成された電極基板2とからなる3層構造の液滴吐出ヘッドにおいて、電極基板の個別電極が形成された面と反対側の面の一部に他の部分より凹んだ凹部を形成し、個別電極の電極端子を凹部の底部に引き出して、ドライバICを凹部の内部に配置することにより小型化を図ったものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、例えば、電極基板にドライバICを配置することにより小型化を図った液滴吐出ヘッドにおいて、ノズル基板とキャビティ基板との間にリザーバ基板を設け、リザーバ体積を確保した4層構造のものが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2006−088611号公報
【特許文献2】特開2006−272574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の液滴吐出ヘッドの場合、個別電極を凹部へ引き出すための引き出し電極は、個別電極が形成された側の面から引き出し電極用の穴を設け、この穴に金属(Cu)を電解メッキにより埋め込むことで形成する。このため、引き出し電極の個別電極側端部は盛り上がって形成されることとなる。したがって、引き出し電極と個別電極側端部との接触部も盛り上がり、この接触部が逃げ空間となっている振動板と個別電極の間のギャップ量よりも大きくなった場合、接触部とキャビティ基板が接触し、キャビティ基板と電極基板の接合不良を引き起こすという課題があった。
【0008】
ノズルや吐出室等を高密度化する場合、高密度化に応じて吐出室を構成する隔壁の厚みが薄くなるために隔壁の剛性が低下し、その結果、隣りの静電アクチュエータの影響を受けて非駆動のノズルからもインク滴が漏れ出るという、いわゆるクロストークが発生しやすくなってしまう。このクロストークを防止するためには、キャビティ基板を薄くする必要がある。しかしながら、キャビティ基板を薄くするとリザーバ体積までも小さくなるので、液体の流路抵抗が高くなり、吐出能力が低下するという課題があった。
【0009】
一方、特許文献2に記載の液滴吐出ヘッドの場合、リザーバ基板を設けることでリザーバ体積を確保し、液体の流路抵抗の増加を抑制し、吐出能力の低下を防止している。しかしながら、従来の3層構造の液滴吐出ヘッドにリザーバ基板を追加している分、材料コスト及び製造コストが高くなるという課題があった。
【0010】
本発明は上述のような課題を解消するためになされたものであり、電極基板とキャビティ基板の接合不良や吐出能力の低下を防止でき、材料コスト及び製造コストの増加を抑え、小型化が可能な液滴吐出ヘッド、及びその液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置、並びにその液滴吐出ヘッドの製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出するノズルが形成されたノズル基板と、ノズルと連通し、底壁が振動板となる吐出室が形成されたキャビティ基板と、振動板に隙間を有して対向し、振動板と共に静電アクチュエータを構成する個別電極が形成された電極基板とを備えた液滴吐出ヘッドであって、ノズル基板、キャビティ基板、電極基板はこの順に積層配置され、電極基板の個別電極が形成された面に形成され、吐出室に液体を供給するリザーバとなるリザーバ凹部と、電極基板の個別電極が形成された面の反対面に形成され、静電アクチュエータを制御するドライバICを実装する実装用凹部と、実装用凹部の底部において電極基板を貫通し、ドライバICと個別電極とを接続する埋め込み配線と、キャビティ基板に形成され、リザーバ凹部と吐出室を連通させる貫通穴と、キャビティ基板の個別電極と埋め込み配線との接続部と対向する位置に形成され、この接続部とキャビティ基板との接触を防止する接触防止用凹部とを備えるものである。
【0012】
本発明によれば、静電アクチュエータを制御するドライバICを実装用凹部に実装するので、液滴吐出ヘッドを小型化することができる。
電極基板にリザーバとなるリザーバ凹部を形成したので、リザーバ体積を確保し、液体の流路抵抗の増加を抑制し、吐出能力の低下を防止することができる。また、従来のリザーバ基板を追加する必要がないので、材料コスト及び製造コストの増加を抑えることができる。
キャビティ基板には、個別電極と埋め込み配線との接続部と対向する位置に、この接続部とキャビティ基板との接触を防止する接触防止用凹部を形成したので、この接続部とキャビティ基板が接触せず、キャビティ基板と電極基板の接合不良を防止することができる。
【0013】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したものである。
本発明によれば、上記の液滴吐出ヘッドを搭載しているので、吐出性能がよく、例えば、画像印刷等の用途の場合、高画質化を図ることができる。
【0014】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、液滴を吐出するノズルが形成されたノズル基板と、ノズルと連通し、底壁が振動板となる吐出室が形成されたキャビティ基板と、振動板に隙間を有して対向し、振動板と共に静電アクチュエータを構成する個別電極が形成された電極基板とを備えた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、電極基板となる第1の基材のキャビティ基板と対向する面に金属膜を形成する工程と、第1の基材のキャビティ基板と対向する面の反対面に、静電アクチュエータを制御するドライバICを実装する実装用凹部を形成する工程と、実装用凹部の底部から、金属膜をエッチングストップ層として、エッチングにより第1の基材に貫通孔を形成する工程と、金属膜をシード層として、貫通孔に金属を埋め込み、ドライバICと静電アクチュエータの個別電極とを接続する埋め込み配線を形成する工程と、実装用凹部にドライバICを収容して、ドライバICと埋め込み配線とを接続する工程とを有するものである。
【0015】
本発明によれば、基材のキャビティ基板と対向する面の反対面から、金属膜をシード層として埋め込み配線を形成しているので、埋め込み配線のキャビティ基板側端部の盛り上がりを防止することができる。したがって、キャビティ基板と電極基板の接合不良を防止するのに効果的である。また、エッチング前の面に金属膜を形成しているので、金属膜の形成不良による埋め込み配線の形成不良を防止することができる。また、金属膜をエッチング工程におけるエッチングストップ層としても共用しているので、シード層の形成工程又はエッチングストップ層の形成工程を省略することができる。
【0016】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記製造方法に加え、キャビティ基板となる第2の基材の電極基板と対向する面の、埋め込み配線と個別電極との接続部と対向する位置に、接続部と第2の基材との接触を防止する接触防止用凹部を形成する工程を有するものである。
本発明によれば、キャビティ基板と電極基板の接合不良をより防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解して表した図である。図1では液滴吐出ヘッドの一部を示している。本実施の形態1では、フェイスイジェクト型の液滴吐出ヘッドについて説明する。液滴吐出ヘッドは、例えば液滴を吐出して画像を形成する等の目的のために、複数の静電アクチュエータが集約されたデバイスである。なお、構成部材を図示し、見やすくするため、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものと異なる場合がある。また、図の上側を上とし、下側を下として説明する。ここで、ノズル31が並んでいる方向を液滴吐出ヘッドの長手方向とし、各ノズルへの液体の流路が形成されている方向を液滴吐出ヘッドの短手方向とする。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドは、電極基板10、キャビティ基板20及びノズル基板30の3つの基板が下から順に積層されて構成される。例えば電極基板10とキャビティ基板20とは陽極接合により接合している。また、例えばキャビティ基板20とノズル基板30とはエポキシ樹脂等の接着剤を用いて接合している。
【0019】
図1において、キャビティ基板は例えば厚さ約50μmの(110)面方位のシリコン単結晶基板(以下、シリコン基板という)を主要な材料としている。このキャビティ基板20には、吐出させる液体を一時的にためる吐出室21となる凹部(底壁が可動電極となる振動板22となっている)が形成されている。また、吐出室21となる凹部と後述のリザーバとなるリザーバ凹部16を連通させる貫通穴24が形成されている。これら吐出室21となる凹部及び貫通穴24は異方性ウェットエッチングによって形成される。
【0020】
さらに、キャビティ基板20の下面(電極基板10と対向する面)には、TEOS膜(ここでは、Tetraethyl orthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエチルオルソシリケート(珪酸エチル)を原料ガスとして用いてできるSiO2 膜をいう)による絶縁膜23を0.1μm(100nm)プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成している。これは、振動板22を後述の電極部12と電気的に絶縁して、液滴吐出ヘッドを駆動させた時の絶縁膜破壊及び短絡を防止するためである。ここでは絶縁膜23をTEOS膜で形成しているが、例えばAl23(酸化アルミニウム(アルミナ))等を用いてもよい。また、外部の電力供給手段(図示せず)からキャビティ基板20(振動板22)に電荷を供給する際の端子となる共通電極端子27を備えている。
【0021】
電極基板10は、厚さ約1mmの例えばホウ珪酸系の耐熱硬質ガラス基板を主要な材料としている。本実施形態ではガラス基板とするが、例えば単結晶シリコンを基板とすることもできる。この電極基板10の上面には、例えば深さ約0.2μmの凹部11が複数形成されている。この凹部11の内部に個別電極12aを設けるので、凹部11のパターン形状は個別電極12aよりも少し大きめに形成する。
【0022】
各凹部11の内側(特に底部)に、キャビティ基板20の振動板22と対向するように、固定電極部となる矩形状の個別電極12aが設けられている。この個別電極12aには、端子部12bが一体となって形成されている。この端子部12bは、凹部11を乗り上げるようにして電極基板10の上面に設けられている。(以下、特に区別する必要がない限り、これらを合わせて電極部12として説明する)。
【0023】
電極基板10の下面には、長手方向沿ってドライバIC実装用の実装用凹部13が設けられており、この実装用凹部13にはドライバIC40が実装されている。ドライバIC40と端子部12bは、実装用凹部13から端子部12bの下方にかけて貫通して設けられた埋め込み配線14によって接続されている。この埋め込み配線14がドライバIC40の出力側配線となる。また、実装用凹部13にはドライバICの入力側配線15も設けられており、FPC50と実装される。
【0024】
さらに、電極基板10の上面には、キャビティ基板20の貫通穴24と対応する位置に、リザーバとなるリザーバ凹部16が、例えば深さ約300μmで形成されている。また、リザーバ凹部16には、外部のタンク(図示せず)から供給された液体を取り入れる流路となる液体供給口17が設けられている。
【0025】
本実施の形態1では、電極部12は、例えばスパッタリング等により、酸化錫を不純物としてドープした、可視光領域で透明のITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)を約0.1μmの厚さで凹部11の内側に成膜することで形成される。したがって、振動板22と個別電極12aとの間で形成されるギャップは、凹部11の深さ、個別電極12a及び振動板22(TEOS膜)の厚さにより決まることになる。このギャップは吐出特性に大きく影響する。ここで、電極部12の材料はITOに限定するものではなく、クロム等の金属等を材料に用いてもよいが、本実施の形態では、ギャップ内の観察がしやすい、透明であるので放電したかどうかの確認が行い易い等の理由でITOを用いることとする。
【0026】
ノズル基板30は、例えば厚さ約180μmのシリコン基板であり、下面でキャビティ基板20と接着している。ノズル基板には、吐出室21と連通するノズル31が形成される。各ノズル31は、振動板22の変位により加圧された液体を液滴として外部に吐出する。本実施の形態1では、吐出した液滴の直進性向上を図るため、ノズル31の孔を複数段で形成する。ここではノズル31を有するノズル基板30を上面とし、電極基板10を下面として説明するが、実際に用いられる場合には、ノズル基板30の方が電極基板10よりも下面になることが多い。
【0027】
図2は実施の形態1における液滴吐出ヘッドの断面図である。図2では液滴吐出ヘッドを短手方向から見ている。吐出室21はノズル31から吐出させる液体をためておく。吐出室21の底壁である振動板22を撓ませることにより、吐出室21内の圧力を高め、ノズル31から液滴を吐出させる。ノズル基板30には、振動板22が撓むことでリザーバ16方向に加わる圧力を緩衝するダイヤフラム32が設けられている。また、吐出室21とリザーバ16とを連通させるための溝となる連通溝33が設けられている。
【0028】
本実施の形態1では、振動板22は、高濃度のボロンドープ層で形成されている。所望の厚さの振動板22を形成するために、同じだけの厚さのボロンドープ層を形成する。アルカリ性水溶液でシリコンの異方性ウェットエッチングを行った場合、ボロンをドーパントとしたときには高濃度(約5×1019atoms・cm-3以上)の領域で極端にエッチングレートが小さくなることを利用した、いわゆるエッチングストップ技術を用いて、振動板22の厚さ、吐出室21の容積を高精度で形成する。
【0029】
振動板22と電極部12とで形成されるギャップは、貫通孔28から封止材25によって封止され、水分等が混入しないように施されている。これにより、振動板22が電極部12に貼りつくことを防ぐことができる。
【0030】
ドライバIC40は、個別電極12aへの電荷の供給及び停止を制御する。例えば24kHzで発振し、個別電極12aに0Vと30Vのパルス電位を印加して電荷供給を行う。個別電極12aに電荷を供給して正に帯電させると、振動板22は負に帯電し、静電気力により個別電極12aに引き寄せられて撓む。これにより吐出室21の容積は広がる。そして個別電極12aへの電荷供給を止めると振動板22は元に戻るが、そのときの吐出室21の容積も元に戻るから、その圧力により差分の液滴が吐出し、例えば記録対象となる記録紙に着弾することによって記録が行われる。なお、このような方法は引き打ちと呼ばれるものであるが、バネ等を用いて液滴を吐出する押し打ちと呼ばれる方法もある。
【0031】
上述のように、端子部12bは、凹部11を乗り上げるようにして電極基板10の上面に設けられている。つまり、電極基板10の上面よりも突出しているので、この端子部12bがキャビティ基板20と接触し、電極基板10とキャビティ基板20の接合不良が発生しないように、キャビティ基板20の下面には配線逃げ用の接触防止用凹部26が形成されている。
【0032】
次に、液滴吐出ヘッドの製造方法について図3〜図8を参照して説明する。ここでは、電極基板10にシリコン基板200を接合した後にキャビティプレート20を製造する方法を示す。実際にはシリコンウェハ等から複数個分の液滴吐出ヘッドの部材を同時形成するが、図3〜図8ではその一部分だけを示している。
【0033】
最初に、図3〜図6を用いて、電極基板10の製造方法を説明する。
厚さ約1mmの両面鏡面のホウ珪酸系の耐熱硬質ガラス100を用意し、上面及び下面に、スパッタリング法を用いて厚さ約80μmのCr膜101を形成する。その後、Cr膜101上に、スパッタリング法を用いて厚さ約80μmのAu膜102を形成する(図3(a))。次に、硬質ガラス100の上面及び下面に形成されたAu膜102の表面にレジスト103を塗布し、下面側にドライバIC実装用の実装用凹部13を作りこむためのレジストパターニングを施す(図3(b))。その後、このレジストパターニング部のAu膜102及びCr膜101をエッチングする(図3(c))。このとき用いるエッチング液は、Au膜102に対してはヨウ素とヨウ化カリウム混合水溶液で、Cr膜101に対しては硝酸セリウムアンモニウム水溶液である。そして、レジストパターニング部の耐熱硬質ガラス100を、フッ化アンモニウム水溶液を用いて350μmエッチングし、ドライバIC実装用の実装用凹部13を形成する(図3(d))。
なお、本実施の形態1では、Cr膜101及びAu膜102を形成しているが、どちらか一方の膜を形成するだけでもよいし、フッ化アンモニウム水溶液に耐性を有する他の金属膜を用いてもよい。
【0034】
硬質ガラス100の上面に塗布されたレジスト103に、個別電極12a用の凹部11を作りこむためのレジストパターニングを施す(図3(e))。そして、このレジストパターニング部のAu膜102及びCr膜101をエッチングする(図4(f))。このとき用いるエッチング液は、Au膜102に対してはヨウ素とヨウ化カリウム混合水溶液で、Cr膜101に対しては硝酸セリウムアンモニウム水溶液である。そして、レジストパターニング部の耐熱硬質ガラス100を、フッ化アンモニウム水溶液を用いて0.2μmエッチングし、個別電極12a用の凹部11を形成する(図4(g))。このとき、ドライバIC実装用の実装用凹部13も0.2μmエッチングされる。
【0035】
耐熱硬質ガラス100の上面及び下面に残ったレジスト103を剥離する(図4(h))。次に、耐熱硬質ガラス100の上面及び下面にレジスト104を塗布し、実装用凹部13の底部に埋め込み配線14を作りこむためのレジストパターニングを施す(図4(i))。そして、耐熱硬質ガラス100に、埋め込み配線14用の貫通穴107をドライエッチングする(図4(j))。このとき、耐熱硬質ガラス100の上面に形成されたCr膜101がエッチングストップ層となる。エッチング条件は、エッチングガスがSF6 、チャンバー圧力0.2Pa、RFパワー150W、プラテン温度20℃である。
【0036】
次に、電鋳法により、埋め込み配線14用の貫通穴へNiを埋め込んで、埋め込み配線14を形成する(図5(k))。本実施の形態1では、耐熱硬質ガラス100の上面に形成されたCr膜101をシード層として、耐熱硬質ガラス100の下面側から埋め込み配線14を形成している。つまり、このCr膜101を、エッチングストップ層及びシード層として共用している。埋め込み配線14は耐熱硬質ガラス100の下面側から形成されることとなるので、耐熱硬質ガラス100の上面に盛り上がることがない。また、シード層となるCr膜101はエッチングのされていない鏡面上の表面に形成されているので、Cr膜101の形成不良による埋め込み配線14の形成不良(メッキ不良)を防止することができる。
なお、埋め込み配線14はNiに限られるものではなく、AlやW等の導電性に優れた他の金属も利用できる。
【0037】
次に、耐熱硬質ガラス100の表面に形成されているCr膜101、Au膜102、及びレジスト104を剥離し(図5(l))、耐熱硬質ガラス100の上面にITO膜105を0.1μm形成する(図5(m))。そして、耐熱硬質ガラス100の上面及び下面にレジスト106を塗布し、上面には、電極部12にのみITO膜105が残るようにレジストパターニングを施す(図5(n))。その後、硝酸と塩酸の混合液を用いてITO膜105をエッチングし、電極部12を形成する(図5(o))。
【0038】
耐熱硬質ガラス100の上面及び下面のレジスト106を剥離する(図6(p))。次に、サンドブラスト法により耐熱硬質ガラス100の上面を約300μm削り、リザーバとなるリザーバ凹部16を形成する。そして、液体供給口17をサンドブラスト法または切削加工によって掘り、リザーバ凹部16と連通させる。その後、Siマスク等を用いたスパッタリング法により、実装用凹部13の底部に入力側配線15となる金属膜(例:Cr/AuやTi/Ptなど)を形成し(図6(q))、電極基板10が完成する。
【0039】
続いて、図7及び図8を用いて、液滴吐出ヘッドの製造方法について説明する。
まず、被加工基板として、例えば厚さが220μmである(110)を面方位とする酸素濃度の低いシリコン基板200を作製する。シリコン基板200は、片面(図7及び図8における下面)が鏡面研磨されている。このシリコン基板200の下面にレジスト201を塗布し、配線逃げ用の接触防止用凹部26を作りこむ為のレジストパターニングを施す(図7(a))。 そして、このレジストパターニング部のシリコン基板200をドライエッチングし、配線逃げ用の接触防止用凹部26を形成する(図7(b))。エッチング条件は、エッチングガスがSF6 、チャンバー圧力0.2Pa、RFパワー150W、プラテン温度20℃である。
【0040】
次に、シリコン基板200の下面に形成されているレジスト201を剥離する。そして、シリコン基板200の下面に振動板22の厚みと同等の厚みの高濃度ボロンドープ層(図示せず)を形成する。また、ボロンドープ層の表面にはTEOS絶縁膜23を0.1μm形成する(図7(c))。
【0041】
このシリコン基板200と電極基板10を360℃に加熱した後、電極基板10に負極、シリコン基板200に正極を接続して、800Vの電圧を印加して陽極接合する(図7(d))。
このとき、シリコン基板200の下面(接合面)側に接触防止用凹部26を形成している為、端子部12bがキャビティ基板20を押し上げることがなく、シリコン基板200と電極基板10の接合不良が発生しない。
【0042】
陽極接合後、シリコン基板200の厚みが約60μmになるまで、シリコン基板200の上面に研削加工を行う。その後、加工変質層を除去する為に、CMP(Chemical Mechanical Polish)加工を施し、シリコン基板200の上面を約10μm研磨する。これによりシリコン基板200の厚みは約50μmとなる(図7(e))。
【0043】
次に、シリコン基板200の上面にTEOS膜を約1μm形成し、シリコン基板200の上面に、吐出室21及び貫通孔28となる凹部を作りこむためのパターニングをTEOS膜に施す(図示せず)。そして、水酸化カリウム水溶液を用いてボロンドープ層までエッチングし、吐出室21及び貫通孔28となる凹部202を形成する。その後、シリコン基板200の上面に形成されたTEOS膜を剥離する(図8(f))。このエッチング工程では、ボロンドープ層で極端にエッチングレートが小さくなることを利用した、いわゆるエッチングストップ技術を用いて、振動板22の厚さ、吐出室21の容積を高精度で形成する。これにより、振動板22の面荒れを抑制し、厚み精度を0.80±0.05μm以下にすることができ、液滴吐出ヘッドの吐出性能を安定化することができる。
【0044】
次に、貫通孔28となる凹部に対応する位置が開口したシリコンマスク(図示せず)をシリコン基板200の上面に取り付け、RIEドライエッチングを行って、貫通孔28となる凹部のみにプラズマを当てる。そして、貫通孔28となる凹部の底部に残ったボロンドープ層を除去して貫通孔28を形成し(図8(g))、キャビティ基板20が完成する。その後、貫通孔28から封止材25を流し込み、振動板22と電極部12とで形成されるギャップを封止する。これによって、ギャップは密閉状態になる(図8(h))。
【0045】
次に、電極基板10の実装用凹部13にドライバIC40を実装し、埋め込み配線14及び入力側配線15と接続する(図8(j))。そして、キャビティ基板20の上面にノズル基板30をエポキシ系接着剤により接着する。その後、ダイシングを行い、液滴吐出ヘッドが完成する。
【0046】
このような液滴吐出ヘッドにおいては、ドライバIC40を電極基板10の実装用凹部13に実装するので、液滴吐出ヘッドを小型化することができる。
電極基板10にリザーバとなるリザーバ凹部16を形成したので、リザーバ体積を確保し、液体の流路抵抗の増加を抑制し、吐出能力の低下を防止することができる。また、従来のリザーバ基板を追加する必要がないので、材料コスト及び製造コストの増加を抑えることができる。
キャビティ基板20には、端子部12bと埋め込み配線14との接続部と対向する位置に、この接続部とキャビティ基板20との接触を防止する接触防止用凹部26を形成したので、この接続部とキャビティ基板20が接触せず、キャビティ基板20と電極基板10の接合不良を防止することができる。
【0047】
実施の形態2.
図9は上述の実施の形態で製造した液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置(プリンタ400)の外観図である。また、図10は液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。図9及び図10の液滴吐出装置は液滴吐出方式(インクジェット方式)による印刷を目的とする。また、いわゆるシリアル型の装置である。図10において、被印刷物であるプリント紙410が支持されるドラム401と、プリント紙410にインクを吐出し、記録を行う液滴吐出ヘッド402とで主に構成される。また、図示していないが、液滴吐出ヘッド402にインクを供給するためのインク供給手段がある。プリント紙410は、ドラム401の軸方向に平行に設けられた紙圧着ローラ403により、ドラム401に圧着して保持される。そして、送りネジ404がドラム401の軸方向に平行に設けられ、液滴吐出ヘッド402が保持されている。送りネジ404が回転することによって液滴吐出ヘッド402がドラム401の軸方向に移動するようになっている。
【0048】
一方、ドラム401は、ベルト405等を介してモータ406により回転駆動される。また、駆動制御回路40は、印刷用データ及び制御信号に基づいて送りネジ404、モータ406を駆動させる。また、ここでは図示していないが、実施の形態1で説明したようにドライバIC40から各電極部12に対する電荷供給を制御して電圧を印加し、各振動板22を振動させ、吐出量を変化させながらプリント紙410に印刷を行わせる。
【0049】
ここでは液体をインクとしてプリント紙410に吐出するようにしているが、液滴吐出ヘッドから吐出する液体はインクに限定されない。例えば、カラーフィルタとなる基板に吐出させる用途においては、カラーフィルタ用の顔料を含む液体、有機化合物等の電界発光素子を用いた表示パネル(OLED等)の基板に吐出させる用途においては、発光素子となる化合物を含む液体、基板上に配線する用途においては、例えば導電性金属を含む液体を、それぞれの装置において設けられた液滴吐出ヘッドから吐出させるようにしてもよい。また、液滴吐出ヘッドをディスペンサとし、生体分子のマイクロアレイとなる基板に吐出する用途に用いる場合では、DNA(Deoxyribo Nucleic Acids :デオキシリボ核酸)、他の核酸(例えば、Ribo Nucleic Acid:リボ核酸、Peptide Nucleic Acids:ペプチド核酸等)タンパク質等のプローブを含む液体を吐出させるようにしてもよい。その他、布等の染料の吐出等にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解して表した図である。
【図2】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの断面図である。
【図3】実施の形態1に係る電極基板の製造方法を示す製造工程の断面図である。
【図4】図3に続く製造工程を示す断面図である。
【図5】図4に続く製造工程を示す断面図である。
【図6】図5に続く製造工程を示す断面図である。
【図7】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの製造方法を示す製造工程の断面図である。
【図8】図7に続く製造工程を示す断面図である。
【図9】液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置の外観図である。
【図10】液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。
【符号の説明】
【0051】
10 電極基板、11 凹部、12 電極部、12a 個別電極、12b 端子部、13 実装用凹部、14 埋め込み配線、15 入力側配線、16 リザーバ凹部、17 液体供給口、20 キャビティ基板、21 吐出室、22 振動板、23 絶縁膜、24 貫通穴、25 封止材、26 接触防止用凹部、27 共通電極端子、28 貫通孔、30 ノズル基板、31 ノズル、32 ダイヤフラム、33 連通溝、40 ドライバIC、50 FPC、100 耐熱硬質ガラス、101 Cr膜、102 Au膜、103 レジスト、104 レジスト、105 ITO膜、106 レジスト、107 貫通穴、200 シリコン基板、201 レジスト、202 凹部、400 プリンタ、401 ドラム、402 液滴吐出ヘッド、403 紙圧着ローラ、404 送りネジ、405 ベルト、406 モータ、407 プリント制御手段、410 プリント紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズルが形成されたノズル基板と、
前記ノズルと連通し、底壁が振動板となる吐出室が形成されたキャビティ基板と、
前記振動板に隙間を有して対向し、前記振動板と共に静電アクチュエータを構成する個別電極が形成された電極基板とを備えた液滴吐出ヘッドであって、
前記ノズル基板、前記キャビティ基板、前記電極基板はこの順に積層配置され、
前記電極基板の前記個別電極が形成された面に形成され、前記吐出室に液体を供給するリザーバとなるリザーバ凹部と、
前記電極基板の前記個別電極が形成された面の反対面に形成され、前記静電アクチュエータを制御するドライバICを実装する実装用凹部と、
前記実装用凹部の底部において前記電極基板を貫通し、前記ドライバICと前記個別電極とを接続する埋め込み配線と、
前記キャビティ基板に形成され、前記リザーバ凹部と前記吐出室を連通させる貫通穴と、
前記キャビティ基板の前記個別電極と前記埋め込み配線との接続部と対向する位置に形成され、該接続部と前記キャビティ基板との接触を防止する接触防止用凹部と、
を備えることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項3】
液滴を吐出するノズルが形成されたノズル基板と、
前記ノズルと連通し、底壁が振動板となる吐出室が形成されたキャビティ基板と、
前記振動板に隙間を有して対向し、前記振動板と共に静電アクチュエータを構成する個別電極が形成された電極基板とを備えた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記電極基板となる第1の基材の前記キャビティ基板と対向する面に金属膜を形成する工程と、
前記第1の基材の前記キャビティ基板と対向する面の反対面に、前記静電アクチュエータを制御するドライバICを実装する実装用凹部を形成する工程と、
前記実装用凹部の底部から、前記金属膜をエッチングストップ層として、エッチングにより前記第1の基材に貫通孔を形成する工程と、
前記金属膜をシード層として、前記貫通孔に金属を埋め込み、前記ドライバICと前記静電アクチュエータの個別電極とを接続する埋め込み配線を形成する工程と、
前記実装用凹部に前記ドライバICを収容して、該ドライバICと前記埋め込み配線とを接続する工程と、
を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記キャビティ基板となる第2の基材の前記電極基板と対向する面の、前記埋め込み配線と前記個別電極との接続部と対向する位置に、該接続部と前記第2の基材との接触を防止する接触防止用凹部を形成する工程を有することを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−190242(P2009−190242A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32786(P2008−32786)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】