説明

液滴吐出ヘッド及び画像形成装置

【課題】下部電極にバイアス電圧を印加しても加圧液室内の導電性の液体に電圧は印加されず液体の吐出性能を維持できる。
【解決手段】加圧液室12内を昇圧する振動板30は、シリコン基板の表面にシリコン酸化膜、ポリシリコン、シリコン酸化膜、pドープしたポリシリコン、シリコン酸化膜の順に成膜することで形成されている。振動板30におけるpドープしたポリシリコンは接地(GND)されている。液滴吐出ヘッドにおける下部電極51と加圧液室12との間に、pドープしたポリシリコンに相当し接地されている導電層31を設けている。このため、下部電極51にバイアス電圧を印加して駆動する方法を用いた場合下部電極51と導電層31との間に電界が生じ、下部電極と加圧液室との間には電界は生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、プリンタ、ファックス、複写機、プロッタ、或いはこれらの内の複数の機能を複合した画像形成装置としては、例えばインクの液滴を吐出する液体吐出ヘッドを備え、媒体を搬送しながらインク滴を用紙に付着させて画像形成を行うインクジェット記録装置がある。ここでの媒体は「用紙」ともいうが材質を限定するものではなく、被記録媒体、記録媒体、転写材、記録紙なども同義で使用する。また、画像形成装置は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液体を吐出して画像形成を行う装置を意味する。そして、画像形成とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与する(単に液滴を吐出する)ことをも意味する。また、インクとは、所謂インクに限るものではなく、吐出されるときに液体となるものであれば特に限定されるものではなく、例えばDNA試料、レジスト、パターン材料なども含まれる液体の総称として用いる。
【0003】
画像形成装置の一例であるインクジェット記録装置におけるインクジェットヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する加圧液室と、この加圧液室内を昇圧するエネルギーを発生するアクチュエータ手段とを備えている。そして、アクチュエータ手段を駆動することで加圧液室内を昇圧してノズルからインク滴を吐出させるものであり、記録の必要なときにのみインク滴を吐出するインク・オン・デマンド方式のものが主流である。インク滴を吐出させるためのアクチュエータ手段の種類により、ピエゾ方式、バブル方式、静電方式などの方式に大別される。
【0004】
現在、この中でピエゾ方式を採用したインクジェット記録装置が主流となっている。このピエゾ方式のアクチュエータ手段において、圧電素子の軸方向に直交する厚み方向に振動するたわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものが実用化されている。このたわみ振動モードの圧電アクチュエータによるインクジェット記録装置は、加圧液室の一部の内壁に形成される振動板に対して圧電素子がたわみ振動することで、振動板を介して加圧液室の内圧を変化させる。これにより、加圧液室内のインク滴がノズル孔から吐出するものである。
【0005】
このたわみ振動モードの圧電アクチュエータを用いたインクジェット記録ヘッドとして、特許文献1に記載されたものが知られている。この特許文献1のインクジェット記録ヘッドでは、ノズル孔を有するノズル板に積層される液室基板でノズル孔に連通する加圧液室が形成され、この加圧液室の一部の内壁に振動板が設けられている。つまり、ノズル板によって形成された加圧液室の一部の内壁に振動板、下部電極、圧電素子、上部電極と積層されている。そして、この振動板に設けられて振動板に変位を付与する圧電アクチュエータ部の圧電素子には、上部電極と下部電極の2つの電極が設けられ、吐出信号である駆動信号が上部電極に供給される。そして、負極のバイアス電圧が下部電極に印加される。これにより、高い電圧領域での駆動波形での圧電素子の変位量より大きな変位量が得られる低い電圧領域での駆動波形となり、吐出特性を良化できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インクジェット記録ヘッドでは、通常、ノズル板の表面に塵や紙粉が静電力で付着しないように接地(アース)されている。上記特許文献2のインクジェット記録ヘッドのように、下部電極にバイアス電圧を印加した場合、ノズル板と下部電極との間に電界が生じる。このため、ノズル板と下部電極の間に介在する加圧液室内のインクに静電気力が加わることになる。これにより、インクの種類が例えば導電性インクである場合では加圧液室内でインクが凝集し、凝集したインクがノズル孔を塞ぎインクの吐出特性が悪化してしまうという問題点があった。
【0007】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、下部電極にバイアス電圧を印加しても加圧液室内の導電性の液体に電圧は印加されず液体の吐出特性を良化できる液滴吐出ヘッド及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、導電性の液体を吐出するノズル孔を有し、かつ接地されているノズル板と、該ノズル板に積層され前記ノズル孔に連通する加圧液室を形成する液室基板と、前記加圧液室の一部の内壁に形成される振動板を介して前記加圧液室内を昇圧する圧電アクチュエータ部とを有し、前記圧電アクチュエータ部はバイアス電圧が印加される下部電極、駆動電圧が印加される上部電極、及び該上部電極に印加された駆動電圧に基づいて変位する圧電体層を有する液滴吐出ヘッドにおいて、前記下部電極と前記加圧液室との間に導電層を設け、該導電層は接地されていることを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、請求項1記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記導電層は、不純物を添加した導電性を有する半導体材料から形成され、あるいは金属酸化物を含んで構成されることを特徴とするものである。
更に、請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の液滴吐出ヘッドから記録液を吐出して記録材に画像を形成することを特徴とするものである。
【0009】
本発明においては、圧電アクチュエータ部の下部電極は振動板を介して加圧液室と離間している。下部電極にバイアス電圧を印加したとき、接地されているノズル板と接している加圧液室内の導電性の液体と下部電極との間に電界が生じる。しかし、下部電極と加圧液室との間に導電層を設け、かつこの導電層は接地されているので、電界は上記導電層と下部電圧との間に生じることになる。これにより、加圧液室内の導電性の液体と下部電極の間に電界は生じない。よって、導電性の液体の性状は変化せず、バイアス電圧の印加による液体の吐出特性は良化する。
【発明の効果】
【0010】
以上、本発明によれば、下部電極にバイアス電圧を印加しても加圧液室内の導電性の液体に電圧は印加されず液体の吐出特性を良化できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態のインクジェット記録装置の構成を示す斜視図である。
【図2】本実施形態のインクジェット記録装置の機構部の側面図である。
【図3】本実施形態の液滴吐出ヘッドの断面図である。
【図4】本実施形態の液滴吐出ヘッドのアクチュエータ部の部分平面図である。
【図5】本実施形態の液滴吐出ヘッドの製造工程を示す工程断面図である。
【図6】本実施形態の液滴吐出ヘッドの製造工程を示す工程断面図である。
【図7】本実施形態の液滴吐出ヘッドにおける導電層をGNDに落とす構成を示す部分平面図である。
【図8】圧電素子に印加する駆動波形とバイアス電圧を示す特性図である。
【図9】本実施形態の別の液滴吐出ヘッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
はじめに、本発明に係る液滴吐出ヘッドの一例であるインクジェット記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の構成について図面を参照して説明する。図1は本実施形態のインクジェット記録装置の構成を示す斜視図、図2は本実施形態のインクジェット記録装置の機構部の側面図である。
図1及び図2に示す本実施形態のインクジェット記録装置100は、装置本体の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ101、キャリッジ101に搭載した液滴吐出ヘッド1及び液滴吐出ヘッド1に対してインクを供給するインクカートリッジ102等で構成される印字機構部103等を収納し、装置本体の下方部には前方側から多数枚の記録紙30を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい)104を抜き差し自在に装着されている。また、記録紙30を手差しで給紙するために開かれる手差しトレイ105を有し、給紙カセット104あるいは手差しトレイ105から給送される記録紙30を取り込み、印字機構部103によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ106に排紙する。
【0013】
印字機構部103は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド107と従ガイドロッド108とでキャリッジ101を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ101にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する液滴吐出ヘッド1を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と直交する副走査方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ101には液滴吐出ヘッド1に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ102を交換可能に装着している。
【0014】
インクカートリッジ102は上方に大気と連通する大気口、下方には液滴吐出ヘッド1へインクを供給する供給口が設けられ、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により液滴吐出ヘッド1へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、液滴吐出ヘッド1としては各色毎に液滴吐出ヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個の液滴吐出ヘッドでもよい。
【0015】
ここで、キャリッジ101は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド107に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド108に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ101を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ109aで回転駆動される駆動プーリ110と従動プーリ111との間にタイミングベルト112を張装し、このタイミングベルト112をキャリッジ101に固定し、主走査モータ109の正逆回転によりキャリッジ101が往復に走査される。
【0016】
一方、給紙カセット104にセットした記録紙30を液滴吐出ヘッド1の下方側に搬送するために、給紙カセット104から記録紙30を分離給装する給紙ローラ113及びフリクションパッド114と、記録紙30を案内するガイド部材115と、給紙された記録紙30を反転させて搬送する搬送ローラ116と、この搬送ローラ116の周面に押し付けられる搬送コロ117及び搬送ローラ116からの記録紙30の送り出し角度を規定する先端コロ118とを有する。搬送ローラ116は副走査モータ109bによってギヤ列を介して回転駆動される。
【0017】
そして、キャリッジ101の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ116から送り出された記録紙30を液滴吐出ヘッド1の下方側で案内するため用紙ガイド部材である印写受け部材119を設けている。この印写受け部材119の用紙搬送方向下流側には、記録紙30を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ120と拍車121を設け、さらに記録紙30を排紙トレイ106に送り出す排紙ローラ123と拍車124と、排紙経路を形成するガイド部材125、126とを配設している。
【0018】
この記録装置100で記録時には、キャリッジ101を移動させながら画像信号に応じて液滴吐出ヘッド1を駆動することにより、停止している記録紙30にインクを吐出して1行分を記録し、その後、記録紙30を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または記録紙30の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ記録紙30を排紙する。
【0019】
また、キャリッジ101の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、液滴吐出ヘッド1の吐出不良を回復するための回復装置127を配置している。回復装置127はそれぞれ図示していないキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ101は印字待機中にはこの回復装置127側に移動されてキャッピング手段で液滴吐出ヘッド1をキャッピングして吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0020】
更に、吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で液滴吐出ヘッド1の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0021】
このように、このインクジェット記録装置100においてはアクチュエータユニットを有するインクジェット記録ヘッドを搭載しているので、安定したインク滴吐出特性が得られ、画像品質を向上することができる。
【0022】
図3は本実施形態の液滴吐出ヘッドの断面図である。図4は本実施形態の液滴吐出ヘッドのアクチュエータ部の部分平面図である。同図に示す液滴吐出ヘッド1は、主として、ノズル基板10、液室基板20、振動板30及び保護基板40を重ねた積層構造となって構成されている。ノズル基板10には、厚さ30〜50[μm]のSUS基板にプレス加工と研磨加工によりノズル孔11が形成されている。このノズル孔11は液室基板の加圧液室と連通している。液室基板20には、シリコン基板が用いられ、加圧液室12、流体抵抗部13などのインク流路となる溝部が形成されている。振動板30には、圧電体層などのアクチュエータ部、上部電極及び下部電極が設けられている。この振動板30は、シリコン基板の表面にシリコン酸化膜、ポリシリコン、シリコン酸化膜、pドープしたポリシリコン、シリコン酸化膜の順に成膜することで形成されている。振動板30におけるpドープしたポリシリコンが本実施形態の導電層31に相当し、この導電層31は接地(GND)されている。そして、振動板30の上において、下部電極51となる白金膜、圧電体層(PZT)52、上部電極53となる白金膜の多層構成からなるアクチュエータ部が、シリコンをエッチングすることで形成された加圧液室12に対向する領域に形成されている。
【0023】
また、保護基板40は下部電極51及び上部電極53に電気的に接続される配線部材54を含めて圧電素子保護空間を形成する基板であり、共通液室としてインク流路となる溝部、圧電素子の保護及び変位を妨げないための空間及び流路隔壁の剛性を高め、液室全体を支えるために柱を形成している。さらに、下部電極51、上部電極53と配線部材54との層間に配置する層間絶縁膜55、及び配線部材54を保護するための耐湿等としてパッシベーション膜56がアクチュエータ部の上面及び側面を覆うように配置されている。また、下部電極パッド部57が下部電極51に電気的に接続される配線部材54に電気的に接続するように設けられ、上部電極パッド部58が上部電極53に電気的に接続される配線部材54に電気的に接続するように設けられている。
【0024】
上記実施形態では図3に示す導電層31として用いる材料としてpドープしたポリシリコンを用いたが、ピエゾの焼成の際に溶融しない導電性材料であればよい。例えばpドープやnドープを行ったポリシリコンに限らず、導電性を持たせた半導体材料であっても同様の効果を奏する。また、半導体に限らず、SROやLNO、ZnO、SnOといった金属酸化物を使用してもよい。金属であっても、Pt、Irのようにピエゾの焼成の際に溶融しないものであれば代替可能である。
【0025】
次に、本実施形態の液滴吐出ヘッドの製造方法について、製造工程を示す工程断面図である図5及び図6に従って説明する。
先ず、図5の(a)に示すように、厚み400[μm]の<100>シリコン基板201を熱処理して、表面にシリコン酸化膜202を0.6[μm]形成し、更にプラズマCVD法により0.5[μm]のポリシリコン及び0.3[μm]のシリコン酸化膜を積層して形成される振動板層202、0.5[μm]のpドープしたポリシリコンを含む導電層203、0.3[μm]のシリコン酸化膜の振動板層204を積層している。その後、図5の(b)に示すように、圧電素子の下部電極となる白金(Pt)層205をスパッタ法により0.2[μm]成膜し、パターニングする。更に、図5の(c)に示すように、ゾルゲル法により圧電体層206を2[μm]成膜し、さらに上部電極となる白金(Pt)層207を0.1[μm]成膜する。その後、リソエッチ法により上部電極及び圧電体層をパターニングする。
【0026】
次に、図5の(d)に示すように、プラズマCVD法により層間絶縁膜208を0.3[μm]成膜し、リソエッチ法により配線コンタクトを取るためのビアホール209を形成する。層間絶縁膜208は、次に形成する配線部材と上部電極との導通部210と、バイパス配線部材への導通部211、およびインク供給孔となる貫通部212をパターニングしている。更に、図5の(e)に示すように、アルミ材料により、引き出し電極213を形成する。この引き出し電極213は、圧電体の駆動による振動板の振動による応力を受けるので、振動により断線しないように、やわらかいアルミ材料を使い、1[μm]程度の厚い膜厚で形成されている。
【0027】
次に、図5の(f)に示すように、アルミ配線保護のためのパッシベーション膜としてプラズマCVD法によるシリコン窒化膜214を2[μm]成膜し、パターニングする。その後、図6の(a)に示すように、振動板のインク供給口や共通液室となる部分215を、事前にエッチングする。更に、金をメッキ法により積層して、上部電極パッド部216と下部電極パッド部217とを同時に形成する。上部電極パッド部216及び下部電極パッド部217を金で形成することで、図示しないドライバICとの電気的接続を低温のワイヤボンディングで接続している。また、金は抵抗値が低く、上部電極及び下部電極の抵抗値を下げる効果が大きい。更に、下部電極パッド部217は、上部電極パッド部216と形成工程を分けて形成してもよく、パッド部の材料として銅、アルミなどを使用することもできる。その場合は、外部と保護されていない上部電極パッド部216には腐食から保護する保護層が必要となる場合もある。
【0028】
その後、図6の(b)に示すように別途ガラス基板にブラスト加工で柱を形成した保護基板218を液室基板側に接合し、図6の(c)に示すように液室基板の保護基板接合面とは反対面を、所望の厚さまで研磨する。保護基板218はシリコン基板にリソエッチ法で凹部を加工したものでも良いし、シリコン基板をTMAH、KOHなどのアルカリエッチング液を用いたウェットエッチングにより加工したものでも構わない。また、樹脂モールドやメタルインジェクションモールドなどの成型部品でも構わない。また、ドライバ回路をアクチュエータ基板上に一体形成する際に、パイロ酸化法で形成した酸化膜をLOCOS酸化法で形成し、酸化膜の形成領域を選択することで、駆動回路を同一基板上に形成することもできる。その後、図6の(c)に示すようにシリコン基板である液室基板219の反対面にICPドライエッチングにより加圧液室220、流体抵抗部221及びインク供給部222となる凹部を形成する。最後に、図6の(d)に示すように、別途厚さ30〜50[μm]のSUS基板にプレス加工と研磨加工によりノズル孔223を形成したノズル基板224を液室基板219の流路隔壁形成面に接着、圧電素子の上部電極及び下部電極と接続されたアルミ配線部を駆動回路に接続することで液滴吐出ヘッドが完成する。
【0029】
次に、本実施形態の液滴吐出ヘッドにおける導電層をGNDに落とす構成について説明する。図7は本実施形態の液滴吐出ヘッドにおける導電層をGNDに落とす構成を示す部分平面図である。同図において、図4と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。本実施形態の液滴吐出ヘッドは下部電極と電気的に分離した導電層を有している。そして、導電層60をGNDに落とす構成として、図7に示すように、アクチュエータの下部電極パッド部61の近くに、導電層60と同通させた導電層パッド部62を配置し、この導電層パッド部62をICチップのGNDに電気的に繋ぐ構成としている。また、導電層をGNDに落とす方法としては、この方法に限らず、GNDに落としたノズル板と導電層を電気的に繋ぐ方法によってもよい。
【0030】
次に、本実施形態の液滴吐出ヘッドの駆動方法の一例について説明する。図8は圧電素子に印加する駆動波形とバイアス電圧を示す特性図である。同図に示す駆動波形を上部電極に印加し、かつ5[V]のバイアス電圧を下部電極に印加する。このことにより本実施形態の液滴吐出ヘッドの構成に加え、当該駆動方法で駆動することで、インクが凝集することなく、吐出性能を向上させることができる。上部電極に印加する駆動波形について、スイッチングのタイミングを変化させることで図8に示すように大滴、中滴、小滴用の3種類の波形を圧電素子に印加することにより、3階調でインク滴を吐出させる。上部電極に印加する駆動波形については、本例に限らずインクを安定して吐出させることのできる駆動波形であれば、本発明による効果が期待できる。
【0031】
本実施形態は下部電極と加圧液室の間に電気的に分離した導電層を設け、当該導電層をGNDに落とすことで、下部電極にバイアス電圧を印加した場合でもインクに静電気力が発生して凝集してしまう現象を防いでいる。このため、圧力発生手段と加圧液室との間に電極層を有した構造を持つヘッドなら同様の効果が期待できる。例えば、図3に示すような上記実施形態では個別液室全体を支えるための柱を有した構造となっているが、図9の(a)、(b)に示すように、個別液室全体を支える柱がない液滴吐出ヘッド2であっても同様の効果が期待できる。
【0032】
以上説明したように、実施形態によれば、図3に示すように、液滴吐出ヘッドにおける下部電極51と加圧液室12との間に、GNDに落とした導電層31を設けているため、下部電極51にバイアス電圧を印加して駆動する方法を用いた場合にも、下部電極と加圧液室との間には電界は生じない。これにより、加圧液室内のインクを凝集させることなくインク滴を吐出させることが可能となる。これにより、インクの吐出特性を良化できる。
【符号の説明】
【0033】
1 液滴吐出ヘッド
2 液滴吐出ヘッド
10 ノズル基板
11 ノズル孔
12 加圧液室
13 流体抵抗部
20 液室基板
30 振動板
31 導電層
40 保護基板
51 下部電極
52 圧電体層
53 上部電極
54 配線部材
55 層間絶縁膜
56 パッシベーション膜
57 下部電極パッド部
58 上部電極パッド部
59 貫通孔
60 導電層
61 下部電極パッド部
62 導電層パッド部
100 インクジェット記録装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】特開2006−321200号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の液体を吐出するノズル孔を有し、かつ接地されているノズル板と、該ノズル板に積層され前記ノズル孔に連通する加圧液室を形成する液室基板と、前記加圧液室の一部の内壁に形成される振動板を介して前記加圧液室内を昇圧する圧電アクチュエータ部とを有し、前記圧電アクチュエータ部はバイアス電圧が印加される下部電極、駆動電圧が印加される上部電極、及び印加された駆動電圧に基づいて変位する圧電体層を有する液滴吐出ヘッドにおいて、
前記下部電極と前記加圧液室との間に導電層を設け、該導電層は接地されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記導電層は、不純物を添加した導電性を有する半導体材料から形成され、あるいは金属又は金属酸化物を含んで構成されることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液滴吐出ヘッドから記録液を吐出して記録材に画像を形成することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−992(P2013−992A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134803(P2011−134803)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】