説明

液滴吐出装置

【課題】液滴吐出ヘッドの乾燥を抑制しつつ、インクミストがワークに付着するのを防止することができる液滴吐出装置を提供することを課題としている。
【解決手段】液滴吐出ヘッド38および液滴吐出ヘッド38を搭載したキャリッジ37を有するキャリッジユニット4と、キャリッジユニット4に対し、ワークWを相対的に移動するX軸テーブル3と、液滴吐出ヘッド38の液滴吐出により副次的に生じるインクミストを回収するミスト回収機構11と、を備え、ミスト回収機構11は、キャリッジユニット4に対し、ワークWの移動方向に隣接して配設されると共に、ワークWとキャリッジユニット4との間のエアーをワークWに対する離間方向に吸引する吸引口51、52と、吸引口51、52に連なる吸引手段55、60、61と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドに対しワークを相対的に移動させながら、液滴吐出ヘッドを駆動することで、ワークに対し描画処理を行う液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の液滴吐出装置である、インクジェット記録装置として、キャリッジに搭載された記録ヘッドを有するキャリッジユニットと、搬送ローラーによって記録媒体(ワーク)を搬送する搬送手段と、インク吐出により副次的に発生するインクミストの流れを制御するために、気流を発生する気流発生手段と、を備えたものが知られている(特許文献1参照)。この気流発生手段は、キャリッジユニットの上流側に配設された吹き出しファンと、キャリッジユニットの下流側に配設した吸い込みファンと、を有し、記録媒体の搬送方向と同じ方向に空気の流れを形成し、これによって、インクミストを回収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−218895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなインクミストの捕集構造では、吹き出しファンから吹き出されたエアーがキャリッジから突出した記録ヘッドにより乱れ、乱流となるため、インクミストが記録媒体表面を流動し、これによりインクミストが記録媒体に付着してしまうという問題があった。また、吹き出されたエアーによって、記録ヘッドのノズル面と記録媒体との狭い間隙を流れる気流の速度が増すため、ノズルが乾燥しやすくなる。ノズルが乾燥してしまうと、本来の吐出性能が得られず、液滴吐出ヘッドによるインク吐出に不具合が生じてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、液滴吐出ヘッドの乾燥を抑制しつつ、インクミストがワークに付着するのを防止することができる液滴吐出装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液滴吐出装置は、液滴吐出ヘッドに対しワークを相対的に移動させながら、液滴吐出ヘッドを駆動することで、ワークに対し描画処理を行う液滴吐出装置であって、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出ヘッドを搭載したキャリッジを有するキャリッジユニットと、キャリッジユニットに対し、ワークを相対的に移動する移動手段と、液滴吐出ヘッドの液滴吐出により副次的に生じるインクミストを回収するミスト回収手段と、を備え、ミスト回収手段は、キャリッジユニットに対し、ワークの移動方向に隣接して配設されると共に、ワークとキャリッジユニットとの間のエアーをワークに対する離間方向に吸引する吸引口と、吸引口に連なる吸引手段と、を有することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、ワークに対する離間方向にエアーを吸引する吸引口を有することで、離間方向に流れる気流を発生することができ、インクミストがワークに付着することを防止することができる。また、液滴吐出ヘッドに対しワークを相対的に移動しつつ、液滴吐出ヘッドを駆動する液滴吐出装置では、ワークの相対的移動によって、この移動方向にインクミストが流動する。これに対し、吸引口を、液滴吐出ヘッドを搭載したキャリッジユニットに対し、ワークの移動方向に隣接して配設することで、ワークの移動によるインクミストの流動を利用してインクミストを回収することができるため、液滴吐出ヘッドのノズル面とワークとの間隙において気流の速度を加速させることがない。ゆえに、ノズル面の乾燥を抑制することができる。
【0008】
この場合、吸引口は、先端に向かって拡開形状に形成されていることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、吸引口に臨むワークの上方領域において、広い範囲でエアー吸引を行うため、ワーク上の広い範囲において、インクミストが付着することを防止することができる。
【0010】
この場合、吸引口は、キャリッジに搭載されていることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、吸引口を支持するために特段の部材を必要としないため、本液滴吐出装置を簡単な構成とすることができる。
【0012】
この場合、ミスト回収手段は、キャリッジユニットに対し、ワークの移動方向の両側に隣接して配設した2つの吸引口を有することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、ワークの移動方向の両側に吸引口を設けることで、ワークの移動方向に流動するインクミストをより多く回収することができる。また、ワークを、ワークの移動方向に往復動するものであっても、インクミストを効果的に回収することができる。
【0014】
この場合、ミスト回収手段を制御する制御手段を、更に備え、ミスト回収手段は、吸引手段と各吸引口とを連通する2本の吸引流路と、各吸引流路に介設された2つの流路開閉手段と、を更に有し、制御手段は、2つの流路開閉手段の開閉を個別に制御することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、各流路開閉手段の開閉を個別に制御することで、各吸引口におけるエアー吸引の始動および停止を個別に制御することができる。そのため、各種状況に対応したエアー吸引をすることができ、適切なミスト回収を実施することができる。なお、「吸引流路」を「パイプ」で構成した場合には、「流路開閉手段」として「開閉弁」を用い、「吸引流路」を「ダクト」で構成した場合には、「流路開閉手段」として「開閉ダンパー」を用いることが好ましい。
【0016】
この場合、各流路開閉手段は、各吸引流路の開口面積を可変可能に構成されていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、各流路開閉手段の開口面積(開口度)を個別に制御することで、各吸引口の吸引力を個別に制御することができる。そのため、更に各種状況に対応したエアー吸引をすることでき、より適切なミスト回収を実施することができる。
【0018】
この場合、制御手段は、各吸引口に臨むワークの有無に基づいて、各流路開閉手段を制御することが好ましい。
【0019】
吸引口にワークが臨んだ(対峙した)状態で、強いエアー吸引を行ってしまうと、ワークが乾燥し、ワークに不具合が生じてしまうことが考えられる。
上記の構成によれば、各吸引口に臨むワークの有無に基づいて、各流路開閉手段を制御し、ワークが存在する場合には、エアー吸引を停止、もしくは弱いエアー吸引を行うことで、ワークの乾燥を抑えることができる。
【0020】
この場合、ミスト回収手段は、吸引流路に介設され、インクミストをトラップするミストトラップを更に有することが好ましい。
【0021】
この構成によれば、吸引流路上にインクミストをトラップするミストトラップを設けることで、吸引手段(例えば、真空ポンプ)にインクミストが流入することを防止することができる。
【0022】
この場合、キャリッジユニットは、複数の液滴吐出ヘッドを有し、複数の液滴吐出ヘッドは、ワークの移動方向に直交する方向に延在する描画ラインを構成しており、吸引口は、描画ラインの長さを包括する長さを有することが好ましい。
【0023】
この構成によれば、キャリッジユニットに搭載された複数の液滴吐出ヘッドが、描画ラインを構成し、各吸引口が、当該描画ラインを包括する長さを有することで、より効果的にインクミストを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係る液滴吐出装置の斜視図である。
【図2】キャリッジユニットおよびミスト回収機構廻りを示した断面図である。
【図3】液滴吐出ヘッドを示した斜視図である。
【図4】各開閉弁の制御方法を示した図である。
【図5】ミスト回収機構の変形例を示した断面図である。
【図6】制御方法の変形例における往動描画動作を示した図である。
【図7】制御方法の変形例における復動描画動作を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置について説明する。この液滴吐出装置は、フラットパネルディスプレイの製造ラインに組み込まれており、例えば、特殊なインクや発光性の樹脂液である機能液を導入した液滴吐出ヘッドを用い、液晶表示装置のカラーフィルターや有機EL装置の各画素となる発光素子等を形成するものである。具体的には、液滴吐出ヘッドに対しワークを移動させながら、液滴吐出ヘッドを吐出駆動することで、ワークに対し描画処理を行う。特に、この液滴吐出装置では、液滴吐出ヘッドのノズル面の乾燥を抑制しつつ、インクミストがワークに付着するのを防止することができるインクミスト回収構造を有している。
【0026】
図1に示すように、液滴吐出装置1は、X軸支持ベース2上に配設され、主走査方向となるX軸方向に延在してワークWをX軸方向に移動させるX軸テーブル(移動手段)3と、複数の液滴吐出ヘッド38を搭載したキャリッジユニット4と、複数本の支柱5を介してX軸テーブル3を跨ぐように架け渡された1対のY軸支持ベース6上に配設され、副走査方向となるY軸方向に延在してキャリッジユニット4をY軸方向に移動させるY軸テーブル7と、を備えている。また、液滴吐出装置1は、液滴吐出ヘッド38の液滴吐出により副次的に発生したインクミストを回収するミスト回収機構(ミスト回収手段)11と、各部を収容しその雰囲気の温度および湿度を管理するチャンバー(図示省略)と、RGB3色の機能液タンク8を有し液滴吐出ヘッド38に機能液を供給する機能液供給ユニット9と、各部を制御する制御装置(制御手段)10と、を備えている。液滴吐出装置1は、X軸テーブル3およびY軸テーブル7の駆動と同期して、液滴吐出ヘッド38を吐出駆動させることにより、機能液供給ユニット9から供給された機能液を吐出させて、ワークWに所定の描画パターンを描画する。なお、Y軸方向は、X軸方向に対し水平面内で直交する方向である。
【0027】
また、液滴吐出装置1は、吸引ユニット22やワイピングユニット23等から成るメンテナンス装置25を備えており、これらユニットによって、各液滴吐出ヘッド38の保守し、各液滴吐出ヘッド38の機能維持・機能回復を図るようになっている。本実施形態の液滴吐出装置1では、X軸テーブル3とY軸テーブル7とが交わる領域にキャリッジユニット4を臨ませてワークWの描画処理を行う。また、Y軸テーブル7とメンテナンス装置25が交わる領域にキャリッジユニット4を臨ませて、液滴吐出ヘッド38のメンテナンス処理(機能維持および機能回復)を行う。
【0028】
X軸テーブル3は、ワークWをセットするセットテーブル31と、セットテーブル31をX軸方向にスライド自在に支持するX軸スライダー32と、X軸方向に延在し、セットテーブル31をX軸方向に移動させる左右一対のX軸リニアモーター(図示省略)と、を備えている。一対のX軸リニアモーターを駆動することで、一対のX軸スライダー32上のセットテーブル31をX軸方向に移動し、ワークWをX軸方向に移動する。これによって、X軸テーブル3は、描画時にワークWを主走査する。
【0029】
Y軸テーブル7は、一対のY軸支持ベース6に支持されると共に、キャリッジユニット4をY軸方向に移動自在に吊設する一対のY軸スライダー(図示省略)と、一対のY軸支持ベース6上に設置され、キャリッジユニット4をY軸方向に移動させる一対のY軸リニアモーター(図示省略)と、を備えている。一対のY軸リニアモーターを駆動することで、一対のY軸スライダー上のキャリッジユニット4をY軸方向に移動する。これによって、Y軸テーブル7は、各キャリッジユニット4を介して、描画時に液滴吐出ヘッド38を副走査するほか、メンテナンス時に液滴吐出ヘッド38をメンテナンス装置25に臨ませる。
【0030】
図2に示すように、キャリッジユニット4は、複数の液滴吐出ヘッド38を有するヘッドユニット36と、ヘッドユニット36を搭載したキャリッジ37と、を備えている。ヘッドユニット36は、R・G・Bの3色、各4個(計12個)の液滴吐出ヘッド38と、12個の液滴吐出ヘッド38を、当該各液滴吐出ヘッド38が同一の水平面内に配設されるように支持するヘッドプレート39と、を備えている。色ごとの各4個の液滴吐出ヘッド38は、Y軸方向に延在し、ワークWの最大幅の3分の1の長さを有する各色の分割描画ライン(描画ライン)を構成している。すなわち、描画処理では、まず、ワークWをX軸方向に往動移動(図2中右側に移動)しつつ液滴吐出ヘッド38を駆動する「往動描画動作」を行い、その後、1分割描画ライン分だけ液滴吐出ヘッド38を副走査した後、ワークWをX軸方向に復動移動(図2中左側に移動)しつつ液滴吐出ヘッド38を駆動する「復動描画動作」を行う。その後、更に1分割描画ライン分だけ液滴吐出ヘッド38を副走査した後、再度、「往動描画動作」を行う。この3回の描画動作によって、ワークW全域に描画パターンを描画する。
【0031】
図3に示すように、液滴吐出ヘッド38は、いわゆる2連のインクジェットヘッドであり、2連の接続針44を有する機能液導入部41と、機能液導入部41に連なる2連のヘッド基板42と、ヘッド基板42に連なり機能液を吐出するヘッド本体43と、を備えている。機能液導入部41は、ノズル列49の数に対応した2連の接続針44を有しており、機能液タンク8からの機能液が供給されるようになっている。また、ヘッド本体43は、ピエゾ素子等で構成される2連のポンプ部45と、複数の吐出ノズル47が形成されたノズル面48を有するノズルプレート46と、を有している。ノズルプレート46のノズル面48に形成された多数の吐出ノズル47は、相互に平行且つ半ノズルピッチ位置ズレして列設された2列のノズル列49を構成しており、各ノズル列49は、Y軸方向(主走査方向に対し直交する方向)に列設し、且つ等ピッチで並べた180個の吐出ノズル47で構成されている。そして、制御装置10(図1参照)から出力された駆動波形が各ポンプ部45(圧電素子)に印加されることで、各吐出ノズル47から機能液が吐出される。
【0032】
図1および図2に示すように、ミスト回収機構11は、液滴吐出ヘッド38の液滴吐出により副次的に発生したインクミストを回収するものであり、キャリッジユニット4(ヘッドユニット36)に対し、X軸方向(ワークの移動方向)に隣接して配設された第1吸引口(吸引口)51および第2吸引口(吸引口)52と、各吸引口51、52からエアーを吸引する吸引流路系53と、を備えている。なお、ミスト回収機構11は、キャリッジユニット4とワークWとの間隙に発生したインクミストを発生直後に回収する役割と、発生直後に回収されずに周囲に飛散したインクミストが、キャリッジユニット4やワークW近傍に接近した際、これ回収する役割と、を担っている。
【0033】
各吸引口51、52は、キャリッジ37に搭載されており、第1吸引口51は、キャリッジユニット4のX軸方向一方側(図2中左側)に隣接して配設され、第2吸引口52は、キャリッジユニット4のX軸方向他方側(図2中右側)に隣接して配設されている。各吸引口51、52は、X軸方向を厚み方向とする扇状の形状を有しており、いずれも、鉛直方向下向きに配設されている。また、各吸引口51、52は、先端(下方)に向かって、厚み方向(X軸方向)および横方向(Y軸方向)に拡開する拡開形状に形成されており、各吸引口51、52の先端部は、横方向に上記各色の分割描画ラインを包括する長さを有している。さらに、各吸引口51、52の上端部(基端部)には、吸引流路系53が接続されており、且つ下端部(先端部)が描画時のワークWに対峙するように配設されている。なお、各吸引口51、52は、その下端部の高さが、複数の液滴吐出ヘッド38のノズル面48より上方になるように配設することが好ましい。
【0034】
吸引流路系53は、排気設備55に接続されており、また、吸引流路系53の各弁は、制御装置10によって制御されている。吸引流路系53は、一端に第1吸引口51を接続した第1吸引流路(吸引流路)56と、第1吸引流路56に介設された第1開閉弁(流路開閉手段)57と、一端に第2吸引口52を接続した第2吸引流路(吸引流路)58と、第2吸引流路58に介設された第2開閉弁(流路開閉手段)59と、2本の吸引流路56、58を合流する合流部を介して2本の吸引流路56、58と排気設備55とを連通する共通流路60と、共通流路60に介設された真空ポンプ61と、を備えている。各開閉弁57、59は、その開口度を個別に調整可能に構成されており、すなわち、対応する各吸引流路56、58の開口面積を個別に可変可能に構成されている。これによって、各吸引口51、52からの吸引力をコントロールする。なお、図示省略するが、吸引口51、52基端部には、横方向で均一にエアー吸引が行えるように、マニホールドを設けることが好ましい。また、請求項にいう吸引手段は、排気設備55、共通流路60および真空ポンプ61により構成されている。
【0035】
第1開閉弁57を開放すると、真空ポンプ61からの負圧によって、第1吸引口51からエアーを吸引する。そして、吸引されたエアーは、第1吸引流路56および共通流路60を介して、排気設備55に排気される。一方、第2開閉弁59を開放すると、真空ポンプ61からの負圧によって、第2吸引口52からエアーを吸引する。そして、吸引されたエアーは、第2吸引流路58および共通流路60を介して、排気設備55に排気される。各吸引口51、52は、各吸引口51、52直下のエアーと、複数の液滴吐出ヘッド38(キャリッジユニット4)とワークWとの間隙のエアーとを吸引する。これによって、当該間隙から上方に、また下方から上方に流れる気流を発生し、当該間隙に発生したインクミストを、ワークWに対する離間方向に吸引する。また、周囲に飛散したインクミストを、ワークWに対する離間方向に吸引する。これらによって、インクミストを回収する。なお、ワークWの移動によるインクミストの流動を利用して、当該間隙のインクミストを回収するため、当該間隙に過度な気流を発生させる必要はなく、これを加味して吸引力(各開閉弁57、59の開口度)を設定する。
【0036】
ここで図1を参照して液滴吐出装置1の制御構成について説明する。図1に示すように、制御装置10は、主走査制御部71と、副走査制御部72と、吐出制御部73と、吸引制御部74と、を有している。主走査制御部71は、X軸テーブル3を制御して、主走査方向(X軸方向)にワークWを移動する。副走査制御部72は、Y軸テーブル7を制御して、副走査方向(Y軸方向)にキャリッジユニット4を移動する。吐出制御部73は、キャリッジユニット4に搭載された各液滴吐出ヘッド38を制御して、所定の吐出パターンで液滴を吐出する。吸引制御部74は、各開閉弁57、59の開閉を個別に制御して、各吸引口51、52からエアーを吸引する。
【0037】
次に図4を参照して、ミスト回収機構11における各開閉弁57、59の制御方法について説明する。この制御方法は、描画時と非描画時(メンテナンス時やワークWの搬出入時)とで異なる吸引力でエアーを吸引すべく、各開閉弁57、59を制御するものである。具体的には、吸引制御部74は、各吸引口51、52に臨むワークWが過度に乾燥しない程度の所定の弱い吸引力でエアーを吸引する第1開口度と、第1開口度より大きく、所定の強い吸引力でエアーを吸引する第2開口度と、を予め設定し、描画時には、各開閉弁57、59を第1開口度で開放し(図4(a)参照)、一方、非描画時には、各開閉弁57、59を第2開口度で開放する(図4(b)参照)。これによって、各吸引口51、52にワークWが対峙する(ワークWが臨む)描画時には、弱い吸引力でエアーを吸引してワークWの乾燥を抑制し、ワークWが臨むことのない非描画時には、強い吸引力でエアーを吸引して、各吸引口51、52廻りのインクミストを広域に回収する。このように、描画時、非描画時の違いによって、各開閉弁57、59の開口度を制御して、エアー吸引を制御することで、ミスト回収を適切に実施することができる。
【0038】
ここで図5を参照して、ミスト回収機構11の変形例について特に異なる部分のみ説明する。図5に示すように、このミスト回収機構11は、図1および図2に示した各構成要素に加え、第1吸引流路56に介設された第1ミストトラップ(ミストトラップ)81と、第2吸引流路58に介設された第2ミストトラップ(ミストトラップ)82と、を有している。
【0039】
第1ミストトラップ81は、第1吸引口51と第1開閉弁57との間に介設されており、第1吸引口51から吸引されたエアー内のインクミストをトラップする。一方、第2ミストトラップ82は、第2吸引口52と第2開閉弁59との間に介設されており、第2吸引口52から吸引されたエアー内のインクミストをトラップする。このように、吸引流路56、58上にインクミストをトラップするミストトラップ81、82を設けることで、真空ポンプ61にインクミストが流入することを防止することができる。特に、機能液の主溶媒には、酸性やアルカリ性のものも有り、真空ポンプ61にこれらの主溶媒のインクミストが流入し、真空ポンプ61の内部機器が腐食することを、当該ミストトラップ81、82により防止することができる。
【0040】
次に図6および図7を参照して、各開閉弁57、59の制御方法の変形例について、特に異なる部分のみ説明する。この制御方法は、描画処理中において各開閉弁57、59の開口度を調整するものである。ここでは、往動描画動作および復動描画動作それぞれについて、各開閉弁57、59の制御方法を説明する。
【0041】
図6に示すように、往動描画動作では、ワークWの往動主走査(第1吸引口51側から第2吸引口52側への移動)に伴って、第1開閉弁57および第2開閉弁59の開口度を制御する。具体的には、吸引制御部74は、まず、第1開閉弁57を第1開口度に開放し、第2開閉弁59を第2開口度に開放する(図6(a)参照)。次に、往動主走査によりワークWが第1吸引口51、ヘッドユニット36および第2吸引口52上を通過する間において、第1開閉弁57を徐々に開放して第2開口度にし、第2開閉弁59を徐々に閉塞して第1開口度とする(図6(b)および(c)参照)。
【0042】
一方、図7に示すように、復動描画動作では、ワークWの復動主走査(第2吸引口52側から第1吸引口51側への移動)に伴って、第1開閉弁57および第2開閉弁59の開口度を制御する。具体的には、吸引制御部74は、まず、第1開閉弁57を第2開口度に開放し、第2開閉弁59を第1開口度に開放する(図7(a)参照)。次に、復動主走査によるワークWが第2吸引口52、ヘッドユニット36および第1吸引口51を通過する間において、第2開閉弁59を徐々に開放して第2開口度にし、第1開閉弁57を徐々に閉塞して第1開口度とする(図7(b)および(c)参照)。
【0043】
これらによって、第1吸引口51にワークWが対峙するタイミングでは、第1吸引口51に対応する第1開閉弁57が弱い吸引力の第1開口度となり、且つ第2開閉弁59が強い吸引力の第2開口度となる。一方、第2吸引口52にワークWが対峙するタイミングでは、第2吸引口52に対応する第2開閉弁59が弱い吸引力の第1開口度となり、且つ第1開閉弁57が強い吸引力の第2開口度となる。このように、主走査に伴って開口度を制御して、エアー吸引を制御することで、ミスト回収を適切に実施することができる。
【0044】
なお、各開閉弁57、59の開閉制御に用いるワークWの移動量は、実移動量を検出して取得するものであっても良いし、ワークWの移動時間に基づいて移動量を推定し、取得するものであっても良い。
【0045】
また、ここでは副走査時の開閉弁57、59の制御について言及しなかったが、副走査時には、各開閉弁57、59を第2開口度に制御しても良いし、次の描画動作の初期制御に合わせた開口度に制御しても良い。
【0046】
以上のような構成によれば、ワークWに対する離間方向に吸引する吸引口51、52を有することで、離間方向に流れる気流を発生することができ、インクミストがワークWに付着することを防止することができる。また、液滴吐出ヘッド38に対しワークWを相対的に移動しつつ、液滴吐出ヘッド38を駆動する液滴吐出装置1では、ワークWの相対的移動によって、この移動方向(X軸方向:主走査方向)にインクミストが流動する。これに対し、吸引口51、52を、液滴吐出ヘッド38を搭載したキャリッジユニット4に対し、ワークWの移動方向に隣接して配設することで、ワークWの移動によるインクミストの流動を利用してインクミストを回収することができるため、液滴吐出ヘッド38のノズル面48とワークWとの間隙において気流の速度を加速させることがない。ゆえに、ノズル面48の乾燥を抑制することができる。
【0047】
また、吸引口51、52が、先端に向かって拡開形状に形成されていることにより、吸引口51、52に臨む(対峙する)ワークWの上方領域において、広い範囲でエアー吸引を行うことができるため、ワークW上の広い範囲において、インクミストが付着することを防止することができる。
【0048】
さらに、吸引口51、52が、キャリッジ37に搭載されていることにより、吸引口51、52を支持するために特段の部材を必要としないため、本液滴吐出装置1を簡単な構成とすることができる。
【0049】
またさらに、ワークWの移動方向(X軸方向:主走査方向)の両側に吸引口51、52を設けることで、ワークWの移動方向に流動するインクミストをより多く回収することができる。また、ワークWを、ワークWの移動方向に往復動するものであっても、インクミストを効果的に回収することができる。
【0050】
また、各開閉弁57、59の開閉を個別に制御することで、各吸引口51、52におけるエアー吸引の始動および停止を個別に制御することができる。そのため、各種状況に対応したエアー吸引をすることができ、適切なミスト回収を実施することができる。
【0051】
さらに、各開閉弁57、59が、各吸引流路56、58の開口面積を可変可能に構成されていることにより、各開閉弁57、59の開口面積(開口度)を個別に制御することで、各吸引口51、52の吸引力を個別に制御することができる。そのため、更に各種状況に対応したエアー吸引をすることでき、より適切なミスト回収を実施することができる。
【0052】
またさらに、各吸引口51、52に臨む(対峙する)ワークWの有無に基づいて、各開閉弁57、59を制御し、ワークWが存在する場合には、弱いエアー吸引を行うことで、ワークWの乾燥を抑えることができる。
【0053】
また、キャリッジユニット4に搭載された複数の液滴吐出ヘッド38が、Y軸方向に分割描画ラインを構成し、各吸引口51、52が、Y軸方向に、当該分割描画ラインを包括する長さを有することで、より効果的にインクミストを回収することができる。
【0054】
なお、本実施形態においては、各開閉弁57、59の制御方法として、各開閉弁57、59の開口度を第1開口度と第2開口度との間で制御して、エアー吸引の吸引力を調整する構成であったが、各開閉弁57、59の開放、閉塞を制御して、エアー吸引の有無を制御する構成であっても良い。かかる場合、開閉弁57、59を第1開口度に開放するのに代えて、開閉弁57、59を閉塞し、開閉弁57、59を第2開口度に開放するのに代えて、開閉弁57、59を開放するように、各開閉弁57、59を制御する。また、各開閉弁57、59の開口度制御と、開放、閉塞制御とを組み合わせても良い。
【0055】
また、本実施形態においては、各開閉弁57、59の制御方法として、吸引口51、52に対峙するワークWがないとき、強い吸引力でエアー吸引を行い、吸引口51、52に対峙するワークWがあるとき、弱い吸引力でエアー吸引を行う構成であったが、逆に、吸引口51、52に対峙するワークWがないとき、弱い吸引力でエアー吸引を行い、吸引口51、52に対峙するワークWがあるとき、強い吸引力でエアー吸引を行う構成であっても良い。かかる場合、発生直後のインクミストをより多く回収することができる。
【0056】
さらに、各開閉弁57、59の制御方法として、主走査における進行方向に対応して、各開閉弁57、59を制御する構成であっても良い。例えば、進行方向奥側の吸引口51、52のみエアー吸引を行う構成や、進行方向奥側の吸引口51、52では強い吸引力でエアー吸引を行い、進行方向手前側の吸引口51、52では弱い吸引力でエアー吸引を行う構成であっても良い。
【0057】
またさらに、本実施形態においては、各吸引口51、52をキャリッジ37に搭載する構成であったが、各吸引口51、52を、キャリッジ37とは別に、Y軸支持ベース6に支持する構成であっても良い。
【0058】
また、本実施形態においては、キャリッジユニット4に対し、X軸方向の両側に隣接して2つの吸引口51、52を設ける構成であったが、いずれか一方側のみに吸引口を設ける構成であっても良い。例えば、往動描画動作のみによって描画処理を行う場合に、インクミストが流動する進行方向奥側のみに、吸引口(第2吸引口52)を設ける構成であっても良い。
【0059】
さらに、本実施形態においては、キャリッジユニット4および各吸引口51、52を固定とし、ワークW(セットテーブル31)をX軸方向に移動して、主走査を行う構成であったが、ワークW(セットテーブル31)を固定とし、キャリッジユニット4および各吸引口51、52をX軸方向に移動して、主走査を行う構成であっても良い。
【0060】
またさらに、本実施形態においては、複数の液滴吐出ヘッド38を搭載したキャリッジユニット4を用いたが、単一の液滴吐出ヘッド38を搭載したキャリッジユニット4を用い、これに隣接して、各吸引口51、52を配設する構成であっても良い。
【0061】
また、本実施形態においては、単一のキャリッジユニット4を有する液滴吐出装置1に本発明を適用したが、複数のキャリッジユニット4を有する液滴吐出装置1に本発明を適用しても良い。
【0062】
さらに、本実施形態においては、液滴吐出装置1として、特殊なインク等の機能液を描画する装置に本発明を適用したが、液滴吐出装置1として、紙やフィルム等の記録媒体にインクを描画するインクジェットプリンターに本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0063】
1:液滴吐出装置、 3:X軸テーブル、 4:キャリッジユニット、 10:制御装置、 11:ミスト回収機構、 37:キャリッジ、 38:液滴吐出ヘッド、 51:第1吸引口、 52:第2吸引口、 55:排気設備、 56:第1吸引流路、 57:第1開閉弁、 58:第2吸引流路、 59:第2開閉弁、 60:共通流路、 61:真空ポンプ、 81:第1ミストトラップ、 82:第2ミストトラップ、 W:ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴吐出ヘッドに対しワークを相対的に移動させながら、前記液滴吐出ヘッドを駆動することで、前記ワークに対し描画処理を行う液滴吐出装置であって、
前記液滴吐出ヘッドおよび前記液滴吐出ヘッドを搭載したキャリッジを有するキャリッジユニットと、
前記キャリッジユニットに対し、前記ワークを相対的に移動する移動手段と、
前記液滴吐出ヘッドの液滴吐出により副次的に生じるインクミストを回収するミスト回収手段と、を備え、
前記ミスト回収手段は、
前記キャリッジユニットに対し、前記ワークの移動方向に隣接して配設されると共に、前記ワークと前記キャリッジユニットとの間のエアーを前記ワークに対する離間方向に吸引する吸引口と、
前記吸引口に連なる吸引手段と、を有することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記吸引口は、先端に向かって拡開形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記吸引口は、前記キャリッジに搭載されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記ミスト回収手段は、前記キャリッジユニットに対し、前記ワークの移動方向の両側に隣接して配設した2つの前記吸引口を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記ミスト回収手段を制御する制御手段を、更に備え、
前記ミスト回収手段は、
前記吸引手段と前記各吸引口とを連通する2本の吸引流路と、
前記各吸引流路に介設された2つの流路開閉手段と、を更に有し、
前記制御手段は、前記2つの流路開閉手段の開閉を個別に制御することを特徴とする請求項4に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記各流路開閉手段は、前記各吸引流路の開口面積を可変可能に構成されていることを特徴とする請求項5に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記各吸引口に臨む前記ワークの有無に基づいて、前記各流路開閉手段を制御する請求項5または6に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記ミスト回収手段は、前記吸引流路に介設され、前記インクミストをトラップするミストトラップを更に有することを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の液滴吐出装置。
【請求項9】
前記キャリッジユニットは、複数の前記液滴吐出ヘッドを有し、
前記複数の液滴吐出ヘッドは、前記ワークの移動方向に直交する方向に延在する描画ラインを構成しており、
前記吸引口は、前記描画ラインの長さを包括する長さを有することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−88103(P2011−88103A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245207(P2009−245207)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】