説明

液状フェノール系樹脂組成物、及びその硬化物

【課題】フェノール樹脂本来の機械的強度、耐熱性を維持しながら、耐衝撃性、柔軟性が向上されたフェノール樹脂硬化物が得られる液状フェノール系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】フェノール系樹脂100重量部、及び体積平均粒子径が0.01〜0.5μmのポリマー粒子21〜40重量部を含み、前記フェノール系樹脂の重量平均分子量が100〜600であり、前記ポリマー粒子がその内側に存在する弾性コア層、及びその最も外側に存在するシェル層の少なくとも2層を含み、前記弾性コア層がガラス転移温度が10℃未満の架橋ゴム重合体からなり、かつ、前記シェル層が、OH基含有モノマー15〜40重量%、芳香族ビニルモノマー10〜60重量%、(メタ)アクリル酸エステルモノマー10〜60重量%、その他のモノマー、合計100質量%からなるグラフト成分の重合体である、液状フェノール系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状フェノール系樹脂組成物、より詳細にはコアシェルポリマー粒子が分散した液状フェノール系樹脂組成物、及びその製造方法に関し、また、その液状フェノール系樹脂組成物をマスターバッチとして含むフェノール樹脂組成物、及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、あるいはフェノール樹脂などに代表される熱硬化性樹脂は、耐熱性、機械的強度、あるいは寸法精度などに優れることから、種々の分野で広範囲に使用されている。特に、フェノール樹脂の硬化物は、機械的強度、寸法安定性、耐熱性、電気的特性などに優れていることから、日用雑貨としてばかりでなく、成形材料、積層品、摩擦材等の工業用レジンとしても広く用いられている。
【0003】
ところで、フェノール樹脂を用いて得られる成形品は、本質的に脆く、繰返し熱衝撃により容易にクラツクが発生するという問題があることから、フェノール樹脂にゴム成分を分散させることで、耐衝撃性を改良する試みが為されてきている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0004】
しかし、フェノール樹脂にアクリロニトリルブタジエンゴム等のゴム粒子を直接分散させるこれらの方法では、ゴム粒子がフェノール樹脂中で凝集し析出することでゴム粒子による耐衝撃性改良効果が損なわれないように、特許文献1では、ゴム粒子を高価なグリシジル基を有するモノマーとの共重合体とする必要があったり、特許文献2では、フェノール樹脂成型品の特性を損なう可能性があるアニオン系界面活性剤を多量に含有させる必要があったり、特許文献3では、フェノール樹脂との相溶性に優れるアクリロニトリルをゴム中に共重合する必要から、残存した場合に環境毒性が指摘されるニトリル基含有アクリルモノマーを多量に使用する必要があり、問題が大きかった。
【0005】
また、これらの方法では、例えば乳化重合することにより重合時点では単分散していたゴム粒子であっても、フェノール樹脂と混合する過程で、その単分散性を維持することはできず、結果として目的とする耐衝撃性を得るためにゴム粒子を多量に混合する必要があり、フェノール樹脂本来の特性を低下させる場合があった。
【0006】
さらに、これらのゴム粒子は、例えば、特許文献3で使用されているゴム粒子は、メチルイソブチルケトンに可溶であることから判るように、非架橋でありそのためフェノール樹脂に膨潤するので、本来ゴム粒子が発揮する耐衝撃性改良効果が得られない場合や、硬化前のフェノール樹脂組成物の粘度が高くなり成形性に劣る場合があった。
【0007】
このようなことから、少なくとも、フェノール樹脂との相溶性を確保するための部分とゴム粒子との機能分離を図り、また、ゴム粒子のフェノール樹脂への無制限の膨潤を避けるために、コアシェル構造のポリマー粒子を分散させる技術が開示されている(例えば特許文献4参照)。しかし、この特許文献4に開示されている技術では、コア層のゴムポリマーとしてガラス転移点が60℃以上のアクリル系ポリマーを、また、シェル層のガラス状ポリマーとして好ましくはカルボキシル基含有モノマーの共重合体を用いており、ゴム粒子の弾性が不十分で耐衝撃性効果に乏しく、また、安定性に欠け、さらに、上記特許文献1〜3と同様にゴム粒子の単分散性をフェノール樹脂中で確保したり、硬化前のフェノール樹脂組成物の粘度を低減したりする方法としては充分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭61−050501号公報
【特許文献2】特開平3−017149号公報
【特許文献3】特公平7−02895号公報
【特許文献4】特開2004−182845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、フェノール樹脂本来の機械的強度、及び耐熱性を維持しながら、耐衝撃性、及び柔軟性が向上されたフェノール樹脂硬化物が得られる液状フェノール系樹脂組成物、その製造方法、フェノール樹脂組成物、及びその硬化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
鋭意検討した結果、本発明者は、特定の構成を有するコアシェル構造のポリマー粒子を用い、また、それを含む本発明の液状フェノール系樹脂組成物を用いれば、その硬化物やそれを配合したフェノール樹脂組成物の硬化物は、フェノール樹脂本来の機械的強度、及び耐熱性を維持しながら、耐衝撃性、及び柔軟性が向上されることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
また、このような本発明に係るポリマー粒子を、所定の方法によりフェノール系樹脂中に一次粒子の状態で安定的に分散させてなる本発明の液状フェノール系樹脂組成物の製造方法も同時に見出した。
【0012】
なお、本明細書においてポリマー粒子が「一次粒子の状態で分散している」とは、0.01μm〜0.5μmの体積平均粒径の粒子である個々のポリマー粒子同士が、フェノール樹脂組成物中で互いに凝集せず、それぞれ独立して分散していることを意味する。
【0013】
すなわち、本発明の液状フェノール系樹脂組成物は、フェノール系樹脂100重量部、及び体積平均粒子径(Mv)が、0.01μm以上、かつ、0.5μm以下のポリマー粒子21〜40重量部を含む液状フェノール系樹脂組成物であって、前記フェノール系樹脂の重量平均分子量が、100〜600であり、前記ポリマー粒子が、その内側に存在する弾性コア層、及びその最も外側に存在するシェル層の少なくとも2層を含み、前記弾性コア層が、ガラス転移温度が10℃未満の架橋ゴム重合体からなり、かつ、前記シェル層が、OH基含有モノマー15〜40重量%、芳香族ビニルモノマー10〜60重量%、(メタ)アクリル酸エステルモノマー10〜60重量%、グリシジル基含有モノマー0〜1重量%、ニトリル基含有モノマー0〜5重量%、カルボキシル基含有モノマー0〜1重量%、及びその他のビニルモノマー(A)0〜40重量%、合計100質量%からなるグラフト成分の重合体である液状フェノール系樹脂組成物である。
【0014】
好ましい実施態様は、前記フェノール系樹脂を、塩基性触媒、及びアンモニア触媒からなる群から選ばれる1種以上の触媒の存在下、フェノール類とホルムアルデヒド類とを、フェノール類1に対して、ホルムアルデヒド類1.5〜3.0のモル比となるようにして反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂とすることであり、ノボラック型フェノール樹脂で必要となる、高価で、かつ、成型時に分解ガスの発生により成型品の品質低下が懸念されるヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤や、レゾルシン等の硬化促進剤、結晶性フェノール化合物を使用しなくて良い。
【0015】
好ましい実施態様は、前記架橋ゴム重合体を、ブタジエン90〜100重量%、多官能性モノマー0〜10重量%、及びその他のビニルモノマー(C)、合計100質量%からなるコア成分を重合してなる重合体とすることである。
【0016】
好ましい実施態様は、前記液状フェノール樹脂組成物を、前記ポリマー粒子が、一次粒子の状態で前記フェノール系樹脂に分散している液状フェノール系樹脂組成物とすることであり、特別な分散操作を行うことなくポリマー粒子が均一に分散した硬化物を得ることが可能となる。
【0017】
好ましい実施態様は、前記液状フェノール樹脂組成物を、さらに、ケトン系有機溶媒を10〜30重量部を含む液状フェノール系樹脂組成物とすることである。
【0018】
好ましい実施態様は、前記液状フェノール樹脂組成物を、密閉容器に充填されてなる液状フェノール系樹脂組成物とすることである。
【0019】
また、本発明は、前記本発明の液状フェノール系樹脂組成物をマスターバッチとして100重量部含み、さらに、フェノール系樹脂を100〜2000重量部含む液状フェノール系樹脂組成物に関する。
【0020】
さらに、本発明は、前記本発明の液状フェノール系樹脂組成物を、加熱硬化、及び酸性触媒硬化からなる群から選ばれる1種以上の方法で硬化させてなる硬化物に関する。
【0021】
またさらに、本発明は、前記本発明の液状フェノール系樹脂組成物の製造方法であって、順に、ポリマー粒子を含有する水性ラテックスを、20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒と混合した後、さらに過剰の水と混合して、ポリマー粒子を凝集させる第1工程と、凝集したポリマー粒子を液相から分離・回収した後、再度有機溶媒と混合して、ポリマー粒子の有機溶媒溶液を得る第2工程と、有機溶媒溶液をさらにフェノール系樹脂と混合した後、有機溶媒を留去する第3工程と、を含んで調製される液状フェノール系樹脂組成物の製造方法に関し、このような製造方法で製造された本発明の液状フェノール系樹脂組成物は、前記ポリマー粒子が、一次粒子の状態で前記フェノール系樹脂中に分散されてなるため、そのフェノール樹脂組成物は、ハンドリング性、及び物性の再現性に優れ、また、ポリマー粒子の合成に由来する乳化剤や電解質等の夾雑物の残存量が少なくできるので、低吸湿性であり、また、電気的特性に優れる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の液状フェノール系樹脂組成物は、特定の構成を有するコアシェル構造を有するポリマー粒子が、特定のフェノール系樹脂に、特定の状態で配合されているので、マトリックス樹脂であるフェノール系樹脂中へのゴム成分の分散性に優れ、その結果少ないゴム量の添加で、それを含むフェノール樹脂組成物は、フェノール樹脂本来の機械的強度、及び耐熱性を維持しながら、耐衝撃性、及び柔軟性が向上させることが可能なフェノール樹脂組成物となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(液状フェノール系樹脂組成物)
本発明の液状フェノール系樹脂組成物は、フェノール系樹脂100重量部、及びポリマー粒子21〜40重量部を含む液状フェノール系樹脂組成物であって、特定の構成を有するコアシェル構造を有するポリマー粒子が、特定のフェノール系樹脂に、特定の状態で配合されているので、マトリックス樹脂であるフェノール系樹脂中へのゴム成分の分散性に優れ、その結果少ないゴム量の添加で、それを含むフェノール樹脂組成物は、フェノール樹脂本来の機械的強度、及び耐熱性を維持しながら、耐衝撃性、及び柔軟性が向上させることが可能なフェノール樹脂組成物となる。
【0024】
即ち、本発明に係るポリマー粒子は、体積平均粒子径(Mv)が、0.01μm以上、かつ、0.5μm以下であり、その粒子の内側に存在する弾性コア層、及び、最も外側に存在するシェル層の少なくとも二層から構成される多層構造を有しており、前記弾性コア層が、ガラス転移温度が10℃未満の架橋ゴム重合体からなり、かつ、前記シェル層が、OH基含有モノマーを15〜40重量%、芳香族ビニルモノマー10〜60重量%、及び(メタ)アクリル酸エステルモノマー10〜60重量%を含むグラフト成分の重合体なので、フェノール樹脂との相溶性を確保するための部分(シェル層)とゴム粒子(弾性コア層)とが分離されており、また、ゴム粒子のフェノール樹脂への無制限の膨潤が防止されており、さらに、高度な耐衝撃性改良効果を有する安定的なゴム粒子であり、その結果、本発明の液状フェノール系樹脂組成物は、ゴム粒子が高分散され、かつ、低粘度のものとなる。
【0025】
前記シェル層は、より具体的には、OH基含有モノマーを15〜40重量%、芳香族ビニルモノマー10〜60重量%、(メタ)アクリル酸エステルモノマー10〜60重量%、グリシジル基含有モノマー0〜1重量%、ニトリル基含有モノマー0〜5重量%、カルボキシル基含有モノマー0〜1重量%、及びその他のビニルモノマー(A)0〜40重量%、合計100質量%からなるグラフト成分の重合体であり、OH基を多量に含むので、フェノール系樹脂への相溶性に優れ、本発明に係るポリマー粒子の分散性に寄与しており、また、芳香族ビニルモノマーに由来するベンゼン環を多量に含むのでさらにフェノール系樹脂への相溶性に優れ、さらに、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、その中でも好ましくはメチルメタクリル酸エステルを用いた場合には、さらに相溶性に優れる。また、これらの特徴を有するだけでなく、本発明に係るフェノール系樹脂中のフェノール性OH基との反応性が高いグリシジル基が少ないので、本発明の液状フェノール系樹脂組成物を硬化させたり、高粘度化したりすることがなく、また、ニトリル基が少ないので、それを導入するために重合に用いられ、その結果残存する環境負荷があるモノマーを少なくすることができ、さらに、カルボキシル基等の酸基が少ないので、本発明の液状フェノール系樹脂組成物の長期安定性が確保し易い。
【0026】
このような本発明の液状フェノール系樹脂組成物のアニオン系界面活性剤の含有量は、本発明に係るフェノール樹脂硬化成型品を高品質なものとする観点から、好ましくは0〜1000重量ppm、より好ましくは0〜100ppm、さらに好ましくは0〜90ppmである。
【0027】
前記フェノール系樹脂は、その重量平均分子量が、100〜600であり、また好ましくは、本発明の液状フェノール系樹脂組成物は、前記フェノール系樹脂100重量部に対して、好ましくはケトン系有機溶媒を10〜30重量部、より好ましくは15〜25重量部含むので、その室温での粘度が、0.1〜250Pa・sであり、それをマスターバッチとして、硬化物の主成分となる他のフェノール樹脂に均一に容易に混合可能であり、また、ハンドリング性に優れる。さらに、常温での蒸気圧が高いケトン系有機溶媒を含む場合は、本発明の液状フェノール系樹脂組成物を、密閉容器に充填して保管・販売等して、その粘度の経時変化を最小限に抑えることが好ましい。
【0028】
このような本発明の液状フェノール系樹脂組成物は、好ましくは、前記ポリマー粒子が、一次粒子の状態で前記フェノール系樹脂に分散している液状フェノール系樹脂組成物であり、より少ないゴム量の添加で上記効果を奏する。
【0029】
また、本発明の液状フェノール系樹脂組成物には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、染料、顔料、希釈剤、カップリング剤、フェノール系樹脂以外の樹脂等を、フェノール樹脂本来の機械的強度、及び耐熱性をその硬化物が損なわない範囲で必要に応じて適宜配合することができる。
【0030】
このような本発明の液状フェノール系樹脂組成物は、順に、ポリマー粒子を含有する水性ラテックス、例えば、乳化重合によってポリマー粒子を製造した後の反応混合物を、20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒と混合した後、さらに過剰の水と混合して、ポリマー粒子を緩凝集させポリマー粒子緩凝集体を得る第1工程と、そのポリマー粒子緩凝集体を液相から分離・回収した後、再度、分散用有機溶媒と混合して、ポリマー粒子が分散用有機溶媒中に分散したポリマー粒子分散液を得る第2工程と、そのポリマー粒子分散液をさらにフェノール系樹脂と混合した後、前記分散用有機溶媒を留去して本発明の液状フェノール系樹脂組成物を得る第3工程とを含んで調製されることが好ましい。かかる方法により、ポリマー粒子が一次粒子の状態で分散している(以下、一次分散とも呼ぶ。)液状フェノール系樹脂組成物を容易に得ることができるので、このような本発明の液状フェノール系樹脂組成物、又は、それを更にフェノール樹脂に添加した本発明のフェノール樹脂組成物、即ち、本発明の液状フェノール系樹脂組成物を所謂マスターバッチとしてフェノール樹脂組成物に添加した樹脂組成物は、ハンドリング性に優れ、また、それらの硬化物は物性の再現性、均一性に優れたものとなる。
【0031】
本明細書において、一次分散しているとは、後述する粒子分散率が90%以上であることである。
【0032】
さらに、このような本発明のフェノール樹脂組成物の製造方法では、ポリマー粒子の合成に由来する乳化剤や電解質等の夾雑物の残存量を少なくできるので、低吸湿性であり、また、電気的特性に優れた液状フェノール系樹脂組成物となり、例えば電気・電子部品の封止・絶縁材料、光学部品用接着剤、絶縁塗料などの用途に好適に使用することができる。このような本発明の液状フェノール系樹脂組成物の調製方法については、以下の(液状フェノール系樹脂組成物の調製方法)に、より詳細に説明する。
【0033】
本発明には、上記本発明の液状フェノール系樹脂組成物をマスターバッチとして100重量部含み、そのマスターバッチ100重量部に対して、さらに、フェノール系樹脂を100〜2000重量部含む液状フェノール系樹脂組成物が含まれ、より好ましくは、フェノール系樹脂200〜1000重量部、さらに好ましくは300〜700重量部である。このような本発明のフェノール樹脂組成物は、高性能なポリマー粒子が高濃度、一次粒子の状態で分散し、かつ、低粘度の本発明の液状フェノール系樹脂組成物が添加されてなるので、容易に高性能なポリマー粒子が均一に分散したフェノール樹脂組成物として得ることができる。
【0034】
(硬化物)
本発明には、上記液状フェノール系樹脂組成物を、加熱硬化、及び酸性触媒硬化からなる群から選ばれる1種以上の方法で硬化して得られる硬化物が含まれる。前記本発明のフェノール樹脂組成物では、ポリマー粒子が一次粒子の状態で分散していることから、これを硬化することによって、ポリマー粒子が均一に分散した硬化物を容易に得ることができる。また、本発明に係るポリマー粒子は、上述の如く、フェノール樹脂に対して膨潤し難く、また、好ましくはフェノール樹脂組成物が液状であり、かつ、粘性が低いことから、本発明の硬化物は、作業性よく得ることができる。
【0035】
本発明のフェノール樹脂組成物の成型は、例えば、トランスファー成型法、射出成型法、圧縮成型法注型法などの従来公知の成型法によって実施することができる。
【0036】
(フェノール系樹脂)
本発明に係るフェノール系樹脂は、本発明の低粘度の液状フェノール系樹脂組成物の原料であることから、その重量平均分子量が、100〜600であることを要し、好ましくは100〜350であり、フェノール類、及びナフトール類からなる群から選ばれる1種以上と、ホルムアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物であるホルムアルデヒド類と、をトルエンスルホン酸、蓚酸、塩酸、硫酸等を加えた酸性触媒下で加熱、(共)縮合して得られるノボラック型フェノール樹脂、アルカリ性触媒下で(共)縮合して得られるレゾール型フェノール樹脂等が好ましく例示される。
【0037】
前記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、カテコール、レゾルシノール等が、前記ナフトール類としては、α−ナフトール、β−ナフトール等が挙げられるが、フェノール類が、コストの観点から好ましく、その中でも、フェノールがハンドリング性、及び硬化物の物性の観点から好ましく用いられる。このようなフェノール系樹脂は、メチロール基を有する反応性のオリゴマーである。
【0038】
また、本発明に係るフェノール系樹脂は好ましくは、塩基性触媒、及びアンモニア触媒からなる群から選ばれる1種以上の触媒の存在下、フェノール類とホルムアルデヒド類とを、フェノール類1に対して、ホルムアルデヒド類1.5〜3.0のモル比となるようにして反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂であり、ノボラック型フェノール樹脂で必要となる、高価で、かつ、成型時に分解ガスの発生により成型品の品質低下が懸念されるヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤や、レゾルシン等の硬化促進剤、結晶性フェノール化合物を使用しなくて良い。
【0039】
前記ホルムアルデヒド類としては、ホルマリン水溶液のようなホルフアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキシメチレン、ヘキサメチレンテトラミン、トリオキサン等が挙げられる。
【0040】
(ポリマー粒子)
本発明の液状フェノール系樹脂組成物において、本発明に係るポリマー粒子は、上述したようにフェノール系樹脂100重量部に対して、ポリマー粒子21〜40重量部が含まれるように調製されるが、低粘度、かつ、一次分散を維持する観点から22〜30重量部とすることがより好ましく、さらに好ましくは23〜28重量部である。
【0041】
本発明に係るポリマー粒子は、上述したように、その内側に存在する弾性コア層、及びその最も外側に存在するシェル層の少なくとも2層を含むが、フェノール樹脂組成物の硬化物に対する耐衝撃性改善効果を充分なものとし、また、ポリマー粒子の取扱い時に凝集等を発生なく安定的に容易に高分散状態を維持する観点から、弾性コア層/シェル層比率(各々の重合体製造モノマー質量比)で、40/60〜95/5の範囲であることが好ましく、50/50〜90/10であることがより好ましく、60/40〜88/12であることが更に好ましい。
【0042】
(ケトン系溶媒)
前記ケトン系溶媒としては、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンからなる群からなる1種以上が好ましく、取り扱い易さの観点からメチルエチルケトンがより好ましい。
【0043】
(中間層)
また、本発明に係るポリマー粒子は、前記コア層と前記シェル層との間に同一分子内にラジカル性二重結合を2以上有するモノマー(以下、「多官能性モノマー」と称する場合がある。)を主成分とする中間層成分を重合して形成される中間層を有するコアシェルポリマー粒子とすることが好ましく、低粘度の液状フェノール樹脂組成物となるので、その硬化物の成形性が改善される。即ち、ポリマー粒子は、ラジカル性二重結合を2以上有するモノマーを含む中間層で弾性コア層を被覆し、さらにシェル層で中間層を被覆して構成することで、二重結合の一つを介して、中間層形成用モノマーが弾性コア層を形成するポリマーにグラフト重合して、実質的に中間層とシェル層とを化学結合させるとともに、残りの二重結合を介して弾性コア層表面を架橋する。また、弾性コア層に多くの二重結合が配されることから、シェル層のグラフト効率が高められ、ポリマー粒子の弾性コア層の架橋密度が上がるため、ポリマー粒子を液状の樹脂構成成分と混合しても膨潤し難くなる。その結果、液状樹脂組成物の粘性の上昇を防ぐことができる。また、その結果、シェル層と弾性コア層とを中間層を介してより一層強固に結合させることができる。
【0044】
前記中間層成分は、多官能性モノマー50〜100重量%、及びその他のビニルモノマー(B)0〜50重量%からなることが好ましく、ポリマー粒子全体を100重量部としたときの中間層成分のモノマー量は、耐膨潤性、及びグラフト効率と、耐衝撃性とをバランス良く発現するために、0.5重量部以上、好ましくは1重量部以上であり、10重量部以下、好ましくは6重量部以下、さらには3.5重量部以下である。
【0045】
(ポリマー粒子の製造方法)
本発明に係るポリマー粒子は、その内側に存在する弾性コア層、及びその最も外側に存在するシェル層の少なくとも2層からなる、所謂コアシェル構造を有し、周知の方法、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合等で製造することができる。中でも、ポリマー粒子の構造制御の観点から、乳化重合、特に多段乳化重合が好ましい。
【0046】
このようなポリマー粒子の粒子径は、その水性ラテックスを安定的に得ることができる範囲であるその体積平均粒子径(Mv)が、0.01μm以上、かつ、0.5μm以下の範囲で設定できるが、本発明のフェノール樹脂組成物の硬化物の耐衝撃性、及び、工業生産性の観点からより好ましくは、Mvが、0.03μm以上、かつ、0.3μm以下である。なお、このようなポリマー粒子の体積平均粒子径(Mv)は、マイクロトラックUPA150(日機装株式会社製)を用いて測定することができる。
【0047】
前記乳化重合において用いることができる乳化剤(分散剤)としては、ジオクチルスルホコハク酸やドデシルベンゼンスルホン酸等に代表されるアルキルまたはアリールスルホン酸、アルキルまたはアリールエーテルスルホン酸、ドデシル硫酸に代表されるアルキルまたはアリール硫酸、アルキルまたはアリールエーテル硫酸、アルキルまたはアリール置換燐酸、アルキルまたはアリールエーテル置換燐酸、ドデシルザルコシン酸に代表されるN−アルキルまたはアリールザルコシン酸、オレイン酸やステアリン酸等に代表されるアルキル、又はアリールカルボン酸、アルキルまたはアリールエーテルカルボン酸等の各種の酸類、これら酸類のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩などのアニオン性乳化剤(分散剤);アルキルまたはアリール置換ポリエチレングリコール等の非イオン性乳化剤(分散剤);ポリビニルアルコール、アルキル置換セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸誘導体等の分散剤が挙げられる。これらの乳化剤(分散剤)は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
ポリマー粒子の水性ラテックスの分散安定性に支障を来さない限り、乳化剤(分散剤)の使用量は少なくすることが好ましい。また、乳化剤(分散剤)は、その水溶性が高いほど好ましい。水溶性が高いと、乳化剤(分散剤)の水洗除去が容易になり、最終的に得られる重縮合体への悪影響を容易に防止できる。
【0049】
(弾性コア層)
本発明に係る弾性コア層は、本発明のフェノール樹脂組成物の硬化物に、靭性を付与し得るゴムとしての性質を有するガラス転移温度が10℃未満の架橋ゴム重合体からなる。また、弾性コア層は単層構造であることが多いが、多層構造であってもよい。また、弾性コア層が多層構造の場合は、各層のポリマー組成が各々相違していてもよい。
【0050】
このようなゴムとしての性質を有する弾性コア層を形成し得るポリマーとしては、ジエン系モノマー(共役ジエン系モノマー)、及び(メタ)アクリレート系モノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマー(第1モノマー)を50〜100質量%、および他の共重合可能なビニル系モノマー(第2モノマー)を0〜50質量%含んで構成されるゴム弾性体や、ポリシロキサンゴム系弾性体、あるいはこれらを併用したものが挙げられる。
【0051】
前記弾性コア層重合体は、ゴムとしての性質を有するために、そのTgが、10℃未満であることを要し、好ましくは、0℃以下(例えば、−100℃〜0℃)である。また、このような弾性コア層として用いられ得るゴムとしては、前記ゴム重合体製造用モノマーの内で主となるモノマー、即ち、第1モノマーとなるモノマーの種類に応じて、主に共役ジエン系モノマーを重合することにより得られるジエン系ゴム、主に(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを重合することにより得られるアクリルゴム、及びポリシロキサンゴムが挙げられ、これらを併用したもの、又は、複合化したものが用いられ得るが、硬化物の耐衝撃性の観点から、好ましくはジエン系ゴムである。
【0052】
本発明で用いるポリマー粒子のフェノール樹脂組成物中での分散安定性を保持する観点、及び、前記フェノール系樹脂へのゴム重合体の膨潤を防ぐ観点から、弾性コア層は、上記モノマーを重合してなるポリマー成分に架橋構造が導入されていることを要する。このようなゴムの架橋の有無は、例えば、ゴム重合体の単体を、メチルイソブチルケトン(MIBK)や、メチルエチルケトン(MEK)等の溶剤に、溶かそうとしたときに、溶けるか否かで判断でき、本発明に係る架橋ゴム重合体は、これらの溶剤に不溶である。
【0053】
このような架橋構造の導入方法としては、特に限定されるものではなく、一般的に用いられる手法を採用することができる。例えば、上記モノマーを重合してなるポリマー成分に架橋構造を導入する方法としては、ポリマー成分に後述する多官能性モノマーやメルカプト基含有化合物等の架橋性モノマーを添加し、次いで重合する方法等が挙げられる。また、ポリシロキサン系ポリマーに架橋構造を導入する方法としては、重合時に多官能性のアルコキシシラン化合物を一部併用する方法や、ビニル反応性基、メルカプト基等の反応性基をポリシロキサン系ポリマーに導入し、その後ビニル重合性のモノマーあるいは有機過酸化物等を添加してラジカル反応させる方法、あるいは、ポリシロキサン系ポリマーに多官能ビニル化合物やメルカプト基含有化合物等の架橋性モノマーを添加し、次いで重合する方法等が挙げられる。具体的には、前記架橋ゴム重合体からなる本発明に係る弾性コア層は、ゲル含量が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。なお、本明細書でいうゲル含量とは、凝固、乾燥により得られたクラム0.5gをトルエン100gに浸漬し、23℃で24時間静置した後に不溶分と可溶分を分別したときの、不溶分と可溶分の合計量に対する不溶分の比率を意味する。
【0054】
このようなことから、特に好ましくは、前記架橋ゴム重合体を、ブタジエン90〜100重量%、多官能性モノマー0〜10重量%、及びその他のビニルモノマー(C)、合計100質量%からなるコア成分を重合してなる重合体とすることである。多官能性モノマーの使用量が10%を超えるとゴム粒子コアが有する、フェノール樹脂硬化物に靭性を付与する能力が低下する傾向がある。
【0055】
弾性コア層を構成し得るゴム弾性体は、上記第1モノマーとビニル系モノマー(第2モノマー)とのコポリマーであってもよい。
【0056】
なお、本明細書において(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル、及び/又は、メタクリル酸エステル、を意味する。
【0057】
(第1モノマー)
(ジエン系モノマー)
弾性コア層の形成に用い得るジエン系モノマー(共役ジエン系モノマー)としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。これらのジエン系モノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に好ましくは1,3−ブタジエンである。上述したように、本発明に係る架橋ゴム重合体は、ブタジエン90〜100重量%、多官能性モノマー0〜10重量%、及びその他のビニルモノマー(C)、合計100質量%からなるコア成分を重合してなる重合体とすることが好ましいが、少ないゴム量で大きな耐衝撃性を付与する観点から、より好ましくはブタジエンを95〜100重量%、特に好ましくは97〜100重量%とすることである。
【0058】
((メタ)アクリレート酸エステルモノマー)
また、弾性コア層の形成に用い得る(メタ)アクリレート酸エステルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレート等のグリシジル(メタ)アクリレート類;アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;
アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレート等のアリルアルキル(メタ)アクリレート類;モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレート類等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレート系モノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に好ましくはエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0059】
弾性コア層を構成し得るゴム弾性体は、上記第1モノマーとビニル系モノマー(第2モノマー)とのコポリマーであってもよい。ビニル系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類;アクリル酸、メタクリル酸等のビニルカルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレン等のハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のアルケン類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等の多官能性モノマー等が挙げられる。これらのビニル系モノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に好ましくはスチレンである。
【0060】
また、弾性コア層を構成し得るポリシロキサンゴム系弾性体としては、例えば、ジメチルシリルオキシ、ジエチルシリルオキシ、メチルフェニルシリルオキシ、ジフェニルシリルオキシ等の、アルキル或いはアリール2置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサン系ポリマーが挙げられる。これらのポリシロキサン系ポリマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に好ましくはジメチルシリルオキシ、ジエチルシリルオキシである。
【0061】
(多官能性モノマー)
本発明に係る架橋ゴム重合体は、多官能性モノマー0〜10重量%を含むコア成分を重合してなる重合体とすることが好ましいが、充分架橋することで膨潤を防ぎ、かつ、耐衝撃性付与効果を充分なものとするために、より好ましくは多官能性モノマーを0〜5重量%、特に好ましくは0〜3重量%を含むコア成分を重合してなる重合体とすることが好ましい。
【0062】
前記多官能性モノマーとしては、ブタジエンは含まれず、アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレート等のアリルアルキル(メタ)アクリレート類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレート類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。特に好ましくはアリルメタアクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンである。
【0063】
(シェル層)
本発明に係るシェル層は、ポリマー粒子とフェノール系樹脂との相溶性を向上させ、フェノール樹脂中あるいはフェノール樹脂組成物の硬化物中においてポリマー粒子が一次粒子の状態で分散することを可能にする役割を担い、OH基含有モノマー15〜40重量%、芳香族ビニルモノマー10〜60重量%、(メタ)アクリル酸エステルモノマー10〜60重量%、グリシジル基含有モノマー0〜1重量%、ニトリル基含有モノマー0〜5重量%、カルボキシル基含有モノマー0〜1重量%、及びその他のビニルモノマー0〜40重量%、合計100質量%からなるグラフト成分を重合してなる重合体からなる。
【0064】
前記グラフト成分中の各成分につき、OH基含有モノマーを15〜40重量%、芳香族ビニルモノマー10〜60重量%、(メタ)アクリル酸エステルモノマー10〜60重量%とし、グリシジル基含有モノマー、ニトリル基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマーを含まないようにして、その他のビニルモノマー0〜40重量%、合計100質量%からなるグラフト成分を重合してなる重合体とすることが好ましい。
【0065】
(OH基含有モノマー)
シェル層の形成に用いられる全モノマー成分の内、前記OH基含有モノマーの含有率は、本発明の液状フェノール系樹脂組成物中での前記ポリマー粒子の分散性を向上するために、好ましくは、15〜35重量%、より好ましくは25〜35重量%である。
【0066】
好ましいモノマー成分としては、ヒドロキシル基を側鎖に有するモノマーであり、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ直鎖アルキル(メタ)アクリレート(特に、ヒドロキシ直鎖C1-6アルキル(メタ)アクリレート);カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート;α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル等のヒドロキシ分岐アルキル(メタ)アクリレート、二価カルボン酸(フタル酸等)と二価アルコール(プロピレングリコール等)とから得られるポリエステルジオール(特に飽和ポリエステルジオール)のモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類が挙げられる。これらのモノマー成分は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
(芳香族ビニルモノマー)
シェル層の形成に用いられる全モノマー成分の内、前記芳香族ビニルモノマーの含有率は、本発明の液状フェノール系樹脂組成物中での前記ポリマー粒子の分散性を向上するために、好ましくは、15〜45重量%、より好ましくは25〜35重量%である。
【0068】
好ましいモノマー成分としては、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類が挙げられるが、相溶性の観点からスチレンが好ましい。これらのモノマー成分は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
(シェル層用の(メタ)アクリル酸エステルモノマー)
シェル層の形成に用いられる全モノマー成分の内、前記(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有率は、本発明の液状フェノール系樹脂組成物中での前記ポリマー粒子の分散性を向上するために、好ましくは、25〜55重量%、より好ましくは35〜45重量%である。
【0070】
好ましいモノマー成分としては、上述の((メタ)アクリレート酸エステルモノマー)の内、前記多官能性モノマー、前記OH基含有モノマー、及び前記芳香族ビニルモノマーからなる群以外の(メタ)アクリル酸エステルモノマーがが挙げられるが、相溶性の観点からメタクリル酸メチルが好ましい。これらのモノマー成分は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
(グリシジル基含有モノマー)
シェル層の形成に用いられる全モノマー成分の内、前記グリシジル基含有モノマーの含有率は、本発明の液状フェノール系樹脂組成物に含まれるフェノール系樹脂のフェノール性OH基と、反応して、粘度が上昇しないように、好ましくは、1重量%以下、より好ましくは含まないことである。
【0072】
このようなグリシジル基含有モノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル等が挙げられる。
【0073】
(ニトリル基含有モノマー)
シェル層の形成に用いられる全モノマー成分の内、前記ニトリル基含有モノマーの含有率は、本発明の液状フェノール系樹脂組成物に含まれる残存モノマーによる環境負荷がないように、好ましくは、5重量%以下、より好ましくは含まないことである。
【0074】
このようなグニトリル基含有モノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
【0075】
(カルボキシル基含有モノマー)
シェル層の形成に用いられる全モノマー成分の内、前記カルボキシル基含有モノマーの含有率は、本発明の液状フェノール系樹脂組成物を不安定にしないように、好ましくは、1重量%以下、より好ましくは含まないことである。
【0076】
このようなカルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸等の不飽和カルボン酸、またはこれら不飽和カルボン酸の無水物等が挙げられる。
【0077】
(その他のビニルモノマー)
シェル層の形成に用いられる全モノマー成分の内、前記その他のビニルモノマー(A)の含有率は、好ましくは、40重量%以下である。
【0078】
このようなその他のビニルモノマー(A)としては、上述したOH基含有モノマー、芳香族ビニルモノマー、シェル層用の(メタ)アクリル酸エステルモノマー、グリシジル基含有モノマー、ニトリル基含有モノマー、及びカルボキシル基含有モノマーのいずれでもでないビニルモノマーであって、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレン等のハロゲン化ビニル類;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のアルケン類等が挙げられ、これらのモノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
前記中間層用のその他のビニルモノマー(B)や、前記架橋ゴム重合体用のその他のビニルモノマー(C)としては、上述した多官能性モノマー以外のモノマーであって、上述のその他のビニルモノマー(A)として例示されているモノマー以外に、上述したOH基含有モノマー、芳香族ビニルモノマー、シェル層用の(メタ)アクリル酸エステルモノマー、グリシジル基含有モノマー、ニトリル基含有モノマー、及びカルボキシル基含有モノマー等や、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類;アルキル(メタ)アクリレート類等が挙げられ、これらのモノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
(中間層)
本発明の液状樹脂組成物は、前記ポリマー粒子100質量%中、前記中間層を0.2質量%以上7質量%以下含むことが好ましい実施態様である。また、前記二重結合を2以上有するモノマーが、(メタ)アクリレート系多官能性モノマー、イソシアヌル酸誘導体、芳香族ビニル系多官能性モノマー、芳香族多価カルボン酸エステル類から選択される少なくとも1種であることが好ましい実施態様である。
【0081】
上記構成によれば、弾性コア層表面にラジカル重合性二重結合がより十分に配されることとなる。
【0082】
なお、本明細書において、中間層を構成する中間層形成用モノマーの総重量部を、上記中間層の重量部として取り扱うこととする。
【0083】
本発明で用いることができる中間層形成用モノマーとしては、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレートなどの(メタ)アクリレート系の多官能性モノマー;ブタジエン、イソプレンなどのジエン類;ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルアントラセンなどの芳香族ビニル系の多官能性モノマー;トリアリルベンゼントリカルボキシレート、ジアリルフタレートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類;トリアリルアミンなどの三級アミン類;ジアリルイソシアヌレート、ジアリル−n−プロピルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどのイソシアヌル酸誘導体;トリアリルシアヌレートに代表されるシアヌル酸誘導体;トリ(メタ)アクリロイルヘキサハイドロトリアジン;2,2'−ジビニルビフェニル、2,4'−ジビニルビフェニル、3,3'−ジビニルビフェニル、4,4'−ジビニルビフェニル、2,4'−ジ(2−プロペニル)ビフェニル、4,4'−ジ(2−プロペニル)ビフェニル、2,2'−ジビニル−4−エチル−4'−プロピルビフェニル、3,5,4'−トリビニルビフェニルなどのビフェニル誘導体などがあげられる。これらのモノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、弾性コア層の架橋密度を上げたりシェル層のグラフト効率を高める点から、(メタ)アクリレート系の多官能性モノマーやイソシアヌル酸誘導体が好ましく、特にアリル(メタ)アクリレートやトリアリルイソシアヌレートが好ましい。さらに、ポリマー粒子自体の耐熱性を向上させることができる点から、イソシアヌル酸誘導体(特にトリアリルイソシアヌレート)が好ましい。
【0084】
本発明のポリマー粒子において、中間層の含有率は、ポリマー粒子全体を100質量%として0.2質量%以上(より好ましくは0.5質量%以上、さらには1.0質量%以上)、7質量%以下(より好ましくは5質量%以下、さらには2質量%以下)が好ましい。中間層の含有率が0.2質量%未満の場合には、弾性コア層の架橋密度を上げたりシェル層のグラフト効率を十分に高めることができない場合がある。また、中間層の含有率が7質量%を超える場合には、弾性コア層の架橋密度が高くなって弾性体としての能力が低下することとなって、ポリマー粒子に由来する特性を硬化物に十分に付与できない場合がある。
【0085】
(フェノール樹脂組成物の調製方法)
上述したように、本発明のフェノール樹脂組成物の製造法は、順に、ポリマー粒子緩凝集体を得る第1工程、ポリマー粒子分散液を得る第2工程、及びフェノール樹脂組成物を得る第3工程を含んで調製されることが好ましい。
【0086】
(第1工程:ポリマー粒子緩凝集体の調製)
第1工程は、20℃における水に対する溶解度が好ましくは5質量%以上で、40質量%以下(特に30質量%以下)の有機溶媒と、乳化重合によって得られたポリマー粒子を含有する水性ラテックスとを混合する操作を含む。かかる有機溶媒を用いることによって、上記混合操作の後、さらに水を添加すると(後述する)相分離することとなって、再分散が可能な程度の緩やかな状態でポリマー粒子を凝集させることができる。
【0087】
有機溶媒の溶解度が5質量%未満の場合には、ポリマー粒子を含有する水性ラテックスとの混合がやや困難になる場合がある。また、溶解度が40質量%を超える場合には、第2工程において(後述する)ポリマー粒子を液相(主として水相)から分離・回収することが難しくなる場合がある。
【0088】
20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン等のケトン類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロピラン等のエーテル類、メチラール等のアセタール類、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール等のアルコール類等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
第1工程で用いる有機溶媒は、20℃における水に対する溶解度が全体として5質量%以上40質量%以下を示す限り、混合有機溶媒であってもよい。例えば、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン等のケトン類、ジエチルカーボネート、ギ酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類等の低水溶性の有機溶媒と、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、γ−バレロラクトン、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル等のエステル類、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、テトラヒドロフラン等の高水溶性の有機溶媒とを2種以上適宜組み合わせた混合有機溶媒が挙げられる。
【0090】
また、第1工程で用いる有機溶媒は、後述する第2工程における液相(主として水相)の除去を容易にする観点から、比重が水よりも軽いものであることが好ましい。
【0091】
水性ラテックスと混合する有機溶媒の混合量は、水性ラテックス100重量部に対して50重量部以上(特に60重量部以上)、250重量部以下(特に150重量部以下)であることが好ましい。有機溶媒の混合量が50重量部未満の場合には、水性ラテックスに含有されるポリマー粒子の凝集体が生成し難くなる場合がある。また、有機溶媒の混合量が300重量部を超える場合には、その後ポリマー粒子を凝集させるために要する水量が増大して、製造効率が低下する場合がある。
【0092】
上記水性ラテックスと有機溶媒との混合操作には、公知のものが使用可能である。例えば、撹拌翼つきの撹拌槽等の一般的装置を使用してもよく、スタティックミキサ(静止混合器)やラインミキサ(配管の一部に撹拌装置を組み込む方式)などを使用してもよい。
【0093】
第1工程は、上記水性ラテックスと有機溶媒とを混合する操作の後、さらに過剰の水を添加して混合する操作を含む。これにより、相分離することとなって、緩やかな状態でポリマー粒子を凝集させることができる。また、あわせて、水性ラテックスの調製に際して使用した水溶性の乳化剤もしくは分散剤、水溶性を有する重合開始剤、あるいは還元剤等の電解質の大半を水相に溶出させることができる。
【0094】
水の混合量は、水性ラテックスと混合させる際に使用した上記有機溶媒100重量部に対し40重量部以上(特に60重量部以上)、300重量部以下(特に250重量部以下)であることが好ましい。水の混合量が40重量部未満では、ポリマー粒子を凝集させることが困難となる場合がある。また、水の混合量が300重量部を超える場合には、凝集したポリマー粒子中の有機溶媒濃度が低くなるため、後述する第2工程において凝集したポリマー粒子を再分散させるのに要する時間が長期化する等、ポリマー粒子の分散性が低下する場合がある。
【0095】
(第2工程:ポリマー粒子分散液の調製)
第2工程は、凝集したポリマー粒子を液相から分離・回収して、ポリマー粒子ドープを得る操作を含む。かかる操作によって、ポリマー粒子から乳化剤等の水溶性の夾雑物を分離・除去することができる。
【0096】
凝集したポリマー粒子を液相から分離・回収する方法としては、例えば、凝集したポリマー粒子は液相に対し一般に浮上性があるため、第1工程で撹拌槽を用いた場合には、撹拌槽の底部から液相(主として水相)を排出したり、濾紙、濾布や比較的開き目の粗い金属製スクリーンを使って濾過したりする方法が挙げられる。
【0097】
ポリマー粒子の凝集体に含まれる有機溶媒の量は、ポリマー粒子全体の質量に対して30質量%以上(特に35質量%以上)であることが好ましく、75質量%以下(特に70質量%以下)であることが好ましい。有機溶媒の含有量が30質量%未満では、ポリマー粒子ドープを有機溶媒へ再度分散させる(後述する)のに要する時間が長期化したり、不可逆な凝集体が残存し易くなったりするなどの不都合が生じる場合がある。また、有機溶媒の含有量が75質量%を超える場合には、その有機溶媒に水が多量に溶解・残存することとなることから、第3工程においてポリマー粒子が凝集する原因となる場合がある。
【0098】
なお、本明細書において、ポリマー粒子の凝集体に含まれる有機溶媒量は、ポリマー粒子の凝集体を精秤後120℃で15分間乾燥させ、そこで減少した量を凝集体に含まれていた有機溶媒量とすることによって求めた。
【0099】
第2工程は、ポリマー粒子の凝集体を有機溶媒と混合する操作を含む。ポリマー粒子は緩やかな状態で凝集していることから、上記有機溶媒と混合することによって、ポリマー粒子を有機溶媒中に一次粒子の状態で容易に再分散させることができる。
【0100】
第2工程で用いる有機溶媒としては、第1工程で用い得るものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。かかる有機溶媒を用いることにより、後述する第3工程において有機溶媒を留去する際に水と共沸して、ポリマー粒子に含まれる水分を除去することができる。また、第2工程で用いる有機溶媒は、第1工程で用いた有機溶媒と異なっていてもよいが、第2工程において、凝集体の再分散性をより確実にするという観点から、第1工程で用いた有機溶媒と同一種であることが好ましい。
【0101】
第2工程で用いる有機溶媒の混合量は、ポリマー粒子の凝集体100重量部に対して、40重量部以上(より好ましくは200重量部以上)、1400重量部以下(より好ましくは1000重量部以下)である。有機溶媒の混合量が40重量部未満では、有機溶媒中にポリマー粒子が均一に分散し難くなり、凝集したポリマー粒子が塊として残ったり、粘度が上昇して取り扱いが難しくなったりする場合がある。また、有機溶媒の混合量が1400重量部を超えると、後述する第3工程において有機溶媒を蒸発留去するに際して多量のエネルギーおよび大規模な装置を必要として不経済となる。
【0102】
本発明においては、第1工程と第2工程との間に、凝集したポリマー粒子を液相から分離・回収し、再度20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒と混合した後、さらに過剰の水と混合してポリマー粒子を凝集させる操作を1回以上行うことが好ましい。また、これによりポリマー粒子ドープ中に含まれる乳化剤等の水溶性の夾雑物の残存量をより低くすることができる。
【0103】
(第3工程:フェノール樹脂組成物の調製)
第3工程は、第2工程で得たポリマー粒子の有機溶媒溶液中の有機溶媒をフェノール樹脂に置換する操作を含む。かかる操作によって、ポリマー粒子が一次粒子の状態で分散したフェノール樹脂組成物を得ることができる。また、ポリマー粒子の凝集体に残存する水分を共沸留去することができる。
【0104】
第3工程で用いるフェノール樹脂の混合量は、最終的に望むフェノール樹脂組成物中のポリマー粒子濃度に応じて適宜調整すればよい。例えば、フェノール樹脂組成物中には、ポリマー粒子が1質量%以上(好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上)、また、60質量%以下(好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下)含まれていることが好ましい。ポリマー粒子の含有率が1質量%未満の場合には、フェノール樹脂組成物を用いて得られる本発明の透明硬化物において、目的とした強靭化効果、低応力化効果が十分に得られない場合がある。また、ポリマー粒子の含有率が60質量%を超える場合には、本発明の硬化物が十分な耐熱性を有さない場合がある。
【0105】
また、有機溶媒を留去する方法としては、公知の方法が適用できる。例えば、槽内に有機溶媒溶液とフェノール樹脂との混合物を仕込み、加熱減圧留去する方法、槽内で乾燥ガスと上記混合物を向流接触させる方法、薄膜式蒸発機を用いるような連続式の方法、脱揮機構を備えた押出機あるいは連続式撹拌槽を用いる方法等が挙げられる。有機溶媒を留去する際の温度や所要時間等の条件は、得られるフェノール樹脂組成物の品質を損なわない範囲で適宜選択することができる。また、フェノール樹脂組成物に残存する揮発分の量は、フェノール樹脂組成物の使用目的に応じて問題のない範囲で適宜選択できる。
【0106】
(硬化物)
本発明のフェノール樹脂組成物を硬化すると、耐衝撃性、及び柔軟性に優れた硬化物が得られる。その硬化方法は適宜選択すればよく、例えば熱処理や、酸硬化剤の添加、及びこれらの組み合わせなど、公知の硬化方法によって行うことができる。成型に際しては、例えば、本発明のフェノール樹脂組成物から、トランスファー成型法、射出成型法、圧縮成型法注型法等の従来公知の成型法によって硬化物を得ることもできる。
【0107】
このような本発明の硬化物は、フェノール樹脂本来の機械的強度、及び耐熱性を維持しながら、耐衝撃性、及び柔軟性が向上されることから、複合材料、接着剤、コーティング材料、積層版、封止材料に好適に用いることができる。
【0108】
(硬化剤)
本発明に用いられる液状フェノール樹脂組成物の硬化物を作製する際の硬化方法としては、代表的には熱および酸により硬化させる方法が挙げられる。酸硬化剤としては硫酸、塩酸、リン酸の如き無機強酸類、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スルホン化フェノール樹脂などの有曙強酸類などが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0109】
以下、実施例および比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0110】
(評価方法)
先ず、各実施例、及び比較例の液状フェノール系樹脂組成物、及びその硬化物の評価方法について、以下説明する。
【0111】
(ポリマー粒子の平均粒子径、及び分散性の評価)
水性ラテックス、及び液状フェノール系樹脂組成物中に分散しているポリマー粒子の体積平均粒子径(Mv)は、マイクロトラックUPA150(日機装株式会社製)を用いて測定した。水性ラテックスについては脱イオン水で希釈、液状フェノール系樹脂組成物についてはメチルエチルケトンで希釈したものを測定試料として用いた。測定は、水、またはメチルエチルケトンの屈折率、およびそれぞれのポリマー粒子の屈折率を入力し、計測時間600秒、Signal Levelが0.6〜0.8の範囲内になるように試料濃度を調整して行った。
【0112】
液状フェノール系樹脂組成物中へのポリマー粒子の分散性を、水性ラテックス中のポリマー粒子の体積平均粒子径(水性粒径)と、液状フェノール樹脂組成物中のポリマー粒子の体積平均粒子径(フェノール中粒径)と、を比較することにより評価した。即ち、その値がほぼ同等である場合を「高分散」、
(フェノール中粒径)/(水性粒径)の値が、1.1〜1.5の場合を「中分散」とし、また、ポリマー微粒子の凝集による白濁が発生した場合には、分散性が悪いと考え、(フェノール中粒径)の測定自体を実施しなかった。
【0113】
(粘度の測定)
得られた液状フェノール系樹脂組成物サンプルの粘度は、BROOKFIELD社製デジタル粘度計DV−II+Pro型を用いて測定した。粘度領域によってスピンドルCPE−41、又はCPE−52を使い分け、室温で、Shear Rate(ずり速度)10(1/s)における粘度を測定し、粘度が100Pa・s以下の場合を「最適」、粘度が250Pa・s以下の場合を「使用可」、250以上の場合を「不適」と判定した。
【0114】
(硬化物の粒子分散性の評価)
得られた硬化物サンプルの一部を切り出し、酸化オスミウムでポリマー粒子を染色処理した後に薄片を切り出し、透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JEM−1200EX)を用いて倍率4万倍にて観察を行い、以下の方法により算出した粒子分散率(%)を指標として、硬化物中のポリマー粒子の分散性を判定した。
良好:粒子分散率が90%以上
不良:粒子分散率が90%未満
【0115】
(粒子分散率の算出)
得られた透過型電子顕微鏡写真において、5cm四方のエリアを無作為に4カ所選択して、ポリマー粒子の総個数B0と、3個以上が接触しているポリマー粒子の個数B1(なお、ある1個のポリマー粒子がm個に接触している場合、個数はm個とカウントする)を求め、下記の数式1により算出した。
【0116】
【数1】

【0117】
(硬化物の耐熱性の評価)
硬化物サンプルの耐熱性を、その硬化物サンプルのガラス転移温度(サンプル温度)と、使用したフェノール系樹脂単体の硬化サンプルのガラス転移温度(単体温度)と、を比較して評価した。即ち、(サンプル温度)と(単体温度)との差が、2度以下である場合を「最適」、5度以下である場合を「良好」、10度以下である場合を「普通」、10度を越える場合を「悪い」として評価した。
【0118】
(硬化物の耐衝撃性の評価)
ASTMD−256に準じて、アイゾット試験により評価し、高い値から低い値の順に、「最適」、「良好」、「普通」、「「悪い」として結果を判定した。
【0119】
(硬化物の柔軟性の評価)
ISO178に準じて評価し、柔軟性が高い値から低い値の順に、「最適」、「良好」、「普通」、「悪い」として結果を判定した。
【0120】
(実施例1)
(ポリマー粒子含有水性ラテックスの製造)
まず、100L耐圧重合機中に、水200重量部、リン酸三カリウム0.03重量部、リン酸二水素カリウム0.25重量部、EDTA0.002重量部、Fe0.001重量部、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDS)1.5重量部を投入し、撹拌しつつ十分に窒素置換を行なって酸素を除いた後、ブタジエン(BD)100重量部を系中に投入し、45℃に昇温した。パラメンタンハイドロパーオキサイド(PHP)0.015重量部、続いてSFS0.04重量部を投入し重合を開始した。重合開始から4時間目に、PHP0.01重量部、EDTA0.0015重量部、およびFe0.001重量部を投入した。重合10時間目に減圧下残存モノマーを脱揮除去し、重合を終了した。重合転化率は97.8%、得られたBDゴムラテックスの体積平均粒径は100nmであった。
【0121】
次に、3Lガラス容器に、前記ゴムラテックス1480重量部(BDゴム粒子480重量部を含み、乳化剤としてゴムの固形分に対して1.5質量%のSDSを含む)、及び純水440重量部を仕込み、窒素置換を行いながら70℃で撹拌した。アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.2重量部を加えた後、ST29重量部、MMA40重量部、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4−HBA)29重量部の混合物を2時間かけて連続的に添加しグラフト重合した。添加終了後、更に2時間撹拌して反応を終了させ、ポリマー粒子含有水性ラテックスを得た。
【0122】
重合転化率は99.8%であった。得られた水性ラテックスに含まれるポリマー粒子の体積平均粒子径(Mv)は110nmであった。このポリマー粒子100重量%は、架橋ゴム重合体としてBDゴム83重量%、及びシェル層となるグラフト成分の重合体17重量%からなる。また、そのグラフト成分100重量%は、ST30重量%、MMA40重量%、4−HBA30重量%からなる。ポリマー粒子を100重量%としたたきの、各成分の比率を表1に示す。また、表1に全ての実施例、比較例の構成、及び評価結果をまとめて示す。
【0123】
【表1】

【0124】
(液状フェノール系樹脂組成物の製造)
25℃の1L混合槽にメチルエチルケトン(MEK)79重量部を導入し、撹拌しながら、上述で得られたポリマー粒子の水性ラテックスを79重量部(固形25重量部)投入した。均一に混合後、水125重量部を50重量部/分の供給速度で投入した。供給終了後、速やかに撹拌を停止したところ、浮上性の凝集体を含むスラリー液を得た。次に、凝集体を残し、液相220重量部を槽下部の払い出し口より排出させた。得られた凝集体(ポリマー粒子ドープ)にMEK56重量部を追加して混合し、ポリマー粒子が分散した有機溶媒溶液を得た。この有機溶媒溶液にフェノール樹脂100重量部、及びMEK35重量部からなるフェノール系樹脂のMEK溶液である溶液タイプレゾール型フェノール樹脂を混合し混合溶液を調製した。
【0125】
次に、この混合溶液を攪拌槽内で攪拌することで均一に混合した。その後、前記外部に凝縮器を設けた排気口に真空ポンプ(油回転式真空ポンプ、佐藤真空(株)製TSW−150
)を取付けて脱気し、前記混合溶液の揮発成分をMEKが混合液中に20重量部残存するように留去することで、フェノール系樹脂100重量部、ポリマー微粒子25重量部、及びMEK20重量部からなる液状フェノール系樹脂組成物を得た。
【0126】
このフェノール樹脂組成物中のポリマー粒子の分散状態を観察した結果、凝集することなくポリマー粒子分散溶液中のポリマー粒子の平均粒子径である110nmを維持しており、かつ、均一に単分散していた。
【0127】
(粘度の測定)
得られた液状フェノール系樹脂組成物サンプルの粘度を、BROOKFIELD社製デジタル粘度計DV−II+Pro型を用いて測定した。粘度領域によってスピンドルCPE−41、又はCPE−52を使い分け、測定温度50℃、Shear Rate(ずり速度)10(1/s)における粘度を測定した。
【0128】
(硬化物サンプルの作成)
得られた液状フェノール系樹脂組成物サンプル140gを、注形容器に入れて、オーブン中で150℃に4時間維持することで、200mm×100mm×5mmの硬化物サンプルを作成した。
【0129】
(硬化物サンプルの評価)
得られた硬化物サンプルを用いて、上述の方法で、硬化物の粒子分散率、耐熱性、耐衝撃性、及び柔軟性を評価した。結果を表1に示す。
【0130】
(実施例2)
実施例1と同様にしてポリマー粒子含有水性ラテックスを製造した後、同様にして溶液タイプレゾール型フェノール樹脂を混合し混合溶液を調製した。
【0131】
その後、前記混合溶液の揮発成分をMEKが混合液中に10重量部残存するように留去することで、フェノール系樹脂100重量部、ポリマー微粒子25重量部、及びMEK10重量部からなる液状フェノール系樹脂組成物を得た。
【0132】
このフェノール樹脂組成物中のポリマー粒子の分散状態を観察した結果、凝集することなくポリマー粒子分散溶液中のポリマー粒子の平均粒子径である110nmを維持しており、かつ、均一に単分散していた。
【0133】
この実施例2の液状フェノール系樹脂組成物は、実施例1の液状フェノール系樹脂組成物に比べて若干粘度が高いものの、使用可の範囲であった。
【0134】
この実施例2の液状フェノール系樹脂組成物から、実施例1と同様にして硬化物サンプルを作成し、実施例1と同様にして評価したところ、ほぼ実施例1の硬化物と、同等の評価結果であった。
【0135】
(実施例3)
実施例1の液状フェノール系樹脂組成物145重量部を、フェノール樹脂500重量部、及びMEK175重量部からなるフェノール系樹脂のMEK溶液である溶液タイプレゾール型フェノール樹脂に混合した。即ち、溶液タイプレゾール型フェノール樹脂675重量部に、液状フェノール系樹脂組成物145重量部をマスターバッチとして混合したものを、攪拌槽内で攪拌することで均一に混合し、実施例3の混合物を得た。
【0136】
この実施例3の混合物から、実施例1と同様にして、実施例3の硬化物サンプルを作成し、実施例1と同様にして評価した。実施例1の硬化物と比較して、実施例3の硬化物は、耐熱性には優れるものの、耐衝撃性、及び柔軟性では若干劣る結果となった。
【0137】
(比較例1)
実施例1と同様にしてBDゴムラテックスを製造した後、実施例1のST29重量部、MMA40重量部、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4−HBA)29重量部に代えて、ST42重量部、MMA41重量部、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4−HBA)15重量部としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の液状フェノール系樹脂組成物を得た。
【0138】
この比較例1のフェノール樹脂組成物中のポリマー粒子の分散状態を観察した結果、若干凝集しており、ポリマー粒子の分散性評価結果は、中分散であった。
【0139】
この比較例1の液状フェノール系樹脂組成物は、実施例1の液状フェノール系樹脂組成物と同等の粘度であった。
【0140】
この比較例1の液状フェノール系樹脂組成物から、実施例1と同様にして硬化物サンプルを作成し、実施例1と同様にして評価したところ、実施例1の硬化物と比較して、粒子分散性、耐熱性、耐衝撃性、及び柔軟性の全ての項目で劣る結果となった。
【0141】
(比較例2)
実施例1と同様にしてBDゴムラテックスを製造した後、実施例1のST29重量部、MMA40重量部、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4−HBA)29重量部に代えて、ST28重量部、MMA28重量部、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4−HBA)44重量部としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の液状フェノール系樹脂組成物を得た。
【0142】
この比較例2のフェノール樹脂組成物は、濁しており、ポリマー微粒子が凝集していた。
【0143】
この比較例2の液状フェノール系樹脂組成物は、実施例1の液状フェノール系樹脂組成物と同等の粘度であった。
【0144】
この比較例2の液状フェノール系樹脂組成物から、実施例1と同様にして硬化物サンプルを作成し、実施例1と同様にして評価したところ、実施例1の硬化物と比較して、粒子分散性、耐熱性、耐衝撃性、及び柔軟性の全ての項目で劣る結果となった。
【0145】
(比較例3)
実施例1と同様にしてBDゴムラテックスを製造した後、実施例1のST29重量部、MMA40重量部、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4−HBA)29重量部に代えて、ST49重量部、MMA49重量部、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4−HBA)0重量部としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の液状フェノール系樹脂組成物を得た。
【0146】
この比較例3のフェノール樹脂組成物は、濁しており、ポリマー微粒子が凝集していた。
【0147】
この比較例3の液状フェノール系樹脂組成物は、実施例1の液状フェノール系樹脂組成物と同等の粘度であった。
【0148】
この比較例3の液状フェノール系樹脂組成物から、実施例1と同様にして硬化物サンプルを作成し、実施例1と同様にして評価したところ、実施例1の硬化物と比較して、粒子分散性、耐熱性、耐衝撃性、及び柔軟性の全ての項目で劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール系樹脂100重量部、及び体積平均粒子径(Mv)が、0.01μm以上、かつ、0.5μm以下のポリマー粒子21〜40重量部を含む液状フェノール系樹脂組成物であって、
該フェノール系樹脂の重量平均分子量が、100〜600であり、
該ポリマー粒子が、その内側に存在する弾性コア層、及びその最も外側に存在するシェル層の少なくとも2層を含み、該弾性コア層が、ガラス転移温度が10℃未満の架橋ゴム重合体からなり、かつ、該シェル層が、OH基含有モノマー15〜40重量%、芳香族ビニルモノマー10〜60重量%、(メタ)アクリル酸エステルモノマー10〜60重量%、グリシジル基含有モノマー0〜1重量%、ニトリル基含有モノマー0〜5重量%、カルボキシル基含有モノマー0〜1重量%、及びその他のビニルモノマー(A)0〜40重量%、合計100質量%からなるグラフト成分の重合体である液状フェノール系樹脂組成物。
【請求項2】
前記フェノール系樹脂が、塩基性触媒、及びアンモニア触媒からなる群から選ばれる1種以上の触媒の存在下、フェノール類とホルムアルデヒド類とを、フェノール類1に対して、ホルムアルデヒド類1.5〜3.0のモル比となるようにして反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂である請求項1に記載の液状フェノール系樹脂組成物。
【請求項3】
前記架橋ゴム重合体が、ブタジエン90〜100重量%、多官能性モノマー0〜10重量%、及びその他のビニルモノマー(C)、合計100質量%からなるコア成分を重合してなる重合体である請求項1、又は2に記載の液状フェノール系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の液状フェノール系樹脂組成物であって、前記ポリマー粒子が、一次粒子の状態で前記フェノール系樹脂に分散している液状フェノール系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の液状フェノール系樹脂組成物であって、さらに、ケトン系有機溶媒を10〜30重量部を含む液状フェノール系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の液状フェノール系樹脂組成物であって、密閉容器に充填されてなる液状フェノール系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の液状フェノール系樹脂組成物をマスターバッチとして100重量部含み、さらに、フェノール系樹脂を100〜2000重量部含む液状フェノール系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7に記載のフェノール樹脂組成物を、加熱硬化、及び酸性触媒硬化からなる群から選ばれる1種以上の方法で硬化させてなる硬化物。
【請求項9】
請求項4に記載の液状フェノール系樹脂組成物の製造方法であって、順に、
ポリマー粒子を含有する水性ラテックスを、20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒と混合した後、さらに過剰の水と混合して、ポリマー粒子を凝集させる第1工程と、
凝集したポリマー粒子を液相から分離・回収した後、再度有機溶媒と混合して、ポリマー粒子の有機溶媒溶液を得る第2工程と、
有機溶媒溶液をさらにフェノール系樹脂と混合した後、有機溶媒を留去する第3工程と、
を含んで調製される液状フェノール系樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−209204(P2010−209204A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56392(P2009−56392)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】