説明

液状皮膚保護剤組成物

環境中の化学物質、体液、排泄物、滲出液等の水性の刺激物から皮膚を保護し、低刺激性で塗布しやすく感触が良好な液状皮膚保護剤組成物を提供する。次の(A)成分と(B)成分とを含有し、水分が10重量%以下である液状皮膚保護剤組成物:(A)線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロックを構成単位とするHLBが6以下のブロック共重合体、(B)鉱油、植物油、動物油、合成油及び(A)成分以外のオルガノポリシロキサンから選ばれる1種以上の油剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、液状皮膚保護剤組成物に関する。詳しくは本発明は、環境中の化学物質、水中の化学物質、アレルゲン、尿、便、汗、血液、体液、創部滲出液などの、皮膚に接触すると皮膚に悪影響を及ぼす物質から皮膚を保護するために用いられ、特に赤ちゃんや失禁者等のおむつ使用部位や、ストーマ周囲部や、滲出液のある創傷周囲部の皮膚保護のために用いられる液状皮膚保護剤組成物に関する。
【背景技術】
皮膚の表面は角層に覆われており、角層部に含まれているセラミドや脂質、NMFなどが外界からの異物に対してバリア機能として働き、非常に高い透過阻止効果を持っている。ところが、おむつを使用している乳幼児や要介護者のおむつ内部の皮膚、ストーマの周囲皮膚、及び褥瘡などの滲出液のある創傷の周囲部の皮膚は、汗、尿、便、創傷部滲出液等の主に水を多く含んだ液体に長時間接触することが多く、それらに含まれる水分、リパーゼ、プロテアーゼ、ウレアーゼなどの酵素類、細菌類、それらによって発生するアンモニア、毒素などの働きにより、皮膚のバリア機能が破壊され、バリア機能が低下することが知られている。また、おむつ中に排便すると便が皮膚にこびりつくため、便を落とすためおむつ交換時に力を加えて清拭を行うか、陰部洗浄を行う必要がある。このような行為は、介護者の負担になるばかりか、陰部をおむつの交換のたびに繰り返し清拭、洗浄すると、使用するタオルや紙等と皮膚が摩擦することにより、浸軟の影響等で、すでに抵抗力が低下した上に摩擦抵抗が増加した皮膚に損傷が発生する。これらが原因となって、おむつかぶれが発生するといわれている。また特に寝たきり高齢者に関しては褥瘡の原因の一つになっていると言われている。
アルキルシロキサン含有ポリマーを用いた皮膚保護剤(例えば、特表平4−501076号公報)、有機シリコーン樹脂を用いた皮膚保護剤(例えば、特開昭61−65808号公報)、シリコーン/アクリル共重合体を利用した皮膚保護剤(例えば、特開平2−262512号公報)は、皮膚に対する密着性が高いものの、皮膚刺激性の大きい有機溶剤を用いる必要があり、敏感な皮膚に対しての使用は好ましくない。また発汗しやすい条件ではすぐに剥がれてしまう。逆に乾燥した条件では、皮膚への密着性は非常に強いが、刺激性の強い剥離剤を用いないと、とることはできない。また、皮膚のような凹凸が大きく、可動性の表面上で均一な皮膜を作らせることは困難なため、十分な皮膚保護効果が得られないという問題があった。
また、発泡性の皮膚保護剤(例えば、特開2002−145755号公報)では、有効成分を乳化する必要があり、多量の乳化剤を含む。このような系では、尿滲出液のような水分を多量に含む物質が皮膚に付着した場合、再乳化し、容易に皮膚からはがれ、長時間効果の連続する皮膜を形成できないという問題があった。線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロックを反復単位とする非加水分解性ブロック共重合体を含有する皮膚化粧料(特開平4−234307号公報)も報告されているが、この皮膚化粧料は多量の水分を含むため、塗布時に強い冷感を与える等の刺激感があり、また感触がよくない上に、粘度が高いため、広範囲に均一に塗布しがたいという問題があった。
また、皮膜剤と疎水性粉末と揮発性油分とを配合した皮膚保護剤(特開平7−242528号公報)も報告されているが、この文献では、皮膜成分の溶剤として多量のエタノールが使用されている。このような皮膚保護剤をあれ肌等の敏感な部分に使用した場合、エタノールがしみて痛いため、とても使用に耐えない。
皮膚保護効果が高く、しかも効果が長時間持続し、低刺激で塗布しやすく、塗布後の感触が良好というすべての条件を満たす皮膚保護剤はこれまではなかった。
本発明の目的は、環境中の化学物質、体液、排泄物、滲出液等の水性の刺激物から皮膚を保護し、低刺激性で塗布しやすく、感触が良好な液状皮膚保護剤組成物を提供することにある。
【発明の開示】
本発明者は種々検討したところ、線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロックを構成単位とする特定のHLBを有するブロック共重合体と油剤とを組み合わせ、更に水分含量を少なくすることにより、皮膚保護効果が優れるだけでなく、感触がよく、低刺激性で塗布しやすい皮膚保護剤が得られることを見出した。
本発明は、次の(A)成分と(B)成分とを含有し、水分が10重量%以下である液状皮膚保護剤組成物を提供するものである:
(A)線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロックを構成単位とするHLBが6以下のブロック共重合体、
(B)鉱油、植物油、動物油、合成油及び(A)成分以外のオルガノポリシロキサンから選ばれる1種以上の油剤。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の(A)成分である線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロックを構成単位とするブロック共重合体のポリオキシアルキレンブロック部の構造としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンが挙げられる。中でもポリオキシエチレンポリオキシプロピレンであることが、撥水性の油剤や揮発性の油剤を配合した場合に均一溶解系で低温安定性に優れるためより好ましい。
(A)成分としては、以下に記載するように、特開平4−234307号に記載された線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロック重合体を用いることができる。即ち、(A)成分のブロック共重合体としては、一般式(1):

〔式中、Rは脂肪族不飽和を含まない1価の炭化水素基を示し、Aは炭素数2〜4のアルキレン基を示し、bは4〜100の数(好ましくは10〜90の数)であり、b個のAOは同一でも異なってもよく、cは2〜40の数(好ましくは2〜20の数)であり、aは4〜100の数(好ましくは5〜40の数)であり、Yは炭素−珪素結合によって隣接珪素原子にそして酸素原子によってポリオキシアルキレンブロックに結合している2価の有機基を示す〕で表わされる線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロック重合体を用いることができる。
特に、一般式(A):

〔式中、R’’は脂肪族不飽和を含まない1価の炭化水素基を示し、aは4〜100の数(好ましくは5〜40の数)である〕で表わされる化合物と、一般式(B):

〔式中、R’は1価の炭化水素基を示し、Aは炭素数2〜4のアルキレン基を示し、bは4〜100の数(好ましくは10〜90の数)であり、b個のAOは同一でも異なってもよい〕で表わされる化合物とを反応させて得られる一般式(2):

〔式中、aは4〜100の数(好ましくは5〜40の数)であり、bは4〜100(好ましくは10〜90の数)であり、b個のAOは同一でも異なってもよく、cは2〜40の数(好ましくは2〜20の数)であり、R’は1価の炭化水素基を示し、R’’は1価の炭化水素基を示す〕で表わされる線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロックを構成単位として持つ高分子量非加水分解性ブロック共重合体を使用すると、良好な結果が得られる。
上式におけるR、R’、R’’等の例としてはアルキル基(例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、エイコシルなど)、アリール基(例えばフェニル、ナフチルなど)、アラルキル基(例えばベンジル、フェニルエチルなど)、トリル基、キシリル基、シクロヘキシル基から選択された基である。上式において、Yで表わされる2価の有機基の例は、−R’’’−、−R’’’−CO−、R’’’−NHCO−、−R’’’−NHCONH−R’’’’−NHCO−、−R’’’−OOCNH−R’’’’−NHCO−、(式中、R’’’は2価のアルキレン基、例えばエチレン、プロピレン、ブチレンなどであり、R’’’’は2価のアルキレン基、例えばR’’’、又は2価のアリレン基、例えば−C−、−C−C−、−C−CH−C−、−C−CH(CH−C−などであり、好適にはR’’’’はフェニレン基である)の如き基である。該2価の有機基の更に好適な例は、−CHCH−、−CHCHCH−、−CHCHCHCH−、−(CHCO−、−(CHNHCO−、−(CHNHCONHCNHCO−、−(CHOOCNCNHCO−などである。最も好ましいYは2価のアルキレン基、特に−CHCHCH−である。
上述の非加水分解性共重合体は、反応性末端基を有するポリオキシアルキレン化合物と、このポリオキシアルキレン化合物の反応性末端基と反応する末端基を有するジヒドロカルビルシロキサン液体とを反応せしめることによって製造することができる。
上記において、ポリオキシアルキレン化合物はポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、混合ポリオキシエチレン−オキシプロピレン等を含む。中でも混合ポリオキシエチレン−オキシプロピレンが配合の安定性にすぐれるためにより好ましい。
最も望ましい例としては、CH=C(CH)−CH−基を両末端に有するポリオキシアルキレン化合物とHSi(CHO−基を両末端に有するジメチル−ポリシロキサンとの反応によって得られた、一般式:

で表わされるブロック共重合体である。上式において、Meはメチル基を示し、Aは炭素数2〜4のアルキレン基を示し、bは4〜100の数(好ましくは10〜90の数)であり、b個のAOは同一でも異なってもよく、aは4〜100の数(好ましくは5〜40の数)であり、cは2〜40の数(好ましくは2〜20の数)である。
但し、該線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロックを反復単位とするブロック共重合体のHLBは6以下である必要がある。HLBが6以下であると、水分と接触した際に、乳化して溶失することなく高い耐水性を持つと同時に、刺激物の皮膚への透過を防止する効果があり、皮膚保護効果をもつ。このHLBは耐水性をより向上させる観点から4以下であることが更に好ましい。HLBは以下の方法で求めることができる。
曇数Aを測定し、下記式の換算式によって求める。ここで曇数Aとは、線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロックを反復単位とするブロック共重合体0.5gをエタノール5mLで溶解し、25℃に保ちながら2%−フェノール水溶液で滴定する(液が混濁するときを終点とする)ときに要する2%−フェノール水溶液のmL数をいう。
HLB=0.89×(曇数A)+1.11
(A)成分は、液状皮膚保護剤組成物中の水分を10重量%以下として用いた場合、液状皮膚保護剤組成物を皮膚に塗布したとき、液状で伸びがよく、その後皮膚から蒸散する水分又は環境中の水分を吸収して増粘又はゲル化することにより、皮膚上で拡散が抑えられ、効果が長時間持続する、という効果をもたらす。また、ポリオキシアルキレンブロックと皮膚表面とは水素結合等の相互作用を持つために、流動パラフィン等からなる通常のベビーオイル等に比べて皮膚に対して接着力があり、摩擦によっても容易に剥離せず、布等の摩擦から皮膚を保護する。また(A)成分は固体ではないため、皮膚の動きを阻害せず違和感がない。また、(A)成分はべたつきが少なく非常に塗布しやすく、たとえ濡れた皮膚にでも、問題無く塗布でき、皮膚保護効果を発揮することができる。
(A)成分の含有量は、液状皮膚保護剤組成物の3〜50重量%、特に5〜20重量%であるのが好ましい。
本発明の(B)成分としては、鉱油、動物油、植物油、合成油及び(A)成分以外のオルガノポリシロキサンの少なくとも1種以上の油剤が挙げられる。これらの油剤は、皮膚に対してエモリエント効果による保湿効果があり、過度の乾燥を防ぐ効果がある。また、皮脂成分を補い、皮膚のバリア機能を強化する働きがある。また、皮膚保護剤の撥水性、耐水性を向上させる。更に、潤滑効果により皮膚表面の摩擦を低減する効果がある。
具体的には、ミネラルオイル、流動パラフィン、流動イソパラフィン、ナフテン油、ペトロラタム等の鉱油;オリーブ油、ホホバ油、綿実油、落花生油、ひまし油、ひまわり油、ヤシ油、アーモンド油、パーム油、サフラワー油、コーン油、大豆油、硬化ひまし油、硬化パーム油等の植物油;ミンク油、タートル油、モルモット油、スクワラン、牛脂、ラノリンなどの動物油;ポリαオレフィン油、ポリアルキレングリコール油、ポリブテン油、ミリスチン酸イソプロピル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジエチルヘキシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、グリセリントリ−2−エチルヘキシル、ステアリン酸トリグリセライドなどのエステル油のような合成油が挙げられる。また、オルガノポリシロキサンとしては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、シリコーンガム、アルキル変性メチルポリシロキサン、アルコキシ変性メチルポリシロキサン、アミノ変性メチルポリシロキサン等が挙げられる。これらを単独で用いることもできるが2種以上を混合して用いてもよい。
(B)成分は液状皮膚保護剤組成物の10重量%以上であることが好ましく、更に好ましくは30〜97重量%であり、特に好ましくは50〜95重量%である。
(B)成分は、揮発性が0.2mg/cmhr以上の油剤(B−1)成分と揮発性が0.1mg/cmhr以下の油剤(B−2)成分を含有することが好ましい。更に(B−2)成分は揮発性が0.1mg/cmhr以下であり相互溶解度が10重量%以下である2種類の油剤を含有することがより好ましい。
(B−1)成分は低粘度であり、使用時に伸ばし易く、べたつきを低減し感触がよくする効果がある。また(B−2)成分は、本皮膚保護剤組成物の耐水性を持続させるために好ましい。(B−1)成分の揮発性は、(B−1)成分が揮発することにより皮膚保護剤組成物の皮膚上での拡散を抑えられ、効果がより持続し感触も良くなるため高い方が好ましい。揮発性は、25℃大気圧下、内径85mm、深さ11mmのシャーレに油剤を10g入れて放置したときの単位表面積、単位時間あたりの重量減少率として測定できる。(B−1)成分の揮発性は0.2〜50mg/cmhrであることが好ましく、更に好ましくは0.3〜20mg/cmhrであり、特に好ましくは0.5〜5mg/cmhrである。
(B−2)成分は、皮膚に塗布した際に(B−1)成分が蒸散しても本皮膚保護剤の耐水性、潤滑性を持続するために好ましい。(B−2)成分の揮発性は低いほどよく、皮膚保護効果が持続する。25℃における揮発性は、0.1mg/cmhr以下であることが好ましく、更に好ましくは0.03mg/cmhr以下である。
(B−1)成分として、揮発性のオルガノポリシロキサンや揮発性の流動イソパラフィンが挙げられる。また揮発性のオルガノポリシロキサンとしてはヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。これらの使用によりスプレーしたときの特に低刺激性、感触の点で、デカメチルシクロペンタシロキサン等の環状メチルシクロポリシロキサンの使用が好ましい。(B−1)成分の含有量としては、液状皮膚保護剤組成物の10重量%以上、更に30〜80重量%が好ましい。
(B−2)成分として好ましいものとしては、流動パラフィン、流動イソパラフィン、スクワラン、ミリスチン酸イソプロピル、脂肪酸トリグリセライド、デカメチルシクロペンタシロキサン、メチルポリシロキサン、メチルシクロポリシロキサン及びジメチルポリシロキサンから選ばれる1種以上が挙げられ、更に好ましいものとして、流動パラフィン、流動イソパラフィン、スクワラン、メチルシクロポリシロキサン及びジメチルポリシロキサンから選ばれる1種以上が挙げられる。
(B−2)成分は相互溶解度が10重量%以下の2種類の油剤を含有することが好ましい。相互溶解度が低いと皮膚に塗布したときに(B−1)成分が蒸発した後もべたつきのなさが持続し、潤滑効果が高くなる。相互溶解度とは、2種類の油剤のうち、片方の油剤にもう一つの油剤を攪拌混合したときに透明から白濁する濃度(混合液中の重量%)のうち低いほうをいう。25℃における相互溶解度としては10重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは3重量%以下である。特に好ましくは1重量%以下である。この様な2成分を1/4〜4/1(wt/wt)の割合で混合して用いることが好ましく、更に好ましくは、1/2〜2/1の割合である。これらの組み合わせとしては、流動パラフィン、スクワラン等の比較的分子量の大きい炭化水素系油とジメチルポリシロキサン等のオルガノポリシロキサンが挙げられる。これらの成分は、前述の揮発性のオルガノポリシロキサンや揮発性の流動イソパラフィンを使用することにより安定に配合することができる。その際、揮発成分の蒸発に伴いこれらの成分が相分離することにより効果が発現する。
上記炭化水素油の25℃における粘度は20mPa・s以上、オルガノポリシロキサンの25℃における粘度は10mPa・s以上であることが、高い潤滑性を得るために好ましい。更に好ましくは、炭化水素油の25℃における粘度は40mPa・s以上、オルガノポリシロキサンの25℃における粘度は20mPa・s以上である。
(B−2)成分は液状皮膚保護剤組成物の10重量%以上含有させることが好ましく、更に好ましくは20〜80重量%であり、特に好ましくは30〜60重量%である。
本発明の液状皮膚保護剤組成物中の水の含有率は10重量%以下であるが、好ましくは3重量%以下であり、更に好ましくは1重量%以下である。該組成物中の水の含有率が10重量%以下である場合、該組成物全体の粘度が低下し、塗布しやすくなる。また、配合に特に界面活性剤や乳化剤を用いる必要がなく、皮膚上で乳化し溶出することがなくなるため、耐水性が向上する上に、皮膚に対してより刺激性が低くなる。また、水は蒸発潜熱が非常に大きいため、冷感を与え、刺激に対して敏感な部位に使用することは好ましくない。水の配合量が3重量%以下であると、冷感が非常に小さく、1重量%以下であると、冷感がほとんど感じないレベルになる。また、水の量が少ないと、皮膚上での摩擦を低減させる効果が得られる。
本発明の液状皮膚保護剤組成物は常温(25℃)で液状であり、低粘度であることが好ましい。粘度としては、25℃で70mPa・s以下、更に50mPa・s以下、特に30mPa・s以下であるのが望ましい。粘度が低いと塗布時に皮膚上で広げやすい。また、スプレーによって広範囲に塗布することもできる。
本発明の液状皮膚保護剤組成物において、(A)成分及び(B)成分の含有割合は重量比で(A)/(B)=3/100〜60/100、更に3/100〜30/100、特に5/100〜15/100であることが好ましい。含有割合が3/100以上であると皮膚保護効果が向上し、60/100以下であると粘度が低くなり、塗布性が向上するとともに、塗布後の感触が良い。
また、本発明の液状皮膚保護剤組成物中の、炭素数1〜4の1価のアルコールは10重量%以下であることが好ましい。炭素数1〜4の1価のアルコールとしては、エタノール、メタノール、イソプロパノール、1−プロパノール、ブチルアルコールが挙げられる。炭素数1〜4の1価のアルコールの含有量は更に好ましくは3重量%以下であり、特に好ましくは1重量%以下である。本発明の組成物中の揮発性アルコールが10重量%以下であると、本発明の液状皮膚保護剤組成物の主な用途である、おしりや人工肛門周辺部、創傷周辺部の皮膚といった非常に感受性の高い皮膚の部分に使用しても、皮膚に対してしみる等の刺激感が低く、更には連用しても肌荒れ等をおこすことはない。特に含有量が3重量%以下であると、塗布時に刺激が更に低下し、揮発成分の蒸発潜熱によって冷感を感じることも低下する。特に1重量%以下である場合は、塗布時に刺激感や冷感はほとんと感じなくなる。
また、本発明の液状皮膚保護剤組成物に消炎剤を配合することができる。消炎剤を配合することにより、おむつかぶれや発赤、接触皮膚炎等の炎症の発生を予防することができる。消炎剤の含有量が少量の場合でも液状皮膚保護剤組成物に配合することにより皮膚上に長くとどまることができ、高い効果が期待できる。消炎剤としては、特に制限はないが、グアイアズレン、アラントイン、大豆レシチン、アネトール、酢酸リナリル、酢酸テンピニル、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸ステアリル、グリチルリチン酸ジカリウム、酢酸ヒドロコルチゾンなどが挙げられる。特に配合性の面からグアイアズレンのような親油性の高いものが好ましい。含有量としては液状皮膚保護剤組成物の1重量%以下であり、好ましくは0.0001重量%〜0.2重量%、更に好ましくは0.0005重量%〜0.1重量%である。
また本発明の液状皮膚保護剤組成物は、便や創部滲出液など、皮膚に炎症を起こす菌(起炎菌とも言う)と接触する可能性の高い部位に使用されるため、殺菌剤を配合することにより、尿路感染等の、起炎菌による感染症の発生を防ぐことができる。殺菌剤としては、特に限定されないが、殺菌剤自体に皮膚刺激性をもつことが知られているため、なるべく皮膚刺激の少ないものが好ましい。また、配合時の安定性の観点から親油性の高いものが好ましい。具体的には、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジンなどが挙げられる。含有量としては有効成分量として本願組成物の0.0001重量%〜1重量%であり、好ましくは0.0005重量%〜0.2重量%、更に好ましくは0.001重量%〜0.05重量%である。
本発明の液状皮膚保護剤組成物には、顔料等の無機粉末は含まないことが望ましい。無機粉末がないと、洗浄による液状皮膚保護剤の剥離が容易であり、潤滑効果が高く、スプレーとして使用した場合、ノズルが目詰まりすることがない。
本発明の液状皮膚保護剤組成物には、上記成分に加えて本発明の効果を損なわない量的質的範囲で、必要に応じて、保湿剤、酸化防止剤、血行促進剤、防腐剤、消臭剤、紫外線吸収剤、着色剤、香料等を添加することができる。
本発明の液状皮膚保護剤組成物は、前記必須成分に必要に応じて前記任意成分を加え常法に従って製造することができる。これらの任意成分の含有量は、該組成物中に30重量%以下で含有させることができる。
本発明の液状皮膚保護剤組成物の形態としては、液状、霧状、泡状のいずれでもよい。使用形態としては、エアゾールスプレー、ポンプスプレー、ポンプボトル、チューブ、脱脂綿・紙・布等に含浸させたものが挙げられるが、広範囲に非接触で塗布できる霧状のスプレー又は不織布に含浸させたものが望ましい。スプレーであれば非接触で塗布できることから、使用後の手洗いの手間が必要でなくなる。なかでも液化ガス、炭酸ガスなどの噴射剤を用いないポンプスプレー容器を用いるのが、噴射剤の気化熱がないため、肌に対する刺激や冷感が少ないことから最も好ましい。また、含浸させたものでは、容易に広範囲に塗布でき、液だれや飛散により床等を汚染することはない。
【実施例】
実施例1〜7、比較例1〜4
以下の配合処方に従って、常法により、表1及び表2に組成(重量基準)を示す実施例1〜7及び比較例1〜4の液状皮膚保護剤組成物を製造した。
評価方法
〔粘度〕
B型粘度計を用い、25℃にて測定した。
〔皮膚保護効果の評価〕
まず、皮膚の色を色差計〔日本電色工業(株)製 ND300A 分光式色差計〕で測定し、その部位に液状皮膚保護剤組成物塗布後、0.5%青色1号水溶液と液状皮膚保護剤組成物を塗布した皮膚とを5分間接触させ、その後洗浄し、液状皮膚保護剤組成物を除去したのち、皮膚の色を色差計で測定した。色差(ΔE)はJIS Z8730に従って、前記処理された皮膚の色と、色素溶液に接触する前で液状皮膚保護剤組成物を塗布する前の皮膚の色とから求められ、なにも塗布しない部分に色素溶液を接触させたときの色差(ΔE)と比較して、どの程度皮膚の着色を防止できたかが皮膚保護効果(%)として次の式により得られる。
皮膚保護効果(%)=(ΔE−ΔE)/ΔE×100
皮膚保護効果は100%に近いほどその効果が高く、優れていることを示す。
〔摩擦係数の評価〕
液状皮膚保護剤組成物を、モデル皮膚としてポリウレタンフォーム〔OKマット、オカモト(株)製〕に3mg/cm塗布し、2時間以上室温で放置後、モデル皮膚と日本規格協会製標準試料の綿布(カナキン3号)との間の摩擦を、KES表面特性試験機〔カトーテック(株)製〕で測定し、摩擦係数を得た。
〔自然圧によるポンプ式スプレー容器を用いた評価〕
実施例1〜6及び比較例1〜4の液状皮膚保護剤組成物を霧状に噴霧できるポンプ式スプレー容器につめ、13名のパネラーの介護者が寝たきりの要介護者の臀部の皮膚に、同意の上、塗布した。塗布しやすさ、皮膚保護効果はパネラーの官能評価により、また刺激感及び感触に関しては要介護者に聞き取りすることにより、性能評価を行った。
ポンプ式スプレー容器による液状皮膚保護剤組成物の噴霧量は、1回あたり約0.2gであり、臀部へ約4回スプレーした。
〔皮膚保護剤を不織布に含浸させたシートを用いた評価〕
実施例7の液状皮膚保護剤組成物をコットンスパンレース不織布(コットエース、ユニチカ製、坪量40g)に含浸させた。液状皮膚保護剤組成物の含浸量は不織布重量の150%とし、一枚当たりの大きさは150mm×190mmで、40枚ずつ箱詰めして使用した。
評価の結果を表1及び表2に示す。なお、評価結果の数字は人数を示す。


表1及び2中、
1):商品名 SIL−WET FZ−2203 日本ユニカー(株)製、構成単位:

2):商品名 SIL−WET FZ−2207 日本ユニカー(株)製、構成単位:

3):商品名 SIL−WET FZ−2222 日本ユニカー(株)製、構成単位:

4):商品名 SH200C 10cs 東レダウコーニング(株)製
5):商品名 SH200C 20cs 東レダウコーニング(株)製
6):商品名 ハイコールK−230 (株)カネダ製
7):商品名 ハイコールK−350 (株)カネダ製
8):商品名 エキセパールIPM 花王(株)製
9):商品名 ココナードMT 花王(株)製
10):商品名 SH245 東レダウコーニング(株)製
11):商品名 IPソルベント1620 出光石油化学(株)製
12):商品名 KF7312F 信越化学工業(株)製
13):商品名 SH200C 1.5cs 東レダウコーニング(株)製
14):商品名 KF56 信越化学工業(株)製
15):商品名 シーオーグリチノール 丸善製薬(株)製
16):商品名 ニッサン カチオンM2−100 日本油脂(株)製
表1及び表2の結果から、以下のことがわかる。即ち、実施例1〜6の組成物は室温での噴霧性は良好である。また実施例1〜7の組成物は塗布時に刺激感もなく、滑らかで非常に良好な感触であり、また皮膚保護効果も非常に良好である。比較例1の組成物では、皮膚保護効果が著しく低下する。比較例2の組成物では、塗布性、感触の面では良好であるが、皮膚保護効果は非常に低い。比較例3の組成物では、スプレーの噴霧性が著しく悪い上に、皮膚に塗布しにくく、感触も悪い。また皮膚保護効果も著しく低下している。比較例4の組成物では、塗布後の皮膚につっぱり感やべたつきがあり、感触がよくなく、また皮膚保護効果も顕著には見られない。
【産業上の利用可能性】
本発明の液状皮膚保護剤組成物は、皮膚保護効果が高く、塗布しやすく、皮膚に対する刺激がなく、感触も良好である。従って、特に赤ちゃんや失禁者等のおむつ使用部位、ストーマ周囲部、及び滲出液のある創傷周囲部の皮膚保護のために用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(A)成分と(B)成分とを含有し、水分が10重量%以下である液状皮膚保護剤組成物:
(A)線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロックを構成単位とするHLBが6以下のブロック共重合体、
(B)鉱油、植物油、動物油、合成油及び(A)成分以外のオルガノポリシロキサンから選ばれる1種以上の油剤。
【請求項2】
(A)成分が、一般式(1):

(式中、Rは脂肪族不飽和を含まない1価の炭化水素基を示し、Aは炭素数2〜4のアルキレン基を示し、bは4〜100の数であり、b個のAOは同一でも異なってもよく、cは2〜40の数であり、aは4〜100の数であり、Yは炭素−珪素結合によって隣接珪素原子にそして酸素原子によってポリオキシアルキレンブロックに結合している2価の有機基を示す)で表わされるブロック共重合体である請求項1記載の液状皮膚保護剤組成物。
【請求項3】
各シロキサンブロックの平均分子量が500〜10,000であり、各ポリオキシアルキレンブロックの平均分子量が300〜10,000であり、シロキサンブロックが共重合体の10〜90重量%を構成し、そしてブロック共重合体が少なくとも3,000の平均分子量を有する請求項1又は2記載の液状皮膚保護剤組成物。
【請求項4】
25℃における粘度が70mPa・s以下である請求項1〜3のいずれか1項記載の液状皮膚保護剤組成物。
【請求項5】
(A)成分と(B)成分の含有割合が重量比で(A)/(B)=3/100〜60/100である請求項1〜4のいずれか1項記載の液状皮膚保護剤組成物。
【請求項6】
(A)成分を3〜50重量%含む請求項1〜5のいずれか1項記載の液状皮膚保護剤組成物。
【請求項7】
(B)成分を10重量%以上含む請求項1〜6のいずれか1項記載の液状皮膚保護剤組成物。
【請求項8】
(B)成分が流動パラフィン、流動イソパラフィン、メチルシクロポリシロキサン及びジメチルポリシロキサンから選ばれる1種以上である請求項1〜7のいずれか1項記載の液状皮膚保護剤組成物。
【請求項9】
(B)成分が、揮発性が0.2mg/cmhr以上の油剤(B−1)成分と0.1mg/cmhr以下の油剤(B−2)成分とを含有する請求項1〜8のいずれか1項記載の皮膚保護剤組成物。
【請求項10】
(B−1)成分が、揮発性が0.1mg/cmhr以下であり、相互溶解度が10重量%以下である2種類の油剤を含有する請求項9記載の液状皮膚保護剤組成物。
【請求項11】
請求項1記載の液状皮膚保護剤組成物をスプレーにより塗布する方法。
【請求項12】
請求項1記載の液状皮膚保護剤組成物を含浸させたものを用いて該組成物を塗布する方法。
【請求項13】
請求項1記載の液状皮膚保護剤組成物の皮膚保護への使用。

【国際公開番号】WO2004/039347
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【発行日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−548031(P2004−548031)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013545
【国際出願日】平成15年10月23日(2003.10.23)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】