説明

混合廃プラスチックの分離方法及びその装置

【課題】 混合廃プラスチックから塩素含有プラスチックを精度良く分離する方法を提供し、これにより処理残渣に混入して廃棄される非塩素含有プラスチックを大幅に減少させることができる混合廃プラスチックの分離方法及びその装置を提供すること。
【解決手段】 塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離回収する混合廃プラスチックの分離方法であって、前記混合廃プラスチックを所定の温度に加熱して塩素含有プラスチックを脆化させることで微細化し、該微細化された塩素含有プラスチックと非塩素含有プラスチックとを分離することを特徴とする混合廃プラスチックの分離方法を用いる。塩素含有プラスチックがポリ塩化ビニールおよび/またはポリ塩化ビニリデンであることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般及び産業廃棄物などの廃棄物中のプラスチック系廃棄物からPVC(ポリ塩化ビニル)及びPVDC(ポリ塩化ビニリデン)等の塩素含有プラスチック(以下、PVC及び/又はPVDC等を「塩素含有プラスチック」という)を分離し、非塩素含有プラスチックを回収する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に廃プラスチックといわれるプラスチック系廃棄物は、複数種類のプラスチックを含むものであり、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの他に、PVC(ポリ塩化ビニル)及びPVDC(ポリ塩化ビニリデン)等の塩素含有プラスチックも含まれている。このような混合廃プラスチックを再利用する際には、塩素含有プラスチックを分離する処理が行われている。
【0003】
混合廃プラスチックから塩素含有プラスチックを分離する処理方法として、静電分離法(例えば、特許文献1に記載の方法)、近赤外線による分別法(例えば、特許文献2に記載の方法)、比重差選別法(例えば、特許文献3に記載の方法)などがある。
【0004】
静電分離法は、塩素含有プラスチックを含む廃プラスチックを帯電させ、帯電性のよい塩素含有プラスチックとそれ以外のプラスチックとに分別する方法である。
【0005】
近赤外線による分別法は、プラスチックに近赤外線を照射した場合、その吸光度のピークを示す波長がプラスチックの種類によって異なるこを利用した方法である。この方法においては、廃プラスチックに特定波長の近赤外線を照射し、その吸光度によりプラスチックの種類を識別する分別処理が行われる。
【0006】
比重差選別法は、塩素含有プラスチックの比重がPE、PP、PSなどの非塩素含有プラスチックよりも大きいことに着目したものであり、混合廃プラスチックを比重差により高比重分と低比重分に分ける処理を行い、高比重分を塩素含有プラスチックとして取り除き、低比重分を非塩素含有プラスチックとして回収する方式による方法である。
【0007】
比重差選別方式には、液体サイクロン、湿式縦型分離装置(低比重分を浮上させ、高比重分を沈降させる分離装置)、湿式遠心分離法などの湿式法による処理方式と、乾式の比重差分離法などによる乾式法による処理方式がある。
【0008】
上記分離方法のうち、分離精度が高いと言われている湿式遠心分離法による廃プラスチックの分離処理は次のように行われる。
【0009】
水又は比重調整された媒体液が滞留し、回転している回転胴に、媒体液に分散させた廃プラスチックを装入する。回転胴内においては、比重が大きいプラスチック片は回転胴の内壁の近傍に集まり、比重が小さいプラスチック片は回転胴の中側に集まる。そして、二つに分離されたプラスチックをそれぞれの排出口から取り出すことにより、装入された廃プラスチックが、塩素含有プラスチックからなる高比重分と、非塩素含有プラスチックからなる低比重分とに分離される。塩素含有プラスチックからなる高比重分は、通常、埋立てや焼却処分される。
【特許文献1】特開2002−137224号公報
【特許文献2】特開平9−89768号公報
【特許文献3】特開平9−85120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来技術のうち、静電分離法や近赤外線は、塩素含有プラスチックを分離する処理を行う前に、乾燥処理、汚れ除去処理、一定の形状に成形する処理などをする必要がある。又、これらの方法を使用済みプラスチックの分離処理に適用した場合、分離精度が悪いと言う問題を有している。
【0011】
又、比重差選別法は、分離精度が高いと言われている湿式遠心分離法においても、非塩素含有プラスチック(低比重分側)への塩素含有プラスチックの混入が全く起らない訳ではない。低比重分側への塩素分(高比重分)の混入率を下げる方向に順次処理条件を変更していくと、塩素分の混入度合いを下げる方向に条件変更をするに従って、高比重分中に残留する非塩素含有プラスチックの量が増大する。
【0012】
このため、良質の非塩素含有プラスチックの再利用品を得ようとすると、多量の非塩素含有プラスチックが高比重分中に残留し、この非塩素含有プラスチックが塩素含有プラスチックとして分別されてしまう。この結果、非塩素含有プラスチックの回収率が大幅に低下する。例えば、本発明者らの操業実績によれば、回収される非塩素含有プラスチック中の塩素含有率を0.3mass%以下程度にする条件にした場合、プラスチックの回収率は60%程度にとどまってしまう。
【0013】
又、比重差選別方式全体の問題ではあるが、塩素含有プラスチックと比重が近似する非塩素含有プラスチック、例えば、PETとPVCの分離をすることはできない。このため、非塩素含有プラスチックの回収率がさらに低下することになる。
【0014】
そして、現状においては、上記のようにして分離された高比重分は、多量の非塩素含有プラスチックが含まれているものであっても、埋立てや焼却処分される。
【0015】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、混合廃プラスチックから塩素含有プラスチックを精度良く分離する方法を提供し、これにより処理残渣に混入して廃棄される非塩素含有プラスチックを大幅に減少させることができる混合廃プラスチックの分離方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(1)塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離回収する混合廃プラスチックの分離方法であって、前記混合廃プラスチックを所定の温度に加熱して塩素含有プラスチックを脆化させることで微細化し、該微細化された塩素含有プラスチックと非塩素含有プラスチックとを分離することを特徴とする混合廃プラスチックの分離方法。
(2)塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離回収する混合廃プラスチックの分離方法であって、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離回収する一次処理を行い、その一次処理により発生した処理残渣を攪拌しながら加熱する処理をした後、この加熱攪拌処理された混合廃プラスチックを篩い分ける処理を行い、この篩い分け処理により分離された篩上分を非塩素含有プラスチックとして回収することを特徴とする混合廃プラスチックの分離方法。
(3)塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離回収する一次処理が、比重差選別法、静電分離法、又は近赤外線による分別法のうちの何れかの方法による処理であることを特徴とする(2)に記載の混合廃プラスチックの分離方法。
(4)塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離回収する一次処理が、比重差選別法のうちの湿式遠心分離法よる処理であることを特徴とする(2)または(3)に記載の混合廃プラスチックの分離方法。
(5)塩素含有プラスチックがポリ塩化ビニールおよび/またはポリ塩化ビニリデンであることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の混合廃プラスチックの分離方法。
(6)塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離回収する混合廃プラスチックの分離装置であって、破砕された混合廃プラスチックを高比重分と低比重分とに分離する比重差選別手段と、攪拌と加熱が可能に構成された加熱攪拌装置と、篩分装置とを有することを特徴とする混合廃プラスチックの分離装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックと塩素含有プラスチックとを容易に且つ高精度で分離することができる。したがって混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを除去した残渣である処理残渣に混入して廃棄される非塩素含有プラスチックを大幅に減少させることができる。又、非塩素含有プラスチックを回収する大量処理を効率よく行いながら、その回収率を大幅に向上させることができ、2次廃棄物として処分しなければならない非塩素含有プラスチックを大幅に減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離回収する際に、混合廃プラスチックを所定の温度に加熱して塩素含有プラスチックを脆化させることで微細化し、微細化された塩素含有プラスチックと非塩素含有プラスチックとの形状の違いや粒度の差を利用して分離することを特徴とする混合廃プラスチックの分離方法である。本発明は、通常の塩素含有プラスチックを含む混合プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離する分離工程で発生した残渣である、塩素含有プラスチックを高濃度に含む混合廃プラスチックに対して行なうことが特に効果的であり、すなわち、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックに、比重差選別法、静電分離法、近赤外線などの分別手段による1次処理を行い、1次処理の残渣に2次処理として本発明方法を行なうことが望ましい。2次処理としては加熱攪拌する処理と篩い分け処理の組み合わせによって主要部を構成することが望ましい。このような本発明がなされた経緯を以下に詳しく説明する。
【0019】
例えば、混合廃プラスチックの1次処理を比重差選別法で行う場合、高比重分と低比重分とに分離して低比重分を非塩素含有プラスチックとして回収し、次いで、残渣である高比重分から、さらに未回収分の非塩素含有プラスチックを簡易な操作による2次処理を行い、効率よく回収する。すなわち、未回収分の回収を行う2次回収においては、上記高比重分を加熱攪拌処理し、この加熱攪拌処理物を篩い分ける処理を行って、所定寸法以上のものと所定寸法未満のものとに分け、所定寸法以上のものを非塩素含有プラスチックとして回収する。このように、非塩素含有プラスチックの回収を1次処理と2次処理の2段階に行うことにより、1次回収処理では、非塩素含有プラスチックの回収率が比較的低い方法を採用した場合にも、1次処理と2次処理との全体としては高い回収率を得ることができる。
【0020】
このように、本発明においては、比重差選別法、静電分離法、又は近赤外線による分別法などの処理により排出される2次廃棄物とも言うべき処理残渣から、簡易な手段によって、さらに非塩素含有プラスチックを回収することができる。この簡易な手段による2次回収処理(加熱攪拌処理と篩い分け処理)は、次に述べる実験による知見に基づいて組み込まれたものである。
【0021】
その実験は次のように行った。PVCが混じったフィルム状の廃プラスチックを20mm程度の大きさに破砕し、これを攪拌機を備えた槽へ装入して高速攪拌した。槽内のプラスチックは攪拌による摩擦熱によって温度が上昇した。そして、その温度が約155℃付近に維持されるように、時々冷却しながら攪拌を継続した。次いで、その加熱攪拌した処理物を篩い分けて5つの粒分に分け、各粒分の塩素含有率を測定したところ、表1に示す結果を得た。なお、表1に記載の粒の大きさは篩い分けた篩の目の開き寸法を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1によれば、加熱攪拌した処理物の塩素含有率は粒の大きさが小さくなるほど高く、特に、微粒の塩素含有率は著しく高い値になっている。これは、小さな粒分ほどPVCの混入割合が多くなっていることを示すものであり、このような現象が起る原因は、PVCが、加熱攪拌処理中に粉砕されて粉状物や微粒になる性質を有するものであるためであると判断される。すなわち、PVCには、揮発しやすいDOPなどの可塑剤が多量に含まれているので、PVCが混じっている廃プラスチックを加熱すると、PVC中の可塑剤の一部が揮散し、そのPVC片が脆性を帯びた状態になる。そして、脆くなったPVC片が攪拌されている間に、粉砕されて粉状物や微粒になるので、粒の大きさが小さいものほどPVCの含有量が多く、従って、塩素含有率が高くなる。
【0024】
上述のように、加熱攪拌処理物中のPVCは粒の大きさが小さいものの側に偏在しているので、廃プラスチックを加熱攪拌処理した後に、篩い分け処理を行うだけで容易にPVCを取り除くことができる。この際、PETは粉砕されないので、比重差選別処理では分離できなかったPVCとPETの分離が行われ、PETが非塩素含有プラスチックとして回収される。
【0025】
従って、本発明においては、大量処理方法として適している比重差選別処理や静電分離処理により、非塩素含有プラスチックの1次回収(塩素含有プラスチックの1次除去)を効率よく行い、次いで、その処理残渣から2次回収をする。そして、その際の2次回収処理が加熱攪拌処理と篩い分け処理と言う極めて簡易な手段によるので、プロセス全体としても効率的な処理を行うことができる。この2段階処理のプロセスによれば、廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを回収する大量処理を効率よく行うことができる上に、2次廃棄物として処分しなければならない非塩素含有プラスチックを大幅に減少させることができる。
【0026】
以上のように非塩素含有プラスチックの回収を1次処理と2次処理の2段階に行うことは非常に効果的であるが、当然のことながら本発明は上記の2次処理のみに相当する処理を行なうことでも混合プラスチックから塩素含有プラスチックを分離除去して非塩素含有プラスチックを分離回収することが可能である。すなわち、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックを所定の温度に加熱して塩素含有プラスチックを脆化させることで微細化し、該微細化された塩素含有プラスチックと非塩素含有プラスチックとを分離する。所定の温度に加熱することで塩素含有プラスチックが脆化する一方で、非塩素含有プラスチックは脆化することがない。脆化した塩素含有プラスチックを微細化するには、回転羽根を有する攪拌機等を用いて攪拌処理を行なうことが望ましい。破砕機、粉砕機等による粉砕工程を設けることも可能である。塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックに熱攪拌処理を行なうと、塩素含有プラスチックを加熱して脆化させ、微細化することが一工程で行なえるため効率的である。加熱により非塩素含有プラスチックのうち融点の低いもの(たとえばPE系)は溶融し粒状化する場合があり、高融点のもの(たとえばPP、PET系)は加熱前の原形(フラフ状等)を保つ場合等があるが、いずれにしても非塩素含有プラスチックは加熱しても、場合によってはさらに攪拌処理を行なっても、微細化しないため、微細なものとそうでないものとを粒径に応じて分離することによって塩素含有プラスチックと非塩素含有プラスチックとを分離することが可能となる。微細なものとそうでないものとは、篩等を用いることで容易に分離することが可能である。
【0027】
混合プラスチックを加熱する所定の温度としては、塩素含有プラスチックが脆化する温度であり、塩素含有プラスチックが脆化する温度以上、塩素含有プラスチックが溶融を開始する温度未満である必要があり、塩素含有プラスチックが主としてポリ塩化ビニールおよび/またはポリ塩化ビニリデンである場合には、140〜165℃とすることが望ましい。混合プラスチックに含まれるほとんどの非塩素含有プラスチックが溶融する程度の温度以上、塩素含有プラスチックの溶融温度未満で加熱すると、非塩素含有プラスチックの大部分が粒状物となるので、微細化された塩素含有プラスチックが粒状物に付着したり、包み込まれてしまう場合があるので望ましくない。混合プラスチックに含まれる一部のプラスチックが溶融する程度の温度に加熱保持した場合、その一部が粒状物になるが、その生成量が多量でなければ、非塩素含有プラスチックへ混入する塩素含有プラスチックの量は許容される程度にとどまるため、処理効率を考慮すると、PEの軟化温度以上、PP、PETの軟化温度未満程度で加熱することが望ましい。
【0028】
図1は本発明の混合廃プラスチック分離処理方法に係る第1の実施形態の説明図である。図1において、100は収集された塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチック、Aは、比重差選別法、静電分離法、又は近赤外線による分別法のうちの何れかの方法による1次処理手段、Bは1次処理手段Aにより発生した処理残渣、Cは2次処理手段を示す。
【0029】
1次処理手段Aによる処理においては、処理残渣Bと主としてPVC以外のプラスチックからなるもの106とに分別される。PVC以外のもの106は、2次処理手段Cの処理による回収品と共に燃料などとして再利用する用途に向けられる。
【0030】
一方、処理残渣Bは、未だPVC以外のプラスチック(非塩素含有プラスチック)を多量に含んでいるので、その状態に応じて10〜50mm角程度の大きさに破砕した後、2次処理手段へ送り、攪拌しながら加熱処理する。
【0031】
加熱攪拌工程13では、後述する図5に示す加熱攪拌装置が使用される。この加熱攪拌装置は高速回転可能に構成された攪拌機を備えた加熱攪拌槽を有しており、この加熱攪拌槽へ装入された混合廃プラスチックを高速攪拌して摩擦熱を発生させ、この摩擦熱によって所定温度まで昇温させることができるようになっている。
【0032】
そして、加熱攪拌工程13では、装入された混合廃プラスチックを高速攪拌しながら所定温度範囲まで昇温させ、所定温度で所定時間の間攪拌を継続する。この加熱攪拌中に、PVC中の可塑剤の揮散が起ってPVC片が脆くなり、PVC片が粉砕されて粉状物や微粒になる。
【0033】
次いで、加熱攪拌工程13から排出された加熱攪拌処理物は篩分工程14において、目開きが所定寸法の篩で篩い分けられる。この篩い分け操作により、PVCの粉状物や微粒を多量に含む篩下分105と、PVCが僅かしか含まれていない非塩素含有プラスチックからなる篩上分104とに分けられる。篩上分104は高炉還元剤や燃料などとして再利用する用途に向けられる。
【0034】
上記加熱攪拌工程13において、加熱保持温度を高くし過ぎると、融点の低いPE、PP、PSなどの非塩素含有プラスチックが溶融して粒状物や塊状物が生成し、加熱攪拌によって粉砕されたPVCがその粒状物や塊状物に付着したり、包み込まれてしまうので、PVCの分離が不十分になる。なお、一部のプラスチックが溶融する程度の温度に保持した場合、その一部が粒状物になるが、その生成量が多量でなければ、非塩素含有プラスチックへ混入するPVCの量は許容される程度にとどまる。このため、加熱保持温度は、装入されたプラスチックの溶融が始まる温度、あるいは一部のものが溶融し始める温度よりも低く、且つそれらの近傍の領域に設定するのがよい。加熱保持温度の設定は、混合廃プラスチックに含まれるプラスチックの種類などによって異なるが、通常、140℃〜165℃の範囲にする。
【0035】
上記のように、プラスチックの攪拌を継続していると、プラスチックの温度が上記加熱保持温度の範囲を超える領域まで昇温してしまうので、所定温度まで上昇した後においては、時々、少量の水を吹きかけて冷却する操作を行いながら、攪拌を継続する。
【0036】
又、加熱攪拌工程13における加熱時間は、PVC片が粉砕されて粉状物や微粒になるまでの所要時間であるので、混合廃プラスチックに含まれているPVCの大きさや厚さと加熱保持温度などによって異なるが、その形状がフィルム状である場合、通常、10分〜20分程度である。
【0037】
図2は本発明の混合廃プラスチック分離処理方法に係る第2の実施形態の説明図である。この図は1次処理手段が比重差選別法による場合である。図2おいて、2次処理手段の処理工程(加熱攪拌工程−篩分工程)における操作は図1の場合と同じであるので、その説明は省略する。
【0038】
この実施形態においては、破砕工程11で10〜50mm角程度の大きさに破砕された混合廃プラスチックは、1次処理手段の一つである比重差選別工程12へ送られる。比重差選別工程12では、後述する図4に示す湿式遠心分離装置が使用され、比重差による選別処理を行って、PVCよりも比重が低い低比重分103とそれよりも比重が高い高比重分102とに分ける処理を行う。二分されたプラスチックのうち、低比重分103はPE、PP、PSなどの非塩素含有プラスチックであって、PVCが僅かしか含まれていないので、燃料などの用途に再利用することができる。
【0039】
一方、混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックが回収された残渣である高比重分102には、未だPVC以外のプラスチック(非塩素含有プラスチック)が多量に含まれているので、これを2次処理を行う加熱攪拌工程13へ送って、攪拌しながら加熱する処理を行い、次いで、篩分工程14において、目開きが所定寸法の篩で篩い分けを行う。この篩い分け処理により、PVCの粉状物や微粒を多量に含む篩下分105と、PVCが僅かしか含まれていない非塩素含有プラスチックからなる篩上分104とに分ける。篩上分104は高炉還元剤や燃料などとして再利用する用途に向けられる。
【0040】
図3は本発明の混合廃プラスチック分離処理方法に係る第3の実施形態の説明図である。この図はボトルなどの固形物系の塩素含有プラスチックが含まれている廃プラスチックを処理する場合を示す。図3おいて、破砕工程−比重差選別工程−加熱攪拌工程−篩分工程の4工程における操作は図1又は図2の場合と同じであるので、その説明は省略する。
【0041】
混合廃プラスチック中の塩素含有プラスチックが固形物系のものであると、加熱攪拌工程で加熱攪拌した際に、塩素含有プラスチックが粉砕されて粉状物や微粒になるまでの時間が長くなり、加熱攪拌工程における処理能率が低下するので、最初に、形状選別を行って、固形物系のプラスチックとフィルム系のプラスチックに分け、それぞれ別個に塩素含有プラスチックと非塩素含有プラスチックの分離処理を行う。
【0042】
この実施の形態においては、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチック100は、形状選別工程10において、風力選別装置や揺動式選別装置などの形状選別手段により、ボトルなどの固形物系プラスチック106とフィルム系プラスチック101に分別される。フィルム系プラスチック101は図2に示す処理順序に従って処理されて塩素含有プラスチックと非塩素含有プラスチックに分離され、非塩素含有プラスチックが回収される。
【0043】
固形物系プラスチック106は、PVC分離工程15において、近赤外線を照射した際の特定波長の吸光度によりその材質を識別する光学的分離手段により、PVCだけを取り除く処理がなされ、PVC108とその他のプラスチック107とに分離される。その他のプラスチック107は再利用する用途に向けられる。そして、上記光学的分離手段により分離されたPVC108は、その分別状態によっては、破砕工程11へ送られ、フィルム系のプラスチックと共に再度非塩素含有プラスチックを回収する処理が施される。
【0044】
なお、図2及び図3に示す実施形態においては、混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを回収する1次回収処理が比重差選別によって行われる場合について説明したが、その1次回収処理は比重差選別に限定されものではなく、静電分離法、又は近赤外線による分別法などの方式を適用してもよい。
【0045】
又、図2及び図3の比重差選別工程においては、湿式遠心分離装置が使用されているが、本発明では、比重差選別処理が湿式遠心分離装置で行われることに限定されない。本発明における比重差選別処理では、液体サイクロン、湿式縦型分離装置(低比重分を浮上させ、高比重分を沈降させる分離装置)などの湿式法による分離装置を使用することができる。これらの分離装置は湿式遠心分離装置に比べて分離精度が劣るが、何れも、湿式遠心分離装置と同様に、大量処理をすることができる上、その装置が極めて簡易な構成によるものであることを特徴としている。このため、比重差選別工程で上記の分離装置を使用すると、湿式遠心分離装置の場合と比べて高比重分側に残留する非塩素含有プラスチックが多くなるが、本発明においては、その残留非塩素含有プラスチックを簡易な処理をすることによって2次回収することができるので、上記比重差選別装置の特性が発揮され、非塩素含有プラスチックを効率よく回収率することができる。
【0046】
次に、本発明で用いる装置について説明する。図4は比重差選別工程で使用する湿式遠心分離装置の構成に係る一例を示す図である。この湿式遠心分離装置20は両側に円錐台状に縮径された部分が形成され、水又は比重調整された媒体液を滞留させながら回転させる回転胴21と、その回転胴と若干異なった速度で回転させる回転軸とその軸に設けられたスクリューからなるスクリューコンベア22a,22bとにより主要部が構成されている。図中、102は高比重分のプラスチック、103は低比重分のプラスチックを示す。
【0047】
この装置によるプラスチックの分離は次のように行われる。回転胴21には、その上部に空間ができる程度の量の媒体液を滞留させて回転させ、廃プラスチック装入管23から、媒体液に分散させた廃プラスチックの破砕品を装入する。回転胴21内においては、廃プラスチック装入管23から回転胴21の中心部へ装入されたプラスチック片のうち、媒体液よりも比重が小さいものは浮上し、媒体液よりも比重が大きいものは沈降する。この際、媒体液よりも比重が大きいプラスチックは、回転胴21の回転に伴なって発生する遠心力の作用によって沈降が促進される。そして、比重が大きいプラスチック片(高比重分)は回転胴21の内壁の近傍に集まり、比重が小さいプラスチック片(低比重分)は媒体液の液面近傍に(回転胴21の中心側)に集まる。高比重分102は径の大きいスクリューコンベア22aにより掻き出されて高比重分出口24から排出され、PVC分として処理される。又、低比重分103は径の小さいスクリューコンベア22bにより掻き出されて低比重分出口25から排出され、非塩素含有プラスチックとして回収される。
【0048】
図5は加熱攪拌工程で使用する加熱攪拌装置と篩分工程で使用する篩分装置の一例を示す図である。図5において、30は加熱攪拌装置、40は篩分装置である。
【0049】
31は混合廃プラスチックを装入して攪拌しながら加熱する加熱攪拌装置の加熱攪拌槽で、その底部に備えた攪拌機32を高速回転させることにより摩擦熱を発生させるようになっている。100は装入された混合廃プラスチックを示す。
【0050】
加熱攪拌槽31の側部(攪拌翼の高さ位置を測定する)には、攪拌中の廃プラスチックの温度を測定する温度測定装置33と、上部には散水装置34が設けられている。散水装置34は、摩擦熱により加熱される廃プラスチックの温度が過度に上昇するのを抑えるための冷却、及び加熱攪拌処理終了後の冷却をするために設けられており、散水制御装置35からの指示信号により稼動、停止する。散水制御装置35には、加熱保持温度の設定値が入力されており、温度測定装置33の測定値が上記設定値に達した時点で、制御弁38がごく短時間の間だけ開になって少量の散水が行われ、槽内の廃プラスチックの温度が設定値近傍に保持される。又、所定の加熱攪拌時間が経過した時点では、所定時間の十分の散水が行われ、冷却される。図中、36は槽内の端部に散水ノズル37が設けられた冷却水供給管である。
【0051】
篩分装置40は、上記のようにして加熱攪拌された処理物を所定の目開きの篩で篩い分けて、PVCが粉砕されて生成した粉状物や微粒取り除く装置である。篩分装置40により篩分けられた所定径以上の篩上分104は非塩素含有プラスチックとして回収される。又、所定径未満の篩下分105はPVCとして処理される。
【0052】
上記のように、所定の目開きの篩で篩い分けることによって、非塩素含有プラスチックとPVCに分別されるが、前述のように、加熱攪拌処理後の廃プラスチックは径が小さなものほど塩素分(PVC)が多量に含まれているので、再利用可能なプラスチックとして回収する径の下限を決める篩の目開き寸法は、処理する廃プラスチックの性状や溶融造粒装置の運伝条件などを勘案し、過去の実績に基づいて決定される。篩分工程においては、通常、目開きが1〜3mmの間の篩が使用される。
【0053】
なお、図5に示す加熱攪拌装置30は廃プラスチックを加熱してPVCに脆性を帯びさせること、及びそのPVCを粉砕することを目的に備えたものである。従って、加熱攪拌装置30は図5に示されている竪型の槽に攪拌機を備えたものには限定されない。例えば、加熱攪拌可能に構成された回転円筒体に、選定された形状や比重を有する粉砕媒体が装入されたボールミルのような方式のものであって、主として脆性を帯びたPVCが粉砕されるように構成された装置であってもよい。
【0054】
又、加熱攪拌装置30は図5に示すような攪拌の摩擦熱のみにより加熱する方式の装置には限定されない。特に、高速攪拌操作を行わない装置においては、例えば、スチームなどによる間接加熱方式の装置、熱風を吹き込んで加熱する方式の装置などを使用することができる。
【0055】
尚、廃プラスチックには、上述したようなPVC等の塩素含有プラスチックの成分として塩素が含有されている他に、廃棄物であることに由来する食塩や醤油等の無機物の成分としての塩素が付着している場合がある。本発明方法及び装置を用いると、このような無機物の成分としての塩素も除去できる効果があり、廃プラスチックの脱塩素を十分効果的に行なうことが可能である。無機物の成分としての塩素が除去される理由は、例えば上記の第1〜第3の実施形態を行なう場合、混合廃プラスチックに付着していた無機物が、攪拌時に廃棄プラスチックから分離し、その後の篩い分け処理により篩い落とされるためであると考えられる。
【0056】
以上、塩素含有プラスチックを含む混合プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離する分離工程で発生した残渣である、塩素含有プラスチックを高濃度に含む混合廃プラスチックに対して本発明を行なう場合の実施形態について示したが、本発明は通常の混合プラスチックにも同様に適用可能である。例えば、PVCとPETを主成分とする混合プラスチックからのPVCの分離除去等も容易に高精度で行なうことが可能となる。
【0057】
次に、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0058】
図2に示す破砕−比重差選別−加熱攪拌−篩分けの4段階の処理により、廃プラスチックから塩素含有プラスチックを分離する処理をした。処理した廃プラスチックは、地方自治体で収集した、容器や包装などに使用された廃プラスチックで、その塩素含有率は約1.5%であった。又、その中に含まれる非塩素含有プラスチックの主なものはPEであった。
【0059】
塩素含有プラスチックを分離する処理は次のように行った。容器包装プラスチックのベール品を解砕機でほぐした後、破砕機により破砕し、10〜50mm程度のスクリーン通過物とした。
【0060】
この破砕物を図4と同様の構成による湿式遠心分離装置へ装入し、高比重分と低比重分に分離する比重差選別処理を行った。プラスチック破砕物を分散させる媒体液としては、水を使用した。この処理により非塩素含有プラスチックとして回収した低比重分の割合は装入された破砕物に対し72mass%で、その塩素含有率は0.65mass%であった。又、高比重分の割合は28mass%で、その塩素含有率は3.8mass%であった。
【0061】
次いで、上記高比重分を加熱攪拌装置へ装入し、攪拌機を高速回転させて昇温させた。そして、加熱保持温度を155℃に設定し、散水制御装置による温度制御を行いながら、20分間攪拌した。所定時間経過後、散水して冷却し、取り出した。加熱攪拌された処理物の状態を観察したところ、一部のものが粒状物になっていた。
【0062】
加熱攪拌装置から排出された加熱攪拌処理物を網目の開きが2.3mmの篩で篩い分け、所定粒径未満のもの(篩下分)と所定粒径以上のもの(篩上分)とに分けた。この処理により非塩素含有プラスチックとして回収された篩上分の割合は、加熱攪拌装置へ装入した高比重分に対し50mass%で、その塩素含有率は0.7mass%であった。又、篩下分の割合は50mass%で、その塩素含有率は6.9mass%であった。
【0063】
上記のようにして2段階の分離処理を行った結果によれば、非塩素含有プラスチックとして回収されたプラスチック分の回収率は約86%であった。この回収率の値は、従来の湿式遠心分離装置による回収率と比べると、極めて高い値であった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の混合廃プラスチック分離処理方法に係る第1の実施形態の説明図である。
【図2】本発明の混合廃プラスチック分離処理方法に係る第2の実施形態の説明図である。
【図3】本発明の混合廃プラスチック分離処理方法に係る第3の実施形態の説明図である。
【図4】比重差選別工程で使用する湿式遠心分離装置の構成に係る一例を示す図である。
【図5】加熱攪拌工程と篩分工程で使用する装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
A 1次処理手段
B 1次処理手段Aにより発生した処理残渣
C 2次処理手段
10 形状選別工程
11 破砕工程
12 比重差選別工程
13 加熱攪拌工程
14 篩分工程
15 PVC分離工程
20 湿式遠心分離装置
30 加熱攪拌装置
40 篩分装置
100 混合廃プラスチック
101 フィルム系プラスチック
102 高比重分
103 低比重分
104 篩上分
105 篩下分
106 固形物系プラスチック
107 その他のプラスチック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離回収する混合廃プラスチックの分離方法であって、前記混合廃プラスチックを所定の温度に加熱して塩素含有プラスチックを脆化させることで微細化し、該微細化された塩素含有プラスチックと非塩素含有プラスチックとを分離することを特徴とする混合廃プラスチックの分離方法。
【請求項2】
塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離回収する混合廃プラスチックの分離方法であって、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離回収する一次処理を行い、その一次処理により発生した処理残渣を攪拌しながら加熱する処理をした後、この加熱攪拌処理された混合廃プラスチックを篩い分ける処理を行い、この篩い分け処理により分離された篩上分を非塩素含有プラスチックとして回収することを特徴とする混合廃プラスチックの分離方法。
【請求項3】
塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離回収する一次処理が、比重差選別法、静電分離法、又は近赤外線による分別法のうちの何れかの方法による処理であることを特徴とする請求項2に記載の混合廃プラスチックの分離方法。
【請求項4】
塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離回収する一次処理が、比重差選別法のうちの湿式遠心分離法よる処理であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の混合廃プラスチックの分離方法。
【請求項5】
塩素含有プラスチックがポリ塩化ビニールおよび/またはポリ塩化ビニリデンであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の混合廃プラスチックの分離方法。
【請求項6】
塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから非塩素含有プラスチックを分離回収する混合廃プラスチックの分離装置であって、破砕された混合廃プラスチックを高比重分と低比重分とに分離する比重差選別手段と、攪拌と加熱が可能に構成された加熱攪拌装置と、篩分装置とを有することを特徴とする混合廃プラスチックの分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−123492(P2006−123492A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371643(P2004−371643)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】