説明

混合液の製造方法

【課題】圧力容器内で液化炭酸ガスと他の液体との混合液を製造する際、液化炭酸ガスの充填時において誤って圧力容器内の他の液体が逆流して液化炭酸ガス充填装置の充填ラインが他の液体で汚染されることがなく、かつ液化炭酸ガスと他の液体が均一に混合できるようにする。
【解決手段】圧力容器1に液化炭酸ガスを充填する前に、この圧力容器1を真空ポンプ2により真空引きし、その後低温液化炭酸ガス貯槽4からの液化炭酸ガスを充填し、ついで他の液体を充填した後に撹拌する。撹拌には、圧力容器1を1分以上回転させること、圧力容器内において炭酸ガスの超臨界状態とすることなどがある。真空引きでは、圧力10−1トールよりも低い真空度とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガスボンベなどの圧力容器内に液化炭酸ガスとこれ以外の他の液体とを充填して所定の濃度の混合液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力容器内で液化炭酸ガスと他の液体との混合液を製造する方法として、例えば特開平5−23155号公報に開示された発明がある。
この先行発明は、圧力容器にアリルカラシ油を充填したのち、液化炭酸ガスを圧力約70kg/cmで充填してアリルカラシ油と液化炭酸ガスとの混合液を圧力容器内で製造するものである。
【0003】
この製造方法では、アリルカラシ油を先に圧力容器内に充填しておき、その後液化炭酸ガスを充填することで、先に充填されたアリルカラシ油が後から充填される大量の液化炭酸ガスによって液化炭酸ガスの充填時に撹拌され、均一に混じり合うため、充填と同時に圧力容器内での混合が行われ、濃度の均一なアリルカラシ油−液化炭酸ガス混合液が製造できる利点がある。
【0004】
ところで、このような圧力容器内で液化炭酸ガスと他の液体との混合液を製造するにあたって、混合液を大量生産する場合には、専用の液化炭酸ガス充填設備を設置して行うことができるが、少量生産の場合には、現有あるいは既設の液化炭酸ガス単体を充填する設備を流用することが多くなる。
この場合には、圧力容器内に他の液体を充填したのち、この圧力容器を既設の液化炭酸ガス充填設備に持ち込み、液化炭酸ガスを充填することになる。
【0005】
この液化炭酸ガス充填作業の際、液化炭酸ガス充填圧力と圧力容器内圧力とのバランスが崩れた場合、圧力容器内の先に充填された他の液体が間違って逆流し、液化炭酸ガス充填設備の液化炭酸ガス貯蔵容器、この貯蔵容器から圧力容器までの配管、ポンプなどの充填ラインが他の液体で汚染される可能性がある。
液化炭酸ガスは、食品添加用ガスとしても汎用されるガスであるため、その充填設備の充填ラインが他の液体で汚染されることは絶対に防止する必要がある。
【特許文献1】特開平5−23155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、本発明における課題は、圧力容器内で液化炭酸ガスと他の液体との混合液を製造する際、液化炭酸ガスの充填時において誤って圧力容器内の他の液体が逆流して液化炭酸ガス充填装置の充填ラインが他の液体で汚染されることがなく、かつ液化炭酸ガスと他の液体が均一に混合できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、圧力容器に液化炭酸ガスを充填した後に他の液体を充填して混合液を製造する方法であって、
圧力容器に液化炭酸ガスを充填する前に、この圧力容器を真空引きし、その後液化炭酸ガスを充填し、ついで他の液体を充填した後に撹拌することにより、これら液体を均一に混合することを特徴とする混合液の製造方法である。
【0008】
請求項2にかかる発明は、撹拌が、圧力容器を1分以上回転させるものであることを特徴とする請求項1記載の混合液の製造方法である。
請求項3にかかる発明は、撹拌が、圧力容器内において炭酸ガスの超臨界状態とするものであることを特徴とする請求項1記載の混合液の製造方法である。
請求項4にかかる発明は、真空引きが、圧力10−1トールよりも低い真空度とするものであることを特徴する請求項1記載の混合液の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、初めに圧力容器を真空引きするので、圧力容器内に残留している残ガスが排出され、その影響を受けることがない。また、液化炭酸ガスを充填したのちに他の液体を充填するようにしているので、液化炭酸ガス充填設備の充填ラインを他の液体で汚染することもなく、既設の液化炭酸ガス充填設備を流用することができる。
さらに、圧力容器を回転させたり、圧力容器内を炭酸ガスの超臨界状態とするなどして撹拌することにより液化炭酸ガスと他の液体とが均一に混合されて濃度の均一な混合液が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明の製造方法を詳しく説明する。
図1は、本発明の製造方法の一例を各工程毎に示すもので、この例では他の液体としてフロロケトンを用いた例を示している。なお、図1において「FK」と表記したものはフロロケトンを示す。
通常、ガスボンベなどの圧力容器は繰り返し使用されるので、顧客から返却された空の圧力容器1は、真空引き工程にまわされ、容器1内の残留ガスが除去される。
【0011】
真空引き工程では、真空ポンプ2を備えた配管3に空の圧力容器1を接続し、圧力容器1内を真空排気して容器1内の残留ガスを排気する。このとき、圧力容器1内の圧力を10−1トールよりも低い真空度まで減圧することが好ましく、これによって残留ガスをほぼ完全に容器1内から排出することができる。
【0012】
ついで、この圧力容器1を液化炭酸ガス充填工程に送る。液化炭酸ガス充填工程では、屋外に設置された低温液化炭酸ガス貯槽4に貯えられている温度−30〜−15℃の低温液化炭酸ガスを昇圧ポンプ5にて4〜8MPaに昇圧して配管6を介してこの配管6に接続された圧力容器1内にその所定量を充填する。液化炭酸ガスの充填量は、圧力容器1を載置したロードセル荷重測定装置7などによって計測される。
【0013】
ついで、液化炭酸ガスが充填された圧力容器1は、フロロケトン充填工程に移される。
フロロケトン充填工程では、フロロケトンを常温常圧で貯える屋内に設置されたフロロケトン貯槽8からのフロロケトンを昇圧ポンプ9により5〜9MPaに昇圧して配管10を介してこの配管10に接続された圧力容器1内にその所定量を充填する。フロロケトンの充填量は、圧力容器1を載置したロードセル荷重測定装置7などによって計測される。
【0014】
ついで、圧力容器1内の液化炭酸ガスとフロロケトンとを撹拌して均一に混合するために、液化炭酸ガスとフロロケトンとが充填された圧力容器1を容器回転工程に移す。
容器回転工程では、この圧力容器1を若干斜めに倒した状態として圧力容器1をその中心軸廻りに回転させる。回転速度は10〜40rpm程度でよく、回転時間は1分〜10分で十分である。この圧力容器1の回転により、圧力容器1内の液化炭酸ガスとフロロケトンとは均一に撹拌、混合されて所定のフロロケトン濃度のフロロケトン−液化炭酸ガス混合液となる。なお、回転は一方向のみでも良いし、逆回転を適宜いれてもよい。
【0015】
その後、この圧力容器1を分析工程に送り、圧力容器1内の混合液の一部を採取してフロロケトン濃度分析計11により混合液中のフロロケトン濃度を測定し、所定の濃度であることを確認したのち、製品として出荷する。
【0016】
本発明では、圧力容器1を回転させて内容物を撹拌、混合する以外に、圧力容器1を振動させて撹拌、混合する方法がある。この方法では、圧力容器1を加振装置に置き、数分間振動させる。振動数は、5〜20Hz程度で十分である。
【0017】
さらに、他の撹拌方法として、圧力容器1内の液化炭酸ガスを超臨界状態とする方法がある。炭酸ガスの臨界温度は304.4K、臨界圧力は7.38MPaであるので、圧力容器1内をこの臨界温度または臨界圧力以上にすればよい。具体的には、圧力容器1を保温庫などに収容し、35〜40℃に加温すればよい。
撹拌手段は、前述のいずれかを単独で採用してもよいが、複数の手段を同時に行っても良い。
【0018】
このような混合液の製造方法によれば、予め圧力容器1内を真空引きしているので、顧客から回収した圧力容器1に残留している残ガスを排出、除去することができ、新たに圧力容器1内で調製する混合液が残ガスで汚染されるようなことがない。
また、初めに液化炭酸ガスを充填するようにしているので、液化炭酸ガス充填装置をフロロケトンで汚染することもない。このため、既設の液化炭酸ガス充填装置をそのまま流用できることになり、新たな設備コストが不要となる。
【0019】
また、容器回転工程において、圧力容器1を回転させて内容物を撹拌、混合しているので、少量のフロロケトンを液化炭酸ガスの充填の後に充填しても、均一なフロロケトン濃度の混合液を製造することができる。
【0020】
真空引き工程における適切な圧力管理値を求めるため、本出願人が取扱っている液化炭酸ガス中に1.4%のフロロケトンを混合している混合液(「エムジーシールド」登録商標)を用い確認した。
本確認のため、前記混合液を顧客において使用し、顧客から回収した圧力容器に対して「到達真空度を変えて真空引き」→「液化炭酸ガス充填30kg」→「残存フロロケトン濃度測定」の各工程を実施した。残存フロロケトン濃度の測定にはガスクロマトグラフ質量分析計を用いた。
測定結果を以下の表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1の結果から、真空引き工程における真空到達度が10−1トール以下であれば、残ガスをほとんど排気でき,その後の工程で作製する混合液の混合比に影響を与えることがないことがわかる。また、残ガスが実質的に存在しないので、残ガスが逆流することがなく、既存の液化炭酸ガス充填設備を汚染することがないことがわかる。また、真空引き工程では10−1トールまで減圧することが好ましい。
【0023】
前記容器回転工程において、容器回転時間を変えて、均一混合に必要な時間を求めた。回転速度は30rpmとした。測定結果を以下の表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表2に示した結果から、容器回転工程における回転時間は1分以上であれば均一に攪拌できることが確認できた。回転速度は適宜変更したが,必要な回転時間は1分以上であれば問題なく混合されることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の混合液の製造方法の一例を工程順に示した説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1・・圧力容器、2・・真空ポンプ、4・・低温液化炭酸ガス貯槽、5、9・・昇圧ポンプ、7・・ロードセル荷重測定装置、8・・フロロケトン貯槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力容器に液化炭酸ガスを充填した後に他の液体を充填して混合液を製造する方法であって、
圧力容器に液化炭酸ガスを充填する前に、この圧力容器を真空引きし、その後液化炭酸ガスを充填し、ついで他の液体を充填した後に撹拌することにより、これら液体を均一に混合することを特徴とする混合液の製造方法。
【請求項2】
撹拌が、圧力容器を1分以上回転させるものであることを特徴とする請求項1記載の混合液の製造方法。
【請求項3】
撹拌が、圧力容器内において炭酸ガスの超臨界状態とするものであることを特徴とする請求項1記載の混合液の製造方法。
【請求項4】
真空引きが、圧力10−1トールよりも低い真空度とするものであることを特徴する請求項1記載の混合液の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−279404(P2008−279404A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127815(P2007−127815)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】