説明

減圧治療用創傷被覆材の裁断補助手段

本発明は、創傷および創傷周囲を気密閉鎖するための空気不透過性カバー材と、液体透過性創傷被覆材と、創傷空間内に減圧を発生させることができ、且つ創傷空間から液体を吸引除去することができるように創傷空間をカバー材の外側にある減圧源と機能的に連結する手段と、液体透過性創傷被覆材の裁断補助手段とを備える、創傷減圧療法用の装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷および創傷周囲を気密閉鎖するための空気不透過性カバー材と、創傷空間(Wundraum)内に減圧を発生させることができ、且つ創傷空間から液体を吸引除去することができるように創傷空間をカバー材の外側にある減圧源と機能的に連結する手段とを備える、創傷減圧療法用の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
創傷とは、ヒトまたは動物の場合、身体外皮組織からの結合の切断と理解される。創傷は、組織欠損を伴うことがある。
創傷減圧療法用の装置は、従来技術において公知である。例えば、国際公開第1993/009727号パンフレットは、創傷を有し、創傷を取り囲む皮膚領域に減圧を適用することにより創傷治癒を促進する装置を記載している。国際公開第1993/009727号パンフレットに記載の装置は、減圧を発生させる真空機構と、真空機構と機能的に連結している気密性創傷カバーと、気密性カバーの内側の創傷に配置される創傷被覆材とを備える。創傷被覆材は、好ましくは連続気泡ポリマーフォーム材、例えば、ポリエステルフォームである。創傷被覆材の性状やサイズは個々の創傷に適合させることができる。国際公開第1993/009727号パンフレットの記載によれば、減圧療法の適用により、例えば、熱傷、褥瘡、または裂傷などの様々なタイプの創傷の創傷治癒を促進することができる。
治療中、ドレッシング材交換まで減圧を連続的に維持してもよい。あるいは、交互サイクルの間に減圧を適用してもよく、または様々な強さの減圧のサイクルを使用してもよい。
【0003】
創傷減圧療法用の装置は市販されており、例えば、KCI社(KCI Medizinprodukte GmbH、ドイツ)のV.A.C.(登録商標)−Geraetがある。市販の装置では、連続気泡ポリマーフォーム材、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリウレタン(PU)などを含む創傷被覆材を使用することが多い。創傷減圧療法用の創傷被覆材を製造するために、連続気泡ポリマーフォーム材の使用以外に、他の材料についても記載された。例えば、国際公開第2001/89431号パンフレットは、創傷減圧療法用の創傷被覆材としてコラーゲンマトリックスを記載している。英国特許第2415908号明細書は、生体吸収性であってもよい繊維材料を創傷減圧療法用の創傷被覆材に使用することを記載している。
【0004】
創傷は形状やサイズが様々である。従来技術から、減圧療法用の創傷被覆材を個々の創傷に適合させることが公知である。例えば、国際公開第1994/20041号パンフレットは、減圧療法用の創傷被覆材を創傷の内側に配置するのに適切な形状やサイズに裁断することを記載している。あるいは、国際公開第1994/20041号パンフレットによれば、創傷被覆材は、周囲の皮膚を覆うのに十分な大きさであってもよい。国際公開第1994/20041号パンフレットによれば、健常皮膚を覆う創傷被覆材の構成で、治療中の創傷組織の過形成(Ueberwachsen)を回避するとしている。実際上は、創傷被覆材は創傷空間内に配置されることが多いが、その理由は、創縁を覆う構成の場合、減圧療法中、創縁および周囲の損傷していない皮膚に圧縮荷重が加わるからである。前述の場合両方とも、創傷被覆材を創傷の形状やサイズに適合させなければならない。これは、実際上、一般に「目測で」行われる。
【0005】
従来技術から、ぴったり適合する減圧療法用創傷被覆材を準備する手段および方法が公知である。
【0006】
例えば、国際公開第2008/57600号パンフレットは、ぴったり適合する減圧療法用創傷被覆材を個々に準備するため、生体吸収性ポリマーおよび発泡剤系(porogenes System)を溶媒に溶解し、溶媒を除去した後、創傷被覆材を創傷空間内にぴったり適合するように入れることを提案している。その場合、手作業で形成することにより、創傷被覆材を創傷のサイズや形状に適合させてもよく、または、創傷被覆材をロープ状にし、それを巻き出した形態で創傷内に入れてもよい。創傷滲出液と接触して気孔を形成する発泡剤系は、例えば、炭酸ナトリウムとクエン酸からなる。
【0007】
国際公開第2005/009488号パンフレットは、特徴的な輪郭を有する部位、例えば、踵部の創傷用の特殊形状の創傷被覆材を提案している。
【0008】
国際公開第2009/097308号パンフレットは、創傷被覆材の、特に減圧療法に使用される創傷被覆材の裁断具を記載している。
【0009】
さらに、個々の創傷への適合を容易にするとされている減圧療法用創傷被覆材が市販されている。例えば、KCI社のV.A.C.(登録商標)Simplace Dressing Kit(商標)は、裁断することなく創傷のサイズに適合させることができるフォーム創傷被覆材GranuFoam(商標)を含む。この創傷被覆材は、渦巻状であり、様々なサイズで入手可能である。
KCI社のV.A.C.(登録商標)GranuFoam(商標)Standard Dressing Kitsは、様々な創傷用の異なる形状やサイズのフォーム創傷被覆材を含む。
KCI社の創傷被覆材であるV.A.C.(登録商標)GranuFoam(商標)Thin Dressingは、特に平面状の創傷用に開発されたものである。それは、創傷被覆材の裁断を容易にするための穿孔を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、創傷減圧治療をさらに改善し、従来技術の欠点を克服するという課題に鑑みてなされたものである。さらに、本発明は、できるだけ有効に、できるだけ負担がかからないように治療を行うことができる創傷減圧療法用の装置および施術方法を提供するという課題に鑑みてなされたものである。特に、創傷被覆材を創傷の形状にできるだけ正確に適合させるという課題の解決を図るものである。創傷被覆材が小さ過ぎると望ましくない空隙が形成されるおそれがあり、他方、創傷被覆材の寸法が大き過ぎると創縁に刺激を与えるおそれがあるため、できるだけ正確に適合させることが望ましい。ドレッシング材を装着するのに要する時間を短縮し、患者の負担を小さくするため、創傷被覆材の個々の適合をできるだけ簡単且つ迅速に行わなければならない。さらに、創傷被覆材の滅菌状態を維持するため、創傷被覆材の個々の適合をできるだけ少ない作業工程で行わなければならない。さらに、実務的な点で、非常に様々な創傷に使用するのに適した少数の異なる創傷被覆材を用意しているだけでよいことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
a)創傷および創傷周囲を気密閉鎖するための空気不透過性カバー材と、
b)創傷空間内に減圧を発生させることができ、且つ創傷空間から液体を吸引除去することができるように、創傷空間をカバー材の外側にある減圧源と機能的に連結する手段と、
c)創傷面とカバー材によって形成される間隙に入れられる液体透過性創傷被覆材と、
を備える創傷減圧療法用の装置であって、この装置が、さらに、
d)液体透過性創傷被覆材の裁断補助手段であって、
d1)裁断補助手段が、第1の面と第2の面とを有する透明シートを備え、
d2)裁断補助手段に創傷の輪郭を描くことができるように、透明シートの第1の面は筆記可能であり、
d3)透明シートは、少なくとも第1の面の反対側にある第2の面に粘着性コーティングを有し、使用時に創傷に面しない創傷被覆材の面に裁断補助手段を貼付することができるようになっている、
裁断補助手段を備える、
ことを特徴とする創傷減圧療法用の装置を提供することにより、
ならびに、
a)裁断補助手段を準備する工程、
b)液体透過性創傷被覆材を準備する工程、
c)創傷の輪郭を裁断補助手段に透写する工程、
d)創傷被覆材と裁断補助手段からなる平面状積層体が得られるように、使用時に創傷に面しない液体透過性創傷被覆材の面に裁断補助手段を貼着する工程、
e)創傷被覆材と裁断補助手段からなる平面状積層体を裁断する工程であって、この裁断が、工程c)で裁断補助手段に描かれた輪郭に沿って行われる工程、
を含む、創傷減圧療法用の裁断された液体透過性創傷被覆材を準備する方法により、課題を解決する。
【0012】
創傷減圧療法用の裁断された液体透過性創傷被覆材を準備する方法では、まず、前述の創傷減圧療法用の装置の構成要素a)〜d)を準備する。その後、創傷の輪郭を、適したペン(Stift)で、例えば、市販の拭き取り可能な(「水性」)または拭き取り可能でない(「油性」)シート用マーカーペンで裁断補助手段に描くことができる。裁断補助手段を創傷上に密接して、例えば、約2cmの間隔を空けて保持したまま、創傷の輪郭を裁断補助手段に透写してもよい。あるいは、裁断補助手段を創傷上に配置したまま、創傷の輪郭を裁断補助手段に透写してもよい。創傷の輪郭を裁断補助手段に透写した後、使用時に創傷に面しない液体透過性創傷被覆材の面に裁断補助手段を貼着し、創傷被覆材と裁断補助手段からなる平面状積層体を得る。その後、創傷被覆材と裁断補助手段からなる積層体を、描かれた創傷の輪郭に沿って裁断することができるが、裁断には滅菌ハサミを使用することが好ましい。
本発明の方法により準備される裁断された液体透過性創傷被覆材は、正確に創傷の形状を有し、創傷上に配置することができる。本発明により準備される裁断された創傷被覆材は、創傷被覆材の寸法が小さ過ぎることによる空隙も、創傷被覆材の寸法が大き過ぎることによる創縁への荷重も生じないため、創傷減圧治療の有効性を改善することができる。さらに、本発明の方法によりぴったり適合するように準備される裁断された創傷被覆材は、圧力を受ける場所が生じないようにすることができるため、減圧治療中、患者にとって快適に感じられる。創傷減圧療法用の創傷被覆材を準備する本発明の方法により、さらに、医師または治療する人が創傷被覆材を創傷の個々の形状やサイズに非常に迅速且つ簡単に適合させることが可能となる。従来技術では一般的であるように目測で切り整えられた創傷被覆材は、後で修正を必要とする場合もあるが、その必要がなくなる。これは、創傷の治療時に、時間に追われて作業することが多い医師にとって有利である。さらに、迅速な創傷処置は患者にとって比較的負担がかからない。創傷減圧療法用の創傷被覆材を少ない工程で迅速に準備する本発明の方法により、創傷ドレッシング材の構成要素または開放創を汚染するリスクが低減する。
【0013】
好ましい実施形態によれば、裁断補助手段は、減圧治療中、創傷被覆材上に留置される。これは、一方では、少ない工程で創傷治療を迅速に実施することに関して有利である。また、特に、創傷が大きい場合、例えば、創傷の面積が50cmより大きい場合、裁断補助手段を創傷被覆材上に留置することが、減圧ドレッシング材の安定化に関しても有利なことがある。それに加えて、裁断補助手段を創傷被覆材上に留置することが、創傷領域の圧力分布の均一化に寄与し得る。その場合、裁断補助手段を創傷被覆材上に留置することにより、減圧療法中、外部の影響から創傷を保護することもできる。
【0014】
他の好ましい実施形態によれば、裁断補助手段は、裁断された液体透過性創傷被覆材を創傷内に適用する前に、創傷被覆材から剥離される。創傷空間の内側に追加の層があることが望ましくない場合、創傷被覆材を個々に適合させた後、裁断された創傷被覆材から裁断補助手段を剥離することが有利なことがある。特に、創傷被覆材をできるだけ柔軟にしようとする場合、裁断された創傷被覆材から裁断補助手段を剥離することが望ましいことがある。比較的小さい創傷、例えば、面積が50cm未満の創傷が、これに該当する。
【0015】
本発明の装置は、創傷を気密閉鎖するためのカバー材を備える。「気密閉鎖」とは、本明細書では、創傷空間とその周囲との間でどのようなガス交換も起こらないものと理解すべきではない。むしろ、これに関して「気密閉鎖」とは、使用する減圧ポンプを考慮して、創傷減圧療法に必要な減圧を維持できることを意味する。そのため、減圧療法に必要な減圧を維持できる限り、僅かな気体透過性を有するカバー材も使用することができる。
気密性カバー材は、例えば、硬質材料からなるシェルの形態で提供されていても、または可撓性シートの形態で提供されていてもよい。また、硬質のフレームまたは支持板と可撓性シートとの組み合わせも考えられる。
本発明の好ましい実施形態では、創傷を気密閉鎖するためのカバー材は、水不溶性のポリマーまたは金属箔を含む。
【0016】
本発明の特に好ましい実施形態では、水不溶性ポリマーは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドまたはポリ塩化ビニル、ポリオルガノシロキサン(シリコーン)、またはこれらの混合物である。
当業者には、他の適したポリマーシート材料も知られている。
カバー材として、前述の特性を有する既製品を使用することもできる。
Hydrofilm(登録商標)(Paul Hartmann AG、ドイツ)またはVisulin(登録商標)(Paul Hartmann Ag、ドイツ)の商標のポリウレタンフィルムは、本発明の装置に特に適したカバー材となることが判明した。
カバー材は、創傷が確実に気密閉鎖されるように、創傷周囲または創縁に固定される。その場合、カバー材の全面が粘着性を有するか、またはカバー材が粘着性周縁を有することが好都合なことがある。あるいは、例えば、粘着シート、液体接着剤、またはシール材で固定およびシールを行ってもよい。
本発明の好ましい実施形態では、カバー材は1種類以上の水不溶性ポリマーからなるシートを含み、シートの全面が粘着性を有するか、またはシートが粘着性周縁を有する。
しかし、減圧治療中に発生する減圧だけでカバー材を創傷部に保持することも可能である。
好ましい実施形態では、カバー材、および創傷空間をカバー材の外側にある減圧源と機能的に連結する手段は、直ぐに使用できるように既に互いに連結された状態で提供される。これらの実施形態が、1種類以上の水不溶性ポリマーからなり、粘着性周縁を有するシートを含むことがとりわけ好ましいが、その理由は、このような構成によりドレッシング材の装着がずっと容易になるからである。
【0017】
減圧療法用の本発明の装置は、創傷空間内に減圧を発生させることができ、且つ創傷空間から液体を吸引除去することができるように、創傷空間をカバー材の外側にある減圧源と機能的に連結する手段を備える。
【0018】
「創傷空間内に減圧」という表現は、本発明に関して、創傷ドレッシング材の内側の気圧が周囲の気圧(大気圧)と比較して低いことを意味する。「創傷ドレッシング材の内側」とは、カバー材と創傷によって形成される間隙と理解される。「減圧」は、「陰圧」と称されることも多い。
創傷ドレッシング材の内側の気圧と周囲の気圧との圧力差は、本発明に関して、mmHg(ミリメートル水銀柱)で記載されるが、この理由は、減圧療法の分野ではそれが一般的であるからである。1mmHgは、1Torrまたは133.322Pa(パスカル)に相当する。本発明に関して、減圧、即ち、創傷ドレッシング材の内側の気圧と周囲の気圧との圧力差は、mmHgで正の数値として記載される。
本発明の実施形態では、減圧は、500mmHg以下の減圧である。このような500mmHg以下の減圧範囲が創傷治癒に適していることが判明した。本発明の好ましい実施形態では、減圧は、10mmHg以上、150mmHg以下の減圧である。
本発明の他の2つの代替のそれぞれ好ましい実施形態では、減圧は、a)一定の減圧であるか、またはb)経時変化する減圧である。
「一定の減圧」(a)とは、本明細書では、治療中に減圧が実質的に一定に維持されることと理解される。「実質的に一定」とは、治療中に起こり得る減圧の変化が僅かである、例えば、約15%前後であることを意味する。
好ましい一定の減圧は、80mmHg以上〜150mmHg以下の範囲である。
経時変化する減圧(b)とは、本明細書では、治療中に減圧が的確に変化することと理解される。気圧の的確な変化とは、減圧ドレッシング材の装着後、減圧の第1の目標値が達せられたときに指定している気圧の変化と理解される。それに対して、ドレッシング材の装着後、第1の目標値が達せられるまでに生じる減圧の最初の上昇段階は、「経時変化する減圧」の概念には含まれない。これは、治療の終了時に必然的に起こる周囲気圧への気圧の戻りについても同様に当てはまり、それも同様に「経時変化する減圧」の概念には含まれない。
「経時変化する減圧」は、周囲気圧以下、および500mmHg、好ましくは150mmHg、特に125mmHgの最大減圧以上に制限される。治療中に適用される実際の減圧は、この基準値によって画定される範囲内で変動する。即ち、「経時変化する減圧」は、例えば、1つまたは複数の高い方の減圧値と1つまたは複数の低い方の減圧値との間での1回または複数回の変化を含む。同様に、「経時変化する減圧」は、治療中に起こる、周囲圧力と1つまたは複数の高い方の減圧値との間での1回または複数回の的確な変化を含む。
好ましい実施形態では、経時変化する減圧の最大減圧は125mmHgである。減圧の変化の下限は、この実施形態では、周囲気圧である。治療中、減圧は、これらの基準値間で、またはこれらの基準値内で変化する。
他の好ましい実施形態では、経時変化する減圧の最大減圧は125mmHgである。減圧の変化の下限は、この実施形態では、20mmHgである。治療中、減圧は、これらの基準値間で、またはこれらの基準値内で変化する。
前述の2つの実施形態では、上の圧力値と下の圧力値との間での変化は、周期的に起こっても、または非周期的に起こってもよい。周期的な変化が好ましい。高い方の減圧と、低い方の減圧または周囲圧力が維持される時間は、それぞれ長さが異なってもよい。
好ましくは、低い方の減圧が、高い方の減圧より長時間維持される。それぞれ特定の減圧設定値または周囲圧力を維持する適切な時間は、例えば、1分、2分、5分、10分、30分、1時間、12時間、または24時間である。
下記のパラメータで変化する減圧が特に好ましく、治療中、2つの減圧値の間を記載した時間で連続的に変化する:
125mmHgの減圧2分間、
その後、
20mmHgの減圧5分間。
【0019】
本発明の創傷減圧療法用の装置は、さらに、創傷空間をカバー材の外側にある減圧源と機能的に連結する手段を備える。
【0020】
機能的連結は、例えば、連結管または減圧接続部品で行うことができる。減圧接続部品は、当業者には「ポート」の名称でも知られている。
一実施形態では、創傷空間をカバー材の外側にある減圧源と機能的に連結する手段は、少なくとも1つの連結管である。少なくとも1つの連結管は、カバー材に挿通されてもよい。
あるいは、少なくとも1つの連結管は、カバー材の周縁の下を通されてもよい。
どちらの場合も、通過箇所は、ドレッシング材内に望ましい減圧を維持できるように気密シールされなければならない。シール手段としては、例えば、粘着シート、粘着材、または粘着テープが適している。
連結管は、例えば、チューブ、パイプ、または空隙を有する別の物体であってもよい。適したチューブは、例えば、シリコーンドレナージチューブである。
連結管が、減圧システムの他の構成要素と連結可能となるように、創傷ドレッシング材の外側にある端部に減圧アダプタを有することが好都合である。
連結管は、創傷ドレッシング材の内側にある端部に開口部を有する。
他の実施形態では、創傷空間をカバー材の外側にある減圧源と機能的に連結する手段は、カバー材の内面または外面に固定することができる減圧接続部品(ポート)であり、この場合、カバー材は適切な開口部を有する。いずれの場合も、通過口(内側ポート)または支持面(外側ポート)の気密シールに留意しなければならない。シールは、例えば、粘着シート、粘着材、または粘着テープで行ってもよい。また、ポート自体が、例えば、粘着面などの対応する固定機構を有することも考えられる。
適切な減圧接続部品は市販されている。それは、典型的には、カバー材の外面に固定される減圧接続部品である。
【0021】
減圧接続部品が、減圧システムの他の構成部品と連結可能となるように、減圧アダプタを有することも好都合である。
本発明の創傷減圧療法用の装置は、さらに、液体透過性創傷被覆材を備える。一方では、減圧療法中、創傷滲出液が創傷被覆材を確実に透過し、他方では、材料が創傷組織と癒着または固着する傾向がない限り、従来技術から公知の創傷被覆材は基本的に全て、創傷被覆材として考慮の対象となる。創傷被覆材を液体透過性材料から製造することにより、創傷滲出液が透過するようにしてもよい。例えば、フォーム材料からなる創傷被覆材がこれに該当し得る。また、創傷被覆材が適切な開口部または流路を有することにより、創傷滲出液が確実に透過するようにしてもよい。さらに、創傷被覆材は裁断可能でなければならない。好ましくは、創傷被覆材は、ハサミで、特に滅菌ハサミで裁断可能でなければならない。
構造化されたゲルからなる特に適した創傷被覆材が、独国特許出願公開第102008062472.1号明細書に開示されている。それには、支持体層と、支持体層の創傷に面する面に設けられた創傷接触層とを備える減圧療法用の創傷ドレッシング材が記載されており、創傷接触層はその平面に対して直角に創傷接触層を貫通する開口部を有し、創傷に面する創傷接触層の面が隆起と窪みを有し、創傷接触層の隆起領域だけが皮膚表面との接触面となることを特徴とする。
独国特許出願公開第102008031183.9号明細書および独国特許出願公開第102008031182.0号明細書に記載の創傷被覆材も同様に、液体透過性創傷被覆材として本発明の装置に使用することができる。独国特許出願公開第102008031183.9号明細書および独国特許出願公開第102008031182.0号明細書に開示されている創傷被覆材層は、特に肉芽形成期および上皮化期に使用するのに適している。それらは、10重量%以上の水分を有する親水性ポリウレタンフォームを備える。
同様に、創傷被覆材は、透過性不織布層または網状チュールを備えてもよい。透過性不織布層またはチュールは、好ましくは疎水性材料、例えばポリエステルからなる。チュールはさらに軟膏が塗布されていてもよい。
【0022】
特に適した創傷被覆材は、Hydrotuell(登録商標)およびAtrauman(登録商標)(Paul Hartman AG、ドイツ)の商標の軟膏付圧迫ガーゼ(Salbenkompressen)である。
創傷被覆材と創傷組織との癒着または固着が起こることがあるが、この問題は、本発明の代替の実施形態では、創傷被覆材が全部生体吸収性材料からなるか、または創傷側に生体吸収性材料を備えることによって解決される。適した生体吸収性材料は、例えば、独国特許第19609551号明細書または国際公開第02/072163号パンフレットに開示されている。
好ましくは、特に感染創の治療に本発明の装置を使用するために、液体透過性創傷被覆材は、抗微生物コーティングを有する。好ましくは、抗微生物コーティングは銀コーティングである。
創傷接触層として適した銀コーティングを有する軟膏ガーゼには、市販の製品であるAtrauman Ag(登録商標)(Paul Hartman AG、ドイツ)がある。
創傷接触層は、抗生作用を有する医薬物質を含有してもよい。
また、創傷被覆材層は創傷治癒を促進する物質を含有し、その物質が治療中に創傷面に放出されてもよい。このような物質の例としては増殖因子がある。
本発明の他の実施形態では、創傷減圧療法用の装置は、第1の液体透過性創傷被覆材の創傷の方を向く面に設けられる、少なくとも1つの追加の創傷被覆材層を備える。その場合、異なる材料からなる層も含まれる。追加の1つまたは複数の創傷被覆材層はさらに、同時に裁断できるように、第1の創傷被覆材と粘着結合可能でなければならない。粘着結合により、第1の創傷被覆材と追加の創傷被覆材層が互いに滑って位置がずれることが防止されなければならない。同様に、2つ以上の追加の創傷被覆材層の使用が考えられる場合、これらの追加の創傷被覆材層も互いに粘着結合可能でなければならない。複数の層の組み合わせにより、各創傷状況に最適に適合することが可能となる。例えば、感染創の場合、銀コーティングされた軟膏ガーゼとフォームドレッシング材からなる組み合わせを第1の創傷被覆材層として使用することが有利なことがある。
【0023】
本発明の創傷減圧療法用の装置はさらに、液体透過性創傷被覆材の裁断補助手段を備える。裁断補助手段は、第1の面と第2の面とを有する透明シートを備える。透明シートの第1の面は、例えば、市販のシート用マーカーペンで筆記可能である。シートは筆記可能であるため、治療される創傷の正確な輪郭を裁断補助手段に描くことができる。透明シートは、シートを創傷に近接して保持したとき、シートを通して創傷の外周を視認することを可能にする十分な透明性を有していなければならない。特に、シートを創傷上に密接して、例えば、約2cmの間隔を空けて保持したとき、創傷の外周を視認することが可能でなければならない。好ましくは、透明シートは、シートを創傷上に配置したとき、創傷の外周を視認するのに十分な透明性を有する。当業者は、材料ならびにフィルムの厚さを適切に選択することにより、透明性を調整することができる。20μm〜500μm、特に25μm〜100μmの透明シートの厚さが特に好適であることが判明した。透明シートは、好ましくは、ポリマーシート、特に、ポリウレタン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリオルガノシロキサン、またはこれらの混合物からなるシートである。特に好ましい実施形態によれば、透明シートはポリウレタンフィルムである。裁断補助手段は、第1の面の反対側にある第2の面に粘着性コーティングを有する。粘着性コーティングにより、使用時に創傷に面しない創傷被覆材の面に裁断補助手段を貼付することができる。粘着性コーティングは、好ましくはポリアクリレート粘着剤で形成される。
【0024】
好ましい実施形態によれば、裁断補助手段は、使用時に創傷の方を向く面に少なくとも1つの透明カバーシートを備える。この場合、カバーシートは、透明シートの粘着性コーティングを保護する。この実施形態では、また、透明シートと透明カバーシートからなる積層体を創傷に近接して保持したときおよび/または創傷上に配置したとき、積層体が全体として、積層体を通して創傷の外周を視認することを可能にするのに十分な透明性を有することが重要である。透明カバーシートに適した材料は、ポリウレタン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリオルガノシロキサン、またはこれらの混合物を含む。特に、シリコーン処理ポリエステルフィルムが透明カバーシートとして適していることが判明した。
【0025】
好ましくは、裁断補助手段は、分離した2つの透明カバーシート部分を備え、これらは、例えば、少なくとも1つの摘み部を形成することにより、透明シートから簡単に引き剥がすことができるように構成されている。摘み部は、例えば、一方のカバーシート部分を折り返すことによって形成されてもよい。他方のカバーシート部分も同様に、折り返すことによって形成された摘み部を有してもよい。あるいは、他方のカバーシート部分を、第1のカバーシート部分の摘み部に少なくとも一部重ね合わせてもよい。
【0026】
他の有利な実施形態によれば、裁断補助手段は、使用時に創傷の方を向かない面に、好ましくは透明ポリエステルフィルムを含む少なくとも1つの他のシートを備える。
少なくとも1つの他のシートは、保護シートとして形成されていてもよい。保護シートは、好ましくは滅菌包装から裁断補助手段を取り出した後、除去されてもよい。
少なくとも1つの他のシートは、特に、第1の面と第2の面とを有する透明ポリエステルフィルムを含んでもよく、透明ポリエステルフィルムの第2の面は透明シートの第1の面に載せられる。この場合、透明シートに創傷の輪郭を透写する間、他のシートはそのままにしておいてもよい。この実施形態では、透明ポリエステルフィルムの第1の面に創傷の輪郭を透写するが、透明シートの第1の面には描かない。第2の面が透明シートの第1の面に載せられた透明ポリエステルフィルムは、裁断補助手段の安定化および保護に寄与し、裁断補助手段の取り扱いを容易にすることができる。
【0027】
創傷治療では、創傷治癒経過の記録は、行う価値がある場合がある。創傷の記録に関して、創傷のサイズおよび外周を減圧治療の始めに記録しておくことが望ましい。本発明の発明者らは、他の実施形態による裁断補助手段が、個々に裁断された創傷被覆材の準備を可能にするだけでなく、さらに創傷のサイズおよび外周を簡単且つ迅速に記録するために使用できることを見出した。この有利な実施形態によれば、裁断補助手段は、第1の面と第2の面とを有する他の透明シートを備え、透明ポリエステルフィルムが特に適している。他の透明シートに創傷の輪郭を描くことができるように、他の透明シートの第1の面は筆記可能である。他の透明シートはさらに、第1の面の反対側にある第2の面に粘着性コーティングを有し、他の透明シートの第2の面を透明シートの第1の面と粘着結合させることができるようになっている。この実施形態によれば、創傷の輪郭は他の透明シートの第1の面に描かれる。第1の透明シートと他の透明シートからなる積層体は、液体透過性創傷被覆材に貼着される。創傷被覆材、透明シート、および他の透明シートからなる積層体を切り整えた後、透明シートから他の透明シートを剥離する。他の透明シートは、創傷の輪郭の形状を有し、例えば、患者の診療記録に貼付されてもよい。
【0028】
好ましくは、少なくとも1つの他のシートは2つの部分から形成されており、この2つの部分は、例えば、少なくとも1つの摘み部を形成することにより、簡単に透明シートから引き剥がすことができるように構成されている。これは、例えば、他のシートの第1の部分を他のシートの第2の部分に重ね合わせることによって達成されてもよい。
裁断補助手段がその第1の面に少なくとも1つの他のシートを備え、さらにその第2の面に少なくとも1つの透明カバーシートを備えることが特に有利であることが判明した。また、裁断補助手段が、使用時に創傷の方を向かない面に少なくとも1つの他のシートを備え、使用時に創傷の方を向く面に粘着性コーティング以外に他の層を備えないことも可能である。
【0029】
さらに、本発明は、創傷および創傷周囲を気密閉鎖するための空気不透過性カバー材と、創傷空間内に減圧を発生させることができ、且つ創傷空間から液体を吸引除去することができるように創傷空間をカバー材の外側にある減圧源と機能的に連結する手段と、創傷面とカバー材によって形成される間隙に入れられる液体透過性材料からなる創傷被覆材と、減圧治療用の液体透過性創傷被覆材の裁断補助手段とを備える、すぐに使用できる減圧創傷治療用のセットを提供する。この場合、セットに含まれる構成要素は、滅菌包装された状態で提供されていなければならない。特に、裁断補助手段、創傷被覆材、カバー材、および創傷空間をカバー材の外側にある減圧源と機能的に連結する手段は、滅菌包装された状態で提供される。
好ましくは、これが医学的観点から必要な構成要素は全て、滅菌包装された状態で提供される。
このセットは、他の任意選択による構成要素、例えば、1つ以上の創傷被覆材層、ドレッシング材を固定するための粘着剤、ドレッシング材を気密シールするためのシール剤、圧力センサ、圧力センサ用の連結要素、追加のチューブ、チューブ用の連結部品、消毒剤、スキンケア剤、医薬製剤または使用説明書などを含んでもよい。セットの特に有利な構成要素としては、さらに、滅菌ハサミおよび滅菌ペンがある。任意選択によりセットに含まれるペンは、特に、裁断補助手段に創傷の輪郭を描くのに適しているシート用マーカーである。
好ましくは、セットはさらに、すぐに使用できる減圧装置を備える。減圧装置は、例えば、ポンプ、1つ以上の液体容器、制御装置、電源、電気接続手段およびチューブなどの構成要素を含んでもよい。減圧装置はまた、減圧ドレッシング材を既存の据置型減圧源と機能的に連結する装置を含んでもよい。
すぐに使用できるセットの利点は、減圧ドレッシング材を迅速に標準化し、簡単に装着できることである。他の利点は、創傷領域に使用されるセットの構成要素を既に滅菌された状態で提供できることである。
【0030】
他の好ましい実施形態では、皮膚移植により生じる創傷の治療時に減圧療法に使用される裁断補助手段を提供する。使用は、分層植皮術によってそして全層植皮術によって生じる創傷の減圧療法による治療を含む。輪郭が移植体の輪郭に正確に対応する創傷被覆材を準備できるため、有利な効果が得られる。これにより、非常に均一な圧力分布が可能になる。皮膚移植により生じる創傷の治療時に裁断補助手段を使用する場合、適切に裁断された創傷被覆材で移植体(「皮膚移植片」)を十分固定することができる。損傷を与える剪断力を大幅に回避することができる。
【0031】
本発明の他の対象は、
a)創傷および創傷周囲を気密閉鎖するための空気不透過性カバー材と、創傷空間内に減圧を発生させることができ、且つ創傷空間から液体を吸引除去することができるように創傷空間をカバー材の外側にある減圧源と機能的に連結する手段と、創傷面とカバー材によって形成される間隙に入れられる液体透過性創傷被覆材とを備える装置を準備する工程であって、装置がさらに液体透過性創傷被覆材の裁断補助手段を備えることを特徴とする工程。裁断補助手段は、第1の面と第2の面とを有する透明シートを備える。裁断補助手段に創傷の輪郭を描くことができるように、透明シートの第1の面は筆記可能である。さらに、透明シートは、少なくとも第1の面の反対側にある第2の面に粘着性コーティングを有し、使用時に創傷に面しない創傷被覆材の面に裁断補助手段を貼付することができるようになっている。
b)裁断補助手段を創傷上に配置する、あるいは、裁断補助手段を創傷上に密接して、例えば、創傷の約2cm上に保持する工程、
c)創傷の輪郭を透写する工程、
d)使用時に創傷に面しない液体透過性創傷被覆材の面に裁断補助手段を貼着する工程、
e)液体透過性創傷被覆材を裁断補助手段と共に裁断する工程であって、裁断が工程c)で予め描かれた輪郭に従って行われる工程、
f)裁断された液体透過性創傷被覆材を創傷上に配置する工程、
g)減圧ドレッシング材の残りの構成要素を創傷に装着する工程、
h)創傷空間内に500mmHg以下の減圧を30分以上、7日間以下発生させる工程、
を含む、創傷減圧療法の施術方法である。
好ましくは、裁断補助手段は、工程f)で、使用時に創傷に面しない裁断された液体透過性創傷被覆材の面に留置される。しかし、代替の実施形態によれば、裁断補助手段は、裁断された創傷被覆材を配置する前に、裁断された創傷被覆材から剥離されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】創傷に装着された減圧ドレッシング材の概略図(側面図)である。
【図2】裁断補助手段の一実施形態の概略図(側面図)である。
【図3】裁断補助手段の別の実施形態の概略図(側面図)である。
【図4】裁断補助手段の別の実施形態の概略図(側面図)である。
【図5】創傷に装着された創傷減圧療法用の装置の好ましい実施形態の概略図(側面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下で、図面を参照して本発明の創傷減圧療法用の装置をより詳細に説明する。しかし、本発明は、図面、または図面の説明に記載される実施形態に限定されるものではないことを理解されたい。むしろ、本発明の装置は、代替の実施形態の個々の特徴の組み合わせも含む。
【0034】
図1は、創傷に装着された減圧ドレッシング材の典型的な構成を示す。このような装置は、多くの変形形態が従来技術から知られている。装置は、空気不透過性カバー材2と、創傷空間をカバー材の外側にある減圧源7と機能的に連結する手段と、創傷滲出液の捕集キャニスター6と、創傷空間内にある液体透過性創傷被覆材3とを備える。一般に、液体透過性創傷被覆材は目測で切り整えられる。創傷被覆材が創傷のサイズや形状に十分適合しておらず創傷空間を完全に充填しない場合、創底部Wとカバー材2との間に空隙が形成されることがある(図1に矢印で示す)。さらに、創傷被覆材の寸法が大き過ぎると、創縁を一部覆うことがある(図1には示していない)。創傷空間をカバー材の外側にある減圧源7と機能的に連結する手段は、図1に示す実施例では、ポートとして示されている減圧接続部品4と減圧連結管5とを備える。ポート4は、図1に示す実施例では、空気不透過性カバー材2の創傷の方を向かない外面にある。この構成では、創傷空間をカバー材の外側にある減圧源7と機能的に連結するために、減圧接続部品4の領域に、カバー材2を貫通する開口部が1つ以上存在しなければならない(図示せず)。さらに、気密シールが確保されなければならない。このようなシールは、例えば、創傷の方を向かないポートの上面に、カバー材2と貼着されるシート(図1には示していない)を被せることによって形成することもできる。カバー材にポートを固定するための固定およびシール手段が既設されている場合、ポートを使用するとき、ドレッシング材の装着が容易になり得る。減圧接続部品4と減圧装置7との間に、捕集容器6が存在する。カバー材2は、通常、損傷していない皮膚を有する創傷周囲1の領域に固定される。カバー材のサイズは、カバー材を創傷領域の外側にある創傷周囲1の領域に固定できるような寸法でなければならない。カバー材2は、様々な寸法や形状、例えば、円形、楕円形、または長方形で提供されていてもよい。それは、創傷に適合する不規則な形状で提供されていてもよい。カバー材2は、不透明な材料、部分的に透明な材料、または全部透明な材料であってもよい。創傷の治癒過程の管理を可能にするために、透明な材料を使用することが有利な場合がある。患者が創傷を見ないで済むように、部分的にしか透明でない材料または不透明な材料を使用することが有利な場合がある。あるいは、カバー材2は、創傷の方に開口したシェルの形状で創傷領域を覆うように装着され、創傷周囲1の領域に固定される剛性材料であってもよい。カバー材2は、創傷周囲1の領域に固定され、気密シールされなければならない。これは、例えば、カバー材2が粘着性周縁を有することによって行われる。粘着性周縁はできるだけドレッシング材を装着するまで保護テープで保護されていなければならない。あるいは、粘着性物質をカバー材2の周縁に、および/または創傷周囲の領域の損傷していない皮膚に塗布してもよい。これには、創傷の形状やサイズにカバー材をより容易に適合させることができるという利点がある。しかし、粘着テープまたは粘着材を使用することにより、装置の固定および気密シールを達成することもできる。カバー材にポートを固定するための固定およびシール手段が既設されている場合、ポートを使用することにより、ドレッシング材の装着が容易になり得る。例えば、Phametra−Pharma und Medica−Trading GmbH(ドイツ)社製の市販のPPMドレナージポートがこれに該当する。
【0035】
図2は、裁断補助手段10の一実施形態の側面図を示す。裁断補助手段10は、創傷の輪郭を描くことができるように第1の面が筆記可能である透明シート8を備える。透明シート8の第1の面に創傷の輪郭を描いた後、裁断補助手段10を液体透過性創傷被覆材に貼着する。これに加えて、透明シート8は、その第2の面に粘着性コーティング9を有する。粘着性コーティング9は、裁断補助手段10を創傷被覆材3に簡単に粘着することを可能にする。その後、液体透過性創傷被覆材3を裁断補助手段10と共に裁断することができ、裁断は透明シート8の第1の面に描かれた輪郭に従って行われる。
【0036】
裁断補助手段10の他の好ましい実施形態の構成を図3に示す。この装置は、透明シート8の第2の面にある粘着層9が透明カバーシート11および12で被覆されている点が、図2に示す装置と異なる。あるいは、裁断補助手段10は、透明カバーシートを1つだけ、または透明カバーシートを3つ以上備えてもよい(図示せず)。図3に示す透明カバーシート11および12は摘み部13および14を備え、摘み部は折り返すことによって(摘み部13)、または別の透明シートを重ね合わせることによって(摘み部14)形成される。摘み部13および14は、透明カバーシート11および12の剥離を容易にする。当業者には、少なくとも1つの透明カバーシートの剥離を容易にすることができる他の手段が知られている。
少なくとも1つの透明カバーシートを備える裁断補助手段は、本発明の方法に使用するのに特に適している。一方では、粘着面9が被覆されるため、少なくとも1つの透明カバーシートにより裁断補助手段10の取り扱いが容易になる。さらに、少なくとも1つの透明カバーシートは裁断補助手段10を安定化させ、裁断補助手段が折れ曲がりにくくなるようにする。最後に、少なくとも1つの透明カバーシートは、透明シート8の粘着面9を創傷滲出液から保護する。裁断補助手段を創傷に密接して保持するとき、例えば、誤って創傷滲出液との接触が起こることがある。創傷輪郭を描くために裁断補助手段10を創傷上に配置するとき、創傷滲出液との接触が必然的に起こる。従って、裁断補助手段を創傷被覆材3に貼着するとき、少なくとも1つの透明カバーシートをまず裁断補助手段から剥がすことが有利である。
【0037】
裁断補助手段10の特に有利な実施形態を図4に示す。この実施形態では、透明シート8はさらにその第1の面に、粘着性コーティング16が設けられた透明ポリエステルフィルム15を備える。透明ポリエステルフィルム15は、複数の部分から形成されていてもよい(図4には示されていない)。さらに、ポリエステルフィルム15を透明シート8から引き剥がすことを容易にするため、透明ポリエステルフィルム15に1つ以上の摘み部が設けられてもよい(図4には示していない)。さらに、折り返すことによってポリエステルフィルム15の引き剥がしを容易にすることができる(図4には示していない)。当業者には、少なくとも1つの透明ポリエステルフィルムの剥離を容易にすることができる他の手段が知られている。
図4に示す実施形態の利点は、使用時に、透明ポリエステルフィルムを最初は透明シート8上に置いたままにしておくことができることである。そのとき創傷の輪郭を透明ポリエステルフィルム15に直接描くことができる。創傷被覆材を裁断した後、透明ポリエステルフィルム15を透明シート8から引き剥がすことができ、創傷のサイズを記録するために文書補助として保管することができる。
【0038】
図5は、既に裁断された液体透過性創傷被覆材3pを有する創傷に装着された創傷減圧療法用の装置の好ましい実施形態を示す。装置は、空気不透過性カバー材2と、創傷空間をカバー材の外側にある減圧源7と機能的に連結する手段4および5と、創傷滲出液の捕集容器6と、創傷空間内の創底部Wにある裁断された液体透過性創傷被覆材3pとを備える。図5に示す実施形態によれば、透明シート8と創傷被覆材3からなる積層体を裁断した後、透明シート8は裁断された創傷被覆材3p上に置いたままにされる。個々の創傷のサイズや輪郭にぴったり適合するように裁断された透明シート8と創傷被覆材3pとからなる積層体を創傷空間内に配置する。創傷空間を空気不透過性カバー材2で閉鎖する。創傷空間をカバー材の外側にある減圧装置7と機能的に連結するため、この構成では減圧接続部品4の領域に、カバー材2と透明シート8を貫通する開口部(図5に両側矢印で示す)が1つ以上存在しなければならない。通常、この開口部は、空気不透過性カバー材2の装着後に設けられる。そのために、鋭利な物で、例えば、滅菌外科用メスで、減圧接続部品4により被覆される領域内にカバー材2と透明シート8を貫通する開口部を少なくとも1つ切設してもよい。少なくとも1つの開口部は、例えば、1つ以上の十字形スリットの形状に設けられてもよい。しかし、開口部は、カバー材2と透明シート8を貫通し、直径がそれぞれ約3〜8mmの1つまたは少数(例えば、2〜5つ)の円形開口部の形状に切設されることが特に有利である。その場合、切り取られたシート材料をできるだけドレッシング材から除去しなければならないが、その理由は、さもなければ減圧療法中に減圧接続部品に詰まるおそれがあるからである。
【符号の説明】
【0039】
W 創底部
1 創傷周囲(即ち、一般に損傷していない皮膚)
2 空気不透過性カバー材
3 創傷内に配置される液体透過性創傷被覆材
3p 裁断された液体透過性創傷被覆材
4 減圧接続部品(ポート)
5 減圧連結管
6 捕集容器
7 減圧装置
8 透明シート
9 透明シート8上の粘着性コーティング
10 裁断補助手段
11、12 透明カバーシート
13、14 透明カバーシートの摘み部、摘み部13はカバーシート12を折り返すことによって形成され、摘み部14はカバーシート11の摘み部13に重なり合う部分によって形成される
15 貼付シート
16 貼付シート15上の粘着性コーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)創傷および創傷周囲(1)を気密閉鎖するための空気不透過性カバー材(2)と、
b)創傷空間内に減圧を発生させることができ、且つ創傷空間から液体を吸引除去することができるように、創傷空間を前記カバー材の外側にある減圧源と機能的に連結する手段(4、5)と、
c)創傷面(W)とカバー材(2)によって形成される間隙に入れられる液体透過性創傷被覆材(3)と、
を備える創傷減圧療法用の装置であって、前記装置が、さらに、
d)前記液体透過性創傷被覆材(3)の裁断補助手段(10)であって、
d1)裁断補助手段(10)が、第1の面と第2の面とを有する透明シート(8)を備え、
d2)前記透明シート(8)に創傷の輪郭を描くことができるように、透明シート(8)の第1の面は筆記可能であり、
d3)前記透明シート(8)は、少なくとも前記第1の面の反対側にある前記第2の面に粘着性コーティング(9)を有し、使用時に創傷に面しない創傷被覆材(3)の面に裁断補助手段(10)を貼付することができるようになっている、
裁断補助手段(10)を備える、
ことを特徴とする創傷減圧療法用の装置。
【請求項2】
前記透明シート(8)の第2の面にポリアクリレート粘着剤がコーティングされている、請求項1に記載の創傷減圧療法用の装置。
【請求項3】
前記透明シート(8)がポリマーシートである、請求項1または2に記載の創傷減圧療法用の装置。
【請求項4】
前記ポリマーシートのポリマーが、ポリウレタン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリオルガノシロキサン、またはこれらの混合物を含む、請求項3に記載の創傷減圧療法用の装置。
【請求項5】
前記裁断補助手段(10)がさらに、使用時に創傷の方を向く面に少なくとも1つの透明カバーシート(11、12)を備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の創傷減圧療法用の装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つのカバーシート(11、12)がシリコーン処理ポリエステルフィルムを含む、請求項5に記載の創傷減圧療法用の装置。
【請求項7】
前記裁断補助手段(10)が、使用時に創傷の方を向かない面に少なくとも1つの他のシートを備える、請求項1〜6のいずれか一項に記載の創傷減圧療法用の装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの他のシートが、第1の面と第2の面とを有する透明ポリエステルフィルム(15)を含み、さらに
d2)創傷の輪郭を前記透明ポリエステルフィルム(15)に描くことができるように、前記透明ポリエステルフィルム(15)の第1の面は筆記可能であり、
d3)前記透明ポリエステルフィルム(15)は、前記第1の面の反対側にある第2の面に粘着性コーティング(16)を有し、前記透明ポリエステルフィルム(15)を前記透明シート(8)の第1の面に貼付することができるようになっており、前記透明ポリエステルフィルム(15)はさらに創傷被覆材(3)の裁断後、前記透明シート(8)から引き剥がされ、創傷のサイズを記録するために文書補助として保管することができるようになっている、
請求項7に記載の創傷減圧療法用の装置。
【請求項9】
創傷減圧療法用の裁断された液体透過性創傷被覆材(3p)を準備する方法であって、
a)請求項1〜8のいずれか一項に記載の裁断補助手段(10)を準備する工程、
b)液体透過性創傷被覆材(3)を準備する工程、
c)創傷の輪郭を前記裁断補助手段(10)に透写する工程、
d)創傷被覆材(3)と裁断補助手段(10)からなる平面状積層体が得られるように、使用時に創傷に面しない前記液体透過性創傷被覆材(3)の面に前記裁断補助手段の第2の面を貼着する工程、
e)創傷被覆材(3)と裁断補助手段(10)からなる前記平面状積層体を裁断する工程であって、裁断が前記工程c)で前記裁断補助手段(10)に描かれた輪郭に沿って行われる工程、
を含む方法。
【請求項10】
f)前記裁断補助手段(10)を前記裁断された創傷被覆材(3p)から除去する工程をさらに含む、請求項9に記載の創傷減圧療法用の裁断された液体透過性創傷被覆材(3p)を準備する方法。
【請求項11】
前記裁断補助手段(10)を創傷に近接して保持したまま、または創傷上に配置したまま、創傷の輪郭を前記裁断補助手段(10)に透写する、請求項9または10に記載の創傷減圧療法用の裁断された液体透過性創傷被覆材(3p)を準備する方法。
【請求項12】
創傷減圧療法のための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置または請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法により準備される裁断された液体透過性創傷被覆材(3p)の使用。
【請求項13】
a)創傷および創傷周囲を気密閉鎖するための空気不透過性カバー材(2)を準備する工程と、
b)創傷空間内に減圧を発生させることができ、且つ創傷空間から液体を吸引除去することができるように、創傷空間を前記カバー材(2)の外側にある減圧源(7)と機能的に連結する手段(4、5)を準備する工程と、
c)前記液体透過性創傷被覆材(3)の裁断補助手段(10)を準備する工程であって、
c1)前記裁断補助手段(10)が、第1の面と第2の面とを有する透明シート(8)を備え、
c2)前記透明シート(8)に創傷の輪郭を描くことができるように、前記透明シート(8)の第1の面は筆記可能であり、
c3)前記透明シート(8)は、少なくとも前記第1の面の反対側にある前記第2の面に粘着性コーティング(9)を有し、使用時に創傷に面しない前記創傷被覆材(3)の面に前記裁断補助手段(10)を貼付することができるようになっている、
工程と、
d)液体透過性創傷被覆材(3)を準備する工程と、
e)創傷の輪郭を前記裁断補助手段(10)に透写する工程と、
f)創傷被覆材(3)と裁断補助手段(10)からなる平面状積層体が得られるように、使用時に創傷に面しない液体透過性創傷被覆材(3)の面に前記裁断補助手段(10)を貼着する工程と、
g)前記創傷被覆材(3)と裁断補助手段(10)からなる平面状積層体を裁断する工程であって、前記裁断が前記工程c)で前記裁断補助手段(10)に描かれた輪郭に沿って行われる工程と、
h)前記裁断された液体透過性創傷被覆材(3p)を創傷上に配置する工程と、
i)創傷と創傷周囲を前記工程a)の空気不透過性カバー材(2)で被覆し、創傷と創傷周囲を気密閉鎖する工程と、
k)前記工程b)の創傷空間を前記カバー材(2)の外側にある減圧源(7)と機能的に連結する手段(4、5)を装着する工程と、
h)創傷空間内に500mmHg以下の減圧を30分以上発生させる工程と、
を含む、創傷減圧療法の施術方法。
【請求項14】
請求項13に記載の創傷減圧療法の施術方法であって、前記創傷被覆材(3)と裁断補助手段(10)からなる平面状積層体を裁断した後、前記裁断された創傷被覆材(3p)を創傷上に配置する前に、前記裁断補助手段(10)を前記裁断された液体透過性創傷被覆材(3p)から除去する方法。
【請求項15】
a)創傷および創傷周囲を気密閉鎖するための空気不透過性カバー材(2)と、
b)創傷空間内に減圧を発生させることができ、且つ創傷空間から液体を吸引除去することができるように、創傷空間を前記カバー材(2)の外側にある減圧源(7)と機能的に連結する手段(4、5)と、
c)創傷面とカバー材(2)によって形成される間隙に入れられる液体透過性創傷被覆材(3)と、
d)第1の面と第2の面とを有する透明シート(8)を備える裁断補助手段(10)であって、前記透明シート(8)の第1の面が筆記可能であり、前記透明シート(8)の第2の面が粘着性コーティング(9)を有する裁断補助手段(10)と、
を備え、前記構成要素a)〜d)が滅菌包装された状態で提供されている、すぐに使用できる減圧創傷治療用セット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2013−514096(P2013−514096A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543523(P2012−543523)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007693
【国際公開番号】WO2011/072859
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(500038020)パウル ハルトマン アクチェンゲゼルシャフト (64)
【Fターム(参考)】