説明

減衰力可変ダンパ

【課題】 制御用電力の低減や制御性の向上等を実現した減衰力可変ダンパを提供する。
【解決手段】 ピストン16には、扇状断面を呈する一対の軸方向孔31が180°間隔で穿設されるとともに、円形断面のバルブスロット33が軸方向中央に形成されている。バルブプレート34は、円弧状を呈する一対の弾性弁部34aと、扇状を呈するとともに両弾性弁部34aの基端が連続する一対の閉鎖板部34bとを有している。ピストンロッド13は中空構造となっており、その中空部13bにアクチュエータ21の駆動力をバルブプレート34に伝達するコントロールロッド35が回転自在に保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のサスペンションに用いられる減衰力可変ダンパに係り、制御用電力の低減や制御性の向上等を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
サスペンションは、自動車の走行安定性を左右する重要な要素であり、車体に対して車輪を上下動自在に支持させるためのリンク(アームやロッド類)と、撓むことにより路面からの衝撃等を吸収するスプリングと、スプリングの振動を減衰させるダンパとを主要構成部材としている。自動車サスペンション用のダンパでは、作動油が充填された円筒状のシリンダとこのシリンダ内で摺動するピストンが先端に装着されたピストンロッドとを備え、ピストン(ピストンロッド)の作動に伴って作動油が複数の油室間を移動する複筒式や単筒式の筒型が一般的である。
【0003】
筒型ダンパでは、ピストンに連通孔やバルブプレートを設け、作動油が油室間で移動する際に流動抵抗を与えて減衰力を得るものが一般的である。しかし、このようなダンパでは減衰特性が一定となることから、路面状態および走行状況に適した乗り心地や走行安定性を得ることができない。そこで、ピストンの上下面に磁性体を素材とする縮み側および伸び側のバルブプレートを設置するとともに、ピストン内に磁界を発生させる環状のコイルを埋設し、コイルへの通電量を増減することで磁界の強さを変化させ、これによってバルブプレートの開弁特性(すなわち、減衰力)を無段階に変化させる減衰力可変ダンパが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−342955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の減衰力可変ダンパでは、磁界によってバルブプレートの開弁特性を変化させる都合上、以下に述べるような問題を有していた。すなわち、コイルによる磁力はコイルとバルブプレートとの距離の2乗に反比例するため、バルブプレートが作動油の流体圧によって大きく開いた場合には、バルブプレートが閉じている場合に較べると、バルブプレートをピストン側に引き寄せるために非常に大きな磁力が必要となる。そのため、この減衰力可変ダンパでは、目標減衰力が一定であってもコイルに大きな電力を供給し続けなければならず、車載バッテリの容量を大きくする必要があるだけでなく、オルタネータの発電負荷が大きくなる(エンジンの駆動損失が多くなる)問題があった。また、バルブプレートが開いた状態ではコイルの磁力がバルブプレートに及びにくいため、減衰力制御を正確に行うことが難しく、減衰力の急増または急減によってサスペンションから振動や異音が発生する虞もあった。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、制御用電力の低減や制御性の向上等を実現した減衰力可変ダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る減衰力可変ダンパは、車体側部材と車輪側部材とのどちらか一方に連結され、その内部に作動油が封入された円筒状のシリンダと、前記シリンダ内を往復動し、当該シリンダ内をロッド側油室とピストン側油室とに区画するとともに、前記作動油を当該ロッド側油室と当該ピストン側油室との間で流通させる軸方向孔、および軸方向中間位置に形成されるとともに当該軸方向孔の側面に開口するバルブスロットを有する円柱状のピストンと、車体側部材と車輪側部材とのどちらか他方に連結されるとともに、前記ピストンをその先端に保持したピストンロッドと、前記バルブスロットに移動自在に保持され、前記軸方向孔内に出没する弾性弁部、および当該弾性弁部に所定の間隙をもって対峙する閉鎖板部を有するバルブプレートと、前記バルブプレートを駆動するバルブプレート駆動手段とを有し、前記弾性弁部は、前記バルブプレートの移動に伴って前記軸方向孔内での突出量が変化し、前記バルブスロットにおける当該軸方向孔側の開口端によって片持ち支持された状態で前記作動油の流体圧によって開弁する。
【0008】
また、本発明の第2の側面では、前記バルブプレートは、前記ピストンの軸心を回転中心として、前記バルブスロットに回転自在に保持される。
【0009】
また、本発明の第3の側面では、前記弾性弁部は、前記ピストンの軸方向視で略円弧状を呈するとともに、基端が前記閉鎖板部に接続する。
【0010】
また、本発明の第4の側面では、前記弾性弁部は、前記ロッド側油室から前記ピストン側油室に前記作動油が流入する際と、前記ピストン側油室から前記ロッド側油室に前記作動油が流入する際とで、その開弁抵抗が異なる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比較的簡易かつ安価な構成でありながら、バルブプレートの変位によって所望の減衰力を得ることができるため、制御用電力の低減や制御性の向上等を実現できる。また、バルブプレートがバルブスロットに回転自在に保持されたものでは、バルブプレート駆動手段として簡易な構造のものを採用できる。また、バルブプレートが金属板を素材とし、弾性弁部が、ピストンの軸方向視で略円弧状を呈するとともに、基端が前記閉鎖板部に接続するものでは、生産性の向上やコストの低減を実現することができる。また、作動油の流入方向によって弾性弁部の開弁抵抗が異なるものでは、ダンパの縮み側と伸び側とで減衰力を異ならせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る自動車用リヤサスペンションの斜視図である。
【図2】実施形態に係る減衰力可変ダンパの縦断面図である。
【図3】実施形態に係るピストンやピストンロッドの分解斜視図である。
【図4】実施形態に係るピストンの下面図である。
【図5】実施形態に係るバルブプレートの分解斜視図である。
【図6】実施形態の作用を示す要部拡大縦断面図である。
【図7】実施形態の作用を示す要部拡大縦断面図である。
【図8】実施形態の作用を示す要部拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を4輪自動車用の筒型減衰力可変ダンパに適用した一実施形態を詳細に説明する。
【0014】
≪実施形態の構成≫
<サスペンション>
図1に示すように、本実施形態のリヤサスペンション1は、いわゆるH型トーションビーム式サスペンションであり、左右のトレーリングアーム2,3や、両トレーリングアーム2,3の中間部を連結するトーションビーム4、懸架ばねである左右一対のコイルスプリング5、左右一対のダンパ6等から構成されており、左右のリヤホイール7,8を懸架している。ダンパ6は、電気制御式の減衰力可変型ダンパであり、トランクルーム内等に設置された減衰力制御用のECU9によってその減衰力が可変制御される。なお、左右のダンパ6は同一品であるため、その説明は左側のものについてのみ行う。
【0015】
<ダンパ>
図2に示すように、本実施形態のダンパ6は、モノチューブ式(ド・カルボン式)であり、作動油が充填された円筒状のシリンダ12と、シリンダ12に対して軸方向に摺動するピストンロッド13と、ピストンロッド13の先端に装着されてシリンダ12内をロッド側油室14とピストン側油室15とに区画するピストン16と、シリンダ12の下部に高圧ガス室17を画成するフリーピストン18と、ピストンロッド13等への塵埃の付着を防ぐカバー19と、フルバウンド時における緩衝を行うバンプストップ20と、後述するバルブプレート34の駆動に供される電動式のアクチュエータ21とを主要構成要素としている。
【0016】
シリンダ12は、下端のアイピース12aに嵌挿されたボルト22を介して、車輪側部材であるトレーリングアーム2の上面に連結されている。また、ピストンロッド13は、上下一対のブッシュ23とナット24とを介して、その上部ねじ軸13aが車体側部材であるダンパベース(ホイールハウス上部)25に連結されている。また、アクチュエータ21は、ブラケット26を介して上側のブッシュ23の上部に固定されている。
【0017】
<減衰力調整機構>
図3,図4に示すように、ピストン16には、扇状断面を呈する一対の軸方向孔31が180°間隔で穿設されるとともに、円形断面のバルブスロット33が軸方向中央に形成されている。バルブスロット33は、外周面に開口33aを有しており、この開口33aから円盤状のバルブプレート34が挿入される。ピストンロッド13は中空構造となっており、その中空部13bにアクチュエータ21の駆動力をバルブプレート34に伝達するコントロールロッド35が回転自在に保持されている。
【0018】
バルブプレート34は、円弧状を呈する一対の弾性弁部34aと、扇状を呈するとともに両弾性弁部34aの基端が連続する一対の閉鎖板部34bと、両閉鎖板部34bの外周端を連結する一対の連結弧部34cと、コントロールロッド35の駆動突起35aが嵌入する矩形孔34dとを有している。図5に示すように、バルブプレート34は、ばね鋼製の第1〜第3プレート41〜43によって構成されている。第1〜第3プレート41〜43は、組み付けを容易にすべくスポット溶接によって一体化されているが、接着やリベット等によって一体化されていてもよいし、必ずしも一体化されていなくてもよい。
【0019】
第1〜第3プレート41〜43は、バルブプレート34と同様に、一対の弾性弁部41a〜43aと、一対の閉鎖板部41b〜43bと、一対の連結弧部41c〜43cと、矩形孔41d〜43dとをそれぞれ有しているが、弾性弁部41a〜43a間でその先端と閉鎖板部41b〜43bとの間隙S1〜S3がそれぞれ異なっている。すなわち、間隙S1は最も小さく、間隙S1が間隙S2よりも大きく、間隙S2が間隙S3よりも大きく設定されている。
【0020】
≪実施形態の作用≫
自動車が走行を開始すると、ECU9は、各種センサから入力した車体加速度(横加速度や上下加速度)、車体速度、操舵角等に基づき、自動車の運動状態を推定する。次に、ECU9は、自動車の運動状態に応じてダンパ6の目標減衰力を設定した後、アクチュエータ21に駆動電流を出力する。すると、アクチュエータ21によってコントロールロッド35が回転駆動され、コントロールロッド35の下端に連結されたバルブプレート34が回転する。
【0021】
目標減衰力が中程度の場合、図6(a)に示すように、ECU9は、軸方向孔31内で弾性弁部34aの占有面積と閉鎖板部34bの占有面積とが略同一となるように、バルブプレート34の回転位相(すなわち、弾性弁部34aの突出量)を制御する。弾性弁部34aは、バルブスロット33における軸方向孔31側の開口端33bによって片持ち支持され、ダンパ6の短縮時(バウンド時)においては、図6(b)に示すように、作動油の流体圧によって第1プレート41の弾性弁部41aのみが弾性変形し(すなわち、開弁し)、ピストン16が比較的小さな抵抗を伴って下降する。また、ダンパ6の伸張時(リバウンド時)においては、図6(c)に示すように、作動油の流体圧によって第1〜第3プレート41〜43の弾性弁部41a〜43aの全てが弾性変形し、ピストン16が比較的大きな抵抗を伴って上昇することにより、中程度の減衰力が生起される。
【0022】
また、目標減衰力が高い場合、図7(a)に示すように、ECU9は、軸方向孔31内で弾性弁部34aの占有面積が閉鎖板部34bの占有面積よりも少なくなるように、バルブプレート34の回転位相を変化させる。すると、図7(b),(c)に示すように、ダンパ6のバウンド時における弾性弁部41aの弾性変形と、リバウンド時における弾性弁部41a〜43aの弾性変形とがともに生じにくくなり、高い減衰力が生起される。
【0023】
一方、目標減衰力が低い場合、図8(a)に示すように、ECU9は、軸方向孔31内で弾性弁部34aの占有面積が閉鎖板部34bの占有面積よりも大きくなるように、バルブプレート34の回転位相を変化させる。すると、図8(b),(c)に示すように、ダンパ6のバウンド時における弾性弁部41aの弾性変形と、リバウンド時における弾性弁部41a〜43aの弾性変形とがともに生じやすくなり、低い減衰力が生起される。
【0024】
本実施形態では、このような構成を採ったことにより、前述した電磁力を用いる従来装置に較べ、制御に係る電力消費をごく少なく抑えながら、無段階の減衰力制御を高精度かつ安定的に実現することができた。また、目標減衰力が変化しないときにはアクチュエータ21によるバルブプレート34の駆動が行われないため、電力消費が更に低減されるとともに、バルブプレート34やバルブスロット33の摩耗等も抑えられることでダンパ6の耐久性が向上した。
【0025】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれらに限られるものではない。例えば、上記実施形態はリヤサスペンションに用いられる単筒式の減衰力可変ダンパに本発明を適用したものであるが、本発明は、フロントサスペンション用の減衰力可変ダンパや、複筒式の減衰力可変ダンパにも当然に適用可能である。また、上記実施形態では一体品のピストンにバルブスロットを形成するようにしたが、ピストンをアッパハーフとロワハーフとに2分割し、アッパハーフとロワハーフとの間にバルブプレートを挟持させるようにしてもよい。また、上記実施形態ではバルブプレートとして3枚のばね鋼板製のプレートからなるものを採用したが、バルブプレートは、4枚以上のプレートから構成するようにしてもよいし、1枚あるいは2枚のプレートから構成するようにしてもよい。更に、上記実施形態では弾性弁部と閉鎖板部とが一体のバルブプレートを回転駆動するようにしたが、閉鎖板部に弾性弁部がスポット溶接等によって接合されたバルブプレートを採用してもよいし、バルブプレートを直線的に駆動するものとしてもよい。その他、減衰力可変ダンパやバルブプレートの具体的構造や形状等についても、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0026】
2 トレーリングアーム(車輪側部材)
6 ダンパ(減衰力可変ダンパ)
12 シリンダ
13 ピストンロッド
14 ロッド側油室
15 ピストン側油室
16 ピストン
21 アクチュエータ(バルブプレート駆動手段)
25 ダンパベース(車体側部材)
31 軸方向孔
33 バルブスロット
33b 開口端
34 バルブプレート
34a 弾性弁部
34b 閉鎖板部
35 コントロールロッド
41 第1プレート
42 第2プレート
43 第3プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部材と車輪側部材とのどちらか一方に連結され、その内部に作動油が封入された円筒状のシリンダと、
前記シリンダ内を往復動し、当該シリンダ内をロッド側油室とピストン側油室とに区画するとともに、前記作動油を当該ロッド側油室と当該ピストン側油室との間で流通させる軸方向孔、および軸方向中間位置に形成されるとともに当該軸方向孔の側面に開口するバルブスロットを有する円柱状のピストンと、
車体側部材と車輪側部材とのどちらか他方に連結されるとともに、前記ピストンをその先端に保持したピストンロッドと、
前記バルブスロットに移動自在に保持され、前記軸方向孔内に出没する弾性弁部、および当該弾性弁部に所定の間隙をもって対峙する閉鎖板部を有するバルブプレートと、
前記バルブプレートを駆動するバルブプレート駆動手段と
を有し、
前記弾性弁部は、前記バルブプレートの移動に伴って前記軸方向孔内での突出量が変化し、前記バルブスロットにおける当該軸方向孔側の開口端によって片持ち支持された状態で前記作動油の流体圧によって開弁することを特徴とする減衰力可変ダンパ。
【請求項2】
前記バルブプレートは、前記ピストンの軸心を回転中心として、前記バルブスロットに回転自在に保持されたことを特徴とする、請求項1に記載された減衰力可変ダンパ。
【請求項3】
前記弾性弁部は、前記ピストンの軸方向視で略円弧状を呈するとともに、基端が前記閉鎖板部に接続することを特徴とする、請求項2に記載された減衰力可変ダンパ。
【請求項4】
前記弾性弁部は、前記ロッド側油室から前記ピストン側油室に前記作動油が流入する際と、前記ピストン側油室から前記ロッド側油室に前記作動油が流入する際とで、その開弁抵抗が異なることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載された減衰力可変ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−145171(P2012−145171A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4355(P2011−4355)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】