説明

減衰装置

【課題】小型化を図りつつも、二つの構造体間の振動エネルギに対する減衰力の向上を図ることが可能な減衰装置を提供する。
【解決手段】第一構造体に固定されると共に中空部を有して筒状に形成された固定筒2と、第二構造体に固定される一方、前記固定筒の中空部内に収容されると共に外周面に螺旋状のねじ溝が形成された軸部材3と、この軸部材に螺合すると共に該軸部材の軸方向運動を回転運動に変換するナット部材4と、前記固定筒を覆う円筒状に形成されて前記固定筒の外周面との間に円筒状収容室8を形成し、前記ナット部材によって回転を与えられるロータ部材6と、前記収容室内に密封される粘性流体7と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギが伝達する二つの構造体の間に配置され、振動源となる一方の構造体から他方の構造体へと伝達される振動エネルギを減衰させるための減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の減衰装置としては、特開平10-184757号公報に開示されているものが知られている。この減衰装置は建築構造物の柱間に筋交いとして設けられる装置であり、一方の構造体に結合されるロッド部材と、このロッドを覆うようにして設けられると共に他方の構造体に固定されるハウジング部材とから構成されている。前記ロッド部材の外周面には螺旋状のねじ溝が形成されており、このねじ溝には前記ハウジング部材に対して回転自在なナット部材が螺合している。また、このナット部材には前記ハウジング部材内に収容される円筒状のロータが固定されており、このロータの外周面は前記ハウジング部材の内周面と対向して粘性流体の収容室を形成している。
【0003】
このように構成された減衰装置では、二つの構造体の間に作用する振動に伴って前記ロッド部材がナット部材に対して軸方向へ進退すると、かかるナット部材は前記ロッド部材の軸方向運動を回転運動に変換し、このナット部材の回転運動に伴って該ナット部材に固定されたロータも回転することになる。このとき、前記ロータの外周面とハウジング部材の内周面との隙間は粘性流体の収容室として形成されていることから、かかるロータが回転すると、収容室内の粘性流体に対してロータの回転角速度に応じた剪断摩擦力が作用し、かかる粘性流体が発熱する。すなわち、この減衰装置では構造体間の振動エネルギが回転エネルギに変換され、更にはその回転エネルギが熱エネルギに変換され、その結果として構造体間で伝達される振動エネルギが減衰されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-184757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の減衰装置が発生する減衰力は、粘性流体に接しているロータの表面積に比例しているため、減衰力の向上を図ろうとする場合には前記ロータの軸方向長さを長く設定しなければならない。このため、ロッドの全長やストローク量とは無関係に減衰装置の全長が長くなってしまい、その分だけ減衰装置が大型化してしまうといった課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、小型化を図りつつも、二つの構造体間を伝播する振動エネルギの減衰を効果的に行うことが可能な減衰装置を提供することにある。
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の減衰装置は、第一構造体に固定されると共に中空部を有して筒状に形成された固定筒と、第二構造体に固定される一方、前記固定筒の中空部内に収容されると共に外周面に螺旋状のねじ溝が形成された軸部材と、この軸部材に螺合すると共に該軸部材の軸方向運動を回転運動に変換するナット部材と、前記固定筒を覆う円筒状に形成されて前記固定筒の外周面との間に円筒状収容室を形成し、前記ナット部材によって回転を与えられるロータ部材と、前記収容室内に密封される粘性流体と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
このような本発明の減衰装置では、前記ナット部材と共に回転するロータ部材が固定筒を覆う円筒状に形成されており、粘性流体の収容室よりも半径方向の外側に位置している。このため、粘性流体の収容室よりも半径方向の内側にロータが配置されていた従来の減衰装置に比べ、当該減衰装置の外径が同じであれば、ロータ部材の慣性モーメントを大きく設定することが可能である。また、前記固定筒を覆うように配置されているロータ部材はその肉厚を自由に設定することが可能なので、質量を増加させることにより慣性モーメントを更に増加させることも可能である。
【0009】
このため、前記ロータ部材はフライホイールの如く機能し、構造体の振動に伴う前記ナット部材の回転運動の加速・減速に対してこれを妨げるように作用し、構造体の振動エネルギの一部を自身の回転運動のエネルギに変換して吸収する。これにより、振動の振幅を抑え、構造体に対して作用する振動を抑制することが可能となる。
【0010】
また、前記粘性流体は構造体の振動に伴うロータ部材の回転に対して直接作用し、構造体の振動エネルギを減衰させる他、フライホイールの如く機能した前記ロータ部材の運動エネルギも減衰させる。
【0011】
すなわち、本発明では前記ロータ部材の慣性モーメントによる振動の制震作用と粘性流体による振動の減衰作用とを組み合わせることで、一層効率よく振動エネルギの減衰を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の減衰装置の第一実施形態を示す正面半断面図である。
【図2】ねじ軸とナット部材との組み合わせの一例を示す斜視図である。
【図3】ロータ部材の慣性モーメントを調整するための構造を示す側面図である。
【図4】本発明の減衰装置の第二実施形態を示す正面半断面図である。
【図5】図4に示す減衰装置が備える伝達制限手段の構成を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に沿って本発明の減衰装置を詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明を適用した減衰装置の第一実施形態を示す半断面図である。この減衰装置1は、中空部を有すると共に一端に開口部を有して筒状に形成された固定筒2と、この固定筒2の開口端から当該固定筒2の中空部に挿入されるようにして配置された軸部材としてのねじ軸3と、多数のボール5を介して前記ねじ軸3に螺合するナット部材4と、このナット部材4に結合されると共に前記固定筒2に対して回転自在に支承されたロータ部材6とを備えている。この減衰装置は、例えば建物とその基礎との間を伝播する振動の減衰に利用され、前記固定筒2はコネクティングロッド20を介して第一構造体としての建物に固定される一方、前記ねじ軸3はその一端が第二構造体としての基礎に固定される。
【0015】
前記固定筒2は、前記ロータ部材6と相まって粘性流体の収容室を形成する固定スリーブ21と、円筒状に形成されると共に前記固定スリーブ21の軸方向の一端に対して同一軸心上に固定された軸受ブラケット22とから構成されている。前記コネクティングロッド20は前記軸受ブラケット22と反対側の端部において固定スリーブ21に結合されている。
【0016】
前記ロータ部材6は前記軸受ブラケット22の外周面に嵌合する回転軸受44、及び前記軸受ブラケットとは反対側の固定スリーブ21の一端に配置された回転軸受61によって、前記固定筒2に対して回転自在に支承されている。前記回転軸受61としてはクロスローラ軸受が用いられる一方、ナット部材4に近接した前記回転軸受44としては前記クロスローラ軸受よりも大荷重を負荷可能な複列ローラ軸受が用いられており、前記ナット部材4からロータ部材6に作用するラジアル荷重及びスラスト荷重を十分に支承することができるようになっている。
【0017】
一方、前記ロータ部材6の端部には前記回転軸受44に隣接して前記ナット部材4が固定されている。図2は、このナット部材4と前記ねじ軸3との組合せの一例を示す斜視図である。前記ねじ軸3の外周面には螺旋状のボール転動溝31が形成されており、前記ナット部材4は当該ボール転動溝31を転動する多数のボール5を介して前記ねじ軸3に螺合している。前記ナット部材4は前記ねじ軸3が貫通する貫通孔を有して略円筒状に形成されており、かかる貫通孔の内周面にはねじ軸3のボール転動溝31と対向する螺旋状のボール転動溝が形成されている。また、このナット部材4はボール5の無限循環路を有しており、ボール5が無限循環することでナット部材4がねじ軸3の周囲を螺旋状に運動することが可能となっている。すなわち、これらねじ軸3とナット部材4はボールねじ装置を構成している。また、前記ナット部材4の外周面にはフランジ部41aが形成されると共に、このフランジ部41aには固定ボルトを挿通させるボルト孔41bが設けられており、ナット部材4は固定ボルトの締結によって前記ロータ部材6に結合されている。
【0018】
このようにナット部材4がねじ軸3に螺合しており、しかもねじ軸3の端部は基礎や建物といった構造体に固定されているので、かかる構造体の振動に伴ってねじ軸3が軸方向へ運動すると、この並進運動がナット部材4の回転運動に変換され、ナット部材4に結合されたロータ部材6が固定筒2の周囲を回転することになる。
【0019】
一方、前記ロータ部材6は円筒状に形成されており、その内周面と前記固定スリーブ21の外周面とが対向することにより、これらの間に粘性流体7の収容室8が形成されるようになっている。かかる収容室8にはシリコーンオイル等の粘性流体7が充填されている。また、当該収容室8の軸方向両端にはリング状のシール部材81が嵌められており、かかる収容室8内に封入された粘性流体7が固定スリーブ21とロータ部材6の隙間から漏れ出すのを防止している。
【0020】
このように構成された本実施形態の減衰装置1では、前記固定筒2とねじ軸3との間に当該ねじ軸3の軸方向に沿った振動が作用すると、かかる振動エネルギによって前記ねじ軸3が軸方向へ繰り返し進退し、これに伴って前記ねじ軸3に螺合するナット部材4が反転を繰り返しながら当該ねじ軸3の周囲を回転することになる。
【0021】
このとき、前記固定筒2の周囲をロータ部材6が回転すると、前記収容室8内に封入されている粘性流体7に対して剪断摩擦力が作用し、前記ロータ部材6の回転エネルギが粘性流体7の熱エネルギに変換されて消費される。その結果、第一構造体と第二構造体との間で伝播する振動エネルギが減衰される。
【0022】
また、前記ロータ部材6を固定筒の内側ではなく外側に配置したことから、減衰装置の外径が略同じであれば、前記ロータ部材を固定筒の内側に配置した従来の装置に比べて、当該ロータ部材の慣性モーメントを大きく設定することが可能である。加えて、前記固定筒2を覆うように配置されているロータ部材6はその肉厚を自由に設定することが可能なので、質量を増加させることで慣性モーメントの更なる増加も可能である。
【0023】
図3は前記ロータ部材6の慣性モーメントの大きさを自由に増減させるための当該ロータ部材6の構造の一例を示すものであり、かかるロータ部材6を軸方向から観察した状態を示している。この構造では円筒状に形成されたロータ部材6の外周面に対して、かかるロータ部材6の軸方向へ延びる追加質量としての棒状部材6aをボルト6bで固定できるようになっている。前記棒状部材6aはロータ部材6の外周面を周方向に等分した複数箇所に固定できるように構成されており、同一質量の複数本の棒状部材6aをロータ部材6の外周面に対して均等に固定することで、ロータ部材6の円滑な回転を維持しつつ、その慣性モーメントを増大できるように構成されている。また、前記棒状部材6aの質量を任意に変更することにより、前記ロータ部材6の慣性モーメントを任意の大きさに設定することが可能となっている。
【0024】
従って、前記ロータ部材6はフライホイールの如く機能し、構造体の振動エネルギの一部を自身の回転運動のエネルギに変換しながら、常に前記ねじ軸3の軸方向への加速・減速を妨げるように作用する。これにより、振動の振幅を抑え、第一構造体に対する第二構造体の振動を抑制することが可能となる。また、前記収容室8内に封入された粘性流体7は、フライホイールとしての前記ロータ部材6に保存された回転運動のエネルギの減衰に対しても寄与する。
【0025】
すなわち、この第一実施形態の減衰装置によれば、収容室に封じ込めた粘性流体に起因する減衰作用と、ロータ部材の有する慣性モーメントに起因する制震作用とを組み合わせることで、一層効果的に振動エネルギの減衰を行うことが可能となる。このため、本発明の減衰装置によれば、粘性流体に起因する減衰作用のみに依存していた従来の減衰装置に比べ、ロータ部材の軸方向長さを抑えて装置全体の小型化を図ることが可能となり、また、従来の減衰装置と同程度の大きさであれば、減衰能力の向上を図ることが可能となっている。
【0026】
次に、本発明の減衰装置の第二実施形態について説明する。
【0027】
図4は本発明を適用した減衰装置の第二実施形態を示すものである。前述の第一実施形態では固定筒2と相まって粘性流体7の収容室8を形成するロータ部材6そのものをフライホイールの如く機能させたが、この第二実施形態ではロータ部材とは別個にフライホイールを設け、ねじ軸の軸方向への並進運動に伴って生じるナット部材の回転運動をこれらフライホイールとロータ部材の双方に伝達するように構成している。
【0028】
この第二実施形態の減衰装置は、中空部を有して円筒状に形成された固定筒23と、この固定筒23の中空部に対して挿入されたねじ軸30と、多数のボールを介してこのねじ軸30に螺合するナット部材40と、前記固定筒23に対して回転自在に支承されると共に前記ナット部材40が結合された円筒状の軸受ハウジング50と、この軸受ハウジング50に対して回転自在に支承されたフライホイール60と、前記軸受ハウジング50と前記フライホイール60との間でトルクを伝達すると共に伝達トルクの上限を規制する伝達制限手段70と、前記固定筒23に対して回転自在に支承されると共に前記フライホイール60に対して結合されたロータ部材80とから構成されている。
【0029】
前記固定筒23の一端にはコネクティングロッド24が結合されて前記中空部が塞がれている。例えば、前記固定筒23はこのコネクティングロッド24を介して第一構造体としての建物に固定される一方、前記ねじ軸30はその一端が第二構造体としての基礎に固定される。
【0030】
前記ねじ軸30の軸端が挿入された固定筒23の端部は軸受ブラケットとして機能しており、当該部位の外周面には一対の複列ローラ軸受25の内輪が嵌合している。また、これら複列ローラ軸受25の外輪は前記軸受ハウジング50の内周面に嵌合しており、かかる軸受ハウジング50は一対の複列ローラ軸受25を介して前記固定筒23に支承されている。この軸受ハウジング50の軸方向の一端には前記ナット部材40が固定されており、かかるナット部材40が回転すると、軸受ハウジング50がナット部材40と共に固定筒23の周囲を回転するように構成されている。
【0031】
前記ねじ軸30及びナット部材40としては、前述の第一実施形態で説明した図2に示すものをそのまま利用することができる。ねじ軸30の軸端は第一実施例と同様に第二構造体としての基礎に固定されることから、かかるねじ軸30が軸方向へ並進運動すると、これに応じてナット部材40がねじ軸30の周囲を回転し、この回転が前記軸受ハウジング50に伝達されるようになっている。
【0032】
前記軸受ハウジング50の外側には円筒状のフライホイール60が設けられている。このフライホイール60は玉軸受62を介して前記軸受ハウジング50に支承されており、かかる軸受ハウジング50に対して自由に回転できるように構成されている。また、前記軸受ハウジング50が固定筒23に対して自由に回転し得ることから、前記フライホイール60は軸受ハウジング50に対しても自由に回転することが可能である。
【0033】
前記軸受ハウジング50とフライホイール60との間には前述した伝達制限手段70が設けられ、軸受ハウジング50が回転するとこれに伴ってフライホイール60も一緒に回転するように構成されている。図5は前記伝達制限手段70の詳細を示すものである。この伝達制限手段70は、前記軸受ハウジング50の外周面を周方向に一巡するように接着固定された円環状の規制ベルト71と、前記フライホイール6に形成された調整孔63に挿入されると共に前記規制ベルト71に摺接する押圧パッド72と、前記調整孔63に対してフライホイール60の外周面側から螺合する調整ボルト73と、前記押圧パッド72と調整ねじ73の間に配置されたパッド付勢部材74とから構成されている。
【0034】
前記調整孔63はフライホイール60の周方向に沿って複数設けられており、これら調整孔63に対して前記押圧パッド72が配置されている。従って、前記規制ベルト71に対しては複数の押圧パッド72が接している。また、前記パッド付勢部材74としては複数枚の皿ばねを重ねて前記調整孔63に挿入しているが、前記調整ボルト73の締結に伴って前記押圧パッド72を付勢することができるものであれば、例えばコイルばねやゴム片等の他の弾性部材であっても差し支えない。
【0035】
このように構成された伝達制限手段70では前記調整ボルト73を締結すると、その締結量に応じて前記パッド付勢部材74が圧縮され、更に前記押圧パッド72が圧縮されたパッド付勢部材74によってフライホイール60の半径方向内側に向けて付勢され、かかる押圧パッド72が軸受ハウジング50に固定された規制ベルト71に圧接することになる。このため、前記押圧パッド72と規制ベルト71との間に作用する摩擦力は前記調整ねじ73の締結量によって調整され、調整ねじ73の締結量を増やせば当該摩擦力は増大し、軸受ハウジング50とフライホイール60との間で大きなトルクを伝達することが可能となる。反対に、前記調整ねじ73の締結量を減らすと、前記押圧パッド72と規制ベルト71との間に作用する摩擦力は減少し、軸受ハウジング50とフライホイール60との間で伝達可能なトルクは減少する。
【0036】
すなわち、調整ねじ73の締結量を調整することにより、軸受ハウジング50とフライホイール60との間で伝達可能なトルクの大きさを任意に調整することが可能である。仮に、軸受ハウジング50又はフライホイール60に作用するトルクが伝達可能なトルクを上回った場合、前記押圧パッド72が規制ベルト71上を摺動することになり、前記押圧パッド72と規制ベルト71との間に作用する摩擦力に見合ったトルクのみがフライホイール60から軸受ハウジング50へ、あるいは軸受ハウジング50からフライホイール60へ伝達されることになる。
【0037】
一方、前記固定筒23の周囲には、前記軸受ブラケット50と軸方向に隣接して前記ロータ部材80が設けられている。このロータ部材80は回転軸受82を介して固定筒23の外周面に支承されると共に、前記フライホイール60に結合されており、フライホイール60に連れ回されて前記固定筒23の周囲を回転するように構成されている。前述の第一実施形態と同様に、前記ロータ部材80の内周面は固定筒23の外周面と対向して粘性流体の収容室を形成しており、ロータ部材80が回転すると、収容室に充填された粘性流体に対して剪断摩擦力が作用し、ロータ部材80の回転運動のエネルギ、ひいてはフライホイール60の回転運動のエネルギが減衰されるようになっている。
【0038】
以上のように構成される第二実施形態の減衰装置では、第一構造体と第二構造体との間に作用する振動に伴って前記ねじ軸30が軸方向に進退すると、当該ねじ軸30に螺合するナット部材40が当該ねじ軸30の周囲を回転し、その回転が軸受ハウジング50に伝達される。前記伝達制限手段70における調整ねじ73の締結量が十分に大きく、押圧パッド72が規制ベルト71に対して滑らないのであれば、前記ナット部材40の回転は軸受ハウジング50を介してフライホイール60に伝達され、その回転は更にロータ部材80に伝達されることになる。
【0039】
従って、前述の第一実施形態と同様に、前記ロータ部材80の回転に伴って前記収容室内に封入されている粘性流体に対して剪断摩擦力が作用し、前記ロータ部材80の回転運動のエネルギが粘性流体の熱エネルギに変換されて消費される。その結果、第一構造体と第二構造体との間で伝播する振動エネルギが減衰される。
【0040】
また、この第二実施形態では前記ロータ部材80とは別個に、当該ロータ部材80の半径方向外側にフライホイール60を設けたことから、このフライホイール60の慣性モーメントを任意の大きさで設定することが可能である。前記ねじ軸30が軸方向へ往復運動すると、前記ナット部材40は加速・減速を行いながら反転を繰り返し、構造体の振動エネルギの一部を自身の回転運動のエネルギに変換しながら、常に前記ねじ軸3の軸方向への加速・減速を妨げるように作用する。これにより、第一構造体に対する第二構造体の振動を抑制することが可能となる。また、前記フライホイール60と前記ロータ部材80とは直列に結合されていることから、当該フライホイール60に蓄えられた回転運動のエネルギは前記粘性流体の作用によって減衰される。
【0041】
すなわち、この第二実施形態の減衰装置においても、粘性流体に起因する減衰作用と、フライホイール60の有する慣性モーメントに起因する制震作用とが重畳して発揮され、効果的に振動エネルギの減衰を行うことが可能となる。加えて、フライホイール60の大きさ及び質量を任意に設計することにより、減衰能力を任意に設定することが可能である。
【0042】
ここで、フライホイール60は自らの回転に伴う角運動量を保存しているので、例えば前記ナット部材40及び軸受ハウジング50が反転運動の中心を過ぎて減速しようとすると、フライホイール60から当該フライホイール60の角運動量に応じたトルクが軸受ハウジング50及びナット部材40に作用することになる。より多くの振動エネルギをフライホイール60の回転運動のエネルギに変換するためには、かかるフライホイール60の慣性モーメントを大きく設定するのが効果的だが、慣性モーメントが大きくなると、当該フライホイール60に保存される角運動量も大きくなるので、軸受ハウジング50及びナット部材40の減速時にはこれらの部材に対してフライホイール60から大きなトルクが作用することになる。
【0043】
その一方、ナット部材40の回転運動はねじ軸30の軸方向への往復運動に拘束されているので、かかるナット部材40がねじ軸30の運動に連動して減速しようとする際に、フライホイール60からナット部材40に対してこれをそのまま回転させようとする大きなトルクが作用すると、ナット部材40とねじ軸30との間に配列された多数のボールが過度に圧縮されることになり、ねじ軸30、ナット部材40及びボールの破壊に繋がる懸念がある。
【0044】
前記伝達制限手段70は、そのような場合に規制ベルト71に対する押圧パッド72の滑りを許容し、フライホイール60の回転から軸受ハウジング50及びナット部材40の回転を切り離すように作用する。すなわち、ナット部材40の軸方向許容荷重との関係から、ナット部材40が負荷可能な最大トルクを見出し、この最大トルク以上のトルクがフライホイール60から軸受ハウジング50に作用した場合に、前記伝達制限手段70がフライホイール60の回転から軸受ハウジング50の回転を切り離すよう、前記伝達制限手段70の調整ねじ73の締結量を決定するのである。このように調整ねじ73の締結量を決定すれば、ナット部材40の回転減速時にフライホイール60が軸受ハウジング50及びナット部材40に対して当該回転を継続するためのトルクを及ぼしても、かかるトルクがナット部材40の負荷可能な最大トルクを超えた場合には、フライホイール60及びこれと直列に繋がれたロータ部材80が減速する軸受ハウジング50とは関係なく回転を継続することになり、ナット部材40に対して過大なトルクが作用するのを防止することが可能となる。
【0045】
また、本実施形態の減衰装置100では前記ロータ部材80を、ナット部材40に結合された軸受ブラケット50ではなく、前記フライホイール60に結合していることから、かかるフライホイール60の回転が前述の如くナット部材40の回転から切り離されると、前記ロータ部材80はナット部材40の回転とは関係なく、フライホイール60と共に回転することになる。このため、フライホイール60の回転がナット部材40の回転から切り離された後は、前述した粘性流体の減衰作用はナット部材40の回転に対して作用するのではなく、フライホイール60の回転に対して作用することになり、かかるフライホイール60の角運動量が減衰されることになる。
【0046】
仮に、前記ロータ部材80がフライホイール60ではなく、軸受ハウジング50及びナット部材40に結合されている場合を想定すると、フライホイール6の回転がナット部材40から切り離されてしまった後は、フライホイール60の角運動量を積極的に減衰させる手段はなく、かかるフライホイール60は角運動量を保存した状態で回転を継続することになる。この場合、フライホイール60が再びナット部材40に結合されるまでには長時間を要し、再び結合されるまでの間は粘性流体の減衰作用のみでねじ軸30に作用する振動を減衰しなければならない。しかし、それでは慣性モーメントが大きなフライホイール60を設けた意義が失われてしまう。
【0047】
これに対し、前記ロータ部材80が常にフライホイール60と一緒に回転するように構成すると、フライホイール60の回転がナット部材40の回転から切り離された場合に、粘性流体がフライホイール60の角運動量を減衰するように作用するので、前記伝達制限手段70における規制ベルト71と押圧パッド72との間の滑りが早期に収まって、フライホイール60と軸受ハウジング50は再び一緒に回転するようになる。その結果、前記フライホイール60及び粘性流体はナット部材40の回転運動、ひいては第一構造体と第二構造体との間で伝播する振動エネルギの減衰に再び寄与することになる。
【0048】
すなわち、この第二実施形態の減衰装置100では、前記フライホイール60の慣性モーメントを大きく設定して振動エネルギの減衰を効果的に行いつつ、慣性モーメントの大きなフライホイール60からナット部材40に対して過度なトルクが作用する場合には前記フライホイール60をナット部材40から分離し、減衰装置100の破損を防止することが可能となっている。
【0049】
また、減衰装置100の破損を防止するために、フライホイール60がナット部材40から分離されても、直ちにフライホイール60の保有する角運動量の低下が図られ、早期にフライホイール60とナット部材40とが再び結合されるので、ねじ軸30の軸方向への振動に対してフライホイール60及び粘性流体の減衰作用を効果的に及ぼすことが可能となっている。
【符号の説明】
【0050】
1…減衰装置、2…固定筒、3…軸部材(ねじ軸)、4…ナット部材、6…ロータ部材、7…粘性流体、8…収容室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一構造体に固定されると共に中空部を有して筒状に形成された固定筒と、
第二構造体に固定される一方、前記固定筒の中空部内に収容されると共に外周面に螺旋状のねじ溝が形成された軸部材と、
この軸部材に螺合すると共に該軸部材の軸方向運動を回転運動に変換するナット部材と、
前記固定筒を覆う円筒状に形成されて前記固定筒の外周面との間に円筒状収容室を形成し、前記ナット部材によって回転を与えられるロータ部材と、
前記収容室内に密封される粘性流体と、を備えたことを特徴とする減衰装置。
【請求項2】
前記ナット部材及びロータ部材の半径方向外側には円筒状のフライホイールが配置され、かかるフライホイールは前記ナット部材と結合されていることを特徴とする請求項1記載の減衰装置。
【請求項3】
前記フライホイールは、当該フライホイールと前記ナット部材との間の伝達可能トルクの上限値を制限する伝達制限手段を介して前記ナット部材に結合されていることを特徴とする請求項2記載の減衰装置。
【請求項4】
前記ナット部材の回転は前記伝達制限手段及び前記フライホイールを介して前記ロータ部材に伝達されることを特徴とする請求項3記載の減衰装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−37005(P2012−37005A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179120(P2010−179120)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【出願人】(504242342)株式会社免制震ディバイス (16)
【Fターム(参考)】