説明

減速機用グリース組成物及び減速機

【課題】高温下で金属接触部の損傷を低減し長寿命となる減速機用グリース組成物、及び高温下で長寿命の減速機を提供する。
【解決手段】下記の成分(a)〜(d)を含む減速機用グリース組成物及びこれを使用した減速機。
(a)基油、
(b)増ちょう剤、
(c)モリブデンジチオホスフェート、及び
(d)石油スルホン酸のカルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、及び酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカルシウム塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にロボット、産業用機械などを駆動するために用いられる減速比が大きくバックラッシが小さい(1arc.min.以下)減速機に好適に使用されるグリース組成物と、それを封入した減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
減速機内部は複数の滑り部分と転がり部分で構成されており、入力側にトルクを加えると出力側に減速もしくは増速してトルクが伝達される。出力側トルクは長期一定で変動がないことが好ましく、出力側トルクは内部部品の形状変化により変動が大きくなり、金属接触部の損傷を低減すれば減速機の寿命は延びる。
減速機の潤滑剤組成物には、摩擦低減効果の高いモリブデンジチオカーバメートにカルシウム塩を配合した潤滑油、グリースが提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、モリブデンジチオカーバメート及びカルシウム塩を含む潤滑剤では、高温環境下において金属接触部の損傷の低減が十分ではなく、高温環境下で使用される減速機で寿命が短くなるという問題が生じており、短周期での潤滑剤の交換が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-339411
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、高温下で金属接触部の損傷を低減し長寿命となる減速機用グリース組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、高温下で長寿命の減速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、下記の減速機用グリース組成物及びこれを使用した減速機を提供する。
1.下記の成分(a)〜(d)を含む減速機用グリース組成物。
(a)基油、
(b)増ちょう剤、
(c)モリブデンジチオホスフェート、及び
(d)石油スルホン酸のカルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、及び酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカルシウム塩。
2.成分(a)基油の40℃における動粘度が20〜300mm2/sであることを特徴とする上記1記載の減速機用グリース組成物。
3.成分(b)の増ちょう剤がウレア系増ちょう剤である上記1または2記載の減速機用グリース組成物。
4.全組成物中、(c)モリブデンジチオホスフェートの含有量が0.1〜10質量%、(d)カルシウム塩の含有量が0.1〜20質量%である上記1〜3のいずれか1項記載の減速機用グリース組成物。
5.上記1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物を封入した減速機。
【発明の効果】
【0006】
本発明の減速機用グリース組成物は、従来の減速機用グリース組成物と比較して摩耗低減効果が高く、高温下における減速機の寿命を改善することができる。従って、これを封入した本発明の減速機は高温下において寿命が長い。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明に使用する(a)基油としては、鉱物油、合成炭化水素油、エステル油、フェニルエーテル、ポリグリコールなど通常グリース組成物の基油として使用されている潤滑剤がいずれも使用できる。好ましくは、鉱物油、合成炭化水素油が挙げられる。
本発明に使用する(a)基油の40℃における動粘度は、好ましくは20〜300mm2/s、より好ましくは30〜220mm2/sである。20mm2/sを下回ると、寿命が不十分となる傾向があり、また300mm2/sを超えると低温時の起動に不具合が生じる傾向がある。
【0008】
本発明に使用する(b)増ちょう剤としては、全ての増ちょう剤が挙げられる。例えば、Li石けんや複合Li石けんに代表される石けん系増ちょう剤、ジウレアに代表されるウレア系増ちょう剤、有機化クレイやシリカに代表される無機系増ちょう剤、PTFEに代表される有機系増ちょう剤などが挙げられるが、好ましいものはウレア系増ちょう剤である。本発明のグリース組成物中の増ちょう剤の量は、好ましくは0.5〜20質量%、さらに好ましくは1〜10質量%である。0.5質量%未満では増ちょう効果がなくなり、20質量%を超えるとグリース組成物が硬くなりすぎ、潤滑部への流入が無くなり充分な効果を得るのが困難になる傾向がある。
【0009】
本発明に使用する(c)モリブデンジチオホスフェート(=MoDTP)の好ましい例としては下記の式(1)で表されるものが挙げられる。
[(R1O)(R2O)PS―S]2Mo2mn
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して、炭素数1〜24のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基であり、mは0〜3、nは4〜1であり、m+n=4である。)
本発明に使用する成分(c)MoDTPのグリース組成物中における含有量は、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.1〜5.0質量%である。0.1質量%未満では寿命が不十分となる傾向があり、また10質量%を超えてもさらなる効果の向上は認められない。
【0010】
本発明に使用する(d)カルシウム塩としては、エンジン油等の潤滑油に用いられる金属系清浄分散剤や防錆剤として使用される全てのカルシウムスルホネート(Caスルホネート)や、酸化ワックスのカルシウム塩、酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩が使用できる。例えば、潤滑油留分中の芳香族炭化水素成分のスルホン化によって得られる石油スルホン酸のカルシウム塩、ジノニルナフタレンスルホン酸やアルキルベンゼンスルホン酸のようなアルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、及び酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩などが挙げられ、特に好ましいものとしてはアルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩が挙げられる。
本発明に使用するグリース組成物中の成分(d)カルシウム塩の量は、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.5〜10質量%である。0.1質量%未満では寿命が不十分となる傾向があり、また20質量%を超えてもさらなる効果の向上は認められない。
【0011】
本発明のグリース組成物には必要に応じて種々の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、成分(d)のカルシウム塩以外の防錆剤、成分(d)のカルシウム塩以外の清浄分散剤、酸化防止剤、金属腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、極圧剤、固体潤滑剤などが挙げられる。
【0012】
以下実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1〜6、比較例1〜4
表1に示す成分を表1に示す割合で混合し、実施例1〜6、比較例1〜4のグリース組成物を調製した。また、市販の減速機用グリース組成物を比較例5とした。
これらのグリース組成物についてSRV試験を下記の条件で実施し、ボール摩耗痕径を測定した。
また、偏芯揺動式遊星歯車タイプの減速機(ナブテスコ株式会社製、RV−70F)にグリース組成物を封入し、下記条件で寿命試験を行い、出力側トルクを測定した。結果を表1に示す。
<試験方法>
SRV試験
テストピース ボール径 :17.5mm
プレート材質:SUJ2
プレート粗さ:Rz=0.8μm
条件 荷重 :100N
振幅 :1.0mm
周波数 :50Hz
試験温度:80℃
耐久試験
条件 減速機型式 :RV−70F
回転速度 :10rpm
温度 :80℃
寿命時間比 :市販品(比較例5)を使用したときの出力側トルクの変動が許容値を超えるまでの時間を1としたときの相対時間比
【0013】
【表1】

【0014】
【表2】

【0015】
基油:鉱物油(40℃で80mm2/sの動粘度に混合調整したもの)
ウレア系増ちょう剤:(a)鉱物油(40℃で80mm2/sの動粘度に混合調整したもの)4000g中で、ジフェニルメタン-4、4’−ジイソシアネート250g(1モル)、オクチルアミン258g(2モル)を反応させて得られたジウレア系化合物。
Li石けん系増ちょう剤:鉱物油(40℃で80mm2/sの動粘度に混合調整したもの)2500gと12−ヒドロキシステアリン酸500gに、50%水酸化リチウム水溶液140gを添加し反応させ、その後210℃まで加熱後100℃以下まで冷却して得られたLi石けん化合物。
MoDTP:旭電化工業製、商品名:サクラルーブ300
Caスルホネート:アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩(KING INDUSTRIES製、商品名:NA−SUL729)
過塩基性Caスルホネート:アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩(CHEMTURA CORPOR製、商品名:BRYTON C-400C KY)
ZnDTP:ジチオリン酸亜鉛、日本ルーブリゾール製、商品名:LUBRIZOL1375
MoDTC:モリブデンジチオカーバメート、旭電化工業製、商品名サクラルーブ515
【0016】
表1及び2に示すように、本発明の実施例1〜6のグリース組成物は、成分(c)MoDTPを含まない比較例1、成分(d)カルシウム塩を含まない比較例2、成分(d)カルシウム塩の代わりにZnDTPを用いた比較例3、特許文献1に該当するMoDTCを用いた比較例4、SP系極圧剤等が添加された市販品を用いた比較例5と比較して、SRV試験の摩耗痕径が小さく、減速機の寿命時間が長いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(a)〜(d)を含む減速機用グリース組成物。
(a)基油、
(b)増ちょう剤、
(c)モリブデンジチオホスフェート、及び
(d)石油スルホン酸のカルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、及び酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカルシウム塩。
【請求項2】
成分(a)基油の40℃における動粘度が20〜300mm2/sであることを特徴とする請求項1記載の減速機用グリース組成物。
【請求項3】
成分(b)の増ちょう剤がウレア系増ちょう剤である請求項1または2記載の減速機用グリース組成物。
【請求項4】
全組成物中、(c)モリブデンジチオホスフェートの含有量が0.1〜10質量%、(d)カルシウム塩の含有量が0.1〜20質量%である請求項1〜3のいずれか1項記載の減速機用グリース組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物を封入した減速機。

【公開番号】特開2011−42747(P2011−42747A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191995(P2009−191995)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】