説明

減速比自動切換装置

【課題】入力側に大きなトルクが付与された場合であっても前記トルクを制御して、出力側に円滑に伝達することにある。
【解決手段】入力側キャリア44a、出力側キャリア44b及び中間キャリア44cとを含み、入力軸18の軸方向に沿って並設された第1及び第2遊星歯車機構14a、14bと、前記入力軸18の一方向の回転を許容し他方向の回転をロックすると共に、相互にロック方向が異なる第1及び第2インナクラッチ部材34a、34bと、入力側又は出力側リングギヤ42a、42bの一方向の回転を許容し他方向の回転をロックすると共に、相互にロック方向が異なる第1及び第2アウタクラッチ部材54a、54bと、静摩擦力の働きによって入力側又は出力側太陽歯車36a、36b、入力側又は出力側遊星歯車38a〜38h、及び入力側又は出力側リングギヤ42a、42bをそれぞれ一体的に同一方向に向かって回転させる粘性抵抗体66とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定トルクを越える負荷が付与された際、遊星歯車機構を用いて出力軸から他の部材、装置等に伝達される減速比を自動的に切り換えることが可能な減速比自動切換装置に関し、その適用分野乃至利用分野としては、後述するような各種広汎な分野に適用乃至利用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、減速比切換機構が適用されるものとして、建設機械等の機械システムがある。この機械システムでは、リンク機構を駆動する伸縮作動系のアクチュエータとして電動シリンダが用いられている。
【0003】
この種の電動シリンダは、ケーシング内において、回転軸が電動モータの入力部に連結され、この回転軸内にねじ軸が配置されている。ねじ軸は、ケーシング内に回転自在に支持されたナット部材に螺合し、回転軸とナット部材の間に減速比の異なる2組の遊星歯車機構が設けられている。各遊星歯車機構は、太陽歯車と、この各太陽歯車と筒状ケーシングの内側に設けた内歯車に噛み合って遊星運動する遊星歯車とからなり、それぞれの各太陽歯車は係合方向が正転方向と逆転方向に異なる一方向クラッチを介して回転軸に連結されている。そして、各遊星歯車機構の遊星歯車を回転自在に支持している遊星支持軸はナット部材に結合されている。
【0004】
この電動シリンダでは、電動モータが正転方向に回転駆動すると、回転軸も正転方向に回転し、減速比が小さい遊星歯車機構を介してナット部材が正転してねじ軸が伸長動される。一方、電動モータが逆転方向に回転駆動すると、回転軸も逆転方向に回転し、減速比が大きい遊星歯車機構を介してナット部材が逆転してねじ軸が短縮動される(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上述の電動シリンダでは、ねじ軸が伸長動作、短縮動作を行うために、2種類の減速比の異なる遊星歯車機構を用いる必要があり、部品点数が増え、電動シリンダ全体が大きくなってしまうという問題がある。また、上述の電動シリンダの遊星歯車機構では、電動シリンダにかかる負荷トルクの大小にかかわらず、伸長動作は低速、大推力であり、一方、短縮動作は、高速、小推力である。従って、伸長動作については、電動シリンダにかかる負荷トルクが小さい場合であっても、ねじ軸の移動速度を高速にすることができないという他の問題がある。
【0006】
そこで、本出願人は、アクチュエータを構成する変位部材の動作に対応して自動的に減速比を切り換え、これによって、トルクの制御、高速なトルクの伝達をすることができる減速比自動切換装置を提案している(特願2005−141123号)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−184982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記提案に関連してなされたものであり、入力側に大きなトルクが付与された場合であっても前記トルクを制御して、出力側に円滑に伝達することが可能な減速比自動切換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明は、回転駆動源と駆動機器との間に配設され、前記回転駆動源の回転駆動力に基づいて動作する部材の減速比を自動的に切り換える装置であって、
前記回転駆動源に連結される入力軸と、前記駆動機器に連結される出力軸と、入力側太陽歯車及び出力側太陽歯車と、入力側遊星歯車及び出力側遊星歯車と、前記入力側遊星歯車及び出力側遊星歯車にそれぞれ噛合する入力側リングギヤ及び出力側リングギヤと、前記入力側遊星歯車及び出力側遊星歯車を回転自在に軸支すると共に、前記入力側遊星歯車及び出力側遊星歯車の公転に伴って一体的に回転する入力側キャリア、出力側キャリア及び中間キャリアとを含み、前記入力軸の軸方向に向かって並設された第1遊星歯車機構及び第2遊星歯車機構と、
前記入力軸の一方向の回転を許容し他方向の回転をロックすると共に、相互にロック方向が異なる第1インナクラッチ部材及び第2インナクラッチ部材と、
前記入力側リングギヤ又は出力側リングギヤの一方向の回転を許容し他方向の回転をロックすると共に、相互にロック方向が異なる第1アウタクラッチ部材及び第2アウタクラッチ部材と、
静摩擦力の働きによって前記入力側太陽歯車、前記入力側遊星歯車、及び前記入力側リングギヤをそれぞれ一体的に同一方向に向かって回転させ、又は、前記出力側太陽歯車、前記出力側遊星歯車、及び前記出力側リングギヤをそれぞれ一体的に同一方向に向かって回転させる粘性抵抗体と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
この場合、前記中間キャリアは、前記入力側キャリアと前記出力側キャリアとの間に配置され、遊星歯車を軸支するピンによって前記入力側キャリア、出力側キャリア及び中間キャリアが一体的に回動可能に設けられるとよい。
【0011】
本発明によれば、回転駆動源の駆動作用下に入力軸から一方向の回転駆動力が付与された場合、ロック方向が相互に異なる第1インナクラッチ部材がフリー状態となって第1遊星歯車機構が機能しないと共に、第2インナクラッチ部材がロック状態となって第2遊星歯車機構に一方向の回転駆動力が付与される。
【0012】
その際、前記第2遊星歯車機構では、出力側リングギヤに対して粘性抵抗に勝る負荷(例えば、出力軸に連結された駆動機器が滅勢した停止状態にあるために出力軸に付与される負荷)が予め付与されており、前記出力側リングギヤが前記一方向と反対の他方向に回転することにより第2アウタクラッチ部材によってロックされる。この結果、第2遊星歯車機構は、減速すると共に高トルクが出力軸側に伝達される。
【0013】
前記第2遊星歯車機構が減速した後、出力軸側の負荷が減少し且つ前記負荷に対して粘性抵抗が勝ったとき、粘性抵抗体の静摩擦力の働きによって出力側太陽歯車、出力側遊星歯車、及び出力側リングギヤがそれぞれ一体的に同一方向に向かって公転する。このように出力側太陽歯車、出力側遊星歯車、及び出力側リングギヤが一体的に公転した状態において、駆動機器を介して出力軸側に負荷(駆動機器に対して付与される外部負荷)が付与されると、シフトダウンして減速すると共に高トルクが出力軸側に伝達される。
【0014】
一方、回転駆動源の切換作用下に前記とは反対に入力軸に他方向の回転駆動力が付与された場合、ロック方向が相互に異なる第2インナクラッチ部材がフリー状態となって第2遊星歯車機構が機能しないと共に、第1インナクラッチ部材がロック状態となって第1遊星歯車機構に他方向の回転駆動力が付与される。
【0015】
その際、前記第1遊星歯車機構では、入力側リングギヤに対して粘性抵抗に勝る負荷が付与され、前記入力側リングギヤが前記他方向と反対の一方向に回転することにより第1アウタクラッチ部材によってロックされる。この結果、第1遊星歯車機構は、減速すると共に高トルクが出力軸側に伝達される。
【0016】
前記第1遊星歯車機構が減速した後、出力軸側の負荷が減少し且つ前記負荷に対して粘性抵抗が勝ったとき、粘性抵抗体の静摩擦力の働きによって入力側太陽歯車、入力側遊星歯車、及び入力側リングギヤがそれぞれ一体的に同一方向に向かって公転する。このように入力側太陽歯車、入力側遊星歯車、及び入力側リングギヤが一体的に公転した状態において、駆動機器を介して出力軸側に負荷が付与されると、シフトダウンして減速すると共に高トルクが出力軸側に伝達される。
【0017】
本発明では以上のように、入力軸の軸方向に沿って並設された第1遊星歯車機構と第2遊星歯車機構とが入力軸に付与される回転方向に対応していずれか一方が適宜切り換えられて作動することにより、入力側に大きなトルクが付与された場合であっても大きなギヤ等を用いることがなく、円滑に出力軸側に伝達することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、入力側に大きなトルクが付与された場合であっても前記トルクを好適に制御して、出力側に円滑に伝達することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る減速比自動切換装置について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係る減速比自動切換装置の分解斜視図であり、図3は、前記減速比自動切換装置の軸線方向に沿った縦断面図である。
【0021】
図1及び図3に示すように、本実施の形態に係る減速比自動切換装置10は、2分割されて構成されるハウジング12a、12bと、前記ハウジング12a、12bによって密封された室内に軸方向に沿って並設された第1遊星歯車機構14a及び第2遊星歯車機構14bを備える。
【0022】
ハウジング12aは、円形状のフランジ部16が一体的に形成された円板部を有する。前記円板部の中心部には、入力軸18が挿通されて前記入力軸18の一部を外部に露呈させる円形状の孔部20が形成され、また、前記ハウジング12aの内壁には、前記入力軸18を回転自在に軸支するための軸受部22aが係止される環状凹部24aが設けられている。
【0023】
ハウジング12bは、有底円筒体からなり、前記有底円筒体の開口部が前記ハウジング12aによって閉塞される。前記有底円筒体の底部の中心部には、出力軸26が挿通されて前記出力軸26の一部を外部に露呈させる円形状の孔部28が形成される。また、前記孔部28に近接するハウジング12bの内壁には、前記出力軸26を回転自在に軸支するための軸受部22bが装着される環状凹部24bが設けられている。
【0024】
なお、前記ハウジング12a、12には、外周面から直径方向に向かって突出する断面円弧状の一組の膨出部30が設けられ、前記膨出部30には軸線方向に沿って貫通する取付用孔部32が形成される。前記一組の取付用孔部32に対してロッド33をそれぞれ挿入してねじ部と嵌合させることにより、2部品から構成される前記ハウジング12a、12bが一体的に連結される。
【0025】
入力軸18に対して略平行に並設された第1遊星歯車機構14a及び第2遊星歯車機構14bは、概略同一構成部材によって構成される。
【0026】
第1遊星歯車機構14aは、第1インナクラッチ部材34a(以下、インナOWL34aという)を介して入力軸18に連結される入力側太陽歯車36aと、前記入力側太陽歯車36aの周方向に沿って約90度の角度で互いに離間して噛合し、公転及び自転する4個の入力側遊星歯車38a、38b、38c、38dと、内周面に前記入力側遊星歯車38a、38b、38c、38dと噛合するギヤ部40が設けられた入力側リングギヤ42aと、円板状に形成された入力側キャリア44aとを備えている。
【0027】
なお、前記入力側キャリア44aの孔部の内周面には、入力軸18の外周面を囲繞する断面X状のリング体からなる第1シール部材45が環状溝を介して装着され、前記第1シール部材45によって入力軸18を媒介して後述するオイルやグリス等の粘性流体が外部へ漏出することを防止することができる。また、前記入力側キャリア44aの外周面には、断面X状のリング体からなり、入力側リングギヤ42aの内周面に接触してシール機能を営む第2シール部材47が環状溝を介して装着される。
【0028】
第2遊星歯車機構14bは、第2インナクラッチ部材34b(以下、インナOWR34bという)を介して入力軸18に連結される出力側太陽歯車36bと、前記出力側太陽歯車36bの周方向に沿って約90度の角度で互いに離間して噛合し、公転及び自転する4個の出力側遊星歯車38e、38f、38g、38hと、内周面に前記出力側遊星歯車38e、38f、38g、38hと噛合するギヤ部40が設けられた出力側リングギヤ42bと、円板状のディスク部43及び前記ディスク部43の中心部に一体的に形成された出力軸26を有する出力側キャリア44bとを備えている。
【0029】
前記出力側キャリア44bの外周面には、断面X状のリング体からなり、出力側リングギヤ42bの内周面に接触してシール機能を営む第3シール部材49が環状溝を介して装着される。
【0030】
この場合、図3に示されるように、入力軸18と出力軸26とは、同軸上に設けられている。また、前記出力軸26は、ハウジング12bの内壁に係止されたベアリング部材46を介して回転自在に支持される。
【0031】
前記入力側キャリア44a及び出力側キャリア44bは、入力軸18の軸線と略直交する方向に相互に平行に延在し且つ前記入力軸18に沿って所定距離離間して配置され、前記入力側キャリア44aと出力側キャリア44bとの間には、略円板状からなる中間キャリア44cが設けられる(図2参照)。
【0032】
この場合、前記中間キャリア44cは、前記入力側キャリア44a及び出力側キャリア44bと同様に入力軸18の軸線と略直交する方向に延在し、前記入力側キャリア44a、前記出力側キャリア44b及び中間キャリア44cの三者が相互に略平行に延在するように設けられる。
【0033】
また、前記中間キャリア44cの外周面には、入力側リングギヤ42a及び出力側リングギヤ42bの内壁にそれぞれ接触してシール機能を営む第4シール部材51が装着される。前記第4シール部材51はリング体で一体的に形成され、円弧状に膨出した一組のリップが前記入力側リングギヤ42a及び出力側リングギヤ42bの内周面にそれぞれ接触してシール機能が営まれる。
【0034】
第1遊星歯車機構14aを構成する4個の入力側遊星歯車38a、38b、38c、38dは、それぞれ、ピン48を用いて入力側キャリア44aと中間キャリア44cとの間に回転自在に軸着され、一方、第2遊星歯車機構14bを構成する4個の出力側遊星歯車38e、38f、38g、38hは、それぞれ、ピン48を用いて出力側キャリア44bと中間キャリア44cとの間に回転自在に軸着される。
【0035】
従って、ピン48を介して相互に略平行に軸着された入力側キャリア44a、出力側キャリア44b及び中間キャリア44cは、それぞれ、入力軸18の軸芯を中心とし前記入力軸18の回転方向に対応して一体的に回転するように設けられている。
【0036】
なお、図2及び図5に示されるように、中間キャリア44cの一側面に設けられた前記入力側遊星歯車38a、38b、38c、38dと、前記一側面とは反対の中間キャリア44cの他側面に設けられた前記出力側遊星歯車38e、38f、38g、38hとは、それぞれ、周方向に沿って約45度だけ位相がずれるように配置されている。
【0037】
前記入力側遊星歯車38a、38b、38c、38dの外周側には、中径な入力側リングギヤ42aが嵌合し、前記入力側リングギヤ42aの内周に刻設されたギヤ部40と噛合する。一方、前記出力側遊星歯車38e、38f、38g、38hの外周側には、中径な出力側リングギヤ42bが嵌合し、前記出力側リングギヤ42bの内周に刻設されたギヤ部40と噛合する。
【0038】
入力軸18と入力側太陽歯車36aとの間に介装されるインナOWL34a、及び、入力軸18と出力側太陽歯車36bとの間に介装されるインナOWR34bは、それぞれ、一方向のみの回転を許容し前記とは反対側の他方向の回転を阻止してロックする、例えば、周知のワンウェイクラッチによって構成される。
【0039】
前記インナOWL34a及び前記インナOWR34bは、図8及び図9に示されるように、それぞれ、入力軸18の外周面に外嵌される円筒体50と、前記円筒体50の内周面に形成された溝部に保持される複数のニードルベアリング52とから構成される。
【0040】
前記円筒体50の内周面には、個々のニードルベアリング52を保持する断面円弧状の溝部50aが形成され、前記ニードルベアリング52が前記断面円弧状の溝部50aによって係止されることにより前記入力軸18に対して外嵌された円筒体50がロック状態(図8参照)、すなわち、入力軸18に対して円筒体50が固定された状態となる。また、前記断面円弧状の溝部50aには、個々のニードルベアリング52を押圧する、例えば、板ばね等のばね53が設けられる。
【0041】
この場合、入力側太陽歯車36aが外嵌されるインナOWL34aは、入力軸18の左方向の回転のみを許容し、右方向に回転したときに前記入力軸18をロックするように設定され、一方、出力側太陽歯車36bが外嵌されるインナOWR34bは、入力軸18の右方向の回転のみを許容し、左方向に回転したときに前記入力軸18をロックするように設定される。換言すると、前記インナOWL34aと前記インナOWR34bとは、入力軸18に対する回転許容方向(ロック方向)が相互に反対になるように設けられている。
【0042】
入力側リングギヤ42aの外周側には、大径な第1アウタクラッチ部材54a(以下、アウタOWR54aという)が嵌合し、前記入力側リングギヤ42aの回転方向に対応して該入力側リングギヤ42aが前記アウタOWR54aによってロックされる。一方、出力側リングギヤ42bの外周側には、大径な第2アウタクラッチ部材54b(以下、アウタOWL54bという)が嵌合し、前記出力側リングギヤ42bの回転方向に対応して該出力側リングギヤ42bが前記アウタOWL54bによってロックされる。
【0043】
この場合、アウタOWR54a及びアウタOWL54bは、それぞれ、一方向のみの回転を許容し前記とは反対側の他方向の回転を阻止してロックするワンウェイクラッチによって構成される。
【0044】
前記アウタOWR54a及び前記アウタOWL54bは、図6及び図7に示されるように、それぞれ、入力側リングギヤ42a及び出力側リングギヤ42bの外周面に外嵌され、両側に環状の鍔部を有し内周面の周方向に沿って複数の断面円弧状の溝部56が形成された外側リング体58と、前記外側リング体58に形成された溝部56に保持される複数の円柱体からなるコロベアリング60と、前記コロベアリング60を保持するリテーナ62と、ばね力によって前記コロベアリング60を前記溝部56に向かって押圧する板ばね64と、複数の前記コロベアリングを回転自在に保持する内側リング体65から構成される。
【0045】
この場合、第1シール部材45、第2シール部材47及び第4シール部材51によってシール(密閉)された第1遊星歯車機構14aの空間部内であって、入力側遊星歯車38a、38b、38c、38d及び入力側太陽歯車36aを含み、入力側キャリア44aと中間キャリア44cと入力側リングギヤ42aによって閉塞された間隙内には、ビスカスカップリングとして機能し粘性抵抗を得るために所定の粘度を有するオイルやグリス等の粘性流体66(必要に応じて粘性抵抗体66ともいう)が充填乃至塗布されている(図4参照)。
【0046】
また、前記と同様に、第3シール部材49及び第4シール部材51によってシール(密閉)された第2遊星歯車機構14bの空間部内であって、出力側遊星歯車38e、38f、38g、38h及び出力側太陽歯車36bを含み、出力側キャリア44bと中間キャリア44cと出力側リングギヤ42bによって閉塞された間隙内には、ビスカスカップリングとして機能し粘性抵抗を得るために所定の粘度を有するオイルやグリス等の粘性流体(粘性抵抗体)66が充填乃至塗布されている(図4参照)。
【0047】
本実施の形態に係る減速比自動切換装置10は基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0048】
先ず、図示しない回転駆動源を付勢して前記回転駆動源の回転駆動力を入力軸18に伝達する。この回転駆動力は、入力軸18から出力軸26の方向(図3の矢印Z方向)に見て、入力軸18を反時計方向(左回転方向)に回転させるものとする。なお、出力軸26は、作動停止状態にある図示しないアクチュエータ等の駆動機器に連結されて、予め何らかの低負荷が付与されているものとする。
【0049】
前記反時計方向の回転駆動力が入力軸18に伝達された際、予めインナOWL34aは反時計方向の回転が許容されるように設定されているため前記インナOWL34aがフリー状態となり、第1遊星歯車機構14aは何ら機能しないと共に、予め反時計方向の回転をロックするように設定されたインナOWR34bによってロック状態(入力軸18と出力側太陽歯車36bとが固定された状態)となる。
【0050】
第2遊星歯車機構14bを構成するインナOWR34bがロック状態となり、反時計方向の回転駆動力は、出力側太陽歯車36b及び4個の出力側遊星歯車38e、38f、38g、38hに伝達され、さらに、前記出力側遊星歯車38e、38f、38g、38hに噛合する出力側リングギヤ42bに伝達される。
【0051】
すなわち、インナOWR34bによってロックされた出力側太陽歯車36bが反時計方向に回転することにより、出力側遊星歯車38e、38f、38g、38hは公転することがなく出力側太陽歯車36bと反対方向である時計方向に自転し、4個の出力側遊星歯車38e、38f、38g、38hと噛合している出力側リングギヤ42bは粘性流体66の粘性抵抗に打ち勝って時計方向に回転しようとする。
【0052】
この場合、出力側リングギヤ42bには時計方向(右回転方向)の回転駆動力が発生するが、予め時計方向の回転をロックするように設定されたアウタOWL54bによって出力側リングギヤ42bの回転が停止されたロック状態となる。
【0053】
前記出力側リングギヤ42bの回転が阻止されたロック状態となった瞬間にシフトダウン状態となり、前記出力側リングギヤ42bの回転が停止した固定状態において、出力側太陽歯車36bが反時計方向に回転すると共に4個の出力側遊星歯車38e、38f、38g、38hがそれぞれ前記出力側太陽歯車36bと反対の時計方向に自転したシフトダウン状態となる。
【0054】
なお、第1遊星歯車機構14aを構成する入力側太陽歯車36a及び入力側遊星歯車38a、38b、38c、38dは、中間キャリア44cを介して一体的に連結されているため、インナOWL34aがフリー状態に保持されたまま、シフトダウンした第2遊星歯車機構14bと一体的に反時計方向に回転する。
【0055】
シフトダウンした後、例えば、出力軸26に連結された図示しない駆動機器が作動して出力軸26側に付与された負荷が減少し且つ前記負荷に対して粘性流体66の粘性抵抗が打ち勝つと、出力側太陽歯車36b、出力側遊星歯車38e、38f、38g、38h及び出力側リングギヤ42bの間に付与された粘性流体66の粘性抵抗によって静摩擦力が働き、出力側太陽歯車36b、出力側遊星歯車38e、38f、38g、38h、出力側リングギヤ42b及び出力側キャリア44bが、入力軸18と一体的に反時計方向に回転し始める。この結果、前記アウタOWL54bによるロック状態が解除され、出力側リングギヤ42bは入力軸18と同様に反時計方向に回転し始める。
【0056】
すなわち、駆動機器が作動停止状態から作動を開始して出力軸26側に付与された負荷が減少した際、出力側太陽歯車36b、出力側遊星歯車38e、38f、38g、38h及び出力側リングギヤ42bの間に付与された粘性流体66の粘性抵抗によって発生する静摩擦力が出力軸26側に付与される前記負荷(トルク)に対して打ち勝った状態となり、出力側太陽歯車36b、出力側遊星歯車38e、38f、38g、38h、出力側リングギヤ42b及び出力側キャリア44bが、入力軸18と一体的に反時計方向に回転し始め、前記出力側リングギヤ42bのロックが解除される。
【0057】
前記アウタOWL54bがフリー状態となり、出力側太陽歯車36b、出力側遊星歯車38e、38f、38g、38h、出力側リングギヤ42b及び出力側キャリア44bが、入力軸18と一体的に反時計方向に回転する。この場合、出力側遊星歯車38e、38f、38g、38hは、自転することがなく出力側リングギヤ42bの周方向に沿って公転した状態にあり、出力側リングギヤ42bも同様に公転した状態にある。
【0058】
このように出力側太陽歯車36b、出力側遊星歯車38e、38f、38g、38h、出力側リングギヤ42b及び出力側キャリア44bが、入力軸18と一体的に反時計方向に回転(公転)した状態において、例えば、図示しない駆動機器等によって出力軸26側に予め設定されたトルクを超えた負荷(粘性流体66の粘性抵抗によって発生する静摩擦力に対して打ち勝つトルク)が付与されると、前記出力側キャリア44bの回転を停止させる力、すなわち、出力側リングギヤ42bを時計方向(右回転方向)に向かって回転させる力が発生し、予め時計方向の回転をロックするように設定されたアウタOWL54bによって出力側リングギヤ42bの回転が停止されたロック状態となり、前述したようにシフトダウンする。
【0059】
この結果、シフトダウン状態となることにより、出力軸26に対し減速された回転速度と増大されたトルクとが伝達される。なお、前記トルクは、出力側遊星歯車38e、38f、38g、38hと出力側リングギヤ42bとのギヤ比に対応した力となる。
【0060】
前記シフトダウン状態の後、出力軸26側に付与される負荷(トルク)が予め粘性流体66によって設定された静止摩擦力よりも減少することにより、前記出力側リングギヤ42bのロックが解除されてアウタOWL54bがフリー状態となり、出力側太陽歯車36b、出力側遊星歯車38e、38f、38g、38h、出力側リングギヤ42b及び出力側キャリア44bが、入力軸18と一体的に反時計方向に回転(公転)する。
【0061】
次に、図示しない回転駆動源に対する電流の極性を切り換えることにより、入力軸18から出力軸26の方向(図3の矢印Z方向)に見て、入力軸18に対して前記とは反対の時計方向(右回転方向)の回転駆動力が付与された場合について、以下説明する。
【0062】
前記時計方向の回転駆動力が入力軸18に伝達された際、予め時計方向の回転をロックするように設定されたインナOWL34aによってロック状態(入力軸18と入力側太陽歯車36aとが固定された状態)となると共に、予めインナOWR34bは時計方向の回転が許容されるように設定されているため前記インナOWR34bがフリー状態となり、第2遊星歯車機構14bは何ら機能しない。
【0063】
第1遊星歯車機構14aを構成するインナOWL34aがロック状態となり、時計方向の回転駆動力は、入力側太陽歯車36a及び4個の入力側遊星歯車38a、38b、38c、38dに伝達され、さらに、前記入力側遊星歯車38a、38b、38c、38dに噛合する入力側リングギヤ42aに伝達される。
【0064】
すなわち、インナOWL34aによってロックされた入力側太陽歯車36aが時計方向に回転することにより、入力側遊星歯車38a、38b、38c、38dは公転することがなく入力側太陽歯車36aと反対方向である反時計方向に自転し、4個の入力側遊星歯車38a、38b、38c、38dと噛合している入力側リングギヤ42aは粘性流体66の粘性抵抗に打ち勝って反時計方向に回転しようとする。
【0065】
この場合、入力側リングギヤ42aには反時計方向(左回転方向)の回転駆動力が発生するが、予め反時計方向の回転をロックするように設定されたアウタOWR54aによって入力側リングギヤ42aの回転が停止されたロック状態となる。
【0066】
前記入力側リングギヤ42aの回転が阻止されたロック状態となった瞬間にシフトダウン状態となり、前記入力側リングギヤ42aの回転が停止した固定状態において、入力側太陽歯車36aが時計方向に回転すると共に4個の入力側遊星歯車38a、38b、38c、38dがそれぞれ前記入力側太陽歯車36aと反対の反時計方向に自転した状態となる。
【0067】
なお、第2遊星歯車機構14bを構成する出力側太陽歯車36b及び出力側遊星歯車38e、38f、38g、38hは、中間キャリア44cを介して一体的に連結されているため、インナOWR34bがフリー状態に保持されたまま、シフトダウンした第1遊星歯車機構14aと一体的に回転する。
【0068】
シフトダウンした後、出力軸26側に付与された負荷が減少し且つ前記負荷に対して粘性流体66の粘性抵抗が打ち勝つと、前記減少した負荷が出力側キャリア44b及び中間キャリア44cを介して第1遊星歯車機構14a側に伝達され、入力側太陽歯車36a、入力側遊星歯車38a、38b、38c、38d及び入力側リングギヤ42aの間に付与された粘性流体66の粘性抵抗によって発生する静摩擦力の作用下に、入力側リングギヤ42aは入力軸18と同様に時計方向に回転し始めると共に前記アウタOWR54aによるロック状態が解除される。
【0069】
前記アウタOWR54aがフリー状態となり、入力側太陽歯車36a、入力側遊星歯車38a、38b、38c、38d、入力側リングギヤ42a及び入力側キャリア44aが、入力軸18と一体的に時計方向に回転する。この場合、入力側遊星歯車38a、38b、38c、138dは、自転することがなく入力側リングギヤ42aの周方向に沿って公転した状態にあり、入力側リングギヤ42aも同様に公転した状態にある。
【0070】
このように入力側太陽歯車36a、入力側遊星歯車38a、38b、38c、38d、入力側リングギヤ42a及び入力側キャリア44aが、入力軸18と一体的に時計方向に回転した状態において、例えば、図示しない駆動機器等によって出力軸26側に予め設定されたトルクを超えた負荷が付与されると、出力側キャリア44b及び中間キャリア44cを媒介して入力側キャリア44aの回転を停止させる力、すなわち、入力側リングギヤ42aを反時計方向(左回転方向)に向かって回転させる力が発生し、予め反時計方向の回転をロックするように設定されたアウタOWR54aによって入力側リングギヤ42aの回転が停止されたロック状態となり、前述したようにシフトダウンする。
【0071】
この結果、シフトダウン状態となることにより、出力軸26に対し減速された回転速度と増大されたトルクとが伝達される。なお、前記トルクは、入力側遊星歯車38a、38b、38c、38dと入力側リングギヤ42aとのギヤ比に対応した力となる。
【0072】
前記シフトダウン状態の後、出力軸26側に付与される負荷(トルク)が予め粘性流体66によって設定された静止摩擦力よりも減少することにより、前記入力側リングギヤ42aのロックが解除されてアウタOWR54aがフリー状態となり、入力側太陽歯車36a、入力側遊星歯車38a、38b、38c、38d、入力側リングギヤ42a及び入力側キャリア44aが、入力軸18と一体的に時計方向に回転(公転)する。
【0073】
本実施の形態に係る減速比自動切換装置10では、入力側及び出力側太陽歯車36a、36b、並びに入力側及び出力側遊星歯車38a〜38hを含む第1遊星歯車機構14aと第2遊星歯車機構14bとからなる2つの遊星歯車機構を入力軸18の軸方向に並設すると共に、回転を阻止するロック方向が相互に異なるインナOWL34a及びインナOWR34bと、入力側及び出力側リングギヤ42a、42bの回転を停止させるロック方向が相互に異なるアウタOWR54a及びアウタOWL54bとをそれぞれ設け、さらに粘性流体66によるビスカスカップリングを用いて入力側及び出力側太陽歯車36a、36b、入力側及び出力側遊星歯車38a〜38h、並びに、入力側及び出力側リングギヤ42a、42bをそれぞれ一体的に同一方向に回転させてロック状態が解除されることにより、入力軸18に対して時計方向又は反時計方向の回転駆動力が付与された場合であっても円滑に切り換えることができる。
【0074】
なお、インナ及びアウタのワンウェイクラッチ部材34a、34b、54a、54bは、インナ同士及びアウタ同士でそれぞれ回転許容方向(ロック方向)が異なると共に、第1及び第2遊星歯車機構14a、14bを構成するインナとアウタとの間においてもそれぞれ回転許容方向(ロック方向)が異なるように設けられる。
【0075】
換言すると、本実施の形態では、2つの遊星歯車機構14a、14bを用い入力軸18の回転方向に対応していずれか一方の遊星歯車機構14a(14b)を適宜作動させることにより、出力軸26から、例えば、アクチュエータ等の駆動機器に伝達される減速比を自動的に切り換えることができる。
【0076】
従って、本実施の形態では、入力軸18の回転方向に対応して、例えば、入力軸18の軸方向に沿って変位する部材を設ける必要がないため、大きなトルクが付与された場合であっても、円滑に出力軸26側に伝達することができる。この結果、遊星歯車機構14a、14bを構成するギヤ等が大型することがなく、小型で軽量な減速比自動切換装置10を提供することができる。
【0077】
また、アクチュエータの変位部材(スライダ)が往路で一旦停止した後に、再び、往路方向に変位する場合も入力軸18の回転方向に対応して第1遊星歯車機構14a又は第2遊星歯車機構14bをそれぞれ作動させ、減速比を自動に切り換えることが可能となり且つ、アクチュエータの変位部材を、低トルク、高速で往路に沿って変位させることができる。なお、このアクチュエータには、例えば、リニアアクチュエータ、ロータリアクチュエータ等の種々のアクチュエータが含まれることは勿論である。
【0078】
次に、以上のように構成される減速比自動切換装置10の適用分野及び利用分野について説明する。
【0079】
この減速比自動切換装置10は、動力源に対する負荷変動が発生することにより、負荷抵抗の増大・減少時に補正して動くシステムである回転系の全ての分野に適用乃至利用することができる。
【0080】
例えば、車両、船舶、飛行機、農業機械(耕耘機、芝刈り機等)、戦車、重量車両(大型建設機械、鉱山用機械等)、プレス機械、コンプレッサ、発電機、食品機械、工作機械、工作機械、リフタ機構、介護用変速装置、上下水平移動装置、車椅子(電動又は手動の車椅子を含む)、ドアの開閉機構、スライドドアの開閉機構、スライドドアの閉時の増し閉め機構、各種ルーフの開閉機構、各種ブレーキ機構(ドラムブレーキ、ディスクブレーキを含む)等に適用される。
【0081】
なお、車両では、動力エンジン(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンを含む)、燃料電池で起動するモータ、ハイブリッドシステム等が搭載された自動車が含まれる。その際、回転駆動源としては、電動モータに限定されるものではなく、人力、内燃機関、水力、油圧・空圧源であってもよい。
【0082】
高速回転型モータを高トルクモータとして使用可能とするものであり、トルクが不要な領域では、高速回転が可能となる。換言すると、負荷が小さくなることにより、従来のギャードモータを高速で回転させることができる。モータの直径を縮系して小型化することができる。
【0083】
次に、車両に使用される部位としては、ワイパ用モータ、パワーウインド用モータ、パワーシート用モータ、スライドドア用の駆動モータ、自動車の駆動用モータ等が挙げられる。ワイパ用モータに適用した場合、雪、ブレード等の抵抗が増大したときであってもワイパを円滑に起動させることができる。自動車の車輪駆動用モータとしては、図10に示されるように、直流モータ、誘導モータ、インホイールモータ等の各種モータ500を含む。前記モータ500の小型化を推進することができると共に、障害物や登り坂のときに出力(トルク)を増大させることができる。前記インホイールモータでは、小型で自力式の変速機を有効に活用することができる。それぞれのホイールに組み込んだ場合、従来の自動変速機では大型化されていて組み込むことが困難となるからである。従来からインホイールモータに遊星ギヤ機構を組み込んだものが知られており、これらを本実施の形態に係る減速比自動切換装置と組み合わせて用いることにより、より一層小型な変速装置付インホイールモータを構成することができる。
【0084】
次に、本実施の形態に係る減速比自動切換装置10と遊星ギヤ機構との組み合わせパターンを、図40A〜図40Dに示す。図40A及び図40Bに示される各パターンでは、減速比自動切換装置10の入力側又は出力側に、それぞれ、単一の遊星ギヤ機構501を配設することにより、減速比を1/12〜1/4の範囲内に設定することができる。
【0085】
図40Cに示されるパターンでは、減速比自動切換装置10の入力側及び出力側の両方に、それぞれ、単一の遊星ギヤ機構501を配設することにより、減速比を1/48〜1/16の範囲内に設定することができる。
【0086】
図40Dに示されるパターンでは、減速比自動切換装置10を2つ組み合わせることにより、減速比を1/9〜1/3〜1/1の範囲内に設定することができる。
【0087】
モータ入力パターンとしては、回転数に対してトルクが一定のタイプ(図11参照)であってもよいし、あるいは回転数に対してトルクが変化するタイプ(図12参照)のいずれであってよい。
【0088】
また、遊星ギヤ内部の抵抗特性の切換パターンとしては、回転速度差と発生トルクとの関係が、完全ビスカスカップリング特性(潤滑油特性のみ)によってトルクが直線状(比例的)に変化するもの(図13A参照)、前記ビスカスカップリング特性に静止摩擦発生機構(例えば、図15Bに示されるように、バネ502によって摩擦板505を押圧して静止摩擦を発生させる機構)を含みトルクが曲線的に変化するもの(図13B参照)、キャリア/内歯車にトルクリミットタイプを含みトルクが一旦低下したのち一定に保持されるもの(図14参照)、キャリア/内歯車にディテントタイプ(例えば、図15Aに示されるように、バネ502によってボール504を押圧することにより係止作用を営むもの)を含むもの、等のいずれを用いてもよい。
【0089】
この場合、遊星ギヤ機構の内部に油(潤滑油等)を封じ込めるシール部材として、例えば、Oリングやウェアリング等は、静止摩擦や流体潤滑特性を含む抵抗特性を有するため、簡便なシール部材として用いることができる。また、Oリングの弾性体を図13Bに示されるばね部材に代替して利用してもよい。このような構造は、油圧シリンダのシール部材としてよく利用されている。
【0090】
ワンウェイクラッチ(ONEWAY CLUTCH)としてスパイラルジョークラッチ(SPIRAL−JAW CLUTCH)が用いられているが、前記ワンウェイクラッチとしてジョー(JAW)を用いるのではなく、ボール、ローラ、スプラグタイプのワンウェイクラッチをベアリングと一体的に組み付けて構成してもよい。その際、リングギヤとの結合には、スクウェアジョークラッチ(SQUARE−JAW CLUTCH)やカービックカップリングを用いるとよい。
【0091】
さらに、前記減速比自動切換装置10を、プレス加工装置、曲げ加工装置、型閉め加工装置、射出成形装置、ダイカスト鋳造成形装置等に適用するとよい。これらの各種加工/成形装置では、生産効率を向上させるために、可動要素が変位終端の近傍で大きな力(高トルク)を発生させ且つ前記変位終端までの到達時間を短縮させることが要求される。
【0092】
すなわち、可動要素(図17に示される下型506に対して接近乃至離間する上型508参照)の1つのストロークにおいて、大きな加速度を加えて高速で変位させ、ほとんど仕事をしないまま迅速に変位終端位置まで移動し、その変位終端位置で大きな力を発生させる必要があるからである。
【0093】
これらの各種加工/成形装置では、変位終端位置で、例えば、トグルリンク機構やカム機構等の可変速機構と連結されて使用される場合が多いが、前記減速比自動切換装置10は、簡単な自力式の可変速機構であってコストを低減させてFA機器に有益とすることができる。加えて、電動サーボガンの早送り機構に設けられたサーボモータ部分に対して前記減速比自動切換装置10を組み入れることにより、サーボモータを小型化し、ロボット先端部の負荷を小さくして特性向上を図ることができる。
【0094】
図18は、減速比自動切換装置10が組み付けられたモータ510によって駆動されるアキシャルポンプ512から吐出される圧油によりピストン514及びピストンロッド516が変位する状態を示す。なお、本出願人は、例えば、米国特許出願公開公報第2004−71563号、米国特許出願公開公報第2005−87068号、米国特許出願公開公報第2005−22523号等に示される電動油圧システムを既に提案しており、この電動油圧システム内に配設されたアキシャルポンプを駆動させるモータに対して減速比自動切換装置10を組み付けることにより、前記モータの小型・軽量化を図ることができる。
【0095】
また、図19は、減速比自動切換装置10が組み付けられたモータ518による遊星歯車機構520の駆動作用下にナット部材522を所定方向に回転させ、前記ナット部材522に係合するボールねじ軸524を矢印B1又はB2方向に変位させた状態を示す。
【0096】
さらに、図20は、減速比自動切換装置10が組み付けられたモータ526によってボールねじ軸528を回転させる状態を示す。さらにまた、図21は、減速比自動切換装置10が組み付けられたモータ530によって駆動されるアキシャルポンプ532から吐出される圧油により両ロッドタイプのピストン534を変位させた状態を示す。
【0097】
この減速比自動切換装置10を、重量物536をコンベア538によって搬送するギャードモータ540(図22参照)又はコンベアモータ、ドリル542を回転させてワークを切削加工する電動ドリル544に設けられたスピンドルモータ546(図23及び図24参照)、ねじ締め機(タッピングねじのねじ締め、通常のねじ締め)に設けられたパルスモータ548(図25参照)、ブラシレスDCモータ、ブラシ付きDCモータ、インダクションモータ、ACサーボモータ等に一体的に組み付けて適用するとよい。
【0098】
前記ギャードモータに適用した場合、前記ギャードモータの高トルク化と、低トルクで負荷が付与されたときの小型高速回転化との両方の機能を達成することができる(図26参照)。
【0099】
この減速比自動切換装置10を、ワーク550a、550bをモータ552駆動によって回転させるロータリアクチュエータ554に適用した場合、直線/回転時の低抵抗案内や浮上があって、加速時に高トルクで加速することができることによって高効率からなるFA機器とすることができる。例えば、加速時に大部分のパワーを使用して回転数を上昇させた後、その後に慣性のみでワークを回動させることができる。
【0100】
この減速比自動切換装置10を、電動車椅子556又は電気自動車(ハイブリッド自動車、燃料電池によって駆動される電動モータ558を搭載した自動車等をいう)に適用した場合、例えば、平坦面から隆起した段差を乗り越えるときに自動的に速度が低下し且つトルクアップさせた状態で前記段差を乗り超えることができる(図29参照)。なお、人力によってハンド回転力をトルクアップさせてもよい。
【0101】
この減速比自動切換装置10を、例えば、加締め機用、アーム560を回動させてワークをクランプするクランプ装置562用(図30参照)、型閉め用のカム機構やトグルリンク機構と組み合わせて使用することにより、前記カム機構やトグルリンク機構の作動力を増大させることができる。また、前記作動力が働かないときは高速で変位させることができる。
【0102】
この減速比自動切換装置10を、バイス(加工物を固定するクランプとして機能するバイスを含む)、クランプ、チャック(数値制御装置のチャックを含む)等の早送り機構や締め付け機構等に適用するとよい。
【0103】
なお、この減速比自動切換装置10を、特開2005−133379号公報に開示された車両用のスライドドア600を駆動させる進退移動部材602のモータ部(図31参照)、米国特許第5730494号公報に開示された電動椅子604を駆動させるリニアアクチュエータ機構のモータ部(図32参照)、米国特許第5041748号公報に開示され飛行機に組み込まれるエレクトロメカニカルアクチュエータ606のモータ部(図33参照)、米国特許第5730232号公報に開示された電動ファスナー608のモータ部又は遊星ギヤ部(図34)、米国特許第5813666号公報に開示されたクランプ装置610の遊星ギヤ部(図35)、米国特許第4869139号公報に開示された自動速度トルク切換装置612の複数の遊星ギヤ部の少なくともいずれか1つ又は複数或いはモータ部(図36)、米国特許第6806602号公報に開示されたエレクトロメカニカルホィールブレーキ装置614のねじ部とモータ部との間(図37)、米国特許第3164034号公報に開示されたトルク変換装置616(図38)、米国特許出願公開第2004−104554号公報に開示された手動車椅子618(図39)に対して、それぞれ、適用するとよい。
【0104】
前記米国特許第3164034号公報に開示されたトルク変換装置616の遊星ギヤ部、トルクコンバータ、フルードカップリング部のいずれかと本実施の形態に係る減速比自動切換装置10とを代替させることにより、遊星ギヤ機構自体が双方向に対してトルクアップを図ることができると共に、遊星ギヤ機構自体がビスカスカップリング特性を有するフルードカップリングとして使用することができる。
【0105】
また、米国特許出願公開第2004−104554号公報に開示された手動車椅子618(図39)のクラッチやギヤ部分に対して本実施の形態に係る減速比自動切換装置10を適用することにより、左右車輪のそれぞれが独立に前後方向にトルクアップすることができ、段差があったときに非力な人や障害者や老人等が車椅子を駆動させる労力を削減することができる。
【0106】
ところで、太陽歯車36a、36b、遊星歯車38a〜38h及びリングギヤ42a、42bを一体的に回転させる要素としては、1)リングギヤ42a、42bと遊星歯車38a〜38hとの間のクリアランス、2)太陽歯車36a、36b、遊星歯車38a〜38h、リングギヤ42a、42b間の粘性抵抗、3)遊星歯車38a〜38hとこれを軸支するピン48との摩擦抵抗(オイル又はグリスであって、好適には粘度が調整されたシリコンオイル又はシリコングリス)とが挙げられる。
【0107】
さらに、モータ等の回転駆動源からの入力トルクに基づいて回転運動又は直線運動等の所要の動作を行って出力側機構に伝達する入力側装置では、出力側からの過大な負荷(力)、垂直動作による負荷(重力)、エネルギを貯蓄するスプリング力等が付与される場合がある。このように出力側からの逆入力トルクが付与される場合には、本実施の形態に係る減速比自動切換装置10と共に、出力側からの逆入力トルクをロックして入力側に還流させない機能を有する逆入力防止クラッチ(例えば、特開2002−266902号公報、特開平1−69829号公報参照)を前記回転駆動源と前記入力側装置との間に設けるとよい。
【0108】
前記逆入力防止クラッチを設けることにより、動力伝達系における出力側の過大な負荷から入力側装置自体が保護されると共に、回転駆動源から入力トルクが停止した場合のワークの保持、ロック等ができる。鉛直方向に沿ってワークを昇降させる場合には、ワークが停止位置に確実にロックされて入力側機器の損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の実施の形態に係る減速比自動切換装置の分解斜視図である。
【図2】図1の減速比自動切換装置を構成する第1遊星歯車機構と第2遊星歯車機構とが並設された状態を示す部分拡大斜視図である。
【図3】図1に示す減速比自動切換装置の軸線方向に沿った縦断面図である。
【図4】図3の部分拡大縦断面図である。
【図5】図3のV−V線に沿った縦断面図である。
【図6】入力側及び出力側リングギヤの外周に設けられる第1及び第2アウタクラッチ部材のフリー状態を示す縦断面図である。
【図7】前記第1及び第2アウタクラッチ部材を構成するコロベアリングが溝部に係合したロック状態を示す縦断面図である。
【図8】入力軸と入力側及び出力側太陽歯車との間に介装される第1及び第2インナクラッチ部材のフリー状態を示す縦断面図である。
【図9】前記第1及び第2インナクラッチを構成するニードルベアリングが溝部に係合したロック状態を示す縦断面図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置を車輪駆動用のモータに適用した一部省略側面図である。
【図11】回転数とトルクとの関係を示すモータ特性図である。
【図12】回転数とトルクとの関係を示すモータ特性図である。
【図13】図13Aは、回転数とトルクとの関係がリニアである完全ビスカス特性図であり、図13Bは、回転数とトルクとの関係が変化する静止摩擦+ビスカス特性図である。
【図14】回転数とトルクとの関係を示す抵抗特性図である。
【図15】図15Aは、ボールをバネによって押圧して係止するデテント機構を示す縦断面図であり、図15Bは、摩擦部材をバネによって押圧して係止する静止摩擦機構を示す縦断面図である。
【図16】ロックアップ機構又は遠心クラッチ機構の有無によって回転数に対するトルク変化を示す特性図である。
【図17】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置をプレス機に適用した概略構成図である。
【図18】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置をアキシャルポンプを駆動させるモータに適用した概略構成図である。
【図19】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置をボールねじ機構を駆動させるモータに適用した概略構成図である。
【図20】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置をボールねじ軸を駆動させるモータに適用した概略構成図である。
【図21】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置をアキシャルポンプを駆動させるモータに適用した概略構成図である。
【図22】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置をコンベアを駆動させるギャードモータに適用した概略構成図である。
【図23】電動ドリルの正面図である。
【図24】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置を前記電動ドリルのドリルを駆動させるモータに適用した斜視図である。
【図25】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置をねじ締め機のモータに適用した斜視図である。
【図26】前記ギャードモータの回転数に対するトルク変化を示す特性図である。
【図27】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置をワークを回転させるロータリアクチュエータに適用した斜視図である。
【図28】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置を電動車椅子を駆動させるモータに適用した斜視図である。
【図29】図28に示される電動車椅子が段差を昇る状態を示す側面図である。
【図30】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置をクランプ装置に適用した側面図である。
【図31】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置が適用される従来技術に開示されたスライドドアの正面図である。
【図32】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置が適用される従来技術に開示された電動椅子の斜視図である。
【図33】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置が適用される従来技術に開示されたエレクトロメカニカルアクチュエータの縦断面図である。
【図34】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置が適用される従来技術に開示された電動ファスナーの縦断面図である。
【図35】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置が適用される従来技術に開示されたクランプ装置の縦断面図である。
【図36】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置が適用される従来技術に開示された自動トルク切換装置の縦断面図である。
【図37】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置が適用される従来技術に開示されたエレクトロメカニカルホィールブレーキ装置の縦断面図である。
【図38】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置が適用される従来技術に開示されたトルク変換装置の縦断面図である。
【図39】本発明の実施の形態に係る前記減速比自動切換装置が適用される従来技術に開示された電動車椅子の斜視図である。
【図40】図40A〜図40Dは、それぞれ、本実施の形態に係る減速比自動切換装置と遊星ギヤ機構との組み合わせパターンを示した概略構成図である。
【符号の説明】
【0110】
10…減速比自動切換装置 12、12a、12b…ハウジング
14a、14b…遊星歯車機構 18…入力軸
20、28…孔部 26…出力軸
34a、34b…インナクラッチ部材 36a、36b…太陽歯車
38a〜38h…遊星歯車 40…ギヤ部
42a、42b…リングギヤ 44a〜44c…キャリア
45、47、49、51…シール部材 46…ベアリング部材
48…ピン 54a、54b…アウタクラッチ部材
66…粘性流体(粘性抵抗体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動源と駆動機器との間に配設され、前記回転駆動源の回転駆動力に基づいて動作する部材の減速比を自動的に切り換える装置であって、
前記回転駆動源に連結される入力軸と、前記駆動機器に連結される出力軸と、入力側太陽歯車及び出力側太陽歯車と、入力側遊星歯車及び出力側遊星歯車と、前記入力側遊星歯車及び出力側遊星歯車にそれぞれ噛合する入力側リングギヤ及び出力側リングギヤと、前記入力側遊星歯車及び出力側遊星歯車を回転自在に軸支すると共に、前記入力側遊星歯車及び出力側遊星歯車の公転に伴って一体的に回転する入力側キャリア、出力側キャリア及び中間キャリアとを含み、前記入力軸の軸方向に沿って並設された第1遊星歯車機構及び第2遊星歯車機構と、
前記入力軸の一方向の回転を許容し他方向の回転をロックすると共に、相互にロック方向が異なる第1インナクラッチ部材及び第2インナクラッチ部材と、
前記入力側リングギヤ又は出力側リングギヤの一方向の回転を許容し他方向の回転をロックすると共に、相互にロック方向が異なる第1アウタクラッチ部材及び第2アウタクラッチ部材と、
静摩擦力の働きによって前記入力側太陽歯車、前記入力側遊星歯車、及び前記入力側リングギヤをそれぞれ一体的に同一方向に向かって回転させ、又は、前記出力側太陽歯車、前記出力側遊星歯車、及び前記出力側リングギヤをそれぞれ一体的に同一方向に向かって回転させる粘性抵抗体と、
を備えることを特徴とする減速比自動切換装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記中間キャリアは、前記入力側キャリアと前記出力側キャリアとの間に配置され、遊星歯車を軸支するピンによって前記入力側キャリア、出力側キャリア及び中間キャリアが一体的に回動可能に設けられることを特徴とする減速比自動切換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【公開番号】特開2007−218360(P2007−218360A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39780(P2006−39780)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000102511)SMC株式会社 (344)
【Fターム(参考)】