説明

渦巻きポンプ装置

【課題】要求NPSHを小さくし、吸込み性能を向上させ得る簡単な構造の渦巻ポンプ装置を提供する。
【解決手段】この渦巻ポンプ装置1は、ケーシング2内の回転軸3の先端側に片持ち支持される羽根車10を有し、この羽根車10には主板13の表裏それぞれに第一および第二の羽根11,12が設けられ、ケーシングには第一および第二の吸込口4,5と、一つの吐出口6とが設けられ、第一の羽根11の作用によって第一の吸込口4から吸い込まれて当該第一の羽根11の回転円周方向に吐出された流体と第二の羽根12の作用によって第二の吸込口5から吸い込まれて当該第二の羽根12の回転円周方向に吐出された流体とを合流させて一つの吐出口6から吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清水や固形物を含有するスラリーあるいはサンド流体の輸送用に好適な渦巻きポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
渦巻きポンプ装置では、要求NPSH(Net Positive Suction Head:正味吸込ヘッド)を小さくして、ポンプが羽根車に流体を吸い込む(押し込む)性能を向上させることが重要な課題である。以下、低NPSHのポンプが必要な理由について説明する。なお、以下の説明では、槽内の液面高さに関わらず、ポンプの吸込み圧力が、負圧を受けて揚液する場合について述べる。
【0003】
図6において、液槽400内の流体の液面がL1でポンプ300を運転すれば、マイナスの実揚程(−hs1)が作用し、ポンプ300の吸込口には負圧が作用する。また、流体の液面がL2に位置すれば、プラスの実揚程(+hs2)が作用し、通常ならばポンプ300の吸込口には正圧が働く。しかし、流体の温度如何ではポンプ300の吸込口には必ずしも正圧が働くとは限らず、負圧が働く場合も起こり得る。これは、流体の温度が高くなれば、飽和蒸気圧力も上昇するためである(但し、吸込み配管の諸損失についての説明は省略)。
【0004】
ここで、要求NPSH(R−NPSH)とは、ポンプ300が流体Fを羽根車310に吸い込む(押し込む)ために必要なヘッドであって、羽根車310の入口部の最大圧力降下である。つまり、羽根車310の入口部においては、流体が軸方向から半径方向に急激に方向変換するために圧力の低下を生じる。このR−NPSHを式で表したものが次の(1)式である。
R−NPSH=αxQ2/3xN4/3x10−5m (1)
但し、α:構造・設計によって異なる実験係数(6.0〜8.0が使用される)
Q:流量(m/min)
N:回転速度(min−1
【0005】
一方、ポンプの吸込み液面に大気圧が作用している場合を想定し、大気圧からポンプと吸込み液面との落差、吸込み配管の損失水頭、流体(液温度、液比重)の飽和蒸気圧等の吸込み全揚程を差し引いたものを有効NPSH(A−NPSH)という。このA−NPSHを式で表したものが次の(2)式である。
A−NPSH=Ha+hs−hv−hfm (2)
但し、Ha:大気圧(m)
hs:吸込み実揚程(m)押し込みはプラス、吸込みはマイナス
hv:液温に対する飽和蒸気圧(m)
hf:吸込み管の全損失水頭(m)
【0006】
ここで、A−NPSH≦R−NPSHのとき、つまり、流体が蒸気圧力もしくはそれ以下に低下すると、気体が生じた部分が空洞化し、圧力が高い部分で空洞が破壊されるというキヤビテーション現象(空洞現象)を生じる。この時のポンプ運転状況は、音響と振動を伴うばかりか、現象の程度が過酷になれば、やがては揚液が不能に陥る。また、キヤビテーション現象を生じたまま運転を継続すると、ポンプの羽根や胴体(ケース)に忽ち腐食が進行する。
【0007】
キヤビテーション現象を生じた場合の解消方法は、上記A−NPSHを大きくするか、
またはR−NPSHを小さくするかのいずれかである。前者の場合、ポンプと吸込み液面との配置や、吸込み配管(サイズ、長さ)、流体条件等を変更することは、一般的な現場では困難なことであり、運転現場においては、後者のR−NPSHを小さくすることが常套手段である。
【0008】
後者のR−NPSHを小さくする最も簡単な方法は、流体が清水であれば、ポンプ吐き出し側に設けられた制御弁を絞ることによって、流量を少なくすることである。しかし、流体が固形物を含有したスラリーやサンドの場合は、制御弁内の弁体と弁箱の隙間に固形物を噛み込んだり、流量が少ないために輸送配管途中に固形物の沈降を招いたりするという問題が生じる。
【0009】
一方、新規に設備を計画する場合は、上記の吸込み諸条件(Ha,hs,hv,hf)に対して、A−NPSHに見合うポンプ機種の選定を行うことができる。A−NPSHが小さい場合は、計画流量と揚程の仕様に対して回転速度の遅い、低R−NPSHのポンプ機種を選定することが好ましい。結局、いずれにしても吸込み諸条件が問題になるような現場では、低R−NPSHのポンプが必要になる。
【0010】
ここで、最も代表的な低R−NPSHの渦巻きポンプは、羽根を背中合わせにして両側から流体を吸い込む構造を有する両吸込み型渦巻きポンプである。両吸込み型渦巻きポンプによって、R−NPSHが低くなる理由は、上記(1)式において流量Qを半分として計算することができるからである。これはポンプ単体を2台並列運転した原理に基づく。両吸込み型ポンプの断面図を図7に示す。
【0011】
同図に示すように、一般的な両吸込み型渦巻きポンプ201は、その組み立て上、ケース(胴体)202を上下水平割りまたは縦割りとするとともに、回転軸203を両持支持とした構造であり(例えば特許文献1参照)、主板213に対して背中合わせにした羽根車210の両側から流体を吸い込ませる構成となっているので、構造が極めて複雑になるという欠点がある。
【0012】
これに対し、片吸込み型渦巻きポンプは構造が簡単である。従来技術としては、例えば特許文献2に開示されるような、主板に単一または複数の貫通孔を設けた羽根車を有するものがある。主板に設けた貫通孔はバランスホールと呼ばれる。
その他、例えば図8に示すように、吸い込み口104を軸封装置140の近傍に設けたインバース型ポンプ100がある。インバース型ポンプ100は、通常の片吸い込みポンプと違って、羽根車110の向きを回転軸方向に対して逆向きに配設し、軸封装置140の圧力を低減させる構造を持った片吸い込み型ポンプであり、両吸い込み型ポンプに比べて、構造が極めて簡単である。なお、同図において、主板113の裏側113rに補助羽根112が設けてあるが、この目的は軸方向推力の軽減である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−148390号公報
【特許文献2】特開2004−116454号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上述した両吸込み型渦巻きポンプは、構造が極めて複雑になるという欠点があり、他方、片吸込み型渦巻きポンプ(インバース型ポンプ)は構造が簡単であるものの、要求NPSHを小さくして、吸込み性能を向上させる上で両吸込み型と比較して不十分である。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、要求NPSHを小さくし、吸込み性能を向上させ得る簡単な構造の渦巻ポンプ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、ケーシング内の回転軸の先端側に片持ち支持される羽根車と、該羽根車の背面側に配された軸封装置とを有する渦巻ポンプ装置であって、前記羽根車は、主板と、該主板の吸込口側を向く面に設けられた第一の羽根と、該主板の軸封装置側を向く面に設けられた第二の羽根とを有し、前記ケーシングは、前記羽根車よりも回転軸方向先端側に設けた第一の吸込口と、前記羽根車よりも回転軸方向軸封装置側に設けた第二の吸込口と、前記第一の羽根の作用によって前記第一の吸込口から吸い込まれて当該第一の羽根の回転円周方向に吐出された流体と前記第二の羽根の作用によって前記第二の吸込口から吸い込まれて当該第二の羽根の回転円周方向に吐出された流体とを合流させて吐出する一つの吐出口とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る渦巻ポンプ装置によれば、羽根車が、片吸込み型のようにケーシング内の回転軸の先端側に片持ち支持される構成なので、上記両吸込み型渦巻きポンプに比べて構造が簡単である。そして、主板の吸込口側を向く面および軸封装置側を向く面それぞれに第一の羽根および第二の羽根(以下、「主板表裏の羽根」ともいう)を形成し、ケーシングには、二つの吸込口と一つの吐出口を設けており、これら二つの吸込口と一つの吐出口は、第一の羽根の作用によって第一の吸込口から吸い込まれて当該第一の羽根の回転円周方向に吐出された流体と前記第二の羽根の作用によって前記第二の吸込口から吸い込まれて当該第二の羽根の回転円周方向に吐出された流体とを合流させて一つの吐出口から吐出するように構成されているので、主板の表裏の羽根それぞれの流路が生じ、これにより、主板表裏の羽根によりポンプ単体を2台並列運転した原理が作用し、主板表裏の羽根の能力に応じて、流量を分配することが可能となり、各々の羽根吸込み部の最大圧力降下を減じるため、要求NPSHが小さくなり、吸込み性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
上述のように、本発明によれば、要求NPSHを小さくし、吸込み性能を向上させ得る簡単な構造の渦巻ポンプ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る渦巻ポンプ装置の第一実施形態の説明図であり、同図はポンプ装置の要部を軸方向に沿った断面で示している。
【図2】第一実施形態の羽根車を説明する図であり、同図(a)は図1でのA矢視図、同図(b)は図1でのB矢視図である。
【図3】第一実施形態の羽根車に設けられる羽根の説明図(斜視図)である。
【図4】本発明に係る渦巻ポンプ装置の流路(二つの吸込口と一つの吐出口)の説明図である。
【図5】羽根車の構造的な分類を説明する図であり、同図(a)は、セミオープン羽根、(b)はクローズ羽根、(c)はオープン羽根である。
【図6】低NPSHのポンプが必要な理由について説明する模式図である。
【図7】従来の両吸込み渦巻ポンプ装置の一例を説明する図である。
【図8】従来のインバース型ポンプ装置の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
本発明に係る渦巻きポンプの一実施形態の概要図を図1に示す。
同図に示すように、この渦巻きポンプ1は、ケーシング2内に支持された回転軸3が不
図示のモータの駆動により回転自在に設けられ、この回転軸3の先端側に羽根車10が片持ち支持されている。なお、この羽根車10の構造は、この例ではセミオープン型(図5(a)参照)とした例である。
【0020】
この羽根車10の背面側(同図の右側であって吸込口4とは反対の側)には、軸封装置40が回転軸3を囲繞するように配されている。そして、この羽根車10は、耐摩耗性材料または耐食性材料を使用しており、円盤状の主板13と、この主板13の第一の吸込口4側を向く面(主板の表面であって、吸込口4に近い側の面)に設けられた第一の羽根11と、主板13の軸封装置40側を向く面(主板の裏面)に設けられた第二の羽根12とを有している。
【0021】
第一の羽根11と第二の羽根12は、図2に示すように、それぞれ主板13の面に対して6箇所に等配されており、各羽根は、主板13の中心から周方向に向かって渦巻き状に湾曲形成されるとともに、隣接する羽根との対向方向の距離が拡幅するように設けられている。ここで、本実施形態では、各羽根の上記湾曲形状及び図3に示す幅寸法(b)および厚さ寸法(t)の設計は、基本的に同一としており、表裏の羽根の性能が同じになっている。
【0022】
そして、図1に示すように、この羽根車10の回転軸方向先端側には第一の吸込口4が形成されており、また、羽根車10よりも回転軸方向軸封装置40側には第二の吸込口5が形成されている。そして、羽根車10の回転円周方向には吐出口6が設けられている。なお、第一の吸込口4および第二の吸込口5については、図4に示すように、二つの吸込口4,5に対して、第一の吸込口4と第二の吸込口5を配管で相互に連結して吸い込み口を一箇所(吸込口8)にする構成としている。そして、第一の吸込口4および第二の吸込口5から流体Fをそれぞれ吸い込んでその流体Fを流路F1,F2を介して吐出口6から吐出するようになっている。
【0023】
つまり、この渦巻きポンプ1は、不図示のモータの駆動により回転軸3が回転すると、流体Fが、上記第一の羽根11および第二の羽根12の両方で同図矢印F1,F2の流れのように吸込まれて、遠心力の作用で揚液される。そして、第一の羽根11の作用によって第一の吸込口4から吸い込まれて当該第一の羽根11の回転円周方向に吐出された流体と第二の羽根12の作用によって第二の吸込口5から吸い込まれて当該第二の羽根12の回転円周方向に吐出された流体とを再び合流させて一つの吐出口6から吐出する。
【0024】
次に、この渦巻ポンプ装置1の作用・効果について説明する。
上述した渦巻きポンプ1は、一般の両吸込み型ポンプに比べ、羽根車10が、片吸込み型(インバース型)のようにケーシング2内の回転軸3の先端側に片持ち支持される構成なので、構造が簡単で分解、組み立てが容易であるばかりでなく、製造費用を安くすることが可能である。また、従来技術のバランスホールや補助羽根と同様に、軸封装置40の減圧と軸方向推力の軽減が図れる。また、耐摩耗性材料や耐食性材料を羽根車10に使用することによって、スラリーやサンド等や化学液の流体などの流体F全般に亘って使用することが可能である。
【0025】
そして、この渦巻きポンプ1によれば、主板13の第一の吸込口4側を向く面および軸封装置40側を向く面それぞれに第一の羽根11および第二の羽根12を形成し、ケーシング2には、別々の場所に形成した二つの吸込口4,5と一つの吐出口6を設けており、これら二つの吸込口4,5と一つの吐出口6は、第一の羽根11の作用によって第一の吸込口4から吸い込まれて当該第一の羽根11の回転円周方向に吐出された流体F1と第二の羽根12の作用によって第二の吸込口5から吸い込まれて当該第二の羽根12の回転円周方向に吐出された流体F2とを合流させて一つの吐出口6から吐出するように構成され
ているので、主板13の表裏の羽根11,12それぞれの流路が生じ、これにより、主板13表裏の羽根11,12によりポンプ単体を2台並列運転した原理が作用し、主板表裏の羽根の能力に応じて、流量を分配することが可能となり、各々の羽根吸込み部の最大圧力降下を減じるため、片吸い込みポンプに比べて要求NPSHが小さくなり、吸込み性能を向上させることができる。また、その二つの吸い込み口4,5を相互に連結して一つの吐出口6から吐出するように構成されているので、両吸い込み型ポンプと比較してその構造を簡単にすることができる。
以上説明したように、この渦巻ポンプ装置1によれば、簡単な構造によって、要求NPSHを小さくし、吸込み性能を向上させることができる。
【0026】
なお、本発明に係る片吸込み渦巻ポンプ装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
例えば、上記実施形態では、主板13の表裏の羽根11,12それぞれの性能(図3に示す幅寸法(b)および厚さ寸法(t)等)を同じに構成した例で説明したが、これに限らず、能力の異なった2台のポンプ単体を並列運転するのと同様に、それぞれ性能を異ならせてもよい。例えば、第二の羽根12の外径を、第一の羽根11の外径よりも大きく構成してもよい。また、第一の羽根11と第二の羽根12の性能を変えて流量のバランスをとりながら合流させる構成としてもよい。
【0027】
また、例えば上記実施形態では、第一の羽根11および第二の羽根12をセミオープン型とした例で説明したが、これに限定されず、第一の羽根11および第二の羽根12を、図5(b)に示すような側板14を有するクローズ型としてもよい。ここで、羽根車を構造的に分類すると、図5(a)に示すように、主板に羽根を設けたセミオープン羽根、同図(b)に示す、セミオープン羽根の前面に側板を設けたクローズ羽根、および同図(c)に示す、主板の一部を利用して羽根を設けたオープン羽根がある。本発明は、羽根車10を、セミオープン羽根、またはクローズ羽根とした第一の羽根11および第二の羽根12によって構成することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 渦巻きポンプ
2 ケーシング
3 回転軸
4 第一の吸込口
5 第二の吸込口
6 吐出口
10 羽根車
11 第一の羽根
12 第二の羽根
13 主板
14 側板
20 第一流路
30 第二流路
40 軸封装置
F 流体
F1 第一流路への流体の流れ
F2 第二流路への流体の流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内の回転軸の先端側に片持ち支持される羽根車と、該羽根車の背面側に配された軸封装置とを有する渦巻ポンプ装置であって、
前記羽根車は、主板と、該主板の吸込口側を向く面に設けられた第一の羽根と、該主板の軸封装置側を向く面に設けられた第二の羽根とを有し、
前記ケーシングは、前記羽根車よりも回転軸方向先端側に設けた第一の吸込口と、前記羽根車よりも回転軸方向軸封装置側に設けた第二の吸込口と、前記第一の羽根の作用によって前記第一の吸込口から吸い込まれて当該第一の羽根の回転円周方向に吐出された流体と前記第二の羽根の作用によって前記第二の吸込口から吸い込まれて当該第二の羽根の回転円周方向に吐出された流体とを合流させて吐出する一つの吐出口とを有することを特徴とする渦巻ポンプ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−97696(P2012−97696A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247694(P2010−247694)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(505328085)古河産機システムズ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】