説明

温度制御装置

【課題】消防法上の危険物でない熱媒体を用い、単一の熱媒体により広い温度域での温度制御を可能とし、十分な伝熱性能が得られる温度制御装置を得る。
【解決手段】温度の異なる熱媒体を貯える複数の熱媒体タンク1、9と、熱媒体タンクの熱媒体を加熱冷却し、定温に保つ複数の加熱冷却源4と、熱媒体タンク内の熱媒体を抜出し、戻す複数の循環配管9と、被温度制御物42のジャケット43に熱媒体を循環させる循環ポンプ13を有するジャケット循環配管と、熱媒体タンクからの熱媒体をジャケット循環配管に供給する供給配管10、30と、ジャケット循環配管からの熱媒体を個々の循環配管に振り分けて戻す帰還配管64、65を備え、熱媒体が、引火点が250℃以上のシリコーンオイルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化学品、医薬品などの化学合成に用いられる反応容器等の内部温度を広い温度範囲で制御することができる温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような用途に用いられる温度制御装置では、これに使用される熱媒体として、高温側では蒸気、温水などが、冷温側では冷水、ブラインなどが用いられ、これらの熱媒体を複数種組み合わせ、必要温度域に合わせてこれら熱媒体を切り替えて使用する方法がとられていた。
【0003】
このものでは、複数種の熱媒体を用いることから、設備が複雑で、運転操作も煩雑となる不都合があった。
この不都合を解決するものとして、シリコーンオイルを熱媒体として使用するものが提案されている。
【0004】
このシリコーンオイルを熱媒体として使用することにより、例えば−40℃〜150℃以上の広い温度範囲において、単一の熱媒体により温度制御ができる。また、シリコーンオイルは、動粘度が低く、流動性に優れることから、高い伝熱性能が得られる利点もある。
【0005】
しかしながら、市販されているシリコーンオイルは引火点250℃未満のものが多く、この引火点250℃未満のシリコーンオイルは、消防法上、危険物に指定されていることから、温度制御装置に対して防爆対策を施さねばならないなどの法規制上、種々の制約を受けることになる。このため、設備費用が嵩み、安全管理が面倒となって、設備導入が敬遠されることが多い。
【特許文献1】特開平6−79166号公報
【0006】
本発明者等は、このシリコーンオイルの引火点について種々検討した結果、引火点が250℃未満のシリコーンオイルであっても、精製操作によって引火点を250℃以上とすることができることを見出し、さらにこの引火点250℃以上のシリコーンオイルが熱冷媒として十分に使用可能であることを見出して、熱冷媒として利用する際の最適な条件を見出したものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、本発明における課題は、消防法上の危険物とされない熱媒体を用い、単一の熱媒体により広い温度域での温度制御を可能とし、しかも十分な伝熱性能が得られる温度制御装置を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、温度の異なる熱媒体を貯える複数の熱媒体タンクと、
これら熱媒体タンクの個々の熱媒体を加熱または冷却し、一定温度に保持する複数の加熱冷却源と、
これら熱媒体タンク内の熱媒体を個々に抜き出し、それぞれの熱媒体タンクに戻す複数の循環配管と、
被温度制御物を包囲しこれを加熱、冷却するジャケットに熱媒体を循環させる循環ポンプを有するジャケット循環配管と、
複数の熱媒体タンクからの熱媒体をジャケット循環配管に供給する供給配管と、
ジャケット循環配管からの熱媒体を個々の循環配管に振り分けて戻す帰還配管を備え、
熱媒体が、引火点250℃以上のシリコーンオイルであることを特徴とする温度制御装置である。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記ジャケットが渦巻邪魔板ジャケットであり、
循環ポンプが、ジャケット内の熱媒体の流速を1m/秒以上とするものであることを特徴とする請求項1記載の温度制御装置である。
【0010】
請求項3に係る発明は、供給配管からジャケット循環配管への熱媒体の供給量を、個々の循環配管内を循環する熱媒体量またはジャケット循環配管内を循環する熱媒体量の1/3以下とする複数の流量調整弁が供給配管に設けられたことを特徴とする請求項1または2の温度制御装置である。
【0011】
請求項4にかかる発明は、熱媒体タンクのうち、温度0℃以下の熱媒体を貯える熱媒体タンクには、露点−40℃以下の乾燥空気を送り込む乾燥空気供給配管が接続されていることを特徴とする請求項1または2記載の温度制御装置である。
【0012】
請求項5にかかる発明は、被温度制御物の温度制御をモデル予測制御する制御部が備えられたことを特徴とする請求項1または2記載の温度制御装置である。
【0013】
請求項6にかかる発明は、ジャケット付タンクの内温制御にモデル予測制御を適用し、予め設定した内温プロファイルを参照し、その内温プロファイルを制御結果とすることを特徴とする請求項5記載の温度制御装置である。
【0014】
請求項7にかかる発明は、反応器の応答はジャケット内の流路の長さにより異なるために、ジャケットが水平方向に複数段に分割された構造を有する場合に、使用するジャケットの段数による流路の長さに合わせて、制御パラメータを切替することを特徴とする請求項5記載の温度制御装置である。
【0015】
請求項8の発明は、前記ジャケットを介して被温度制御物を温度制御する総括伝熱係数が150〜300kcal/m・hr・℃であることを特徴とする請求項1または2記載の温度制御装置である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1、2および3にかかる発明によれば、熱媒体として、引火点250℃以上のシリコーンオイルを採用することにより、消防法上の危険物の指定を逃れることができ、設備を簡素化でき、安全管理も容易となる。また、このシリコーンオイルを用いることで、簡単な設備で−40℃から150℃までの広い温度範囲での温度制御が単一熱媒体によって行うことができる。
【0017】
また、被温度制御物を包囲するジャケット内での熱媒体の流速を1m/秒以上とすることで、良好な伝熱性能が得られ、被温度制御物の昇温、降温が迅速に行える。
【0018】
さらに、供給配管からジャケット循環配管への熱媒体の最大供給量を、個々の循環配管内を循環する熱媒体量またはジャケット循環配管内を循環する熱媒体量の1/3以下とする複数の流量調整弁を供給配管に設けることにより、ジャケット循環配管内の熱媒体の急激な温度変化が緩和され、これによりジャケットの温度の急激な変化が抑えられる。同時に、熱媒体タンク内の熱媒体の急激な温度変化が抑えられ、加熱・冷却に用いる装置の損傷を避け、また、安定した温度の熱媒体を供給することを実現する。
【0019】
さらに、温度の異なる熱媒体を貯える複数の熱媒体タンクを備えることにより、被温度制御物において求められる急速な制御温度変化に対しても、熱冷媒側の装置が損傷するような温度変化による負荷を受けずに、より迅速に温度変化に対応することができる。
【0020】
また、請求項4にかかる発明によれば、低温の熱媒体中に水分が混入することが防止でき、熱媒体中に含まれる水分によって、熱媒体が凍結し、配管が閉塞することがない。
さらに、請求項5、6および7にかかる発明によれば、被温度制御物の内部温度をより高精度に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明における大きな特徴は、熱媒体として、引火点250℃以上のシリコーンオイル(以下、高引火点シリコーンオイルと言うことがある)を用いることにある。
本発明での高引火点シリコーンオイルは、引火点が250℃以上であればその他の物性に特に制限はないが、動粘度は小さい方が好ましい。具体的には、25℃での動粘度が50センチストークス以下であることが好ましく、さらに好ましくは35センチストークス以下である。
【0022】
この高引火点シリコーンオイルを得るには、例えば市販の引火点が250℃未満のシリコーンオイルを減圧または常圧での蒸留により低沸点成分を分離除去して高沸点成分を回収して得ることができる。また、アセトン、メタノールやエタノールなどの溶媒により低分子成分を抽出除去した抽出残分として回収して得ることができる。
【0023】
本発明での高引火点のシリコーンオイルは、引火点を指標として製造工程や方法が異なる複数のシリコーンオイルを混合して調製することができる。
上記方法で得られる高引火点シリコーンオイルを用いる温度制御装置においては、消防法上の危険物としての対応が不要となり、設備全体を簡便に構成でき、設備コストの低減を計ることができる。また、−40℃〜150℃までの広い温度範囲において、単一の熱媒体によって温度制御が可能になるので、設備の運転性能とメンテナンス性能が格段に向上する。
【0024】
本発明での高引火点シリコーンオイルは、引火点が低いシリコーンオイルに比べて一般に高粘性であることが多いので、伝熱性能が低く、温度制御性が劣る可能性がある。
本発明の温度制御装置では、このような不具合を解消するための種々の手段を設けている。
【0025】
図1は、本発明の温度制御装置の一例を示すものである。
図1中、符号1は、第1の熱媒体タンクを示す。この第1の熱媒体タンク(以下、第1タンクと言う)は、熱媒体としての常温以上、例えば150℃に加熱した高引火点シリコーンオイルを貯留するものである。
【0026】
この第1タンク1の下部には、管2が接続され、この管2から抜き出された熱媒体がポンプ3を経て熱交換器4に送られ、ここで蒸気、熱水などと熱交換して加熱され、管5を通って第1タンク1の頂部に戻されるようになっている。
また、管5には、温度調節計6が取り付けられ、管5を流れる熱媒体の温度を監視し、その温度を所定値に保つように、蒸気などの熱交換器4への供給量が調整されるようになっている。
この管2,ポンプ3、熱交換器4、管5および温度調節計6で、加熱源が構成されている。
【0027】
また、第1タンク1の底部には管7が接続され、第1タンク1から抜き出された熱媒体が管7からポンプ8に送られ、さらに管9を通って第1タンク1の上部に戻され、熱媒体が、第1タンク1から管7、ポンプ8、管9を通って循環する第1の循環配管Aが形成されている。
【0028】
さらに、管9の途中には管10が接続され、管9を流れる熱媒体の一部が管10に分岐し、管10を通って第1流量調整弁11に流れ、ここでその流量が調整されたうえ、管12を通り、循環ポンプ13に送られるようになっている。
この管10は、供給配管を構成している。
【0029】
また、図1中、符号21は、第2の熱媒体タンクを示す。この第2の熱媒体タンク(以下、第2タンクと言う)は、熱媒体としての常温以下、例えば−40℃に冷却した高引火点シリコーンオイルを貯留するものである。
【0030】
この第2タンク21の下部には、管22が接続され、この管22から抜き出された熱媒体がポンプ23を経て熱交換器24に送られ、ここで液化フロン、液化アンモニアなどと熱交換して冷却され、管25を通って第2タンク21の頂部に戻されるようになっている。
また、管25には、温度調節計26が取り付けられ、管25を流れる熱媒体の温度を監視し、その温度を所定値に保つように、液化フロンなどの熱交換器24への供給量が調整されるようになっている。
この管22,ポンプ23、熱交換器24、管25および温度調節計26で、冷却源が構成されている。
【0031】
また、第2タンク21の底部には管27が接続され、第2タンク21から抜き出された熱媒体が管27からポンプ28に送られ、さらに管29を通って第2タンク21の上部に戻され、熱媒体が、第2タンク21から管27、ポンプ28、管29を通って循環する第2の循環配管Bが形成されている。
【0032】
さらに、管29の途中には管30が接続され、管29を流れる熱媒体の一部が管30に分岐し、管30を通って第2流量調整弁31に流れ、ここでその流量が調整されたうえ、管12に合流して循環ポンプ13に送られるようになっている。
この管30は、供給配管を構成している。
【0033】
また、第2タンク21の頂部には管32が接続され、この管32には図示しない乾燥空気供給源からの露点−40℃以下とされた乾燥空気が第2タンク21内の上部空間に常時送り込まれ、低温とされた熱媒体への水分の吸収が生じないようになっている。
【0034】
また、循環ポンプ13から圧送される熱媒体は、管41を通って反応器(被温度制御物)42を包囲するジャケット43に送られ、ここで反応器42を所定温度に加熱、冷却したのち、管44に流出し、さらに管45を通って再び循環ポンプ13に戻るようになっており、ジャケット循環配管を構成している。
【0035】
管41には、ここを流れる熱媒体の流量を測定する流量計46と、熱媒体の温度を測定する温度計47が取り付けられており、この温度計47からの測温データがスレーブコントローラ48に入力されるようになっている。
管44にも、ここを流れる熱媒体の温度を測定する温度計49が取り付けられており、この温度計49からの測温データもスレーブコントローラ48に入力されるようになっている。
【0036】
反応器42には、その内部の反応物質の温度を測定する温度計50が設けられており、この温度計50からの測温データがマスターコントローラ51およびスレーブコントローラ48に入力されるようになっている。これらコントローラはカスケード制御を構成する。
さらに、管44には管61が接続され、ジャケット循環配管内を循環して流れる熱媒体の一部が管61に抜き出され、この抜き出された熱媒体は第1帰還弁62もしくは第2帰還弁63のどちらか一方を流れるようになっている。
【0037】
第1帰還弁62および第2帰還弁63は、ともに開閉弁であって、第1帰還弁62を通過した熱媒体は、管64を通って管9に送られ、第1の循環配管Aに戻されるようになっている。
また、第2帰還弁63を通過した熱媒体は、管65を通って管29に送られ、第2の循環配管Bに戻されるようになっている。
【0038】
マスターコントローラ51は、プロセスモデルを内包するモデル予測制御器であり、反応器42内の反応物質の温度を測定する温度計50からの温度データと予め設定された設定温度との偏差に基づいて、制御信号を作り、この制御信号(スレーブコントローラ48の設定値)をスレーブコントローラ48に送出する。
【0039】
スレーブコントローラ48は、プロセスモデルを内包するモデル予測制御器であり、マスターコントローラ51からの設定値制御信号、温度計50、温度計47、温度計49からの温度データに基づいて制御信号をつくり、スプリットレンジ処理後、これを第1流量調整弁11と第2流量調整弁31にそれぞれ送って、これらの流量調整弁11、31の開度を調節する。
ここで、温度計50、温度計49からのデータはフィードフォワード信号である。スレーブコントローラ48は、供給配管からジャケット循環配管に供給される熱媒体の流量を制御することにより、スレーブコントローラ48の設定値が温度計47の測定値となるような制御を行う。
【0040】
内温設定プロファイル発生器52は、マスターコントローラ51に接続され、反応器の無駄時間による応答の遅れを考慮した時間分だけ位相を進めた内温プロファイルとして時系列でマスターコントローラ51に送出する。
【0041】
本発明による温度制御のモードは、制御停止、外浴制御、内温制御、プログラム制御の4種類となり、外浴制御はスレーブコントローラ48による制御、内温制御はスレーブコントローラ48とマスターコントローラ51のカスケード制御、プログラム制御は内温設定プロファイル発生器52によるマスターコントローラ51の設定温度を制御目標とするスレーブコントローラ48とマスターコントローラ51のカスケード制御となる。
【0042】
また、反応器42を包囲するジャケット43は、図2に示すように螺旋状に成形した邪魔板43aを有する渦巻邪魔板ジャケットであり、循環ポンプ13の送出圧力を高めることにより、熱媒体が互いに隣接する邪魔板43a、43a間の間隙を流れることで、ジャケット43内での熱媒体の流速が1m/秒以上、好ましくは、1.2〜2m/秒、さらに好ましくは、1.5〜2m/秒となるようになされている。
【0043】
上記ジャケット43としては、例示した渦巻邪魔板ジャケットが好ましい態様の例であるが、その形状や取付け構造については特に制限されるものではなく、反応器42への伝熱を考慮して適宜設計される。
【0044】
次ぎに、この温度制御装置の運転方法について説明する。
初めに、装置の立ち上げ時の熱媒体の流れにそって説明する。
まず、ポンプ8およびポンプ28を動作させて、第1タンク1および第2タンク21内の熱媒体をそれぞれ第1の循環配管Aおよび第2の循環配管B内で循環させる。
【0045】
これと同時に、ポンプ3とポンプ23を動作させて第1タンク1および第2タンク21内の熱媒体を熱交換器4、24に流し、ここで第1タンク1内の熱媒体の温度を150℃に加熱し、第2タンク21内の熱媒体の温度を−40℃に冷却する。
この設定温度は、温度調節計6、26によって熱交換器4、24に送られる蒸気や液化フロンの供給量を制御することで一定に保持される。
【0046】
ついで、第1流量調整弁11および第2流量調整弁31のいずれか一方を開き、150℃の熱媒体および−40℃の熱媒体のいずれか一方を循環ポンプ13に送り、この循環ポンプ13からこの熱媒体を反応器42のジャケット43に送る。ジャケット43から流れ出た熱媒体は、ジャケット循環配管内を循環する。
【0047】
この熱媒体のジャケット循環配管内での循環に際し、第1帰還弁62および第2帰還弁63にいずれか一方を開とし、ジャケット循環配管内の熱媒体の一部を第1の循環配管A内および第2の循環配管B内のいずれか一方に戻す。
【0048】
以上の初期運転の後に、例えばジャケット43内に設定温度80℃の熱媒体を流したい場合には、温度制御のモードを外浴制御とし、スレーブコントローラ48の設定値を80℃とした後、スレーブコントローラ48からの指示により第1流量調整弁11または第2流量調整弁31のいずれかの開度を調節し、150℃の熱媒体または−40℃の熱媒体の供給量を制御し、ジャケット循環配管に送り込むようにする。
【0049】
そして、このジャケット循環配管内を流れる熱媒体の温度は、温度計47により監視され、設定温度80℃から外れた場合には、スレーブコントローラ48は、第1流量調整弁11または第2流量調整弁31のいずれかの開度を調整して、設定温度80℃を維持するようにする。
【0050】
この時、第1流量調整弁11を開とした時には、第1帰還弁62を開とし、第2流量調整弁31を開とした時には、第2帰還弁63を開とするようにし、第1の循環配管Aから熱媒体がジャケット循環配管に送られたときには、ジャケット循環配管から熱媒体を第1の循環配管Aに戻すようにし、第2の循環配管Bから熱媒体がジャケット循環配管に送られたときには、ジャケット循環配管から熱媒体を第2の循環配管Bに戻すように制御される。このように制御することによって、温度の異なる熱媒体を蓄える複数の熱媒タンクの液量を均一化することが可能となる。
【0051】
また、ジャケット循環配管へ第1の循環配管Aまたは第2の循環配管Bから熱媒体を送る際に、第1または第2の循環配管A、Bからの熱媒体の供給量が、第1の循環配管Aまたは第2の循環配管Bまたはジャケット循環配管内を循環している熱媒体の流量の常に1/3以下となるように、熱媒供給となるポンプ8、ポンプ28の吐出圧が調整される。
【0052】
このような制御を行わない場合には、加熱から冷却、冷却から加熱に切り替えた場合には、第1の循環配管A内または第2の循環配管B内の熱媒体の温度が急激に変化し、第1タンク1または第2タンク21の容量を非常に大きくしない限り、第1タンク1または第2タンク21内の熱媒体の温度が急激に変化し、熱媒体の安定供給ができなくなる。また、第2タンク21の熱媒体の冷却方法として、冷凍機の冷媒に高引火点シリコーンオイルを用いて直接冷却するような場合には、冷凍機での異常が発生する。
【0053】
さらに、ジャケット43が図2に示す渦巻邪魔板ジャケットである場合には、隣接する邪魔板43a、43aの間隔を狭くし、かつ循環ポンプ13の圧送量を通常よりも大きくし、ジャケット43内での熱媒体の流速を1m/秒とすることで、ジャケット43内での熱媒体の通過流量を大きくし、伝熱量を高めるようにすることができる。
【0054】
例えば、反応器42として、内容量1mのステンレス鋼製撹拌機付容器を用い、熱媒体の温度を−10℃とし、総括伝熱係数200kcal/m・hr・℃程度となるようにする場合には、隣接する邪魔板の間隙を50mm程度、流速を1.2m/秒程度とすればよい。
本発明の温度制御装置においては、反応器42などの被温度制御対象への総括伝熱係数が150kcal/m・hr・℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは、180〜300kcal/m・hr・℃である。
【0055】
また、第2タンク21では、−40℃の低温の熱媒体を貯留することになるので、熱媒体の吸湿を防止する必要がある。このために、第2タンク21に図示しない真空排気ラインを接続し、真空による排気を行う。これは、熱媒体を第2タンク21に充填する際に、高粘性であるため空気を巻き込むことが多くなり、水分が吸収しやすくなるための対応手段となる。また、熱媒体を第2タンク21に充填する際に、これを加熱しつつ充填するようにし、充填に伴って吸収される水分を除去することもできる。
【0056】
また、本発明では、反応器42の内部温度の制御をより正確に行うために、モデル予測制御を採用することが好ましい。
反応器42内では、バッチプロセス進行の過程において、反応物や触媒の投入による反応熱の生成、内容物の粘度変化などの性状変化が生じるために、その内部温度を設定温度に保つことが、従来のPID制御では、困難となる。
特に、PID制御のプログラム制御では設定プロファイルに対して、プロセスの無駄時間、時定数による制御遅れは避けることができず、そのために加熱熱媒体や冷却熱媒体が交互に供給される現象が生じてしまい、制御性が悪化する。
【0057】
このため、反応器42の内部温度の高精度の温度制御を行うために、モデル予測制御を行う。
モデル予測制御は、反応器42における操作量と被制御量、例えば制御弁11、31の開度とジャケット入口温度47との間の動特性、ジャケット入口温度47と反応器42の内部温度50との動特性、ジャケット入口温度47とジャケット出口温度49との動特性、反応器42の内部温度50とジャケット出口温度49との動特性を適切に表現した内部モデルを構築し、この内部モデルに基づいて、反応器42の内部温度50およびジャケット入口温度47の温度制御を行うものである。
【0058】
内部モデルは、反応器42の熱移動を表現できる必要があり、内部モデルを構成するには対象プロセスの物質収支式、熱収支式、制御弁の動特性などを必要とする。しかし、これらには未確定なパラメータを多く含んでいるために厳密なモデル化は困難である。本モデル予測制御の内部モデルは、単純な一次遅れ無駄時間プロセスを仮定し、これらを構成する各パラメータ(ゲイン、一次遅れ時間、無駄時間)を推定するため、ステップ応答テストを実施する。
なお、内部モデルは次式で表現される。
【0059】
【数1】

【0060】
ここで、G(S):伝達関数、K:ゲイン[−]、T:一次遅れ時間[sec]、L:無駄時間[sec]である。
【0061】
ステップ応答テストは、ステップ入力とステップ応答との関係を求めるテストであり、その一例を図3に示す。例えば、ステップ入力はバルブ開度であり、そのステップ応答はジャケット入口温度である。本モデル予測制御では内部モデルを一次遅れ無駄時間プロセスとして仮定していることから、ステップ応答結果より、ゲインK[−]、一次遅れ時間T[sec]、無駄時間L[sec]を求める。
【0062】
ステップ応答テストにより求めたジャケット入口温度と内温の関係を示すゲインK[−]、一次遅れ時間T[sec]、無駄時間L[sec]をマスターコントローラ51の内部モデルとし、バルブ開度とジャケット入口温度との関係をゲインK[−]、一次遅れ時間T[sec]、無駄時間L[sec]をスレーブコントローラ48の内部モデルとする。
このようにして構成されたモデル予測カスケード制御プログラムは、例えば制御弁の開度を変えた後に、将来温度がどのように変化して行くかを予測し、これによって先回りして制御を行うことができるので、PID制御以上の制御性を実現できる。
【0063】
次に、同一温度制御装置を利用し、PIDカスケード制御によるプログラム制御とモデル予測制御によるプログラム制御を実施した結果を比較した例を示す。図4は、PIDカスケード制御による晶析工程の温度制御結果例を示し、図5は、そのバルブ開度結果を示す。PIDカスケード制御では、ジャケット入口温度が振動し、内温設定値に対する内温の追随性はよくない。また、図5から明らかなように無駄な高温熱媒の供給、低温熱媒の交互供給が見られる。
【0064】
図6は、モデル予測制御による晶析工程の温度制御結果を示し、図7はそのバルブ開度結果例を示す。このようにモデル予測制御では、ジャケット入口温度の振動はなくスムーズな動きを示しており、内温設定値に対する内温の追随性は向上した。
また、バッチ全工程において、PID制御では内温設定値に対する最大内温偏差が4.9℃であったが、モデル予測制御に変更することで、内温設定値に対する最大内温偏差が2.1℃となり、制御性が向上した。
図7からも明らかなように温熱媒の供給、低温熱媒の供給量がPIDカスケード制御と比べ低下した。この例では、バッチ全工程において、高温熱媒の供給量がPID制御の1/6、低温熱媒の供給量が1/8となり、省エネルギー運転となった。
【0065】
さらに、本発明では、水平方向に複数段に分割された構造のジャケットを持つ反応器において、有効となるジャケット高さ(有効伝熱面積)が反応容器の内溶液の水位に合わせて、使用する分割段数を切替え、ジャケット内流路の長さを切り替えることが可能である。
図8は、有効ジャケットの高さが2通りに切り替えることができる例である。水位が高い場合には、バルブ82を開とし、バルブ81を閉とすることで、有効ジャケットの高さを大きくし、ジャケット内の流路を長くする。
【0066】
また、水位が低い場合には、バルブ82を閉とし、バルブ81を開とするとで、有効ジャケットを低くし、ジャケット内の流路を短くする。このようにジャケット内流路長さが変化する場合にはプロセスへの熱伝達が変化するために、モデル予測の制御パラメータを一定とすると制御性が若干悪化する。
【0067】
このような場合には、モデル予測制御の制御パラメータを循環配管長に合わせて制御パラメータを変化させることが望ましい。すなわち、上述のゲインK[−]、一次遅れ時間T[sec]、無駄時間L[sec]を循環配管長毎に3つのパラメータセットを切り替えてモデル予測制御を実施することにより、より正確な温度制御が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の温度制御装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明での渦巻邪魔板ジャケットの一例を示す断面説明図である。
【図3】本発明での温度制御におけるバルブの開度とその応答結果としてのジャケット入口温度で表すステップ応答説明図である。
【図4】従来のPID制御によるプログラム制御説明図である。
【図5】図4のPID制御実施時における第1および第2流量調整弁の開度状態を示す図である。
【図6】本発明でのモデル予測制御によるプログラム制御説明図である。
【図7】図6のモデル予測制御実施時における第1および第2流量調整弁の開度状態を示す図である。
【図8】ジャケット周囲の加熱循環系の配管切り替えを示す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
1、21・・熱媒体タンク、2、22・・管、3、23・・ポンプ、4、24
・・熱交換器、7、27・・管、8、28・・ポンプ、9、29・・管、10
、30・・供給配管、11、31・・流量調整弁、64、65・・帰還配管、
13・・循環ポンプ、41・・管、42・・反応器(被温度制御物)、43・
・ジャケット、44、45、61・・管、62、63・
・帰還弁、48・・スレーブコントローラ、51・・マスターコントローラ、
52・・内温設定プロファイル設定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度の異なる熱媒体を貯える複数の熱媒体タンクと、
これら熱媒体タンクの個々の熱媒体を加熱または冷却し、一定温度に保持する複数の加熱冷却源と、
これら熱媒体タンク内の熱媒体を個々に抜き出し、それぞれの熱媒体タンクに戻す複数の循環配管と、
被温度制御物を包囲しこれを加熱、冷却するジャケットに熱媒体を循環させる循環ポンプを有するジャケット循環配管と、
複数の熱媒体タンクからの熱媒体をジャケット循環配管に供給する供給配管と、
ジャケット循環配管からの熱媒体を個々の循環配管に振り分けて戻す帰還配管を備え、
熱媒体が、引火点250℃以上のシリコーンオイルであることを特徴とする温度制御装置。
【請求項2】
前記ジャケットが、渦巻邪魔板ジャケットであり、
循環ポンプが、ジャケット内の熱媒体の流速を1m/秒以上とするものであることを特徴とする請求項1記載の温度制御装置。
【請求項3】
供給配管からジャケット循環配管への熱媒体の供給量を、個々の循環配管内を循環する熱媒体量またはジャケット循環配管内を循環する熱媒体量の1/3以下とする複数の流量調整弁が供給配管に設けられたことを特徴とする請求項1または2記載の温度制御装置。
【請求項4】
熱媒体タンクのうち、温度0℃以下の熱媒体を貯える熱媒体タンクには、露点−40℃以下の乾燥空気を送り込む乾燥空気供給配管が接続されていることを特徴とする請求項1または2記載の温度制御装置。
【請求項5】
被温度制御物の温度制御をモデル予測制御する制御部が備えられたことを特徴とする請求項1または2記載の温度制御装置。
【請求項6】
ジャケット付タンクの内温制御にモデル予測制御を適用し、予め設定した内温プロファイルを参照し、その内温プロファイルを制御結果とすることを特徴とする請求項5記載の温度制御装置。
【請求項7】
ジャケットが水平方向に複数段に分割された構造になっている場合に、ジャケット内の流路の長さに合わせてモデル予測制御の制御パラメータを切替することを特徴とする請求項5記載の温度制御装置。
【請求項8】
前記ジャケットを介して被温度制御物を温度制御する総括伝熱係数が150〜300kcal/m・hr・℃であることを特徴とする請求項1または2記載の温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−272291(P2006−272291A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99902(P2005−99902)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】