説明

温度監視装置及び温度監視方法

【課題】温度監視装置が組み込まれる原子炉や火力炉等の運転を妨げることなく、熱暴走をより一層確実に防止することのできる温度監視装置を提供する。
【解決手段】炉内の最高温度Tmax及び最低温度T、炉外の周囲温度Tを測定し、これらの測定値から温度変化の時定数τを演算する。この時定数τの演算値に基づいて炉内温度の収束・発散傾向を管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉や火力炉、あるいは燃料電池のように、外壁に囲まれ、内部に発熱体を有する空間の内部温度を監視する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉、火力炉、あるいは燃料電池のように、外壁に囲まれ、内部に発熱体を有する空間は、内部空間の内部に熱がこもって急激な温度上昇(熱暴走)が生じる恐れがある。この熱暴走を防止するために、内部空間の温度を監視することが重要となる。
【0003】
このような内部空間の温度を監視する方法として、例えば特許文献1には、半導体装置の拡散設備等に用いられる炉内温度の監視装置が示されている。この監視装置は、炉内の温度を熱電対で測定し、この測定値を予め定めた炉内温度プロファイルと比較し、その温度差が許容温度範囲外か否かを判別することにより、炉内の温度を監視するものである。
【0004】
【特許文献1】特開平7−142417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような温度監視装置において、より確実に熱暴走を防止しようとすると、炉内温度プロファイルの設定温度を低くする必要がある。しかし、設定温度を低くすると、警報が発せられる頻度が高まるため、運転に支承を来たす恐れがある。また、同じ温度でも、温度が収束に向っている場合には問題無いが、温度が発散に向かっている場合には熱暴走が生じる恐れがある。このような温度変化の傾向を、上記のように単に温度を測定するだけで監視することは難しい。
【0006】
本発明の課題は、温度監視装置が組み込まれる原子炉や火力炉等の運転を妨げることなく、熱暴走をより一層確実に防止することのできる温度監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、以下に示されるR’を解析し、温度変化の傾向のシミュレーションを行った。R’は、空間の内部から外部へ流出する熱量Wと、空間内の温度上昇θ(空間内の最高温度Tmaxと最低温度Tとの差、θ=Tmax−T)との比であり(R’=θ/W)、熱抵抗値R(単位時間・単位発熱量当たりの温度上昇)に比例する値である。R’を温度上昇θの関数として解析したシミュレーション結果を図1に示す。このシミュレーションに用いたR’と温度上昇θとの関係式を数1に示し、関係式中の各定数の諸元値を表1に示す。尚、図1中の(3)のグラフはθの値に関わらずR’の値が一定である場合を示すので、諸元値は省略する。
【0008】
【数1】

(ただし、θ:温度上昇、τ:時定数、R:所定値、β,γ:係数、r:空間の等価半径)
【0009】
【表1】

【0010】
図1のグラフ(1)及びグラフ(2)は、温度上昇θの増加に伴ってR’が単調増加しており、内部空間の温度が収束する場合を示している。このうち、グラフ(1)は内部温度が減衰しながら収束する場合であり、グラフ(2)は内部温度が上昇しながら収束する場合である。グラフ(3)は、温度上昇θの増加に関わらずR’が一定であり、内部空間の温度が線形的に上昇する場合を示している。グラフ(4)は、温度上昇θの増加に従ってR’が単調減少しており、内部空間の温度は発散する方向に向かう場合を示している。これらのグラフから、温度上昇θが同じでも、R’が小さくなると内部空間の温度が発散傾向にあると言える。
【0011】
次に、実際にNaS(ナトリウム−硫黄)電池の内部の温度上昇θとR’値を測定し、上記シミュレーション結果(上記関係式)の妥当性を評価した。具体的には、NaS電池を一定時間放電させた後、一定時間待機状態とし、この放電時及び待機時におけるR’と温度上昇θとを測定した。測定結果を図2に示す。図2のグラフより、放電中は温度上昇θが線形的に増加し、待機中は温度上昇θが減衰していることが分かる。同様の測定を条件を変えて複数回行い、各条件におけるR’と温度上昇θのデータを得た(グラフ省略)。こうして得られたデータに基づいて、各条件における放電時のR’の平均値及び温度上昇θの平均値を図3に△で示し、待機時のR’の平均値及び温度上昇θの平均値を図3に×で示す。図3のグラフより、放電時(θ:線形上昇)は、温度上昇θに関わらずR’がほぼ一定であり、待機時(θ:減衰)は、温度上昇θの増加に伴ってR’が単調増加している。この結果は、図1に示すシミュレーション結果とほぼ一致し、上記式によるシミュレーションの信頼性が高いことが明らかとなった。
【0012】
次に、上記式のR’を時定数τの逆数(1/τ)の関数として解析したシミュレーション結果を図4に示す。このときの各定数の諸元値を表2に示す。
【0013】
【表2】

【0014】
図4のグラフから、横軸(1/τ)の値が大きくなると内部温度は収束し、小さくなると内部温度が発散する傾向にあることがわかる。従って、温度変化の時定数τの変化を監視することによって、炉内温度の発散傾向を早期に察知し、炉内温度の熱暴走を管理することができる。尚、温度変化の時定数τは、以下の関係式で定義される。下記の式(1)は温度が減衰しながら収束する場合であり、式(2)は温度が上昇しながら収束する場合を示す。また、C及びCは定数である。
θ=Cexp(−t/τ) ・・・(1)
θ=C{1−exp(−t/τ)} ・・・(2)
【0015】
上記の式から時定数τを求めることは困難であるが、本発明者の解析により、τの値は下記の式で与えられることが分かった。
τ=8πcρΨ/9m ・・・(3)
(ただし、Ψ=3θ/2πr、θ=Tmax−T、W=(T−T)/R、Tmax:空間内の最高温度、T:空間内の最低温度、T:空間の外部の周囲温度、R:外壁の熱抵抗、r:発熱体の等価半径、c:発熱体の比熱、ρ:発熱体の密度)
【0016】
上記式(3)のうち、係数m以外の値は実測可能であるため、mの値を定めることができれば、実測値に基づいてτを算出することができる。そこで、温度上昇θが減衰するときのτをシミュレーションにより求め、τの値及び他のパラメータの値を上記の式(3)に代入することで、係数mの値を算出した。その結果を表3に示す。
【0017】
【表3】

【0018】
表3に示すように、係数mは概ね1〜2の間の範囲内であるため、実際に温度を監視する際は、m=1とみなしてτを算出することができる。従って、τは、上記の式(3)にm=1を代入した下記の式(4)により算出することができることが明らかとなり、これにより実測可能な値に基づいてτの値を算出することができる。
τ=8πcρΨ/9 ・・・(4)
【0019】
以上より、本発明は、外壁に囲まれ、内部に発熱体を有する空間内の温度を監視する温度監視装置であって、空間内の温度変化の時定数τを演算する演算部と、演算部で演算されたτ値と所定値τとを比較する判別部と、判別部による判別結果に基づいて警報を発する警報部とを有する温度監視装置を提供するものである。この温度監視装置に、前記空間内の最高温度Tmaxを測定する第1温度測定部と、前記空間内の最低温度Tを測定する第2温度測定部と、空間の外部の周囲温度Tを測定する第3温度測定部とを設け、これらの温度測定部による測定結果を上記式(4)に代入することにより、時定数τを実測値に基づいて演算することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明の温度監視装置によれば、時定数τの値を監視することで温度の発散・収束傾向を判定することができるため、熱暴走をより一層確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図5に、本発明の温度監視装置10を原子炉1に適用した例を示す。原子炉1は、外壁2と、外壁2に囲まれた内部空間Pと、内部空間Pに設けられた発熱体3と、内部空間Pの温度を監視する温度監視装置10とを主に備える。
【0023】
図6に、温度監視装置10のブロック図を示す。温度監視装置10は、温度上昇測定部11と、放熱量測定部12と、比較判別部13と、警報部14とを備える。
【0024】
温度上昇測定部11は、内部空間Pの最高温度Tmaxを測定する第1温度測定部15と、内部空間Pの最低温度Tを測定する第2温度測定部16と接続され、これらの測定値から温度上昇θ(=Tmax−T)を求める。図示例では、第1温度測定部15は発熱体3の中心部の温度を測定し、第2温度測定部16は外壁2の内面の温度を測定している。
【0025】
放熱量測定部12は、外壁2の内面の温度Tを測定する第2温度測定部16と、原子炉1の外部温度Tを測定する第3温度測定部17と接続し、これらの測定値及び外壁のRから、内部空間Pから外部への放熱量W(=(T−T)/R)を求める。尚、図5に示す例では、第2温度測定部16や第3温度測定部17をそれぞれ一箇所ずつに設けているが、これらをそれぞれ複数箇所設け、各温度測定部による測定値の平均によりTやTを求めることで、測定値の信頼性の向上を図ってもよい。
【0026】
温度上昇測定部11による温度上昇θの測定結果と、放熱量測定部12による放熱量Wの測定結果は、比較判別部13に伝えられる。比較判別部13は、演算部13aと判別部13bとを有する。温度上昇θ及び放熱量Wの測定結果は演算部13aに送られ、これらの値を上記の式(4)に代入することにより、時定数τを演算する。演算部13aにより求められたτの値は判別部13bに送られ、ここでτの逆数(1/τ)と予め設定された所定値(1/τ)とを比較し、(1/τ)が所定値(1/τ)よりも小さいか否かを判別する。
【0027】
比較判別部13による判別結果は警報部14に伝えられ、その判別結果に基づいて警報が発せられる。具体的には、比較判別部13の判別部13bによる判別結果が、(1/τ)値が(1/τ)値よりも小さいことを示すものであるとき{(1/τ)<(1/τ)}に、警報が発せられる。この警報により、監視者は(1/τ)値が(1/τ)値よりも小さくなったことを知り、これにより内部空間Pの温度が発散する傾向をいち早く察知することができる。この時、発熱体3の発熱量を弱めたり、あるいは停止させたりすることにより、内部空間Pにおいて熱暴走が起こる恐れをより確実に回避することができる。
【0028】
本発明は上記の実施形態に限らず、発熱体3を含む内部空間Pの温度変化の時定数τに基づいて内部空間Pの温度の収束・発散傾向を監視するという本質的部分が同一である限り、装置や方法の詳細は上記に限られない。
【0029】
また、上記の実施形態では、本発明の温度監視装置を原子炉に適用した場合を示したが、これに限らず、例えば火力炉(例えば、火力発電炉、溶鉱炉、ガスタービン等)や燃料電池の内部空間の温度監視に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】温度上昇θとR’との関係を示すグラフである。
【図2】NaS電池を放電・待機させたときの温度上昇θ及びR’を測定した結果を示すグラフである。
【図3】NaS電池の温度上昇θ及びR’の測定結果をプロットしたグラフである。
【図4】時定数の逆数1/τとR’との関係を示すグラフである。
【図5】温度監視装置の概略図である。
【図6】温度監視装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0031】
1 原子炉
2 外壁
3 発熱体
10 温度監視装置
11 温度上昇測定部
12 放熱量測定部
13 比較判別部
13a 演算部
13b 判別部
14 警報部
15 第1温度測定部
16 第2温度測定部
17 第3温度測定部
P 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁に囲まれ、内部に発熱体を有する空間内の温度を監視する温度監視装置であって、
前記空間内の温度変化の時定数τを演算する演算部と、演算部で演算されたτ値と所定値τとを比較する判別部と、判別部による判別結果に基づいて警報を発する警報部とを有する温度監視装置。
【請求項2】
前記空間内の最高温度Tmaxを測定する第1温度測定部と、前記空間内の最低温度Tを測定する第2温度測定部と、空間の外部の周囲温度Tを測定する第3温度測定部とを備え、各温度測定部による測定結果及び以下の式に基づいて、演算部が時定数τを演算する請求項1記載の温度監視装置。
τ=8πcρΨ/9
(ただし、Ψ=3θ/2πr、θ=Tmax−T、W=(T−T)/R、R:外壁の熱抵抗、r:発熱体の等価半径、c:発熱体の比熱、ρ:発熱体の密度)
【請求項3】
外壁に囲まれ、内部に発熱体を有する空間内の温度を監視するための方法であって、
前記空間内の温度変化の時定数τに基づいて内部空間の温度の収束・発散傾向を監視する温度監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−101699(P2010−101699A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272208(P2008−272208)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】