説明

温度補償型発振器、電子機器

【課題】高精度な温度補償を維持しつつ省電力化が可能な温度補償型発振器、及びこれを搭載した電子機器を提供する。
【解決手段】測定された温度に基づいた温度補償電圧を出力する温度補償回路22と、前記温度補償電圧に基づいて発振周波数の温度補償を行う電圧制御発振回路12と、を有する温度補償型発振器10において、前記温度補償回路への電力の供給をオンオフ制御可能なスイッチ回路24と、前記スイッチ回路24を介し前記電力が供給されているときに、前記温度補償回路22と接続し前記温度補償回路22から出力された前記温度補償電圧を保持しつつ前記温度補償電圧を前記電圧制御発振回路12に出力するオンの状態と、前記スイッチ回路24にて前記電力の供給が絶たれているときに前記温度補償回路22との接続を遮断しつつ保持された前記温度補償電圧を前記電圧制御発振回路12に出力するオフの状態と、に切替制御可能なサンプルホールド回路28と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高精度な温度補償を維持しつつ省電力化が可能な温度補償型発振器、及びこれを搭載した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロコンピューターや携帯電話機等の電子機の基準クロック源として、周囲の温度や電気素子の固有の特性に左右されず、安定した発振回路として優れた温度補償型水晶発振器(Temperature Compensated Crystal Oscillator:TCXO)などの水晶発振器が使用されている。
【0003】
図9に特許文献1に記載の温度補償型水晶発振器を示す、図9に示すように、温度補償型水晶発振器100は、発振回路102と温度補償回路106により構成されている。発振回路102は、発振源である水晶振動子104を包含する回路にスイッチSn(n:自然数)と容量Cn(n:自然数)との直列回路が複数接続された構成を有し、スイッチSnをオンオフすることにより、発振回路102内の容量を変化させ発振信号の発振周波数を制御することができる。一方、温度補償回路106は、温度センサー108により得られた温度の情報に基づいて、温度変化に伴う水晶振動子104の発振周波数の変化を抑えるように周波数を制御する補正値を選択し、補正値に応じたスイッチ制御用の信号を発振回路102に出力している。そして発振回路102では、入力されたスイッチ制御用の信号によってスイッチS1、・・・、Snを個別にオンオフすることになる。
【0004】
特許文献2に記載の温度補償型水晶発振器においては、特許文献1と同様に発振回路と温度補償回路により構成されているが、発振回路には印加される電圧に応じて容量が変化するバラクタダイオードが設けられ、温度補償回路は水晶振動子の温度変化に伴う周波数変化を抑えるようにバラクタダイオードの容量値を制御して周波数を可変させる制御信号を出力する。これにより発振回路は制御信号に対応する電圧をバラクタダイオードに印加している。
【0005】
よって、特許文献1または2の温度補償型水晶発振器においては、発振回路内の容量による周波数変化(特許文献1においてはその近似値)が、水晶振動子の発振周波数の偏差の温度特性とは極性が反対の温度特性を有することになる。
したがって、特許文献1または2の温度補償型水晶発振器は、水晶振動子の発振周波数の温度特性の変化を発振回路内の容量変化に伴う周波数変化により抑えて温度依存性の小さい温度特性となる発振信号を出力することができ、同様の技術は特許文献3にも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−258551号公報
【特許文献2】特開昭62−38605号公報
【特許文献3】特開2007−208584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の温度補償型水晶発振器100においては、容量の変化が離散的であり、容量の変化に伴い周波数が急激に変化する問題や、温度補償の精度を高めるためにはCnの個数を増やす必要がありコストがかかるといった問題がある。
また特許文献2の温度補償型水晶発振器においては、発振信号の周波数が基準周波数を中心とした一定の許容範囲から外れた場合に温度補償回路を駆動させる構成となっている。しかし、水晶発振器の周波数はデジタルデータによって制御されるので温度補償再開時における補償すべき値とデジタルデータによる補償値との間に差が存在するなどの原因により特許文献1の場合と同様に周波数が急激に変化する問題がある。また、より高精度な温度補償を行なうためには許容範囲を設定せずに常時温度補償回路を駆動させる必要があるが、この場合、温度補償回路の消費電力が大きくなるといった問題がある。
【0008】
そこで本発明は、上記問題点に着目し、高精度な温度補償を維持しつつ省電力化が可能な温度補償型発振器、及びこれを搭載した電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]測定された温度に基づいた温度補償電圧を出力する温度補償回路と、前記温度補償電圧に基づいて発振周波数の温度補償を行う電圧制御発振回路と、を有する温度補償型発振器において、前記温度補償回路への電力の供給をオンオフ制御可能なスイッチ回路と、前記スイッチ回路を介し前記電力が供給されているときに、前記温度補償回路と接続し前記温度補償回路から出力された前記温度補償電圧を保持しつつ前記温度補償電圧を前記電圧制御発振回路に出力するオンの状態と、前記スイッチ回路にて前記電力の供給が絶たれているときに前記温度補償回路との接続を遮断しつつ保持された前記温度補償電圧を前記電圧制御発振回路に出力するオフの状態と、に切替制御可能なサンプルホールド回路と、を備えたことを特徴とする温度補償型発振器。
上記構成により、温度補償回路を駆動させるととともにサンプルホールド回路が温度補償回路から出力される温度補償電圧を保持しつつ温度補償電圧を電圧制御発振回路に出力する状態と、温度補償回路の駆動を停止させるとともにサンプルホールド回路に既に保持された温度補償電圧を電圧制御発振回路に出力する状態に切り替えることができる。したがって、電力消費を抑制した温度補償型発振器となる。
【0011】
[適用例2]前記スイッチ回路のオンの状態とオフの状態との切替制御及び前記サンプルホールド回路の前記切替制御をするためのオンオフ信号を出力する出力回路を備えたことを特徴とする適用例1に記載の温度補償型発振器。
上記構成により、温度補償回路のオンオフ制御とサンプルホールド回路の切替制御を同期させることができる。
【0012】
[適用例3]前記出力回路は、前記オンオフ信号の発振源回路としてLC発振回路を有することを特徴とする適用例2に記載の温度補償型発振器。
上記構成により、温度補償回路のオンオフ制御とサンプルホールド回路の切替制御を所定の周期で同期させて行なうことができる。
【0013】
[適用例4]前記出力回路の前記オンオフ信号の発振源回路が前記電圧制御発振回路であることを特徴とする適用例2に記載の温度補償型発振器。
上記構成により、新たな発振回路を設けることなく、温度補償回路のオンオフ制御とサンプルホールド回路の切替制御を所定の周期で同期させて行なうことができる。
【0014】
[適用例5]前記出力回路は、前記発振源回路からの発振信号を積分する積分回路と、当該積分された信号の電圧と閾値電圧との大小関係を示す信号を前記オンオフ信号として前記スイッチ回路側及び前記サンプルホールド回路側に出力するコンパレータと、を有することを特徴とする適用例3または4に記載の温度補償型発振器。
上記構成により、温度補償回路のオン状態の継続時間とオフ状態の電圧の継続時間を変更することができる。特にオン信号の継続時間が短くなるように閾値電圧を調整することにより、温度補償回路の消費電力を大幅に削減することができる。
【0015】
[適用例6]前記出力回路は、前記閾値電圧を制御する電圧制御手段を有することを特徴とする適用例5に記載の温度補償型発振器。
上記構成により、温度補償回路の特性等に応じてオン状態となる継続時間を任意に調整することができる。
【0016】
[適用例7]前記出力回路は、前記コンパレータの出力信号が入力され、当該コンパレータの出力信号の電圧変化を遅延させた遅延信号を出力する遅延回路と、前記オンオフ信号と前記遅延信号とのOR解となる信号を前記オンオフ信号として前記スイッチ回路に出力するOR回路と、前記コンパレータの出力信号と前記遅延信号とのAND解となる信号を前記オンオフ信号として前記サンプルホールド回路に出力するAND回路と、を有することを特徴とする適用例5または6に記載の温度補償型発振器。
上記構成により、サンプルホールド回路の駆動の立ち上がりは、温度補償回路の駆動の立ち上がりより遅くなり、サンプルホールド回路の駆動の立ち下がりは、温度補償回路の駆動の立ち下がりより早くなる。よって温度補償回路はサンプルホールド回路が立ち上がるまでの間に温度補償電圧の出力を安定させることができ、温度補償回路が立ち下がる前にサンプルホールド回路が立ち下がるので温度補償電圧から出力される温度補償電圧の保持を確実に行うことができる。
【0017】
[適用例8]前記温度補償回路と前記サンプルホールド回路との間、または、前記サンプルホールド回路と前記電圧制御発振回路との少なくとも一方の間にはローパスフィルターが配置されたことを特徴とする適用例1乃至7のいずれか1項に記載の温度補償型発振器。
温度補償回路をオン状態にした直後は、サンプルホールド回路は、保持された温度補償電圧から新たに温度補償回路から入力された温度補償電圧に切り替えることになる。よって、この切り替え時に温度補償電圧が時間方向で不連続となり、電圧制御発振回路に悪影響を及ぼす虞がある。そこで、上記構成とすることにより、新たに入力される温度補償電圧の時間変化をなだらかにして、電圧制御発振回路への負担を軽減することができる。
【0018】
[適用例9]適用例1乃至8のいずれか1例に記載の温度補償型発振器を搭載したことを特徴とする電子機器。
上記構成により、高精度な温度補償を維持しつつ省電力化が可能な電子機器となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態に係る温度補償型発振器の全体ブロック図である。
【図2】第1実施形態に係る電圧制御発振回路の回路図である。
【図3】第1実施形態に係るサンプルホールド回路の回路図である。
【図4】第1実施形態に係る出力回路のブロック図である。
【図5】第1実施形態に係るDuty比調整回路の回路図とタイムチャートを示す図である。
【図6】第1実施形態に係る分岐回路の回路図とタイムチャートを示す図である。
【図7】第2実施形態に係る温度補償型発振器のブロック図を示し、図7(a)は、温度補償回路とサンプルホールド回路の間にローパスフィルターを配置した図、図7(b)はサンプルホールド回路と電圧制御発振回路との間にローパスフィルターを配置した図である。
【図8】第1実施形態の温度補償型発振器と第2実施形態に係る温度補償型発振器の温度補償電圧の時間依存を示す図である。
【図9】特許文献1に記載の温度補償型発振器のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0021】
図1に第1実施形態の温度補償型発振器の全体ブロック図を示す。第1実施形態の温度補償型発振器10は、温度センサー20、温度補償回路22、サンプルホールド回路28、電圧制御発振回路12、バッファー18の順に直列に接続した構成を有し、これらの構成要素と後述する出力回路36に一定の電圧(電力)を供給するレギュレーター(定電圧出力回路)26を有している。さらに、レギュレーター26と温度補償回路22との間にはスイッチ回路24が接続されている。さらに、スイッチ回路24に第1のオンオフ信号(SW1)を出力し、且つサンプルホールド回路28に第2のオンオフ信号(SW2)を出力する出力回路36を備えている。なお、オンオフ信号とは、後述のとおり、スイッチ回路24の入出力間のオンとオフの切替、サンプルホールド回路28の入出力間のオンとオフとの切替を、それぞれ連続的に繰り返し行なうための切替制御信号である。
【0022】
図2に第1実施形態に係る電圧制御発振回路12の回路図を示す。電圧制御発振回路12は、例えばコルピッツ型の発振回路であって、圧電振動子14を発振源とするものである。圧電振動子14は例えば水晶により形成された厚みすべり振動子や音叉型振動子を用いることができる。そして圧電振動子14に交流電圧を印加することにより所定の共振周波数で発振信号を出力することができる。
【0023】
また電圧制御発振回路12には可変容量となるバラクタダイオード16が組み込まれている。電圧制御発振回路12は、バラクタダイオード16に印加する電圧(温度補償電圧)を変化させることにより、バラクタダイオード16の容量が変化し、この容量変化により発振信号の発振周波数が変化する。なお、バッファー18は、入力インピーダンスが極めて大きな回路であり、電圧制御発振回路12から出力される発振信号の電圧のみを接続先の機器側に伝達することができる。これにより電圧制御発振回路12は接続先の機器の影響を受けることなく発振信号を出力することができる。
【0024】
圧電振動子14の共振周波数が温度変化により変化するため、発振信号の発振周波数は、圧電振動子14の共振周波数の温度特性を反映して、温度変化により変化し得る。このため、バラクタダイオード16には、この圧電振動子14の温度特性を相殺する(圧電振動子14の温度特性の影響により生じる発振周波数の変動幅を小さく抑える)ための温度補償電圧が印加されるので、発振信号の発振周波数は温度変化に対して圧電振動子14の温度特性よりも周波数偏差幅が小さく補償された温度特性温度特性になる。
【0025】
図1に示すように、温度センサー20は、測定される温度に対応する電圧を温度補償回路22に出力するものであり、ダイオード等により形成されている。温度センサー20をダイオードにより形成する場合は、ダイオードに順方向電流を流し、温度によって変化する電圧降下の量を温度補償回路22に出力する。
【0026】
温度補償回路22は、温度センサー20から温度の情報としての電圧が入力され、その電圧に対応した温度補償電圧をサンプルホールド回路28に出力するものである。本実施形態の圧電振動子14が音叉型振動子であれば、その共振周波数の温度特性は二次関数的な曲線で描かれ、厚みすべり振動子であれば三次関数的な曲線で描かれる。よって温度補償回路22には、圧電振動子14の共振周波数の温度特性を近似するための、例えば、0次、1次、2次、3次等の温度係数の情報が予め入力されている。よって温度の情報を変数とし、温度補償回路22は、これらの温度係数を係数とするべき級数を算出することにより、測定された温度における圧電振動子14の共振周波数の情報を基にして温度補償電圧を算出してサンプルホールド回路28に出力する。
【0027】
スイッチ回路24は、レギュレーター26と温度補償回路22との間に接続され、温度補償回路22がレギュレーター26から受ける電力のオンオフ制御を行なうものである。スイッチ回路24は、出力回路36から第1のオンオフ信号(SW1)が入力されて温度補償回路22のオンオフ制御を行なうが、第1のオンオフ信号(SW1)の電圧がH(基準値よりも高電圧)のときはオンの状態(導通状態)となり、L(基準値よりも低電圧)のときはオフの状態(非導通状態)となる。
【0028】
図3に第1実施形態に係るサンプルホールド回路の回路図を示す。サンプルホールド回路28は、温度補償回路22から出力された温度補償電圧を保持しつつ温度補償電圧を電圧制御発振回路12に出力する状態(直接出力状態)と、温度補償回路22との接続を遮断しつつ保持された温度補償電圧を電圧制御発振回路12に出力する状態(サンプルホールド(S/H)出力状態)と、に切替制御するものである。
【0029】
サンプルホールド回路28は、スイッチ30、キャパシタ32、バッファー34から構成され、スイッチ30の出力側にバッファー34の入力端が接続され、バッファー34の入力端と接地との間にキャパシタ32が接続されている。スイッチ30は、出力回路36から供給される第2のオンオフ信号(SW2)により切替制御される。具体的には、スイッチ30は、第2のオンオフ信号(SW2)の電圧がH(基準値より高電圧)のときはスイッチ30をオンの状態(導通状態)とし、L(基準値より低電圧)のときはオフの状態(非導通状態)となる。よってサンプルホールド回路28は、スイッチ30がオンの状態のときは直接出力状態となり、スイッチ30がオフの状態のときはサンプルホールド(S/H)出力状態となる。
【0030】
図4に、第1実施形態に係る出力回路のブロック図を示す。出力回路36は、第1のオンオフ信号(SW1)、第2のオンオフ信号(SW2)を生成するものであり、分周器38、Duty比調整回路40、分岐回路52の順に直列に接続されたものである。分周器38は、電圧制御発振回路12から出力される発振信号を分周して矩形波(オンオフ信号)を出力する発振源となっている。したがって分周器38から出力される矩形波の周期が本実施形態の温度補償型発振器10の温度補償の周期となる。なお、この分周器38から出力される矩形波の電圧H(オン信号)の継続時間と電圧L(オフ信号)の継続時間との割合は、例えば1対1程度であるものとする。
【0031】
図5に、第1実施形態に係るDuty比調整回路の回路図とタイムチャートを示す。Duty比調整回路40は、分周器38から出力された矩形波(オンオフ信号)のDuty比を調整するものであり、積分回路42、コンパレータ44、電圧制御手段を有する。積分回路42は、矩形波(オンオフ信号)を積分して三角波(出力V)を出力するものである。ここで、矩形波(オンオフ信号)は、電圧Hのときはプラスの電圧を有し、電圧Lのときはマイナスの電圧を有するように分周器38で調整されているものとする。よって矩形波が電圧HとなるとVは時間経過とともに一次関数的に増加し、電圧がLとなるとVは時間経過とともに一次関数的に減少し、この振る舞いを繰り返すことにより三角波Vが生成される。
【0032】
コンパレータ44は、閾値電圧Vthと出力Vとの大小関係を表す信号(電圧H、電圧L)をオンオフ信号(V)として出力するものである。コンパレータ44は、VがVthより高い電圧の場合は電圧Hを出力し、VがVthより低い電圧の場合には電圧Lを出力する。
【0033】
電圧制御手段は、閾値電圧Vthを制御するものであり、例えばPROM(Programmable Read Only Memory)48と制御電源50により構成されている。
【0034】
制御電源50は、閾値電圧VthをゼロからVの最大値となる範囲で閾値電圧Vthを複数の離散的な電圧値で設定しており、各電圧値はPROM48に記憶するデータと対応づけられている。よって、制御電源50はPROM48から読み出されたデータに対応する電圧値となる閾値電圧Vthをコンパレータ44に出力することができる。よって電圧制御手段は、PROM48に記憶するデータを変更することにより、閾値電圧Vthを調整することができる。
【0035】
よってVとVthとの大小関係を示す信号を時間経過とともに出力するコンパレータ44において、Vthを高くするほど、オンオフ信号(V)の電圧Hを出力する時間は短くなる一方、電圧Lを出力する時間は長くなる。逆にVthを低くするほど、オンオフ信号(V)の電圧Hを出力する時間は長くなり、電圧Lを出力する時間は短くなる。
【0036】
よってDuty比調整回路40から出力されるオンオフ信号(V)は、もとの矩形波と周期は同一であるが、位相が反転し、Duty比(電圧Hの時間/(電圧Hの時間+電圧Lの時間))が変化する。よって、Vthを高く設定することにより、オンオフ信号(V)のDuty比を低くすることができ、Vthを低く設定することにより、オンオフ信号(V)のDuty比を高くすることができる。
【0037】
したがって、閾値電圧Vthを調整することによりオンオフ信号(V)の電圧Hの時間を調整し、その時間を温度補償回路22が温度補償電圧を算出するのに必要な時間と一致させることにより、温度補償回路22における消費電力を削減することができる。
【0038】
なお、本実施形態においては、出力回路36を構成する分周器38のかわりにハートレー型やコルピッツ型のLC発振回路(不図示)をオンオフ信号の発振源回路として用いることができる。これにより電圧制御発振回路12の発振信号とは独立にオンオフ信号を生成することができる。
【0039】
本実施形態の温度補償型発振器10においては、全体で約1mAの電流を消費する。このうち、温度補償回路22で全体の1/3消費し、電圧制御発振回路12で1/3消費し、バッファー18で1/3消費する。例えば、1ms間隔で温度補償回路22をオンオフした場合、温度補償回路22の電流(電力消費)は半分となり、(1/3)×(1−(1/2))と計算して、約17%の電力消費を削減することができる。また温度補償回路22のオンオフのDuty比をオン20%、オフ80%とすると、(1/3)×(1−20%/(20%+80%))と計算して、約27%の電力消費の削減をすることができる。なお、出力回路36において上述のLC発振回路を用いた場合は、消費電力は増えるが、使用する電流は数十μA程度であるので、温度補償型発振器10の全体の消費電力に影響を及ぼすことはない。
【0040】
ところで、本実施形態の温度補償型発振器10において、温度補償回路22は、スイッチ回路24を介して電力が投入されてから温度補償電圧を安定的に出力するまでは一定時間を要する。このため、温度補償電圧が不安定な状態で、サンプルホールド回路28内のスイッチ30が接続されてしまうと、不安定な温度補償電圧が電圧制御発振回路12に出力され、発振信号が不安定になる虞がある。
【0041】
またサンプルホールド回路28内のスイッチ30が接続した状態で温度補償回路22からの温度補償電圧の出力が停止すると、サンプルホールド回路28内のキャパシタ32が放電してしまうため、正確な温度補償電圧を保持することが困難となる。よって、本実施形態においては、温度補償回路22が立ち上がって一定時間が経過したのちサンプルホールド回路28のスイッチ30が接続し、サンプルホールド回路28内のスイッチ30が切られてから温度補償回路22への電力を停止することが望ましい。
【0042】
そこで、本実施系形態においては、上述の順番による接続及び接続の解除ができるように、以下に説明する分岐回路52を用いて、スイッチ回路24に出力する第1のオンオフ信号(SW1)、サンプルホールド回路28に出力する第2のオンオフ信号(SW2)に時間差を与えている。
【0043】
すなわち、第1のオンオフ信号(SW1)のオン信号が発生するタイミングと第2のオンオフ信号(SW2)のオン信号が発生するタイミングとの間に時間差を与え、また第1のオンオフ信号(SW1)のオフ信号が発生するタイミングと第2のオンオフ信号(SW2)のオフ信号が発生するタイミングとの間に時間差を与えている。
【0044】
図6に、第1実施形態に係る分岐回路の回路図とタイムチャートを示す。図6に示すように、分岐回路52は、遅延回路54、OR回路64、AND回路66により構成される。遅延回路54は、抵抗56(R)とキャパシタ58(C)によるローパスフィルターの入力側及び出力側にインバータ回路としてバッファー60、62を接続したものである。ここで、コンパレータ44から出力されるオンオフ信号(V)が電圧Lのときはバッファー60の出力は電圧Hでキャパシタ58は充電され、バッファー62の出力、すなわち遅延信号(Vd)は電圧Lとなる。またVが電圧Hのときはバッファー60の出力は電圧Lとなりキャパシタ58は放電され、バッファー62の出力、すなわち遅延信号(Vd)は電圧Hとなる。
【0045】
次にVが電圧Lから電圧Hに立ち上がるときは、キャパシタ58はキャパシタ58の容量に対応した時定数に基づいて放電し、キャパシタ58に印加される電圧は時間経過とともに低電圧(ゼロ)に収束する。これにより遅延信号(Vd)は電圧Lから所定時間遅れる形で電圧Hに収束する。またVが電圧Hから電圧Lに立ち下がるときは、キャパシタ58は前記時定数に基づいて充電し、キャパシタ58に印加される電圧は所定電圧に収束する。これにより遅延信号(Vd)は電圧Hから所定時間遅れる形で電圧Lに収束する。
【0046】
OR回路64は、オンオフ信号(V)と遅延信号(Vd)とのOR解となる信号を第1のオンオフ信号(SW1)としてスイッチ回路24に出力するものである。OR回路64はオンオフ信号(V)の電圧Lを電圧Lとして認識し、オンオフ信号(V)の電圧Hを電圧Hとして認識するものとする。一方、OR回路64は、遅延信号(Vd)の電圧が、遅延信号(Vd)の電圧Hと電圧Lとの間の電圧Vm、例えば(電圧H+電圧L)/2となる電圧Vmを上回った場合には遅延信号(Vd)を電圧Hとして認識し、Vmを下回ったときには遅延信号(Vd)を電圧Lとして認識するように調整されている。
【0047】
OR回路64は、オンオフ信号(V)及び遅延信号(Vd)のいずれか一方を電圧Hと認識した場合に、電圧Hとなる第1のオンオフ信号(SW1)を出力する。よって、よってオンオフ信号(V)が電圧Lから電圧Hに立ち上がった場合には、OR回路64はオンオフ信号(V)が電圧Hに立ち上がったと同時に、オンオフ信号(V)を電圧Hとして認識するため、電圧Hとなる第1のオンオフ信号(SW1)を出力することができる。
【0048】
一方、オンオフ信号(V)が電圧Hから電圧Lに立ち下がった場合には、OR回路64は、オンオフ信号(V)が電圧Lに立ち下がったと同時に、オンオフ信号(V)を電圧Lとして認識する。しかし、OR回路64は、遅延信号(Vd)の電圧がVm以下となるまでは、遅延信号(Vd)を電圧Hとして認識するため、引き続き電圧Hとなる第1のオンオフ信号(SW1)を出力する。そして、OR回路64は、遅延信号(Vd)の電圧がVm以下となったのちに、遅延信号(Vd)を電圧Lとして認識し、電圧Lとなる第1のオンオフ信号(SW1)を出力することができる。
【0049】
AND回路66は、オンオフ信号(V)と遅延信号(Vd)とのAND解となる信号を第2のオンオフ信号(SW2)としてサンプルホールド回路28に出力するものである。AND回路66はオンオフ信号(V)の電圧Lを電圧Lとして認識し、オンオフ信号(V)の電圧Hを電圧Hとして認識するものとする。一方、AND回路66は、遅延信号(Vd)の電圧が、遅延信号(Vd)の電圧Hと電圧Lとの間の電圧Vm、例えば(電圧H+電圧L)/2となる電圧Vmを上回った場合には、遅延信号(Vd)を電圧Hとして認識し、Vmを下回ったときには遅延信号(Vd)を電圧Lとして認識するように調整されている。
【0050】
AND回路66は、オンオフ信号(V)及び遅延信号(Vd)のいずれもが電圧Hであると認識した場合に、電圧Hとなる第2のオンオフ信号(SW2)を出力する。よって、オンオフ信号(V)が電圧Lから電圧Hに立ち上がった場合には、AND回路66は、オンオフ信号(V)が電圧Hに立ち上がったと同時に、オンオフ信号(V)を電圧Hとして認識する。しかし、AND回路66は、遅延信号(Vd)の電圧がVm以上となるまでは、遅延信号(Vd)を電圧Lとして認識するため、電圧Lとなる第2のオンオフ信号(SW2)を出力する。そして、AND回路66は、遅延信号(Vd)の電圧がVm以上となったのちに、遅延信号(Vd)を電圧Hとして認識し、電圧Hとなる第2のオンオフ信号(SW2)を出力することができる。
【0051】
一方、オンオフ信号(V)が電圧Hから電圧Lに立ち下がった場合には、AND回路66は、オンオフ信号(V)が電圧Lに立ち下がったと同時に、オンオフ信号(V)を電圧Lとして認識するため、遅延信号(Vd)の電圧に係らず、電圧Lとなる第2のオンオフ信号(SW2)を出力する。
【0052】
以上のような制御を行なうことにより、出力回路36から出力される第1のオンオフ信号(SW1)、第2のオンオフ信号(SW2)においては、第1のオンオフ信号(SW1)は、第2のオンオフ信号(SW2)より先に立ち上がり、第2のオンオフ信号(SW2)より後に立ち下がることになる。なお、Vmの値、キャパシタ58の容量を変更することにより、第1のオンオフ信号(SW1)と第2のオンオフ信号(SW2)の立ち上がり、立下りの時間差を調整することができる。
【0053】
したがって、第1のオンオフ信号(SW1)により制御されるスイッチ回路24、即ちスイッチ回路24によりオンオフ制御される温度補償回路22は、第2のオンオフ信号(SW2)により制御されるサンプルホールド回路28が直接出力状態となる時間より一定時間前にオンの状態にすることができる。そして温度補償回路22は、サンプルホールド回路28がサンプルホールド(S/H)出力状態になってからオフの状態にすることができる。そして、本実施形態において、SW1、SW2は、同一の発振源(分周器38、またはLC発振器)により生成されているため、SW1の電圧Hと電圧Lの切り替わりの周期と、SW2の電圧Hと電圧Lの切り替わりの周期は一致する。したがって温度補償回路22のオンオフ制御に連動してサンプルホールド回路28の切替制御が行なわれることになる。
【0054】
図7に第2実施形態に係る温度補償型発振器のブロック図を示し、図7(a)は、温度補償回路とサンプルホールド回路の間にローパスフィルターを配置した図、図7(b)はサンプルホールド回路と電圧制御発振回路との間にローパスフィルターを配置した図を示す。
【0055】
第2実施形態の温度補償型発振器70は、基本的には、第1実施形態と共通するが、温度補償回路22とサンプルホールド回路28の間、またはサンプルホールド回路28と電圧制御発振回路12との少なくとも一方の間にローパスフィルター72を接続している点で相違する。ローパスフィルター72は、例えば、上述の遅延回路54中の抵抗56とキャパシタ58からなる回路と同様のものを用いることができる。ローパスフィルター72は、図7(a)、図7(b)のどちらの形態も適用できるが、図7(b)のように、サンプルホールド回路28の後段に接続することにより、サンプルホールド回路28の切替制御の際に発生する電気的ノイズを低減することができる。
【0056】
図8に第1実施形態の温度補償型発振器と第2実施形態に係る温度補償型発振器の温度補償電圧の時間依存を示す。図8においては、温度補償型発振器10、70の周囲の温度が時間経過とともに単調増加することにより、温度補償電圧が時間経過とともに単調増加している場合を考える。第1実施形態において、温度補償回路22をオン状態にした直後は、サンプルホールド回路28は、保持された温度補償電圧から新たに温度補償回路22から入力された温度補償電圧に切り替えることになる。よって、この切り替え時に温度補償電圧が時間方向で不連続となり、電圧制御発振回路12に悪影響を及ぼす虞がある。そこで、第2実施形態の温度補償型発振器70のようにローパスフィルター72を配置することにより、新たに入力される温度補償電圧の時間変化をなだらかにして、電圧制御発振回路12への負担を軽減することができる。なおサンプルホールド回路28がサンプルホールド(S/H)出力状態のときに温度補償電圧が低下するのは、サンプルホールド回路28内のキャパシタ32が電荷を放電するためである。
【0057】
なお、いずれの実施形態においても、温度補償回路22の立ち上がり時から安定するまでの時間が極めて短く、またサンプルホールド回路28のキャパシタ32の容量が十分に大きい場合は、上述の分岐回路52は不要である。また電圧制御発振回路12の共振周波数と同一の周波数で温度補償を行なう場合には分周器38は不要であり、オンオフ信号のDuty比を調整する必要がないのであればDuty比調整回路40も不要である。さらにいずれの実施形態においても、GPS受信器や携帯電話等に搭載することが可能であり、高精度な温度補償を維持しつつ省電力化が可能な電子機器を構築することができる。
【符号の説明】
【0058】
10………温度補償型発振器、12………電圧制御発振回路、14………圧電振動子、16………バラクタダイオード、18………バッファー、20………温度センサー、22………温度補償回路、24………スイッチ回路、26………レギュレーター、28………サンプルホールド回路、30………スイッチ、32………キャパシタ、34………バッファー、36………出力回路、38………分周器、40………Duty比調整回路、42………積分回路、44………コンパレータ、48………PROM、50………制御電源、52………分岐回路、54………遅延回路、56………抵抗、58………キャパシタ、60………バッファー、62………バッファー、64………OR回路、66………AND回路、70………温度補償型発振器、72………ローパスフィルター、100………温度補償型水晶発振器、102………発振回路、104………水晶振動子、106………温度補償回路、108………温度センサー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定された温度に基づいた温度補償電圧を出力する温度補償回路と、
前記温度補償電圧に基づいて発振周波数の温度補償を行う電圧制御発振回路と、を有する温度補償型発振器において、
前記温度補償回路への電力の供給をオンオフ制御可能なスイッチ回路と、
前記スイッチ回路を介し前記電力が供給されているときに、前記温度補償回路と接続し前記温度補償回路から出力された前記温度補償電圧を保持しつつ前記温度補償電圧を前記電圧制御発振回路に出力するオンの状態と、前記スイッチ回路にて前記電力の供給が絶たれているときに前記温度補償回路との接続を遮断しつつ保持された前記温度補償電圧を前記電圧制御発振回路に出力するオフの状態と、に切替制御可能なサンプルホールド回路と、を備えたことを特徴とする温度補償型発振器。
【請求項2】
前記スイッチ回路のオンの状態とオフの状態との切替制御及び前記サンプルホールド回路の前記切替制御をするためのオンオフ信号を出力する出力回路を備えたことを特徴とする請求項1に記載の温度補償型発振器。
【請求項3】
前記出力回路は、
前記オンオフ信号の発振源回路としてLC発振回路を有することを特徴とする請求項2に記載の温度補償型発振器。
【請求項4】
前記出力回路の前記オンオフ信号の発振源回路が前記電圧制御発振回路であることを特徴とする請求項2に記載の温度補償型発振器。
【請求項5】
前記出力回路は、
前記発振源回路からの発振信号を積分する積分回路と、
当該積分された信号の電圧と閾値電圧との大小関係を示す信号を前記オンオフ信号として前記スイッチ回路側及び前記サンプルホールド回路側に出力するコンパレータと、を有することを特徴とする請求項3または4に記載の温度補償型発振器。
【請求項6】
前記出力回路は、
前記閾値電圧を制御する電圧制御手段を有することを特徴とする請求項5に記載の温度補償型発振器。
【請求項7】
前記出力回路は、
前記コンパレータの出力信号が入力され、当該コンパレータの出力信号の電圧変化を遅延させた遅延信号を出力する遅延回路と、
前記オンオフ信号と前記遅延信号とのOR解となる信号を前記オンオフ信号として前記スイッチ回路に出力するOR回路と、
前記コンパレータの出力信号と前記遅延信号とのAND解となる信号を前記オンオフ信号として前記サンプルホールド回路に出力するAND回路と、を有することを特徴とする請求項5または6に記載の温度補償型発振器。
【請求項8】
前記温度補償回路と前記サンプルホールド回路との間、または、前記サンプルホールド回路と前記電圧制御発振回路との少なくとも一方の間にはローパスフィルターが配置されたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の温度補償型発振器。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の温度補償型発振器を搭載したことを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−227665(P2012−227665A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92444(P2011−92444)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】