測定反応過程の異常の有無判定方法,該方法を実行可能な自動分析装置及び該方法のプログラムを記憶した記憶媒体
【課題】
本発明は反応過程における測定値を利用して、検査が適切に行われたか否かを判定する手段を提供し、1日に数千から数万テストが計測される中においても異常反応をしめす項目の見落しを防止することを目的とする。
【解決手段】
反応過程における光度計の値を計測し、反応過程データから分析測定結果を検証するものである。また正常な反応過程データに関するデータベース33を備え、測定された時系列の反応過程データ34を予め設定されたデータベース内情との照合することによって、所定の区分毎に或いは装置の進行プロセスに合致した区分毎に逐次、正常データか否かを判定する反応過程評価部35を備えている。さらに反応過程に関するデータベースを構築するために当該自動分析装置(検査項目)で測定したデータと、分析条件が異なり、結果が一定の許容範囲内の(一致している)測定結果を取得する演算部を備える。
本発明は反応過程における測定値を利用して、検査が適切に行われたか否かを判定する手段を提供し、1日に数千から数万テストが計測される中においても異常反応をしめす項目の見落しを防止することを目的とする。
【解決手段】
反応過程における光度計の値を計測し、反応過程データから分析測定結果を検証するものである。また正常な反応過程データに関するデータベース33を備え、測定された時系列の反応過程データ34を予め設定されたデータベース内情との照合することによって、所定の区分毎に或いは装置の進行プロセスに合致した区分毎に逐次、正常データか否かを判定する反応過程評価部35を備えている。さらに反応過程に関するデータベースを構築するために当該自動分析装置(検査項目)で測定したデータと、分析条件が異なり、結果が一定の許容範囲内の(一致している)測定結果を取得する演算部を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や尿等の生体サンプルの定性・定量分析を行う自動分析装置に係り、特にサンプルの物性変化を時系列に測定する機能を備えた自動分析装置において、反応過程のチェック機構を備えた自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査用自動分析装置は、例えば生化学分析装置ではサンプル中の特定成分と反応して色が変わる試薬を用い、色の変化を吸光度変化により定量的に測定することにより、該特定成分の定性・定量分析を行うものが一般的である。このような自動分析装置は、反応過程での吸光度変化を保存したり、画面上でプロットする機能を備えたものがある。装置のオペレータは測定結果に異常が見られたときに、本当にそのサンプルが異常であるのか、あるいは装置の異常により、たまたま異常な結果が出たのかを吸光度変化のプロットを検証することによりチェックできる可能性がある。臨床自動分析検査の過程では、分析装置に起因するプロゾーン・チェック異常,サンプリング異常,試薬分注異常,撹拌機構の異常,粘度の高い試薬のボタ落ちや飛散,試薬の組合せの関係によるノズルの汚染や結晶析出などにより分析検査が正常に行われない恐れがあるが、反応過程データの解析により、これらの異常が検出できる可能性がある。
【0003】
しかし、反応過程データ(吸光度変化データには限らない)の変化は分析項目やサンプルの特定等により多様であるため、反応過程に異常があったかどうかを自動的に判別する機能を実現することは難しく、それを実現したものはなかった。このため反応過程データから反応過程の異常を調べるためには、大量のデータを保存する必要があり、また人手によって1件ずつ個々の反応過程データを調べる必要があったため、時間とコストが掛かっていた。
【0004】
【特許文献1】特許第328087号
【非特許文献1】品質工学学会誌 第3巻 No.1:「多次元情報による総合評価とSN比」
【非特許文献2】MTシステムにおける技術開発:日本規格協会、品質工学応用講座
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
臨床自動分析検査における測定結果は、最終結果を評価しているに過ぎないため、測定値が設定範囲内であれば分析装置はアラームを発することはなく、異常な反応があっても検出は不可能であった。また、測定値が異常であっても、本当にそのサンプルが異常であるかどうかを迅速に判別する手段がなかった。
【0006】
現在の自動分析装置において反応過程での異常の有無の迅速判断ができないのは上記の通り、反応過程での異常の多様性によるものが大きい。
【0007】
一方、近年では、多変量のデータ解析の統計手法としてマハラノビス距離にて所定の空間を形成しあるデータが異常であるかどうかを総合的に判断する手法(MT法;マハラノビス−タグチメソッド)が活用されている。例えば非特許文献1には、健康人のデータに基づき基準となるマハラノビス空間(基準空間)を作成し、健康かどうか不明な被験者に対するマハラノビス距離を算出した値がある閾値(例えば4)より小さければ、健康人の集団に属し、「健康」と識別し、そうでなければ「健康でない」或いは「異常」と判断する方法である。かかる方法は適用範囲がひろく、種々の分野で公開されている。例えば、特許文献1や、非特許文献2内に、種々の事例がある。
【0008】
この方法を反応過程での異常の有無判断に適用できれば、異常でないデータを異常と判断してしまうことや、異常なサンプルを正常と判定してしまう可能性を低くすることができると考えられる。しかし、反応過程データのような時系列データは、各データ間の相関が強い(測定誤差内で一定値,勾配が同じ)データ群となっているため、それぞれの時点でのデータをパラメータとしてマハラノビス空間を作成しようとしても相関行列の逆行列が算出できない。このため、相関の強いデータ間(又は計測項目間)の一方を削除する等の更なるデータ加工を必要とし、再度前述の基準となるマハラノビス空間の再構成に時間を要し処理効率が低下する等の問題が潜在している。
【0009】
本発明は、反応過程データを予備的に処理することによりデータ解析にMT法を適用することを可能にしたことで、反応過程での異常の有無判断を可能にし、測定データの信頼性を向上した自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明では分析検査結果の検証を実現するために、反応過程における光度計の値を計測し、反応過程データから分析測定結果を検証する。
【0011】
前述の反応過程とは、前記分析装置の最終分析結果に至るまでの、前記装置の処理シーケンスに対応した処理である。又そのデータ群とは連続性のある時系列データである。ここで、測定開始から測定終了までのデータ点数をk個とし、その過程で成される処理数
(装置動作等)をniとし、そのデータ数をxiすると、
k=x1n1+x2n2+……+xini
でありその区分数はnである。このnは当該過程の反応時間や処理時間に対応している。以下にデータ構成を示す。
【0012】
(1)測定が正常に終了したk個のデータから、基準となるマハラノビス空間を作成する。
【0013】
(2)(1)項のk個のデータを所定の時間間隔或いはni毎に区分して新たなマハラノビス空間を過程進行と連動してni−1個作成する。
【0014】
(3)各過程の測定終了時点で当該マハラノビス距離を算出する。例えば、n1の終了時(t1)なら、そのデータが収集完了した時点でk3個の基準空間へデータを宛がい、マハラノビス距離MD1を算出する。
【0015】
(4)(3)項を測定終了まで繰り返すと、区分毎のマハラノビス距離の時間的な変化がわかる。つまり、下表の如く、マハラノビス距離MD1,MD2,MD3,MD4(例えば4区分の場合)が算出され、その時間的な変化がわかる。
【0016】
【0017】
正常過程で終了したマハラノビス距離は通常0〜4(その閾値を4とした場合)であるから、各過程における何れかのマハラノビス距離が4を超えると、何らかの異常がその過程で発生していることが判る。
【0018】
更には、各過程での各基準空間は上表の如く、そのマハラノビス距離は0〜4の範囲であり、且つn過程ある。このため、各過程で算出されたマハラノビス距離を計測完了まで蓄え、その各値を一つの総合判断のデータとすることにより、より総合的な判断が可能である。(この時の基準空間は、n過程の各基準空間作成時の閾値を加味したマハラノビス距離の集合体である。上表では、4ケの正常時のMD2であり、0〜4のマハラノビス距離である。)
さらに反応過程に関するデータベースを構築するために当該自動分析装置(検査項目)で測定したデータと、分析条件が異なり、結果が一定の許容範囲内の(一致している)測定結果を取得する演算部を備える。
【0019】
かかる演算部では、前述のマハラノビス距離を計算する基本データ群が格納されている。そのデータ群とは、各測定時間又は特定の区間における平均値(k個)、標準偏差(k個)と相関係数行列から算出された固有ベクトル(k×k)行列とその最大必要軸数である。
【0020】
前述の如く、かかるデータでは各データ間に強い相関がある。このため、マハラノビス距離を算出過程で使用する相関係数行列の逆行列が算出できなくなる。このため、本法では、相関係数行列の固有値と固有ベクトルを求め、その寄与度にて、その軸数(モード)を決定して、マハラノビス距離を算出する演算処理を行う。かかる演算処理では、相関係数行列から逆行列式を一切求める必要がなく、相関係数が“1.0” であっても、マハラノビス距離を算出することができる。
【0021】
さらに、上記において異なる条件の測定において異なる結果が得られた測定結果を用いて、判定論理の最適化を行う演算処理部を備えた。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば次の効果がある。
【0023】
検査の信頼性が向上する。特に反応過程において異常が発生していても、測定データが正常値の範囲に収まる異常な測定結果を検知することが可能となる。また、検査結果が正常値の範囲外であっても、反応過程データに異常が見られなければ正しく測定されたことになるため、無駄な再検査が不要になる。
【0024】
検体に対する検査項目に対して測定異常に関する信頼性が向上するため、無駄な再検査を削減でき、自動分析装置の検査についてのランニング・コスト(すなわち検査試薬や洗浄液などの消耗品)を低減できる。また、検査時間を短縮することができる。
【0025】
また反応過程データの保存を測定異常データのみにすることができるため、データ記憶に関するコストを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は反応過程における測定値を利用して、検査が適切に行われたか否かを判定する手段を提供し、1日に数千から数万テストが計測される中においても異常反応をしめす項目の見落しを防止することを目的とする。
【0027】
かかる方法として、前述の従来例の如く、時系列の測定データから基準となるマハラノビス空間を形成し、当該データをその空間に宛がい、その距離にて判断を行えば良い。しかし、前述の如く、かかる分析装置では測定データに起因するプロゾーン・チェック異常,サンプリング異常,試薬分注異常,撹拌機構の異常,粘度の高い試薬のボタ落ちや飛散,試薬の組合せの関係によるノズルの汚染や結晶析出などは、時系列データから構成される。このため、各装置の時系列な動作に対応できる異常検出法が重要である。従来の方法では、総合的判定のため、その基準となる空間は、測定開始から測定完了までの時系列データを使用して構成するの一般的であるため、測定完了時点での総合判断である。よって、分析過程のどの部位が異常であったかを判断するのは難しい。更に、この時系列データは、各データ間の相関が強い(測定誤差内で一定値,勾配が同じ)データ群となっているため、マハラノビス距離の算出に工夫が必要である。
【0028】
以下にどのように工夫してMT法を反応過程の解析に適用したかを実施例を用いて説明する。図1に自動分析装置の構成例を示す。自動分析装置の主な機構系としては検体ディスク2,反応ディスク1,試薬ディスク3から構成されている。
【0029】
検体ディスクには分析処理を開始する前に、予め幾つかの検体が架設される。分析が開始されるとサンプル分注機構(検体分注機構)4によって所定量の検体が吸引され、反応ディスクの所定の位置に吐出される。反応ディスク上の検体は例えば、図3に示すように予め装置内に組込まれた所定の分析のシーケンスによって分析が行われる。
【0030】
反応ディスク1を中心とした各機構部の動作位置を図1に示す。反応ディスクの内周には検体の吸光度を測定するための光源ランプ20(図2参照)が設けられており、その外周には光度計ユニット7が設置されている。光源と光度計の間に反応ディスク上の反応容器12が通過するたびに、吸光度が測定される。吸光度の測定は反応ディスクの回転が開始し、一定速度になるまで加速されてから行われる。反応ディスクは毎サイクル、一定の角度で回転と停止を繰り返しており、所定の反応時間において、何度も測定されることになる。
【0031】
これらの機構系の制御は主に制御部11と呼ばれる計算機ユニットで実行されるが、検体情報や試薬管理情報および検査依頼受付などを行うための操作用計算機15が接続されており、各々が協調して動作している。
【0032】
本実施例で用いている光度計ユニット7の構造を図2に示す。本実施例で用いている光度計ユニットは後分光多波長光度計と呼ばれている。すなわち光源ランプ20から発せられる光は検体の入った反応容器12を透過した後に、入射スリット21で線状光線として凹型回折格子に入射する。ここで多波長に分光され、12波長の光度計によって検体を透過した光の光度が測定されるのである。
【0033】
1.2. 分析シーケンス
本実施例で行う検体の分析のフロー図を図3に示す。検体としては血液(白血球など)や髄液・尿などが用いられ、予め検体ディスク2上の1つの検体容器13(図1)に設置されている。この検体を反応ディスク1上の反応容器12に分注して分析を行う。検体を分注する前の準備として反応ディスク上の反応容器が洗浄され(A01)、水ブランクの測定が行われる(A02)。水ブランクとは検体吸光度の0点調整を行うために水の吸光度を測定することである。すなわち、この反応容器に分注された検体の吸光度値は水ブランクの吸光度値との差によって求められる。水ブランクの測定が終了すると、反応容器内の水は吸引され、廃棄される(A03)。この反応容器に所定の検体が分注(サンプリング)される(A04)。その後、所定の時刻にR1試薬(A05),R2(A07)試薬,R3試薬(A09),R4試薬(A11)が予め決められている分量だけ反応容器に加えられ、撹拌(A06,A08,A10,A12)が行われる。ここで分析項目によってはR4,R3あるいはR2の分注が行われない検査項目もある。反応過程には3分反応,4分反応,5分反応,10分反応があり、それぞれ反応ディスクが反応時間に対応する回数だけ回転した時点での吸光度を測定値とする。通常は10分反応が行われることが多い。所定の反応時間が経過し、全測光が終了すると(A13)、反応容器は次の分析のために洗浄される(A01)。
【0034】
1.3. 濃度演算吸光度の説明
このようにして得られた吸光度の典型的な分析方法を図4に示す。吸光度から濃度演算には1ポイント分析法,2ポイントレート分析法,2ポイント分析法,3ポイント2項目分析法などが用いられている。1ポイント分析法では試薬添加から一定時刻経過後の吸光度から検査対象成分の濃度を計算している。2ポイントレート分析法では、試薬添加から定められた2つの時刻t1およびt2(t2>t1)における吸光度の差分を(t2−
t1)で割った吸光度変化の時間比率から濃度を計算している。2ポイント分析法では試薬添加から定められた2つの時刻t1およびt2(t2>t1)における吸光度を測定し、t1における吸光度から、t2における吸光度に対して定数ファクタをかけた値を差し引いたものから濃度を計算している。
【0035】
いずれの場合にしても反応ディスク上の検体が光度計を横切るたびに吸光度が測定され、その測定値の一部分を使って演算処理によって検査対象成分の濃度を決定している。すなわち、反応過程において測定された吸光度の大部分(あるいは一部)は、従来の分析方法では捨てられていた。
【0036】
1.4. 反応過程データの異常検知アルゴリズム
図5,図6は本発明に関わる反応過程の異常検知の全体の処理フローとその詳細を示した図である。
【0037】
先ず、各過程での異常を検知するために、予め決定された各過程毎の検査・測定シーケンスと合致してデータ収集を行う。例えば反応過程においては、その過程の異常を検知するために、最初に判定を行う検査に対する反応過程データ一式(反応過程データ群)を計算機に取り込む(S1)。反応過程群データを取り込むタイミングは、予め決定された各過程毎の測定シーケンスと合致する。或いは、反応過程において、逐次測定される吸光度データを取り込み、後で一連の時系列データ群としても良い。
【0038】
次に、上記より得られた反応過程データについて、マハラノビス距離を求める(S2)。ここで、マハラノビス距離は多変量解析の一手法であり、ある被検査対象が基準となる集団(以下、基準空間と称する)に属するかを測る尺度となる。本発明では、分析が正常に行われた時の反応過程データ群から基準空間を構成し、その情報は予めデータベース:DBに収納されている(図6)。マハラノビス距離および基準空間の求め方については後述する。
【0039】
次に、算出されたマハラノビス距離から、収集されたデータ群(被検体サンプル)が異常か正常かを判断する。分注が正常に実施されたときのマハラノビス距離は1近傍の値を示すのに対し、異常であった場合はその距離が1より極めて大きな値をとる。これを利用して、閾値判定により分注の正常・異常の判定を行う(S3)。
【0040】
本実施例における、反応過程データについて、そのデータ構造と基準空間について図6,図7,図8を使って説明する。
【0041】
図7は反応過程データの取得方法を、1波長について示したものである。被検体サンプルは測光ポイントを通過するたびに検体の吸光度が計測され、計算機に逐次蓄積されて行き(図6参照)、最終的には、図7のように予め定められたk個(時系列)の吸光度が取り込まれる。前記、k個のデータの内、本実施例では、最初の4点はセルブランク値の吸光度、すなわち吸光度のゼロ点であり、5個目以降は水の吸引から試薬投入後の吸光度の時間的変化をトレースしたデータ群(反応過程)である。
【0042】
セルブランク値の計測ポイント数は機構系および制御方式によって決定され、実際の分析では、例えば12波長などの多波長についての吸光度が計測されるため、第10の波長の吸光度データを1からk番目、第2の波長の吸光度を(k+1)番目から2k番目、以下同様にして12番目の波長の吸光度を(11k+1)番目から12k番目として、12k個の吸光度データが取得される。これらすべて、あるいは一部の波長に関する吸光度を使うことによって、より確度の高い反応過程異常の検知が実現可能となるが、本実施例では簡単のために1波長についてのみ記述する。また各波長についての測光ポイントについては一定間隔で計測されているが、光度計を複数設置することによって吸光度データを増やしても良く、また反応過程の異常が起こりやすい箇所では多くの測光ポイントにおいて吸光度データを取り込み、反対に異常がほとんど生じない箇所では吸光度データを間引いて取り込んだりすることがあっても良く、必ずしも等間隔である必要は無い。
【0043】
又、本実施例では、前述の如く、ブランク過程と反応過程に大別し、その途中の過程を2分割し、最終的に4区分に分割して例示しているが、その区分を測定シーケンスに合致して、より詳細に分割しても良い。
【0044】
上記の通り取得した反応過程データ(本実施例では、その過程を4つとしている)は、図8のようにまとめられる。ここで、各測光ポイントにおける吸光度は、それぞれマハラノビス距離を求める際の項目として利用する。
【0045】
前記操作を、計測結果が正常に終了したものと判断された反応過程データ群に対して行えば、基準となる反応過程データ群を得ることができる。図8は、正常な分注をn回行ったときに得られた各反応過程データ群をまとめたもので、これはn事象k項目の基準空間となる。
【0046】
ここでいうn個の正常な反応過程データ群とは、当該の自動分析装置において測定結果が精度を保証する範囲内となる検体に対し、再現性のある結果が得られた時の反応過程である。例えば、プロゾーン現象や検体・試薬の分注などの異常が発生した場合には、これらは偶発的な現象によるものであるため、再現性がない。すなわち装置,時刻,試薬や検体の分注量などを変えて再現測定を行っても、同じ結果はえられないので正常な反応過程ではない。
【0047】
又、n個のデータ群を使用し、それらのデータ群から基準空間を作成する際の留意点として、単なる統計データの収集ではなく、上記の通り正常な場合の統計データの収集であるから、異常なデータが入ることがあってはならない。しかし、例えば検体特性(測定値)のばらつきや光度計のばらつきのように、装置が測定精度を保証する範囲内でばらつきが存在するものであれば、積極的にばらつかせてデータを得ることが望ましく、そうすることによって、異常検知の精度が向上する。
【0048】
基準空間の事象数nについては、多い方が異常検知の精度が向上するので好ましいが、必要以上に多くすると、得られる情報より経済的コストの方がかかってしまう。そこで、検知の精度および経済的コストを勘案しながら決定するのが良い。ただし、事象数nが項目数kより小さい場合、後述する相関行列が求められないため、必ずnはkより大きくなるようにする必要がある。
【0049】
なお、上記のように得られた反応過程データ群および基準空間は、その分析項目に限るものとし、各分析項目ごとに反応過程データ群および規準空間を用意しなければならない。これは反応項目によって分析時間や使用する試薬の種類および量が異なり、吸光度の時間変化パターンが大きく異なるためである。
【0050】
図8のような反応過程データp1,p2,…,pk についての、マハラノビス空間(基準空間)の算出方法について以下にその詳細を説明する。
【0051】
更に、図9には被検出体のデータ収集入力時の処理フローを説明する。
【0052】
図8のようなn事象k項目(測光ポイント)の基準空間を構成する反応過程データについて、各項目(測光ポイント)毎に平均値
および標準偏差σ1,σ2,…,σk を求め、式(1)の演算を行い正規化する。
【0053】
【数1】
【0054】
一方、基準空間をn行k列の行列として、この行列の相関行列を求めるとk×kの行列Aが得られる。この行列Aの逆行列をA-1とすれば、マハラノビス距離D2 は式(2)のように表すことができる。
【0055】
【数2】
【0056】
なお、これらの計算のうち、各検査項目における基準空間の各項目(測光ポイント)毎の平均および標準偏差や、基準空間の相関行列の逆行列は予め計算しておき、その結果をパラメータとして持っている(図7参照)。繰り返しマハラノビス距離を算出する場合、これらの計算を何度も行う手間が省け、計算処理上有利であることが多い。
【0057】
ここで、反応過程データp1,p2,…,pk が正常なものならば、マハラノビス距離
D2は1.0近傍の値となり、異常なものであれば一般的に1.0 と比べて大きな値を採ることになる。マハラノビス距離D2 によって正常と異常を判別するには、予め、あるしきい値xを設けておき、
D2 < xならば正常、
D2 ≧ xならば異常として判別する。
【0058】
前述の図7に示した時系列データ群では、その性質上、各データ間の相関が強い場合が多々あり、前述の式(2)を算出する過程で、逆行列が求めらない場合が発生する。
【0059】
かかる場合の対応法としては、一般的には相関の強い項目の何れか一方のデータを逐次、削除すれば良い。しかし、かかる方法、その処理法では更なるデータ加工とその処理タスクを新たに追加搭載しなければならないので、その処理能力が低下するとともに、データ点数の減少によりその信頼性も低下する。このため、本発明では、各データ間の相関が強い場合でも、収集されたデータ群のさらなる加工を一切すること無い処理タスクを考案し、適用している。以下、その内容について詳細に説明する。
【0060】
前述の如く、マハラノビス距離を算出する方法として前記式(2)による方法と、シュミットの直交展開法(文献:MTシステムにおける技術開発)や、主成分分析を活用してデータ群を直交化し相関行列を特異分解する処理法や逆行列をそもそも求めない余因子行列を適用した種々の算出方法が提案されている。いずれの方法もその特質があり、発展途上でもあり、本発明の如くリアルタイム性を重視するシステムへの適用には時間を要する。このため、本発明者は、種々実験と検証の結果より、主成分分析型をベースにした新たなマハラノビス距離の処理法を見出した。以下、その処理内容の過程を示す。
【0061】
(1)相関行列(k×k)からその固有値と固有ベクトルを求める。
(2)固有値の寄与率とその必要数(p)を算出する。(最大でもk個。)
(3)(2)項の結果から、P<Kなら、p個,P+1個のみを適用して固有ベクトル からマハラノビス距離算を算出。
P=Kなら、k個p個のみを適用して固有ベクトルからマハラノビス距離算を 算出。
【0062】
かかる過程においては、収集されたデータ群を一切追い加工することがない。又、各項目間に強い相関があっても、相関行列の固有値を先ず最初に算出するので、k個の固有値(直交軸)とその寄与度が算出される。その寄与度により、いずれかの軸数を適用すれば良いかが判断できるため、不要な軸を容易に削除でき、マハラノビス距離の算出時の誤差を最小化できる。更に、項目間にその相関係数が“1.0”(全く同じデータ) の強い相関があっても、一方の項目を削除するというデータ加工を一切行わなくてもマハラノビス距離を算出できることを確認した。
【0063】
図9には、本処理の算出過程を示し、図10には前述の式(2)により算出した結果と、直交型の算出結果と本法での算出結果の相関関係を纏めたものである。図11−(a)は基準空間の作成時のマハラノビス距離のデータ群であり、図11−(b)は前記基準空間に対象データを宛がった場合の算出されたマハラノビス距離である。図10,図11から明らかなように、各処理法には大差ないことが明白であり、本処理の妥当性と信頼性が確認された。
【0064】
図12は、図6の反応過程の判別論理を組込んだ機能ブロック図である。分析制御部
31は制御部(制御用計算機ユニット11)上に実装される機能であり、その他の機能およびデータは操作用計算機15上に実装される。
【0065】
分析要求受付部30は、操作者が検体に対してどのような分析検査を行うかの設定を行うためのものであり、CRTなどの画面とキーボードやマウスなどの入力機器を用いて行われる。入力された情報から分析制御部31に対して制御命令を送る。分析制御部31では図1に示した機構を制御して分析を実行し、検体ディスク2上の検体を反応ディスク1上に分注して反応を行う。1つの検体に対して分析が終了するとその時の反応過程データ34と分析結果データ32がデータベースに保存される。反応過程データ34は反応過程評価部35において異常か否かが判定される。この時、基準空間データベース33を参照して評価を行うが、この基準空間は分析項目ごとに用意されており、反応過程評価部は分析項目に対応した基準空間だけを参照する。
【0066】
反応過程評価部35において反応過程が異常と判断された場合には、分析制御部31に対して同検体に対して同じ検査項目を再検査するよう指示が出される。また保存された分析結果データ32に対して反応過程に異常があった旨の情報が付加される。
【0067】
装置保全データ記憶部36においては、反応過程評価部35において反応過程が正常或いは異常と判断された場合の装置の過程毎(プロセス)の情報が時系列的にデータとして保存されて行く。かかる情報により、例えばある過程での収集されたデータから算出されたマハラノビス距離と装置の可動経過時間とを監視して、装置内部の部品劣化等の内的要因による時間的な変遷や劣化状況、或いは突発的な外的な要因で発生したものかを監視することができる。これらのトレンドデータは装置自身の保全情報として役に立つ。
【0068】
図13には正常に終了した反応過程のデータ群(サンプル数:110ケ,データ点数
28ケ)の例を示す。
【0069】
図14には前記正常反応過程データ群とは別に、被検出体から収集したデータ群(サンプル数:31ケ)の例を示す。
【0070】
図15には、前記図13のデータ群から基準空間を作成し、前記図14の各データを前記基準空間に宛がった場合の代表的な結果の例(No.1,7,13,16,24)を示す。尚、本例では、前述の如く、その区分を4区分とし、その区間における閾値は各区間とも4.5 に設定した。被検出体のデータの内No.16と24はいずれの区間においてもマハラノビス距離が時間の経過に無関係に閾値内であり、“正常終了”と判断される。一方、No.1,7,13は初期区分の段階で閾値を超えており、時間経過と共に低下する傾向であるが試薬の反応が進展する過程ではその距離がいずれも増加する。これは、区間1の過程(プロセス)で何らかの異常が発生しており、一旦復帰傾向にあるが初期の影響が反応過程に影響を継続して与えており、異常終了と判断できる。或いは、区間1の計測終了時に“異常”のアラームを発生し、以後計測しない又は別途新しいサンプル準備するという処置や、シーケンスの変更を自動的に行うことも可能である。
【0071】
上述の如く、反応過程の異常の原因には、サンプリングや試薬分注,撹拌などの異常が生じることがある。例えばR2試薬の添加時に吐出した試薬が反応セルの側壁に付着し、反応過程の途中になって検体と混じったために結果が真値よりも高値となってしまうことがある。さらに粘度の高い試薬を使用した場合に、吐出した試薬が表面張力によって分注ノズルの先端に水滴として留まったり、試薬の組合せによってノズルを汚染したり、結晶析出などの問題が生じることになる。
【0072】
通常は1回の分析検査における測定結果(濃度値)は1つの実数だけであり、ある一定範囲の測定値が得られると自動的に再検査を実行するなどの機能を分析装置に実装して、再現性を確認している。測定値に異常があった場合には、反応過程における吸光度を調べれば、異常か否かを判断できる場合もあるが、測光ポイントが50ポイントのシステム構成において12波長の反応過程データをすべて保存するには1回の測定で600個のデータを保存する必要があった。このため、反応過程に異常があっても、測定値が正常範囲となった場合には、その異常が見落される恐れがあった。
【0073】
反応過程データから異常が検知された反応過程では、その反応過程データを解析することによって異常原因がなんであるかを判断する情報が含まれていることが多い。したがって、反応過程データにおいて異常を検知した場合についてのみ、その反応過程データを保存しておけば、ハードディスクなどの保存用メモリ容量が小さくて済み、また一旦異常が検知されればその反応過程データから原因究明を行うことができる。反応過程データの異常原因には分析装置自体の異常の可能性も考えられるため、制御系情報を収集することにより、異常現象の解析が迅速に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】自動分析装置の概略機構図。
【図2】後分光多波長光度計。
【図3】分析の流れ。
【図4】反応タイムコースの例。
【図5】全体処理フロー。
【図6】処理フローの詳細。
【図7】反応過程データ。
【図8】反応過程データ構成詳細。
【図9】本処理法の反応過程データ処理フロー(演算フロー)。
【図10】本法と各処理法の比較。
【図11】本法と各処理法の比較のために使用したデータ群例。
【図12】データフロー図。
【図13】反応過程データの例(正常終了時)。
【図14】反応過程データの例(被測定データ)。
【図15】被測定データにて異常反応が出現した例。
【符号の説明】
【0075】
1…反応ディスク、2…検体ディスク、3…試薬ディスク、4…サンプル分注機構、5…試薬分注機構、6a…検体分注ノズル洗浄部、6b…試薬分注ノズル洗浄部、7…光度計ユニット、11…制御部(制御用計算機ユニット)、12…反応容器、13…検体容器、14…試薬容器、15…操作用計算機、20…光源ランプ、21…スリット、22…凹面回折格子、23…多波長光度計、30…分析要求受付部、31…分析制御部、32…分析結果データ、33…規準空間データベース、34…反応過程データ、35…反応過程評価部、36…装置保全データ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や尿等の生体サンプルの定性・定量分析を行う自動分析装置に係り、特にサンプルの物性変化を時系列に測定する機能を備えた自動分析装置において、反応過程のチェック機構を備えた自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査用自動分析装置は、例えば生化学分析装置ではサンプル中の特定成分と反応して色が変わる試薬を用い、色の変化を吸光度変化により定量的に測定することにより、該特定成分の定性・定量分析を行うものが一般的である。このような自動分析装置は、反応過程での吸光度変化を保存したり、画面上でプロットする機能を備えたものがある。装置のオペレータは測定結果に異常が見られたときに、本当にそのサンプルが異常であるのか、あるいは装置の異常により、たまたま異常な結果が出たのかを吸光度変化のプロットを検証することによりチェックできる可能性がある。臨床自動分析検査の過程では、分析装置に起因するプロゾーン・チェック異常,サンプリング異常,試薬分注異常,撹拌機構の異常,粘度の高い試薬のボタ落ちや飛散,試薬の組合せの関係によるノズルの汚染や結晶析出などにより分析検査が正常に行われない恐れがあるが、反応過程データの解析により、これらの異常が検出できる可能性がある。
【0003】
しかし、反応過程データ(吸光度変化データには限らない)の変化は分析項目やサンプルの特定等により多様であるため、反応過程に異常があったかどうかを自動的に判別する機能を実現することは難しく、それを実現したものはなかった。このため反応過程データから反応過程の異常を調べるためには、大量のデータを保存する必要があり、また人手によって1件ずつ個々の反応過程データを調べる必要があったため、時間とコストが掛かっていた。
【0004】
【特許文献1】特許第328087号
【非特許文献1】品質工学学会誌 第3巻 No.1:「多次元情報による総合評価とSN比」
【非特許文献2】MTシステムにおける技術開発:日本規格協会、品質工学応用講座
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
臨床自動分析検査における測定結果は、最終結果を評価しているに過ぎないため、測定値が設定範囲内であれば分析装置はアラームを発することはなく、異常な反応があっても検出は不可能であった。また、測定値が異常であっても、本当にそのサンプルが異常であるかどうかを迅速に判別する手段がなかった。
【0006】
現在の自動分析装置において反応過程での異常の有無の迅速判断ができないのは上記の通り、反応過程での異常の多様性によるものが大きい。
【0007】
一方、近年では、多変量のデータ解析の統計手法としてマハラノビス距離にて所定の空間を形成しあるデータが異常であるかどうかを総合的に判断する手法(MT法;マハラノビス−タグチメソッド)が活用されている。例えば非特許文献1には、健康人のデータに基づき基準となるマハラノビス空間(基準空間)を作成し、健康かどうか不明な被験者に対するマハラノビス距離を算出した値がある閾値(例えば4)より小さければ、健康人の集団に属し、「健康」と識別し、そうでなければ「健康でない」或いは「異常」と判断する方法である。かかる方法は適用範囲がひろく、種々の分野で公開されている。例えば、特許文献1や、非特許文献2内に、種々の事例がある。
【0008】
この方法を反応過程での異常の有無判断に適用できれば、異常でないデータを異常と判断してしまうことや、異常なサンプルを正常と判定してしまう可能性を低くすることができると考えられる。しかし、反応過程データのような時系列データは、各データ間の相関が強い(測定誤差内で一定値,勾配が同じ)データ群となっているため、それぞれの時点でのデータをパラメータとしてマハラノビス空間を作成しようとしても相関行列の逆行列が算出できない。このため、相関の強いデータ間(又は計測項目間)の一方を削除する等の更なるデータ加工を必要とし、再度前述の基準となるマハラノビス空間の再構成に時間を要し処理効率が低下する等の問題が潜在している。
【0009】
本発明は、反応過程データを予備的に処理することによりデータ解析にMT法を適用することを可能にしたことで、反応過程での異常の有無判断を可能にし、測定データの信頼性を向上した自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明では分析検査結果の検証を実現するために、反応過程における光度計の値を計測し、反応過程データから分析測定結果を検証する。
【0011】
前述の反応過程とは、前記分析装置の最終分析結果に至るまでの、前記装置の処理シーケンスに対応した処理である。又そのデータ群とは連続性のある時系列データである。ここで、測定開始から測定終了までのデータ点数をk個とし、その過程で成される処理数
(装置動作等)をniとし、そのデータ数をxiすると、
k=x1n1+x2n2+……+xini
でありその区分数はnである。このnは当該過程の反応時間や処理時間に対応している。以下にデータ構成を示す。
【0012】
(1)測定が正常に終了したk個のデータから、基準となるマハラノビス空間を作成する。
【0013】
(2)(1)項のk個のデータを所定の時間間隔或いはni毎に区分して新たなマハラノビス空間を過程進行と連動してni−1個作成する。
【0014】
(3)各過程の測定終了時点で当該マハラノビス距離を算出する。例えば、n1の終了時(t1)なら、そのデータが収集完了した時点でk3個の基準空間へデータを宛がい、マハラノビス距離MD1を算出する。
【0015】
(4)(3)項を測定終了まで繰り返すと、区分毎のマハラノビス距離の時間的な変化がわかる。つまり、下表の如く、マハラノビス距離MD1,MD2,MD3,MD4(例えば4区分の場合)が算出され、その時間的な変化がわかる。
【0016】
【0017】
正常過程で終了したマハラノビス距離は通常0〜4(その閾値を4とした場合)であるから、各過程における何れかのマハラノビス距離が4を超えると、何らかの異常がその過程で発生していることが判る。
【0018】
更には、各過程での各基準空間は上表の如く、そのマハラノビス距離は0〜4の範囲であり、且つn過程ある。このため、各過程で算出されたマハラノビス距離を計測完了まで蓄え、その各値を一つの総合判断のデータとすることにより、より総合的な判断が可能である。(この時の基準空間は、n過程の各基準空間作成時の閾値を加味したマハラノビス距離の集合体である。上表では、4ケの正常時のMD2であり、0〜4のマハラノビス距離である。)
さらに反応過程に関するデータベースを構築するために当該自動分析装置(検査項目)で測定したデータと、分析条件が異なり、結果が一定の許容範囲内の(一致している)測定結果を取得する演算部を備える。
【0019】
かかる演算部では、前述のマハラノビス距離を計算する基本データ群が格納されている。そのデータ群とは、各測定時間又は特定の区間における平均値(k個)、標準偏差(k個)と相関係数行列から算出された固有ベクトル(k×k)行列とその最大必要軸数である。
【0020】
前述の如く、かかるデータでは各データ間に強い相関がある。このため、マハラノビス距離を算出過程で使用する相関係数行列の逆行列が算出できなくなる。このため、本法では、相関係数行列の固有値と固有ベクトルを求め、その寄与度にて、その軸数(モード)を決定して、マハラノビス距離を算出する演算処理を行う。かかる演算処理では、相関係数行列から逆行列式を一切求める必要がなく、相関係数が“1.0” であっても、マハラノビス距離を算出することができる。
【0021】
さらに、上記において異なる条件の測定において異なる結果が得られた測定結果を用いて、判定論理の最適化を行う演算処理部を備えた。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば次の効果がある。
【0023】
検査の信頼性が向上する。特に反応過程において異常が発生していても、測定データが正常値の範囲に収まる異常な測定結果を検知することが可能となる。また、検査結果が正常値の範囲外であっても、反応過程データに異常が見られなければ正しく測定されたことになるため、無駄な再検査が不要になる。
【0024】
検体に対する検査項目に対して測定異常に関する信頼性が向上するため、無駄な再検査を削減でき、自動分析装置の検査についてのランニング・コスト(すなわち検査試薬や洗浄液などの消耗品)を低減できる。また、検査時間を短縮することができる。
【0025】
また反応過程データの保存を測定異常データのみにすることができるため、データ記憶に関するコストを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は反応過程における測定値を利用して、検査が適切に行われたか否かを判定する手段を提供し、1日に数千から数万テストが計測される中においても異常反応をしめす項目の見落しを防止することを目的とする。
【0027】
かかる方法として、前述の従来例の如く、時系列の測定データから基準となるマハラノビス空間を形成し、当該データをその空間に宛がい、その距離にて判断を行えば良い。しかし、前述の如く、かかる分析装置では測定データに起因するプロゾーン・チェック異常,サンプリング異常,試薬分注異常,撹拌機構の異常,粘度の高い試薬のボタ落ちや飛散,試薬の組合せの関係によるノズルの汚染や結晶析出などは、時系列データから構成される。このため、各装置の時系列な動作に対応できる異常検出法が重要である。従来の方法では、総合的判定のため、その基準となる空間は、測定開始から測定完了までの時系列データを使用して構成するの一般的であるため、測定完了時点での総合判断である。よって、分析過程のどの部位が異常であったかを判断するのは難しい。更に、この時系列データは、各データ間の相関が強い(測定誤差内で一定値,勾配が同じ)データ群となっているため、マハラノビス距離の算出に工夫が必要である。
【0028】
以下にどのように工夫してMT法を反応過程の解析に適用したかを実施例を用いて説明する。図1に自動分析装置の構成例を示す。自動分析装置の主な機構系としては検体ディスク2,反応ディスク1,試薬ディスク3から構成されている。
【0029】
検体ディスクには分析処理を開始する前に、予め幾つかの検体が架設される。分析が開始されるとサンプル分注機構(検体分注機構)4によって所定量の検体が吸引され、反応ディスクの所定の位置に吐出される。反応ディスク上の検体は例えば、図3に示すように予め装置内に組込まれた所定の分析のシーケンスによって分析が行われる。
【0030】
反応ディスク1を中心とした各機構部の動作位置を図1に示す。反応ディスクの内周には検体の吸光度を測定するための光源ランプ20(図2参照)が設けられており、その外周には光度計ユニット7が設置されている。光源と光度計の間に反応ディスク上の反応容器12が通過するたびに、吸光度が測定される。吸光度の測定は反応ディスクの回転が開始し、一定速度になるまで加速されてから行われる。反応ディスクは毎サイクル、一定の角度で回転と停止を繰り返しており、所定の反応時間において、何度も測定されることになる。
【0031】
これらの機構系の制御は主に制御部11と呼ばれる計算機ユニットで実行されるが、検体情報や試薬管理情報および検査依頼受付などを行うための操作用計算機15が接続されており、各々が協調して動作している。
【0032】
本実施例で用いている光度計ユニット7の構造を図2に示す。本実施例で用いている光度計ユニットは後分光多波長光度計と呼ばれている。すなわち光源ランプ20から発せられる光は検体の入った反応容器12を透過した後に、入射スリット21で線状光線として凹型回折格子に入射する。ここで多波長に分光され、12波長の光度計によって検体を透過した光の光度が測定されるのである。
【0033】
1.2. 分析シーケンス
本実施例で行う検体の分析のフロー図を図3に示す。検体としては血液(白血球など)や髄液・尿などが用いられ、予め検体ディスク2上の1つの検体容器13(図1)に設置されている。この検体を反応ディスク1上の反応容器12に分注して分析を行う。検体を分注する前の準備として反応ディスク上の反応容器が洗浄され(A01)、水ブランクの測定が行われる(A02)。水ブランクとは検体吸光度の0点調整を行うために水の吸光度を測定することである。すなわち、この反応容器に分注された検体の吸光度値は水ブランクの吸光度値との差によって求められる。水ブランクの測定が終了すると、反応容器内の水は吸引され、廃棄される(A03)。この反応容器に所定の検体が分注(サンプリング)される(A04)。その後、所定の時刻にR1試薬(A05),R2(A07)試薬,R3試薬(A09),R4試薬(A11)が予め決められている分量だけ反応容器に加えられ、撹拌(A06,A08,A10,A12)が行われる。ここで分析項目によってはR4,R3あるいはR2の分注が行われない検査項目もある。反応過程には3分反応,4分反応,5分反応,10分反応があり、それぞれ反応ディスクが反応時間に対応する回数だけ回転した時点での吸光度を測定値とする。通常は10分反応が行われることが多い。所定の反応時間が経過し、全測光が終了すると(A13)、反応容器は次の分析のために洗浄される(A01)。
【0034】
1.3. 濃度演算吸光度の説明
このようにして得られた吸光度の典型的な分析方法を図4に示す。吸光度から濃度演算には1ポイント分析法,2ポイントレート分析法,2ポイント分析法,3ポイント2項目分析法などが用いられている。1ポイント分析法では試薬添加から一定時刻経過後の吸光度から検査対象成分の濃度を計算している。2ポイントレート分析法では、試薬添加から定められた2つの時刻t1およびt2(t2>t1)における吸光度の差分を(t2−
t1)で割った吸光度変化の時間比率から濃度を計算している。2ポイント分析法では試薬添加から定められた2つの時刻t1およびt2(t2>t1)における吸光度を測定し、t1における吸光度から、t2における吸光度に対して定数ファクタをかけた値を差し引いたものから濃度を計算している。
【0035】
いずれの場合にしても反応ディスク上の検体が光度計を横切るたびに吸光度が測定され、その測定値の一部分を使って演算処理によって検査対象成分の濃度を決定している。すなわち、反応過程において測定された吸光度の大部分(あるいは一部)は、従来の分析方法では捨てられていた。
【0036】
1.4. 反応過程データの異常検知アルゴリズム
図5,図6は本発明に関わる反応過程の異常検知の全体の処理フローとその詳細を示した図である。
【0037】
先ず、各過程での異常を検知するために、予め決定された各過程毎の検査・測定シーケンスと合致してデータ収集を行う。例えば反応過程においては、その過程の異常を検知するために、最初に判定を行う検査に対する反応過程データ一式(反応過程データ群)を計算機に取り込む(S1)。反応過程群データを取り込むタイミングは、予め決定された各過程毎の測定シーケンスと合致する。或いは、反応過程において、逐次測定される吸光度データを取り込み、後で一連の時系列データ群としても良い。
【0038】
次に、上記より得られた反応過程データについて、マハラノビス距離を求める(S2)。ここで、マハラノビス距離は多変量解析の一手法であり、ある被検査対象が基準となる集団(以下、基準空間と称する)に属するかを測る尺度となる。本発明では、分析が正常に行われた時の反応過程データ群から基準空間を構成し、その情報は予めデータベース:DBに収納されている(図6)。マハラノビス距離および基準空間の求め方については後述する。
【0039】
次に、算出されたマハラノビス距離から、収集されたデータ群(被検体サンプル)が異常か正常かを判断する。分注が正常に実施されたときのマハラノビス距離は1近傍の値を示すのに対し、異常であった場合はその距離が1より極めて大きな値をとる。これを利用して、閾値判定により分注の正常・異常の判定を行う(S3)。
【0040】
本実施例における、反応過程データについて、そのデータ構造と基準空間について図6,図7,図8を使って説明する。
【0041】
図7は反応過程データの取得方法を、1波長について示したものである。被検体サンプルは測光ポイントを通過するたびに検体の吸光度が計測され、計算機に逐次蓄積されて行き(図6参照)、最終的には、図7のように予め定められたk個(時系列)の吸光度が取り込まれる。前記、k個のデータの内、本実施例では、最初の4点はセルブランク値の吸光度、すなわち吸光度のゼロ点であり、5個目以降は水の吸引から試薬投入後の吸光度の時間的変化をトレースしたデータ群(反応過程)である。
【0042】
セルブランク値の計測ポイント数は機構系および制御方式によって決定され、実際の分析では、例えば12波長などの多波長についての吸光度が計測されるため、第10の波長の吸光度データを1からk番目、第2の波長の吸光度を(k+1)番目から2k番目、以下同様にして12番目の波長の吸光度を(11k+1)番目から12k番目として、12k個の吸光度データが取得される。これらすべて、あるいは一部の波長に関する吸光度を使うことによって、より確度の高い反応過程異常の検知が実現可能となるが、本実施例では簡単のために1波長についてのみ記述する。また各波長についての測光ポイントについては一定間隔で計測されているが、光度計を複数設置することによって吸光度データを増やしても良く、また反応過程の異常が起こりやすい箇所では多くの測光ポイントにおいて吸光度データを取り込み、反対に異常がほとんど生じない箇所では吸光度データを間引いて取り込んだりすることがあっても良く、必ずしも等間隔である必要は無い。
【0043】
又、本実施例では、前述の如く、ブランク過程と反応過程に大別し、その途中の過程を2分割し、最終的に4区分に分割して例示しているが、その区分を測定シーケンスに合致して、より詳細に分割しても良い。
【0044】
上記の通り取得した反応過程データ(本実施例では、その過程を4つとしている)は、図8のようにまとめられる。ここで、各測光ポイントにおける吸光度は、それぞれマハラノビス距離を求める際の項目として利用する。
【0045】
前記操作を、計測結果が正常に終了したものと判断された反応過程データ群に対して行えば、基準となる反応過程データ群を得ることができる。図8は、正常な分注をn回行ったときに得られた各反応過程データ群をまとめたもので、これはn事象k項目の基準空間となる。
【0046】
ここでいうn個の正常な反応過程データ群とは、当該の自動分析装置において測定結果が精度を保証する範囲内となる検体に対し、再現性のある結果が得られた時の反応過程である。例えば、プロゾーン現象や検体・試薬の分注などの異常が発生した場合には、これらは偶発的な現象によるものであるため、再現性がない。すなわち装置,時刻,試薬や検体の分注量などを変えて再現測定を行っても、同じ結果はえられないので正常な反応過程ではない。
【0047】
又、n個のデータ群を使用し、それらのデータ群から基準空間を作成する際の留意点として、単なる統計データの収集ではなく、上記の通り正常な場合の統計データの収集であるから、異常なデータが入ることがあってはならない。しかし、例えば検体特性(測定値)のばらつきや光度計のばらつきのように、装置が測定精度を保証する範囲内でばらつきが存在するものであれば、積極的にばらつかせてデータを得ることが望ましく、そうすることによって、異常検知の精度が向上する。
【0048】
基準空間の事象数nについては、多い方が異常検知の精度が向上するので好ましいが、必要以上に多くすると、得られる情報より経済的コストの方がかかってしまう。そこで、検知の精度および経済的コストを勘案しながら決定するのが良い。ただし、事象数nが項目数kより小さい場合、後述する相関行列が求められないため、必ずnはkより大きくなるようにする必要がある。
【0049】
なお、上記のように得られた反応過程データ群および基準空間は、その分析項目に限るものとし、各分析項目ごとに反応過程データ群および規準空間を用意しなければならない。これは反応項目によって分析時間や使用する試薬の種類および量が異なり、吸光度の時間変化パターンが大きく異なるためである。
【0050】
図8のような反応過程データp1,p2,…,pk についての、マハラノビス空間(基準空間)の算出方法について以下にその詳細を説明する。
【0051】
更に、図9には被検出体のデータ収集入力時の処理フローを説明する。
【0052】
図8のようなn事象k項目(測光ポイント)の基準空間を構成する反応過程データについて、各項目(測光ポイント)毎に平均値
および標準偏差σ1,σ2,…,σk を求め、式(1)の演算を行い正規化する。
【0053】
【数1】
【0054】
一方、基準空間をn行k列の行列として、この行列の相関行列を求めるとk×kの行列Aが得られる。この行列Aの逆行列をA-1とすれば、マハラノビス距離D2 は式(2)のように表すことができる。
【0055】
【数2】
【0056】
なお、これらの計算のうち、各検査項目における基準空間の各項目(測光ポイント)毎の平均および標準偏差や、基準空間の相関行列の逆行列は予め計算しておき、その結果をパラメータとして持っている(図7参照)。繰り返しマハラノビス距離を算出する場合、これらの計算を何度も行う手間が省け、計算処理上有利であることが多い。
【0057】
ここで、反応過程データp1,p2,…,pk が正常なものならば、マハラノビス距離
D2は1.0近傍の値となり、異常なものであれば一般的に1.0 と比べて大きな値を採ることになる。マハラノビス距離D2 によって正常と異常を判別するには、予め、あるしきい値xを設けておき、
D2 < xならば正常、
D2 ≧ xならば異常として判別する。
【0058】
前述の図7に示した時系列データ群では、その性質上、各データ間の相関が強い場合が多々あり、前述の式(2)を算出する過程で、逆行列が求めらない場合が発生する。
【0059】
かかる場合の対応法としては、一般的には相関の強い項目の何れか一方のデータを逐次、削除すれば良い。しかし、かかる方法、その処理法では更なるデータ加工とその処理タスクを新たに追加搭載しなければならないので、その処理能力が低下するとともに、データ点数の減少によりその信頼性も低下する。このため、本発明では、各データ間の相関が強い場合でも、収集されたデータ群のさらなる加工を一切すること無い処理タスクを考案し、適用している。以下、その内容について詳細に説明する。
【0060】
前述の如く、マハラノビス距離を算出する方法として前記式(2)による方法と、シュミットの直交展開法(文献:MTシステムにおける技術開発)や、主成分分析を活用してデータ群を直交化し相関行列を特異分解する処理法や逆行列をそもそも求めない余因子行列を適用した種々の算出方法が提案されている。いずれの方法もその特質があり、発展途上でもあり、本発明の如くリアルタイム性を重視するシステムへの適用には時間を要する。このため、本発明者は、種々実験と検証の結果より、主成分分析型をベースにした新たなマハラノビス距離の処理法を見出した。以下、その処理内容の過程を示す。
【0061】
(1)相関行列(k×k)からその固有値と固有ベクトルを求める。
(2)固有値の寄与率とその必要数(p)を算出する。(最大でもk個。)
(3)(2)項の結果から、P<Kなら、p個,P+1個のみを適用して固有ベクトル からマハラノビス距離算を算出。
P=Kなら、k個p個のみを適用して固有ベクトルからマハラノビス距離算を 算出。
【0062】
かかる過程においては、収集されたデータ群を一切追い加工することがない。又、各項目間に強い相関があっても、相関行列の固有値を先ず最初に算出するので、k個の固有値(直交軸)とその寄与度が算出される。その寄与度により、いずれかの軸数を適用すれば良いかが判断できるため、不要な軸を容易に削除でき、マハラノビス距離の算出時の誤差を最小化できる。更に、項目間にその相関係数が“1.0”(全く同じデータ) の強い相関があっても、一方の項目を削除するというデータ加工を一切行わなくてもマハラノビス距離を算出できることを確認した。
【0063】
図9には、本処理の算出過程を示し、図10には前述の式(2)により算出した結果と、直交型の算出結果と本法での算出結果の相関関係を纏めたものである。図11−(a)は基準空間の作成時のマハラノビス距離のデータ群であり、図11−(b)は前記基準空間に対象データを宛がった場合の算出されたマハラノビス距離である。図10,図11から明らかなように、各処理法には大差ないことが明白であり、本処理の妥当性と信頼性が確認された。
【0064】
図12は、図6の反応過程の判別論理を組込んだ機能ブロック図である。分析制御部
31は制御部(制御用計算機ユニット11)上に実装される機能であり、その他の機能およびデータは操作用計算機15上に実装される。
【0065】
分析要求受付部30は、操作者が検体に対してどのような分析検査を行うかの設定を行うためのものであり、CRTなどの画面とキーボードやマウスなどの入力機器を用いて行われる。入力された情報から分析制御部31に対して制御命令を送る。分析制御部31では図1に示した機構を制御して分析を実行し、検体ディスク2上の検体を反応ディスク1上に分注して反応を行う。1つの検体に対して分析が終了するとその時の反応過程データ34と分析結果データ32がデータベースに保存される。反応過程データ34は反応過程評価部35において異常か否かが判定される。この時、基準空間データベース33を参照して評価を行うが、この基準空間は分析項目ごとに用意されており、反応過程評価部は分析項目に対応した基準空間だけを参照する。
【0066】
反応過程評価部35において反応過程が異常と判断された場合には、分析制御部31に対して同検体に対して同じ検査項目を再検査するよう指示が出される。また保存された分析結果データ32に対して反応過程に異常があった旨の情報が付加される。
【0067】
装置保全データ記憶部36においては、反応過程評価部35において反応過程が正常或いは異常と判断された場合の装置の過程毎(プロセス)の情報が時系列的にデータとして保存されて行く。かかる情報により、例えばある過程での収集されたデータから算出されたマハラノビス距離と装置の可動経過時間とを監視して、装置内部の部品劣化等の内的要因による時間的な変遷や劣化状況、或いは突発的な外的な要因で発生したものかを監視することができる。これらのトレンドデータは装置自身の保全情報として役に立つ。
【0068】
図13には正常に終了した反応過程のデータ群(サンプル数:110ケ,データ点数
28ケ)の例を示す。
【0069】
図14には前記正常反応過程データ群とは別に、被検出体から収集したデータ群(サンプル数:31ケ)の例を示す。
【0070】
図15には、前記図13のデータ群から基準空間を作成し、前記図14の各データを前記基準空間に宛がった場合の代表的な結果の例(No.1,7,13,16,24)を示す。尚、本例では、前述の如く、その区分を4区分とし、その区間における閾値は各区間とも4.5 に設定した。被検出体のデータの内No.16と24はいずれの区間においてもマハラノビス距離が時間の経過に無関係に閾値内であり、“正常終了”と判断される。一方、No.1,7,13は初期区分の段階で閾値を超えており、時間経過と共に低下する傾向であるが試薬の反応が進展する過程ではその距離がいずれも増加する。これは、区間1の過程(プロセス)で何らかの異常が発生しており、一旦復帰傾向にあるが初期の影響が反応過程に影響を継続して与えており、異常終了と判断できる。或いは、区間1の計測終了時に“異常”のアラームを発生し、以後計測しない又は別途新しいサンプル準備するという処置や、シーケンスの変更を自動的に行うことも可能である。
【0071】
上述の如く、反応過程の異常の原因には、サンプリングや試薬分注,撹拌などの異常が生じることがある。例えばR2試薬の添加時に吐出した試薬が反応セルの側壁に付着し、反応過程の途中になって検体と混じったために結果が真値よりも高値となってしまうことがある。さらに粘度の高い試薬を使用した場合に、吐出した試薬が表面張力によって分注ノズルの先端に水滴として留まったり、試薬の組合せによってノズルを汚染したり、結晶析出などの問題が生じることになる。
【0072】
通常は1回の分析検査における測定結果(濃度値)は1つの実数だけであり、ある一定範囲の測定値が得られると自動的に再検査を実行するなどの機能を分析装置に実装して、再現性を確認している。測定値に異常があった場合には、反応過程における吸光度を調べれば、異常か否かを判断できる場合もあるが、測光ポイントが50ポイントのシステム構成において12波長の反応過程データをすべて保存するには1回の測定で600個のデータを保存する必要があった。このため、反応過程に異常があっても、測定値が正常範囲となった場合には、その異常が見落される恐れがあった。
【0073】
反応過程データから異常が検知された反応過程では、その反応過程データを解析することによって異常原因がなんであるかを判断する情報が含まれていることが多い。したがって、反応過程データにおいて異常を検知した場合についてのみ、その反応過程データを保存しておけば、ハードディスクなどの保存用メモリ容量が小さくて済み、また一旦異常が検知されればその反応過程データから原因究明を行うことができる。反応過程データの異常原因には分析装置自体の異常の可能性も考えられるため、制御系情報を収集することにより、異常現象の解析が迅速に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】自動分析装置の概略機構図。
【図2】後分光多波長光度計。
【図3】分析の流れ。
【図4】反応タイムコースの例。
【図5】全体処理フロー。
【図6】処理フローの詳細。
【図7】反応過程データ。
【図8】反応過程データ構成詳細。
【図9】本処理法の反応過程データ処理フロー(演算フロー)。
【図10】本法と各処理法の比較。
【図11】本法と各処理法の比較のために使用したデータ群例。
【図12】データフロー図。
【図13】反応過程データの例(正常終了時)。
【図14】反応過程データの例(被測定データ)。
【図15】被測定データにて異常反応が出現した例。
【符号の説明】
【0075】
1…反応ディスク、2…検体ディスク、3…試薬ディスク、4…サンプル分注機構、5…試薬分注機構、6a…検体分注ノズル洗浄部、6b…試薬分注ノズル洗浄部、7…光度計ユニット、11…制御部(制御用計算機ユニット)、12…反応容器、13…検体容器、14…試薬容器、15…操作用計算機、20…光源ランプ、21…スリット、22…凹面回折格子、23…多波長光度計、30…分析要求受付部、31…分析制御部、32…分析結果データ、33…規準空間データベース、34…反応過程データ、35…反応過程評価部、36…装置保全データ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定が正常に終了した前記反応過程の時系列データから基準となるマハラノビス空間を作成するステップと、
前記反応過程を予め定めた複数の過程に分け、該複数の過程毎に区分して新たなマハラノビス空間を作成するステップと、
前記予め定めた複数の過程の終了時点で前記マハラノビス空間でのマハラノビスの距離を算出するステップと、
を含むことを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項2】
請求項1記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記予め定めた複数の過程毎に、マハラノビスの距離に基づき異常の有無を判定するステップを含むことを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項3】
請求項2記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記予め定めた複数の過程が終了した時点毎に異常の有無を逐次判定するステップを含むことを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項4】
請求項1記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
測定結果が正常と判断された反応過程のデータ群のみを正常データ群として基準空間を作成することを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項5】
請求項4記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記測定において、濃度が既知の基準サンプルの測定結果が各々の濃度と一致した時に、その時の反応過程データを正常データ群として作成することを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
反応過程における異常が検知された場合は、異常が検知された測定データに識別情報を付加することを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法を実行するプログラムを記憶した記憶手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法を実行するプログラムを記憶したことを特徴とする記憶媒体。
【請求項1】
測定が正常に終了した前記反応過程の時系列データから基準となるマハラノビス空間を作成するステップと、
前記反応過程を予め定めた複数の過程に分け、該複数の過程毎に区分して新たなマハラノビス空間を作成するステップと、
前記予め定めた複数の過程の終了時点で前記マハラノビス空間でのマハラノビスの距離を算出するステップと、
を含むことを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項2】
請求項1記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記予め定めた複数の過程毎に、マハラノビスの距離に基づき異常の有無を判定するステップを含むことを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項3】
請求項2記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記予め定めた複数の過程が終了した時点毎に異常の有無を逐次判定するステップを含むことを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項4】
請求項1記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
測定結果が正常と判断された反応過程のデータ群のみを正常データ群として基準空間を作成することを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項5】
請求項4記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記測定において、濃度が既知の基準サンプルの測定結果が各々の濃度と一致した時に、その時の反応過程データを正常データ群として作成することを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
反応過程における異常が検知された場合は、異常が検知された測定データに識別情報を付加することを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法を実行するプログラムを記憶した記憶手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法を実行するプログラムを記憶したことを特徴とする記憶媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−23214(P2006−23214A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−202589(P2004−202589)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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