説明

測定器、および、自動調心機構の性能を検査する方法

【課題】円滑にかつ正確に偏心量を測定できる測定器を提供すること。
【解決手段】測定器30は、軸体に取り付けられる本体31、軸体から筒体の内周面までの間隔寸法を測定する測定手段34、先端から入力される操作駆動力を測定手段34に伝達する操作手段32を備える。測定手段34は、中心軸の周囲に所定角度の間隔で配置された4つのスピンドル41、スピンドル41を長軸方向に沿って付勢する付勢部、スピンドル41が付勢によって前進しないように保持するリングを有する。リングが回転すると、スピンドル41の保持を解除される。本体31を筒体に挿入した状態で、リングを回転させてスピンドル41を前進させ、その先端が筒体の内周面に当接した状態にする。そしてスピンドル41の位置から間隔寸法を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒体の中心軸と筒体に挿入される軸体との隔たりである偏心量を測定する測定器、また、当該測定器を用いて自動調心機構の性能を検査する方法に関する。特に、溶出試験器に用いられる容器(ベッセル)を自動調心した際、容器の中心軸と攪拌用の回転軸との偏心量を測定して溶出試験器の品質を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製剤の品質を一定に確保するため、製剤および試験液を容器に入れて攪拌し、所定時間後の試験液を採取し、所定の分析法を用いて溶出した有効成分量を測定する溶出試験が行われており、当該試験に用いられる溶出試験器が広く知られている。
溶出試験器は通常、恒温水槽と、恒温水槽の水槽蓋と、容器と、パドル法に用いられるパドル、または回転バスケット法に用いられるバスケットと、パドルを回転自在に支持する回転軸と、回転軸を駆動する電動機とを含んで構成される。まず、一定量の試験液を容器にとり、恒温水槽において容器内の試験液の温度を例えば37±0.5℃に保つ。パドル法の場合、製剤などの試料を容器内底の中心部に沈め、パドルを規定の位置で回転させることにより、試料から有効成分を溶出させるようになっている。
【0003】
ところで、容器に挿入される回転軸と容器の中心軸との隔たりを2mm以内とするように日本薬局方に規定されている。本発明では、この隔たりを偏心量とも呼ぶ。発明者らは、この偏心量が規定値以内となるように、容器の中心軸を回転軸に自動的に合わせる自動調心機構を開発した(特許文献1および図11(A)、(B)参照)。同図において容器13には、通常、試験液の蒸発を防止するために蓋20がされる。発明者らは、この蓋20がパドル14とともに昇降するようにして、パドル14が下降して容器13内に挿入されると蓋20が容器13の開口19を覆うようにした(同図(B))。蓋20は、下部の方ほど径寸法が小さくなるように加工されたテーパ部23を有している。容器13は、水槽蓋12に形成された保持孔16に保持されており、回転軸15と直交する水平面内を移動自在となっている。従って、蓋20が開口19を覆う際、テーパ部23が開口19の内縁と当接するので、容器13が回転軸15と直交する水平面内を移動し、容器13の中心軸C1が回転軸15の中心軸C2に自動的に調心される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−322743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の溶出試験器において、自動調心の性能を検査する手法として、図12(A)、(B)に示すような手法が採用されている。自動調心後、同図(A)のように回転軸15を上昇させて蓋20を取り外し、容器13をツマミ91で水槽蓋12に固定する。再び回転軸15を下降させて、同図(B)のようにノギスやスケールなどの測定器92で容器13の開口の内縁と回転軸15との間隔寸法を測定する。回転軸15周りの複数箇所に対して間隔寸法を測定し、測定値から偏心量を算出する。
【0006】
しかしながら、上記の手法では、次の各課題があり、改善の余地があった。まず、ツマミを用いても、容器を水槽蓋にしっかりと固定することができない。ノギスやスケールなどで測定する際、ツマミに測定者の手が触れると、容器がずれてしまう可能性がある。偏心量を正確に測定するためには、容器の自動調心をやり直す必要があり、効率よく測定ができなかった。また、容器の上端部における間隔寸法となってしまい、本来、測定結果に影響するであろう容器内部での間隔寸法、つまり信頼できる偏心量を測定することができなかった。
本発明の目的は、円滑にかつ正確に偏心量を測定できる測定器、および、この測定器を用いた自動調心機構の性能を検査する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記目的を達成するためには、容器が自動調心された状態のままで、容器内部における偏心量を測定すること、および、測定の際、容器から離れた位置で測定器を遠隔操作することが、重要である点を発見した。さらに、発明者らは、既存の自動調心機構を備えた溶出試験器においても用いることができるように、既存の回転軸を積極的に利用することが重要であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかる測定器は、一端に開口を有する筒体の中心軸と、前記開口から筒体に挿入された軸体の中心軸との隔たりである偏心量を測定する。具体的には、測定器は、本体、測定手段および操作手段を備える。
まず、本体は、軸体に取り付けられ筒体に挿入されるようになっている。測定手段は、前記本体に設けられて前記軸体から前記筒体の内周面までの間隔寸法を測定する。操作手段は、前記測定手段に接続される基端、および前記筒体の外部に配置される先端を有し、先端から入力される操作駆動力を基端に伝達し、その操作駆動力によって前記測定手段を操作するようになっている。
ここで、測定手段は、複数のスピンドル、付勢部および保持部を有して構成されている。まず、複数のスピンドルは、前記軸体の中心軸に直交する面上において前記軸体の周囲に所定角度の間隔で放射状に配置されている。付勢部は、前記スピンドルの先端が前記本体の外側に突出するように、前記スピンドルを長軸方向に沿って付勢する。保持部は、前記スピンドルが前記付勢部の付勢によって前進しないように、前記スピンドルを後退させた状態で保持する保持位置、および、前記スピンドルを突出可能な状態に解除する解除位置、の2つの位置を取り得るとともに、前記操作駆動力によって前記2つの位置を変更自在に設けられている。
そして、前記本体を筒体に挿入した状態で、前記操作駆動力によって保持部を保持位置から解除位置に変更させると、前記複数のスピンドルが付勢によって前進して、前記スピンドルの先端が前記筒体の内周面に当接した状態となり、当該スピンドルの位置から前記間隔寸法を測定することを特徴とする。
【0009】
このような構成の測定器を用いて、測定者は、軸体から筒体の内周面までの間隔寸法を測定でき、その間隔寸法に基づいて筒体の中心軸と軸体の中心軸との偏心量を算出することができる。測定者は、操作手段を用いて測定手段を遠隔操作できるので、測定対象物である筒体および軸体に測定者の手などが触れにくくなり、測定のやり直しが生じなくなる。また、測定器を筒体の内部に挿入した状態での測定が可能となり、測定結果に影響するであろう筒体内部での偏心量を測定することができる。複数のスピンドルが設けられているので、筒体に軸体を挿入した後、さらに軸体を回転させなくても、軸体から放射状に複数の方向への間隔寸法を測定できる。このように、偏心量を円滑に、かつ、正確に測定することができる。
【0010】
また、本発明の測定器において、前記保持部は、前記軸体の中心軸周りを回転するリングにより構成されている。前記リングの内周には係合面が形成され、この係合面から前記軸体までの距離は、当該リングの内周に沿って連続的に変化するように設定されている。前記スピンドルには、前記付勢部の付勢によって前記係合面と係合するピンが固定されている。前記リングが前記保持位置にある状態では、前記係合面のうち当該係合面から前記軸体までの距離が最小となる部分に、前記ピンが係合するようになっている。
そして、前記リングが前記保持位置から解除位置まで回転すると、前記係合面から前記軸体までの距離が大きくなり、前記スピンドルが前記筒体の内周面に当接するまで前進することが好ましい。
【0011】
上記の測定器によれば、測定者が操作手段を用いてリングを回転させるだけで、スピンドルを前進させて、筒体の内周面に当接させることができる。このように、スピンドルの保持部を、ピンと係合する係合面を有したリングという簡単な構成にすることができ、かつ、保持部の操作も容易となる。また、リングの内周には、個々のスピンドルの移動に対応した形状の係合面を形成できるので、例えば複数のスピンドルの保持を同時に解除して前進させることもできる。また、スピンドルが容器と当接した状態では、ピンが係合面から離間した状態となるので、仮にピンと係合面との係合部分に摩耗が生じたとしても、測定結果には何ら影響を与えない。
【0012】
一方、本発明の自動調心機構の性能を検査する方法は、前記測定器を用いて、前記軸体の中心軸に対して前記筒体の中心軸を自動的に調心する自動調心機構の性能を検査する方法である。ここで、前記筒体は、垂直な中心軸を有し、水平方向に移動可能に支持されている。前記自動調心機構は、前記軸体に対して同軸となる蓋を有し、当該蓋には、上端径よりも小さい下端径を有するテーパ部が形成されている。
検査において、前記軸体を前記筒体に挿入する際、前記蓋を前記軸体と一緒に下降させて前記筒体の開口を覆う。同時に、前記テーパ部と前記開口との当接により、前記筒体を水平方向に移動させて、前記筒体の中心軸を前記軸体の中心軸に一致させる。そして、前記蓋が前記筒体の開口を覆った状態のまま、前記軸体に取り付けた前記測定器により前記偏心量を測定することを特徴とする。
【0013】
このような方法によれば、筒体を覆う蓋によって筒体が自動調心された状態で、測定器により偏心量を測定できる。蓋が筒体を水平方向に移動しないように保持しているので、測定中に筒体が移動してしまうことがない。従って、偏心量を円滑に、かつ、正確に測定することができる。
【0014】
また、本発明の自動調心機構の性能を検査する方法では、前記筒体は、試験液および試料を入れる容器であり、前記軸体は、下降して前記容器に挿入され、下端に設けられた攪拌手段を回転自在に支持する回転軸であり、前記自動調心機構は、前記容器内の試験液を前記攪拌手段により攪拌し、所定の分析法を用いて溶出した試料の有効成分量を測定する溶出試験器に用いられることが好ましい。
【0015】
このような方法において、測定器を回転軸に取り付けた状態で、蓋とともに回転軸を容器に挿入すると、蓋のテーパ部と容器の開口の内縁との当接により、容器の中心軸が自動調心される。そして、容器の蓋によって容器が保持された状態のまま、測定器により偏心量を測定する。従って、容器が自動調心された状態で、回転軸の中心軸と容器の中心軸との偏心量を測定することが可能となり、偏心量を円滑に、かつ、正確に測定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の測定器、および、この測定器を用いた自動調心機構の性能を検査する方法によれば、前述したように、筒体の中心軸と軸体の中心軸との偏心量を円滑に、かつ、正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態にかかる溶出試験器の自動調心機構の性能を検査する方法の説明図であり、(A)は自動調心前を示し、(B)は自動調心した状態を示し、(C)は偏心量を測定する方法を示す。
【図2】前記検査に用いる測定器の外形を示す斜視図である。
【図3】(A)は前記測定器の平面図であり、(B)は側面図である。
【図4】前記測定器の縦断面図である。
【図5】前記測定器における保持部の回転動作の説明図であり、(A)は縦断面図、(B)は平面図である。
【図6】前記測定器における保持部とスピンドルの位置関係を説明する図であり、(A)は保持部の保持位置を示す平面図、(B)は保持部の解除位置を示す平面図である。
【図7】前記スピンドルの支持構造を説明する縦断面図である。
【図8】前記スピンドルの動作を説明する平面図である。
【図9】前記測定器における表示手段の動作説明図であり、(A)は平面図、(B)は縦断面図である。
【図10】図9(A)の矢視A−Aで示す縦断面図である。
【図11】従来の溶出試験器の自動調心機構の性能を検査する方法の説明図であり、(A)は自動調心前を示し、(B)は自動調心した状態を示す。
【図12】従来の検査方法の説明図であり、(A)は自動調心後に容器を固定した状態を示し、(B)は偏心量を測定する方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。
本発明の一実施形態にかかる溶出試験器の概略構成を図1に示す。
同図(A)に示す溶出試験器10は、前述の図11に示す従来の溶出試験器と基本的な構造は同じであるが、容器13の中心軸C1と回転軸15の中心軸C2との偏心量を測定する際、回転軸15に取り付けられた測定器30が容器13に挿入されている点が相違する。本実施形態では、パドル法による溶出試験について説明するが、パドル14に代えてバスケットを用いた回転バスケット法による溶出試験にも適用できる。
【0019】
溶出試験器10は、恒温水槽11と、恒温水槽11の水槽蓋12と、ベッセルと呼ばれる容器13と、容器13の蓋20と、攪拌手段であるパドル14と、パドル14を回転自在に支持する回転軸15と、回転軸15を駆動する図示しない電動機と、を備える。溶出試験の際、容器13内を所望温度に維持するための恒温水が恒温水槽11に入れられる。
【0020】
容器13は、本発明の一端に開口を有する筒体に相当し、半円球底を有する円筒の容器本体17と、容器本体17の上端全周から外方に張り出すように形成された外向きフランジ18とを有する。外向きフランジ18には、薬剤及び試験液を入れるための開口19が形成されている。
容器13は、水槽蓋12に形成された円形の保持孔16に上方から挿入され、恒温水槽11内の恒温水中に容器本体17の所望部分が沈んだ状態で保持されるようになっている。保持孔16の内径寸法は、容器本体17の水平方向の外径寸法よりも大きく、外向きフランジ18の外形寸法よりも小さい。これにより容器13は、その中心軸C1が垂直となるように、かつ、水平方向に移動可能となるように保持される。
【0021】
容器13には、試験液の蒸発を防止するために円形の蓋20がされる。蓋20は、ヘッド21に取り付けられた移動軸22によって支持され、回転軸15に対し同軸となっている。蓋20は、パドル14とともに昇降可能で、パドル14が下降して容器13内に挿入されると蓋20が開口19を覆うようになっている。蓋20には、上端径よりも小さい下端径を有するテーパ部23が形成されている。従って、図1(B)のように、蓋20が開口19を覆う際、テーパ部23が開口19の内縁と当接するので、容器13が回転軸15と直交する面内を水平方向に移動する。これによって、容器13の中心軸C1が回転軸15の中心軸C2に一致するように自動的に調心される。また、蓋13には、垂直方向に貫通するノズル孔24が形成され、通常は、試験液を採取する吸引ノズルを挿入するために用いられる。同図のように偏心量を測定する際には、ノズル孔24には後述する測定器30のフレキシブルシャフト33が挿通される。
【0022】
回転軸15は、図示しない昇降機によって昇降自在に支持されたヘッド21の下部から垂下され、ヘッド21の昇降によって容器内に挿通可能となっている。また、回転軸15の下端にはパドル14が固定され、パドル14を回転させて容器内を攪拌する。電動機は、ベルトを介して回転軸15を駆動するようになっている。
【0023】
測定器30は、パドル30よりも上方、かつ蓋20よりも下方の位置において、回転軸15に取り付けられている。測定器30は、容器13の中心軸C1と、容器13の開口19から挿入された回転軸15の中心軸C2との隔たりである偏心量を測定するものである。測定器30は、回転軸15に取り付けられた状態で容器に挿入され、図1(C)のように容器が自動調心された後、すぐに偏心量を測定できるようになっている。
【0024】
図2に示すように、測定器30は、本体であるケース31、操作手段としてのフレキシブルシャフト32、ケースの表面に設けられた表示手段33、および、ケースに内蔵された測定手段34を備える。
ケース31の全体形状は、容器13の内径よりも小さい外径を有する円盤状である。中央部にはケース31の中心軸に沿って貫通する取付孔35が形成されている。偏心量の測定の際、この取付孔35に回転軸15を挿入し、ケース31を回転軸15の所望の高さ位置に固定することができる。従って、容器13の中心軸C1に沿って所望の高さにおける偏心量の測定が可能となる。
【0025】
フレキシブルシャフト32は、図2のように測定手段34に接続される接続部36を基端に備え、測定者によって回転操作される操作ツマミ37を先端に備え、接続部36と操作ツマミ37とを連結し操作ツマミ37から入力される回転力を接続部に伝達する伝達部38を備えている。測定者が操作ツマミ37を回転させることで、操作ツマミ37に操作駆動力が入力されると、ケース31に内蔵されたスピンドル51が移動するようになっている。図1(A)のように回転軸15に取り付けられた状態では、伝達部32が蓋20のノズル孔24に挿通され、操作ツマミ37が容器13の外部に配置される。
【0026】
表示手段33は、図3(A)のように、取付孔35周りの4箇所に配置された円形の目盛板41を含んで構成されている。各目盛板41には、偏心量を示す目盛線および数値が円周に沿って表示されている。本実施形態では、48.6mm〜51.5mmの範囲の偏心量が表示可能である。回転自在に支持された目盛板41に対して、ケース31に固定された目印部材42が、隣接して設けられている。目印部材42には、目盛板41に表示される目盛を指すマーク43が表示されている。これらの目盛板41は、図3(B)のように、ケース31に固定された透明カバー39に覆われている。
【0027】
測定手段34は、図1(C)のように容器13に挿入された状態で、回転軸15から容器13の内周面25までの間隔寸法を測定するものである。図4に示すように、測定手段34は、複数のスピンドル51、付勢部であるコイルばね52、保持部であるリング53を有して構成されている。
複数のスピンドル51は、中心軸C2に直交する面上において中心軸C2の周囲に所定角度の間隔で放射状に配置されている。本実施形態では、中心軸C2を中心に90度間隔で4方向にそれぞれスピンドル51が配置され、図3(A)に示すように、スピンドル51の先端部分がケース31の外側に突出するようになっている。
【0028】
以降、図5〜図10をも参照して、測定器30の詳細な構成について説明する。
図5(A)において、フレキシブルシャフト32の接続部36は、ケース31に回転自在に支持された第1の歯車54に接続される。この第1の歯車54は、リング53の外周に形成された歯列55と噛合する。
リング53は、中心軸C2周りに回転自在に支持された内カム付きの第2歯車である。同図(B)にて、リング53の内周には、スピンドル51に固定されたピン56と係合する係合面57が形成されている。この係合面57から中心軸C2までの距離は、当該リング53の内周に沿って連続的に変化するように設定されている。具体的には、係合面57は、保持面58および解除面59に区分されており、内周に沿って保持面58と解除面59とが交互に形成されている。保持面58は、内周に沿って4箇所、図5(B)では中心軸C2から上下左右の各方向に位置する4箇所に形成されている。保持面58から中心軸C2までの距離は4箇所とも同じである。また、保持面58は、外側に窪んだ形状となっており、同図に示すようにピン56を保持しやすくなっている。
【0029】
一方、解除面59は、隣り合う保持面58の間に、保持面58に連続して形成されている。隣り合う保持面58の中間位置において、解除面59から中心軸C2までの距離は最大となる。そして解除面59の中間位置から両隣りの保持面59に向けて、解除面59から中心軸C2までの距離が小さくなっている。
【0030】
図6(A)において、スピンドル51は、ケース31によって長軸方向に移動自在に支持され、長軸方向に直交して嵌め込まれたピン56を有する。ピン56の先端はスピンドル51からリング53側に突出し、リング53の係合面57と係合する。スピンドル51は、先端がケース31の外側に突出するようにコイルばね52によって長軸方向に付勢されている。このためスピンドル51に固定されたピン56も常に係合面57に当接した状態となる。図6(A)ではリング53が保持位置にあり、係合面57から中心軸C2までの距離が最小となる部分、すなわち保持面58にピン56が係合している。保持位置においてリング53は、付勢によるスピンドル51の移動を規制し、スピンドル51を後退位置に保持する。
【0031】
図6(B)は、リング53を45度回転させて、リング53が解除位置にある状態を示す。リング53の回転によって、係合面57から中心軸C2までの距離が大きくなり、スピンドル51が付勢によって前進し、スピンドル51の先端が容器の内周面25に当接した状態となっている。このようにリング53は、スピンドル51を後退させた状態で保持する保持位置と、スピンドル51を突出可能な状態に解除してスピンドル51を前進させる解除位置との2つの位置を取り得るように設けられている。また、リング53は、フレキシブルシャフト32から第1の歯車54を介して伝達された操作駆動力によって回転し、保持位置および解除位置を変更自在に設けられている。
【0032】
図7に示すようにスピンドル51の先端は、ケース31の外周に形成された孔81に挿通され、スピンドル51の基端は、取付孔35の周囲に形成された横穴82に挿通されている。横穴82には予めコイルばねが収納されている。スピンドル51の中央部分の表示手段側(図中の上側)には、凹部61が形成され、この凹部61にラック44がネジ止めされている。なお、ピン56はラック44とスピンドル51とを貫通するように固定されている。ラック44は、図8にも示すように矩形の板状で、一方の側面に歯列45を有する。ケース31には、ラック44と噛合するピニオン46が回転自在に支持されている。
【0033】
図9(A)、(B)に示すように、ピニオン46には、扇形の第3の歯車47が固定され、扇形の略中央部分を回転軸としてピニオン46と一体で回転自在に支持されている。扇形の円弧部分には歯列48が形成されている。この歯列48には、目盛板41の回転軸に取り付けられた第4の歯車49が噛合している。なお、扇形の第3の歯車47は、円弧部分とは異なる一方の側面を板ばね83によって付勢されている。つまり、図9(A)にて反時計周りの回転力が第3の歯車47に予圧されている。
図10にも示すように、ラック44およびピニオン46に対して、扇形の第3の歯車47および第4の歯車49は回転軸15の軸方向にオフセットした位置に配置され、さらに、オフセットした位置に41目盛板が配置されている。
【0034】
以上に示す構成の測定器30を用いて、回転軸15の中心軸C2に対する容器13の中心軸C1の自動調心機構の性能を検査する手順について説明する。
まず、測定器30を回転軸15に取り付け、リング53を保持位置にした状態で、容器13の蓋20とともに回転軸15を下降させて測定器30を容器13に挿入する。その際、蓋20のテーパ部23と開口19の内縁との当接により、容器13が水平方向に移動して、容器の中心軸C1と回転軸の中心軸C2との調心が実行される(図1(A)、(B))。
次に、蓋20によって容器13が水平方向に移動しないように保持された状態で、回転軸15に取り付けた測定器30により偏心量を測定する(図1(C))。
偏心量の測定では、操作ツマミ37を回して、リング53を保持位置から解除位置まで回転させると、中心軸C2から係合面57までの距離が大きくなり、複数のスピンドル51が同時に付勢によって前進する。そして、スピンドル51の先端が容器13の内周面25に当接した状態となる(図6(B))。
【0035】
スピンドル51が前進すると、ラック44とピニオン46の噛合によってピニオン46が回転し、扇形の歯車47を介して目盛板41が回転する(図9(A))。このようにスピンドル51の移動に応じて目盛板41が回転するので、測定者はマーク43が指し示す目盛を読み取って、回転軸15の中心軸C2から容器13の内周面25までの間隔寸法を取得することができる。なお、通常、容器13は透明な部材で形成されており、測定器30の目盛板41を覆うカバーも透明であるので、測定者は容易に目盛板41の目盛を読み取ることができる。
【0036】
このような構成の測定器30を用いれば、測定者は、容器13を覆う蓋20によって容器13を自動調心した状態で、回転軸15から容器13の内周面25までの間隔寸法を取得でき、その間隔寸法に基づいて容器13の中心軸C1と回転軸15の中心軸C2との偏心量を算出することができる。蓋20が容器13を水平方向に移動しないように保持するので、測定中に容器13が移動してしまうことがなくなり、偏心量を円滑に、かつ、正確に測定することができる。
【0037】
また、測定者は、フレキシブルシャフト32を用いて遠隔操作でリング53を回転させることができ、測定対象物に測定者の手などが触れにくくなり、測定のやり直しが生じなくなる。
また、測定器30を容器13の内部に挿入した状態での測定が可能となり、測定結果に影響するであろう容器13内部における偏心量を測定することができる。
また、スピンドル51を複数箇所に設けたので、容器13に測定器30を挿入した後、さらに回転軸15を回転させて測定器30の方向を変えなくても、回転軸15から放射状に複数の方向への間隔寸法を同時に測定できる。
【0038】
さらに、リング53を回転させるだけで、スピンドル51を後退位置から前進させて、容器13の内周面25に当接させることができる。本実施形態では、4本のスピンドル51が同時に保持状態を解除され前進できるように係合面57を形成した。従って、リング53を、ピン46と係合する係合面57を有する簡単な構成のカム機構とすることができ、かつ、リング53の操作も容易となる。また、スピンドル51が容器13と当接した状態では、ピン46が係合面57から離間した状態となるので、仮にピン46と係合面57との係合部分に摩耗が生じたとしても、測定結果には何ら影響を与えない。
また、スピンドル51の先端を容器13の内周面25に当接させた状態でのスピンドル51の進退位置に基づく、間隔寸法が目盛板41に表示されるので、ノギスやスケールによる測定に比べて正確な偏心量を取得できる。
【0039】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
例えば、溶出試験器であれば、自動調心機構を備えたものに限らず、単に容器の中心軸と攪拌用の回転軸との偏心量を測定する場合においても、本発明の測定器を有効に用いることができる。また、溶出試験器に限らず、少なくとも筒体と筒体に挿入される軸体との偏心量を測定する際にも有効に利用できる。
【0040】
また、測定器には、スピンドルの保持部として内カムを有するリングを用いた場合を説明したが、これに限られない。保持部としては、スピンドルが付勢部の付勢によって前進しないように、スピンドルを後退させた状態で保持する保持位置、および、スピンドルを突出可能な状態に解除する解除位置、の2つの位置を取り得る部材であって、操作手段によって2つの位置を変更自在に設けられたものであればよい。
また、操作手段はフレキシブルシャフトに限られず、少なくとも遠隔操作によって容器の外部から容器内の保持部を移動できるものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の測定器は、筒体の中心軸と筒体に挿入される軸体との隔たりである偏心量を測定する場合に広く利用できる。例えば、溶出試験器に用いられる容器を自動調心した際、容器の中心軸と攪拌用の回転軸との偏心量を測定して溶出試験器の品質を検査する場合に有効である。また、容器などが蓋によって密閉された状態での偏心量の測定にも利用できる。また、密閉された容器内での中心位置を測定する場合にも応用できる。
【符号の説明】
【0042】
10 溶出試験器
13 容器(筒体)
14 パドル(攪拌手段)
15 回転軸(軸体)
19 容器の開口
20 容器の蓋
23 テーパ部
25 容器の内周面
30 測定器
31 ケース(本体)
32 フレキシブルシャフト(操作手段)
34 測定手段
51 スピンドル
52 コイルばね(付勢部)
53 リング(保持部)
56 ピン
57 係合面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に開口を有する筒体の中心軸と、前記開口から筒体に挿入された軸体の中心軸との隔たりである偏心量を測定する測定器であって、
前記軸体に取り付けられ前記筒体に挿入される本体と、
前記本体に設けられて前記軸体から前記筒体の内周面までの間隔寸法を測定する測定手段と、
前記測定手段に接続される基端、および前記筒体の外部に配置される先端を有し、先端から入力される操作駆動力を基端に伝達して、前記操作駆動力によって前記測定手段を操作する操作手段と、を備え、
前記測定手段は、
前記軸体の中心軸に直交する面上において前記軸体の周囲に所定角度の間隔で放射状に配置された複数のスピンドルと、
前記スピンドルの先端が前記本体の外側に突出するように、前記スピンドルを長軸方向に沿って付勢する付勢部と、
前記スピンドルが前記付勢部の付勢によって前進しないように、前記スピンドルを後退させた状態で保持する保持位置、および、前記スピンドルを突出可能な状態に解除する解除位置、の2つの位置を取り得るとともに、前記操作駆動力によって前記2つの位置を変更自在に設けられた保持部と、を有して構成され、
前記本体を筒体に挿入した状態で、前記操作駆動力によって保持部を保持位置から解除位置に変更させると、前記複数のスピンドルが付勢によって前進して、前記スピンドルの先端が前記筒体の内周面に当接した状態となり、当該スピンドルの位置から前記間隔寸法を測定することを特徴とする測定器。
【請求項2】
請求項1記載の測定器において、前記保持部は、前記軸体の中心軸周りを回転するリングにより構成され、
前記リングの内周には係合面が形成され、この係合面から前記軸体までの距離は、当該リングの内周に沿って連続的に変化するように設定され、
前記スピンドルには、前記付勢部の付勢によって前記係合面と係合するピンが固定され、
前記リングが前記保持位置にある状態では、前記係合面のうち当該係合面から前記軸体までの距離が最小となる部分に、前記ピンが係合し、
前記リングが前記保持位置から解除位置まで回転すると、前記係合面から前記軸体までの距離が大きくなり、前記スピンドルが前記筒体の内周面に当接するまで前進することを特徴とする測定器。
【請求項3】
請求項1または2記載の測定器を用いて、前記軸体の中心軸に対して前記筒体の中心軸を自動的に調心する自動調心機構の性能を検査する方法であって、
前記筒体は、垂直な中心軸を有し、水平方向に移動可能に支持され、
前記自動調心機構は、前記軸体に対して同軸となる蓋を有し、当該蓋には、上端径よりも小さい下端径を有するテーパ部が形成され、
前記軸体を前記筒体に挿入する際、前記蓋を前記軸体と一緒に下降させて前記筒体の開口を覆うと同時に、前記テーパ部と前記開口との当接により、前記筒体を水平方向に移動させて、前記筒体の中心軸を前記軸体の中心軸に一致させ、
前記蓋が前記筒体の開口を覆った状態のまま、前記軸体に取り付けた前記測定器により、前記間隔寸法を測定することを特徴とする自動調心機構の性能を検査する方法。
【請求項4】
請求項3記載の自動調心機構の性能を検査する方法において、
前記筒体は、試験液および試料を入れる容器であり、
前記軸体は、下降して前記容器に挿入され、下端に設けられた攪拌手段を回転自在に支持する回転軸であり、
前記自動調心機構は、前記容器内の試験液を前記攪拌手段により攪拌し、所定の分析法を用いて溶出した試料の有効成分量を測定する溶出試験器に用いられることを特徴とする自動調心機構の性能を検査する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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