測定装置
【課題】測定対象物の位置を高精度に測定する測定装置を低コストで提供する。
【解決手段】変調部によって第1周波数で変調された基準光からデジタル基準信号を取得し、前記第1周波数で変調された光が照射された測定対象物から反射された測定光からデジタル測定信号を取得し、前記デジタル基準信号と前記デジタル測定信号とを処理して前記測定対象物の位置を測定する装置は、前記デジタル測定信号に前記デジタル基準信号と同期したサイン信号又はコサイン信号を乗算して、第2周波数および高調波の成分を有する信号をそれぞれ出力する第1および第2同期検波部と、前記第1又は第2同期検波部から出力された信号をデシメーション周波数でフィルタリングして前記高調波の成分を減衰させる第1および第2デシメーションフィルタと、前記第1および第2デシメーションフィルタから出力された信号に基づいて前記測定対象物の位置を演算する演算部とを備える。
【解決手段】変調部によって第1周波数で変調された基準光からデジタル基準信号を取得し、前記第1周波数で変調された光が照射された測定対象物から反射された測定光からデジタル測定信号を取得し、前記デジタル基準信号と前記デジタル測定信号とを処理して前記測定対象物の位置を測定する装置は、前記デジタル測定信号に前記デジタル基準信号と同期したサイン信号又はコサイン信号を乗算して、第2周波数および高調波の成分を有する信号をそれぞれ出力する第1および第2同期検波部と、前記第1又は第2同期検波部から出力された信号をデシメーション周波数でフィルタリングして前記高調波の成分を減衰させる第1および第2デシメーションフィルタと、前記第1および第2デシメーションフィルタから出力された信号に基づいて前記測定対象物の位置を演算する演算部とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の位置を測定する測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
精密な機械加工や検査工程では、測定対象物の位置または変位をnm〜μmの精度で測定する必要があり、干渉計の原理を用いた測定装置が用いられることが多い。その中で、ヘテロダイン干渉計は、高精度な測長を行うために用いられている。ヘテロダイン干渉計は、周波数frで変調された基準信号と、周波数frで変調されかつ測定対象物の位置情報を含む測定信号とを検出する。この測定信号は、変調によるfrの周波数シフトに加え測定対象物の移動速度に応じたドップラーシフトによる周波数シフトfdを伴うため、測定信号の周波数は(fr±fd)となる。これら基準信号と測定信号の周波数の差を求めることにより±fdが検出される。±fdの周波数差を時間積分するにより位相差が算出され、算出された位相差から測定対象物の位置または変位が算出される。
【0003】
特許文献1には、従来のヘテロダイン干渉計が開示されている。このヘテロダイン干渉計は、ミキサーにより基準信号と測定信号とのビート周波数を生成し、その位相変化を時間計測して位置または変位を算出する。この場合、nmオーダの測定精度を得るにはpsオーダの時間計測が必要となるが、時間分解能の向上と安定性維持が難しく、測定精度の高精度化には限界があった。特許文献2には、時間計測に替えて、A/D変換器により干渉信号を検出するヘテロダイン干渉計が開示されている。特許文献2に開示のヘテロダイン干渉計は、例えば、120MHzのA/D変換器で基準信号と測定信号を検出し、10MHz毎にDFT(Discrete Fourier Transform:離散フーリエ変換)演算を行う。特許文献2に開示のヘテロダイン干渉計は、さらにCORDIC(Coordinate Rotation Digital Computer)演算を行い位相を算出して位置または変位を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−346305号公報
【特許文献2】特表2008−510170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘテロダイン干渉計による位相の検出では、psオーダの時間計測方式に替えて、基準信号と測定信号の高速A/D変換とデジタル信号処理により測定対象物の位置または変位を算出する方式が高精度化を実現する上で有利である。しかしながら特許文献2に開示されたヘテロダイン干渉計は、高速なA/D変換に加え、極めて高速且つ大規模なデジタル信号処理をリアルタイムで必要としていた。以下、その理由を述べる。一般に、DFTは膨大な演算量を必要とすることが知られ、N個のデータに対するDFTはN2回の複素数乗算とN×(N−1)回の複素加算が必要となる。例えば、N=72個のデータのDFTに要する複素数乗算は5184回、複素加算は5112回となる。この演算を10MHz毎に行うには、極めて高速なDSP(Digital Signal Processor)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)を用い、超高速乗算および加算の大規模並列演算が必要となる。そのため、特許文献2に開示のヘテロダイン干渉計では、デジタル信号処理部に高コスト、高発熱、高負荷演算を要する。
【0006】
これらの点に鑑み、本発明は、測定対象物の位置を高精度に測定する測定装置を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの側面は、変調部によって第1周波数で変調された基準光からデジタル基準信号を取得し、前記第1周波数で変調された光が照射された測定対象物から反射された測定光からデジタル測定信号を取得し、前記デジタル基準信号と前記デジタル測定信号とを処理して前記測定対象物の位置を測定する装置であって、前記測定光は、前記第1周波数での変調に加えて前記測定対象物の移動に起因して第2周波数で変調され、前記デジタル測定信号に前記デジタル基準信号と同期したサイン信号を乗算して前記第2周波数および高調波の成分を有する信号を出力する第1同期検波部と、前記デジタル測定信号に前記デジタル基準信号と同期したコサイン信号を乗算して前記第2周波数および高調波の成分を有する信号を出力する第2同期検波部と、前記第1同期検波部から出力された信号をデシメーション周波数でフィルタリングして前記高調波の成分を減衰させる第1デシメーションフィルタと、前記第2同期検波部から出力された信号を前記デシメーション周波数でフィルタリングして前記高調波の成分を減衰させる第2デシメーションフィルタと、前記第1デシメーションフィルタから出力された信号と前記第2デシメーションフィルタから出力された信号とに基づいて前記測定対象物の位置を演算する演算部と、を備え、前記第1周波数をfrとし、前記第2周波数をfdとし、前記デシメーション周波数をfmとするとき、前記高調波の周波数は(2fr±fd)で示され、前記第1周波数および前記デシメーション周波数は、fr=n×fm(ただし、nは1/4、2/4、3/4、4/4、5/4、・・・のいずれか)の関係を満たし、前記第1および第2デシメーションフィルタは、k×fm(ただし、k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2、・・・のいずれか)の周波数でゲインが減衰するノッチフィルタ特性で(2fr±fd)で示される周波数を有する前記高調波を減衰させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、測定対象物の位置を高精度に測定する測定装置を低コストで提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1における信号処理部の構成図である。
【図2】実施例2、3における信号処理部の構成図である。
【図3】実施例4における信号処理部の構成図である。
【図4】実施例1におけるPLLの構成図である。
【図5】実施例1におけるデシメーションフィルタの構成図である。
【図6】実施例1における位相演算部と位置演算部の構成図である。
【図7】実施例2におけるローパスフィルタの構成図である。
【図8】実施例1における位相演算部への入力信号波形、位相演算部の演算例の演算例である。
【図9】実施例1における位相演算部の演算例である。
【図10】実施例1におけるデシメーションフィルタの特性例である。
【図11】実施例2におけるデシメーションフィルタの特性例である。
【図12】実施例3におけるデシメーションフィルタの特性例である。
【図13】実施例1における位置誤差のシミュレーションの例である。
【図14】実施例2における位置誤差のシミュレーションの例である。
【図15】実施例3における位置誤差のシミュレーションの例である。
【図16】実施例3における位置誤差のシミュレーションの例である。
【図17】実施例2におけるローパスフィルタの特性例である。
【図18】測定装置の構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施例について、詳細に説明する。
【0011】
[実施例1]
図18は、ヘテロダイン干渉計を利用した本発明に係る測定装置の構成図である。光源300は、レーザ光源で、例えば、波長が632.8nmのHeNeレーザ、波長が640〜2880nmの半導体レーザであるDFBレーザやVCSELレーザにより構成される。光を変調する変調部400は、AOM(Acousto−Optic Modulator:音響光学変調器)等により構成される。信号処理部100から式1に基づく信号Vfrで変調部400を駆動することにより、変調部を出射するレーザ光はfrの第1周波数で変調を受ける。
Vfr=Va×sin(2π×fr×t)・・・(1)
【0012】
第1周波数frで変調されたレーザ光の一方は基準光P1として信号処理部100に入射する。第1周波数で変調されたレーザ光の他方は干渉計500に含まれる測定対象物に照射され測定対象物から反射された測定光P2として信号処理部100に入射する。測定光P2は、第1周波数での変調に加えて測定対象物の移動に起因するドップラーシフトによって第2周波数fdで変調される。基準光P1および測定光P2は、それぞれ式2、式3で表される。ただし、基準光強度をA、測定光強度をB、第1周波数をfr、第2周波数をfd、基準光の固定位相をθr、測定光の固定位相をθdとする。
P1=(A/2)×{sin(2π×fr×t+θr)+1}・・・(2)
P2=(B/2)×[sin{2π×(fr+fd)×t+θd}+1]・・・(3)
【0013】
第2周波数fdでの変調は、測定対象物の移動速度に応じて発生する変調であり、式4で表される。ただし、測定対象物の移動速度をv、光源の波長をλ、干渉計の構成により決まる次数をjとする。
fd = j×v/λ・・・(4)
ドップラーシフトによる第2周波数での変調は、測定対象物の移動方向に応じて+fd、または−fdの極性を有する。例えば、λ=1.55μmの光源を用い、v=1m/s、j=4の場合、fd=2.58MHzとなる。
【0014】
図1は、実施例1の信号処理部100の構成である。基準光P1および測定光P2は、それぞれ第1および第2受光器2,12により電流に変換される。第1および第2受光器2,12として、例えば、PINフォトダイオードやアバランシェフォトダイオード等が用いられる。第1および第2受光器2,12の出力は、第1および第2I/V変換器4,14に入力されて電圧に変換される。第1および第2I/V変換器4,14は、例えば、抵抗とOPアンプにより構成される。第1および第2I/V変換器4,14の出力は、第1および第2フィルタ6,16に入力される。第1および第2フィルタ6,16は、LPF(Low Pass Filter)として高帯域を制限するか、又は、基準光P1および測定光P2が交流信号であるため、直流をカットし高帯域を制限するBPF(Band Pass Filter)としてもよい。その場合、式2、式3は、直流成分がカットされ、交流信号であるサイン項のみが検出されるので、式5、式6のように変形される。
P1’=(A/2)×sin(2π×fr×t+θr)・・・(5)
P2’=(B/2)*sin{2π×(fr+fd)×t+θd}・・・(6)
【0015】
第1および第2フィルタ6,16の出力は第1および第2A/D変換器8,18に入力され、サンプリング周波数fspでサンプリングされてデジタル基準信号とデジタル測定信号とに変換される。このようにして取得されたデジタル信号は、デジタル信号処理部200に入力される。デジタル信号処理部200は、例えば、デジタル信号を高速に処理することが可能な、FPGAやASICやDSP等により構成される。FPGAは、Field Programable Gate Arrayの略称である。ASICは、Application Specific Integrated Circuitの略称である。DSPは、Digital Signal Processorの略称である。
【0016】
デジタル基準信号は、位相を同期するPLL(Phase Locked Loop)250に入力される。ここで、図4に基づいてPLL250の動作の説明を行う。デジタル基準信号は、位相比較器260に入力される。位相比較器260は、例えば、乗算器により構成される。位相比較器260の出力は、フィルタ演算部262に入力され、位相比較器260からの高調波を除去する。フィルタ演算部262の出力は積分演算部264に入力される。この積分演算部264による積分演算は、位相比較器260の出力偏差をゼロとするための積分制御用で、比例積分制御として安定な制御を行うよう構成してもよい。積分演算部264の出力は、加算器268に入力され、初期値266と加算される。初期値266は、第1周波数frに相当する初期値が設定されている。積分演算部270とサイン演算部272、および、積分演算部270とコサイン演算部274は、VCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)に相当するサイン信号とコサイン信号の生成部である。これらの動作は式7、式8で表される。ただし、積分演算部264の出力をVi、初期値266の出力をV0とする。
サイン信号=sin{∫(Vi+V0)dt}・・・(7)
コサイン信号=cos{∫(Vi+V0)dt}・・・(8)
【0017】
サイン演算部272およびコサイン演算部274は、例えば、予め求められたサインとコサインの値をテーブルとしてメモリに保存しておき、式7、式8の{ }内の値に応じてテーブルを参照してサイン信号とコサイン信号を生成するよう構成してもよい。サイン信号の振幅レンジを12bit、時間分解能を10bit(1024)とした場合に必要なメモリ容量は、12bit×1024=12.288kbitである。また、sin信号の振幅レンジを16bit、時間分解能を12bit(4096)とした場合に必要なメモリ容量は、16bit×4096=65.536kbitである。これらのメモリ容量は、FPGAやASIC、またはDSP等に内臓されているメモリを使用することにより容易に実現することができる。また、PLL250の演算は、乗算器および加算器ともに数個程度で実現できるため、デジタル信号処理の演算負荷は極めて低くすることが可能となる。
【0018】
コサイン演算部274の出力は位相比較器260にフィードバックされ、先に述べた積分演算部264により、位相比較器260の出力偏差がゼロとなるようにコサイン信号とサイン信号を生成する。出力偏差がゼロとなるため、デジタル基準信号と式7で与えられるサイン演算部272の出力P1_sinは、完全に周波数と位相が同期する。また、式8で与えられるコサイン演算部274の出力P1_cosは、位相が90度ずれた同期信号となり、式9、式10で表される。ただし、Vbは振幅である。
P1_sin=Vb×sin(2π×fr×t+θr)・・・(9)
P1_cos=Vb×cos(2π×fr×t+θr)・・・(10)
【0019】
次に、図1に戻り、デジタル信号処理部200の説明を続ける。PLL250で生成されたデジタル基準信号に同期したサイン信号P1_sinとコサイン信号P1_cosは、デジタル測定信号P2’に対し、第1同期検波部10および第2同期検波部20で乗算される。第1および第2同期検波器10,20は、例えば、乗算器で構成される。
【0020】
式6、式9、式10より第1および第2同期検波部10,20の出力は、それぞれ式11、式12で表される。
第1同期検波部10の出力
P2’×P1_sin = (B/2)×sin{2π×(fr+fd)×t+θd}×Vb×sin(2π×fr×t+θr)
=(B×Vb/4)×[cos(2π×fd×t+θd−θr)−cos{2π×(2fr+fd)×t+θd+θr}]・・・(11)
第2同期検波部20の出力
P2’×P1_cos = (B/2)×sin{2π×(fr+fd)×t+θd}×Vb×cos(2π×fr×t+θr)
=(B×Vb/4)×[sin(2π×fd×t+θd−θr)+sin{2π×(2fr+fd)×t+θd+θr}]・・・(12)
【0021】
式11、式12の各最終式右辺の第1項は、測定対象物の移動速度に応じて発生する第2周波数fdのコサイン成分とサイン成分である。また、式11、式12の各最終式右辺の第2項は、第1および第2同期検波部10,20で発生する(2fr+fd)の周波数の高調波のコサイン成分とサイン成分である。なお、デジタル測定信号がコサイン信号である場合は、第1同期検波部10の出力はサイン成分であり、第2同期検波部20の出力はコサイン成分となる。測定対象物の位置または変位を高精度に測定するには、第2周波数fdを正確に検出する必要がある。それに対して第1および第2同期検波部10,20で発生する(2fr+fd)の周波数の高調波は、第2周波数fdの測定精度を低下させる誤差要因である。
【0022】
ここで、サンプリング周波数fspについて考えてみる。第1および第2A/D変換器8,18のサンプリング周波数fspを高くすると、第1および第2A/D変換器8,18のコストが高くなり、発熱も増大する。また、後段のデジタル信号処理部200の信号処理周波数も高くなるため、同様にコストと発熱が増大する。従って、低コスト、低発熱とするにはサンプリング周波数fspを極力低下させる必要がある。例えば、14bit、100MHzサンプリングの場合、デジタル信号の処理は1.4Gbpsのビットレートとなる。サンプリング周波数をこれ以上速くした場合には、デジタル信号の処理を低コスト、低発熱とするのは難しい。
【0023】
一方、第1および第2A/D変換器8,18のサンプリング周波数fspは、サンプリング定理で知られているように、入力信号はfsp/2の周波数に制限されなければならない。しかしながら、本発明では、式11、式12で表されるように、デジタル測定信号と基準信号の乗算が行われ、その結果、第1および第2同期検波部10,20で周波数(2fr+fd)の高調波が発生する。測定対象物の最高移動速度で発生する第2周波数の最大値をfd_maxとし、第1および第2同期検波部10,20での乗算演算結果がデジタル信号処理におけるサンプリング定理を満たすには、下式13を満たすことが必要となる。
(2fr+fd_max)×2 ≦ fsp・・・(13)
【0024】
一方、周波数変調frは、下式14を満足しなければならない。
fd_max < fr・・・(14)
従って、式13、式14より、第1周波数frは、下式15を満たすように設定される。
fd_max < fr ≦ (fsp/2− fd_max)/2 ・・・(15)
【0025】
例えば、λ=1.55μm、v=1m/s、j=4、fd_max=2.58MHz、fsp=100MHzの場合、2.58MHz < fr ≦ 23.71MHzとなる。
第1周波数frを2.58MHz以下に設定すると測定対象物の移動速度が速い場合に位置または変位の検出ができなくなる。一方、第1周波数frが23.71MHzより大きいと、第1および第2同期検波部10,20による周波数(2fr+fd)の高調波の折り返し誤差が発生して第1周波数fdの検出精度を低下させる。例えば、fr=20MHzに設定した場合、fd_max=2.58MHzに対し、(2fr+fd_max)=42.58MHzとなり、fsp=100MHzで検出精度を損なうことなく動作可能となる。
【0026】
第1および第2同期検波部10,20の出力は第1デシメーションフィルタ30および第2デシメーションフィルタ50に入力される。第1および第2デシメーションフィルタ30,50は、デジタル信号処理の演算負荷を低下させるため、デシメーション周波数でフィルタリングして、第1および第2同期検波部10,20で発生した周波数(2fr+fd)の高調波を減衰させる。
【0027】
ここで、図5に基づいて第1および第2デシメーションフィルタ30,50の動作の説明を行う。第2デシメーションフィルタ30,50は、サンプリング周波数fspで動作する積分演算とデシメーション周波数fmで動作する微分演算により構成されるCICフィルタ(Cascaded Integrator−Comb Filter)であってもよい。この場合の第1および第2デシメーションフィルタ30,50の伝達関数は下式16で与えられる。ここで、H(f)はデシメーションフィルタの伝達関数、Dは遅延差(1または2)、mはデシメーション比(2以上の整数)、Nは積分器と微分器の段数である。
|H(f)| = |{sin(π×D×f/fsp)/sin(π×f/fsp/m)}N|・・・(16)
【0028】
図5では、N=2の場合のCICフィルタの構成が示されている。ここでD=2、m=5、N=3とした場合のCICフィルタの特性例を図10に示す。fsp=100MHzであるが、この場合にデジタル信号処理できる信号周波数は50MHzであるため、横軸はサンプリング周波数100MHzに対して実際にデジタル信号処理される信号周波数との比を正規化周波数として表している。m=5より、デシメーション周波数fm=20MHzとなるが、この場合にデジタル信号処理される信号周波数はデシメーション周波数の1/2である10MHzとなる。このため、図10では、正規化周波数=0.1、即ち10MHzでゲインが急激に減衰するノッチ特性が現れる。CICフィルタのノッチ特性は、k×fmで表され、k=1/2の10MHzの他、k=1の20MHz、k=3/2の30MHz、k=4/2の40MHz、k=5/2の50MHzで発生する。
【0029】
実施例1では、第1周波数frおよびデシメーション周波数fmは、n×fm(n=1/4、2/4、3/4、4/4、5/4、・・・のいずれか)の関係を満たすように設定される。なお、第1周波数frは、式n×fmで求められた周波数に対して±30%の許容範囲を有している。例えば、fm=20MHzの場合、n=1/4であるfr=5MHz、またはn=2/4である10MHz、またはn=3/4である15MHz、またはn=4/4である20MHz、に設定される。尚、式15より、fr ≦ 23.71MHz であるため、n=5/4である25MHzには設定されない。図10には、fr=20MHz、fd=2.58MHzの場合が記されている。第1および第2同期検波部10,20による高調波の周波数は、(2fr+fd)=40±2.58MHzとなり、CICフィルタのノッチ特性で効率的に除去されることが分かる。従って、周波数変調frをn×fm(n=1/4、2/4、3/4、4/4、5/4・・・)の近傍となるよう設定する。そうすると、周波数(2fr±fd)の高調波を第1および第2デシメーションフィルタ30,50のk×fm(k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2・・・)におけるノッチフィルタ特性により極めて効率よく減衰させることが可能となる。これにより高速且つ高次数のデジタルフィルタを用いることなく高精度に測定対象物の移動速度に応じた第2周波数±fdを検出することができる。また、CICフィルタ以降の演算は、デシメーション周波数fm=20MHzで行われるため、デジタル信号処理の演算負荷を低減することが可能となる。
【0030】
図5には2段の積分器と2段の微分器を有するCICフィルタが示されているが、積分器と微分器がシリーズに接続されたsincフィルタがN段シリーズに接続された構成であってもよい。また、m個のサンプリング値を平均化して周波数fm毎に出力する平均化フィルタであってもよい。これらのフィルタにおいても、周波数(2fr±fd)の高調波を第1および第2デシメーションフィルタ30,50のk×fm(k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2・・・)におけるノッチフィルタ特性により極めて効率よく減衰させることが可能となる。
【0031】
次に、図1に戻り、デジタル信号処理部200の説明を続ける。第1および第2デシメーションフィルタ30,50の出力は、位相演算部60に入力され、位相演算部60の出力は位置演算部70に入力される。ここで、図6に基づき位相演算部60および位置演算部70の動作を説明する。先ず、対象物の移動速度に応じて発生する変調の第2周波数fdがデシメーション周波数fmに対し、fm≧4×fdの場合について説明する。アークタンジェント演算部61は、第1および第2デシメーションフィルタ30,50からの信号より下式17のアークタンジェント演算を行う。
位相角
=tan−1[(B×Vb/4)×sin(2π×fd×t+θd−θr)
/{(B×Vb/4)cos(2π×fd×t+θd−θr)}]
=tan−1 {sin(2π×fd×t+θd−θr)
/cos(2π×fd×t+θd−θr)}・・・(17)
【0032】
ここで、第1および第2デシメーションフィルタ30,50からのサイン信号とコサイン信号は、図8Aに示すような信号である。領域1はサイン信号が第1象限にあり、領域2は第2象限、領域3は第3象限、領域4は第4象限にあることを表す。また、矢印Aと矢印Bは、測定対象物の移動方向を表す。A方向の場合にサイン信号は、領域1⇒領域2⇒領域3⇒領域4⇒領域1⇒領域2・・・となり、B方向の場合にサイン信号は、領域1⇒領域4⇒領域3⇒領域2⇒領域1⇒領域4・・・となる。
【0033】
tanの値は、図8Bに示すように±π/2毎に無限大となり極性が反転し、不連続となる。A方向の場合は、サイン信号が第1象限と第2象限との境界をまたぐときに極性が反転し、同様に第3象限と第4象限との境界をまたぐときに極性が反転する。B方向の場合は、第4象限から第3象限となるときに極性が反転し、同様に第2象限から第1象限となるときに極性が反転する。
【0034】
これより、式17の計算をそのまま行っただけでは、図9Aに示すように±π/2の間を往復する鋸歯状波となる。測定対象物の移動速度に応じて発生する第2周波数fdでの変調の周期をTdとすると、繰り返し周期は、Td/2となる。この位相角の±π/2の鋸歯状波を連続する信号とするため以下の動作を行う。
【0035】
図6の象限判定部62は、コサイン信号およびサイン信号の正負に基づいてコサイン信号およびサイン信号の象限を判定する。方向判定部63は、象限判定部62により判定された象限の推移から測定対象物の移動方向を判定する。位相補正部64は、象限判定部62及び方向判定部63の判定結果に基づいて、コサイン信号及びサイン信号が第1象限および第2象限の境界、第3象限および第4象限の境界をまたぐたびにtan−1演算部61からの出力に+πまたは−πを加算する。図8Aと図8Cを基にして説明すると、例えば、サイン信号が正でコサイン信号も正の場合は、サイン信号は第1象限に存在すると象限判定される。サイン信号が引き続き正で、コサイン信号が負となった場合は、サイン信号が第2象限に存在すると判定される。この時、方向判定部63は移動方向をA方向と判定する。サイン信号が第1象限から第2象限に移動すると、式17の計算結果は、+π/2 → −π/2となる。位相補正部64は、方向判定部63からの移動方向情報より+πシフトを判定して実行する。引き続き、サイン信号が負となり、コサイン信号が負であるとサイン信号が第3象限に存在すると象限判定される。次に、サイン信号が負で、コサイン信号が正となった場合は、サイン信号が第4象限に存在すると象限判定される。この場合も方向判定部63は移動方向をA方向と判定し、位相補正部64にて、+πシフトを判定して実行する。移動方向がB方向である場合にも同様の動作により、象限判定と方向判定と±πシフトの判定により−πのシフトが実行される。これらの動作は、図8Cに示すように、サイン信号とコサイン信号の極性より象限を判定し、例えば、コサイン信号の極性の変化より移動方向を判定し、方向判定より±πシフトの判定と実行を行う。
【0036】
図6の位置演算部70は、位置変換係数72と乗算器71、およびオフセット74と加算器73により位相を位置または変位に変換する。例えば、測定対象物の位置または変位Lは、式4より下式18となる。ただし、θは位相角である。
L = (λ/j)×∫(fd)dt
= {(λ/j)/(2π)}×θ・・・(18)
【0037】
位置変換係数(λ/j)は、式18より、λ=1.55μm、j=4の場合、(λ/j)=387.5nmである。これは、位相角の出力θ=2πのときにL=387.5nmの位置または変位となることを表す。オフセット74は、光学的、電気的、または測定対象物のメカ的なオフセット値を予め計算するか、計測しておき、その値を設定して位置または変位のオフセットを補正する。位相演算部60および位置演算部70は、第1および第2デシメーションフィルタ30,50からそれぞれ出力されたコサイン信号とサイン信号とに基づいて測定対象物の位置を演算する演算部を構成している。
【0038】
これら位相演算部60および位置演算部70の動作により、例えば、一定速度で移動する測定対象物の位置または変位の測定出力は図9Bに示すようになる。先に述べた図9Aのような周期Td/2、即ち、2×fdの周波数を有する±π/2の鋸歯状波ではなく、位置が直線的に増加する特性となる。
【0039】
次に、対象物の移動速度に応じて発生する変調の第2周波数fdがデシメーション周波数fmに対し、4×fd>fm≧2×fd_maxの場合について説明する。通常、サイン信号を4象限のうちどの象限に存在するかを判定するために、第2周波数fdに対して最低4つのサンプリングデータが必要となる。例えば、図8Cにおいて、第2周波数fdに対して2つのサンプリングデータしかない場合、最初のデータが第1象限にあったとすると、A方向に移動している場合は、次は第3象限のデータがサンプルされる。しかし、B方向に移動している場合でも次のデータは第3象限のデータとなってしまい、測定対象物がどちらの方向に移動しているのか判別不可能になってしまう。
【0040】
そこで、本発明では、4×fd>fm≧2×fd_maxの場合は、象限判定部62にて象限判定を行い、方向判定部63はfm≧4×fdにおける移動方向の判定結果を用い、位相補正部64にて位相シフトの判定と位相シフトを行うよう構成する。このように、移動方向の判定はfm≧4×fdの場合での移動方向の判定結果を使用するため、4×fd>fm≧2×fd_maxの間は方向判定を行う必要がない。位相補正部64は方向判定部63からの信号に基づき±πシフトを判定し、加算器65にてtan−1演算部61からの出力に+πまたは−πを加算する。これらの動作により、測定対象物の移動速度に応じて発生する第2周波数fdがデシメーション周波数fmに対して4×fd>fm≧2×fd_maxの場合であっても測定対象物の位置または変位を測定することができる。図1のタイミング生成部80は設定されたサンプリング周波数fsp、第1周波数fr、デシメーション周波数fmを生成し、各部に信号を供給する。
【0041】
実施例1に基づくシミュレーション結果を図13A、13Bに示す。図13Aは、λ=1.55μm、v=0.025m/s、j=4、fsp=100MHz、fr=20MHz、fm=20MHz、fd=64.5kHzの場合の位置誤差特性である。位置誤差はλ/1550=1nmより十分小さく、測定対象物が比較的低速で移動している場合に極めて高精度な位置測定が可能となることを示している。図13Bはv=1m/s、fd=2.58MHzの場合で、同様に位置誤差は1nmより十分小さく、測定対象物が高速に移動している場合においても極めて高精度な位置測定が可能となることを示している。また、fm=10MHzとした場合には、fd=2.58MHzの場合、4×fd=10.32MHzとなり、4×fd>fmとなる。しかし、先に述べた象限判定部62、方向判定部63、位相補正部64の動作により正確に測定対象物の位置または変位を測定することができる。
【0042】
実施例1では、周波数変調frを概ねn×fm(n=1/4、2/4、3/4、4/4、5/4・・・)となるよう設定した。また、第1および第2同期検波部10,20で発生する周波数(2fr±fd)の高調波を第1および第2デシメーションフィルタ30,50のk×fm(k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2・・・)におけるノッチフィルタ特性により減衰させることとした。このようにすることで、実施例1では、高速且つ高次数のデジタルフィルタを用いることなく高精度に前記測定対象物の移動速度に応じた変調の第2周波数±fdを検出することができる。その結果、実施例1では、サンプリング周波数とデジタル信号処理の演算負荷を低減し、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となる。
【0043】
また、実施例1では、第2周波数fdがデシメーション周波数fmに対し、fm≧4×fdの場合は象限判定、移動方向判定、位相シフト判定を行う。そして、4×fd>fm≧2×fd_maxの場合は、それ以前のfm≧4×fdにおける移動方向の判定結果を用い、位相補正部64にて位相シフトの判定と位相シフトを行う。そのため、実施例1では、fm≧4×fdおよび4×fd>fm≧2×fd_maxで前記測定対象物の位置または変位を測定可能となる。その結果、実施例1では、サンプリング周波数とデジタル信号処理の演算負荷を低減し、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となる。従って、実施例1によれば、測定対象物の位置または変位を測定する測定装置において、デジタル信号処理の演算負荷を低減し、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となる。
【0044】
[実施例2]
次に、図2に基づいて実施例2を説明する。実施例1と同じ動作をするものは同じ番号を付け、その説明を割愛する。信号処理部100a、デジタル信号処理部200aで実施例1と異なる構成は、実施例2でローパスフィルタ90が存在することである。図7に基づきローパスフィルタ90の動作の説明を行う。ローパスフィルタ90は、加減算器98と第1の積分器92と第1の積分器92に直列に接続された第2の積分器94と必要に応じてLPF演算部96とにより構成される。LPF演算部96の出力が加減算器98の入力側にフィードバックされて閉ループ構成となる。積分器92,94のどちらか一方は、比例積分器として、閉ループ特性が安定となるように構成してもよい。高域のノイズが小さい場合、LPF演算部96は割愛してもよい。このようにローパスフィルタ90は、積分器を2ケ要すII型閉ループフィルタとなる。従って、入力がランプ信号であっても、定常追従偏差はゼロとなり、測定対象物が等速で移動し、位置または変位がランプ状に変化する場合でもローパスフィルタ90から出力される位置または変位の定常誤差はゼロである。ローパスフィルタ90のカットオフ周波数fcは、デシメーション周波数fm/2に対して、fc<fm/2となるよう設定される。例えば、fm=20MHz、fc=100kHzとすると、ローパスフィルタ90の伝達関数は、図17のような特性で与えられる。
【0045】
実施例2では、実施例1に比べ、測定対象物の移動速度が極めて速い場合を想定する。例えば、λ=1.55μm、v=2.5m/s、j=4、fsp=100MHz、fr=10MHz、fm=20MHz、fd=6.45MHzの場合を考える。図11はデシメーションフィルタ特性に対する上記設定条件を示したものである。第1および第2デシメーションフィルタ30,50のノッチ特性は、正規化周波数=0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、即ち、10MHz、20MHz、30MHz、40MHz、50MHzで発生する。fr=10MHzとすると、2fr=20MHzとなり、第1および第2同期検波部10,20で発生する周波数2frの高調波を第1および第2デシメーションフィルタ30,50におけるノッチフィルタ特性により極めて効率よく減衰させることが可能となる。
【0046】
しかしながら、第2周波数fd=±6.45MHzが非常に大きいため、(2fr+fd)の周波数、(2fr−fd)の周波数付近ではノッチフィルタ特性が十分効かず、高調波(2fr±fd)を十分に低減することができない場合がある。第1および第2デシメーションフィルタ30,50は、図11に示す特性で周波数(2fr±fd)の高調波を減衰させるとともに、その周波数を{(2fr±fd)−fm×i/2}(iは1以上の整数)にシフトさせる。例えば、上記の場合、2fr±fd=20MHz±6.45MHzである。これに対して第1および第2デシメーションフィルタ30,50の出力は、i=2で、−20MHzの周波数シフトとなり、結果として高調波は±6.45MHzの周波数成分となる。
【0047】
この設定において、ローパスフィルタ90がない場合のシミュレーション結果を図14Aに示す。位置誤差は、λ/1550より小さい値となっているが、高精度な位置測定が必要となる場合には必ずしも十分な特性ではないことがある。この位置誤差の主要因は、第1および第2同期検波部10,20で発生した周波数(2fr±fd)の高調波が上記の第1および第2デシメーションフィルタ30,50で周波数シフトされ、±6.45MHzの周波数成分となったものである。
【0048】
位相演算部60は、図9A、9Bに示したように、位相補正部64の動作により測定対象物の移動速度に応じて発生した第2周波数での変調の位相を補正する。従って、例えば、一定速度で移動する測定対象物に対する位置または変位の測定出力は図9Bに示すようになる。先に述べた図9Aのような2×fdの周波数を有する±π/2の鋸歯状波ではなく、位置が直線的に増加する特性となる。この位相演算部60の出力に、第1および第2デシメーションフィルタ30,50で周波数がシフトされた微小な±6.45MHzの高調波の誤差信号が重畳する。これは、位相演算部60の出力または位置演算部70の出力に、カットオフ周波数fc<デシメーション周波数fm/2のローパスフィルタ90を設けることにより容易に除去することができる。つまり、図17に示すローパスフィルタ90により、fc=100kHzとした場合、第1および第2デシメーションフィルタ30,50で周波数シフトされた微小な±6.45MHzの高調波は−70dB以下に減衰される。
【0049】
このローパスフィルタ90を透過した後の位置誤差を図14Bに示す。位置誤差はλ/2000より十分に小さく減衰され、位置誤差が著しく低減されたことが分かる。また、この場合、fm=20MHz、fd=6.45MHz、4×fd=25.8MHzより、4×fd>fmとなる。しかし、fm≧2×fd=12.9MHzであるため、先に述べた位相演算部60の象限判定部62、方向判定部63、位相補正部64の動作により正確に測定対象物の位置または変位を測定することができる。このように、測定対象物が高速に移動している場合においても極めて高精度な位置測定が可能となることが分かる。尚、ローパスフィルタ90は、図7に示したように積分器と加減算器により構成され、高速且つ高次数のデジタルフィルタを用いる必要がない。
【0050】
実施例2では、第1および第2デシメーションフィルタ30,50において、第1および第2同期検波部10,20で発生する周波数(2fr±fd)の高調波を減衰させてその周波数を{(2fr±fd)−fm×i/2}(iは1以上の整数)にシフトさせる。また、実施例2では、位相補正部64にて位相シフトの判定と位相シフトを行い、測定対象物の移動速度に応じて発生した±fdの周波数シフトを打ち消す。
【0051】
さらに、位相演算部60の出力または前記位置演算部70の出力にカットオフ周波数fc<fm/2のローパスフィルタ90を設けることにより周波数{2fr±fd)−fm×i/2}の高調波を除去する。つまり、測定対象物の最高移動速度で発生する第2周波数の最大値をfd_maxとし、fc<|(2fr±fd_max)−fm×i/2|(ただしiは1以上の整数)、且つ、fc<fm/2を満たし、|(2fr+fd_max)−fm×i/2|と|(2fr−fd_max)−fm×i/2|のうち小さいほうの周波数以下に、fcを設定する。そのようにすることで、実施例2では、高速且つ高次数のデジタルフィルタを用いることなく高精度に第2周波数±fdを検出することができる。その結果、サンプリング周波数とデジタル信号処理の演算負荷を低減し、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となる。
【0052】
また、第2周波数fdがデシメーション周波数fmに対し、fm≧4×fdの場合は象限判定、移動方向判定、位相シフト判定を行う。4×fd>fm≧2×fd_maxの場合は、それ以前のfm≧4×fdにおける移動方向の判定結果を用い、位相補正部64にて位相シフトの判定と位相シフトを行う。そのため、fm≧4×fdおよび4×fd>fm≧2×fd_maxで前記測定対象物の位置または変位を測定可能となり、サンプリング周波数とデジタル信号処理の演算負荷が低減される。その結果、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となる。従って、実施例2によれば、測定対象物の位置または変位を測定する測定装置において、デジタル信号処理の演算負荷を低減し、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となる。
【0053】
[実施例3]
次に、実施例3を説明する。構成は、図2に示す実施例2における信号処理部100a、デジタル信号処理部200aと同じであり、実施例2と異なる点は、第1周波数frの設定方法である。実施例3では、第1周波数変調frはn×fm(n=3/8、5/8、7/8、9/8、11/8・・・)となるよう設定される。なお、第1周波数frは、式n×fmで求められた周波数に対して±30%の許容範囲を有している。
【0054】
例えば、λ=1.55μm、v=2.5m/s、j=4、fsp=100MHz、fm=20MHz、fd=6.45MHzの場合を考える。この場合、設定可能な第1周波数frは、式15より、6.45MHz < fr ≦ 21.775MHzである。従って、第1周波数frは、7.5MHz、または12.5MHz、または17.5MHzに設定可能である。
【0055】
図12はデシメーションフィルタ特性に対し、fr=7.5MHzに設定した場合の特性である。第1および第2デシメーションフィルタ30,50のノッチ特性は、正規化周波数=0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、即ち、10MHz、20MHz、30MHz、40MHz、50MHzで発生する。fr=7.5MHzの場合、2fr=15MHzとなり、第1および第2同期検波部10,20で発生する周波数2frの高調波は、第1および第2デシメーションフィルタ30,50のノッチフィルタ特性ではなく、ピーク値近くに当たる。そのため、高調波を十分に低減することができない場合がある。それとは逆に、測定対象物の移動速度に応じて第2周波数fdが大きくなると、(2fr−fd)および(2fr+fd)の周波数の高調波は、10MHzと20MHzのノッチフィルタ特性により極めて効率よく減衰させることが可能となる。
【0056】
第1および第2デシメーションフィルタ30および50は、図12に示す特性で周波数(2fr±fd)の高調波を減衰させるとともに、その周波数を{(2fr±fd)−fm×i/2}(iは1以上の整数)にシフトさせる。例えば、上記の場合、2fr±fd=15MHz±6.45MHzである。これに対して第1および第2デシメーションフィルタ30,50の出力は、i=1で、−10MHzの周波数シフトとなり、結果として、高調波は、5MHz±6.45MHzの周波数成分となる。
【0057】
測定対象物がv=0.025m/sと比較的低速で移動し、ローパスフィルタ90がない場合のシミュレーション結果を図15Aに示す。位置誤差は、λ/1550より小さい値となっているが、高精度な位置測定が必要となる場合には必ずしも十分な特性ではないことがある。この位置誤差の主要因は、第1および第2同期検波部10,20で発生した周波数(2fr±fd)の高調波が第1および第2デシメーションフィルタ30,50で周波数シフトされ、約5MHzの周波数成分となったものである。
【0058】
位相演算部60の出力に、第1および第2デシメーションフィルタ30,50で周波数シフトされた微小な5MHz前後の周波数を持つ高調波の誤差信号が重畳する。この高調波は、位相演算部60の出力または位置演算部70の出力に、カットオフ周波数fc<デシメーション周波数fm/2のローパスフィルタ90を設けることにより容易に除去することができる。つまり、図17に示すローパスフィルタ90により、fc=100kHzとした場合、第1および第2デシメーションフィルタ30,50で周波数シフトされた微小な5MHzの高調波成分は−70dB以下に減衰される。このローパスフィルタ90を透過した後のシミュレーション結果を図15Bに示す。位置誤差はλ/2000より十分に小さく減衰され、位置誤差が著しく低減されたことが分かる。
【0059】
測定対象物がv=2.5m/sと極めて高速で移動し、ローパスフィルタ90がない場合のシミュレーション結果を図16Aに示す。測定対象物の移動速度に応じて発生する周波数シフトfdは6.45MHzと非常に大きくなる。この場合、図12から分かるように、第1および第2同期検波部10,20で発生した周波数2fr+fd=21.45MHzの高調波は、第1および第2デシメーションフィルタ30,50の20MHzにおけるノッチフィルタ特性により極めて効率よく減衰させることが可能となる。シミュレーション結果の位置誤差は、λ/1550より小さい値となっている。更にローパスフィルタ90を透過した後のシミュレーション結果を図16Bに示す。位置誤差はλ/2000より十分に小さく減衰され、位置誤差が著しく低減されたことが分かる。
【0060】
実施例3では、第1周波数frを概ねn×fm(n=3/8、5/8、7/8、9/8、11/8・・・)となるよう設定した。第1および第2同期検波部10,20で発生した周波数(2fr±fd)の高調波を第1および第2デシメーションフィルタ30,50のk×fm(k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2・・・)におけるノッチフィルタ特性により減衰させた。また、第1および第2同期検波部10,20で発生した高調波の周波数を{(2fr±fd)−fm×i/2}(iは1以上の整数)にシフトさせた。さらに、位相演算部60の位相補正部64にて位相シフトの判定と位相シフトを行い、測定対象物の移動速度に応じて発生した±fdの第1周波数の変調を打ち消した。
【0061】
また、位相演算部60の出力または位置演算部70の出力にカットオフ周波数fc<fm/2のローパスフィルタ90を設けることにより周波数{(2fr±fd)−fm×i/2}の高調波成分を除去した。それにより、実施例3では、高速且つ高次数のデジタルフィルタを用いることなく高精度に第2周波数±fdを検出することができた。その結果、実施例3では、サンプリング周波数とデジタル信号処理の演算負荷を低減し、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となった。従って、実施例3によれば、測定対象物の位置または変位を測定する測定装置において、デジタル信号処理の演算負荷を低減し、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となる。
【0062】
[実施例4]
次に、図3に基づいて実施例4を説明する。実施例1および実施例2と同じ動作をするものは同じ番号を付け、その説明を割愛する。実施例1および実施例2と異なる構成は、測定処理に伴う遅延に起因して演算部の演算結果に発生する誤差を補正する誤差補正部を設けることである。誤差補正部は、速度演算部82、記憶部84、乗算器86、加算器88を含む。測定対象物が移動速度vで移動し、干渉計500から信号処理部100に遅延時間τdがあると、位置または変位に式19で示される測定誤差errが生じる。
err(m)=v(m/s)×τd(s)・・・(19)
【0063】
例えば、v=2.5(m/s)、τd=1(μs)とすると、err=2.5μmとなり、非常に大きな測定誤差となる。遅延時間τdは干渉計500から信号処理部100における遅れ時間の合計値であり、多くの構成要素で発生する。例えば、測定光P2の伝播遅延時間、受光器2,4やI/V変換器4,14、フィルタ6,16の遅延時間、A/D変換器8,18における遅延時間、デジタル信号処理部200における各種演算の遅延時間等である。これらの遅延時間を設計値として算出するか、または、実測により求め、記憶部84に記憶する。
【0064】
速度演算部82は、位置演算部70からの出力を微分する等して測定対象物の移動速度vを演算する。速度演算部82からの出力vと記憶部84からの遅延時間τdを乗算器86で乗算し、式19で表される位置または変位の誤差を演算する。この乗算結果を加算器88にて位置演算部70からの位置または変位の値に加算し、干渉計500から信号処理部100における全ての遅延時間の合計τdにより発生する位置または変位の誤差を補正する。
【0065】
以上より、測定対象物が移動速度vで移動し、信号処理部100の処理に遅延時間τdがある場合においても、位置または変位の測定誤差を補正して高精度な位置または変位を測定することが可能となる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の位置を測定する測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
精密な機械加工や検査工程では、測定対象物の位置または変位をnm〜μmの精度で測定する必要があり、干渉計の原理を用いた測定装置が用いられることが多い。その中で、ヘテロダイン干渉計は、高精度な測長を行うために用いられている。ヘテロダイン干渉計は、周波数frで変調された基準信号と、周波数frで変調されかつ測定対象物の位置情報を含む測定信号とを検出する。この測定信号は、変調によるfrの周波数シフトに加え測定対象物の移動速度に応じたドップラーシフトによる周波数シフトfdを伴うため、測定信号の周波数は(fr±fd)となる。これら基準信号と測定信号の周波数の差を求めることにより±fdが検出される。±fdの周波数差を時間積分するにより位相差が算出され、算出された位相差から測定対象物の位置または変位が算出される。
【0003】
特許文献1には、従来のヘテロダイン干渉計が開示されている。このヘテロダイン干渉計は、ミキサーにより基準信号と測定信号とのビート周波数を生成し、その位相変化を時間計測して位置または変位を算出する。この場合、nmオーダの測定精度を得るにはpsオーダの時間計測が必要となるが、時間分解能の向上と安定性維持が難しく、測定精度の高精度化には限界があった。特許文献2には、時間計測に替えて、A/D変換器により干渉信号を検出するヘテロダイン干渉計が開示されている。特許文献2に開示のヘテロダイン干渉計は、例えば、120MHzのA/D変換器で基準信号と測定信号を検出し、10MHz毎にDFT(Discrete Fourier Transform:離散フーリエ変換)演算を行う。特許文献2に開示のヘテロダイン干渉計は、さらにCORDIC(Coordinate Rotation Digital Computer)演算を行い位相を算出して位置または変位を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−346305号公報
【特許文献2】特表2008−510170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘテロダイン干渉計による位相の検出では、psオーダの時間計測方式に替えて、基準信号と測定信号の高速A/D変換とデジタル信号処理により測定対象物の位置または変位を算出する方式が高精度化を実現する上で有利である。しかしながら特許文献2に開示されたヘテロダイン干渉計は、高速なA/D変換に加え、極めて高速且つ大規模なデジタル信号処理をリアルタイムで必要としていた。以下、その理由を述べる。一般に、DFTは膨大な演算量を必要とすることが知られ、N個のデータに対するDFTはN2回の複素数乗算とN×(N−1)回の複素加算が必要となる。例えば、N=72個のデータのDFTに要する複素数乗算は5184回、複素加算は5112回となる。この演算を10MHz毎に行うには、極めて高速なDSP(Digital Signal Processor)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)を用い、超高速乗算および加算の大規模並列演算が必要となる。そのため、特許文献2に開示のヘテロダイン干渉計では、デジタル信号処理部に高コスト、高発熱、高負荷演算を要する。
【0006】
これらの点に鑑み、本発明は、測定対象物の位置を高精度に測定する測定装置を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの側面は、変調部によって第1周波数で変調された基準光からデジタル基準信号を取得し、前記第1周波数で変調された光が照射された測定対象物から反射された測定光からデジタル測定信号を取得し、前記デジタル基準信号と前記デジタル測定信号とを処理して前記測定対象物の位置を測定する装置であって、前記測定光は、前記第1周波数での変調に加えて前記測定対象物の移動に起因して第2周波数で変調され、前記デジタル測定信号に前記デジタル基準信号と同期したサイン信号を乗算して前記第2周波数および高調波の成分を有する信号を出力する第1同期検波部と、前記デジタル測定信号に前記デジタル基準信号と同期したコサイン信号を乗算して前記第2周波数および高調波の成分を有する信号を出力する第2同期検波部と、前記第1同期検波部から出力された信号をデシメーション周波数でフィルタリングして前記高調波の成分を減衰させる第1デシメーションフィルタと、前記第2同期検波部から出力された信号を前記デシメーション周波数でフィルタリングして前記高調波の成分を減衰させる第2デシメーションフィルタと、前記第1デシメーションフィルタから出力された信号と前記第2デシメーションフィルタから出力された信号とに基づいて前記測定対象物の位置を演算する演算部と、を備え、前記第1周波数をfrとし、前記第2周波数をfdとし、前記デシメーション周波数をfmとするとき、前記高調波の周波数は(2fr±fd)で示され、前記第1周波数および前記デシメーション周波数は、fr=n×fm(ただし、nは1/4、2/4、3/4、4/4、5/4、・・・のいずれか)の関係を満たし、前記第1および第2デシメーションフィルタは、k×fm(ただし、k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2、・・・のいずれか)の周波数でゲインが減衰するノッチフィルタ特性で(2fr±fd)で示される周波数を有する前記高調波を減衰させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、測定対象物の位置を高精度に測定する測定装置を低コストで提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1における信号処理部の構成図である。
【図2】実施例2、3における信号処理部の構成図である。
【図3】実施例4における信号処理部の構成図である。
【図4】実施例1におけるPLLの構成図である。
【図5】実施例1におけるデシメーションフィルタの構成図である。
【図6】実施例1における位相演算部と位置演算部の構成図である。
【図7】実施例2におけるローパスフィルタの構成図である。
【図8】実施例1における位相演算部への入力信号波形、位相演算部の演算例の演算例である。
【図9】実施例1における位相演算部の演算例である。
【図10】実施例1におけるデシメーションフィルタの特性例である。
【図11】実施例2におけるデシメーションフィルタの特性例である。
【図12】実施例3におけるデシメーションフィルタの特性例である。
【図13】実施例1における位置誤差のシミュレーションの例である。
【図14】実施例2における位置誤差のシミュレーションの例である。
【図15】実施例3における位置誤差のシミュレーションの例である。
【図16】実施例3における位置誤差のシミュレーションの例である。
【図17】実施例2におけるローパスフィルタの特性例である。
【図18】測定装置の構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施例について、詳細に説明する。
【0011】
[実施例1]
図18は、ヘテロダイン干渉計を利用した本発明に係る測定装置の構成図である。光源300は、レーザ光源で、例えば、波長が632.8nmのHeNeレーザ、波長が640〜2880nmの半導体レーザであるDFBレーザやVCSELレーザにより構成される。光を変調する変調部400は、AOM(Acousto−Optic Modulator:音響光学変調器)等により構成される。信号処理部100から式1に基づく信号Vfrで変調部400を駆動することにより、変調部を出射するレーザ光はfrの第1周波数で変調を受ける。
Vfr=Va×sin(2π×fr×t)・・・(1)
【0012】
第1周波数frで変調されたレーザ光の一方は基準光P1として信号処理部100に入射する。第1周波数で変調されたレーザ光の他方は干渉計500に含まれる測定対象物に照射され測定対象物から反射された測定光P2として信号処理部100に入射する。測定光P2は、第1周波数での変調に加えて測定対象物の移動に起因するドップラーシフトによって第2周波数fdで変調される。基準光P1および測定光P2は、それぞれ式2、式3で表される。ただし、基準光強度をA、測定光強度をB、第1周波数をfr、第2周波数をfd、基準光の固定位相をθr、測定光の固定位相をθdとする。
P1=(A/2)×{sin(2π×fr×t+θr)+1}・・・(2)
P2=(B/2)×[sin{2π×(fr+fd)×t+θd}+1]・・・(3)
【0013】
第2周波数fdでの変調は、測定対象物の移動速度に応じて発生する変調であり、式4で表される。ただし、測定対象物の移動速度をv、光源の波長をλ、干渉計の構成により決まる次数をjとする。
fd = j×v/λ・・・(4)
ドップラーシフトによる第2周波数での変調は、測定対象物の移動方向に応じて+fd、または−fdの極性を有する。例えば、λ=1.55μmの光源を用い、v=1m/s、j=4の場合、fd=2.58MHzとなる。
【0014】
図1は、実施例1の信号処理部100の構成である。基準光P1および測定光P2は、それぞれ第1および第2受光器2,12により電流に変換される。第1および第2受光器2,12として、例えば、PINフォトダイオードやアバランシェフォトダイオード等が用いられる。第1および第2受光器2,12の出力は、第1および第2I/V変換器4,14に入力されて電圧に変換される。第1および第2I/V変換器4,14は、例えば、抵抗とOPアンプにより構成される。第1および第2I/V変換器4,14の出力は、第1および第2フィルタ6,16に入力される。第1および第2フィルタ6,16は、LPF(Low Pass Filter)として高帯域を制限するか、又は、基準光P1および測定光P2が交流信号であるため、直流をカットし高帯域を制限するBPF(Band Pass Filter)としてもよい。その場合、式2、式3は、直流成分がカットされ、交流信号であるサイン項のみが検出されるので、式5、式6のように変形される。
P1’=(A/2)×sin(2π×fr×t+θr)・・・(5)
P2’=(B/2)*sin{2π×(fr+fd)×t+θd}・・・(6)
【0015】
第1および第2フィルタ6,16の出力は第1および第2A/D変換器8,18に入力され、サンプリング周波数fspでサンプリングされてデジタル基準信号とデジタル測定信号とに変換される。このようにして取得されたデジタル信号は、デジタル信号処理部200に入力される。デジタル信号処理部200は、例えば、デジタル信号を高速に処理することが可能な、FPGAやASICやDSP等により構成される。FPGAは、Field Programable Gate Arrayの略称である。ASICは、Application Specific Integrated Circuitの略称である。DSPは、Digital Signal Processorの略称である。
【0016】
デジタル基準信号は、位相を同期するPLL(Phase Locked Loop)250に入力される。ここで、図4に基づいてPLL250の動作の説明を行う。デジタル基準信号は、位相比較器260に入力される。位相比較器260は、例えば、乗算器により構成される。位相比較器260の出力は、フィルタ演算部262に入力され、位相比較器260からの高調波を除去する。フィルタ演算部262の出力は積分演算部264に入力される。この積分演算部264による積分演算は、位相比較器260の出力偏差をゼロとするための積分制御用で、比例積分制御として安定な制御を行うよう構成してもよい。積分演算部264の出力は、加算器268に入力され、初期値266と加算される。初期値266は、第1周波数frに相当する初期値が設定されている。積分演算部270とサイン演算部272、および、積分演算部270とコサイン演算部274は、VCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)に相当するサイン信号とコサイン信号の生成部である。これらの動作は式7、式8で表される。ただし、積分演算部264の出力をVi、初期値266の出力をV0とする。
サイン信号=sin{∫(Vi+V0)dt}・・・(7)
コサイン信号=cos{∫(Vi+V0)dt}・・・(8)
【0017】
サイン演算部272およびコサイン演算部274は、例えば、予め求められたサインとコサインの値をテーブルとしてメモリに保存しておき、式7、式8の{ }内の値に応じてテーブルを参照してサイン信号とコサイン信号を生成するよう構成してもよい。サイン信号の振幅レンジを12bit、時間分解能を10bit(1024)とした場合に必要なメモリ容量は、12bit×1024=12.288kbitである。また、sin信号の振幅レンジを16bit、時間分解能を12bit(4096)とした場合に必要なメモリ容量は、16bit×4096=65.536kbitである。これらのメモリ容量は、FPGAやASIC、またはDSP等に内臓されているメモリを使用することにより容易に実現することができる。また、PLL250の演算は、乗算器および加算器ともに数個程度で実現できるため、デジタル信号処理の演算負荷は極めて低くすることが可能となる。
【0018】
コサイン演算部274の出力は位相比較器260にフィードバックされ、先に述べた積分演算部264により、位相比較器260の出力偏差がゼロとなるようにコサイン信号とサイン信号を生成する。出力偏差がゼロとなるため、デジタル基準信号と式7で与えられるサイン演算部272の出力P1_sinは、完全に周波数と位相が同期する。また、式8で与えられるコサイン演算部274の出力P1_cosは、位相が90度ずれた同期信号となり、式9、式10で表される。ただし、Vbは振幅である。
P1_sin=Vb×sin(2π×fr×t+θr)・・・(9)
P1_cos=Vb×cos(2π×fr×t+θr)・・・(10)
【0019】
次に、図1に戻り、デジタル信号処理部200の説明を続ける。PLL250で生成されたデジタル基準信号に同期したサイン信号P1_sinとコサイン信号P1_cosは、デジタル測定信号P2’に対し、第1同期検波部10および第2同期検波部20で乗算される。第1および第2同期検波器10,20は、例えば、乗算器で構成される。
【0020】
式6、式9、式10より第1および第2同期検波部10,20の出力は、それぞれ式11、式12で表される。
第1同期検波部10の出力
P2’×P1_sin = (B/2)×sin{2π×(fr+fd)×t+θd}×Vb×sin(2π×fr×t+θr)
=(B×Vb/4)×[cos(2π×fd×t+θd−θr)−cos{2π×(2fr+fd)×t+θd+θr}]・・・(11)
第2同期検波部20の出力
P2’×P1_cos = (B/2)×sin{2π×(fr+fd)×t+θd}×Vb×cos(2π×fr×t+θr)
=(B×Vb/4)×[sin(2π×fd×t+θd−θr)+sin{2π×(2fr+fd)×t+θd+θr}]・・・(12)
【0021】
式11、式12の各最終式右辺の第1項は、測定対象物の移動速度に応じて発生する第2周波数fdのコサイン成分とサイン成分である。また、式11、式12の各最終式右辺の第2項は、第1および第2同期検波部10,20で発生する(2fr+fd)の周波数の高調波のコサイン成分とサイン成分である。なお、デジタル測定信号がコサイン信号である場合は、第1同期検波部10の出力はサイン成分であり、第2同期検波部20の出力はコサイン成分となる。測定対象物の位置または変位を高精度に測定するには、第2周波数fdを正確に検出する必要がある。それに対して第1および第2同期検波部10,20で発生する(2fr+fd)の周波数の高調波は、第2周波数fdの測定精度を低下させる誤差要因である。
【0022】
ここで、サンプリング周波数fspについて考えてみる。第1および第2A/D変換器8,18のサンプリング周波数fspを高くすると、第1および第2A/D変換器8,18のコストが高くなり、発熱も増大する。また、後段のデジタル信号処理部200の信号処理周波数も高くなるため、同様にコストと発熱が増大する。従って、低コスト、低発熱とするにはサンプリング周波数fspを極力低下させる必要がある。例えば、14bit、100MHzサンプリングの場合、デジタル信号の処理は1.4Gbpsのビットレートとなる。サンプリング周波数をこれ以上速くした場合には、デジタル信号の処理を低コスト、低発熱とするのは難しい。
【0023】
一方、第1および第2A/D変換器8,18のサンプリング周波数fspは、サンプリング定理で知られているように、入力信号はfsp/2の周波数に制限されなければならない。しかしながら、本発明では、式11、式12で表されるように、デジタル測定信号と基準信号の乗算が行われ、その結果、第1および第2同期検波部10,20で周波数(2fr+fd)の高調波が発生する。測定対象物の最高移動速度で発生する第2周波数の最大値をfd_maxとし、第1および第2同期検波部10,20での乗算演算結果がデジタル信号処理におけるサンプリング定理を満たすには、下式13を満たすことが必要となる。
(2fr+fd_max)×2 ≦ fsp・・・(13)
【0024】
一方、周波数変調frは、下式14を満足しなければならない。
fd_max < fr・・・(14)
従って、式13、式14より、第1周波数frは、下式15を満たすように設定される。
fd_max < fr ≦ (fsp/2− fd_max)/2 ・・・(15)
【0025】
例えば、λ=1.55μm、v=1m/s、j=4、fd_max=2.58MHz、fsp=100MHzの場合、2.58MHz < fr ≦ 23.71MHzとなる。
第1周波数frを2.58MHz以下に設定すると測定対象物の移動速度が速い場合に位置または変位の検出ができなくなる。一方、第1周波数frが23.71MHzより大きいと、第1および第2同期検波部10,20による周波数(2fr+fd)の高調波の折り返し誤差が発生して第1周波数fdの検出精度を低下させる。例えば、fr=20MHzに設定した場合、fd_max=2.58MHzに対し、(2fr+fd_max)=42.58MHzとなり、fsp=100MHzで検出精度を損なうことなく動作可能となる。
【0026】
第1および第2同期検波部10,20の出力は第1デシメーションフィルタ30および第2デシメーションフィルタ50に入力される。第1および第2デシメーションフィルタ30,50は、デジタル信号処理の演算負荷を低下させるため、デシメーション周波数でフィルタリングして、第1および第2同期検波部10,20で発生した周波数(2fr+fd)の高調波を減衰させる。
【0027】
ここで、図5に基づいて第1および第2デシメーションフィルタ30,50の動作の説明を行う。第2デシメーションフィルタ30,50は、サンプリング周波数fspで動作する積分演算とデシメーション周波数fmで動作する微分演算により構成されるCICフィルタ(Cascaded Integrator−Comb Filter)であってもよい。この場合の第1および第2デシメーションフィルタ30,50の伝達関数は下式16で与えられる。ここで、H(f)はデシメーションフィルタの伝達関数、Dは遅延差(1または2)、mはデシメーション比(2以上の整数)、Nは積分器と微分器の段数である。
|H(f)| = |{sin(π×D×f/fsp)/sin(π×f/fsp/m)}N|・・・(16)
【0028】
図5では、N=2の場合のCICフィルタの構成が示されている。ここでD=2、m=5、N=3とした場合のCICフィルタの特性例を図10に示す。fsp=100MHzであるが、この場合にデジタル信号処理できる信号周波数は50MHzであるため、横軸はサンプリング周波数100MHzに対して実際にデジタル信号処理される信号周波数との比を正規化周波数として表している。m=5より、デシメーション周波数fm=20MHzとなるが、この場合にデジタル信号処理される信号周波数はデシメーション周波数の1/2である10MHzとなる。このため、図10では、正規化周波数=0.1、即ち10MHzでゲインが急激に減衰するノッチ特性が現れる。CICフィルタのノッチ特性は、k×fmで表され、k=1/2の10MHzの他、k=1の20MHz、k=3/2の30MHz、k=4/2の40MHz、k=5/2の50MHzで発生する。
【0029】
実施例1では、第1周波数frおよびデシメーション周波数fmは、n×fm(n=1/4、2/4、3/4、4/4、5/4、・・・のいずれか)の関係を満たすように設定される。なお、第1周波数frは、式n×fmで求められた周波数に対して±30%の許容範囲を有している。例えば、fm=20MHzの場合、n=1/4であるfr=5MHz、またはn=2/4である10MHz、またはn=3/4である15MHz、またはn=4/4である20MHz、に設定される。尚、式15より、fr ≦ 23.71MHz であるため、n=5/4である25MHzには設定されない。図10には、fr=20MHz、fd=2.58MHzの場合が記されている。第1および第2同期検波部10,20による高調波の周波数は、(2fr+fd)=40±2.58MHzとなり、CICフィルタのノッチ特性で効率的に除去されることが分かる。従って、周波数変調frをn×fm(n=1/4、2/4、3/4、4/4、5/4・・・)の近傍となるよう設定する。そうすると、周波数(2fr±fd)の高調波を第1および第2デシメーションフィルタ30,50のk×fm(k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2・・・)におけるノッチフィルタ特性により極めて効率よく減衰させることが可能となる。これにより高速且つ高次数のデジタルフィルタを用いることなく高精度に測定対象物の移動速度に応じた第2周波数±fdを検出することができる。また、CICフィルタ以降の演算は、デシメーション周波数fm=20MHzで行われるため、デジタル信号処理の演算負荷を低減することが可能となる。
【0030】
図5には2段の積分器と2段の微分器を有するCICフィルタが示されているが、積分器と微分器がシリーズに接続されたsincフィルタがN段シリーズに接続された構成であってもよい。また、m個のサンプリング値を平均化して周波数fm毎に出力する平均化フィルタであってもよい。これらのフィルタにおいても、周波数(2fr±fd)の高調波を第1および第2デシメーションフィルタ30,50のk×fm(k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2・・・)におけるノッチフィルタ特性により極めて効率よく減衰させることが可能となる。
【0031】
次に、図1に戻り、デジタル信号処理部200の説明を続ける。第1および第2デシメーションフィルタ30,50の出力は、位相演算部60に入力され、位相演算部60の出力は位置演算部70に入力される。ここで、図6に基づき位相演算部60および位置演算部70の動作を説明する。先ず、対象物の移動速度に応じて発生する変調の第2周波数fdがデシメーション周波数fmに対し、fm≧4×fdの場合について説明する。アークタンジェント演算部61は、第1および第2デシメーションフィルタ30,50からの信号より下式17のアークタンジェント演算を行う。
位相角
=tan−1[(B×Vb/4)×sin(2π×fd×t+θd−θr)
/{(B×Vb/4)cos(2π×fd×t+θd−θr)}]
=tan−1 {sin(2π×fd×t+θd−θr)
/cos(2π×fd×t+θd−θr)}・・・(17)
【0032】
ここで、第1および第2デシメーションフィルタ30,50からのサイン信号とコサイン信号は、図8Aに示すような信号である。領域1はサイン信号が第1象限にあり、領域2は第2象限、領域3は第3象限、領域4は第4象限にあることを表す。また、矢印Aと矢印Bは、測定対象物の移動方向を表す。A方向の場合にサイン信号は、領域1⇒領域2⇒領域3⇒領域4⇒領域1⇒領域2・・・となり、B方向の場合にサイン信号は、領域1⇒領域4⇒領域3⇒領域2⇒領域1⇒領域4・・・となる。
【0033】
tanの値は、図8Bに示すように±π/2毎に無限大となり極性が反転し、不連続となる。A方向の場合は、サイン信号が第1象限と第2象限との境界をまたぐときに極性が反転し、同様に第3象限と第4象限との境界をまたぐときに極性が反転する。B方向の場合は、第4象限から第3象限となるときに極性が反転し、同様に第2象限から第1象限となるときに極性が反転する。
【0034】
これより、式17の計算をそのまま行っただけでは、図9Aに示すように±π/2の間を往復する鋸歯状波となる。測定対象物の移動速度に応じて発生する第2周波数fdでの変調の周期をTdとすると、繰り返し周期は、Td/2となる。この位相角の±π/2の鋸歯状波を連続する信号とするため以下の動作を行う。
【0035】
図6の象限判定部62は、コサイン信号およびサイン信号の正負に基づいてコサイン信号およびサイン信号の象限を判定する。方向判定部63は、象限判定部62により判定された象限の推移から測定対象物の移動方向を判定する。位相補正部64は、象限判定部62及び方向判定部63の判定結果に基づいて、コサイン信号及びサイン信号が第1象限および第2象限の境界、第3象限および第4象限の境界をまたぐたびにtan−1演算部61からの出力に+πまたは−πを加算する。図8Aと図8Cを基にして説明すると、例えば、サイン信号が正でコサイン信号も正の場合は、サイン信号は第1象限に存在すると象限判定される。サイン信号が引き続き正で、コサイン信号が負となった場合は、サイン信号が第2象限に存在すると判定される。この時、方向判定部63は移動方向をA方向と判定する。サイン信号が第1象限から第2象限に移動すると、式17の計算結果は、+π/2 → −π/2となる。位相補正部64は、方向判定部63からの移動方向情報より+πシフトを判定して実行する。引き続き、サイン信号が負となり、コサイン信号が負であるとサイン信号が第3象限に存在すると象限判定される。次に、サイン信号が負で、コサイン信号が正となった場合は、サイン信号が第4象限に存在すると象限判定される。この場合も方向判定部63は移動方向をA方向と判定し、位相補正部64にて、+πシフトを判定して実行する。移動方向がB方向である場合にも同様の動作により、象限判定と方向判定と±πシフトの判定により−πのシフトが実行される。これらの動作は、図8Cに示すように、サイン信号とコサイン信号の極性より象限を判定し、例えば、コサイン信号の極性の変化より移動方向を判定し、方向判定より±πシフトの判定と実行を行う。
【0036】
図6の位置演算部70は、位置変換係数72と乗算器71、およびオフセット74と加算器73により位相を位置または変位に変換する。例えば、測定対象物の位置または変位Lは、式4より下式18となる。ただし、θは位相角である。
L = (λ/j)×∫(fd)dt
= {(λ/j)/(2π)}×θ・・・(18)
【0037】
位置変換係数(λ/j)は、式18より、λ=1.55μm、j=4の場合、(λ/j)=387.5nmである。これは、位相角の出力θ=2πのときにL=387.5nmの位置または変位となることを表す。オフセット74は、光学的、電気的、または測定対象物のメカ的なオフセット値を予め計算するか、計測しておき、その値を設定して位置または変位のオフセットを補正する。位相演算部60および位置演算部70は、第1および第2デシメーションフィルタ30,50からそれぞれ出力されたコサイン信号とサイン信号とに基づいて測定対象物の位置を演算する演算部を構成している。
【0038】
これら位相演算部60および位置演算部70の動作により、例えば、一定速度で移動する測定対象物の位置または変位の測定出力は図9Bに示すようになる。先に述べた図9Aのような周期Td/2、即ち、2×fdの周波数を有する±π/2の鋸歯状波ではなく、位置が直線的に増加する特性となる。
【0039】
次に、対象物の移動速度に応じて発生する変調の第2周波数fdがデシメーション周波数fmに対し、4×fd>fm≧2×fd_maxの場合について説明する。通常、サイン信号を4象限のうちどの象限に存在するかを判定するために、第2周波数fdに対して最低4つのサンプリングデータが必要となる。例えば、図8Cにおいて、第2周波数fdに対して2つのサンプリングデータしかない場合、最初のデータが第1象限にあったとすると、A方向に移動している場合は、次は第3象限のデータがサンプルされる。しかし、B方向に移動している場合でも次のデータは第3象限のデータとなってしまい、測定対象物がどちらの方向に移動しているのか判別不可能になってしまう。
【0040】
そこで、本発明では、4×fd>fm≧2×fd_maxの場合は、象限判定部62にて象限判定を行い、方向判定部63はfm≧4×fdにおける移動方向の判定結果を用い、位相補正部64にて位相シフトの判定と位相シフトを行うよう構成する。このように、移動方向の判定はfm≧4×fdの場合での移動方向の判定結果を使用するため、4×fd>fm≧2×fd_maxの間は方向判定を行う必要がない。位相補正部64は方向判定部63からの信号に基づき±πシフトを判定し、加算器65にてtan−1演算部61からの出力に+πまたは−πを加算する。これらの動作により、測定対象物の移動速度に応じて発生する第2周波数fdがデシメーション周波数fmに対して4×fd>fm≧2×fd_maxの場合であっても測定対象物の位置または変位を測定することができる。図1のタイミング生成部80は設定されたサンプリング周波数fsp、第1周波数fr、デシメーション周波数fmを生成し、各部に信号を供給する。
【0041】
実施例1に基づくシミュレーション結果を図13A、13Bに示す。図13Aは、λ=1.55μm、v=0.025m/s、j=4、fsp=100MHz、fr=20MHz、fm=20MHz、fd=64.5kHzの場合の位置誤差特性である。位置誤差はλ/1550=1nmより十分小さく、測定対象物が比較的低速で移動している場合に極めて高精度な位置測定が可能となることを示している。図13Bはv=1m/s、fd=2.58MHzの場合で、同様に位置誤差は1nmより十分小さく、測定対象物が高速に移動している場合においても極めて高精度な位置測定が可能となることを示している。また、fm=10MHzとした場合には、fd=2.58MHzの場合、4×fd=10.32MHzとなり、4×fd>fmとなる。しかし、先に述べた象限判定部62、方向判定部63、位相補正部64の動作により正確に測定対象物の位置または変位を測定することができる。
【0042】
実施例1では、周波数変調frを概ねn×fm(n=1/4、2/4、3/4、4/4、5/4・・・)となるよう設定した。また、第1および第2同期検波部10,20で発生する周波数(2fr±fd)の高調波を第1および第2デシメーションフィルタ30,50のk×fm(k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2・・・)におけるノッチフィルタ特性により減衰させることとした。このようにすることで、実施例1では、高速且つ高次数のデジタルフィルタを用いることなく高精度に前記測定対象物の移動速度に応じた変調の第2周波数±fdを検出することができる。その結果、実施例1では、サンプリング周波数とデジタル信号処理の演算負荷を低減し、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となる。
【0043】
また、実施例1では、第2周波数fdがデシメーション周波数fmに対し、fm≧4×fdの場合は象限判定、移動方向判定、位相シフト判定を行う。そして、4×fd>fm≧2×fd_maxの場合は、それ以前のfm≧4×fdにおける移動方向の判定結果を用い、位相補正部64にて位相シフトの判定と位相シフトを行う。そのため、実施例1では、fm≧4×fdおよび4×fd>fm≧2×fd_maxで前記測定対象物の位置または変位を測定可能となる。その結果、実施例1では、サンプリング周波数とデジタル信号処理の演算負荷を低減し、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となる。従って、実施例1によれば、測定対象物の位置または変位を測定する測定装置において、デジタル信号処理の演算負荷を低減し、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となる。
【0044】
[実施例2]
次に、図2に基づいて実施例2を説明する。実施例1と同じ動作をするものは同じ番号を付け、その説明を割愛する。信号処理部100a、デジタル信号処理部200aで実施例1と異なる構成は、実施例2でローパスフィルタ90が存在することである。図7に基づきローパスフィルタ90の動作の説明を行う。ローパスフィルタ90は、加減算器98と第1の積分器92と第1の積分器92に直列に接続された第2の積分器94と必要に応じてLPF演算部96とにより構成される。LPF演算部96の出力が加減算器98の入力側にフィードバックされて閉ループ構成となる。積分器92,94のどちらか一方は、比例積分器として、閉ループ特性が安定となるように構成してもよい。高域のノイズが小さい場合、LPF演算部96は割愛してもよい。このようにローパスフィルタ90は、積分器を2ケ要すII型閉ループフィルタとなる。従って、入力がランプ信号であっても、定常追従偏差はゼロとなり、測定対象物が等速で移動し、位置または変位がランプ状に変化する場合でもローパスフィルタ90から出力される位置または変位の定常誤差はゼロである。ローパスフィルタ90のカットオフ周波数fcは、デシメーション周波数fm/2に対して、fc<fm/2となるよう設定される。例えば、fm=20MHz、fc=100kHzとすると、ローパスフィルタ90の伝達関数は、図17のような特性で与えられる。
【0045】
実施例2では、実施例1に比べ、測定対象物の移動速度が極めて速い場合を想定する。例えば、λ=1.55μm、v=2.5m/s、j=4、fsp=100MHz、fr=10MHz、fm=20MHz、fd=6.45MHzの場合を考える。図11はデシメーションフィルタ特性に対する上記設定条件を示したものである。第1および第2デシメーションフィルタ30,50のノッチ特性は、正規化周波数=0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、即ち、10MHz、20MHz、30MHz、40MHz、50MHzで発生する。fr=10MHzとすると、2fr=20MHzとなり、第1および第2同期検波部10,20で発生する周波数2frの高調波を第1および第2デシメーションフィルタ30,50におけるノッチフィルタ特性により極めて効率よく減衰させることが可能となる。
【0046】
しかしながら、第2周波数fd=±6.45MHzが非常に大きいため、(2fr+fd)の周波数、(2fr−fd)の周波数付近ではノッチフィルタ特性が十分効かず、高調波(2fr±fd)を十分に低減することができない場合がある。第1および第2デシメーションフィルタ30,50は、図11に示す特性で周波数(2fr±fd)の高調波を減衰させるとともに、その周波数を{(2fr±fd)−fm×i/2}(iは1以上の整数)にシフトさせる。例えば、上記の場合、2fr±fd=20MHz±6.45MHzである。これに対して第1および第2デシメーションフィルタ30,50の出力は、i=2で、−20MHzの周波数シフトとなり、結果として高調波は±6.45MHzの周波数成分となる。
【0047】
この設定において、ローパスフィルタ90がない場合のシミュレーション結果を図14Aに示す。位置誤差は、λ/1550より小さい値となっているが、高精度な位置測定が必要となる場合には必ずしも十分な特性ではないことがある。この位置誤差の主要因は、第1および第2同期検波部10,20で発生した周波数(2fr±fd)の高調波が上記の第1および第2デシメーションフィルタ30,50で周波数シフトされ、±6.45MHzの周波数成分となったものである。
【0048】
位相演算部60は、図9A、9Bに示したように、位相補正部64の動作により測定対象物の移動速度に応じて発生した第2周波数での変調の位相を補正する。従って、例えば、一定速度で移動する測定対象物に対する位置または変位の測定出力は図9Bに示すようになる。先に述べた図9Aのような2×fdの周波数を有する±π/2の鋸歯状波ではなく、位置が直線的に増加する特性となる。この位相演算部60の出力に、第1および第2デシメーションフィルタ30,50で周波数がシフトされた微小な±6.45MHzの高調波の誤差信号が重畳する。これは、位相演算部60の出力または位置演算部70の出力に、カットオフ周波数fc<デシメーション周波数fm/2のローパスフィルタ90を設けることにより容易に除去することができる。つまり、図17に示すローパスフィルタ90により、fc=100kHzとした場合、第1および第2デシメーションフィルタ30,50で周波数シフトされた微小な±6.45MHzの高調波は−70dB以下に減衰される。
【0049】
このローパスフィルタ90を透過した後の位置誤差を図14Bに示す。位置誤差はλ/2000より十分に小さく減衰され、位置誤差が著しく低減されたことが分かる。また、この場合、fm=20MHz、fd=6.45MHz、4×fd=25.8MHzより、4×fd>fmとなる。しかし、fm≧2×fd=12.9MHzであるため、先に述べた位相演算部60の象限判定部62、方向判定部63、位相補正部64の動作により正確に測定対象物の位置または変位を測定することができる。このように、測定対象物が高速に移動している場合においても極めて高精度な位置測定が可能となることが分かる。尚、ローパスフィルタ90は、図7に示したように積分器と加減算器により構成され、高速且つ高次数のデジタルフィルタを用いる必要がない。
【0050】
実施例2では、第1および第2デシメーションフィルタ30,50において、第1および第2同期検波部10,20で発生する周波数(2fr±fd)の高調波を減衰させてその周波数を{(2fr±fd)−fm×i/2}(iは1以上の整数)にシフトさせる。また、実施例2では、位相補正部64にて位相シフトの判定と位相シフトを行い、測定対象物の移動速度に応じて発生した±fdの周波数シフトを打ち消す。
【0051】
さらに、位相演算部60の出力または前記位置演算部70の出力にカットオフ周波数fc<fm/2のローパスフィルタ90を設けることにより周波数{2fr±fd)−fm×i/2}の高調波を除去する。つまり、測定対象物の最高移動速度で発生する第2周波数の最大値をfd_maxとし、fc<|(2fr±fd_max)−fm×i/2|(ただしiは1以上の整数)、且つ、fc<fm/2を満たし、|(2fr+fd_max)−fm×i/2|と|(2fr−fd_max)−fm×i/2|のうち小さいほうの周波数以下に、fcを設定する。そのようにすることで、実施例2では、高速且つ高次数のデジタルフィルタを用いることなく高精度に第2周波数±fdを検出することができる。その結果、サンプリング周波数とデジタル信号処理の演算負荷を低減し、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となる。
【0052】
また、第2周波数fdがデシメーション周波数fmに対し、fm≧4×fdの場合は象限判定、移動方向判定、位相シフト判定を行う。4×fd>fm≧2×fd_maxの場合は、それ以前のfm≧4×fdにおける移動方向の判定結果を用い、位相補正部64にて位相シフトの判定と位相シフトを行う。そのため、fm≧4×fdおよび4×fd>fm≧2×fd_maxで前記測定対象物の位置または変位を測定可能となり、サンプリング周波数とデジタル信号処理の演算負荷が低減される。その結果、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となる。従って、実施例2によれば、測定対象物の位置または変位を測定する測定装置において、デジタル信号処理の演算負荷を低減し、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となる。
【0053】
[実施例3]
次に、実施例3を説明する。構成は、図2に示す実施例2における信号処理部100a、デジタル信号処理部200aと同じであり、実施例2と異なる点は、第1周波数frの設定方法である。実施例3では、第1周波数変調frはn×fm(n=3/8、5/8、7/8、9/8、11/8・・・)となるよう設定される。なお、第1周波数frは、式n×fmで求められた周波数に対して±30%の許容範囲を有している。
【0054】
例えば、λ=1.55μm、v=2.5m/s、j=4、fsp=100MHz、fm=20MHz、fd=6.45MHzの場合を考える。この場合、設定可能な第1周波数frは、式15より、6.45MHz < fr ≦ 21.775MHzである。従って、第1周波数frは、7.5MHz、または12.5MHz、または17.5MHzに設定可能である。
【0055】
図12はデシメーションフィルタ特性に対し、fr=7.5MHzに設定した場合の特性である。第1および第2デシメーションフィルタ30,50のノッチ特性は、正規化周波数=0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、即ち、10MHz、20MHz、30MHz、40MHz、50MHzで発生する。fr=7.5MHzの場合、2fr=15MHzとなり、第1および第2同期検波部10,20で発生する周波数2frの高調波は、第1および第2デシメーションフィルタ30,50のノッチフィルタ特性ではなく、ピーク値近くに当たる。そのため、高調波を十分に低減することができない場合がある。それとは逆に、測定対象物の移動速度に応じて第2周波数fdが大きくなると、(2fr−fd)および(2fr+fd)の周波数の高調波は、10MHzと20MHzのノッチフィルタ特性により極めて効率よく減衰させることが可能となる。
【0056】
第1および第2デシメーションフィルタ30および50は、図12に示す特性で周波数(2fr±fd)の高調波を減衰させるとともに、その周波数を{(2fr±fd)−fm×i/2}(iは1以上の整数)にシフトさせる。例えば、上記の場合、2fr±fd=15MHz±6.45MHzである。これに対して第1および第2デシメーションフィルタ30,50の出力は、i=1で、−10MHzの周波数シフトとなり、結果として、高調波は、5MHz±6.45MHzの周波数成分となる。
【0057】
測定対象物がv=0.025m/sと比較的低速で移動し、ローパスフィルタ90がない場合のシミュレーション結果を図15Aに示す。位置誤差は、λ/1550より小さい値となっているが、高精度な位置測定が必要となる場合には必ずしも十分な特性ではないことがある。この位置誤差の主要因は、第1および第2同期検波部10,20で発生した周波数(2fr±fd)の高調波が第1および第2デシメーションフィルタ30,50で周波数シフトされ、約5MHzの周波数成分となったものである。
【0058】
位相演算部60の出力に、第1および第2デシメーションフィルタ30,50で周波数シフトされた微小な5MHz前後の周波数を持つ高調波の誤差信号が重畳する。この高調波は、位相演算部60の出力または位置演算部70の出力に、カットオフ周波数fc<デシメーション周波数fm/2のローパスフィルタ90を設けることにより容易に除去することができる。つまり、図17に示すローパスフィルタ90により、fc=100kHzとした場合、第1および第2デシメーションフィルタ30,50で周波数シフトされた微小な5MHzの高調波成分は−70dB以下に減衰される。このローパスフィルタ90を透過した後のシミュレーション結果を図15Bに示す。位置誤差はλ/2000より十分に小さく減衰され、位置誤差が著しく低減されたことが分かる。
【0059】
測定対象物がv=2.5m/sと極めて高速で移動し、ローパスフィルタ90がない場合のシミュレーション結果を図16Aに示す。測定対象物の移動速度に応じて発生する周波数シフトfdは6.45MHzと非常に大きくなる。この場合、図12から分かるように、第1および第2同期検波部10,20で発生した周波数2fr+fd=21.45MHzの高調波は、第1および第2デシメーションフィルタ30,50の20MHzにおけるノッチフィルタ特性により極めて効率よく減衰させることが可能となる。シミュレーション結果の位置誤差は、λ/1550より小さい値となっている。更にローパスフィルタ90を透過した後のシミュレーション結果を図16Bに示す。位置誤差はλ/2000より十分に小さく減衰され、位置誤差が著しく低減されたことが分かる。
【0060】
実施例3では、第1周波数frを概ねn×fm(n=3/8、5/8、7/8、9/8、11/8・・・)となるよう設定した。第1および第2同期検波部10,20で発生した周波数(2fr±fd)の高調波を第1および第2デシメーションフィルタ30,50のk×fm(k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2・・・)におけるノッチフィルタ特性により減衰させた。また、第1および第2同期検波部10,20で発生した高調波の周波数を{(2fr±fd)−fm×i/2}(iは1以上の整数)にシフトさせた。さらに、位相演算部60の位相補正部64にて位相シフトの判定と位相シフトを行い、測定対象物の移動速度に応じて発生した±fdの第1周波数の変調を打ち消した。
【0061】
また、位相演算部60の出力または位置演算部70の出力にカットオフ周波数fc<fm/2のローパスフィルタ90を設けることにより周波数{(2fr±fd)−fm×i/2}の高調波成分を除去した。それにより、実施例3では、高速且つ高次数のデジタルフィルタを用いることなく高精度に第2周波数±fdを検出することができた。その結果、実施例3では、サンプリング周波数とデジタル信号処理の演算負荷を低減し、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となった。従って、実施例3によれば、測定対象物の位置または変位を測定する測定装置において、デジタル信号処理の演算負荷を低減し、低コストで高精度な位置または変位を測定することが可能となる。
【0062】
[実施例4]
次に、図3に基づいて実施例4を説明する。実施例1および実施例2と同じ動作をするものは同じ番号を付け、その説明を割愛する。実施例1および実施例2と異なる構成は、測定処理に伴う遅延に起因して演算部の演算結果に発生する誤差を補正する誤差補正部を設けることである。誤差補正部は、速度演算部82、記憶部84、乗算器86、加算器88を含む。測定対象物が移動速度vで移動し、干渉計500から信号処理部100に遅延時間τdがあると、位置または変位に式19で示される測定誤差errが生じる。
err(m)=v(m/s)×τd(s)・・・(19)
【0063】
例えば、v=2.5(m/s)、τd=1(μs)とすると、err=2.5μmとなり、非常に大きな測定誤差となる。遅延時間τdは干渉計500から信号処理部100における遅れ時間の合計値であり、多くの構成要素で発生する。例えば、測定光P2の伝播遅延時間、受光器2,4やI/V変換器4,14、フィルタ6,16の遅延時間、A/D変換器8,18における遅延時間、デジタル信号処理部200における各種演算の遅延時間等である。これらの遅延時間を設計値として算出するか、または、実測により求め、記憶部84に記憶する。
【0064】
速度演算部82は、位置演算部70からの出力を微分する等して測定対象物の移動速度vを演算する。速度演算部82からの出力vと記憶部84からの遅延時間τdを乗算器86で乗算し、式19で表される位置または変位の誤差を演算する。この乗算結果を加算器88にて位置演算部70からの位置または変位の値に加算し、干渉計500から信号処理部100における全ての遅延時間の合計τdにより発生する位置または変位の誤差を補正する。
【0065】
以上より、測定対象物が移動速度vで移動し、信号処理部100の処理に遅延時間τdがある場合においても、位置または変位の測定誤差を補正して高精度な位置または変位を測定することが可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調部によって第1周波数で変調された基準光からデジタル基準信号を取得し、前記第1周波数で変調された光が照射された測定対象物から反射された測定光からデジタル測定信号を取得し、前記デジタル基準信号と前記デジタル測定信号とを処理して前記測定対象物の位置を測定する装置であって、
前記測定光は、前記第1周波数での変調に加えて前記測定対象物の移動に起因して第2周波数で変調され、
前記デジタル測定信号に前記デジタル基準信号と同期したサイン信号を乗算して前記第2周波数および高調波の成分を有する信号を出力する第1同期検波部と、
前記デジタル測定信号に前記デジタル基準信号と同期したコサイン信号を乗算して前記第2周波数および高調波の成分を有する信号を出力する第2同期検波部と、
前記第1同期検波部から出力された信号をデシメーション周波数でフィルタリングして前記高調波の成分を減衰させる第1デシメーションフィルタと、
前記第2同期検波部から出力された信号を前記デシメーション周波数でフィルタリングして前記高調波の成分を減衰させる第2デシメーションフィルタと、
前記第1デシメーションフィルタから出力された信号と前記第2デシメーションフィルタから出力された信号とに基づいて前記測定対象物の位置を演算する演算部と、
を備え、
前記第1周波数をfrとし、前記第2周波数をfdとし、前記デシメーション周波数をfmとするとき、
前記高調波の周波数は(2fr±fd)で示され、
前記第1周波数および前記デシメーション周波数は、fr=n×fm(ただし、nは1/4、2/4、3/4、4/4、5/4、・・・のいずれか)の関係を満たし、
前記第1および第2デシメーションフィルタは、k×fm(ただし、k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2、・・・のいずれか)の周波数でゲインが減衰するノッチフィルタ特性で(2fr±fd)で示される周波数を有する前記高調波を減衰させる、
ことを特徴とする測定装置。
【請求項2】
変調部によって第1周波数で変調された基準光からデジタル基準信号を取得し、前記第1周波数で変調された光が照射された測定対象物から反射された測定光からデジタル測定信号を取得し、前記デジタル基準信号と前記デジタル測定信号とを処理して前記測定対象物の位置を測定する装置であって、
前記測定光は、前記第1周波数での変調に加えて前記測定対象物の移動に起因して第2周波数で変調され、
前記デジタル測定信号に前記デジタル基準信号と同期したサイン信号を乗算して前記第2周波数および高調波の成分を有する信号を出力する第1同期検波部と、
前記デジタル測定信号に前記デジタル基準信号と同期したコサイン信号を乗算して前記第2周波数および高調波の成分を有する信号を出力する第2同期検波部と、
前記第1同期検波部から出力された信号をデシメーション周波数でフィルタリングして前記高調波の成分を減衰させるとともにその周波数をシフトさせる第1デシメーションフィルタと、
前記第2同期検波部から出力された信号を前記デシメーション周波数でフィルタリングして前記高調波の成分を減衰させるとともにその周波数をシフトさせる第2デシメーションフィルタと、
前記第1デシメーションフィルタから出力された信号と前記第2デシメーションフィルタから出力された信号とに基づいて前記測定対象物の位置を演算する演算部と、
前記演算部により演算された位置に含まれる前記周波数がシフトされた後の高調波を除去するローパスフィルタと、
を備え、
前記第1周波数をfrとし、前記第2周波数をfdとし、前記デシメーション周波数をfmとし、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数をfcとするとき、
前記高調波の周波数は(2fr±fd)で示され、
前記第1および第2デシメーションフィルタによりシフトされた後の高調波の周波数は{(2fr±fd)−fm×i/2}(ただしiは1以上の整数)で示され、
前記デシメーション周波数および前記カットオフ周波数は、fc<fm/2の関係を満たす、
ことを特徴とする測定装置。
【請求項3】
前記第1周波数および前記デシメーション周波数は、fr=n×fm(ただし、n=1/4、2/4、3/4、4/4、5/4、・・・のいずれか)の関係を満たし、
前記デシメーションフィルタは、k×fm(ただし、k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2、・・・のいずれか)の周波数でゲインが減衰するノッチフィルタ特性で(2fr±fd)で示される周波数を有する前記高調波を減衰させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記第1周波数および前記デシメーション周波数は、fr=n×fm(ただし、n=3/8、5/8、7/8、9/8、11/8、・・・のいずれか)の関係を満たし、
前記デシメーションフィルタは、k×fm(ただし、k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2、・・・のいずれか)の周波数でゲインが減衰するノッチフィルタ特性で(2fr±fd)で示される周波数を有する前記高調波を減衰させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の測定装置。
【請求項5】
前記ローパスフィルタは、第1の積分器と該第1の積分器に直列に接続された第2の積分器とを有し、前記第2の積分器の出力を前記第1の積分器の入力側にフィードバックして閉ループを構成する、ことを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記測定対象物の最高移動速度で発生する第2周波数の最大値をfd_maxとし、前記デジタル基準信号および前記デジタル測定信号を取得するときのサンプリング周波数をfspとするとき、前記第1周波数は、
fd_max < fr ≦ (fsp/2− fd_max)/2
を満足するよう設定される、ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項7】
前記測定対象物の最高移動速度で発生する第2周波数の最大値をfd_maxとし、
fc<|(2fr±fd_max)−fm×i/2|(ただしiは1以上の整数)、且つ、fc<fm/2を満たし、
|(2fr+fd_max)−fm×i/2|と|(2fr−fd_max)−fm×i/2|のうち小さいほうの周波数以下に、fcを設定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の測定装置。
【請求項8】
前記演算部は、
前記測定対象物の移動に起因する変調の位相を演算する位相演算部と、
前記位相演算部により演算された位相から前記測定対象物の位置を演算する位置演算部と、
を含み、
前記位相演算部は、
前記第1デシメーションフィルタから出力されたコサイン信号と前記第2デシメーションフィルタから出力されたサイン信号とを用いてアークタンジェント演算を行うアークタンジェント演算部と、
前記コサイン信号および前記サイン信号の正負に基づいて、前記コサイン信号および前記サイン信号の象限を判定する象限判定部と、
前記象限判定部により判定された象限の推移から前記測定対象物の移動方向を判定する方向判定部と、
前記象限判定部および前記方向判定部の判定結果に基づいて、前記コサイン信号および前記サイン信号が第1象限と第2象限との境界および第3象限と第4象限との境界をまたぐときに前記アークタンジェント演算部により演算された位相角に+πまたは−πを加算することで位相角を補正する位相補正部と、
を備え、
前記第2周波数および前記デシメーション周波数がfm≧4×fdの関係を満たす場合、前記象限判定部は、前記デシメーションフィルタから出力された信号の象限を判定し、前記方向判定部は前記測定対象物の移動方向を判定し、前記位相補正部は、前記象限判定部および前記方向判定部の判定結果に基づいて位相角を補正し、
前記第2周波数および前記デシメーション周波数が4×fd>fm≧2×fd_maxの関係を満たす場合、前記象限判定部は前記デシメーションフィルタから出力された信号の象限を判定し、前記方向判定部はfm≧4×fdにおける場合の移動方向の判定結果を用い、前記位相補正部は、前記象限判定部の判定結果とfm≧4×fdの場合における前記方向判定部の判定結果を用いて位相角を補正する、
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項9】
前記第1および第2デシメーションフィルタは、CIC(Cascaded Integrator Comb)フィルタ、sincフィルタ、又は、平均化フィルタである、ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項10】
前記デジタル基準信号と前記デジタル測定信号との取得および処理の遅延時間によって前記演算部の演算結果に発生する誤差を補正する誤差補正部をさらに備え、
前記誤差補正部は、
前記演算部により出力された位置の信号から前記測定対象物の速度を演算する速度演算部と、
前記遅延時間を記憶する記憶部と、
前記速度演算部により演算された速度と前記記憶部により記憶された遅延時間とを乗算する乗算器と、
前記演算部により演算された位置の信号に前記乗算器の乗算結果を加算する加算器と、
を含む、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項1】
変調部によって第1周波数で変調された基準光からデジタル基準信号を取得し、前記第1周波数で変調された光が照射された測定対象物から反射された測定光からデジタル測定信号を取得し、前記デジタル基準信号と前記デジタル測定信号とを処理して前記測定対象物の位置を測定する装置であって、
前記測定光は、前記第1周波数での変調に加えて前記測定対象物の移動に起因して第2周波数で変調され、
前記デジタル測定信号に前記デジタル基準信号と同期したサイン信号を乗算して前記第2周波数および高調波の成分を有する信号を出力する第1同期検波部と、
前記デジタル測定信号に前記デジタル基準信号と同期したコサイン信号を乗算して前記第2周波数および高調波の成分を有する信号を出力する第2同期検波部と、
前記第1同期検波部から出力された信号をデシメーション周波数でフィルタリングして前記高調波の成分を減衰させる第1デシメーションフィルタと、
前記第2同期検波部から出力された信号を前記デシメーション周波数でフィルタリングして前記高調波の成分を減衰させる第2デシメーションフィルタと、
前記第1デシメーションフィルタから出力された信号と前記第2デシメーションフィルタから出力された信号とに基づいて前記測定対象物の位置を演算する演算部と、
を備え、
前記第1周波数をfrとし、前記第2周波数をfdとし、前記デシメーション周波数をfmとするとき、
前記高調波の周波数は(2fr±fd)で示され、
前記第1周波数および前記デシメーション周波数は、fr=n×fm(ただし、nは1/4、2/4、3/4、4/4、5/4、・・・のいずれか)の関係を満たし、
前記第1および第2デシメーションフィルタは、k×fm(ただし、k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2、・・・のいずれか)の周波数でゲインが減衰するノッチフィルタ特性で(2fr±fd)で示される周波数を有する前記高調波を減衰させる、
ことを特徴とする測定装置。
【請求項2】
変調部によって第1周波数で変調された基準光からデジタル基準信号を取得し、前記第1周波数で変調された光が照射された測定対象物から反射された測定光からデジタル測定信号を取得し、前記デジタル基準信号と前記デジタル測定信号とを処理して前記測定対象物の位置を測定する装置であって、
前記測定光は、前記第1周波数での変調に加えて前記測定対象物の移動に起因して第2周波数で変調され、
前記デジタル測定信号に前記デジタル基準信号と同期したサイン信号を乗算して前記第2周波数および高調波の成分を有する信号を出力する第1同期検波部と、
前記デジタル測定信号に前記デジタル基準信号と同期したコサイン信号を乗算して前記第2周波数および高調波の成分を有する信号を出力する第2同期検波部と、
前記第1同期検波部から出力された信号をデシメーション周波数でフィルタリングして前記高調波の成分を減衰させるとともにその周波数をシフトさせる第1デシメーションフィルタと、
前記第2同期検波部から出力された信号を前記デシメーション周波数でフィルタリングして前記高調波の成分を減衰させるとともにその周波数をシフトさせる第2デシメーションフィルタと、
前記第1デシメーションフィルタから出力された信号と前記第2デシメーションフィルタから出力された信号とに基づいて前記測定対象物の位置を演算する演算部と、
前記演算部により演算された位置に含まれる前記周波数がシフトされた後の高調波を除去するローパスフィルタと、
を備え、
前記第1周波数をfrとし、前記第2周波数をfdとし、前記デシメーション周波数をfmとし、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数をfcとするとき、
前記高調波の周波数は(2fr±fd)で示され、
前記第1および第2デシメーションフィルタによりシフトされた後の高調波の周波数は{(2fr±fd)−fm×i/2}(ただしiは1以上の整数)で示され、
前記デシメーション周波数および前記カットオフ周波数は、fc<fm/2の関係を満たす、
ことを特徴とする測定装置。
【請求項3】
前記第1周波数および前記デシメーション周波数は、fr=n×fm(ただし、n=1/4、2/4、3/4、4/4、5/4、・・・のいずれか)の関係を満たし、
前記デシメーションフィルタは、k×fm(ただし、k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2、・・・のいずれか)の周波数でゲインが減衰するノッチフィルタ特性で(2fr±fd)で示される周波数を有する前記高調波を減衰させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記第1周波数および前記デシメーション周波数は、fr=n×fm(ただし、n=3/8、5/8、7/8、9/8、11/8、・・・のいずれか)の関係を満たし、
前記デシメーションフィルタは、k×fm(ただし、k=1/2、2/2、3/2、4/2、5/2、・・・のいずれか)の周波数でゲインが減衰するノッチフィルタ特性で(2fr±fd)で示される周波数を有する前記高調波を減衰させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の測定装置。
【請求項5】
前記ローパスフィルタは、第1の積分器と該第1の積分器に直列に接続された第2の積分器とを有し、前記第2の積分器の出力を前記第1の積分器の入力側にフィードバックして閉ループを構成する、ことを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記測定対象物の最高移動速度で発生する第2周波数の最大値をfd_maxとし、前記デジタル基準信号および前記デジタル測定信号を取得するときのサンプリング周波数をfspとするとき、前記第1周波数は、
fd_max < fr ≦ (fsp/2− fd_max)/2
を満足するよう設定される、ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項7】
前記測定対象物の最高移動速度で発生する第2周波数の最大値をfd_maxとし、
fc<|(2fr±fd_max)−fm×i/2|(ただしiは1以上の整数)、且つ、fc<fm/2を満たし、
|(2fr+fd_max)−fm×i/2|と|(2fr−fd_max)−fm×i/2|のうち小さいほうの周波数以下に、fcを設定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の測定装置。
【請求項8】
前記演算部は、
前記測定対象物の移動に起因する変調の位相を演算する位相演算部と、
前記位相演算部により演算された位相から前記測定対象物の位置を演算する位置演算部と、
を含み、
前記位相演算部は、
前記第1デシメーションフィルタから出力されたコサイン信号と前記第2デシメーションフィルタから出力されたサイン信号とを用いてアークタンジェント演算を行うアークタンジェント演算部と、
前記コサイン信号および前記サイン信号の正負に基づいて、前記コサイン信号および前記サイン信号の象限を判定する象限判定部と、
前記象限判定部により判定された象限の推移から前記測定対象物の移動方向を判定する方向判定部と、
前記象限判定部および前記方向判定部の判定結果に基づいて、前記コサイン信号および前記サイン信号が第1象限と第2象限との境界および第3象限と第4象限との境界をまたぐときに前記アークタンジェント演算部により演算された位相角に+πまたは−πを加算することで位相角を補正する位相補正部と、
を備え、
前記第2周波数および前記デシメーション周波数がfm≧4×fdの関係を満たす場合、前記象限判定部は、前記デシメーションフィルタから出力された信号の象限を判定し、前記方向判定部は前記測定対象物の移動方向を判定し、前記位相補正部は、前記象限判定部および前記方向判定部の判定結果に基づいて位相角を補正し、
前記第2周波数および前記デシメーション周波数が4×fd>fm≧2×fd_maxの関係を満たす場合、前記象限判定部は前記デシメーションフィルタから出力された信号の象限を判定し、前記方向判定部はfm≧4×fdにおける場合の移動方向の判定結果を用い、前記位相補正部は、前記象限判定部の判定結果とfm≧4×fdの場合における前記方向判定部の判定結果を用いて位相角を補正する、
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項9】
前記第1および第2デシメーションフィルタは、CIC(Cascaded Integrator Comb)フィルタ、sincフィルタ、又は、平均化フィルタである、ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項10】
前記デジタル基準信号と前記デジタル測定信号との取得および処理の遅延時間によって前記演算部の演算結果に発生する誤差を補正する誤差補正部をさらに備え、
前記誤差補正部は、
前記演算部により出力された位置の信号から前記測定対象物の速度を演算する速度演算部と、
前記遅延時間を記憶する記憶部と、
前記速度演算部により演算された速度と前記記憶部により記憶された遅延時間とを乗算する乗算器と、
前記演算部により演算された位置の信号に前記乗算器の乗算結果を加算する加算器と、
を含む、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−122850(P2012−122850A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273941(P2010−273941)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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