測角装置
【課題】ウェーブレット変換を用いるレーダ装置であっても、ビーム幅内における目標が存在する方向を測角できる測角装置を提供する。
【解決手段】入力信号に対してウェーブレット変換を施すことにより得られたウェーブレット展開係数に基づき目標を検出する目標検出部20と、目標検出部20において目標が検出されたビームポジションにモノパルスビームを送受信してモノパルス測角を行う測角部30とを備えている。
【解決手段】入力信号に対してウェーブレット変換を施すことにより得られたウェーブレット展開係数に基づき目標を検出する目標検出部20と、目標検出部20において目標が検出されたビームポジションにモノパルスビームを送受信してモノパルス測角を行う測角部30とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捜索や追尾などを行うレーダ装置に適用されて目標の測角を行う測角装置に関し、特に離散ウェーブレット変換を用いて目標を検出する場合の測角技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の信号処理分野において、フーリエ変換や離散コサイン変換(DCT)処理に代えて、ウェーブレット変換処理がよく利用されている。ウェーブレット変換処理に関しては、例えば非特許文献1に詳細が記述されている。ウェーブレット変換は、強度が局所的に分布する信号を効率良く処理できるため、画像処理や音声信号処理、さらにはレーダ装置におけるビデオ信号処理などといった種々の分野で応用されている。
【0003】
レーダ装置においては、目標からの反射エコーに基づくビデオ信号をフーリエ変換処理して周波数軸上のスペクトラムを取得し、これをフィルタリングして目標成分を抽出することが行われている。しかしながら、フーリエ変換処理では時間に関する情報が失われ、処理効率も悪い。これに対し、ウェーブレット変換を用いれば、時間に関する情報を残しつつ効率的な処理を行うことができる。
【0004】
図14は、このようなウェーブレット変換を利用する既存のレーダ装置を示す機能ブロック図である。このレーダ装置では、ウェーブレット変換回路3におけるウェーブレット変換により生成された展開係数W1〜Wjは、まず、展開係数選定回路4に入力される。展開係数選定回路4は、ノイズが含まれることが予想される展開係数成分を除去した展開係数を逆ウェーブレット変換回路50に入力する。逆ウェーブレット変換回路50は、与えられた展開係数成分を再び周波数成分に戻し、この再変換後のデータを用いてCFAR回路5におけるCFAR処理が行われ、さらに、検出器51において目標検出処理が実施される。
【非特許文献1】中野他著、「ウェーブレットによる信号処理と画像処理」、共立出版株式会社、pp.49−70(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のレーダ装置では、ビデオ信号をウェーブレット変換し、ウェーブレット軸上で不要な成分を除去したのち再合成して時間軸上の信号に戻す。そして、この時間軸上の信号をスレッショルド検波して目標の有無を判別する。従ってウェーブレット変換後の再合成処理が必須であり、回路構成や信号処理の規模が増大するという問題がある。
【0006】
また、ウェーブレット変換を用いるレーダ装置では、目標検出はできても、目標が存在する方向はビーム幅内でしか分からないため、ビーム幅内における目標が存在する方向を測角できないという問題がある。
【0007】
本発明は、ウェーブレット変換を用いるレーダ装置であっても、ビーム幅内における目標が存在する方向を測角できる測角装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記課題を解決するために、入力信号に対してウェーブレット変換を施すことにより得られたウェーブレット展開係数に基づき目標を検出する目標検出部と、目標検出部において目標が検出されたビームポジションにモノパルスビームを送受信してモノパルス測角を行う測角部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、スクイントビームの基準ビームおよび副ビームにより得られた入力信号をウェーブレット変換するウェーブレット変換回路と、基準ビームに対してウェーブレット変換回路から得られた第1ウェーブレット展開係数に基づき目標が検出された場合に、該第1ウェーブレット展開係数と、副ビームに対してウェーブレット変換回路から得られた第2ウェーブレット展開係数との比に基づき測角を行うウェーブレット変換測角回路とを備えたことを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、スクイントビームの基準ビームおよび副ビームにより得られた入力信号をウェーブレット変換するウェーブレット変換回路と、基準ビームに対してウェーブレット変換回路から得られた第1ウェーブレット展開係数に基づき目標が検出された場合に、該第1ウェーブレット展開係数に基づく値が所定のスレッショルド値以下であるかどうかを判定する判定処理回路と、判定処理回路において、所定のスレッショルド値より小さくないことが判定された場合に、第1ウェーブレット展開係数と、副ビームに対してウェーブレット変換回路から得られた第2ウェーブレット展開係数との比に基づき測角を行うウェーブレット変換測角回路と、判定処理回路において、所定のスレッショルド値以下であることが判定された場合に、目標が検出されたビームポジションにモノパルスビームを送受信してモノパルス測角を行う測角部とを備えたことを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、第3の発明において、判定処理回路は、基準ビームに対してウェーブレット変換回路から得られた第1ウェーブレット展開係数に基づき目標が検出された場合に、第1ウェーブレット展開係数と第2ウェーブレット展開係数との少なくとも一方に基づく値が所定のスレッショルド値以下であるかどうかを判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る測角装置によれば、ウェーブレット変換を用いるレーダ装置であっても、ビーム幅内における目標が存在する方向を測角できる。
【0013】
すなわち、第1の発明によれば、ウェーブレット変換により検出した目標のビームポジションにモノパルスビームを送受信して、モノパルス測角を実施するので、ビーム幅内の目標の方向を測定できる。
【0014】
また、第2の発明によれば、スクイントビームの各々のウェーブレット展開係数の比に基づき測角するので、ウェーブレット変換により目標を検出すると同時に、ウェーブレット展開係数の比により、ビーム幅内の目標の方向を測定できる。
【0015】
また、第3の発明によれば、スクイントしたビームでそれぞれウェーブレット変換し、基準ビームのウェーブレット展開係数の値が所定のスレッショルド値より大きい場合には、ウェーブレット展開係数の比により測角し、所定のスレッショルド値以下であれば、目標を検出した方向にモノパルスビームを送受信し、モノパルス測角を実施するので、ウェーブレット展開係数のレベルを確認して測角精度を判定でき、所定のスレッショルド値より大きければ、ウェーブレット変換による測角を用いて短時間に測角でき、所定のスレッショルド値以下であれば、モノパルス測角を適用することにより、測角精度を上げることができる。
【0016】
また、第4の発明によれば、スクイントしたビームでそれぞれウェーブレット変換し、スクイントビームの各々のウェーブレット展開係数の値が所定のスレッショルド値より大きい場合は、ウェーブレット展開係数の比により測角し、所定のスレッショルド値以下であれば、目標を検出した方向にモノパルスビームを送受信し、モノパルス測角を実施するように構成したので、第3の発明と同様の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の各実施例において、同一または相当する構成部分には同一の符号を付して説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の実施例1に係る測角装置が適用されたレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、アンテナ1、PC(パルス圧縮:Pulse Compression)回路2、選択回路7、目標検出部20および測角部30から構成されている。
【0019】
アンテナ1は、送信信号を電波に変換してビームとして外部に送信するとともに、送信したビームの反射波を受信して受信信号としてPC回路2に送る。アンテナ1によるビームの送受信方向は、目標検出部20から送られてくる制御信号によって制御される。
【0020】
PC回路2は、アンテナ1から送られてくる受信信号に対してパルス圧縮を施し、選択回路7に送る。なお、PC回路2において行われるパルス圧縮の詳細は、例えば『吉田他著、“改訂レーダ技術”、電子情報通信学会、pp.275-278(1996)』に説明されている。
【0021】
選択回路7は、PC回路2から送られてくる信号を目標検出部20に送るか測角部30に送るかを選択する。具体的には、選択回路7は、目標検出時は、PC回路2から送られてくる信号を目標検出部20に送り、目標検出部20において検出された目標に対してモノパルスビームを送受信して測角を行う時は、PC回路2から送られてくる信号を測角部30に送る。
【0022】
目標検出部20は、ウェーブレット変換を用いて目標を検出する処理を実行する。目標検出部20は、ウェーブレット変換(DWT:Discrete Wavelet Transform)回路3、展開係数選定回路4、CFAR(一定誤警報;Constant False Alarm Rate)回路5および相関処理回路6から構成されている。
【0023】
ウェーブレット変換回路3は、アンテナ1からPC回路2および選択回路7を経由して送られてくる受信信号を入力データとし、この入力データに対して離散ウェーブレット変換を施す。ここで、ウェーブレット変換回路3への入力データを、複素信号f0(I+jQ)で表すと、離散ウェーブレット変換の対象となる信号fとしては、下式(1)〜(4)に示す4通りなどを考えることができる。
【数1】
【0024】
ここで、
I:実部
Q:虚部
j:虚数単位
ウェーブレット変換回路3は、このような信号fを入力データとして、離散ウェーブレット変換を実行し、複数のウェーブレット展開係数を求める。離散ウェーブレット変換は、図3(a)に示すような入出力信号(原波形)をスケーリング係数とウェーブレット展開係数で近似するものである。スケーリング係数には複数のレベル1〜jがあり、各レベルに応じて近似の程度が異なる。ウェーブレット展開係数は、スケーリング係数のレベル間における差に相当する。
【0025】
このような離散ウェーブレット変換はフィルタで表すことができる。図2は、離散ウェーブレット変換のフィルタ特性を示す図である。レベルの順に、周波数領域は、広域から低域へ遷移する。すなわち、高域においては短時間のフィルタ特性を持ち、低域に行くほど長時間のフィルタ特性を持つようになる。このフィルタ特性は、下式(5)〜(10)で表すことができる。
【数2】
【0026】
ここで、
fj:jレベルの近似関数(j=1〜J)
gj:jレベルの展開関数
sk:スケーリング展開係数(k=1〜K)
wk:ウェーブレット展開係数
φ :スケーリング関数
ψ :マザー・ウェーブレット関数
pk:マザー・ウェーブレット関数により決まる数列
* :複素共役
ここで、(9)式に示すwは、レベルjにおける近似関数と実際の波形との差分を表す成分であり、ウェーブレット展開係数を表す。ウェーブレット展開係数が算出される様子を図3に示す。
【0027】
別言すれば、目標検出の際に用いられるウェーブレット変換は、図4(a)に示すような入力データに対し、ウェーブレット変換核(例えばメキシカンハット等)のパラメータ(シフトRやスケールf)を変化させながら相関処理を行うことによりフィッティングさせ、図4(b)に示すような、高いウェーブレット変換データの出力を得る処理を実行する、と言うことができる。このウェーブレット展開を用いると、少ないヒット数で、信号を検出できるというメリットがある。ウェーブレット変換回路3において得られたウェーブレット展開係数は、展開係数選定回路4に送られる。
【0028】
展開係数選定回路4は、ウェーブレット変換回路3から送られてくるウェーブレット展開係数から展開係数W1〜Wmを選定し、CFAR回路5に送る。
【0029】
CFAR回路5は、展開係数選定回路4から送られてくる展開係数W1〜Wmの各々に対して、誤警報確率を一定の低さに抑えた信号を生成し、相関処理回路6に送る。
【0030】
図5は、CFAR回路5の一例として、相加平均で規格化を行うリニアCFAR回路の構成を示すブロック図である。CFAR回路5は、遅延回路51、加算回路52、平均化処理回路53、除算回路54およびスレッショルド検出回路55から構成されている。
【0031】
遅延回路51は、入力された信号xiを遅延させた後、加算回路52および除算回路54に送る。加算回路52は、一定期間に遅延回路51から送られてくるN個のデータを加算し、平均化処理回路53に送る。平均化処理回路53は、加算回路52から送られてくるN個のデータの平均値を算出し、除算回路54に送る。除算回路54は、遅延回路51から送られてくるデータを平均値で除算し、この除算結果をスレッショルド検出回路55に送る。スレッショルド検出回路55は、除算回路54から送られてくる信号を所定のスレッショルドレベルと比較し、その比較結果を表す信号を、検出信号として相関処理回路6に送る。なお、CFAR回路5は、相乗平均で規格化を行う対数CFAR部によって実現することもできる。
【0032】
相関処理回路6は、CFAR回路5から送られてくる検出信号に対して相関処理を実施して検出信号の統合等を行うことにより誤警報を低減し、目標の検出情報として出力する。この相関処理回路6において生成された検出情報によって表される目標のビームポジションを表す信号はアンテナ1に送られる。これにより、引き続いて、目標が検出されたビームポジションに対するモノパルスビームの送受信が行われる。
【0033】
測角部30は、MTI(移動目標指示:Moving Target Indicator)回路8、DFT(離散フーリエ変換;Discreet Fourier Transform)回路9、CFAR回路10およびモノパルス測角回路11から構成されている。
【0034】
MTI回路8は、アンテナ1からPC回路2および選択回路7を経由して受け取った受信信号に含まれるクラッタを抑圧し、DFT回路9に送る。
【0035】
DFT回路9は、MTI回路8から送られてくるクラッタが抑圧された信号を離散フーリエ変換により時間−周波数軸上の信号に変換し、CFAR回路10に送る。CFAR回路10は、上述した目標検出部20のCFAR回路5と同じであり、DFT回路9から送られてくる信号に対してCFAR処理を施してモノパルス測角回路11に送る。
【0036】
モノパルス測角回路11は、あらかじめ用意された誤差曲線を用いて、モノパルス測角を実施する。モノパルス測角としては、スクイントしたΣビームを用いるスクイント測角(振幅比較モノパルス)と、ΣビームとΔビームを用いる位相モノパルス測角(位相比較モノパルス)がある。
【0037】
スクイント測角の場合、図6(a)に示すようなΣAビームおよびΣBビームといった2つのビームの比をとって誤差電圧εを求め、あらかじめ用意された図6(b)に示すような誤差曲線のテーブルを参照し、誤差電圧εに対応する角度を求める。誤差電圧εは、下記(11)式により求められる。
【数3】
【0038】
ここで、
ΣA;ΣAビーム
ΣB;ΣBビーム
* ;複素共役
位相モノパルスの場合、図7(a)に示すようなΣビームおよびΔビームといった2つのビームの比をとって誤差電圧εを求め、あらかじめ用意された図7(b)に示すような誤差曲線のテーブルを参照し、誤差電圧εに対応する角度を求める。誤差電圧εは、下記(11)式により求められる。
【数4】
【0039】
ここで、
Σ;Σビーム
Δ;Δビーム
このようにしてモノパルス測角回路11において算出された角度が、目標の角度を表す測角値として外部に出力される。
【0040】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係る測角装置が適用されたレーダ装置の動作を図8に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0041】
レーダ装置による捜索が開始されると、まず、離散ウェーブレット変換(DWT)による目標の検出処理が行われ(ステップS1)、目標が検出されたかどうかが調べられる(ステップS2)。このステップS2において、目標が検出されなかったことが判断されると、シーケンスはステップS5に進む。
【0042】
一方、ステップS2において、目標が検出されたことが判断されると、次いで、モノパルスビームの送受信が行われる(ステップS3)。次いで、モノパルス測角が行われる(ステップS4)。これにより、ビーム幅内における目標が存在する方向(角度)が取得される。
【0043】
次いで、全空間の捜索が完了したかどうかが調べられる(ステップS5)。このステップS5において、全空間の捜索が完了していないことが判断されると、シーケンスはステップS1に戻り、ビーム方向を次の方向に変更して上述した処理が繰り返される。一方、ステップS5において、全空間の捜索が完了したことが判断されると、ビーム方向が捜索空間の最初の位置に戻される(ステップS6)。その後、シーケンスはステップS1に戻り、上述した処理が繰り返される。
【実施例2】
【0044】
上述した実施例1に係る測角装置では、離散ウェーブレット変換により検出した目標が存在するビームポジションに対して、モノパルスビームを送受信して測角を行うように構成したが、実施例2に係る測角装置では、離散ウェーブレット変換の展開係数を用いて測角を実施するために、スクイントビームΣAの送受信およびΣBの受信を行うようにしたものである。
【0045】
図9は、本発明の実施例2に係る測角装置が適用されたレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、アンテナ1、PC回路2、ウェーブレット変換回路3、展開係数選定回路4、CFAR回路5、相関処理回路6およびウェーブレット変換測角回路(以下、「DWT測角回路という)12から構成されている。
【0046】
アンテナ1で受信された受信信号はPC回路2に送られる。PC回路2は、アンテナ1から送られてくる受信信号に対してパルス圧縮を施し、ウェーブレット変換回路3に送る。ウェーブレット変換回路3は、PC回路2から送られてくる信号に対して離散ウェーブレット変換を施し、展開係数選定回路4に送る。展開係数選定回路4は、ウェーブレット変換回路3から送られてくる信号から展開係数W1〜Wmを選定し、CFAR回路5に送る。
【0047】
CFAR回路5は、展開係数選定回路4から送られてくる展開係数W1〜Wmの各々に対して、誤警報確率を一定の低さに抑えた信号を生成し、検出信号として相関処理回路6に送る。相関処理回路6は、CFAR回路5から送られてくる検出信号に対して相関処理を実施して検出信号の統合等を行うことにより誤警報を低減し、検出情報としてDWT測角回路12に送る。
【0048】
DWT測角回路12は、スクイントされたΣビーム、より詳しくは、送受信に使用されるΣAビーム(基準ビーム)および受信のみに使用されるΣBビーム(副ビーム)を用いて測角を行う。具体的には、DWT測角回路12は、ΣAビームにおいて離散ウェーブレット変換により目標を検出できた場合に、ΣBビームに対しても離散ウェーブレット変換を実施し、ΣAビームおよびΣBビームの各ウェーブレット展開係数を用いて、下記(13)式によりDWT測角を実施する。
【数5】
【0049】
ここで、
WA:ΣAのウェーブレット展開係数
WB:ΣBのウェーブレット展開係数
すなわち、DWT測角回路12は、図10(a)に示すようなΣAのウェーブレット展開係数WAとΣBのウェーブレット展開係数WBといった2つのウェーブレット展開係数の比をとって誤差電圧εを求め、あらかじめ用意された図10(b)に示すような誤差曲線のテーブルを参照し、誤差電圧εに対応する角度を求める。これにより、ビーム幅内の目標の測角値を得ることができる。
【0050】
次に、上記のように構成される本発明の実施例2に係る測角装置が適用されたレーダ装置の動作を図11に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0051】
レーダ装置による捜索が開始されると、まず、離散ウェーブレット変換(DWT)による目標の検出が行われ(ステップS11)、目標が検出されたかどうかが調べられる(ステップS12)。このステップS12において、目標が検出されなかったことが判断されると、シーケンスはステップS14に進む。一方、ステップS12において、目標が検出されたことが判断されると、次いで、離散ウェーブレット変換(DWT)による測角が行われる(ステップS13)。
【0052】
次いで、全空間の捜索が完了したかどうかが調べられる(ステップS14)。このステップS14において、全空間の捜索が完了していないことが判断されると、シーケンスはステップS11に戻り、ビーム方向を次の方向に変更して上述した処理が繰り返される。一方、ステップS14において、全空間の捜索が完了したことが判断されると、ビーム方向が捜索空間の最初の位置に戻される(ステップS15)。その後、シーケンスはステップS11に戻り、上述した処理が繰り返される。
【実施例3】
【0053】
上述した実施例2に係る測角装置におけるDWT測角では、DWT展開係数の値以下である場合には、DWT展開係数と目標信号レベルが、必ずしも比例しないことにより測角誤差が生じる可能性がある。この対策として、実施例3に係る測角装置では、DWT展開係数と所定のスレッショルド値とを比較して、DWT展開係数が所定のスレッショルド値より大きければDWT測角を実施し、所定のスレッショルド値以下であれば、実施例1と同様に、目標が検出されたビームポジションにモノパルスビームを送受信し、モノパルス測角を実施するようにしたものである。
【0054】
図12は、本発明の実施例3に係る測角装置が適用されたレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、実施例2に係る測角装置が適用されたレーダ装置に、判定処理回路13、選択回路14および測角部30が追加されて構成されている。
【0055】
判定処理回路13は、相関処理回路6から出力される検出情報が所定のスレッショルド値以下であるかどうかを判定する。そして、判定結果を選択回路14に送るとともに、検出情報が所定のスレッショルド値以下である場合は、制御信号をアンテナ1に送る。これにより、目標が検出されたビームポジションに対してモノパルスビームの送受信が行われる。この場合、PC回路2から得られる信号は、測角部30に送られる。
【0056】
測角部30は、実施例1のそれと同じである。この測角部30におけるモノパルス測角により得られた測角値は、選択回路14に送られる。
【0057】
選択回路14は、判定処理回路13から送られてくる判定結果に応じて、DWT測角回路12から送られてくる測角値または測角部30から送られてくる測角値の何れかを選択して出力する。従って、DWT展開係数が所定のスレッショルド値より大きければDWT測角により得られた測角値が出力され、所定のスレッショルド値以下であれば、モノパルス測角により得られた測角値が出力される。
【0058】
なお、スレッショルド値については、ΣAとΣBの両者に設定しても、またΣAの値のみに設定してもよい。
【0059】
次に、上記のように構成される本発明の実施例3に係る測角装置が適用されたレーダ装置の動作を図13に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0060】
レーダ装置による捜索が開始されると、まず、離散ウェーブレット変換(DWT)による目標の検出が行われ(ステップS21)、目標が検出されたかどうかが調べられる(ステップS22)。このステップS22において、目標が検出されなかったことが判断されると、シーケンスはステップS27に進む。一方、ステップS22において、目標が検出されたことが判断されると、次いで、検出情報が所定のスレッショルド値より大きいかどうかが調べられる(ステップS23)。
【0061】
このステップS23において、検出情報が所定のスレッショルド値より大きいことが判断されると、離散ウェーブレット変換(DWT)による測角が行われる(ステップS24)。その後、シーケンスは、ステップS27に進む。一方、上記ステップS23において、検出情報が所定のスレッショルド値より大きくないことが判断されると、次いで、モノパルスビームの送受信が行われる(ステップS25)。次いで、モノパルス測角が行われる(ステップS26)。その後、シーケンスは、ステップS27に進む。
【0062】
ステップS27では、全空間の捜索が完了したかどうかが調べられる。このステップS27において、全空間の捜索が完了していないことが判断されると、シーケンスはステップS21に戻り、ビーム方向を次の方向に変更して上述した処理が繰り返される。一方、ステップS27において、全空間の捜索が完了したことが判断されると、ビーム方向が捜索空間の最初の位置に戻される(ステップS28)。その後、シーケンスはステップS21に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0063】
なお、本発明では、ウェーブレット変換を用いて測角を行うことができれば、信号処理の順番を変更することができる。例えば、ウェーブレット変換の前に、MTI処理を含めて、クラッタを抑圧した後に、ウェーブレット変換を適用するように構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る測角装置は、レーダ装置や受信装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例1に係る測角装置が適用されたレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】離散ウェーブレット変換のフィルタ特性を示す図である。
【図3】離散ウェーブレット変換においてウェーブレット展開係数が算出される様子を示す図である。
【図4】離散ウェーブレット変換の原理を説明するための図である。
【図5】本発明の実施例1に係る測角装置が適用されたレーダ装置におけるCFAR回路の構成を示すブロック図である。
【図6】スクイント測角の原理を示す図である。
【図7】位相モノパルス測角の原理を示す図である。
【図8】本発明の実施例1に係る測角装置が適用されたレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施例2に係る測角装置が適用されたレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図10】ウェーブレットによる測角の原理を示す図である。
【図11】本発明の実施例2に係る測角装置が適用されたレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施例3に係る測角装置が適用されたレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の実施例3に係る測角装置が適用されたレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図14】従来のウェーブレット変換を利用したレーダ装置を説明するための図である。
【符号の説明】
【0066】
1 アンテナ
2 PC回路
3 ウェーブレット変換回路
4 展開係数選定回路
5 CFAR回路
6 相関処理回路
7 DWT測角回路
8 MTI回路
9 DFT回路
10 CFAR回路
11 モノパルス測角回路
12 DWT測角回路
13 判定処理回路
14 選択回路
20 目標検出部
30 測角部
【技術分野】
【0001】
本発明は、捜索や追尾などを行うレーダ装置に適用されて目標の測角を行う測角装置に関し、特に離散ウェーブレット変換を用いて目標を検出する場合の測角技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の信号処理分野において、フーリエ変換や離散コサイン変換(DCT)処理に代えて、ウェーブレット変換処理がよく利用されている。ウェーブレット変換処理に関しては、例えば非特許文献1に詳細が記述されている。ウェーブレット変換は、強度が局所的に分布する信号を効率良く処理できるため、画像処理や音声信号処理、さらにはレーダ装置におけるビデオ信号処理などといった種々の分野で応用されている。
【0003】
レーダ装置においては、目標からの反射エコーに基づくビデオ信号をフーリエ変換処理して周波数軸上のスペクトラムを取得し、これをフィルタリングして目標成分を抽出することが行われている。しかしながら、フーリエ変換処理では時間に関する情報が失われ、処理効率も悪い。これに対し、ウェーブレット変換を用いれば、時間に関する情報を残しつつ効率的な処理を行うことができる。
【0004】
図14は、このようなウェーブレット変換を利用する既存のレーダ装置を示す機能ブロック図である。このレーダ装置では、ウェーブレット変換回路3におけるウェーブレット変換により生成された展開係数W1〜Wjは、まず、展開係数選定回路4に入力される。展開係数選定回路4は、ノイズが含まれることが予想される展開係数成分を除去した展開係数を逆ウェーブレット変換回路50に入力する。逆ウェーブレット変換回路50は、与えられた展開係数成分を再び周波数成分に戻し、この再変換後のデータを用いてCFAR回路5におけるCFAR処理が行われ、さらに、検出器51において目標検出処理が実施される。
【非特許文献1】中野他著、「ウェーブレットによる信号処理と画像処理」、共立出版株式会社、pp.49−70(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のレーダ装置では、ビデオ信号をウェーブレット変換し、ウェーブレット軸上で不要な成分を除去したのち再合成して時間軸上の信号に戻す。そして、この時間軸上の信号をスレッショルド検波して目標の有無を判別する。従ってウェーブレット変換後の再合成処理が必須であり、回路構成や信号処理の規模が増大するという問題がある。
【0006】
また、ウェーブレット変換を用いるレーダ装置では、目標検出はできても、目標が存在する方向はビーム幅内でしか分からないため、ビーム幅内における目標が存在する方向を測角できないという問題がある。
【0007】
本発明は、ウェーブレット変換を用いるレーダ装置であっても、ビーム幅内における目標が存在する方向を測角できる測角装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記課題を解決するために、入力信号に対してウェーブレット変換を施すことにより得られたウェーブレット展開係数に基づき目標を検出する目標検出部と、目標検出部において目標が検出されたビームポジションにモノパルスビームを送受信してモノパルス測角を行う測角部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、スクイントビームの基準ビームおよび副ビームにより得られた入力信号をウェーブレット変換するウェーブレット変換回路と、基準ビームに対してウェーブレット変換回路から得られた第1ウェーブレット展開係数に基づき目標が検出された場合に、該第1ウェーブレット展開係数と、副ビームに対してウェーブレット変換回路から得られた第2ウェーブレット展開係数との比に基づき測角を行うウェーブレット変換測角回路とを備えたことを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、スクイントビームの基準ビームおよび副ビームにより得られた入力信号をウェーブレット変換するウェーブレット変換回路と、基準ビームに対してウェーブレット変換回路から得られた第1ウェーブレット展開係数に基づき目標が検出された場合に、該第1ウェーブレット展開係数に基づく値が所定のスレッショルド値以下であるかどうかを判定する判定処理回路と、判定処理回路において、所定のスレッショルド値より小さくないことが判定された場合に、第1ウェーブレット展開係数と、副ビームに対してウェーブレット変換回路から得られた第2ウェーブレット展開係数との比に基づき測角を行うウェーブレット変換測角回路と、判定処理回路において、所定のスレッショルド値以下であることが判定された場合に、目標が検出されたビームポジションにモノパルスビームを送受信してモノパルス測角を行う測角部とを備えたことを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、第3の発明において、判定処理回路は、基準ビームに対してウェーブレット変換回路から得られた第1ウェーブレット展開係数に基づき目標が検出された場合に、第1ウェーブレット展開係数と第2ウェーブレット展開係数との少なくとも一方に基づく値が所定のスレッショルド値以下であるかどうかを判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る測角装置によれば、ウェーブレット変換を用いるレーダ装置であっても、ビーム幅内における目標が存在する方向を測角できる。
【0013】
すなわち、第1の発明によれば、ウェーブレット変換により検出した目標のビームポジションにモノパルスビームを送受信して、モノパルス測角を実施するので、ビーム幅内の目標の方向を測定できる。
【0014】
また、第2の発明によれば、スクイントビームの各々のウェーブレット展開係数の比に基づき測角するので、ウェーブレット変換により目標を検出すると同時に、ウェーブレット展開係数の比により、ビーム幅内の目標の方向を測定できる。
【0015】
また、第3の発明によれば、スクイントしたビームでそれぞれウェーブレット変換し、基準ビームのウェーブレット展開係数の値が所定のスレッショルド値より大きい場合には、ウェーブレット展開係数の比により測角し、所定のスレッショルド値以下であれば、目標を検出した方向にモノパルスビームを送受信し、モノパルス測角を実施するので、ウェーブレット展開係数のレベルを確認して測角精度を判定でき、所定のスレッショルド値より大きければ、ウェーブレット変換による測角を用いて短時間に測角でき、所定のスレッショルド値以下であれば、モノパルス測角を適用することにより、測角精度を上げることができる。
【0016】
また、第4の発明によれば、スクイントしたビームでそれぞれウェーブレット変換し、スクイントビームの各々のウェーブレット展開係数の値が所定のスレッショルド値より大きい場合は、ウェーブレット展開係数の比により測角し、所定のスレッショルド値以下であれば、目標を検出した方向にモノパルスビームを送受信し、モノパルス測角を実施するように構成したので、第3の発明と同様の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の各実施例において、同一または相当する構成部分には同一の符号を付して説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の実施例1に係る測角装置が適用されたレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、アンテナ1、PC(パルス圧縮:Pulse Compression)回路2、選択回路7、目標検出部20および測角部30から構成されている。
【0019】
アンテナ1は、送信信号を電波に変換してビームとして外部に送信するとともに、送信したビームの反射波を受信して受信信号としてPC回路2に送る。アンテナ1によるビームの送受信方向は、目標検出部20から送られてくる制御信号によって制御される。
【0020】
PC回路2は、アンテナ1から送られてくる受信信号に対してパルス圧縮を施し、選択回路7に送る。なお、PC回路2において行われるパルス圧縮の詳細は、例えば『吉田他著、“改訂レーダ技術”、電子情報通信学会、pp.275-278(1996)』に説明されている。
【0021】
選択回路7は、PC回路2から送られてくる信号を目標検出部20に送るか測角部30に送るかを選択する。具体的には、選択回路7は、目標検出時は、PC回路2から送られてくる信号を目標検出部20に送り、目標検出部20において検出された目標に対してモノパルスビームを送受信して測角を行う時は、PC回路2から送られてくる信号を測角部30に送る。
【0022】
目標検出部20は、ウェーブレット変換を用いて目標を検出する処理を実行する。目標検出部20は、ウェーブレット変換(DWT:Discrete Wavelet Transform)回路3、展開係数選定回路4、CFAR(一定誤警報;Constant False Alarm Rate)回路5および相関処理回路6から構成されている。
【0023】
ウェーブレット変換回路3は、アンテナ1からPC回路2および選択回路7を経由して送られてくる受信信号を入力データとし、この入力データに対して離散ウェーブレット変換を施す。ここで、ウェーブレット変換回路3への入力データを、複素信号f0(I+jQ)で表すと、離散ウェーブレット変換の対象となる信号fとしては、下式(1)〜(4)に示す4通りなどを考えることができる。
【数1】
【0024】
ここで、
I:実部
Q:虚部
j:虚数単位
ウェーブレット変換回路3は、このような信号fを入力データとして、離散ウェーブレット変換を実行し、複数のウェーブレット展開係数を求める。離散ウェーブレット変換は、図3(a)に示すような入出力信号(原波形)をスケーリング係数とウェーブレット展開係数で近似するものである。スケーリング係数には複数のレベル1〜jがあり、各レベルに応じて近似の程度が異なる。ウェーブレット展開係数は、スケーリング係数のレベル間における差に相当する。
【0025】
このような離散ウェーブレット変換はフィルタで表すことができる。図2は、離散ウェーブレット変換のフィルタ特性を示す図である。レベルの順に、周波数領域は、広域から低域へ遷移する。すなわち、高域においては短時間のフィルタ特性を持ち、低域に行くほど長時間のフィルタ特性を持つようになる。このフィルタ特性は、下式(5)〜(10)で表すことができる。
【数2】
【0026】
ここで、
fj:jレベルの近似関数(j=1〜J)
gj:jレベルの展開関数
sk:スケーリング展開係数(k=1〜K)
wk:ウェーブレット展開係数
φ :スケーリング関数
ψ :マザー・ウェーブレット関数
pk:マザー・ウェーブレット関数により決まる数列
* :複素共役
ここで、(9)式に示すwは、レベルjにおける近似関数と実際の波形との差分を表す成分であり、ウェーブレット展開係数を表す。ウェーブレット展開係数が算出される様子を図3に示す。
【0027】
別言すれば、目標検出の際に用いられるウェーブレット変換は、図4(a)に示すような入力データに対し、ウェーブレット変換核(例えばメキシカンハット等)のパラメータ(シフトRやスケールf)を変化させながら相関処理を行うことによりフィッティングさせ、図4(b)に示すような、高いウェーブレット変換データの出力を得る処理を実行する、と言うことができる。このウェーブレット展開を用いると、少ないヒット数で、信号を検出できるというメリットがある。ウェーブレット変換回路3において得られたウェーブレット展開係数は、展開係数選定回路4に送られる。
【0028】
展開係数選定回路4は、ウェーブレット変換回路3から送られてくるウェーブレット展開係数から展開係数W1〜Wmを選定し、CFAR回路5に送る。
【0029】
CFAR回路5は、展開係数選定回路4から送られてくる展開係数W1〜Wmの各々に対して、誤警報確率を一定の低さに抑えた信号を生成し、相関処理回路6に送る。
【0030】
図5は、CFAR回路5の一例として、相加平均で規格化を行うリニアCFAR回路の構成を示すブロック図である。CFAR回路5は、遅延回路51、加算回路52、平均化処理回路53、除算回路54およびスレッショルド検出回路55から構成されている。
【0031】
遅延回路51は、入力された信号xiを遅延させた後、加算回路52および除算回路54に送る。加算回路52は、一定期間に遅延回路51から送られてくるN個のデータを加算し、平均化処理回路53に送る。平均化処理回路53は、加算回路52から送られてくるN個のデータの平均値を算出し、除算回路54に送る。除算回路54は、遅延回路51から送られてくるデータを平均値で除算し、この除算結果をスレッショルド検出回路55に送る。スレッショルド検出回路55は、除算回路54から送られてくる信号を所定のスレッショルドレベルと比較し、その比較結果を表す信号を、検出信号として相関処理回路6に送る。なお、CFAR回路5は、相乗平均で規格化を行う対数CFAR部によって実現することもできる。
【0032】
相関処理回路6は、CFAR回路5から送られてくる検出信号に対して相関処理を実施して検出信号の統合等を行うことにより誤警報を低減し、目標の検出情報として出力する。この相関処理回路6において生成された検出情報によって表される目標のビームポジションを表す信号はアンテナ1に送られる。これにより、引き続いて、目標が検出されたビームポジションに対するモノパルスビームの送受信が行われる。
【0033】
測角部30は、MTI(移動目標指示:Moving Target Indicator)回路8、DFT(離散フーリエ変換;Discreet Fourier Transform)回路9、CFAR回路10およびモノパルス測角回路11から構成されている。
【0034】
MTI回路8は、アンテナ1からPC回路2および選択回路7を経由して受け取った受信信号に含まれるクラッタを抑圧し、DFT回路9に送る。
【0035】
DFT回路9は、MTI回路8から送られてくるクラッタが抑圧された信号を離散フーリエ変換により時間−周波数軸上の信号に変換し、CFAR回路10に送る。CFAR回路10は、上述した目標検出部20のCFAR回路5と同じであり、DFT回路9から送られてくる信号に対してCFAR処理を施してモノパルス測角回路11に送る。
【0036】
モノパルス測角回路11は、あらかじめ用意された誤差曲線を用いて、モノパルス測角を実施する。モノパルス測角としては、スクイントしたΣビームを用いるスクイント測角(振幅比較モノパルス)と、ΣビームとΔビームを用いる位相モノパルス測角(位相比較モノパルス)がある。
【0037】
スクイント測角の場合、図6(a)に示すようなΣAビームおよびΣBビームといった2つのビームの比をとって誤差電圧εを求め、あらかじめ用意された図6(b)に示すような誤差曲線のテーブルを参照し、誤差電圧εに対応する角度を求める。誤差電圧εは、下記(11)式により求められる。
【数3】
【0038】
ここで、
ΣA;ΣAビーム
ΣB;ΣBビーム
* ;複素共役
位相モノパルスの場合、図7(a)に示すようなΣビームおよびΔビームといった2つのビームの比をとって誤差電圧εを求め、あらかじめ用意された図7(b)に示すような誤差曲線のテーブルを参照し、誤差電圧εに対応する角度を求める。誤差電圧εは、下記(11)式により求められる。
【数4】
【0039】
ここで、
Σ;Σビーム
Δ;Δビーム
このようにしてモノパルス測角回路11において算出された角度が、目標の角度を表す測角値として外部に出力される。
【0040】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係る測角装置が適用されたレーダ装置の動作を図8に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0041】
レーダ装置による捜索が開始されると、まず、離散ウェーブレット変換(DWT)による目標の検出処理が行われ(ステップS1)、目標が検出されたかどうかが調べられる(ステップS2)。このステップS2において、目標が検出されなかったことが判断されると、シーケンスはステップS5に進む。
【0042】
一方、ステップS2において、目標が検出されたことが判断されると、次いで、モノパルスビームの送受信が行われる(ステップS3)。次いで、モノパルス測角が行われる(ステップS4)。これにより、ビーム幅内における目標が存在する方向(角度)が取得される。
【0043】
次いで、全空間の捜索が完了したかどうかが調べられる(ステップS5)。このステップS5において、全空間の捜索が完了していないことが判断されると、シーケンスはステップS1に戻り、ビーム方向を次の方向に変更して上述した処理が繰り返される。一方、ステップS5において、全空間の捜索が完了したことが判断されると、ビーム方向が捜索空間の最初の位置に戻される(ステップS6)。その後、シーケンスはステップS1に戻り、上述した処理が繰り返される。
【実施例2】
【0044】
上述した実施例1に係る測角装置では、離散ウェーブレット変換により検出した目標が存在するビームポジションに対して、モノパルスビームを送受信して測角を行うように構成したが、実施例2に係る測角装置では、離散ウェーブレット変換の展開係数を用いて測角を実施するために、スクイントビームΣAの送受信およびΣBの受信を行うようにしたものである。
【0045】
図9は、本発明の実施例2に係る測角装置が適用されたレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、アンテナ1、PC回路2、ウェーブレット変換回路3、展開係数選定回路4、CFAR回路5、相関処理回路6およびウェーブレット変換測角回路(以下、「DWT測角回路という)12から構成されている。
【0046】
アンテナ1で受信された受信信号はPC回路2に送られる。PC回路2は、アンテナ1から送られてくる受信信号に対してパルス圧縮を施し、ウェーブレット変換回路3に送る。ウェーブレット変換回路3は、PC回路2から送られてくる信号に対して離散ウェーブレット変換を施し、展開係数選定回路4に送る。展開係数選定回路4は、ウェーブレット変換回路3から送られてくる信号から展開係数W1〜Wmを選定し、CFAR回路5に送る。
【0047】
CFAR回路5は、展開係数選定回路4から送られてくる展開係数W1〜Wmの各々に対して、誤警報確率を一定の低さに抑えた信号を生成し、検出信号として相関処理回路6に送る。相関処理回路6は、CFAR回路5から送られてくる検出信号に対して相関処理を実施して検出信号の統合等を行うことにより誤警報を低減し、検出情報としてDWT測角回路12に送る。
【0048】
DWT測角回路12は、スクイントされたΣビーム、より詳しくは、送受信に使用されるΣAビーム(基準ビーム)および受信のみに使用されるΣBビーム(副ビーム)を用いて測角を行う。具体的には、DWT測角回路12は、ΣAビームにおいて離散ウェーブレット変換により目標を検出できた場合に、ΣBビームに対しても離散ウェーブレット変換を実施し、ΣAビームおよびΣBビームの各ウェーブレット展開係数を用いて、下記(13)式によりDWT測角を実施する。
【数5】
【0049】
ここで、
WA:ΣAのウェーブレット展開係数
WB:ΣBのウェーブレット展開係数
すなわち、DWT測角回路12は、図10(a)に示すようなΣAのウェーブレット展開係数WAとΣBのウェーブレット展開係数WBといった2つのウェーブレット展開係数の比をとって誤差電圧εを求め、あらかじめ用意された図10(b)に示すような誤差曲線のテーブルを参照し、誤差電圧εに対応する角度を求める。これにより、ビーム幅内の目標の測角値を得ることができる。
【0050】
次に、上記のように構成される本発明の実施例2に係る測角装置が適用されたレーダ装置の動作を図11に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0051】
レーダ装置による捜索が開始されると、まず、離散ウェーブレット変換(DWT)による目標の検出が行われ(ステップS11)、目標が検出されたかどうかが調べられる(ステップS12)。このステップS12において、目標が検出されなかったことが判断されると、シーケンスはステップS14に進む。一方、ステップS12において、目標が検出されたことが判断されると、次いで、離散ウェーブレット変換(DWT)による測角が行われる(ステップS13)。
【0052】
次いで、全空間の捜索が完了したかどうかが調べられる(ステップS14)。このステップS14において、全空間の捜索が完了していないことが判断されると、シーケンスはステップS11に戻り、ビーム方向を次の方向に変更して上述した処理が繰り返される。一方、ステップS14において、全空間の捜索が完了したことが判断されると、ビーム方向が捜索空間の最初の位置に戻される(ステップS15)。その後、シーケンスはステップS11に戻り、上述した処理が繰り返される。
【実施例3】
【0053】
上述した実施例2に係る測角装置におけるDWT測角では、DWT展開係数の値以下である場合には、DWT展開係数と目標信号レベルが、必ずしも比例しないことにより測角誤差が生じる可能性がある。この対策として、実施例3に係る測角装置では、DWT展開係数と所定のスレッショルド値とを比較して、DWT展開係数が所定のスレッショルド値より大きければDWT測角を実施し、所定のスレッショルド値以下であれば、実施例1と同様に、目標が検出されたビームポジションにモノパルスビームを送受信し、モノパルス測角を実施するようにしたものである。
【0054】
図12は、本発明の実施例3に係る測角装置が適用されたレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、実施例2に係る測角装置が適用されたレーダ装置に、判定処理回路13、選択回路14および測角部30が追加されて構成されている。
【0055】
判定処理回路13は、相関処理回路6から出力される検出情報が所定のスレッショルド値以下であるかどうかを判定する。そして、判定結果を選択回路14に送るとともに、検出情報が所定のスレッショルド値以下である場合は、制御信号をアンテナ1に送る。これにより、目標が検出されたビームポジションに対してモノパルスビームの送受信が行われる。この場合、PC回路2から得られる信号は、測角部30に送られる。
【0056】
測角部30は、実施例1のそれと同じである。この測角部30におけるモノパルス測角により得られた測角値は、選択回路14に送られる。
【0057】
選択回路14は、判定処理回路13から送られてくる判定結果に応じて、DWT測角回路12から送られてくる測角値または測角部30から送られてくる測角値の何れかを選択して出力する。従って、DWT展開係数が所定のスレッショルド値より大きければDWT測角により得られた測角値が出力され、所定のスレッショルド値以下であれば、モノパルス測角により得られた測角値が出力される。
【0058】
なお、スレッショルド値については、ΣAとΣBの両者に設定しても、またΣAの値のみに設定してもよい。
【0059】
次に、上記のように構成される本発明の実施例3に係る測角装置が適用されたレーダ装置の動作を図13に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0060】
レーダ装置による捜索が開始されると、まず、離散ウェーブレット変換(DWT)による目標の検出が行われ(ステップS21)、目標が検出されたかどうかが調べられる(ステップS22)。このステップS22において、目標が検出されなかったことが判断されると、シーケンスはステップS27に進む。一方、ステップS22において、目標が検出されたことが判断されると、次いで、検出情報が所定のスレッショルド値より大きいかどうかが調べられる(ステップS23)。
【0061】
このステップS23において、検出情報が所定のスレッショルド値より大きいことが判断されると、離散ウェーブレット変換(DWT)による測角が行われる(ステップS24)。その後、シーケンスは、ステップS27に進む。一方、上記ステップS23において、検出情報が所定のスレッショルド値より大きくないことが判断されると、次いで、モノパルスビームの送受信が行われる(ステップS25)。次いで、モノパルス測角が行われる(ステップS26)。その後、シーケンスは、ステップS27に進む。
【0062】
ステップS27では、全空間の捜索が完了したかどうかが調べられる。このステップS27において、全空間の捜索が完了していないことが判断されると、シーケンスはステップS21に戻り、ビーム方向を次の方向に変更して上述した処理が繰り返される。一方、ステップS27において、全空間の捜索が完了したことが判断されると、ビーム方向が捜索空間の最初の位置に戻される(ステップS28)。その後、シーケンスはステップS21に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0063】
なお、本発明では、ウェーブレット変換を用いて測角を行うことができれば、信号処理の順番を変更することができる。例えば、ウェーブレット変換の前に、MTI処理を含めて、クラッタを抑圧した後に、ウェーブレット変換を適用するように構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る測角装置は、レーダ装置や受信装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例1に係る測角装置が適用されたレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】離散ウェーブレット変換のフィルタ特性を示す図である。
【図3】離散ウェーブレット変換においてウェーブレット展開係数が算出される様子を示す図である。
【図4】離散ウェーブレット変換の原理を説明するための図である。
【図5】本発明の実施例1に係る測角装置が適用されたレーダ装置におけるCFAR回路の構成を示すブロック図である。
【図6】スクイント測角の原理を示す図である。
【図7】位相モノパルス測角の原理を示す図である。
【図8】本発明の実施例1に係る測角装置が適用されたレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施例2に係る測角装置が適用されたレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図10】ウェーブレットによる測角の原理を示す図である。
【図11】本発明の実施例2に係る測角装置が適用されたレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施例3に係る測角装置が適用されたレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の実施例3に係る測角装置が適用されたレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図14】従来のウェーブレット変換を利用したレーダ装置を説明するための図である。
【符号の説明】
【0066】
1 アンテナ
2 PC回路
3 ウェーブレット変換回路
4 展開係数選定回路
5 CFAR回路
6 相関処理回路
7 DWT測角回路
8 MTI回路
9 DFT回路
10 CFAR回路
11 モノパルス測角回路
12 DWT測角回路
13 判定処理回路
14 選択回路
20 目標検出部
30 測角部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に対してウェーブレット変換を施すことにより得られたウェーブレット展開係数に基づき目標を検出する目標検出部と、
前記目標検出部において目標が検出されたビームポジションにモノパルスビームを送受信してモノパルス測角を行う測角部と、
を備えたことを特徴とする測角装置。
【請求項2】
スクイントビームの基準ビームおよび副ビームにより得られた入力信号をウェーブレット変換するウェーブレット変換回路と、
前記基準ビームに対して前記ウェーブレット変換回路から得られた第1ウェーブレット展開係数に基づき目標が検出された場合に、該第1ウェーブレット展開係数と、前記副ビームに対して前記ウェーブレット変換回路から得られた第2ウェーブレット展開係数との比に基づき測角を行うウェーブレット変換測角回路と、
を備えたことを特徴とする測角装置。
【請求項3】
スクイントビームの基準ビームおよび副ビームにより得られた入力信号をウェーブレット変換するウェーブレット変換回路と、
前記基準ビームに対して前記ウェーブレット変換回路から得られた第1ウェーブレット展開係数に基づき目標が検出された場合に、該第1ウェーブレット展開係数に基づく値が所定のスレッショルド値以下であるかどうかを判定する判定処理回路と、
前記判定処理回路において、前記所定のスレッショルド値より小さくないことが判定された場合に、前記第1ウェーブレット展開係数と、前記副ビームに対して前記ウェーブレット変換回路から得られた第2ウェーブレット展開係数との比に基づき測角を行うウェーブレット変換測角回路と、
前記判定処理回路において、前記所定のスレッショルド値以下であることが判定された場合に、前記目標が検出されたビームポジションにモノパルスビームを送受信してモノパルス測角を行う測角部と、
を備えたことを特徴とする測角装置。
【請求項4】
前記判定処理回路は、前記基準ビームに対して前記ウェーブレット変換回路から得られた第1ウェーブレット展開係数に基づき目標が検出された場合に、前記第1ウェーブレット展開係数と前記第2ウェーブレット展開係数との少なくとも一方に基づく値が所定のスレッショルド値以下であるかどうかを判定することを特徴とする請求項3記載の測角装置。
【請求項1】
入力信号に対してウェーブレット変換を施すことにより得られたウェーブレット展開係数に基づき目標を検出する目標検出部と、
前記目標検出部において目標が検出されたビームポジションにモノパルスビームを送受信してモノパルス測角を行う測角部と、
を備えたことを特徴とする測角装置。
【請求項2】
スクイントビームの基準ビームおよび副ビームにより得られた入力信号をウェーブレット変換するウェーブレット変換回路と、
前記基準ビームに対して前記ウェーブレット変換回路から得られた第1ウェーブレット展開係数に基づき目標が検出された場合に、該第1ウェーブレット展開係数と、前記副ビームに対して前記ウェーブレット変換回路から得られた第2ウェーブレット展開係数との比に基づき測角を行うウェーブレット変換測角回路と、
を備えたことを特徴とする測角装置。
【請求項3】
スクイントビームの基準ビームおよび副ビームにより得られた入力信号をウェーブレット変換するウェーブレット変換回路と、
前記基準ビームに対して前記ウェーブレット変換回路から得られた第1ウェーブレット展開係数に基づき目標が検出された場合に、該第1ウェーブレット展開係数に基づく値が所定のスレッショルド値以下であるかどうかを判定する判定処理回路と、
前記判定処理回路において、前記所定のスレッショルド値より小さくないことが判定された場合に、前記第1ウェーブレット展開係数と、前記副ビームに対して前記ウェーブレット変換回路から得られた第2ウェーブレット展開係数との比に基づき測角を行うウェーブレット変換測角回路と、
前記判定処理回路において、前記所定のスレッショルド値以下であることが判定された場合に、前記目標が検出されたビームポジションにモノパルスビームを送受信してモノパルス測角を行う測角部と、
を備えたことを特徴とする測角装置。
【請求項4】
前記判定処理回路は、前記基準ビームに対して前記ウェーブレット変換回路から得られた第1ウェーブレット展開係数に基づき目標が検出された場合に、前記第1ウェーブレット展開係数と前記第2ウェーブレット展開係数との少なくとも一方に基づく値が所定のスレッショルド値以下であるかどうかを判定することを特徴とする請求項3記載の測角装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−33326(P2007−33326A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219169(P2005−219169)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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